(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-21
(45)【発行日】2022-10-31
(54)【発明の名称】石英ガラスルツボ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 20/00 20060101AFI20221024BHJP
C30B 29/06 20060101ALI20221024BHJP
C30B 15/00 20060101ALI20221024BHJP
【FI】
C03B20/00 H
C30B29/06 502B
C30B15/00 Z
(21)【出願番号】P 2019198233
(22)【出願日】2019-10-31
【審査請求日】2021-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】507182807
【氏名又は名称】クアーズテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】山川 敬士
【審査官】山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-249484(JP,A)
【文献】特開平10-025186(JP,A)
【文献】特開2017-149603(JP,A)
【文献】特開2018-043902(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 20/00
C30B 1/00 - 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外層に石英ガラスからなる不透明層を有する石英ガラスルツボであって、
第一の曲率を有する底部と、前記底部の周縁部に形成され、第二の曲率を有するコーナー部と、前記コーナー部から上端開口まで延びる直胴部とを有し、
前記不透明層における気泡密度が、
1個/mm
3
以上200個/mm
3
以下の範囲内であって、かつ、気泡密度が前記上端開口側よりも前記底部中央側が高くなるよう勾配を有して変化し、
加熱された際、前記上端開口側よりも前記底部側がより肉厚化することを特徴とする石英ガラスルツボ。
【請求項2】
加熱された際、加熱前の厚さに比べて、前記底部が5%以上7%以下、前記コーナー部が3%以上5%以下、膨張することを特徴とする請求項1に記載の石英ガラスルツボ。
【請求項3】
外層に石英ガラスからなる不透明層を有する石英ガラスルツボであって、
第一の曲率を有する底部と、前記底部の周りに形成され、第二の曲率を有するコーナー部と、前記コーナー部から上端開口まで延びる直胴部とを有し、
前記不透明層における気泡密度が、90個/mm
3
以上120個/mm
3
以下の範囲であって、かつ、気泡密度が前記コーナー部の直胴部側よりも前記底部中央側が高くなるよう勾配を有して変化し、
加熱された際、前記コーナー部よりも前記底部側がより肉厚化することを特徴とする石英ガラスルツボ。
【請求項4】
外層に石英ガラスからなる不透明層を有する石英ガラスルツボであって、
第一の曲率を有する底部と、前記底部の周縁部に形成され、第二の曲率を有するコーナー部と、前記コーナー部から上端開口まで延びる直胴部とを有し、
前記不透明層における気泡密度が、75個/mm
3
以上90個/mm
3
以下の範囲であって、かつ気泡密度が前記上端開口側よりも前記直胴部のコーナー部側が高くなるよう勾配を有して変化し、
更に、前記不透明層における気泡密度が、90個/mm
3
以上120個/mm
3
以下の範囲であって、かつ、気泡密度が前記コーナー部の直胴部側よりも前記底部中央側が高くなるよう勾配を有して変化し、
加熱された際、前記コーナー部よりも前記底部側がより肉厚化し、前記直胴部よりもコーナー部がより肉厚化することを特徴とする石英ガラスルツボ。
【請求項5】
第一の曲率を有する底部と、前記底部の周縁部に形成され、第二の曲率を有するコーナー部と、前記コーナー部から上部開口まで延びる直胴部とを有するルツボ金型からなり前記上部開口側から前記コーナー部側、及び前記コーナー部側から底部側に向けて形成された貫通孔の数に差異が設けられた内側部材と、前記内側部材の外周に配され、通気部を介して前記内側部材を保持する保持体と、から構成されるルツボ成形用型を用い、外層に石英ガラスからなる不透明層を有するルツボを製造する石英ガラスルツボの製造方法であって、
前記通気部を減圧し、前記ルツボ成形型の内側部材に形成された貫通孔を介して前記内側部材の内面側を吸引するステップと、
前記ルツボ成形用型の内側部材を軸周りに回転させるとともに、前記内側部材の上端開口側よりもコーナー部側のガラス原料粉末の粒径が大きく、前記コーナー部側よりも底部側のガラス原料粉末の粒径が大きくなるようにガラス原料粉末を供給するステップと、
軸周りに回転する前記内側部材の内面に、吸引力及び遠心力により前記ガラス原料粉末を押圧し、少なくとも1層からなる原料粉末積層体を形成するステップと、
前記原料粉末積層体の内側を加熱溶融し、内表面をガラス化するステップと、
前記原料粉末積層体の内側を加熱溶融するとともに、前記通気部を減圧し、前記複数の貫通孔を介して前記原料粉末積層体から吸気するステップと、
前記原料粉末積層体の全体をガラス化してルツボ形状体とするステップと、
を含むことを特徴とする石英ガラスルツボの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石英ガラスルツボ及びその製造方法に関し、石英ガラスルツボと、これを保持するカーボンサセプタとの密着性を向上するとともに、石英とカーボンとの接触により生じる反応ガスを効率的に排気することのできる石英ガラスルツボ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン単結晶の育成に関し、チョクラルスキー法(CZ法)が広く用いられている。この方法は、石英ガラスルツボ内に形成されたシリコン融液の表面に種結晶を接触させ、ルツボを回転させるとともに、この種結晶を反対方向に回転させながら上方へ引き上げることによって、種結晶の下端に単結晶を形成していくものである。
【0003】
前記シリコン単結晶の引き上げに用いる石英ガラスルツボ50は、
図8に示すように、一般的には、その内層51が透明石英ガラスからなり(透明層)、外層52が多数の気泡を含むことにより不透明な石英ガラス(不透明層)からなる2層構造となっている。ルツボ形状としては、大R状に形成された底部61と、底部の周縁に形成された小R状のコーナー部62と、コーナー部62から口元63まで立ち上がった直胴部64とを有するものである。
【0004】
ところで、炉内において前記石英ガラスルツボ50は、
図9に示すような例えばカーボン製のサセプタ70(カーボンサセプタと呼ぶ)によって保持される。前記石英ガラスルツボ50は、前記カーボンサセプタ70内に略密着した状態に保持される。前記カーボンサセプタ70に保持された石英ガラスルツボ50の周囲には、ヒータ(図示せず)が配置されて、このヒータにより加熱されるが、石英ガラスルツボ50が高温になると、該ルツボ50が軟化し、カーボンサセプタ70内面に対し、より密着することになる。
【0005】
前記カーボンサセプタ70と石英ガラスルツボ50とが接触すると、石英ガラスルツボ50の石英とカーボンサセプタ70のカーボンとが反応することによりガス(反応ガスと呼ぶ)が発生する。
図10に示すように、この反応ガスGは、通常、石英ガラスルツボ50とカーボンサセプタ70との間を上昇し、それらの口元側(上端開口側)から排出される。
【0006】
しかしながら、
図10に示すようにルツボ50とサセプタ70との間に比較的大きめのクリアランスSが存在する場合には、前記反応ガスGが排出されずにガス溜まりPとして残る虞があった。前記クリアランスSは、サセプタ70と石英ガラスルツボ50の寸法際、或いは繰り返し使用することによるサセプタ70内壁の消耗変形により生じ、この大きなクリアランスSが存在すると、熱伝導が不均一となることから、単結晶引き上げ時のシリコン融液温度、及び融液対流に変化を与え、引き上げのパフォーマンスがばらつくという課題があった。
【0007】
また、特にルツボ底部61からコーナー部62の領域にかけては、石英ガラスルツボ50及びシリコン融液Mの荷重を受けるため、前記領域に形成されたクリアランスS以外の領域は隙間なく密着しやすい。そのため、
図11に示すように、前記領域に形成されたクリアランスSにガス溜まりPが生じた場合は、ガス溜まりPが排出されることなく閉じ込められることが考えられる。
そのような部位にガス溜まりが生じると、図示するように単結晶引上工程において反応ガスGが膨張し、当該部位のルツボ壁面が内面側へ押し上げられ変形するという課題があった。また、ガス溜まりにより生じた空間は、冷却プロセスにおいて冷めやすいため、温度差からクラックKが生じやすく、シリコン融液Mが漏出する虞があった。
【0008】
従来は、上記課題を解決するための方法の一つとして、例えば特許文献1(特開2017-132690号公報)に記載されているようにガラスルツボの外表面にカーボンシート材料を設置し、カーボンサセプタとの間の隙間を埋めることがなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、石英ガラスルツボの製造プロセスにおいて、ガラス原料粉末を型の内側に積層した原料粉末積層体を回転させながらガラス溶融する際、重量と遠心力が最も大きくなるコーナー部において、溶融ガラスの粘性流動によりR形状にばらつきが生じる。
そのようにコーナー部のR形状にばらつきが生じると、カーボンサセプタ側のコーナー部R形状との差に伴い、ガス溜まりが生じるような大きなクリアランスが多数形成されやすくなる為、全てのクリアランスを前記カーボンシートにより埋めることが困難であった。
【0011】
また、繰り返し使用されるカーボンサセプタは、石英ガラスルツボとの化学反応により、サセプタ内面が消耗して歪み、石英ガラスルツボとカーボンサセプタとの間に多数のクリアランスが形成され易くなる。
しかしながら、これらのクリアランスを埋めるために前記カーボンシートを設けても、引上プロセスの度に前記クリアランスの大きさが一定ではないため、石英ガラスルツボとカーボンサセプタとの密着性(フィット性)が一律な環境を実現することが困難であるという課題があった。
【0012】
本発明は、前記したような事情の下になされたものであり、シリコン単結晶の引き上げに用いる石英ガラスルツボにおいて、カーボンサセプタに保持された石英ガラスルツボと、前記カーボンサセプタとの密着性を向上するとともに、石英とカーボンとにより生じる反応ガスを効率的に排気することのできる石英ガラスルツボ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するためになされた本発明に係る石英ガラスルツボは、外層に石英ガラスからなる不透明層を有する石英ガラスルツボであって、第一の曲率を有する底部と、前記底部の周縁部に形成され、第二の曲率を有するコーナー部と、前記コーナー部から上端開口まで延びる直胴部とを有し、前記不透明層における気泡密度が、1個/mm
3
以上200個/mm
3
以下の範囲内であって、かつ、気泡密度が前記上端開口側よりも前記底部中央側が高くなるよう勾配を有して変化し、加熱された際、前記上端開口側よりも前記底部側がより肉厚化することを特徴とする。
ここで、加熱された際、加熱前の厚さに比べて、前記底部が5%以上7%以下、前記コーナー部が3%以上5%以下、膨張することが望ましい。
【0014】
或いは、前記課題を解決するためになされた本発明に係る石英ガラスルツボは、外層に石英ガラスからなる不透明層を有する石英ガラスルツボであって、第一の曲率を有する底部と、前記底部の周りに形成され、第二の曲率を有するコーナー部と、前記コーナー部から上端開口まで延びる直胴部とを有し、前記不透明層における気泡密度が、90個/mm
3
以上120個/mm
3
以下の範囲であって、かつ、気泡密度が前記コーナー部の直胴部側よりも前記底部中央側が高くなるよう勾配を有して変化し、加熱された際、前記コーナー部よりも前記底部側がより肉厚化することを特徴とする。
【0015】
或いは、前記課題を解決するためになされた本発明に係る石英ガラスルツボは、外層に石英ガラスからなる不透明層を有する石英ガラスルツボであって、第一の曲率を有する底部と、前記底部の周縁部に形成され、第二の曲率を有するコーナー部と、前記コーナー部から上端開口まで延びる直胴部とを有し、前記不透明層における気泡密度が、75個/mm
3
以上90個/mm
3
以下の範囲であって、かつ気泡密度が前記上端開口側よりも前記直胴部のコーナー部側が高くなるよう勾配を有して変化し、更に、前記不透明層における気泡密度が、90個/mm
3
以上120個/mm
3
以下の範囲であって、かつ、気泡密度が前記コーナー部の直胴部側よりも前記底部中央側が高くなるよう勾配を有して変化し、加熱された際、前記コーナー部よりも前記底部側がより肉厚化し、前記直胴部よりもコーナー部がより肉厚化することを特徴とする。
【0016】
このような構成の石英ガラスルツボによれば、単結晶引上プロセスにおいて、石英ガラスルツボが加熱されると、不透明外層内の気泡が膨張し、口元側よりも底部側がより肉厚化する。また、直胴部から口元部にかけては、気泡密度が小さいために膨張(厚肉化)が小さく、カーボンサセプタとの間から反応ガスが通り抜けやすくなる。
その結果、底部側において、石英ガラスルツボとカーボンサセプタとの間に形成されていたガス溜まりを有するクリアランスは、石英ガラスルツボとカーボンサセプタの密着により無くなり、前記クリアランスに溜まっていた反応ガスをルツボ口元側から排気することができる。
【0017】
また、課題を解決するためになされた本発明に係る石英ガラスルツボの製造方法は、 第一の曲率を有する底部と、前記底部の周縁部に形成され、第二の曲率を有するコーナー部と、前記コーナー部から上部開口まで延びる直胴部とを有するルツボ金型からなり前記上部開口側から前記コーナー部側、及び前記コーナー部側から底部側に向けて形成された貫通孔の数に差異が設けられた内側部材と、前記内側部材の外周に配され、通気部を介して前記内側部材を保持する保持体と、から構成されるルツボ成形用型を用い、外層に石英ガラスからなる不透明層を有するルツボを製造する石英ガラスルツボの製造方法であって、
前記通気部を減圧し、前記ルツボ成形型の内側部材に形成された貫通孔を介して前記内側部材の内面側を吸引するステップと、前記ルツボ成形用型の内側部材を軸周りに回転させるとともに、前記内側部材の上端開口側よりもコーナー部側のガラス原料粉末の粒径が大きく、前記コーナー部側よりも底部側のガラス原料粉末の粒径が大きくなるようにガラス原料粉末を供給するステップと、軸周りに回転する前記内側部材の内面に、吸引力及び遠心力により前記ガラス原料粉末を押圧し、少なくとも1層からなる原料粉末積層体を形成するステップと、前記原料粉末積層体の内側を加熱溶融し、内表面をガラス化するステップと、前記原料粉末積層体の内側を加熱溶融するとともに、前記通気部を減圧し、前記複数の貫通孔を介して前記原料粉末積層体から吸気するステップと、前記原料粉末積層体の全体をガラス化してルツボ形状体とするステップと、を含むことを特徴とする。
【0019】
このような方法により製造された石英ガラスルツボによれば、単結晶引上プロセスにおいて、石英ガラスルツボが加熱されると、不透明外層内の気泡が膨張し、口元側よりも底部側がより肉厚化する。また、直胴部から口元部にかけては、気泡密度が小さいために膨張(厚肉化)が小さく、カーボンサセプタとの間から反応ガスが通り抜けやすくなる。
その結果、底部側において、石英ガラスルツボとカーボンサセプタとの間に形成されていたガス溜まりを有するクリアランスは、石英ガラスルツボとカーボンサセプタの密着により無くなり、前記クリアランスに溜まっていた反応ガスをルツボ口元側から排気することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、シリコン単結晶の引き上げに用いる石英ガラスルツボにおいて、カーボンサセプタに保持された石英ガラスルツボと、前記カーボンサセプタとの密着性を向上するとともに、石英とカーボンとにより生じる反応ガスを効率的に排気する石英ガラスルツボ及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明に係る石英ガラスルツボの断面図である。
【
図2】
図2は、
図1の石英ガラスルツボをカーボンサセプタに保持した状態を一部拡大して示す断面図である。
【
図3】
図3は、本発明に係る石英ガラスルツボの製造方法に適用することのできる石英ガラスルツボ製造装置の断面図である。
【
図4】
図4は、
図3の石英ガラスルツボ製造装置の一部変形例を模式的に示す断面図である。
【
図5】
図5(a)、(b)は、実施例の結果を示すルツボ底部の断面画像である。
【
図6】
図6(a)、(b)は、実施例の結果を示すルツボコーナー部の断面画像である。
【
図7】
図7(a)、(b)は、実施例の結果を示すルツボ直胴部の断面画像である。
【
図8】
図8は、一般的な2層構造の石英ガラスルツボの断面図である。
【
図9】
図9は、
図8の石英ガラスルツボをカーボンサセプタの保持した状態を示す断面図である。
【
図10】
図10は、石英ガラスルツボとカーボンサセプタとの反応により生じたガスを排気する経路を示す断面図である。
【
図11】
図11は、石英ガラスルツボとカーボンサセプタとの間にガス溜まりが生じた際の不具合を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る石英ガラスルツボ及びその製造方法の実施形態について図面に基づき説明する。
図1は、本発明に係る石英ガラスルツボの断面図であり、
図2は、
図1の石英ガラスルツボをカーボンサセプタに保持した状態を一部拡大して示す断面図である。
【0023】
石英ガラスルツボ1は、例えば口径100~950mmに形成され、所定の曲率を有する底部13と、前記底部13の周りに形成され、所定の曲率を有するコーナー部12と、前記コーナー部12から上方に延びる直胴部11とを有する。前記直胴部11の上端には、ルツボ開口(上端開口、或いは口元部1aと呼ぶ)が形成されている。
本実施形態において石英ガラスルツボ1は、
図1に示すように、不透明外層2(不透明層)と透明内層3(透明層)との2層構造である。
【0024】
このうち、不透明外層2は天然原料石英ガラスからなり、透明内層3はシリコン単結晶引上げ時に溶融シリコンと接する高純度の合成原料石英ガラス、又は不透明層2と同等以上の純度水準を有する天然原料石英ガラス、或いは同合成原料石英ガラスと同天然原料石英ガラスの複層からなる。
ここで不透明とは、石英ガラス中に多数の気泡(気孔)が内在し、見かけ上、白濁した状態を意味する。また、天然原料石英ガラスとは水晶等の天然質原料を溶融して製造されるシリカガラスを意味し、合成原料石英ガラスとは、例えばシリコンアルコキシドの加水分解により合成された合成原料を溶融して製造されるシリカガラスを意味する。
【0025】
図2に示すように天然原料石英ガラスからなる不透明外層2は、加熱前において、直胴部11における厚さ寸法t1が1~40mmとなされ、コーナー部12における厚さ寸法t2は1~40mmとなされ、底部13における厚さ寸法t3は1~40mmとなされる。不透明外層2の厚さ寸法が、底部>コーナー部>直胴部の関係に構成されると、より高い効果が得られる。
また、合成原料石英ガラス(または天然原料石英ガラス)からなる透明内層3は、直胴部11における厚さ寸法t4が0.5~30mmとなされ、コーナー部12における厚さ寸法t5は0.5~30mmとなされ、底部13における厚さ寸法t6は0.5~30mmとなされる。
【0026】
ここで、不透明外層2内に形成される気泡の密度は、底部13からルツボ口元部1aまで、高密度(最大200個/mm3)から低密度(最小1個/mm3)まで徐々に変化する勾配を有するように形成されている。
【0027】
より具体的には、底部13においては、その中心から拡径方向に例えば120~105個/mm3で徐々に減少し、コーナー部12においては、底部13側から直胴部11側に向かって例えば105~90個/mm3まで徐々に減少し、直胴部11においては、その下端から口元部1aに向かって例えば90~75個/mm3まで徐々に減少するように形成されている。
【0028】
このように構成された石英ガラスルツボ1は、シリコン単結晶引上げプロセスで加熱されると、気泡を含む不透明外層2が気泡の膨張によって厚肉化する。
ここで、上記のように不透明外層2は、底部13から口元部1aまで気泡密度に勾配を有するため、ルツボが加熱された際の厚肉化の度合いに差異が生じることになる。
即ち、気泡密度が高いルツボ底部13にあっては、多数の気泡の膨張によって大きく厚肉化し、カーボンサセプタ4との密着性が高くなる。一方、気泡密度が低い直胴部11側にあっては、膨張する気泡が少ないため、加熱によっても大きく厚肉化しない。
具体的には、ルツボ底部13の不透明層2の加熱前の厚さt3が加熱後に例えば5~7%膨張し、コーナー部12の不透明層2の加熱前の厚さt2が加熱後に例えば3~5%膨張するように形成されている。
【0029】
そして、このように構成された石英ガラスルツボ1によれば、前記底部13が肉厚化されてカーボンサセプタ4に対し密着する際、カーボンサセプタ4との間に形成された大きなクリアランスがなくなり、そこに溜まっていた反応ガスが直胴部11側へ押し出される。押し出された反応ガスは、石英ガラスルツボ1とカーボンサセプタ4との間を通り、口元部1a側から排気される。
即ち、石英ガラスルツボ1とカーボンサセプタ4との密着性を向上することができるとともに、ガス溜まりが生じるようなクリアランスを無くし、反応ガスをルツボ口元側から排気することができる。
【0030】
続いて、本発明に係る石英ガラスルツボの製造方法について説明する。
本発明に係る石英ガラスルツボの製造方法は、例えば、
図3に示すような石英ガラスルツボ製造装置20を用いて行われる。石英ガラスルツボ製造装置20のルツボ成形用型21は、例えば複数の貫通孔(図示せず)を穿設した金型で構成されている内側部材22と、その外周に通気部23を設けて、内側部材22を保持する保持体24とから構成されている。
【0031】
前記内側部材22に形成される貫通孔の数は、ルツボ底部に対応する側がコーナー部に対応する側より少なく、かつコーナー部に対応する側が直胴部側に対応する側より少なく形成されている。尚、ルツボ底部中央に対する領域からコーナー部に対応する領域にかけて貫通孔の数が徐々に多くなり、コーナー部から直胴部の口元部(上端開口)にかけて貫通孔の数が徐々に多くなるよう形成することが望ましい。
【0032】
また、貫通孔は、各部において少なくとも円周上に4ヵ所以上設けることが望ましい。各貫通孔の高さ位置は気泡密度勾配の設計に合わせて任意に設定することができ、少なくとも、気泡密度勾配の始点側及び終点側の各1ヵ所の高さに在ればよい。
また、前記貫通孔は、コーナー部に対応する領域と直胴部に対応する領域のみに設定しても良い。大口径ルツボの場合は、コーナー部に対応する領域の2か所以上の高さ、直胴部に対応する領域の2か所以上の高さに設ける等、より細かく設定してもよい。
【0033】
また、
図3では、1つの排気口26(通気部)からの減圧を例示しているが、
図4に模式的に示すように各高さの貫通孔ごとに独立した排気口(通気部)(例えば符号26A、26B、26C)を設けて減圧してもよい(同一高さの円周上の貫通孔は同一の通気部につながり減圧されることが好ましい)。
図示するように各高さの貫通孔ごとに独立した通気部26A、26B、26Cを設けた場合は、減圧機構28につながる圧力制御バルブ30の開度を調節することにより、各部の圧力が底部>コーナー部>直胴部の関係となるように減圧してもよい。
【0034】
このため、通気部23が減圧状態になると、内側部材22の内周面側は、前記貫通孔から吸引されるが、前記のように貫通孔の数に差異が設けられているため、直胴部側(口元側)ほど吸引力が強く、底部側ほど吸引力が弱くなる構成となされている。
【0035】
また、保持体24の下部には、図示しない回転手段と連結されている回転軸25が固着されていて、ルツボ成形用型21を回転可能にして支持している。通気部23は、保持体25の下部に設けられた開口部27を介して、回転軸25の中央に設けられた排気口26と連結されており、この通気部23は、減圧機構28と連結されている。
前記内側部材22に対向する上部にはアーク放電用のアーク電極29と、原料供給ノズル31と、窒素ガスあるいはヘリウムガス、アルゴンガスを噴射し、ルツボの所定部位に前記ガスを吹付けるノズル32とが設けられている。
【0036】
この石英ガラスルツボ製造装置10を用いてルツボの製造を行うには、回転駆動源(図示せず)を稼働させて回転軸25を矢印の方向に回転させることにより、ルツボ成形用型21を所定の速度で回転させる。
そして、大気雰囲気で、減圧機構28の作動による通気部23の減圧を行い、ルツボ成形用型21の内側部材22に形成された多数の貫通孔を介して内側部材22内面側を吸引しつつ、内側部材22内に原料供給ノズル31から石英ガラス原料粉末を供給する。
【0037】
この原料供給ノズル31は、回転されたルツボ成形用型21内に石英ガラス原料粉末を装填する際には、初めに例えば粗粒の天然石英ガラス原料粉末を装填し、その後、その内表面に例えば微粒の合成シリカ原料粉末を装填するように構成されている。尚、原料供給ノズルを二つ設けて、夫々別々に原料粉末を供給してもよい。
【0038】
このルツボ成形用型21内に供給された天然石英ガラス原料粉末は、内側部材22内面側への吸引力、及び遠心力によってルツボ成形用型21の内側部材22に押圧され、一つの層(天然石英ガラス原料粉末層5)が形成される。
そして、この天然石英ガラス原料粉末に続いて合成シリカ原料粉末がルツボ成形用型21内に供給される。この合成シリカ原料粉末は、吸引力及び遠心力によって天然石英ガラス原料粉末層5に押圧され、一つの層(合成シリカ原料粉末層6)が形成され、全体としてルツボ形状の2層の原料粉末積層体7が形成される。
【0039】
前記原料粉末積層体7を形成した後、減圧機構28の作動による減圧を継続し、所定時間経過後にカーボン電極29に通電して原料粉末積層体の内側から加熱し、原料粉末積層体7を内側から溶融し、表層をガラス化する(合成シリカガラス層とする)。
【0040】
更に減圧機構28の作動による減圧を継続し、内側部材22に形成された複数の貫通孔を介して原料粉末積層体7から所定時間、吸引する。
ここで上記したように内側部材22の口元側から底部側にかけて前記貫通孔の数に差異が設けられているため、口元側ほど吸引力が強く、底部側ほど吸引力が弱くなる。それにより原料粉末積層体7の口元側の気体含有量が少なく、底部に向かって気体含有量が多くなる。
【0041】
更にカーボン電極29に通電して原料粉末積層体7の内側から加熱溶融し、ガラス化したルツボ形状体8を形成する。ここで、上記のように加熱溶融前の原料粉末積層体7は、その口元側の気体含有量が少なく、底部に向かって気体含有量が多くなっていたため、加熱溶融後のルツボ形状体は、口元側の気泡密度が小さく、底部に向かって気泡密度が大きい状態となる。
【0042】
また、このとき、高温に成り易い部位、例えば原料粉末積層体7の底部に窒素ガスあるいはヘリウムガスを噴射し、該部位における合成シリカガラス層の高温化を抑止し、ベーパライズによるアルミ及び金属系元素の濃縮を抑制してもよい。
そして、冷却後、前記ルツボ形状体8の上端部を切断することによって、
図1に示した石英ガラスルツボ1が得られる。
【0043】
以上のように、本実施の形態によれば、不透明外層2において、口元1a側から底部13側に向かって気泡密度が徐々に高くなる勾配を持つよう形成した。それにより単結晶引上プロセスにおいて、石英ガラスルツボ1が加熱されると、不透明外層2内の気泡が膨張し、口元1a側よりも底部13側がより肉厚化する。また、直胴部11から口元部1aにかけては、気泡密度が小さいために膨張(厚肉化)が小さく、カーボンサセプタ4との間から反応ガスが通り抜けやすくなる。
その結果、底部側において、石英ガラスルツボ1とカーボンサセプタ4との間に形成されていたガス溜まりを有するクリアランスは、石英ガラスルツボ1とカーボンサセプタ4の密着により無くなり、前記クリアランスに溜まっていた反応ガスをルツボ口元側から排気することができる。
【0044】
尚、前記石英ガラスルツボに係る実施の形態によれば、ルツボ口元1a(上端開口)側からルツボ底部13側に向かって不透明外層2における気泡密度が徐々に高くなる勾配を有するものとしたが、本発明にあっては、その形態に限定されるものではない。
例えば、不透明外層2において、直胴部11における気泡密度は低い状態とし、コーナー部12から底部13中央側に向かって気泡密度が高くなる勾配を有するように形成してもよい。
【0045】
また、前記実施の形態にあっては、石英ガラスルツボ1を2層構造として説明したが、本発明にあっては、その形態に限定されるものではなく、不透明外層を有する1層であっても、或いは最外層が不透明層の3層以上であっても、本発明に係る石英ガラスルツボを適用することができる。
【0046】
また、前記石英ガラスルツボの製造方法に係る実施の形態にあっては、内側部材22の口元側から底部側にかけて形成する貫通孔の数に差異を設けるようにしたが、本発明にあっては、その形態に限定されるものではない。
例えば、前記貫通孔を内側部材22の口元側のみに設けて、原料粉末積層体7の口元側の気体含有量を大きく、底部側の気体含有量を小さくするようにしてもよい。
また、より好ましくは、不透明外層2を形成するための天然石英ガラス原料粉末は、底部側は大きい粒径の原料粉末を用い、口元側は小さい粒径の原料粉末を用いるようにすれば、より容易に気体含有量の差異をつけることができる。
【実施例】
【0047】
本発明に係る石英ガラスルツボ及びその製造方法について、実施例に基づきさらに説明する。
[実施例1]
実施例1では、
図3に示した石英ガラスルツボ製造装置を用い、上記実施の形態に示した製造方法により石英ガラスルツボの製造を行なった。
製造した石英ガラスルツボの口径は、800mmである。
製造した石英ガラスルツボを切断し、マイクロスコープを用いて不透明外層の底部、コーナー部、直胴部における気泡密度を測定した。
その結果、底部は、130個/mm
3、コーナー部は106個/mm
3、直胴部は83個/mm
3であり、底部から口元部(上端開口)にかけて気泡密度が徐々に小さくなる勾配を有することを確認した。
【0048】
[比較例1]
比較例1では、従来の通り、石英ガラスルツボ製造装置における内側部材に形成する貫通孔を全体に均等に形成した。その他の条件は実施例1と同じである。
製造した石英ガラスルツボを切断し、マイクロスコープを用いて気泡密度を測定した結果、底部は、94個/mm3、コーナー部は102個/mm3、直胴部は99個/mm3であり、底部から口元部にかけて気泡密度は略同じとなった。
【0049】
[実施例2]
実施例2では、実施例1と同じ条件で製造した石英ガラスルツボをカーボンサセプタに保持し、カーボンサセプタを回転させながら炉内において1600℃、0.1Torrで5時間の熱処理を行なった。
この熱処理の前後におけるルツボ底部の厚さの変化率は6.8%、コーナー部の厚さの変化率は5.5%、直胴部の厚さの変化率は4.3%であった。
また、熱処理後にガス溜まりがあるかを石英ガラスルツボ回収片の内外面外観観察及び凹凸変形有無、カーボンシートの局所消耗有無により確認した。
【0050】
[比較例2]
比較例2では、比較例1と同じ条件で製造した石英ガラスルツボを実施例2と同様のカーボンサセプタに保持し、実施例2と同条件で熱処理を行なった。
この熱処理の前後におけるルツボ底部の厚さの変化率は4.9%、コーナー部の厚さの変化率は5.3%、直胴部の厚さの変化率は5.2%であった。
また、熱処理後にガス溜まりがあるかを石英ガラスルツボ回収片の内外面の外観観察及び凹凸変形の有無、カーボンシートの局所消耗の有無により確認した。
【0051】
実施例2の結果、ルツボ底部からコーナー部にかけての厚さが熱処理により大きく増加し、また、熱処理後のガス溜まりがないことを確認した。
尚、
図5(a)に実施例2におけるルツボ使用前(加熱前)のルツボ底部の断面画像を示し、
図5(b)にルツボ使用後(加熱後)のルツボ底部の断面画像を示す。
また、
図6(a)にルツボ使用前(加熱前)のルツボコーナー部の断面画像を示し、
図6(b)にルツボ使用後(加熱後)のルツボコーナー部の断面画像を示す。
また、
図7(a)にルツボ使用前(加熱前)のルツボ直胴部の断面画像を示し、
図7(b)にルツボ使用後(加熱後)のルツボ直胴部の断面画像を示す。
これらの画像に示されるようにルツボ使用後は気泡が膨張し、断面層が白濁しており、特にルツボ底部ほど気泡密度が大きいため、ルツボ口元側よりも白濁していることを確認することができた。また、ルツボ口元側よりも気泡密度の高い底部側が厚肉化されていることを確認した。
【0052】
一方、比較例2では、ルツボ底部、コーナー部、直胴部の厚さの変化はいずれも少なく、また、熱処理後のガス溜まりが発生するケースを確認することができた。
【0053】
以上の実施例の結果より、本発明に係る石英ガラスルツボ及びその製造方法によれば、石英ガラスルツボとカーボンサセプタとの密着性を向上し、ルツボとサセプタとの間のクリアランスに生じた反応ガスを溜めることなく排気することができると確認した。
【符号の説明】
【0054】
1 石英ガラスルツボ
2 不透明外層(不透明層)
3 透明内層
4 カーボンサセプタ
11 直胴部
12 コーナー部
13 底部
20 石英ガラスルツボ製造装置
22 内側部材