(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】半導体素子
(51)【国際特許分類】
H01L 29/78 20060101AFI20221025BHJP
H01L 29/12 20060101ALI20221025BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
H01L29/78 652F
H01L29/78 652S
H01L29/78 653A
H01L29/78 652T
H01L29/78 658G
H01L29/78 658A
H01L29/78 652C
(21)【出願番号】P 2019045118
(22)【出願日】2019-03-12
【審査請求日】2021-05-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100087723
【氏名又は名称】藤谷 修
(74)【代理人】
【識別番号】100165962
【氏名又は名称】一色 昭則
(74)【代理人】
【識別番号】100206357
【氏名又は名称】角谷 智広
(72)【発明者】
【氏名】西井 潤弥
【審査官】恩田 和彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-115430(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0217418(US,A1)
【文献】国際公開第2012/105611(WO,A1)
【文献】特開2009-117820(JP,A)
【文献】特開2012-248572(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/78
H01L 29/12
H01L 21/336
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
III 族窒化物半導体からなり、第1のn層と、前記第1のn層上に設けられたp層と、前記p層上に設けられた第2のn層と、を有した半導体層と、
前記第2のn層表面から前記第1のn層に達する深さの溝であって、前記半導体層を単位セルごとに区画し、前記半導体層を所定の平面パターンに区画するトレンチと、
前記第2のn層表面から前記p層に達する深さのリセスと、を有し、
前記トレンチの平面パターンは、前記半導体層の平面パターンを正六角形がハニカム状に配列されたパターンとするものであり、
前記リセスの平面パターンは、
前記半導体層の平面パターンの正六角形を中心を同一にして縮小した正六角形であって、前記半導体層の平面パターンの正六角形に対して回転させたパターンであり、平面視において、前記トレンチの角部から前記リセスまでの最短距離をa、前記トレンチの辺から前記リセスまでの最短距離をbとして、a>bとなるパターンであり、
前記p層の前記トレンチ側面近傍の領域のうち、前記トレンチの角部近傍では、他の領域に比べてMg活性化率が低くなっている、
ことを特徴とする半導体素子。
【請求項2】
III 族窒化物半導体からなり、第1のn層と、前記第1のn層上に設けられたp層と、前記p層上に設けられた第2のn層と、を有した半導体層と、
前記第2のn層表面から前記第1のn層に達する深さの溝であって、前記半導体層を単位セルごとに区画し、前記半導体層を所定の平面パターンに区画するトレンチと、
前記第2のn層表面から前記p層に達する深さのリセスと、を有し、
前記リセスの平面パターンは、前記半導体層の平面パターンに内包される正多角形であって、前記正多角形の各辺は、前記半導体層の平面パターンの各辺に対して非平行であり、平面視において、前記トレンチの角部から前記リセスまでの最短距離をa、前記トレンチの辺から前記リセスまでの最短距離をbとして、a>bとなるパターンであり、
前記トレンチの側面はa面であり、前記リセスの側面はm面であり、
前記p層の前記トレンチ側面近傍の領域のうち、前記トレンチの角部近傍では、他の領域に比べてMg活性化率が低くなっている、
ことを特徴とする半導体素子。
【請求項3】
III 族窒化物半導体からなり、第1のn層と、前記第1のn層上に設けられたp層と、前記p層上に設けられた第2のn層と、を有した半導体層と、
前記第2のn層表面から前記第1のn層に達する深さの溝であって、前記半導体層を単位セルごとに区画し、前記半導体層を所定の平面パターンに区画するトレンチと、
前記第2のn層表面から前記p層に達する深さのリセスと、を有し、
前記リセスの平面パターンは、前記半導体層の平面パターンに内包される正多角形であって、前記正多角形の各辺は、前記半導体層の平面パターンの各辺に対して非平行であり、平面視において、前記トレンチの角部から前記リセスまでの最短距離をa、前記トレンチの辺から前記リセスまでの最短距離をbとして、a>bとなるパターンであり、
a-bが0.8μm以上1.9μm以下であり、
前記p層の前記トレンチ側面近傍の領域のうち、前記トレンチの角部近傍では、他の領域に比べてMg活性化率が低くなっている、
ことを特徴とする半導体素子。
【請求項4】
前記リセスの平面パターンの正六角形は、前記半導体層の平面パターンの正六角形に対して25~35°回転させたパターンである、ことを特徴とする請求項
1に記載の半導体素子。
【請求項5】
前記リセスの平面パターンの正六角形の内接円の直径は、0.8~2.0μmである、ことを特徴とする
請求項1または請求項4に記載の半導体素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III 族窒化物半導体からなる半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、III 族窒化物半導体からなるトレンチゲート型のFETにおいて、p層とトレンチ側面の間に、p層よりもMg濃度の低い低濃度p型領域を設けることが記載されている。このような構造により、オン電圧を低減することができ、チャネル抵抗を低減することができると記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、トレンチゲート型のFETが記載され、単位セルを正六角形として、ハニカム状に配列した平面パターンとすることが記載されている。また、p層上に設けられたn層の一部を除去してp層を露出させる溝(リセス)を設け、p層に接する電極を設けたリセス構造が示されている。リセスの平面パターンは、単位セルの正六角形を縮小した正六角形のパターンとすることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-125441号公報
【文献】特開2009-117820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の構造は、半導体層の再成長やイオン注入が必要であり、プロセスが煩雑であった。また、トレンチ側面の低濃度p型領域のホール濃度が一定であると、トレンチの角部に電流が集中してしまう問題があった。
【0006】
そこで本発明の目的は、トレンチの角部への電流集中が抑制されたIII 族窒化物半導体からなる半導体素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、III 族窒化物半導体からなり、第1のn層と、第1のn層上に設けられたp層と、p層上に設けられた第2のn層と、を有した半導体層と、第2のn層表面から第1のn層に達する深さの溝であって、半導体層を単位セルごとに区画し、半導体層を所定の平面パターンに区画するトレンチと、第2のn層表面からp層に達する深さのリセスと、を有し、トレンチの平面パターンは、半導体層の平面パターンを正六角形がハニカム状に配列されたパターンとするものであり、リセスの平面パターンは、半導体層の平面パターンの正六角形を中心を同一にして縮小した正六角形であって、半導体層の平面パターンの正六角形に対して回転させたパターンであり、平面視において、トレンチの角部からリセスまでの最短距離をa、トレンチの辺から前記リセスまでの最短距離をbとして、a>bとなるパターンであり、p層のトレンチ側面近傍の領域のうち、トレンチの角部近傍では、他の領域に比べてMg活性化率が低くなっている、ことを特徴とする半導体素子である。
また本発明は、III 族窒化物半導体からなり、第1のn層と、第1のn層上に設けられたp層と、p層上に設けられた第2のn層と、を有した半導体層と、第2のn層表面から第1のn層に達する深さの溝であって、半導体層を単位セルごとに区画し、半導体層を所定の平面パターンに区画するトレンチと、第2のn層表面からp層に達する深さのリセスと、を有し、リセスの平面パターンは、半導体層の平面パターンに内包される正多角形であって、正多角形の各辺は、半導体層の平面パターンの各辺に対して非平行であり、平面視において、トレンチの角部からリセスまでの最短距離をa、トレンチの辺から前記リセスまでの最短距離をbとして、a>bとなるパターンであり、トレンチの側面はa面であり、リセスの側面はm面であり、p層のトレンチ側面近傍の領域のうち、トレンチの角部近傍では、他の領域に比べてMg活性化率が低くなっている、ことを特徴とする半導体素子である。
また本発明は、III 族窒化物半導体からなり、第1のn層と、第1のn層上に設けられたp層と、p層上に設けられた第2のn層と、を有した半導体層と、第2のn層表面から第1のn層に達する深さの溝であって、半導体層を単位セルごとに区画し、半導体層を所定の平面パターンに区画するトレンチと、第2のn層表面からp層に達する深さのリセスと、を有し、リセスの平面パターンは、半導体層の平面パターンに内包される正多角形であって、正多角形の各辺は、半導体層の平面パターンの各辺に対して非平行であり、平面視において、トレンチの角部からリセスまでの最短距離をa、トレンチの辺から前記リセスまでの最短距離をbとして、a>bとなるパターンであり、a-bが0.8μm以上1.9μm以下であり、p層のトレンチ側面近傍の領域のうち、トレンチの角部近傍では、他の領域に比べてMg活性化率が低くなっている、ことを特徴とする半導体素子である。
【0008】
本発明において、トレンチの平面パターンは、半導体層の平面パターンを正六角形がハニカム状に配列されたパターンとするものであり、リセスの平面パターンは、半導体層の平面パターンの正六角形を中心を同一にして縮小した正六角形であって、半導体層の平面パターンの正六角形に対して回転させたパターンであってもよい。この場合、リセスの平面パターンは、半導体層の平面パターンの正六角形に対して25~35°回転させたパターンであることが好ましい。
【0009】
本発明において、リセスの平面パターンの正六角形の内接円の直径は、0.8~2.0μmであることが好ましい。この範囲であれば、p層活性化の熱処理においてリセスから効率的に水素を離脱させることができる。また、単位セルを小さくすることができ、トレンチの側面の面積を大きくすることができるので、電気的特性の向上を図ることができる。
【0010】
本発明において、トレンチの側面はa面であり、前記リセスの側面はm面であることが好ましい。トレンチおよびリセスの平面パターンの再現性が向上する。
【0011】
本発明において、a-bは0.8μm以上1.9μm以下であることが好ましい。この範囲であれば、トレンチ角部への電流集中をより抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、トレンチの角部に電流が集中するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】トレンチT1とリセスR1のパターンを示した図。
【
図3】実施例1の半導体素子の製造工程を示した図。
【
図4】トレンチT1とリセスR1のパターンを示した図。
【
図5】トレンチT1とリセスR1のパターンを示した図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の具体的な実施例について図を参照に説明するが、本発明は実施例に限るものではない。
【実施例1】
【0015】
図1は、実施例1の半導体素子の構成を示した図である。
図1のように、実施例1の半導体素子は、トレンチゲート型のFETであり、基板110と、第1のn層120と、p層130と、第2のn層140と、トレンチT1と、リセスR1と、ゲート絶縁膜F1と、ゲート電極G1と、ソース電極S1と、ボディ電極B1と、ドレイン電極D1と、を有している。
【0016】
基板110は、c面を主面とするSiドープのn-GaNからなる厚さ300μmの平板状の基板である。Si濃度は、1×1018/cm3 である。n-GaN以外にも、導電性を有し、III 族窒化物半導体の成長基板となる任意の材料の基板を用いることができる。たとえば、ZnO、Siなどを用いることも可能である。ただし、格子整合性の点から、本実施例のようにGaN基板を用いることが望ましい。
【0017】
第1のn層120は、基板110上(基板110の一方の表面100a)に積層され、c面を主面とするSiドープのn-GaN層である。第1のn層120の厚さは10μm、Si濃度は1×1016/cm3 である。
【0018】
p層130は、第1のn層120上に積層され、c面を主面とするMgドープのp-GaN層である。p層130の厚さは1.0μm、Mg濃度は2×1018/cm3 である。p層130は、主面に平行な面内において、Mg活性化率(水素濃度)の分布があり、リセスR1から遠い領域ほどMg活性化率が低くなっている。p層130のトレンチT1側面T1b近傍の領域のうち、トレンチT1の角部T1d近傍では、他の領域に比べてMg活性化率が低くなっている(言い換えれば、水素濃度が高くなっている)。
【0019】
第2のn層140は、p層130上に積層され、c面を主面とするSiドープのn-GaN層である。第2のn層140の厚さは0.2μm、Si濃度は1×1018/cm3 である。
【0020】
トレンチT1は、第2のn層140表面の所定位置に形成された溝であり、第2のn層140およびp層130を貫通して第1のn層120に達する深さである。トレンチT1の底面T1aには第1のn層120が露出し、トレンチT1の側面T1bには第1のn層120、p層130、第2のn層140が露出する。このトレンチT1の側面T1bに露出するp層130の側面が、実施例1のFETのチャネルとして動作する領域である。また、トレンチT1の側面T1bはa面であり、そのa面には微細な凹凸が設けられている。凹凸によりトレンチT1の側面T1bの面積が広くなり、これにより半導体素子の電気的特性の向上を図っている。
【0021】
ゲート絶縁膜F1は、Al2 O3 からなり、トレンチT1の底面T1a、側面T1b、上面T1cにわたって連続して膜状に設けられている。トレンチT1の上面とは、第2のn層140表面であってトレンチT1の側面T1b近傍の領域である。ゲート絶縁膜F1の厚さは100nmである。ゲート絶縁膜F1の材料には、Al2 O3 以外にも、SiO2 、SiN、SiON、AlN、AlON、ZrON、HfO2 、ZrO2 などを用いることができる。また、ゲート絶縁膜F1は単層である必要はなく、複数の層で構成されていてもよい。
【0022】
ゲート電極G1は、ゲート絶縁膜F1を介して、トレンチT1の底面T1a、側面T1b、トレンチT1の上面T1cに連続して膜状に設けられている。ゲート電極G1は、Alからなる。
【0023】
リセスR1は、第2のn層140表面であってゲート絶縁膜F1が設けられていない領域に設けられた溝であり、第2のn層140を貫通してp層130に達する深さである。リセスR1の底面にはp層130が露出し、側面にはp層130、第2のn層140が露出する。リセスR1の側面はm面である。
【0024】
図2は、リセスR1とトレンチT1の平面パターンを示した図である。
図2のように、実施例1の半導体素子は単位セルを正六角形とし、その正六角形がハニカム状に配列されたパターンである。トレンチT1により、半導体層(第1のn層120、p層130および第2のn層140)は正六角形のパターンに区画されている。
【0025】
リセスR1は、トレンチT1により区画される半導体層(第2のn層140)の正六角形のパターンに内包される小さな正六角形のパターンであり、半導体層(第2のn層140)の正六角形を中心を同一にして縮小した正六角形のパターンである。また、半導体層(第2のn層140)の正六角形に対して、30°回転させた正六角形のパターンである。
【0026】
リセスR1のパターンを回転させない従来の構造では、トレンチT1の側面T1bにおいてMg活性化率はおよそ等しく、素子のオン動作時にトレンチT1の角部T1dに電流が集中する。一方、リセスR1のパターンを回転させた実施例1の場合、p層130のトレンチT1側面T1bのうちトレンチT1の角部T1dのMg活性化率が他の領域に比べて低くなり、トレンチT1の角部T1dへの電流集中が抑制される。これは、平面視において、トレンチT1の角部T1dからリセスR1までの最短距離をa、トレンチT1の辺T1eからリセスR1までの最短距離をbとすると、リセスR1のパターンを回転させることでa-bの値がより大きくなるためである。
【0027】
なお、リセスR1は必ずしも30°の回転である必要はなく、平面視においてリセスR1の各辺がトレンチT1の各辺に対して非平行となるように回転されていれば任意のパターンでよい。つまり、0°より大きく30°未満の角度回転させた範囲であればよい。ただし、トレンチT1の角部T1dへの電流集中をより抑制するために25~35°回転させたパターンとすることが好ましく、最も好ましくはa-bが最大となる30°である。
【0028】
また、a-bは0.8~1.9μmとすることが好ましい。この範囲とすれば、トレンチT1の角部T1dへの電流集中をより抑制することができる。より好ましくは1~1.6μmである。
【0029】
リセスR1の正六角形の内接円の直径は、0.8~2.0μmとすることが好ましい。この範囲であれば、p層130をp型化するための熱処理時にp層130から効率的に水素を離脱させることができる。また、単位セルを小さくすることができ、トレンチT1の側面T1bの面積を大きくすることができるので、電気的特性の向上を図ることができる。より好ましくは0.9~1.5μm、さらに好ましくは1.0~1.2μmである。
【0030】
なお、リセスR1は正六角形である必要はなく、平面視においてリセスR1の各辺がトレンチT1の各辺に対して非平行であって、a-b>0となるような多角形であれば任意のパターンでよい。ただし、設計や形成の容易さの点から、単位セル中の半導体層のパターン(第2のn層140のパターン)である正六角形を縮小、回転したパターンが好ましい。
【0031】
ボディ電極B1は、リセスR1の底面に設けられている。ボディ電極B1は、Pdからなる。
【0032】
ソース電極S1は、ボディ電極B1上、第2のn層140上にわたって連続的に設けられている。ソース電極S1は、Ti/Alからなる。
【0033】
ドレイン電極D1は、基板110の裏面(第1のn層120が設けられている側とは反対側の面100b)に設けられている。ドレイン電極D1は、ソース電極S1と同一材料からなり、Ti/Alからなる。
【0034】
以上、実施例1の半導体素子では、p層130の面内にMg活性化率の分布があり、p層130のうちトレンチT1の側面T1b近傍の領域のうち、角部T1d近傍の領域は、他の領域に比べてMg活性化率が低くなっている。そのため、実施例1の半導体素子をオンにしたときにトレンチT1の角部T1dに電流が集中することが抑制されており、オン抵抗が低減されている。
【0035】
次に、実施例1の半導体素子の製造方法について、図を参照に説明する。
【0036】
まず、c面を主面とするn-GaNからなる基板110を用意し、MOCVD法によって、第1のn層120、p層130、第2のn層140を順に形成する(
図3(a)参照)。MOCVD法において、窒素源は、アンモニア、Ga源は、トリメチルガリウム(Ga(CH
3 )
3 :TMG)、In源は、トリメチルインジウム(In(CH
3 )
3 :TMI)、Al源は、トリメチルアルミニウム(Al(CH
3 )
3 :TMA)である。また、n型ドーパントガスは、シラン(SiH
4 )、p型ドーパントガスは、シクロペンタジエニルマグネシウム(Mg(C
5 H
5 )
2 :CP
2 Mg)である。キャリアガスは水素や窒素である。
【0037】
次に、第2のn層140表面の所定位置をドライエッチングすることで、トレンチT1を形成する(
図3(b)参照)。トレンチT1のパターンは、半導体層のパターン(第2のn層140のパターン)が正六角形をハニカム状に配列したパターンとなるようなパターンである。また、トレンチT1の側面T1bがa面となるようなパターンである。ドライエッチングは、第1のn層120が露出するまで行う。ドライエッチングには、塩素系ガスを用いる。たとえば、Cl
2 、SiCl
4 、CCl
4 である。また、ドライエッチングは、ICPエッチングなど任意の方式を用いることができる。
【0038】
次に、TMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)水溶液を用いてウェットエッチングを行う。TMAH水溶液は、III 族窒化物半導体のc面以外をウェットエッチングすることが可能であり、ウェットエッチングはm面が露出するまで進行する。ここで、トレンチT1の側面T1bはa面である。そのため、トレンチT1の側面T1bは、m面で構成されるノコギリ歯状のギザギザにエッチングされる。ノコギリ歯状となることでトレンチT1の側面T1bの面積が増え、半導体素子の電気的特性が向上する。ウェットエッチング溶液には、TMAH以外にも、NaOH(水酸化ナトリウム)、KOH(水酸化カリウム)、H3 PO4 (リン酸)などを用いることができる。
【0039】
次に、第2のn層140表面の所定位置をドライエッチングすることで、リセスR1を形成する(
図3(c)参照)。エッチングは、p層130が露出するまで行う。エッチングガスは、トレンチT1の形成時と同様である。
【0040】
ここで、リセスR1の平面パターンは、第2のn層140の正六角形と中心を同一として縮小した正六角形であって、第2のn層140の正六角形に対して30°回転させた正六角形のパターンとする。
【0041】
なお、実施例1では、トレンチT1の形成後にリセスR1を形成しているが、先にリセスR1を形成後にトレンチT1を形成してもよい。
【0042】
また、リセスR1の形成後、リセスR1の側面をTMAH水溶液によりウェットエッチングしてもよい。リセスR1の正六角形のパターンをより高精度に形成することができる。この時のウェットエッチング溶液は、トレンチT1の側面T1bのウェットエッチング時と同様である。
【0043】
次に、窒素雰囲気で加熱することにより、p層130のp型化を行う。リセスR1の底面により露出したp層130から効率的に水素が抜け出すため、効率的にp層130中のMgの活性化を行うことができる。なお、トレンチT1の側面T1bからは水素はほとんど抜けない。
【0044】
この熱処理において、p層130中の水素は、リセスR1に近い領域ほど抜けやすく、遠い領域ほど抜けにくい。一方で上記のようにトレンチT1の側面T1bからは水素が抜けない。よって、リセスR1のパターンに応じてp層130の水素濃度に分布が生じる。
【0045】
リセスR1の正六角形のパターンを第2のn層140の正六角形のパターンに対して回転させていない従来のパターンの場合、トレンチT1の角部T1dからリセスR1までの最短距離aと、トレンチT1の辺T1eからリセスR1までの最短距離bとの差a-bが小さい。そのため、p層130のうちトレンチの角部T1d近傍とトレンチT1の各辺中央近傍とでは、水素が抜ける量に大きな差がなく、Mg活性化率にも大きな差がない。その結果、従来のリセスR1のパターンでは、p層130のトレンチT1の側面T1b近傍の領域では、Mg活性化率がおよそ一定である。
【0046】
一方、リセスR1の正六角形のパターンを第2のn層140の正六角形のパターンに対して30°回転させた実施例1では、トレンチT1の角部T1dからリセスR1までの最短距離aと、トレンチT1の辺T1eからリセスR1までの最短距離bとの差a-bが、従来のパターンに比べて大きくなっている。そのため、p層130のうちトレンチの角部T1d近傍とトレンチT1の各辺中央近傍とでは、水素が抜ける量に差が生じ、Mg活性化率にも差が生じる。その結果、実施例1のリセスR1のパターンでは、p層130のトレンチT1の側面T1b近傍の領域のうち、トレンチT1の角部T1d近傍では、他の領域に比べてMg活性化率が低くなっている。
【0047】
次に、トレンチT1の底面T1a、側面T1b、および第2のn層140表面であってトレンチT1の近傍領域に、ALD法によってゲート絶縁膜F1を形成する(
図3(d)参照)。
【0048】
次に、リフトオフ法を用いてゲート電極G1、ボディ電極B1、ソース電極S1を順に形成し、さらに基板110裏面にリフトオフ法を用いてドレイン電極D1を形成する。なお、電極の形成順はこの順に限らず、任意の順でよい。以上によって、
図1に示す実施例1の半導体素子が製造される。
【0049】
(変形例)
実施例1では、トレンチT1により区画される単位セルのパターンを正六角形とし、半導体層を正六角形のパターンに区画し、単位セルをハニカム状に配列したパターンとしているが、これに限るものではない。たとえば、正方形などの形状を三角格子状や正方格子状に配列したパターンとしてもよい。リセスR1の平面パターンは、半導体層(第2のn層140)の平面パターンに内包される正多角形であって、正多角形の各辺は、半導体層の平面パターンの各辺に対して非平行であり、a>bとなるパターンであれば任意である。
【0050】
トレンチT1によって半導体層を正多角形に区画する場合、リセスR1のパターンは、その正多角形を中心を同一にして縮小して回転させたパターンとすることが好ましい。
図4に一例を示す。
図4は、半導体層(第2のn層140)を正方形として単位セルを正方格子状に配列したパターンとし、リセスR1をその正方形を中心を同一にして縮小したパターンである。この場合、半導体層(第2のn層140)を正方形に対してリセスR1の正方形を45°回転させることで、a-bが最大となるようにすることが好ましい(
図4参照)。
【0051】
また、トレンチT1により区画される単位セルのパターンを長尺な長方形や六角形とし、単位セルをストライプ状に配列したパターンとしてもよい。この場合、複数の正多角形のパターンのリセスR1を長尺方向に所定間隔で配列してもよい。
図5に一例を示す。
図5は、半導体層を長尺な六角形のパターンとし、その六角形内に正六角形のパターンのリセスR1を複数長尺方向に配列したパターンである。長尺な六角形は、正六角形の各辺のうち平行な2辺を延ばしたものである。また、リセスR1の正六角形は、その各辺が半導体層の長尺な六角形の各辺に対して30°を成している。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、FETなどの半導体デバイスに適用することができる。
【符号の説明】
【0053】
110:基板
120:第1のn層
130:p層
140:第2のn層
F1:ゲート絶縁膜
G1:ゲート電極
S1:ソース電極
B1:ボディ電極
D1:ドレイン電極
T1:トレンチ
R1:リセス