(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】印刷媒体群、印刷媒体群の製造方法及び印刷媒体の照合方法
(51)【国際特許分類】
B42D 25/342 20140101AFI20221025BHJP
B42D 25/405 20140101ALI20221025BHJP
B41M 3/06 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
B42D25/342
B42D25/405
B41M3/06 Z
(21)【出願番号】P 2018125235
(22)【出願日】2018-06-29
【審査請求日】2021-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】特許業務法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】滝澤 佑美
(72)【発明者】
【氏名】高橋 進
【審査官】藤井 達也
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-516337(JP,A)
【文献】特開平10-058818(JP,A)
【文献】実開昭59-112681(JP,U)
【文献】特開2015-058693(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B42D 15/02
B42D 25/00 -25/485
G09F 1/00 - 5/04
G09F 19/12
B41M 1/00 - 3/18
B41M 7/00 - 9/04
G07D 7/202- 7/207
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの印刷媒体からなる印刷媒体群であって、
前記印刷媒体は、前記印刷媒体群に共通に用いられる少なくとも2つの周期パターンが重なることによって生じるモアレパターンを有しており、
前記印刷媒体は、前記印刷媒体群に共通に用いられるエリアマーカーを含んでおり、
前記印刷媒体は、前記モアレパターンの違いによって識別可能である
印刷媒体群。
【請求項2】
前記印刷媒体は、前記少なくとも2つの周期パターンのうち、いずれか一方の周期パターンに前記エリアマーカーが付加されている
請求項1記載の印刷媒体群。
【請求項3】
いずれか2つの印刷媒体間における、いずれか一方に前記エリアマーカーを含む2つの周期パターンの位置ずれの大きさの差異は、いずれかの周期パターンの平均周期の1/50以上である
請求項1または2に記載の印刷媒体群。
【請求項4】
前記印刷媒体は、前記周期パターンの少なくとも一部と前記エリアマーカーが異なる色で構成される
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の印刷媒体群。
【請求項5】
前記印刷媒体の前記モアレパターンの領域より外側の領域に前記エリアマーカーを備えている
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の印刷媒体群。
【請求項6】
前記印刷媒体の前記モアレパターンの領域より内側の領域に前記エリアマーカーを備えている
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の印刷媒体群。
【請求項7】
前記エリアマーカーの形状は、円弧、直線、頂点、角を組み合わせた図柄からなる
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の印刷媒体群。
【請求項8】
前記エリアマーカーは前記印刷媒体に1つ以上形成され、
前記印刷媒体に形成された前記エリアマーカーの面積の合計が前記周期パターンの面積の95%以内である
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の印刷媒体群。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の印刷媒体群の製造方法であって、
前記印刷媒体に、
第一の周期パターンを印刷する第一工程と、
前記印刷媒体に、前記第一の周期パターンの少なくとも一部に重ねて第二の周期パターンを印刷する第二工程と、
前記印刷媒体に、前記第一の周期パターンと前記第二の周期パターンとが重なる領域の内側又は近傍に、前記エリアマーカーを印刷する第三工程と、を含む
印刷媒体群の製造方法。
【請求項10】
前記第三工程は、前記第一工程及び前記第二工程のうち少なくとも一方と同時に実行される
請求項9に記載の印刷媒体群の製造方法。
【請求項11】
それぞれモアレパターンと、共通のエリアマーカーとを備えた第一の印刷媒体と第二の印刷媒体とを照合する照合方法であって、
前記第一の印刷媒体から第一の印刷画像データを生成する小工程と、
生成した前記第一の印刷画像データから第一のモアレパターンとエリアマーカーとを抽出し、第一のモアレ情報として記憶する小工程と、からなる第一の抽出工程と、
前記第二の印刷媒体から第二の印刷画像データを生成する小工程と、
生成した前記第二の印刷画像データから第二のモアレパターンとエリアマーカーとを抽出し、第二のモアレ情報として記憶する小工程と、からなる第二の抽出工程と、
前記第一のモアレ情報と第二のモアレ情報とを照合する照合工程と、を備え、
前記照合工程では、前記第一のモアレ情報に基づいて求められる、前記第一のモアレパターンと前記エリアマーカーとの第一の相対関係と、前記第二のモアレ情報に基づいて求められる、前記第二のモアレパターンと前記エリアマーカーとの第二の相対関係とを比較し、
前記第一の相対関係と第二の相対関係とが一致した場合には、前記第一の印刷媒体と前記第二の印刷媒体とが同一であると判断する
印刷媒体の照合方法。
【請求項12】
前記第一の相対関係と第二の相対関係とが異なっていた場合には、前記第一の印刷媒体と前記第二の印刷媒体とは異なると判断する
請求項11に記載の印刷媒体の照合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷媒体群、印刷媒体群の製造方法及び印刷媒体の照合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、トレーサビリティー、商品紹介、ギャランティーシール、くじ、品質の保証などを目的に、商品ごとに異なるコード(識別情報または固有の情報を持つ媒体)や識別標識を付与する方法が幾つか開発されている。これらは、バーコードやQRコードなどの二次元コードを商品ごとに異なるコードとして印刷する例や、人工物メトリクスなど、個体の差異を読み取る例などがある。
【0003】
二次元コードを個別コードとして用いてトレーサビリティーを追及する例としては、例えば特許文献1に記載されているような技術がある。また、人工物メトリクスを用いて認証等を行う方法として、特許文献2に記載されている技術などがある。さらには、人工物メトリクスとして、繊維や金属の周期構造によるモアレを用いる技術が、特許文献3に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-210663号公報
【文献】特開2016-85679号公報
【文献】特開2003-29636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、バーコードやQRコードなどに共通の製品情報を含める場合には、同じバーコードやQRコードを製品パッケージに一律に印刷すればよい。このためには、共通の印刷版などを用いて同一のパターンを大量に安価に印刷できる大量印刷方式、例えばオフセット印刷、グラビア印刷、凸版印刷、凹版印刷、スクリーン印刷などが適している。
【0006】
一方で、生鮮食品などの商品のトレーサビリティーなどを追及するシステムにおいては、同種の商品であっても、その品質、重量、大きさ、生産日等の商品ごとの個別の情報(以下「固有の情報」ともいう。)を、生鮮食品の商品パッケージ等に付与したいという要求がある。ところが、このような商品に固有の情報を商品パッケージ等に印刷しようとすると、商品に固有の情報に合わせて印刷するパターンや識別標識をそれぞれ個別に作成しなければならない。
【0007】
このため、上述したような共通の印刷版などを用いる大量印刷方式を適用することは難しいと考えられてきた。そこで、そのような商品に固有の情報を商品パッケージ等に印刷する場合には、商品に固有の情報を個別の印刷内容に変換した上で、レーザー印字方式、インクジェット方式、熱転写方式などを用いて異なるパターンを個別に印刷する必要があった。しかしながら、これらの印刷方式は、一般的には高コストで、印刷に比較的時間がかかるため、大量に必要とされる商品パッケージの印刷に適さないという課題があった。
【0008】
また、印刷された商品固有の情報は、スキャナーやデジタルカメラなどを用いて容易に複製できるものであるため、別の製品パッケージの製品固有の情報と差し替えることが容易にできてしまうという問題もあった。
【0009】
一方、上記の異なるパターンを個別に印刷する手法に代えて、人工物メトリクスを用いる手法もある。公知の人工物メトリクスとしては、例えば特許文献2では、印刷による網点を認識する方法が開示されている。しかしながら、人工物メトリクスを用いる場合には、微小なパターンの変化を認識する必要があるため、パターンの検出には高い解像度の読取装置が必要であり、照合にも高性能な演算システムが必要となっていた。また、媒体に傷、汚れがあると誤判定が生じる恐れもあった。
【0010】
更に、特許文献3は、繊維や金属ワイヤーなどによるランダムな周期構造によって生じるモアレパターンを提案しているが、その製造は通常の印刷と比較して複雑で高コストであるという欠点があった。加えて、この従来技術では立体的にパターンを配置しているため、読取装置の読取位置によっては、読み取るパターンに変化が生じ、その結果として誤判定が生じる恐れもある。
【0011】
また、非印刷方式で生成される従来の個別コードは、商品そのもの、もしくは商品パッケージに個別コードを直接生成することが難しく、タグやシールなどとして商品に付随させる必要があり、それによりコスト増やタグの付け外しの手間、あるいはシールの貼り直しなどの不正を招く原因にもなっていた。
【0012】
本発明は、従来技術における前記諸問題を解決し、モアレパターンを用いてより精度よく識別できる印刷媒体群、および印刷媒体群の製造方法を提供することを目的とする。
また本発明は、より精度よくモアレパターンを識別できる印刷媒体の照合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様によれば、少なくとも2つの印刷媒体からなる印刷媒体群において、
前記印刷媒体は、前記印刷媒体群に共通に用いられる少なくとも2つの周期パターンが重なることによって生じるモアレパターンを有しており、
前記印刷媒体は、前記印刷媒体群に共通に用いられるエリアマーカーを含んでおり、
前記印刷媒体は、前記モアレパターンの違いによって識別可能である。
【0014】
本発明の一態様によれば、印刷媒体の照合方法は、
それぞれモアレパターンと、共通のエリアマーカーとを備えた第一の印刷媒体と第二の印刷媒体とを照合する照合方法であって、
前記第一の印刷媒体から第一の印刷画像データを生成する小工程と、
生成した前記第一の印刷画像データから第一のモアレパターンとエリアマーカーとを抽出し、第一のモアレ情報として記憶する小工程と、からなる第一の抽出工程と、
前記第二の印刷媒体から第二の印刷画像データを生成する小工程と、
生成した前記第二の印刷画像データから第二のモアレパターンとエリアマーカーとを抽出し、第二のモアレ情報として記憶する小工程と、からなる第二の抽出工程と、
前記第一のモアレ情報と第二のモアレ情報とを照合する照合工程と、を備え、
前記照合工程では、前記第一のモアレ情報に基づいて求められる、前記第一のモアレパターンと前記エリアマーカーとの第一の相対関係と、前記第二のモアレ情報に基づいて求められる、前記第二のモアレパターンと前記エリアマーカーとの第二の相対関係とを比較し、
前記第一の相対関係と第二の相対関係とが一致した場合には、前記第一の印刷媒体と前記第二の印刷媒体とが同一であると判断する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、モアレパターンを用いてより精度よく識別できる印刷媒体群、および印刷媒体群の製造方法を提供することができる。
また本発明によれば、より精度よくモアレパターンを識別できる印刷媒体の照合方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】周期パターンに対する近傍領域を示す図である。
【
図2】モアレパターンを構成する第一の周期パターンの図である。
【
図3】モアレパターンを構成する第二の周期パターンとエリアマーカーの図である。
【
図4】第一の周期パターンと第二の周期パターンからなるモアレパターンの図である。
【
図6】第一の周期パターンと第二の周期パターンの重なり位置が異なるモアレパターンのエリアマーカー付近の比較図である。
【
図7】モアレパターンを用いた照合システムを適用する情報通信システムを示す概略図である。
【
図8】照合システムの動作を示すシーケンス図である。
【
図10】エリアパターンによって決定されるモアレ領域の例を示す図である。
【
図11】第二の周期パターンにエリアマーカーを2点付与する例(a)、および発生するモアレパターンの例(b)を示す図である。
【
図12】2点のエリアマーカーによって決定されるモアレ領域の例を示す図である。
【
図13】エリアマーカーが2点ある場合のモアレ抽出を示すフローチャートである。
【
図14】第二の周期パターンにエリアマーカーを3点付与する例(a)、および発生するモアレパターンの例(b)を示す図である。
【
図15】3点のエリアマーカーによって決定されるモアレ領域の例を示す図である。
【
図16】3点以上のエリアマーカーがある場合のモアレ抽出を示すフローチャートである。
【
図17】エリアマーカーとモアレパターンの別な例を示す図である。
【
図18】エリアマーカーとモアレパターンの別な例を示す図である。
【
図19】エリアマーカーとモアレパターンの別な例を示す図である。
【
図20】エリアマーカーとモアレパターンの別な例を示す図である。
【
図21】エリアマーカーとモアレパターンの別な例を示す図である。
【
図22】エリアマーカーとモアレパターンの別な例を示す図である。
【
図23】エリアマーカーとモアレパターンの別な例を示す図である。
【
図24】閉曲線からなる第一の周期パターンと第二の周期パターンとエリアマーカーからなるモアレパターンの拡大図である。
【
図25】第一の周期パターンと第二の周期パターンの重なり位置が異なるモアレパターンの比較図である。
【
図26】第一の周期パターンと第二の周期パターンの形成された領域の大きさ(サイズ)が異なる例を示す図である。
【
図27】第一の周期パターンと第二の周期パターンの形成された領域の大きさ(サイズ)が異なる別な例を示す図である。
【
図28】印刷媒体の作成工程を説明するフローチャートである。
【
図29】印刷媒体を飲料のパッケージとした場合の斜視図である。
【
図31】印刷媒体の製造装置の構成を示す側面図である。
【
図32】照合システムを用いたトレーサビリティーシステムの概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。なお、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具現化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術思想は、構成部品の形状、構造、及び配置などを下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0018】
本明細書において、「周期パターン」とは、フーリエ変換などを用いてパターンを空間的な周波数成分に分解した際、周波数0以外の周波数に一つもしくは複数のピークを持つパターンを指す。
【0019】
「2つの周期パターンが重なって生じるモアレパターン」とは、複数の工程で形成した周期パターンを物理的に重ねることでモアレパターンを形成することのほか、画像データ上で2つの周期パターンを合成した上で、一つの画像としてモアレパターンを出力することも含む。重ね合わされる周期パターンは、互いに略同一とするのが好ましい。略同一の周期パターンとは、同一の周期パターンについて縮尺の変更、変形、回転等を行ったものがある。また、これらの周期パターンは、変位、傾斜、変形等を行って重ね合わされることにより、多種のモアレパターンを形成することができる。なお、重ね合わせる周期パターンは略同一に限るものではなく、周期パターンの重ね合わせによってモアレが発生するものであれば良い。
【0020】
ただし、以下の実施の形態では、印刷媒体上に複数の印刷工程を経て形成された周期パターンを重ねることについて、主として説明する。モアレパターンを印刷する印刷方式としては、あらゆる方式を採用することができる。
【0021】
本明細書において「エリアマーカー」とは、周期パターンのどちらか一方、あるいは両方の内部あるいは近傍に位置し、エリアマーカー内の基準点を用いることで、モアレに対する相対位置によってモアレを識別することができるパターンである。つまり、エリアマーカーは、周期パターンを重ねることによって発生するモアレを解析する際基準として用いることができるものである。エリアマーカーは、周期パターンとは異なる周波数を持つと好ましい。
【0022】
エリアマーカーの形状は、円弧、直線、頂点、角を組み合わせてからなる図柄であると好ましく、例えば、丸、円、楕円、扇型、三角形、四角形、五角形などの多角形、星型多角形、アステロイド、星芒形などの図形や、文字、記号、ロゴタイプやイラストなどが挙げられる。
【0023】
なお、「周期パターンの近傍」とは、周期パターンが設けられた領域の中心(自由形状であれば重心)から、周期パターンが設けられた領域の最大幅を半径とする円内である。具体的に
図1の例では、周期パターン206による周期パターンが設けられた領域200において、最大幅201は黒線で示す長さである。この中心点202より、最大幅を半径とする円内が周期パターンの近傍領域205であり、エリアマーカー9はこの円内に位置するものとする。エリアマーカー9は周期パターンが設けられた領域外であってもよいし、該領域内であってもよい。
【0024】
エリアマーカーは任意の図形を用いることができる。また、エリアマーカーは周期パターンの最小単位より大きく、エリアマーカーの面積の合計が周期パターンの面積の95%以内であると好ましい。
【0025】
本実施の形態では、モアレパターンの内部あるいは近傍にエリアマーカーをもつことになるが、このとき、発生したモアレパターンに対してエリアマーカーとの位置関係や距離、大きさ比など関係をとることで、無数に発生するモアレパターンの解析を支援することができる。
また、任意の図形を用いることができるため、発生するモアレパターンの違和感・ぎらつき等を軽減させるようなものであったり、逆に利用したデザインを用いることができる。
【0026】
(モアレパターンの例)
以下の例では、2つの周期パターンを用いて、モアレパターンを形成する。
図2は、第一の周期パターン220を示す図である。
図3は、第二の周期パターン230とエリアマーカー900を示す図である。第一の周期パターン220は、矩形枠(領域)内に同一間隔で半径が変化する同心円を形成したパターンである。一方、第二の周期パターン230も、矩形枠(領域)内に同一間隔で半径が変化する同心円を形成したパターンであるが、第一の周期パターンの92%に縮小した同心円パターンとしている。ここでは、同心円を閉曲線の一例として用いたが、閉曲線としては楕円でもよいし多角形状でもよいし、閉じた自由曲線でもよい。またエリアマーカー900は塗りつぶされた長方形であるが、外枠のみの図形でもよい。
【0027】
第一の周期パターン220と第二の周期パターン230は、それぞれ周期構造をもつため、お互いの周期構造を近似するものとした場合、第一の周期パターンの1周期を1としたとき、円の中心をy軸方向(図で上下方向)に4.5周期分移動させ重ねて印刷することで、
図4に示すようにモアレパターン240が生じる。
【0028】
更に、
図5に、
図4のモアレパターンに対して第二の周期パターン230のみy軸方向にさらに1周期ずらした、つまり第一の周期パターンの1周期を1とした場合、円の中心をy軸方向に5.5周期分移動させ重ねて印刷することにより生成されるモアレパターン242を示す。このように同じ周期パターンの組み合わせにおいて、微小な相対移動でモアレパターンは変化する。
【0029】
このとき、同じ周期パターンの組み合わせの微小なずれや歪みから成るモアレは相互に似ていることが多く、モアレの読み取りや照合過程において誤判定をすることが考えられるが、このときエリアマーカーを利用することによりパターンの識別性を高めることができる。
【0030】
図6(a)は
図4のエリアマーカー900付近の拡大図であり、
図6(b)は
図5のエリアマーカー900付近の拡大図である。
図6(a)、(b)を比較すると、エリアマーカー900に交差するモアレ縞の位置がそれぞれ異なっていることが明らかであり、それによりモアレ縞が異なることがわかる。このように、周期パターン全体からモアレを解析するよりも、エリアマーカーを基準にすることで、モアレ縞が同一か否か解析する精度・速度を向上することができる。
【0031】
(照合システム)
以下、モアレパターンを用いた照合システムを実現するための印刷媒体の照合方法の例について説明する。たとえば、商品のパッケージなどの印刷媒体は印刷工場で製造されるが、商品は別の商品製造工場等で製造されることが多い。かかる場合、商品製造工場で製造した商品をパッケージに包装する際に、当該パッケージに印刷されたモアレパターンを光学的に読み取り、画像データ(モアレ情報)に変換する。その後、当該画像データと当該パッケージ内の商品情報を対応付けて、後述する印刷パターン照合装置に個別に記憶することとする。モアレパターンとエリアマーカーとを含む画像データを、ここではモアレ情報とする。
【0032】
なお、商品製造工場で上記モアレ情報(第一のモアレ情報)を抽出して記憶する工程を第一の抽出工程といい、例えば商品が市場に出回った後に、その商品のパッケージのモアレパターン及びエリアマーカーを読み取ってモアレ情報(第二のモアレ情報)を抽出して記憶する工程を第二の抽出工程という。
【0033】
図7に示すように、例えば、照合システム1は、不図示の商品に付随しモアレパターンが印刷されている複数の印刷媒体2と、印刷媒体2を撮影又はスキャン等をして印刷媒体画像データ(モアレパターンデータ及びエリアマーカーデータを含むもの)として読み取る読取装置3a、印刷媒体画像データ送信するための通信端末3、携帯電話通信網やインターネット網等で実現される通信路5、当該通信路に接続可能な印刷パターン照合装置4から構成される。なお、読取装置3aは通信端末と一体に構成されていても良い。
【0034】
印刷パターン照合装置4は、通信端末3から送信された印刷媒体画像データを受信し、受信した印刷媒体画像データを記憶する照会情報記憶部410、記憶された印刷媒体画像データを補正する撮影画像補正部421、照会情報記憶部410に記憶された印刷媒体画像データからエリアマーカーを利用してモアレ情報を抽出するモアレパターン抽出部420、印刷媒体製造時にモアレパターン抽出部420によって抽出されたモアレ情報及びこのモアレ情報と対応付けられた製品情報を保存した基盤情報記憶部430、モアレパターン抽出部420に記憶されたモアレ情報と、基盤情報記憶部430に保存されたモアレ情報とを照合するモアレパターン照合部440を有している。
なお、照会情報記憶部410は、エリアマーカーデータとして予め印刷媒体に付されるエリアマーカーの形状を記憶しているものとする。更に以下の例では、例えば工場出荷時などにおいて、商品に付随する印刷媒体を撮影し、モアレ情報を抽出して、照会情報記憶部410が記憶しているものとする。「第一の印刷媒体」と「第二の印刷媒体」とは、同一物である場合と異なる場合とがある。
【0035】
図8は、照合システムの動作を示す梯子チャートである。モアレパターンが印刷された商品が販売された後に、例えば消費者が通信端末3の読取装置3aを操作し、商品に付随する印刷媒体2を撮影し(ステップS110)、通信路5を介して印刷媒体画像データを印刷パターン照合装置4に送信したものとする。これに応じて、印刷パターン照合装置4の照会情報記憶部410が、送信された印刷媒体画像データを受信する(ステップS120)。続いて、受信した印刷媒体画像データから、モアレパターン抽出部420でモアレ情報の抽出(第二の抽出工程)を行う(ステップS130)。
【0036】
モアレパターン抽出部420では、一実施形態として
図9のようなフローチャートに従った照合(照合工程)が行われる。まず、入力画像としてステップS120で取得した印刷媒体画像データを読み込み(ステップS131)、照会情報記憶部410に予め記憶されたエリアマーカーの形状に基づいて周期パターンの内部及び近傍の探索を行い(ステップS132)、エリアマーカーの抽出を実施(ステップS135)する。エリアマーカーを抽出したときは、エリアマーカーの位置よりモアレパターン判別に利用する領域(探索領域ともいう)を決定する(ステップS133)。このエリアマーカーにより決定された領域のモアレを抽出し、モアレ情報とする(ステップS134)。
【0037】
エリアマーカーの位置によってモアレパターン判別に利用する領域は、エリアマーカーの形状・周期パターンの位置によってそれぞれ設定される。モアレパターン判別に利用する領域は、エリアマーカーの任意の基準点(中心や重心など)からエリアマーカーの大きさを基準として決定されてもよい。
【0038】
例えば
図2の周期パターンと
図3の周期パターンからなる組み合わせの印刷群に対し解析を実施し、印刷媒体画像データとして得られた画像が
図4に示すモアレパターンを有するものだったとき、エリアマーカーの位置よりモアレパターン判別に利用する領域として決定される例として、
図10に示すものが挙げられる。
【0039】
図10の例では、エリアマーカー900が長方形であって、周期パターン上に存在し、モアレ240もエリアマーカー900を含めるように発生している。そこで、エリアマーカー900の重心をモアレ領域決定プロセスの基準点290とし、エリアマーカー900の向かい合う対辺に平行な方向(図で上下方向)を第一の方向とし、もう一方の対辺に平行な方向(図で左右方向)を第二の方向としたとき、各方向の大きさ90Y,90Xの各3倍をそれぞれの方向にとった領域をモアレパターンに利用する領域90と設定している。ただし、解析に用いる領域はこれに限られない。
【0040】
エリアマーカーにおけるモアレ領域決定プロセスの基準点とは、印刷媒体上でエリアマーカーと略同一平面上に位置し、
各エリアマーカーの形状及び相対位置関係から一意に位置を定義できる点である。
【0041】
また周期パターンの最低繰り返し数や、主に発生するモアレ縞の向き・周期・本数などによって決定されてもよい。周期パターンは、領域90内で最低でも2回繰り返されていること、また発生するモアレの濃淡が0.5周期含まれていることが望ましい。
【0042】
図8において、モアレパターン照合部440は、このようにして抽出されたモアレ情報(第二のモアレ情報)と、基盤情報記憶部430が記憶しているモアレ情報(第一のモアレ情報)、「照合用モアレ情報データ」ともいう)とを照合して(ステップS140)、基盤情報記憶部430が記憶している照合用モアレ情報データの中から、抽出したモアレ情報と同一のモアレ情報を抽出する。例えば領域90内で画像処理を実行することにより、エリアマーカーの各辺から延在するモアレ縞の相対位置(相対関係)が相互に一致していれば、モアレパターン照合部440はモアレ情報が一致していると判定する。一方、モアレ縞の相対位置が一致していなければ、モアレパターン照合部440はモアレ情報が一致していないと判定する。
【0043】
モアレパターン抽出部420、モアレパターン照合部440においては、モアレパターンの抽出および照合において実施形態として上述の通りフーリエ変換、テンプレートマッチング、エッジ検出、ベクトル相関といった手法を用いることが挙げられるが、このときエリアマーカーを利用することによって解析に使用する領域を印刷群に対し決めることで、モアレの検出、照合の速度・精度を向上することが可能となる。
【0044】
同一のモアレ情報を抽出できた場合、モアレパターン照合部440が、印刷媒体2の認証処理を行い(
図8のステップS150)、対応付けられた商品情報(商品の製造年月日等)を、送信元の通信端末3に返信する。
このとき、モアレパターン照合部440は、まず、同一のモアレ情報を抽出できた旨の肯定情報を通信端末3に送信し、その後に消費者から通信端末3を介してダウンロード要求があった場合に限り、商品の情報を通信端末3に送信することとしてもよい。
【0045】
一方、印刷パターン照合装置4が、印刷パターン特定部に記憶されたモアレパターンと同一のモアレ情報を印刷パターン記憶部に発見できなかった場合、モアレパターン照合部440は、同一のモアレ情報が存在しなかったとする否定情報を、通信端末3に返信する。それに応じて通信端末3は、送信された判定結果を不図示のディスプレイに表示する(
図8のステップS160)。
【0046】
本実施の形態によれば、通信端末3の読取装置3aは、実施例としてCCD(Charge Coupled Device)あるいはCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)などのイメージセンサを用いたカメラなどが例として挙げられる。読取装置3aは、複数のモアレパターン間の違いを検出できる精度があればよく、高性能なレンズや撮像素子は不要となる。
【0047】
(エリアマーカーの例)
また、エリアマーカーは2点であってもよい。エリアマーカーが2点のとき、エリアマーカーが1点であるときに比べ照合精度をより向上でき、また意匠性を高めることができる。同時に使用されるエリアマーカー2点は同じ形状であってもよいし、異なっていてもよい。
【0048】
図11(a)は、第一の周期パターン220と、エリアマーカー900、901を示す図である。ここで、エリアマーカー901はエリアマーカー900と同じ大きさであって、塗りつぶされた長方形である。
図11(b)に、
図11(a)をy軸方向(
図2参照)に4.5周期ずらしたことにより生成されるモアレパターン243を示す。
【0049】
エリアマーカー2点を用いてモアレパターンの解析を行う場合、撮影画像データよりエリアマーカーの抽出を2点に対し実施し(
図13のステップS135)、該エリアマーカーの位置よりモアレパターン判別に利用する領域を2点においてそれぞれ決定し、このエリアマーカーにより決定された領域のモアレを抽出し、モアレ情報とする。ここで、2つのエリアマーカーを用いてモアレパターンの解析を行う場合、双方のエリアマーカーそのものを用いる手法、2つのエリアマーカーの間を用いる手法、双方のエリアマーカーそのものを用い且つ2つのエリアマーカーの間を用いる手法のいずれかの手法を選択できる。
【0050】
これによりモアレパターン照合部では、それぞれのエリアマーカーにより決定された領域のモアレを比較することにより照合精度を高めることができ、一方のエリアマーカーが汚れなどで読み取れなかった場合においても照合を実施することができる。
【0051】
図13はエリアマーカーが2点であるときに、モアレパターン抽出部420でモアレ情報の抽出を行うフローチャートである。エリアマーカーの検出(ステップS135)までは、上述した実施の形態と同様であるので重複説明を省略する。
【0052】
ステップS140で,モアレパターンの解析手法を選択する。具体的には、双方のエリアマーカーそのものを用いる手法が選択された場合、双方のエリアマーカーに対して、上述したようにモアレパターンの解析を行い(ステップS141)、双方のエリアマーカーでモアレパターンが同一性と判断されたときに限り、モアレパターンが同一と判断できる。これにより高精度な判定を行うことができる。
【0053】
一方、ステップS140で,2つのエリアマーカーの間を用いる手法が選択されたときは、エリアマーカーの抽出を2点に対し実施したのち、エリアマーカーの位置よりモアレパターン判別に利用する領域はエリアマーカー2点の各基準点(最近接点)の間とする。例えばエリアマーカーの2基準点を結ぶ線分に交差するモアレの本数や位置を抽出し、これをモアレ情報として比較する(ステップS142)こともできる。この場合、2点間の関係からモアレ情報を取得することで、印刷が歪んだり伸縮してしまった場合においても精度よく照合することが可能である。
【0054】
また、ステップS140で,2つのエリアマーカーの間を用い且つ双方のエリアマーカーそのものを用いる手法が選択された場合、以上と同様な2つのエリアマーカーの間を用いる手法(ステップS143)と、双方のエリアマーカーそのものを用いる手法(ステップS144)とを連続して実行することができる。
【0055】
ここで、解析手法の例としては、エリアマーカー2点間を通るモアレ縞の数をカウントし比較すること、エリアマーカー2点間のうち中点など任意の点における明暗を比較すること、エリアマーカー2点間の距離第一軸、モアレ縞の明暗を第二軸とし、その数値をなぞる波形の形状を比較すること、エリアマーカー2点間の距離第一軸、モアレ縞の明暗を第二軸とし、その数値をなぞる波形を周波数解析すること、などが挙げられる。
【0056】
図12は、
図11(b)のエリアマーカー900,901付近の拡大図である。エリアマーカー900、901の各頂点のうち、最も他方のエリアマーカーに近い頂点(最近接点)をモアレ領域決定プロセスの基準点291,292とし、その2点を結ぶ線をモアレパターン判別に利用する領域91としている。
【0057】
また、エリアマーカーは3点以上であってもよい。エリアマーカーが3点以上のとき、エリアマーカーが1点ないし2点であるときに比べ、より精度と意匠性を高めることができる。このとき各エリアマーカーは同じ形状であってもよいし、異なっていてもよい。
【0058】
ここで、3つのエリアマーカーを用いてモアレパターンの解析を行う場合、各エリアマーカーそのものを用いる手法、2つのエリアマーカーの間の線分を用いる手法、3つのエリアマーカーの間の三角領域を用いる手法、以上の手法を組み合わせた手法のいずれかの手法を選択できる。
【0059】
図14(a)は第一の周期パターン220と、エリアマーカー900~902を示す図である。またエリアマーカー902はエリアマーカー900,901と同じ大きさで、塗りつぶされた長方形である。
図14(b)に、
図14(a)をy軸方向(
図2参照)に4.5周期ずらしたことにより生成されるモアレパターン244を示す。
【0060】
図16はエリアマーカーが3点であるときに、モアレパターン抽出部420でモアレ情報の抽出を行うフローチャートである。エリアマーカーの検出(ステップS135)までは、上述した実施の形態と同様であるので重複説明を省略する。
【0061】
ステップS140で,モアレパターンの解析手法を選択する。具体的には、各エリアマーカーそのものを用いる手法が選択された場合、各エリアマーカーに対して、上述したようにモアレパターンの解析を行い(ステップS145)、各エリアマーカーでモアレパターンが同一性と判断されたときに限り、モアレパターンが同一と判断できる。
【0062】
一方、ステップS140で,2つのエリアマーカーの間を用いる手法が選択されたとき、2つのエリアマーカーの基準点の間が線分(三角形の3辺)となるので、合計3つの線分が得られ、線分に対応する各領域ごとにモアレの本数や位置を抽出し、これをモアレ情報として比較することができる(ステップS146)。これにより、同一性の精度向上を図ることができる。あるいは、一部のエリアマーカーが汚れなどで読み取れなかった場合においても照合を実施することができる。
【0063】
加えて、ステップS140で,3つのエリアマーカーの間を用いる手法が選択されたとき、3つのエリアマーカーの基準点からなる面(三角領域)をモアレパターンの判別に用いる領域とし、3基準点による面内のモアレを抽出し、モアレ情報とすることもできる(ステップS147)。この場合、3基準点からなる三角領域に対するモアレ縞の相対関係からモアレ情報を取得することで、印刷が歪んだり伸縮してしまった場合においても精度よく照合することが可能である。
【0064】
例として示す
図15において、エリアマーカー900~902の各エリアマーカーに対し、それぞれモアレ領域決定プロセスの基準点(最近接点)293~295とし、各基準点を結ぶ線からなる面がモアレパターン判別に利用する領域92となる。
【0065】
その他、ステップS140で,上述した手法を組み合わせることを選択した場合、これら手法を組み合わせて同一性の判定を行うことができる(ステップS149)。
【0066】
エリアマーカーにおけるモアレ領域決定プロセスの基準点はエリアマーカーが複数あるとき、特にエリアマーカーの頂点のうち最も他のエリアマーカーに近い点が好ましい。この場合エリアマーカーで決定する領域の精度をより保つことができる。またエリアマーカー間を結ぶ際、エリアマーカー上を通らない経路になる点が好ましい。
【0067】
また、エリアマーカーを、周期パターンを囲う形にしたり、その周囲に配置してもよい。このとき周期パターンを絵柄に溶け込ませることがよくでき、意匠性を高めることができる。
【0068】
例として、
図17(a)は、格子状の第一の周期パターン221とエリアマーカー910を示す図である。エリアマーカー910は第一の周期パターンの領域を囲むようなドーナツ状で塗りつぶされている。
図17(b)は第一の周期パターンを92%縮小した第二の周期パターン231である。
図17(a)と
図17(b)を重ねて印刷することで、
図17(c)に示すようにモアレパターン245が生じる。
【0069】
エリアマーカーの形状は、1つ以上の頂点をもつものでもよい。エリアマーカーを用いた解析において、エリアマーカーの位置や傾きを頂点によって認知しやすくすることができる。
【0070】
例として、
図18(a)は、直線状の第一の周期パターン222とエリアマーカー920,921を示す図である。エリアマーカー920,921は1つの頂点を持つ円錐型(しずく型)で塗りつぶされている。
図18(b)は、第一の周期パターン222を92%縮小した第二の周期パターン223である。
図18(a)と
図18(b)を重ねて印刷することで、
図18(c)に示すようにモアレパターン246が生じる。
【0071】
エリアマーカーの形状は、多角形でもよい。また、星型や曲線を含んでいてもよい。頂点が複数ある場合、エリアマーカーの位置や傾きをより認知しやすくすることができる。また、エリアマーカーを複数用いるとき、他のエリアマーカーに近いなど最も解析に適した頂点を基準点として選択することができ、より精度向上が可能である。
【0072】
例として、
図19(a)は、直線状の第一の周期パターン222とエリアマーカー930~933を示す図である。エリアマーカー930,931は多角形、エリアマーカー932はアステロイド(星ぼう形)、エリアマーカー933は星型である。
図19(a)と
図18(b)を重ねて印刷することで、
図19(b)に示すようにモアレパターン247が生じる。
【0073】
またエリアマーカーは、キャラクターなどのイラストや、文字、ロゴなどであってもよい。図柄と組み合わせることでモアレを自然と絵柄として用いることができ、また、モアレが人間にとって不快な模様となってしまうのを軽減することができる。
【0074】
例として、
図20(a)は、
図3と同じ第一の周期パターン220と、エリアマーカー940を示す図である。エリアマーカーはキャラクターの形で塗りつぶされている。
図2と同じ第一の周期パターン220を、
図20(a)の第二の周期パターン230に重ねて印刷することで、
図20(b)に示すようにモアレパターン248が生じる。
【0075】
また、
図21(a)は、
図3と同じ第一の周期パターン220と、エリアマーカー941を示す図である。エリアマーカー941はアルファベットのTの形で塗りつぶされている。
図2と同じ第一の周期パターン220を、
図21(a)の第二の周期パターン230に重ねて印刷することで、
図21(b)に示すようにモアレパターン249が生じる。
【0076】
以上の例ではエリアマーカーは形状を塗りつぶしたものであったが、パターンから四角や円、図柄などの任意形状を抜き取ってエリアマーカーとすることもできる。また塗りつぶしたものと抜き取ったものが混在していてもよい。
【0077】
例として、
図22(a)は、
図3と同じ第一の周期パターン220と、エリアマーカー950を示す図である。エリアマーカー950はキャラクターの形で周期パターンを排除して空白としている。
図2と同じ第一の周期パターン220を、
図22(a)の第二の周期パターン230に重ねて印刷することで、
図20(b)に示すようにモアレパターン250が生じる。
【0078】
(周期パターンとエリアマーカーを組み合わせて使用する例)
また、1つの印刷物において、周期パターンが設けられた領域は複数になっていてもよい。特にイラストなどを主体的に用いる場合、モアレ模様を図柄として効果的に利用することも可能となる。
【0079】
例として、
図23(a)は、絵柄(クマの顔)300に同心円状の第一の周期パターン232が2箇所(両耳の位置)含まれている図である。この場合エリアマーカーとは、絵柄300のうち、第一の周期パターンそれぞれの最大幅から設定される周期パターンの近傍領域に含まれる範囲960,961が該当する。
【0080】
図23(b)は、第一の周期パターン232を移動させた第二の周期パターン233を示す図である。
図23(a)と
図23(b)を重ねて印刷することで、
図23(c)に示すようなモアレパターン251,252が生じる。
【0081】
複数の周期パターンの少なくとも一部を異なる色で表現してもよく、また一つの周期パターン内で色を変化させても良い。この場合、色のグラデーションがついた美しい模様が表現でき、デザイン的に優れたパターンの表現が可能になる。
【0082】
また、複数の周期パターンとエリアマーカーのそれぞれ一部で色を分けてもよい。この場合、特にエリアマーカーに図柄やロゴを用い、エリアマーカーを中心に色を変えると、モアレが背景化し、モアレが意図せず人間にとって違和感のある模様となってしまっていても、デザイン全体として自然に用いることが可能になる。
【0083】
以上の例では周期パターンに閉曲線を使った例を示した。このような閉曲線を少なくとも一部に使うことで二つの周期パターンがいずれかの方向にわずかにずれた場合であってもモアレパターンの大きな変化が生じるため、識別性の高いパターンの生成が可能になる。一方、閉曲線を用いる代わりに開いた曲線を周期パターンの少なくとも一部に用いることでデザインの自由度を上げることが可能になり、デザイン的に優れたパターンを得ることが可能になる。閉曲線と開曲線を組み合わせることは任意である。
【0084】
なお、以上述べた例では、曲線と曲線から生成されるモアレパターン、直線と直線から生成されるモアレパターンの例を示したが、これに限ることはなく、曲線と直線の組合せ、網点と網点、網点と曲線、網点と直線の組合せなど、モアレパターンが生じる周期パターンの組合せであればいずれでもよい。網点は通常のプロセス印刷の製版システムによって容易に発生させることが可能となる。また、網点の面積や濃度を変化、または線の幅を変化させることで濃淡をつけた絵柄を重ねて表現することも可能になる。
【0085】
本例では、第一の周期パターンと第二の周期パターンおよびエリアマーカーを同じ色とした。この場合、生じるモアレパターンのコントラストが高くなり、かかるモアレパターンに識別情報や固有の情報を持たせた場合、その認識が容易になるという利点がある。
【0086】
なお、本例では、モアレパターンとして二つの周期パターンの組合せの例を示したが、それに限らず3つ以上の周期パターンを組み合わせてモアレパターンを生成してもよい。
【0087】
各周期パターンは基材の同一の表面に形成することで、後述する読取装置の読取位置が変化してもモアレパターンの変化が少なく、誤判定の少ない読み取りを可能にすることができる。なお、印刷面の保護のためモアレパターンが生成される表面に透明な保護層を設けてもよく、また、透明な基材の裏面からモアレパターンを観察してもよい。
【0088】
(モアレパターンの分解)
また、印刷後のモアレパターンは、印刷に用いた第一の周期パターンと、第二の周期パターンとエリアマーカーとに分解できる場合がある。かかる場合、1つのモアレパターンがあれば、これを生成するために使用した第一の周期パターンと第二の周期パターンとエリアマーカーを精度よく推定できることとなる。3つ以上の周期パターンから生成されるモアレパターンの場合も同様である。
【0089】
(周期パターンの位置ずれについて)
図24は、
図6に示すモアレパターンの中心部260の拡大図である。モアレパターンに変化を生じさせるためには、印刷時の印刷位置のばらつき(印刷ずれ)の最小距離が、周期パターンの平均周期mの1/10倍以上あることが望ましい。なぜなら、重ねる周期パターンのずれ量に応じて、モアレパターンの周期が拡大されて変化するから、周期パターンの平均周期mの1/10倍以上のずれ量であれば、モアレパターンの違いを容易に判断できるからである。ここで、「印刷ずれ」とは、印刷媒体に対して2つの印刷版に形成された二つの周期パターンの基準点(たとえば同心円なら中心)同士が一致する位置に対して、一方の周期パターンが、いずれかの方向にずれることをいう。
【0090】
図25(a)にモアレパターン240と、
図25(b)にモアレパターン240を生成する同じ第一の周期パターン220と第二の周期パターン230を、第一の周期パターンの1周期を1とした場合、円の中心をy軸方向にモアレパターン240よりも0.1周期多い4.6周期分移動させ重ねて印刷して生じたモアレパターン240を、それぞれ中心部を並べて図示している。
つまり、モアレパターン240(a)とモアレパターン241(b)では、第一の周期パターンと第二の周期パターンのy軸方向の印刷ずれの相対差が、第一の周期パターンの1周期に対して1/10となっている。
【0091】
ここで、同心円中心からy軸方向に第一のモアレ縞の中央までの距離をそれぞれp1、p2とすると、二つのモアレパターンにおける周期パターン同士のずれ量(相対差)は、第一の周期パターンの1周期に対して1/10とわずかなものであるが、モアレパターンにおいては、距離p1、p2の差が拡大されて視認できる。よって、印刷時の印刷位置のばらつきの最小距離が周期パターンの周期の1/10倍以上あれば、例えば肉眼でもモアレパターンの違いを判別可能である。なお、高精度の画像解析を行う場合、印刷時の印刷位置のばらつきの最小距離が、いずれかの周期パターンの周期の1/50倍以上あればモアレパターンの違いを測定可能である。
【0092】
このことから、モアレパターンの作成に当たっては、二つの周期パターンの印刷ずれを少なくともいずれかの周期パターンの平均周期の1/50倍以上としておくことが必要であるといえる。
【0093】
ただし、周期パターンの印刷位置のズレが相当に大きくなると、第一の周期パターンと第二の周期パターンが重ならず、モアレパターンが発生しなくなる恐れが生じる。これを防止するため、
図26に示すように、第一の周期パターン221(a)が形成された領域よりも、第二の周期パターン231(b)が形成された領域の面積を大きくすれば、たとえ印刷位置が大きくずれたとしても、第二の周期パターン231内で第一の周期パターン221が変位する分には必ず重なりが生じるから、モアレパターンの生成が可能になる。但し、周期パターンの印刷位置のズレは、第二の周期パターン231のサイズ(ここでは一辺の半分)以下とする必要がある。
【0094】
また、第一の周期パターン221の矩形枠と、第二の周期パターン231の矩形枠とは、サイズを異ならせ、
図27(b)に示すように一方の周期パターンを他方の周期パターンの最外縁に内包させることで、周期パターンを重ねたときの枠ずれが気にならなくなり見る者の違和感を抑制できる。
【0095】
周期パターンの図示を省略した
図27(a)に示す実施形態では、第一の周期パターンの領域の最外縁OE1の形状と、第二の周期パターンの領域の最外縁OE2の形状とが異なっている。さらに、第一の周期パターンの最外縁OE1の一部が、第二の周期パターンの最外縁OE2の外側にはみ出しており、且つ第二の周期パターンの最外縁OE2の一部が、第一の周期パターンの最外縁OE1の外側にはみ出している。本実施形態は、両方の周期パターンが重ね合わさった六角形の中央部にモアレパターンが生じる例である。
【0096】
このとき、エリアマーカーは必ずしもモアレが発生している箇所に存在していなくてもよい。エリアマーカーと発生するモアレの関係は、エリアマーカーがパターン上に固定されているため、エリアマーカーがモアレと接していなくても、モアレの変化ごとにエリアマーカーとの関係の変化を確認することができる。
【0097】
また、周期パターンの図示を省略した
図27(b)に示す実施形態では、第一の周期パターンの領域の最外縁OE1が、第二の周期パターンの領域の最外縁OE2を内包している。より具体的には、第一の周期パターンの最外縁OE1の全部が、第二の周期パターンの最外縁OE2の外側にはみ出している。本実施形態は、両方の周期パターンが重ね合わさった円形の中央部(すなわち最外縁OE2内部)にモアレパターンが生じる例である。
【0098】
(モアレパターンの設計と選択)
次に、照合に適したモアレパターンの設計と選択について、図面に基づき説明する。印刷時の印刷位置のばらつきの最小距離は、実際に長時間もしくは多数個の印刷等を行いその位置ズレを測定することで求めることができる。"
【0099】
また、商品パッケージの印刷後に、全ての商品パッケージを不図示の電子カメラで撮影し、商品パッケージの画像データから、モアレパターンの画像データ(モアレ情報ともいう)を抽出してデータ記憶部に記憶する。そして、商品パッケージの出荷前の検査において、すでに同一のモアレパターンが印刷されていないか(2以上の同じモアレ情報が記憶されていないか)の確認を行うことができる。同一のモアレパターンが印刷されていると確認された場合、例えば後で得られた商品パッケージを除去する工程を設けてもよい。
【0100】
かかるプロセスを、
図28を用いて詳細に説明する。まず、商品パッケージの企画・デザインを行い(ステップS201)、それに基づき周期パターンのデータを作成し(ステップS203)、絵柄のデータを作成する(ステップS204)。周期パターンを作成する場合、印刷機による印刷位置のばらつきなどの固有値をもとに周期パターンを求める(ステップS202)ことが望ましいが、使用する印刷機の情報がないような場合は一般的な印刷機の情報から周期パターンを求めてもよい。
【0101】
例えば、175lpi(line per inch)で印刷を行うグラビア印刷の場合、その最小の位置ズレは10μm程度と想定し、第一の周期パターンの周期を100μm以下の90μm、第二の周期パターンの周期をそれより若干小さい83μmとすることができる。これらの値は、実際のモアレパターンを発生させたうえで、デザイン面やモアレの認識のしやすさなどから最終的なパターンを決定する。
【0102】
次に、得られたデータから、印刷版を作成する(ステップS205)。作成した印刷版を用いて印刷を行うが、第一の周期パターンの印刷(ステップS206)と、第二の周期パターンの印刷(ステップS207)は、異なる工程で印刷を行う。二つの周期パターンが重ねて印刷されることで、上述したようにモアレパターンが生じる。
【0103】
なお、異なる工程とは、少なくとも異なる印刷版を用いればよく、同一の印刷機で印刷をしても良いし、異なる印刷機を用いてもよい。なお、ここでは、第一の周期パターンと絵柄の印刷を同一の工程とするが別工程で印刷してもよい。また、絵柄も一つの版で印刷する必要はなく複数の版で多色の印刷としてもよい。
【0104】
次に、モアレパターンを含む印刷パターンを、検査装置(カメラ等)などを用いて光学的に読み取り画像データに変換して、その中からモアレ画像パターンを抽出して認識し(ステップS208)、サーバーなどのデータ記憶部に記憶しておくことで、その都度、記憶されたモアレパターンの画像データと照合することができる。同一のモアレパターンが既に印刷されていた場合や不良なモアレパターンがある場合は、その印刷媒体を除去する(ステップS209)。これによりパターン照合時の混乱を回避することができる。一方、同一のモアレパターンがない場合、そのモアレパターン(これが最初に記憶したモアレパターンとなる)を記憶(ステップS210)したうえで、次工程に進める。
【0105】
本実施の形態では、周期パターンの組合せによって印刷媒体を形成しているため、スキャナーやコピー機、デジタルカメラなどを用いて複製した場合、これらの画像形成装置の撮像素子の画素やマイクロレンズアレイの周期構造との新たなモアレパターンが生じやすい。そのため、本実施の形態によるモアレパターンを持つ印刷媒体を複製することは困難といえる。なお、前記画像形成装置の特性に起因したモアレパターンを避けるためにローパスフィルターを用いる方法あるが、これによって複製されたモアレパターンは、周期パターンをもたない文様となるから、目視あるいはカメラなどにより複製されたかどうか判定が可能になる。
【0106】
(印刷方法及び印刷媒体の製造方法)
次に、
図29を参照し、印刷方法及び印刷媒体の製造方法について説明する。本実施形態の印刷媒体とは、モアレパターンが単独で印刷されたものでも、商品の一部に印刷されたもの、商品パッケージの一部に印刷されたものでもよい。"
【0107】
図30に示すように印刷媒体2は、基材210を備える。基材210としては、例えば、紙基材、PET(polyethylene terephthalate)等のフィルム基材が採用できる。基材210はシート状のものに限らず、商品そのものを基材210とし、そこにモアレパターンを印刷してもよく、また商品パッケージに用いる紙媒体、プラスチック媒体を基材210として、そこにモアレパターンを印刷しても良い。以下の例では、連続した基材シート6を印刷後に裁断して、基材210としている。
【0108】
(印刷媒体の印刷装置)
図31において、印刷媒体の印刷装置は、シアン用の画像を転写形成するための版胴7Cと、それに対向配置された圧胴7Pと、マゼンタ用の画像を転写形成するための版胴8Mと、それに対向配置された圧胴8Pと、イエロー用の画像を転写形成するための版胴9Yと、それに対向配置された圧胴9Pと、ブラック用の画像及び第1の周期パターンを転写形成するための版胴10Bと、それに対向配置された圧胴10Pと、テンションローラTP1,TP2と、空気吹付装置DBと、ブラックで第2の周期パターンを転写形成するための版胴11Bと、それに対向配置された圧胴11Pとを有している。以下、版胴を印刷版ということもある。"
【0109】
テンションローラTP1,TP2は不図示の駆動機構により、相互の間隔を変更して基材シート6へ付与するテンション(引っ張り力)を調整したりすることができる。また、空気吹付装置DBは、水蒸気を発生させる加湿器や、加熱ヒータを内蔵しており、水分を含んだ空気や加熱空気を回転ファンにより吹付量を調整しながら、基材シート6の表面へと吹付可能となっている。これらを総称して、位置ずれ発生装置という。
【0110】
帯状の基材シート6は、版胴7C~10Bと、これに対向する圧胴7P~10Pとの間を通過し、所定のテンションを付与すべくテンションローラTP1,TP2とに巻き回された後、空気吹付装置DBの近傍を通過し、さらに版胴11Bと、これに対向する圧胴11Pの間を通過するようになっている。このとき、各版胴7C~10Bにより一致した印刷タイミングで各色の画像が基材シート6に転写形成され、これを組み合わせることで特定の絵柄のカラー画像が印刷される。なお、版胴11Bに、エリアマーカーの転写部を形成しているが、これに代えてもしくはこれと共に、版胴10Bにエリアマーカーの転写部を形成していてもよい。
【0111】
基材シート6を、版胴7C~10Bと、これに対向する圧胴7P~10Pとの間を通過させる際は、基材シート6の幅方向端部に予め付されているトンボ(位置決めマーク)などで印刷タイミング制御(印刷位置制御)を行う。このときの位置制御としては、例えば、胴の回転速度を制御する方法や、基材シート6の搬送速度を制御する方法があるが、印刷ずれを起こさないようにするのが望ましい。
【0112】
一方、基材シート6には、版胴10Bによりブラックで第一の周期パターンが転写形成され(第一工程)、これとずれるようにして版胴11Bによりブラックで第二の周期パターンとエリアマーカーが転写形成され(第二工程)、これらが重ねあわされることでモアレパターンが生じることとなる。ただし、別の版胴を用いて、エリアマーカーを形成してもよい(第三工程)。その後、カラー画像とモアレパターンが形成された基材シート6は、個別に裁断されて基材210(
図30)となり、さらに折りたたまれて接着され、たとえば
図15に示すような商品パッケージとして形成される。
【0113】
図29に示す例は、日本酒のパッケージを基材210とし、絵柄310とモアレパターン240が同一の基材210の表面に印刷されたものである。なお、本例では飲料のパッケージの例を示したが、電化製品、部品、農産物、水産物、加工食品、物流コンテナ、ダンボールなど梱包資材、トイレタリー商品、化粧品、ソフトウエア、電子マネー、クレジットカード、プリペイドカード、商品券、交換部品、衣料品など、あらゆる商品や商品のパッケージなど、さらには車などの移動体やペットや家畜などの生き物も印刷媒体の対象となる。
【0114】
図30において、基材210の一方の面(以下、「表面」とも呼ぶ)には、
図1に示すような第一の周期パターン220と、
図2に示すような第二の周期パターン230とエリアマーカーとが重ねて印刷されている。第一の周期パターン220と第二の周期パターン230とエリアマーカーは、本実施の形態においては、ずれた印刷タイミングで基材210上に重なるようにして印刷を行っている。
【0115】
一般的な印刷機においては、印刷ずれを回避するために位置合わせ機構等による基材シート6の位置決めなどを行っている。したがって、特に制御をおこなわずとも、位置合わせ機構等を停止したり、位置決め精度を低下させる等を行えば、第一の周期パターンと第二の周期パターンとの間にある程度の位置ずれを生じさせることができる。
【0116】
第一の周期パターン220と第二の周期パターン230及びエリアマーカーは、このように位置ずれした状態で基材210上に印刷されるため、位置合わせ機構を停止等することで、その印刷装置の精度などによる印刷位置の変化や、基材210の伸びや縮みなどにより変動が生じる。その微小な変動が、モアレパターン240を変化させ、その結果、同一パターンを印刷しても、個々に異なるパターンを印刷することが可能になる。なお、同一版内に複数の周期パターンを面付けして印刷する場合や、工程の中で版の交換を行うような場合、各々が異なる周期パターンを用いてもよい。その場合、面付け位置やロットの違いを、周期パターンの違いによって容易に判定することが可能になる。
【0117】
しかしながら、より明瞭に異なるモアレパターンを得るためには、積極的に第一の周期パターンと第二の周期パターンとの間に位置ずれを生じさせることが望ましい。
【0118】
そこで本実施の形態では、以下のようにして、第一の周期パターンと第二の周期パターンとの間に積極的に位置ずれを生じさせている。具体的には、印刷中における基材シート6のテンションを変更すべく、版胴10B、11Bの間で、テンションローラTP1,TP2の間隔を変更させ、また空気吹付装置DBにより、水分を含んだ空気や加熱空気を基材シート6の表面へと吹付けることにより、基材シート6に伸びを生じさせ、また吹付空気が直接当たることで基材シート6のばたつき等を生じさせることができる。これにより第一の周期パターンと、第二の周期パターンとの間に位置ずれが生じる。
【0119】
テンションローラや空気吹付装置の制御は、版胴10Bにより第一の周期パターンが形成されるごとに(テンション力や、吹き付ける空気の湿度、温度、風量など)変更することが望ましい。それにより、先に形成された第一の周期パターンと第二の周期パターンとの位置ずれと、その後に形成された第一の周期パターンと第二の周期パターンとの位置ずれを異ならせることができ、その結果として異なるモアレパターンを次々と生じさせることができる。
【0120】
本実施の形態によれば、版胴10B、11Bの間で積極的に位置ズレを生じさせているので、その影響は版胴10Bより上流側に及ばないことから、版胴7C~10Bにより形成されるカラー画像は従来通り印刷ずれがなく高い画質で形成できる。ただし、第二の周期パターンの印刷工程が、絵柄の印刷工程の精度に影響を及ぼしてしまう場合、一旦他の絵柄の印刷を終えた後、別工程で第二の周期パターン及びエリアマーカーの印刷を行っても良い。
【0121】
その他、印刷装置の部品を交換する等、印刷装置側を調整することによっても、第一の周期パターンと第二の周期パターン及びエリアマーカーとの間に位置ずれを生じさせることができる。たとえば、硬度、シリンダー径、シリンダーの傾きまたは形状を変えた版胴(オフセット印刷機の場合はゴムブランケット等)を用いたり、クッション性のある土台に変更して印刷装置の支持剛性を変化させたり、印刷装置のあて(基材シート6の案内)を変化させたりするほか、追加の装置で印刷装置を振動させるなどが考えられる。ちなみに、ブランケットの硬さは、JIS-A型硬度計で測定して73~83度の範囲で変更すればよい。かかる印刷装置の調整と、上述した位置ずれ発生装置の駆動制御とを組み合わせることで、さらに多数の異なるモアレパターンを生成できる。
【0122】
更に、基材シート6に音波を当てたり、基材シート6の厚みや質を変えたりすることでも、第一の周期パターンと第二の周期パターンとの位置ずれを生じさせることができる。
【0123】
なお、周期パターンおよびエリアマーカーの印刷インキには、可視光で反射するインキを用いても良いし、モアレパターンを隠蔽したい場合は赤外光や紫外光などに反射する特殊なインキを用いても良い。また、商品パッケージではなく、例えばノートやカレンダーなどの商品自体に、直接モアレパターンを印刷してもよい。
【0124】
以上の例では、商品パッケージの絵柄の印刷として、4色のプロセス印刷によるカラー印刷装置の例を示したが、これに限らず、特色を用いた印刷装置を用いてもよい。また、第一の周期パターンの印刷に独立した版胴を用いても良いし、さらに枚葉印刷の装置を用いてもよい。
【0125】
周期パターンの印刷に用いる印刷版は、オフセット印刷やグラビア印刷、凸版印刷、凹版印刷、スクリーン印刷など物理的な版がある場合でもよく、また、静電印刷のように電子的な固定パターンを異なるタイミングで印刷してもよい。なお、周期パターンを印刷する版を用いて商品や商品パッケージである基材に絵柄を印刷してもよい。物理的な版を用いる場合、高速で安価に印刷することができる利点があり、電子的な版を用いる場合は、製版する工程を省略できる利点がある。
【0126】
本実施形態では、例えば商品パッケージの印刷工程と同様の印刷装置を用いて、同じ印刷工程で固有のモアレパターンを印刷することができるため、かかるモアレパターンに情報を関連付けすることで、その情報と商品パッケージとを一対一で対応付け(以下「紐づけ」ともいう。)することが可能になる。
【0127】
(モアレパターンの識別性)
以上のような製造工程によって、同じ周期パターンとエリアマーカーを用いて印刷しながらも、印刷媒体群を構成する個々の印刷媒体にそれぞれ異なるモアレパターンを作成することができる。したがって2つ以上の商品が存在するとき、例えばその商品パッケージに印刷されたモアレパターンの違いに基づいて商品を識別することができる。また、モアレパターンを後述する照合システムによって認識することで、各々の印刷媒体を個別に認証することも可能となる。
【0128】
(トレーサビリティーシステムへの適用)
モアレパターンを商品の一部もしくは商品のパッケージの一部などに表示し、商品の出所等を確認するために用いるトレーサビリティーコード等の情報を付与した印刷媒体に、本実施形態を適用することができる。"
【0129】
図32を用いて、モアレパターン照合システムを利用したトレーサビリティーシステムについて説明する。図において、実線の矢印は商品の流れを示し、点線の矢印は情報の伝達を示す。製造者610は、商品が完成した段階で、商品そのものまたは商品パッケージに印刷されたモアレパターンを読取装置によって読取り、画像データに変換し、モアレパターンの画像データに対応付けて、商品の様々な情報、IDなどの情報(商品情報、または固有の情報ともいう)を、通信路を通してクラウドサーバー(データ処理装置)600に送信する。
【0130】
これを受信したクラウドサーバー600では、画像データに基づきモアレパターンの照合、個別コードの認証(同じモアレパターンがないかの確認)などを行ったのち、モアレパターンの画像データと製品情報との関連付けの処理650を行い、データベース内の所定の記憶領域に記憶する。所定の記憶領域としては、認証したモアレパターンの画像データと商品情報を同じフォルダとしてもよいし、認証したモアレパターンの画像データと商品情報の記憶領域を関連付けた上で別の記憶領域に保存しても良い。
【0131】
トレーサビリティーシステムにおいては、当該商品が、卸売業者620や、小売業者630を経由する際、それぞれの入荷、出荷などのタイミングで、読取装置や読取装置を内蔵した通信端末などによって、モアレパターンが読み取られることとなる。そして、読み取られたモアレパターンは画像データに変換され、場所や流通経路の情報及び価格などの情報(以下「付加情報」という。)と共にクラウドサーバー600に送付される。これらのモアレパターンの読取、画像データへの変換、付加情報の送信などは、流通段階で任意の回数だけ行われ、そのたびにクラウドサーバーに蓄積される付加情報の数は増加する。
【0132】
通信端末から画像データと付加情報を受信したクラウドサーバー600は、画像データに基づきモアレパターンと付加情報との関連付けの処理650を行い、すでに記憶されているモアレパターンに対応する商品情報に追加する情報として、付加情報をデータベースの所定の領域に追加的に蓄積する。
【0133】
流通経路の末端にいる消費者640は、商品を購入する際、自身の持つスマートフォンなどのモアレパターンの読取機能を有する通信端末を用いて、商品パッケージのモアレパターンを読取り、クラウドサーバー600に当該商品に関する商品情報、付加情報などの照会をすることができる。かかる場合、通信端末からモアレパターンの画像データとともに照会要求を受信したクラウドサーバー600は、受信した画像データとクラウドサーバー600内に記憶しているモアレパターンと比較照合して、両者が一致すると判断した場合、それに対応するクラウドサーバー600内の商品情報及び付加情報を、消費者640のスマートフォンに返信する。このとき送信される情報は、モアレパターンが一致したことを示す情報であるともいえる。なお、一致するモアレパターンがなかった場合、クラウドサーバー600はモアレパターンが一致しなかったことを示す情報を通信端末へと送信する。
【0134】
クラウドサーバー600から、モアレパターンが一致したことを示す情報を受信した消費者640は、個別の商品情報及び付加情報などの情報を得て、商品購入の判断に役立てることができる。さらに、消費者640は、商品を消費した、もしくは使った感想などを、商品パッケージのモアレパターンを読取ることで、クラウドサーバー600を介して製造者610へとフィードバックすることもできる。
【0135】
このようにモアレパターンを使ったトレーサビリティーシステムは、あらゆる商品に有効であるが、特に農産物、水産物、宝石、貴金属、工芸品、美術品など、個々の商品の品質が異なるものや、食品、医薬品など期限管理や流通・保管での管理が必要なものには特に有効である。
【0136】
例えば、農産物を考えた場合、生産者、地域、農薬・肥料などの使用状況、収穫時期、水分量、品種、甘みなど食味、重さ、サイズなどの情報が製品の情報となる。本システムを使うことで卸、小売などの流通側では、物流や在庫の管理を商品毎個別に行うことが可能になる。場合によっては、収穫時期からの時間などの商品情報によって、細かな価格決定をすることも可能になる。また、不良・事故が起きた場合、速やかな商品の回収と原因の特定が可能になる。消費者は、価格やブランドだけでない商品情報をもとに、納得した価格と品質で商品の購入ができることになる。生産者は、流通が間に入ることで、なかなか得られなかった生の消費者の動向をリアルタイムで知ることが出来るため、生産計画、販売計画、商品企画などに役立てることが可能になる。従来は個別コードを農産物につけるためには、QRコード等を個別に印刷したシールを商品毎に貼り付ける必要があったため、コストがかかり高価な果物などにしか利用できていなかった。本実施形態による印刷媒体を用い、安価でモアレパターンを発生させ、スマートフォンなどの広く普及している通信端末を利用することで、大きなコストをかけることなくトレーサビリティーシステムなどを構築することが可能になる。
【0137】
以上述べたように、本実施の形態によれば、同一絵柄を印刷する印刷装置で印刷しながらも、個々に異なるモアレパターンを表現できるため、各モアレパターンに商品固有の情報を紐付けることで、識別性が高いパターンを安価にまた大量に生成することが可能になる。これにより大量生産品を消費者に販売した後に、特定のモアレパターンを抽選で選び、それと同一のモアレパターンの商品パッケージを持つ消費者だけに抽選で賞品を授与することなど容易に行えるようになるので、商品の販促等に用いることもできる。
【0138】
さらに、生成されたモアレパターンは、多様なパターン間の変化が大きいため、読取精度の高い、高価な照合装置が不要な識別標識であるということができる。また、モアレパターンは、パターン上に多少の汚れ、傷があっても、パターンの違いを正確に判断し易いという利点がある。また、商品そのものへの印刷、もしくは商品のパッケージの印刷を行うのと同じ印刷装置で印刷が可能であるため、タグやシールなどとして、個別コードを商品に添付する手間がかからないといった利点も有している。さらに、モアレパターンは、人工メトリクスとは異なり、商品や商品パッケージに直接印刷することができる識別標識であることから、付け替えなど不正を防止する機能も有する。また、モアレパターンは、スキャナーやデジタルカメラなどで複製しようとしても、モアレパターンとは異なる絵柄が取り込まれてしまうため偽造が困難になる。また、読取装置の読取位置が変化しても、誤判定の少ない読み取りも可能である。
【符号の説明】
【0139】
1 照合システム
2 印刷媒体
3 通信端末
4 印刷パターン照合装置
410 照会情報記憶部
420 モアレパターン抽出部
430 基盤情報記憶部
440 モアレパターン照合部
200 周期パターンが設けられた領域
201 周期パターンが設けられた領域の最大幅
202 周期パターンが設けられた領域の最大幅の中点
205 周期パターンの近傍である領域
220、221、222、232 第一の周期パターン
230、231、223,233 第二の周期パターン
290,291,292 モアレ領域決定プロセスの基準点
9、900, 901, 902, 910, 920,921、930,931,932、933、940,941、950 エリアマーカー
90Y エリアマーカーの第一方向の大きさ
90X エリアマーカーの第二方向の大きさ
90,91,92 モアレパターン判別に利用する領域
240,241,242,243,244,245、246,247,248,249,250,251 印刷媒体のモアレパターン
260 閉曲線の周期パターンによるモアレパターンの中心部
6 基材シート
7C シアン用版胴
8M マゼンタ用版胴
9Y イエロー用版胴
10B ブラックおよび第一の周期パターン用版胴
11B 第二の周期パターン用版胴
7P~11P 圧胴
300、310 絵柄
600 クラウドサーバー
610 製造者
620 卸売業者
630 小売業者
640 消費者