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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-21
(45)【発行日】2022-10-31
(54)【発明の名称】エンドミル検査装置
(51)【国際特許分類】
   B23Q 17/24 20060101AFI20221024BHJP
   B23C 5/10 20060101ALI20221024BHJP
【FI】
B23Q17/24 Z
B23C5/10 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019034449
(22)【出願日】2019-02-27
(65)【公開番号】P2020138262
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-07-13
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】江藤 潤
(72)【発明者】
【氏名】海野 絋和
【審査官】山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-169961(JP,A)
【文献】特開2016-024048(JP,A)
【文献】特開2013-210334(JP,A)
【文献】特開平09-041863(JP,A)
【文献】特開2017-226035(JP,A)
【文献】特開2016-036869(JP,A)
【文献】特開2001-071209(JP,A)
【文献】特表2010-520064(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0025584(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 17/20,17/24;
B23C 5/10;
G01B 11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲面凸形状かつ複数の曲率を有する円弧形状に形成された刃部を有するエンドミルを検査するエンドミル検査装置であって、
撮像部によって前記エンドミルの前記刃部が部分的に複数回に亘って撮像されて得られる前記刃部の全体の撮像データを取得する第1取得部と、
前記第1取得部によって取得された前記撮像データに基づいて、前記刃部の輪郭を抽出する輪郭抽出部と、
前記輪郭抽出部によって抽出された前記刃部の前記輪郭に基づいて、前記輪郭の曲率半径を少なくとも1つ以上算出する曲率半径算出部と、
を備え
前記撮像データは、前記エンドミルの種類又は識別情報を特定するための前記エンドミルの形状又は識別表示の少なくとも1つを含み、
前記エンドミルの種類又は前記識別情報によって特定された前記エンドミルの基準形状に関する基準データを取得する第2取得部と、
前記第2取得部によって取得された前記基準データの基準曲率半径の値、及び、前記曲率半径算出部によって算出された前記曲率半径の値の差と、所定の閾値とに基づいて、前記刃部の形状変化の有無を判断する判断部と、
を備えるエンドミル検査装置。
【請求項2】
前記第2取得部によって取得された前記基準データに基づく基準輪郭と、前記輪郭抽出部によって抽出された前記輪郭とをフィッティングして比較し、前記刃部の形状変化を判断する請求項に記載のエンドミル検査装置。
【請求項3】
前記判断部は、前記基準輪郭と抽出された前記輪郭と間の面積、又は、前記基準輪郭と抽出された前記輪郭と間の距離に基づいて、前記刃部の形状変化を判断する請求項に記載のエンドミル検査装置。
【請求項4】
前記エンドミルの前記刃部は、
曲面凸形状かつ円弧形状に形成された底刃又は外周刃と、
隅部に設けられて円弧形状に形成されたラジアス刃と、
を有する請求項1からのいずれか1項に記載のエンドミル検査装置。
【請求項5】
前記底刃は、エンドミル軸上に刃部分が形成されていない領域を有し、
前記底刃の前記領域において、前記底刃の円弧部分よりも半径が小さい円弧形状に形成された中心刃を更に有する請求項に記載のエンドミル検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンドミル検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
胴体又は主翼のスキンなどの板状の航空機構造用部品を製造する場合、板状部材(ワーク)に対して、切削加工によって複曲面を形成することがある。複曲面の形成は、ボールエンドミル又はラジアスエンドミルを用いて、等高線加工又は筋彫り加工を行うことが一般的である。
【0003】
切削工具には、ボールエンドミル又はラジアスエンドミルと異なり、外周刃又は底刃において曲面凸形状の円弧部分を有し、当該円弧部分の曲率半径が大きいバレル工具又はレンズ工具と呼ばれるものがある。円弧部分の曲率半径は、エンドミルの工具径(外径)よりも大きい。
【0004】
底刃において曲面凸形状の円弧部分を有するレンズ工具は、ワークに対して底面(面形状)を形成する場合に用いられる。これにより、ボールエンドミルを用いる場合よりも送り間隔(ピックフィード)を大きくすることができ、加工時間の削減や、面粗度の向上を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-226035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した曲率半径が大きい外周刃又は底刃による加工は、摩耗によって曲率半径の値が変化すると、加工によって生じる面粗度や、パス間に形成される稜線の高さに影響を与える。したがって、加工面の品質を維持するため、損耗によるエンドミルの形状変化を検査する必要があり、エンドミルの刃全体を測定することが要求される。
【0007】
上記特許文献1では、撮影によって取得された工具画像と比較基準データを比較する際、2点の読み取り点の間隔を一致させるように座標の補正を行い、エッジの1か所又は複数か所で形状変化量が判定値を超えたか否かが判断される。この技術では、位置ごとに形状変化量を算出することによって形状変化が判断されるため、わずかな形状変化の検出が必要である曲率半径が大きい外周刃又は底刃を有するエンドミルの検査には適さない。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、エンドミルの形状変化を精度良く検出することが可能なエンドミル検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のエンドミル検査装置は以下の手段を採用する。
すなわち、本発明に係るエンドミル検査装置は、曲面凸形状かつ複数の曲率を有する円弧形状に形成された刃部を有するエンドミルを検査するエンドミル検査装置であって、撮像部によって前記エンドミルの前記刃部が部分的に複数回に亘って撮像されて得られる前記刃部の全体の撮像データを取得する第1取得部と、前記第1取得部によって取得された前記撮像データに基づいて、前記刃部の輪郭を抽出する輪郭抽出部と、前記輪郭抽出部によって抽出された前記刃部の前記輪郭に基づいて、前記輪郭の曲率半径を少なくとも1つ以上算出する曲率半径算出部とを備える。
【0010】
この構成によれば、撮像部によってエンドミルの刃部が撮像された撮像データが取得されて、取得された撮像データに基づいて、エンドミルの刃部の輪郭が抽出される。そして、抽出された刃部の輪郭に基づいて、輪郭の曲率半径が算出される。したがって、刃部の輪郭の曲率半径の絶対値が直接得られる。刃部において曲率が小さくフラットな形状に近いため、実際のエンドミルの撮像データから抽出された輪郭データと、基準となるエンドミルの輪郭データをフィッティングし比較した場合、エンドミルの摩耗を判別できない場合がある。これに対し、絶対値に基づいて比較されるため、曲率が小さい形状であってもエンドミルの摩耗を判別でき、エンドミルの形状変化を精度良く検出できる。また、曲率の異なる複数の刃部が滑らかに接続された複雑な形状のエンドミルにおいて、フィッティングは困難である。これに対し、刃部ごとに絶対値に基づいて比較が行われるため、フィッティングを行う必要がなく、検査工程の簡略化を図ることができる。
【0011】
上記発明において、前記エンドミルの基準形状に関する基準データを取得する第2取得部と、前記第2取得部によって取得された前記基準データの基準曲率半径の値、及び、前記曲率半径算出部によって算出された前記曲率半径の値の差と、所定の閾値とに基づいて、前記刃部の形状変化の有無を判断する判断部とを備えてもよい。
【0012】
この構成によれば、エンドミルの基準形状に関する基準データが取得され、取得された基準データの基準曲率半径の値及び曲率半径算出部によって算出された曲率半径の値の差が、所定の閾値と比較されて、エンドミルの刃部の形状変化の有無が判断される。この場合、エンドミルの刃部の摩耗を特定しやすい。
【0013】
上記発明において、前記第2取得部によって取得された前記基準データに基づく基準輪郭と、前記輪郭抽出部によって抽出された前記輪郭とをフィッティングして比較し、前記刃部の形状変化を判断してもよい。
【0014】
この構成によれば、エンドミルの基準形状に関する基準データが取得され、取得された基準データに基づく基準輪郭と、輪郭抽出部によって抽出されたエンドミルの輪郭とがフィッティングされて比較され、エンドミルの刃部の形状変化が判断される。この場合、エンドミルの刃部に生じている欠けを特定しやすい。
【0015】
上記発明において、前記判断部は、前記基準輪郭と抽出された前記輪郭と間の面積、又は、前記基準輪郭と抽出された前記輪郭と間の距離に基づいて、前記刃部の形状変化を判断してもよい。
【0016】
この構成によれば、取得された基準データに基づく基準輪郭と、輪郭抽出部によって抽出されたエンドミルの輪郭とがフィッティングされて比較されるとき、基準輪郭と抽出された輪郭との間の距離、又は、基準輪郭と抽出された輪郭との間の面積に基づいて、形状変化が判断される。
【0017】
上記発明において、前記エンドミルの前記刃部は、曲面凸形状かつ円弧形状に形成された底刃又は外周刃と、隅部に設けられて円弧形状に形成されたラジアス刃とを有してもよい。
【0018】
この構成によれば、底刃が曲面凸形状かつ円弧形状に形成され、ラジアス刃が隅部に設けられて円弧形状に形成されており、軸周りに回転する切削加工によって、ラジアス刃が加工目標とする形状のうちフィレット形状部分を形成でき、底刃がフィレット形状部分に隣接する面形状部分を形成できる。
【0019】
上記発明において、前記底刃は、エンドミル軸上に刃部分が形成されていない領域を有し、前記底刃の前記領域において、前記底刃の円弧部分よりも半径が小さい円弧形状に形成された中心刃を更に有してもよい。
【0020】
この構成によれば、底刃において、エンドミル軸上に刃部分が形成されていない領域が設けられて、切削速度が0(ゼロ)となる切削刃がないため、バリの発生を低減できる。エンドミル軸上に刃部分が形成されていない領域には、中心刃が、底刃の円弧部分よりも半径が小さい円弧形状に形成されている。これにより、中心刃が設けられていない場合と比べて、面粗さを抑制できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、エンドミルの形状変化を精度良く検出することができ、測定結果に基づいて、加工条件を変更したり、エンドミルを交換したりすることで、加工面の品質を良好に維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態に係るエンドミル検査装置を示す構成図である。
図2】加工装置を示す構成図である。
図3】被検査対象のエンドミルの第1例を示す概略図である。
図4】被検査対象のエンドミルの第2例を示す概略図である。
図5】本発明の一実施形態に係るエンドミル検査装置の動作を示すフローチャートである。
図6】エンドミルと曲率半径の関係を示す概略図である。
図7】使用前と後に撮像されたエンドミルを示す概略図である。
図8】エンドミルの設計データに基づく曲率半径と、使用後に撮像されたエンドミルを示す概略図である。
図9図8の破線囲み部分を示す拡大概略図である。
図10】エンドミルにおけるフィッティングに用いる基準点の第1例を示す概略図である。
図11】エンドミルにおけるフィッティングに用いる基準点の第2例を示す概略図である。
図12】エンドミルにおけるフィッティングに用いる基準点の第3例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の一実施形態に係るエンドミル検査装置1について、図面を参照して説明する。
本実施形態に係るエンドミル検査装置1は、カメラ4によって被検査対象であるエンドミル10が撮像された撮像データに基づいて、エンドミル10の刃の形状変化の有無を判断する。刃の形状変化とは、エンドミル10を用いた加工によって生じる摩耗や欠け(チッピング)などである。エンドミル10は、加工装置20に取り付けられて、加工時と同様に軸周りに回転可能な状態で、エンドミル検査装置1によって検査される。
【0024】
加工装置20は、図2に示すように、例えば、エンドミル10と、駆動部21と、制御部22を備える。加工装置20は、エンドミル10によって、ワーク50を切削して、ワーク50に所定の形状を形成する。ワーク50は、例えばアルミニウム合金、チタン合金などの金属材料である。
【0025】
エンドミル10は、軸線周りに回転しながら、軸線方向又は送り方向に移動することによって、ワーク50を切削できる。エンドミル10は、例えば、レンズ工具であり、図3に示すように、曲面凸形状に形成された底刃10Aと、隅部に設けられて円弧形状に形成されたラジアス刃10Bを有する。エンドミル10は、軸周りに回転する切削加工によって、図2に示すように、ラジアス刃10Bが加工目標とする形状のうちフィレット形状部分52を形成でき、底刃10Aがフィレット形状部分52に隣接する面形状部分51を形成できる。図3では、エンドミル10の外径(工具径)をD、底刃10Aが占める領域のエンドミル10の軸方向に対して垂直方向の直径(底刃径)をLDとして示している。
【0026】
底刃10Aは、エンドミル10の軸線上部分が最も下方に位置するように突出しており、所定の半径(ラジアス)を有する円弧形状に形成されている。ラジアス刃10Bは、底刃10Aの外周側隅部に設けられ、所定の半径(ラジアス)を有する円弧形状に形成されている。底刃10Aの円弧部分の半径は、エンドミル10の工具径よりも大きく、いわゆるボールエンドミルの円弧部分の半径よりも大きい。
【0027】
また、エンドミル10がレンズ工具である場合、底刃10Aにおいて中心刃10Cが形成されたものでもよい。この場合、エンドミル10は、図4に示すように、曲面凸形状に形成された底刃10Aと、隅部に設けられて円弧形状に形成されたラジアス刃10Bとを有し、底刃10Aは、エンドミル10の軸上に底刃10Aが形成されていない領域を有する。また、当該領域において、エンドミル10は、底刃10Aの円弧部分よりも曲率半径が小さい円弧形状に形成された中心刃10Cを有する。図4では、底刃10Aにおいて、エンドミル10の軸上に刃部分が形成されていない領域のエンドミル10の軸方向に対して垂直方向の直径(中心刃径)をCDとして示している。
【0028】
これにより、底刃10Aにおいて、エンドミル10の軸上に刃部分が形成されていない領域が設けられて、切削速度が0(ゼロ)となる切削刃がないため、バリの発生を低減できる。また、エンドミル10の軸上に刃部分が形成されていない領域には、中心刃10Cが、底刃10Aの円弧部分よりも半径が小さい円弧形状に形成されている(中心刃ノーズ部)。これにより、中心刃10Cにおいて円弧形状の中心刃ノーズ部が設けられていない場合と比べて、面粗さを抑制できる。
【0029】
なお、エンドミル10は、例えば、バレル工具でもよく、バレル工具は、曲面凸形状に形成された外周刃(側刃)と、隅部に設けられて円弧形状に形成されたラジアス刃を有する。本実施形態に係るエンドミル検査装置1は、曲率を有するエンドミル10の刃を検査するのに適しており、レンズ工具やバレル工具以外のエンドミルを検査することも可能である。
【0030】
図6では、底刃(レンズ部)10Aの曲率半径(レンズ径)をLR、エンドミル10のラジアス刃(ノーズ部)10Bの曲率半径(ノーズ径)をNR、底刃10Aにおいて、中心刃10Cの円弧部分の半径(中心刃ノーズ径)をCRとして示している。
【0031】
加工装置20の駆動部21は、複数のモータや、エンドミル10を切り換える構成を有する切換部などを備える。主軸モータは、電力を受けて駆動し、エンドミル10を軸線周りに回転させる。移動用モータは、電力を受けて駆動し、エンドミル10を軸線方向又は軸線方向に対して垂直方向(送り方向)に移動させる。
【0032】
制御部22は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体等から構成されている。そして、各種機能を実現するための一連の処理は、一例として、プログラムの形式で記憶媒体等に記憶されており、このプログラムをCPUがRAM等に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、各種機能が実現される。なお、プログラムは、ROMやその他の記憶媒体に予めインストールしておく形態や、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、有線又は無線による通信手段を介して配信される形態等が適用されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記憶媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等である。
【0033】
エンドミル検査装置1は、図1に示すように、撮像部2と、検査部3を有する。エンドミル検査装置1は、撮像部2が、被検査対象であるエンドミル10の撮像データを取得し、撮像部2によって取得された撮像データに基づいて、検査部3が、エンドミル10の刃の形状変化の有無を判断する。
【0034】
撮像部2は、カメラ4と、光源装置5などを備える。
カメラ4は、エンドミル10を撮像可能である。カメラ4による撮像によって取得された撮像データは、撮像データ取得部6へ送られる。カメラ4は、エンドミル10の全体を一度で撮像してもよいし、エンドミル10の部分的に撮像し、エンドミル10又はカメラ4を移動して全体を撮像するようにしてもよい。
【0035】
カメラ4は、レンズがエンドミル10の軸方向に対して垂直方向となるように配置され、この状態でエンドミル10を撮像する。これにより、カメラ4による撮像によって、エンドミル10の縦断面形状が取得される。
【0036】
撮像データには、エンドミル10の外形形状、特にエンドミル10の刃の外形形状が撮像されている。複数回に分けてエンドミル10を撮像する場合、撮像データを合成して、一つの撮像データとして取得するようにしてもよい。
【0037】
光源装置5は、例えばLEDであり、図1に示すように、被検出対象のエンドミル10を間に挟んでカメラ4とは反対側に設置される。光源装置5は、エンドミル10に対して光を照射する。これにより、エンドミル10の外周面のうちカメラ4側の面が暗くなり、カメラ4は、逆光の状態でエンドミル10を撮像することから、エンドミル10の外形形状が明確になる。
【0038】
なお、本発明に係る撮像部2は、上述した例に限定されず、他の構成によってエンドミル10の外形形状を撮像してもよい。
【0039】
検査部3は、撮像データ取得部6と、輪郭抽出部7と、曲率半径算出部8と、基準データ取得部9と、判断部11などを備える。なお、検査部3の動作は、予め記録されたプログラムを実行して、CPU等のハードウェア資源によって実現される。
【0040】
撮像データ取得部6は、カメラ4から送信された撮像データを取得する。撮像データ取得部6は、取得した撮像データを輪郭抽出部7へ送信する。
【0041】
輪郭抽出部7は、撮像データ取得部6によって取得された撮像データに対し画像処理を施し、画像処理によって、撮像データからエンドミル10の外形形状、特にエンドミル10の刃の外形形状の輪郭を抽出する。輪郭抽出部7は、抽出したエンドミル10の輪郭に関するデータを曲率半径算出部8に送る。
【0042】
曲率半径算出部8は、輪郭抽出部7によって抽出されたエンドミル10の輪郭に関するデータに基づいて、エンドミル10の刃部分の曲率半径を算出する。例えば、エンドミル10がレンズ工具である場合、底刃10Aの曲率半径と、ラジアス刃10Bの曲率半径がそれぞれ算出される。また、レンズ工具において、中心刃10Cを有する場合は、中心刃10Cの曲率半径も算出される。エンドミル10がバレル工具である場合、外周刃の曲率半径と、ラジアス刃の曲率半径がそれぞれ算出される。
【0043】
基準データ取得部9は、メモリ12に記録されたエンドミル10の基準形状に関する基準データを、メモリ12から取得する。その際、撮像データに撮像されたエンドミル10の種類が特定されて、特定されたエンドミル10に関する基準データが取得される。エンドミル10の特定は、ユーザによるエンドミル10の識別記号の入力によって行われてもよいし、撮像データから取得された形状、識別表示などに基づいて行われてもよい。基準データには、加工に用いられる(使用)前のエンドミル10の刃が有する曲率半径に関するデータや、エンドミル10の刃の輪郭形状に関するデータが含まれる。
【0044】
なお、基準データ取得部9は、メモリ12から基準データを取得する場合に限定されず、測定のたびにユーザによって入力されるデータから、基準データを取得してもよい。
【0045】
判断部11は、基準データ取得部9によって取得された基準データの曲率半径(基準曲率半径)と、曲率半径算出部8によって算出された曲率半径に基づいて、エンドミル10の刃の形状変化を判断する。このとき、判断部11は、取得された基準データの曲率半径の値及び算出された曲率半径の値の差と、所定の閾値とに基づいて、エンドミル10の刃の形状変化の有無を判断する。この場合、エンドミル10の刃に生じている摩耗の有無を判断することができる。
【0046】
また、判断部11は、基準データ取得部9によって取得された基準データに基づく輪郭(基準輪郭)と、輪郭抽出部7によって抽出されたエンドミル10の輪郭とをフィッティングして比較し、エンドミル10の刃の形状変化を判断する。この場合、エンドミル10の刃に生じている欠けを特定しやすい。このとき、判断部11は、輪郭間の距離、又は、輪郭間の面積に基づいて、形状変化を判断する。
【0047】
次に、図5を参照して、本実施形態に係るエンドミル検査装置1を用いたエンドミル10の検査方法について説明する。
【0048】
まず、被検査対象のエンドミル10が撮像部2に設置され、カメラ4によってエンドミル10が撮影される(ステップS1)。このとき、エンドミル10は軸周りに回転した状態とされる。カメラ4に広角レンズが設けられており、エンドミル10の刃全体が一つの画像に収まる場合、エンドミル10の刃全体を一度に撮像する。エンドミル10の刃全体が撮影範囲に収まらない場合、エンドミル10の刃を部分的に撮像して、エンドミル10又はカメラ4を移動して全体を撮像する。エンドミル10が底刃10Aを有するレンズ工具の場合、エンドミル10の径方向に対して平行にエンドミル10又はカメラ4を移動させる。エンドミル10が外周刃を有するバレル工具の場合、エンドミル10の軸方向に対して平行にエンドミル10又はカメラ4を移動させる。
【0049】
カメラ4によって撮像されたエンドミル10の画像データは、撮像データ取得部6を介して輪郭抽出部7へ送信される。輪郭抽出部7では、撮像データに対し画像処理を施し、画像処理によって、撮像データからエンドミル10の刃の外形形状の輪郭を抽出する(ステップS2)。画像処理は、例えばエッジ検出であり、エッジ検出によってエンドミル10の刃の外形形状の輪郭に関するデータが取得される。
【0050】
そして、抽出されたエンドミル10の刃の輪郭に関するデータに基づいて、エンドミル10の刃部分の曲率半径を算出する(ステップS3)。すなわち、曲線に関するデータから当該曲線の曲率半径が算出される。エンドミル10がレンズ工具であって、底刃10Aと、ラジアス刃10Bを有する場合、底刃10Aの曲率半径及びラジアス刃10Bの曲率半径がそれぞれ算出される。レンズ工具が中心刃10Cを更に有する場合、中心刃10Cの曲率半径が算出される。エンドミル10がバレル工具であって、外周刃と、ラジアス刃を有する場合、外周刃の曲率半径及びラジアス刃の曲率半径がそれぞれ算出される。
【0051】
また、被検出対象であってカメラ4によって撮像されるエンドミル10に関して、エンドミル10の種類、識別情報などが特定される(ステップS4)。これは、例えば、ユーザによるエンドミル10の識別記号の入力によって行われたり、撮像データから取得された形状、識別表示などに基づいて行われたりする。
【0052】
撮像データから取得された形状に基づいてエンドミル10を特定する場合、カメラ4によって撮像された撮像データから抽出されるエンドミル10の刃部分の曲率半径だけでなく、工具径及び工具長が用いられる。曲率半径が大きい刃を有するエンドミル10では、ユーザが目視でエンドミル10の種類を判別することは困難であるため、画像データに基づいてエンドミル10の特定を行えば、目視による誤認の発生を抑制できる。
【0053】
そして、特定されたエンドミル10に関する基準データが取得される(ステップS5)。基準データの取得は、予め複数種類のエンドミル10に関する基準データが記録されたメモリ12から読み出されて行われたり、ユーザによって基準データが入力されることによって行われたりする。
【0054】
次に、基準データ取得部9によって取得された基準データの曲率半径の値と、曲率半径算出部8によって算出された曲率半径の値の差が、所定の閾値と比較されて、エンドミル10の刃の形状変化の有無が判断される(ステップS6)。図6に示すように、エンドミル10がレンズ工具である場合、底刃10Aの曲率半径LRにおける差と、ラジアス刃10Bの曲率半径NRにおける差と、中心刃10Cの曲率半径CRにおける差のそれぞれが算出される。エンドミル10がバレル工具である場合、外周刃の曲率半径における差と、ラジアス刃の曲率半径における差がそれぞれ算出される。
【0055】
基準データの曲率半径の値と、算出された曲率半径の値は、いずれも絶対値である。そして、曲率半径の値の差が、所定の閾値によって定められる所定の範囲と比較されて、所定の範囲外であると判断された場合、エンドミル10の刃は許容される形状を超えて変形していると判断される。他方、曲率半径の値の差が、所定の範囲と比較されて、所定の範囲内であると判断された場合、エンドミル10の刃は許容される形状を維持していると判断される。
【0056】
上述したとおり、エンドミル10の刃において曲率が小さくフラットな形状に近い場合、輪郭同士のフィッティングでは摩耗の形状変化は判別しにくいが、加工によって生じた欠け(チッピング)60(図7図9参照)による形状変化の有無が検出可能である。
【0057】
この場合、図7図9に示すように、基準データ取得部9によって取得された基準データに基づく輪郭と、輪郭抽出部7によって抽出された輪郭とが、フィッティングされ比較されて、エンドミル10の刃の形状変化の有無が判断される(ステップS7)。エンドミル10がレンズ工具である場合、底刃10Aの形状変化と、ラジアス刃10Bの形状変化のそれぞれが判断される。
【0058】
例えば、輪郭同士をマッチング処理によって重ね合わせて、輪郭間で発生している隙間の面積を検出する。または、輪郭同士をマッチング処理によって重ね合わせて、輪郭間で発生している、軸方向に対して平行方向又は垂直方向の距離の差を検出する。そして、輪郭間の面積、又は、輪郭間の距離の差が、所定の閾値によって定められる所定の範囲と比較されて、所定の範囲外であると判断された場合、エンドミル10の刃は許容される形状を超えて変形していると判断される。他方、輪郭間の面積、又は、輪郭間の距離の差が、所定の範囲と比較されて、所定の範囲内であると判断された場合、エンドミル10の刃は許容される形状を維持していると判断される。
【0059】
なお、基準データ取得部9によって取得される基準データは、例えば、図7に示すように、加工に用いられる(使用)前のエンドミル10がカメラ4によって撮像されて取得された撮像データである(図7中の破線部)。そして、使用前のエンドミル10の撮像データに対し画像処理を施し、画像処理によって、撮像データから使用前のエンドミル10の外形形状の輪郭が抽出される(図7中の実線部)。次に、この使用前のエンドミル10の輪郭と使用後のエンドミル10の輪郭とが比較されて、形状変化の有無が判断される。
【0060】
または、基準データ取得部9によって取得される基準データは、例えば、図8に示すように、エンドミル10の設計値に基づくデータである(図8中の破線部)。そして、使用前のエンドミル10の撮像データに対し画像処理を施し、画像処理によって、撮像データから使用前のエンドミル10の外形形状の輪郭が抽出される(図8中の実線部)。次に、エンドミル10の設計値に基づくデータによって表される輪郭と、使用後のエンドミル10の輪郭とが比較されて、形状変化の有無が判断される。
【0061】
次に、図10図12を参照して、基準データ取得部9によって取得された基準データに基づく輪郭と、輪郭抽出部7によって抽出された輪郭とをフィッティングする方法について説明する。
【0062】
基準データ取得部9によって取得される基準データが、使用前のエンドミル10の撮像データである場合、例えば、図10に示すように、直線軸部とラジアス刃10Bの境界部分の両側2点と、底刃10Aの頂点(すなわち、エンドミル10の刃を下向きにした時の最下点)1点の合計3点を基準とする。そして、基準データの上記3点と、輪郭抽出部7によって抽出された輪郭における上記3点が最も近接するときをフィッティングの最適位置として両方の輪郭を重ね合わせ、上述した比較が行われる。
【0063】
エンドミル10がレンズ工具である場合、底刃10Aが曲率を有することから、底刃10Aの形状を利用してフィッティングを行うことによって、フィッティング精度を向上させることができる。したがって、直線軸部とラジアス刃10Bの境界部分の両側2点のみではなく、上述したとおり底刃10Aの頂点を用いる方法がある。
【0064】
または、基準データ取得部9によって取得される基準データが、エンドミル10の設計値に基づくデータである場合、例えば、底刃10Aの2点を基準とする。底刃10Aの2点は、図11に示すように、工具中心から水平方向左右に一定の距離aにある2点でもよいし、図12に示すように、底刃10Aの頂点1点と、頂点1点からエンドミル10の径方向外側に一定の距離aにある1点の合計2点でもよい。なお、距離aは、エンドミル10の種類ごとに予め決定される。
【0065】
そして、基準データの上記2点と、輪郭抽出部7によって抽出された輪郭における上記2点が最も近接するときをフィッティングの最適位置として両方の輪郭を重ね合わせ、上述した比較が行われる。
【0066】
基準データ取得部9によって取得される基準データが、エンドミル10の設計値に基づくデータである場合、底刃10Aの曲線データが得られることから、1点目を中心軸又は底刃10Aの頂点とし、2点目を底刃10Aの曲線状に設けることで、基準点が容易に定まる。
【0067】
以上、本実施形態によれば、エンドミル10の刃の輪郭の曲率半径の絶対値が直接得られる。エンドミル10の刃において曲率が小さくフラットな形状に近いため、実際のエンドミル10の撮像データから抽出された輪郭データと、基準となるエンドミル10の輪郭データをフィッティングし比較した場合、エンドミル10の摩耗を判別できない場合がある。これに対し、絶対値に基づいて比較されるため、曲率が小さい形状であってもエンドミル10の摩耗を判別できき、エンドミル10の形状変化を精度良く検出でき。また、底刃又は外周刃が、ラジアス刃と滑らかに接続され、複数の曲率を有する複雑な形状のエンドミル10において、フィッティングは困難である。これに対し、絶対値に基づいて比較されるため、フィッティングを行う必要がなく、検査工程の簡略化を図ることができる。以上、曲率半径の値の差に基づいて形状の変化が判断される場合、エンドミル10の刃の摩耗を特定しやすい。
【0068】
エンドミル10の刃に生じている欠け60を特定する場合には、エンドミル10の基準形状に関する基準データが取得され、取得された基準データに基づく輪郭と、輪郭抽出部7によって抽出されたエンドミル10の輪郭とがフィッティングされて比較され、エンドミル10の刃の形状変化が判断される。
【0069】
以上より、本実施形態に係るエンドミル検査装置1は、エンドミル10の形状変化を精度良く検出することができる。そして、測定結果に基づいて、加工条件を変更したり、エンドミル10を交換したりすることで、加工面の品質を良好に維持できる。
【符号の説明】
【0070】
1 :エンドミル検査装置
2 :撮像部
3 :検査部
4 :カメラ
5 :光源装置
6 :撮像データ取得部(第1取得部)
7 :輪郭抽出部
8 :曲率半径算出部
9 :基準データ取得部(第2取得部)
10 :エンドミル
10A :底刃
10B :ラジアス刃
10C :中心刃
11 :判断部
12 :メモリ
20 :加工装置
21 :駆動部
22 :制御部
50 :ワーク
51 :面形状部分
52 :フィレット形状部分
図1
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図12