IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 第一三共株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-視細胞変性を伴う網膜変性疾患用薬 図1
  • 特許-視細胞変性を伴う網膜変性疾患用薬 図2
  • 特許-視細胞変性を伴う網膜変性疾患用薬 図3
  • 特許-視細胞変性を伴う網膜変性疾患用薬 図4
  • 特許-視細胞変性を伴う網膜変性疾患用薬 図5
  • 特許-視細胞変性を伴う網膜変性疾患用薬 図6
  • 特許-視細胞変性を伴う網膜変性疾患用薬 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-21
(45)【発行日】2022-10-31
(54)【発明の名称】視細胞変性を伴う網膜変性疾患用薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/192 20060101AFI20221024BHJP
   A61K 31/235 20060101ALI20221024BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20221024BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221024BHJP
【FI】
A61K31/192
A61K31/235
A61P27/02
A61P43/00 111
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019527710
(86)(22)【出願日】2018-07-03
(86)【国際出願番号】 JP2018025122
(87)【国際公開番号】W WO2019009265
(87)【国際公開日】2019-01-10
【審査請求日】2021-07-01
(31)【優先権主張番号】P 2017131087
(32)【優先日】2017-07-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】307010166
【氏名又は名称】第一三共株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100146581
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 公樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113583
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 範子
(74)【代理人】
【識別番号】100161160
【弁理士】
【氏名又は名称】竹元 利泰
(74)【代理人】
【識別番号】100119622
【弁理士】
【氏名又は名称】金原 玲子
(72)【発明者】
【氏名】辻 直城
(72)【発明者】
【氏名】上野 真澄
【審査官】春田 由香
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-513161(JP,A)
【文献】特表2007-528851(JP,A)
【文献】特表2014-517077(JP,A)
【文献】国際公開第2007/037188(WO,A1)
【文献】TANG, S. et al.,[Experimental studies of effects of retinoic acid on the proliferation of retinal cells](Article in Chinese),[Zhonghua yan ke za zhi] Chinese Journal of Ophthalmology,2002年02月,Vol.38, No.2,p.112-114,ISSN 0412-4081
【文献】秋元 正行,網脈絡膜変性疾患の治療へ向けて:再生治療,あたらしい眼科,2006年,第23巻, 第9号,p.1153-1160,ISSN 0910-1810
【文献】KELLEY, M.W. et al.,Retinoic acid promotes differentiation of photoreceptors in vitro,Development,1994年,Vol.120, No.8,p.2091-2102,ISSN 0950-1991
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00-45/08
A61K 31/00-31/80
A61K 35/00-35/768
A61L 27/00-27/60
C12N 5/00- 5/28
C12N 15/00-15/90
G01N 33/00-33/98
A01K 67/027
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
医中誌WEB
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物、又はその塩を含有することを特徴とする網膜色素変性症の治療剤及び/又は予防剤であって、レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物がタミバロテン、タミバロテンメチルエステル又はタミバロテンエチルエステルである網膜色素変性症の治療剤及び/又は予防剤
【請求項2】
レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物がタミバロテンである請求項1に記載の網膜色素変性症の治療剤及び/又は予防剤。
【請求項3】
眼へ局所投与される請求項1又は2に記載の治療剤及び/又は予防剤。
【請求項4】
レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物又はその塩を含有することを特徴とする桿体再生の誘導により症状が改善する疾患の治療剤及び/又は予防剤であって、レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物がタミバロテン、タミバロテンメチルエステル又はタミバロテンエチルエステルであり、桿体再生の誘導により症状が改善する疾患が、網膜色素変性症、委縮型加齢黄斑変性症、スタルガルト病、錐体杆体ジストロフィー、ベスト病、X連鎖性若年網膜分離症、オカルト黄斑ジストロフィー及び中心性輪紋状網脈絡膜ジストロフィーからなる群より選択されるいずれか一つである治療剤及び/又は予防剤
【請求項5】
桿体再生の誘導により症状が改善する疾患が、網膜色素変性症又は委縮型加齢黄斑変性症である請求項に記載の治療剤及び/又は予防剤。
【請求項6】
レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物がタミバロテンである請求項4又は5に記載の治療剤及び/又は予防剤。
【請求項7】
眼へ局所投与される請求項からのいずれか1項に記載の治療剤及び/又は予防剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、網膜色素変性症の治療薬及び/又は予防薬に関し、さらには、網膜色素変性症を含む視細胞変性を伴う網膜変性疾患用薬として有用なレチノイン酸受容体作動薬に関する。
【背景技術】
【0002】
網膜色素変性症は、視細胞のうちの桿体の変性、脱落から始まる進行性の網膜変性疾患であり、視細胞の退行変性によって、進行性夜盲、視野狭窄、羞明が認められ、視力の低下を引き起こし、中途失明に至ることのある網膜変性疾患である。網膜色素変性症は遺伝性疾患として知られており、網膜色素変性症を引き起こす遺伝子変異は現在までに3000個以上同定されている(非特許文献1)。この中で割合の高いロドプシンの遺伝子変異だけでもヒトで120ヶ所以上で確認されており、その分類によって、桿体脱落に至る11のメカニズムが提唱されている(非特許文献2)。この様な状況から創薬の標的分子を絞り込むことは非常に困難で、網膜色素変性症の治療薬開発が困難である要因と考えられており、遺伝子を直接のターゲットとはしない治療法の開発が望まれている(非特許文献3)。
【0003】
現在、網膜色素変性症の治療薬として確立されたものはないが、数多くの動物実験、ヒトの臨床試験から、網膜色素変性症の治療の可能性として以下のような考え方が確立されている(非特許文献1)。すなわち;
a) 桿体の小さな生存率の改善であっても錐体保護に繋がる
b) 機能不全の桿体であっても錐体の生存をサポートできる
c) 黄斑部のわずかな錐体だけでも残すことができれば、例えば自力歩行が十分出来る程度の、最低限の視力を保つことができる
等である。
【0004】
この様な考え方に基づき、桿体もしくは錐体の保護を目的として、CNTFなどの栄養因子、バルプロ酸、ビタミンA、ドコサヘキサエン酸(DHA)等について臨床試験が実施されているが、今のところ明確な薬効は報告されておらず、FDAから承認を受けた化合物はない。
【0005】
一方、現在、非臨床段階、臨床段階で活発に検討されているのは、幹細胞もしくは桿体へ分化誘導した細胞の移植による再生医療である。しかしながら、免疫拒絶、移植細胞の低い生存率、定着率、バイオセイフティー等、解決が必要な問題が多い(非特許文献4)。
【0006】
最近、移植による再生医療の問題を解決できる可能性として、薬剤による内在性の幹細胞の動員の可能性が考えられている。内在性の幹細胞による網膜の再生についてはこれまでに、ゼブラフィッシュを用いた網膜再生に関する研究において、傷害を受けた網膜が再生されることが確認されている。これに基づいて、この数年、哺乳類の成体における網膜の再生の可能性について数多くの研究がなされている。これらの研究から、傷害を受けた網膜において幹細胞の性質を持つミューラー細胞が増殖して傷害部位に遊走することが示されているが、内在性の幹細胞から十分な数、機能を有する桿体を誘導する方法は全く確立されておらず、大きな課題となっている(非特許文献5)。
【0007】
視細胞変性を伴う網膜変性疾患としては網膜色素変性症以外に、加齢黄斑変性症、黄斑ジストロフィーが挙げられる。これらの疾患についても、桿体を含む視細胞の変性が疾患の本態であるため、桿体の供給により治療及び/又は予防が期待できる。したがって、内在性の桿体の増加を誘導する方法を確立することは、これらの疾患の治療法の提供という点でも極めて意義は大きい。
【0008】
加齢黄斑変性症は、視細胞変性を伴う網膜変性疾患の一つである。本疾患では、加齢により網膜の中央に位置する黄斑という組織に障害を生じることで、視覚障害が進行し、やがて失明にいたる。本疾患は、萎縮型、滲出型の二種類に分類される。萎縮型は黄斑組織の萎縮により網膜が障害され視力低下等が徐々に進行する。一方、滲出型は、網膜の外側に存在する脈絡膜から異常な血管(脈絡膜新生血管)が発生することにより、網膜が障害される。現在、萎縮型については有効な治療法はない。滲出型については血管新生阻害剤を用いた薬物療法、外科的手法は存在しているが、視力の正常な回復には至らず、有効な治療法の開発が望まれている。
【0009】
滲出型の加齢黄斑変性症の治療に用いられる血管新生阻害剤としては、抗体医薬品(特許文献1)や核酸医薬品(特許文献2)がある。また、レチノイン酸受容体(以下、「RAR」と表記することもある)アゴニスト作用化合物においてもマウスの脈絡膜血管新生を阻害する作用が報告されている(非特許文献6)。しかし、いずれにおいても桿体の増加を誘導する効果については記載がない。
【0010】
黄斑ジストロフィーは、視細胞変性を伴う網膜変性疾患の一群である。本疾患群では、遺伝的な原因により黄斑に障害を生じることで大幅な視力低下・視野異常等が進行する。スタルガルト病、錐体杆体ジストロフィー、ベスト病、X連鎖性若年網膜分離症、オカルト黄斑ジストロフィー、中心性輪紋状網脈絡膜ジストロフィーなどに分類される。現在、有効な治療法はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公開WO1998/045331パンフレット
【文献】国際公開WO1998/018480パンフレット
【非特許文献】
【0012】
【文献】Pharmacological approaches to retinitis pigmentosa: A laboratory perspective.,Prog Retin Eye Res., 2015; 48: 62-81.
【文献】"Mechanisms of cell death in rhodopsin retinitis pigmentosa: implications for therapy.", TRENDS in Molecular Medicine., 2005; 11: 177-185.
【文献】Farrar GJ, Kenna PF, Humphries P., "On the genetics of retinitis pigmentosa and on mutation-independent approaches to therapeutic intervention.", EMBO J., 2002; 21(5): 857-864.
【文献】He Y, Zhang Y, Liu X et al., "Recent advances of stem cell therapy for retinitis pigmentosa.", Int. J. Mol. Sci., 2014; 15(8): 14456-14474.
【文献】Yu H, Vu TH, Cho K., "Mobilizing endogenous stem cells for retinal repair.", Transl. Res., 2014; 163(4): 387-398.
【文献】Kami J, Takahashi H et al., “Retinoic acid receptor agonist Am90 inhibits experimental choroidal neovasucularization.”, Invest. Ophthalmol. Vis. Sci., 2004; 45: 1856. (ARVO Annual Meeting Abstract, May 2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、網膜色素変性症に対する治療及び/又は予防のために、遺伝子治療や再生医療の手法を用いるのではなく、医薬の従来から行われている投与経路によって投薬して簡便に網膜色素変性症を治療及び/又は予防するための低分子化合物を取得することである。さらには、視細胞変性を伴う網膜変性疾患の簡便な治療及び/又は予防をも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、網膜色素変性症の治療及び/又は予防は、桿体の再生を誘導して桿体を増加させることによって達成でき、かつ、この様な桿体再生の誘導が低分子化合物によって達成できれば、通常形態の薬剤と同様の投与が可能となるので、網膜色素変性症を簡便に治療及び/又は予防できると考えた。しかしながら多数の化合物をスクリーニングできる桿体再生誘導の評価系は存在していなかった。そこで本発明者は鋭意研究した結果、桿体に特異的な傷害を与え、その後の再生を発光によって評価できる組換えゼブラフィッシュ体を作製することに成功した。そして、当該モデルを用いて桿体の再生誘導作用を有する低分子化合物の探索を実施し、桿体再生を評価するin vivoスクリーニングの結果、レチノイン酸受容体アゴニスト作用化合物が桿体再生誘導に寄与することを見い出した。さらに、このRARアゴニスト作用化合物は、網膜色素変性症病態モデルにおいても桿体の再生を誘導することが確認された。
【0015】
すなわち、RARアゴニスト作用化合物を投与することによって桿体再生を誘導でき、網膜色素変性症の治療及び/又は予防にRARアゴニスト作用化合物が有効であることを見い出して本発明を完成させた。
【0016】
また、本発明のRARアゴニスト作用を有する化合物は、桿体再生を誘導する作用を有するため、後述するように、桿体再生の誘導により症状が改善する疾患(例えば、網膜色素変性症、加齢黄斑変性症、黄斑ジストロフィー(スタルガルト病、錐体杆体ジストロフィー、ベスト病、X連鎖性若年網膜分離症、オカルト黄斑ジストロフィー、中心性輪紋状網脈絡膜ジストロフィー)等の視細胞変性を伴う網膜変性疾患)の治療及び/又は予防に有効である。
【0017】
すなわち本発明は、以下のものに関する。
[1] レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物、又はその塩を含有することを特徴とする網膜色素変性症の治療剤及び/又は予防剤。
[2] レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物が、レチノイド化合物又はレチノイド様作用化合物である[1]に記載の網膜色素変性症の治療剤及び/又は予防剤。
[3] レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物が、タミバロテン、タミバロテンメチルエステル、タミバロテンエチルエステル、タザロテン、タザロテン酸、アダパレン、パロバロテン、レチノール、イソトレチノイン、アリトレチノイン、エトレチナート、アシトレチン、又はベキサロテンである[1]に記載の網膜色素変性症の治療剤及び/又は予防剤。
[4] レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物がタミバロテン、タミバロテンメチルエステル又はタミバロテンエチルエステルである[1]に記載の網膜色素変性症の治療剤及び/又は予防剤。
[5] レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物がタミバロテンである[1]に記載の網膜色素変性症の治療剤及び/又は予防剤。
[6] 眼へ局所投与される[1]から[5]のいずれか1つに記載の治療剤及び/又は予防剤。
【0018】
[7] レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物又はその塩及び薬学上許容される製剤成分とを含有することを特徴とする網膜色素変性症の治療及び/又は予防に用いるための組成物。
[8] レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物が、レチノイド化合物又はレチノイド様作用化合物である[7]に記載の組成物。
[9] レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物が、タミバロテン、タミバロテンメチルエステル、タミバロテンエチルエステル、タザロテン、タザロテン酸、アダパレン、パロバロテン、レチノール、イソトレチノイン、アリトレチノイン、エトレチナート、アシトレチン、又はベキサロテンである[7]に記載の組成物。
[10] レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物が、タミバロテン、タミバロテンメチルエステル又はタミバロテンエチルエステルである[7]に記載の組成物。
【0019】
[11] 網膜色素変性症の治療及び/又は予防に用いるためのレチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物又はその塩。
[12] レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物が、レチノイド化合物又はレチノイド様作用化合物である[11]に記載の化合物又はその塩。
[13] レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物がタミバロテン、タミバロテンメチルエステル、タミバロテンエチルエステル、タザロテン、タザロテン酸、アダパレン、パロバロテン、レチノール、イソトレチノイン、アリトレチノイン、エトレチナート、アシトレチン、又はベキサロテンである[11]に記載の化合物又はその塩。
[14] レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物が、タミバロテン、タミバロテンメチルエステル又はタミバロテンエチルエステルである[11]に記載の化合物又はその塩。
【0020】
[15] 網膜色素変性症の治療及び/又は予防のための医薬を製造するためのレチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物又はその塩の使用。
[16] レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物が、レチノイド化合物又はレチノイド様作用化合物である[15]に記載の使用。
[17] レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物が、タミバロテン、タミバロテンメチルエステル、タミバロテンエチルエステル、タザロテン、タザロテン酸、アダパレン、パロバロテン、レチノール、イソトレチノイン、アリトレチノイン、エトレチナート、アシトレチン、又はベキサロテンである[15]に記載の使用。
[18]レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物が、タミバロテン、タミバロテンメチルエステル又はタミバロテンエチルエステルである[15]に記載の使用。
【0021】
[19] レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物又はその塩を投与することを特徴とする網膜色素変性症の治療方法及び/又は予防方法。
[20] レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物が、レチノイド化合物又はレチノイド様作用化合物である[19]に記載の網膜色素変性症の治療方法及び/又は予防方法。
[21] レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物が、タミバロテン、タミバロテンメチルエステル、タミバロテンエチルエステル、タザロテン、タザロテン酸、アダパレン、パロバロテン、レチノール、イソトレチノイン、アリトレチノイン、エトレチナート、アシトレチン、又はベキサロテンである[19]に記載の網膜色素変性症の治療方法及び/又は予防方法。
[22] レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物が、タミバロテン、タミバロテンメチルエステル又はタミバロテンエチルエステルである[19]に記載の網膜色素変性症の治療方法及び/又は予防方法。
【0022】
[23] レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物又はその塩を含有することを特徴とする桿体再生誘導剤。
[24] レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物が、レチノイド化合物又はレチノイド様作用化合物である[23]に記載の桿体再生誘導剤。
[25] レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物が、タミバロテン、タミバロテンメチルエステル、タミバロテンエチルエステル、タザロテン、タザロテン酸、アダパレン、パロバロテン、レチノール、イソトレチノイン、アリトレチノイン、エトレチナート、アシトレチン、又はベキサロテンである[23]に記載の桿体再生誘導剤。
[26] レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物が、タミバロテン、タミバロテンメチルエステル又はタミバロテンエチルエステルである[23]に記載の桿体再生誘導剤。
[27] レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物がタミバロテンである[23]に記載の桿体再生誘導剤。
[28] 眼へ局所投与される[23]から[27]のいずれか1つに記載の桿体再生誘導剤。
【0023】
[29] レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物又はその塩及び薬学上許容される製剤成分とを含有することを特徴とする桿体再生の誘導に用いるための組成物。
[30] レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物が、レチノイド化合物又はレチノイド様作用化合物である[29]に記載の組成物。
[31] レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物が、タミバロテン、タミバロテンメチルエステル、タミバロテンエチルエステル、タザロテン、タザロテン酸、アダパレン、パロバロテン、レチノール、イソトレチノイン、アリトレチノイン、エトレチナート、アシトレチン、又はベキサロテンである[29]に記載の組成物。
[32] レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物が、タミバロテン、タミバロテンメチルエステル又はタミバロテンエチルエステルである[29]に記載の組成物。
【0024】
[33] 桿体再生の誘導に用いるためのレチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物又はその塩。
[34] レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物が、レチノイド化合物又はレチノイド様作用化合物である[33]に記載の化合物又はその塩。
[35] レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物が、タミバロテン、タミバロテンメチルエステル、タミバロテンエチルエステル、タザロテン、タザロテン酸、アダパレン、パロバロテン、レチノール、イソトレチノイン、アリトレチノイン、エトレチナート、アシトレチン、又はベキサロテンである[33]に記載の化合物又はその塩。
[36] レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物が、タミバロテン、タミバロテンメチルエステル又はタミバロテンエチルエステルである[33]に記載の化合物又はその塩。
【0025】
[37] 桿体再生の誘導のための医薬を製造するためのレチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物又はその塩の使用。
[38] レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物が、レチノイド化合物又はレチノイド様作用化合物である[37]に記載の使用。
[39] レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物が、タミバロテン、タミバロテンメチルエステル、タミバロテンエチルエステル、タザロテン、タザロテン酸、アダパレン、パロバロテン、レチノール、イソトレチノイン、アリトレチノイン、エトレチナート、アシトレチン、又はベキサロテンである[37]に記載の使用。
[40] レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物が、タミバロテン、タミバロテンメチルエステル又はタミバロテンエチルエステルである[37]に記載の使用。
【0026】
[41] レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物又はその塩を投与することを特徴とする桿体再生の誘導方法。
[42] レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物が、レチノイド化合物又はレチノイド様作用化合物である[41]に記載の誘導方法。
[43] レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物が、タミバロテン、タミバロテンメチルエステル、タミバロテンエチルエステル、タザロテン、タザロテン酸、アダパレン、パロバロテン、レチノール、イソトレチノイン、アリトレチノイン、エトレチナート、アシトレチン、又はベキサロテンである[41]に記載の誘導方法。
[44] レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物が、タミバロテン、タミバロテンメチルエステル又はタミバロテンエチルエステルである[41]に記載の誘導方法。
【0027】
[45] レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物又はその塩を含有することを特徴とする桿体再生の誘導により症状が改善する疾患の治療剤及び/又は予防剤。
[46] 桿体再生の誘導により症状が改善する疾患が、網膜色素変性症、加齢黄斑変性症、スタルガルト病、錐体杆体ジストロフィー、ベスト病、X連鎖性若年網膜分離症、オカルト黄斑ジストロフィー及び中心性輪紋状網脈絡膜ジストロフィーからなる群より選択されるいずれか一つである[45]に記載の治療剤及び/又は予防剤。
[47] 桿体再生の誘導により症状が改善する疾患が、網膜色素変性症又は加齢黄斑変性症である[45]に記載の治療剤及び/又は予防剤。
[48] レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物が、レチノイド化合物又はレチノイド様作用化合物である[45]から[47]のいずれか1つに記載の治療剤及び/又は予防剤。
[49] レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物が、タミバロテン、タミバロテンメチルエステル、タミバロテンエチルエステル、タザロテン、タザロテン酸、アダパレン、パロバロテン、レチノール、イソトレチノイン、アリトレチノイン、エトレチナート、アシトレチン、又はベキサロテンである[45]から[47]のいずれか1つに記載の治療剤及び/又は予防剤。
[50] レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物が、タミバロテン、タミバロテンメチルエステル又はタミバロテンエチルエステルである[45]から[47]のいずれか1つに記載の治療剤及び/又は予防剤。
[51] レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物がタミバロテンである[45]から[47]のいずれか1つに記載の治療剤及び/又は予防剤。
[52] 眼へ局所投与される[45]から[51]のいずれか1つに記載の治療剤及び/又は予防剤。
【0028】
[53] 桿体再生の誘導により症状が改善する疾患の治療及び/又は予防に用いるためのレチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物又はその塩。
[54] 桿体再生の誘導により症状が改善する疾患が、網膜色素変性症、加齢黄斑変性症、スタルガルト病、錐体杆体ジストロフィー、ベスト病、X連鎖性若年網膜分離症、オカルト黄斑ジストロフィー及び中心性輪紋状網脈絡膜ジストロフィーからなる群より選択されるいずれか一つである[53]に記載の化合物又はその塩。
[55] 桿体再生の誘導により症状が改善する疾患が、網膜色素変性症又は加齢黄斑変性症である[53]に記載の化合物又はその塩。
【0029】
[56] 桿体再生の誘導により症状が改善する疾患の治療剤及び/又は予防剤の製造のためのレチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物又はその塩の使用。
[57] 桿体再生の誘導により症状が改善する疾患が、網膜色素変性症、加齢黄斑変性症、スタルガルト病、錐体杆体ジストロフィー、ベスト病、X連鎖性若年網膜分離症、オカルト黄斑ジストロフィー及び中心性輪紋状網脈絡膜ジストロフィーからなる群より選択されるいずれか一つである[56]に記載の使用。
[58] 桿体再生の誘導により症状が改善する疾患が、網膜色素変性症又は加齢黄斑変性症である[56]に記載の使用。
【0030】
[59] レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物又はその塩を投与することを特徴とする桿体再生の誘導により症状が改善する疾患の治療方法及び/又は予防方法。
[60] 桿体再生の誘導により症状が改善する疾患が、網膜色素変性症、加齢黄斑変性症、スタルガルト病、錐体杆体ジストロフィー、ベスト病、X連鎖性若年網膜分離症、オカルト黄斑ジストロフィー及び中心性輪紋状網脈絡膜ジストロフィーからなる群より選択されるいずれか一つである[59]に記載の治療方法及び/又は予防方法。
[61] 桿体再生の誘導により症状が改善する疾患が、網膜色素変性症又は加齢黄斑変性症である[59]に記載の治療方法及び/又は予防方法。
【0031】
[62] レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物又はその塩を培養幹細胞に添加することを特徴とする網膜組織の製造方法。
[63] レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物又はその塩を培養幹細胞に添加することを特徴とする再生医療用の網膜組織の製造方法。
[64] 組み換えゼブラフィッシュTg(rho:NTR-NanoLuc, myl7:DsRed2)。
[65] 組み換えゼブラフィッシュTg(rho:NTR-NanoLuc, myl7:DsRed2)を用いる網膜色素変性症の治療剤及び/又は予防剤のスクリーニング方法。
[66] 組み換えゼブラフィッシュTg(rho:NTR-NanoLuc, myl7:DsRed2)を用いる桿体再生の誘導剤のスクリーニング方法。
[67] プラスミドpcDNA3.1-rho-ntr-nanoluc-myl7-dsred2等である。
【0032】
また、本発明の別の態様は以下の通りである。
(1a) レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物、又はその塩を含有することを特徴とする網膜色素変性症の治療剤及び/又は予防剤。
(2a) レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物が、レチノイド化合物又はレチノイド様作用化合物である(1a)に記載の網膜色素変性症の治療剤及び/又は予防剤。
(3a) レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物が、タミバロテン、タミバロテンメチルエステル、タザロテン、タザロテン酸、アダパレン、パロバロテン、レチノール、イソトレチノイン、アリトレチノイン、エトレチナート、アシトレチン、又はベキサロテンである(1a)に記載の網膜色素変性症の治療剤及び/又は予防剤。
(4a) レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物がタミバロテン又はタミバロテンメチルエステルである(1a)に記載の網膜色素変性症の治療剤及び/又は予防剤。
【0033】
(5a) レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物又はその塩及び薬学上許容される製剤成分とを含有することを特徴とする網膜色素変性症の治療及び/又は予防に用いるための組成物。
(6a) 網膜色素変性症の治療及び/又は予防に用いるためのレチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物又はその塩。
(7a) 網膜色素変性症の治療及び/又は予防のための医薬を製造するためのレチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物又はその塩の使用。
(8a) レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物又はその塩を投与することを特徴とする網膜色素変性症の治療方法及び/又は予防方法。
【0034】
(9a) レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物又はその塩を含有することを特徴とする桿体再生誘導剤。
(10a) レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物又はその塩及び薬学上許容される製剤成分とを含有することを特徴とする桿体再生の誘導に用いるための組成物。
(11a) 桿体再生の誘導に用いるためのレチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物又はその塩。
(12a) 桿体再生の誘導のための医薬を製造するためのレチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物又はその塩の使用。
(13a) レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物又はその塩を投与することを特徴とする桿体再生の誘導方法。
【0035】
(14a) レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物又はその塩を含有することを特徴とする桿体再生の誘導により症状が改善する疾患の治療剤及び/又は予防剤。
(15a) 桿体再生の誘導により症状が改善する疾患の治療及び/又は予防に用いるためのレチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物又はその塩。
(16a) 桿体再生の誘導により症状が改善する疾患の治療剤及び/又は予防剤の製造のためのレチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物又はその塩の使用。
(17a) レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物又はその塩を投与することを特徴とする桿体再生の誘導により症状が改善する疾患の治療方法及び/又は予防方法。
【0036】
(18a) レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物又はその塩を培養幹細胞に添加することを特徴とする網膜組織の製造方法。
(19a) レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物又はその塩を培養幹細胞に添加することを特徴とする再生医療用の網膜組織の製造方法。
(20a) 組み換えゼブラフィッシュTg(rho:NTR-NanoLuc, myl7:DsRed2)。
(21a) 組み換えゼブラフィッシュTg(rho:NTR-NanoLuc, myl7:DsRed2)を用いる網膜色素変性症の治療剤及び/又は予防剤のスクリーニング方法。
(22a) 組み換えゼブラフィッシュTg(rho:NTR-NanoLuc, myl7:DsRed2)を用いる桿体再生の誘導剤のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物の投与によって桿体再生を誘導して桿体を増加させることができ、網膜色素変性症を簡便に治療及び/又は予防することができる。
【0038】
さらには、本発明のレチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物を投与することにより、桿体再生の誘導によって症状が改善する疾患をも治療及び/又は予防することができる。
【0039】
また、本発明の組み換えゼブラフィッシュ及びそれを用いた桿体再生の誘導剤のスクリーニング方法によって、網膜色素変性症の治療又は予防剤を簡便にスクリーニングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】実施例2で作製された組み換えゼブラフィッシュTg(rho:NTR-NanoLuc, myl7:DsRed2)の眼球において、桿体が存在する外顆粒層で特異的なntr-nanolucの発現がin situハイブリダイゼーションによって確認できることを示す図である。ASはアンチセンスRNAプローブによるntr-nanoluc遺伝子の発現を示した図であり、白矢印が陽性シグナルを示す。SはセンスRNAプローブによるバックグランドを示した図である。
図2】実施例2で作製された組み換えゼブラフィッシュTg(rho:NTR-NanoLuc, myl7:DsRed2)は、10mMメトロニダゾール(MTZ)で24時間処理することによって桿体が傷害され、桿体が13.5%にまで死滅したことを示す図である。縦軸は発光量を示す。*は、Studentのt検定におけるp<0.001を示す。
図3】実施例2で作製された組み換えゼブラフィッシュTg(rho:NTR-NanoLuc, myl7:DsRed2)における桿体の傷害後、飼育水によって洗浄して毒性ラジカルを除去すると、48時間で桿体の緩やかな再生が確認されたことを示す図である。縦軸は発光量、横軸はラジカル除去後の時間を示す。
図4】実施例3のTTNPBの桿体再生に関する再現性試験及び濃度依存性試験の結果を示す。縦軸は、発光量の増加より算出したActivationを示し、桿体再生誘導作用の指標となる。*は、Dunnettの多重比較検定におけるp<0.05を示し、**は、Dunnettの多重比較検定におけるp<0.01を示す。
図5】実施例4のRARアゴニストである化合物(RA)及びRARアンタゴニストである化合物(BMS493)の桿体再生の誘導に関する効果の検証結果を示す。縦軸は、発光量の増加より算出したActivationを示し、桿体再生誘導作用の指標となる。***は、Dunnettの多重比較検定におけるp<0.001を示す。
図6】実施例7の網膜色素変性症モデルにおける桿体再生効果の状況を示す。桿体で特異的にEGFPを発現するゼブラフィッシュTg(rho:EGFP)を掛け合わせた野生型ゼブラフィッシュの状況が(A)であり(コントロール)、ゼブラフィッシュTg(rho:EGFP)と網膜色素変性症モデルゼブラフィッシュを掛け合わせた(B)(薬物未処理)では、(A)に比べて桿体の脱落が認められるが、TTNPBを投与した同モデル(C)では薬物未処理の(B)に比べて桿体の数の回復が確認できる。
図7】実施例8の網膜色素変性症モデルにおけるTTNPB及びタミバロテンの投与による桿体再生誘導作用が濃度依存的であることを示す図である。縦軸は発光量を示す。**は、Dunnettの多重比較検定におけるp<0.01を示し、***は、Dunnettの多重比較検定におけるp<0.001を示す。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明を実施するための好適な形態について以下に説明する。
本発明は、化合物によって桿体の再生を誘導して桿体を増加させることに基づく、網膜色素変性症を含む桿体再生の誘導により症状が改善する疾患(以下、「網膜色素変性症等」という)に対する治療及び/又は予防に関するものである。すなわち、レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物を投与することによって桿体の再生が誘導されて桿体を増加させることができ、一旦は変性・脱落等した桿体を再生させることによって網膜色素変性症等を治療及び/又は予防するものである。
【0042】
まず、本発明者らは、桿体の再生誘導を評価できるモデルを構築した。即ち、プラスミドpcDNA3.1-rho-ntr-nanoluc- myl7-dsred2をI-SceI meganucleaseを用いた遺伝子導入方法によって導入して組換えゼブラフィッシュTg(rho:NTR-NanoLuc, myl7:DsRed2)を作製した(実施例1及び2)。このゼブラフィッシュTg(rho:NTR-NanoLuc, myl7:DsRed2)においては、心筋細胞特異的なmyl7プロモーターによって心臓組織特異的に蛍光タンパクであるDsRed2が発現しており、dsRed2をマーカーとして蛍光実体顕微鏡下で容易に組換えゼブラフィッシュであることが確認できる。本組換えゼブラフィッシュにおいては、心臓組織特異的なDsRed2の発現に加えて、桿体特異的なrhoプロモーターによって、桿体細胞特異的に、還元酵素であるnitroreductase(NTR)と発光タンパクであるNanoLucの融合タンパク(NTR-NanoLuc)が発現している。桿体でのみ発現するNTR-NanoLucは、通常飼育条件下では一般状態に影響を与えないが、プロドラッグであるメトロニダゾールを添加した場合、毒性を示さないメトロニダゾールがNTRによって毒性ラジカルに変換される。このメカニズムにより、本組換えゼブラフィッシュをメトロニダゾールに曝露させることで一般状態に影響を与えずに桿体を特異的に傷害することができる。メトロニダゾール処理による桿体障害後、本組み換えゼブラフィッシュを飼育水で洗浄することで毒性ラジカルを除去することができ、その後、ゼブラフィッシュでは徐々に桿体再生が起こる。また、本組換えゼブラフィッシュは桿体特異的なNanoLuc発現に由来する発光を測定することで、桿体の量を定量的に測定することができる。本組換えゼブラフィッシュを用いて桿体障害後に、被験化合物を曝露させることによって被験化合物の桿体再生誘導の活性をNanoLuc由来の桿体特異的な発光を測定することで定量的に評価することができる。
【0043】
ゼブラフィッシュの稚魚は96穴プレート等で飼育可能である。この組換えゼブラフィッシュTg(rho:NTR-NanoLuc, myl7:DsRed2)を用いることで、桿体再生誘導作用を有する化合物を96穴プレートベースでスループット高く定量的にスクリーニングできる方法を確立した。本評価系は組織の再生をin vivoで定量的にスループット高く評価できる初めてのスクリーニング手法である。
【0044】
この組み換えゼブラフィッシュについて、いくつかの方法によってバリデーションを実施した。まず、in situハイブリダイゼーションによって、桿体が存在する外顆粒層で特異的なntr-nanolucの発現が認められた(図1)。次に本組み換え体を10mMメトロニダゾールで24時間処理することで桿体が傷害され、桿体が13.5%まで死滅したことが確認された(図2)。さらに傷害後、組み換え体を飼育水で洗浄してメトロニダゾール由来の毒性ラジカルを除去すれば、48時間で桿体が緩やかに再生することが確認された(図3)。この段階で被験化合物を存在させることによって化合物の桿体再生の誘導作用を確認することができる。
【0045】
この組換えゼブラフィッシュTg(rho:NTR-NanoLuc, myl7:DsRed2)は、1匹であっても発光を十分に検出することが可能である。本組換えゼブラフィッシュを用いたスクリーニングについては、サンプル数を4以上としたスクリーニング、さらには濃度依存性試験を実施することで桿体再生誘導作用をより確実に確認することができる。
【0046】
上述の組み換えゼブラフィッシュを用いたスクリーニングを行った結果、本発明者は、4-[(E)-2-(5,6,7,8-テトラヒドロ-5,5,8,8-テトラメチル-2-ナフタレニル)-1-プロペニル]安息香酸(TTNPB)に桿体の再生を誘導して桿体を増加させる効果のあることを見い出した。このTTNPBは、濃度依存試験において設定したいずれの濃度でもDMSOコントロールに比して統計学的に有意な桿体再生誘導活性を示したことを確認した。なお、TTNPBは0.3μMでも薬効が飽和していたと判断され、高い活性を有する化合物と判定された(実施例3:図4)。TTNPBはレチノイン酸受容体(RAR)アゴニストであることが知られている。すなわち、この化合物に桿体再生誘導作用が確認されたことから、桿体再生誘導とレチノイン酸シグナルとが関連していることが推測された。
【0047】
上記の発見に基づき、レチノイン酸シグナルの内在性アゴニストであるAll-transレチノイン酸を評価した結果、All-transレチノイン酸が濃度依存的に有意な再生誘導活性を示し、桿体再生誘導とレチノイン酸シグナルの関連が明らかとなった(実施例4:図5)。さらに、RARを抑制するRARアンタゴニストとして知られる4-[(1E)-2-[5,6-ジヒドロ-5,5-ジメチル-8-(2-フェニルエチニル)-2ナフタレニル]エテニル]安息香酸(BMS493)は桿体再生誘導作用を示さず、DMSOコントロールよりも値を低下させた。このことからRARアンタゴニストは、RARアゴニストでは自然に起こる桿体再生も抑制していると考えられた。これ等の結果から、RARを介したレチノイン酸シグナルの活性化が桿体再生誘導に寄与していることが示唆された(実施例4:図5)。
【0048】
次に、タミバロテン(Tamibarotene)、タミバロテンメチルエステル(Tamibarotene methyl ester)、タミバロテンエチルエステル(Tamibarotene ethyl ester)、アダパレン(Adapalene)、タザロテン(Tazarotene)、タザロテン酸(Tazarotenic acid)、パロバロテン(Palovarotene)についてのRARアゴニスト活性を調べたところ、いずれの化合物もRARα、RARβ、RARγのアゴニスト活性を有することを確認した(表2)。
【0049】
これらの化合物をRARアゴニストの代表例として、桿体再生誘導活性を評価した。その結果、いずれの化合物においても濃度依存的な桿体再生の誘導作用が認められた(実施例6;表3)。これらのRARアゴニストの中ではTamibarotene及びTamibarotene ethyl esterが強い桿体再生誘導活性を示した。
【0050】
さらに網膜色素変性症の病態モデルとして知られる組み換えゼブラフィッシュTg(rho:hRHO(Q344X), omp:EGFP)と本発明者らの作製した組み換えゼブラフィッシュTg(rho:NTR-NanoLuc, myl7:DsRed2)とを掛け合わせ、再生誘導された桿体が発光する特性を持つ新たな病態モデルゼブラフィッシュを作製し、桿体再生の定量的な評価を実現した。組換えゼブラフィッシュTg(rho:hRHO(Q344X), omp:EGFP)(Nakao T, Tsujikawa M, Notomi S, Ikeda Y, Nishida K., "The role of mislocalized phototransduction in photoreceptor cell death of retinitis pigmentosa.", PLoS One., 2012; 7(4): e32472.;網膜色素変性症モデルのゼブラフィッシュRH1:hRhodopsin(Q344X)を別法で命名し直したもの。)は、ヒトで網膜色素変性症の原因遺伝子変異として報告されているロドプシン変異体hRHO(Q344X)を桿体特異的に発現させることができ、ロドプシンの異所性発現、および桿体の変性・脱落が確認され、網膜色素変性症のヒトの表現型と一致している。
【0051】
この新たな病態モデルゼブラフィッシュを用いてRARアゴニストであるTTNPB及びTamibaroteneの桿体再生誘導作用を定量的に評価した。TTNPBおよびTamibaroteneはいずれも、用量依存的に統計学的に有意な桿体の再生を誘導することが確認された(実施例8 図7)。
【0052】
また、網膜色素変性症モデルでの桿体の状態を、桿体で特異的にEGFP(enhanced green fluorescent protein)を発現するTg(rho:EGFP)を用いて共焦点レーザー顕微鏡にて観察した。その結果、網膜色素変性症モデルでは、野生型に比べて明らかな桿体の脱落が認められた。これに対し、TTNPBを作用させた群では、コントロールに比べて桿体の数が回復していることが確認された(実施例7 図6)。
【0053】
以上のゼブラフィッシュを使用した検証によって、RARアゴニスト作用を有する化合物であれば、桿体の再生を誘導することができ、網膜色素変性症等の治療及び/又は予防が可能となることが確認できた。
【0054】
本発明の目的である網膜色素変性症等の治療及び/又は予防においては、レチノイン酸受容体アゴニスト作用(RARアゴニスト作用)を有する化合物を使用すればよい。本発明においてレチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物とは、レチノイン酸受容体(RAR)に結合してこれを活性化することができる化合物である。このような化合物には、レチノイド化合物及びレチノイド様作用化合物が含まれる。レチノイド化合物とは、天然のレチノイド又は合成レチノイドである。天然のレチノイドは、ビタミンA及びビタミンA誘導体の総称であり、レチノイン酸、レチノール、レチナール及びこれらの3-デヒドロ体が挙げられる。合成レチノイドは、レチノイドから合成展開によって得られる化合物でRARアゴニスト活性を持つ化合物であり、また、レチノイド様作用化合物は、ビタミンAの構造は有していないもののRARアゴニスト活性を有する化合物である。ある化合物がRARアゴニスト活性を有するか否かは、例えば後述の実施例5のRARアゴニスト活性測定法によって判定することができる。
【0055】
本発明のRARアゴニスト作用を有する化合物の具体例として、タミバロテン(Tamibarotene, 例えばCombi-Blocks, Cat.No.QA-6963)、タミバロテンメチルエステル(Tamibarotene methyl ester, 例えばSundia meditech, Cat.No.82569)、タミバロテンエチルエステル(Tamibarotene ethyl ester, 例えばOrg.Lett.,15,3678-3681(2013)記載の方法により合成できる)、タザロテン(Tazarotene, 例えば東京化成, Cat.No. T3108)、タザロテン酸(Tazarotenic acid, 例えばTazarotene からUS6344463記載の手法を参考に加水分解して得ることができる)、アダパレン(Adapalene, 例えば東京化成, Cat.No. A2549)、パロバロテン(Palovarotene, 例えばHaoyuan Chemexpress Co., Ltd., Cat.No. HY-14799)、レチノール(Retinol, 例えばSigma-Aldrich, Cat.No. R7632-25MG)、イソトレチノイン(Isotretinoin, 例えばSigma-Aldrich, Cat.No.1353500-200MG)、アリトレチノイン(Alitretinoin)、エトレチナート(Etretinate, 例えばSigma-Aldrich, Cat.No.1011029-20MG)、アシトレチン(Acitretin,例えば Sigma-Aldrich, Cat.No. 44707-25MG)、ベキサロテン(Bexarotene, 例えばSigma-Aldrich, Cat.No. SML0282-10MG)、TTNPB(Sigma-Aldrich, Cat.No.T3757-10MG)等の化合物を挙げることができる。好ましくはタミバロテン、タミバロテンメチルエステル又はタミバロテンエチルエステルであり、さらに好ましくはタミバロテンである。
【0056】
本発明で使用されるRARアゴニスト作用を有する化合物は、所望により医薬的に許容される塩とすることができる。医薬的に許容される塩とは、著しい毒性を有さず、医薬として使用され得る塩をいう。本発明で使用されるRARアゴニスト作用を有する化合物は、酸性部分、特にカルボキシ基、を有する化合物となる場合があり、したがって塩基と処理することによって塩とすることができる。
【0057】
酸性置換基に基づく塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩及びリチウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩、鉄塩等の金属塩;アンモニウム塩等の無機塩;t-オクチルアミン塩、ジベンジルアミン塩、モルホリン塩、グルコサミン塩、フェニルグリシンアルキルエステル塩、エチレンジアミン塩、N-メチルグルカミン塩、グアニジン塩、ジエチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン塩、クロロプロカイン塩、プロカイン塩、ジエタノールアミン塩、N-ベンジルフェネチルアミン塩、ピペラジン塩、テトラメチルアンモニウム塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩等の有機アミン塩;グリシン塩、リジン塩、アルギニン塩、オルニチン塩、グルタミン酸塩及びアスパラギン酸塩等のアミノ酸塩等がある。
【0058】
本発明で使用されるRARアゴニスト作用を有する化合物又はその塩は、大気中に放置したり、又は再晶析を行ったりすることにより、水分を吸収して吸着水が付き、水和物となる場合があり、そのような水和物も本発明の化合物又はその塩に包含される。
【0059】
本発明で使用されるRARアゴニスト作用を有する化合物又はその塩は、ある種の溶媒を吸収し、溶媒和物となる場合があり、そのような溶媒和物も本発明の化合物又はその塩に包含される。
溶媒和物を形成しうる溶媒としては、著しい毒性を有さず、医薬として使用され得るものであれば特に限定されないが、例えば、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジメチルスルホキシド、ギ酸エチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ギ酸、酢酸、ペンタン、ヘプタン、クメン、アニソール等が挙げられる。
【0060】
本発明で使用されるRARアゴニスト作用を有する化合物が、その分子内に不斉炭素原子を有する場合、光学異性体が存在する。これらの異性体及びこれらの異性体の混合物は本発明の目的に使用することができる。したがって、本発明で使用されるRARアゴニスト作用を有する化合物の単一の光学異性体及び光学異性体の任意の割合の混合物は全て本発明の範囲に包含される。
【0061】
上記のような光学異性体は、光学活性な原料化合物を用いるか、又は不斉合成もしくは不斉誘導の手法を用いて本発明に係る化合物を合成することで得ることができる。この他、合成した本発明に係る化合物を通常の光学分割法又は光学活性担体を利用した分離法等を用いて単離することにより得ることができる。
【0062】
本発明で使用されるRARアゴニスト作用を有する化合物は、当該化合物を構成する原子の1以上に、原子同位体の非天然割合も含有し得る。原子同位体としては、例えば、重水素(2H)、トリチウム(3H)、ヨウ素-125(125I)、又は炭素-14(14C)等を挙げることができる。また、前記化合物は、例えば、トリチウム(3H)、ヨウ素-125(125I)、又は炭素-14(14C)等の放射性同位体で放射性標識され得る。放射性標識された化合物は、治療又は予防剤、研究試薬、例えば、アッセイ試薬及び診断剤、例えば、インビボ画像診断剤として有用である。本発明の化合物の全ての同位体変異種は、放射性であると否とを問わず、本発明の範囲に包含されるものとする。
【0063】
本発明のレチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物は、桿体再生を誘導する作用を有するため、この作用によって症状が改善する疾患、例えば、網膜色素変性症、加齢黄斑変性症、黄斑ジストロフィー(スタルガルト病、錐体杆体ジストロフィー、ベスト病、X連鎖性若年網膜分離症、オカルト黄斑ジストロフィー、中心性輪紋状網脈絡膜ジストロフィー)等の疾患又はこれらの疾患に伴う症状に対して優れた治療効果及び/又は予防効果を期待することができる。これらの疾患の本態は、桿体を含む視細胞の変性であることが知られており(例えば、下記文献を参照:網膜色素変性症(A, E)、加齢黄斑変性症(B)、スタルガルト病(C, E)、錐体杆体ジストロフィー(E)、ベスト病(D, E)、X連鎖性若年網膜分離症(E)、オカルト黄斑ジストロフィー(F)、中心性輪紋状網脈絡膜ジストロフィー(G))、一方、視細胞の変性によって引き起こされる病態は、移植による桿体の供給により改善することが明らかとなっている(X)。したがって、本発明によれば、レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物の投与によって内在性の桿体の再生を誘導し、桿体を増加させることができるため、本発明は視細胞変性を伴う疾患(好ましくは、上記疾患)に対する治療及び/又は予防に有効である。
【0064】
A, Exp Eye Res. 2016 Sep;150:149-165.
B, Am J Ophthalmol. 2016 Aug;168:260-268.
C, Biochim Biophys Acta - Mol Cell Biol Lipid. 2009 Jul;1791(7):573-583.
D, Prog Retin Eye Res. 2017 May;58:70-88.
E, Dev Ophthalmol. 2014;53:44-52.
F, Jpn J Ophthalmol. 2015 Mar;59(2):71-80.
G, J Optom. 2013 Apr; 6(2): 114-122.
X, Nature. 2006 Nov 9;444(7116):203-207.
【0065】
本発明における加齢黄斑変性症とは、萎縮型および滲出型の両方を含む。好適には萎縮型である。
【0066】
本発明のレチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物は、桿体再生を誘導する作用を有するため、萎縮型および滲出型(好適には、萎縮型)のいずれの加齢黄斑変性症の治療及び/又は予防にも有効である。
【0067】
本発明における黄斑ジストロフィーとは、遺伝的な原因により視細胞変性を伴って黄斑に障害を生じ、視力低下・視野異常等が進行する網膜変性疾患の一群を示す。具体的には、スタルガルト病、錐体杆体ジストロフィー、ベスト病、X連鎖性若年網膜分離症、オカルト黄斑ジストロフィー、中心性輪紋状網脈絡膜ジストロフィーを示す。
【0068】
本発明における治療とは、変性、脱落するなどして機能を失った網膜に対して視覚機能の回復を図るものである。そのために例えば,桿体を増加させる、あるいはその誘導、さらには桿体の機能喪失の保護を実現することが必要であり、レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物をこの目的に好適に適用することができる。
【0069】
本発明の予防とは、桿体の変性、脱落が進行する蓋然性が高くなり、網膜色素変性症等を発症する危険性の高くなった状況において桿体の再生を増加させる、又は誘導する、さらには桿体の機能喪失を防ぐ等によりその危険性を解消することを目的とするものである。この予防についてもレチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物を好適に適用することができる。
【0070】
上記の治療及び予防のいずれにおいても、網膜色素変性症等に対してレチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物を投与することによって桿体の再生が誘導されることを機作とするものである。
【0071】
本発明の化合物若しくはその薬学的に許容される塩又はそれらの水和物若しくは溶媒和物は、種々の形態で投与することができる。その投与形態としては、眼への局所投与によるのが好ましい。眼への局所投与には、液剤(例えば点眼液、注射剤)、軟膏剤等を適用することができる。
【0072】
液剤の場合、液剤、乳剤、又は懸濁剤として使用することができる。これらの液剤、乳剤、又は懸濁剤は、殺菌され、血液と等張であることが好ましい。これら液剤、乳剤、又は懸濁剤の製造に用いる溶媒は、医療用の希釈剤として使用できるものであれば特に限定はなく、例えば、水、エタノール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等を挙げることができる。なお、この場合、等張性の溶液を調製するのに充分な量の食塩、グルコース、又はグリセリンを製剤中に含んでいてもよく、また通常の溶解補助剤、緩衝剤及び無痛化剤等を含んでいてもよい。例えば、点眼液は、塩化ナトリウム、濃グリセリンなどの等張化剤;塩酸、水酸化ナトリウムなどのpH調整剤;リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウムなどの緩衝化剤;ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート、ステアリン酸ポリオキシル40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などの界面活性剤;クエン酸ナトリウム、エデト酸ナトリウムなどの安定化剤;塩化ベンザルコニウム、パラベンなどの防腐剤などから必要に応じて選択された添加剤を用い、調製することができる。本点眼液のpHは眼科製剤に許容される範囲内にあればよいが、通常4~8の範囲内が好ましい。
【0073】
また、軟膏剤としては、眼軟膏用の軟膏基材に、流動パラフィン等の補助剤を使用して調製することが出来る。上記の製剤には、必要に応じて、着色剤、保存剤等を含めることもでき、更に、他の医薬品を含めることもできる。
【0074】
上記製剤に含まれる有効成分化合物の量は、特に限定されず広範囲に適宜選択されるが、通常、全組成物中0.5から70重量%、好ましくは1から30重量%含む。
【0075】
その使用量は患者(温血動物、特に人間)の症状、年齢等により異なるが、液剤の点眼ないしは硝子体内注射投与の場合には、1日あたり、上限として1眼あたり10mg(好ましくは1mg)であり、下限として0.001mg(好ましくは0.01mg)を成人に対して、1日当り1から6回症状に応じて投与することが望ましい。この投与量及び用法は、眼軟膏にも適用することができる。
【0076】
また、レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物を、胚性幹細胞、成体幹細胞、人工多能性幹細胞等の培養幹細胞に添加することにより、in vitroでシート状、オルガノイド状、懸濁状態等の網膜組織を効果的に製造することもできる。このように生体外で製造した網膜組織を眼球に移植することにより、再生医療に供することができる。
【実施例
【0077】
以下に示す例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0078】
(実施例1)プラスミドpcDNA3.1-rho-ntr-nanoluc-myl7-dsred2の作製
組換えゼブラフィッシュTg(rho:NTR-NanoLuc, myl7:DsRed2)を作製するために、まず、In-Fusion(登録商標) HD Cloning Kitを用いてプラスミドpcDNA3.1-rho-ntr-nanoluc-myl7-dsred2を作製した。ベクター作成方法はキットに添付のマニュアルに準拠した。導入した塩基配列を配列表の配列番号1から4に示した。
【0079】
(実施例2)組み換えゼブラフィッシュTg(rho:NTR-NanoLuc, myl7:DsRed2)の作製及び桿体再生誘導評価のバリデーション
【0080】
[組み換えゼブラフィッシュの作製]
実施例1で作製したプラスミドpcDNA3.1-rho-ntr-nanoluc-myl7-dsred2を用いて、I-SceI meganucleaseを用いた遺伝子導入方法により組換えゼブラフィッシュTg(rho:NTR-NanoLuc, myl7:DsRed2)を作製した(Soroldoni D, Hogan BM, Oates AC., "Simple and efficient transgenesis with meganuclease constructs in zebrafish.", Methods Mol. Biol., 2009; 546: 117-130.)。具体的な手順は以下の通りである。
1) 1μLのpcDNA3.1-rho-ntr-nanoluc-myl7-dsred2(712 ng/μL)、1.5μLのMeganuclease buffer(10X)、0.6μLのI-SceI(ニュー・イングランド・バイオラボ・ジャパン株式会社;5,000units/mL)、1.5μLの0.5% フェノールレッド(シグマアルドリッチジャパン合同会社)、10.4μLのdH2Oを混和し、インジェクション溶液とした。
2) 野生型ゼブラフィッシュから得た1細胞期受精卵の細胞質にFemtoJet(登録商標)(エッペンドルフ株式会社)を用いてインジェクション溶液を1nL注入した。
3) インジェクション当日の夕方に死卵を除去し、受精後3日目に蛍光顕微鏡下で心臓でのDsRed2発現を指標に一過性に発現が認められる組換え体を選抜した。
4) 一過性に心臓でのDsRed2発現が認められた組換え体が産卵できるまで飼育し、野生型ゼブラフィッシュとの交配によって受精卵を得た。得られた受精卵を蛍光顕微鏡下で観察し、心臓でDsRed2を発現する受精卵が確認できた場合、その親は導入された遺伝子を子に受け継ぐことができる事を示し、この組み換え体をファウンダーとして単離した。
5) 以降、ファウンダーと野生型のゼブラフィッシュを交配することによって得られる子は安定発現遺伝子組み換え体であり、これを親として、交配によって得られる組み換え体の稚魚を用いて試験を実施した。
【0081】
[組み換えゼブラフィッシュによる桿体再生誘導評価のバリデーション]
In situ ハイブリダイゼーションの手法を用いて、ゼブラフィッシュ稚魚の網膜組織におけるntr-nanolucのmRNA発現を確認したところ、桿体が存在する網膜の外顆粒層で明確なシグナルが確認された。したがって、ntr-nanoluc遺伝子が目的の組織で特異的に発現していることが確認され、目的の組換え体が作成できていることが確認された(図1)。図1は、左眼球の切片で、上がゼブラフィッシュの背側、下が腹側である。Sはネガティブコントロール(センスRNAプローブ)である。ASの図(アンチセンスRNAプローブ)からntr-nanolucの発現が確認されている。
次に受精3日後の本組み換えゼブラフィッシュを10mMメトロニダゾール(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社)で24時間処理した後に、3-アミノ安息香酸エチル メタンスルホン酸塩(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社)の添加により安楽殺し、Nano-Glo(登録商標) Luciferase Assay System(プロメガ株式会社)に添付のマニュアルに準拠して桿体由来の発光を測定した。その結果、24時間の10mMメトロニダゾール処理により桿体が傷害され、桿体が13.5%まで死滅したことが確認された(図2)。さらに傷害後の組み換え体を飼育水で洗浄してメトロニダゾール由来の毒性ラジカルを除去し、24、48時間後の桿体由来の発光を測定した結果、48時間で桿体が緩やかに再生することが確認された(図3)。
【0082】
(実施例3)化合物のスクリーニングおよびヒット化合物の作用の評価
【0083】
1.化合物のスクリーニング
[手順]
実施例2で得られた組み換えゼブラフィッシュを用いて化合物のスクリーニングを行った。
スクリーニングの手順は以下の通りである。
1) 採卵前日に、組み換え体Tg(rho:NTR-NanoLuc, myl7:DsRed2)と野生型の組み合わせで、雄と雌のゼブラフィッシュを交配用のタンクに入れ、デバイダーで隔離した。
2) 翌朝(8:00-11:00)にデバイダーを外すことで交配させ、受精卵を採取し、同日夕方(16:00-18:00)に正常に発達した受精卵のみを選抜し、発育用プレートにて飼育した。
3) 受精3日後の稚魚を10mMメトロニダゾール(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社)および1% DMSO(和光純薬工業株式会社)を含む飼育水(60mgのインスタントオーシャン(ナプコ リミテッド(ジャパン))を1Lの蒸留水で溶解して調製)に移し変え、暗条件下で24時間飼育することで桿体特異的に障害を与えた。また、非障害のコントロールは1% DMSOを含む飼育水に移し変えて飼育した。
4) アッセイ用プレート(Tissue Culture Treated Black Isoplate-96 TC(株式会社パーキンエルマージャパン)を使用)に試験化合物と対照となるDMSOを2.5μL/well ずつ分注し、さらにEgg waterを147.5μL/wellずつ添加した。
5) 傷害を与えた受精4日後の稚魚をEgg waterでよく洗浄し、化合物を添加したアッセイ用プレートに100μLのEgg waterとともに各wellに2匹ずつ分注した。
6) 2日間飼育した後、Egg waterを200μL除去し、3-アミノ安息香酸エチル メタンスルホン酸塩(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社;0.4mg/mL,10μL)を添加して安楽殺した。
7) Nano-Glo(登録商標) Luciferase assay Substrate(プロメガ株式会社)をNano-Glo(登録商標) Luciferase assay buffer(プロメガ株式会社)に1:50の割合で添加し、各wellに100μLずつ添加した。
8) BIO-Mixer(株式会社バイオテックジャパン)を用いて1時間振とうした後、EnVision(株式会社パーキンエルマージャパン)を用いてNanoLuc(登録商標)の発光を測定した。
[結果]
化合物刺激によるLuciferaseの活性率(Activation(%)と表記)を以下の式により算出した。
Activation(%) = (Sample wellの測定値÷ DMSO controlの平均値) × 100
上記のスクリーニングの結果、次式で示される4-[(E)-2-(5,6,7,8-テトラヒドロ-5,5,8,8-テトラメチル-2-ナフタレニル)-1-プロペニル]安息香酸(TTNPB)は、有効作用濃度2.5μMで、Activation(%)が150以上を示した。
【0084】
【化1】
【0085】
2.ヒット化合物の作用の評価
[手順]
ヒット化合物であるTTNPBの有効作用濃度を0.3、1、3、10、30μM、N=4とし、上記1.の手順と同様にして、桿体再生誘導効果の評価試験を行った。
[データ処理法]
データ処理はMicrosoft Excel 2010(日本マイクロソフト株式会社)を用いて実施した。Dunnettの多重比較検定は、SAS9.3 for Microsoft Windows Workstation 32-bitおよびその連動システムEXSUS Ver. 8.0を使用した。
化合物の桿体再生誘導作用の評価では、化合物刺激によるLuciferaseの活性率(Activation(%)と表記)を以下の式により算出し、その平均値および標準誤差を表示した。
Activation(%) = (Sample wellの測定値÷ DMSO controlの平均値) × 100
Dunnett検定を用いて各濃度群とDMSO control群を比較した。
[結果]
結果を図4に示した。TTNPBはDMSOコントロールに比べて全ての濃度で統計学的に有意な桿体再生誘導活性を示したが、当該試験の濃度範囲において濃度依存性が認められなかったことから、TTNPBは最低濃度の0.3μMで既に薬効が飽和していると考えられた。
【0086】
(実施例4)RARアゴニスト作用と桿体再生の誘導作用との関連性の検証
[手順]
実施例3の結果によってTTNPBが桿体再生の誘導作用を有することが判明したが、このものはRARアゴニストとして知られており、そこでRARに作用することが知られる化合物についての検証を実施した。この検証試験は、実施例3の1.化合物のスクリーニングの手順に準じてN=8として実施した。
【0087】
検証した化合物は、内在性のレチノイン酸受容体アゴニストであるAll-trans Retinoic acid(Sigma-Aldrich, Cat.No.R2625-50MG)、RARアンタゴニストであるBMS493(Sigma-Aldrich, Cat.No.B6688-5MG)である。化学構造を次式に示す。
【0088】
【化2】
【0089】
[データ処理法]
データ処理はMicrosoft Excel 2010(日本マイクロソフト株式会社)を用いて実施した。Dunnettの多重比較検定は、SAS9.3 for Microsoft Windows Workstation 32-bitおよびその連動システムEXSUS Ver. 8.0を使用した。桿体再生作用の評価では、化合物刺激によるLuciferaseの活性率(Activation(%)と表記)を以下の式により算出し、その平均値および標準誤差を表示した。
Activation(%) = (Sample wellの測定値 ÷ DMSO controlの平均値) × 100
[結果]
実施例5の試験結果を図5に示した。内在性RARアゴニストであるAll-trans Retinoic acid(RA)は濃度依存的に有意な再生誘導活性を示し、RARを抑制するBMS493は桿体再生誘導作用を示さず、さらにDMSOコントロールよりも値を低下させた。BMS493は30μMで化合物の析出が認められ、100μMではすべての魚が死亡(心臓停止)し、毒性が認められた。
【0090】
(実施例5)RARアゴニスト活性の測定法
[手順]
以下の手順でRARアゴニスト活性を測定した。評価化合物には、タミバロテン(Tamibarotene, Combi-Blocks, Cat.No.QA-6963)、タミバロテンメチルエステル(Tamibarotene methyl ester, Sundia meditech, Cat.No.82569)、タミバロテンエチルエステル(Tamibarotene ethyl ester, Org.Lett.,15,3678-3681(2013)記載)、タザロテン(Tazarotene, 東京化成, Cat.No. T3108)、タザロテン酸(Tazarotenic acid, Tazarotene から US6344463記載の手法を参考に加水分解を行った。)、アダパレン(Adapalene, 東京化成, Cat.No. A2549)、パロバロテン(Palovarotene, Haoyuan Chemexpress Co., Ltd., Cat.No. HY-14799)の各化合物を用いた。
1) Lipofectamine(登録商標) 2000 Transfection Reagent(Thermo Fisher Scientific)を用い、キット添付のマニュアルに準拠した方法で、RAR synthetic response element luciferase reporter construct (3xDR5:luc)に加えて、Human RARα、Human RARβ、Human RARγをそれぞれ機能的に共発現するHEK293A細胞(Invitrogen)を作製した。導入した遺伝子を表1に記す。
2) 遺伝子導入した細胞を回収し、2x105 cells/mLとなるように384 well Plateに播種すると同時に、細胞と化合物(最高濃度25000 nMから4倍希釈系列を10段階作製)を接触させた。
3) 化合物暴露24時間後にピッカジーン(登録商標)発光キット(東洋ビーネット株式会社)を用いてEnVision(株式会社パーキンエルマージャパン)により各細胞の発光を測定した(N=4)。
[解析]
発光量(cps)の平均値およびECの算出には、Microsoft Excel 2010を使用した。
[データ処理]
RARアゴニスト活性の評価では、化合物非添加の細胞における発光量の測定値(Negative control)を100%として、被験物質のRARアゴニスト活性(%)を以下の式により算出し、その平均値を被験物質濃度に対してプロットした。
RARアゴニスト活性(%)= (Sample wellの測定値 ÷Negative controlの平均値) × 100
【0091】
RARアゴニスト活性の強さの指標として、RARαおよびRARβについては、Negative controlを基準として1000%の発光量を示す濃度をEC1000、RARγについては、Negative controlを基準として500%の発光量を示す濃度をEC500と定義した。EC1000もしくはEC500は、被験物質による発光量が1000%ないしは500%を挟む2点の濃度とRARアゴニスト活性(%)を用いてGROWTH関数(指数回帰)により算出した。
[結果]
実施例5の化合物での測定結果を表2に示した。それぞれの化合物は、いずれのRARに対しても濃度依存的にアゴニスト活性を示した。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
(実施例6)様々なRARアゴニストによる桿体再生誘導効果の評価
[手順]
RARアゴニスト活性を示した化合物について、以下の手順で桿体再生誘導作用を評価することで一般性を検証した。評価化合物には、タミバロテン(Tamibarotene, Combi-Blocks, Cat.No.QA-6963)、タミバロテンメチルエステル(Sundia meditech, Cat.No.82569)、タミバロテンエチルエステル(Org.Lett.,15,3678-3681(2013)記載)、タザロテン(Tazarotene, 東京化成, Cat.No. T3108)、タザロテン酸(Tazarotenic acid, Tazarotene から US6344463記載の手法を参考に加水分解を行った。)、アダパレン(Adapalene, 東京化成, Cat.No. A2549)、パロバロテン(Palovarotene, Haoyuan Chemexpress Co., Ltd., Cat.No. HY-14799)の各化合物を用いた。
1) 採卵前日に、組み換え体Tg(rho:NTR-NanoLuc, myl7:DsRed2)と野生型の組み合わせで、雄と雌のゼブラフィッシュを交配用のタンクに入れ、デバイダーで隔離した。
2) 翌朝(8:00-11:00)にデバイダーを外すことで交配させ、受精卵を採取し、同日夕方(16:00-18:00)に正常に発達した受精卵のみを選抜し、発育用プレートにて飼育した。
3) 受精3日後の稚魚を10mMメトロニダゾール(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社)および1% DMSO(和光純薬工業株式会社)を含む飼育水(60mgのインスタントオーシャン(ナプコ リミテッド(ジャパン))を1Lの蒸留水で溶解して調製)に移し変え、暗条件下で24時間飼育することで桿体特異的に障害を与えた。また、非障害のコントロールは1% DMSOを含む飼育水に移し変えて飼育した。
4) アッセイ用プレート(Tissue Culture Treated Black Isoplate-96 TC(株式会社パーキンエルマージャパン)を使用)に試験化合物(Activation(% of control)が50%を挟む2濃度のデータが得られるように3倍希釈系列を作製)と対照となるDMSOを2.5μL/well ずつ分注し、さらにEgg waterを147.5μL/wellずつ添加した。
5) 傷害を与えた受精4日後の稚魚をEgg waterでよく洗浄し、化合物を添加したアッセイ用プレートに100μLのEgg waterとともに各wellに2匹ずつ分注した。
6) 2日間飼育した後、Egg waterを200μL除去し、3-アミノ安息香酸エチル メタンスルホン酸塩(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社;0.4mg/mL,10μL)を添加して安楽殺した。
7) Nano-Glo(登録商標) Luciferase assay Substrate(プロメガ株式会社)をNano-Glo(登録商標) Luciferase assay buffer(プロメガ株式会社)に1:50の割合で添加し、各wellに100μLずつ添加した
8) BIO-Mixer(株式会社バイオテックジャパン)を用いて1時間振とうした後、EnVision(株式会社パーキンエルマージャパン)を用いてNanoLuc(登録商標)の発光を測定した。
[解析]
Luciferase活性の増加率(Activation (%))、平均値、EC50の算出は、Microsoft Excel 2010を使用した。
[データ処理]
桿体再生作用の評価では、陰性対象化合物であるDMSOを処理したゼブラフィッシュにおける発光量の測定値(Negative control)を0%、陽性対象化合物である1μM TTNPBを処理したゼブラフィッシュにおける測定値(Positive control)を100%として、以下の式により活性の指標としてActivation(% of control)を算出し、その平均値を被験物質濃度に対してプロットした。Activation(% of control)が50%を示す濃度をEC50と定義した。EC50は、被験物質による活性が50%を挟む2点間の直線回帰から算出した。
Activation (% of control) = (Sample wellの測定値 - Negative controlの平均値) ÷ (Positive controlの平均値 - Negative controlの平均値) × 100
[結果]
実施例6の試験結果を表3に示した。いずれのRARアゴニストも濃度依存的に有意な再生誘導活性を示した。アスタリスクで示したAdapaleneについては、評価した最高濃度の1000 nMでActivation (% of control)が50%に達しなかったが、この濃度で39%のActivationを示した。評価したRARアゴニストの中ではTamibarotene及びTamibarotene ethyl esterが強い桿体再生誘導作用を示した。
【0095】
【表3】
【0096】
(実施例7)網膜色素変性症モデルにおける桿体再生効果の評価(効果の確認)
網膜色素変性症モデルとして知られるゼブラフィッシュを用いて桿体再生の観察が可能な病態モデルフィッシュを作製し、以下の手順で化合物の効果を検証した。評価化合物には、TTNPB(Sigma-Aldrich, Cat.No.T3757-10MG)を用いた。
[桿体再生の観察が可能な病態モデルゼブラフィッシュの作製]
1) 桿体再生の観察が可能な病態モデルを作製するために、ゼブラフィッシュTg(rho:EGFP)(Hamaoka T1, Takechi M, Chinen A et al. Visualization of rod photoreceptor development using GFP-transgenic zebrafish. Genesis. 2002; 34(3): 215-220.;桿体のレポーターフィッシュとして使用)及びゼブラフィッシュTg(rho:hRHO(Q344X), omp:EGFP)(Nakao T, Tsujikawa M, Notomi S, Ikeda Y, Nishida K., "The role of mislocalized phototransduction in photoreceptor cell death of retinitis pigmentosa.", PLoS One., 2012; 7(4): e32472.;網膜色素変性症モデルのゼブラフィッシュRH1:hRhodopsin(Q344X)を別法で命名し直したもの。)の組み合わせで掛け合わせたゼブラフィッシュ(病態ゼブラフィッシュ1)を作製することとした。コントロール(非病態ゼブラフィッシュ)は、ゼブラフィッシュTg(rho:EGFP)と野生型ゼブラフィッシュの組み合わせで掛け合わせたゼブラフィッシュとした。採卵前日に雄と雌のゼブラフィッシュを交配用のタンクに入れ、デバイダーで隔離した。
2) 翌朝(8:00-11:00)にデバイダーを外すことで交配させ、受精卵を採取し、同日夕方(16:00-18:00)に正常に発達した受精卵のみを選抜し、発育用プレートにて飼育した。
3) アッセイ用プレートに試験化合物と対照となるDMSOを2.5μL/well(DMSO終濃度1%)ずつ分注し、さらにEgg waterを147.5μL/wellずつ添加した。スクリーニングでは各濃度でN=8で試験を実施した。
4) 化合物添加したアッセイ用プレートに受精3日後の稚魚を100μLのEgg waterとともに各wellに2匹ずつ分注した。
5) 2日間飼育した後、Egg waterを200μL除去し、3-アミノ安息香酸エチル メタンスルホン酸塩(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社;0.4mg/ml,10μL)を添加して安楽殺した。
[共焦点レーザー顕微鏡による桿体再生の確認]
桿体で特異的に発現するEGFPの発光を共焦点レーザー顕微鏡にて観察した。手順は以下のとおりである。
1) 上記の安楽殺したゼブラフィッシュを4% Paraformaldehyde Phosphate Buffer Solutionの入ったエッペンチューブに移し、4°Cにて一晩振とうすることで固定化した。
2) 固定化したゼブラフィッシュを加温して溶解した0.75% SeaPlaque(登録商標) agaroseの入ったエッペンチューブに移し、0.75% SeaPlaque(登録商標) agaroseとともに、スライドガラス上で包埋した。
3) アガロースが固まった後に封入剤を添加し、カバーガラスで封入することで、共焦点レーザー顕微鏡の標本とした。
4) 共焦点レーザー顕微鏡による撮像は以下の条件で実施した。
Format:1024 x 1024
Speed:400Hz
Mode:Photon counting
z-step size:3μm
z-volume:250μm
[結果]
結果は、図6に示した。
【0097】
(A)は、非病態ゼブラフィッシュでの結果を示す(コントロール)。(B)は、薬物未処理の病態ゼブラフィッシュの結果を示す。(B)は(A)に比較して桿体の脱落が確認される。(C)は、病態ゼブラフィッシュで、1μMのTTNPBを作用させた結果を示す。(C)は(B)に比べて桿体の数が回復していることが確認された。
【0098】
(実施例8)網膜色素変性症モデルにおける桿体再生効果の評価(定量的評価)
網膜色素変性症モデルとして知られるゼブラフィッシュを用いて桿体再生の定量的評価が可能な新たな病態モデルゼブラフィッシュを作製し、以下の手順で化合物の効果を定量的に検証した。評価化合物には、Tamibarotene(Combi-Blocks, Cat.No.QA-6963)、TTNPB(Sigma-Aldrich, Cat.No.T3757-10MG)の各化合物を用いた。
[定量的評価が可能な病態モデルフィッシュの作製と化合物評価の手順]
1) 桿体再生の定量的評価には組み換え体Tg(rho:NTR-NanoLuc, myl7:DsRed2)とTg(rho:hRHO(Q344X), omp:EGFP)の組み合わせで掛け合わせたゼブラフィッシュ(病態ゼブラフィッシュ2)で行うこととし、採卵前日に雄と雌の各々のゼブラフィッシュを交配用のタンクに入れ、デバイダーで隔離した。
2) 翌朝(8:00-11:00)にデバイダーを外すことで交配させ、受精卵を採取し、同日夕方(16:00-18:00)に正常に発達した受精卵のみを選抜し、発育用プレートにて飼育した。
3) アッセイ用プレートに試験化合物と対照となるDMSOを2.5μL/well(DMSO終濃度:1%)ずつ分注し、さらにEgg waterを147.5μL/wellずつ添加した。スクリーニングでは各濃度でN=8で試験を実施した。
4) 化合物添加したアッセイ用プレートに受精3日後の稚魚を100μLのEgg waterとともに各wellに2匹ずつ分注した。
5) 2日間飼育した後、Egg waterを200μL除去し、3-アミノ安息香酸エチル メタンスルホン酸塩(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社;0.4mg/mL,10μL)を添加して安楽殺した。
[桿体再生の定量的評価]
1) Nano-Glo(登録商標) Luciferase assay SubstrateをNano-Glo(登録商標) Luciferase assay bufferに1:50の割合で添加し、実施例3に準拠して作成したプレートの各wellに100μLずつ添加した。
2) BIO-Mixerを用いて1時間振とうした後、EnVisionを用いてNanoLuc(登録商標)の発光を測定した。
[解析]
データ処理はMicrosoft Excel 2010(日本マイクロソフト株式会社)を用いて実施した。Dunnettの多重比較検定は、SAS9.3 for Microsoft Windows Workstation 32-bitおよびその連動システムEXSUS Ver. 8.0を使用した。
発光量(cps, count per second)の平均値及びその標準誤差を算出して表示した。
[結果]
TTNPB、Tamibaroteneはいずれも、網膜色素変性症モデルにおいて、用量依存的に統計学的に有意な桿体の再生を誘導することが確認された(図7)。
【0099】
(製剤例1)液状製剤
タミバロテン(6g)、デキストロース一水和物(等張となるよう適量)、クエン酸一水和物(1.05g)、水酸化ナトリウム(0.18g)、及び注射用水(全体が1000mLとなるよう適量)を、常法に従って混合する。
【0100】
(製剤例2)眼軟膏
タミバロテン(0.6g)、に適量の流動パラフィンを加えて混合した後、全体量が100gとなる様に眼科用ワセリンを加え混合する。
【産業上の利用可能性】
【0101】
レチノイン酸受容体アゴニスト作用を有する化合物の投与によって桿体再生を誘導して桿体を増加させることができ、網膜色素変性症等を簡便に治療及び/又は予防することができ、医薬として有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0102】
配列番号1:セブラフィッシュrhoプロモーター部位の塩基配列
配列番号2:セブラフィッシュmyl7プロモーター部位の塩基配列
配列番号3:NTR-NanoLuc proteinの塩基配列
配列番号4:DsRed2 proteinの塩基配列
配列番号5:ヒトRARαの塩基配列
配列番号6:ヒトRARβの塩基配列
配列番号7:ヒトRARγの塩基配列
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
0007163288000001.app