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特許7163395複合基板、圧電素子および複合基板の製造方法
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  • 特許-複合基板、圧電素子および複合基板の製造方法 図1
  • 特許-複合基板、圧電素子および複合基板の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-21
(45)【発行日】2022-10-31
(54)【発明の名称】複合基板、圧電素子および複合基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/25 20060101AFI20221024BHJP
   H03H 3/08 20060101ALI20221024BHJP
【FI】
H03H9/25 C
H03H3/08
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020541313
(86)(22)【出願日】2019-09-06
(86)【国際出願番号】 JP2019035146
(87)【国際公開番号】W WO2020050396
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2021-03-05
(31)【優先権主張番号】P 2018167072
(32)【優先日】2018-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003029
【氏名又は名称】弁理士法人ブナ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅原 幹裕
(72)【発明者】
【氏名】光田 国文
【審査官】馬場 慎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/001900(WO,A1)
【文献】特開平08-083802(JP,A)
【文献】特開2002-293692(JP,A)
【文献】特開2008-254941(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/00 ー 9/76
H03H 3/007ー 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板とサファイア基板とが直接接合された複合基板であって、
前記サファイア基板の、前記圧電基板との接合面にステップバンチを有し、
前記接合面において、前記ステップバンチを略垂直に横切る方向の線粗さ曲線における、算術平均粗さRaが0.05~2.0nmである、複合基板。
【請求項2】
圧電基板とサファイア基板とが直接接合された複合基板であって、
前記サファイア基板の、前記圧電基板との接合面にステップバンチを有し、
前記ステップバンチの各ステップの幅が50nm~2μm、高さが0.2nm~10nmである、複合基板。
【請求項3】
圧電基板とサファイア基板とが直接接合された複合基板であって、
前記サファイア基板の、前記圧電基板との接合面にステップバンチを有し、
前記接合面は、c面、a面、m面、またはr面からのオフ角が、2°以下である、複合基板。
【請求項4】
前記接合面の、X線ロッキングカーブの半値幅が、0.1°以下である、請求項1からのいずれかに記載の複合基板。
【請求項5】
請求項1からのいずれかに記載の前記複合基板を備える、圧電素子。
【請求項6】
表面弾性波素子である、請求項に記載の圧電素子。
【請求項7】
圧電基板と、特定の結晶面に対し所定のオフ角を有する表面を備えたサファイア基板とを準備する、準備工程と、
前記サファイア基板を酸化雰囲気中で熱処理して、該サファイア基板の前記表面にステップバンチを形成する、熱処理工程と、
前記圧電基板と前記サファイア基板の前記表面とを、直接接合する、接合工程とを備え、
前記準備工程で、c面、a面、m面、またはr面からのオフ角が、2°以下である、前記サファイア基板を準備し、前記熱処理工程で、大気雰囲気処理で、1000℃~1400℃で1時間~24時間の熱処理する、複合基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧電基板と支持基板とを接合した構造の複合基板、該複合基板を備えた圧電素子および複合基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話などの通信機器に使用される弾性表面波素子などの圧電素子の小型化、高性能化が要求されている。小型で高性能な圧電素子として、圧電基板と支持基板とを接合した複合基板の圧電基板上に素子電極を形成した構成の圧電素子が提案されている。支持基板として種々の材料が用いられる。中でも、サファイアは機械的強度、絶縁性、放熱性に優れ、支持基板として特に好適である。
【0003】
複合基板では、圧電基板と支持基板の接合界面におけるバルク波の反射に起因するスプリアスが課題となる。この課題の解決のため、特許文献1には、支持層表面をラップ加工により粗面化した積層圧電基板が開示されている。特許文献2には、ウェットエッチングによって、ピラミッド形状の凹凸構造を形成したシリコン基板を支持基板として使用することが記載されている。
【0004】
ところが、ラップ加工などの機械的な粗面化処理では、加工により、残留応力や結晶欠陥が含まれる加工変質層が形成される。加工変質層は、接合強度の低下の原因となりやすい傾向がある。シリコンの異方性エッチングは、結晶方位の違いによるレート差が大きく、均一で整ったピラミッド状の凹凸が現れる。しかし、サファイアの異方性エッチングは、結晶方位間のレート差が小さく、形状制御が難しい。サファイアの異方性エッチングについては、例えば、特許文献3に熱リン酸によるピット形成が記載されている。しかし、これは、結晶欠陥を起点にしたエッチピット形成であり、均一で整った凹凸とすることは容易ではない。さらに、異方性エッチングでは、特定の結晶方位の凹凸しかできないという課題もある。
【0005】
一方、特定の結晶面に対し、所定のオフ角(傾斜角)を設けた主面を有する単結晶基板を、適当な条件で熱処理すると、その表面に、前記結晶面と前記オフ角に応じた、特定のファセット面を有する、略等間隔の段差構造(ステップバンチ)が形成される。例えば、特許文献4には、c面、a面、m面又はr面から所定角度傾斜しているサファイア基板を、大気雰囲気下で熱処理を行うことで、ステップバンチが形成されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-147054号公報
【文献】特開2018-61226号公報
【文献】特開2005-47718号公報
【文献】特開2004-235794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示は、圧電基板と支持基板との接合強度が高く、接合面でのバルク波の反射を低減した複合基板および圧電素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の複合基板は、圧電基板とサファイア基板とが直接接合された複合基板であって、前記サファイア基板の接合面にステップバンチ構造を有する。本開示の圧電素子は、前記複合基板を備える。本開示の複合基板の製造方法は、圧電基板と、特定の結晶面に対し所定のオフ角を有する表面を備えたサファイア基板とを準備する、準備工程と、前記サファイア基板を酸化雰囲気中で熱処理して、該サファイア基板の前記表面にステップバンチを形成する、熱処理工程と、前記圧電基板と前記サファイア基板の前記表面とを、直接接合する、接合工程とを備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、圧電基板と支持基板との接合強度が高く、接合面でのバルク波の反射を低減した複合基板および圧電素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の一実施形態に係る複合基板を示す概略断面図である。
図2図1に示す複合基板の要部を示す、図面に代わる原子間力顕微鏡(AFM)画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の複合基板および圧電素子について、図を参照しながら説明する。
【0012】
<複合基板と圧電素子>
図1に、本開示の一実施形態に係る複合基板1の概略断面図を示す。複合基板1は、圧電基板2とサファイア基板3とが直接接合された複合基板であって、サファイア基板3の圧電基板2と接合されている接合面3aにステップバンチ構造を有する。本開示の一実施形態に係る圧電素子は、複合基板1を備える。圧電素子としては、発振回路等に用いられる発振子、フィルタ回路等に用いられる、表面弾性波素子、境界弾性波素子、バルク波素子等の弾性波素子等が挙げられる。
【0013】
以下、一実施形態に係る複合基板1の詳細について説明する。複合基板1は、対向する第1面2aおよび第2面2bとを有する圧電基板2と、対向する第3面3aおよび第4面3bとを有するサファイア基板3とを有している。そして、第2面2bと第3面3aとが互いに対向し合い、直接接合されている。圧電基板2の第1面2aには素子電極が形成され、表面弾性波素子などの圧電素子用の複合基板1として用いられる。以下の説明では、便宜上、圧電基板2が弾性表面波素子用の基板である例を挙げて説明している。圧電基板2は、これに限らず、振動センサ等のセンサ用基板または発信子用の基板等の他の用途や機能の基板でもよい。
【0014】
直接接合とは、圧電基板2とサファイア基板3とが、接着剤などを介さず、直に接して接合していることをいう。具体的な接合形態としては、拡散接合などが挙げられる。
【0015】
複合基板1は、第1面2aが素子電極等の素子形成面、第2面2bおよび第3面3aが接合面、第4面3bが裏面である。素子形成面は、上記のように素子電極等の機能部分が位置する部分である。素子電極は、例えば互いにかみ合うように位置しているくし歯状電極である。くし歯電極間の表面弾性波により、くし歯電極間で伝送される信号のフィルタリング等が行われる。
【0016】
従来、複合基板を備えた表面弾性波素子では、通過帯域(バンドパスフィルタが信号を減衰させずに通過させる周波数帯域)より高い周波数にスプリアスと呼ばれるノイズが発生するという問題があった。このノイズは、圧電基板2とサファイア基板3(支持基板3)の接合界面におけるバルク波の反射に起因する。
【0017】
本開示の複合基板1は、サファイア基板3の圧電基板2と接合されている接合面3aにステップバンチを有する。ステップバンチは、特定の結晶方位のファセット面を有する、略等間隔のステップ構造である。サファイア基板3の接合面3aにステップバンチを有するため、接合面3aでバルク波の一部が吸収される。その結果、素子形成面2a(つまりは素子電極等の機能部分)に向かう反射バルク波が低減される。したがって、ノイズの発生を効果的に低減することができる。
【0018】
さらに、ステップ構造により、サファイア基板3と圧電基板2との接合の強度を高めることもできる。したがって、圧電基板2とサファイア基板3との接合強度が高く、接合面3aでのバルク波の反射を低減した複合基板1を提供できる。
【0019】
第3面3aの、X線ロッキングカーブの半値幅は、例えば0.1°以下であればよく、さらに0.05°以下であってもよい。つまり、結晶欠陥および残留応力が比較的小さい。これにより、圧電基板2とサファイア基板3との接合強度の低下をより効果的に低減することができ、バルク波の反射をさらに低減することができる。X線ロッキングカーブは、X線回折装置(XRD装置)を用いて測定できる。
【0020】
ステップバンチは、c面、a面、m面、r面などの特定の結晶面に対し、所定のオフ角を有する第3面3aを備えたサファイア基板3を、適当な条件で熱処理することで形成できる。例えば、c面から所定のオフ角を有する第3面3aを備えたサファイア基板3を、熱処理することで、上面がc面であるステップバンチが形成される。
【0021】
図2に、ステップバンチを有するサファイア基板2の原子間力顕微鏡(AFM)画像を示す。画像(写真)とあわせて、画像の三角図形で示す線に沿った解析グラフを示している。図2に示すサファイア基板2では、約200nmのステップ幅、約2nmのステップ高さで、ステップバンチが形成されている。ステップ幅は、解析グラフの測定線上の各ステップの幅(間隔)の平均値、つまり測定線の長さをステップ数で除した値であり、ステップ高さは解析グラフの測定線上の隣り合うステップ同士の縦軸方向の距離の平均値である。
【0022】
第3面3aにおいて、ステップを略垂直に横切る方向の線粗さ曲線における、算術平均粗さRaが0.05nm~2.0nmであると特によい。ステップを略垂直に横切る方向とは、ステップ間の横方向距離が最も小さくなる方向、つまり、第3面3aが特定の結晶方位面(例えばc面)から最も傾いている方向である。この場合の垂直は、必ずしも、幾何学的な定義上の垂直である場合(交差角が正確に90°である場合)には限定されず、±5°程度のずれた場合を含む。ステップバンチは、オフ角と熱処理条件の制御によって、ステップ形状(幅と高さ)の制御が可能である。c面、a面、m面、またはr面からのオフ角は、2°以下、特に好ましくは1°以下である。ステップの幅と高さは、それぞれ50nm~2μmおよび0.2nm~10nmである。
【0023】
算術平均粗さRa、ステップの幅および高さは、例えば、原子間力顕微鏡(AFM)を用い、測定範囲を約4μm2として測定できる。ステップの幅および高さは、測定範囲内で複数のステップを略垂直に横切る直線上の各ステップの幅(ピッチ)と高さ(段差)の平均値から求めるとよい。
【0024】
圧電基板2は、タンタル酸リチウム(LT)、ニオブ酸リチウム(LN)、酸化亜鉛、水晶などの圧電性を有する材料からなる。支持基板3は、サファイア基板3である。サファイアは機械的強度、絶縁性、放熱性に優れ、支持基板として好適である。圧電基板2の第1面2aは、算術平均粗さRaが1nm以下であると、良好な素子特性が得られる。サファイア基板3の第4面3bは、算術平均粗さRaが1μm以上であると、第4面3bにおけるバルク波の反射が低減できるので、素子特性の向上に関しては有効である。
【0025】
<複合基板の製造方法>
以下、本開示に係る複合基板の製造方法について説明する。本開示の一実施形態に係る複合基板の製造方法は圧電基板2と、c面、a面、m面、r面などの特定の結晶面に対し、所定のオフ角を有する第3面3aを備えたサファイア基板3を準備する準備工程と;サファイア基板3を、酸化雰囲気中で熱処理して、第3面3aにステップバンチを形成する熱処理工程と;圧電基板2とサファイア基板3の第3面3aとを直接接合する接合工程と;を備える。以上の工程により、例えば図1に示すような複合基板を製作することができる。各工程において用いられる部材は図1に示す部材と同様であるため、製造方法についての図示は省略する。
【0026】
以下、一実施形態に係る複合基板の製造方法の詳細について説明する。まず、対向する第1面2aおよび第2面2bを有する圧電基板2と、対向する第3面3aおよび第4面3bを有するサファイア基板3とを準備する。第1面2aが素子形成面、第2面2bおよび第3面3aが接合面、第4面3bが裏面となる。サファイア基板3は、適当な育成方法で育成されたインゴット状、またはリボン状のサファイア単結晶体を、c面、a面、m面、r面などの特定の結晶面に対し、所定のオフ角を有するように切断して作製される。圧電基板2の第2面2bおよびサファイア基板3の第3面3aは、ラッピング装置などを用いて平坦化加工される。第3面3aの算術平均粗さRaが、0.1μm以下となるように加工すると、良質なステップバンチが得られる。
【0027】
次に、サファイア基板3の少なくとも第3面3aを大気雰囲気などの酸化雰囲気中で熱処理する。例えば、大気雰囲気処理であれば、1000℃~1400℃で1時間~24時間の熱処理を実施する。この処理により、第3面3aにステップバンチが形成される。第3面3aのオフ角と処理温度と処理時間とを適宜選択することにより、所望の形状(幅と高さ)を有するステップバンチ形状を得ることができる。
【0028】
ラップ加工などの機械的加工では、加工表面に結晶欠陥、残留応力を多く含む加工変質層が存在するのに対し、ステップバンチを備える第3面3aは、結晶欠陥、残留応力が比較的少ないので、ラップ加工などの機械的加工による凹凸構造と比べて、複合基板1の接合強度が大きくなる。ステップバンチは、異方性エッチングによる凹凸構造と異なり、基板の材質、結晶方位の選択の自由度が高い。さらに、オフ角の制御によって、ステップ形状(幅と高さ)の制御も可能である。
【0029】
次に、圧電基板2の第2面2bおよびサファイア基板3の第3面3aの少なくとも一方を、プラズマ処理などの方法で活性化処理する。そして、圧電基板2とサファイア基板3とを接着材料を用いない直接接合によって接合する。例えば、圧電基板2とサファイア基板3とを真空中、大気中または所定の雰囲気中で加熱および(または)加圧して接合界面の原子を拡散させて、拡散接合する。先の活性化処理により、接合時の温度を低くすることができるので、圧電基板2とサファイア基板3の熱膨張率差に起因する、破損や加工精度不良の原因を低減することができる。
【0030】
圧電基板2とサファイア基板3との直接接合では、圧電基板2とサファイア基板3との間の原子の拡散による拡散接合が用いられる。サファイア基板3が第3面3aにステップバンチを有していると、接合強度が向上する。圧電基板2とサファイア基板3とを接合した後、ラッピング加工などによって、サファイア基板3の厚みを薄くしてもよい。この場合、サファイア基板3を第4面3b側から上記加工で除去する。ラッピング加工などによって、圧電基板2の厚みを薄くしてもよい。圧電基板2の第1面2aは、CMP加工等により、算術平均粗さRaが、1nm以下となるように加工すると好適である。
【0031】
以上、本開示の実施形態について説明した。しかし、本開示は上述の実施形態に限定されず、本開示の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良および変更を行なってもよい。
【符号の説明】
【0032】
1 :複合基板
2 :圧電基板
2a:第1面(素子形成面)
2b:第2面(圧電基板の接合面)
3 :サファイア基板
3a:第3面(サファイア基板の接合面)
3b:第4面(裏面)
図1
図2