(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】毛髪化粧料
(51)【国際特許分類】
A61K 8/81 20060101AFI20221025BHJP
A61Q 5/00 20060101ALI20221025BHJP
C08F 18/08 20060101ALI20221025BHJP
C08F 26/06 20060101ALI20221025BHJP
C08F 20/06 20060101ALI20221025BHJP
C08F 20/28 20060101ALI20221025BHJP
C08F 20/34 20060101ALI20221025BHJP
C08F 20/56 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
A61K8/81
A61Q5/00
C08F18/08
C08F26/06
C08F20/06
C08F20/28
C08F20/34
C08F20/56
(21)【出願番号】P 2018208746
(22)【出願日】2018-11-06
【審査請求日】2021-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097490
【氏名又は名称】細田 益稔
(74)【代理人】
【識別番号】100097504
【氏名又は名称】青木 純雄
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 理
(72)【発明者】
【氏名】坂田 雄亮
【審査官】常見 優
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-082081(JP,A)
【文献】特開2017-002256(JP,A)
【文献】特開2017-078116(JP,A)
【文献】特開平09-095586(JP,A)
【文献】特開平11-079945(JP,A)
【文献】特開2014-129320(JP,A)
【文献】特開2007-211144(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00-246/00
C08F301/00
C08C 19/00- 19/44
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00- 13/08
A61K 8/81
A61Q 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
毛髪化粧料用(共)重合体を0.5~50質量%含有する毛髪化粧料であって、前記毛髪化粧料用(共)重合体が、
(A)酢酸ビニル、N-ビニルラクタム、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、ジアルキル(メタ)アクリルアミドおよび(メタ)アクリロイルエチルジアルキルベタインからなる群より選ばれた一種以上の水溶性ビニル単量体100質量部と、
(B)下記一般式(1)で示される水酸基含有有機過酸化物0.01~10質量部と、
(C)チオグリコール酸塩類、システイン類、システイン類の塩、システアミン類、システアミン類の塩、亜硫酸塩類および2-ヒドロキシ-2-スルフィノ酢酸塩類からなる群より選ばれた一種以上の還元剤0.01~10質量部とを重合してなることを特徴とする、
毛髪化粧料。
【化1】
(式(1)において、Rは水素またはメチル基である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛髪化粧料用(共)重合体、その製造方法および毛髪化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
毛髪化粧料は、水溶性ビニル単量体を含むビニル共重合体と水、アルコール等の溶剤を主成分としており、中でもビニル共重合体は髪の保湿、髪型のセット等、毛髪化粧料としての機能を発現するための重要な役割を担っている。
【0003】
特にヘアスタイリング剤において、ビニル共重合体には、髪をまとめるため適度な保湿力が求められる。しかしながら、保湿力を高くすると、夏場や雨天時等の高湿度環境において吸湿することにより、髪をセットしづらくなってしまう。現状のヘアスタイリング剤はセット力とキープ力を両立するため、水溶性ビニル単量体の量を調整してこれらのバランスを取っている。
【0004】
これとは別に、ビニル共重合体の重合方法に関して、近年は環境負荷低減の観点から、有機溶剤を使用しない水溶液重合法が行われており、毛髪化粧料用ビニル共重合体組成物の重合法としても検討されている(特許文献1)。
【0005】
一方で、末端に水酸基を有する有機過酸化物と還元剤を用いて水溶性ビニル単量体組成物を水溶液重合する手法が開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-248004
【文献】特開2017-082081
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のビニル共重合体を使用した毛髪化粧料では、高湿度環境下で使用した場合、キープ力が不足する問題があった。また特許文献2に記載のビニル共重合体では、毛髪化粧料としての汎用性が乏しく、性能が劣る問題があった。
【0008】
本発明の課題は、使用時のまとまりが良く、高湿度環境下でもキープ力を維持可能な毛髪化粧料用ビニル(共)重合体及び毛髪化粧料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下のものである。
(1)
毛髪化粧料用(共)重合体を0.5~50質量%含有する毛髪化粧料であって、前記毛髪化粧料用(共)重合体が、
(A)酢酸ビニル、N-ビニルラクタム、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、ジアルキル(メタ)アクリルアミドおよび(メタ)アクリロイルエチルジアルキルベタインからなる群より選ばれた一種以上の水溶性ビニル単量体100質量部と、
(B)下記一般式(1)で示される水酸基含有有機過酸化物0.01~10質量部と、
(C)チオグリコール酸塩類、システイン類、システイン類の塩、システアミン類、システアミン類の塩、亜硫酸塩類および2-ヒドロキシ-2-スルフィノ酢酸塩類からなる群より選ばれた一種以上の還元剤0.01~10質量部とを重合してなることを特徴とする、
毛髪化粧料。
【化1】
(式(1)において、Rは水素またはメチル基である。)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、使用時のまとまりが良く、高湿度環境下でもキープ力を維持可能な毛髪化粧料用ビニル(共)重合体、及び毛髪化粧料を提供することができる。
なお、本発明の毛髪化粧料用ビニル(共)重合体は、重合体の構造を明確かつ一般的に規定することが困難あるいは実際的ではないものであり、重合に供する組成物の規定によって物の発明を特定したものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の詳細を説明する。なお、本発明において「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸とメタクリル酸の両方を含む概念である。また「○○~××質量部」とは、○○質量部以上、××質量部以下を意味する。
毛髪化粧料用(共)重合体は、一種類の(A)水溶性ビニル単量体のホモポリマーであってよく、二種類以上の(A)水溶性ビニル単量体の共重合体であってよく、一種類以上の(A)水溶性ビニル単量体と他の単量体との共重合体であってよい。
【0012】
((A)水溶性ビニル単量体)
(A)水溶性ビニル単量体は、毛髪化粧料用ビニル(共)重合体を構成する主成分である。水溶性ビニル単量体を使用することで、毛髪化粧料、特にヘアスタイリング剤として髪のまとまり感が得られる。
【0013】
水溶性ビニル単量体とは、20℃での水に対する溶解度が10g/L以上の単量体を意味する。
【0014】
(A)水溶性ビニル単量体において、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルの炭素数は、1~4以下が好ましい。また、ジアルキル(メタ)アクリルアミドの炭素数は、1~4以下が好ましい。(メタ)アクリロイルエチルジアルキルベタインのアルキル基の炭素数は、1~4以下が好ましい。
(A)水溶性ビニル単量体の具体例としては、(A)酢酸ビニル、N-ビニル-2-ピロリドン、N-ビニル-3-メチル-2-ピロリドン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジエチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルエチルジメチルベタイン、(メタ)アクリロイルエチルジエチルベタイン、等が挙げられる。これらは単独で使用しても良いし、2種以上を併用して使用しても良い。
【0015】
((B)水酸基含有有機過酸化物)
(B)水酸基含有有機過酸化物は、毛髪化粧料用ビニル(共)重合体を重合するための重合開始剤であり、有機過酸化物からなるものである。具体的には、3-ヒドロキシ-1,1-ジメチルブチルヒドロペルオキシドおよび3-ヒドロキシ-1,1-ジメチルプロピルヒドロペルオキシドが挙げられる。これらは単独で使用しても良いし、2種を併用して使用しても良い。
【0016】
(B)水酸基含有有機過酸化物は、(A)水溶性ビニル単量体100質量部に対し、0.01~10質量部とする。(B)水酸基含有有機過酸化物を使用することで、毛髪化粧料用ビニル(共)重合体の末端に水酸基が導入される。このため、毛髪化粧料用ビニル(共)重合体の保湿力を高めつつ、高湿度環境下でのキープ力を維持することができる。こうした観点からは、(B)水酸基含有有機過酸化物の量は、0.1質量部以上が好ましく、0.5質量部以上が更に好ましい。また、(B)水酸基含有有機過酸化物の量は、5質量部以下が好ましく、2質量部以下が更に好ましい。
【0017】
((C)還元剤)
(C)還元剤は、チオグリコール酸塩類、システイン類、システイン類の塩、システアミン類、システアミン類の塩、亜硫酸塩類、2-ヒドロキシ-2-スルフィノ酢酸塩類であり、(B)水酸基含有有機過酸化物からラジカルを発生するための助剤として作用する。(C)還元剤を使用することにより、30~80℃の重合温度でも、(B)水酸基含有有機過酸化物からラジカルが発生して、毛髪化粧料用ビニル(共)重合体を重合することができる。
【0018】
(C)還元剤は、具体的には、チオグリコール酸ナトリウム、チオグリコール酸カリウム、システイン、システインナトリウム塩、システアミン、システアミン塩酸塩、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、2-ヒドロキシ-2-スルフィノ酢酸・2ナトリウム塩、2-ヒドロキシ-2-スルフィノ酢酸・2カリウム塩等が挙げられる。
【0019】
一方、還元剤としてL-アスコルビン酸等を使用すると、毛髪化粧料が着色するため、好ましくない。またロンガリットはホルムアルデヒドが発生するため、毛髪化粧料用途での使用は好ましくない。
【0020】
(A)水溶性ビニル単量体100質量部に対し、(C)還元剤の量を0.01~10質量部とする。(C)還元剤の量は、好ましくは0.1~5質量部、更に好ましくは0.5~2質量部である。
【0021】
(C)還元剤の添加量は、成分(B)/成分(C)のモル比で定義され、成分(B)を1モルとすると、成分(C)のモル比は0.8~1.2、好ましくは0.9~1.1、更に好ましくは0.95~1.05である。
【0022】
((D) その他のビニル単量体)
毛髪化粧料用(共)重合体は、本発明の効果を阻害しない範囲で、(A)水溶性ビニル単量体に加えて、(D)その他のビニル単量体を含んでいても良い。(D)その他のビニル単量体とは、(A)成分として規定する水溶性ビニル単量体以外のビニル単量体である。具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシブチル、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコール等が挙げられる。これらは単独で使用しても良いし、2種以上を併用して使用しても良い。
【0023】
(A)水溶性ビニル単量体の量を100質量部としたとき、(D)その他のビニル単量体の量は、150質量部以下であることが好ましく、50質量部以下であることが更に好ましい。また、(D)その他のビニル単量体は含有されていなくともよい。
【0024】
(溶剤)
毛髪化粧料用ビニル(共)重合体は、髪へ塗布する際のハンドリングを良くする為、溶剤で希釈して使用される。希釈する溶媒としては、水、エタノール、液体のポリアルキレングリコール等が挙げられる。
【0025】
毛髪化粧料の合計質量を100質量%としたとき、毛髪化粧料用ビニル(共)重合体の質量は、0.5~50質量%が好ましく、1~30質量%が更に好ましい。毛髪化粧料用ビニル(共)重合体の質量を0.5質量%より多くすることで、髪のまとまり感が良好になる。毛髪化粧料用ビニル(共)重合体の質量を50質量部以下とすることで、髪の不必要な固着が発生しにくい。
【0026】
(その他の添加剤)
毛髪化粧料には、その効果を阻害しない範囲で、成分(A)~(D)および溶剤以外の添加剤が配合されていてもよい。添加剤としては、界面活性剤、コンディショニング剤、増粘剤、粘度調整剤、金属イオン封鎖剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、粉末成分、抗フケ用薬剤、育毛薬剤、pH調整剤、色素、香料等の1種乃至2種以上を適宜配合できる。
【0027】
毛髪化粧料は、ヘアリキッド、ヘアフォーム、ヘアムース、ヘアスプレー、ヘアミスト、ヘアジェル、ヘアワックス等の様々な態様で提供することができる。
毛髪化粧料用ビニル(共)重合体の製造方法について、重合温度は10℃~90℃、好ましくは30℃~80℃、更に好ましくは50℃~70℃である。重合温度は高いほど早く反応が進むが、溶媒、或いは(A)水溶性ビニル単量体の沸点以上の温度で重合すると系中の(A)水溶性ビニル単量体濃度が変化して重合反応が進行しにくいため、好ましくない。
各成分の添加方法は、溶媒である水に(C)還元剤を溶解し、一方で(A)水溶性ビニル単量体と(B)水酸基含有重合開始剤を溶解し、どちらか一方、或いは双方を反応容器に連続的に滴下して重合を行うことにより得る(滴下工程)。
本重合反応において、成分(B)と成分(C)が接触すると成分(B)からラジカルが発生して重合反応が起こる。各成分の添加を一括で仕込みを行った場合、一度に多量のラジカルが発生して重合が開始されるため、重合発熱が大きくなり制御できず、不要な分岐構造、或いはビニル(共)重合体のゲル化が生じる。そのため、目的とする毛髪化粧料用ビニル(共)重合体を得ることができない。
滴下工程において、滴下時間は0.5時間~8時間、好ましくは1時間~6時間、更に好ましくは2時間~5時間である。
滴下工程終了後、0.5時間~4時間の熟成工程を行うことが好ましい。熟成工程を行うことで、重合反応が十分に進行して分子量が適切な範囲、すなわち数平均分子量Mn=10,000~50,000の毛髪化粧料用ビニル(共)重合体を得ることができる。
滴下工程後、或いは熟成工程後には、残存モノマーを低減する目的で、重合温度から+20℃~30℃で0.5時間~2時間の後反応を行うことが好ましい。
【実施例】
【0028】
以下に具体例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例E)
【0029】
500ml四つ口フラスコに、水を325質量部と、(C)還元剤としてチオグリコール酸ナトリウムを0.5質量部とを入れ、攪拌しながら60℃に昇温した。200mlビーカーに(A)水溶性ビニル単量体として酢酸ビニルを60質量部と、N-ビニル-2-ピロリドンを40質量部と、(B)水酸基含有重合開始剤として3-ヒドロキシ-1,1-ジメチルブチルヒドロペルオキシドを0.5質量部とを混合し、60℃で2時間かけて連続滴下した後、60℃で3時間重合することで、実施例Eの毛髪化粧料用(共)重合体を得た。
【0030】
(実施例F~Mおよび比較例N、O)
重合に使用した(A)水溶性ビニル単量体、(B)水酸基含有有機過酸化物、(C)還元剤を、表1に記載する種類及び配合量に変更した。また、実施例J、Kにおいては、(D)その他のビニル単量体を配合した。これ以外は、実施例Eと同様の操作を行い、実施例F~Mおよび比較例N、Oの毛髪化粧料用(共)重合体を得た。ただし、表1に示す各配合量の数値は、「質量部」単位である。
【0031】
【0032】
(実施例1)
実施例Eの毛髪化粧料用(共)重合体を15質量%と、水を40質量部と、エタノールを15質量%と、LPG(ポリエチレングリコール(♯400))を30質量%とを室温で混合し、表2に示すような実施例1の毛髪化粧料を得た。ただし、表2、表3に示す各数値は「質量%」単位である。
【0033】
(実施例2~11および比較例1~2)
使用した毛髪化粧料用(共)重合体、水、エタノール、LPG(ポリエチレングリコール(♯400))を、表2、表3に記載する種類及び配合量に変更した。それ以外は実施例1と同様の操作を行い、実施例2~11および比較例1~2の毛髪化粧料を得た。
【0034】
得られた各例の毛髪化粧料について、以下の特性を測定し、結果を表2、表3に示す。
(まとまり感)
毛髪化粧料をヘアスタイリング剤として使用し、以下の基準で評価した。
「○」・・・ヘアセットが良好で、ベタツキ、ゴワツキが感じられない
「×」・・・ヘアセット、ベタツキ、ゴワツキのいずれか1項目がNG
(キープ力)
「○」・・・毛髪化粧料をヘアスタイリング剤として使用した際、30℃、80%、RHの恒温恒湿槽に1時間静置した後、指で触った感覚でまとまりがある
「×」・・・毛髪化粧料をヘアスタイリング剤として使用した際、30℃、80%、RHの恒温恒湿槽に1時間静置した後、指で触った感覚でまとまりがない
【0035】
【0036】
【0037】
実施例1~実施例11では、いずれもまとまり感及びキープ力が良好な毛髪化粧料を得ることができた。
【0038】
比較例1では、重合開始剤として、水酸基を含有しない有機過酸化物を使用したため、毛髪化粧料にキープ力がなかった。
比較例2では、重合開始剤として、水溶性アゾ化合物を使用したため、毛髪化粧料にキープ力がなかった。