(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】楽器用ピックアップ及び楽器
(51)【国際特許分類】
G10H 3/14 20060101AFI20221025BHJP
G10D 13/08 20200101ALI20221025BHJP
【FI】
G10H3/14 Z
G10D13/08 120
(21)【出願番号】P 2018049828
(22)【出願日】2018-03-16
【審査請求日】2021-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100206391
【氏名又は名称】柏野 由布子
(72)【発明者】
【氏名】安部 万律
(72)【発明者】
【氏名】山越 哲也
【審査官】泉 卓也
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-333672(JP,A)
【文献】特開2017-067763(JP,A)
【文献】特開平03-152600(JP,A)
【文献】国際公開第2017/104506(WO,A1)
【文献】米国特許第03542936(US,A)
【文献】特開2007-171233(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10H 1/00- 7/12
G10D 13/00-13/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の音源に
対して間隔をあけて配され、前記音源
において発生した音波によって加振される振動体と、
前記振動体の振動を検出するセンサと、を備え、
前記振動体の共振周波数が、複数の前記音源において発生する基音の周波数領域と異なる楽器用ピックアップ。
【請求項2】
前記振動体は、
吊具によって支持体に対して
吊るされている請求項1に記載の楽器用ピックアップ。
【請求項3】
複数の音源に
対して間隔をあけて配され、前記音源
において発生した音波によって加振される振動体と、
前記振動体の振動を検出するセンサと、を備え、
前記振動体は、
吊具によって支持体に対して
吊るされている楽器用ピックアップ。
【請求項4】
前記振動体における振動の減衰率が、前記音源において発生する音の減衰率よりも大きい請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の楽器用ピックアップ。
【請求項5】
複数の音源に
対して間隔をあけて配され、前記音源
において発生した音波によって加振される振動体と、
前記振動体の振動を検出するセンサと、を備え、
前記振動体における振動の減衰率が、前記音源において発生する音の減衰率よりも大きい楽器用ピックアップ。
【請求項6】
前記振動体と前記センサとの間に緩衝材が介在している請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の楽器用ピックアップ。
【請求項7】
前記振動体が、複数の前記音源のうちいずれか二つの前記音源の配列方向に延びており、
前記配列方向における前記振動体の寸法は、二つの前記音源間の距離よりも大きい請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の楽器用ピックアップ。
【請求項8】
複数の音源と、
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の楽器用ピックアップと、
を備える楽器。
【請求項9】
前記音源が、凹部を有する音板であり、
前記振動体の少なくとも一部が、前記音板の前記凹部内に位置する請求項8に記載の楽器。
【請求項10】
複数の音源と、
複数の音源に
対して間隔をあけて配され、前記音源
において発生した音波によって加振される振動体と、前記振動体の振動を検出するセンサと、を備える楽器用ピックアップと、
を備え、
前記音源が、凹部を有する音板であり、
前記振動体の少なくとも一部が、前記音板の前記凹部内に位置する楽器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、楽器用ピックアップ及び楽器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、木琴、鉄琴、チェレスタ等の音板楽器、チャイムなどのように、演奏者の操作によって音を発生する複数の音源を有する楽器では、その音を様々な方法で集音することが考えられている。特許文献1には、マリンバ、シロフォン、ヴィブラフォン等の音板楽器において、センサが取り付けられた打撃体を、音板の間に配した構成が開示されている。特許文献1のセンサは、打撃体に加えられた打撃によって発生する振動を検出することで、打撃体において生じた音を集音する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
音板楽器等のように複数の音源を有する楽器の音を集音するためには、特許文献1の場合と同様に、各音源にセンサを設けることが考えられる。しかし、センサを音板等の音源に直接取り付けると、音源の音響特性(例えば音程、減衰特性、音色など)が変化してしまう、という問題がある。
また、音板楽器等のように音源の数が多い楽器では、センサの数も多くなるため、音源に対するセンサの取付作業や保守作業が面倒である(例えば配線の取り回しやどの部分にトラブルが発生したか分かりにくい)、という問題もある。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、音源の音響特性に影響を与えることなく、複数の音源を有する楽器の音を集音でき、かつ、取付作業や保守作業も容易に行うことが可能な楽器用ピックアップ、及びこれを備える楽器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の楽器用ピックアップは、複数の音源に対して間隔をあけて配され、前記音源において発生した音波によって加振される振動体と、前記振動体の振動を検出するセンサと、を備え、前記振動体の共振周波数が、複数の前記音源において発生する基音の周波数領域と異なる。
また、本発明の楽器用ピックアップは、複数の音源に対して間隔をあけて配され、前記音源において発生した音波によって加振される振動体と、前記振動体の振動を検出するセンサと、を備え、前記振動体は、吊具によって支持体に対して吊るされている。
また、本発明の楽器用ピックアップは、複数の音源に対して間隔をあけて配され、前記音源において発生した音波によって加振される振動体と、前記振動体の振動を検出するセンサと、を備え、前記振動体における振動の減衰率が、前記音源において発生する音の減衰率よりも大きい。
【0007】
本発明の楽器は、複数の音源と、前記楽器用ピックアップと、を備える。
また、本発明の楽器は、複数の音源と、複数の音源に対して間隔をあけて配され、前記音源において発生した音波によって加振される振動体と、前記振動体の振動を検出するセンサと、を備える楽器用ピックアップと、を備え、前記音源が、凹部を有する音板であり、前記振動体の少なくとも一部が、前記音板の前記凹部内に位置する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、振動体及びセンサが音源に接触しないため、音源の音響特性に影響を与えることなく、音源の音を集音できる。また、複数の音源の音を一つの振動体及びセンサによって検出することができるため、楽器用ピックアップの取付作業や保守作業を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る楽器用ピックアップを含む楽器を模式的に示す平面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る楽器用ピックアップの振動板の周波数特性の一例を示すグラフである。
【
図5】本発明の他の実施形態に係る楽器用ピックアップを含む楽器を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、
図1~4を参照して本発明の一実施形態について説明する。本実施形態では、本発明に係る楽器として、木琴類のマリンバや鉄琴類のヴィブラフォンなどの音板楽器1を例示する。
図1~3においては、音板楽器1の演奏者から見て音板楽器1の左右方向をX軸方向とし、音板楽器1の前後方向をY軸方向とし、音板楽器1の上下方向をZ軸方向としている。
【0011】
図1,2に示すように、音板楽器1は、複数の音板2(音源)を備える。また、音板楽器1は、複数の音板2を支持するフレーム3を備える。
フレーム3の具体的な構成は任意であってよい。本実施形態のフレーム3は、二つの第一梁11と、二つの第二梁12と、二つの第三梁13と、を備える。
【0012】
二つの第一梁11は、互いに平行して一方向(X軸方向)に延びている。二つの第二梁12は、二つの第一梁11の配列方向(Y軸方向)において二つの第一梁11の外側に配されている。各第二梁12は、第一梁11の長手方向の一方側から他方側(
図1において左側から右側)に向かうにしたがって第一梁11との間隔が小さくなるように延びている。二つの第三梁13は、二つの第一梁11及び第二梁12の配列方向に延びている。二つの第三梁13は、長手方向における第一梁11及び第二梁12の両端に接続される。
図1においては、二つの第三梁13のうち左側に位置する第三梁13だけが示され、右側に位置する第三梁は省略されている。
【0013】
各音板2は、帯板状に形成されている。各音板2は、その長手方向がY軸方向に向くようにY軸方向に隣り合う第一梁11及び第二梁12の上側に配される。これにより、長手方向における各音板2の両端部が、第一梁11及び第二梁12によって支持される。
図2において、音板2と第一梁11や第二梁12との間にはフェルト枕14が設けられている。
【0014】
各音板2には凹部21が形成されている。凹部21は、音板2のうちフレーム3側(第一梁11側、第二梁12側)に向く面2a(下面2a)から窪むように形成されている。凹部21は、Y軸方向において第一梁11及び第二梁12の間に位置する音板2の中間部に形成されている。
【0015】
各音板2は、その上面2bがマレット等により打撃されることによって音を発生する。具体的に、音板2は、打撃されることで音板2のうちフレーム3(第一梁11、第二梁12)によって支持された部位を節として振動し、この振動によって音板2から音が発生する。音板2において生じる音には、基音及び倍音がある。基音は、音板2が一次モードで振動することで発生する音である。倍音は、音板2が二次モードや三次モードなどで振動することで発生する音である。一次モード、三次モードの振動では、振動の腹が長手方向における音板2の中間2Cに位置する。二次モードの振動では、振動の節が音板2の中間2Cに位置する。
【0016】
複数の音板2は、互いに異なる音階の音を発生する。複数の音板2は、X軸方向に配列されている。複数の音板2は、手前側(Y軸負方向側)においてX軸方向に配列される第一音板群22と、第一音板群22よりも奥側(Y軸正方向側)においてX軸方向に配列される第二音板群23と、を構成している。第一音板群22を構成する複数の音板2は、幹音(音階名がC,D,E,F,G,A,Bである音)を発生する。第二音板群23を構成する複数の音板2は、派生音(音階名がC#,D#,F#,G#,A#である音)を発生する。
【0017】
図1~3に示すように、音板楽器1は、楽器用ピックアップ4を備える。楽器用ピックアップ4は、振動体31と、センサ32と、を備える。
【0018】
振動体31は、複数の音板2に対向して配される。すなわち、振動体31は、複数の音板2に対して間隔をあけて配される。振動体31と複数の音板2との間隔は、任意であってよいが、音板2が振動しても振動体31に接触しない範囲で小さくすることがより好ましい。
本実施形態において、振動体31は複数の音板2の下面2a側に配される。振動体31は、例えば全ての音板2の下面2a側に一つだけ配されてよい。本実施形態の振動体31には、第一音板群22を構成する複数の音板2の下面2a側に配される第一振動体31Aと、第二音板群23を構成する複数の音板2の下面2a側に配される第二振動体31Bと、がある。
【0019】
各振動体31(31A,31B)は、各音板群22,23の複数の音板2の配列方向(X軸方向)に延びている。各振動体31は、少なくともX軸方向に並ぶ二つの音板2の下面2a側に配されるように形成されればよい。すなわち、X軸方向における各振動体31の寸法は、X軸方向に配列された二つの音板2間の距離よりも大きければよい。具体的に、X軸方向における各振動体31の寸法は、X軸方向における二つの音板2の寸法及び二つの音板2の間の間隔の寸法を足し合わせた寸法以上であればよい。このため、各振動体31は、例えばX軸方向に複数配列されてもよい。本実施形態においては、一つの第一振動体31Aが第一音板群22を構成する全ての音板2に対応し、一つの第二振動体31Bが第二音板群23を構成する全ての音板2に対応している。
【0020】
第一振動体31A、第二振動体31Bは、音板楽器1をZ軸方向から見た平面視で、それぞれフレーム3の第一梁11、第二梁12及び第三梁13によって囲まれた領域15(配置領域15)に位置している。すなわち、第一振動体31A、第二振動体31Bは、配置領域15をなすフレーム3の枠部の内側に位置している。
【0021】
振動体31は、音板2からの音に反応して加振(音響加振)される。具体的に、振動体31は、音板2において発生して空気中に伝わる音波が振動体31に到達することで振動する。このため、振動体31と複数の音板2との間隔を小さくすることで、音板2において発生した音(振動)を効率よく振動体31に伝達することができる。振動体31は、各音板2の音の周波数に応じた周波数で振動する。
【0022】
振動体31は、棒状、筒状、ブロック状など任意の形状に形成されてよい。本実施形態の振動体31は、板状に形成されている。板状の振動体31は、その板厚方向において振動体31に向かう音に対して振動しやすく、板厚方向に直交する方向において振動体31に向かう音に対して振動しにくい。すなわち、板状の振動体31は、音に対して高い指向性を有する。本実施形態において、板状の振動体31は、その板厚方向に直交する面31c(対向面31c)が音板2側に向くように配されている。このため、振動体31は、音板2からの音に対して高い感度で振動することができる。
【0023】
振動体31は、例えば平板状に形成されてもよい。本実施形態の振動体31は、湾曲した板状に形成されている。具体的に、板状の振動体31は、音板2に対向する振動体31の対向面31cが凹部21の内面に沿うように湾曲している。本実施形態では、振動体31の対向面31cが凹部21の内面の近くに位置するように、振動体31の一部が音板2の凹部21内に位置する。凹部21内に位置する振動体31の部位は、長手方向における音板2の中間2Cに対応する部位に対向する。
【0024】
図4に示すように、振動体31の共振周波数f1は、振動体31に対応する複数の音板2において発生する基音の周波数領域frと異なる。例えば第一振動体31Aの共振周波数f1は、第一音板群22を構成する複数の音板2において発生する基音の周波数領域frと異なる。振動体31の共振周波数f1と「基音の周波数領域fr」との差分は、例えば小さくてもよいが、大きい方がより好ましい。
図4において、振動体31の共振周波数f1は「基音の周波数領域fr」よりも高いが、例えば低くてもよい。
【0025】
振動体31は、例えば高い比剛性を有するとよい。振動体31の比剛性を高くすることで、振動体31の共振周波数f1を高くすることができる。すなわち、振動体31の共振周波数f1と「基音の周波数領域fr」との差分を大きくすることが可能となる。
また、振動体31における振動の減衰率は、例えば音板2において発生する音の減衰率よりも大きいとよい。
【0026】
振動体31を構成する材料は、例えば紙、木材、樹脂、金属箔、またはこれらの複合材など任意であってよい。振動体31の構造は、例えば気泡を含まない無垢の構造、気泡を含む発泡構造、ハニカム構造など、任意であってよい。振動体31の構造が、発泡構造、ハニカム構造である場合には、無垢の構造である場合と比較して振動体31の比剛性を高くすることができる。
【0027】
図1~3に示すように、振動体31は、複数の音板2に対して所定の位置に保持される。振動体31を保持する手法は任意であってよい。本実施形態において、振動体31は、フレーム3(支持体)に対して自由振動可能となるように支持されることで、複数の音板2の下側の位置に保持される。振動体31がフレーム3に対して自由振動可能であることは、振動体31がフレーム3によって制限されることなく振動できることを意味する。
具体的に、振動体31は、吊具5によってフレーム3に対して吊るされることで、フレーム3に対して自由振動可能に支持される。吊具5は、少なくとも紐や糸、鎖などのように引っ張ることで張力が生じるものであればよい。また、吊具5は、バネやゴム紐などのように弾性的に伸縮するものであってもよい。図示例において、振動体31は吊具5によってフレーム3の第一梁11及び第二梁12に吊るされているが、これに限ることはない。振動体31は、例えばフレーム3とは別個の支持体に対して吊るされてもよい。
【0028】
センサ32は、振動体31の振動を検出する。センサ32は、振動体31の振動に応じた電気信号を出力する。
センサ32は、振動体31に対して、少なくとも音板2からの音に伴う振動体31の振動を効率よく検出する位置又は方向に配されればよい。本実施形態において、センサ32は、板状の振動体31に対してその板厚方向に隣り合わせて配されている。センサ32は、
図1,3に例示するように振動体31の対向面31c側に配されてもよいが、例えば対向面31cと反対側に向く振動体31の面側に配されてもよい。また、センサ32は、Z軸方向から見た平面視で、例えば音板2と重なる位置に配されてもよいが、本実施形態では
図1に示すように音板2と重ならない位置に配されている。
【0029】
センサ32は、振動体31に接触してもよいし、接触しなくてもよい。振動体31に接触するセンサ32(接触型センサ)には、例えば振動センサや加速度センサ、速度センサ、変位センサなどがある。振動体31に接触しないセンサ32(非接触型センサ)には、音圧センサや光センサなどがある。本実施形態のセンサ32は、
図3に例示するように接触型センサである。センサ32は、ねじ止めや接着(例えば接着剤や両面テープを用いた接着)など任意の手法で振動体31に取り付けられてよい。
【0030】
センサ32は、例えば振動体31に直接接触してよい。本実施形態では、
図3に示すように、振動体31とセンサ32との間に緩衝材33が介在している。すなわち、センサ32は、緩衝材33を介して振動体31に接触する。
緩衝材33は、振動体31における振動の周波数が高くなるにしたがって振動の伝達効率が低くなる特性を有する。緩衝材33は、「基音の周波数領域fr」(
図4参照)における振動の伝達効率が高く、「基音の周波数領域fr」よりも高い周波数帯域(振動体31の共振周波数f1を含む周波数帯域)における振動の伝達効率が低いとよい。
緩衝材33の粘度は、振動体31と比較して高いことが好ましい。緩衝材33の具体例としては、例えばスポンジ、フェルト、ゴム、木材などが挙げられる。
【0031】
センサ32は、例えば同一の振動体31に対して複数設けられてよい。この場合、複数のセンサ32は、互いに間隔をあけて配されるとよい。本実施形態のセンサ32は、同一の振動体31に対して一つ設けられている。
【0032】
本実施形態の楽器用ピックアップ4では、音板2からの音に応じた振動体31の振動をセンサ32によって検出することで、音板2の音を集音することができる。
本実施形態の楽器用ピックアップ4及び音板楽器1によれば、振動体31及びセンサ32は音板2に接触しない。このため、楽器用ピックアップ4は、音板2の音響特性に影響を与えることなく、音板楽器1の音を集音できる。また、複数の音板2の音を一つの振動体31及びセンサ32によって検出できるため、楽器用ピックアップ4の取付作業や保守作業を容易に行うことができる。
また、センサ32やこれに接続される配線の数を少なくすることができるため、楽器用ピックアップ4を安価に製造することができる。
【0033】
また、本実施形態の楽器用ピックアップ4及び音板楽器1によれば、複数の音板2のうち二つの音板2の配列方向(X軸方向)における振動体31の寸法が、二つの音板2間の距離よりも大きい。これにより、二つ以上の音板2の音を確実に一つの振動体31及びセンサ32によって検出することができる。
【0034】
また、本実施形態の楽器用ピックアップ4及び音板楽器1によれば、振動体31の共振周波数f1が複数の音板2において発生する「基音の周波数領域fr」と異なる。このため、音板2において生じた所定の周波数の音に対して振動体31が共振することを抑制できる。これにより、楽器用ピックアップ4が、所定周波数の音を他の周波数の音よりも高い音圧で集音してしまうことを抑制できる。すなわち、楽器用ピックアップ4によって集音した複数の音板2の音の音量が音階に応じて異なってしまうこと(音量ムラが生じること)を抑制できる。
【0035】
また、本実施形態の楽器用ピックアップ4及び音板楽器1において、振動体31における振動の減衰率が音板2において発生する音の減衰率よりも大きい場合には、以下の効果を奏する。仮に振動体31の共振周波数f1と「基音の周波数領域fr」との差分が小さくても、音板2からの音に対して振動体31が共振することを抑制できる。
【0036】
また、本実施形態の楽器用ピックアップ4及び音板楽器1では、振動体31とセンサ32との間に緩衝材33が介在している。これにより、「基音の周波数領域fr」よりも高い周波数帯域の振動に対するセンサ32の感度を低くすることが可能となる。振動体31の共振周波数f1が高い周波数帯域に含まれる場合には、仮に振動体31が打撃される等して振動体31が共振周波数f1で振動したとしても、この振動がセンサ32によって検出されることを抑制できる。
【0037】
また、本実施形態の楽器用ピックアップ4及び音板楽器1では、振動体31が、フレーム3等の支持体に対して自由振動可能に支持されている。具体的に、振動体31は吊具5によってフレーム3に対して吊るされている。このため、音板2からの音に基づく振動体31の動きがフレーム3等の支持体によって制限されることを抑制又は防止できる。これにより、音板2の音に対して振動体31を効率よく振動させることができる。例えば、音板2の音が小さくても振動体31を振動させることができる。
【0038】
また、本実施形態の音板楽器1では、振動体31が音板2の下面2a側に配されているため、楽器用ピックアップ4は音板2の音を効率よく集音できる。また、音板楽器1の演奏(音板2を打撃する行為)が振動体31によって妨げられることも防止できる。
【0039】
また、本実施形態の音板楽器1は、音板2の下面2a側に音板2の音を集音する楽器用ピックアップ4を設けて構成される。このため、共鳴管(パイプ)を有するシロフォン、マリンバ、ヴィブラフォン等の従来の音板楽器から共鳴管を取り外した音板楽器を構成できる。したがって、音板楽器1を安価に製造できる。また、音板楽器1の小型化を図ることができるため、音板楽器1をコンパクトに収納できる、また、容易に持ち運ぶことができる。
【0040】
また、本実施形態の音板楽器1では、振動体31が音板楽器1のフレーム3の枠部の内側に配されるように構成されている。このため、楽器用ピックアップ4を既存の音板楽器1に対して簡単に付け足すことができる。
また、振動体31が音板楽器1のフレーム3の枠部の内側に配されることで、振動体31と複数の音板2との間隔を小さくすることができる。これにより、楽器用ピックアップ4によって集音される音板2からの音圧を上げることができ、ハウリングの発生を抑制できる。
【0041】
また、本実施形態の音板楽器1では、振動体31の一部が音板2の凹部21内に位置する。このため、振動体31を音板2に対してより近くに位置させることができ、ハウリングの発生をさらに抑制できる。
また、振動体31を音板2の凹部21内に位置させることで、凹部21内に位置する振動体31の部位を、長手方向における音板2の中間2Cに対応する部位に対向して配することができる。このため、音板2において発生した音のうち振動の腹が音板2の中間2Cに位置する基音に対して振動体31を高い感度で振動させることができる。すなわち、音板2において発生した基音を効率よく集音できる。
【0042】
また、本実施形態の楽器用ピックアップ4において、振動体31は音に対する指向性が高い板状に形成されている。また、板状の振動体31は、その板厚方向に直交する面が音板2側に向くように配されている。このため、楽器用ピックアップ4では、音板2の音を集音しやすく、かつ、音板2以外の音(例えば、楽器用ピックアップ4において集音した音を出力するスピーカの音、他の楽器の音など)を集音しにくくすることができる。これにより、ハウリングを抑制することができる。
【0043】
本実施形態の楽器用ピックアップ4において、振動体31を筒状に形成した場合には、振動体31が板状である場合と比較して振動体31の比剛性を容易に高くすることができる。このため、振動体31の共振周波数f1と「基音の周波数領域fr」との差分を大きくすることが可能となる。これにより、音板2において生じた所定の周波数の音に対して振動体31が共振することを抑制できる。
【0044】
上記実施形態において、振動体31は、吊具5を用いる代わりに、例えば金属製スプリングなどのような弾性体上に載せられることで、複数の音板2に対して所定の位置に保持されてもよい。弾性体は、例えばフレーム3を載せる台上に配されてよい。振動体31が弾性体上に載せられる場合、弾性体によって振動体31を支持する方法を変えることにより、共振周波数f1で振動する際の振動体31の振動モード(固有モード)を制御することができる。例えば、弾性体によって振動体31を支持する支持点の数や位置を変えることで、振動体31の振動モードの腹や節の位置を変えることができる。
【0045】
また、上記実施形態において、振動体31は、例えばスポンジ、フェルト、ゴムなどのような粘弾性体上に載せられることで、複数の音板2に対して所定の位置に保持されてもよい。この場合には、前述した効果に加え、粘弾性体の粘性によって振動体31における振動の減衰率を向上させることができる。これにより、音板2からの音に対して振動体31が共振することを抑制できる。
【0046】
また、上記実施形態において、振動体31は、例えば音板2からの音に応じた振動体31の振動を妨げないように振動体31の端部がフレーム3などの支持体に固定されることで、複数の音板2に対して所定の位置に保持されてもよい。上記実施形態のように振動体31がフレーム3の枠部の内側に位置する場合には、例えば振動体31の端部がフレーム3の第一梁11、第二梁12、第三梁13のうちいずれか一つに固定されてよい。すなわち、振動体31が片持ち梁となるようにフレーム3に固定されてよい。また、例えば一方向における振動体31の両端部がフレーム3に固定されてもよい。すなわち、振動体31が両持ち梁となるようにフレーム3に固定されてもよい。
このように振動体31がフレーム3などの支持体に固定される場合には、振動体31の共振周波数f1を高めることができる。これにより、振動体31の共振周波数f1と「基音の周波数領域fr」(
図4参照)との差分を大きくすることができる。
【0047】
上記実施形態においては、例えば
図5に示すように、振動体31全体が音板2の凹部21内に位置してもよい。また、上記実施形態においては、例えば
図5に示すように、振動体31全体が音板2の中間2Cの部位に対向するように配されてもよい。この場合には、音板2において発生する基音(一次モードの振動に対応して発生する音)を、音板2における二次モードの振動に対応して発生する音よりも効率よく集音できる。
【0048】
以上、本発明について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0049】
本発明の楽器用ピックアップにおいて、振動体は、例えば複数の音板及びフレームを収容するケースによって構成されてもよい。また、振動体は、例えば音板楽器を載せる机や台によって構成されてもよい。これらの場合には、専用の振動体を用意する必要がないため、楽器用ピックアップを安価に導入することが可能となる。
【0050】
本発明の楽器用ピックアップは、上記実施形態の音板楽器に限らず、チェレスタ等の他の音板楽器、チャイムなど、複数の音源を有する任意の楽器に適用可能である。
【符号の説明】
【0051】
1…音板楽器(楽器)、2…音板(音源)、3…フレーム(支持体)、4…楽器用ピックアップ、5…吊具、21…凹部、31…振動体、32…センサ、33…緩衝材、f1…共振周波数、fr…基音の周波数領域