(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-21
(45)【発行日】2022-10-31
(54)【発明の名称】テープ貼付装置、及びテープ貼付方法
(51)【国際特許分類】
B29C 70/38 20060101AFI20221024BHJP
B29C 70/54 20060101ALI20221024BHJP
B29C 70/16 20060101ALI20221024BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20221024BHJP
【FI】
B29C70/38
B29C70/54
B29C70/16
B29K105:08
(21)【出願番号】P 2019063881
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2021-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000219314
【氏名又は名称】東レエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096080
【氏名又は名称】井内 龍二
(74)【代理人】
【識別番号】100194098
【氏名又は名称】高田 一
(72)【発明者】
【氏名】熱田 直行
(72)【発明者】
【氏名】岩出 卓
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 潤
(72)【発明者】
【氏名】竹上 敏史
【審査官】北澤 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-149730(JP,A)
【文献】特開2015-085486(JP,A)
【文献】国際公開第2018/021226(WO,A1)
【文献】特開2017-217895(JP,A)
【文献】特開2006-218720(JP,A)
【文献】特開2016-036863(JP,A)
【文献】国際公開第2020/184237(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/00-70/88
B29B 11/16
B29B 15/08-15/14
C08J 5/04- 5/10
C08J 5/24
B29C 43/00-43/58
B29C 63/00-63/48
B29C 65/00-65/82
B25J 1/00-21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テープを押圧しながら被貼付面に貼り付ける貼付ヘッドを備えたテープ貼付装置であって、
前記貼付ヘッドが、
前記テープを前記被貼付面に押し付ける押圧部と、
該押圧部の押圧状態を調整する押圧調整機構と、
前記押圧部と前記被貼付面とのニップ点に向けて前記テープを搬送する搬送手段を含むテープ搬送部とを備え、
少なくとも前記搬送手段を構成する駆動源が、前記ニップ点を通る前記押圧部の中心線を挟んで前記テープが搬送されてくる側とは反対側に配置され
、
前記押圧調整機構が、前記押圧部の押圧位置及び/又は押圧姿勢を前記被貼付面の形状に倣うように調整するパラレルリンク機構であることを特徴とするテープ貼付装置。
【請求項2】
前記パラレルリンク機構が、ガントリ構造体に取り付けられていることを特徴とする請求項
1記載のテープ貼付装置。
【請求項3】
前記パラレルリンク機構が、多関節ロボットに取り付けられていることを特徴とする請求項
1記載のテープ貼付装置。
【請求項4】
請求項
1~
3のいずれかの項に記載のテープ貼付装置を用いて、前記被貼付面に前記テープを貼り付けるテープ貼付方法であって、
前記押圧部の押圧位置及び/又は押圧姿勢が前記被貼付面の形状に倣うように前記パラレルリンク機構を制御しながら前記テープを前記被貼付面に貼り付けることを特徴とするテープ貼付方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はテープ貼付装置、及びテープ貼付方法に関し、より詳細には、テープを被貼付面に貼り付けることにより、繊維強化プラスチック(FRP)成形品などを製造する際に用いられるテープ貼付装置、該装置を用いたテープ貼付方法に関する。
【背景技術】
【0002】
予め樹脂が含浸された炭素繊維等の繊維束をテープ状に成形したもの(プリプレグテープ、UDテープなどとも呼ぶ)を被貼付面に貼付けてゆくことで、所望の形状をした繊維強化プラスチック(FRP:Fiber Reinforced Plastics)成形品を製造する方法が知られている。
【0003】
これらの製法は、ATL(Auto Tape Layup)、ATW(Auto Tape Welding)、AFP(Auto Fiber Placement)など種々の称呼があるが、これらは厳密に区別されているものでない。本明細書に於いては、テープを押圧しながら被貼付面に貼付けてゆく製法を総称してATLと呼び、その装置(テープ貼付装置)をATL装置と呼ぶこととする。
【0004】
図3は、下記の特許文献1に開示されたATL装置の一例を示す斜視図である。
ATL装置101は、多関節ロボット102、多関節ロボット102のアーム先端に取り付けられたATLヘッド103、ATLヘッド103に予め切断されたテープ1を供給するテープ供給手段104、被貼付面2aを有するワーク2が載置されるワーク台105を含んで構成されている。
【0005】
図4は、ATL装置101に装備されているATLヘッド103を示す側面図である。
ATLヘッド103は、ベース材109に、テープ1を保持搬送するフィーダー106、テープ1及び/又は被貼付面2aを加熱する加熱手段107、及びテープ1を押圧しながら被貼付面2aに貼り付ける押圧手段108が取り付けられて構成されている。押圧手段108は押圧ローラ108aを備えている。
【0006】
ワーク2は、例えば、熱可塑性樹脂の射出成型品であり、様々な形状(3次元形状)を有しており、ワーク2の表面に、例えば、同じ熱可塑性樹脂が含侵されたテープ1が貼り付けられて、ワーク2が補強されるようになっている。
【0007】
[発明が解決しようとする課題]
ATLヘッド103では、テープ1が搬送されてくる側に、フィーダー106、加熱手段107、ベース材109などの多くのヘッド構成機器類が配置されている。そのため、ATLヘッド103の重心位置Gが、押圧ローラ108aと被貼付面2aとのニップ点Bを通る押圧ローラ108aの中心線Aからテープ1が搬送されてくる側に大きく外れている。
【0008】
一方、ATLヘッド103では、ワーク2にテープ1を貼付する際、押圧ローラ108aが被貼付面2aの接線方向に対し直交する方向から押圧するように、多関節ロボット102による首振り動作が行われる構成となっている。
【0009】
このようにATL装置101では、ATLヘッド103の重心位置Gが、ニップ点Bを通る中心線Aからテープ1が搬送されてくる側に大きく外れているため、ATLヘッド103を首振り動作させる際、慣性モーメントにより押圧ローラ108aの押圧姿勢が安定しない虞があった。特に、ATLヘッド103の首振り運動の速度が速くなるほど、押圧ローラ108aの押圧姿勢が不安定になる虞が高くなるという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【課題を解決するための手段及びその効果】
【0011】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであって、3次元形状を有する被貼付面に沿ってテープを貼付する場合であっても、押圧部の押圧状態の安定性を高めることができるテープ貼付装置、及びテープ貼付方法を提供することを目的としている。
【0012】
上記目的を達成するために本発明に係るテープ貼付装置(1)は、
テープを押圧しながら被貼付面に貼り付ける貼付ヘッドを備えたテープ貼付装置であって、
前記貼付ヘッドが、
前記テープを前記被貼付面に押し付ける押圧部と、
該押圧部の押圧状態を調整する押圧調整機構と、
前記押圧部と前記被貼付面とのニップ点に向けて前記テープを搬送する搬送手段を含むテープ搬送部とを備え、
少なくとも前記搬送手段を構成する駆動源が、前記ニップ点を通る前記押圧部の中心線を挟んで前記テープが搬送されてくる側とは反対側に配置されていることを特徴としている。
【0013】
上記テープ貼付装置(1)によれば、少なくとも前記搬送手段を構成する駆動源が、前記ニップ点を通る前記押圧部の中心線を挟んで前記テープが搬送されてくる側とは反対側に配置されているので、前記貼付ヘッドの重量を特に増加させることなく、前記貼付ヘッドの重心位置が前記ニップ点寄りに調整された構成とすることができる。したがって、3次元形状を有する被貼付面に沿って前記押圧部を押圧しながらテープを貼付する場合であっても、前記押圧部の押圧状態(押圧位置、及び/又は押圧姿勢)の安定性を高めることができる。
【0014】
また本発明に係るテープ貼付装置(2)は、上記テープ貼付装置(1)において、前記押圧調整機構が、前記押圧部の押圧位置及び/又は押圧姿勢を前記被貼付面の形状に倣うように調整するパラレルリンク機構であることを特徴としている。
【0015】
上記テープ貼付装置(2)によれば、前記押圧調整機構が前記パラレルリンク機構で構成されている。前記パラレルリンク機構を備えた前記貼付ヘッドの重心位置が前記ニップ点寄りに調整された構成とすることにより、前記パラレルリンク機構で前記押圧部を前記被貼付面に沿って傾斜させる際に生じる慣性負荷を軽減することができ、前記被貼付面の形状に倣うように動作させることができるとともに、前記押圧部の押圧位置及び/又は押圧姿勢の安定性を高めることができる。
【0016】
また本発明に係るテープ貼付装置(3)は、上記テープ貼付装置(2)において、前記パラレルリンク機構が、ガントリ構造体に取り付けられていることを特徴としている。
【0017】
上記テープ貼付装置(3)によれば、前記パラレルリンク機構が、ガントリ構造体に取り付けられているので、前記ガントリ構造体によって、前記貼付ヘッドの直線運動の制御(例えば、XYZ軸方向への運動制御)が安定して行え、この直線運動の安定制御と前記パラレルリンク機構の動作とを組み合わせることによって、前記押圧部の押圧位置及び/又は押圧姿勢を前記被貼付面の形状に倣うように正確に制御する動作を容易に実現することができる。
【0018】
また本発明に係るテープ貼付装置(4)は、上記テープ貼付装置(2)において、前記パラレルリンク機構が、多関節ロボットに取り付けられていることを特徴としている。
【0019】
上記テープ貼付装置(4)によれば、前記パラレルリンク機構が、多関節ロボットに取り付けられているので、前記貼付ヘッドの前記パラレルリンク機構により、前記多関節ロボットの位置決め精度を補完することができ、前記被貼付面に対する前記テープの貼付性能を高めることができる。
【0020】
また本発明に係るテープ貼付方法は、上記テープ貼付装置(2)~(4)のいずれかを用いて、前記被貼付面に前記テープを貼り付けるテープ貼付方法であって、
前記押圧部の押圧位置及び/又は押圧姿勢が前記被貼付面の形状に倣うように前記パラレルリンク機構を制御しながら前記テープを前記被貼付面に貼り付けることを特徴としている。
【0021】
上記テープ貼付方法によれば、前記貼付ヘッドの重心位置が前記ニップ点寄りに調整された前記テープ貼付装置を用いているので、前記貼付ヘッドに装備される前記パラレルリンク機構で前記押圧部を前記被貼付面に沿って傾斜させる際に生じる慣性負荷を軽減することができ、前記押圧部を前記被貼付面の形状に倣うように動作させる際における、前記押圧部の押圧位置及び/又は押圧姿勢の安定性を高めることができ、前記被貼付面に対するテープの貼付性能を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施の形態に係るATL装置におけるATLヘッドの構成例を示す模式図である。
【
図2】実施の形態に係るATL装置のロボット制御部とATLヘッド制御部とが行う貼付処理動作の一例を示すフローチャートである。
【
図3】従来のATL装置の一例を示す斜視図である。
【
図4】従来のATL装置に装備されたATLヘッドを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係るテープ貼付装置、及びテープ貼付方法の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、実施の形態に係るATL装置におけるATLヘッドの構成例を示す模式図である。ATL装置は、本発明に係るテープ貼付装置の一例であり、ATLヘッドは、貼付ヘッドの一例である。
【0024】
ATL装置10は、テープ1をワーク2に貼り付けることにより、テープ1で補強された成型品を製造するための装置であり、テープ1を押圧しながらワーク2の被貼付面2aに貼り付けるためのATLヘッド20を備えている。
【0025】
ATLヘッド20は、ハンドリングロボット90に取り付けられている。ハンドリングロボット90は、汎用産業用ロボット、例えば、ガントリ構造体(直交座標形機構ともいう)で構成してもよいし、多関節ロボット(シリアル多関節機構ともいう)で構成してもよい。ハンドリングロボット90は、ATLヘッド20を少なくともXYZ軸方向に並進運動可能な機構(3自由度)を備えているものが好ましい。ハンドリングロボット90の動作制御は、ロボット制御部90aにより実行される。ロボット制御部90aには、ワーク2の被貼付面2aの3次元座標データ、これら3次元座標データなどに基づいて各部の動作を制御するプログラムなどが記憶され、これらは、ATLヘッド20の位置及び姿勢の制御に利用される。ロボット制御部90aは、汎用のコンピューター装置を用いて構成してもよい。
【0026】
ワーク2は、例えば、3次元形状を有する成型品であり、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂などの樹脂製の成型品であってもよいし、金属製の成型品などであってもよい。
【0027】
テープ1は、例えば、繊維束の少なくとも一部に予め樹脂を含浸させてテープ状にしたものであり、熱可塑性の樹脂が含浸されたもの(UDテープとも呼ばれる)や、熱硬化性の樹脂が含浸されたもの(プリプレグテープとも呼ばれる)などが適用され得る。また、テープ1は、炭素繊維を含むものであってもよいし、樹脂テープに多数の短い繊維が混ぜ込まれたものであってもよい。テープ1は、ワーク2の材質などに応じて、その種類が適宜選択され得る。また、テープ1は、複数のテープが並列に配置された形態のものであってもよい。
【0028】
ATLヘッド20は、ワーク2の被貼付面2aにテープ1を押し付ける押圧部30と、押圧部30の押圧状態を調整するパラレルリンク機構40と、押圧部30と被貼付面2aとのニップ点Bに向けてテープ1を搬送するテープ搬送部70とを備えている。なお、ニップ点Bとは、テープ1が押圧部30の押圧ローラ31と被貼付面2aとで挟持される部分である。また、パラレルリンク機構40が押圧調整機構の一例である。
【0029】
パラレルリンク機構40は、ハンドリングロボット90のATLヘッド取付部91に取り付けられるベース部41と、少なくともテープ搬送部70及び押圧部30が一体的に取り付けられるエンド部42と、ベース部41とエンド部42との間に並列に設けられる複数のリンク部43とを備えている。パラレルリンク機構40の動作は、ATLヘッド制御部44で制御される。ATLヘッド制御部44は、汎用のコンピューターを用いて構成してもよい。
【0030】
押圧部30は、テープ1を押圧する押圧ローラ31と、押圧ローラ31を回転可能に支持するローラ支持部32とを備え、ローラ支持部32はモータ取付部53に固定され、モータ取付部53がパラレルリンク機構40のエンド部42に取り付けられている。なお、ローラ支持部32とモータ取付部53とが一体的に構成されたものであってもよい。
【0031】
押圧ローラ31は、テープ1の特性、又はワーク2の材質などに応じて、樹脂製ローラ、弾性ローラ、又は金属性ローラなどで構成され得る。押圧ローラ31のサイズ(直径、幅)は、使用するテープ1の種類やサイズ、ワーク2の種類や形状に応じて適宜選択され得る。なお、押圧ローラ31に代えて、押圧シュー等の押圧部材を用いた構成としてもよい。
【0032】
テープ搬送部70は、テープ1を搬送するフィーダー50を備えている。フィーダー50が搬送手段の一例である。
フィーダー50は、例えば、1組の搬送ベルト対51と、搬送ベルト対51を回転駆動させる駆動源としてのモータ52とを備えている。本実施の形態では、モータ52とモータ取付部53とが、ニップ点Bを通る押圧部30の中心線Aを挟んでテープ1が搬送されてくる側とは反対側に配置されている。そして、モータ52の回転軸部52aと搬送ベルト対51を構成する搬送軸部51aとが駆動ベルト54で巻回されている。モータ52の回転力が、回転軸部52a、駆動ベルト54、搬送軸部51aを介して、搬送ベルト対51に伝達され、搬送ベルト対51が回転駆動されることで、テープ1が搬送される構成となっている。
【0033】
なお、フィーダー50内に、図示しないヒータを設け、搬送ベルト対51を所定温度に予熱する構成としてもよい。これにより、テープ1がニップ点Bに到達する前に、テープ1を予備加熱することが可能となる。また、フィーダー50内に、搬送ベルト対51に代えて、又は搬送ベルト対51とともにテープガイドを設けてもよい。また、テープ搬送部70に、テープ1に張力を付与するトルクリミッタを設けてもよい。
【0034】
また、フィーダー50は、ボビンからテープ1を巻き出す巻出機構(図示せず)が搭載されたものでもよいし、予め所定の長さに裁断されたテープ1を供給するものでもよい。また、ATLヘッド20とは別に設置された巻出機構(図示せず)からテープ1を巻き出し、搬送経路に沿ってフィーダー50までテープ1を供給する構成としてもよい。
【0035】
フィーダー50は、ローラ支持部32に固定された取付ガイド80に取り付けられている。また、フィーダー50の下方に加熱手段60が配設され、加熱手段60は取付ガイド80に取り付けられている。
【0036】
加熱手段60は、フィーダー50から押圧ローラ31に送り出されるテープ1及び被貼付面2aの少なくともいずれかを加熱する機能を備えている。なお、取付ガイド80の形状や取付位置などは、図示した形態に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。例えば、取付ガイド80は、エンド部42に取り付けられてもよいし、ローラ支持部32とエンド部42に取り付けられてもよい。
【0037】
なお、加熱手段60は任意の要素であり、テープ1などへの加熱処理が不要である場合は、ATLヘッド20に加熱手段60を設けない構成としてもよい。また、取付ガイド80に加熱手段60の着脱部(図示せず)を設けて、加熱手段60を取付ガイド80に着脱可能な構成としてもよい。フィーダー50及び加熱手段60の動作は、ATLヘッド制御部44で制御される。
【0038】
加熱手段60は、テープ1や被貼付面2aを非接触で加熱可能なものが好ましく、例えば、赤外線ランプ、レーザーなどの輻射光源で構成してもよいし、熱風ノズルなどの熱風源で構成してもよいし、又はこれらを組み合わせて構成してもよい。
【0039】
ATLヘッド20では、少なくともフィーダー50を構成するモータ52(駆動源)が、ニップ点Bを通る押圧部30の中心線Aを挟んでテープ1が搬送されてくる側とは反対側に配置されている。
図1に示すように、モータ52全体がニップ点Bを通る押圧部30の中心線Aを挟んでテープ1が搬送されてくる側とは反対側に配置されている構成の他、少なくともモータ52の中心(重心)がニップ点Bを通る押圧部30の中心線Aを挟んでテープ1が搬送されてくる側とは反対側に配置されている構成などが採用され得る。また、本例では、中心線Aが、パラレルリンク機構40の中心軸と重なる構成となっている。
【0040】
係る構成により、ATLヘッド20の重心位置Gがニップ点B寄りに調整されることとなり、3次元形状を有する被貼付面2aに沿って押圧ローラ31の押圧向きをパラレルリンク機構40で変化させながらテープ1を貼付する場合であっても、押圧部30の押圧状態(押圧位置、及び/又は押圧姿勢)の安定性を高めることが可能となっている。なお、重心位置Gは、パラレルリンク機構40より下のテープ搬送部70(フィーダー50及びモータ52を含む)、及び押圧部30を含むヘッド構成部品の重心位置を示している。
【0041】
重心位置Gの調整に影響を与える構成要素には、モータ52の他、例えば、モータ取付部53やテープ1に張力を付与するトルクリミッタなどが挙げられる。これらの構成要素の中で、特にモータ52は、その重量が大きく、重心位置Gに対する影響が大きい。したがって、モータ52が、ニップ点Bを通る押圧部30の中心線Aを挟んでテープ1が搬送されてくる側とは反対側に配置されることによって、重心位置Gをニップ点B寄りに調整する効果を高めることが可能となっている。また、モータ52に加えて、さらにモータ取付部53、又はトルクリミッタなどの構成要素の配置位置などを、重心位置Gがニップ点B寄りに近付くようにするために調整してもよい。
【0042】
次に、ATL装置10がワーク2にテープ1を貼り付ける動作について説明する。
ここでは、ATLヘッド20が取り付けられるハンドリングロボット90がガントリ構造体(直交座標形機構)で構成されているものとして説明する。
【0043】
ハンドリングロボット90の一例であるガントリ構造体は、例えば、被貼付面2aを有するワーク2をX軸方向へ移動させるためのX軸直動機構と、該X軸直動機構の上方にY軸方向に架け渡されたY軸直動機構と、該Y軸直動機構に支持され、Z軸方向に移動可能なATLヘッド取付部91を備えたZ軸直動機構とを備えている。さらに、前記X軸直動機構に、ワーク2をヨー方向(θz方向)に回動可能に支持するXθz軸ステージが搭載された構成となっている。
【0044】
ATL装置10を用いたテープ1の貼付動作に関し、X軸直動機構により、ワーク2のX軸方向並進運動が実現され、Xθz軸ステージによりワーク2のθz方向(ヨー方向)回転運動が実現される。また、Y軸直動機構により、ATLヘッド20のY軸方向並進運動が実現され、Z軸直動機構により、ATLヘッド20のZ軸方向並進運動が実現されるように構成されている。そして、ATLヘッド20のパラレルリンク機構40により、押圧ローラ31の少なくともθy方向(ロール方向)回転運動、及びθx方向(ピッチ方向)回転運動が実現される。θy方向の回転軸は、θx方向の回転軸と直交する軸である。
【0045】
ATLヘッド制御部44は、パラレルリンク機構40の動作制御を行う際に、例えば、目標とするエンド部42の位置及び姿勢(すなわち、ワーク2の3次元座標データに基づく動作軌跡に対し、被貼付面2aの接線方向に対し直交する方向(法線方向)から押圧ローラ31で被貼付面2aを押圧するためのエンド部42の位置及び姿勢)を実現するための各リンク部43の長さ(変位)を計算する。そして、これら計算値を各リンク部43の長さの目標値として記憶しておき、これら記憶された目標値と、貼付動作時における各リンク部43の長さの検出値とを比較して、目標値になるようにフィードバック制御を行う構成としてもよい。目標値には、ワーク2の形状誤差を加味した、各リンク部43の長さを設定してもよい。
【0046】
また、ATLヘッド制御部44は、ワーク2の形状誤差を加味した3次元座標データに基づいて指定された動作軌跡に沿って、法線方向から被貼付面2aを押圧するように押圧ローラ31を移動させるように、各リンク部43の動作制御を行ってもよい。
【0047】
上記したようなATLヘッド制御部44が実行するパラレルリンク機構40の制御によって、押圧ローラ31とテープ1との間に隙間が形成されることなく、押圧ローラ31が、ワーク2の被貼付面2aの接線方向に対して直交する方向(法線方向)(
図1に示すA方向)からテープ1を介して被貼付面2aを押圧する動作が実現されるようになっている。
【0048】
図2は、実施の形態に係るATL装置10におけるロボット制御部90aとATLヘッド制御部44とが行う貼付処理動作の一例を示すフローチャートである。
【0049】
まず、ステップS1では、ロボット制御部90aが、ガントリ構造体のX軸直動機構を動作させて、ワーク2が載置されたXθz軸ステージをX軸方向に移動させて、Y軸直動機構の直下にワーク2を位置させる制御を行い、ステップS2に処理を進める。
【0050】
次に、ステップS2では、ロボット制御部90aが、ガントリ構造体のY軸直動機構及びZ軸直動機構を動作させて、テープ1の貼付開始位置上方にATLヘッド20を移動させる制御を行い、ステップS3に処理を進める。
【0051】
ステップS3では、ATLヘッド制御部44が、パラレルリンク機構40を動作させて、押圧ローラ31を貼付開始位置の被貼付面2aの接線方法に対し直交する方向(法線方向)に向けた状態に配置する制御を行い、ステップS4に処理を進める。
【0052】
次に、ステップS4では、ATLヘッド制御部44が、ATLヘッド20の各部を動作させて、テープ1の貼付制御を開始する処理を行う。すなわち、ATLヘッド制御部44は、フィーダー50を動作させて、テープ1を押圧ローラ31と被貼付面2aとの間に(ニップ点Bに向けて)搬送する。また、ATLヘッド制御部44は、パラレルリンク機構40を動作させて(必要であれば、ロボット制御部90aによりガントリ構造体も動作させてもよい)、押圧ローラ31を被貼付面2aの接線方向に対し直交する方向からテープ1を押圧する制御を開始する。さらに、ATLヘッド制御部44は、加熱手段60による加熱処理を開始し、テープ1及び/又は被貼付面2aの加熱を開始し、その後、ステップS5に処理を進める。
【0053】
ステップS5では、ATLヘッド制御部44が、ATLヘッド20のパラレルリンク機構40による押圧ローラ31の押圧位置及び押圧姿勢の動作制御を行い、また、ロボット制御部90aが、ガントリ構造体の動作(Y軸直動機構、Z軸直動機構、又はXθz軸ステージの回転)の制御を行い、ワーク2上におけるテープ1の貼付経路に沿ってテープ1を被貼付面2aに貼り付けていく制御(倣い貼付制御)を行う。この時、押圧ローラ31の押圧位置及び/又は押圧姿勢がワーク2の被貼付面2aの形状に倣うように制御される。また、ATLヘッド制御部44は、テープ1を搬送するためにフィーダー50の動作も制御するようになっている。
【0054】
次のステップS6では、ATLヘッド制御部44が、ATLヘッド20の押圧ローラ31が、テープ1の貼付終了位置に到達したか否かを判断し、貼付終了位置に到達していないと判断すれば、ステップS5の処理を継続する一方、貼付終了位置に到達したと判断すれば、ステップS7に処理を進める。
【0055】
ステップS7では、ATLヘッド制御部44が、テープ1の貼付終了処理を行う。すなわち、フィーダー50に設けられた切断部でテープ1をカットする制御、加熱手段60による加熱動作の停止制御、及び押圧ローラ31による押圧動作の解除制御を行い、1本(1ライン分)のテープ1の貼付を完了する。
【0056】
次のステップS8では、ワーク2の被貼付面2aへのテープ1の貼付が全て完了したか否かを判断し、全て完了していないと判断すれば、ステップS1に戻り、ワーク2の被貼付面2aにテープ1が順次並べて貼り付けられていく制御が行われる一方、全て完了したと判断すれば、その後処理を終える。
【0057】
なお、上記の動作例では、テープ1がワーク2の被貼付面2aに順次並べて貼り付けられるようにATLヘッド20の動作が制御されるようになっているが、被貼付面2aへのテープ1の貼付形態は、成型品の品質規格などに応じて、隣り合うテープ1の一部を重ねた状態に貼り付けるようにしてもよいし、隣り合うテープ1同士が重ならない状態(所定の隙間を設けた状態)に貼り付けてもよい。
【0058】
上記のようにテープ同士の重なり又はすき間などの貼付状態が成型品の品質上規定される場合がある。例えば、押圧ローラ31が被貼付面2aの法線方向に押圧できずに、押圧ローラ31の貼付け軌道がずれたりした場合、テープ1同士の重なり又はすき間が安定せず、成型品の品質を損なう虞がある。
【0059】
しかしながら、本実施の形態に係るATL装置10によれば、ニップ点B寄りに重心位置調整がなされたATLヘッド20により実現される、被貼付面2aへの倣い貼付制御により、押圧ローラ31を被貼付面2aの法線方向から確実に押圧することが可能となる。そのため、隣り合うテープ1の一部を重ねた状態で貼り付ける場合であっても、また、隣り合うテープ1同士が重ならないように、すなわち、一定の隙間を設けた状態となるように貼り付ける場合であっても、テープ1同士の重なり度合や隙間が一定の安定した貼り付けを行うことができ、テープ1が貼り付けられた成型品の品質を向上させることが可能となる。
【0060】
また、テープ1は、例えば、炭素繊維などの繊維の集合体である為、テープ1の断面形状が崩れると、成型品の品質に悪影響を与える虞がある。例えば、押圧ローラ31を法線方向に押圧できない場合、押圧ローラ31の軸方向の力が発生し、テープ1の押圧ローラ接触面近傍の繊維がずれ、テープ1の断面形状を崩す虞がある。
【0061】
しかしながら、ATL装置10によれば、ニップ点B寄りに重心位置調整がなされたATLヘッド20のパラレルリンク機構40による、被貼付面2aへの倣い貼付制御により、押圧ローラ31を被貼付面2aの法線方向から確実に押圧することが可能となるため、押圧ローラ31によってテープ1の断面形状が崩れる虞がなく、成型品の品質を向上させることが可能となる。なお、押圧ローラ31による押圧方向は、被貼付面2aの法線方向に限定されない。
【0062】
上記のとおり実施の形態に係るATL装置10によれば、少なくともフィーダー50を構成するモータ52が、ニップ点Bを通る押圧部30の中心線Aを挟んでテープ1が搬送されてくる側とは反対側に配置されているので、ATLヘッド20の重量を特に増加させることなく、ATLヘッド20の重心位置Gがニップ点B寄りに調整された構成とすることができる。したがって、3次元形状を有するワーク2の被貼付面2aに沿って押圧ローラ31を押圧しながらテープ1を貼付する場合であっても、押圧ローラ31の押圧状態(押圧位置及び/又は押圧姿勢)の安定性を高めることができる。
【0063】
また、ATL装置10によれば、パラレルリンク機構40を備えたATLヘッド20の重心位置Gがニップ点B寄りに調整された構成とすることにより、パラレルリンク機構40のエンド部42より下の構成を被貼付面2aに沿って傾斜させる際に生じる慣性負荷を軽減することができる。また、被貼付面2aの形状に倣うように押圧ローラ31を動作させることができるとともに、押圧ローラ31の押圧位置及び/又は押圧姿勢の安定性を高めることができる。
【0064】
また、ATL装置10によれば、ATLヘッド制御部44により、複数のリンク部43の各々の長さ制御の応答性を高めることが可能となり、押圧ローラ31の押圧位置及び/又は押圧姿勢を被貼付面2aの形状に倣わせる動作の応答性を高めることができる。
【0065】
また、ATL装置10によれば、パラレルリンク機構40のエンド部42にモータ取付部53及びローラ支持部32を介して押圧ローラ31が取り付けられ、また、ローラ支持部32に取付ガイド80を介してフィーダー50と加熱手段60とが取り付けられている。したがって、ATLヘッド20の重心位置Gがニップ点B寄りに調整された構成、かつ押圧ローラ31、フィーダー50、及び加熱手段60を一体化させた状態で、被貼付面2aの形状に倣うように移動させることができ、押圧ローラ31による押圧動作とともに、フィーダー50によるテープ1の搬送動作、加熱手段60によるテープ1及び/又は被貼付面2aの加熱動作を一定の状態で行うことができる。
【0066】
また、パラレルリンク機構40のベース部41が、ハンドリングロボット90としてガントリ構造体に取り付けられている場合、ガントリ構造体によって、ATLヘッド20のXYZ軸方向への運動制御が安定して行える。そして、これら直線運動の安定制御とパラレルリンク機構40の制御とを組み合わせることによって、ATLヘッド20の押圧ローラ31の押圧位置及び/又は押圧姿勢を被貼付面2aの形状に倣うように正確に制御する動作を容易に実現することができる。また、ガントリ構造体と組み合わせることにより、ATLヘッド20のワークスペースを広げることができる。
【0067】
また、ATLヘッド20がガントリ構造体に取り付けられた場合は、多関節ロボットに取り付けられた場合と比較して、次の利点、すなわち、ATLヘッド20の剛性を高めることができ、ATLヘッド20による押圧力を高めることができ、さらに、ATL装置10のフットプリント(換言すると、装置全体の動作範囲を含めた占有体積)を小さくすることができるという利点が得られる。
【0068】
以上、本発明の実施の形態を詳細に説明したが、上記説明はあらゆる点において本発明の例示に過ぎない。本発明の範囲を逸脱することなく、種々の改良、変更、又は構成の組み合わせが可能であることは言うまでもない。
【0069】
例えば、ATLヘッド20を多関節ロボットのアーム先端部に取り付けてもよい。多関節ロボットでは、各関節部(ジョイント部)の運動誤差が蓄積しやすいが、パラレルリンク機構40は、各ジョイント部の運動誤差が蓄積しにくいため、多関節ロボットの位置決め精度を補完することができ、被貼付面2aに対するテープ1の貼付性能を高めることができる。また、多関節ロボットと組み合わせることにより、ATLヘッド20のワークスペースを広げることができる。
【0070】
また、上記実施の形態では、パラレルリンク機構40のリンク部43として直動式(伸縮形)のアクチュエータが用いられている場合について説明したが、リンク部43に回転形のアクチュエータを用いたパラレルリンク機構で構成することも可能である。また、上記実施の形態では、押圧調整機構としてパラレルリンク機構40が適用された場合について説明したが、押圧調整機構はこれに限定されるものではなく、他の機構が採用されてもよい。
【符号の説明】
【0071】
1 テープ
2 ワーク
2a 被貼付面
10 ATL装置(テープ貼付装置)
20 ATLヘッド(貼付ヘッド)
30 押圧部
31 押圧ローラ
32 ローラ支持部
40 パラレルリンク機構(押圧調整機構)
41 ベース部
42 エンド部
43 リンク部
44 ATLヘッド制御部
50 フィーダー(搬送手段)
51 搬送ベルト対
51a 搬送軸部
52 モータ
52a 回転軸部
53 モータ取付部
54 駆動ベルト
60 加熱手段
70 テープ搬送部
80 取付ガイド
90 ハンドリングロボット
90a ロボット制御部
91 ATLヘッド取付部
101 ATL装置
102 多関節ロボット
103 ATLヘッド
104 テープ供給手段
105 ワーク台
106 フィーダー
107 加熱手段
108 押圧手段
108a 押圧ローラ
109 ベース材