(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
H01M 50/529 20210101AFI20221025BHJP
H01M 50/541 20210101ALI20221025BHJP
【FI】
H01M50/529
H01M50/541
(21)【出願番号】P 2018194891
(22)【出願日】2018-10-16
【審査請求日】2021-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(72)【発明者】
【氏名】大西 幹人
(72)【発明者】
【氏名】山下 弘登
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-59171(JP,A)
【文献】実開昭57-152768(JP,U)
【文献】特開2006-12602(JP,A)
【文献】特開平9-147828(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M50/50-50/598
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板と負極板とがセパレータを介して交互に積層され、耳部を有する極板群と、前記極板群の前記耳部に接続されたストラップと、前記極板群および前記ストラップを各々に収納する複数のセル室とを備える鉛蓄電池であって、
前記正極板と前記負極板とが積層される方向を第1方向とし、前記耳部と前記ストラップとの接続方向を第2方向とし、前記第1方向および前記第2方向に直交する方向を第3方向とした場合に、
前記ストラップは、
前記耳部が接続される接続領域を有する基部と、
少なくとも一部が前記基部に対して前記第3方向側に位置するタブ部と、
前記タブ部から前記第1方向に突出し、隣接する前記セル室に収納された前記極板群同士を電気的に接続するセル間接続部と、
を備え、
前記第1方向に垂直な面における前記セル間接続部の最小断面積を第1断面積とし、
前記接続領域と前記セル間接続部とが一方の側と他方の側となるように、前記ストラップを分ける平面における前記ストラップの最小断面積を第2断面積とした場合に、
前記第2断面積は、前記第1断面積よりも大きくなっていることを特徴とする鉛蓄電池。
【請求項2】
前記タブ部は、
前記第2方向と交差し、前記基部と接続する傾斜面と、
前記傾斜面よりも前記セル間接続部側に設けられ、前記傾斜面よりも緩やかな傾斜を有する肩部と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の鉛蓄電池。
【請求項3】
前記タブ部は、傾斜面を備え、
前記傾斜面は、
前記第2方向と交差し、前記基部と接続しており、
前記基部側の幅を第1幅とし、前記基部側とは反対側の幅を第2幅とした場合に、第2幅よりも第1幅の方が大きいことを特徴とする請求項1または2に記載の鉛蓄電池。
【請求項4】
前記タブ部は、傾斜面を備え、
前記傾斜面は、前記第2方向と交差し、前記基部と接続しており、
前記タブ部は、前記傾斜面を複数備えていることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、車載用、産業用の他、様々な用途で使用されている。鉛蓄電池は、正極板と負極板とがセパレータを介して交互に積層された極板群を備える。正極板および負極板は、集電体と、集電体に保持された電極材料とで構成されている。集電体には、上方に突出する集電用の耳部が形成されており、同じ極性の電極板の耳部は、ストラップで集合接続されている。極板群は、電槽に設けられたセル室に挿入され、隣り合うセル室のストラップ同士を電気的に接続することで、接続されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、電槽の隔壁貫通孔を介して隣接するセルの極板群ストラップ相互間を抵抗溶接によって接続するセル間接続部を備える鉛蓄電池において、隔壁貫通孔の下端を、ストラップの上面よりも下方に位置させることで、極板群を大きくし、容量を大きくした鉛蓄電池が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、隣り合うセル間同士を接続するセル間接続部の直下に、極板集電部を配置せず、セル間接続部の底面と極板集電部の側面とを第一の接合部で接続するストラップを備える鉛蓄電池が開示されている。特許文献2に記載の鉛蓄電池においては、このような構成とすることで、極板を多く配置することができ高容量化を可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-147828号公報
【文献】特開2011-181322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明者らは、鉛蓄電池において、エンジン始動時等に、鉛蓄電池に想定以上の大電流が流れた場合に、ストラップの一部が熱により溶融し、溶融したストラップが極板群に滴下し、極板群が短絡してしまう虞があることに着目し、本願発明を想到するに至った。このように、鉛蓄電池においては、想定以上の大電流が流れることで、極板群に短絡が生じ、鉛蓄電池が使用できなくなる虞がある。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、想定以上の大電流が流れた場合であっても、使用不能になり難い鉛蓄電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明に係る鉛蓄電池は、正極板と負極板とがセパレータを介して交互に積層され、耳部を有する極板群と、前記極板群の前記耳部に接続されたストラップと、前記極板群および前記ストラップを各々に収納する複数のセル室とを備える鉛蓄電池であって、前記正極板と前記負極板とが積層される方向を第1方向とし、前記耳部と前記ストラップとの接続方向を第2方向とし、前記第1方向および前記第2方向に直交する方向を第3方向とした場合に、前記ストラップは、前記耳部が接続される接続領域を有する基部と、少なくとも一部が前記基部に対して前記第3方向側に位置するタブ部と、前記タブ部から前記第1方向に突出し、隣接する前記セル室に収納された前記極板群同士を電気的に接続するセル間接続部と、を備え、前記第1方向に垂直な面における前記セル間接続部の最小断面積を第1断面積とし、前記接続領域と前記セル間接続部とが一方の側と他方の側となるように、前記ストラップを分ける平面における前記ストラップの最小断面積を第2断面積とした場合に、前記第2断面積は、前記第1断面積よりも大きくなっている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐久性に優れた鉛蓄電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る鉛蓄電池100を示す斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る鉛蓄電池100が備えるストラップ20を示す斜視図である。
【
図5】ストラップ20が隣接するセル室14間で接続されている状態を示す図である。
【
図6】本発明の変形例1に係るストラップ201を示す図であり、(a)は斜視図であり、(b)は上面図である。
【
図7】本発明の変形例2に係るストラップ202を示す図であり、(a)は斜視図であり、(b)は上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔実施形態〕
以下、本発明の実施形態について、図面を参照し詳細に説明する。
【0012】
(鉛蓄電池100の概略構成)
図1は、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池100を示す斜視図である。
【0013】
図1に示すように、鉛蓄電池100は、複数の極板群11と、電解液(図示せず)と、極板群11および電解液を収容し、上方が開口した電槽12と、電槽12の開口を封止する蓋15とを備える。
【0014】
電槽12は、上面に開口部19を有する略直方体形状の容器であり、例えば合成樹脂により形成されている。電槽12は、隔壁13を有する。電槽12の内部は、隔壁13によって、所定方向に並ぶ複数のセル室14に仕切られている。
【0015】
電槽12の各セル室14には、極板群11が1つずつ収納されている。そのため、電槽12が、6つのセル室14に区画されている場合には、鉛蓄電池100は、6つの極板群を備える。また、各セル室14には、希硫酸を含む電解液が収容されており、極板群11の略全体が電解液に浸漬されている。
【0016】
電槽12の開口部19は、開口部19に対応する形状を有する蓋15で封止される。より具体的には、蓋15の下面の周縁部分と、電槽12の開口部19の周縁部分とが、例えば熱溶着により接合されている。蓋15は、負極ブッシング16および正極ブッシング17を備える。また、蓋15には、各セル室14に対応する位置に液口栓18が設けられている。鉛蓄電池100に補水を行う際には、液口栓18を外して補水液が補給される。なお、液口栓18は、セル室14内で発生したガスを鉛蓄電池100の外部に排出する機能を有してもよい。
【0017】
極板群11は、それぞれ複数枚の負極板2および正極板3を、セパレータ4を介して積層することにより構成されている。ここでは、負極板2を収容する袋状のセパレータ4を示すが、セパレータの形態は特に限定されない。すなわち、セパレータ4は、袋状でなくてもよく、また正極板3を収容していてもよい。
【0018】
正極板3は、正極集電体と、正極集電体に支持された正極電極材料とを有する。正極集電体は、略格子状または網目状に配置された骨を有する導電性部材であり、例えば鉛または鉛合金(例えばPb-Ca系合金を含む)により形成されている。また、正極集電体は、その上端付近に、上方に突出する正極耳部3aを有している。正極電極材料は、二酸化鉛を含んでいる。正極電極材料は、さらに公知の添加剤を含んでいてもよい。
【0019】
負極板2は、負極集電体と、負極集電体に支持された負極電極材料とを有する。負極集電体は、略格子状または網目状に配置された骨を有する導電性部材であり、例えば鉛または鉛合金により形成されている。また、負極集電体は、その上端付近に、上方に突出する負極耳部2aを有している。負極電極材料は、鉛(海綿状鉛)を含んでいる。負極電極材料は、さらに、公知の他の添加剤(例えば、カーボン、リグニン、硫酸バリウム等)を含んでいてもよい。
【0020】
極板群11の複数の正極板3は、鉛または鉛合金により形成された正極ストラップ20Pに接続されている。これにより、複数の正極板3は、正極ストラップ20Pを介して電気的に並列に接続されている。同様に、極板群11の複数の負極板2は、鉛または鉛合金により形成された負極ストラップ20Nに接続されている。これにより、複数の負極板2は、負極ストラップ20Nを介して電気的に並列に接続されている。以下では、正極ストラップ20Pと負極ストラップ20Nとを区別しない場合には、単に「ストラップ20」と記載する。
【0021】
電槽12の一方の端部(正極端子側の端部)に位置するセル室14では、複数の正極板3の耳部3aは、接続部材5を介して略円柱形状の正極柱7に接続されている。同様に、電槽12の他方の端部(負極端子側の端部)に位置するセル室14では、複数の負極板2の耳部2aは、接続部材5を介して略円柱形状の負極柱9に接続されている。
【0022】
正極柱7は、蓋15の正極ブッシング17の孔に挿入され、例えば溶接等により正極ブッシング17に接合されている。正極柱7と正極ブッシング17とにより、外部端子として機能する正極端子部が構成されている。また、負極柱9は、蓋15の負極ブッシング16の孔に挿入され、例えば溶接等により負極ブッシング16に接合されている。負極柱9と負極ブッシング16とにより、外部端子として機能する負極端子部が構成されている。
【0023】
(ストラップ20の構成)
図2から
図4は、本実施形態に係るストラップ20の形状を示す図であり、
図2は斜視図を、
図3は上面図を、
図4は側面図を示している。
図5は、ストラップ20が隣接するセル室14間で隔壁13を介して接続されている状態を示す図である。なお、
図2から
図3は、後述するセル間接続部40が形成される前のストラップ20を示している。また、
図4においては、説明の便宜上、後述する凹部33の図示を省略している。
【0024】
図2から
図5に示すように、ストラップ20は、極板群11の正極耳部3aあるいは負極耳部2aが接続される基部21と、タブ部30と、隣接するセル室14に収納された極板群11同士を電気的に接続するセル間接続部40とを備える。以降、説明の便宜上、極板群11の正極板3と負極板2とが積層されている方向を、第1方向D1と呼ぶ。また、極板群11の正極耳部3aまたは極板群11の負極耳部2aと、ストラップ20とが接続している方向を第2方向D2と呼ぶ。さらに、第1方向D1および第2方向D2に直交する方向を第3方向D3と呼ぶ。なお、図中においては、第1方向D1、第2方向D2および第3方向D3を、特定方向に伸びる矢印を用いて示している。しかしながら、第1方向D1とは、図中における矢印が伸びる方向と、矢印が伸びる方向とは逆の方向との両方の方向のことをいう。同様に、第2方向D2とは、図中における矢印が伸びる方向と、矢印が伸びる方向とは逆の方向との両方の方向のことをいう。さらに、第3方向D3とは、図中における矢印が伸びる方向と、矢印が伸びる方向とは逆の方向との両方の方向のことをいう。
【0025】
図5に示すように、ストラップ20は、隔壁13に形成された貫通孔13aを介して正極ストラップ20Pのセル間接続部40と、負極ストラップ20Nのセル間接続部40とが電気的に接続されており、これにより、極板群11が隣接するセル室14間で直列に接続されている。なお、
図5に示すように、隔壁13を介して対向する正極ストラップ20Pと、負極ストラップ20Nとは、隔壁13に対して鏡像対称となる形状を有しているが、同一の機能を有するため、本明細書においては、一方の形状についてのみ説明する。
【0026】
基部21は、略直方体形状を有する。基部21は、極板群11の正極耳部3aあるいは負極耳部2aが接続される接続面22を備える。ストラップ20は、接続面22の接続領域22aにおいて、極板群11の正極耳部3aまたは負極耳部2aと接続している。接続領域22aは、接続面22のうち、極板群11の正極耳部3aまたは負極耳部2aが接続されている領域であり、ストラップ20に対して接続されている正極耳部3aまたは負極耳部2aの数と同じ数だけ形成されている。
【0027】
なお、接続面22は、基部21の底面であり、第1方向D1および第3方向D3を含む平面に平行となるように設けられている。また、基部21において、接続面22の第2方向D2反対側の面である上面23も、第1方向D1および第3方向D3を含む平面に平行となるように設けられている。
【0028】
タブ部30は、セル間接続部40と基部21とを電気的に接続しており、セル間接続部40と接続する板状部31と、板状部31および基部21を接続する傾斜部35とを備える。また、タブ部30は、少なくとも一部が基部21に対して第3方向D3側に位置している。換言すれば、タブ部30は、基部21の側方に設けられている。
【0029】
板状部31は、第1方向D1が厚さ方向となるように形成された板状部材であり、円弧状の上面32を有している。板状部31は、底面が基部21の接続面22と略面一となるように設けられている。また、板状部31は、セル間接続部40側の第1方向D1の端面が、基部21の短側面と略面一となるように設けられている。
【0030】
傾斜部35は、板状部31の上面32から、基部21の上面23に向かって傾斜する2つ(複数)の傾斜面を備えている。すなわち、傾斜部35は、第1傾斜面36と第2傾斜面37とを備える。第1傾斜面36は、第1方向D1に平行で、第2方向D2と交差する平面である。また、第2傾斜面37は、第3方向D3に平行で、第2方向D2と交差する平面である。
【0031】
第1傾斜面36は、略台形状を有し、基部21側の幅である第1幅W1が、基部21とは反対側(板状部31側)の幅である第2幅W2よりも大きくなっている。また、第2傾斜面37は、略三角形状を有し、基部21側の幅である第1幅W1が、基部21とは反対側(板状部31側)の幅である第2幅W2よりも大きくなっている。
【0032】
なお、傾斜部35が有する傾斜面の形状は、特に限定されるものではなく、基部21側の幅である第1幅W1が、基部21とは反対側(板状部31側)の幅である第2幅W2よりも大きくなっていればよい。傾斜面の形状は、第1傾斜面36のように略台形状でもよく、第2傾斜面37のように略三角形状でもよい。傾斜面が、第2傾斜面37のように、基部21側から板状部31側に向かって幅が小さくなる略三角形状を有する場合には、板状部31側の幅が頂点部分の幅となる。このような場合には、第2幅がゼロであるとする。すなわち、傾斜面が、基部21側から板状部31側に向かって幅が小さくなる略三角形状を有する場合であっても、第1幅W1が、第2幅W2よりも大きくなっているといえる。
【0033】
また、タブ部30は、第1傾斜面36および第2傾斜面37よりもセル間接続部40側に肩部38を有する。肩部38は、傾斜部35と板状部31の上面32との間に設けられ、第1傾斜面36および第2傾斜面37よりも緩やかな傾斜を有する。換言すれば、肩部38は、板状部31の上面32側の第2方向D2端部から、傾斜部35(第1傾斜面36および第2傾斜面37)と基部21とが接続している場所までの間に設けられている。
【0034】
セル間接続部40は、タブ部30の板状部31から隔壁13側に突出するように設けられている。なお、セル間接続部40は、以下の方法により形成される。まず、隔壁13に形成された貫通孔13aを介して、正極ストラップ20Pの板状部31と負極ストラップ20Nの板状部31とを対向させる。次に、抵抗溶接機(図示せず)を用いて、正極ストラップ20Pの板状部31と負極ストラップ20Nの板状部31とを抵抗溶接する。これにより、板状部31の一部が溶融し、貫通孔13aの内部が鉛あるいは鉛合金(以下、単に鉛と称する)により充填される。その後、鉛が凝固し、セル間接続部40が形成される。そのため、セル間接続部40の形状は、隔壁13に形成された貫通孔13aに対応する形状を有する。なお、本実施形態においては、セル間接続部40は、軸方向が第1方向D1である、略円柱形状を有する。
【0035】
また、板状部31の一部が溶融し、セル間接続部40となるため、抵抗溶接後の板状部31には、凹部33が形成される(
図5参照)。さらに、隔壁13は、極板群11の積層方向である第1方向D1に垂直に形成されており、貫通孔13aは、第1方向D1に貫通している。そのため、セル間接続部40も、タブ部30から第1方向D1に突出している。
【0036】
セル間接続部40を第1方向D1に垂直な面で切断した場合の最小断面積を第1断面積とする。また、基部21の接続領域22aの全てが一方の側、セル間接続部40が他方の側となるように、ストラップ20を分割するような平面を平面Pとする。さらに、タブ部30を任意の平面Pにおいて切断した場合のストラップ20の断面積のうち、断面積が最小となる断面積(最小断面積)を第2断面積とする。なお、セル間接続部40と、タブ部30との境界面を平面Pとすることも考えられるが、そのような面は、平面Pに含まないこととする。ここで、ストラップ20は、上述した第1断面積よりも第2断面積のほうが大きくなっている。なお、第1断面積は、
図4におけるセル間接続部40の面積と等しい。また、
図4に平面Pの一例を示す。
【0037】
ここで、第1断面積を、セル間接続部40を第1方向D1に垂直な面で切断した場合の断面積のうち、最小断面積とした。これは、セル間接続部40が、第1方向D1の位置により異なる断面積を示すような形状を有している場合に、断面積が最小となる位置でセル間接続部40を切断した場合の断面積を第1断面積とすることを意味する。
【0038】
(作用効果)
次に、本実施形態に係る鉛蓄電池100の作用効果について説明する。
【0039】
一般的に、鉛蓄電池が例えば車載用のバッテリーとして使用される場合には、エンジンを始動するときに、一時的に大電流を流す必要がある。このように鉛蓄電池に大電流が流れる場合に想定以上の大電流が流れると、ストラップの一部が熱により溶融してしまう可能性がある。
【0040】
鉛蓄電池100は、タブ部30の少なくとも一部が基部21に対して第3方向D3側に配置されたストラップ20を備え、ストラップ20は、第1断面積よりも第2断面積の方が大きくなっている。このような構成とすることで、鉛蓄電池100に想定以上の大電流が流れた場合に、タブ部30を流れる電流の電流密度よりも、セル間接続部40を流れる電流の電流密度のほうが大きくなる。そのため、セル間接続部40よりもタブ部30が先に溶融してしまうことを抑制することができる。
【0041】
ストラップ20がタブ部30において溶融した場合には、溶融した鉛が極板群11の上に落下し、極板同士が短絡し、鉛蓄電池100が使用不能となることが考えられる。一方、ストラップ20がセル間接続部40において溶融した場合には、セル間接続部40の周囲に隔壁13が存在するため、溶融した鉛は、隔壁13に沿って貫通孔13aから下方へ流出し、隔壁13に付着した状態で凝固する。そのため、溶融した鉛が極板群11と接触する可能性が低い。また、溶融した鉛は、隔壁に沿って流れるため、極板群に到達したとしても、隔壁13側の端部にある正極板3または負極板2の何れかにのみ接触し、短絡が生じにくいという効果を奏する。このように、本実施形態に係るストラップ20においては、ストラップ20から溶融した鉛が極板群11上へ滴下することによる短絡が生じにくいという効果を奏する。
【0042】
このように、本実施形態に係るストラップ20を備える鉛蓄電池100は、想定以上の大電流が流れた場合であっても、極板群11の短絡が生じにくい。そのため、鉛蓄電池100が、極板群11の短絡により、突然使用不能になる可能性を低減することができる。
【0043】
ストラップ20がタブ部30において溶融し、溶断に至った場合には、溶融した鉛は、隔壁13に沿って貫通孔13aから下方へと流れ出ることとなる。そのため、貫通孔13a内の鉛量が減るため、溶断したセル間接続部40同士が再度接触し難い。
【0044】
一方、従来から用いられている、タブ部が基部の上部に設けられているような形状を有するストラップを備える鉛蓄電池においては、基部とタブ部とが、重力方向に並んで配置されている。そのため、基部とタブ部との接触面積が、一定程度大きくなっている。このような形状を有するストラップにおいては、溶断あるいは破断しないように形状を工夫するという発想は、セル間接続部に対してのみ行われており、それ以外の部分に着目し、タブ部をセル間接続部よりも溶断あるいは破断しにくいようにするという発想は無かった。
【0045】
次に、ストラップ20の形成方法について説明する。ストラップ20は、従来から用いられているCOS(キャストオンストラップ)法により形成することができる。COS法は、まず鋳型に溶融した鉛を注湯し、極板群11の正極耳部3aまたは負極耳部2aを溶融した鉛に浸漬させ、冷却する。その後、離型し、ストラップ20を形成する方法である。
【0046】
ここで、本実施形態に係るストラップ20のように、タブ部が基部の側方に設けられている場合には、鋳造時にタブ部へ溶湯が流れ込みにくいという問題がある。すなわち、従来から用いられている、基部の上部にタブ部が設けられた構造を有するストラップでは、タブ部の底面が基部の上面と接続することとなるため、溶湯が流れ込み易いように、基部とタブ部との接続面積を大きくすることが容易であった。さらに、基部の上部にタブ部が設けられている場合には、鋳造時にタブ部が基部に対して重力方向下方となるため、基部から注湯した場合にタブ部に溶湯が流れ込み易い。一方、基部の側方にタブ部を設けたストラップの場合には、基部の側面とタブ部の側面との接触領域が基部とタブ部との接続面積となるため、基部とタブ部との接続面積が小さくなる。
【0047】
本実施形態に係るストラップ20においては、タブ部30が、第1傾斜面36および第2傾斜面37を備える傾斜部35を有している。また、第1傾斜面36および第2傾斜面37は、基部21側の幅である第1幅W1が、基部21とは反対側(板状部31側)の幅である第2幅W2よりも大きくなっている。そのため、基部21側から注湯した場合に、ストラップ20が傾斜部35を有していない構成に比べて、基部21側からタブ部30側へと溶湯が流れ込み易くなるという効果を奏する。その結果、ストラップ20を鋳造するために必要な時間が短くなり、鉛蓄電池100の生産性を向上させることができる。
【0048】
本実施形態に係るストラップ20のように、タブ部30の少なくとも一部が基部21に対して第3方向D3側に位置している場合には、基部の上部にタブ部が設けられている形状のストラップに比べて、離型時にタブ部30が離型しにくく、離型不良が生じるという問題がある。すなわち、基部の上部にタブ部が設けられている形状のストラップを離型するときには、鋳型の下方から基部を押圧することで、ストラップの重心近くを押圧することができる。そのため、基部だけでなく、タブ部も離型しやすい。一方、本実施形態に係るストラップ20は、タブ部30が第3方向D3側に位置している。そのため、上述した形状に比べて、ストラップ20の重心がタブ部30側にずれている。これにより、鋳型の下方から基部21を押圧した場合には、タブ部30が離型しにくい。
【0049】
本実施形態に係るストラップ20は、傾斜部35の第1傾斜面36および第2傾斜面37と、セル間接続部40との間に、第1傾斜面36および第2傾斜面37よりも緩やかな傾斜を有する肩部38を備える。このように、ストラップ20が肩部38を有していることにより、ストラップ20の鋳造後の離型時において、鋳型の下方から肩部38をピンで押圧しながら離型することができ、ストラップ20を容易に離型することが可能となる。これにより、ストラップ20の離型不良を防止し、鉛蓄電池100の生産性を向上させることができる。
【0050】
また、ストラップ20は、タブ部30の傾斜部35が複数の傾斜面(第1傾斜面36および第2傾斜面37)を備える。このように、ストラップ20が複数の傾斜面を備えていることにより、タブ部30の最小断面積である第2断面積を大きくすることが容易となる。また、傾斜部35が複数の傾斜面を有していることにより、ストラップ20の鋳造時に、タブ部30への湯流れがより一層良くなり、ストラップ20の成形性を向上させることができる。
【0051】
〔変形例〕
以下、本発明の変形例について、図面を用いて説明する。なお、説明の便宜上、実施形態において説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を省略する。
【0052】
(変形例1)
図6は、変形例1に係るストラップ201を示す図であり、
図6の(a)は斜視図を、
図6の(b)は上面図を示している。
【0053】
図6に示すように、変形例1に係るストラップ201のタブ部30は、実施形態に係る傾斜部35とは、異なる形状の傾斜部351を備える。
【0054】
ストラップ201の傾斜部351は第1傾斜面36および第2傾斜面37を備える。傾斜部351は、第2方向D2上方から平面視(上面視)した場合において、実施形態に係る傾斜部35に対して第1方向D1の幅は同じであるが、第3方向D3の幅が広い形状を有している。すなわち、実施形態に係る傾斜部35は、基部21の上面23の第3方向D3の全幅に亘って形成されていないのに対して、変形例1に係る傾斜部351は、基部21の上面23の第3方向D3の全幅に亘って形成されている。
【0055】
このような形状とすることで、変形例1に係るストラップ201は、実施形態に係るストラップ20に比べて使用する鉛量が増えるため、質量は増加するものの、実施形態に係るストラップ20と同様の効果を奏する。
【0056】
(変形例2)
図7は、変形例2に係るストラップ202を示す図であり、
図7の(a)は斜視図を、
図7の(b)は上面図を示している。
【0057】
図7に示すように、変形例2に係るストラップ202のタブ部30は、実施形態に係る傾斜部35とは、異なる形状の傾斜部352を備える。
【0058】
ストラップ202の傾斜部352は、第1傾斜面36および第2傾斜面37を備える。傾斜部352は、第2方向D2上方から平面視(上面視)した場合において、実施形態に係る傾斜部35に対して第1方向D1の幅が広く、また第3方向D3の幅が広い形状を有している。すなわち、変形例2に係る傾斜部352は、基部21の上面23の略全面に亘って形成されている。
【0059】
このような形状とすることで、変形例2に係るストラップ202は、実施形態に係るストラップ20に比べて使用する鉛量が増えるため、質量は増加するものの、実施形態に係るストラップ20と同様の効果を奏する。
【0060】
(他の変形例)
上述した実施形態においては、傾斜部35が第1傾斜面36と第2傾斜面37とを備える例を示した。しかしながら傾斜部35は、傾斜面を1つのみしか備えていなくてもよく、さらに3つ以上の傾斜面を備えていてもよい。そのような場合であっても、傾斜面の第2幅W2よりも第1幅W1の方が大きくなっていることが好ましい。
【0061】
また、上述した実施形態においては、第1傾斜面36が、第1方向D1に平行な平面であり、第2傾斜面37が第3方向に平行な平面である例を示したが、本発明は、これに限られるものではない。すなわち、第1傾斜面36および第2傾斜面37は、第1方向D1と第3方向D3との何れにも交差するように設けられていてもよい。例えば、第1傾斜面36の基部21側の端部が、第1方向D1と第3方向D3との何れとも交差するように設けられていてもよい。さらに、第1傾斜面36および第2傾斜面37は、平面に限られず、曲面であってもよい。これらのような場合であっても、第1幅W1が、第2幅W2よりも大きくなっていれば、本発明に含まれる。
【0062】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0063】
〔まとめ〕
(1)本発明の一態様に係る鉛蓄電池100は、正極板3と負極板2とがセパレータ4を介して交互に積層され、耳部(正極耳部3a、負極耳部2a)を有する極板群11と、極板群11の耳部(正極耳部3a、負極耳部2a)に接続されたストラップ20,201,202と、極板群11およびストラップ20,201,202を各々に収納する複数のセル室14とを備える鉛蓄電池100であって、正極板3と負極板2とが積層される方向を第1方向D1とし、極板群11と耳部(正極耳部3a、負極耳部2a)との接続方向を第2方向D2とし、第1方向D1および第2方向D2に直交する方向を第3方向D3とした場合に、ストラップ20,201,202は、耳部(正極耳部3a、負極耳部2a)が接続される接続領域22aを有する基部21と、少なくとも一部が基部21に対して第3方向側D3に位置するタブ部30と、タブ部30から第1方向D1に突出し、隣接するセル室14に収納された極板群11同士を電気的に接続するセル間接続部40と、を備え、第1方向D1に垂直な面におけるセル間接続部40の最小断面積を第1断面積とし、接続領域22aとセル間接続部40とが一方の側と他方の側となるように、ストラップ20,201,202を分ける平面Pにおけるストラップ20,201,202の最小断面積を第2断面積とした場合に、第2断面積は、第1断面積よりも大きくなっている。
【0064】
上記の構成によれば、想定以上の大電流が、鉛蓄電池100に流れた場合に、セル間接続部40よりもタブ部30が先に溶融してしまうことを抑制することができる。その結果、ストラップ20,201,202が大電流により溶融してしまったとしても、ストラップ20,201,202から溶融した鉛が極板群11上へ滴下することによる短絡が生じにくくなる。そのため、本態様に係る鉛蓄電池100は、想定以上の大電流が流れた場合であっても、使用不能になり難い。
【0065】
(2)本発明の一態様に係る鉛蓄電池100は、タブ部30が、第2方向D2と交差し、基部21と接続する傾斜面(第1傾斜面36、第2傾斜面37)と、傾斜面(第1傾斜面36、第2傾斜面37)よりもセル間接続部40側に設けられ、傾斜面(第1傾斜面36、第2傾斜面37)よりも緩やかな傾斜を有する肩部38と、を備えていてもよい。
【0066】
上記の構成によれば、ストラップ20,201,202が肩部38を有していることにより、ストラップ20の鋳造後の離型時において、鋳型の下方から肩部38をピンで押圧することができ、ストラップ20,201,202を容易に離型することが可能となる。これにより、ストラップ20,201,202の離型不良を防止し、鉛蓄電池100の生産性を向上させることができる。
【0067】
(3)本発明の一態様に係る鉛蓄電池100は、タブ部30が、傾斜面(第1傾斜面36、第2傾斜面37)を備え、傾斜面(第1傾斜面36、第2傾斜面37)は、第2方向D2と交差し、基部21と接続しており、基部21側の幅を第1幅W1とし、基部21側とは反対側の幅を第2幅W2とした場合に、第2幅W2よりも第1幅W1の方が大きくなっていてもよい。
【0068】
上記の構成によれば、ストラップ20,201,202の鋳造時において、ストラップ20,201,202が傾斜部35を有していない構成に比べて、基部21側からタブ部30側へと溶湯が流れ込み易くなる。その結果、タブ部30への湯流れが良くなり、ストラップ20,201,202の成形不良を抑制することができる。
【0069】
(4)本発明の一態様に係る鉛蓄電池100は、タブ部30が、傾斜面(第1傾斜面36、第2傾斜面37)を備え、傾斜面(第1傾斜面36、第2傾斜面37)は、第2方向D2と交差し、基部21と接続しており、タブ部30が、傾斜面(第1傾斜面36、第2傾斜面37)を複数備えていてもよい。
【0070】
上記の構成によれば、ストラップ20,201,202が複数の傾斜面を備えていることにより、タブ部30の最小断面積である第2断面積を大きくすることが容易となる。また、傾斜部35が複数の傾斜面を有していることにより、ストラップ20,201,202の鋳造時に、タブ部30への湯流れがより一層良くなり、ストラップ20,201,202の成形性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0071】
2:負極板 2a:負極耳部(耳部) 3:正極板 3a:正極耳部(耳部) 4:セパレータ 11:極板群 14:セル室 20,201,202:ストラップ 22a:接続領域 30:タブ部 36:第1傾斜面(傾斜面) 37:第2傾斜面(傾斜面) 38:肩部 40:セル間接続部 100:鉛蓄電池 D1:第1方向 D2:第2方向 D3:第3方向 P:平面 W1:第1幅 W2:第2幅