(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-21
(45)【発行日】2022-10-31
(54)【発明の名称】監視装置、監視方法、軸振動判定モデルの作成方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20221024BHJP
F01D 15/08 20060101ALI20221024BHJP
F01D 25/00 20060101ALI20221024BHJP
F01D 17/20 20060101ALI20221024BHJP
F04D 29/05 20060101ALI20221024BHJP
F04D 29/32 20060101ALI20221024BHJP
F04B 49/10 20060101ALI20221024BHJP
F04B 51/00 20060101ALI20221024BHJP
【FI】
G01M99/00 A
F01D15/08 C
F01D25/00 B
F01D17/20 Q
F04D29/05 C
F04D29/32 K
F04B49/10 331Z
F04B51/00
(21)【出願番号】P 2019033539
(22)【出願日】2019-02-27
【審査請求日】2021-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】310010564
【氏名又は名称】三菱重工コンプレッサ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100210572
【氏名又は名称】長谷川 太一
(72)【発明者】
【氏名】佐部利 誠司
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 良治
【審査官】奥野 尭也
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-286892(JP,A)
【文献】国際公開第2016/143118(WO,A1)
【文献】特開2018-146436(JP,A)
【文献】特開2004-169624(JP,A)
【文献】特開2017-188030(JP,A)
【文献】特開2015-031563(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 99/00
G01M 13/00-13/045
G01H 17/00
F01D 15/08
F01D 25/00
F01D 17/20
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を有する機械の運転条件を示すプロセスデータを取得するプロセスデータ取得部と、
前記プロセスデータが示す運転条件における前記回転軸の軸振動値の計測値を取得する軸振動値取得部と、
前記機械の運転中に計測された前記軸振動値と、所定の軸振動計算モデルに基づいて算出された前記軸振動値と、に基づいて作成された
、前記運転条件に応じた前記軸振動値の正常値を
出力する判定モデルと、
前記プロセスデータと、前記軸振動値の計測値と、前記判定モデルと、に基づいて、前記軸振動値の計測値を評価する監視部と、
前記判定モデルを作成する判定モデル作成部と、
を備え
、
製造工場での出荷前試験運転または実運転の開始前の試運転時に取得された前記プロセスデータおよび対応する前記軸振動値の計測値の集合を第1の学習データ、該第1の学習データを用いてシステム同定された前記軸振動計算モデルに基づいて算出された前記軸振動値および対応する前記運転条件を示すプロセスデータの集合を第2の学習データとしたときに、
前記判定モデル作成部は、前記実運転の開始前に前記第1の学習データおよび前記第2の学習データに基づく前記判定モデルである初期判定モデルを作成し、
前記実運転の開始後に取得された前記プロセスデータおよび対応する前記軸振動値の計測値の集合を第4の学習データ、該第4の学習データを用いてシステム同定された前記軸振動計算モデルに基づいて算出された前記軸振動値および対応する前記運転条件を示すプロセスデータの集合を第5の学習データとしたときに、
前記判定モデル作成部は、前記実運転の開始後に取得された前記プロセスデータと前記初期判定モデルに基づいて算出される軸振動値と、前記実運転の開始後に取得された前記軸振動値の計測値と、の差が所定の範囲内の場合に、前記実運転の開始後に前記第4の学習データおよび前記第5の学習データに基づいて前記初期判定モデルを更新する、
監視装置。
【請求項2】
前記軸振動計算モデルを作成する軸振動計算モデル作成部と、
前記軸振動計算モデルを用いて、所定範囲の前記運転条件に対応する軸振動値を算出する軸振動解析部と、
をさらに備え、
前記軸振動解析部は、前記機械の運転中に発生しない前記運転条件における前記軸振動値を算出する、
請求項1に記載の監視装置。
【請求項3】
前記軸振動計算モデル作成部は、
前記実運転の開始前に前記第
1の学習データに基づいて前記軸振動計算モデルのシステム同定を行う、
請求項2に記載の監視装置。
【請求項4】
前記軸振動計算モデル作成部は、前記実運転の開始後に前記第
4の学習データに基づいて前記軸振動計算モデルのシステム同定を行う、
請求項
3に記載の監視装置。
【請求項5】
前記所定の範囲は、前記差が誤差とみなせる所定の範囲より大きく、経年劣化による影響とみなせる所定の範囲以下となる範囲であって、
前記判定モデル作成部は、前記差が前記所定の範囲内となることに加え、前記差が所定回数連続して前記所定の範囲内となるか、又は、所定時間内に所定回数以上前記差が前記所定の範囲内となると、前記初期判定モデルを更新する、
請求項1から請求項4の何れか1項に記載の監視装置。
【請求項6】
前記運転条件には、前記回転軸の回転数または前記回転軸を支えるすべり軸受の油膜温度が含まれる、
請求項1から請求項
4の何れか1項に記載の監視装置。
【請求項7】
回転軸を有する機械の運転条件を示すプロセスデータを取得するステップと、
前記プロセスデータが示す運転条件における前記回転軸の軸振動値の計測値を取得するステップと、
前記機械の運転中に計測された前記軸振動値と所定の軸振動計算モデルに基づいて算出された前記軸振動値とに基づいて作成された
、前記運転条件に応じた前記軸振動値の正常値を
出力する判定モデル
を作成するステップと、
前記判定モデルと、前記プロセスデータと、前記軸振動値の計測値と、に基づいて、前記軸振動値の計測値を評価するステップと、
を有
し、
前記判定モデルを作成するステップでは、
製造工場での出荷前試験運転または実運転の開始前の試運転時に取得された前記プロセスデータおよび対応する前記軸振動値の計測値の集合を第1の学習データ、該第1の学習データを用いてシステム同定された前記軸振動計算モデルに基づいて算出された前記軸振動値および対応する前記運転条件を示すプロセスデータの集合を第2の学習データとしたときに、
前記実運転の開始前に前記第1の学習データおよび前記第2の学習データに基づく前記判定モデルである初期判定モデルを作成し、
前記実運転の開始後に取得された前記プロセスデータおよび対応する前記軸振動値の計測値の集合を第4の学習データ、該第4の学習データを用いてシステム同定された前記軸振動計算モデルに基づいて算出された前記軸振動値および対応する前記運転条件を示すプロセスデータの集合を第5の学習データとしたときに、
前記実運転の開始後に取得された前記プロセスデータと前記初期判定モデルに基づいて算出される軸振動値と、前記実運転の開始後に取得された前記軸振動値の計測値との差が所定の範囲内の場合に、前記実運転の開始後に前記第4の学習データおよび前記第5の学習データに基づいて前記初期判定モデルを更新する、
監視方法。
【請求項8】
回転軸を有する機械の運転条件を示すプロセスデータを取得するステップと、
前記プロセスデータが示す運転条件における前記回転軸の軸振動値の計測値を取得するステップと、
前記回転軸の軸振動計算モデルを作成するステップと、
前記軸振動計算モデルを用いて、所定範囲の前記運転条件に対応する軸振動値を算出するステップと、
前記プロセスデータと、前記軸振動値の計測値と、算出された前記軸振動値と、該軸振動値に対応する運転条件を示すプロセスデータと、に基づいて、前記運転条件に応じた前記軸振動値の正常値を
出力する判定モデルを作成するステップと、
を有
し、
前記判定モデルを作成するステップでは、
製造工場での出荷前試験運転または実運転の開始前の試運転時に取得された前記プロセスデータおよび対応する前記軸振動値の計測値の集合を第1の学習データ、該第1の学習データを用いてシステム同定された前記軸振動計算モデルに基づいて算出された前記軸振動値および対応する前記運転条件を示すプロセスデータの集合を第2の学習データとしたときに、
前記実運転の開始前に前記第1の学習データおよび前記第2の学習データに基づく前記判定モデルである初期判定モデルを作成し、
前記実運転の開始後に取得された前記プロセスデータおよび対応する前記軸振動値の計測値の集合を第4の学習データ、該第4の学習データを用いてシステム同定された前記軸振動計算モデルに基づいて算出された前記軸振動値および対応する前記運転条件を示すプロセスデータの集合を第5の学習データとしたときに、
前記実運転の開始後に取得された前記プロセスデータと前記初期判定モデルに基づいて算出される軸振動値と、前記実運転の開始後に取得された前記軸振動値の計測値との差が所定の範囲内の場合に、前記実運転の開始後に前記第4の学習データおよび前記第5の学習データに基づいて前記初期判定モデルを更新する、
軸振動判定モデルの作成方法。
【請求項9】
コンピュータを、
回転軸を有する機械の運転条件を示すプロセスデータを取得する手段、
前記プロセスデータが示す運転条件における前記回転軸の軸振動値の計測値を取得する手段、
前記機械の運転中に計測された前記軸振動値と所定の軸振動計算モデルに基づいて算出された前記軸振動値とに基づいて作成された
、前記運転条件に応じた前記軸振動値の正常値を
出力する判定モデルと、前記プロセスデータと、前記軸振動値の計測値と、に基づいて、前記軸振動値の計測値を評価する手段、
前記判定モデルを作成する手段、
として機能させ、
製造工場での出荷前試験運転または実運転の開始前の試運転時に取得された前記プロセスデータおよび対応する前記軸振動値の計測値の集合を第1の学習データ、該第1の学習データを用いてシステム同定された前記軸振動計算モデルに基づいて算出された前記軸振動値および対応する前記運転条件を示すプロセスデータの集合を第2の学習データとしたときに、
前記判定モデルを作成する手段は、前記実運転の開始前に前記第1の学習データおよび前記第2の学習データに基づく前記判定モデルである初期判定モデルを作成し、
前記実運転の開始後に取得された前記プロセスデータおよび対応する前記軸振動値の計測値の集合を第4の学習データ、該第4の学習データを用いてシステム同定された前記軸振動計算モデルに基づいて算出された前記軸振動値および対応する前記運転条件を示すプロセスデータの集合を第5の学習データとしたときに、
前記判定モデルを作成する手段は、前記実運転の開始後に取得された前記プロセスデータと前記初期判定モデルに基づいて算出される軸振動値と、前記実運転の開始後に取得された前記軸振動値の計測値との差が所定の範囲内の場合に、前記実運転の開始後に前記第4の学習データおよび前記第5の学習データに基づいて前記初期判定モデルを更新する、
プログラム。
【請求項10】
コンピュータを、
回転軸を有する機械の運転条件を示すプロセスデータを取得する手段、
前記プロセスデータが示す運転条件における前記回転軸の軸振動値の計測値を取得する手段、
前記回転軸の軸振動計算モデルを作成する手段、
前記軸振動計算モデルを用いて、所定範囲の前記運転条件に対応する軸振動値を算出する手段、
前記プロセスデータと、前記軸振動値の計測値と、算出された前記軸振動値と、該軸振動値に対応する運転条件を示すプロセスデータと、に基づいて、前記運転条件に応じた前記軸振動値の正常値を
出力する判定モデルを作成する手段、
として機能させ、
製造工場での出荷前試験運転または実運転の開始前の試運転時に取得された前記プロセスデータおよび対応する前記軸振動値の計測値の集合を第1の学習データ、該第1の学習データを用いてシステム同定された前記軸振動計算モデルに基づいて算出された前記軸振動値および対応する前記運転条件を示すプロセスデータの集合を第2の学習データとしたときに、
前記判定モデルを作成する手段は、前記実運転の開始前に前記第1の学習データおよび前記第2の学習データに基づく前記判定モデルである初期判定モデルを作成し、
前記実運転の開始後に取得された前記プロセスデータおよび対応する前記軸振動値の計測値の集合を第4の学習データ、該第4の学習データを用いてシステム同定された前記軸振動計算モデルに基づいて算出された前記軸振動値および対応する前記運転条件を示すプロセスデータの集合を第5の学習データとしたときに、
前記判定モデルを作成する手段は、前記実運転の開始後に取得された前記プロセスデータと前記初期判定モデルに基づいて算出される軸振動値と、前記実運転の開始後に取得された前記軸振動値の計測値との差が所定の範囲内の場合に、前記実運転の開始後に前記第4の学習データおよび前記第5の学習データに基づいて前記初期判定モデルを更新する、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸振動の監視装置、監視方法、軸振動判定モデルの作成方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ターボ機械の軸振動の異常監視では,振動が所定の閾値を越えるかどうかを監視し、閾値を超えるようになるとアラームを通報する方法が一般的である。例えば、特許文献1には、回転機械の運転中に計測した振動信号に対して信号処理を行って異常判定用の閾値を設定し、その閾値に基づいて異常監視を行う監視装置が開示されている。
【0003】
また、近年、機械学習を用いて運転状態の正常と異常を判定する方法が提供されるようになっている。機械学習を活用した監視を行うためには、監視対象の機械を一定期間運転して学習データを収集し、その後、収集した学習データに基づく判定を行う必要がある。一般的には、監視を始める前に半年~1年程度のデータ収集期間が必要とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、化学プラント向けのコンプレッサでは、回転数、軸受油膜温度、負荷などの運転条件が正常な範囲内で変化する。運転条件が変化すると軸振動値も変化する。運転条件の変化を考慮せずに設定した閾値によって異常監視を行うと、正常な軸振動値が異常と判定されることがある。運転条件の変化の影響を受けた軸振動値を誤検知することなく、真の異常だけを検出する必要がある。そのためには、例えば、運転条件を正常な範囲内で変化させつつ運転データを収集し、収集した運転データを学習データとして学習する方法が考えられる。しかし、学習データの収集期間を考えると、この方法では、ターボ機械の導入後すぐに監視を開始することは難しい。
【0006】
そこでこの発明は、上述の課題を解決することのできる監視装置、監視方法、軸振動判定モデルの作成方法及びプログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、監視装置は、回転軸を有する機械の運転条件を示すプロセスデータを取得するプロセスデータ取得部と、前記プロセスデータが示す運転条件における前記回転軸の軸振動値の計測値を取得する軸振動値取得部と、前記機械の運転中に計測された前記軸振動値と、所定の軸振動計算モデルに基づいて算出された前記軸振動値とに基づいて作成された、前記運転条件に応じた前記軸振動値の正常値を出力する判定モデルと、前記プロセスデータと、前記軸振動値の計測値と、前記判定モデルと、に基づいて、前記軸振動値の計測値を評価する監視部と、前記判定モデルを作成する判定モデル作成部と、を備え、製造工場での出荷前試験運転または実運転の開始前の試運転時に取得された前記プロセスデータおよび対応する前記軸振動値の計測値の集合を第1の学習データ、該第1の学習データを用いてシステム同定された前記軸振動計算モデルに基づいて算出された前記軸振動値および対応する前記運転条件を示すプロセスデータの集合を第2の学習データとしたときに、前記判定モデル作成部は、前記実運転の開始前に前記第1の学習データおよび前記第2の学習データに基づく前記判定モデルである初期判定モデルを作成し、前記実運転の開始後に取得された前記プロセスデータおよび対応する前記軸振動値の計測値の集合を第4の学習データ、該第4の学習データを用いてシステム同定された前記軸振動計算モデルに基づいて算出された前記軸振動値および対応する前記運転条件を示すプロセスデータの集合を第5の学習データとしたときに、前記判定モデル作成部は、前記実運転の開始後に取得された前記プロセスデータと前記初期判定モデルに基づいて算出される軸振動値と、前記実運転の開始後に取得された前記軸振動値の計測値との差が所定の範囲内の場合に、前記実運転の開始後に前記第4の学習データおよび前記第5の学習データに基づいて前記初期判定モデルを更新する。
【0008】
本発明の一態様によれば、前記監視装置は、前記軸振動計算モデルを作成する軸振動計算モデル作成部と、前記軸振動計算モデルを用いて、所定範囲の前記運転条件に対応する軸振動値を算出する軸振動解析部と、をさらに備え、前記軸振動解析部は、前記機械の運転中に発生しない前記運転条件における前記軸振動値を算出する。
【0011】
本発明の一態様によれば、前記軸振動計算モデル作成部は、前記実運転の開始前に前記第1の学習データに基づいて前記軸振動計算モデルのシステム同定を行う。
【0013】
本発明の一態様によれば、前記軸振動計算モデル作成部は、前記実運転の開始後に前記第4の学習データに基づいて前記軸振動計算モデルのシステム同定を行う。
【0014】
本発明の一態様によれば、前記所定の範囲は、前記差が誤差とみなせる所定の範囲より大きく、経年劣化による影響とみなせる所定の範囲以下となる範囲であって、判定モデル作成部は、前記差が前記所定の範囲内となることに加え、前記差が所定回数連続して前記所定の範囲内となるか、又は、所定時間内に所定回数以上前記差が前記所定の範囲内となると、前記初期判定モデルを更新する。
【0015】
本発明の一態様によれば、前記運転条件には、前記回転軸の回転数または前記回転軸を支えるすべり軸受の油膜温度が含まれる。
【0016】
本発明の一態様によれば、監視方法は、回転軸を有する機械の運転条件を示すプロセスデータを取得するステップと、前記プロセスデータが示す運転条件における前記回転軸の軸振動値の計測値を取得するステップと、前記機械の運転中に計測された前記軸振動値と所定の軸振動計算モデルに基づいて算出された前記軸振動値とに基づいて作成された、前記運転条件に応じた前記軸振動値の正常値を出力する判定モデルを作成するステップと、前記プロセスデータと、前記軸振動値の計測値と、前記判定モデルと、に基づいて、前記軸振動値の計測値を評価するステップと、を有し、前記判定モデルを作成するステップでは、製造工場での出荷前試験運転または実運転の開始前の試運転時に取得された前記プロセスデータおよび対応する前記軸振動値の計測値の集合を第1の学習データ、該第1の学習データを用いてシステム同定された前記軸振動計算モデルに基づいて算出された前記軸振動値および対応する前記運転条件を示すプロセスデータの集合を第2の学習データとしたときに、前記実運転の開始前に前記第1の学習データおよび前記第2の学習データに基づく前記判定モデルである初期判定モデルを作成し、前記実運転の開始後に取得された前記プロセスデータおよび対応する前記軸振動値の計測値の集合を第4の学習データ、該第4の学習データを用いてシステム同定された前記軸振動計算モデルに基づいて算出された前記軸振動値および対応する前記運転条件を示すプロセスデータの集合を第5の学習データとしたときに、前記実運転の開始後に取得された前記プロセスデータと前記初期判定モデルに基づいて算出される軸振動値と、前記実運転の開始後に取得された前記軸振動値の計測値との差が所定の範囲内の場合に、前記実運転の開始後に前記第4の学習データおよび前記第5の学習データに基づいて前記初期判定モデルを更新する。
【0017】
本発明の一態様によれば、軸振動判定モデルの作成方法は、回転軸を有する機械の運転条件を示すプロセスデータを取得するステップと、前記プロセスデータが示す運転条件における前記回転軸の軸振動値の計測値を取得するステップと、前記回転軸の軸振動計算モデルを作成するステップと、前記軸振動計算モデルを用いて、所定範囲の前記運転条件に対応する軸振動値を算出するステップと、前記プロセスデータと、前記軸振動値の計測値と、算出された前記軸振動値と、該軸振動値に対応する運転条件を示すプロセスデータと、に基づいて、前記運転条件に応じた前記軸振動値の正常値を出力する判定モデルを作成するステップと、を有し、前記判定モデルを作成するステップでは、製造工場での出荷前試験運転または実運転の開始前の試運転時に取得された前記プロセスデータおよび対応する前記軸振動値の計測値の集合を第1の学習データ、該第1の学習データを用いてシステム同定された前記軸振動計算モデルに基づいて算出された前記軸振動値および対応する前記運転条件を示すプロセスデータの集合を第2の学習データとしたときに、前記実運転の開始前に前記第1の学習データおよび前記第2の学習データに基づく前記判定モデルである初期判定モデルを作成し、前記実運転の開始後に取得された前記プロセスデータおよび対応する前記軸振動値の計測値の集合を第4の学習データ、該第4の学習データを用いてシステム同定された前記軸振動計算モデルに基づいて算出された前記軸振動値および対応する前記運転条件を示すプロセスデータの集合を第5の学習データとしたときに、前記実運転の開始後に取得された前記プロセスデータと前記初期判定モデルに基づいて算出される軸振動値と、前記実運転の開始後に取得された前記軸振動値の計測値との差が所定の範囲内の場合に、前記実運転の開始後に前記第4の学習データおよび前記第5の学習データに基づいて前記初期判定モデルを更新する。
【0018】
本発明の一態様によれば、プログラムは、コンピュータを、回転軸を有する機械の運転条件を示すプロセスデータを取得する手段、前記プロセスデータが示す運転条件における前記回転軸の軸振動値の計測値を取得する手段、前記機械の運転中に計測された前記軸振動値と所定の軸振動計算モデルに基づいて算出された前記軸振動値とに基づいて作成された、前記運転条件に応じた前記軸振動値の正常値を出力する判定モデルと、前記プロセスデータと、前記軸振動値の計測値と、に基づいて、前記軸振動値の計測値を評価する手段、前記判定モデルを作成する手段、として機能させ、製造工場での出荷前試験運転または実運転の開始前の試運転時に取得された前記プロセスデータおよび対応する前記軸振動値の計測値の集合を第1の学習データ、該第1の学習データを用いてシステム同定された前記軸振動計算モデルに基づいて算出された前記軸振動値および対応する前記運転条件を示すプロセスデータの集合を第2の学習データとしたときに、前記判定モデルを作成する手段は、前記実運転の開始前に前記第1の学習データおよび前記第2の学習データに基づく前記判定モデルである初期判定モデルを作成し、前記実運転の開始後に取得された前記プロセスデータおよび対応する前記軸振動値の計測値の集合を第4の学習データ、該第4の学習データを用いてシステム同定された前記軸振動計算モデルに基づいて算出された前記軸振動値および対応する前記運転条件を示すプロセスデータの集合を第5の学習データとしたときに、前記判定モデルを作成する手段は、前記実運転の開始後に取得された前記プロセスデータと前記初期判定モデルに基づいて算出される軸振動値と、前記実運転の開始後に取得された前記軸振動値の計測値との差が所定の範囲内の場合に、前記実運転の開始後に前記第4の学習データおよび前記第5の学習データに基づいて前記初期判定モデルを更新する。
【0019】
本発明の一態様によれば、プログラムは、コンピュータを、回転軸を有する機械の運転条件を示すプロセスデータを取得する手段、前記プロセスデータが示す運転条件における前記回転軸の軸振動値の計測値を取得する手段、前記回転軸の軸振動計算モデルを作成する手段、前記軸振動計算モデルを用いて、所定範囲の前記運転条件に対応する軸振動値を算出する手段、前記プロセスデータと、前記軸振動値の計測値と、算出された前記軸振動値と、該軸振動値に対応する運転条件を示すプロセスデータと、に基づいて、前記運転条件に応じた前記軸振動値の正常値を出力する判定モデルを作成する手段、として機能させ、製造工場での出荷前試験運転または実運転の開始前の試運転時に取得された前記プロセスデータおよび対応する前記軸振動値の計測値の集合を第1の学習データ、該第1の学習データを用いてシステム同定された前記軸振動計算モデルに基づいて算出された前記軸振動値および対応する前記運転条件を示すプロセスデータの集合を第2の学習データとしたときに、前記判定モデルを作成する手段は、前記実運転の開始前に前記第1の学習データおよび前記第2の学習データに基づく前記判定モデルである初期判定モデルを作成し、前記実運転の開始後に取得された前記プロセスデータおよび対応する前記軸振動値の計測値の集合を第4の学習データ、該第4の学習データを用いてシステム同定された前記軸振動計算モデルに基づいて算出された前記軸振動値および対応する前記運転条件を示すプロセスデータの集合を第5の学習データとしたときに、前記判定モデルを作成する手段は、前記実運転の開始後に取得された前記プロセスデータと前記初期判定モデルに基づいて算出される軸振動値と、前記実運転の開始後に取得された前記軸振動値の計測値との差が所定の範囲内の場合に、前記実運転の開始後に前記第4の学習データおよび前記第5の学習データに基づいて前記初期判定モデルを更新する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、運転条件の変化の影響により軸振動値が変化する場合でも、運転条件に応じた基準で軸振動値の評価を行うので誤検知を防ぐことができる。また、実際に様々な運転条件下で運転を行う前にそれらの運転条件に対する軸振動値の評価が可能な判定モデルを作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態におけるシステムの概略図である。
【
図2】本発明の一実施形態における運転条件の変化に対する軸振動の変化の一例を示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態における軸振動計算モデルを説明する図である。
【
図4】本発明の一実施形態における軸振動計算モデルによる解析結果の一例を示す図である。
【
図5】本発明の一実施形態における判定モデルの新規作成処理および監視処理の一例を示すフローチャートである。
【
図6】本発明の一実施形態における判定モデルの更新処理および監視処理の一例を示すフローチャートである。
【
図7】本発明の一実施形態における監視装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<実施形態>
以下、本発明の一実施形態による軸振動の監視装置および軸振動の判定モデルの作成方法について
図1~
図7を参照して説明する。
図1は、本発明に係る一実施形態におけるシステムの概略図である。
図1に監視対象のプラント1と監視装置10とを示す。プラント1は、蒸気タービン2と、蒸気タービン2によって回転駆動する中圧コンプレッサ3および低圧コンプレッサ4および高圧コンプレッサ5を含む。蒸気タービン2と中圧コンプレッサ3と低圧コンプレッサ4と高圧コンプレッサ5とはロータ6により連結され、ロータ6を中心に回転する。ロータ6は、複数個所で軸受台(図示せず)によって支持されている。それぞれの軸受台は軸受(図示せず)を備え、軸受台は軸受を介してロータ6を支持することでロータ6が回転可能となっている。軸受(例えば、すべり軸受)には、ギャップセンサ等の振動センサと、温度センサが設けられている。また、ロータ6には、回転センサが設けられている。振動センサ、温度センサ、回転センサは、監視装置10と接続されている。振動センサは、ロータ6の回転に伴って生じる軸振動を計測し、その計測結果を、監視装置10へ出力する。温度センサは、軸受の温度を計測し、その計測結果を、監視装置10へ出力する。回転センサは、ロータ6の回転数を計測し、その計測結果を、監視装置10へ出力する。
【0023】
監視装置10は、ロータ6の軸振動の状態を監視する装置である。プラント1の運転条件(回転数や軸受温度)は様々に変化し、その変化に応じて軸振動の範囲が変化する。
図2にこの様子を示す。
図2は、本発明の一実施形態における運転条件の変化に対する軸振動の変化の一例を示す図である。
図2の上段にロータ6の回転数の経時的変化、中段に軸受温度の経時的変化、下段に軸振動の経時的変化を表したグラフを示す。各グラフの横軸の同じ位置は同じ時間を示す。プラント1は、要求に応じて様々な回転数で運転する。
図2上段のグラフが示す回転数の変化は、全て正常範囲内で行われたものである。また、
図2中段のグラフに示すようにロータ6を支持する軸受の温度も様々に変化する。そして、回転数と軸受温度の変化の影響を受け、ロータ6の軸振動も変化する(
図2下段のグラフ)。なお、軸受温度の変化は、軸受の油膜の温度変化と関係し、油膜のばね特性は温度によって変化するため軸振動に影響する。ここで、ある軸受で計測された軸振動データg1に注目すると、期間tで軸振動値が大きく低下している。この軸振動値の低下は、正常範囲内での回転数の低下に伴うもので正常な挙動であるが、運転条件の変化を考慮せずに監視を行うと、異常と判定される可能性がある。これに対し、監視装置10は、運転条件と軸振動値を取得して、運転条件に応じた基準に基づいて、軸振動値の評価を行う。また、ロータ6は、経年劣化により振動特性が変化するため、実運転に支障のないレベルの経年劣化は正常と判断されるべきであるが、運転開始時の基準で正常、異常の評価を行うと、軽度の経年劣化による軸振動値の変化が異常と誤検知されてしまう可能性がある。これに対し、監視装置10は、経年劣化による振動特性の変化に応じた基準に基づいて、軸振動値の評価を行う。
【0024】
図1に示すように監視装置10は、プロセスデータ計測部11と、軸振動計測部12と、データ演算部13と、異常監視部14と、データ収録部15と、軸振動計算モデル作成部16と、軸振動解析部17と、判定モデル作成部18と、記憶部19と、を備える。
【0025】
プロセスデータ計測部11は、プラント1の運転条件を示すプロセスデータを取得する。例えば、プロセスデータ計測部11は、回転センサが計測したロータ6の回転数を取得し、温度センサが計測した軸受温度を取得する。
軸振動計測部12は、振動センサが計測した値を取得する。例えば、軸振動計測部12は、ギャップセンサが計測した軸受とロータ6間の距離に相当する電圧値を取得する。
データ演算部13は、軸振動計測部12が取得した電圧値などを軸振動値に変換する。なお、軸振動値は、例えば、振幅の波形データで表される。
異常監視部14は、プロセスデータ計測部11が取得したプロセスデータと、データ演算部13が演算した軸振動値と、判定モデル作成部18が作成した判定モデルと、に基づいて、ロータ6の軸振動が正常か異常かを判定する。
データ収録部15は、異常監視部14が正常と判定した場合のプロセスデータと軸振動値とを対応付けて記憶部19に書き込んで保存する。保存されたデータは、判定モデル作成のための学習データとして用いられる。
【0026】
軸振動計算モデル作成部16は、軸振動計算モデルの作成や軸振動計算モデルのシステム同定を行う。システム同定用のモデルは、ロータ6に発生する軸振動を模擬する力学的な物理モデルで、例えば、ロータ6の回転数、軸受温度を入力すると、その運転条件でロータ6を駆動したときに発生する軸振動値を出力する。軸振動計算モデルは、プラント1の工場試験などで、ロータ6の危険速度やQ値の把握、軸受温度の変化による軸受の剛性および減衰特性の変化の把握に使用される。軸振動計算モデル作成部16は、工場での試験運転時やプラント1導入時の試運転時に、プロセスデータ計測部11が取得したプロセスデータ、データ演算部13が演算した軸振動値を用いて、軸振動計算モデルのシステム同定を行う。軸振動計算モデル作成部16は、特に軸受支持部分の剛性および減衰特性の同定を行う(
図3)。
【0027】
軸振動解析部17は、軸振動計算モデル作成部16によってシステム同定された軸振動計算モデルを使用して、正常範囲内の様々な運転条件下における軸振動値を算出する。出荷前工場試験や現地設置時の試運転では、正常範囲内の運転条件の全てについて実際に運転を行って試験や調整を行うことはできない。従って、軸振動解析部17は、正常範囲内で様々に変化させた回転数および軸受温度を入力パラメータとして軸振動計算モデルに入力し、軸振動計算モデルが算出する軸振動値を取得する。軸振動解析部17は、回転数および軸受温度と軸振動値を組みにしたデータを記憶部19へ書き込んで保存する。保存したデータは、判定モデル作成のための学習データとして用いられる。
図4に軸振動解析部17が、解析したデータの一例を示す。
【0028】
図4は、本発明の一実施形態における軸振動計算モデルによる解析結果の一例を示す図である。
図4のグラフの縦軸は軸振動値、横軸は回転数を示す。実線グラフは、軸受温度を固定して、ロータ6の回転数を変化させて運転したときの軸振動値の計測結果である。破線のグラフは、軸受温度を正常範囲内で最大限に変化させた場合の各回転数における軸振動値である。軸振動計算モデルを用いることにより、回転数を変化させたときに軸振動値がとり得る範囲(破線グラフで挟まれた範囲)を特定することができる。
同様に軸振動解析部17は、回転数を固定してロータ6の軸受温度を変化させた場合の軸振動値を、軸振動計算モデルに基づいて算出することができる。これにより、軸受け温度を変化させたときに軸振動値がとりうる範囲を特定することができる。
軸振動解析部17は、運転条件を正常範囲内で変化させたときの運転条件と軸振動値の対応関係を記憶部19に保存する。このように実際の運転で収集できないデータを軸振動計算モデルによって算出することで、実際の運転で収集することができない学習データを補うことができる。
【0029】
判定モデル作成部18は、データ収録部15が記憶部19に保存した学習データと、軸振動解析部17が記憶部19に保存した学習データとを用いて、様々な運転条件下で正常な運転状態でロータ6が回転しているときに計測されるべき軸振動値を判定するための判定モデルを作成する。判定モデルは、例えば、回転数と軸受温度と軸振動値を組みとするデータセットを集めたデータベースであってもよい。あるいは、回転数と軸受温度と軸振動値の関係を定めた関数などであってもよい。また、判定モデルの作成方法は、任意であってよい。例えば、判定モデル作成部18は、記憶部19に保存された学習データを、所定範囲の回転数および所定範囲の軸受温度別に集計して、ある範囲の回転数(例えばR1~R2rpm)および軸受温度(T1~T2℃)に対して計測または算出された軸振動値の平均値Vを求めて、平均値Vを含む所定の範囲の値(V1~V2)を、回転数R1~R2、軸受温度T1~T2の場合の正常な軸振動数と定める判定モデルを作成してもよい。あるいは、判定モデル作成部18は、学習データに対し、回帰分析、機械学習、深層学習などの方法で、回転数および軸受温度と軸振動値の関係を示す判定モデルを作成してもよい。
記憶部19は、上記の学習データ、判定モデル、軸振動計算モデルなどを記憶する。
【0030】
(実運転開始までの処理)
監視装置10は、判定モデルを作成し、運転条件に応じた基準で軸振動の監視を行う。
まず、プラント1の実運転開始前の学習データの取得と判定モデルの作成処理について説明する。
図5は、本発明の一実施形態における判定モデルの新規作成処理および監視処理の一例を示すフローチャートである。
前提として、プラント1は出荷前であるとする。また。
図1を用いて説明したようにロータ6の回転数、ロータ6の軸受温度、軸振動は、各センサによって計測され監視装置10へ出力される。
【0031】
まず、メーカの担当者が、ロータ6の形状、材質、重量などの情報を監視装置10に入力して、軸振動計算モデルの作成を指示する。すると、軸振動計算モデル作成部16が、所定の方法で軸振動計算モデルを作成する(ステップS110)。軸振動計算モデルの作成には、例えば、公知の有限要素法による軸振動解析ソフトウェアなどを利用することができる。
【0032】
次にプラント1の出荷前工場試験で試験運転を行って、プロセスデータおよび軸振動値を取得する(ステップS120)。具体的には、プロセスデータ計測部11が、試験運転中のロータ6の回転数および軸受温度を計測された時刻とともに取得する。プロセスデータ計測部11は、取得したデータを記憶部19へ書き込む。また、軸振動計測部12は、ロータ6の軸振動に相当する電圧値を時刻とともに取得し、データ演算部13が電圧値を軸振動値へ変換する。データ演算部13は、変換後の軸振動値を記憶部19へ書き込む。記憶部19には、試験運転中に計測された回転数、軸受温度、軸振動値の各値が時刻とともに記録される。
【0033】
次に軸振動計算モデル作成部16が、同一時刻に計測された回転数、軸受温度、軸振動値の各値を記憶部19から読み込んで、ステップS110で作成した軸振動計算モデルについてのシステム同定を行う(ステップS130)。試験運転では、システム同定のために回転数や軸受温度を変化させて運転する。軸振動計算モデル作成部16は、試験運転で計測された回転数、軸受温度を軸振動計算モデルに入力して、軸振動計算モデルが出力する軸振動値と実際に試験運転で計測された軸振動値が一致するように、軸振動計算モデルのパラメータを調整する等してシステム同定を行う。一般にシステム同定して得られる軸振動計算モデルは、回転数を変化させることによって危険速度を把握したり、軸受温度を変化させることで軸受のばね特性を把握したりする等の目的で使用されるが、本実施形態では、学習データを生成する目的にも用いる。
【0034】
なお、出荷前工場試験で得られたデータに基づいてシステム同定を行うとしたが、工場とプラント1の導入先とでは、設置場所の硬さなど運転環境が異なる。従って、さらに導入先での試運転時にプロセスデータと軸振動値を取得し、これらの値を用いて、最終的なシステム同定を行ってもよい。
【0035】
軸振動計算モデルのシステム同定が完了すると、軸振動計算モデル作成部16は、システム同定後の軸振動計算モデルを記憶部19に保存する。この軸振動計算モデルは、実際のロータ6の軸振動の挙動を精度よく模擬する。
【0036】
次に担当者が、学習データの補間を指示する操作を監視装置10に対して行う。この指示操作に対して軸振動解析部17は、軸振動値の補間処理を行う(ステップS140)。例えば、軸振動解析部17は、軸受温度を正常範囲内のT1に固定して、回転数を正常範囲内の最低回転数RLから最高回転数RHまで変化させた疑似プロセスデータ群を生成する。そして、軸振動解析部17は、軸受温度T1、回転数R1を軸振動計算モデルに入力し、この運転条件下でのロータ6の軸振動値V1を出力する。軸振動解析部17は、T1、RL、V1を組みにして記憶部19へ保存する。同様にして、軸振動解析部17は、他の回転数についても軸振動値を算出し、運転条件と算出結果(軸振動値)の組みを記憶部19へ保存していく。さらに軸振動解析部17は、軸受温度をT1以外の温度に変化させ、例えば、正常範囲内の最低温度から最高温度まで変化させる。軸振動解析部17は、各軸受温度において回転数を正常範囲の全域にわたり変化させたときの軸受温度、回転数、軸振動値を組みとするデータを記憶部19へ保存していく。
あるいは、軸振動解析部17は、試験運転後の記憶部19に記録が無い軸受温度および回転数の組合せについてのみ(つまり、試験運転で収集できなかった運転条件についてのみ)、軸振動計算モデルによるデータ生成を行ってもよい。
【0037】
次に判定モデル作成部18は、正常時データを学習する(ステップS150)。具体的には、ステップS120とステップS140にて記憶部19に保存された学習データが示す正常範囲の軸受温度および回転数とそのときの正常な軸振動値、または正常な軸振動値の範囲の関係を学習し、判定モデルを作成する。この判定モデルは、軸受温度、回転数を入力すると、その軸受温度、回転数に対応する正常な軸振動値、または正常な軸振動値の範囲を出力する。判定モデルの作成が完了すると、プラント1および監視装置10は、実運転が可能となる。
【0038】
次にプラント1の実運転を開始する。同時に監視装置10による軸振動の監視を開始する(ステップS160)。具体的には、まず、異常監視部14がデータを取得する(ステップS170)。つまり、プロセスデータ計測部11が、実運転中のロータ6の回転数および軸受温度を取得し、異常監視部14へ出力する。また、データ演算部13は、軸振動計測部12が取得したロータ6の軸振動に相当する電圧値を軸振動値に変換し、変換後の軸振動値を異常監視部14に出力する。
【0039】
異常監視部14は、計測された軸振動値が異常かどうかを判定する(ステップS180)。具体的には、異常監視部14は、ステップS170で取得した回転数と軸受温度を判定モデルに入力する。異常監視部14は、判定モデルが出力する正常な軸振動値と、ステップS170で取得した軸振動値を比較する。両者の差が所定の許容範囲内であれば、異常監視部14は、軸振動値は正常であると判定する。あるいは、異常監視部14は、判定モデルが出力する正常な軸振動値の範囲に、ステップS170で取得した軸振動値が含まれていれば、軸振動値は正常であると判定する。
【0040】
異常監視部14が軸振動値を正常と判定した場合(ステップS180;No)、異常監視部14は、正常と判定したロータ6の回転数および軸受温度と、データ演算部13から取得した軸振動値の計測値を組みとして、それらの計測時刻とともに記憶部19に保存する。次に
図6で説明するように実運転中に保存したデータは、軸振動計算モデルおよび判定モデルの更新に用いられる。
【0041】
異常監視部14が軸振動値を異常と判定した場合(ステップS180;Yes)、異常監視部14は、所定の異常診断を行う(ステップS190)。例えば、記憶部19には、軸振動値の周波数別に疑われる異常の原因(軸受の損傷、ロータ6の損傷、インペラの異常振動など)が登録されていて、異常監視部14は、軸振動に対して周波数分析を行って、異常の原因を推定してもよい。また、監視員は、必要に応じてロータ6の回転数を低下させるなどの対策を行ってもよい。
【0042】
ステップS180の判定結果に関わらず、監視装置10は、異常監視を継続する(ステップS200)。つまり、プラント1の運転中、ステップS170以降の処理が繰り返し実行される。
【0043】
本実施形態では、実機で起こりうるあらゆる運転条件(回転数、軸受温度など)での軸振動計算を事前に行って学習させておくことにより、運転条件変化時の正常な軸振動の挙動を得ることができる。運転条件に対応する軸振動値の正常な値を基準として、軸振動の監視を行うことができるので、監視対象が、運転条件の変化が要求されるターボ機械であっても、軸振動異常の誤検知を防ぎ、真の異常だけを検知することができる。
【0044】
また、本実施形態によれば、実機の試験運転や試運転中にシステム同定された軸振動計算モデルによって、運転条件が正常範囲内で変化するあらゆるパターンついての正常な軸振動値を、コンピュータによる演算処理で速やかに収集することができる。そして、収集した膨大なデータを学習データとして、軸振動の異常を検出する判定モデルを作成することができる。つまり、プラント1にて要求され得るあらゆる運転条件にも対応可能な判定モデルを実運転の開始前に無理なく構築することができる。これにより、実運転開始時からの異常監視が可能となり,従来の課題であった異常監視のための長期の事前データ取得が不要となる。
【0045】
(経変劣化による軸振動特性の変化への対応)
次に実運転開始後の軸振動計算モデル、判定モデルの更新処理について説明する。
図5で説明した処理を行って実運転および監視を継続すると、プラント1には経年劣化が生じる。例えば、軸受のピボット部の摩耗や作動流体による翼の摩耗による減肉が生じる。この影響を受けてロータ6の軸振動特性も変化する。この変化に応じて判定モデルを更新しなければ、誤検知が生じる可能性がある。そこで監視装置10は、監視中の軸振動値を用いて、定期的に軸振動計算モデルを更新する。ただし、経年劣化による軸振動値の変化があまりに大きい場合には、機能維持の観点で問題が生じる。従って、現在の軸振動値と運転開始時の正常な軸振動値との差分を計算し、その差分が許容範囲内であれば、軸振動計算モデルの更新を行う。また、更新した軸振動計算モデルにより、あらゆる運転条件下での経年劣化の影響を反映した軸振動値を算出して学習データを生成し、経年劣化後のプロセスデータと軸振動値の関係を学習し直して判定モデルを更新する。これにより、経年劣化によって生じる正常な軸振動値の変化と真の異常値とを区別することができ、精度よい異常検知が可能となる。
【0046】
図6は、本発明の一実施形態における判定モデルの更新処理および監視処理の一例を示すフローチャートである。
図5のフローチャートと同様の処理については簡単に説明する。前提として、
図5に示すフローチャートの処理が実行され、監視装置10によるプラント1の監視が行われているとする。つまり、監視装置10は、運転開始とともに異常監視を開始している(ステップS160)。次に異常監視部14がプロセスデータと軸振動値を取得し(ステップS170)、異常か否かの判定を行う(ステップS180)。異常の場合(ステップS180;Yes)、異常監視部14は異常診断を行う(ステップS190)。正常の場合(ステップS180;Yes)、異常監視部14は、正常と判断された回転数と軸受温度と軸振動値とを組みにして記憶部19に保存する。また、軸振動計算モデル作成部16は、正常と判断された回転数と軸受温度と軸振動値とを用いて、軸振動計算モデルのシステム同定を行う(ステップS191)。これにより、現在のロータ6の軸振動特性を、軸振動計算モデルに反映させることができる。軸振動計算モデル作成部16は、新たにシステム同定した軸振動計算モデルを、実運転の開始前にシステム同定した軸振動計算モデルとは別に記憶部19に書き込んで保存する。実運転の開始前にシステム同定した軸振動計算モデルを「軸振動計算モデル(初期)」、新たにシステム同定した軸振動計算モデルを「軸振動計算モデル(最新)」と記載する。軸振動計算モデル(最新)は、経年変化によるロータ6の軸振動特性の変化を反映した軸振動値を算出することができる。監視装置10は、異常監視を継続する(ステップS200)。
【0047】
また、ステップS180以降の処理と並行して、軸振動計算モデル作成部16は、今回計測された軸振動値と、今回計測した回転数および軸受温度を軸振動計算モデル(初期)に入力して得られる運転初期における正常な軸振動値との差分を計算する(ステップS171)。軸振動計算モデル作成部16は、差分が軽度の経年劣化による影響を示す所定の許容範囲内か否かを判定する(ステップS172)。
【0048】
差分が軽度の経年劣化による影響の範囲を超えていれば、軸振動計算モデル作成部16は、差分が許容範囲外と判定する。この場合、ロータ6の周辺で何らかの異常が生じているか、経年劣化が進行している可能性がある。この場合、監視装置10は、異常と判定する(ステップS176)。監視員は、プラント1の回転数を低下させたり運転を停止させたりしてもよい。
【0049】
差分が許容範囲内の場合(ステップS172;Yes)、判定モデル作成部18が、判定モデルの更新の要否を判定する(ステップS173)。例えば、差分が0あるいは誤差とみなせる範囲であれば、経年劣化による軸振動特性の変化は生じていないと考えられるため、判定モデルを更新する必要性は少ない。また、差分が誤差より大きく経年劣化による変化幅内の場合、ロータ6の軸振動特性が経年劣化によって変化したと考えられる。この場合、判定モデル作成部18は、経年変化後の軸振動特性を反映した学習データを用いて、判定モデルを再構築する。
例えば、判定モデル作成部18は、所定回数連続して差分が経年劣化による変化幅内となったり、所定時間内に所定回数以上差分が上記の変化幅内となったりしたときに、判定モデルを更新すると判定する。あるいは、経年劣化による軸振動変化が現れるまでに要する運転時間が分かっている場合、判定モデル作成部18は、実際の運転時間が当該運転時間に至ったときに、判定モデルを更新すると判定してもよい。
【0050】
判定モデルを更新すると判定した場合(ステップS173;Yes)、まず、軸振動解析部17が、軸振動値の補間処理を行う(ステップS174)。処理の内容は
図5のステップS140と同様であるが、軸振動解析部17は、軸振動値の算出に軸振動計算モデル(最新)を用いる。例えば、軸振動解析部17は、軸振動計算モデル(最新)に基づいて、軸受温度と回転数を正常範囲内の全域にわたって変化させたときの軸振動値を算出し、これらを学習データとして記憶部19に保存する。
あるいは、軸振動解析部17は、ステップS180でYesと判定した場合に保存したデータのうち、経年劣化の影響が反映されていると考えられるデータ(例えば、判定モデルを更新すると判定する前の所定期間において保存されたデータ)に関する運転条件以外の運転条件についての軸振動値のみを算出してもよい。
【0051】
次に判定モデル作成部18は、判定モデルを更新する(ステップS175)。具体的には、ステップS174にて記憶部19に保存された学習データと、判定モデルを更新すると判定する前の所定期間に保存された実運転中に計測されたデータとに基づいて、経年劣化後の回転数および軸受温度と正常な軸振動値との関係を学習し、新たな判定モデルを作成する。判定モデル作成部18は、実運転前に作成された判定モデルを、新たに作成した判定モデルで更新する。これにより、次の異常判定(ステップS180)では、更新後の新たな判定モデルによって異常判定が行われる。
【0052】
図6の処理によれば、実運転開始後に経年劣化が生じた場合でも、許容範囲内での経年劣化による軸振動変化を異常と誤検知せず、真の異常のみを検知して精度よい異常検知が可能である。また、運転開始時からの軸振動値の変化量に基づいて、経年劣化による軸振動値の変化の限界を検出することができる。
【0053】
図7は、本発明の一実施形態における監視装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
コンピュータ900は、CPU901、主記憶装置902、補助記憶装置903、入出力インタフェース904、通信インタフェース905を備える。
上述の監視装置10は、コンピュータ900に実装される。そして、上述した各機能は、プログラムの形式で補助記憶装置903に記憶されている。CPU901は、プログラムを補助記憶装置903から読み出して主記憶装置902に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。また、CPU901は、プログラムに従って、記憶領域を主記憶装置902に確保する。また、CPU901は、プログラムに従って、処理中のデータを記憶する記憶領域を補助記憶装置903に確保する。
【0054】
監視装置10の全部または一部の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各機能部による処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、CD、DVD、USB等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。また、このプログラムが通信回線によってコンピュータ900に配信される場合、配信を受けたコンピュータ900が当該プログラムを主記憶装置902に展開し、上記処理を実行しても良い。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
また、監視装置10は、複数のコンピュータ900によって構成されていても良い。記憶部19は、コンピュータ900とは別体の外部記憶装置に記憶されていても良い。また、推定モデルを作成する機能(例えば、軸振動計算モデル作成部16、軸振動解析部17、判定モデル作成部18)と軸振動の異常監視を行う機能(その他の機能部)は、別々のコンピュータ900に実装されていてもよい。
【0055】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。また、この発明の技術範囲は上記の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、実施形態では、コンプレッサのロータに対する監視を例としたが、その他の回転機械、ターボ機械、例えば、コンプレッサ、タービン、蒸気タービン、ガスタービン、ポンプなどの監視にも使用することができる。また、実施例では、正常時のデータを学習データとしたが、異常時のデータも保存するようにし、判定モデル作成部18は、正常時の運転条件および軸振動値と、異常時の運転条件および軸振動値とを区別する境界を算出し判定モデルとしてもよい。また、運転条件として回転数と軸受温度を例示したが、軸受温度は軸受の油膜温度であってもよい。
【符号の説明】
【0056】
1・・・プラント
2・・・蒸気タービン
3・・・中圧コンプレッサ
4・・・低圧コンプレッサ
5・・・高圧コンプレッサ
6・・・ロータ
10・・・監視装置
11・・・プロセスデータ計測部
12・・・軸振動計測部
13・・・データ演算部
14・・・異常監視部
15・・・データ収録部
16・・・軸振動計算モデル作成部
17・・・軸振動解析部
18・・・判定モデル作成部
19・・・記憶部
900・・・コンピュータ
901・・・CPU
902・・・主記憶装置
903・・・補助記憶装置
904・・・入出力インタフェース
905・・・通信インタフェース