(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】網戸
(51)【国際特許分類】
E06B 9/52 20060101AFI20221025BHJP
E06B 9/24 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
E06B9/52 Z
E06B9/24 C
(21)【出願番号】P 2018024255
(22)【出願日】2018-02-14
【審査請求日】2021-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(72)【発明者】
【氏名】江本 和高
(72)【発明者】
【氏名】田中 博
(72)【発明者】
【氏名】上村 博典
【審査官】河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】実開平6-37495(JP,U)
【文献】登録実用新案第3184348(JP,U)
【文献】特開2011-209469(JP,A)
【文献】登録実用新案第3087195(JP,U)
【文献】特開2001-32654(JP,A)
【文献】特開2017-166157(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E06B 9/52,9/24,7/28
G02F 1/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の微小な貫通孔が形成されたシート材によって構成される通風部材と、
前記通風部材を囲んで保持する枠体と、を有し、
前記シート材は、印加電圧に応じて高ヘイズ状態、低ヘイズ状態に切替可能な調光フィルムからな
り、
前記調光フィルムは、少なくとも透明電極が形成されたフレキシブルな透明導電フィルムを互いの透明電極側を対向して調光層を挟持してなる構成であることを特徴とする網戸。
【請求項2】
前記調光層は、液晶分子がポリマー中に分散配置された高分子分散型液晶(PDLC:Polymer Dispersed Liquid Crystal)、または三次元の網目状に形成された樹脂からなるポリマーネットワークの内部に形成された空隙内に配置された液晶分子を有するポリマーネットワーク型液晶(PNLC:Polymer Network Liquid Crystal)の何れかである請求項1記載の網戸。
【請求項3】
前記貫通孔は矩形状であり、
前記貫通孔の対角線長が1mm以下であり、
前記調光フィルムの液晶部分の占有面積率が前記調光フィルム全体面積の50%以上であることを特徴とする請求項2に記載の網戸。
【請求項4】
前記貫通孔は円形状であり、
前記貫通孔の直径が1mm以下であり、
前記調光フィルムの液晶部分の占有面積率が前記調光フィルム全体面積の50%以上であることを特徴とする請求項2に記載の網戸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、視覚特性が改良された網戸に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な網戸は、通風部材として合成樹脂の線材を使用することで作成している。これにより、蚊等の微小生物が外部から部屋の内部へ入ることなく、風を部屋内部に送ることができ、また、昼間は合成樹脂の線材により、光が反射されることで、外部から部屋内部が見えにくいという利点も備えている。
網戸用の網として、耐久性が高いステンレス鋼が使用された例もあるが、現在、普及している網戸用の網の大半は耐候性ポリプロピレンからなる約0.2mm径の細線を材質としており、平織りされた網を張る枠には大抵アルミサッシが用いられている。最近では目を細かくして防虫効果を高めたハイメッシュ・タイプも人気を集めている。
従来型の網戸を使用すると、屋外(暗所)から屋内(明所)の様子が見え、特に夜間に明かりを灯すと室内の様子がまる見えの状態になり、プライバシー保護に欠けるという問題があるため、既存の網戸に換えて「シート材に多数の小孔を形成してなる構造」を採用した網戸に係る先行技術での報告例が見られる。(先行文献1,2参照)
特許文献1に記載の網戸では、網戸枠の内側に多数の小孔が形成されたシート材よりなる通風部材が取り付けられ、多数の小孔の内側面が鏡面又は光反射良好面となってプライバシー保護が強化されている。
同特許文献の請求項3に「前記通風部材を多数の小孔が形成されて少しの隙間を有して配置された2枚のシート材によって構成し、しかも、前記2枚のシート材の前記各小孔は互いに異なる位置に配置されている。」と記載されており、この点でもプライバシー保護が強化されている。
特許文献2に記載の網戸は、金属製の薄板材に多数個の小孔が面方向に並び設けられ、該薄板材の一方の片面に位置する孔入口と他方の片面に位置する孔入口とはオフセットした位置関係にあり、前記一方の片面に位置する孔入口から前記他方の片面に位置する孔入口に至る前記各小孔の内側通路は、前記薄板材の板面に対して略直角方向から見たときに、該各小孔の向こう側を通し見ることが出来ない程度に、板厚方向に対して傾斜した向きにあることを特徴とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-32654号公報
【文献】特開2017-78325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シート材に多数の小孔を形成してなる構造の通風部材に対して、「小孔の内側面を鏡面又は光反射面にする(特許文献1)」または「各小孔の内側通路を板厚方向に対して傾斜した向きに形成する(特許文献2)」ことは、何れも技術的に容易でなく、設備,プロセス,部材の増加を伴い製造コストの上昇を招くことになる。
【0005】
また、特許文献1,2では、プライバシー保護機能の向上のため、網戸を通しての眺望を視覚させない改良のみが考慮されており、逆に積極的に視覚を可能とするための改良については、一切の考慮が見られない。
【0006】
本発明は、用途,使用状況に応じて、プライバシー保護,眺望の鮮明な視覚の機能を使
い分けることが可能な網戸を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による網戸は、
多数の微小な貫通孔が形成されたシート材によって構成される通風部材と、
前記通風部材を囲んで保持する枠体と、を有し、
前記シート材は、印加電圧に応じてヘイズを2段階以上に切替可能な調光フィルムからなることを特徴とする。
【0008】
調光フィルムは、少なくとも透明電極が形成されたフレキシブルな透明基材フィルムを互いの透明電極側を対向して調光層を挟持してなる構成であり、
調光層は、液晶分子がポリマー中に分散配置された高分子分散型液晶(PDLC:Polymer Dispersed Liquid Crystal)、または三次元の網目状に形成された樹脂からなるポリマーネットワークの内部に形成された空隙内に配置された液晶分子を有するポリマーネットワーク型液晶(PNLC:Polymer Network Liquid Crystal)の何れかが好適である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、用途,使用状況に応じて、プライバシー保護,眺望の鮮明な視覚に適した双方の機能を使い分けることが可能な網戸が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一例に係る網戸の外観を示す説明図。
【
図2】従来の網戸(細線を材質として平織りした網)を通して屋内から景色を視覚した状態を強調して図示した説明図。
【
図3】実施形態の網戸の構成概略を詳細に示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、以下の説明において、貫通孔50のことを小孔、孔、穴、通風孔とも呼称する。
また、以下の説明において、透明電極26のことを透明導電層とも呼称する。
【0012】
図1は、本発明の一例に係る網戸10の外観を示す説明図である。
【0013】
図1(a)は、調光フィルムが低ヘイズ(透明)状態にある場合、屋内から網戸10を通して景色が視覚される状態を示す説明図であり、
図1(b)は、調光フィルムが高ヘイズ(散乱)状態にある場合、屋内から網戸10を通して景色が視覚されない状態を示す説明図である。
【0014】
図2は、従来の網戸(細線を材質として平織りした網)15を通して屋内から景色を視覚した状態を強調して図示した説明図である。
【0015】
網目を通して景色は視認出来るが、不透明な細線からなるメッシュにより隠蔽されて景色は鮮明には見えない。
【0016】
屋内が明るい場合や、網目サイズが細かくなるほど、この傾向は一層顕著になる。
【0017】
既存の網戸では、インチ当たり18~40本の細線で区画された網目を有しており、網目サイズも辺1mmを超える粗い矩形サイズから辺0.6mm程度の細かい矩形サイズまでの商品ラインアップから用途に応じて選択されている。網目が細かいほど、虫の侵入は回避されやすいが、通気性と景色の視認性は低下する。(当然、視認性の低下に反して、プライバシー保護機能は向上する。)
図3は、通風部材(調光フィルムからなるシート材)20を含めて、網戸10の構成概略を詳細に示す説明図である。
通風部材20は、多数の小孔
50が形成されたシート材によって構成される。網戸10は、通風部材20の四辺周囲を枠体11で囲んで装着された構成である。
本実施形態では、通風部材20の主要部である調光層として、三次元の網目状に形成された樹脂からなるポリマーネットワークの内部に形成された空隙内に液晶分子が配置されたタイプのPNLC(ポリマーネットワーク液晶)、またはポリマー中に分散配置される液晶分子を有するタイプのPDLC(高分子分散液晶)の何れかが採用される。以下、調光層としてPNLCを採用した場合により、代表して説明する。
<PNLCによる調光フィルム>
PNLCからなる調光層を具備する調光フィルムの製造にあたっては、液晶と光重合性化合物(モノマー)との混合物を一対の透明電極基板の間に挟み、一定の条件下で紫外線を照射し、光重合によって光重合性化合物が高分子に変化すると共に、光重合および架橋結合により、微細なドメイン(高分子の空隙)を無数に有するポリマーネットワークが液晶中に形成する。
【0018】
PNLCの駆動電圧は、一般にポリマーネットワークの構造上の特性(ドメインの大きさや形状,ポリマーネットワークの膜厚など)に依存しており、ポリマーネットワークの構造と、得られる光透過と散乱度との関係において、駆動電圧が決定されている。
100V以下の電圧領域において、十分な光透過と散乱度とが得られるようなPNLCを構成するには、各ドメインがいずれも適正な大きさで均一となるように、かつ、形状も均一となるようにポリマーネットワークを形成する必要がある。本発明では、ポリマーネットワーク構造に依存するドメインサイズを3μm以下、好ましくは2μm以下、一層好ましくは約1μmとなる様に制御する。
【0019】
図4に示すように、調光フィルム20は、PNLCからなる調光層22と透明導電フィルム23(a,b)とを備えている。
透明導電フィルム23(a,b)は、調光層22(PNLC)を挟持しており、給電部30から調光層22(PNLC)に電圧を印加して、高ヘイズ(散乱状態),低ヘイズ(透過状態)を変化させる。
【0020】
調光層22は、5μm~50μm(好適には10μm~25μm程度)の厚さでの製造が好ましい。
透明導電フィルム23は、フィルム基材25上にITOやIZOや有機導電膜などの透明な導電材料からなる透明電極26を成膜してなる透明導電フィルム23を互いの透明電極26側を対向して調光層22を挟持する。
透明電極26の好適な厚さは略80nm以上150nm以下である。
尚、PNLCでは印加電圧に応じて、任意の中間調のヘイズ状態を表現することも可能である。
【0021】
リバースタイプの調光層22(PNLC)を具備する調光フィルム20では、調光層22の上側の透明導電フィルム23の間に配向膜27を積層するとともに、調光層22の下側の透明導電フィルム23の間にも配向膜27が積層される。(図示せず)
ポリマーネットワーク及び液晶分子は、一対の配向膜27(a,b)の間に配置されている。配向膜27は、いわゆる垂直配向膜であり、調光層22に電圧を印加していないときに、液晶分子の長手方向が配向膜27の法線方向に沿うように、当該液晶分子を配向する。このため、リバースタイプの調光層22(PNLC)は、電圧を印加していないときに低ヘイズ状態となり、透過性が高くなる。
【0022】
透明導電フィルム23を構成する透明基材25には、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム,ポリエチレン(PE)フィルム,ポリカーボネート(PC)フィルムなどを用いることができる。透明基材25の厚みは、約50~200μm程度が望ましい。透明導電フィルム23を構成する透明導電層26には、一般的にITOなどの金属酸化物が用いられるが、ITOに替えて低抵抗の導電性ポリマーを採用することも可能である。導電性ポリマーとしては、PEDOT/PSSに例示されるπ共役系導電性高分子にドープされたポリアニオンを含む材料の採用が好適である。
【0023】
ITO,IZO,有機導電膜からなる透明電極26は、ハンダに接着しないため、ハンダ付が可能となる様に、透明電極上に金属メッキ層(Niが代表的)を形成したり、導電性接着剤による厚膜層を形成したりするなどの中継的役割を担う端子処理が必要となる。調光層22(PNLC)に電圧を印加するための給電部の形成手法の一例では、透明導電フィルム23(a,b)それぞれの端部において、透明基材25,透明導電層26,(配向膜27),および調光層22が切り欠かれて露出させた透明導電層26の表面に、接着強度を一層高める上で銀ペースト,カーボンテープ,銅テープがそれぞれ用いられて、接続端子(給電部)30が形成され、ハンダを経由した引回し配線により電源40に接続される。一方の透明導電フィルム側に形成される給電部30(a)は、他方の透明導電フィルム側に形成された給電部30(b)とは重なり合わず離間した箇所に形成される。
【0024】
こうして透明導電フィルム23に付与された給電部30から電圧が印加され、調光フィルム20の液晶駆動が行なわれる。
<調光フィルムによる通風部材>
以上の様に作製されたシート状の調光フィルム20に、多数の通風孔を形成して網戸の主要部である通風部材とする。通風孔は貫通孔として形成される。
【0025】
調光フィルム20は、フレキシブルな部材からなる総厚が500μm以下のフィルムベース構造であるため、所望形状(輪郭)の断裁加工や孔あけ加工にも対応可能である。
【0026】
網戸用途では、虫の侵入を回避する程度のサイズの孔を多数あけて、シートに通気性を付与する必要がある。
【0027】
表1は、既存の網戸での代表的な商品ラインアップのメッシュサイズと、それぞれの場合の(a)細線間隔,(b)1個あたり孔面積,(c)細線の占める面積(=遮蔽部の面積)を示す。
【0028】
細線の占める面積(c)については、細線本数×細線長さ×細線幅×2(縦,横)-細線交差部の面積(交差点数×細線幅×細線幅)により計算している。
【0029】
同表においては、インチ(25.4mm)角あたりの細線本数を18,20,24,30,40の「メッシュNo.(#)」として、0.2mm径の細線を用いた場合についての計算結果を各仕様について表している。
【0030】
【表1】
表1によると、最も網目の細かい高グレード品とされるハイメッシュ・タイプ(40#)では、(a)細線間隔,(b)1個あたり孔面積が微細であり、(c)細線の占める面積(=遮蔽部の面積)が最大となっており、網戸を通しての視認性が低いであろうことが推測される。(総面積=インチ角(645.16mm
2)に対しての細線比率が50%を超えている)
同様に、0.15mm径の細線を用いた場合についての計算結果を表2に、0.3mm
径の細線を用いた場合についての計算結果を表3に示す。
【0031】
【0032】
【表3】
図3右側の拡大部図面に示す様に、調光フィルム20の全面に多数の孔50を形成する。穴50は、矩形状、円形状、自由形状、いずれであってもよい。
【0033】
孔50のサイズ,配置密度,個数は、用途に応じて適宜設計される。
穿孔手段としては、機械的なパンチ手段,レーザービーム照射などが適宜採用される。ここで、網戸の本来的機能の一つである虫の侵入回避という観点に鑑み、孔のサイズは以下のように規定される。すなわち、矩形状孔であれば対角線長が1mm以下、円形状であれば直径が1mm以下、自由形状であれば最大幅が1mm以下に規定される。穿孔により貫通孔として形成された通風孔50において、内側面は調光フィルム20端部を封止するために用いられる封止材と同一の材料により被覆される。
【0034】
表2,3では、細線の径が2倍異なり、表3(0.3mm径)での40#における(c)細線の占める面積が、表2(0.15mm径)での20#における(c)と等しい値(268.8mm2=占有面積比42%)となっている。
【0035】
本発明においては、孔サイズと孔の占有面積率とが、孔の個数(メッシュサイズに対応)による制約を受けることなく、自在に設計可能である。
【0036】
既存の網戸での細線の占める部分は、本発明では液晶部分にあたり、その変調(透明-遮蔽の切替り)に伴う効果を多く享受する上では、液晶部分の占有面積率が50%以上確保されることが好ましい。
【0037】
以上により、
図1に示す様に、透明状態と遮蔽状態が明確に切り替えることが可能であり、常時通気性の良好なシート状網戸が提供される。
本発明による網戸は、シート状網戸の先行技術である特許文献1,2における特殊な孔加工(内壁面への反射加工,2枚のシート間での小孔の軸外し,シート面に対して非直交な傾斜角を持つ孔形成)など技術的な難易度を伴わず、多数の孔形成が比較的容易に可能となる。
【符号の説明】
【0038】
10,15 網戸
11 枠体
20 通風部材(調光フィルム)
22 調光層(PNLC)
23a,23b 透明導電フィルム
25a,25b フィルム基材
27a,27b 配向膜
30 給電部(接続端子)
40 電源
50 孔