(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】成型加飾用化粧シート
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20221025BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20221025BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
B32B27/00 E
B32B27/30 Z
B29C45/14
(21)【出願番号】P 2018197558
(22)【出願日】2018-10-19
【審査請求日】2021-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(72)【発明者】
【氏名】永田 絵理子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 良介
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-347089(JP,A)
【文献】特開2001-232660(JP,A)
【文献】特開2000-141549(JP,A)
【文献】特開2000-108160(JP,A)
【文献】特開2009-101520(JP,A)
【文献】特開2012-139914(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
B29C45/00-65/82
C08J7/04-7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明フィルム層、絵柄印刷層、接着剤層、基材シート層をこの順に有する成形加飾用化粧シートであって、基材シート層が黒色アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂シートであり、接着剤層が
2層からなり、絵柄印刷層に接する層にのみ白色顔料が含まれている感熱接着剤層であることを特徴とする成形加飾用化粧シート
【請求項2】
接着剤層に含まれる白色顔料は、酸化チタンであり、含有量が5%以上30%以下であることを特徴とする請求項1に記載の成形加飾用化粧シート。
【請求項3】
透明フィルム層の表面に表面保護層を有することを特徴とする請求項1または2に記載の成形加飾用化粧シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧シートに関し、特にプラスチック成型品の表面に貼付して加飾するために使用する成型加飾用化粧シートに関する。
【背景技術】
【0002】
店舗や住宅、車両等の内装、住宅、家具の外装などに用いる3次元形状の製品の表面を加飾する方法に関する技術が種々提案されている。例を挙げれば3次元形状の成型品に対して、水圧転写などの手法を用いて後加工で絵付けをする方法や、厚手の化粧シートを真空圧空成型する方法、さらには、この方法で予備成型したものを成形型内にセットしてインジェクション成形で一体化するインモールド成形法、あるいはインジェクション成形時に型内で成型と同時に絵柄の転写を行うインモールド転写法等が知られている。
【0003】
このような種々の加飾方法に対して、これに適した化粧シートも種々提案されている。特許文献1に記載された化粧シートは、折り曲げ、複雑な形状への張り付け等の二次加工性が良好な化粧シートである。この化粧シートは、基材フィルムおよび透明被覆フィルムに、フィルムの流れ方向およびこれに対して直角な方向の引張弾性率がいずれも300~2000MPaで、同様に引張破断伸度が30~500%で、少なくとも一方向に降伏点を持たないポリオレフィン系フィルムを用いたことを特徴とする化粧シートである。
【0004】
また、特許文献2に記載された印刷化粧積層材は、上記の用途を目的とした化粧材であり、印刷模様の深味感を向上させた化粧材である。この化粧材は、基材上に、印刷層と、透明樹脂層とが積層された印刷化粧積層材であって、印刷層と透明樹脂層との間に、着色層が介在していることを特徴とする化粧材である。
【0005】
また特許文献3に記載された化粧シートは、自動車の内装部品等に用いられるABS樹脂成型品の加飾用として使用する化粧シートであり、リサイクル時に化粧シートを剥離除去する必要がない、リサイクル性に優れた化粧シートである。
【0006】
従来自動車部品に用いる合成樹脂としてABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂)は広く用いられているが、コストダウンを目的としてリサイクル材料を混合して使用される場合が多い。このため樹脂コンパウンドの色調のばらつきを防止するために黒色に着色したコンパウンドが使用される場合が多かった。
【0007】
そこで、成形品の表面に用いる化粧シートについても、色調のばらつきや、成形時に生じる傷や欠点を防止したり、目立たなくするために、裏面に黒色のABS基材シートを用いる事が、一般的となっている。
【0008】
一方、近年自動車用の内装シートには、意匠性を向上するために、住空間で用いられるような明色系の木目柄や幾何学模様などを展開する動きがある。住空間で用いられている化粧シートは、茶系やクリーム系の色調の着色基材シートが一般的に用いられているため、自動車内装用の黒色基材シートは、住空間で用いられている明色系の絵柄を自動車内装に展開する上での障害となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平10-67081号公報
【文献】特開平8-52759号公報
【文献】特開2001-334609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の解決しようとする課題は、黒色基材シートを用いても明色系の絵柄の意匠性が損なわれない成形加飾用化粧シートを提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、透明フィルム層、絵柄印刷層、接着剤層、基材シート層をこの順に有する成形加飾用化粧シートであって、基材シート層が黒色アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂シートであり、接着剤層が2層からなり、絵柄印刷層に接する層にのみ白色顔料が含まれている感熱接着剤層であることを特徴とする成形加飾用化粧シートである。
【0012】
本発明に係る成形加飾用化粧シートは、印刷済み透明フィルム層と黒色基材シート層とを貼り合わせるための接着剤層に白色顔料を添加したことにより、明色系の絵柄の意匠性が損なわれることが軽減される。
【0013】
また、請求項2に記載の発明は、接着剤層に含まれる白色顔料が、酸化チタンであり、含有量が5%以上30%以下であることを特徴とする請求項1に記載の成形加飾用化粧シートである。
【0015】
また、請求項3に記載の発明は、透明フィルム層の表面に表面保護層を有することを特徴とする請求項1または2に記載の成形加飾用化粧シートである。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る成形加飾用化粧シートは、印刷済み透明フィルム層と黒色基材シート層とを貼り合わせるための接着剤層に白色顔料を添加したことにより、基材シート層の黒色が隠蔽され、このため明色系の絵柄の意匠性が損なわれる事が軽減された。
【0017】
請求項2に記載の発明のように、接着剤層に含まれる白色顔料が、酸化チタンであり、その含有量を5%以上30%以下とした場合には、隠蔽性と接着性とを高いレベルで両立させることができる。
【0018】
請求項1に記載の発明のように、接着剤層を2層とし、絵柄印刷層に接する層にのみ白色顔料が含まれるようにした場合には、隠蔽性と接着性とを高度にバランスさせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明に係る成形加飾用シートの基本的な実施形態を模式的に示した断面説明図である。
【
図2】
図2は、本発明に係る成形加飾用シートの他の実施形態を模式的に示した断面説明図であり、接着剤層が2層からなる例である。
【
図3】
図3は、本発明に係る成形加飾用シートの他の実施形態を模式的に示した断面説明図であり、表面保護層を有する例である。
【
図4】
図4は、本発明に係る成形加飾用シートを用いて作成された加飾成形品の一例を示した断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る成形加飾用化粧シートについて詳細に説明する。
図1は、本発明に係る成形加飾用シートの基本的な実施形態を模式的に示した断面説明図である。
図4は、本発明に係る成形加飾用シートを用いて作成された加飾成形品の一例を示した断面説明図である。本発明に係る成形加飾用シート1は、成形品の表面を加飾するために用いる化粧シートである。基本的な構成としては、透明フィルム層3、絵柄印刷層4、接着剤層5、基材シート層8をこの順に有する。基材シート層8は黒色アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂(以下ABS樹脂と略す)シートであり、接着剤層5が白色顔料を含む感熱接着剤層であることを特徴とする。
【0021】
本発明に係る成形加飾用化粧シート1は、
図4に示したような3次元形状の成形品10の表面化粧材として用いられる。成形品10は、成形基材9の表面に成形加飾用シート1が貼着された構造である。成形基材9には、既述の通り、リサイクル材を含む黒色のABS樹脂が用いられることが多い。成形基材9の表面に成形加飾用シート1を貼着する方法としては、成形加飾用シート1を予め真空成形法や真空圧空成型法等の方法で予備成形し、所定の外形に裁断したものを成形型内に設置し成形基材を射出成形して一体化するインモールド成形法等が用いられる。
【0022】
本発明に係る成形加飾用化粧シート1は、透明フィルム層3の裏面に絵柄印刷層4を印刷形成し、この印刷面を基材シート層8の表面に接着剤層5を介して貼り合せた構造であり、接着剤層5は、白色顔料を含む感熱接着剤層であることを特徴とする。
【0023】
印刷原反となる透明フィルム層3としては、透明性や印刷適性に加えて、耐光性、耐候性、耐傷付き性、成形性等を兼ね備えることが要求されることが多い。これらの要求品質をバランス良く満たし、さらにコストも考慮すると、アクリル樹脂フィルムが最も適している。アクリル樹脂フィルムとしては、最も一般的なポリメチルメタアクリレート(PMMA)樹脂フィルムを用いることができる。
【0024】
透明フィルム層3としては、上記の要求品質の程度に応じて、他の材質のフィルムを使用することもできる。例を挙げれば、ポリ塩化ビニル樹脂フィルム、ポリ塩化ビニリデン樹脂フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂フィルム、ポリプロピレン樹脂フィルム、ポリスチレン樹脂フィルム、ポリカーボネート樹脂フィルム、エチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム等の単体フィルムあるいは、これらを組合わせた複層フィルムである。アクリル樹脂フィルムとこれらのフィルムを組み合わせても良い。
【0025】
絵柄印刷層4を印刷するために用いるインキの材質は、透明フィルム層3の材質に応じて選択される。透明フィルム層3がアクリル樹脂フィルムであれば、同じアクリル樹脂系のインキが最適である。印刷適性を向上させるために、アクリル樹脂に、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂を添加したり、ウレタン変性したりすることができる。
【0026】
基材シート層8は、成形加飾用化粧シートに厚さを持たせて、
図4に示した成形基材9と一体化させるための事前の予備成形等に対する成形性を担保するものであり、必ずしも成形基材9に用いる樹脂と同じ樹脂を用いる必要はないが、同系統の樹脂を用いるのが一般的である。
【0027】
本発明に係る成形加飾用化粧シートにおいては、基材シート層8として黒色アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)シートを使用する。ABS樹脂シートは、成形性と耐熱性のバランスが取れており、本発明の用途には最適である。また、黒色に着色したものを使用することで、成形基材9として多用される黒色リサイクル樹脂に対して、成形時の欠点を目立たなくさせる効果も有する。なお、ABS樹脂シートとして使用するABS樹脂としては、アクリロニトリルとブタジエンとスチレンを共重合させた一般的なABS樹脂の他、それぞれのポリマーを機械的に混練したポリマーブレンドタイプのABS樹脂を使用しても良い。
【0028】
印刷済みの透明フィルム層3と基材シート層8を貼り合わせるために使用する接着剤層5に用いる接着剤の樹脂系としては、特に制約はないが、被着体である透明フィルム層3、基材シート層8とも通気性が少ない状態で接着されるため、接着方式としては、接着時点で溶媒を介さない熱ラミネート法あるいはドライラミネート法が適当である。従って接着剤層5としては、感熱接着剤を用いることが必須である。
【0029】
接着剤層5に用いるバインダー樹脂としては、アクリル樹脂、アクリルポリオール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルポリオール樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂、酢酸ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂、エポキシ樹脂、ブチラール樹脂、シリコーン樹脂、合成ゴム系、ポリウレタン樹脂の単体または混合物が使用できる。これらに硬化剤として、ポリイソシアネートを併用しても良い。これらのバインダー樹脂に白色顔料を分散したものを接着剤として使用する。接着剤に、溶媒が含まれている場合には、塗布後に乾燥させて溶媒を除去した状態で貼り合わせる。溶媒を含まないホットメルトタイプの場合には、塗布後直ちに貼り合わせて冷却する。
【0030】
接着剤層5に用いる白色顔料としては、特に制約されず、酸化チタン、亜鉛華、リトポン、鉛白等の白色顔料を用いることができるが、酸化チタンが最も一般的である。酸化チタンであれば、その添加量は、接着剤層の固形分として5%以上30%以下が適当である。5%未満では隠蔽性が十分でない可能性があり、30%を超えると接着力が不十分となる惧れがある。
【0031】
図2は、本発明に係る成形加飾用シート1の他の実施形態を模式的に示した断面説明図であり、接着剤層5が2層からなる例である。この例では接着剤層5が、絵柄印刷層4に接する接着剤層Aと、基材シート層8に接する接着剤層Bとの2層からなり、接着剤層Aだけに白色顔料が分散されている。このようにすることにより、接着剤層Aの白色顔料分散量を限界まで上げることができ、これによる接着力の低下を接着剤層Bによって補完することができる。なお接着剤層5の総重量としては、単層の場合も2層の場合も、2g/m
2(dry)程度が適当である。
【0032】
図3は、本発明に係る成形加飾用シートの他の実施形態を模式的に示した断面説明図であり、表面保護層2を有する例である。表面保護層2は、成形品10の表面性能を向上させる目的で施されるものであり、耐傷性、耐汚染性を向上させる他、耐光性、耐候性、耐手あぶら性(耐指紋性)の改善や、肉持ち感、艶、手触り感など意匠的な向上を目的として設けられる。
【0033】
表面保護層2としては、アクリル樹脂系、フッ素樹脂系、シリコーン樹脂系等の樹脂ワニスに艶消剤、ワックス、紫外線吸収剤、レベリング剤等、必要な添加剤を適宜添加した透明樹脂塗料を塗布することにより形成することができる。なお、表面保護層は、成形品とした後に塗装によって形成されることもある。以下実施例に基いて、本発明に係る成形加飾用化粧シートについて具体的に説明する。
【実施例】
【0034】
<実施例1>
透明フィルム層として、厚さ125μmのアクリル樹脂フィルム(三菱ケミカル社製アクリプレン(登録商標))の裏面に、グラビア印刷法によりアクリルインキ(東洋インキ社製)を用いて絵柄印刷層を形成した。印刷面に接着剤層として、下記配合の感熱接着剤を塗工した。
(感熱接着剤の配合)
アクリル樹脂(東栄化成社製アクリナールLS#3002)とアクリル/塩酢ビ樹脂
(東洋インキ社製V424PVCプライマー)を68:32で混合し、樹脂液1とした。樹脂液1に酸化チタンを固形分比で80:20となるように分散混合した。
接着剤をバーコーターで2g/m2(dry)塗工し、40℃で30秒乾燥した後、140℃に加熱した熱ロールにより2m/分の速度で厚さ380μmの黒色ABS基材にラミネートして、成形加飾用化粧シートとした。
【0035】
<実施例2>
感熱接着剤の配合を樹脂液1:酸化チタン=90:10とした以外は、実施例1と同様にして成形加飾用化粧シートを作成した。
【0036】
<実施例3>
接着剤層を2層とし、1層目に樹脂液1:酸化チタン=70:30とした感熱接着剤を1g/m2(dry)塗工し、2層目に樹脂液1を1g/m2(dry)塗工した以外は、実施例1と同様にして成形加飾用化粧シートを作成した。
【0037】
<比較例1>
接着剤層として樹脂液1を2g/m2(dry)塗工した以外は、実施例1と同様にして成形加飾用化粧シートを作成した。
【0038】
<比較例2>
感熱接着剤の配合を樹脂液1:酸化チタン=95:5とした以外は、実施例1と同様にして成形加飾用化粧シートを作成した。
【0039】
得られた成形加飾用化粧シートについて、以下の評価を行った。
<外観(絵柄再現性)>
目視にて、想定した絵柄が再現できているか確認を行った。
○・・・想定した絵柄が再現できている。
×・・・想定した絵柄が再現できていない。
<外観(エア噛み)>
レーザー顕微鏡を用いてヒートシール層を観察した。
○・・・エア噛みおよび溶剤発泡なし。
×・・・エア噛みまたは溶剤発泡あり。
<接着性>
印刷面とABS基材を手で剥離し、剥離するかどうかを評価する。
○・・・界面剥離および凝集剥離なし。
×・・・界面剥離または凝集剥離あり。
【0040】
以上の結果を表1にまとめた。
【0041】
【0042】
表1の結果から、本発明に係る成形加飾用化粧シートの優位性が分かる。
【符号の説明】
【0043】
1・・・成形加飾用化粧シート
2・・・表面保護層
3・・・透明フィルム層
4・・・絵柄印刷層
5・・・接着剤層
6・・・接着剤層A
7・・・接着剤層B
8・・・基材シート層
9・・・成形基材
10・・・成形品