(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】熱電変換モジュール、及び、熱電変換モジュールの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 35/08 20060101AFI20221025BHJP
H01L 35/34 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
H01L35/08
H01L35/34
(21)【出願番号】P 2018118764
(22)【出願日】2018-06-22
【審査請求日】2021-03-26
(31)【優先権主張番号】P 2017132050
(32)【優先日】2017-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】新井 皓也
(72)【発明者】
【氏名】西元 修司
(72)【発明者】
【氏名】駒崎 雅人
(72)【発明者】
【氏名】長友 義幸
(72)【発明者】
【氏名】黒光 祥郎
【審査官】小山 満
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-059823(JP,A)
【文献】特開2013-197265(JP,A)
【文献】特開2014-236106(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0058101(US,A1)
【文献】国際公開第2017/047627(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03352233(EP,A1)
【文献】特開2017-069555(JP,A)
【文献】特開平07-321378(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 35/08
H01L 35/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の熱電変換素子と、これら熱電変換素子の一端側に配設された第1電極部及び他端側に配設された第2電極部と、を有し、前記第1電極部及び前記第2電極部を介して複数の前記熱電変換素子が電気的に接続してなる熱電変換モジュールであって、
前記熱電変換素子の一端側には、第1絶縁層と、この第1絶縁層の一方の面に形成された前記第1電極部と、を備えた第1絶縁回路基板が配設されており、
前記第1電極部は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる第1アルミニウム層と、この第1アルミニウム層の前記第1絶縁層とは反対側の面に形成された銀の焼成体からなる第1銀焼成層と、を有し、
前記第1アルミニウム層は、厚さが50μm以上2000μm以下の範囲内とされ、
前記第1電極部(第1アルミニウム層および第1銀焼成層)はパターン状に形成され、前記第1銀焼成層によって複数の前記熱電変換素子が直接接続しており、
前第1銀焼成層は、少なくとも前記熱電変換素子が配置された領域において、厚さが5μm以上とされ、気孔率が10%未満とされていることを特徴とする熱電変換モジュール。
【請求項2】
前記第1銀焼成層の厚さが20μm以上とされていることを特徴とする請求項1に記載の熱電変換モジュール。
【請求項3】
前記熱電変換素子の他端側に、第2絶縁層と、この第2絶縁層の一方の面に形成された前記第2電極部と、を備えた第2絶縁回路基板が配設されており、
前記第2電極部は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる第2アルミニウム層と、この第2アルミニウム層の前記第2絶縁層とは反対側の面に形成された銀の焼成体からなる第2銀焼成層と、を有し、
前記第2アルミニウム層は、厚さが50μm以上2000μm以下の範囲内とされ、
前第2銀焼成層は、少なくとも前記熱電変換素子が配置された領域において、厚さが5μm以上とされ、気孔率が10%未満とされていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の熱電変換モジュール。
【請求項4】
前記第2銀焼成層の厚さが20μm以上とされていることを特徴とする請求項3に記載の熱電変換モジュール。
【請求項5】
複数の熱電変換素子と、これら熱電変換素子の一端側に配設された第1電極部及び他端側に配設された第2電極部と、を有し、前記第1電極部及び前記第2電極部を介して複数の前記熱電変換素子が電気的に接続してなる熱電変換モジュールの製造方法であって、
前記熱電変換モジュールは、前記熱電変換素子の一端側に、第1絶縁層と、この第1絶縁層の一方の面に形成された前記第1電極部と、を備えた第1絶縁回路基板が配設されており、前記第1電極部は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる第1アルミニウム層と、この第1アルミニウム層の前記第1絶縁層とは反対側の面に積層された銀の焼成体からなる第1銀焼成層と、を有しており、
前記第1アルミニウム層の一方の面側に、銀を含む銀ペーストを5μmを超える厚さで塗布する銀ペースト塗布工程と、
前記銀ペーストを焼成して、前記第1アルミニウム層と前記第1銀焼成層を有する前記第1電極部を形成する焼成工程と、
前記熱電変換素子の一端側に前記第1電極部を介して前記第1絶縁層を積層する積層工程と、
前記熱電変換素子と前記第1絶縁層とを積層方向に加圧するとともに加熱して、前記熱電変換素子を接合する熱電変換素子接合工程と、
を有し、
前記銀ペースト塗布工程においては、少なくとも前記第1アルミニウム層と接する最下層には、ガラス含有銀ペーストを塗布し、
前記熱電変換素子接合工程においては、加圧荷重が20MPa以上50MPa以下の範囲内、加熱温度が300℃以上400℃以下とされており、
前記第1電極部(第1アルミニウム層および第1銀焼成層)はパターン状に形成され、前記第1銀焼成層によって複数の前記熱電変換素子が直接接続しており、
前記第1銀焼成層の少なくとも前記熱電変換素子が配置された領域において、厚さが5μm以上とされ、気孔率が10%未満とされることを特徴とする熱電変換モジュールの製造方法。
【請求項6】
前記焼成工程後に、前記第1銀焼成層に対してブラスト処理を行うブラスト工程を備えていることを特徴とする請求項5に記載の熱電変換モジュールの製造方法。
【請求項7】
前記積層工程では、前記第1電極部の上に銀ペーストを塗布して乾燥させた後に、前記熱電変換素子を配設することを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の熱電変換モジュールの製造方法。
【請求項8】
前記熱電変換モジュールは、前記熱電変換素子の他端側に、第2絶縁層と、この第2絶縁層の一方の面に形成された前記第2電極部と、を備えた第2絶縁回路基板が配設されており、前記第2電極部は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる第2アルミニウム層と、この第2アルミニウム層の前記第2絶縁層とは反対側の面に積層された銀の焼成体からなる第2銀焼成層と、を有し、
前記銀ペースト塗布工程では、前記第1アルミニウム層及び前記第2アルミニウム層の一方の面に、銀を含む銀ペーストを5μm以上の厚さで塗布するともに、少なくとも前記第1アルミニウム層及び前記第2アルミニウム層と接する最下層には、ガラス含有銀ペーストを塗布し、
前記焼成工程では、前記銀ペーストを焼成し、前記第1アルミニウム層と前記第1銀焼成層を有する前記第1電極部、及び、前記第2アルミニウム層と前記第2銀焼成層を有する前記第2電極部を形成し、
前記積層工程では、前記熱電変換素子の一端側に前記第1電極部を介して前記第1絶縁層を積層するとともに前記熱電変換素子の他端側に前記第2電極部を介して前記第2絶縁層を積層し、
前記熱電変換素子接合工程では、前記第1絶縁層と前記熱電変換素子と前記第2絶縁層を、積層方向に加圧するとともに加熱して、前記第1電極部と前記熱電変換素子、及び、前記熱電変換素子と前記第2電極部を接合し、
前記熱電変換素子接合工程においては、加圧荷重が20MPa以上50MPa以下の範囲内、加熱温度が300℃以上400℃以下とされており、前記第1銀焼成層及び前記第2銀焼成層の少なくとも前記熱電変換素子が配置された領域において、厚さが5μm以上とされ、気孔率が10%未満とされることを特徴とする請求項5から請求項7のいずれか一項に記載の熱電変換モジュールの製造方法。
【請求項9】
前記焼成工程後に、前記第1銀焼成層及び前記第2銀焼成層に対してブラスト処理を行うブラスト工程を備えていることを特徴とする請求項8に記載の熱電変換モジュールの製造方法。
【請求項10】
前記積層工程では、前記第2電極部の上に銀ペーストを塗布して乾燥させた後に、前記熱電変換素子を配設することを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の熱電変換モジュールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数の熱電変換素子が電気的に接続してなる熱電変換モジュール、及び、熱電変換モジュールの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上述の熱電変換素子は、ゼーベック効果あるいはペルティエ効果によって、熱エネルギーと電気エネルギーとを相互に変換可能な電子素子である。
ゼーベック効果は、熱電変換素子の両端に温度差を生じさせると起電力が発生する現象であり、熱エネルギーを電気エネルギーに変換する。ゼーベック効果により発生する起電力は、熱電変換素子の特性によって決まる。近年では、この効果を利用した熱電発電の開発が盛んである。
ペルティエ効果は、熱電変換素子の両端に電極等を形成して電極間で電位差を生じさせると、熱電変換素子の両端に温度差が生じる現象であり、電気エネルギーを熱エネルギーに変換する。このような効果をもつ素子は特にペルティエ素子と呼ばれ、精密機器や小型冷蔵庫などの冷却や温度制御に利用されている。
【0003】
上述の熱電変換素子を用いた熱電変換モジュールとしては、例えば、n型熱電変換素子とp型熱電変換素子とを交互に直列接続した構造のものが提案されている。
このような熱電変換モジュールにおいては、複数の熱電変換素子の一端側及び他端側にそれぞれ伝熱板が配置され、この伝熱板に配設された電極部によって熱電変換素子同士が直列接続された構造とされている。なお、上述の伝熱板として、絶縁層と電極部とを備えた絶縁回路基板を用いることがある。
【0004】
そして、熱電変換素子の一端側に配設された伝熱板と熱電変換素子の他端側に配設された伝熱板との間で温度差を生じさせることで、ゼーベック効果によって、電気エネルギーを発生させることができる。あるいは、熱電変換素子に電流を流すことで、ペルティエ効果によって、熱電変換素子の一端側に配設された伝熱板と熱電変換素子の他端側に配設された伝熱板との間に温度差を生じさせることが可能となる。
【0005】
ここで、上述の熱電変換モジュールにおいては、熱電変換効率を向上させるために、熱電変換素子と接続された電極部における電気抵抗を低く抑える必要がある。
このため、従来、熱電変換素子と電極部とを接合する際には、導電性に特に優れた銀ペースト等が用いられている。また、電極部自体を銀ペーストで形成し、熱電変換素子と接合することもある。
【0006】
しかしながら、銀ペーストの焼成体は、気孔が比較的多いことから、電気抵抗を十分に低く抑えることができない。また、気孔内に存在するガスによって熱電変換素子が変質してしまうおそれがあった。
銀ペーストの焼成体を緻密化して気孔を少なくするためには、銀の融点(960℃)以上に加熱して液相焼結することが考えられるが、このような高温条件では接合時に熱電変換素子が熱で劣化してしまうおそれがあった。
【0007】
そこで、例えば特許文献1においては、銀よりも融点の低い銀ロウを用いて電極部を構成し、熱電変換素子を接合する方法が提案されている。
また、特許文献2においては、気孔中のガスによる熱電変換素子の劣化を抑制するために、接合層の外周面全体にガラス溶液を塗布して空気中で乾燥することによって緻密質被膜を形成する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2013-197265号公報
【文献】特開2012-231025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、特許文献1に記載された方法においては、銀よりも融点の低い銀ロウを用いているが、熱電変換モジュールの作動温度でも銀ロウが溶融しないように、使用する銀ロウの融点は例えば750~800℃が好ましいとされている(特許文献1段落番号0023参照)。このような比較的高温条件で熱電変換素子を接合した場合には、やはり、接合時の熱によって熱電変換素子の特性が劣化してしまうおそれがあった。
【0010】
また、特許文献2に記載された方法においては、接合層の内部には気孔が存在しているため、熱電変換素子と接続された電極部における電気抵抗を低く抑えることができず、熱電変換モジュールの熱電変換効率を向上することはできなかった。
【0011】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、電極部における電気抵抗が低く、かつ、接合時における熱電変換素子の劣化が抑えられており、熱電変換効率に優れた熱電変換モジュール、及び、熱電変換モジュールの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の熱電変換モジュールは、複数の熱電変換素子と、これら熱電変換素子の一端側に配設された第1電極部及び他端側に配設された第2電極部と、を有し、前記第1電極部及び前記第2電極部を介して複数の前記熱電変換素子が電気的に接続してなる熱電変換モジュールであって、前記熱電変換素子の一端側には、第1絶縁層と、この第1絶縁層の一方の面に形成された前記第1電極部と、を備えた第1絶縁回路基板が配設されており、前記第1電極部は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる第1アルミニウム層と、この第1アルミニウム層の前記第1絶縁層とは反対側の面に形成された銀の焼成体からなる第1銀焼成層と、を有し、前記第1アルミニウム層は、厚さが50μm以上2000μm以下の範囲内とされ、前記第1電極部(第1アルミニウム層および第1銀焼成層)はパターン状に形成され、前記第1銀焼成層によって複数の前記熱電変換素子が直接接続しており、前第1銀焼成層は、少なくとも前記熱電変換素子が配置された領域において、厚さが5μm以上とされ、気孔率が10%未満とされていることを特徴としている。
【0013】
本発明の熱電変換モジュールによれば、前記熱電変換素子の一端側には、第1絶縁層と、この第1絶縁層の一方の面に形成された前記第1電極部と、を備えた第1絶縁回路基板が配設されており、前記第1電極部は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる第1アルミニウム層と、この第1アルミニウム層の前記第1絶縁層とは反対側の面に形成された銀の焼成体からなる第1銀焼成層と、を有し、前記第1アルミニウム層は、厚さが50μm以上2000μm以下の範囲内とされ、前記第1銀焼成層は、少なくとも前記熱電変換素子が配置された領域において、厚さが5μm以上とされ、気孔率が10%未満とされているので、第1銀焼成層が緻密となり、かつ、第1電極部全体の厚さが確保され、電気抵抗を低くすることができる。また、第1銀焼成層において気孔が少ないため、気孔のガスによる熱電変換素子の劣化を抑えることができる。
【0014】
また、第1電極部には、比較的軟らかい金属であるアルミニウム又はアルミニウム合金からなる第1アルミニウム層が設けられているので、銀や銅を絶縁層に接合した基板を用いる場合と比較し、金属と絶縁層との熱膨張差による絶縁層の破損を抑制することが可能となる。
さらに、前記第1銀焼成層は、銀ペーストの焼成体とされているので、接合温度(焼成温度)を比較的低温条件とすることができ、接合時の熱電変換素子の劣化を抑制することができる。また、前記第1銀焼成層自体は、銀で構成されているので、500℃程度の作動温度でも安定して作動させることができる。
【0015】
ここで、本発明の熱電変換モジュールにおいては、前記第1銀焼成層の厚さが20μm以上とされている構成としてもよい。
この場合、前記第1銀焼成層の厚さが20μm以上と比較的厚く形成されているので、この第1銀焼成層によって導電性が確保されることになり、複数の熱電変換素子間の電気抵抗を低く抑えることが可能となる。
【0016】
また、本発明の熱電変換モジュールにおいては、前記熱電変換素子の他端側に、第2絶縁層と、この第2絶縁層の一方の面に形成された前記第2電極部と、を備えた第2絶縁回路基板が配設されており、前記第2電極部は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる第2アルミニウム層と、この第2アルミニウム層の前記第2絶縁層とは反対側の面に形成された銀の焼成体からなる第2銀焼成層と、を有し、前記第2アルミニウム層は、厚さが50μm以上2000μm以下の範囲内とされ、前第2銀焼成層は、少なくとも前記熱電変換素子が配置された領域において、厚さが5μm以上とされ、気孔率が10%未満とされた構成としてもよい。
【0017】
この場合、前記熱電変換素子の他端側に第2絶縁回路基板が配設され、この第2絶縁回路基板の前記第2電極部についても、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる第2アルミニウム層と、この第2アルミニウム層の前記第2絶縁層とは反対側の面に形成された銀の焼成体からなる第2銀焼成層と、を有し、前記第2アルミニウム層は、厚さが50μm以上2000μm以下の範囲内とされ、前第2銀焼成層は、少なくとも前記熱電変換素子が配置された領域において、厚さが5μm以上とされ、気孔率が10%未満とされているので、第2銀焼成層が緻密となり、かつ、第2電極部全体の厚さが確保され、電気抵抗を低くすることができる。また、第2銀焼成層において気孔が少ないため、気孔のガスによる熱電変換素子の劣化を抑えることができる。
【0018】
また、第2電極部には、比較的軟らかい金属であるアルミニウム又はアルミニウム合金からなる第2アルミニウム層が設けられているので、銀や銅を絶縁層に接合した基板を用いる場合と比較し、金属と絶縁層との熱膨張差による絶縁層の破損を抑制することが可能となる。
さらに、前記第2銀焼成層は、銀ペーストの焼成体とされているので、接合温度(焼成温度)を比較的低温条件とすることができ、接合時の熱電変換素子の劣化を抑制することができる。また、前記第2銀焼成層自体は、銀で構成されているので、500℃程度の作動温度でも、安定して作動させることができる。
【0019】
さらに、本発明の熱電変換モジュールにおいては、前記第2銀焼成層の厚さが20μm以上とされている構成としてもよい。
この場合、前記第2銀焼成層の厚さが20μm以上と比較的厚く形成されているので、この第2銀焼成層によって導電性が確保されることになり、複数の熱電変換素子間の電気抵抗を低く抑えることが可能となる。
【0020】
本発明の熱電変換モジュールの製造方法は、複数の熱電変換素子と、これら熱電変換素子の一端側に配設された第1電極部及び他端側に配設された第2電極部と、を有し、前記第1電極部及び前記第2電極部を介して複数の前記熱電変換素子が電気的に接続してなる熱電変換モジュールの製造方法であって、前記熱電変換モジュールは、前記熱電変換素子の一端側に、第1絶縁層と、この第1絶縁層の一方の面に形成された前記第1電極部と、を備えた第1絶縁回路基板が配設されており、前記第1電極部は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる第1アルミニウム層と、この第1アルミニウム層の前記第1絶縁層とは反対側の面に積層された銀の焼成体からなる第1銀焼成層と、を有しており、前記第1アルミニウム層の一方の面側に、銀を含む銀ペーストを5μmを超える厚さで塗布する銀ペースト塗布工程と、前記銀ペーストを焼成して、前記第1アルミニウム層と前記第1銀焼成層を有する前記第1電極部を形成する焼成工程と、前記熱電変換素子の一端側に前記第1電極部を介して前記第1絶縁層を積層する積層工程と、前記熱電変換素子と前記第1絶縁層とを積層方向に加圧するとともに加熱して、前記熱電変換素子を接合する熱電変換素子接合工程と、を有し、前記銀ペースト塗布工程においては、少なくとも前記第1アルミニウム層と接する最下層には、ガラス含有銀ペーストを塗布し、前記熱電変換素子接合工程においては、加圧荷重が20MPa以上50MPa以下の範囲内、加熱温度が300℃以上400℃以下とされており、前記第1電極部(第1アルミニウム層および第1銀焼成層)はパターン状に形成され、前記第1銀焼成層によって複数の前記熱電変換素子が直接接続しており、前記第1銀焼成層の少なくとも前記熱電変換素子が配置された領域において、厚さが5μm以上とされ、気孔率が10%未満とされることを特徴としている。
【0021】
このような構成とされた熱電変換モジュールの製造方法によれば、前記熱電変換素子接合工程において、加圧荷重が20MPa以上50MPa以下の範囲内、加熱温度が300℃以上400℃以下とされているので、前記第1銀焼成層の少なくとも前記熱電変換素子が配置された領域において、その厚さを5μm以上、かつ、気孔率を10%未満とすることができる。また、比較的低温条件とされているので、接合時(焼成時)における熱電変換素子の劣化を抑制することができる。
また、前記銀ペースト塗布工程において、少なくとも前記第1アルミニウム層と接する最下層にはガラス含有銀ペーストを塗布しているので、ガラス含有銀ペーストのガラス成分によって前記第1アルミニウム層の表面に形成された酸化被膜を除去することができ、前記第1アルミニウム層と前記第1銀焼成層とを確実に接合することができる。
【0022】
ここで、本発明の熱電変換モジュールの製造方法においては、前記焼成工程後に、前記第1銀焼成層に対してブラスト処理を行うブラスト工程を備えていてもよい。
この場合、前記第1銀焼成層に対してブラスト処理を行うブラスト工程を備えているので、前記第1銀焼成層と前記第1アルミニウム層との間の電気抵抗が低下し、第1電極部における導電性を向上させることができる。
【0023】
また、本発明の熱電変換モジュールの製造方法においては、前記積層工程では、前記第1電極部の上に銀ペーストを塗布して乾燥させた後に、前記熱電変換素子を配設する構成としてもよい。
この場合、前記第1電極部の上に銀ペーストを塗布して乾燥させた後に、前記熱電変換素子を配設しており、その後、上述の条件で熱電変換素子を接合しているので、前記第1電極部の上に塗布した銀ペーストの焼成体も緻密化し、気孔率を10%未満とすることができる。
【0024】
さらに、本発明の熱電変換モジュールの製造方法においては、前記熱電変換モジュールは、前記熱電変換素子の他端側に、第2絶縁層と、この第2絶縁層の一方の面に形成された前記第2電極部と、を備えた第2絶縁回路基板が配設されており、前記第2電極部は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる第2アルミニウム層と、この第2アルミニウム層の前記第2絶縁層とは反対側の面に積層された銀の焼成体からなる第2銀焼成層と、を有し、前記銀ペースト塗布工程では、前記第1アルミニウム層及び前記第2アルミニウム層の一方の面に、銀を含む銀ペーストを5μm以上の厚さで塗布するともに、少なくとも前記第1アルミニウム層及び前記第2アルミニウム層と接する最下層には、ガラス含有銀ペーストを塗布し、前記焼成工程では、前記銀ペーストを焼成し、前記第1アルミニウム層と前記第1銀焼成層を有する前記第1電極部、及び、前記第2アルミニウム層と前記第2銀焼成層を有する前記第2電極部を形成し、前記積層工程では、前記熱電変換素子の一端側に前記第1電極部を介して前記第1絶縁層を積層するとともに前記熱電変換素子の他端側に前記第2電極部を介して前記第2絶縁層を積層し、前記熱電変換素子接合工程では、前記第1絶縁層と前記熱電変換素子と前記第2絶縁層を、積層方向に加圧するとともに加熱して、前記第1電極部と前記熱電変換素子、及び、前記熱電変換素子と前記第2電極部を接合し、前記熱電変換素子接合工程においては、加圧荷重が20MPa以上50MPa以下の範囲内、加熱温度が300℃以上400℃以下とされており、前記第1銀焼成層及び前記第2銀焼成層の少なくとも前記熱電変換素子が配置された領域において、厚さが5μm以上とされ、気孔率が10%未満とされる構成としてもよい。
【0025】
この場合、前記熱電変換素子の他端側に配設される第2電極部の第2銀焼成層においても、少なくとも前記熱電変換素子が配置された領域において、その厚さを5μm以上、かつ、気孔率を10%未満とすることができる。また、比較的低温条件とされているので、接合時(焼成時)における熱電変換素子の劣化を抑制することができる。
また、前記銀ペースト塗布工程において、少なくとも前記第1アルミニウム層及び第2アルミニウム層と接する最下層にはガラス含有銀ペーストを塗布しているので、ガラス含有銀ペーストのガラス成分によって前記第1アルミニウム層及び前記第2アルミニウム層の表面に形成された酸化被膜を除去することができ、前記第1アルミニウム層と前記第1銀焼成層、及び、前記第2アルミニウム層と前記第2銀焼成層を確実に接合することができる。
【0026】
また、本発明の熱電変換モジュールの製造方法においては、前記焼成工程後に、前記第1銀焼成層及び前記第2銀焼成層に対してブラスト処理を行うブラスト工程を備えていてもよい。
この場合、ブラスト工程において、前記第1銀焼成層及び前記第2銀焼成層に対してブラスト処理を行っているので、前記第1銀焼成層と前記第1アルミニウム層との間、及び、前記第2銀焼成層と前記第2アルミニウム層との間の電気抵抗が低下し、第1電極部及び第2電極部における導電性を向上させることができる。
【0027】
さらに、本発明の熱電変換モジュールの製造方法においては、前記積層工程では、前記第2電極部の上に銀ペーストを塗布して乾燥させた後に、前記熱電変換素子を配設する構成としてもよい。
この場合、前記第2電極部の上に銀ペーストを塗布して乾燥させた後に、前記熱電変換素子を配設しており、その後、上述の条件で熱電変換素子を接合しているので、前記第2電極部の上に塗布した銀ペーストの焼成体も緻密化し、気孔率を10%未満とすることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、電極部における電気抵抗が低く、かつ、接合時における熱電変換素子の劣化が抑えられており、熱電変換効率に優れた熱電変換モジュール、及び、熱電変換モジュールの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の実施形態である熱電変換モジュールの概略説明図である。
【
図2】本発明の実施形態である熱電変換モジュールの製造方法を示すフロー図である。
【
図3】本発明の実施形態である熱電変換モジュールの製造方法の概略説明図である。
【
図4】本発明の実施形態である熱電変換モジュールの製造方法の概略説明図である。
【
図5】本発明の他の実施形態である熱電変換モジュールの概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。なお、以下に示す各実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0031】
本実施形態に係る熱電変換モジュール10は、
図1に示すように、複数の柱状をなす熱電変換素子11と、この熱電変換素子11の長さ方向の一端側(
図1において下側)に配設された第1伝熱板20と、熱電変換素子11の長さ方向の他端側(
図1において上側)に配設された第2伝熱板30と、を備えている。
ここで、
図1に示すように、熱電変換素子11の一端側に配設された第1伝熱板20には第1電極部25が形成され、熱電変換素子11の他端側に配設された第2伝熱板30には第2電極部35が形成されており、これら第1電極部25及び第2電極部35によって、複数の柱状をなす熱電変換素子11が電気的に直列接続されている。
【0032】
第1伝熱板20は、第1絶縁層21と、この第1絶縁層21の一方の面(
図1において上面)に形成された第1電極部25と、を備えた第1絶縁回路基板で構成されている。
なお、本実施形態では、第1伝熱板20となる第1絶縁回路基板においては、
図1に示すように、第1絶縁層21の他方の面(
図1において下面)に、第1放熱層26が形成されている。
【0033】
第1絶縁層21は、例えば窒化アルミニウム(AlN)、窒化ケイ素(Si3N4)、アルミナ(Al2O3)等の絶縁性の高いセラミックス材料、あるいは、絶縁樹脂等で構成されている。本実施形態では、第1絶縁層21は窒化アルミニウム(AlN)で構成されている。ここで、窒化アルミニウムからなる第1絶縁層21の厚さは、100μm以上2000μm以下の範囲内とされている。
【0034】
第1電極部25は、
図1に示すように、第1絶縁層21の一方の面に配設された第1アルミニウム層25aと、この第1アルミニウム層25aの第1絶縁層21とは反対側の面に積層された銀の焼成体からなる第1銀焼成層25bと、を有している。なお、第1電極部25は、第1絶縁層21の一方の面(
図1において上面)にパターン状に形成されている。
【0035】
ここで、第1アルミニウム層25aは、その厚さが50μm以上2000μm以下の範囲内とされている。
なお、第1アルミニウム層25aは、
図3に示すように、第1絶縁層21の一方の面に、第1アルミニウム板45aが接合されることにより形成されている。本実施形態においては、第1アルミニウム板45aは、純度が99mass%以上のアルミニウムや純度99.99mass%以上のアルミニウムで構成されている。
【0036】
第1銀焼成層25bは、銀の焼成体で構成されており、第1アルミニウム層25aの一方の面に接する最下層は、ガラス成分を含有するガラス含有銀ペーストの焼成体で構成されている。本実施形態では、第1銀焼成層25b全体が、ガラス含有銀ペーストの焼成体で構成されている。
そして、この第1銀焼成層25bにおいては、少なくとも熱電変換素子11が配置された領域において、厚さが5μm以上とされている。
【0037】
ここで、第1銀焼成層25bの厚さは、20μm以上とすることが好ましい。第1銀焼成層25bの厚さを20μm以上とすることで、電気抵抗を確実に低下させることができる。また、第1銀焼成層25bの厚さは、100μm以下であることが好ましい。第1銀焼成層25bの厚さを100μm以下とすることで、冷熱サイクルが負荷された際に熱電変換素子11に大きな熱応力が生じることを抑制でき、割れの発生を防止することが可能となる。
よって、第1銀焼成層25bの厚さは20μm以上100μm以下の範囲内とすることが好ましい。なお、第1銀焼成層25bの厚さの下限は30μm以上とすることがより好ましく、第1銀焼成層25bの厚さの上限は60μm以下とすることがより好ましい。
【0038】
また、第1銀焼成層25bにおいては、少なくとも熱電変換素子11が配置された領域において、気孔率Pが10%未満とされている。なお、第1銀焼成層25bの気孔率Pは、以下のようにして算出することができる。
第1銀焼成層25bの断面を機械研磨した後、Arイオンエッチング(日本電子株式会社製クロスセクションポリッシャSM-09010)を行い、レーザ顕微鏡(株式会社キーエンス製VK X-200)を用いて断面観察を実施した。そして、得られた画像を二値化処理し、白色部をAg、黒色部を気孔とした。二値化した画像から、黒色部の面積を求め、以下に示す式で気孔率を算出した。5箇所の断面で測定し、各断面の気孔率を算術平均して第1銀焼成層25bの気孔率とした。
気孔率P(%)=黒色部(気孔)面積/第1銀焼成層21bの観察面積×100
【0039】
ここで、第1アルミニウム層25aがアルミニウム又はアルミニウム合金で構成されていることから、第1アルミニウム層25aの表面には、大気中で自然発生したアルミニウム酸化被膜が形成されている。本実施形態では、第1銀焼成層25bの最下層がガラス含有銀ペーストの焼成体で構成されているので、ガラス成分によってアルミニウム酸化被膜が除去され、第1アルミニウム層25aと第1銀焼成層25bとが強固に接合されている。
【0040】
第1放熱層26は、アルミニウム又はアルミニウム合金で構成されている。本実施形態では、第1放熱層26は、第1アルミニウム層25aと同様に、第1絶縁層21の他方の面に、放熱用アルミニウム板46が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、放熱用アルミニウム板46は、純度が99mass%以上のアルミニウムや純度99.99mass%以上のアルミニウムで構成されている。
【0041】
第2伝熱板30は、第2絶縁層31と、この第2絶縁層31の一方の面(
図1において下面)に形成された第2電極部35と、を備えた第2絶縁回路基板で構成されている。
なお、本実施形態では、第2伝熱板30となる第2絶縁回路基板においては、
図1に示すように、第2絶縁層31の他方の面(
図1において上面)に、第2放熱層36が形成されている。
【0042】
第2絶縁層31は、例えば窒化アルミニウム(AlN)、窒化ケイ素(Si3N4)、アルミナ(Al2O3)等の絶縁性の高いセラミックス材料、あるいは、絶縁樹脂等で構成されている。本実施形態では、第2絶縁層31は窒化アルミニウム(AlN)で構成されている。ここで、窒化アルミニウムからなる第2絶縁層31の厚さは、100μm以上2000μm以下の範囲内とされている。
【0043】
第2電極部35は、
図1に示すように、第2絶縁層31の一方の面に配設された第2アルミニウム層35aと、この第2アルミニウム層35aの第2絶縁層31とは反対側の面に積層された銀の焼成体からなる第2銀焼成層35bと、を有している。なお、第2電極部35は、第2絶縁層31の一方の面(
図1において下面)にパターン状に形成されている。
【0044】
ここで、第2アルミニウム層35aは、その厚さが50μm以上2000μm以下の範囲内とされている。
なお、第2アルミニウム層35aは、
図3に示すように、第2絶縁層31の一方の面に、第2アルミニウム板55aが接合されることにより形成されている。本実施形態においては、第2アルミニウム板55aは、純度が99mass%以上のアルミニウムや純度99.99mass%以上のアルミニウムで構成されている。
【0045】
第2銀焼成層35bは、銀の焼成体で構成されており、第2アルミニウム層35aの一方の面に接する最下層は、ガラス成分を含有するガラス含有銀ペーストの焼成体で構成されている。本実施形態では、第2銀焼成層35b全体が、ガラス含有銀ペーストの焼成体で構成されている。
そして、この第2銀焼成層35bにおいては、少なくとも熱電変換素子11が配置された領域において、厚さが5μm以上とされている。
【0046】
ここで、第2銀焼成層35bの厚さは、20μm以上とすることが好ましい。第2銀焼成層35bの厚さを20μm以上とすることで、電気抵抗を確実に低下させることができる。また、第2銀焼成層35bの厚さは、100μm以下であることが好ましい。第1銀焼成層35bの厚さを100μm以下とすることで、冷熱サイクルが負荷された際に熱電変換素子11に大きな熱応力が生じることを抑制でき、割れの発生を防止することが可能となる。
よって、第2銀焼成層35bの厚さは20μm以上100μm以下の範囲内とすることが好ましい。なお、第2銀焼成層35bの厚さの下限は30μm以上とすることがより好ましく、第2銀焼成層35bの厚さの上限は60μm以下とすることがより好ましい。
【0047】
また、第2銀焼成層35bにおいては、少なくとも熱電変換素子11が配置された領域において、気孔率Pが10%未満とされている。なお、第2銀焼成層35bの気孔率Pは、第1銀焼成層25bと同様の方法で算出することができる。
【0048】
ここで、第2アルミニウム層35aがアルミニウム又はアルミニウム合金で構成されていることから、第2アルミニウム層35aの表面には、大気中で自然発生したアルミニウム酸化被膜が形成されている。本実施形態では、第2銀焼成層35bの最下層がガラス含有銀ペーストの焼成体で構成されているので、ガラス成分によってアルミニウム酸化被膜が除去され、第2アルミニウム層35aと第2銀焼成層35bとが強固に接合されている。
【0049】
第2放熱層36は、アルミニウム又はアルミニウム合金で構成されている。本実施形態では、第2放熱層36は、第2アルミニウム層35aと同様に、第2絶縁層31の他方の面に、放熱用アルミニウム板56が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、放熱用アルミニウム板56は、純度が99mass%以上のアルミニウムや純度99.99mass%以上のアルミニウムで構成されている。
【0050】
熱電変換素子11は、n型熱電変換素子11aとp型熱電変換素子11bとを有しており、これらn型熱電変換素子11aとp型熱電変換素子11bが交互に配列されている。
なお、この熱電変換素子11の一端面及び他端面には、メタライズ層(図示なし)がそれぞれ形成されている。メタライズ層としては、例えば、ニッケル、銀、コバルト、タングステン、モリブデン等や、あるいはそれらの金属繊維でできた不織布等を用いることができる。なお、メタライズ層の最表面(第1電極部25及び第2電極部35との接合面)は、Au又はAgで構成されていることが好ましい。
【0051】
n型熱電変換素子11a及びp型熱電変換素子11bは、例えば、テルル化合物、スクッテルダイト、充填スクッテルダイト、ホイスラー、ハーフホイスラー、クラストレート、シリサイド、酸化物、シリコンゲルマニウム等の焼結体で構成されている。
n型熱電変換素子11aの材料として、例えば、Bi2Te3、PbTe、La3Te4、CoSb3、FeVAl、ZrNiSn、Ba8Al16Si30、Mg2Si、FeSi2、SrTiO3、CaMnO3、ZnO、SiGeなどが用いられる。
また、p型熱電変換素子11bの材料として、例えば、Bi2Te3、Sb2Te3、PbTe、TAGS(=Ag‐Sb‐Ge‐Te)、Zn4Sb3、CoSb3、CeFe4Sb12、Yb14MnSb11、FeVAl、MnSi1.73、FeSi2、NaxCoO2、Ca3Co4O7、Bi2Sr2Co2O7、SiGeなどが用いられる。
なお、ドーパントによりn型とp型の両方をとれる化合物と、n型かp型のどちらか一方のみの性質をもつ化合物がある。
【0052】
次に、上述した本実施形態である熱電変換モジュール10の製造方法について、
図2から
図4を参照して説明する。
【0053】
(アルミニウム層形成工程S01)
まず、
図3に示すように、第1絶縁層21の一方の面に第1アルミニウム板45aを接合して第1アルミニウム層25aを形成するとともに、第2絶縁層31の一方の面に第2アルミニウム板55aを接合して第2アルミニウム層35aを形成する。
なお、本実施形態では、
図3に示すように、第1絶縁層21の他方の面に放熱用アルミニウム板46を接合することで第1放熱層26を形成するとともに、第2絶縁層31の他方の面に放熱用アルミニウム板56を接合することで第2放熱層36を形成する。
【0054】
ここで、第1絶縁層21と第1アルミニウム板45a及び放熱用アルミニウム板46の接合方法、並びに、第2絶縁層31と第2アルミニウム板55a及び放熱用アルミニウム板56の接合方法は、特に制限はなく、例えばAl-Si系ろう材を用いた接合や固相拡散接合を適用してもよい。さらに、接合面にCu、Si等の添加元素を固着させ、これらの添加元素を拡散させることで溶融・凝固させる過渡液相接合法(TLP)によって接合してもよい。
本実施形態では、
図3に示すように、Al-Si系ろう材48,58を用いて、第1絶縁層21と第1アルミニウム板45a及び放熱用アルミニウム板46、並びに、第2絶縁層31と第2アルミニウム板55a及び放熱用アルミニウム板56を接合している。
【0055】
(銀ペースト塗布工程S02)
まず、第1アルミニウム層25aの一方の面、及び、第2アルミニウム層35aの一方の面に、銀を含む銀ペーストを、それぞれ5μmを超える厚さで塗布する。なお、塗布方法に特に制限はなく、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、感光性プロセス等の種々の手段を採用することができる。このとき、少なくとも第1アルミニウム層25a及び第2アルミニウム層35aと接する最下層には、ガラス成分を有するガラス含有銀ペーストを塗布する。
【0056】
ここで、塗布厚さを5μm超えとするために、ペーストの塗布と乾燥とを繰り返し実施してもよい。この場合、第1アルミニウム層25a及び第2アルミニウム層35aと接する最下層にガラス含有ペーストを塗布し、その後はガラス成分を含有しない銀ペーストを塗布してもよい。
なお、本実施形態では、
図3に示すように、第1アルミニウム層25aの一方の面、及び、第2アルミニウム層35aの一方の面に、ガラス含有銀ペースト45b、55bを、それぞれ5μmを超える厚さで塗布している。
また、塗布厚さは7μm以上とすることが好ましい。
【0057】
ここで、第1銀焼成層25b及び第2銀焼成層35bを形成するガラス含有銀ペーストについて説明する。
このガラス含有銀ペーストは、銀粉末と、ガラス粉末と、樹脂と、溶剤と、分散剤と、を含有しており、銀粉末とガラス粉末とからなる粉末成分の含有量が、ガラス含有銀ペースト全体の60質量%以上90質量%以下とされており、残部が樹脂、溶剤、分散剤とされている。
【0058】
なお、本実施形態では、銀粉末とガラス粉末とからなる粉末成分の含有量は、ガラス含有銀ペースト全体の85質量%とされている。
また、このガラス含有銀ペーストは、その粘度が10Pa・s以上500Pa・s以下、より好ましくは50Pa・s以上300Pa・s以下に調整されている。
【0059】
銀粉末は、その粒径が0.05μm以上1.0μm以下とされており、本実施形態では、平均粒径0.8μmのものを使用した。
ガラス粉末は、例えば、酸化鉛、酸化亜鉛、酸化ケイ素、酸化ホウ素、酸化リン及び酸化ビスマスのいずれか1種又は2種以上を含有している。本実施形態では、主成分として酸化鉛と酸化亜鉛と酸化ホウ素とからなり、平均粒径が0.5μmのガラス粉末を使用した。
また、銀粉末の重量Aとガラス粉末の重量Gとの重量比A/Gは、80/20から99/1の範囲内に調整されており、本実施形態では、A/G=80/5とした。
【0060】
溶剤は、沸点が200℃以上のものが適しており、本実施形態では、ジエチレングリコールジブチルエーテルを用いている。
樹脂は、ガラス含有銀ペーストの粘度を調整するものであり、400℃以上で分解されるものが適している。本実施形態では、エチルセルロースを用いている。
また、本実施形態では、ジカルボン酸系の分散剤を添加している。なお、分散剤を添加することなくガラス含有銀ペーストを構成してもよい。
【0061】
このガラス含有銀ペーストは、銀粉末とガラス粉末とを混合した混合粉末と、溶剤と樹脂とを混合した有機混合物とを、分散剤とともにミキサーによって予備混合し、得られた予備混合物をロールミル機によって練り込みながら混合した後、得られた混錬物をペーストろ過機によってろ過することによって製出される。
【0062】
(焼成工程S03)
次に、第1アルミニウム層25aの一方の面、及び、第2アルミニウム層35aの一方の面に、それぞれ銀ペースト(ガラス含有銀ペースト45b、55b)を塗布した状態で、加熱処理を行い、銀ペースト(ガラス含有銀ペースト45b、55b)を焼成する。なお、焼成前に銀ペースト(ガラス含有銀ペースト45b、55b)の溶媒を除去する乾燥処理を実施してもよい。これにより、第1アルミニウム層25aに厚さ5μm以上の第1銀焼成層25bが積層されるとともに第2アルミニウム層35aに厚さ5μm以上の第2銀焼成層35bが積層され、第1電極部25及び第2電極部35が形成される。
この焼成工程S03においては、大気雰囲気、加熱温度は400℃以上600℃以下、加熱温度での保持時間は1分以上60分以下の条件で、焼成を行うことが好ましい。
【0063】
(ブラスト工程S04)
次に、必要に応じて、第1銀焼成層25b及び第2銀焼成層35bに対してブラスト処理を行ってもよい。例えば、第1銀焼成層25b及び第2銀焼成層35bの厚さが5μm以上20μm未満の場合には、ブラスト工程S04を実施することが好ましい。
ブラスト工程S04を実施した場合には、ブラスト処理後の第1銀焼成層25b及び第2銀焼成層35bの表面には、衝突されるブラスト砥粒に応じた凹凸が形成される。
ブラスト処理後の第1銀焼成層25b及び第2銀焼成層35bの表面粗さRaは、0.35μm以上1.50μm以下とすると良い。ブラスト処理後の表面粗さRaを0.35μm以上とすることにより、第1銀焼成層25bと第1アルミニウム層25aとの間、及び、第2銀焼成層35bと第2アルミニウム層35aとの間の電気抵抗を十分に低下させることができる。一方、ブラスト処理後の表面粗さRaを1.50μm以下とすることで、熱電変換素子11を良好に接合することができる。
【0064】
このブラスト処理工程S04においては、ブラスト粒として新モース硬度2~7のシリカ等のガラス粒子、セラミック粒子、金属粒子、あるいは樹脂製ビーズ等を用いることができる。本実施形態では、ガラス粒子を用いている。また、ブラスト粒の粒径は、20μm以上150μm以下の範囲内とされている。
また、ブラスト圧力は、0.2MPa以上0.8MPa以下の範囲内、加工時間を2秒以上60秒以下の範囲内としている。
【0065】
第1銀焼成層25b及び第2銀焼成層35bの厚さが5μm未満の場合、ブラスト処理によって、第1銀焼成層25b及び第2銀焼成層35bの一部が、第1アルミニウム層25a及び第2アルミニウム層35aに埋め込まれ、熱電変換素子11と第1電極部25、及び、熱電変換素子11と第2電極部35とを接合性が低下する。
なお、ブラスト工程S04後に、ガラスを含有しない銀ペーストを塗布し、乾燥・焼成することによって、第1銀焼成層25b及び第2銀焼成層35bの厚さを5μm以上としてもよい。
【0066】
ここで、ブラスト工程S04の実施の有無については、以下のような基準で決定することが好ましい。
本実施形態である熱電変換モジュール10においては、接続された2つの熱電変換素子11,11の間の電気抵抗が、熱電変換素子11自体の電気抵抗の1/10以下となるように、第1銀焼成層25b及び第2銀焼成層35bを構成することが好ましい。具体的には、接続された2つの熱電変換素子11,11の間の電気抵抗が1mΩ以上1Ω以下の範囲内であることが好ましい。
【0067】
第1銀焼成層25b及び第2銀焼成層35bの厚さが厚く、第1銀焼成層25b及び第2銀焼成層35bにおいて導電性が確保されている場合には、ブラスト工程S04を実施する必要はない。一方、第1銀焼成層25b及び第2銀焼成層35bの厚さが薄く、第1銀焼成層25b及び第2銀焼成層35bにおいて導電性が不十分な場合には、ブラスト工程S04を実施し、第1銀焼成層25bと第1アルミニウム層25a、及び、第2銀焼成層35bと第2アルミニウム層35aによって、導電性を確保することが好ましい。
なお、ブラスト工程S04を実施した場合、熱電変換モジュール10に対して冷熱サイクルを負荷した場合には、ブラスト工程S04の効果が低減してしまうおそれがある。このため、冷熱サイクルが負荷される用途においては、ブラスト工程S04を実施しないことが好ましい。
【0068】
(積層工程S05)
次に、熱電変換素子11の一端側(
図4において下側)に第1電極部25を介して第1絶縁層21を積層するとともに、熱電変換素子11の他端側(
図4において上側)に第2電極部35を介して第2絶縁層31を積層する。
【0069】
(熱電変換素子接合工程S06)
次に、第1絶縁層21と熱電変換素子11と第2絶縁層31とを積層方向に加圧するとともに加熱して、熱電変換素子11と第1電極部25、及び、熱電変換素子11と第2電極部35とを接合する。なお、本実施形態では、熱電変換素子11と第1電極部25及び第2電極部35を固相拡散接合している。
そして、第1銀焼成層25bの少なくとも熱電変換素子11が配置された領域において、厚さが5μm以上とされ、気孔率Pが10%未満とされる。同様に、第2銀焼成層35bの少なくとも熱電変換素子11が配置された領域において、厚さが5μm以上とされ、気孔率Pが10%未満とされる。
【0070】
この熱電変換素子接合工程S06においては、加圧荷重が20MPa以上50MPa以下の範囲内、加熱温度が300℃以上400℃以下の範囲内とされている。また、本実施形態においては、上述の加熱温度での保持時間が5分以上60分以下、雰囲気が真空雰囲気とされている。
【0071】
ここで、熱電変換素子接合工程S06における加圧荷重が20MPa未満では、第1銀焼成層25b及び第2銀焼成層35bの気孔率を10%未満とすることができないおそれがあった。一方、熱電変換素子接合工程S06における加圧荷重が50MPaを超えると、熱電変換素子11や窒化アルミニウムからなる第1絶縁層21及び第2絶縁層31に割れが発生するおそれがあった。また、第1アルミニウム層25a及び第2アルミニウム層35aが変形してしまうおそれがあった。
このため、本実施形態では、熱電変換素子接合工程S06における加圧荷重を20MPa以上50MPa以下の範囲内に設定している。
【0072】
なお、確実に第1銀焼成層25b及び第2銀焼成層35bの気孔率Pを10%未満とするためには、熱電変換素子接合工程S06における加圧荷重の下限を30MPa以上とすることが好ましい。一方、熱電変換素子11や窒化アルミニウムからなる第1絶縁層21及び第2絶縁層31における割れの発生を確実に抑制するためには、熱電変換素子接合工程S06における加圧荷重の上限を40MPa以下とすることが好ましい。
【0073】
また、熱電変換素子接合工程S06における加熱温度が300℃未満では、熱電変換素子11と第1電極部25及び第2電極部35を接合できないおそれがあった。一方、熱電変換素子接合工程S06における加熱温度が400℃を超えると、第1アルミニウム層25a及び第2アルミニウム層35aが軟化して変形してしまい、パターン状に形成した第1電極部25及び第2電極部35が短絡してしまうおそれがあった。
このため、本実施形態では、熱電変換素子接合工程S06における加熱温度を300℃以上400℃以下の範囲内に設定している。
【0074】
なお、確実に熱電変換素子11と第1電極部25及び第2電極部35とを接合するためには、熱電変換素子接合工程S06における加熱温度の下限を330℃以上とすることが好ましい。一方、第1アルミニウム層25a及び第2アルミニウム層35aの変形を確実に抑制するためには、熱電変換素子接合工程S06における加熱温度の上限を370℃以下とすることが好ましい。
【0075】
以上のようにして、本実施形態である熱電変換モジュール10が製造される。
このようにして得られた本実施形態である熱電変換モジュール10においては、例えば、第1伝熱板20側を低温部とし、第2伝熱板30側を高温部として使用され、熱エネルギーと電気エネルギーとの変換が実施される。
【0076】
以上のような構成とされた本実施形態である熱電変換モジュール10においては、熱電変換素子11の一端側に、第1絶縁層21と、この第1絶縁層21の一方の面に形成された第1電極部25と、を備えた第1絶縁回路基板が配設されており、第1電極部25は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる第1アルミニウム層25aと、この第1アルミニウム層25aの第1絶縁層21とは反対側の面に積層された銀の焼成体からなる第1銀焼成層25bと、を有し、第1アルミニウム層25aは、厚さが50μm以上2000μm以下の範囲内とされ、第1銀焼成層25bは、少なくとも熱電変換素子11が配置された領域において、厚さが5μm以上とされ、気孔率Pが10%未満とされているので、第1銀焼成層25bが緻密となり、かつ、第1電極部25全体の厚さが確保され、電気抵抗を低くすることができる。また、第1銀焼成層25bにおいて気孔が少ないため、気孔のガスによる熱電変換素子11の劣化を抑えることができる。
【0077】
また、第1電極部25には、比較的軟らかい金属であるアルミニウム又はアルミニウム合金からなる第1アルミニウム層25aが設けられているので、銀や銅を第1絶縁層21に接合した基板を用いる場合と比較し、金属と第1絶縁層21との熱膨張差による第1絶縁層21の破損を抑制することが可能となる。
さらに、第1銀焼成層25bは、銀ペーストの焼成体とされているので、接合温度(焼成温度)を比較的低温条件とすることができ、接合時の熱電変換素子11の劣化を抑制することができる。
また、第1銀焼成層25b自体は、銀で構成されているので、500℃程度の作動温度でも、安定して作動させることができる。
【0078】
また、本実施形態においては、熱電変換素子11の他端側に、第2絶縁層31と、この第2絶縁層31の一方の面に形成された第2電極部35と、を備えた第2絶縁回路基板が配設されており、第2電極部35は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる第2アルミニウム層35aと、この第2アルミニウム層35aの第2絶縁層31とは反対側の面に積層された銀の焼成体からなる第2銀焼成層35bと、を有し、第2アルミニウム層35aは、厚さが50μm以上2000μm以下の範囲内とされ、第2銀焼成層35bは、少なくとも熱電変換素子11が配置された領域において、厚さが5μm以上とされ、気孔率Pが10%未満とされているので、第2銀焼成層35bが緻密となり、かつ、第2電極部35全体の厚さが確保され、電気抵抗を低くすることができる。また、第2銀焼成層35bにおいて気孔が少ないため、気孔のガスによる熱電変換素子11の劣化を抑えることができる。
【0079】
また、第2電極部35には、比較的軟らかい金属であるアルミニウム又はアルミニウム合金からなる第2アルミニウム層35aが設けられているので、銀や銅を第2絶縁層31に接合した基板を用いる場合と比較し、金属と第2絶縁層31との熱膨張差による第2絶縁層31の破損を抑制することが可能となる。
さらに、第2銀焼成層35bは、銀ペーストの焼成体とされているので、接合温度(焼成温度)を比較的低温条件とすることができ、接合時の熱電変換素子11の劣化を抑制することができる。また、第2銀焼成層35b自体は、銀で構成されているので、500℃程度の作動温度でも安定して作動させることができる。
【0080】
ここで、本実施形態である熱電変換モジュール10において、第1銀焼成層25b及び第2銀焼成層35bの厚さを20μm以上とした場合には、第1銀焼成層25b及び第2銀焼成層35bによって導電性が確保されることになり、複数の熱電変換素子11,11間の電気抵抗を低く抑えることが可能となる。また、第1銀焼成層25b及び第2銀焼成層35bに対してブラスト工程S04を実施する必要がなく、冷熱サイクルが負荷される用途にも良好に使用することができる。
【0081】
本実施形態である熱電変換モジュールの製造方法によれば、熱電変換素子接合工程S06において、加圧荷重が20MPa以上50MPa以下の範囲内、加熱温度が300℃以上400℃以下とされているので、第1銀焼成層25b及び第2銀焼成層35bの少なくとも熱電変換素子11が配置された領域において、その厚さを5μm以上、かつ、気孔率Pを10%未満とすることができる。また、比較的低温条件とされているので、接合時(焼成時)における熱電変換素子11の劣化を抑制することができる。
また、銀ペースト塗布工程S02において、少なくとも第1アルミニウム層25a及び第2アルミニウム層35aと接する最下層にはガラス含有銀ペーストを塗布しているので、ガラス含有銀ペーストのガラス成分によって第1アルミニウム層25a及び第2アルミニウム層35aの表面に形成された酸化被膜を除去することができ、第1アルミニウム層25aと第1銀焼成層25b、及び、第2アルミニウム層35aと第2銀焼成層35bを確実に接合することができる。
【0082】
さらに、本実施形態において、例えば、第1銀焼成層25b及び第2銀焼成層35bの厚さが5μm以上20μm未満の場合に、第1銀焼成層25b及び第2銀焼成層35bに対してブラスト処理を行うブラスト工程S04を実施した場合には、第1銀焼成層25bと第1アルミニウム層25aとの間、及び、第2銀焼成層35bと第2アルミニウム層35aとの間の電気抵抗が低下し、第1電極部25及び第2電極部35における導電性を向上させることができる。
【0083】
また、第1銀焼成層25b及び第2銀焼成層35bの厚さを5μm以上としているので、ブラスト処理によって第1アルミニウム層25a及び第2アルミニウム層35aに第1銀焼成層25b及び第2銀焼成層35bの一部が埋め込まれることがなく、熱電変換素子11と第1電極部25、及び、熱電変換素子11と第2電極部35とを接合性を低下させることがない。
なお、第1銀焼成層25b及び第2銀焼成層35bの厚さが20μm以上の場合には、これら第1銀焼成層25b及び第2銀焼成層35bにおいて導電性が十分に確保されることから、上述のブラスト工程S04を実施しなくてもよい。
【0084】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0085】
例えば、本実施形態では、積層工程S05において、第1電極部25及び第2電極部35に熱電変換素子11を直接積層して固相拡散接合するものとして説明したが、これに限定されることはなく、第1電極部25及び第2電極部35の上に銀ペーストを塗布して乾燥させた後に、熱電変換素子11を配設し、銀ペーストを用いて接合してもよい。
この場合、
図5に示すように、第1電極部25と熱電変換素子11の間に第1接合層27が形成されるとともに第2電極部35と熱電変換素子11の間に第2接合層37が形成される。なお、熱電変換素子接合工程S06において、上述の条件で加圧加熱処理が実施されることから、第1接合層27及び第2接合層37においても、気孔率は10%未満となる。
【0086】
また、本実施形態では、熱電変換素子11の他端側に第2伝熱板30として第2絶縁回路基板を配設するものとして説明したが、これに限定されることはなく、例えば、熱電変換素子11の他端側に第2電極部を配置するとともに絶縁基板を積層し、この絶縁基板を積層方向に押圧することによって、第2伝熱板を構成してもよい。
【実施例】
【0087】
本発明の有効性を確認するために行った確認実験について説明する。
【0088】
<実施例1>
上述した実施形態と同様の方法で熱電変換モジュールを作製した。
熱電変換素子として、3mm×3mm×5mmtのNi下地金電極付きハーフホイッスラー素子を用い、PN対を12対用いた。絶縁層として厚さ0.635mmの窒化アルミニウムを用いた。第1アルミニウム層及び第2アルミニウム層は純度99.99mass%、厚さ0.25mmの箔を接合することで形成し、第1銀焼成層の厚さ、熱電変換素子と第1銀焼成層との接合温度、接合荷重は表1記載の通りとした。
なお、接合雰囲気は表1記載の通りとし、熱電変換素子と第1電極部との接合において、熱電変換素子と第1電極部とを直接積層し接合した。また、第2銀焼成層は第1銀焼成層と同様とし、第2電極部は第1電極部と同様とした。
【0089】
(電気抵抗)
作製した熱電変換モジュールの第1伝熱板側の温度を450℃、第2伝熱板側の温度を50℃とし、電気抵抗(内部抵抗)を測定した(初期抵抗)。
また、熱電変換モジュールへ温度差を与え続け、時間経過に対する内部抵抗の初期値からの上昇率を計算し、24時間経過後の熱電変換モジュールの耐久性を評価した(内部抵抗上昇率)。
なお、内部抵抗は、上述のような温度差を与えた状態で、熱電変換モジュールの出力端子間に可変抵抗を設置し、抵抗を変化させて電流値と電圧値を測定し、横軸を電流値、縦軸を電圧値としたグラフを作成し、このグラフにおいて、電流値が0のときの電圧値を開放電圧とし、電圧値が0のときの電流値を最大電流とし、このグラフにおいて、開放電圧と最大電流を直線で結び、その直線の傾きを熱電変換モジュールの全体の内部抵抗とし、その値をPN対の数で割った値を、内部抵抗とした。評価結果を表1に示す。
【0090】
(第1銀焼成層の気孔率及び厚さ)
得られた各熱電変換モジュールの第1銀焼成層の断面を機械研磨した後、Arイオンエッチング(日本電子株式会社製クロスセクションポリッシャSM-09010)を行い、レーザ顕微鏡(株式会社キーエンス製VK X-200)を用いて断面観察を実施した。そして、得られた画像を二値化処理し、白色部をAg、黒色部を気孔とした。二値化した画像から、黒色部の面積を求め、以下に示す式で気孔率を算出した。5箇所の断面で測定し、各断面の気孔率を算術平均して第1銀焼成層の気孔率とした。気孔率が10%以上の場合を「B」、10%未満の場合を「A」と評価した。
気孔率P(%)=黒色部(気孔)面積/第1銀焼成層の観察面積×100
また、第1銀焼成層の厚さは、上記レーザ顕微鏡を用いて測定した。測定結果を表1に示す。
【0091】
【0092】
第1銀焼成層の厚さが5μm未満となるように第1銀焼成層を形成した比較例1では、第1銀焼成層と熱電変換素子とを接合することができなかった。これは、第1銀焼成層が第1アルミニウム層に埋め込まれてしまったからと考えられる。
加熱温度が低い比較例2では、気孔率が10%を超えていたため、内部抵抗上昇率が高かった。
また、加圧荷重が20MPa未満であった比較例3では、気孔率が高くなっており、初期抵抗が高かった。そのため、内部抵抗上昇率は測定しなかった。
接合温度が400℃を超えた比較例4では、第1アルミニウム層が潰れてしまった。よって、比較例4では、気孔率及び電気抵抗については評価しなかった。
接合荷重が50MPaを超えた比較例5では、第1絶縁層に割れが生じた。よって、比較例5では、気孔率及び電気抵抗については評価しなかった。
一方、本発明例1-3においては、第1銀焼成層の厚さが5μm以上、気孔率が10%未満であり、内部抵抗上昇率も低い熱電変換モジュールが得られることが分かった。
【0093】
<実施例2>
実施例1と同様の方法により、第1銀焼成層の厚さを表2に示すように変更するとともに、ブラスト処理の有無を変更し、各種熱電変換モジュールを作製した。なお、熱電変換素子の接合条件としては、接合雰囲気を真空、加圧荷重を30MPa、加熱温度を350℃とした。
ここで、実施例1と同様の方法により、第1銀焼成層の気孔率を測定した。
【0094】
また、得られた熱電変換モジュールに対して、以下の条件で冷熱サイクルを負荷した。
冷熱サイクルは、大気下で、高温側に150℃×5分←→450℃×5分の50サイクルを与え、低温側は80℃に固定して行った。そして、実施例1と同様の方法により、初期の内部抵抗、及び、冷熱サイクル負荷後の内部抵抗上昇率を求めた。評価結果を表2に示す。なお、冷熱サイクル負荷後の内部抵抗上昇率は、上昇率が1%未満の場合を「A」、上昇率が1%以上の場合を「B」と評価した。
【0095】
【0096】
本発明例1の熱電変換モジュールに対し、冷熱サイクルを負荷した場合、冷熱サイクル後の内部抵抗上昇率が1%を超えた。これは、第1銀焼成層へのブラスト処理を行った熱電変換モジュールは、一定の温度下で使用した場合には、内部抵抗の上昇率を低く抑えることができるが、高温と低温が繰り返される環境下で利用した場合、内部抵抗が上昇してしまうことを意味している。
【0097】
一方、第1銀焼成層へのブラスト処理を行わなかった本発明例11~14の熱電変換モジュールでは、冷熱サイクルを負荷しても内部抵抗の上昇率を低く抑えることができた。これは、第1銀焼成層へのブラスト処理を行わなかった熱電変換モジュールは、高温と低温が繰り返される環境下での利用が有用であることを意味する。
また、銀焼成層の厚さを20μm以上100μm以下の範囲とすることで、初期の内部抵抗を低く出来るとともに、冷熱サイクル後の内部抵抗の上昇率を低く抑えることができることが確認された。
【符号の説明】
【0098】
10 熱電変換モジュール
11 熱電変換素子
20 第1伝熱板(第1絶縁回路基板)
21 第1絶縁層
25 第1電極部
25a 第1アルミニウム層
25b 第1銀焼成層
30 第2伝熱板(第2絶縁回路基板)
31 第2絶縁層
35 第2電極部
35a 第2アルミニウム層
35b 第2銀焼成層