(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】浸炭焼入れ装置および浸炭焼入れ方法
(51)【国際特許分類】
C21D 1/00 20060101AFI20221025BHJP
C21D 1/06 20060101ALI20221025BHJP
C21D 1/62 20060101ALI20221025BHJP
C23C 8/22 20060101ALI20221025BHJP
F27B 9/26 20060101ALI20221025BHJP
F27D 3/12 20060101ALI20221025BHJP
C21D 9/28 20060101ALN20221025BHJP
C21D 9/32 20060101ALN20221025BHJP
【FI】
C21D1/00 F
C21D1/06 A
C21D1/62
C23C8/22
F27B9/26
F27D3/12 Z
C21D9/28 B
C21D9/32 B
(21)【出願番号】P 2018129013
(22)【出願日】2018-07-06
【審査請求日】2021-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】小川 耕平
(72)【発明者】
【氏名】川上 稔夫
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-020762(JP,A)
【文献】特開2005-048292(JP,A)
【文献】実開平04-013653(JP,U)
【文献】特開2014-237863(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 1/00 - 1/84
C21D 9/00 - 9/44
C23C 8/22
F27D 3/12
F27B 9/00 - 9/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼鉄からなる部品の浸炭焼入れ装置であって、
前記浸炭焼入れ装置は
、2つ以上のトレイを隣接させて進行させ、複数の前記部品を載置および搬送するための
前記トレイを含み、
前記トレイは、
平面視において、複数の
前記部品
が取り囲まれるように、加熱源との間に、前記加熱源からの輻射熱を遮蔽する遮蔽板を有
し、
前記遮蔽板は、前記トレイに立設されており、かつ平面視において、搬送方向とは反対方向に開いた形状を有している、
浸炭焼入れ装置。
【請求項2】
前記遮蔽板はオーステナイト系ステンレス材で構成されている、請求項
1に記載の浸炭焼入れ装置。
【請求項3】
前記鋼鉄は肌焼鋼である、請求項1
または2に記載の浸炭焼入れ装置。
【請求項4】
前記部品は自動車用部品である、請求項1~
3のいずれかに記載の浸炭焼入れ装置。
【請求項5】
前記自動車用部品は動力伝達部品である、請求項
4に記載の浸炭焼入れ装置。
【請求項6】
前記動力伝達部品は手動変速機の最終減速駆動用ギヤシャフトである、請求項
5に記載の浸炭焼入れ装置。
【請求項7】
鋼鉄からなる部品の浸炭焼入れ方法であって、
2つ以上のトレイを隣接させて進行させ、
複数の前記部品を載置および搬送するための
前記トレイを用い、
前記トレイは、
平面視において、複数の
前記部品
が取り囲まれるように、加熱源との間に、前記加熱源からの輻射熱を遮蔽する遮蔽板を有
し、
前記遮蔽板は、前記トレイに立設されており、かつ平面視において、搬送方向とは反対方向に開いた形状を有している、
浸炭焼入れ方法。
【請求項8】
前記浸炭焼入れ方法は
、複数の
前記部品をオーステナイト化温度以上に加熱して浸炭処理を行う第1工程、オーステナイト化温度未満に冷却する第2工程、再度、オーステナイト化温度以上に加熱する第3工程、および焼入れ処理を行う第4工程を含み、
前記トレイは少なくとも前記第3工程におい
て複数の
前記部品を載置および搬送するためのトレイである、請求項
7に記載の浸炭焼入れ方法。
【請求項9】
前記浸炭焼入れ方法は連続ガス浸炭炉を用い、
少なくとも前記第1工程、前記第2工程および前記第3工程は前記連続ガス浸炭炉内で実施される、請求項8に記載の浸炭焼入れ方法。
【請求項10】
前記第3工程の加熱は電気ヒーター加熱炉による加熱である、請求項8または9に記載の浸炭焼入れ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浸炭焼入れ装置および浸炭焼入れ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼は炭素を固溶させると、硬さが向上することが知られている。一方、鋼は常温では炭素を0.02%までしか固溶させることができないため、温度を900℃以上に上げることで、鋼の相をオーステナイト相に変態させ、炭素を固溶させる必要がある。その後は、焼入れ処理において、高温から急冷することで、マルテンサイト相に変態させ、炭素を結晶に固溶させたまま、硬さが向上した鋼を常温で使用できるようになる。このため、高温で浸炭処理を行う工程、続いて焼入れ処理に適した温度まで降温する冷却工程、および焼入れを行う工程を連続的に行う浸炭焼入れ方法が一般的によく実施されている。
【0003】
このような浸炭焼入れ方法の改良として、例えば、特許文献1には、低炭素鋼からなる素材の非鍛造品でありながら、オーステナイト結晶粒度が♯10以上の炭素鋼を得ることができる浸炭焼入れ方法が開示されている。この方法では、第1工程でオーステナイト化温度以上に加熱して浸炭を行い、第2工程でオーステナイト化温度未満に冷却し、第3工程で再度、オーステナイト化温度直上に急速加熱を行い、オーステナイト結晶粒を微細に制御し、第4工程で焼入れを行う。第3工程(再加熱工程)での加熱には高周波輪郭加熱が推奨されている。高温に保持すると、結晶粒はその保持時間に応じて成長する特徴があるところ、高周波輪郭加熱による短時間での急速加熱により、オーステナイト結晶粒の成長を抑え、結晶粒の微細化による強度特性の向上効果が最大に得られるためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の発明者等は、高周波輪郭加熱には新たな設備投資が必要なため、浸炭炉を利用して、特許文献1の方法に基づく量産化を行った場合、得られる複数の部品において通常の浸炭焼入れに比べて寸法精度が低下することを見い出した。詳しくは、特許文献1の方法において、
図6および
図7に示すように、各トレイ101に複数の部品102を載置して、両側にある加熱源(連続浸炭炉)103の間を搬送しながら、当該複数の部品を同時に第3工程(再加熱工程)に供した場合、寸法精度が低下した。
図6は、従来の浸炭焼入れ装置において既存の加熱設備を利用して量産化を行ったときの第3工程(再加熱工程)を示す模式的平面図を示す。
図7は、従来の浸炭焼入れ装置において既存の加熱設備を利用して量産化を行ったときの第3工程(再加熱工程)におけるトレイおよび当該トレイに載置されて搬送される複数の部品を示す模式的側面図を示す。
【0006】
詳しくは、連続浸炭炉による加熱は、高周波輪郭加熱と比較して、加熱に長時間を要する。加熱時間は長いほど、結晶粒は成長して大きくなる。結晶粒は大きいほど、焼入れ性が高くなり、オーステナイト相のマルテンサイト相への変態による体積膨張が大きくなる。
このため、例えば、加熱源に近い部品と加熱源から遠い部品との間では、加熱速度に差が生じるため、結晶粒の成長時間にも差が生じ、得られる複数の部品間で、変形量が大きくばらついた。
また例えば、1つの部品においても、加熱源に近い面と加熱源から遠い面との間では、加熱速度に差が生じ、結晶粒の成長時間にも差が生じ、変形量が異なるため、結果として、得られる部品の中で、発生する熱処理ひずみが大きくなり変形量が大きくなった。
【0007】
本発明は、寸法精度により十分に優れた部品を、より十分に低コストで、量産することができる浸炭焼入れ装置および浸炭焼入れ方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
鋼鉄からなる部品の浸炭焼入れ装置であって、
前記浸炭焼入れ装置は複数の前記部品を載置および搬送するためのトレイを含み、
前記トレイは、前記複数の部品と加熱源との間に、前記加熱源からの輻射熱を遮蔽する遮蔽板を有する、浸炭焼入れ装置に関する。
【0009】
本発明はまた、
鋼鉄からなる部品の浸炭焼入れ方法であって、
複数の前記部品を載置および搬送するためのトレイを用い、
前記トレイは、前記複数の部品と加熱源との間に、前記加熱源からの輻射熱を遮蔽する遮蔽板を有する、浸炭焼入れ方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
浸炭後に部品に与える熱履歴により結晶を微細化する、あるいは粗大化を防ぐ場合に
本発明の浸炭焼入れ装置および浸炭焼入れ方法では、浸炭炉を利用して量産化を行っても、同時に処理される複数の部品間および個々の部品における加熱源に近い面と遠い面との間で、熱処理変形量の差が大きくなることを、より十分に防止できる。その結果として、得られる複数の部品間における寸法精度の低下を、より十分に防止することができる。
本発明の浸炭焼入れ装置および浸炭焼入れ方法では、浸炭焼入れに必要不可欠な既存の設備を利用して量産化を行うため、コスト性能により十分に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】本発明の浸炭焼入れ装置において既存の加熱設備を利用して量産化を行ったときの第3工程(再加熱工程)の一例を示す模式的平面図を示す。
【
図1B】本発明の浸炭焼入れ装置において既存の加熱設備を利用して量産化を行ったときの第3工程(再加熱工程)の別の一例を示す模式的平面図を示す。
【
図1C】本発明の浸炭焼入れ装置において既存の加熱設備を利用して量産化を行ったときの第3工程(再加熱工程)のまた別の一例を示す模式的平面図を示す。
【
図2】本発明の浸炭焼入れ装置において既存の加熱設備を利用して量産化を行ったときの第3工程(再加熱工程)におけるトレイおよび当該トレイに載置されて搬送される複数の部品を示す模式的側面図を示す。
【
図3A】実施例の浸炭焼入れ装置における第3工程(再加熱工程)を示す模式的平面図を示す。
【
図3B】実施例の浸炭焼入れ装置の各工程におけるヒートパターンを示す。
【
図3C】実施例の浸炭焼入れ装置により得られた複数の部品の評価結果を示す。
【
図3D】実施例の浸炭焼入れ装置における連続炉の輪切り断面であって、トレイの搬送方向の真正面から連続炉内部を見たときの模式的断面図を示す。
【
図4A】比較例の浸炭焼入れ装置における第3工程(再加熱工程)を示す模式的平面図を示す。
【
図4B】比較例の浸炭焼入れ装置により得られた複数の部品の評価結果を、実施例の評価結果とともに示す。
【
図5A】参考例の浸炭焼入れ装置の各工程におけるヒートパターンを示す。
【
図5B】参考例の浸炭焼入れ装置により得られた複数の部品の評価結果を、実施例の評価結果とともに示す。
【
図6】従来の浸炭焼入れ装置において既存の加熱設備を利用して量産化を行ったときの第3工程(再加熱工程)を示す模式的平面図を示す。
【
図7】従来の浸炭焼入れ装置において既存の加熱設備を利用して量産化を行ったときの第3工程(再加熱工程)におけるトレイおよび当該トレイに載置されて搬送される複数の部品を示す模式的側面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の浸炭焼入れ装置は鋼鉄からなる複数の部品を処理するための量産性に優れた装置である。鋼鉄は炭素を含む鉄の合金であり、例えば、肌焼鋼のうち、炭素鋼(特に、低炭素鋼)、特殊鋼(ニッケルクロム鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼、クロム鋼、クロムモリブデン鋼、マンガン鋼)からなる群から選択される。好ましい鋼鉄は特殊鋼、特にクロム鋼である。
【0013】
本発明の浸炭焼入れ装置で処理される部品は、強度、特に強度と寸法精度が要求される部品および製品であってよく、例えば、自動車用部品が挙げられる。自動車用部品は、より良好な強度とより精密な寸法精度が要求される観点から、動力伝達部品が好ましい。動力伝達部品として、例えば、ギヤ(歯車)、シャフト(歯車一体のものを含む)、スプロケット等が挙げられる。本発明においては、要求される強度が高い手動変速機の最終減速駆動用ギヤシャフトに対して、強度と寸法精度の両立化をより有効に得ることができる。
【0014】
本発明の浸炭焼入れ装置では通常、浸炭処理を行う第1工程、冷却する第2工程、加熱する第3工程、および焼入れ処理を行う第4工程が実施される。本発明の浸炭焼入れ装置が後述するように浸炭処理手段としてガス浸炭手段を含む場合、当該浸炭焼入れ装置は連続ガス浸炭炉を含んでもよい。連続ガス浸炭炉は、浸炭を行うための炉であり、第1工程~第3工程、好ましくは第1工程~第4工程を連続的に実施することができる。
【0015】
第1工程は浸炭工程であり、複数の部品をオーステナイト化温度以上に加熱して浸炭を行う工程である。浸炭は炭素を材料に固溶させる熱処理である。浸炭は強度の観点から、表面炭素濃度が共析点付近(0.7~0.9%)に設定されるように行われることが好ましい。
【0016】
浸炭処理手段としては、ガス浸炭、真空浸炭あるいはプラズマ浸炭等が適宜利用される。浸炭は、コストと量産性の観点から、ガス浸炭や真空浸炭が好ましい。特にガス浸炭の場合、加熱温度は浸炭反応が起こる限り特に限定されず、生産性の観点からは材料の融点を超えない限り高い温度で行うことが好ましい。一方、品質の観点からは高温に長時間さらされた鋼の結晶は粗大化し、機械的特性を損ねるため、得られる品質の観点からはより低温で浸炭を行うことが好ましい。例えば、動力伝達部品(特に手動変速機の最終減速駆動用ギヤシャフト)を得る場合、生産性と機械的特性(強度)の両立の観点から、加熱温度は、例えば、オーステナイト化温度をTos(℃)としたとき、Tos+120~Tos+180(℃)、特にTos+140~Tos+160(℃)であってもよい。加熱は炉内の温度(例えば、連続ガス浸炭炉内の浸炭処理ゾーンの温度)を調整することにより達成することができる。
【0017】
第2工程は、オーステナイト化温度未満に冷却する工程である。本工程での冷却と後述の第3工程での加熱で再度オーステナイト化を行うことにより、浸炭中に高温下に長時間さらされたオーステナイト結晶粒を再度析出させることで、オーステナイト結晶粒の微粒化(オーステナイト結晶粒度が#10以上)が実現できる。これらの結果として、第2工程および第3工程を行わなかった場合と比較して、強度がより十分に向上する。
【0018】
冷却温度は通常、浸炭後表面炭素濃度でのオーステナイト化温度をTos1(℃)としたとき、Tos1-400~Tos1-600(℃)、特にTos1-500~Tos1-580(℃)である。このような冷却温度までの冷却に要する時間(降温時間)通常、30~10分間であってもよい。ただしこの時、急冷を行うとマルテンサイト変態によるひずみが発生するため、急速冷却することはできない。冷却は冷却室を準備し窒素に代表される常温の不活性ガスを充填、撹拌することで達成することができる。上記冷却温度範囲において、Tos1は、本発明の浸炭焼入れ装置および浸炭焼入れ方法に供される部品の鋼鉄素材のオーステナイト化温度Tosであってもよい。
【0019】
第3工程は、オーステナイト化温度以上、特にオーステナイト化温度の直上に加熱する工程である。加熱温度は通常、非浸炭部の焼入れを前提とすると、素材炭素濃度でのオーステナイト化温度をTos2(℃)としたとき、部品温度で、Tos2+20~Tos2+60(℃)、特にTos2+30~Tos2+50(℃)とすることが好ましい。設備の設定温度としては、冷却された処理品の加熱を速やかに行うため、僅かにこの温度より高い設定を取っておくことが好ましく、具体的にはTos2+50~Tos2+100(℃)、特にTos2+60~Tos2+80(℃)である。特に浸炭を行う温度より下げて行う必要がある。このような加熱温度までの加熱に要する時間(昇温時間)はオーステナイト相への変態が十分に完了する時間であり、通常、処理品の実体温度が上記の狙いの温度に到達した後、15分~30分間であってもよい。加熱は炉内の温度(例えば、連続ガス浸炭炉内の加熱ゾーンの温度)を調整することにより達成することができる。このような加熱により、オーステナイト結晶粒の微細化がより一層、十分に図られるため、十分な強度が確保される。上記加熱温度範囲および設定温度範囲において、Tos2は、本発明の浸炭焼入れ装置および浸炭焼入れ方法に供される部品の鋼鉄素材のオーステナイト化温度Tosであってもよい。
【0020】
本発明の浸炭焼入れ装置は、例えば
図1Aに示すように、本工程の加熱手段(加熱源)3を、後述するトレイ1による搬送方向Cの両側に有している。加熱手段として、電気ヒーター加熱炉、ガスバーナー加熱炉等の既存の加熱設備を用いることができる。本発明においては、このような既存の加熱設備を用いる場合であっても、より十分な強度を有する、寸法精度に優れた複数の部品を得ることができる。
図1Aは、本発明の浸炭焼入れ装置において既存の加熱設備を利用して量産化を行ったときの第3工程(再加熱工程)の一例を示す模式的平面図を示す。
【0021】
第3工程においては通常、2つ以上のトレイを連続的に進行させつつ、各トレイに載置された複数の部品2を処理する。例えば、連続的に進行する2つのトレイについて、搬送方向Cについて前方のトレイ1に載置された複数の部品の処理と、後方のトレイ1に載置された複数の部品の処理とは連続的処理に相当する。また例えば、同じ1つのトレイ1に載置されている複数の部品の処理は同時処理に相当する。
【0022】
第3工程においては通常、
図1Aに示すように、複数のトレイ1を隣接させて進行させるが、所定の間隔を空けて進行させてもよい。本発明において、第3工程においては複数のトレイ1を隣接させて進行させることが好ましい。遮蔽板10が、後述するように、平面視において搬送方向Cとは反対方向に開いた形状を有していても、2つの隣接するトレイ1について、搬送方向Cにおいて後方のトレイ1における正面側遮蔽板10bが、前方のトレイ1の複数の部品への輻射熱も遮蔽するためである。「隣接」は、
図1Aに示すような互いに「接触状態」にある関係だけでなく、他の工程よりも狭い間隔(例えば、100mm以下、特に10~50mm)を空けた「離隔状態」にある関係も包含する。
【0023】
第3工程において複数のトレイ1を隣接して進行させる場合、例えば、
図1Bおよび
図1Cに示すように、第3工程における最も前方のトレイ1'が第3工程を終えるとき、当該トレイ1'は進行速度を上げて第3工程部から出た後、進行速度を下げる(戻す)。これと同時に、新たなトレイ1''''は進行速度を上げて第3工程部に入った後、進行速度を下げて、これに先行するトレイ1'''と隣接して進行する。
図1A~
図1Cは、本発明の浸炭焼入れ装置において既存の加熱設備を利用して量産化を行ったときの第3工程(再加熱工程)の経時的変化の一例を示す模式的平面図を示す。
図1A~
図1Cにおいて、搬送方向(進行方向)Cを示す矢印は、その長さで、速度の大きさも表している。
【0024】
第4工程は、焼入れ処理を行う工程である。焼入れはオーステナイト相の急冷によってマルテンサイト相を得ることを目的に行うものである。マルテンサイト相に変態を起こす際には結晶中に格子欠陥が生まれるため、炭素を強制的に固溶させた状態で常温になる。これによって、炭素を多量に固溶した高硬度の鋼が得られ、処理品の強度を向上させることができる。
【0025】
焼入れ処理(急冷却)は、オーステナイト相を急速に冷却することが肝要であり、速度が遅ければ、パーライトへ変態して狙いの強度を得られない。そのために、急冷は処理品を冷却剤に接触させることで行われる。例えば冷却剤は水、焼入れ用の油、ソルト、高圧の窒素などの不活性ガスを使用することができる。
【0026】
冷却剤の供給方法は、部品表面と冷却剤とが接触する限り特に限定されず、例えば、冷却剤中に部品を浸漬する方法であってもよいし、または部品に対して冷却剤を投射する方法であってもよい。均一な処理による部品強度のさらなる向上の観点から、冷却剤を充填した漕の中に部品を浸漬する方法を採用することが好ましい。
【0027】
本発明においては、第3工程で均熱した後で、第4工程で焼入れ処理を行うことが好ましい。均熱とは、処理品全体をむらなく均一に焼入れに適した温度に保持する事である。ここで焼入れに適した温度とは、処理品がオーステナイト相であるためには材料のオーステナイト化温度以上であることに加え、熱処理ひずみの原因になる熱応力の発生を抑えるため、極力低温であることが必要である。
【0028】
本発明においては、第3工程で均熱により、焼入れ処理に適した温度(例えば、830℃)まで降温した後で、第4工程で焼入れ処理を行うことが好ましい。焼入れ処理に適した温度(830℃)まで降温することにより、必要以上に熱応力を発生させないことで、熱処理変形の低減を狙ったものである。焼入れ処理に適した温度は通常、非浸炭部の焼入れを前提とすると、素材炭素濃度でのオーステナイト化温度をTos2(℃)としたとき、Tos2+10~Tos2+50(℃)、特にTos2+20~Tos2+30(℃)である。このような温度までの冷却に要する時間(降温時間)通常、20分間以上であってもよい。冷却は炉内の温度(例えば、連続ガス浸炭炉内の冷却ゾーンの温度)を調整することにより達成することができる。上記焼入れ処理に適した温度範囲において、Tos2は、本発明の浸炭焼入れ装置および浸炭焼入れ方法に供される部品の鋼鉄素材のオーステナイト化温度Tosであってもよい。
【0029】
本発明においては、第3工程で焼入れ処理に適した温度(例えば、830℃)で均熱することが好ましい。前述の降温工程直後は、部品(ワーク)の有する熱や、炉内に隣接する温度の違うトレイによって、温度のばらつきが生まれやすい状態である。これを十分な時間で均熱することで、焼入れ開始前の温度ばらつき、ここでは処理トレイに積載した部品間のばらつきと部品の内部で発生するばらつきの両方を低減させ、熱処理変形を左右する冷却速度のばらつきを低減させることが目的である。当該温度での均熱中は脱炭が起こらない様に表面炭素濃度が共析点付近(0.7~0.9%)に設定されるように行われることが必要である。またアンモニア雰囲気下で行ってもよい。これによって浸炭窒化による表面異常層の抑制効果が得られ、表面からの破壊を抑制する効果をえることができる。
【0030】
本発明の浸炭焼入れ装置は複数の部品を載置し、かつ搬送するためのトレイ1を含む。本発明において複数の部品は、浸炭焼入れ装置内の少なくとも第3工程、好ましくは第1工程~第3工程、より好ましくは第1工程~第4工程において、トレイ1に載置され、トレイ1を進行させることにより搬送されながら、所定の工程に供される。トレイ1の数は、トレイ1つあたり複数の部品が載置されて搬送される限り、特に限定されず、1つであってもよいし、または2つ以上であってもよい。量産化の観点から、2つ以上、特に3つ以上のトレイが使用されることが好ましい。
【0031】
トレイ1は当該トレイに立設された遮蔽板10を有する。遮蔽板は、少なくとも第3工程において、当該トレイに載置される複数の部品と、加熱源との間で、当該加熱源からの輻射熱を遮蔽する。これにより、少なくとも第3工程において、加熱源に近い部品と加熱源から遠い部品との間だけでなく、1つの部品における加熱源に近い面と加熱源から遠い面との間においても、均一な加熱処理が可能になる。このため、これらの間で、加熱速度の差および結晶粒の成長時間の差が低減され、結果として、得られる複数の部品間で、変形量がより十分に等しくなり、寸法精度が向上する。一方で、遮蔽板がトレイに形成されることなく、浸炭焼入れ装置本体に形成されて、加熱源から部品への輻射熱を遮蔽すると、遮蔽板自体が加熱源により加熱されて新たな加熱源となり、輻射熱を放射するようになるため、均一な加熱処理を行うことができない。
【0032】
トレイ1は、
図1Aに示すように、当該トレイ1に載置される複数の部品2(特に複数の部品2の全て)が平面視において遮蔽板10により取り囲まれるように、遮蔽板10を有している。
図1Aに示すように、2つ以上のトレイ1を用いる場合、トレイ1のそれぞれは、当該トレイ1に載置される複数の部品2(特に複数の部品2の全て)が平面視において遮蔽板により取り囲まれるように、遮蔽板10を有していることが好ましい。平面視とは、複数の物品を載置したトレイを水平面に載置してその高さ方向の真上から見たときの状態のことであり、平面図と同意である。遮蔽板10は、トレイ1の側面を隙間なく取り囲んでいてもよい。
【0033】
トレイ1に載置される複数の部品2(特に複数の部品2の全て)が平面視において遮蔽板により取り囲まれるとは、少なくとも側面視(2つの側面視)(例えば、
図2参照)、好ましくは側面視(2つの側面視)および正面視において、当該全ての複数の部品の全部が遮蔽板に隠れているという意味である。側面視とは、複数の物品を載置したトレイを水平面に載置して、その高さ方向の真横方向であって、トレイの搬送方向(すなわち進行方向)Cに対する垂直方向D(
図1A参照)から見たときの状態(例えば、
図2)のことであり、側面図と同意である。従って、側面視には、搬送方向(すなわち進行方向)Cの両側(D)からの2つの側面視が存在する。正面視とは、複数の物品を載置したトレイを水平面に載置して、本発明の搬送方向(すなわち進行方向)Cに対する反対方向で見たときの状態のことであり、正面図と同意である。載置は、トレイの外観を構成する最大面積の面(平面)を底面にした載置である。なお、トレイ1は必ずしも面からなる外観形状を有さなければならないわけではない。トレイ1は、複数の部品を載置可能な限り、加熱処理の均一性および第4工程で冷却剤による急冷却処理を行う場合における処理の容易性の観点から、例えば、後述のように、平面視において網形状を有していることが好ましい。
【0034】
遮蔽板10は、平面視において、トレイ1に載置される複数の部品2を取り囲む限り、その形状は特に限定されない。遮蔽板10は、例えば、平面視において、閉じた形状を有していてもよいし、または搬送方向Cとは反対方向に開いた形状を有していてもよい。遮蔽板10が、平面視において、閉じた形状を有するとは、遮蔽板10が全体として筒形状を有するという意味である。筒形状は、円筒形状であってもよいし、または四角筒形状等の多角筒形状であってもよい。遮蔽板10が、平面視において、搬送方向Cとは反対方向に開いた形状を有するとは、遮蔽板10が有する全体としての筒形状において、例えば
図1A~
図1Cおよび
図3Aに示すように、搬送方向Cとは反対側の一部または全部が欠落した形状のことである。欠落前の筒形状は、円筒形状であってもよいし、または四角筒形状等の多角筒形状であってもよい。例えば、
図1A等に示す遮蔽板10の平面視形状は、「搬送方向Cとは反対方向に開いた形状」の一例であり、遮蔽板10が有する全体としての四角筒形状において、搬送方向Cとは反対側の全部が欠落した形状である。このような
図1Aに示す平面視形状を有する遮蔽板10は、側面側遮蔽板10a、10cおよび正面側遮蔽板10bを有している。
図3Aは、本発明の浸炭焼入れ装置における第3工程(再加熱工程)を示す模式的平面図の一例を示し、詳しくはトレイ上における遮蔽板および部品の載置状態を示す。
【0035】
遮蔽板10が、平面視において、搬送方向Cとは反対方向に開いた形状を有することは、上記したように、第3工程において、複数のトレイ1が隣接して進行する場合において特に有効である。例えば、2つのトレイ1が隣接して進行する場合、搬送方向Cにおいて後方のトレイ1における正面側遮蔽板10bが、前方のトレイ1に載置された複数の部品への輻射熱も遮蔽するため、遮蔽板の材料の使用量を節約できる。
【0036】
遮蔽板10の高さH(
図2参照)は、均一な加熱処理が達成される限り特に限定されず、例えば、部品2の積載高さ以上であってもよい。遮蔽板10の高さは、より均一な加熱処理の観点から、部品2の積層高さをh(mm)としたとき、好ましくは1.0×h~1.2×hであり、より好ましくは1.0×h~1.1×hである。遮蔽板10の高さが高すぎても、より均一な加熱処理は達成され難い。
【0037】
遮蔽板10の厚みは、均一な加熱処理(特に結晶粒の微細化)が達成される限り特に限定されない。遮蔽板10の厚みは、より均一な加熱処理(特に結晶粒のさらなる微細化)の観点から、好ましくは2~8mm、より好ましくは4~6mmである。遮蔽板10をこのような厚みとすることにより、遮蔽板10が適度な熱容量を有するようになり、加熱の長時間化が回避されるため、結晶粒のさらなる微細化の観点から好ましい。
【0038】
遮蔽板10を構成する材料は輻射熱を遮蔽できる限り特に限定されず、処理中の最高温度である浸炭温度に十分耐えることが必要不可欠である。遮蔽板10を構成する材料として、例えば、マルテンサイト系、フェライト系、オーステナイト系、及び析出硬化系の耐熱鋼またはステンレス材が挙げられる。中でも、遮蔽板10はオーステナイト系耐熱鋼で構成されていることが好ましい。オーステナイト系鋼材は、温度による変態が発生せず、耐熱性が良いことに加え、透磁率が低く、輻射熱の遮断効果が高いため、熱処理変形抑制を効果的に行うことができる。
【0039】
トレイ1を構成する材料は、第1工程~第4工程にわたって、部品を保持できる限り特に限定されず、例えば、マルテンサイト系、フェライト系、オーステナイト系、及び析出硬化系の耐熱鋼等が挙げられる。中でも、トレイ1はオーステナイト系耐熱鋼で構成されていることが好ましい。
【0040】
トレイ1においては、トレイ1の天地、すなわちトレイ1において複数の部品2を載置したときの当該複数の部品2の上方部およびトレイ1の下方部に、何らの部材も配置されていないことが好ましい。第4工程において、冷却剤による急冷却処理を行う場合において、部品表面への冷却剤の供給を阻害したり、または浸漬中の冷却剤の流れを阻害したりすることなく、より均一な焼入れを行うことができ、部品強度がさらに向上するためである。トレイ運搬の駆動は、例えば、炉側で行われてよく、この場合、トレイ1の下方部には、トレイ1の搬送のための部材は何ら配置されていなくてもよいし、または搬送のためのガイド等が配置されていてもよい。
【0041】
トレイ1は、加熱処理の均一性および第4工程で冷却剤による急速冷却を行う場合における処理の容易性の観点から、平面視において、網形状を有していることが好ましい。トレイ1が網形状を有するとは、例えば、
図3Aに示すように、平面視において、格子形状を有するという意味である。格子形状は、あらゆる格子形状であってもよく、例えば、
図3Aに示すよう矩形格子形状(正方格子形状を含む)(例えば、いわゆるグレーチングが有する形状)、斜方格子形状、六角格子形状(正三角格子形状)、平行体格子形状等が挙げられる。
【0042】
トレイ1における複数の部品2の配置は、均一な加熱処理が達成される限り特に限定されず、通常は一様な配置である。複数の部品2は、例えばトレイ1が平面視において格子形状を有するものと仮定したときの格子点の位置に配置されてもよい。トレイ1が、
図3Aに示すように、実際に平面視において格子形状を有する場合においては、実際の格子点の位置に配置されることが好ましい。
【0043】
トレイ1が平面視において格子形状を有する場合において、当該格子形状を構成する材料の平面視での厚みt1(
図3A参照)は、均一な加熱処理(特に結晶粒の微細化)が達成される限り特に限定されない。当該厚みは、より均一な加熱処理(特に結晶粒のさらなる微細化)の観点から、好ましくは2~8mm、より好ましくは4~6mmである。格子形状を構成する材料をこのような平面視厚みとすることにより、トレイ1が適度な熱容量を有するようになり、加熱の長時間化が回避されるため、結晶粒のさらなる微細化の観点から好ましい。
【0044】
トレイ1が平面視において格子形状を有する場合において、当該格子形状を構成する材料の側面視での厚みt2(
図2参照)は、複数の部品2の載置(保持)と均一な加熱処理(特に結晶粒の微細化)が達成される限り特に限定されない。当該厚みは、より均一な加熱処理(特に結晶粒のさらなる微細化)の観点から、好ましくは5~50mm、より好ましくは10~30mmである。格子形状を構成する材料をこのような側面視厚みとすることにより、トレイ1が適度な熱容量を有するようになり、加熱の長時間化が回避されるため、結晶粒のさらなる微細化の観点から好ましい。
【0045】
トレイ1への複数の部品2の載置は、補助具を用いてもよい。例えば、
図2に示すように、部品2が筒形状(または柱形状)を有する場合、当該形状が有する外径よりも大きな内径を有する筒状の補助具11を予めトレイ1に固定しておき、当該補助具11に部品2を挿入することにより、載置を達成してもよい。
【0046】
本発明の浸炭焼入れ装置および浸炭焼入れ方法において、第2工程において冷却した後、第3工程において再加熱を行った場合、得られる部品はより十分な強度を有している。
【実施例】
【0047】
<実施例1>
以下の組成の肌焼き鋼(SCR420相当材)からなる同一形状の複数のギヤシャフト(ギヤが一体的に設けられたシャフト;鍛造品)(以下、単に「部品」という)に浸炭焼入れを行った。この素材のオーステナイト化温度Tosは800℃であった。部品の積載高さhは280mmであった。
組成:
C:0.13~0.18%,Si:0.15~0.35%,Mn:0.6~0.85%,P:0.03%以下,S:0.03%以下,Cr:0.9~1.2%。
【0048】
詳しくは、連続ガス浸炭炉を用いて、トレイ1に複数の部品2を
図3Aに示すように載置して搬送しながら、
図3Bに示すヒートパターンに従って、浸炭処理を行う第1工程(S1)、オーステナイト化温度未満に冷却する第2工程(S2)、再度、オーステナイト化温度以上に加熱する第3工程(S3)、および焼入れ処理を行う第4工程(S4)を実施した。
【0049】
より詳しくは、以下の通りであった。
トレイ1による複数の部品の搬送は、
図3Aに示すように、1つのトレイ1あたり20個の部品2を載置した3つのトレイを連続的に進行させることにより行った。遮蔽板10は、板厚5mmのオーステナイト系ステンレス板を用いた。遮蔽板10の高さHは、トレイにおける部品の積載高さhに対して1.1×hの高さであった。トレイ1は平面視において矩形格子形状を有しており、当該格子形状を構成する材料の平面視厚みt1は15mm、側面視厚みt2は40mmであった。トレイ1の構成する材料はオーステナイト系耐熱鋼であった。
連続ガス浸炭炉は、第3工程に対応する部分(ゾーン)において、トレイの搬送方向の両側に加熱源を有していた。加熱源は、電気ヒーターであり、
図3Dに示すように配置されていた。
図3Dは、連続炉の輪切り断面であって、トレイ1の搬送方向Cの真正面から連続炉内部を見たときの模式的断面図であり、加熱源3、遮蔽板10およびトレイ1との配置関係を示す。
【0050】
第1工程(S1):
部品の表面温度をオーステナイト化温度以上の温度(950℃)に加熱して浸炭を行った。
第2工程(S2):
再オーステナイト化のため、部品温度を250℃程度まで冷却した。冷却は浸炭炉から抽出したトレイに窒素ガスを噴射することで実施し、その冷却時間は15分間であった。
第3工程(S3):
続いて冷却完了したトレイを別の連続浸炭炉へ再投入し、部品温度で830℃~850℃を目標に加熱を行った。昇温時間は30分間であった。この時、連続炉の設定炉温は部品温度の目標値よりも高い870℃を設定している。より短時間で加熱が完了することを目的とした連続炉の運転方法である。なお炉内温度と部品温度が平衡に達する前、つまり目標温度近傍で連続炉の温度設定を変更した次のゾーンに進行する。次のゾーンでは焼入れに適した830℃に炉温を設定し、急速に加熱したことによる部品の温度ばらつきを均一にするため30分以上この設定炉温に保持した。
第4工程(S4):
第3工程で十分に均熱された部品を、トレイと共に焼入れ漕に投入し、焼入れを行った。焼入れのための冷却剤は塩浴剤を用いて行い、その設定温度は230℃であった。そのため、塩浴漕浸漬後は空冷によって常温まで冷却し焼入れが完了した。
【0051】
実施例で得られた部品の、後で詳述する評価結果を
図3Cに示す。
【0052】
<比較例>
図4Aに示すように、トレイに遮蔽板を設けることなく、1つのトレイあたり20個の部品を載置したこと以外、実施例と同様の方法により、複数の部品の浸炭焼入れを行った。
詳しくは、本発明の効果を明確に確認するために、同一材料および同一形状の部品を用いた。また、トレイへの遮蔽版を設けない一方で、積載位置と数は実施例からは変更せずに、
図4Aに示した載置方法で、実施例と同じ
図3Bのヒートパターンにて浸炭焼入れを行った。比較例で得られた部品の、後で詳述する評価結果を
図4Bに示す。
【0053】
<参考例>
図4Aに示すように、トレイに遮蔽板を設けることなく、1つのトレイあたり20個の部品を載置したこと、および第1工程の後に第4工程を行う
図5Aに示すヒートパターンで浸炭焼入れを行ったこと以外、実施例と同様の方法により、複数の部品の浸炭焼入れを行った。
詳しくは、実施例と同一材料および同一形状の部品を用いた。また、トレイへの遮蔽版を設けない一方で、積載位置と数は実施例から変更せずに、
図4Aに示した載置方法で、第1工程の後に第4工程を行う
図5Aに示すヒートパターンで浸炭焼入れを行った。これは通常の浸炭焼入れである。参考例で得られた部品の、後で詳述する評価結果を
図5Bに示す。
【0054】
<評価>
評価は、本発明による積載治具(すなわち、遮蔽板)を使って、焼入れ前に冷却と再加熱を行う浸炭焼入れ(実施例)、積載治具を使わずに実施例と同条件で行う浸炭焼入れ(比較例)および通常の浸炭焼入れ(参考例)の3条件の熱処理変形の量を比較することで行った。
詳しくは、評価は、評価対象の寸法について部品の有するギヤ部の歯筋(形状)のばらつきに基づいて行った。「歯筋のばらつき」は、ギヤ噛合い歯当たりに影響するギヤ歯の歯筋方向の形状が1つのギヤ個体の中でどれほどばらついているかを示す値のことであり、値が大きいほど、トランスミッションノイズの官能評価に悪影響があることを意味する。ただし、全ての評価値は実施例の「歯筋ばらつき」の最大値を基準として、これを100とした際の割合で表示している(
図3C(実施例)、
図4B(比較例)および
図5B(参考例)参照)。
図3Cおよび
図4Bより、遮蔽版を配置した効果によって熱処理変形による寸法精度は大きく改善することが確認できる。
図3Cおよび
図5Bより、通常の浸炭焼入れ(参考例)と実施例は同様の寸法精度が得られるため、本発明が第2工程および第3工程に原因を持つ寸法精度の悪化を明確に抑制できていることを証明している。
実施例、比較例および参考例について「歯筋のばらつき」の平均値(Ave)および最大値(Max)を算出し、結果を表1に示した。積載治具(すなわち、遮蔽板)なしに、焼入れ前に冷却と再加熱を行った浸炭焼入れ(比較例)では、通常の浸炭焼入れ(参考例)より、1トレイで処理される部品のなかで最も寸法精度の悪い個体(Max)で比較すると、60%程度の悪化が起こった。本発明(実施例)では、このような悪化を防ぐことが可能であるだけでなく、最大値(Max)で10%程度の改善も可能であること示している。
また実施例では、比較例と同様に、第2工程において冷却した後、第3工程において再加熱を行っているので、実施例で得られる部品は、比較例で得られる部品と同程度の十分な強度を有していることが明らかである。
【0055】
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の浸炭焼入れ装置および浸炭焼入れ方法は、自動車用部品の製造分野、特に動力伝達部品(例えば、手動変速機の最終減速駆動用ギヤシャフト、セカンダリシャフト)の製造分野において有用である。
部品の形状変更および形質(材料)変更を行うことなく、部品の強度性能の向上の要望が生じた場合、本発明の浸炭焼入れ装置(方法)に基づいて、遮蔽板を備えたトレイの準備と、ヒートパターン設定の変更だけで、既存の浸炭焼入れ装置を利用して低コストで当該要望に応えることができる。
【符号の説明】
【0057】
1:トレイ
2:部品
3:加熱源
10:遮蔽板