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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶素子
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1337 20060101AFI20221025BHJP
【FI】
G02F1/1337 520
G02F1/1337 525
G02F1/1337 530
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019053966
(22)【出願日】2019-03-21
(65)【公開番号】P2020154185
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-06-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100122390
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 美穂
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(72)【発明者】
【氏名】木下 栄里子
(72)【発明者】
【氏名】樫下 幸志
【審査官】鈴木 俊光
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101493610(CN,A)
【文献】特開2013-054187(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1337
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される部分構造を有する化合物[A]と下記式(2)で表される部分構造を有する化合物[B]とを含有するか、又は、下記式(1)で表される部分構造と下記式(2)で表される部分構造とを有する化合物[C]を含有する液晶配向剤であって、
前記化合物[A]及び前記化合物[B]の少なくとも一方は重合体であり、当該重合体は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド及びポリオルガノシロキサンよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
前記化合物[C]は、下記式(1)で表される部分構造と、下記式(2)で表される部分構造とを有する重合体である、液晶配向剤。
【化1】
(式(1)中、Rは、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数7~13のアラルキル基、又は1,3-ジオキソブチル基である。R~Rは、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、又は炭素数7~13のアラルキル基である。Xは、単結合、カルボニル基、**-(CH-O-(但し、nは、1~4の整数である。)、**-O-、又は**-CONH-である。X~Xは、それぞれ独立して、単結合、カルボニル基、**-CH-CO-、又は**-CH-CH(OH)-である。但し、「**」は、式(1)中のピペリジン環と結合する結合手を示す。「*」は結合手を表す。
式(2)中、Rは、炭素数4~16の1価の炭化水素基、又は当該炭化水素基の炭素骨格鎖中に酸素原子又は硫黄原子を有する1価の基である。Rは、炭素数1~16の1価の炭化水素基、又は当該炭化水素基の炭素骨格鎖中に酸素原子又は硫黄原子を有する1価の基である。aは、0~3の整数である。但し、aが2又は3の場合、式中の複数のRは同一であっても異なっていてもよい。「*」は結合手を表す。)
【請求項2】
前記化合物[A]は、上記式(1)で表される部分構造を複数個有し、
前記化合物[B]は、上記式(2)で表される部分構造を複数個有する、請求項に記載の液晶配向剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。
【請求項4】
請求項に記載の液晶配向膜を具備する液晶素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶素子は、液晶層中の液晶分子を一定の方向に配向させる機能を有する液晶配向膜を備えている。液晶配向膜は一般に、重合体成分が有機溶媒に溶解されてなる液晶配向剤を基板表面に塗布し、好ましくは加熱することによって基板上に形成される。
【0003】
近年、大画面で高精細な液晶テレビが主体となり、またスマートフォンやタブレットPC等といった小型の表示端末の普及が進み、液晶素子に対する高品質化の要求は従来よりも高まっている。そこで従来、液晶配向膜の性能を改善し、液晶表示素子の各種特性を優れたものとするべく、種々の液晶配向剤が提案されている(例えば、特許文献1~3参照)。
【0004】
特許文献1~3に記載のものは、ヒンダードアミン構造を有する成分、又はヒンダードフェノール構造を有する成分を液晶配向剤中に含有させ、これにより液晶表示素子の特性を改善することが開示されている。具体的には、特許文献1には、側鎖にヒンダードアミン構造又はヒンダードフェノール構造を有する重合体を液晶配向剤に含有させることが開示されている。また、特許文献2には、ヒンダードアミン構造を主鎖中に有する重合体を液晶配向剤に含有させることが開示されている。特許文献3には、ヒンダードアミン構造を有する成分、又はヒンダードフェノール構造を有する成分と、重合体との反応生成物を液晶配向膜中に含有させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-244015号公報
【文献】特開2014-109720号公報
【文献】特開2014-157346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
液晶素子は、従来のようにパーソナルコンピュータ等の表示端末に使用されるだけでなく、例えば液晶テレビやカーナビゲーションシステム、携帯電話、スマートフォン、インフォメーションディスプレイ、位相差フィルム、調光フィルムなど、屋内及び屋外を問わず多種多様な用途において使用されるようになってきている。また、使用用途の拡大に伴い、液晶素子は従来よりも過酷な環境下で使用されることが想定される。具体的には、液晶素子は、長時間の連続駆動によってバックライトが長時間照射されたり、高温環境下で使用されたりすることがある。その一方で、液晶素子の高性能化に対する要求はさらに高まっており、過酷な環境条件下でも素子性能を維持できることが求められている。
【0007】
また近年では、スマートフォンやタブレットPCに代表される、タッチパネル式の小型表示パネルの開発が進められている。タッチパネル式の表示パネルにおいては、タッチパネルの可動面積をより広く、かつ液晶パネルの小型化を両立させるために狭額縁化を図ることが試みられている。こうした液晶パネルの狭額縁化に伴い、経年等によってシール剤周辺で液晶配向膜に起因する表示ムラが視認されることがある。液晶パネルの高精細化、高寿命化を図るためには、このようなシール剤周辺での表示ムラが長期に亘って視認されにくい(ベゼルムラ耐性が高い)液晶素子が求められる。
【0008】
さらに、液晶表示装置において、液晶配向膜中の残留電荷(残留DC)が大きいと、画像を切り替えた後に先に表示されていた画像の影響が残ってしまう、いわゆる残像(これをDC残像ともいう。)が発生する原因となる。液晶表示装置の表示品位を確保するためには、残像ができるだけ生じにくいことが求められる。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、残像特性及び耐光性に優れるとともに、シール剤周辺の表示ムラが少ない液晶素子を得ることができる液晶配向剤を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の従来技術の課題を解決するべく鋭意検討し、ラジカル又はイオンを捕捉する機能を有する部分構造と、当該部分構造によるラジカル又はイオンの補足機能を再生可能な部分構造との両方を液晶配向膜中に存在させることを試みた。すると、この技術によれば、シール剤周辺の表示ムラを低減でき、しかも残像特性及び耐光性に優れた液晶素子を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明により以下の液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶素子が提供される。
【0011】
[1] 下記式(1)で表される部分構造を有する化合物[A]と下記式(2)で表される部分構造を有する化合物[B]とを含有するか、又は、下記式(1)で表される部分構造と下記式(2)で表される部分構造とを有する化合物[C]を含有する、液晶配向剤。
【化1】
(式(1)中、Rは、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数7~13のアラルキル基、又は1,3-ジオキソブチル基である。R~Rは、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、又は炭素数7~13のアラルキル基である。Xは、単結合、カルボニル基、**-(CH-O-(但し、nは、1~4の整数である。)、**-O-、又は**-CONH-である。X~Xは、それぞれ独立して、単結合、カルボニル基、**-CH-CO-、又は**-CH-CH(OH)-である。但し、「**」は、式(1)中のピペリジン環と結合する結合手を示す。「*」は結合手を表す。
式(2)中、Rは、炭素数4~16の1価の炭化水素基、又は当該炭化水素基の炭素骨格鎖中に酸素原子又は硫黄原子を有する1価の基である。Rは、炭素数1~16の1価の炭化水素基、又は当該炭化水素基の炭素骨格鎖中に酸素原子又は硫黄原子を有する1価の基である。aは、0~3の整数である。但し、aが2又は3の場合、式中の複数のRは同一であっても異なっていてもよい。「*」は結合手を表す。)
[2] 上記[1]の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。
[3] 上記[2]の液晶配向膜を具備する液晶素子。
【発明の効果】
【0012】
本発明の液晶配向剤によれば、残像特性及び耐光性に優れるとともに、シール剤周辺の表示ムラが少ない(ベゼルムラ耐性に優れた)液晶素子を得ることができる。また、基板に対する密着性に優れた液晶配向膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】FFS型液晶表示素子の概略構成図。
図2】ラビング配向型液晶表示素子の製造に用いたトップ電極の平面模式図。(a)はトップ電極の上面図であり、(b)はトップ電極の部分拡大図である。
図3】4系統の駆動電極を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
≪液晶配向剤≫
本発明の液晶配向剤は、重合体成分が、好ましくは有機溶媒中に溶解又は分散してなる液状の重合体組成物である。当該液晶配向剤は、上記式(1)で表される部分構造を有する化合物[A]と上記式(2)で表される部分構造を有する化合物[B]とを含有するか、又は、上記式(1)で表される部分構造と上記式(2)で表される部分構造とを有する化合物[C]を含有する。以下に、本発明の液晶配向剤に含まれる各成分、及び必要に応じて任意に配合されるその他の成分について説明する。
【0015】
(上記式(1)で表される部分構造)
上記式(1)について、Rの炭素数1~20のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基等が挙げられ、直鎖状でも分岐状でもよい。
炭素数6~20のアリール基としては、例えばフェニル基、3-フルオロフェニル基、3-クロロフェニル基、4-クロロフェニル基、4-i-プロピルフェニル基、4-n-ブチルフェニル基、3-クロロ-4-メチルフェニル基、4-ピリジニル基、2-フェニル-4-キノリニル基、2-(4’-t-ブチルフェニル)-4-キノリニル基、2-(2’-チオフェニル)-4-キノリニル基等が挙げられる。炭素数7~13のアラルキル基としては、例えばベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。
~Rの炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基及び炭素数7~13のアラルキル基としては、上記Rの説明において、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基及び炭素数7~13のアラルキル基として例示したものをそれぞれ挙げることができる。
【0016】
上記式(1)において、「-X-R」で表される基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、2-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、オクチルオキシ基、ホルミル基、アセチル基、フェニル基、ベンジル基、1,3-ジオキソブチル基、1,4-ジオキソブチル基、4-ピリジニルカルボニル基、ベンゾイル基、2-フェニル-4-キノリニル基、2-(4’-t-ブチルフェニル)-4-キノリニル基、2-(2’-チオフェニル)-4-キノリニル基、式「-CONH-Ph(但し、Phはフェニル基、3-フルオロフェニル基、3-クロロフェニル基、4-クロロフェニル基、4-i-プロピルフェニル基、4-n-ブチルフェニル基又は3-クロロ-4-メチルフェニル基である。)」で表される基等が挙げられる。「-X-R」で表される基は、好ましくは水素原子又は炭素数1~6のアルキル基であり、より好ましくは水素原子又は炭素数1~4のアルキル基であり、さらに好ましくは水素原子又は炭素数1~3のアルキル基である。
【0017】
上記式(1)において「-X-R」、「-X-R」、「-X-R」、「-X-R」で表される基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、2-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、フェニル基、ベンジル基、ベンゾイル基、4-ホルミルベンゾイル基、2-ヒドロキシ-2-フェニルエチル基、2-オキソ-2-(3,4,5-トリメトキシフェニル)エチル基等が挙げられる。なお、「-X-R」、「-X-R」、「-X-R」及び「-X-R」は、互いに同じでも異なっていてもよい。「-X-R」、「-X-R」、「-X-R」、「-X-R」で表される基は、好ましくは炭素数1~6のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1~4のアルキル基であり、さらに好ましくは炭素数1~3のアルキル基である。
【0018】
上記式(1)で表される部分構造は、上記のうち、下記式(1-1)で表される部分構造であることが好ましい。
【化2】
(式(1-1)中、Rは水素原子又はメチル基である。「*」は結合手であることを示す。)
【0019】
(上記式(2)で表される部分構造)
上記式(2)について、Rの炭素数4~16の炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基を挙げることができる。具体的には、脂肪族炭化水素基として、例えば上記Rの説明で炭素数4~16のアルキル基として例示したものを;脂環式炭化水素基として、例えばシクロペンチル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、イソボルニル基等、アダマンチル基、トリシクロデカニル基等を;芳香族炭化水素基として、例えばフェニル基、フルオロフェニル基、クロロフェニル基、ベンジル基、フェネチル基等を;それぞれ挙げることができる。また、Rは、上記例示した炭化水素基の炭素-炭素結合間に、「-O-」及び「-S-」のうちの少なくともいずれかを1つ以上含む1価の基であってもよい。
の好ましい具体例としては、t-ブチル基、1-メチルペンタデシル、1-エチルペンタデシル、オクチルチオメチル基、デシルチオメチル基、ドデシルチオメチル基、テトラデシルチオメチル基が挙げられる。
【0020】
の炭素数1~16の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基等のほか、上記Rの説明で例示した基を挙げることができる。
の結合位置は特に限定しないが、フェノール性水酸基に対してオルト位であるか、又はRに対してパラ位であることが好ましく、前者がより好ましい。
、Rは、好ましくは炭素数1~16のアルキル基であり、より好ましくは炭素数4~16のアルキル基である。R、Rの好ましい具体例としては、メチル基、エチル基、t-ブチル基、1-メチルペンタデシル、1-エチルペンタデシルが挙げられる。
【0021】
上記式(2)で表される部分構造は、上記のうち、下記式(2-1)で表される部分構造であることが好ましい。下記式(2-1)中のtert-ブチル基の結合位置は、水酸基に対して、オルト位及びメタ位のいずれでもよいが、オルト位であることが好ましい。
【化3】
(式(2-1)中、「*」は結合手であることを示す。)
【0022】
液晶配向剤中の成分が有する、上記式(1)で表される部分構造と上記式(2)で表される部分構造との比率は、上記式(2)で表される部分構造によるラジカル又はイオンを捕捉する機能と、上記式(1)で表される部分構造による、上記式(2)で表される部分構造のラジカル又はイオンの補足機能の再生とがバランス良く行われるようにする観点から、上記式(1)で表される部分構造1モルに対して、上記式(2)で表される部分構造が0.01モル以上となる比率とすることが好ましく、0.02モル以上となる比率とすることがより好ましい。また、当該比率は、上記式(1)で表される部分構造1モルに対して、上記式(2)で表される部分構造が50モル以下となる比率とすることが好ましく、30モル以下となる比率とすることがより好ましく、10モル以下となる比率とすることが更に好ましい。
【0023】
上記式(1)で表される部分構造と上記式(2)で表される部分構造は、同一分子が有していてもよいし、異なる分子が有していてもよい。すなわち、本発明の液晶配向剤は、上記式(1)で表される部分構造を有する化合物(以下、「化合物[A]」ともいう。)と、上記式(2)で表される部分構造を有する化合物(以下、「化合物[B]」ともいう。)とを含有していてもよく、あるいは、上記式(1)で表される部分構造と上記式(2)で表される部分構造とを有する化合物(以下、「化合物[C]」ともいう。)を含有していてもよい。また、化合物[A]~[C]はそれぞれ、重合体成分として液晶配向剤中に含有されていてもよいし、あるいは、添加剤成分として液晶配向剤中に含有されていてもよい。
【0024】
なお、本明細書において、液晶配向剤が化合物[A]と化合物[B]とを含有する場合には、化合物[A]及び化合物[B]と共に、化合物[C]が更に含有されていてもよい。また、液晶配向剤が化合物[C]を含有する場合には、化合物[C]と共に、化合物[A]と化合物[B]とが更に含有されていてもよい。
【0025】
(化合物[A]~[C]が重合体である場合)
化合物[A]~[C]が重合体である場合、当該重合体(以下、各重合体をそれぞれ、「重合体[A]」、「重合体[B]」、「重合体[C]」ともいう。)は、上記式(1)で表される部分構造又は上記式(2)で表される部分構造(以下、「特定部分構造」ともいう。)を導入しやすい点や、液晶配向性が良好である点、機械的強度が良好である点から、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド及びポリオルガノシロキサンよりなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましく、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選ばれる少なくとも一種であることが特に好ましい。
【0026】
[ポリアミック酸]
重合体[A]~[C]がポリアミック酸である場合、当該ポリアミック酸は、特定部分構造を有するテトラカルボン酸二無水物、及び特定部分構造を有するジアミンの少なくともいずれかをモノマー組成に含む重合により得ることができる。化合物の選択の自由度が高い点及び合成しやすさの点で、特定部分構造を有するジアミン(以下「特定ジアミン」ともいう。)を用いることが好ましい。
【0027】
(テトラカルボン酸二無水物)
ポリアミック酸の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、脂肪族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物、芳香族テトラカルボン酸二無水物などを挙げることができる。これらの具体例としては、脂肪族テトラカルボン酸二無水物として、例えば1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物等を;
脂環式テトラカルボン酸二無水物として、例えば1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-3a,4,5,9b-テトラヒドロナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-8-メチル-3a,4,5,9b-テトラヒドロナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、2,4,6,8-テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン-2:4,6:8-二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物等を;
芳香族テトラカルボン酸二無水物として、例えばピロメリット酸二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメート、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、4,4’-カルボニルジフタル酸無水物等を、それぞれ挙げることができるほか、特開2010-97188号公報に記載のテトラカルボン酸二無水物を用いることができる。なお、テトラカルボン酸二無水物としては、1種を単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0028】
(ジアミン化合物)
特定ジアミンは、特定部分構造を有していれば特に限定されないが、これらの中でも特に、下記式(3)で表される化合物及び下記式(4)で表される化合物が好ましい。
【化4】
(式(3)及び式(4)中、Y及びYは、それぞれ独立に2価の連結基である。R~R及びX~Xは、上記式(1)中のR~R及びX~Xとそれぞれ同義である。R及びRは、上記式(2)中のR及びRとそれぞれ同義である。)
【0029】
上記式(3)及び式(4)において、Y、Yの2価の連結基としては、例えば-O-、-S-、-CO-、-COO-、-COS-、-NR-、-CONR-、-CO-NR-CO-(ただし、Rは水素原子又は炭素数1~3のアルキル基である。以下同じ。)、炭素数1~30の2価の炭化水素基、当該炭化水素基の少なくとも1個のメチレン基を-O-、-S-、-CO-、-COO-、-COS-、-NR-、-CONR-、又は-CO-NR-CO-の2価のヘテロ原子含有基で置き換えた基などが挙げられる。R~R及びX~Xについては、上記式(1)で表される部分構造の説明が適用され、R及びRについては、上記式(2)で表される部分構造の説明が適用される。
【0030】
ここで、本明細書において「炭化水素基」とは、鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基を含む意味である。「鎖状炭化水素基」とは、主鎖に環状構造を含まず、鎖状構造のみで構成された直鎖状炭化水素基及び分岐状炭化水素基を意味する。ただし、飽和でも不飽和でもよい。「脂環式炭化水素基」とは、環構造としては脂環式炭化水素の構造のみを含み、芳香環構造を含まない炭化水素基を意味する。ただし、脂環式炭化水素の構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造を有するものも含む。「芳香族炭化水素基」とは、環構造として芳香環構造を含む炭化水素基を意味する。ただし、芳香環構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造や脂環式炭化水素の構造を含んでいてもよい。
【0031】
、Yの2価の炭化水素基の具体例としては、鎖状炭化水素基として、例えばメチレン基、エチレン基、プロパンジイル基、ブタンジイル基、ペンタンジイル基、ヘキサンジイル基、へプタンジイル基、オクタンジイル基、ノナンジイル基、デカンジイル基等のアルカンジイル基;ビニレン基、プロペンジイル基、ブテンジイル基、ペンテンジイル基、ヘキセンジイル基等のアルケンジイル基;などが挙げられ、これらは直鎖状でも分岐状でもよい。また、脂環式炭化水素基としては、例えばシクロヘキシレン基等を;芳香族炭化水素基としては、例えばフェニレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基等を、それぞれ挙げることができる。Y、Yが2価の炭化水素基を有する場合、当該2価の炭化水素基は鎖状炭化水素基であることが好ましく、炭素数1~6のアルカンジイル基であることがより好ましい。
【0032】
特定ジアミンの具体例としては、上記式(3)で表される化合物として、下記式(3-1)~式(3-7)のそれぞれで表される化合物等を;上記式(4)で表される化合物として、下記式(4-1)~式(4-6)のそれぞれで表される化合物等を、挙げることができる。なお、特定ジアミンとしては、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【化5】
【0033】
ポリアミック酸の合成に使用するジアミン化合物としては、特定ジアミンのみとしてもよいが、特定部分構造を有さないジアミン化合物(以下、「その他のジアミン」ともいう。)を併用してもよい。
【0034】
その他のジアミンとしては、例えば脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン、芳香族ジアミン、ジアミノオルガノシロキサンなどが挙げられる。これらの具体例としては、脂肪族ジアミンとして、例えばm-キシリレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンなどを;脂環式ジアミンとして、例えば1,4-ジアミノシクロヘキサン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)などを;
【0035】
芳香族ジアミンとして、例えばドデカノキシジアミノベンゼン、テトラデカノキシジアミノベンゼン、ペンタデカノキシジアミノベンゼン、ヘキサデカノキシジアミノベンゼン、オクタデカノキシジアミノベンゼン、コレスタニルオキシジアミノベンゼン、コレステリルオキシジアミノベンゼン、ジアミノ安息香酸コレスタニル、ジアミノ安息香酸コレステリル、ジアミノ安息香酸ラノスタニル、3,6-ビス(4-アミノベンゾイルオキシ)コレスタン、3,6-ビス(4-アミノフェノキシ)コレスタン、1,1-ビス(4-((アミノフェニル)メチル)フェニル)-4-ブチルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-((アミノフェニル)メチル)フェニル)-4-ヘプチルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-((アミノフェノキシ)メチル)フェニル)-4-ヘプチルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-((アミノフェニル)メチル)フェニル)-4-(4-ヘプチルシクロヘキシル)シクロヘキサン、N-(2,4-ジアミノフェニル)-4-(4-ヘプチルシクロヘキシル)ベンズアミド、下記式(E-1)
【化6】
(式(E-1)中、XI及びXIIは、それぞれ独立に、単結合、-O-、-COO-又は-OCO-であり、Rは炭素数1~3のアルカンジイル基であり、RIIは単結合又は炭素数1~3のアルカンジイル基であり、aは0又は1であり、bは0~2の整数であり、cは1~20の整数であり、dは0又は1である。但し、a及びbが同時に0になることはない。)
で表される化合物などの配向性基含有ジアミン:
【0036】
p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルアミン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4-アミノフェニル-4’-アミノベンゾエート、4,4’-ジアミノアゾベンゼン、1,5-ビス(4-アミノフェノキシ)ペンタン、1,7-ビス(4-アミノフェノキシ)ヘプタン、ビス[2-(4-アミノフェニル)エチル]ヘキサン二酸、N,N-ビス(4-アミノフェニル)メチルアミン、1,5-ジアミノナフタレン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’-(p-フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、2,6-ジアミノピリジン、2,4-ジアミノピリミジン、3,6-ジアミノアクリジン、3,6-ジアミノカルバゾール、N-メチル-3,6-ジアミノカルバゾール、N,N’-ビス(4-アミノフェニル)-ベンジジン、N,N’-ビス(4-アミノフェニル)-N,N’-ジメチルベンジジン、1,4-ビス-(4-アミノフェニル)-ピペラジン、3,5-ジアミノ安息香酸などを;
ジアミノオルガノシロキサンとして、例えば、1,3-ビス(3-アミノプロピル)-テトラメチルジシロキサンなどを;それぞれ挙げることができるほか、特開2010-97188号公報に記載のジアミンを用いることができる。なお、ポリアミック酸の合成に使用するその他のジアミンとしては、これらの化合物の1種を単独で又は2種以上を適宜選択して使用することができる。
【0037】
上記式(E-1)で表される化合物の具体例としては、例えば下記式(E-1-1)~式(E-1-4)のそれぞれで表される化合物などを挙げることができる。
【化7】
【0038】
重合体[A]及び重合体[C]を合成する場合、上記式(1)で表される部分構造を有するジアミンの使用割合は、液晶配向膜中において上記式(2)で表される部分構造のラジカル又はイオンの捕捉機能の再生が十分に行われるようにする観点から、ポリアミック酸の合成に使用するモノマーの合計量に対して、1モル%以上とすることが好ましく、3モル%以上とすることがより好ましく、5モル%以上とすることがさらに好ましい。また、上記式(1)で表される部分構造を有するジアミンの使用割合は、30モル%以下とすることが好ましく、20モル%以下とすることがより好ましく、10モル%以下とすることがさらに好ましい。
重合体[B]及び重合体[C]を合成する場合、上記式(2)で表される部分構造を有するジアミンの使用割合は、液晶配向膜に対しラジカル又はイオンの捕捉機能を十分に付与する観点から、ポリアミック酸の合成に使用するモノマーの合計量に対して、1モル%以上とすることが好ましく、3モル%以上とすることがより好ましく、5モル%以上とすることがさらに好ましい。また、上記式(2)で表される部分構造を有するジアミンの使用割合は、30モル%以下とすることが好ましく、20モル%以下とすることがより好ましく、10モル%以下とすることがさらに好ましい。
【0039】
(ポリアミック酸の合成)
ポリアミック酸は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを、必要に応じて分子量調整剤(例えば、酸一無水物やモノアミン等)とともに反応させることにより得ることができる。ポリアミック酸の合成反応に供されるテトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の使用割合は、ジアミン化合物のアミノ基1当量に対して、テトラカルボン酸二無水物の酸無水物基が0.2~2当量となる割合が好ましい。
【0040】
ポリアミック酸の合成反応は、好ましくは有機溶媒中において行われる。このときの反応温度は-20℃~150℃が好ましく、反応時間は0.1~24時間が好ましい。反応に使用する有機溶媒としては、例えば非プロトン性極性溶媒、フェノール系溶媒、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素、炭化水素などを挙げることができる。特に好ましい有機溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルトリアミド、m-クレゾール、キシレノール及びハロゲン化フェノールよりなる群から選択される1種以上を溶媒として使用するか、あるいはこれらの1種以上と、他の有機溶媒(例えばブチルセロソルブ、ジエチレングリコールジエチルエーテルなど)との混合物を使用することが好ましい。有機溶媒の使用量(a)は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの合計量(b)が、反応溶液の全量(a+b)に対して、0.1~50質量%になる量とすることが好ましい。
【0041】
[ポリアミック酸エステル]
重合体[A]~[C]がポリアミック酸エステルである場合、当該ポリアミック酸エステルは、例えば、[I]上記合成反応により得られたポリアミック酸とエステル化剤とを反応させる方法、[II]テトラカルボン酸ジエステルとジアミン化合物とを反応させる方法、[III]テトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物とジアミン化合物とを反応させる方法、などによって得ることができる。液晶配向剤に含有させるポリアミック酸エステルは、アミック酸エステル構造のみを有していてもよく、アミック酸構造とアミック酸エステル構造とが併存する部分エステル化物であってもよい。
【0042】
[ポリイミド]
重合体[A]~[C]がポリイミドである場合、当該ポリイミドは、例えば、上記の如くして合成されたポリアミック酸を脱水閉環してイミド化することにより得ることができる。ポリイミドは、イミド化率が20~99%であることが好ましく、30~90%であることがより好ましい。イミド化率は、ポリイミドのアミック酸構造の数とイミド環構造の数との合計に対するイミド環構造の数の占める割合を百分率で表したものである。なお、イミド環の一部がイソイミド環であってもよい。
【0043】
ポリアミック酸の脱水閉環は、好ましくはポリアミック酸を有機溶媒に溶解し、この溶液中に脱水剤及び脱水閉環触媒を添加し必要に応じて加熱する方法により行われる。この方法において、脱水剤としては、例えば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸などの酸無水物が挙げられる。脱水剤の使用量は、ポリアミック酸のアミック酸構造の1モルに対して0.01~20モルとすることが好ましい。脱水閉環触媒としては、例えばピリジン、コリジン、ルチジン、トリエチルアミン等の3級アミンを用いることができる。脱水閉環触媒の使用量は、使用する脱水剤1モルに対して0.01~10モルとすることが好ましい。脱水閉環反応に用いられる有機溶媒としては、ポリアミック酸の合成に用いられるものとして例示した有機溶媒が挙げられる。脱水閉環反応の反応温度は、好ましくは0~180℃である。反応時間は、好ましくは1.0~120時間である。
【0044】
以上のようにして得られるポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドは、これを濃度15質量%の溶液としたときに、20~1,800mPa・sの溶液粘度を持つものであることが好ましく、50~1,500mPa・sの溶液粘度を持つものであることがより好ましい。なお、重合体の溶液粘度(mPa・s)は、当該重合体の良溶媒(例えばγ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン等)を用いて調製した濃度15質量%の重合体溶液につき、E型回転粘度計を用いて25℃で測定した値である。
【0045】
ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000~500,000であり、より好ましくは2,000~300,000である。また、Mwと、GPCにより測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは10以下であり、より好ましくは8以下である。
【0046】
(化合物[A]が添加剤である場合)
添加剤成分として化合物[A]を使用する場合、化合物[A]は、上記式(1)で表される部分構造を有する分子量1000以下の低分子化合物(以下、「添加剤[A]」ともいう。)であることが好ましい。なお、本明細書において「低分子化合物」とは、分子量分布を有さない化合物を意味する。添加剤[A]が有する、上記式(1)で表される部分構造の数は1個でも複数個でもよい。好ましくは1~8個であり、より好ましくは2~6個である。
【0047】
液晶配向剤に配合する添加剤[A]としては市販品を使用してもよい。その具体例としては、アデカスタブLA-52、LA-57、LA-63、LA-68、LA-72、LA-77、LA-81、LA-81、LA-82、LA-87、LA-402、LA-502(以上、ADEKA製)、CHIMASSORB119、CHIMASSORB2020、CHIMASSORB944、TINUVIN622、TINUVIN123、TINUVIN144、TINUVIN765、TINUVIN770、TINUVIN111、TINUVIN783、TINUVIN791(以上、BASFジャパン製)等を挙げることができる。なお、添加剤[A]としては、これらの一種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0048】
添加剤[A]の含有割合は、上記式(2)で表される部分構造の機能を再生することにより、液晶素子の残像低減、耐光性及びベゼルムラ耐性の改善効果を十分に得る観点から、液晶配向剤に含有される重合体成分の合計量100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、3質量部以上であることがより好ましく、5質量部以上であることが更に好ましい。また、添加剤[A]の含有割合は、液晶素子の耐光性の低下を抑制する観点から、液晶配向剤に含有される重合体成分の合計量に対して、10質量部以下であることが好ましく、8質量部以下であることがより好ましい。
【0049】
(化合物[B]が添加剤である場合)
添加剤成分として化合物[B]を使用する場合、化合物[B]は、上記式(2)で表される部分構造を有する分子量1000以下の低分子化合物(以下、「添加剤[B]」ともいう。)であることが好ましい。添加剤[B]が有する、上記式(2)で表される部分構造の数は1個でも複数個でもよい。好ましくは1~8個であり、より好ましくは2~6個である。
【0050】
添加剤[B]としては市販品を使用してもよい。その具体例としては、アデカスタブAO-20、同AO-30、同AO-40、同AO-50、同AO-60、同AO-80、同AO-330(以上、ADEKA製)、IRGANOX1010、IRGANOX1035、IRGAOX1076、IRGANOX1098、IRGANOX1135、IRGANOX1330、IRGANOX1726、IRGANOX1425、IRGANOX1520、IRGANOX245、IRGANOX259、IRGANOX3114、IRGANOX3790、IRGANOX5057、IRGANOX565、IRGAMOD295(以上、BASFジャパン製)等を挙げることができる。なお、添加剤[B]としては、これらの一種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0051】
添加剤[B]の含有割合は、上記式(2)で表される部分構造の機能による、液晶素子の残像低減、耐光性及びベゼルムラ耐性の改善効果を十分に得る観点から、液晶配向剤に含有される重合体成分の合計量100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、3質量部以上であることがより好ましく、5質量部以上であることが更に好ましい。また、添加剤[B]の含有割合は、液晶素子の耐光性の低下を抑制する観点から、液晶配向剤に含有される重合体成分の合計量に対して、10質量部以下であることが好ましく、8質量部以下であることがより好ましい。
【0052】
(その他の成分)
[重合体成分]
化合物[A]及び化合物[B]が共に低分子化合物であり、化合物[C]を含有しない場合、液晶配向剤は、化合物[A]及び化合物[B]と共に、重合体成分として、特定部分構造を有さない重合体(以下、「重合体[D]」ともいう。)を含有する。重合体[D]の主骨格は特に限定されず、例えばポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリオルガノシロキサン、ポリエステル、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリスチレン、ポリベンゾオキサゾール、ポリマレイミド、スチレン-マレイミド系共重合体、ポリ(メタ)アクリレートを主骨格とする重合体等が挙げられる。なお、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びメタクリレートを含む意味である。重合体[D]としては、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
これらのうち、液晶配向性や機械的強度、液晶との親和性に優れていることから、重合体[D]は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド及びポリオルガノシロキサンよりなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましく、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選ばれる少なくとも一種であることがより好ましい。
【0053】
なお、化合物[A]及び化合物[B]の少なくとも一方が重合体である場合、又は重合体[C]を含有する場合、液晶配向剤は重合体[D]を更に含有していてもよい。この場合、重合体[D]の含有割合は、液晶配向剤に含有される重合体成分の合計量に対して、30質量%以下とすることが好ましく、20質量%以下とすることがより好ましく、10質量%以下とすることが更に好ましい。重合体[D]は、1種が単独で含有されていてもよく、2種以上が組み合わされて含有されていてもよい。
【0054】
液晶配向剤に含有されるその他の成分としては、上記のほか、例えばエポキシ化合物(例えば、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、N,N-ジグリシジル-アミノメチルシクロヘキサン、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等)、官能性シラン化合物(例えば、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等)、金属キレート化合物、硬化促進剤、界面活性剤、充填剤、分散剤、光増感剤等が挙げられる。これらの化合物の配合割合は、本発明の効果を損なわない範囲内において、各化合物に応じて適宜選択することができる。
【0055】
(溶剤成分)
本発明の液晶配向剤は、重合体成分、及び必要に応じて配合される添加剤成分が、好ましくは有機溶媒に溶解された溶液状の組成物として調製される。当該有機溶媒としては、例えば非プロトン性極性溶媒、フェノール系溶媒、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素、炭化水素等が挙げられる。溶剤成分は、これらの1種でもよく、2種以上の混合溶媒であってもよい。
【0056】
溶剤成分としては、重合体の溶解性及びレベリング性が高い溶剤(以下、「第1溶剤」ともいう。)、濡れ広がり性が良好な溶剤(以下、「第2溶剤」ともいう。)、及びこれらの混合溶剤が挙げられる。溶剤の具体例としては、第1溶剤として、例えばN-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、γ-ブチロラクタム、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、ジイソブチルケトン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、N-エチル-2-ピロリドン、N-(n-ペンチル)-2-ピロリドン、N-(t-ブチル)-2-ピロリドン、N-メトキシプロピル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド等を;
第2溶剤として、例えばエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、ダイアセトンアルコール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3-メトキシ-1-ブタノール、シクロペンタノン、乳酸ブチル、酢酸ブチル、メチルメトキシプロピオネ-ト、エチルエトキシプロピオネ-ト、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジイソペンチルエーテル等を、それぞれ挙げることができる。なお、溶剤としては、これらのうちの1種を単独で使用してもよいが、第1溶剤と第2溶剤との混合溶剤を用いることが好ましい。
【0057】
液晶配向剤における固形分濃度(液晶配向剤の溶媒以外の成分の合計質量が液晶配向剤の全質量に占める割合)は、粘性、揮発性などを考慮して適宜に選択されるが、好ましくは1~10質量%の範囲である。固形分濃度が1質量%未満である場合には、塗膜の膜厚が過小となって良好な液晶配向膜が得にくくなる。一方、固形分濃度が10質量%を超える場合には、塗膜の膜厚が過大となって良好な液晶配向膜が得にくく、また、液晶配向剤の粘性が増大して塗布性が低下する傾向にある。
【0058】
液晶配向剤の成分組成の好ましい態様としては、下記(I)~(IV)が挙げられる。
(I)重合体[D]と添加剤[A]と添加剤[B]とを含有する態様。
(II)重合体[A]と添加剤[B]とを含有する態様。
(III)重合体[B]と添加剤[A]とを含有する態様。
(IV)重合体[C]を含有する態様。
これらのうち、液晶素子の耐光性及びベゼルムラ耐性の向上を十分に図りつつ、残像低減効果をより好適に得ることができる点で、上記(I)及び(II)の態様が好ましく、上記(I)の態様がより好ましい。
【0059】
なお、本発明の液晶配向剤を用いることにより、残像特性及び耐光性に優れ、かつシール剤周辺の表示ムラが少ない液晶素子を得ることができる理由は定かではないが、次のようなことが考えられる。上記液晶配向剤を用いて形成された配向膜中には、配向膜中の成分が有する構造として、上記式(1)で表される部分構造と上記式(2)で表される部分構造との両方が存在する。このため、上記式(2)で表される部分構造によって、液晶素子に対する露光又は加熱により発生したラジカル又はイオンが捕捉されるとともに、酸化による副生成物の生成が抑制される。また、上記式(1)で表される部分構造が光安定剤として機能し、配向膜中において上記式(2)で表される部分構造の機能を再生する。これにより、上記式(2)で表される部分構造が有する機能が効果的にかつ継続的に発現され、上記効果が得られたものと推測される。なお、この推測は、本発明の内容を限定するものではない。
【0060】
≪液晶配向膜及び液晶素子≫
本発明の液晶配向膜は、上記のように調製された液晶配向剤により形成される。また、本発明の液晶素子は、上記で説明した液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜を具備する。液晶素子における液晶の動作モードは特に限定されず、例えばTN型、STN型、VA型(VA-MVA型、VA-PVA型などを含む。)、IPS(In-Plane Switching)型、FFS(Fringe Field Switching)型、OCB(Optically Compensated Bend)型、PSA型(Polymer Sustained Alignment)など種々のモードに適用することができる。液晶素子は、例えば以下の工程1~工程3を含む方法により製造することができる。工程1は、所望の動作モードによって使用基板が異なる。工程2及び工程3は各動作モード共通である。
【0061】
<工程1:塗膜の形成>
先ず基板上に液晶配向剤を塗布し、好ましくは塗布面を加熱することにより基板上に塗膜を形成する。基板としては、例えばフロートガラス、ソーダガラスなどのガラス;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリ(脂環式オレフィン)などのプラスチックからなる透明基板を用いることができる。基板の一方の面に設けられる透明導電膜としては、酸化スズ(SnO)からなるNESA膜(米国PPG社登録商標)、酸化インジウム-酸化スズ(In-SnO)からなるITO膜などを用いることができる。TN型、STN型又はVA型の液晶素子を製造する場合には、パターニングされた透明導電膜が設けられている基板二枚を用いる。一方、IPS型又はFFS型の液晶素子を製造する場合には、櫛歯型にパターニングされた電極が設けられている基板と、電極が設けられていない対向基板とを用いる。基板への液晶配向剤の塗布は、電極形成面上に、好ましくはオフセット印刷法、フレキソ印刷法、スピンコート法、ロールコーター法又はインクジェット印刷法により行う。
【0062】
液晶配向剤を塗布した後、塗布した液晶配向剤の液垂れ防止などの目的で、好ましくは予備加熱(プレベーク)が実施される。プレベーク温度は、好ましくは30~200℃であり、プレベーク時間は、好ましくは0.25~10分である。その後、溶剤を完全に除去し、必要に応じて、重合体成分中のアミック酸構造を熱イミド化することを目的として焼成(ポストベーク)工程が実施される。このときの焼成温度(ポストベーク温度)は、好ましくは80~300℃であり、より好ましくは80~250℃である。ポストベーク時間は、好ましくは5~200分である。このようにして形成される膜の膜厚は、好ましくは0.001~1μmである。
【0063】
<工程2:配向処理>
TN型、STN型、IPS型又はFFS型の液晶素子を製造する場合、上記工程1で形成した塗膜に液晶配向能を付与する処理(配向処理)を実施する。これにより、液晶分子の配向能が塗膜に付与されて液晶配向膜となる。配向処理としては、基板上に形成した塗膜を例えばナイロン、レーヨン、コットンなどの繊維からなる布を巻き付けたロールで一定方向に擦るラビング処理や、基板上に形成した塗膜に光照射を行って塗膜に液晶配向能を付与する光配向処理等を用いることができる。一方、垂直配向(VA)型の液晶素子を製造する場合には、上記工程1で形成した塗膜をそのまま液晶配向膜として使用することができるが、液晶配向能を更に高めるために、該塗膜に対し配向処理を施してもよい。垂直配向型の液晶素子に好適な液晶配向膜は、PSA型の液晶素子にも好適に用いることができる。
【0064】
<工程3:液晶セルの構築>
上記のようにして液晶配向膜が形成された基板を2枚準備し、2枚の基板間に液晶配向膜に隣接して液晶が配置されるように液晶セルを製造する。液晶セルを製造するには、例えば、液晶配向膜が対向するように間隙を介して2枚の基板を対向配置し、2枚の基板の周辺部をシール剤により貼り合わせ、基板表面とシール剤で囲まれたセルギャップ内に液晶を注入充填し注入孔を封止する方法、ODF方式による方法等が挙げられる。シール剤としては、例えば硬化剤及びスペーサーとしての酸化アルミニウム球を含有するエポキシ樹脂等を用いることができる。液晶としては、ネマチック液晶及びスメクチック液晶を挙げることができ、その中でもネマチック液晶が好ましい。PSAモードでは、液晶セルの構築後に、一対の基板の有する導電膜間に電圧を印加した状態で液晶セルに光照射する処理を行う。
【0065】
続いて、必要に応じて液晶セルの外側表面に偏光板を貼り合わせ、液晶素子とする。偏光板としては、ポリビニルアルコールを延伸配向させながらヨウ素を吸収させた「H膜」と称される偏光フィルムを酢酸セルロース保護膜で挟んだ偏光板又はH膜そのものからなる偏光板が挙げられる。
【0066】
本発明の液晶素子は種々の用途に有効に適用することができ、例えば、時計、携帯型ゲーム、ワープロ、ノート型パソコン、カーナビゲーションシステム、カムコーダー、PDA、デジタルカメラ、携帯電話、スマートフォン、各種モニター、液晶テレビ、インフォメーションディスプレイなどの各種表示装置や、調光フィルム、位相差フィルム等に適用することができる。
【実施例
【0067】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0068】
以下の例において、重合体の重量平均分子量Mw、イミド化率、エポキシ当量並びに重合体溶液の溶液粘度は以下の方法により測定した。なお、以下では、式Xで表される化合物を単に「化合物X」と記すことがある。
[重合体の重量平均分子量Mw]
Mwは、以下の条件におけるGPCにより測定したポリスチレン換算値である。
カラム:東ソー(株)製、TSKgelGRCXLII
溶剤:テトラヒドロフラン
温度:40℃
圧力:68kgf/cm
[重合体のイミド化率]
ポリイミドを含有する溶液を純水に投入し、得られた沈殿を室温で十分に減圧乾燥した後、重水素化ジメチルスルホキシドに溶解し、テトラメチルシランを基準物質として室温でH-NMRを測定した。得られたH-NMRスペクトルから、下記数式(EX-1)を用いてイミド化率を求めた。
イミド化率(%)=(1-A/A×α)×100 …(EX-1)
(数式(EX-1)中、Aは化学シフト10ppm付近に現れるNH基のプロトン由来のピーク面積であり、Aはその他のプロトン由来のピーク面積であり、αは重合体の前駆体(ポリアミック酸)におけるNH基のプロトン1個に対するその他のプロトンの個数割合である。)
[重合体溶液の溶液粘度]
重合体溶液の溶液粘度(mPa・s)は、E型回転粘度計を用いて25℃で測定した。
【0069】
<化合物の合成>
[合成例1]
下記スキーム1に従って、化合物(A-1-1)を合成した。
【化8】
【0070】
(1)化合物(A-1-1a)の合成
滴下ロート、窒素導入管及び温度計を備えた500mLの三口フラスコに、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジノール16g及びピリジン250mLを仕込み、氷冷した。この溶液に、氷冷下で、3,5-ジニトロ塩化ベンゾイル23gをテトラヒドロフラン100mLに溶解した溶液を30分かけて滴下し、そのまま室温で3時間撹拌した。その後、反応混合物に酢酸エチル1Lを加え、500mLの水で分液洗浄を行った。続いて、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、濃縮し、乾固した後、エタノールで再結晶することにより、化合物(A-1-1a)の淡黄色結晶を28g得た。
【0071】
(2)化合物(A-1-1)の合成
還流管、窒素導入管及び温度計を備えた500mLの三口フラスコに、上記で得た化合物(A-1-1a)28g、5質量%パラジウムカーボン0.5g、エタノール290mL及びヒドラジン1水和物20mLを加え、室温で1時間撹拌した後、さらに70℃で1時間撹拌下に反応を行った。反応終了後、反応混合物からパラジウムカーボンを濾過により除去し、その後、酢酸エチル1.6Lを加えて、800mLの水で分液洗浄を行った。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧下に溶媒を除去して乾固したものを、酢酸エチルとヘキサンの混合溶媒から再結晶することにより、化合物(A-1-1)の白色結晶を16g得た。
【0072】
[合成例2]
下記スキーム2(1)及び下記スキーム2(2)に従って、化合物(B-1-1)を合成した。
【化9】
【0073】
(1)化合物(B-1-1b)の合成
滴下ロート、窒素導入管及び温度計を備えた500mLの三口フラスコに、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ安息香酸13g及び塩化チオニル20mL、N,N-ジメチルホルムアミド0.6mLを仕込み、80℃で1時間攪拌下に反応を行った。反応終了後、減圧下で反応混合物から塩化チオニルを留去した後、残存物にジクロロメタン100mLを加えて有機層を得た。得られた有機層を蒸留水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧下にて溶媒を除去して得た固体をテトラヒドロフラン40mLに溶解して溶液Aとした。
上記とは別に、滴下ロート、窒素導入管及び温度計を備えた500mLの三口フラスコに、エチレングリコール27.7mL、トリエチルアミン7.67mL、テトラヒドロフラン40mLを仕込んで均一に混合して溶液とした。ここに、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ安息香酸と塩化チオニルとの反応物を含有するテトラヒドロフラン溶液(溶液A)を滴下し、0℃で1時間攪拌下に反応を行った。反応終了後、反応混合物に酢酸エチル300mLを加えて得た有機層を水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した後、濃縮して得られた結晶状固体を得た、この固体をろ取により回収してヘキサンで洗浄することにより、化合物(B-1-1a)10gを得た。
滴下ロート、窒素導入管及び温度計を備えた500mLの三口フラスコ中で、上記で得られた化合物(B-1-1a)9.2g及びトリエチルアミン5.23mLをテトラヒドロフラン50mLに溶解し、ここに3,5-ジニトロベンゾイルクロリド7.6gをテトラヒドロフラン50mLに溶解して得た溶液を滴下した後、室温で1時間攪拌下に反応を行った。反応終了後、反応混合物に酢酸エチル20mLを加えて得た有機層を水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧下にて溶媒を除去して得た固体をエタノールから再結晶することにより、化合物(B-1-1b)の結晶12gを得た。
【0074】
(2)化合物(B-1-1)の合成
還流管、窒素導入管及び温度計を備えた500mLの三口フラスコに、上記で得た化合物(B-1-1b)12g、5質量%パラジウムカーボン0.6g、エタノール70mL及びテトラヒドロフラン70mLを仕込んで混合した。ここに、ヒドラジン1水和物6mLを滴下して室温で1時間撹拌した後、さらに70℃で2時間撹拌下に反応を行った。反応終了後、反応混合物からパラジウムカーボンを濾過により除去し、その後、酢酸エチル200mLを加えて得た有機層を200mLの水で洗浄した。この有機層を濃縮し、カラムクロマトグラフィー(充填材:シリカゲル、展開溶媒:クロロホルム)により精製して得た留分から減圧下にて溶媒を除去することにより、化合物(B-1-1)の白色固体を10g得た。
【0075】
<重合体の合成例>
[合成例3-1;重合体(PA-1)の合成]
テトラカルボン酸二無水物としてピロメリット酸二無水物11.01g(合成に使用したジアミンの全体量100モル部に対して93モル部)、並びにジアミン化合物としてビス[2-(4-アミノフェニル)エチル]ヘキサン二酸16.70g(同80モル部)、及び4,4’-ジアミノジフェニルアミン2.16g(同20モル部)を、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)85g及びγ-ブチロラクトン(GBL)85gの混合溶媒に溶解し、30℃で6時間反応を行った。次いで、反応混合物を大過剰のメタノール中に注ぎ、反応生成物を沈澱させた。回収した沈殿物をメタノールで洗浄した後、減圧下40℃において15時間乾燥することにより、ポリアミック酸(以下、「重合体(PA-1)」とする。)を28.9g得た。得られた重合体(PA-1)をNMP:GBL=50:50(質量比)の溶媒組成にて15質量%となるように調整し、この溶液の粘度を測定したところ352mPa・sであった。また、得られた重合体溶液を20℃において3日間静置したところ、ゲル化することはなく、保存安定性は良好であった。
【0076】
[合成例3-2~合成例3-8]
反応に使用するテトラカルボン酸二無水物及びアミン化合物の種類及び量を下記表1の通り変更した以外は合成例3-1と同様にしてポリアミック酸を得た。合成例3-2~合成例3-8で得た重合体溶液のそれぞれにつき、20℃で3日間静置したところ、いずれもゲル化することはなく、保存安定性は良好であった。
【0077】
[合成例4-1]
テトラカルボン酸二無水物としてビシクロ[3.3.0]オクタン-2,4,6,8-テトラカルボン酸2:4,6:8-二無水物を21.49g(合成に使用したアミン化合物の全体量100モル部に対して98モル部)、並びにジアミン化合物として、ビス[2-(4-アミノフェニル)エチル]ヘキサン二酸23.59g(同70モル部)、及び4,4’-ジアミノジフェニルアミン5.24g(同30モル部)をNMP200gに溶解し、室温で6時間反応を行った。次いで、NMP250gを追加し、ピリジン6.79g及び無水酢酸8.77gを添加して100℃で5時間脱水閉環反応を行った。次いで、反応混合物を大過剰のメタノール中に注ぎ、反応生成物を沈澱させた。回収した沈殿物をメタノールで洗浄した後、減圧下40℃において15時間乾燥することにより、イミド化率約50%のポリイミド(PI-1)を得た。得られたポリイミド(PI-1)をNMPにて15質量%となるように調製した。この溶液の粘度を測定したところ625mPa・sであった。また、得られた重合体溶液につき、20℃で3日間静置したところ、ゲル化することはなく、保存安定性は良好であった。
【0078】
【表1】
【0079】
表1中の数値は、テトラカルボン酸二無水物については、反応に使用したテトラカルボン酸二無水物の全体量に対する使用割合(モル%)を示し、ジアミンについては、反応に使用したジアミンの全体量に対する使用割合(モル%)を示す。
表1中のテトラカルボン酸二無水物及びジアミンの略称は以下の通りである。
(テトラカルボン酸二無水物)
AN-1; 1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物
AN-2; ピロメリット酸二無水物
AN-3; 2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物
AN-4; 5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-3a,4,5,9b-テトラヒドロナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン
AN-5; 5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-8-メチル-3a,4,5,9b-テトラヒドロナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン
AN-6; ビシクロ[3.3.0]オクタン-2,4,6,8-テトラカルボン酸2:4,6:8-二無水物
(ジアミン化合物)
DA-1; 上記式(A-1-1)で表される化合物
DA-2; 上記式(B-1-1)で表される化合物
DA-3; 1,5-ビス(4-アミノフェノキシ)ペンタン
DA-4; ビス[2-(4-アミノフェニル)エチル]ヘキサン二酸
DA-5; 4,4’-ジアミノジフェニルアミン
DA-6; 3,5-ジアミノ安息香酸
DA-7; N-(2,4-ジアミノフェニル)-4-(4-ヘプチルシクロヘキシル)ベンズアミド
DA-8; 4-(テトラデカオキシ)ベンゼン-1,3-ジアミン
DA-9; 3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニル
DA-10; 4,4’-ジアミノジフェニルメタン
なお、重合体(PA-3)は、特にTN型液晶表示素子用の液晶配向膜の重合体成分として好適であり、重合体(PA-4)は、特にVA型液晶表示素子用の液晶配向膜の重合体成分として好適である。
【0080】
<液晶配向剤の調製及び評価>
[実施例1]
(1)液晶配向剤の調製
合成例3-1で得た重合体(PA-1)100質量部を含有する溶液に、γ-ブチロラクトン(GBL)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)及びブチルセロソルブ(BC)を加え、ヒンダードアミン系化合物(商品名「アデカスタブLA-72」、ADEKA社製)を5質量部、及びヒンダードフェノール系化合物(商品名「IRGANOX1010FF」、BASFジャパン社製)を5質量部加えて十分に撹拌し、溶媒組成がGBL:NMP:BC=40:40:20(質量比)、固形分濃度が3.5質量%の溶液とした。この溶液を孔径0.2μmのフィルターで濾過することにより液晶配向剤(R-1)を調製した。
【0081】
(2)ラビング処理によるFFS型液晶表示素子の製造
図1に示すFFS型液晶表示素子10を作製した。先ず、パターンを有さないボトム電極15、絶縁層14としての窒化ケイ素膜、及び櫛歯状にパターニングされたトップ電極13がこの順で形成された電極対を片面に有するガラス基板11aと、電極が設けられていない対向ガラス基板11bとを一対とし、ガラス基板11aの透明電極を有する面と対向ガラス基板11bの一方の面とに、それぞれ上記(1)で調製した液晶配向剤(R-1)を、スピンナーを用いて塗布して塗膜を形成した。次いで、この塗膜を80℃のホットプレートで1分間プレベークを行った後、庫内を窒素置換したオーブン中で230℃にて15分間加熱(ポストベーク)して、平均膜厚0.1μmの塗膜を形成した。ここで使用したトップ電極13の平面模式図を図2に示した。なお、図2(a)は、トップ電極13の上面図であり、図2(b)は、図2(a)の破線で囲った部分C1の拡大図である。本実施例では、電極の線幅d1を4μm、電極間の距離d2を6μmとした。また、トップ電極13としては、電極A、電極B、電極C及び電極Dの4系統の駆動電極を用いた。図3に、用いた駆動電極の構成を示した。この場合、ボトム電極15は、4系統の駆動電極のすべてに作用する共通電極として働き、4系統の駆動電極の領域のそれぞれが画素領域となる。
【0082】
次いで、ガラス基板11a,11b上に形成した塗膜の各表面にコットンにてラビング処理を実施し、液晶配向膜12とした。図2(b)に、ガラス基板11a上に形成した塗膜に対するラビング方向を矢印で示す。次に、一対の基板のうちの一方の基板における液晶配向膜を有する面の外縁に、シール剤として商品名「XN-21-S」(三井化学社製)を塗布した後、これらの基板を、互いの基板11a,11bのラビング方向が逆並行となるように直径3.5μmのスペーサーを介して貼り合わせ、シール剤を硬化させた。次いで、液晶注入口より一対の基板間に液晶MLC-6221(メルク社製)を注入し、液晶層16を形成した。さらに、基板11a,11bの外側両面に、偏光板(図示略)を2枚の偏光板の偏光方向が互いに直交するように貼り合わせることにより液晶表示素子10を作製した。
【0083】
(3)電圧保持率の評価
上記で製造したFFS型液晶表示素子につき、23℃において5Vの電圧を60マイクロ秒の印加時間、167ミリ秒のスパンで印加した後、印加解除から167ミリ秒後の電圧保持率(VHR)を測定したところ98.4%であった。なお、測定装置としては、(株)東陽テクニカ製、VHR-1を使用した。
【0084】
(4)残像特性の評価(DC残像評価)
上記で製造した液晶表示素子を25℃、1気圧の環境下においた。ボトム電極を4系統の駆動電極すべての共通電極として、ボトム電極の電位を0V電位(グランド電位)に設定した。電極B及び電極Dを共通電極と短絡して0V印加状態としつつ、電極A及び電極Cに交流電圧3.5V及び直流電圧1Vからなる合成電圧を2時間印加した。2時間経過後、直ちに電極A~電極Dのすべてに交流1.5Vの電圧を印加した。そして、全駆動電極に交流1.5Vの電圧を印加し始めた時点から、駆動ストレス印加領域(電極A及び電極Cの画素領域)と駆動ストレス非印加領域(電極B及び電極Dの画素領域)との輝度差が目視で確認できなくなるまでの時間を測定し、これを残像消去時間とした。なお、この時間が短いほど、残像が生じ難いこととなる。残像消去時間が30秒未満であった場合を「良好」、30秒以上120秒未満であった場合を「可」、120秒以上であった場合を「不良」として評価したところ、本実施例の液晶表示素子の残像消去時間は2秒であり、残像特性「良好」と評価された。
【0085】
(5)耐光性
上記で製造したFFS型液晶表示素子につき、上記(6)と同様に電圧保持率を測定し、その値を初期VHR(VHRBF)とした。次いで、初期VHR測定後の液晶表示素子につき、LEDランプ照射下の80℃オーブン中で200時間静置した後、室温中に静置して室温まで自然冷却した。光照射後の液晶セルにつき、上記と同様の方法により再度電圧保持率を測定した。この値を光照射後電圧保持率(VHRAFBL)とした。電圧保持率の減少量ΔVHRBL(%)を下記数式(EX-2)から求め、耐光性として評価した。
△VHRBL=((VHRBF-VHRAFBL)÷VHRBF)×100 …(EX-2)
ΔVHRが3%未満であった場合、耐光性を「良好」、3%以上5%未満であった場合を「可」、5%以上であった場合を「不良」と判断した。その結果、本実施例の液晶表示素子のΔVHRBLは1.0%であり、耐光性は「良好」であった。
【0086】
(6)シール剤周辺のムラ耐性(ベゼルムラ耐性)
上記で製造したFFS型液晶表示素子につき、25℃、50%RHの条件下に30日保管し、その後、交流電圧5Vで駆動して点灯状態を観察した。評価は、シール剤周辺にて、輝度差(モアブラック又はモアホワイト)が視認されなければ「良好」、視認されるが、点灯後20分以内に輝度差が消失すれば「可」、20分経過しても輝度差が視認される場合を「不良」とした。その結果、この液晶表示素子の輝度差が視認されず、「良好」と判断された。
【0087】
(7)密着性
上記(1)で調製した液晶配向剤(R-1)を、長方形のガラス基板の片面上にスピンコート法により塗布し、80℃のホットプレート上で1分間プレベークを行った後、庫内を窒素置換したオーブン中で230℃にて15分間加熱(ポストベーク)して、平均膜厚0.1μmの塗膜を形成した。同様の操作を繰り返し、片面に塗膜を有する長方形のガラス基板を一対(2枚)得た。
上記で形成した塗膜を有する基板のうちの1枚をとり、その塗膜面の略中央にシール剤(直径3.5μmの球状スペーサーを2.0質量%含有する紫外線硬化型シール剤)0.1mgを滴下した。この上に、もう一枚の基板を、その塗膜面が対向するように重ね、手動にて両基板を圧着しながら塗膜面に水平な面内で互いに逆方向に捻り、両基板が、シール剤の滴下点を連結部とする十字架形状を構成するようにした。この操作により、シール剤は直径4.8~5.2mmの円形状に押し広げられた。次いで、これに365nmの輝線を含む強度100mW紫外線を30秒照射した後、120℃のオーブン内で1時間加熱してシール剤を硬化することにより、密着性の評価用サンプルを調製した。
このサンプルにつき、(株)今田製作所製の引張り圧縮試験機(型番「SDWS-0201-100SL」)を用いて、以下のようにして塗膜の密着性を調べた。
上記サンプルを測定装置のコの字型の架台上に、基板のうちの一枚が十字架形状の接触部(中心部)より外側の両端部分で架台に水平に保持され、もう一枚の基板が架台に接触せずに保持基板より下側になるように設置した。次いで、設置したサンプルの上にコの字型の押付用治具を、下側の基板のうちの十字架形状の接触部(中心部)より外側の両端部分のみを下方に押せるように設置した。この状態で押付用治具に上方から加圧して、塗膜及びシール剤を介して接着している2枚のガラス基板を引き離す方向に力を加えた。このとき、基板の接着界面が破壊する際に要した力(Fsam)を測定した。
一方、塗膜を形成していないガラス基板を用いて上記と同様にして密着性の評価用サンプルを調製して密着性の評価を行い、基板の接着界面が破壊するのに要した力(Fref)を測定した。FsamをFrefにより除した値を密着性の指標とし、下記表3に示した。なお、上記Fsam及びFrefはそれぞれ、測定点数5点の平均値として求めた値である。
【0088】
[実施例2~実施例11及び比較例1~3]
上記実施例1において、液晶配向剤に含有させる固形分(重合体及び添加剤)の種類及び量を下記表2に示す通りに変更したほかは実施例1と同様にして液晶配向剤を調製するとともに、ラビング法によってFFS型液晶表示素子を製造して各種評価を行った。評価結果は下記表3に示した。なお、実施例2~9、11及び比較例1、2では、液晶配向剤中に添加剤を配合した。表2中、添加剤の数値は、重合体成分100質量部に対する添加剤の配合割合(質量部)を示す。
【0089】
【表2】
【0090】
各液晶配向剤の調製に用いた添加剤は、以下のとおりである。
X-1;アデカスタブLA-72
Y-1;IRGANOX1010FF
【化10】
【0091】
【表3】
【0092】
表3に示すように、実施例1~11では、液晶表示素子の電圧保持率、残像特性、耐光性及びベゼルムラ耐性、並びに液晶配向膜の基板に対する密着性について、いずれも「良好」又は「可」の結果であり、各種特性のバランスが取れていた。これに対し、比較例1~3では、残像特性、耐光性、ベゼルムラ耐性及び密着性のうちの複数の評価項目において実施例より劣る結果であった。
【符号の説明】
【0093】
10…液晶表示素子、11a,11b…ガラス基板、12…液晶配向膜、13…トップ電極、14…絶縁層、15…ボトム電極、16…液晶層
図1
図2
図3