(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】同期電動機の制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 21/16 20160101AFI20221025BHJP
【FI】
H02P21/16
(21)【出願番号】P 2018128515
(22)【出願日】2018-07-05
【審査請求日】2021-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】彦根 修
(72)【発明者】
【氏名】野村 尚史
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-144502(JP,A)
【文献】特開2010-239730(JP,A)
【文献】特許第5492192(JP,B2)
【文献】特開2010-239790(JP,A)
【文献】特許第5989683(JP,B2)
【文献】特開平07-055899(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力変換器により同期電動機に供給する電流及び電圧を、前記同期電動機の回転子磁極方向に平行なd軸と、このd軸に直交するq軸とからなるd,q直交回転座標上で制御する制御装置であって、
電動機鉄心の磁気飽和特性を少なくとも考慮した磁束モデルに基づいて演算する演算装置を備え、
前記演算装置は、
前記同期電動機のd軸電流の直流成分を指令値に制御し、
前記d軸に正弦波の交番電圧を印加し、
前記d軸電流の基本波成分のフーリエ係数を演算し、
前記d軸電流の2倍高調波成分のフーリエ係数を演算し、
前記d軸電流の3倍高調波成分のフーリエ係数を演算し、
前記同期電動機のd軸電圧の基本波成分のフーリエ係数を演算し、
前記d軸電圧の基本波成分のフーリエ係数、及び、交番電圧の角周波数に基づき、前記同期電動機のd軸磁束の基本波成分のフーリエ係数を演算し、
前記d軸電流の基本波成分のフーリエ係数、前記d軸電流の2倍高調波成分のフーリエ係数、前記d軸電流の3倍高調波成分のフーリエ係数、前記d軸電流の直流成分のフーリエ係数、及び、前記d軸磁束の基本波成分のフーリエ係数に基づき、前記d軸電流に対するd軸磁束の傾きの最大値を示す第1のパラメータ、及び、d軸上の磁気飽和の度合いを示す第2のパラメータを演算し、
前記第1のパラメータ及び前記第2のパラメータを用いて前記磁束モデルを構成することを特徴とする同期電動機の制御装置。
【請求項2】
電力変換器により同期電動機に供給する電流及び電圧を、前記同期電動機の回転子磁極方向に平行なd軸と、このd軸に直交するq軸とからなるd,q直交回転座標上で制御する制御装置であって、
電動機鉄心の磁気飽和特性を少なくとも考慮した磁束モデルに基づいて演算する演算装置を備え、
前記演算装置は、
前記同期電動機のd軸電流の直流成分を指令値に制御し、
前記q軸に正弦波の交番電圧を印加し、
前記同期電動機のq軸電流の基本波成分のフーリエ係数を演算し、
前記q軸電流の3倍高調波成分のフーリエ係数を演算し、
前記d軸電流の直流成分のフーリエ係数を演算し、
前記d軸電流の2倍高調波成分のフーリエ係数を演算し、
前記d軸電流の直流成分のフーリエ係数、及び、前記d軸電流の2倍高調波成分のフーリエ係数に基づき、前記同期電動機のd軸磁束の直流成分のフーリエ係数を演算し、
前記q軸電流の基本波成分のフーリエ係数、前記q軸電流の3倍高調波成分のフーリエ係数、前記d軸電流の直流成分のフーリエ係数、前記d軸電流の2倍高調波成分のフーリエ係数、前記d軸磁束の直流成分のフーリエ係数、前記d軸電流に対するd軸磁束の傾きの最大値を示す第1のパラメータ、及び、d軸上の磁気飽和の度合いを示す第2のパラメータに基づき、前記d軸磁束に対するq軸電流の干渉の度合いを示す第3のパラメータを演算し、
前記第1のパラメータ、前記第2のパラメータ及び前記第3のパラメータを用いて前記磁束モデルを構成することを特徴とする同期電動機の制御装置。
【請求項3】
電力変換器により同期電動機に供給する電流及び電圧を、前記同期電動機の回転子磁極方向に平行なd軸と、このd軸に直交するq軸とからなるd,q直交回転座標上で制御する制御装置であって、
電動機鉄心の磁気飽和特性を少なくとも考慮した磁束モデルに基づいて演算する演算装置を備え、
前記演算装置は、
前記同期電動機のd軸電流の直流成分を指令値に制御し、
前記q軸に正弦波の交番電圧を印加し、
前記d軸電流の直流成分のフーリエ係数を演算し、
前記d軸電流の直流成分のフーリエ係数、及び、前記d軸電流の2倍高調波成分のフーリエ係数に基づき、前記同期電動機のd軸磁束の直流成分のフーリエ係数を演算し、
前記d軸電流、前記同期電動機のq軸電流、前記d軸磁束の直流成分のフーリエ係数、前記d軸電流に対するd軸磁束の傾きの最大値を示す第1のパラメータ、及び、d軸上の磁気飽和の度合いを示す第2のパラメータに基づき、前記d軸磁束に対するq軸電流の干渉の度合いを示す第3のパラメータを演算し、
前記第1のパラメータ、前記第2のパラメータ及び前記第3のパラメータを用いて前記磁束モデルを構成することを特徴とする同期電動機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同期電動機の制御装置が行うオートチューニングに関する。
【背景技術】
【0002】
埋め込み永久磁石型同期電動機(以下、IPMSM)において、d,q軸間の干渉を含む磁気飽和を考慮した磁束モデルを、オートチューニングにより最適化する方法が知られている。その一例として、q軸電流に対するq軸磁束の傾きの最大値に相当するパラメータ、q軸上の磁気飽和の度合いを示すパラメータ、及び、q軸磁束に対するd軸電流の干渉の度合いを示すパラメータをオートチューニングする方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
なお、磁気飽和特性とは、電流の増加に伴う電動機鉄心の磁気飽和により、d,q軸磁束とこれらに対応する各軸電流との線形性が崩れる特性をいい、d,q軸間の干渉とは、他軸電流の影響により自軸磁束が変化する特性をいう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
IPMSMやシンクロナスリラクタンスモータ(以下、SynRM)などの同期電動機のトルクを高精度に制御するためには、電動機鉄心の磁気飽和特性を少なくとも考慮した磁束モデルを求め、この磁束モデルに基づいて電流制御を行うことが望ましい。磁束モデルに基づいて電流制御を行うためには、その磁束モデルの各パラメータを算出する必要がある。
【0006】
しかしながら、磁束モデルの各パラメータを算出するために同期電動機を無負荷運転にすることが必要なオートチューニング方法では、同期電動機が負荷装置に接続されている場合、オートチューニングを行うことができない。
【0007】
そこで、本開示は、同期電動機が負荷装置に接続されていても、オートチューニングを行うことが可能な、同期電動機の制御装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の技術の一態様として、
電力変換器により同期電動機に供給する電流及び電圧を、前記同期電動機の回転子磁極方向に平行なd軸と、このd軸に直交するq軸とからなるd,q直交回転座標上で制御する制御装置であって、
電動機鉄心の磁気飽和特性を少なくとも考慮した磁束モデルに基づいて演算する演算装置を備え、
前記演算装置は、
前記同期電動機のd軸電流の直流成分を指令値に制御し、
前記d軸に正弦波の交番電圧を印加し、
前記d軸電流の基本波成分のフーリエ係数を演算し、
前記d軸電流の2倍高調波成分のフーリエ係数を演算し、
前記d軸電流の3倍高調波成分のフーリエ係数を演算し、
前記同期電動機のd軸電圧の基本波成分のフーリエ係数を演算し、
前記d軸電圧の基本波成分のフーリエ係数、及び、交番電圧の角周波数に基づき、前記同期電動機のd軸磁束の基本波成分のフーリエ係数を演算し、
前記d軸電流の基本波成分のフーリエ係数、前記d軸電流の2倍高調波成分のフーリエ係数、前記d軸電流の3倍高調波成分のフーリエ係数、前記d軸電流の直流成分のフーリエ係数、及び、前記d軸磁束の基本波成分のフーリエ係数に基づき、前記d軸電流に対するd軸磁束の傾きの最大値を示す第1のパラメータ、及び、d軸上の磁気飽和の度合いを示す第2のパラメータを演算し、
前記第1のパラメータ及び前記第2のパラメータを用いて前記磁束モデルを構成することを特徴とする同期電動機の制御装置が提供される。
【0009】
また、本開示の技術の一態様として、
電力変換器により同期電動機に供給する電流及び電圧を、前記同期電動機の回転子磁極方向に平行なd軸と、このd軸に直交するq軸とからなるd,q直交回転座標上で制御する制御装置であって、
電動機鉄心の磁気飽和特性を少なくとも考慮した磁束モデルに基づいて演算する演算装置を備え、
前記演算装置は、
前記同期電動機のd軸電流の直流成分を指令値に制御し、
前記q軸に正弦波の交番電圧を印加し、
前記同期電動機のq軸電流の基本波成分のフーリエ係数を演算し、
前記q軸電流の3倍高調波成分のフーリエ係数を演算し、
前記d軸電流の直流成分のフーリエ係数を演算し、
前記d軸電流の2倍高調波成分のフーリエ係数を演算し、
前記d軸電流の直流成分のフーリエ係数、及び、前記d軸電流の2倍高調波成分のフーリエ係数に基づき、前記同期電動機のd軸磁束の直流成分のフーリエ係数を演算し、
前記q軸電流の基本波成分のフーリエ係数、前記q軸電流の3倍高調波成分のフーリエ係数、前記d軸電流の直流成分のフーリエ係数、前記d軸電流の2倍高調波成分のフーリエ係数、前記d軸磁束の直流成分のフーリエ係数、前記d軸電流に対するd軸磁束の傾きの最大値を示す第1のパラメータ、及び、d軸上の磁気飽和の度合いを示す第2のパラメータに基づき、前記d軸磁束に対するq軸電流の干渉の度合いを示す第3のパラメータを演算し、
前記第1のパラメータ、前記第2のパラメータ及び前記第3のパラメータを用いて前記磁束モデルを構成することを特徴とする同期電動機の制御装置が提供される。
【0011】
また、本開示の技術の一態様として、
電力変換器により同期電動機に供給する電流及び電圧を、前記同期電動機の回転子磁極方向に平行なd軸と、このd軸に直交するq軸とからなるd,q直交回転座標上で制御する制御装置であって、
電動機鉄心の磁気飽和特性を少なくとも考慮した磁束モデルに基づいて演算する演算装置を備え、
前記演算装置は、
前記同期電動機のd軸電流の直流成分を指令値に制御し、
前記q軸に正弦波の交番電圧を印加し、
前記d軸電流の直流成分のフーリエ係数を演算し、
前記d軸電流の直流成分のフーリエ係数、及び、前記d軸電流の2倍高調波成分のフーリエ係数に基づき、前記同期電動機のd軸磁束の直流成分のフーリエ係数を演算し、
前記d軸電流、前記同期電動機のq軸電流、前記d軸磁束の直流成分のフーリエ係数、前記d軸電流に対するd軸磁束の傾きの最大値を示す第1のパラメータ、及び、d軸上の磁気飽和の度合いを示す第2のパラメータに基づき、前記d軸磁束に対するq軸電流の干渉の度合いを示す第3のパラメータを演算し、
前記第1のパラメータ、前記第2のパラメータ及び前記第3のパラメータを用いて前記磁束モデルを構成することを特徴とする同期電動機の制御装置が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本開示の技術によれば、同期電動機が負荷装置に接続されていても、オートチューニングを行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1の実施形態の全体構成例を示すブロック図である。
【
図2】第1の実施形態で通流するd軸電流の第1の概形例である。
【
図3】第1の実施形態で通流するd軸電流の第2の概形例である。
【
図4】第1の実施形態で通流するd軸電流の第3の概形例である。
【
図5】第2~第5の実施形態の全体構成例を示すブロック図である。
【
図6】第2~第5の実施形態で通流するd軸電流及びq軸電流の概形例である。
【
図7】第4及び第5の実施形態で使用する瞬時値のサンプル点を例示する図である。
【
図8】制御装置が備える演算装置のハードウェア構成を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本開示に係る同期電動機の制御装置の実施形態を説明する。同一の構成要素については同一の符号を付け、重複する説明は省略する。なお、本発明は下記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲内で適宜変形して実施することができるものである。
【0016】
本実施形態の同期電動機の制御装置は、同期電動機の回転子が静止した状態で交番電圧を印加し、その印加時に流れる電流の応答から磁束モデルの各パラメータを演算するオートチューニングを行う。また、本実施形態の制御装置は、同期電動機のq軸電流に対するq軸磁束の傾きの最大値に相当するパラメータ、q軸上の磁気飽和の度合いを示すパラメータ及びq軸磁束に対するd軸電流の干渉の度合いを示すパラメータをオートチューニングする。本実施形態の制御装置は、このオートチューニングの際に、各パラメータの偏微分式による勾配ベクトルを利用したシステム同定法を適用することで、同期電動機の磁束モデルをオートチューニングする。
【0017】
本実施形態の制御装置によれば、同期電動機の磁束モデルの各パラメータを演算する際に無負荷運転が不要となるため、同期電動機が負荷装置に接続されている場合でも、回転子を静止したままの状態で磁束モデルのオートチューニングを行うことが可能となる。また、磁束モデルの複数のパラメータのうち、q軸電流に対するq軸磁束の傾きの最大値を示すパラメータ、q軸上の磁気飽和の度合いを示すパラメータ及びq軸磁束に対するd軸電流の干渉の度合いを示すパラメータを演算する際にシステム同定法が適用される。システム同定法の適用により、磁束モデル式の形式を問わず、オートチューニングを行うことが可能となる。
【0018】
本実施形態の制御装置は、各パラメータのオートチューニングが完了した磁束モデルを同期電動機の電流制御に利用することで、同期電動機の回転を高精度に制御できる。例えば、制御装置は、オートチューニング後の各パラメータが反映された磁束モデルに基づいて算出されるd軸電流指令値id
*及びq軸電流指令値id
*を用いて、周知のベクトル制御により同期電動機に供給する電流及び電圧を制御する。これにより、同期電動機の回転を高精度に制御することが可能となる。
【0019】
次に、本実施形態の制御装置の詳細について説明する。最初に、本実施形態の制御装置が使用する磁束モデルについて説明する。
【0020】
<1.磁束モデル>
数式1,2にIPMSMの磁束モデルを示す。また、数式3,4にSynRMの磁束モデルを示す。これらの磁束モデルは、電動機鉄心の磁気飽和特性を少なくとも考慮したものである。数式3,4に示されるSynRMの磁束モデルは、数式1,2において、永久磁石に起因するパラメータである等価磁化電流I0及び磁束オフセットφ0を零としたものに等しい。以降の実施形態では、これらのモデルを例として、磁束モデルのパラメータ(KLd、Ksd、Ksdq、KLq、Ksq、Ksqd)の演算方法ついて説明する。
【0021】
【0022】
【0023】
【0024】
【0025】
<2.第1の実施形態>
(2.1)第1の実施形態の全体構成
図1は、第1の実施形態に係る制御装置を主回路と共に示したブロック図であり、以下では、永久磁石型同期電動機(以下、単に電動機又はSMともいう)の電圧及び電流の制御方法を制御装置の構成と共に説明する。なお、電力変換器により同期電動機に供給する電圧及び電流の制御演算は、d,q軸直交回転座標上で行うこととし、電動機の回転子の磁極(N極)方向をd軸、回転子磁極方向に平行なd軸から90°進み方向をq軸と定義する。
【0026】
本実施形態の制御装置100aは、d軸電流の直流成分を指令値に制御してd軸に正弦波の交番電圧を印加しているときの電流及び電圧に基づき、電動機鉄心の磁気飽和特性を少なくとも考慮した磁束モデルの各パラメータを演算するオートチューニングを行う。
【0027】
図1において、積分器5aは、交番電圧の角周波数ω
hを積分してd軸交番電流指令値の角度θ
hを演算する。d軸交番電流指令演算器6aは、d軸交番電流指令値の交流成分i
dh
*を数式5のように演算する。
【0028】
【0029】
加算器7aは、d軸電流直流成分指令値Idc(0)
*とidh
*を加算し、d軸電流指令値id
*を演算する。なお,d軸電流直流成分指令値Idc(0)
*は、零と設定してもよい。
【0030】
電流座標変換器8aは、u相電流検出器9ua及びw相電流検出器9waによりそれぞれ検出したu,w相電流検出値iu,iwを、同期電動機1aの磁極位置検出値θ1に基づいてd,q軸電流検出値id,iqに座標変換する。
【0031】
ローパスフィルタ10aは、d軸電流検出値idの高周波成分を除去してd軸電流検出値idfを演算する。
【0032】
d軸電流指令値id
*とd軸電流検出値idfとの偏差を減算器11aにて演算し、この偏差をd軸電流調節器12aにより増幅してd軸電圧指令値vdACR(d軸電圧フィードバック制御値vdACR)を演算する。d軸電流調節器12aは、d軸電流指令値id
*とd軸電流検出値idfとの偏差が零になるように動作してd軸電圧フィードバック制御値vdACRを演算する。
【0033】
後述するように、磁束モデルのパラメータは、電動機鉄心の磁気飽和に起因して流れる高調波電流を利用して推定される。このため、d軸電流調節器12aが高調波電流に作用しないようにするため、d軸電流調節器12aの応答周波数、及び、ローパスフィルタ10aのカットオフ周波数は、交番電圧の角周波数ωhの2倍よりも小さく設定される。
【0034】
直流電機子抵抗補償器13aは、d軸電機子抵抗フィードフォワード補償値vdraを数式6により演算する。
【0035】
【0036】
電圧補償値演算器14aは、インピーダンス推定部15aで演算したd軸リアクタンス推定値Xdhest及びd軸電機子抵抗推定値Rdhestを使用し、d軸電圧フィードフォワード補償値vdhFFを数式7により演算する。なお、d軸リアクタンス推定値Xdhest及びd軸電機子抵抗推定値Rdhestなどのインピーダンスの推定は、例えば特許文献1等に記載されている公知技術を用いてインピーダンス推定部15aにより行われることが可能である。
【0037】
【0038】
フーリエ係数演算器16aは、θh,vd
*,idに基づき、d軸電圧及びd軸電流のそれぞれのフーリエ係数を演算する。フーリエ係数演算器16aは、d軸電圧の基本波成分のフーリエ余弦係数Vd(a1)、d軸電圧の基本波成分のフーリエ正弦係数Vd(b1)、d軸電流の直流成分のフーリエ係数Id(0)、d軸電流の基本波成分のフーリエ余弦係数Id(a1)、d軸電流の基本波成分のフーリエ正弦係数Id(b1)、d軸電流の2倍高調波成分のフーリエ余弦係数Id(a2)、d軸電流の2倍高調波成分のフーリエ正弦係数Id(b2)、d軸電流の3倍高調波成分のフーリエ余弦係数Id(a3)、及び、d軸電流の3倍高調波成分のフーリエ正弦係数Id(b3)を演算する。フーリエ係数の演算は、例えば特許文献1等に記載されている公知技術を用いて行われることが可能である。
【0039】
フーリエ係数演算器16aにより演算された、d軸電流の2倍高調波成分のフーリエ余弦係数Id(a2)、d軸電流の2倍高調波成分のフーリエ正弦係数Id(b2)、d軸電流の3倍高調波成分のフーリエ余弦係数Id(a3)、d軸電流の3倍高調波成分のフーリエ正弦係数Id(b3)から、電機子抵抗補償器17aは、数式8によりd軸高調波電機子抵抗補償値vdhraを演算する。
【0040】
【0041】
d軸電圧指令値vd
*は、加算器7b,7cにより、d軸電圧フィードバック制御値vdACR、d軸電機子抵抗フィードフォワード補償値vdra、d軸電圧フィードフォワード補償値vdhFF、d軸高調波電機子抵抗補償値vdhraを加算して算出される。一方、q軸電圧指令値vq
*は、零に固定する。
【0042】
上述のように演算したd,q軸電圧指令値vd
*,vq
*は、電圧座標変換器18aによって、磁極位置検出値θ1に基づいて、u,v,w相の相電圧指令値vu
*,vv
*,vw
*に変換される。
【0043】
整流回路3aは、三相交流電源4aからの三相交流電圧を整流して直流電圧に変換し、この直流電圧をインバータ等の電力変換器2aに供給する。
【0044】
PWM(Pulse Width Modulation)回路19aは、相電圧指令値vu
*,vv
*,vw
*に基づいて、電力変換器2aの出力電圧を相電圧指令値vu
*,vv
*,vw
*に制御するための複数のゲート信号を生成する。電力変換器2aは、PWM回路19aからの複数のゲート信号に基づいて、電力変換器2a内部の複数の半導体スイッチング素子を制御することにより、SynRMなどの同期電動機1aの端子電圧を相電圧指令値vu
*,vv
*,vw
*に制御する。
【0045】
(2.2)KLd,Ksdの演算方法の第1例
第1の実施形態におけるKLd,Ksdの演算方法の第1例について説明する。
【0046】
数式3,4に示す磁束モデル式を持つSynRMについて、d軸に正弦波の交番電圧を印加し、数式9,10のような磁束を発生させた場合を考える。
【0047】
【0048】
【0049】
この場合、d軸には数式11に示す直流成分と高調波を含む電流が流れる。また、q軸の電流は、数式12のように零となる。
【0050】
【0051】
【0052】
数式12より、q軸電流が零となるため、数式3のiqを零にすると、数式13が得られる。
【0053】
【0054】
数式13によれば、2組のΨ
d,i
dを含む連立方程式を立てて解くことにより、K
Ld,K
sdを算出することが可能である。そこで、
図2に示した測定番号1,2のように2パターンのd軸電流を発生させ、フーリエ変換により電流および磁束を測定番号1,2のそれぞれの期間で計測する。その際に、磁束は直接観測することが出来ないので誘起電圧から演算する必要があるが、回転子静止状態において、磁束直流成分による誘起電圧は発生しないため、数式9のΨ
d(0)を演算することが出来ない。そこで、以下の手順でΨ
d(0)を消去する。
【0055】
数式3を、数式9,11を用いて交番電流位相θhの関数に書き換えると、数式14~16が得られる。ただし、idを零以上の値とすることで、数式3における絶対値を無視する。
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
数式15のΨd(0)を消去するために、数式14をθhで微分すると、数式17~19のように、Ψd(0)を用いることなく、KLd、Ksdと磁束、電流の関係式が得られる。
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
ただし、数式17をそのまま解く場合、2次式のKsdの扱いが難しいので、動作点がΨd'≧0,id'≧0の範囲内であることを前提として、式両辺の平方根をとると、数式20が得られる。
【0064】
【0065】
ここで、明らかにΨd'≧0,id'≧0が成り立つθh=0°の動作点について考えると、数式20はフーリエ係数を用いて数式21のように表せる。
【0066】
【0067】
磁束は、電流と同位相であり、磁束に起因する電圧降下は、磁束から90°進みであることから、d軸磁束の基本波成分のフーリエ正弦係数Ψd(b1)は、数式22により演算される。
【0068】
【0069】
数式21より、測定番号1,2の磁束と電流の計測結果から、数式23,24のように連立方程式を立てることが出来る。なお、フーリエ係数の添え字は、測定番号を表す。
【0070】
【0071】
【0072】
数式23,24をKsdについて解くと、Ksdは、数式25のように演算できる。
【0073】
【0074】
また、数式25で演算したKsdを用いて、KLdは、数式26で演算できる。
【0075】
【0076】
(2.3)KLd,Ksdの演算方法の第2例
第1の実施形態におけるKLd,Ksdの演算方法の第2例について説明する。
【0077】
数式3,4に示す磁束モデル式を持つSynRMについて、d軸に正弦波の交番電圧を印加し、数式27,28のような磁束を発生させた場合を考える。
【0078】
【0079】
【0080】
この場合、d軸には数式29に示す高調波を含む電流が流れる。また、q軸の電流は、数式30のように零となる。
【0081】
【0082】
【0083】
数式30より、q軸電流が零となるため、数式3のiqを零にすると、数式31が得られる。
【0084】
【0085】
数式31によれば、2組のΨ
d,i
dを含む連立方程式を立てて解くことにより、K
Ld,K
sdを算出することが可能である。そこで、
図3に示した測定番号1,2のように2パターンの振幅の異なるd軸電流を発生させ、フーリエ変換により電流および磁束を測定番号1,2のそれぞれの期間で計測する。
【0086】
数式3を、数式27,29を用いて交番電流位相θhの関数に書き換えると、数式32~34が得られる。
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
ここで、θh=90°の動作点について考えると、数式32はフーリエ係数を用いて数式35のように表せる。また、id≧0となるため、分母の絶対値記号は無視する。
【0091】
【0092】
磁束は、電流と同位相であり、磁束に起因する電圧降下は、磁束から90°進みであることから、d軸磁束の基本波成分のフーリエ正弦係数Ψd(b1)は、数式36により演算される。
【0093】
【0094】
数式36より、測定番号1,2の磁束と電流の計測結果から、数式37,38のように連立方程式を立てることが出来る。なお、フーリエ係数の添え字は、測定番号を表す。
【0095】
【0096】
【0097】
数式37,38をKsdについて解くと、Ksdは、数式39のように演算できる。
【0098】
【0099】
また、数式39で演算したKsdを用いて、KLdは、数式40で演算できる。
【0100】
【0101】
(2.4)KLd,Ksdの演算方法の第3例
第1の実施形態におけるKLd,Ksdの演算方法の第3例について説明する。
【0102】
図4に示した測定番号1,2のように2パターンのd軸電流を発生させた場合を考えると、測定番号1でd軸に発生する磁束と電流は、それぞれ、数式27、数式29となる。また、測定番号2でd軸に発生する磁束と電流は、それぞれ、数式9、数式11となる。これらの式と、測定番号1,2の磁束の計測結果から、数式41,42のように連立方程式を立てることが出来る。
【0103】
【0104】
【0105】
数式41,42をKsdについて解くと、Ksdは、数式43~45のように演算できる。
【0106】
【0107】
【0108】
【0109】
また、数式43~45で演算したKsdを用いて、KLdは、数式46で演算できる。
【0110】
【0111】
(2.5)パラメータの推定
上述の演算方法(すなわち、K
Ld,K
sdの演算方法の第1例~第3例のいずれかの演算方法)によれば、SynRMなどの同期電動機1aの無負荷運転を行うことなく、K
Ld,K
sdを演算することが可能である。この演算方法による上記の演算を
図1のパラメータ推定部20aで実行することで、第1の実施形態におけるSynRMなどの同期電動機1aの磁束モデルのオートチューニングが実現され、磁束モデルが構成される。
【0112】
<3.第2及び第3の実施形態>
(3.1)第2及び第3の実施形態の全体構成
図5は、第2~第5の実施形態に係る制御装置を主回路と共に示したブロック図であり、以下では、永久磁石型同期電動機(以下、単に電動機又はSMともいう)の電圧及び電流の制御方法を制御装置の構成と共に説明する。なお、電力変換器により同期電動機に供給する電圧及び電流の制御演算は、d,q軸直交回転座標上で行うこととし、電動機の回転子の磁極(N極)方向をd軸、回転子磁極方向に平行なd軸から90°進み方向をq軸と定義する。
【0113】
本実施形態の制御装置100bは、d軸電流の直流成分を指令値に制御してq軸に正弦波の交番電圧を印加しているときの電流及び電圧に基づき、電動機鉄心の磁気飽和特性を少なくとも考慮した磁束モデルの各パラメータを演算するオートチューニングを行う。
【0114】
図5において、積分器5bは、交番電圧の角周波数ω
hを積分してq軸交番電流指令値の角度θ
hを演算する。d軸交番電流指令演算器6bは、q軸交番電流指令値の交流成分i
qh
*を数式47のように演算する。
【0115】
【0116】
電流座標変換器8bは、u相電流検出器9ub及びw相電流検出器9wbによりそれぞれ検出したu,w相電流検出値iu,iwを、同期電動機1bの磁極位置検出値θ1に基づいてd,q軸電流検出値id,iqに座標変換する。
【0117】
ローパスフィルタ10bは、d軸電流検出値idの高周波成分を除去してd軸電流検出値idfを演算する。また、ローパスフィルタ10cは、q軸電流検出値iqの高周波成分を除去してq軸電流検出値iqfを演算する。
【0118】
d軸電流指令値id(0)
*とd軸電流検出値idfとの偏差を減算器11bにて演算し、この偏差をd軸電流調節器12bにより増幅してd軸電圧指令値vdACR(d軸電圧フィードバック制御値vdACR)を演算する。d軸電流調節器12bは、d軸電流指令値id(0)
*とd軸電流検出値idfとの偏差が零になるように動作してd軸電圧フィードバック制御値vdACRを演算する。また、q軸電流指令値iqh
*とq軸電流検出値iqfとの偏差を減算器11cにて演算し、この偏差をq軸電流調節器12cにより増幅してq軸電圧指令値vqACR(q軸電圧フィードバック制御値vqACR)を演算する。q軸電流調節器12cは、q軸電流指令値iqh
*とq軸電流検出値iqfとの偏差が零になるように動作してq軸電圧フィードバック制御値vqACRを演算する。
【0119】
後述するように、磁束モデルのパラメータは、電動機鉄心の磁気飽和に起因して流れる高調波電流を利用して推定される。このため、d軸電流調節器12b及びq軸電流調節器12cが高調波電流に作用しないようにするため、調節器12b,12cの応答周波数、及び、ローパスフィルタ10b,10cのカットオフ周波数は、交番電圧の角周波数ωhの2倍よりも小さく設定される。
【0120】
直流電機子抵抗補償器13bは、第1の実施形態と同様に、d軸電機子抵抗フィードフォワード補償値vdraを数式6により演算する。
【0121】
電圧補償値演算器14bは、インピーダンス推定部15bで演算したq軸リアクタンス推定値Xqhest及びq軸電機子抵抗推定値Rqhestを使用し、q軸電圧フィードフォワード補償値vqhFFを数式48により演算する。なお、q軸リアクタンス推定値Xqhest及びq軸電機子抵抗推定値Rqhestなどのインピーダンスの推定は、例えば特許文献1等に記載されている公知技術を用いてインピーダンス推定部15bにより行われることが可能である。
【0122】
【0123】
フーリエ係数演算器16bは、θh,vq
*,idに基づき、q軸電圧、q軸電流及びd軸電流のそれぞれのフーリエ係数を演算する。フーリエ係数演算器16bは、q軸電圧の基本波成分のフーリエ余弦係数Vq(a1)、q軸電圧の基本波成分のフーリエ正弦係数Vq(b1)、q軸電流の基本波成分のフーリエ余弦係数Iq(a1)、q軸電流の基本波成分のフーリエ正弦係数Iq(b1)、q軸電流の3倍高調波成分のフーリエ余弦係数Iq(a3)、q軸電流の3倍高調波成分のフーリエ正弦係数Iq(b3)、d軸電流の直流成分のフーリエ係数Id(0)、d軸電流の2倍高調波成分のフーリエ余弦係数Id(a2)、及び、d軸電流の2倍高調波成分のフーリエ正弦係数Id(b2)を演算する。フーリエ係数の演算は、例えば特許文献1等に記載されている公知技術を用いて行われることが可能である。
【0124】
フーリエ係数演算器16bにより演算された、d軸電流の2倍高調波成分のフーリエ余弦係数Id(a2)、d軸電流の2倍高調波成分のフーリエ正弦係数Id(b2)、q軸電流の3倍高調波成分のフーリエ余弦係数Iq(a3)、q軸電流の3倍高調波成分のフーリエ正弦係数Iq(b3)から、電機子抵抗補償器17bは、数式49によりd軸高調波電機子抵抗補償値vdhraおよびq軸高調波電機子抵抗補償値Vqhraを演算する。
【0125】
【0126】
d軸電圧指令値vd
*は、加算器7dにより、d軸電圧フィードバック制御値vdACR、d軸電機子抵抗フィードフォワード補償値vdra、d軸高調波電機子抵抗補償値vdhraを加算して算出される。一方、q軸電圧指令値vq
*は、加算器7e,7fにより、q軸電圧フィードバック制御値vqACR、q軸電圧フィードフォワード補償値qhFF、q軸高調波電機子抵抗補償値vqhraを加算して算出される。
【0127】
上述のように演算したd,q軸電圧指令値vd
*,vq
*は、電圧座標変換器18bによって、磁極位置検出値θ1に基づいて、u,v,w相の相電圧指令値vu
*,vv
*,vw
*に変換される。
【0128】
整流回路3bは、三相交流電源4bからの三相交流電圧を整流して直流電圧に変換し、この直流電圧をインバータ等の電力変換器2bに供給する。
【0129】
PWM回路19bは、相電圧指令値vu
*,vv
*,vw
*に基づいて、電力変換器2bの出力電圧を相電圧指令値vu
*,vv
*,vw
*に制御するための複数のゲート信号を生成する。電力変換器2bは、PWM回路19bからの複数のゲート信号に基づいて、電力変換器2b内部の複数の半導体スイッチング素子を制御することにより、IPMSMやSynRMなどの同期電動機1bの端子電圧を相電圧指令値vu
*,vv
*,vw
*に制御する。
【0130】
(3.2)Ksdq,KLq,Ksq,Ksqdの演算方法
数式3および数式4の磁束モデル式について、Ksdq,KLq,Ksq,Ksqdを無負荷運転することなく演算する方法を以下に示す。
【0131】
数式3,4に示す磁束モデル式を持つSynRMについて、d軸に直流電圧を印加しq軸に正弦波の交番電圧を印加し、数式50,51のような磁束を発生させた場合を考える。
【0132】
【0133】
【0134】
また、数式51におけるq軸磁束の基本波成分のフーリエ正弦係数Ψq(b1)は、数式52により演算される。
【0135】
【0136】
この場合、d軸には数式53に示す直流成分と高調波成分を含む電流が流れ、q軸には数式54に示す交番周波数基本波成分と高調波成分を含む電流が流れる。
【0137】
【0138】
【0139】
(3.2.1)Ksdqの演算
まず、上述の第1の実施形態の演算結果を利用して、Ksdqを演算する方法について説明する。数式3をKsdqについて解くと、数式55となる。
【0140】
【0141】
数式55に、上述の第1の実施形態で演算したKLd,Ksdと数式50~54の磁束および電流を代入することで、Ksdqを演算することが可能である。
【0142】
以下にKsdqの具体的な演算方法を示す。数式50~54を用いて、数式55を書き換えると、数式56~58が得られる。
【0143】
【0144】
【0145】
【0146】
また、上述の第1の実施形態でも述べたように、回転子が静止した状態では、Ψd(0)を直接計測することが出来ない。そこで、先に調整したKLd,Ksdにより、Ψd(0)を演算する。数式50より、d軸磁束は、交流成分を含まないため、動作点によらず一定である。そこで、数式53,54のθhを零とすると(θh=0°)、d軸電流およびq軸電流は、それぞれ、数式59,60と表現される。
【0147】
【0148】
【0149】
数式3,59,60より、Ψd(0)は、数式61で演算できる。
【0150】
【0151】
数式56の動作点をθh=90°とし、数式61により演算したΨd(0)を用いることで、Ksdqは、数式62により演算することができる。
【0152】
【0153】
(3.2.2)K
Lq,K
sq,K
sqdの演算
数式4に示す磁束モデル式を持つSynRMについて、K
sdqの演算の場合と同様に、数式50,51に示す磁束を発生させる。その際のd軸電流指令値は、
図6の測定番号1~6に示すように、直流成分を変化させる。この時に流れる電流には、数式53,54と同様に、高調波成分が発生する。この電流について、
図6の測定番号ごとにフーリエ係数を計測し、また、θ
hの動作点を任意に同定パラメータ点数以上選択することで、d,q軸電流及びq軸磁束の値を動作点ごとに演算しサンプルする。
【0154】
次に、サンプルしたデータからKLq,Ksq,Ksqdを演算する方法について、システム同定手法である最小2乗法を使用した場合を例として説明する。なお、最小2乗法とは、全サンプルデータについて、実際の計測値とモデルによる演算値の2乗誤差の和が最小となるようにパラメータを決定する手法である。
【0155】
KLq,Ksq,Ksqdを同定するパラメータとすると、数式4の2乗誤差を合計したSnqは、数式63で表現される。なお、式中の添え字nは、サンプル点の番号を意味する。
【0156】
【0157】
数式63のSnqが最小となるように、KLq,Ksq,Ksqdを遷移させることで、KLq,Ksq,Ksqdの同定が可能である。Snqを減少させるパラメータ遷移方向は、SnqをKLq,Ksq,Ksqdを要素とするベクトルと考え、勾配ベクトル∇Snqを演算することで知ることができる。idn,iqnを全て正とし、数式64~68は、∇Snqの式を示す。
【0158】
【0159】
【0160】
【0161】
【0162】
【0163】
数式64~68より勾配ベクトルが得られるため、例えば降下法などの局所探索法を使用することで、Snqが最小となるパラメータを演算することが可能である。また、探索する際のパラメータ初期値は全て零としてもよいし、サンプルデータから計算した近似値を使用してもよい。
【0164】
なお、数式64~68のidnに等価磁化電流I0を既知の値として加えることで、以上の方式をIPMSMにも適用可能である。この時の式を数式69~72に示す。
【0165】
【0166】
【0167】
【0168】
【0169】
(3.3)パラメータの推定
K
sdq,K
Lq,K
sq,K
sqdの上述の演算方法によれば、SynRMやIPMSMなどの同期電動機1bの無負荷運転を行うことなく、K
sdq,K
Lq,K
sq,K
sqdを演算することが可能である。この演算方法による上記の演算を
図5のパラメータ推定部20bで実行することで、第2及び第3の実施形態における同期電動機1bの磁束モデルのオートチューニングが実現され、磁束モデルが構成される。
【0170】
<4.第4及び第5の実施形態>
Ksdq,KLq,Ksq,Ksqdを算出する際に、第2及び第3の実施形態に示したd,q軸電流のフーリエ係数を使用する方法ではなく、瞬時値を使用する方法について説明する。なお、交番電圧を同期電動機に印加するための制御動作は、第2及び第3の実施形態と同様なので、その説明は省略する。
【0171】
(4.1)K
sdqの演算
まず、q軸電流の瞬時値、d軸電流の瞬時値を、例えば
図7のθ
h3のタイミングで測定する。また、d軸磁束は、直流成分のみで一定となる。そのため、d軸電流直流成分のフーリエ係数とd軸電流2倍高調波のフーリエ余弦係数を用いて、d軸磁束の直流成分のフーリエ係数Ψ
d(0)は、数式61により演算される。これらの値を使用し、数式55を演算することでK
sdqを算出することができる。
【0172】
(4.2)K
Lq,K
sq,K
sqdの演算
まず、q軸電流の瞬時値、d軸電流の瞬時値を、
図6に示す測定番号ごとに、例えば
図7のようにθ
hを同定パラメータ点数以上選択して測定する。また、q軸磁束の瞬時値は、数式52で演算したq軸磁束基本波のフーリエ正弦係数と、
図7のθ
h1~θ
h5を使用して、数式51で演算される。
【0173】
サンプルしたデータを、フーリエ係数とθhで作成したサンプルデータの代わりに、数式64~68に使用することで、最小2乗法によるパラメータを演算することができる。
【0174】
(4.3)パラメータの推定
K
sdq,K
Lq,K
sq,K
sqdの上述の演算方法によれば、SynRMやIPMSMなどの同期電動機1bの無負荷運転を行うことなく、K
sdq,K
Lq,K
sq,K
sqdを演算することが可能である。この演算方法による上記の演算を
図5のパラメータ推定部20bで実行することで、第4及び第5の実施形態における同期電動機1bの磁束モデルのオートチューニングが実現され、磁束モデルが構成される。
【0175】
図8は、制御装置が備える演算装置のハードウェア構成を例示する図である。制御装置は、電動機鉄心の磁気飽和特性を少なくとも考慮した磁束モデルに基づいて演算する演算装置を備える。
図8は、演算装置の一例であるマイクロコンピュータ110を示している。マイクロコンピュータ110は、メモリ121、CPU(Central Processing Unit)122、AD(Analog to Digital)変換部123、PWMモジュール124、通信部125及びタイマ126を備える。CPU122は、制御装置の制御を行うプロセッサである。通信部125は、マイクロコンピュータ110外部の上位コントローラと通信を行う。タイマ126は、タイマ値のカウントを行う。メモリ121は、プログラム等を記憶する。メモリ121内のプログラムによって、CPU122が動作する。
図1,5の各制御ブロックの機能は、メモリ121に読み出し可能に記憶されるプログラムによってCPU122が動作することにより実現される。
【0176】
図1の各制御ブロックとは、例えば、加算器7a,7b,7c、減算器11a、d軸交番電流指令演算器6a、d軸電流調節器12a、電圧座標変換器18a、電流座標変換器8a、直流電機子抵抗補償器13a、ローパスフィルタ10a、電圧補償値演算器14a、電機子抵抗補償器17a、積分器5a、フーリエ係数演算器16a、インピーダンス推定部15a及びパラメータ推定部20aである。
【0177】
図5の各制御ブロックとは、例えば、加算器7d,7e,7f、減算器11b,11c、q軸交番電流指令演算器6b、電流調節器12b,12c、電圧座標変換器18b、電流座標変換器8b、直流電機子抵抗補償器13b、ローパスフィルタ10b,10c、電圧補償値演算器14b、電機子抵抗補償器17b、積分器5b、フーリエ係数演算器16b、インピーダンス推定部15b及びパラメータ推定部20bである。
【0178】
図1,5の各制御ブロックの機能は、コンピュータに各機能を実現させるプログラムによって提供可能である。また、各制御ブロックの機能は、上記のプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体、又は、上記のプログラム等のコンピュータプログラムプロダクトによって提供可能である。記録媒体としては、例えばフレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM等を用いることができる。
【0179】
以上、同期電動機の制御装置を実施形態により説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。他の実施形態の一部又は全部との組み合わせや置換などの種々の変形及び改良が、本発明の範囲内で可能である。
【符号の説明】
【0180】
1a,1b 同期電動機
2a,2b 電力変換器
3a,3b 整流回路
4a,4b 三相交流電源
5a,5b 積分器
6a,6b 交番電流指令演算器
7a~7f 加算器
8a,8b 電流座標変換器
9ua,9wa,9ub,9wb 電流検出器
10a,10b,10c ローパスフィルタ
11a,11b,11c 減算器
12a,12b,12c 電流調節器
13a,13b 直流電機子抵抗補償器
14a,14b 電圧補償値演算器
15a,15b インピーダンス推定部
16a,16b フーリエ係数演算器
17a,17b 電機子抵抗補償器
18a,18b 電圧座標変換器
19a,19b PWM回路
20a,20b パラメータ推定部
100a,100b 制御装置
110 マイクロコンピュータ