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特許7163399CD47とPD-L1を標的にする二重機能の融合タンパク質
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-21
(45)【発行日】2022-10-31
(54)【発明の名称】CD47とPD-L1を標的にする二重機能の融合タンパク質
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20221024BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20221024BHJP
   C07K 16/30 20060101ALI20221024BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20221024BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221024BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20221024BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20221024BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20221024BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/46 ZNA
C07K16/30
A61K38/17
A61P35/00
A61P37/02
A61K47/68
A61K39/395 U
A61K39/395 T
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020545405
(86)(22)【出願日】2017-11-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-13
(86)【国際出願番号】 CN2017111828
(87)【国際公開番号】W WO2019095358
(87)【国際公開日】2019-05-23
【審査請求日】2020-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】520165858
【氏名又は名称】泰州▲邁▼博太科▲薬▼▲業▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】TAIZHOU MABTECH PHARMACEUTICAL CO., LTD
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】郭▲亜▼▲軍▼
【審査官】鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-525698(JP,A)
【文献】国際公開第2017/027422(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第106519036(CN,A)
【文献】国際公開第2016/187226(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/196298(WO,A1)
【文献】特表2016-501896(JP,A)
【文献】Oncotarget,2017年05月02日,Vol. 8, No. 31,pp. 51037-51049
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
A61K 9/00-9/72
A61K 47/00-47/69
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二重機能融合タンパク質が、ジスルフィド結合で連結する二つの部分で構成され、その一つの部分は、SIRPα変異体と抗体のFcを接続することによって形成されたCD47結合部分であり、もう一つの部分は、抗PD-L1抗体の一つの重鎖と一つの軽鎖をジスルフィド結合で結合することによって形成されたPD-L1結合部分であり、
前記CD47結合部分のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:1であり、
前記二重機能融合タンパク質が、前記CD47結合部分と前記PD-L1結合部分によって形成されたKnob-in-Hole構造を有し、
前記CD47結合部分のFcは、Y349C、T366S、L368A、及びY407Vである、4個のアミノ酸突然変異を有し、
前記PD-L1結合部分のFcは、T366W、及びS354Cである、2個のアミノ酸突然変異を有し、
前記PD-L1結合部分の軽鎖のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:2であり、重鎖のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:3である、
ことを特徴とする二重機能融合タンパク質。
【請求項2】
前記CD47結合部分のFc及び前記PD-L1結合部分のFcは、いずれもIgGサブタイプであることを特徴とする請求項に記載の二重機能融合タンパク質。
【請求項3】
前記CD47結合部分のFc及び前記PD-L1結合部分のFcは、いずれもIgG1サブタイプであることを特徴とする請求項に記載の二重機能融合タンパク質。
【請求項4】
前記CD47結合部分は、Knob-in-Hole構造におけるHole構造を有し、前記PD-L1結合部分の重鎖は、前記Hole構造と合わせるKnob構造を有することを特徴とする請求項1に記載の二重機能融合タンパク質。
【請求項5】
前記CD47結合部分のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:4である;前記PD-L1結合部分の軽鎖のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:5であり、重鎖のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:6であることを特徴とする請求項1に記載の二重機能融合タンパク質。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一つに記載の二重機能融合タンパク質の、腫瘍を予防・治療する医薬品の調製における使用。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一つに記載の二重機能融合タンパク質の、免疫を調節する医薬品の調製における使用。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一つに記載の二重機能融合タンパク質の、CD47を標的にする医薬品の血液毒性を低下する医薬品の調製における使用であって、
前記低下が、SIRPα変異体-Fc'と比較した低下であって、前記SIRPα変異体-Fc'のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:7である、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物医薬の分野に属し、詳しくは、CD47分子とPD-L1分子を標的にする組換え融合タンパク質に関わる。
【背景技術】
【0002】
がん細胞の「免疫回避」は、腫瘍の発生、発展と薬剤耐性に関する主な機構と考えられる。一般的に、腫瘍が、直接又は間接にT細胞のシグナルを阻害することより、免疫系の除去から自身を守る。腫瘍の免疫チェックポイント療法(immune chenkpoint therapy)は、シグナルを共抑制または共刺激することなどの一連の経路で、T細胞の活性を調節することより、抗腫瘍の免疫応答を向上する治療方法である。
【0003】
免疫チェックポイントは、免疫応答過程における共刺激と共抑制分子が、「オン」又は「オフ」という免疫応答シグナルを発信することにより、T細胞応答の振幅と持続時間を調節し、自己耐性を維持する上で重要な役割を果たし、自分の組織への損傷を防ぐ。これまでに発見されている免疫チェックポイント分子は、PD-1/PD-L1、CD47/SIRPα、CTLA-4/CD80/CD86などである。
【0004】
(1)PD-1/PD-L1
PD-1(Programmed Cell Death Protein 1、プログラム細胞死タンパク質1)は、細胞表面受容体であり、T細胞とプレB細胞の表面に発現され、活性化されたT細胞には発現を向上させ、PD-L1とPD-L2の二つのリガンドと結合することをできる。PD-1は、負の調節機能を有する免疫チェックポイントタンパク質であり、T細胞の活性化を防止でき、自身免疫の低下と免疫耐受の促進には重要な役割を果たす。PD-1の機能が、二つの経路で達成し、一つは、リンパ節における抗原特異性T細胞のアポトーシスを促進すること、もう一つは、調節性T細胞(Treg、制御性T細胞ともいう)のアポトーシスを低下することである。
【0005】
PD-L1(Programmed Death-Ligand 1、プログラム死リガンド1)は、PD-1のリガンドの一つであり、膜貫通タンパク質に属し、主に胎盤、心臓、肝臓、肺、腎臓、骨格筋といくつかの造血組織といくつかの白血病細胞株に発現する。PD-L1とPD-1が結合し、受容体リガンド複合体を形成した後に、抑制シグナル(IL-10産生を誘導し、抗アポトーシス遺伝子bcl-2をダウンレギュレートして抗原特異的T細胞のアポトーシスを促進し、リンパ節におけるCD8+T細胞の増殖を阻害することなどを含む)を発信する。PD-L1は、いくつかの特別な場合(妊娠、組織移植、自己免疫疾患、肝炎など)における免疫系の抑制に関連する。PD-L1はPD-1を強い親和性(KD値770nM)で結合できるだけでなく、CD80を弱い親和性(KD値1.4μM)で結合することもできる。
【0006】
PD-L1はさまざまな腫瘍細胞の表面に発現し、腫瘍細胞が免疫系の殺傷を回避できるようになることを見出したため、抗腫瘍免疫療法の標的として使用できる。
【0007】
(2)CD47/SIRPα
CD47(白血球分化抗原47)はインテグリン関連タンパク質(インテグリン関連タンパク質、IAP)とも呼ばれ、膜インテグリンを伴う膜貫通タンパク質であり、トロンボスポンジン-1(トロンボスポンジン-1、TSP-1)およびシグナル調節タンパク質α(シグナル調節タンパク質α、SIRPα)にも結合する。CD47は、ヒト細胞で広く発現し、かつさまざまな腫瘍細胞で過剰発現し、細胞のアポトーシス、増殖、接着、遊走などのさまざまな細胞活動に関与している。
【0008】
SIRPαは、膜貫通受容体糖タンパク質であり、マクロファージ、樹状細胞などの骨髄細胞表面の免疫細胞に特異的に発現し、免疫に負の調節効果があり、CD47と組み合わせると、食作用とT細胞活性化を阻害できる。
【0009】
CD47とSIRPαが組み合わると、「Don't eat me」(私を食べないで)というシグナルを免疫系に発信し、この機構は、免疫系によって誤って殺されることから人体の正常な細胞を保護することができるが、腫瘍細胞が免疫回避の目的を達成するために利用される可能性もある。
【0010】
現在、イピリムマブ(抗CTLA-4)、ニボルマブ(抗PD-1)、ペンブロリズマブ(抗PD-1)、アテゾリズマブ(抗PD-L1)、アベルマブ(抗PD-L1)、デュルバルマブ(抗PD-L1)、およびその他の免疫チェックポイント薬は、ヨーロッパおよびアメリカの医薬品局により販売が承認されている。
【0011】
しかし、免疫チェックポイント薬には次のような問題がある:
PD-1/PD-L1シグナル伝達経路はT細胞のエフェクター段階にのみ作用するため、抗PD-1/PD-L1薬物効果には腫瘍抗原の提示が必要で、臨床的には、この治療法は低免疫原性腫瘍の約70%には効果がないことが多く、化学療法、放射線療法、モノクローナル抗体薬と組み合わせる必要がある;さらに、がん細胞は、異なる経路または複数の経路を介して免疫回避を達成することがあるが、PD-1/PD-L1経路を単に遮断するだけでは、一部のがん細胞の免疫回避に効果がない場合がある。
【0012】
CD47を標的とする抗体が、マクロファージを活性化し、T細胞抗原提示を増強するなどの機能を持ち、抗PD-1/PD-L1と機能的に相補的である。ただし、CD47の発現は厳密には腫瘍特異的ではなく、また、健康な赤血球の表面でも発現し、腫瘍細胞の表面でのCD47の発現は正常細胞の3.3倍しかないため、体内でのCD47抗体の使用は、貧血などの副作用を引き起こすことがよくある。副作用を軽減するために、CD47に高い親和性を持つSIRPα変異体は、治療のために他の抗体と組み合わせてFcモノマーなしの形で免疫増強剤としてのみ使用できる。
【0013】
免疫原性の低い重鎖に対する抗PD-1/PD-L1薬の有効性を改善し、および/またはCD47を標的にする薬の血液毒性を低減できると、悪性腫瘍の治療効果を改善することには、非常に重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、医薬品を提供し、当該医薬品が、抗腫瘍免疫の異なる段階で抗PD-1/PD-L1および抗CD47/SIRPα免疫チェックポイント薬を組み合わせて、相乗効果を形成し、単一の薬物よりも高い効率と強い効果を生み出し、薬物の腫瘍細胞ターゲティングを改善し、血液毒性を低減し、既存の免疫チェックポイント薬の有効性または安全性の欠点を解決する。
【0015】
具体的に、本発明が、CD47とPD-L1を標的にする二重機能の融合タンパク質を提供し、PD-L1に結合しPD-1/PD-L1シグナル伝達経路を遮断するだけでなく、CD47に結合しCD47/SIRPαシグナル伝達経路を遮断することもでき、優れた癌細胞ターゲティングと細胞毒性を有し(たとえばADCC、CDC)、既存の免疫チェックポイント薬の有効性または安全性の欠点を解決する。
【0016】
本発明はさらに、CD47を標的とする薬物の血液毒性を低減する方法を提供し、当該方法が、CD47を標的とする薬物と赤血球との組み合わせによって引き起こされる貧血などの副作用を低減することができる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の技術案は以下の通り:
CD47分子に結合しつつ、PD-L1分子に結合できるCD47とPD-L1標的にする二重機能融合タンパク質。
【発明の効果】
【0018】
本発明のCD47およびPD-L1を標的とする二機能性融合タンパク質は、マクロファージを活性化し腫瘍細胞を飲み込み、初期の自然免疫における腫瘍抗原提示を改善する役割と、獲得免疫における腫瘍特異的T細胞活性化および増殖の促進に役割とを有しつつ、単一の抗CD47薬よりも腫瘍細胞ターゲティングが良好で、血液毒性が少ない;動物実験によると、それが単独に抗PD-L1または抗CD47を使用する治療より、優れた抗腫瘍効果と血液安全性を示し、IAB治療後に腫瘍が消失した個人は、その後接種される同じタイプの腫瘍細胞に対する免疫力も有する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】IgGタイプの抗体の構造を示す模式図である。
図2】CD47とPD-L1を標的にする二重機能融合タンパク質IABの構造を示す模式図である。
図3】CD47とPD-L1を標的にする二重機能融合タンパク質IABの非還元SDS-PAGE電気泳動図である。
図4】CD47とPD-L1を標的にする二重機能融合タンパク質IABの還元性SDS-PAGE電気泳動図である;
図5】質量分析で測定されたIABの完全なタンパク質分子量及び主なグリコフォームを示す。
図6】IAB融合タンパク質と単一特異性抗PD-L1抗体anti-PDL1'がPD-L1と競合的結合することを示す。
図7】IAB融合タンパク質とSIRPαに高い親和力を持つ変異体Fc融合タンパク質が、CD47と競合的結合することを示す。
図8】IAB融合タンパク質が、SEBで刺激されたPBMC細胞のIL-2放出量を向上することを示す。
図9】フローサイトメトリーで測定されたIAB融合タンパク質が、インビトロでRAW264.7がMC38細胞を飲み込むことを促進することを示す。
図10】蛍光顕微鏡で測定されたIAB融合タンパク質が、マウス骨髄由来のマクロファージがMC38細胞を飲み込むことを促進することを示す。
図11】指標細胞法で測定されたIAB融合タンパク質のADCC効果を示す。
図12】100mg/kg薬品を腹腔内注射した後に、マウス血清中の赤血球含有量を示す。
図13】100mg/kg薬品を腹腔内注射した後に、マウス血液中のヘマトクリット含有量を示す。
図14】100mg/kg薬品を腹腔内注射した後に、マウス血液中のヘモグロビン含有量を示す。
図15】IAB融合タンパク質がBalb/cマウスMC38腫瘍モデルを治療する実験結果を示す。
図16】IAB融合タンパク質がBalb/cマウス二次接種MC38腫瘍細胞を予防する実験結果を示す。
図17】IABが、MC38担癌マウス(マクロファージ欠損タイプ)を治療する実験結果を示す。
図18】IABが、MC38担癌マウス(CD8+T細胞欠損タイプ)を治療する実験結果を示す。
図19】フローサイトメトリーで検測されたMC38腫瘍細胞のIABタンパク質との結合能を示す。
図20】フローサイトメトリーで検測されたHL60白血病細胞のIABタンパク質との結合能を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
上述融合タンパク質(IABと呼ばれる)は、ジスルフィド結合で連結する二つの部分で構成され(図2)、その一つの部分は、CD47と結合でき、SIRPαに高い親和力を持つ変異体(SIRPα-mともいう)と抗体のFc区域を連結してなる(SIRPα-m-Fcともいう)ものである;もう一つの部分は、PD-L1と結合でき、抗PD-L1抗体の軽鎖(anti-PDL1-Lともいう)と重鎖(anti-PDL1-Hともいう)をジスルフィド結合で連結してなるものである。
【0021】
SIRPα-m-Fcとanti-PDL1-Hこの二つのペプチド鎖には、各に含有する抗体Fc区域は、いずれもIgGタイプであり、好ましくに、IgG1サブタイプである;IAB的組換え発現過程に不要な同種二量体を形成するために、SIRPα-m-Fcとanti-PDL1-Hこの二つのペプチド鎖のFc区域には、「ノブインホール」(Knob-in-Hole)は導入される。「ノブインホール」は、以下のように達成できる:anti-PDL1-Hペプチド鎖のFc区域に、IgG固有配列に基づき、2個のアミノ酸突然変異(T366W、S354C)を導入し、突き出ているKnob構造を形成し、SIRPα-m-Fcペプチド鎖のFc区域に、IgG固有配列に基づき、4個のアミノ酸突然変異(Y349C、T366S、L368A、Y407V)を導入し、凹んでいるHole構造を形成し、立体障害で相同対合を防止する(上記Fc区域のアミノ酸突然変異サイトが、KabatのEu番号付けシステム、すなわちEu numbering schemeを使用する)。
【0022】
より具体的に、SIRPα-m-Fcペプチド鎖が、SEQ ID NO:1のアミノ酸配列を有する;anti-PDL1-Lペプチド鎖が、SEQ ID NO:2のアミノ酸配列を有する、anti-PDL1-Hペプチド鎖が、SEQ ID NO:3のアミノ酸配列を有する。
【0023】
IABは、遺伝子工学で改造されたCHO(チャイニーズハムスター卵巣)細胞に発現されても良く、具体的に、IABは、CHO-K1細胞に発現され、使用される発現ベクターは、pcDNA3.1(+)である;SIRPα-m-Fcは、SEQ ID NO:4のヌクレオチド配列でコードされる;anti-PDL1-Lの軽鎖は、SEQ ID NO:5 のヌクレオチド配列でコードされ、anti-PDL1-Hは、SEQ ID NO:6のヌクレオチド配列でコードされる;遺伝子組換え方法より、SEQ ID NO:4、SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:6の配列をpcDNA3.1(+)のオープンリーディングフレーム(ORF)に挿入し、CHO-K1細胞を構築された標的タンパク質のコード配列を含有する発現ベクターでトランスフェクションし、その後、スクリーニングし、安定にIABを発現する細胞株を得、IABの発現に使用する。
【0024】
上記のCD47とPD-L1を標的にする二重機能融合タンパク質は、腫瘍を予防・治療する医薬品と免疫を調節する医薬品の製造に使用されてもよい。
抗体(antibody)とは、身体の免疫系が、抗原の刺激下でBリンパ球から分化した形質細胞によって産生され、対応する抗原に特異的に結合することができる免疫グロブリンであり、また、インビトロで、ハイブリドーマや遺伝子工学および他の方法によって調製することができる。物理化学性質と生物学的な機能によって、抗体は、IgM、IgG、IgA、IgE、IgDの五種類に分けられる。IgG(Immunoglobulin G)タイプの抗体は、血清の主要な抗体成分であり、血清免疫グロブリンの約75%を占め、国内外の既存の抗体医薬品の主なタイプである。
【0025】
一般に、一つの完全なIgGタイプの抗体は、4つのペプチド鎖(図1)で構成され、ジスルフィド結合によって対称な2つの重鎖(Heavy Chain)と2つの軽鎖(Light Chain)を含む。各軽鎖は可変領域VLと定常領域CLで構成され、重鎖は可変領域VHと定常領域CHで構成される。IgGタイプの抗体の重鎖定常領域は、CH1、CH2、CH3の3つの部分に分けられる。軽鎖および重鎖の可変領域VLおよびVHは、抗原に結合する部分であり、重鎖のCH2およびCH3領域は、補体、Fc受容体、プロテインAに結合する機能と、ADCC(抗体依存性細胞傷害)やCDC(補体依存性細胞傷害)などの免疫効果を誘導する機能を持っている;CH2領域には、N結合型グリコシル化部位N297があり、当該サイトのグリコシル化修飾は、抗体の細胞傷害などに重要な影響を及ぼし、グリコシル化修飾を除去すると、ADCCなどの細胞傷害機能が失われる可能性がある。軽鎖と重鎖は、CLおよびCH1領域のジスルフィド結合によって連結される;重鎖には、CH1とCH2の間に伸縮・湾曲可能なヒンジ領域があり、抗体の2つの重鎖は、ヒンジ領域のジスルフィド結合によって連結される。抗体がパパインによって消化された後、2つのFab区域(fragment of antigen binding、抗原結合フラグメント)と1つのFc区域(fragment crystallizable、結晶化可能なフラグメント)が形成され、Fab区域は完全な軽鎖と重鎖のVHとCH1を含み、Fc区域はCH2とCH3を含む。
【0026】
ヒトIgGには、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4の4つのサブタイプがある。その中でも、IgG1は、ADCCおよびCDC効果を誘発する強い能力と、長い血清半減期を有し、抗体薬に最もよく見られる抗体サブタイプである(たとえば、リツキシマブ(抗CD20)、トラスツズマブ(抗HER2));IgG2とIgG4は、ADCCおよびCDC効果を誘発する弱い能力と、長い血清半減期を有して、シグナルの遮断・制御または中和を主な作用機構とする抗体医薬品の開発に使用できる(たとえば、ニボルマブ(抗PD-1)、ペンブロリズマブ(抗PD-1))。
【0027】
一つの抗体分子が2つの異なる抗原CD47とPD-L1を標的にすることを可能になるために、本発明は遺伝子工学技術を通じて抗体構造を改変し、抗体構造に似ている非対称融合タンパク質を構築した(図2)。融合タンパク質は、CD47結合部分とPD-L1結合部分で構成され、それらの二つの部分は、ジスルフィド結合で連結される;ただし、CD47結合部分は、CD47に高い親和力を持つSIRPα変異体(SIRPα-m)と抗体のFc区域(主にCH2とCH3領域)を接続することによって形成され、PD-L1結合部分は、抗PD-L1抗体の一つの重鎖と一つの軽鎖をジスルフィド結合で結合することによって形成される。
【0028】
融合タンパク質のSIRPα変異体(SIRPα-m)は、内因性天然SIRPαタンパク質よりもはるかに高い親和力でCD47抗原に結合できるために、クロファージの表面の天然のSIRPαと癌細胞の表面上のCD47抗原の結合をブロックし、癌細胞によるマクロファージの食作用の阻害および回避を解除することができる。
【0029】
抗PD-L1抗体は、癌細胞の表面に高いレベルで発現するPD-L1に高い親和力で結合できるから、癌細胞表面のPD-L1と活性化T細胞表面のPD-1の結合をブロックし、癌細胞による活性化T細胞の阻害と回避を解除することができる。
【0030】
また、PD-L1は癌細胞の表面で高いレベルで発現しているため、抗PD-L1ターゲティングはより強力で、CD47の特異性が低いと抗CD47治療の血液毒性という欠点を補足する;実験では、IABの血液毒性は、SIRPα-mとFcで構成される融合タンパク質よりもはるかに低く、安全性が高いことが示されている。
【実施例
【0031】
〔実施例1〕CD47とPD-L1を標的にする二重機能融合タンパク質IABの構築、発現
SEQ ID NO:4(SIRPα変異体と抗体Fc区域が連結してなる融合ペプチドフラグメントをコードし、Y349C、T366S、L368A、Y407Vが突然変異して形成したHole構造を有するもの)、SEQ ID NO:5(抗PD-L1抗体の軽鎖をコードするもの)、SEQ ID NO:6(抗PD-L1抗体の重鎖をコードし、T366W、S354Cが突然変異して形成したKnob構造を有するもの)のヌクレオチド配列から、それぞれに相応するDNAフラグメントを合成し、遺伝子工学技術でpcDNA3.1(+)ベクターに挿入し、発現ベクターとするpcDNA3.1-SIRPα-m-Fc、pcDNA3.1-antiPDL1-LとpcDNA3.1-antiPDL1-Hを構築し、リポソーム法で、3個の発現ベクターをCHO-K1にコトランスフェクトし、ホスト細胞に発現し、トランスフェクトされた細胞を、20%ウシ胎児血清FBSを含むDMEM完全培地(Invitrogen社)に24時間培養し、その後、1mg/ml G418抗生素を含む選択的培地に圧力スクリーニングし、続いて細胞を2週間培養した。限界希釈法でサブクローンスクリーニングを行った;Dot-Blot法で、細胞培養上清液における目標タンパク質の含有量(上清をニトロセルロースメンブレンにスポットし、ブロッキング後、西洋ワサビペルオキシダーゼHRPで標識されたマウス抗ヒトIg抗体を加え、ジアミノベンジジンDABで発色させた)を比較した後に、目標タンパク質とするIABの発現量が一番高いクローンをスクリーニングし、発現細胞株とした。
【0032】
発現細胞株を、異なる割合のDMEM完全培地とCHOM-B1無血清培地(上海邁泰君奥生物技術有限会社)からなる混合培地に継代・培養し、完全培地の割合を100%から世代ごとに0%まで低下し、その後、CHOM-B1無血清培地に続いて培養・継代した。細胞培養の体積が6Lまで拡大した時点で、継代を中止し、流加培養を行い、毎日に2g/Lでグルコースを添加し、7日後上清を収集し、9000rpm、4℃で10min遠心し、沈殿を捨て、上清を0.2μmフィルムでろ過した後に、精製のために4℃に保存した。
【0033】
〔実施例2〕CD47とPD-L1を標的にする二重機能融合タンパク質IABの精製
Protein Aアフィニティークロマトグラフィーカラムで二重機能融合タンパク質IABを精製し、10倍カラム体積のバランス液(150mM NaClを含む20mMリン酸塩緩衝液、pH7.0)でカラムをバランスした後に、培養上清液をロードし、ロードしたから5~10倍カラム体積のバランス液で、導電率がバランスになるまで洗浄した。その後、溶離液(50mMクエン酸緩衝液、pH3.5)で溶離し、OD280が200mAUより大きくなったから、溶離ピークを收集した。1M Trisで、目標タンパク質を含む溶離液のpHを6.5~7.0に調整した後に、ゲル脱塩カラムで緩衝液(pH7.4リン酸塩緩衝液)を交換し、それから滅菌し、ろ過し、UV法でタンパク質濃度を検測した後に、将来の使用のために4℃に保存した。
【0034】
〔実施例3〕CD47とPD-L1を標的にする二重機能融合タンパク質のSDS-PAGE電気泳動同定
精製された抗体サンプルを、それぞれに非還元(8%の分離ゲル)と還元(12%の分離ゲル)の条件において、ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS-PAGE)で完全なタンパク質分子量と還元分子量を検測し、試薬を調製・操作する方法について、《分子クローン実験指南》を参照し、電気泳動の結果を明細書図面の図3(非還元SDS-PAGE)と図4(還元SDS-PAGE)に示す。
【0035】
図3の非還元SDS-PAGE電気泳動図には、目標タンパク質とするIABの完全なタンパク質分子量は、約120KDaである;図4の還元SDS-PAGE電気泳動図には、IABタンパク質の重鎖(anti-PDL1-H)部分の分子量は、約50kDaであり、融合ペプチド鎖(SIRPα-m-Fc)部分の分子量は、約40kDaであり、軽鎖(anti-PDL1-L)部分は、25KDaであり、基本的に、理論的な期待に一致する;図4には、融合ペプチド鎖(SIRPα-m-Fc)が、分子量40KD前後の二つのバンドを表し、この現象は、翻訳後修飾と空間構造が電気泳動に対する影響に関連している可能性がある。
【0036】
〔実施例4〕液体クロマトグラフィータンデム質量分析法でIABの完全なタンパク質分子量及び主なグリコフォームを測定する
発現・精製されたIAB融合タンパク質を50mMのNH4HCO3溶液へ脱塩し、UV法で脱塩されたタンパク質溶液を定量化した(50mM NH4HCO3をブランクコントロールとして、消散係数は1.60である)。脱塩されたタンパク質溶液を、50mMのNH4HCO3の添加で1mg/mLまで希釈し、ロードした。
【0037】
液相クロマトグラフィー条件:液相装置Waters ACQUITY UPLC システム;クロマトグラフィーカラム仕様BEH 300.4 C4 1.7um,2.1×50mm;カラム温度60℃;サンプル室温度15℃;流速0.4mL/min;移動相Aは、99.9%水+0.1%ギ酸;移動相Bは、99.9%アセトニトリル+0.1%ギ酸;ロード体積5μL;検測器ESI-Q-TOF。
【0038】
質量分析条件:質量分析装置Waters;ソース温度120℃;キャピラリー電圧設定3000V;第一コーン電圧設定40V;第二コーン電圧設定4V;コーンガス速度50L/H;取得時間範囲3~15min;脱溶剤温度設定400℃;質量設定範囲500~3000m/z;収集質量範囲500~3000m/z;スキャン時間1.0S。
【0039】
測定結果として、図5を参照し、IABの翻訳後修飾の主なグリコフォームが、-2KG0F(2)(分子量113785)、-2KG0FG1F(分子量113949)、-2KG1F(2)(分子量114114)、G0G2F(114216)であり、明らかな悪いグリコフォームがない。それらの分子量は、理論的な分子量(翻訳後修飾)と一致する。
【0040】
〔実施例5〕コントロールとするSIRPα-m-Fc'とanti-PDL1'の調製と同定
SEQ ID NO:9(SIRPαに高い親和力を持つ変異体SIRPα-mとIgG1抗体Fc区域が連結してなる融合ペプチドフラグメントをコードするが、「Hole」構造を有しない)、SEQ ID NO:10(抗PD-L1抗体の重鎖をコードするが、「Knob」構造を有しなく、かつN297Aの突然変異でFc区域のグリコシル化修飾を除去した)のヌクレオチドから、相応するDNAフラグメントを合成し、それぞれにpcDNA3.1ベクターに挿入し、発現ベクターとするpcDNA3.1-SIRPα-m-Fc'とpcDNA3.1-antiPDL1-H'を構築した。
【0041】
pcDNA3.1-SIRPα-m-Fc'を、実施例1と同じ方法で、CHO-K1にトランスフェクトし、ホスト細胞を発現し、高い発現レベルを有する細胞株をスクリーニングし、実施例1、2におけるタンパク質の発現と精製方法で、コントロールとするSIRPα-m-Fc融合タンパク質を製造し、当該タンパク質は、SIRPα-m-Fc'と名づけられ、SEQ ID NO:7のアミノ酸配列を有する。
【0042】
pcDNA3.1-antiPDL1-H'と実施例1で製造されたpcDNA3.1-antiPDL1-Lを、実施例1と同じ方法で、CHO-K1にコトランスフェクトし、ホスト細胞に発現し、高い発現レベルを有する細胞株をスクリーニングし、実施例1、2におけるタンパク質の発現と精製方法で、コントロールとする抗PD-L1抗体を製造し、当該抗体は、anti-PDL1'と名づけられ、SEQ ID NO:8のアミノ酸配列を有する。
【0043】
〔実施例6〕IAB融合タンパク質の抗原結合力を測定する
(1)競争ELISA法でIABとヒトPD-L1の結合力を測定する
anti-PDL1'はビオチン(Biotin)で標識され、使用に備えた。組換え発現されたヒトPD-L1-Fc融合タンパク質を、0.1M NaHCO3溶液(pH9.6)で5μg/mlまで希釈し、100μL/ウェルの量でマイクロプレートをコーティングし、洗浄し、ブロッキングした後に、ウェルごとにビオチンで標識されたanti-PDL1'と勾配希釈された競争物を加え、競争物は、標識されないanti-PDL1'或いは実施例2に製造されたIABタンパク質であり、競争物の濃度は、1μg/mlから、二倍に希釈し、濃度ごとに三つのウェルを使用し、37℃で1時間インキュベート後に、反応液を捨て、プレートを洗浄しアビジンで標識された西洋ワサビペルオキシダーゼ(Avidine-HRP)を加え、基質TMBと発色反応を行い、OD 450nmにおける吸光値を測定し、結果をプロットし、図6を参照する;図において、横軸は、競争物濃度(ng/mL)で、縦軸は、OD値で、中空三角形は、anti-PDL1'の競争データで、黒丸は、IABの競争データである。
【0044】
【表1】
【0045】
(2)競争ELISA法でIABとヒトCD47の結合力を測定する
同じ方法でIABタンパク質とCD47の結合力を測定した;マイクロプレートをコーティングした抗原は、組換え・発現されたヒトCD47タンパク質であり、ビオチンで標識されたSIRPα-m-Fc'と勾配希釈された競争物を加え、競争物は、標識されないSIRPα-m-Fc'或いは実施例2に製造されたIABタンパク質であり、競争物の濃度は、1μg/mlから、二倍に希釈し、濃度ごとに三つのウェルを使用し、インキュベート後に西洋ワサビペルオキシダーゼとTMBで発色し、OD 450nmにおける吸光値を測定し、結果をプロットし、図7を参照する;図において、横軸は、競争物濃度(ng/mL)で、縦軸は、OD値で、中空三角形は、anti-PDL1'の競争データで、黒丸は、IABの競争データである。
【0046】
【表2】
【0047】
図6図7の結果より、融合タンパク質IABが標的抗原とするPD-L1とCD47の両方に結合活性を持ち、かつプロトタイプの抗体またはリガンドと同じ結合エピトープを認識し、競合的な結合能力があることを示している。ただし、IABタンパク質と結合部位は「一価」であるため、その親和性(Affinity)は、プロトタイプの抗体またはリガンドの親和性よりも低くなる。IAB(IC50=11.76)とPD-L1の親和力は、anti-PDL1'(IC50=0.948)よりほぼ10倍に減少した;IAB(IC50=2.897)とCD47の親和力はSIRPα-m-Fc'(IC50=0.918)よりほぼ3倍に減少した。
【0048】
(3)フローサイトメトリーでIABタンパク質とがん細胞の結合能を測定する
フローサイトメトリーでそれぞれにIABタンパク質とMC38細胞(マウス結腸がん細胞)、HL60細胞(人白血病細胞)の結合状況を検測し、かつSIRPα-m-Fc'、anti-PDL1'をコントロールとし、検測結果について、図19図20(二つの図には、点線はブランクコントロール、実線はIABタンパク質、短い破線はanti-PDL1'、長い破線はSIRPα-m-Fc'を表示する)を参照する。検測結果より、IABタンパク質がMC38細胞およびHL60細胞の表面に結合できることを示している。
【0049】
〔実施例7〕CD47とPD-L1を標的にする二重機能融合タンパク質IABに媒介されるT細胞の活性化機能に対する研究
健康な人から20mlの静脈血を採取し、密度勾配遠心分離により末梢血単核細胞(PBMC)を分離し、10%FBSを含むRPMI1640培地に再懸濁し、96ウェル細胞培養プレートを1×10^5細胞/ウェルで広げ、異なる濃度(0.01ng/ml、0.1ng/ml、1ng/ml、10ng/ml、100ng/ml)のブドウ球菌エンテロトキシンB(SEB)と20μg/mL関連タンパク質(IAB、anti-PDL1'或いはSIRPα-m-Fc')を含むRPMI1640培地を各ウェルに添加し、37℃、5%CO2のインキュベーターで72時間インキュベートし、毎日顕微鏡を倒して細胞の状態を観察し、72時間後、培養上清を採取し、ELISAでIL-2分泌量を測定した。実験結果を図8に示し、SEBがPBMC細胞を活性化した後、IL-2の分泌量を増加し、特定の濃度範囲(0-100ng/mL)のSEBで用量依存曲線を示した。異なるSEB濃度で、IABグループとanti-PDL1'グループのIL-2の量は、SIRPα-m-Fc'よりも有意に高かった。IABが、インビトロでT細胞を活性化する機能を持っていることを証明した。
【0050】
〔実施例8〕CD47とPD-L1を標的にする二重機能融合タンパク質IABに媒介されるRAW264.7の体外食作用に対する研究
2×106のマウス結腸がん細胞株MC38を2000μLの5μM CSFE(2-カルボキシフルオレセインジアセテートスクシンイミドエステル、リビング蛍光染料)溶液で37°Cの暗所で20分間インキュベートした後、10mLの完全培地を加えて5分間インキュベートし、溶液から未結合のCSFEを除去した。標識された腫瘍細胞を遠心分離によって収集し、完全培地に再懸濁し、濃度が1×106/mLの腫瘍細胞懸濁液を作成した。
【0051】
24ウェルプレートの各ウェルに、濃度5×104細胞/mLのマウスマクロファージRAW264.7(ATCC TIB-71)懸濁液1mLを加え、マクロファージが壁に付着したら、ウェルプレートの培地を捨て、無血清培地を加えて2時間インキュベートした後、CFSEで標識された2×105腫瘍細胞を各ウェルに加え、同時に、最終濃度10μg/mLのIABタンパク質或いはコントロールとするSIRPα-m-Fc'、anti-PDL1'を添加し、静脈内ヒト免疫グロブリン(IgG1、山東泰邦生物製品有限会社)を注射し、37℃で2時間インキュベートした。
【0052】
トリプシンでマクロファージを消化し、遠心分離によりマクロファージを収集し、PBSで2回洗浄し、血球計算盤でカウントした後、細胞密度を1×106細胞/mLに調整し、1%FBSを含むPBSバッファーに再懸濁した;細胞懸濁液を100μL/チューブになるようにフロー分析チューブに加え、遠心し上清を捨て、フローチューブに100μLの蛍光標識抗体(PEで標識された抗マウスF4/80抗体)を加え、暗所で45分間氷上でインキュベートし、1%FBSを含むPBSバッファーで2回洗浄し、300μLのPBSに懸濁し、装置で検測した。PE単一陽性細胞はマクロファージ、CSFE単一陽性細胞はMC38腫瘍細胞、PEおよびCSFE二重陽性細胞はMC38細胞を飲み込むマクロファージであり、異なるタンパク質下のマクロファージの飲み込み率が計算された。
【0053】
実験結果を図9に示し、マクロファージ-腫瘍細胞共培養システムでは、陰性コントロール(IgG1)とanti-PDL1'を比較すると、共培養システムでのマクロファージ食作用効率はほぼ同じである(<10%)。陽性コントロール(SIRPα-m-Fc')とIAB融合タンパク質の場合、共培養システムでのマクロファージの食作用効率は大幅に向上でき、IAB融合タンパク質の食作用能力(36%)はSIRPα-m-Fc'(49%)よりも低い。同時に、anti-PDL1'が、マクロファージの食作用を促進する能を有しない。
【0054】
IAB融合タンパク質の、マウス骨髄由来マクロファージの食作用を促進する能をさらに検証するために、マウス骨髄細胞を分離した後、マウス骨髄由来マクロファージを50ng/mL M-CSFで7~10日間誘導・培養することにより調製し、5×10^4のマウス骨髄由来マクロファージを2×10^5のCFSEで標識されたMC38腫瘍細胞と混合し、IAB融合タンパク質、陰性コントロール(IgG1)および陽性コントロールSIRPα-m-Fc'を加え、37℃で2時間インキュベートし、顕微鏡を倒して写真を撮り、画像に緑色の蛍光を含むマクロファージは、腫瘍細胞を飲み込んだマクロファージである。図10に示すように、IgG1を添加した陰性コントロールグループ(図10a)では、マクロファージが壁に付着して増殖し、仮足を広げ、腫瘍細胞を包むマクロファージはほとんどなかった(緑色蛍光)。IABの組み合わせ(図10c)と陽性コントロールグループSIRPα-m-Fc'(図10b)では、マクロファージが腫瘍細胞を飲み込んだ(緑色蛍光)(黒い矢印で示す)状況がある。上記の結果より、IAB融合タンパク質がインビトロでマクロファージが腫瘍細胞を飲み込むことを促進する能を有することを再度確認した。
【0055】
〔実施例9〕ADCCレポーター遺伝子実験
ルシフェラーゼレポーター遺伝子を有するFcγRIIIaを発現するJurkat細胞(エフェクター細胞)およびMC38腫瘍細胞(標的細胞)とさまざまな濃度の試験抗体(IAB融合タンパク質、陽性コントロールSIRPα-m-Fc'、陰性コントロールanti-PDL1')を、8%CO2を含む37℃のインキュベーターで4時間インキュベートし、蛍光基質を添加し、蛍光測定値をGlomaxRプレート蛍光アッセイマイクロプレートリーダーで測定し、結果を図11に示した。
【0056】
図11において、黒い四角はIAB融合タンパク質のデータ、黒丸はSIRPα-m-Fc'のデータ、黒い三角形はanti-PDL1'のデータである。図に示すデータより、IAB融合タンパク質に一定のADCC効果があるが、同じ用量で、そのADCC効果は、SIRPα-m-Fc'よりも低く、ノブインホール構造に関連している可能性がある。anti-PDL1'は、抗体Fcセグメントの保存されたグリコシル化サイトにN297A突然変異が導入され、グリコシル化修飾がないため、ADCC効果を失った。
【0057】
〔実施例10〕CD47とPD-L1を標的にする二重機能融合タンパク質IABの血液毒性実験
15匹の健康なBalb/cマウス(6~8週間)を、体重(平均約20g)に応じてランダムに3グループ(グループあたり5匹)に分けた。マウスの各グループは、100mg/kgの用量で腹腔内薬物投与された(IAB、SIRPα-m-Fc'または静脈内ヒトIgG)、投与の24時間後、約500μLの血液を眼窩からEPチューブに採取し、血液凝固を防ぐために10μLの1%ヘパリンナトリウムをすぐに添加した。サンプルは、マウスの血液分析のために「上海南部モデル動物研究センター」に送られた。プロトタイプ抗体とIAB融合タンパク質の血液毒性は、投与後のマウスの血液中の赤血球、ヘモグロビン、ヘマトクリット、血小板などの指標の変化をモニタリングすることで評価し、結果を図12図13、および図14に示した;結果より、IABタンパク質を注射した実験グループの赤血球含有量(9.1×10^12/L)、ヘマトクリット(43.0%)、およびヘモグロビン(137.8g/L)は、ヒトIgGを注射したコントロールグループの赤血球含有量(9.4×10^12/L)、ヘマトクリット(42.56%)、およびヘモグロビン(142.4g/L)と有意差がなかったが、SIRPα-m-Fc注射グループには、血液毒性に影響された関連データは、赤血球含有量(6.8×10^12/L)、ヘマトクリット(35.07%)、およびヘモグロビン(121.6g/L)で、他の2つの群とは有意に異なっていた。
【0058】
〔実施例11〕CD47とPD-L1を標的にする二重機能融合タンパク質IABのマウス体内抗腫瘍活性に関する研究
(1)IABでBalb/cマウスMC38腫瘍モデルを治療する:
合計40匹のBalb/c雌マウス(6-8週間)に、MC38腫瘍細胞を2×10^5で皮下接種した。6日目に腫瘍が大きすぎるか小さすぎるマウスを除外した後、腫瘍の体積(約100mm3)に応じて、4つのグループ(各グループに8匹のマウス)に分け、7日目と10日目に、腫瘍にIAB融合タンパク質、無関係なコントロール(ヒトIgG1)またはプロトタイプ抗体(SIRPα-m-Fc'、anti-PDL1')を10mg/kgの用量で注射した。週に2回マウスの腫瘍形成を観察し、ノギスを使用し腫瘍の最大直径(長さ)と垂直距離(幅)を測定し、腫瘍の体積を計算する式は、体積=0.5×長さ×幅2である。マウスの腫瘍体積が2000mm3を超える場合、または腫瘍部位に広い範囲の潰瘍が出現した場合、マウスは頸椎脱臼法で殺され、通常21日間観察された。試験結果は、図15を参照。
【0059】
実験結果より、無関係な抗体のコントロールグループ(ヒトIgG1の静脈内注射)は投与後に腫瘍が漸進的な成長を示した、21日目の平均腫瘍体積は1472mm3であった。観察期間の終了(接種後21日目)までに、コントロールグループとSIRPα-m-Fc'治療グループのマウスは精神的に落ち込んで、体重を減らし、皮膚が収縮して行動が遅くなった。anti-PDL1'およびIAB治療グループは、マウスの背部に様々なレベルの腫瘍の萎縮を示した。anti-PDL1'治療グループのマウスの腫瘍平均体積は、289mm3である。IAB治療グループのマウスの平均腫瘍体積は67mm3で、一部のマウスには腫瘍が完全に消失しており、MC38相同腫瘍モデルでは、IAB融合タンパク質がプロトタイプ(anti-PDL1'とSIRPα-m-Fc')よりも有意に優れた腫瘍抑制効果を示した。抗腫瘍効果の順番は:IAB>anti-PDL1'>SIRPα-m-Fc'。結果は、同じ投与量と投与モードで、IAB融合タンパク質が腫瘍抑制に対して「相乗効果」を持っていることを示唆している。
【0060】
(2)IABでBalb/cマウス二次接種MC38腫瘍モデルを予防する:
IAB融合タンパク質治療グループの腫瘍が完全に消失したマウス(接種部位に触れると、腫瘍には触れられない)と、健康なBalb/cマウスをMC38二次接種実験に使用した。新たに2×10^5の接種量に従って、マウスの元の接種部位の反対側にMC38腫瘍細胞を皮下に再接種した。週に2回マウスの腫瘍形成を観察し、ノギスを使用し腫瘍の最大直径(長さ)と垂直距離(幅)を測定し、腫瘍の体積を計算する式は、体積=0.5×長さ×幅2である。マウスの腫瘍体積が2,000mm3を超える場合、または腫瘍部位に広い範囲の潰瘍が出現した場合、マウスは頸椎脱臼法で殺され、通常21日間観察された。試験結果は、図16を参照。
【0061】
実験結果より、MC38細胞が陰性コントロールグループ(健康なBalb/cマウス)に接種された後、皮下腫瘍が進行性の成長を示し、21日目の担癌マウスの平均腫瘍体積は1453mm3であった;ただし、IAB融合タンパク質で治癒したマウスにはMC38を接種した後に、21日以内に接種部位に触れられる腫瘍は見つけられなかった(30mm3未満)。1匹のマウスのみが10日目に腫瘍成長の兆候を示したが、後期には自然に消失した。上記の結果は、治癒したマウスがMC38腫瘍適応性および自然免疫の阻害を解除した可能性があることを示唆し、適応免疫活性化後に生成された抗原特異的T細胞は、MC38腫瘍細胞の二次腫瘍形成を阻害する可能性がある。
【0062】
〔実施例12〕CD47とPD-L1を標的にする二重機能融合タンパク質IABの作用機構の研究
(1)MC38担癌マウス(マクロファージ欠損タイプ)のIAB治療:
15匹の6週齢Balb/c健康な雌マウスに、MC38腫瘍細胞を2×10^5細胞の数に従って皮下接種し、6日目に、腫瘍の体積に従って平均に3つのグループに分け、各グループに5匹、すなわち実験グループ、コントロールグループ1、およびコントロールグループ2を配置した。実験グループには、200μL/マウスのクロフゾン(英語名Clophosome、マクロファージ除去剤、上海邦律生物テクノロジー有限会社)を注射した後、100μL/マウスのクロフルクソンを1日おきに注射し、IAB融合タンパク質を10mg/kgの用量で7日目と10日目に腫瘍に注射した;コントロールグループ1では、クロフルクソンの代わりにブラックリポソームをマウスに注射し、IAB融合タンパク質を7および10日目に10mg/kgの用量で腫瘍に注射した;コントロールグループ2では、クロフゾンの代わりにブラックリポソームをマウスに注射し、無関係なヒトIgG抗体を7および10日目に10mg/kgの用量で腫瘍に注射した。週に2回各グループのマウスの腫瘍形成を観察し、ノギスを使用し腫瘍の最大直径(長さ)と垂直距離(幅)を測定し、腫瘍の体積を計算する式は、体積=0.5×長さ×幅2である。マウスの腫瘍体積が2,000mm3を超える場合、または腫瘍部位に広い範囲の潰瘍が出現した場合、マウスは頸椎脱臼法で殺され、通常21日間観察された。試験結果は、図17を参照。
【0063】
実験結果では、マクロファージをクリアしなかったマウスに、無関係な抗体を注射した後(すなわち、コントロールグループ2)、皮下MC38腫瘍は進行性の成長を示し、20日目の担腫瘍マウスの平均腫瘍体積は1419mm3でした;マクロファージがクリアされていないマウスのIAB融合タンパク質(すなわち、コントロールグループ1)の投与後、マウスの皮下腫瘍の成長は効果的に抑制され、20日目のマウスの平均腫瘍体積はわずか55.8mm3であった。IAB融合タンパク質をマクロファージがクリアされたグループのマウスに投与した後(すなわち、実験グループ)、腫瘍の成長は部分的に抑制されたが、21日目の腫瘍体積は587mm3であり、その腫瘍抑制効果は健常マウス投与グループ(コントロールグループ1)よりも有意に低かった。上記の実験結果は、IAB融合タンパク質の体内で瘍抑制効果が自然免疫細胞(マクロファージ)に一部依存していることを示唆している。
【0064】
(2)MC38担癌マウス(CD8+T細胞欠損タイプ)のIAB治療:
各匹のBalb/cマウスに抗CD8抗体または無関係のIgG抗体(200μg/マウス/回)を週2回注射して、マウスのCD8+陽性T細胞をクリアした。
【0065】
2×10^5の接種量で、CD8+T細胞をクリアされた5匹のBalb/cマウス(実験グループ)と6~8週齢の10匹の健康なBalb/cマウスにMC38腫瘍細胞を皮下接種した(平均にコントロールグループ1、2に分けられた)。実験グループとコントロールグループ1には、7日目と10日目に10mg/kgの用量で、IAB融合タンパク質を腫瘍に注射した;コントロールグループ2には、7日目と10日目に10mg/kgの用量で無関係のヒトIgG抗体を腫瘍に注射した。週に2回各グループのマウスの腫瘍形成を観察し、ノギスを使用し腫瘍の最大直径(長さ)と垂直距離(幅)を測定し、腫瘍の体積を計算する式は、体積=0.5×長さ×幅2である。マウスの腫瘍体積が2,000mm3を超える場合、または腫瘍部位に広い範囲の潰瘍が出現した場合、マウスは頸椎脱臼法で殺され、通常21日間観察された。試験結果は、図18を参照。
【0066】
実験結果では、CD8+T細胞をクリアしなかったマウス(コントロールグループ2)に無関係な抗体を投与した後、MC38腫瘍細胞の体積は徐々に増加し、21日目の担癌マウスの平均腫瘍体積は1269mm3でした;CD8+T細胞をクリアしなかったマウスにIAB融合タンパク質を投与した後(コントロールグループ1)、マウスの腫瘍成長は効果的に抑制され、21日目のマウスの平均腫瘍体積はわずか64.9mm3でした。CD8+T細胞をクリアしたマウスにIAB融合タンパク質を投与したグループ(実験グループ)には、21日目の腫瘍体積は777mm3であり、その腫瘍抑制効果は健常マウスIAB投与グループよりも有意に低かった。上記の実験結果は、IAB融合タンパク質の体内での腫瘍抑制効果が適応免疫細胞(CD8+T細胞)にも依存することを示唆している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
【配列表】
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