(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】バイポーラプレート
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0215 20160101AFI20221025BHJP
H01M 8/0228 20160101ALI20221025BHJP
H01M 8/0206 20160101ALI20221025BHJP
H01M 8/0213 20160101ALI20221025BHJP
H01M 8/0221 20160101ALI20221025BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20221025BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20221025BHJP
【FI】
H01M8/0215
H01M8/0228
H01M8/0206
H01M8/0213
H01M8/0221
H01M8/10 101
C25B9/00 A
(21)【出願番号】P 2018077567
(22)【出願日】2018-04-13
【審査請求日】2021-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】若山 博昭
(72)【発明者】
【氏名】上高 雄二
(72)【発明者】
【氏名】村田 元
(72)【発明者】
【氏名】深野 達雄
(72)【発明者】
【氏名】山崎 清
【審査官】小川 進
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-049701(JP,A)
【文献】国際公開第2017/082257(WO,A1)
【文献】特表2015-515538(JP,A)
【文献】特開2018-049782(JP,A)
【文献】特開2004-119061(JP,A)
【文献】特開2008-004498(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/0215
H01M 8/0228
H01M 8/0206
H01M 8/0213
H01M 8/0221
H01M 8/10
C25B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構成を備えたバイポーラプレート。
(1)前記バイポーラプレートは、
基板と、
前記基板の表面の少なくとも一部に形成された被覆膜と
を備えている。
(2)前記被覆膜は、次の式(1)で表される組成を有するTiO系複合酸化物を含む。
M
xTiO
2+(y/2)x ・・・(1)
但し、
Mは、Nb、Au、Bi、Li、
Mg、及び、Baからなる群から選ばれるいずれか1以上の元素、
xは、1/2~2、
yは、Mの原子価に等しい値。
【請求項2】
前記被覆膜は、Nb
xTiO
2+(y/2)x、Au
xTiO
2+(y/2)x、及びBi
xTiO
2+(y/2)xからなる群から選ばれるいずれか1以上のTiO系複合酸化物を含む請求項1に記載のバイポーラプレート。
【請求項3】
前記基板は、金属、カーボン、又は高分子材料からなる請求項1又は2に記載のバイポーラプレート。
【請求項4】
前記被覆膜は、少なくとも電極との接触面に形成されている請求項1から3までのいずれか1項に記載のバイポーラプレート。
【請求項5】
固体高分子形燃料電池用セパレータ、又は、PEM水電解装置用バイポーラプレートとして用いられる請求項1から4までのいずれか1項に記載のバイポーラプレート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイポーラプレートに関し、さらに詳しくは、固体高分子形燃料電池用セパレータ、固体高分子形(PEM)水電解装置用バイポーラプレートなどに用いられるバイポーラプレートに関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、電解質膜の両面に触媒を含む電極(触媒層+ガス拡散層)が接合された膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly,MEA)を備えている。MEAの両面には、さらに、ガス流路を備えた集電体(セパレータともいう)が配置される。固体高分子形燃料電池は、通常、このようなMEAと集電体からなる単セルが複数個積層された構造(燃料電池スタック)を備えている。このような燃料電池のアノード及びカソードに、それぞれ、燃料ガス及び酸化剤ガスを供給すると、カソードにおいて水が生成すると同時に、電力を取り出すことができる。
【0003】
一方、PEM水電解装置は、燃料電池とほぼ同様の構造を備えているが、燃料電池とは逆の反応を起こさせるものである。すなわち、酸素極に水を供給し、電極間に電力を供給すると、水の電気分解が進行し、水素及び酸素を取り出すことができる。
【0004】
なお、PEM水電解装置において、MEAの両面に配置される部材は、一般に、バイポーラプレート(複極板)と呼ばれている。本発明において、PEM水電解装置に用いられるバイポーラプレート(狭義のバイポーラプレート)を指す時は、「PEM水電解装置用バイポーラプレート」という。
一方、単に「バイポーラプレート」という時は、広義のバイポーラプレート、すなわち、MEAの用途を問わず、MEAの両面に配置される導電性部材の総称を表す。
【0005】
固体高分子形燃料電池及びPEM水電解装置において、電解質膜には、通常、ポリパーフルオロカーボンスルホン酸膜が用いられている。そのため、バイポーラプレートは、使用中に強酸性雰囲気に曝される。使用中にバイポーラプレートの表面が酸化され、電極との接触面に高抵抗層が形成されると、電極反応又は電解反応が阻害される。
【0006】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、チタン合金板とステンレス鋼板の積層板からなる複極板を備えた水電解槽が開示されている。
同文献には、
(a)複極板としてチタン合金を用いる場合、陰極側を白金メッキして水素脆化を防止する必要があるが、白金メッキを施しても水素脆化を完全に防止できない点、及び、
(b)ステンレス鋼板が陰極側に来るように積層板を配置すると、チタン合金の水素脆化防止のために複極板の陰極側を白金メッキする必要がなくなる点、
が記載されている。
【0007】
従来、PEM水電解装置用バイポーラプレートとして、白金メッキしたチタン合金、チタン合金とステンレス鋼板の積層板などが提案されている。しかし、白金及びチタン合金はいずれも高価であるため、使用量を極力少なくするのが好ましい。また、メッキプロセスも高コストプロセスであるため、被覆膜の成膜には低コストプロセスを用いるのが好ましい。しかし、高価な材料の使用量が少なく、かつ、高コストなプロセスを用いることなく製造が可能な、バイポーラプレートが提案された例は、従来にはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、耐食性及び導電性に優れ、しかも、低コストなバイポーラプレートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明に係るバイポーラプレートは、以下の構成を備えていることを要旨とする。
(1)前記バイポーラプレートは、
基板と、
前記基板の表面の少なくとも一部に形成された被覆膜と
を備えている。
(2)前記被覆膜は、次の式(1)で表される組成を有するTiO系複合酸化物を含む。
MxTiO2+(y/2)x ・・・(1)
但し、
Mは、Nb、Au、Bi、Li、Mg、Ca、Sr、Ba及びLaからなる群から選ばれるいずれか1以上の元素、
xは、1/2~2、
yは、Mの原子価に等しい値。
【発明の効果】
【0011】
TiO系複合酸化物は、耐食性及び導電性に優れている。また、TiO系複合酸化物は、貴金属含有量が少ない又は含まないため、低コストである。さらに、TiO系複合酸化物からなる薄膜は、比較的低コストなスパッタ法により成膜することができる。そのため、TiO系複合酸化物からなる薄膜をバイポーラプレートの被覆膜に適用すれば、耐食性及び導電性に優れ、しかも低コストなバイポーラプレートを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. バイポーラプレート]
本発明に係るバイポーラプレートは、以下の構成を備えている。
(1)前記バイポーラプレートは、
基板と、
前記基板の表面の少なくとも一部に形成された被覆膜と
を備えている。
(2)前記複合酸化物は、TiO系複合酸化物を含む。
【0013】
[1.1. 基板]
基板の形状は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な形状を選択することができる。バイポーラプレートには、通常、発電用燃料、酸化剤、電解用原料、あるいは反応生成物を流通させるためのガス流路が設けられている。
【0014】
バイポーラプレートは、MEAの電極と、負荷(燃料電池の場合)又は電源(水電解装置の場合)との間で電子の授受を行う必要がある。そのため、バイポーラプレートには、一般にMEAの使用環境に耐える高い耐食性に加えて、高い導電性が求められる。
但し、本発明においては、被覆膜に高耐食性、かつ、高導電性の複合酸化物が用いられるため、基板は、少なくともMEAの使用環境に耐える耐食性を持つものであれば良く、必ずしも導電性材料である必要はない。
基板の材料としては、例えば、
(a)チタン合金、ステンレス鋼、アルミニウム、銅、ニッケル、モリブデン、クロムなどの金属、
(b)カーボン、
(c)エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニルなどのプラスチック材料、及び、プラスチック材料をガラス、カーボン、樹脂等の繊維で強化した繊維強化樹脂などの高分子材料
などがある。
【0015】
[1.2. 被覆膜]
[1.2.1. 材料]
被覆膜は、高耐食・高導電性の複合酸化物からなる。本発明において、複合酸化物は、TiO系複合酸化物を含む。本発明において、「TiO系複合酸化物」とは、次の式(1)で表される組成を有する複合酸化物をいう。
MxTiO2+(y/2)x ・・・(1)
但し、
Mは、Nb、Au、Bi、Li、Mg、Ca、Sr、Ba及びLaからなる群から選ばれるいずれか1以上の元素、
xは、1/2~2、
yは、Mの原子価に等しい値。
【0016】
式(1)中、xは、複合酸化物を構成する陽イオンの数を表し、高耐食性、高導電性を示す物質で、1/2~2の範囲内の値を取る。
TiO系複合酸化物は、いずれも、燃料電池環境下又は水電解装置環境下における耐食性が高く、かつ、導電性も高いので、バイポーラプレートの被覆膜として好適である。被覆膜は、これらのいずれか1種のTiO系複合酸化物を含むものでも良く、あるいは、2種以上を含むものでも良い。
被覆膜を構成する複合酸化物は、特に、NbxTiO2+(y/2)x、AuxTiO2+(y/2)x、及びBixTiO2+(y/2)xからなる群から選ばれるいずれか1以上のTiO系複合酸化物が好ましい。これは、これらの複合酸化物は、いずれもTiの耐久性と、Nb、Au、Biの導電性とを併せ持つためである。
【0017】
被覆膜は、実質的にTiO系複合酸化物のみからなるものが好ましいが、高耐食性及び高導電性を阻害しない限りにおいて、他の相が含まれていても良い。
他の相としては、例えば、
(a)不可避的不純物、
(b)高耐食性物質、
などがある。
【0018】
[1.2.2. 被覆膜の形成位置]
基板が導電性材料からなる場合、被覆膜は、基板の全面に形成されていても良く、あるいは、電極との接触面にのみ形成されていても良い。基板には、通常、ガス流路を形成するための凹凸が形成されており、バイポーラプレートは凸部を介して電極と接触する。このような場合、電極との非接触面に高抵抗層が形成されたとしても電子の授受に支障はないので、少なくとも電極との接触面(凸部の先端面)に被覆膜を形成すれば良い。
一方、基板が導電性材料でない場合、電子の授受は被覆膜を介して行われる。このような場合には、被覆膜は、電極との接触面だけでなく、電極と負荷又は電源との間で電子の授受が可能となる位置に形成する必要がある。
【0019】
[1.3. 用途]
本発明に係るバイポーラプレートは、
(a)固体高分子形燃料電池用セパレータ、
(b)PEM水電解装置用バイポーラプレート、
などに用いることができる。
【0020】
[2. バイポーラプレートの製造方法]
バイポーラプレートは、所定の形状を有する基板の表面に、所定のパターンで被覆膜を形成することにより製造することができる。
被覆膜の形成方法としては、例えば、スパッタリング法、蒸着法、めっき法、プラズマ法、CVD法などがある。これらの中でも、スパッタリング法は、他の方法と比べて低コストであり、大面積の成膜も容易であるので、被覆膜の形成方法として好適である。
【0021】
[3. 作用]
TiO系複合酸化物は、耐食性及び導電性に優れている。また、TiO系複合酸化物は、貴金属含有量が少ない又は含まないため、低コストである。さらに、TiO系複合酸化物からなる薄膜は、比較的低コストなスパッタ法により成膜することができる。そのため、TiO系複合酸化物からなる薄膜をバイポーラプレートの保護膜に適用すれば、耐食性及び導電性に優れ、しかも低コストなバイポーラプレートを得ることができる。
【0022】
TiO系複合酸化物は、金属元素Mの種類によらず、高耐食性及び高導電性を示す。これは、以下の理由による。すなわち、TiO系酸化物は、不動態皮膜と呼ばれる皮膜を形成しやすいため、化学的に安定で高耐食性を有する。さらに、金属元素Mを複合化することで、高導電性を発現する。
【実施例】
【0023】
(実施例1)
[1. 試料の作製]
スパッタ法により、Ti基板(0.1×100×50mm、(株)ニラコ製)の表面にNb-Ti複合酸化物NbxTiO2+(y/2)xからなる被覆膜を成膜した。ターゲットには、Nb及びTiを用いた。また、スパッタ時の雰囲気は、O2雰囲気とした。成膜後、Ti基板を切断し、1cm×2cmの試料を得た。
【0024】
[2. 試験方法]
[2.1. 耐食試験]
1Lのセパラブルフラスコに0.01N硫酸を800mL入れた。これをマントルヒーターにセットし、80℃まで加熱した。80℃に保たれた硫酸に試料を浸漬し、試料に2.0Vの電圧を6時間印加した。
[2.2. 抵抗測定]
電圧印加前後の抵抗変化を測定するために、ロードセルで試料に1MPa加圧した。試料面に垂直方向に0~0.5Aの電流を流した時の電圧値を測定した。さらに、電圧値から接触抵抗を算出した。
【0025】
[3. 結果]
実施例1の場合、電圧印加前の接触抵抗は、53mΩcm2であった。一方、電圧印加後の接触抵抗は、36mΩcm2であった。以上の結果から、NbxTiO2+(y/2)xが固体高分子電解質(PEM)を用いた燃料電池及び水素製造システムでの使用環境において、良好な耐食性と良好な導電性を示すことが実証された。
【0026】
(実施例2)
[1. 試料の作製]
スパッタ法により、Ti基板(0.1×100×50mm、(株)ニラコ製)の表面にAu-Ti複合酸化物AuxTiO2+(y/2)xからなる被覆膜を成膜した。ターゲットには、Au及びTiを用いた。また、スパッタ時の雰囲気は、O2雰囲気とした。成膜後、Ti基板を切断し、1cm×2cmの試料を得た。
【0027】
[2. 試験方法及び結果]
実施例1と同一条件下で耐食試験を行った。さらに、実施例1と同一条件下で、電圧印加前後の接触抵抗を求めた。
実施例2の場合、電圧印加前の接触抵抗は、61mΩcm2であった。一方、電圧印加後の接触抵抗は、26mΩcm2であった。以上の結果から、AuxTiO2+(y/2)xが固体高分子電解質(PEM)を用いた燃料電池及び水素製造システムでの使用環境において、良好な耐食性と良好な導電性を示すことが実証された。
【0028】
(実施例3)
[1. 試料の作製]
スパッタ法により、Ti基板(0.1×100×50mm、(株)ニラコ製)の表面にBi-Ti複合酸化物BixTiO2+(y/2)xからなる被覆膜を成膜した。ターゲットには、Bi及びTiを用いた。また、スパッタ時の雰囲気は、O2雰囲気とした。成膜後、Ti基板を切断し、1cm×2cmの試料を得た。
【0029】
[2. 試験方法及び結果]
実施例1と同一条件下で耐食試験を行った。さらに、実施例1と同一条件下で、電圧印加前後の接触抵抗を求めた。
実施例3の場合、電圧印加前の接触抵抗は、57mΩcm2であった。一方、電圧印加後の接触抵抗は、44mΩcm2であった。以上の結果から、BixTiO2+(y/2)xが固体高分子電解質(PEM)を用いた燃料電池及び水素製造システムでの使用環境において、良好な耐食性と良好な導電性を示すことが実証された。
【0030】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明に係るバイポーラプレートは、固体高分子形燃料電池用セパレータ、固体高分子形(PEM)水電解装置用バイポーラプレートなどに使用することができる。