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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】ボールペン
(51)【国際特許分類】
   B43K 7/08 20060101AFI20221025BHJP
   B43K 7/01 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
B43K7/08 100
B43K7/01
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018196864
(22)【出願日】2018-10-18
(65)【公開番号】P2020062837
(43)【公開日】2020-04-23
【審査請求日】2021-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000005511
【氏名又は名称】ぺんてる株式会社
(72)【発明者】
【氏名】初谷 洋勝
【審査官】金田 理香
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-343012(JP,A)
【文献】特開平11-070775(JP,A)
【文献】特開平07-172094(JP,A)
【文献】特開平08-228830(JP,A)
【文献】特開2001-080277(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 1/00 - 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筆記部材として筆記ボールを先端より一部突出してなるボールペンチップと、インキが収容されるインキ収容管とを連通するインキ流通孔内に先端に向かって拡径する座部と、前記ボールペンチップを上向きにした際に重力によって前記座部と当接する流通制御部材からなるボールペンにおいて、前記座部に前記流通制御部材と前記座部が当接した状態において、ボールペンチップ側のインキ流通孔とインキ収容管側のインキ流通孔とを連通させる隙間を形成した流通制御機構を有し、前記流通制御部材は球状であり、前記座部に形成された隙間のボールペンチップ側のインキ流通孔への開口部は、前記流通制御部材が前記座部に当接した状態において、前記流通制御部材の外周部よりも内側に開口しているボールペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記部材として筆記ボールを先端より一部突出してなるボールペンチップと、インキが収容されるインキ収容管とを連通するインキ流通孔内に先端に向かって拡径する座部と、ボールペンチップを上向きにした際に重力によって座部と当接する流通制御部材からなる逆流防止の流通制御機構を有するボールペンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ボールペンを使用中に誤って落下させてしまい、その際にペン先が上向きの状態であった場合、落下の衝撃でインキやインキ逆流防止体が後退すると共に、チップ先端に抱持された筆記ボールも後退してチップ先端開口部に隙間が形成され、ボールペンチップ内に空気が流入し、インキ収容管からインキが漏れ出すインキ逆流と言われる問題が生じることがあった。
【0003】
インキ逆流を防止するものとして、特許文献1には、ペン先チップとインキ収納部を繋ぐ接続部材にインキ導通穴が形成され、そのインキ導通穴内に弁座と、その弁座に当接する弁体が軸方向に移動可能に収納され、ペン先チップを上向きに位置させた際には弁座に弁体が当接し、インキ導通穴を閉塞するものが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、筆記先端部とインキ収容管を繋ぐ継ぎ手に貫通孔が形成され、その貫通孔に拡径する円錐状の弁座と、球状の弁体を備え、弁座には弁体と当接した際に空気流通が起こらない程度の一様な凹凸が形成され、弁座に弁体が張り付いてしまうことを防止したものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-70775号公報
【文献】特開2005-343012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
水を主溶剤とした水性インキやゲルインキは低温下においては凍結し、その際インキの体積は膨張することになる。
【0007】
その為、特許文献1のようにペン先が上向きの状態で弁体と弁座が当接し完全にインキ流通孔を閉塞するものでは、弁体よりもペン先側にあるインキは密閉された空間に在ることになり、そのような状態で低温下に置かれインキが凍結し体積が膨張すると、ペン先内の圧力が上昇し、ペン先の筆記ボールが外れてしまったり、ボールペンチップ先端が変形してしまうことがあった。
【0008】
また、特許文献2のように弁座にインキの逆流を起し得るような空気流通が起こらない程度に一様に凹凸を設けたものでは、インキが凍結する時の体積膨張をインキ収容管側に逃がすような作用は無く同様の問題が生じるものであり、従来の弁機構では使用できるインキは凍結時の膨張が少ないものや、凍結し難いものに限定されてしまうものであった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記問題点を鑑みてなされたものであり、筆記部材として筆記ボールを先端より一部突出してなるボールペンチップと、インキが収容されるインキ収容管とを連通するインキ流通孔内に先端に向かって拡径する座部と、ボールペンチップを上向きにした際に重力によって座部と当接する流通制御部材からなるボールペンにおいて、座部に流通制御部材と座部が当接した状態において、インキ及び空気を流通可能とした隙間を形成した流通制御機構を有するボールペンを第一の要旨とし、流通制御部材は球状であり、座部に形成された隙間は、流通制御部材が座部に当接した状態において、流通制御部材の外周部よりも内側に開口部を有していることを第二の要旨とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のように、座部に流通制御部材が当接した状態において、インキ及び空気を流通可能とした隙間を形成していることで、流通制御部材よりペン先側のインキが凍結する際の体積の膨張が隙間を通りインキ収容管側に逃がすことができ、ペン先内の圧力の上昇を抑え、ペン先の筆記ボール外れや変形を防止できる。
【0011】
また、ペン先が上向き状態で落下し、後端に衝撃を受けることによって、チップ先端に抱持された筆記ボールも後退してチップ先端開口部に隙間が形成され、ボールペンチップ内に空気が流入し、瞬間的にインキが下向き方向に動こうとしても、座部に形成された隙間は、流通制御部材の外周部よりも内側に開口部を有していることで、流通制御部材よりもペン先側にあるインキの下向き方向への圧力を流通制御部材が受けることにより分散させ、隙間内のインキに掛かる圧力を減少させることができるのでインキが動き難く、インキの逆流をも防止できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明のボールペン1の縦断面図
図2図1のI部拡大図
図3】ペン先上向き状態における図1のII部拡大図
図4図3のIII-III´断面矢視図
図5】ペン先下向き状態における図1のII部拡大図
図6図5のIV-IV´断面矢視図
図7】従来の弁機構を有するボールペン
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のボールペンの形態について説明する。尚、ボールペンチップがあるペン先方向を前方とし、その逆方向を後方とする。
【0014】
本発明のボールペンにて使用する筆記部材としての筆記ボールは紙面への引っ掛かり感等の書き味を考慮して直径は0.25mm~2.0mmのものが使用でき、紙面などの被筆記面と当接し後退することで、インキが吐出されるボールペンチップの先端開口部を開口し、被筆記面と非接触の状態では自重又は他部材の付勢力によって前進し先端開口部を閉塞してインキの吐出を停止する弁の役目を果たすと共に、表面に付着したインキを被筆記面に転写する役割を担うものであってよい。
【0015】
筆記時は筆記ボールの回転によって筆記感触が滑らかに感じられることから、真球に近いことが好ましく、その真球度は0.001μm~0.1μm程度が好ましく、表面粗さも筆記感触や表面へのインキの付着に重要な要因となるので算術平均粗さRa(JIS B 0601)は1.0nm~30.0nm程度が好ましい。このような筆記ボールの材質としては、タングステンを主成分とした超硬合金や、ステンレス、アルミ、スチール等の金属や、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂といった樹脂材料や、セラミックス、ガラスなどを研磨して製造することができるが、インキとの反応や比重といった点からステンレス、超硬合金やセラミックスが好ましい。
【0016】
ボールペンチップは、内孔をインキの流通路とすると共に、前述の筆記ボールを、先端より一部突出して抱持するボールホルダーを有している。ボールホルダーは、中心孔と放射状溝を形成した内方突出部を筆記ボールの後方移動規制部とし、筆記ボールをセットした後に先端開口部縁を外方より内側に塑性変形させて先端に向かって次第に縮径する所謂かしめ加工によって先端開口部の開口径が筆記ボール径の70%~99%になるようにかしめ部を形成し筆記ボールの抜け止めをなす。
【0017】
ボールペンチップの、このかしめ部分より後方も、筆記時の先端視認性の為、先端側に向かって縮径したテーパー形状に形成されていることが好ましいが、小径のパイプ部材を加工して得られるパイプ式ボールペンのように既に視認性が担保されている場合にはこの限りではない。
【0018】
内包突出部に形成される放射状溝の数は、2箇所以上の複数箇所が形成されるが、筆記ボールが位置するボールホルダー内に積極的にインキを供給する部分となるので、筆記方向によるインキ流通の偏りが無いように、周状に満遍なくインキを供給するためには幅広で多くの数の溝を形成するのが好ましいが、内包突出部は筆圧を主に受ける部分ともなるので、筆記ボールの後方移動規制部分としての強度とのバランスをとる必要がある為、放射状溝の幅は0.01mm~0.5mmで数は2箇所~8箇所程度が好ましい。
【0019】
インキを収容するインキ収容管は、ポリエチレンやポリプロピレン製の押し出し成形パイプを使用することができる。内外の形状が押し出し成形にそぐわない程度に複雑なものについては、インジェクション成形品としてもよい。
【0020】
ボールペンチップ内にインキを供給する為に、直接収容したインキを自己の流動性や表面張力、壁部材との濡れにて漏れ出さない程度に移動を制御する必要があるので、パイプの内径は1.0mm~7.0mm程度が好ましく、インキの揮発性や製造時の圧入等の組み立て易さを考慮すると、肉厚は0.3mm~4.0mm程度が好ましい。
【0021】
また、インキ界面に高粘度流体や固体移動栓などのインキ逆流防止体を配置しても良い。また、縦断面櫛歯状のインキ供給制御部材とインキ中継部材にてボールペンチップ内にインキ供給制御するものとしても良い。更に、繊維収束体などをインキ保持部材として配置してもよい。
【0022】
インキ収容管とボールホルダーとの間に、流通制御部材を配置してインキの逆流後方移動を抑制する。
【0023】
流通制御部材を配置する位置は、インキ収容管の先端側の内部でも、ボールペンチップの内孔の後端側でもかまわないが、インキ収容管とボールペンチップの間に調整のための中継部材であるチップホルダー内に配置することが部品製造上有利である。
【0024】
チップホルダー内に貫通して形成されたインキ流通孔に、先端側に向かって拡径する座部を形成し、流通制御部材の後退規制をすると共に、チップホルダーの先端側は流通制御部材が通過しえる程度に開口させておくことで、製造過程において流通制御部材の設置が障害なく行え、組み立て完了時にはボールペンチップの後端部にて流通制御部材の前方移動規制をなすことができる。流通制御部材が配置されるチップホルダーの先端側開口部の径は流通制御部材に対して小さいとインキの流通を阻害してしまったり、逆に大きいと流通制御部材の稼動範囲が大きくなり過ぎて動きが不安定になったりする為、流通制御部材を球状とした場合、その径に対して105%~200%で形成しておくのが好ましい。
【0025】
また、チップホルダーのインキ流通孔の先端側に流通制御部材の前方移動規制となる内方に突出する突起を形成することもできる。その場合、流通制御部材の設置時には流通制御部材を押し込むことにより前記突起を乗り越えて配置することとなる。
【0026】
流通制御部材としては、タングステンを主成分とした超硬合金や、ステンレス、アルミ、スチール等の金属や、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂といった樹脂材料の射出成形品や、セラミックス、ガラスなど適宜の材料のものとすることができ、また、形状も、球状、円柱状、紡錘状など所望の形状とすることができる。
【0027】
球状にした場合には設置の方向性を気にする必要がないので好ましい。また、金属などの比重を大きくすることで、インキに浴している状態でも確実に移動してインキの逆流後方移動を抑制することができる。また、移動し易くするには径を大きくし重量を重くすることも有効なので、流通制御部材の直径は0.5mm~2.5mm程度が好ましい。
【0028】
流通制御部材と座部との当接状態において、インキ及び空気を流通可能とする隙間を形成する手段としては、座部に1箇所、もくしは中心軸から放射状に複数の溝を形成したり、座部の表面上に中心軸から放射状、もしくはランダムに複数の凸部を形成し、その凸部の上に流通制御部材が当接し、凸部間にできる空間を利用したり、螺旋状の溝を形成するといった手段がある。
また、流通制御部材を多面体といった非球状にする事で座部の表面に凸部や溝等を形成しなくとも流通制御部材と座部との間に空間ができ、それを隙間とする手段などが挙げられる。この中でも流通制御部材と座部との当接状態が安定し、インキの流通する量の制御が安定し易い観点から、座部に中心軸から放射状に等間隔に複数の溝を形成するのが好ましい。
【0029】
ここで、座部に形成したインキ及び空気を流通可能な隙間の開口部を流通制御部材の外周部よりも内側に形成することで、後方移動しようとするインキが直接的に隙間に流入するようなことを防ぐことができるが、隙間の開口部の全てが安定して流通制御部材の外周部よりも内側に位置させる手段としては、流通制御部材は球状とし、座部に形成する隙間は放射状の複数の溝とし、該溝の外周径を流通制御部材の直径よりも小さくなるように形成するが、溝の外周径が流通制御部材の直径に対して小さ過ぎると、インキの流通が不十分になってしまう為、溝の外周径は流通制御部材の直径に対して70%~98%程度に形成しておくことが好ましい。
【実施例
【0030】
本発明の実施例について図面をもって説明する。
【0031】
図1は、外装体に収容されて使用されることを想定した、ボールペン1の縦断面図を示す。ボールペン1の前方先端にはボールペンチップ2がチップホルダー3の前方開口部に圧入固定され、チップホルダー3の後方開口部は、インキ収容管4が圧入固定されている。そして、インキ収容管4内にはインキ5が収容されており、また、インキ5と後端界面に接して、インキ5と実質的に相溶しないインキ逆流防止体6が配置されている。
【0032】
ボールペンチップ2の詳細について、図1のI部拡大図である図2にて説明する。
【0033】
ボールペンチップ2の前方先端には、筆記部材としての筆記ボール7を、ボールホルダー8に形成された内孔9の先端開口部より一部突出した状態で回転自在に抱持している。
【0034】
内孔9には筆記ボール7の後方移動規制部として、中心孔10と放射状溝11を有する内方突出部12が形成されており、先端開口部は先端に向かって縮径するかしめ部13によって筆記ボール7の抜け止めをなしている。
【0035】
流通制御機構について図1のII部拡大図である図3及び図3のIII―III´断面矢視図である図4にて説明する。尚、図3はペン先を上向きにした状態である。
【0036】
チップホルダー3に形成されたインキ流通孔14には、前方であるペン先側に向かって拡径する座部15が形成され、座部15とボールペンチップ2との間のインキ流通孔14a内に流通制御部材16が前後移動可能な状態で収納されている。そして、ペン先を上向きにした際、重力によって流通制御部材16は後方に移動し、座部15と当接するが、その当接した状態にあって、ボールペンチップ2側のインキ流通孔14aとインキ収容管4側のインキ流通孔14bとを連通するように隙間17が形成されている。
【0037】
つまり、ペン先が上向きの状態においては、インキ流通孔14aとインキ流通孔14bは直接繋がっておらず、隙間17がインキ5の通り道となることでインキ流通を制御するものである。
【0038】
隙間17は流通制御部材16と座部15が当接した状態において、インキ5の凍結や温度によるボールペンチップ2内の圧力上昇のようなインキ5がゆっくりと動こうとする場合は流通し、ペン先が上向き状態で落下し、後端に衝撃を受けた時のような強く瞬間的な動きに対しては流通しないようにする為に小さい隙間が好ましい。
【0039】
実施例においては、図3図4に示すようにインキ流通孔14の中心軸から放射状に溝を形成し隙間17としているが、その数や大きさは特に限定されるものでなく、インキ5の凍結過程においてインキ5をインキ流通孔14b側に円滑に移動させる為に、幅を0.05mm以上0.3mm以下、深さ(インキ流通孔14b側への軸方向の開口部の長さ)を0.05mm以上1.0mm以下とし、数は2箇所~8箇所程度が好ましい。
【0040】
また、隙間17はインキ流通孔14bの途中で留めてあるが、そのままインキ収容管4に向かって連通させても構わない。
【0041】
また、ペン先が上向き状態で落下し、後端に衝撃を受け、瞬間的にインキ5が下向き方向に動こうとする力を流通制御部材16によって分散させ、隙間17内のインキ5を動き難くし、インキ逆流後方移動をより確実に防止する為に、隙間17は図4にて点線で示す流通制御部材16の外周部の内側に開口部を有していることが好ましい。
【0042】
座部15は、ペン先を上向きにした際に流通制御部材16が確実かつ安定した位置で座部15と当接する為に、ペン先方向に向かって拡径する円錐状で、その座部15の開き角度αは20°以上180°以下が好ましいが、インキ5の凍結時に流通制御部材16が座部15に押し付けられ食い付けてしまうことを防止する為に、40°以上100°以下がより好ましい。また、曲面を持って拡径していく形状でも構わない。
【0043】
座部15が形成されているチップホルダー3は、ポリプロピレン樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエーテルケトン樹脂などの合成樹脂の押し出し成形、又は射出成形にて成形したものや、アルミニウムやステンレス、真鍮などの銅合金等の金属が使用できる。
【0044】
流通制御部材16は、方向に関係なく座部15と安定して当接する為には球状とし、流通制御部材16の直径Aは、チップホルダー3のインキ流通孔14bの内径Bよりも大径であれば適宜変更可能である。
【0045】
図5はペン先を下向きにした状態のII部拡大図を示し、図5のIV―IV´断面矢視図を図6に示す。筆記時のようにペン先が下向きの状態においては、流通制御部材16は前方へ移動してボールペンチップ2の後端部18に当接し前方への移動が規制される事で、先端の筆記ボール7へのインキ5の供給を確保するものである。
【0046】
実施例におけるボールペンチップ2の後端部18の形態としては、ブローチ加工によって中心方向に倒れ込ませ突起部を形成しているが、ボールペンチップ2の後端外壁面を押圧治具にてポンチ加工を行い、内側に凸部を形成したり、ボールペンチップ2の後端内壁面にチップホルダー3のインキ流通孔14aに連通する複数の溝を形成したり、ボールペンチップ2の後端面を円形状では無く楕円形状や多角形状に変形させたものでも良い。
【0047】
更には、チップホルダー3のインキ流通孔14a内の流通制御部材16の前方に平板状やスプリングのようなコイル状の規制体を配置したり、筆記ボール7を押圧する為にボールペンチップ2の内孔9に配置されるスプリングのコイル部をボールペンチップ2の後端面よりも外側に突出させ、そのコイル部に流通制御部材16を当接させるものでもよく、筆記ボール7へのインキ5の供給を十分に確保できるのであれば、その形態は特に限定されるものではない。
【0048】
インキ5は、主溶剤として水を多く使用している水性インキやゲルインキに用いると、高い効果を得ることができるが、油性インキに用いても良く、また、顔料にアルミ粉体や酸化チタンといった大径粒子を配合したインキでもよく、特に限定されるものではない。
【0049】
前述した実施例に基づき、流通制御部材16の直径A、チップホルダー3のインキ流通孔14bの内径B、隙間17の外接径C、隙間17の数を様々になるように実施例1~実施例10及び比較例1~比較例6を作製し、以下の試験を実施した。
【0050】
尚、いずれもボールペンチップ2の筆記ボール7は、直径1.0mmで炭化ケイ素を主成分としたセラミックス焼結体(商品名:ブラックサファリン、(株)ツバキナカシマ製)で、筆記ボール7の算術平均粗さRa(JIS B 0601)は3.0nmのものを使用した。
【0051】
また、ボールホルダー8の材質は、ステンレス(商品名:SF20T、下村特殊精工(株)製)で、ビッカース硬度(HV)は240のものを使用した。
【0052】
チップホルダー3は、ポリブチレンテレフタレート樹脂で射出成形にて成形したものを使用し、座部15は、円錐状として座部15の開き角度αを、90°とした。
【0053】
流通制御部材16の材質は、タングステンを主成分とした超硬合金製(商品名:PB11、(株)ツバキナカシマ製)を使用した。
【0054】
インキ収容管4は、ポリプロピレン樹脂の押し出し成形にて成形したパイプを使用しており、その内径は直径3.0mm、厚さ0.5mmのパイプとした。そして、インキ5の量を0.75g、インキ逆流防止体6を0.1g充填したものとした。
【0055】
インキ5は、
エルジーneo BLUE #325(光輝性顔料、金属蒸着フィルム、尾池工業(株)製) 4.0重量%
ウォーターブルー119(オリエント化学工業(株)製) 0.2重量%
ダイワレッドNo.106WB(ダイワ化成(株)製) 1.0重量%
ケルザンAR(キサンタンガム、三晶(株)製) 0.2重量%
BG3810(ウェランガム、三晶(株)製) 0.3重量%
ヒドロキノンスルホン酸カリウム(和光純薬工業(株)製) 0.3重量%
Joncryl PDX 7430(アクリル系エマルジョン、BASF(株)製)
5.0重量%
アミソフトCS11(ココイルグルタミン酸ナトリウム、味の素ヘルシーサプライ(株
)製) 1.0重量%
TSA739(シリコーン消泡剤、(株)タナック製) 0.1重量%
プロクセルGXL(S)(1,2-ベンゾイソチアザリン-3-オンを含む防腐防黴剤、
アーチ・ケミカルジャパン(株)製) 0.2重量%
サンアイバックソジウムオマジン(2-ピリジンチオール-1-オキサイド・ナトリウム
塩を含有する防腐防黴剤、三愛石油(株)製) 0.2重量%
ベンゾトリアゾール(防錆剤) 0.1重量%
AKP-20(アルミナ、住友化学工業(株)製)のグリセリン溶液 0.1重量%
グリセリン 10.0重量%
水 77.3重量%
上記成分の内、ケルザンARおよびイオン交換水20.0重量%を混合し、1時間攪拌してケルザンAR水溶液を調整した。次いで残りの成分を混合し、2時間攪拌して、10%水酸化ナトリウム水溶液でインキ9のpHを8.5に調整し、粘度が10100mPa・S(25℃、せん断速度0.35s-1)の水性インキ組成物とした。
【0056】
インキ逆流防止体6は、
ルーカントHC100(エチレンAオレフィン、基材、三井石油化学工業(株)製)
93.0重量%
アエロジルR974(微粒子シリカ、ゲル化剤、日本アエロジル(株)製)
4.0重量%
レオパールKL(デキストリン脂肪酸エステル、千葉製粉(株)製) 1.5重量%
KF-410(変性シリコーンオイル、信越シリコーン(株)製) 1.5重量%
上記成分を混合し、ホットスターラーで150℃にて2時間攪拌し粘度40000mPa・S(25℃)のものとした。
【0057】
比較例1、比較例2は流通制御部材16を配置しない従来のボールペンの形態であり、比較例3~比較例6は、図7に示すように、隙間17を形成していない従来の弁機構のものである。
【0058】
また、作製したボールペン1は、外装体(ぺんてる株式会社製、ハイブリッド、製品符号:K105-GA)に収容して試験を実施した。
【0059】
実施例1~実施例10及び比較例1~比較例6の各寸法と試験結果を表1に示す。
【0060】
(ペン先上向き落下インキ洩れ試験)
作製したボールペンサンプルを、ペン先を上向きでキャップをしない状態で高さ15cmの位置からコンクリートの上に落下させて、ペン先上向きの状態のまま3分間放置し、ボールペン1後端からのインキ洩れの状態を確認する。
【0061】
○:インキ移動はほとんど無く初期の状態を維持しているもの
△:インキが初期の位置よりやや後端側に移動しているが筆記性能は問題ないもの
×:インキが初期の位置より大きく後端側に移動、もしくはボールペン1後端より洩れだしており、筆記不能となってしまったもの
(低温放置後、ボールペンチップ2の先端部の変形確認)
作製したボールペンサンプルを、ペン先を上向きでキャップをしない状態で-20℃の環境下に24時間放置後、室温に戻しボールペンチップ2の先端部の状態を確認する。
【0062】
○:ボールペンチップ2の先端部に、変形等の異常は無いもの
△:筆記ボール7は残っているが、ボールペンチップ2先端部に、変形があるもの
×:ボールペンチップ2の先端部から筆記ボール7が外れてしまったもの
【0063】
【表1】
表1に示した結果より、流通制御機構を設けた実施例1~実施例10はインキ5の凍結時の体積膨張による、ボールペンチップ2の先端部の変形や筆記ボール7の外れを防止しつつ、ペン先上向き時の落下衝撃によるインキ5の洩れを防止できるものが得られた。
【0064】
更に、実施例1~実施例6は隙間17の外接径Cを流通制御部材16の直径Aよりも小さくする事で隙間17の開口部を流通制御部材16の外周部よりも内側にしたことにより、ペン先上向き落下インキ洩れ試験ではインキの移動はほとんど無く、より効果の高い結果が得られた。
【0065】
比較例1、比較例2は流通制御部材16を配置していないので、ペン先上向き落下インキ洩れ試験においては、インキ5の逆流後方移動を抑制する事ができずにインキ洩れが発生してしまっている。
【0066】
また、比較例3~比較例6は隙間17を形成していない従来の弁機構のもので、ペン先上向き時の落下の衝撃によるインキ5の移動は完全に防止できるが、インキ凍結時の体積膨張を逃がし圧力上昇を抑えることができないので、筆記ボール7の外れ、もしくはボールペン2の先端部の変形に繋がってしまっている。
【0067】
その中で比較例5、比較例6は筆記ボール7の外れには至っていないが、これは、流通制御部材16の直径Aとチップホルダー3のインキ流通孔14bの内径Bの差が小さい為、インキ5の体積膨張時に流通制御部材16が座部15側に押し付けられ、食い込んでしまった為、わずかにチップホルダー3のインキ流通孔14a内の容積が増加し、筆記ボール7に掛かる圧力が低下したものと推察できる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本実施例のボールペン1は、外装体に収容していたが、外装体自体をインキ収容管4として直接インキ5を収容している、所謂直液式といわれる形態にすることも可能である。
【0069】
また、ペン先を上向きに使用するアイシャドウやアイライナーなどの化粧品に用いても良く、あるいは、食用に適したインキを充填すれば、クッキーやビスケットなどの食品に描くことも可能である。
【符号の説明】
【0070】
1 ボールペン
2 ボールペンチップ
3 チップホルダー
4 インキ収容管
5 インキ
6 インキ逆流防止体
7 筆記ボール
8 ボールホルダー
9 内孔
10 中心孔
11 放射状溝
12 内包突出部
13 かしめ部
14 インキ流通孔
14a インキ流通孔
14b インキ流通孔
15 座部
16 流通制御部材
17 隙間
18 後端部
A 流通制御部材16の直径
B チップホルダー3のインキ流通孔14bの内径
C 隙間17の外接径
α 座部15の開き角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7