(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】水中情報可視化装置
(51)【国際特許分類】
G01S 7/527 20060101AFI20221025BHJP
G01S 7/62 20060101ALI20221025BHJP
G01S 15/89 20060101ALI20221025BHJP
G01S 15/96 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
G01S7/527
G01S7/62 A
G01S15/89 A
G01S15/96
(21)【出願番号】P 2020557428
(86)(22)【出願日】2018-11-27
(86)【国際出願番号】 JP2018043494
(87)【国際公開番号】W WO2020110190
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】517302413
【氏名又は名称】株式会社AquaFusion
(74)【代理人】
【識別番号】100082762
【氏名又は名称】杉浦 正知
(74)【代理人】
【識別番号】100123973
【氏名又は名称】杉浦 拓真
(72)【発明者】
【氏名】笹倉 豊喜
(72)【発明者】
【氏名】松尾 行雄
【審査官】渡辺 慶人
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-009853(JP,A)
【文献】特開2013-137309(JP,A)
【文献】特開2002-214341(JP,A)
【文献】特開2002-131427(JP,A)
【文献】米国特許第05886950(US,A)
【文献】米国特許第06179780(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 1/72 - 1/82
3/80 - 3/86
5/18 - 5/30
7/52 - 7/64
15/00 - 15/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水面付近を走行する船などの移動体に設置され、超音波を使用して水中の魚や海底などの情報を可視化して表示する水中情報可視化装置において、
疑似雑音系列信号を生成する疑似雑音系列発生回路及び送信タイミングの前記疑似雑音系列信号によって搬送波信号を変調して送信信号を形成する変調回路を有する送信信号生成部と、
前記送信信号を超音波として水中に送出する送信部と、
超音波のエコーを受信する受信部と、
前記エコーを前記疑似雑音系列信号によって相関処理を行うことによって、前記送信信号と対応する前記エコーを判別する受信信号処理部と、
前記受信信号処理部の出力信号を表示する表示器とを備え、
前記表示器は、複数の受信信号を画面上で同時に表示するようになされ、
前記送信信号の周期は、水中の音波の速度をVuとし、海底までの距離をDとする場合に、(2D/Vu)以下とされ
、
前記送信信号生成部は、移動体の動揺周波数の少なくとも2倍以上の周波数を有する超音波の送信信号を生成し、
所定の深度範囲のある送信時点の受信信号と、次の送信時点の受信信号の相関をとり、相関結果の時間差を計算し、前記時間差の分、時間をずらして前記受信信号を表示するようになされ、
前記所定の深度範囲は、海中を漂う微少な浮遊物の凝集体で、自らは運動能力を持たない水中物体が現れる深度範囲に設定された
水中情報可視化装置。
【請求項2】
水面付近を走行する船などの移動体に設置され、超音波を使用して水中の魚や海底などの情報を可視化して表示する水中情報可視化
方法において、
疑似雑音系列信号を生成する疑似雑音系列発生回路及び送信タイミングの前記疑似雑音系列信号によって搬送波信号を変調して送信信号を形成する変調回路を有する送信信号生成部と、
前記送信信号を超音波として水中に送出する送信部と、
超音波のエコーを受信する受信部と、
前記エコーを前記疑似雑音系列信号によって相関処理を行うことによって、前記送信信号と対応する前記エコーを判別する受信信号処理部と、
前記受信信号処理部の出力信号を表示する表示器とを備え、
前記表示器によって、複数の受信信号を画面上で同時に表示するようになされ、
前記送信信号の周期は、水中の音波の速度をVuとし、海底までの距離をDとする場合に、(2D/Vu)以下とされ
、
前記送信信号生成部は、移動体の動揺周波数の少なくとも2倍以上の周波数を有する超音波の送信信号を生成し、
所定の深度範囲のある送信時点の受信信号と、次の送信時点の受信信号の相関をとり、相関結果の時間差を計算し、前記時間差の分、時間をずらして前記受信信号を表示するようになされ、
前記所定の深度範囲は、海中を漂う微少な浮遊物の凝集体で、自らは運動能力を持たない水中物体が現れる深度範囲に設定された
水中情報可視化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を使用して水中の魚や海底などの情報を可視化して表示する水中情報可視化装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水中情報可視化装置の一つとして魚群探知機(例えば特許文献1参照)が知られている。
図1に示すように、魚群探知機は超音波を水中に向けて発射し、水中に存在する水中物体(例えば魚や水中の浮遊物)や海底から反射信号をカラー液晶表示装置等に表示するものである。
【0003】
魚群探知機の表示の方法は、
図1に示すような液晶画面の一番右上にいま現在の発信した信号の強度に比例した色を付け、下の方向に水中での超音波の速度に合わせて返ってきたエコーに色を付け表示する。現在の信号の1つ左側には1つ前の送受信信号が描かれている。順次左側は過去の送受信信号が描かれており、1つの画面で船が通過してきた海中の情報が表示されている。
図1の例では、一番上の直線は海面を示し、下の方に横たわっているのは海底で、海面と海底の間に表示されているのは魚群(斜線領域で示す)である。この画面は1送信毎に左に画像送りされ最も過去の送受信エコーは画面から消失する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の魚群探知機は、短いパルスを送信し、そのパルス信号が海中を伝搬し、魚群などの海中の散乱体と言われる物体からの微弱な反射信号や海底からの比較的大きな反射エコーを1送信毎に1本の線として、反射信号の大きさに比例した色をつけて画面上に表示していた。その送信周期は、送信してから海底からの反射エコーが返ってきてから次の送信を行っていたので、海底までの距離の往復距離を水中音速で割った時間より短くできなかった。例えば、150mの深さの海底のあるところでは、その往復距離300mを水中音速1500m/sで割った値0.2秒よりも短くできなかった。
【0006】
海底が十分深いところで、海中の魚群などのエコーを表示しようとする場合、送信周期は海底からの反射エコーが存在しないとして速い送信周期にすることはできるが、例えば1秒に10回送信した場合、その送信周期は0.1秒になるが、最初の送信と次の送信までの時間(0.1秒間)に超音波が往復する距離、すなわち水中音速1500m/sにこの0.1秒をかけた距離150mの半分75mが有効な表示範囲として画面を表示していた。送信周期0.1秒の時は
図2に示すように75m以上の表示レンジは存在しなかった。存在しても、それは
図3に示すように0mから75mの範囲を繰り返し表示していただけであった。
【0007】
海底深度をD、送信パルスの送信間隔をTとし、(2D/1500)<Tの場合では、
図4Aに示すように、送信パルスと受信エコーの時間差が(2D/1500)に対応したものとなり、この時間差から深度を測定できる。しかしながら、(2D/1500)≧Tの場合では、
図4Bに示すように、次の送信パルスの送出後に受信エコーが到来するので、受信エコーがどちらの送信パルスに対応したものかが分からなくなり、時間差FDに基づいて誤った深度を計測することになる。したがって、従来では(2D/1500)<Tの条件が必要であった。
【0008】
送信周期を短くできないことは、測深の水平方向分解能を小さくできないことになる。
図5を参照して船の進行方向(水平方向)の計測の分解能について説明する。船速V(m/s)で深度D(m)の測深を行う場合の水平方向の分解能ΔH(m)は次式で表される。
ΔH=VT>2DV/1500
【0009】
例えば船が10kt(時速10×1.852km)で航行し、送信の周期が1秒の場合、約5m毎にしか測深データは得られない。深度1,000mの海底を計測するには、送信周期Tを(1,000×2)/1,500=1.33秒以上にしないと計測できないが、船が10ktで航行すれば1.33秒後には6.7m進んでいるので、計測の分解能ΔHは6.67mということになる。
【0010】
従来の魚群探知機のような水中情報可視化装置では、計測の分解能を高くするためには船の速度を低下させる以外に方法がなかった。したがって、従来の魚群探知機は、計測の分解能を高くする場合に計測に要する時間が長くなる問題があった。
【0011】
したがって、本発明の目的は、かかる問題を解決することができる水中情報可視化装置および水中情報可視化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、水面付近を走行する船などの移動体に設置され、超音波を使用して水中の魚や海底などの情報を可視化して表示する水中情報可視化装置において、
疑似雑音系列信号を生成する疑似雑音系列発生回路及び送信タイミングの疑似雑音系列信号によって搬送波信号を変調して送信信号を形成する変調回路を有する送信信号生成部と 、
送信信号を超音波として水中に送出する送信部と、
超音波のエコーを受信する受信部と、
エコーを疑似雑音系列信号によって相関処理を行うことによって、送信信号と対応するエコーを判別する受信信号処理部と、
受信信号処理部の出力信号を表示する表示器とを備え、
表示器は、複数の受信信号を画面上で同時に表示するようになされ、
送信信号の周期は、水中の音波の速度をVuとし、海底までの距離をDとする場合に、(2D/Vu)以下とされ、
送信信号生成部は、移動体の動揺周波数の少なくとも2倍以上の周波数を有する超音波の送信信号を生成し、
所定の深度範囲のある送信時点の受信信号と、次の送信時点の受信信号の相関をとり、相関結果の時間差を計算し、時間差の分、時間をずらして受信信号を表示するようになされ、
所定の深度範囲は、海中を漂う微少な浮遊物の凝集体で、自らは運動能力を持たない水中物体が現れる深度範囲に設定された水中情報可視化装置である。
【0013】
また、本発明は、水面付近を走行する船などの移動体に設置され、超音波を使用して水中の魚や海底などの情報を可視化して表示する水中情報可視化方法において、
疑似雑音系列信号を生成する疑似雑音系列発生回路及び送信タイミングの疑似雑音系列信号によって搬送波信号を変調して送信信号を形成する変調回路を有する送信信号生成部と 、
送信信号を超音波として水中に送出する送信部と、
超音波のエコーを受信する受信部と、
エコーを疑似雑音系列信号によって相関処理を行うことによって、送信信号と対応するエコーを判別する受信信号処理部と、
受信信号処理部の出力信号を表示する表示器とを備え、
表示器によって、複数の受信信号を画面上で同時に表示するようになされ、
送信信号の周期は、水中の音波の速度をVuとし、海底までの距離をDとする場合に、(2D/Vu)以下とされ、
送信信号生成部は、移動体の動揺周波数の少なくとも2倍以上の周波数を有する超音波の送信信号を生成し、
所定の深度範囲のある送信時点の受信信号と、次の送信時点の受信信号の相関をとり、相関結果の時間差を計算し、時間差の分、時間をずらして受信信号を表示するようになされ、
所定の深度範囲は、海中を漂う微少な浮遊物の凝集体で、自らは運動能力を持たない水中物体が現れる深度範囲に設定された水中情報可視化方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、水平方向(時間方向)の表示の解像度を高くすることができる。したがって、海中の比較的小型な対象物であっても、その形状を画面上に表示することが可能となる。なお、ここに記載された効果は必ずしも限定されるものではなく、本発明中に記載されたいずれの効果であってもよい。また、以下の説明における例示された効果により本発明の内容が限定して解釈されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は従来の魚群探知機の表示方法を示す略線図である。
【
図2】
図2は従来の魚群探知機の表示方法を示す略線図である。
【
図3】
図3は従来の魚群探知機の表示方法を示す略線図である。
【
図4】
図4は従来の魚群探知機の動作の概略を示す略線図である。
【
図5】
図5は従来の魚群探知機の動作の概略を示す略線図である。
【
図6】
図6は本発明の一実施形態のブロック図である。
【
図7】
図7は本発明の表示方法の一例を説明するための略線図である。
【
図8】
図8は本発明の一実施形態の表示方法を説明するための略線図である。
【
図9】
図9は本発明の一実施形態のメモリを有する構成の表示方法を説明するための略線図である。
【
図11】
図11は船が波の影響によって上下しているときの海底エコーの表示画像を示す略線図である。
【
図12】
図12は船の動揺によってマリンスノーのエコーが波打っている表示の例を示す略線図である。
【
図13】
図13は従来の魚群探知機の探知範囲を説明するための略線図である。
【
図14】
図14は本発明の一実施形態の探知範囲を説明するための略線図である。
【
図15】
図15は動揺を受けたマリンスノーと海底の画像の説明に用いる略線図である。
【
図16】
図16は本発明による動揺補正を行ったマリンスノーと海底の画像の説明に用いる略線図である。
【
図18】
図18はマリンスノーを用いた動揺補正方法の説明に用いる波形図である。
【
図20】
図20は本発明の応用例である動揺補正装置の一例のブロック図である。
【
図22】
図22は動揺補正の処理の説明に用いるフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明の好適な具体例であり、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において、特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの実施の形態に限定されないものとする。
【0017】
水中可視化装置の一実施形態について
図6を参照して説明する。パルス発生器1は、一定周期のパルス信号の送信トリガパルスを発生する。送信トリガパルスが送信信号生成部2に供給される。送信信号生成部2は、送信パルスとして疑似雑音系列信号例えばゴールドコードを発生し、送信パルスをパルス変調例えばBPSK(Binary Phase Shift Keying)によってデジタル変調する。搬送波の周波数は数kHz~数百kHzとされる。さらに、送信トリガパルスが表示器8に供給される。表示器8は、カラー液晶等の表示装置である。
【0018】
送信信号生成部2によって生成された送信信号が送信機3に供給され、送信機3において増幅等の処理がなされる。送信機3の出力信号が送受波器4に供給される。送受波器4から水中に対して超音波が送出される。発射された水中超音波のエコーが送受波器4によって受波される。
【0019】
送受波器4からの受波データが受信アンプ5に供給され、増幅等の処理を受けて後、受信信号処理部6に供給される。受信信号処理部6は、受信信号を前記疑似雑音系列信号によって相関処理を行う。送信信号と受信信号の疑似雑音系列信号が一致する場合に大きな値となる信号を発生し、また、相関処理後の信号がA/D変換されて出力される。
【0020】
一例として、パルス変調において1ビットが4周期で構成されており、各周期が8サンプルでデジタル化される。したがって、ゴールドコードのコードが127ビットの場合、一つの受信エコー信号は、(127×4×8=4064ビット)となる。この受信信号と127個のゴールドコードのコードのレプリカ(レプリカは4064ビット)との一致検出によって相関が検出される。
【0021】
受信信号処理部6の出力が表示器8の表示エリアと対応するメモリエリアを有するメモリ7に供給される。メモリ7の出力が表示器8に供給される。メモリ7及び表示器8に対しては、パルス発生器1からの送信パルスのタイミングを示すトリガーパルスが供給され、表示器8によって、送信パルスに対して受信されたエコーが表示される。
【0022】
表示器8に対しては送信トリガパルスが供給されており、送信トリガパルスのタイミングが画面の上側の発信線(0m)として表示される。送信パルスに対するメモリ7からの出力信号に色を付けて発信線から延びるように表示する。ここで、送信パルスの周期は、水中の音波の速度をVuとし、測定対象までの距離をDとする場合に、(2D/Vu)以下とされる。
【0023】
上述した水中情報可視化装置は、従来のような送信周期Tに関する制限((2D/1500)<T)をなくすことができる。すなわち、水平方向の分解能が次式に示すものとなる。
ΔH=VT
【0024】
例えば船が10kt(時速10×1.852km)で航行し、送信の周期が0.01秒の場合、ΔH=0.05mとなり、測深深度とは無関係に水平方向の分解能(計測間隔)を決めることができる。深度にかかわらず、送信周期Tと船速Vのみから水平方向の分解能ΔHが決められる。このように、送信周期Tを短いものとでき、深度とは関係なく測深が可能となり、高い水平の計測分解能を得ることができる。
【0025】
特に、本発明の一実施形態では、表示器8における水平方向(時間方向)の表示の解像度を高くすることができる。したがって、海中の比較的小型な対象物であっても、その形状を画面上に表示することが可能となる。
【0026】
表示器8における表示について説明する。本発明においては、メモリ7を設けずに、リアルタイムでの表示も可能である。すなわち、
図7に示すように、例えば時間的に連続する3個の送信パルスに対応する描画を例にとると、2送信過去の描画と、1送信過去の描画と、現在送信の描画とが時間的に平行して(重なり合って)行われる。表示は、受信信号のレベルに応じた色付けがされたものである。すなわち、最初の送信による受信エコーの全てが受信し終えない間に次の送信を行い受信エコーが得られるので、最初の送受信信号を描画しつつ、次の送信が行われた時点で描画を始める。さらにその次の送信が前の受信エコーを表示している最中に行われた場合、その送受信信号を描画するので、常に複数の送受信信号が画面上で表示されることになる。
【0027】
本発明の一実施形態のようにメモリ7を有する場合の表示方式を
図8に示す。時間的に連続する複数の送受信信号をメモリに順次蓄積し、確定した信号のみを描画(表示)するようになされる。未確定の信号はメモリ7に蓄積しておく。メモリ7が表示器8の表示画面に対応しているので、表示器8には、複数の受信エコーに対応する表示が同時に行われる。
【0028】
図9は、メモリ7の一例を示す。一例として、1000回の送信分のデータを蓄積可能な容量をメモリ7が有する。1回の送信では、0.1m毎のデータが記憶可能とされている。100mの深さの水中を表示する場合では、1000画素のデータを記憶するようになされる。
【0029】
メモリ7に対して例えば現在送信に対する受信データ、1送信過去に対する受信データ及び2送信過去に対する受信データが書き込まれている状態が
図7に示されている。さらに、前の受信データは、確定済であり、メモリ7に蓄積されている。このメモリ7に蓄えられている書き込み済の受信データの部分(
図9の例では1000-3=997個の受信データ)が表示器8に表示されている。
【0030】
上述した本発明の一実施形態は、送信周期が従来の魚群探知機の10倍以上で送信を行うことができるので、そこから得られる情報も10倍以上となり、これまで見ることができなかった海中の情報を得ることができるようになり、それによってこれまでできなかったことができるようになる。
【0031】
次に、本発明の応用例としての動揺補正装置について説明する。
図10に示すように、魚群探知機は超音波を水中に向けて発射し、水中に存在する水中物体(例えば魚や水中の浮遊物)や海底から反射信号をカラー液晶表示装置等に表示するものである。
【0032】
魚群探知機の送受波器は通常船底などに固定されているので、表示される情報は波などによる船の動揺の影響を受け、画像が歪んだものになっている。全く起伏のない海底の画像であっても、表示画像は、
図11に示すように波の影響を受け起伏のあるような画像となってしまう。
【0033】
この船の動揺を検出し、動揺の補正を行うことによって正確な海底や水中の情報の画像を得ることが望ましい。従来では、船の動揺を加速度センサーを使用して検出して動揺補正を行うものもあったが、加速度センサーを設けるために、コストが高くなる問題があった。したがって、加速度センサーを使用しないで正確に動揺補正を行うことができることが望まれる。
【0034】
海中にはマリンスノーと称される微少な水中物体が数多く存在している。マリンスノーはプランクトンの死骸とか海中の微少なゴミなどが浮遊しているものと言われており、大きさは数マイクロメータから数センチメータ(又はそれ以上)と言われる。肉眼でも観測され、海に潜ると見えるが、まさに雪のように海中に漂った白く光るものがマリンスノーである。マリンスノーはゆっくりと沈下していくがその降下速度は速いものでも1日に数十メーターから数百メータと言われるので、1秒間には、1cm以下の沈下速度である。すなわち、ほとんど静止している状態である。また、表層水(100m以浅、特に50m以浅)中で繁殖する微小な植物系性、動物性プランクトンである。本発明においては、マリンスノーに代表されるような「海中を漂う微少(例えば1mm以下)の浮遊物の凝集体で、自らは運動能力を持たないで、超音波の反射信号が得られる水中物体」を対象として扱う。但し、以下の説明では、対象を単にマリンスノーと表現する。
【0035】
超音波の送信間隔が船の上下動よりも十分速い周期の場合、このマリンスノー(特に、糸状,線状のもの)は、
図12に示すように船の動揺の影響を受け、上下に波打ったような画像として表示される。マリンスノーは短い時間では一定の水深に留まっているとみなされるので、この画像は船の動揺そのものを表したものであると考えられる。
【0036】
図13は、従来の魚群探知器による探知動作を示している。船の速度を例えば10ktとすると、(10×1.852km(時速)=308.7m(分速)=5.144m(秒速)となる。従来の魚群探知機では、100mレンジの送信周期は、4回/秒などであり、0.25秒に1回程度の送信回数である。0.25秒間では、(5.144×0.25=1.286m)船が進む。魚群探知機の振動子の指向角を例えば5度とすれば、
図13に示すように、10m直下での送信ビームの拡がりが0.87mとなる。このように従来の魚群探知機は、1回の送信毎に船が1.29m進んでしまうので、マリンスノーのような微少な物体に超音波が当たるのが1回しかないことになる。
【0037】
これに対して上述した本発明による水中情報可視化装置は、送信回数を1秒間に従来の魚群探知機に比較して10倍以上とすることができる。すなわち、
図14に示すように、1送信毎に船が進む距離が0.129mとなり、振動子の指向角を例えば5度とすれば、10m直下での送信ビームの拡がりが0.87mに対して、(0.87÷0.129=7.7)回の送信信号が海中物体例えばマリンスノーにヒットすることになる。すなわち、マリンスノーのような微少物体に対して6回程度の連続エコーが得られる。
【0038】
なお、10ktは、船の速度の一例であって、実際には、6kt程度の船速とされる。この場合の秒速は、約3mであり、1回の送信毎に船が進む距離は、0.386mである。この場合では、(0.87÷0.0386=22.5)回の送信信号がマリンスノーに対してヒットすることになるので、より多くの連続エコーを得ることができる。
【0039】
船が動揺していれば、微少物体例えば海面とほぼ平行な状態のマリンスノーからの受信エコーは、その動揺に合わせた画像を得ることができる。このような微少物体からの受信エコーは、従来の魚群探知機によって得ることが不可能なものであった。
【0040】
図15は、船舶に装備した水中情報可視化装置の実際の画像である。
図15の上の部分の画像はマリンスノーが検出されている12mから17m付近の表示画像で、下の部分の画像は海底が検出されている35mから45m付近の表示画像である。横軸は送信回数を示している。例えば、この画像では1秒間に40回送信しているので、1000回の送信回数は、25秒に相当する。海底画像を見ると緩やかな起伏があるように見える。
【0041】
図16に示すように、本発明によってマリンスノーの画像が直線になるように動揺補正を行うと、海底画像は動揺に起因する起伏がなくなりほぼ平坦な海底地形が現れるようにできる。本発明による動揺の補正方法は、このマリンスノーの画像を利用し、この画像が直線になるように1回毎の受信エコーを移動させる方法である。すなわち、ある1回の受信エコーを基準とし、その受信エコーと次の送信時の受信エコーの相関を取り、その相関の時間差分を補正値として次の受信エコーをその時間差分だけずらせて表示するという方式である。順次前のエコーと相関を繰り返していき、次々と受信エコーの表示開始位置を調整することによって動揺補正後の画像を得ることができる。
【0042】
超音波の送信周期は、船の動揺の周波数成分の2倍以上でなければならないので、例えば小型船の動揺周波数を1Hzとすれば、その波を正確に捉えるにはその倍以上の周波数でサンプリングしなければならないので、2Hz以上(送信周期に換算したら0.5秒以下)でサンプリングする必要がある。
【0043】
図17を参照して時間方向の相関を検出する方法について説明する。横軸が時間経過を示し、縦軸が振幅を示す。点線で示す波形と実線で示す波形とが同一又は相似しているときに、二つの波形の相関をとると、2秒ずれたところに最大値が発生する。すなわち、相関結果から二つの波形は2秒ずれていることが分かる。
【0044】
図18は、時間軸上で送信信号とマリンスノーのエコーの受信信号を表したものである。送信信号と受信信号の時間差がマリンスノーの深さ方向の位置に対応し、受信信号の振幅がマリンスノーの大きさと対応している。一例として3種類の深さの位置において、マリンスノーが存在しているものとしている。時間的にマリンスノーが静止していると考えることができるので、マリンスノーの深度の変化は、船の動揺によって生じたものととらえることができる。
【0045】
また、S1,S2,S3,S4,S5は、順番に送信される送信信号と、その送信信号に対する受信信号の組を表している。S1が基準となる送信信号と受信信号の組である。これらの受信信号の相関をとるようになされる。例えば信号の組S1の受信信号と信号の組S2の受信信号の相関をとると、例えば-10という相関値が得られる。この-10という値は、S1の受信信号に対してS2の受信信号が10だけ時間が進んでいることを表している。すなわち、船が波によって下降し、10だけ深度が浅くなっていることを表している。
【0046】
次に、信号の組S2の受信信号と信号の組S3の受信信号の相関をとると、例えば+2という相関値が得られる。この+2という値は、S2の受信信号に対してS3の受信信号が2だけ時間が遅れていることを表している。以下、同様にして、信号の組S3の受信信号と組S4の受信信号の相関がとられ、+12という相関値が得られ、信号の組S4の受信信号と組S5の受信信号の相関がとられ、+1という相関値が得られる。
【0047】
なお、相関値を得る方法としては、上述した方法以外に、基準の組S1の受信信号と他の組S2,S3,S4,S5の受信信号の相関をとるようにしてもよい。さらに、相関をとる信号の組の数は、送信間隔、検出対象のマリンスノーの大きさなどを考慮して設定される。
【0048】
図19A及び
図19Bを参照して従来の魚群探知機の表示と本発明による魚群探知機の表示について説明する。
図19Aは、従来の魚群探知機の表示の方法を示した図であり、表示の基準となるのは送信信号である。送信信号を表示の開始位置にもっていき、順次受信信号に色を付けて表示する。この場合は、受信エコーは船の動揺に併せて位置がズレて表示されることになる。
【0049】
これに対し、
図19Bは、本発明による動揺補正後の表示方法である。
図18を参照して説明したように、相関値が求められ、この相関値に比例した時間だけ受信信号をずらしながら表示する。この動揺補正処理によって、船の動揺を打ち消すような表示になり、マリンスノーのエコーが直線的に表示される。すなわち動揺補正を行った表示が得られるわけである。
【0050】
マリンスノーを用いた動揺補正機能を備えた水中可視化装置について
図20を参照して説明する。受信信号処理部6とメモリ7の間に、動揺検出補正部9を設けた点以外は、上述した水中情報可視化装置の構成(
図6)と同様の構成とされている。動揺検出補正部9は、受信エコーを使用して動揺検出処理を行い、検出された動揺成分によって時間軸方向で受信エコーをシフトさせる動揺補正を行うようになされている。動揺検出補正部9の出力がメモリ7に供給される。メモリ7の出力が表示器8に供給されて表示される。
【0051】
図21を参照して動揺検出補正部9の一例について説明する。動揺検出補正部9は、二つのメモリ11及び12と、相関器13と、時間調整回路14から構成されている。メモリ11及び12は、1送信分のデジタル受信信号を記憶する。メモリ11に対して現在の受信信号が順に書き込まれる。次の受信信号が入力される直前にメモリ11からメモリ12に対して記憶されているデータが転送される。メモリ11及び12としては、例えばシフトレジスタを使用できる。
【0052】
相関器13によって、メモリ11に記憶されている最新の受信信号と、メモリ12に記憶されている1送信前の受信信号が相関され、その時間相関値が相関器13から出力され、1つ前の信号との時間差が計算される。この時間差が船の動揺によって生じた値であるから、その分を時間差調整回路14に入力し、受信信号をその時間差だけずらせれば動揺補正を行ったことになる。なお、相関器13においては、マリンスノーが多く存在する深度範囲例えば表層水の範囲又は(5m~20m)の範囲の様な具体的な水深範囲において相関をとるようになされる。
【0053】
動揺検出補正部9の処理について
図22のフローチャートを参照して説明する。処理を開始すると、ステップS1において(n-1)番目の受信波形をメモリ12に保持し、ステップS2においてn番目の受信波形をメモリ11に保持する。ステップS3において、相関器13によってこれらの相関をとる。ステップS3の相関処理によって二つの受信波形の時間相関値が求められる。ステップS4において、時間(深度)差調整がなされる。このようにして波による動揺が補正され、表示器8による表示画像は、動揺成分を除去したものとなる。
【0054】
図23A、
図23B、
図23C及び
図23Dは、横軸を深度とし、縦軸を受信信号(マリンスノーの受信エコー)の相対的強度とした実際の受信信号の例を示している。
図23Aは、(n-1)番目の受信波形で、深度12mから18mの6m分の波形が示されている。深度15m付近で、受信信号の強度のピークが存在している。
【0055】
図23Bは、n番目の受信波形で、
図23Aと同様に、深度15m付近で、受信エコーのピークが生じている。これらの二つの受信信号を相関処理すると、
図23Cに示す相関処理後の信号波形が得られる。
図23Dが
図23Cのピーク付近の拡大波形である。この拡大波形から、(n-1)番目の受信波形に対してn番目の受信波形が0.04mだけ+側(深度が増加する方向)にずれていることが分かる。すなわち、このずれは、船が波の影響で上側に持ち上げられたことを意味する。この深度の差を補正値として用いれば、全体の受信信号を動揺補正することができる。
【0056】
本発明による動揺補正装置によれば、例えば波による動揺成分を正確に検出することができ、検出された動揺成分を使用して動揺補正を行うことができる。加速度センサを使用しないので、コストの増加を防止でき、誤差の影響を少なくできる。
【符号の説明】
【0057】
1・・・パルス発生器、2・・・送信信号生成部、4・・・送受波器
6・・・受信信号処理部、7・・・メモリ、8・・・表示器、9・・・動揺検出補正部
11,12・・・メモリ、13・・・相関器、14・・・時間調整回路