(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】フィルム付部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 51/26 20060101AFI20221025BHJP
B29C 51/12 20060101ALI20221025BHJP
B29C 51/16 20060101ALI20221025BHJP
B29C 51/32 20060101ALI20221025BHJP
B29C 63/02 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
B29C51/26
B29C51/12
B29C51/16
B29C51/32
B29C63/02
(21)【出願番号】P 2019173537
(22)【出願日】2019-09-24
【審査請求日】2021-08-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安藤 禎教
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-137295(JP,A)
【文献】特開昭57-032914(JP,A)
【文献】特開平08-183089(JP,A)
【文献】特開2005-178218(JP,A)
【文献】特開昭57-043830(JP,A)
【文献】特開2004-181800(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 51/00 - 51/46
B29C 63/00 - 63/48
B29C 65/00 - 65/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の孔部を有する基体と、前記基体の表面における前記孔部を避けた領域に接着されたフィルムと、を有するフィルム付部品を製造する方法であって、
前記複数の孔部およびその周縁部を前記基体の前記表面側から一纏めに覆うマスク治具を用い、
前記マスク治具を装着した前記基体の前記表面に接着剤層を介して前記フィルムを配置し、前記フィルムを前記基体に密着させつつ、前記フィルムを前記基体に接着する接着工程と、
前記マスク治具の外縁において前記フィルムを切断し、前記マスク治具および切断された前記フィルムを除去するマスク除去工程と、を具備する、フィルム付部品の製造方法。
【請求項2】
前記マスク除去工程において、前記複数の孔部およびその周縁部を覆う前記フィルムを一纏めに切断および除去する、請求項1に記載のフィルム付部品の製造方法。
【請求項3】
前記マスク治具は、
凸状をなし複数の前記孔部に各々対応する複数の孔内マスク部と、
前記基体の前記表面において各々の前記孔部の周縁部を一纏めに覆う周縁マスク部と、を有し、
前記接着工程において、各々の前記孔内マスク部を各々の前記孔部に挿入することで、前記マスク治具を前記基体に装着する、請求項1
または請求項2に記載のフィルム付部品の製造方法。
【請求項4】
前記周縁マスク部の外周端部の厚さは0.5mm以下である、
請求項3に記載のフィルム付部品の製造方法。
【請求項5】
前記周縁マスク部における外周部の表面は、前記周縁マスク部の厚さが前記外周端部に向けて徐々に薄くなるように傾斜し、
前記周縁マスク部の最大厚さは1.0mm以上であり、
前記外周部の表面の傾斜角度は10°以下である、
請求項4に記載のフィルム付部品の製造方法。
【請求項6】
複数の孔部を有する基体と、前記基体の表面における前記孔部を避けた領域に接着されたフィルムと、を有するフィルム付部品を製造するためのマスク治具であって、
凸状をなし複数の前記孔部に各々対応する複数の孔内マスク部と、
前記基体の前記表面において
前記複数の孔部の周縁部を一纏めに覆う周縁マスク部と、を有する、フィルム付部品用マスク治具。
【請求項7】
複数の孔部を有する基体を有し、
前記基体の表面において、
前記複数の孔部の周縁部は、一纏めの凹状をなす凹状周縁被マスク領域を形成し、
前記凹状周縁被マスク領域の外側に位置する一般領域と、前記凹状周縁被マスク領域とは、段差状に連続し、
前記基体の表面における前記孔部および前記凹状周縁被マスク領域を避けた領域に、フィルムが接着されている、フィルム付部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基体とフィルムとを有するフィルム付部品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基体の表面にフィルムが接着されたフィルム付部品が知られている。基体の表面にフィルムを接着することで、フィルムに由来する意匠や機能などを当該部品に付与することが可能である。
【0003】
フィルム付部品のなかには、孔部を有するものがある。基体の表面に接着されたフィルムによって当該孔部が覆われると、孔部の機能が損なわれるために、このような孔部を有するフィルム付部品では、一旦、基体の表面全体にフィルムを接着し、その後、孔部の周縁部において当該孔部を覆うフィルムを切除するのが一般的である(例えば、特許文献1参照)。
このようにして得られたフィルム付部品においては、基体の表面における孔部を避けた領域にのみフィルムが接着される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、例えば、フィルム付部品に他部材を取付けるための取付け孔等として当該孔部を利用する場合等には、フィルム付部品に複数の孔部が設けられる。このように複数の孔部を有するフィルム付部品を製造する際には、各孔部毎に、孔部の周縁部において当該孔部を覆うフィルムを切除する工程が必要となる。しかしながら、当該工程は非常に煩雑であるために、複数の孔部を有するフィルム付部品を容易に製造し得る製造方法が望まれている。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、複数の孔部を有するフィルム付部品を容易に製造し得るフィルム付部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明のフィルム付部品の製造方法は、
複数の孔部を有する基体と、前記基体の表面における前記孔部を避けた領域に接着されたフィルムと、を有するフィルム付部品を製造する方法であって、
各々の前記孔部およびその周縁部を前記基体の前記表面側から一纏めに覆うマスク治具を用い、
前記マスク治具を装着した前記基体の前記表面に接着剤層を介して前記フィルムを配置し、前記フィルムを前記基体に密着させつつ、前記フィルムを前記基体に接着する接着工程と、
前記マスク治具の外縁において前記フィルムを切断し、前記マスク治具および切断された前記フィルムを除去するマスク除去工程と、を具備する、フィルム付部品の製造方法である。
【0008】
本発明のフィルム付部品の製造方法によると、複数の孔部を有するフィルム付部品を容易に製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1のフィルム付部品にテーブル部材を取付けた様子を模式的に表す説明図である。
【
図2】実施例1のフィルム付部品を模式的に表す説明図である。
【
図3】実施例1のフィルム付部品の製造方法における基体およびマスク治具を模式的に表す説明図である。
【
図4】実施例1のフィルム付部品の製造方法で用いるマスク治具を模式的に表す説明図である。
【
図5】実施例1のフィルム付部品の製造方法を模式的に表す説明図である。
【
図6】実施例1のフィルム付部品の製造方法を模式的に表す説明図である。
【
図7】実施例1のフィルム付部品の製造方法を模式的に表す説明図である。
【
図8】実施例1のフィルム付部品の製造方法を模式的に表す説明図である。
【
図9】実施例2のフィルム付部品の製造方法を模式的に表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のフィルム付部品の製造方法を具体的に説明する。
なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「x~y」は、下限xおよび上限yをその範囲に含む。そして、これらの上限値および下限値、ならびに実施形態中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。さらに数値範囲内から任意に選択した数値を上限、下限の数値とすることができる。
【0011】
本発明のフィルム付部品の製造方法は、基体に装着するマスク治具を用いるものであり、接着工程とマスク除去工程とを具備する。
【0012】
基体は、複数の孔部を有する。マスク治具は、基体における各々の孔部およびその周縁部を、基体の表面側から一纏めに覆う。したがって、基体にマスク治具を装着すると、基体の孔部およびその周縁部は、マスク治具によって一纏めに覆われる。
【0013】
接着工程においては、マスク治具を装着した基体の表面に、接着剤層を介してフィルムを配置し、当該フィルムを基体に密着させる。当該接着工程において、フィルムは基体に接着される。このときフィルムは、基体における孔部およびその周縁部においては、基体の表面ではなくマスク治具の表面に接着される。
【0014】
マスク除去工程においては、マスク治具の外縁においてフィルムを切断し、マスク治具および切断されたフィルムを除去する。マスク治具および切断されたフィルムが除去されることで、複数の孔部を有する基体と、基体の表面における孔部を避けた領域に接着されたフィルムと、を有するフィルム付部品が得られる。
【0015】
なお、本発明のフィルム付部品の製造方法で得られるフィルム付部品においては、孔部だけでなく、孔部の周縁部にもフィルムが接着されない。したがって、本発明のフィルム付部品の製造方法で得られる本発明のフィルム付部品は、基体の表面における孔部および当該孔部の周縁部を避けた領域にフィルムが接着されたものということができる。
【0016】
本発明のフィルム付部品の製造方法によると、マスク治具によって複数の孔部及びその周縁部を一纏めに覆う。このようなマスク治具を用い、フィルムを当該マスク治具の外縁において切断することで、複数の孔部を覆うフィルムを一纏めに切断および除去することが可能である。つまり、本発明のフィルム付部品の製造方法によると、複数の孔部を覆うフィルムを孔部毎に切断および除去する製造方法に比べて、フィルム付部品の製造工数を大きく低減でき、複数の孔部を有するフィルム付部品を容易に製造することが可能である。
【0017】
以下、必要に応じて、本発明のフィルム付部品の製造方法を本発明の製造方法と称し、本発明の製造方法で製造されるフィルム付部品を本発明のフィルム付部品と称し、本発明の製造方法に用いるマスク治具を本発明のマスク治具と称する場合がある。
【0018】
以下、本発明の製造方法、フィルム付部品およびマスク治具を、構成要素毎に説明する。
【0019】
本発明の製造方法に用いる基体は、複数の孔部を有するものである。
各孔部の形状は同じであっても良いし、異なっていても良い。また、各々の孔部は、貫通孔であっても良いし、行き止まり孔であっても良い。更には、貫通孔と行き止まり孔とが組み合わせられて複数の孔部を構成しても良い。
【0020】
なお、本発明の製造方法に用いる基体は、接着工程においてもマスク治具によって覆われない孔、すなわち、上記した複数の孔部に属しないその他の孔を有していても良い。基体が当該その他の孔を有していても、マスク治具によって複数の孔部を覆いつつフィルムを接着することで、フィルム付部品の製造工数は低減され、フィルム付部品の製造は容易になる。
【0021】
基体の材料やその形状は特に限定しないが、孔部を有し、かつフィルムによって覆われる都合上、ある程度の剛性を有するものであるのが好ましい。
具体的には、基体の材料としてはポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合合成樹脂(ABS)等に代表される樹脂材料や、当該樹脂材料にガラス繊維やカーボン繊維等を配合した繊維強化樹脂、アルミニウムやステンレススチール等に代表される金属等を選択するのが好ましい。基体の材料としては、熱可塑性樹脂を用いるのが好適である。基体の形状としては、その厚さが2.0mm以上であるのが好ましく、3.5mm以上であるのがより好ましく、5.0mm以上であるのが特に好ましい。
【0022】
フィルムの材料やその形状もまた特に限定しないが、基体の表面に接着される都合上、基体の表面形状に沿って変形し得る程度の可撓性を有し、かつ、切断可能なものである必要がある。このようなフィルムの材料としては、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、熱可塑性ポリウレタン等の熱可塑性ポリマーを用いても良いし、熱可塑性を有さないか又は熱可塑性の低いポリマーを用いても良い。
【0023】
その他のフィルムの材料としては、天然ゴムまたは合成ゴム、金属、皮革、天然繊維または合成繊維の織布や不織布、ニット等が例示される。
フィルムの厚さは特に限定しないが、基体の厚さよりも薄いのが好ましい。フィルムの厚さの好ましい範囲として、具体的には、5mm以下、2mm以下、1mm以下の各範囲が例示される。
【0024】
マスク治具は、既述したように、基体における各々の孔部およびその周縁部を基体の表面側から一纏めに覆う。このようなマスク治具としては、複数の孔部に各々対応する複数の部分と、基体の表面において各々の孔部の周縁部を一纏めに覆う部分と、を有するものを用いれば良い。マスク治具のうち、複数の孔部に各々対応する複数の部分を孔マスク部と称する。また、基体の表面において各々の孔部の周縁部を一纏めに覆う部分を周縁マスク部と称する。本発明のマスク治具は、複数の孔マスク部が周縁マスク部で繋ぎ合わされ一体化されたものということもできる。
【0025】
孔マスク部は、単に孔部の表面側を覆うだけのものであっても良く、例えば、凹凸のない平板状をなしても良い。しかし、基体に対するマスク治具の位置決めを容易にすることを考慮すると、孔マスク部は、マスク治具を基体に装着する際に孔部に挿入できるよう、凸状をなすのが好ましい。凸状をなす孔マスク部によると、孔部を基体の表面側から覆うのみならず、孔部をその内部から覆うことが可能である。本明細書においては、このように凸状をなす孔マスク部を孔内マスク部と称する。
基体に対するマスク治具の位置決めを精密に行うためには、各孔内マスク部は、各々対応する孔部に対応する形状であるのが好ましい。
【0026】
フィルムを基体に接着するための接着剤は特に限定されず、基体やフィルムの材料に応じて適宜適切に選択すれば良い。
接着剤の具体例としては、エポキシ樹脂系接着剤、ポリウレタン系接着剤、アクリル樹脂系接着剤等の反応系接着剤、ビニル樹脂系接着剤、スチレン樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、シアノアクリレート系接着剤等の溶剤系接着剤、合成ゴム系接着剤、シリコーン系接着剤、変性シリコーン系接着剤等を例示できる。
【0027】
本発明の製造方法は、接着工程およびマスク除去工程を有する。
このうち接着工程では、マスク治具を装着した基体の表面に接着剤層を介してフィルムを配置し、フィルムを基体に密着させつつ、フィルムを基体に接着する。
【0028】
接着剤層としては、上記した接着剤を基体および/またはフィルムに層状に形成したものを用い得る。接着剤を層状に形成する方法としては、塗布や噴霧等の方法を用いても良いし、その他の方法を用いても良い。例えば接着剤が熱可塑性であれば、接着剤を予めシート状や粒状等に成形し硬化させた上で、当該硬化した接着剤を基体および/またはフィルム上に載置して加熱し軟化させることで、基体および/またはフィルム上に接着剤層を形成しても良い。
接着剤層の厚さは、基体の形状や基体およびフィルムの材料等に応じて適宜適切に設定すれば良い。
【0029】
接着工程において、フィルムを基体に密着させることで、フィルムを基体の形状に沿わせることができ、ひいてはフィルムを基体に強固に接着することができる。これにより、本発明の製造方法で得られる本発明のフィルム付部品は、フィルムと基体との一体性に優れ、優れた意匠性と優れた耐久性とを兼ね備え得る。
接着工程は如何なる温度で行っても良いが、フィルムの形状をより基体に沿った形状にするために、フィルムを加熱し軟化させることも有効である。
【0030】
接着工程においてフィルムを基体に密着させる方法としては、真空圧空成形法と呼ばれる方法を採用すれば良く、このうち、三次元表面加飾成形(Three dimension Overlay Method:TOM成形)と呼ばれる方法は特に好ましく用いられる。TOM成形については実施例の欄で詳細に説明する。
【0031】
マスク除去工程では、上記の接着工程後に、マスク治具の外縁においてフィルムを切断し、マスク治具および切断されたフィルムを除去する。
フィルムの切断は既知の方法により行えば良い。例えば、当該フィルムの切断は、作業者がカッターを用いて手作業で行っても良いし、マスク治具の外縁に沿って刃が移動するようプログラムされた自動型のカッターにより行っても良い。または、マスク治具の外縁に沿う形状の刃を有する型を用いて、フィルムを型抜きしても良い。
【0032】
上記した本発明の製造方法で得られる本発明のフィルム付部品は、複数の孔部を有する基体と、基体の表面における孔部を避けた領域に接着されたフィルムと、を有する。
より具体的には、基体の表面は、孔部を中心とし各々の孔部の周縁部が一纏めとなった領域と、当該領域の外側にある領域とに大別される。以下、必要に応じて、基体の表面のうち、孔部を中心とし各々の孔部の周縁部が一纏めとなった領域を、周縁被マスク領域と称する。また、基体の表面のうち当該周縁被マスク領域の外側に位置する領域を、一般領域と称する。さらに、本発明のフィルム付部品のうち、周縁被マスク領域を有する部分を被マスク部と称し、一般領域を有する部分を一般部と称する。
基体の表面のうち、一般領域にはフィルムが接着されるが、周縁被マスク領域にはフィルムが接着されず剥き出しのままである。したがって本発明のフィルム付部品における一般部の表面にはフィルムが露出し、被マスク部の表面には基体が露出する。
【0033】
本発明のフィルム付部品において、被マスク部は、本発明のフィルム付部品に他部材が取付けられると当該他部材によって隠される等、基体が剥き出しのままでも差し支えない部分である。しかし、本発明のフィルム付部品における一般部にはある程度優れた意匠性が要求される。したがって、一般部には、被マスク部との境界部分に至るまで、フィルムが強固に接着されるのが好ましい。
【0034】
ところで、上記した本発明の製造方法の接着工程において、フィルムは、基体の一般領域とマスク治具とに連続的に接着される。このため、マスク治具における基体と逆側の面(以下、マスク治具の表面と称する)と一般領域との間に段差が生じた場合、フィルムは、当該段差の部分において大きく変形する必要がある。当該段差の部分において大きく変形しなければ、フィルムは、一般領域における当該段差側の部分、すなわち、一般領域における周縁被マスク領域との境界部分に沿わないため、特に基体の表面におけるフィルムの密着性が低下し、フィルム付部品の意匠性や耐久性が悪化する虞がある。
【0035】
このようなフィルムの変形不良を抑制するためには、上記したように予め加熱し軟化させたフィルムを接着する方法を採用しても良いが、本発明の製造方法に要する工数を低減し、本発明のフィルム付部品を容易に製造するためには、その他の方法を採用するのが好ましい。当該その他の方法として、マスク治具または基体を、上記の段差を小さくし得る形状とする方法が挙げられる。
【0036】
上記の段差を小さくするためは、少なくともマスク治具と基体との見切り部分において、マスク治具の表面と基体の表面とをフィルム付部品の厚さ方向に同程度の位置に配置するのが好ましい。
このため、マスク治具については、周縁マスク部の外周端部の厚さを薄くするのが好ましい。当該外周端部の厚さを薄くすることで、基体の厚さが一定であっても、マスク治具の表面と一般領域との間の段差を小さくできる。マスク治具における外周端部の厚さは、0.5mm以下であるのが好ましく、0.3mm以下であるのがより好ましい。
【0037】
また、周縁マスク部の厚さが厚い場合には、当該周縁マスク部における外周部の厚さを、その端部、すなわち、外周端部に向けて徐々に薄くするのも有効である。この場合にも、周縁マスク部の外周端部の厚さは0.5mm以下であるのが好ましく、0.3mm以下であるのがより好ましい。
【0038】
外周部の厚さは外周端部に向けて急激に変化するよりも、緩やかに変化する方が良い。当該厚さの変化は、周縁マスク部における外周部の表面の傾斜角度によって定義することが可能である。具体的には、当該傾斜角度の好ましい範囲として25°以下、20°以下、10°以下、8°以下、6°以下の各範囲を例示することができる。
この態様は、周縁マスク部の最大厚さが1.0mm以上である場合に有効であり、1.5mm以上である場合に特に有効である。
【0039】
なお、マスク治具の材料は特に限定されないが、マスク治具には、上記した真空圧空成形においても形状を維持できる程度の剛性が必要となる。このようなマスク治具の材料としては、PC、PET、ABS、ポリアミド(PA)、芳香族ポリアミド(PPA)、ポリアミドイミド(PAI)等の樹脂材料や、当該樹脂材料にガラス繊維やカーボン繊維等を配合した繊維強化樹脂、アルミニウムやステンレススチール等に代表される金属等を選択するのが好ましい。
【0040】
また、上記の段差を小さくするためには、基体における周縁被マスク領域を、マスク治具の厚さ分だけ凹んだ凹状にすることも有効である。この場合の周縁被マスク領域を凹状周縁被マスク領域と称する。
本発明の基体が凹状周縁被マスク領域を有する場合にも、マスク治具と基体との見切り部分において、マスク治具の表面と基体の表面とがフィルム付部品の厚さ方向に同程度の位置に配置される。
【0041】
なお、この場合、凹状周縁被マスク領域は、基体の一般領域と滑らかに連続しても良いが、基体の一般領域と段差状に連続するのが好ましい。
【0042】
基体の凹状周縁被マスク領域にはマスク治具の周縁マスク部が配置される。基体の凹状周縁被マスク領域と一般領域とを段差状に連続させることで、凹状周縁被マスク領域に配置される周縁マスク部の外周端部と、基体の一般領域と、の間には、周縁マスク部の厚さ方向において、深い見切りが形成される。このような深い見切りが形成されれば、マスク治具の周縁マスク部および基体の一般領域にフィルムが接着された際に、フィルムが当該見切りに落ち込む。このため、作業者は当該見切りの位置を容易に識別できるようになり、ひいては、基体およびマスク治具の上面に接着したフィルムをマスク治具の外縁において切断する工程が容易になる。
【0043】
周縁マスク部の外周端部と基体の一般領域との見切りを容易に識別するためには、当該見切りは大きい方が好ましい。周縁マスク部の外周端部と基体の一般領域との見切り、すなわち、両者の間の隙間は、0.5mm以上3.0mm以下の範囲内であるのが好ましく、1.0mm以上3.0mm以下の範囲内であるのが特に好ましい。
【0044】
以下、具体例を挙げて本発明の製造方法、マスク治具およびフィルム付部品を説明する。
【0045】
(実施例1)
実施例1のフィルム付部品は、車両用のインストルメントパネルである。実施例1のフィルム付部品には、相手材としてのテーブル部材が取付けられる。
実施例1のフィルム付部品にテーブル部材を取付けた様子を模式的に表す説明図を
図1に示す。実施例1のフィルム付部品を模式的に表す説明図を
図2に示す。実施例1のフィルム付部品の製造方法における基体およびマスク治具を模式的に表す説明図を
図3に示し、実施例1の製造方法で用いるマスク治具を模式的に表す説明図を
図4に示す。実施例1のフィルム付部品の製造方法を模式的に表す説明図を
図5~
図8に示す。なお、
図3は、マスク治具が装着された接着工程前の基体を模式的に表し、
図5~
図7は接着工程を模式的に表し、
図8は切断工程を模式的に表す。
以下、実施例1において上、下、左、右、裏、表とは、
図1に示す上、下、左、右、裏、表を意味する。
【0046】
図2に示すように、実施例1のフィルム付部品1は基体2とフィルム3とを有するとともに、複数の孔部29を有するものである。
具体的には、基体2は熱可塑性樹脂製であり、
図2に示すように、基体2には貫通孔状をなす3つの孔部29が設けられている。基体2の表面2fは、当該孔部29の周縁部29pを一纏めとした周縁被マスク領域21と、当該周縁被マスク領域21の外側に位置する一般領域22と、で構成されている。周縁被マスク領域21と一般領域22とは段差なく平坦に連続し、周縁被マスク領域21における基体2の厚さと、一般領域22における基体2の厚さとは略同じである。換言すると、実施例1のフィルム付部品1において、基体2の表面2fは略平面状をなす。実施例1のフィルム付部品1のうち周縁被マスク領域21を有する部分、すなわち被マスク部11には、基体2の孔部29および周縁被マスク領域21が露出する。一方、実施例1のフィルム付部品1のうち一般領域22を有する部分、すなわち一般部12には、フィルム3が露出する。
【0047】
基体2の表面2fには、周縁被マスク領域21を避けて、フィルム3が接着されている。実施例1のフィルム付部品1において、フィルム3はアクリル樹脂製であり、フィルム3と基体2との接着に用いた接着剤はアクリル樹脂系接着剤である。
【0048】
基体2の孔部29は、実施例1のフィルム付部品1における表面1fに露出する。当該孔部29は相手材90のクリップ(図略)を取付けるための取付け孔として機能する。
当該図略のクリップを介して、相手材90が基体2の表面2f側に取付けられることにより、
図1に示すように、フィルム3と基体2との見切り部分は、当該相手材90によって隠される。
【0049】
以下、実施例1のフィルム付部品1の製造方法について説明する。
【0050】
実施例1のフィルム付部品1の製造方法は、マスク治具4を用いるものであり、接着工程とマスク除去工程とを具備する。
【0051】
実施例1のフィルム付部品1の製造方法で用いるマスク治具4は、
図3に示すように、上記した基体2の孔部29および周縁被マスク領域21を基体2の表面2f側から一纏めに覆うものである。なお、
図3における紙面手前側が基体2の表面側であり、紙面奥側が基体2の裏面側である。
【0052】
より具体的には、
図4に示すように、マスク治具4は、突起状をなす3つの孔内マスク部40と、略板状をなす周縁マスク部41と、を有する。各孔内マスク部40は基体2における孔部29の各々に対応する位置に設けられ、周縁マスク部41の裏面からさらに裏側に向けて突起する。各孔内マスク部40は各々対応する孔部29に挿入される。
【0053】
周縁マスク部41の厚さは、外周部43において、外周端部41oに向けて徐々に薄くなっている。より具体的には、周縁マスク部41は中央部42と、当該中央部42よりも外側に位置する外周部43とを有し、このうち中央部42は厚さ略一定の平板状をなし、外周部43はその端部である外周端部41oに向けて厚さが徐々に薄くなる先細りの板状をなすといえる。
【0054】
図8に示すように、実施例1のフィルム付部品1の製造方法において、マスク治具4の周縁マスク部41における外周端部41oの厚さt1は0.5mmであり、周縁マスク部41の最大厚さすなわち周縁マスク部41の中央部42における厚さt2は1.5mmであり、周縁マスク部41における外周部43の長さ、すなわち周縁マスク部41において傾斜している部分の長さt3は1.0cmであり、外周部43の表面43fの傾斜角度θは5.7°である。
【0055】
実施例1のフィルム付部品1の製造方法における接着工程では、先ず、上記のマスク治具4を基体2の表面2fに対して表側から装着する。すると、マスク治具4の孔内マスク部40が基体2の孔部29に挿入される。マスク治具4の周縁マスク部41は、基体2の表面2fに露出し、基体2の孔部29および周縁被マスク領域21を一纏めに覆う。
【0056】
実施例1のフィルム付部品1の製造方法における接着工程では、このようにマスク治具4を装着した基体2の表面2fに、マスク治具4ごと、フィルム3を接着する。
【0057】
より具体的には、
図5に示すように、マスク治具4を装着した基体2をTOM成形用の成形装置8に取付ける。成形装置8は、箱状をなす2つのチャンバー分体81、82が組み合わされた中空状のチャンバー80、チャンバー80の内部に配置される台座83、台座83を昇降させる昇降装置84、加圧ポンプP1および減圧ポンプP2および図略のヒータを有する。チャンバー分体の一方を第1分体81と称し他方を第2分体82と称する。
【0058】
第1分体81は第2分体82の上方に配置され箱内部81iを下方に向ける。第2分体82は箱内部82iを上方に向ける。したがって、第1分体81と第2分体82とが組み合わされたチャンバー80においては、第1分体81の箱内部81iと第2分体82の箱内部82iとからなる中空部8iが形成される。昇降装置84は第2分体82に取付けられ、チャンバー80の内部つまり中空部8iに配置された台座83を昇降させる。台座83上には、基体2を載置するための成形治具86が取付けられている。
【0059】
図5に示すように、第1分体81と第2分体82との間には、フィルム3が配置される。当該フィルム3の下面すなわち裏面3bには、予め、接着剤層5が形成されている。接着剤層5は、上記の接着剤が塗布されることにより形成されている。
【0060】
第1分体81と第2分体82との間にフィルム3と接着剤層5との一体品を配置することで、中空部8iが上下2つに区画される。2つに区画された中空部8iのうち上側に位置するものを第1中空部8fと称し、下側に位置するものを第2中空部8sと称する。
【0061】
基体2および当該基体2に装着されたマスク治具4は、各々の表面2f、4fを上側に向けつつ台座83上の成形治具86に載置され、接着工程の初期においては、フィルム3と接着剤層5との一体品よりも下方に配置される。この状態で第1中空部8fおよび第2中空部8sを図略のヒータにより加熱しつつ、減圧ポンプP2を駆動して、第1中空部8fおよび第2中空部8sを略同等の減圧状態とする。なお、第1中空部8fおよび第2中空部8sを加熱することで、フィルム3および接着材層5が軟化する。
【0062】
次いで、
図6に示す接着工程の中期では、昇降装置84により台座83を上昇させる。成形治具86に載置されている基体2およびマスク治具4は、台座83および成形治具86とともに上昇し、下側すなわち裏面側から、フィルム3と接着剤層5との一体品に押し付けられる。これにより、フィルム3の裏面3bに形成された接着剤層5に基体2およびマスク治具4が押し付けられる。
【0063】
次いで、
図7に示す接着工程の後期では、加圧ポンプP1により第1中空部8fを加圧状態とし、減圧ポンプP2により第2中空部8sを減圧状態とする。すると、フィルム3と接着剤層5との一体品が基体2に密着し、フィルム3が基体2の表面2fおよび当該基体2に装着されているマスク治具4の表面4fに沿った形状に賦形される。したがってフィルム3は基体2およびマスク治具4に接着され、フィルム3と基体2との間、およびフィルム3とマスク治具4との間には接着剤層5が配置される。
【0064】
その後、チャンバー80を開き、フィルム3と基体2とマスク治具4との一体品を取り出す。当該一体品は、マスク除去工程に供される。
【0065】
マスク除去工程においては、
図8に示すように、フィルム3をマスク治具4における周縁マスク部41の外縁41e、つまり、周縁マスク部41における外周端部41oの縁において切断する。周縁マスク部41は基体2における孔部29の周縁部29pを一纏めに覆い得る連続的な形状を有する。このためマスク除去工程においては、当該周縁マスク部41の外縁41eをカッター85で一筆書き状に切断するだけで良く、複数の孔部29に対応する複数回の切断を行う必要はない。
【0066】
このようなマスク除去工程により、マスク治具4および当該マスク治具4に接着されたフィルム3が除去され、基体2の表面2fにおける孔部29および周縁被マスク領域21を避けた領域にフィルム3が接着された実施例1のフィルム付部品1が得られる。
【0067】
実施例1のフィルム付部品1の製造方法および当該製造方法に用いる実施例1のマスク治具4によると、フィルム3をマスク治具4の外縁41eにおいて切断する一操作だけで、3つの孔部29を有する実施例1のフィルム付部品1を容易に製造することができる。
【0068】
また、実施例1のマスク治具4は、基体2の孔部29に挿入される孔内マスク部40を有することにより、基体2に対する位置決めを容易かつ精密に行うことが可能である。このことによっても、実施例1のマスク治具4によると実施例1のフィルム付部品1を容易に製造できる。
【0069】
(実施例2)
実施例2のフィルム付部品の製造方法は、基体における周縁被マスク領域の形状およびマスク治具における周縁マスク部の形状以外は実施例1のフィルム付部品の製造方法と概略同じである。実施例2のフィルム付部品は、基体における周縁被マスク領域の形状以外は実施例1のフィルム付部品と概略同じであり、実施例2のマスク治具は、周縁マスク部の形状以外は実施例1のマスク治具と概略同じである。以下、実施例1との相違点を中心として、実施例2のフィルム付部品の製造方法、実施例2のフィルム付部品および実施例2のマスク治具を説明する。
実施例2のフィルム付部品の製造方法を模式的に表す説明図を
図9に示す。
【0070】
実施例2のマスク治具4は、実施例1のマスク治具4と同様に孔内マスク部40および周縁マスク部41を有するものの、
図9に示すように、周縁マスク部41の厚さが中央部42から外周端部41oに向けて略一定である点において実施例1のマスク治具4と相違する。
【0071】
実施例2のマスク治具4における周縁マスク部41の外周端部41oの厚さは約0.5mmであり、中央部42における周縁マスク部41の厚さは0.5mmであり、外周部43の表面43fの傾斜角度は0°である。
【0072】
実施例2のフィルム付部品1は、実施例1のフィルム付部品1と同様に、基体2に一般領域22を有する一般部12と、基体2に周縁被マスク領域21を有する被マスク部11とを有するが、周縁被マスク領域21が凹状をなす凹状周縁被マスク領域21cである点において実施例1のフィルム付部品1と相違する。
【0073】
具体的には、基体2の表面2fにおける周縁被マスク領域21は一般領域22よりも一段低く、当該周縁被マスク領域21と一般領域22とは段差状に連続する。換言すると、一般領域22における周縁被マスク領域21側の縁は角状をなす。さらに換言すると、基体2の厚さは、被マスク部11において一般部12よりも薄く、その厚さの差は約0.5mmである。
【0074】
さらに、実施例2のフィルム付部品1の製造方法では、マスク治具4を基体2に装着したときに、周縁マスク部41の外周端部41oと基体2の一般領域22との間には隙間gがある。当該隙間gの幅は約0.5mm~3.0mmである。
【0075】
実施例2のフィルム付部品1の製造方法において、マスク治具4は、基体2における孔部29の周縁部29pを一纏めに覆う。このことにより、実施例2のフィルム付部品1の製造方法においても、複数の孔部29を有するフィルム付部品1を製造するにも拘わらず、マスク除去工程においては周縁マスク部41の外縁41eを一筆書き状に切断するだけで良く、複数の孔部29に対応する複数回の切断を行う必要はない。よって、実施例2のフィルム付部品1の製造方法によっても、複数の孔部29を有しフィルム3が当該孔部29を避けた領域に接着されたフィルム付部品1を容易に製造できる。
【0076】
実施例2のフィルム付部品1の製造方法では、マスク治具4における周縁マスク部41の外周端部41oを薄くする代わりに、周縁被マスク領域21をマスク治具4における周縁マスク部41の厚さ分だけ凹ませて凹状周縁被マスク領域21cとした。このことにより、例えばマスク治具4の厚さが厚かったり、変形し難いフィルム3を用いたりする場合等にも、フィルム3の変形不良を抑制することが可能であり、意匠性に優れるフィルム付部品1を容易に製造することが可能である。
【0077】
さらに、実施例2のフィルム付部品1の製造方法では、周縁マスク部41の外周端部41oと基体2の一般領域22との間に隙間gを設けたことで、接着工程後のフィルム3は、当該隙間gに沿って陥没する。当該フィルム3の陥没箇所39は、フィルム3を切断すべき周縁マスク部41の外縁41eに沿って線状に形成されるため、マスク除去工程におけるフィルム3の切断を容易に行い得る利点がある。
【0078】
本発明は、上記し且つ図面に示した実施形態にのみ限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できる。また、実施形態を含む本明細書に示した各構成要素は、それぞれ任意に抽出し組み合わせて実施できる。
【符号の説明】
【0079】
1:フィルム付部品 2:基体
2f:基体の表面 21c:凹状周縁被マスク領域
22:一般領域 29:孔部
29p:孔部の周縁部 3:フィルム
4:マスク治具 40:孔内マスク部
41:周縁マスク部 41e:マスク治具の外縁
41o:周縁マスク部の外周端部 43:周縁マスク部の外周部
43f:外周部の表面 5:接着剤層