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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】末梢神経障害の治療剤又は予防剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/454 20060101AFI20221025BHJP
   A61K 31/4178 20060101ALI20221025BHJP
   A61K 31/496 20060101ALI20221025BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20221025BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
A61K31/454
A61K31/4178
A61K31/496
A61P25/02
A61P43/00 111
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2019510220
(86)(22)【出願日】2018-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2018013536
(87)【国際公開番号】W WO2018181860
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-02-02
(31)【優先権主張番号】P 2017071339
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017071329
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 宏士朗
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 知比古
(72)【発明者】
【氏名】吉田 ちひろ
(72)【発明者】
【氏名】竹尾 浩史
(72)【発明者】
【氏名】下田 耕司
(72)【発明者】
【氏名】泉本 直樹
(72)【発明者】
【氏名】西村 和美
(72)【発明者】
【氏名】名黒 利恵子
【審査官】金子 亜希
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/136944(WO,A1)
【文献】益田律子,神経障害性疼痛の分類・診断,医学のあゆみ,2013年,Vol.247, No.4,pp.317-321,ISSN:0039-2359
【文献】住谷昌彦,神経障害性疼痛とはなにか-定義とその臨床的意義,医学のあゆみ,2013年,Vol.247, No.4,pp.311-316,ISSN:0039-2359
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/454
A61K 31/4178
A61K 31/496
A61P 25/02
A61P 29/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)で示される環状アミン誘導体又はその薬理学的に許容される塩
【化1】

[式中、
*を付した炭素は不斉炭素であり、
Aは、一般式(IIa)、(IIb)又は(IIc)で示される基を表し、
【化2】

は、ハロゲン原子で置換されていてもよい、メチル基又はエチル基を表し、
は、水素原子又は炭素数2~5のアルキルカルボニル基を表し、
は、それぞれ独立して、メチル基又はエチル基を表し、
nは、1又は2を表す。]
を有効成分として含有する、末梢神経障害の治療剤(但し、末梢神経障害の症状として疼痛は除く)
【請求項2】
Aは、一般式(IIa)で示される基である、請求項1記載の治療剤。
【請求項3】
Aは、一般式(IIb)又は(IIc)で示される基である、請求項1記載の治療剤。
【請求項4】
Aは、一般式(IIa)で示される基であり、*を付した不斉炭素の立体化学が、S配置である、請求項1記載の治療剤。
【請求項5】
は、フッ素原子で置換されていてもよい、メチル基又はエチル基である、請求項1~4のいずれか一項記載の治療剤。
【請求項6】
は、メチル基、エチル基、ジフルオロメチル基又は2,2,2-トリフルオロエチル基である、請求項1~4のいずれか一項記載の治療剤。
【請求項7】
末梢神経障害が薬剤性末梢神経障害である、請求項1~6のいずれか一項記載の一般式(I)で示される環状アミン誘導体又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する、末梢神経障害の治療剤。
【請求項8】
薬剤性末梢神経障害は、抗がん剤による末梢神経障害、抗ウイルス薬による末梢神経障害、抗菌薬による末梢神経障害、抗結核薬による末梢神経障害、抗不整脈薬による末梢神経障害、高脂血症治療薬による末梢神経障害、免疫抑制薬による末梢神経障害、痛風治療薬による末梢神経障害、抗てんかん薬による末梢神経障害、麻酔薬による末梢神経障害、ビタミン剤による末梢神経障害、抗酒癖薬による末梢神経障害及び降圧薬による末梢神経障害から選択される少なくとも1種である、請求項7記載の治療剤。
【請求項9】
末梢神経障害が自己免疫性末梢神経障害である、請求項1~6のいずれか一項記載の一般式(I)で示される環状アミン誘導体又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する、末梢神経障害の治療剤。
【請求項10】
自己免疫性末梢神経障害は、ギラン・バレー症候群、慢性炎症性脱髄性多発根神経炎、多巣性運動神経障害及び異常タンパク血症に伴う神経障害から選択される少なくとも1種である、請求項9記載の治療剤。
【請求項11】
末梢神経障害が代謝性末梢神経障害である、請求項1~6のいずれか一項記載の一般式(I)で示される環状アミン誘導体又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する、末梢神経障害の治療剤。
【請求項12】
代謝性末梢神経障害は、糖尿病性末梢神経障害、尿毒症性末梢神経障害、膠原病性末梢神経障害及びビタミン欠乏性末梢神経障害から選択される少なくとも1種である、請求項11記載の治療剤。
【請求項13】
末梢神経障害が遺伝性末梢神経障害である、請求項1~6のいずれか一項記載の一般式(I)で示される環状アミン誘導体又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する、末梢神経障害の治療剤。
【請求項14】
遺伝性末梢神経障害は、シャルコー・マリー・トゥース病、家族性アミロイド・ポリニューロパチー、遺伝性圧脆弱性ニューロパチー及び遺伝性神経痛性筋肉萎縮症から選択される少なくとも1種である、請求項13記載の治療剤。
【請求項15】
一般式(I)で示される環状アミン誘導体又はその薬理学的に許容される塩
【化3】

[式中、
*を付した炭素は不斉炭素であり、
Aは、一般式(IIa)、(IIb)又は(IIc)で示される基を表し、
【化4】

は、ハロゲン原子で置換されていてもよい、メチル基又はエチル基を表し、
は、水素原子又は炭素数2~5のアルキルカルボニル基を表し、
は、それぞれ独立して、メチル基又はエチル基を表し、
nは、1又は2を表す。]
を有効成分として含有する、末梢神経障害の予防剤。
【請求項16】
Aは、一般式(IIa)で示される基である、請求項15記載の予防剤。
【請求項17】
Aは、一般式(IIb)又は(IIc)で示される基である、請求項15記載の予防剤。
【請求項18】
Aは、一般式(IIa)で示される基であり、*を付した不斉炭素の立体化学が、S配置である、請求項15記載の予防剤。
【請求項19】
は、フッ素原子で置換されていてもよい、メチル基又はエチル基である、請求項15~18のいずれか一項記載の予防剤。
【請求項20】
は、メチル基、エチル基、ジフルオロメチル基又は2,2,2-トリフルオロエチル基である、請求項15~18のいずれか一項記載の予防剤。
【請求項21】
末梢神経障害が薬剤性末梢神経障害である、請求項15~20のいずれか一項記載の一般式(I)で示される環状アミン誘導体又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する、末梢神経障害の予防剤。
【請求項22】
薬剤性末梢神経障害は、抗がん剤による末梢神経障害、抗ウイルス薬による末梢神経障害、抗菌薬による末梢神経障害、抗結核薬による末梢神経障害、抗不整脈薬による末梢神経障害、高脂血症治療薬による末梢神経障害、免疫抑制薬による末梢神経障害、痛風治療薬による末梢神経障害、抗てんかん薬による末梢神経障害、麻酔薬による末梢神経障害、ビタミン剤による末梢神経障害、抗酒癖薬による末梢神経障害及び降圧薬による末梢神経障害から選択される少なくとも1種である、請求項21記載の予防剤。
【請求項23】
末梢神経障害が自己免疫性末梢神経障害である、請求項15~20のいずれか一項記載の一般式(I)で示される環状アミン誘導体又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する、末梢神経障害の予防剤。
【請求項24】
自己免疫性末梢神経障害は、ギラン・バレー症候群、慢性炎症性脱髄性多発根神経炎、多巣性運動神経障害及び異常タンパク血症に伴う神経障害から選択される少なくとも1種である、請求項23記載の予防剤。
【請求項25】
末梢神経障害が代謝性末梢神経障害である、請求項15~20のいずれか一項記載の一般式(I)で示される環状アミン誘導体又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する、末梢神経障害の予防剤。
【請求項26】
代謝性末梢神経障害は、糖尿病性末梢神経障害、尿毒症性末梢神経障害、膠原病性末梢神経障害及びビタミン欠乏性末梢神経障害から選択される少なくとも1種である、請求項25記載の予防剤。
【請求項27】
末梢神経障害が遺伝性末梢神経障害である、請求項15~20のいずれか一項記載の一般式(I)で示される環状アミン誘導体又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する、末梢神経障害の予防剤。
【請求項28】
遺伝性末梢神経障害は、シャルコー・マリー・トゥース病、家族性アミロイド・ポリニューロパチー、遺伝性圧脆弱性ニューロパチー及び遺伝性神経痛性筋肉萎縮症から選択される少なくとも1種である、請求項27記載の予防剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、末梢神経障害の治療剤又は予防剤に関する。
【背景技術】
【0002】
末梢神経障害は、末梢神経を構成する神経細胞(軸索又は神経細胞体)又は髄鞘(シュワン細胞)が傷害を受けることで引き起こされる。病理組織学的には、軸索変性や髄鞘変性が観察され、生理学的には神経伝導速度の低下等の機能異常が生じる。
【0003】
末梢神経の神経細胞又は髄鞘に傷害を与えることにより、四肢のしびれ(異常感覚)、錯感覚、感覚鈍磨、疼痛若しくは難聴等の症状を示す感覚神経障害、筋力低下・萎縮、弛緩性麻痺若しくは深部腱反射の低下・消失等の症状を示す運動神経障害、又は、便秘、腹痛、発汗障害、排尿障害若しくは起立性低血圧等の症状を示す自律神経障害等の末梢神経障害を引き起こすと考えられている(非特許文献1)。
【0004】
末梢神経障害のこれらの症状は、命にかかわることはほとんどないが、患者の日常生活に大きな影響を与え、生活の質を著しく低下させる(非特許文献1)。
【0005】
末梢神経障害は、神経を傷害する原因によって大別でき、代表的なものとして、薬剤性末梢神経障害、自己免疫性末梢神経障害、代謝性末梢神経障害、遺伝性末梢神経障害等が挙げられる。
【0006】
薬剤性末梢神経障害を引き起こす薬剤としては、抗がん剤、抗ウイルス薬、抗菌薬、抗結核薬、抗不整脈薬、高脂血症治療薬、免疫抑制薬、痛風治療薬等が挙げられる。薬剤性末梢神経障害では、疼痛などの感覚障害が主体であることが多く、休薬後も障害が残ることもある(非特許文献2)。
【0007】
特に抗がん剤は末梢神経障害の発症率が高く、それによってがん治療の継続が困難となることも問題である。抗がん剤によって誘発される末梢神経障害の症状を和らげるため、鎮痛薬(例えば、プレガバリン、ガバペンチン又はケタミン)、抗てんかん薬(例えば、ラモトリジン、カルバマゼピン、フェニトイン、バルプロ酸又はクロナゼパム)、抗うつ薬(例えば、アミトリプチリン、イミプラミン、クロミプラミン又はデュロキセチン)、漢方薬(例えば、牛車腎気丸又は芍薬甘草湯)、ビタミンB製剤(例えば、B6又はB12)等が投与されるが、抗がん剤によって誘発される末梢神経障害を治療又は予防する有効な方法は確立されていない(非特許文献1)。
【0008】
上記薬剤のうち、デュロキセチンのみが臨床試験におけるエビデンスレベルが高く、米国臨床癌学会が策定した、化学療法剤誘発末梢神経障害治療ガイドライン(非特許文献3)で使用が推奨されている。一方で、国際疼痛学会及び欧州神経学会がそれぞれ策定した、神経障害性疼痛治療ガイドライン(非特許文献4~5)で使用が推奨される薬剤のうち、デュロキセチンを除いて、プレガバリン、ガバペンチン、ノルトリプチリン、アミトリプチリンはいずれも、抗がん剤によって誘発される神経障害性疼痛に有効であることを明確に示すエビデンスは存在しない(非特許文献6~7)。
【0009】
自己免疫性末梢神経障害は、末梢神経の構成成分に対する自己免疫による神経障害であり、ギラン・バレー症候群(Guillain-Barre syndrome:GBS)、慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(chronic inflammatory demyelinating polyradiculoneuropathy:CIDP)、多巣性運動神経障害(multifocal motor neuropathy:MMN)、及び異常タンパク血症に伴う神経障害(paraproteinamic neuropathy:PPN)を含む多様な疾患群である(非特許文献8)。
【0010】
GBSはウイルスや細菌等の病原微生物の感染をトリガーとして引き起こされると考えられており、それら病原微生物の感染の予防接種後に発症する場合もあるとされる。四肢の麻痺や深部反射の消失を主徴とし、疼痛や異常感覚などの感覚障害を伴うことも多い。重症の場合は、呼吸障害や自律神経障害によって死亡する例もある。GBSには多数の亜型があり、急性炎症性脱髄性神経炎、急性運動性軸索型神経炎、急性運動感覚性軸索型神経炎、フィッシャー症候群などが知られている(非特許文献9)。CIDPはGBSとは異なり、慢性或いは再発・寛解性の自己免疫性末梢神経障害であり、筋力低下や感覚障害をきたす。MMNとPPNはCIDPに類似した疾患である。MMNは感覚障害を伴わない筋障害を特徴とする(非特許文献10)。PPNは単一の免疫グロブリンの異常増殖によるものであり、緩徐進行型の感覚神経障害を特徴とする(非特許文献11)。
【0011】
自己免疫性末梢神経障害の治療法としては、免疫グロブリン静注療法と単純血漿交換療法が有効であるといわれている(非特許文献12)。しかし、単純血漿交換療法は特別な施設、機器が必要であり、高齢者や循環不全患者等施行できない患者があるなどの欠点がある。一方、免疫グロブリン静注療法はショックや過敏症の既往歴がある患者は慎重投与となる。以上のことから、医療現場では使用が簡便でかつ副作用の少ない治療薬が切望されている。
【0012】
代謝性末梢神経障害は様々な代謝異常によって生じるものであり、起因する疾患としては糖尿病、尿毒症、膠原病、ビタミン欠乏症、甲状腺機能低下症等多岐に渡る。
【0013】
特に、糖尿病は、末梢神経障害の原因として最も高頻度であり、将来的に患者数がさらに増えることが予想されている。糖尿病性末梢神経障害の発現機序のひとつとして、グルコースをソルビトールへと代謝する、ポリオール経路の亢進があり、過剰に蓄積したソルビトールによって神経細胞が傷害されると考えられている(非特許文献13)。そのため、糖尿病性末梢神経障害には、ポリオール経路に関わるアルドース還元酵素の阻害薬が有効であるとされているが、エパルレスタットが日本でのみ承認されているだけであり、病態が比較的軽度な患者でしか効果を示さず、重症患者や罹病歴が長い患者では無効であるケースが多い(非特許文献14)。また、糖尿病性末梢神経障害による疼痛に対しては、プレガバリンやデュロキセチンなどが使用されるが、末梢神経障害に対する薬剤ではないため、糖尿病性末梢神経障害に対して顕著な効果を示す新薬が望まれている。
【0014】
遺伝性末梢神経障害には、シャルコー・マリー・トゥース病や、家族性アミロイド・ポリニューロパチー、遺伝性圧脆弱性ニューロパチー、遺伝性神経痛性筋肉萎縮症等がある。最も代表的なものは、シャルコー・マリー・トゥース病である。シャルコー・マリー・トゥース病に関与するとされている遺伝子は少なくとも50種は知られており、髄鞘形成や神経細胞の形成・維持等に関わる遺伝子に変異があり、異型が多種存在する。通常、運動神経と感覚神経が障害され、運動障害が顕著であるケースが多い。臨床的に筋力維持のための理学療法や作業療法を行うことがあるが、シャルコー・マリー・トゥース病を含め、遺伝性末梢神経障害に有効な治療法・薬剤は現在無い(非特許文献15)。
【0015】
各種原因の末梢神経障害において、有効な薬剤がない患者又は薬剤があっても無効である患者が存在することから、末梢神経障害に対する新たな薬剤の創出が期待されている。
【0016】
また、臨床の現場では末梢神経障害の原因の鑑別には詳細な検査が必要であること、さらには特発性の末梢神経障害と診断されるケースもあること(非特許文献16)等から、障害の原因に依らずに、末梢神経障害全般に有効である薬剤は大変有用であるが、そのような薬剤は現在存在しない。そうではあるものの、末梢神経障害全般に有効である薬剤の創出は可能であると考えられる。上述の通り、末梢神経障害は幾多の種類に区分され、臨床症状も多種多様であるが、末梢神経を構成する細胞が傷害されることで発症するという点は、発症原因に依らずに共通しているからである。それ故、例えば、神経細胞の生存、増殖又は維持に関わる生体内分子である神経栄養因子を元にした薬剤は、末梢神経障害に対して広く有効であると予想される(非特許文献17)。しかし、神経栄養因子を元にした薬剤であっても、抗がん剤による末梢神経障害や糖尿病性末梢神経障害の臨床試験では有効性が認められなかったことが示すように(非特許文献18~19)、末梢神経障害全般に有効な薬剤の創出は困難を極めている。
【0017】
特許文献1には、環状アミン誘導体が鎮痛作用を有していることが開示されているが、末梢神経障害に対する効果を示唆する報告は一切ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】国際公開第2016/136944号
【非特許文献】
【0019】
【文献】静岡県立静岡がんセンター、「抗がん剤治療と末梢神経障害(第3刷)」、2016年、p.1-36
【文献】Vilholmら、Basic & Clinical Pharmacology & Toxicology、2014年、第115巻、p.185-192
【文献】Hershmanら、Journal of Oncology Practice、2014年、第10巻、p.e421-e424
【文献】Attalら、Pain:Clinical Updates、2010年、第18巻
【文献】Attalら、European Journal of Neurology、2010年、第17巻、p.1113-1123
【文献】Shindeら、Support Care Cancer、2016年、第24巻、p.547-553
【文献】Gewandterら、Pain、2017年、第158巻、p.30-33
【文献】楠、臨床神経、2009年、第49巻、p.956-958
【文献】Hughesら、The Lancet、2005年、第366巻、p.1653-1666
【文献】楠、日本内科学会雑誌、2013年、第102巻、p.1965-1970
【文献】Risonら、BioMed Central Neurology、2016年、第16巻、第13号
【文献】Hughesら、The Lancet、1997年、第349巻、p.225-230
【文献】Singhら、Pharmacological Research、2014年、第80巻、p.21-35
【文献】Schemmelら、Journal of Diabetes and Its Complication、2010年、第24巻、p.354-360
【文献】Saportaら、Neurologic Clinics、2013年、第31巻、p.597-619
【文献】Azharyら、American Family Physician、2010年、第81巻、p.887-892
【文献】McMahonら、Current Opinion in Neurobiology、1995年、第5巻、p.616-624
【文献】Argyriouら、Critical Reviews in Oncology/Hematology、2012年、第82巻、p.51-77
【文献】Apfelら、JAMA、2000年、第284巻、p.2215-2221
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、末梢神経障害の治療剤又は予防剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の環状アミン誘導体又はその薬理学的に許容される塩が、末梢神経障害に対して顕著な抑制効果を有することを見出すに至った。
【0022】
すなわち、本発明は、下記の一般式(I)で示される環状アミン誘導体又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する、末梢神経障害を治療剤又は予防剤を提供する。
【化1】

[式中、*を付した炭素は不斉炭素であり、Aは、一般式(IIa)、(IIb)又は(IIc)で示される基を表し、
【化2】
は、ハロゲン原子で置換されていてもよい、メチル基又はエチル基を表し、Rは、水素原子又は炭素数2~5のアルキルカルボニル基を表し、Rは、それぞれ独立して、メチル基又はエチル基を表し、nは、1又は2を表す。]
【0023】
上記の環状アミン誘導体において、Aが一般式(IIa)で示される基であることが好ましく、その際、Rは、フッ素原子で置換されていてもよい、メチル基又はエチル基であることがより好ましく、Rは、メチル基、エチル基、ジフルオロメチル基又は2,2,2-トリフルオロエチル基であることがさらに好ましい。
【0024】
また、上記の環状アミン誘導体において、Aが一般式(IIb)又は(IIc)で示される基であることが好ましく、その際、Rは、フッ素原子で置換されていてもよい、メチル基又はエチル基であることがより好ましく、Rは、メチル基、エチル基、ジフルオロメチル基又は2,2,2-トリフルオロエチル基であることがさらに好ましい。
【0025】
また、上記の環状アミン誘導体において、Aが一般式(IIa)で示される基であり、*を付した不斉炭素の立体化学は、S配置であることが好ましく、その際、Rは、フッ素原子で置換されていてもよい、メチル基又はエチル基であることがより好ましく、Rは、メチル基、エチル基、ジフルオロメチル基又は2,2,2-トリフルオロエチル基であることがさらに好ましい。
【0026】
また、本発明は、上記の一般式(I)で示される環状アミン誘導体又はその薬理学的に許容される塩、及び薬理学的に許容される賦形剤等を含有する、末梢神経障害を治療又は予防するための医薬組成物を提供する。
【0027】
また、本発明は、末梢神経障害の治療又は予防に使用するための、上記の一般式(I)で示される環状アミン誘導体又はその薬理学的に許容される塩を提供する。
【0028】
また、本発明は、末梢神経障害を治療又は予防するための、上記の一般式(I)で示される環状アミン誘導体又はその薬理学的に許容される塩の使用を提供する。
【0029】
また、本発明は、末梢神経障害を治療又は予防するための医薬の製造における、上記の一般式(I)で示される環状アミン誘導体又はその薬理学的に許容される塩の使用を提供する。
【0030】
また、本発明は、末梢神経障害を治療又は予防する方法であって、治療の必要のある患者に治療有効量の上記の一般式(I)で示される環状アミン誘導体又はその薬理学的に許容される塩を投与することを含む方法を提供する。
【0031】
本発明の各実施形態において、上記の末梢神経障害は、薬剤性末梢神経障害、自己免疫性末梢神経障害、代謝性末梢神経障害、遺伝性末梢神経障害、血管炎性末梢神経障害、中毒性末梢神経障害、感染性末梢神経障害、又は悪性腫瘍に伴う末梢神経障害であることが好ましく、薬剤性末梢神経障害、自己免疫性末梢神経障害、代謝性末梢神経障害、又は遺伝性末梢神経障害であることがより好ましく、薬剤性末梢神経障害、自己免疫性末梢神経障害、又は代謝性末梢神経障害であることがさらに好ましい。上記の薬剤性末梢神経障害は、抗がん剤誘発末梢神経障害であることが好ましい。上記の自己免疫性末梢神経障害は、ギラン・バレー症候群(GBS)、慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(CIDP)、多巣性運動神経障害(MMN)、及び異常タンパク血症に伴う神経障害(PPN)から選択される少なくとも1種であることが好ましい。上記の代謝性末梢神経障害は、糖尿病性末梢神経障害であることが好ましい。上記の遺伝性末梢神経障害は、シャルコー・マリー・トゥース病であることが好ましい。
【発明の効果】
【0032】
本発明の環状アミン誘導体又はその薬理学的に許容される塩は、末梢神経障害を治療又は予防することができる。上記の末梢神経障害は、例えば、薬剤性末梢神経障害、自己免疫性末梢神経障害、又は代謝性末梢神経障害である。上記の薬剤性末梢神経障害は、特に、抗がん剤誘発末梢神経障害である。上記の自己免疫性末梢神経障害は、特に、ギラン・バレー症候群(GBS)、慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(CIDP)、多巣性運動神経障害(MMN)、及び異常タンパク血症に伴う神経障害(PPN)から選択される少なくとも1種である。上記の代謝性末梢神経障害は、特に、糖尿病性末梢神経障害である。上記の遺伝性末梢神経障害は、特に、シャルコー・マリー・トゥース病である。
【0033】
本明細書は、本願の優先権の基礎である日本国特許出願第2017-071329号及び日本国特許出願第2017-071339号の明細書及び/又は図面に記載される内容を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】ラット後根神経節由来株化神経細胞における細胞傷害に対する化合物1の保護効果を示す図である。
図2】ラット後根神経節由来株化神経細胞における細胞傷害に対する化合物1の修復効果を示す図である。
図3】ラット後根神経節神経細胞・シュワン細胞共培養の髄鞘形成に対する化合物1の効果を示す図である。
図4】ラット後根神経節神経細胞・シュワン細胞共培養におけるMyelin Basic Proteinの発現量に対する化合物1の効果を示す図である。
図5】ラットオキサリプラチン誘発末梢神経障害モデルにおける冷的アロディニアに対する化合物1の反復投与による効果を示す図である。
図6】ラットオキサリプラチン誘発末梢神経障害モデルにおける機械的アロディニアに対する化合物1の反復投与による効果を示す図である。
図7】ラットシスプラチン誘発末梢神経障害モデルにおける機械的アロディニアに対する化合物1の単回投与による効果を示す図である。
図8】ラットパクリタキセル誘発末梢神経障害モデルにおける機械的アロディニアに対する化合物1の単回投与による効果を示す図である。
図9】ラットボルテゾミブ誘発末梢神経障害モデルにおける機械的アロディニアに対する化合物1の単回投与による効果を示す図である。
図10】ラット実験的自己免疫性神経炎モデルの臨床スコアに対する化合物1の効果を示す図である。
図11】ラット実験的自己免疫性神経炎モデルの体重減少に対する化合物1の効果を示す図である。
図12】ラット実験的自己免疫性神経炎モデルの機械的アロディニアに対する化合物1の効果を示す図である。
図13】ラットストレプトゾトシン誘発糖尿病モデルの神経伝導速度低下に対する化合物1の効果を示す図である。
図14】ラットストレプトゾトシン誘発糖尿病モデルの機械的アロディニアに対する化合物1の効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本明細書で使用する次の用語は、特に断りがない限り、下記の定義の通りである。
【0036】
本発明の一実施形態に係る環状アミン誘導体は、下記の一般式(I)で示されることを特徴としている。
【化3】

[式中、
*を付した炭素は不斉炭素であり、Aは、一般式(IIa)、(IIb)又は(IIc)で示される基を表し、
【化4】
は、ハロゲン原子で置換されていてもよい、メチル基又はエチル基を表し、Rは、水素原子又は炭素数2~5のアルキルカルボニル基を表し、Rは、それぞれ独立して、メチル基又はエチル基を表し、nは、1又は2を表す。]
【0037】
上記の環状アミン誘導体において、Aは、一般式(IIa)で示される基であることが好ましく、Rが、フッ素原子で置換されていてもよい、メチル基又はエチル基であることが好ましく、Rが、メチル基、エチル基、ジフルオロメチル基又は2,2,2-トリフルオロエチル基であることがより好ましい。
【0038】
また、上記の環状アミン誘導体において、Aが、一般式(IIb)又は(IIc)で示される基であることが好ましく、Rが、フッ素原子で置換されていてもよい、メチル基又はエチル基であることが好ましく、Rが、メチル基、エチル基、ジフルオロメチル基又は2,2,2-トリフルオロエチル基であることがより好ましい。
【0039】
また、上記の環状アミン誘導体において、Aが一般式(IIa)で示される基であることが好ましく、*を付した不斉炭素の立体化学がS配置であることが好ましく、その際、Rが、フッ素原子で置換されていてもよい、メチル基又はエチル基であることが好ましく、Rが、メチル基、エチル基、ジフルオロメチル基又は2,2,2-トリフルオロエチル基であることがさらに好ましい。
【0040】
上記の環状アミン誘導体の一実施形態では、Aは、一般式(IIa)で示される基であり、Rは、メチル基、エチル基、ジフルオロメチル基又は2,2,2-トリフルオロエチル基を表し、Rは、水素原子又は炭素数2~5のアルキルカルボニル基を表し、Rは、それぞれ独立して、メチル基又はエチル基を表す。本実施形態では、*を付した不斉炭素の立体化学がS配置であることが好ましい。
【0041】
上記の環状アミン誘導体の一実施形態では、Aは、一般式(IIa)で示される基であり、Rは、メチル基又は2,2,2-トリフルオロエチル基を表し、Rは、水素原子又は炭素数2のアルキルカルボニル基を表し、Rは、メチル基を表す。本実施形態では、*を付した不斉炭素の立体化学がS配置であることが好ましい。
【0042】
上記の環状アミン誘導体の一実施形態では、Aは、一般式(IIb)で示される基であり、Rは、フッ素原子で置換されていてもよい、メチル基又はエチル基を表し、Rは、水素原子又は炭素数2~5のアルキルカルボニル基を表し、Rは、それぞれ独立して、メチル基又はエチル基を表し、nは、1又は2を表す。本実施形態では、*を付した不斉炭素の立体化学がS配置であることが好ましい。
【0043】
上記の環状アミン誘導体の一実施形態では、Aは、一般式(IIb)で示される基であり、Rは、メチル基、エチル基、ジフルオロメチル基又は2,2,2-トリフルオロエチル基を表し、Rは、水素原子又は炭素数2~5のアルキルカルボニル基を表し、Rは、それぞれ独立して、メチル基又はエチル基を表し、nは、1又は2を表す。本実施形態では、*を付した不斉炭素の立体化学がS配置であることが好ましい。
【0044】
上記の環状アミン誘導体の一実施形態では、Aは、一般式(IIb)で示される基であり、Rは、メチル基又は2,2,2-トリフルオロエチル基を表し、Rは、水素原子又は炭素数2のアルキルカルボニル基を表し、Rは、メチル基を表し、nは、1又は2を表す。本実施形態では、*を付した不斉炭素の立体化学がS配置であることが好ましい。
【0045】
上記の環状アミン誘導体の一実施形態では、Aは、一般式(IIc)で示される基であり、Rは、フッ素原子で置換されていてもよい、メチル基又はエチル基を表し、Rは、水素原子又は炭素数2~5のアルキルカルボニル基を表し、Rは、メチル基又はエチル基を表す。本実施形態では、*を付した不斉炭素の立体化学がS配置であることが好ましい。
【0046】
上記の環状アミン誘導体の一実施形態では、Aは、一般式(IIc)で示される基であり、Rは、メチル基、エチル基、ジフルオロメチル基又は2,2,2-トリフルオロエチル基を表し、Rは、水素原子又は炭素数2~5のアルキルカルボニル基を表し、Rは、メチル基又はエチル基を表す。本実施形態では、*を付した不斉炭素の立体化学がS配置であることが好ましい。
【0047】
上記の環状アミン誘導体の一実施形態では、Aは、一般式(IIc)で示される基であり、Rは、メチル基又は2,2,2-トリフルオロエチル基を表し、Rは、水素原子又は炭素数2のアルキルカルボニル基を表し、Rは、メチル基を表す。本実施形態では、*を付した不斉炭素の立体化学がS配置であることが好ましい。
【0048】
「ハロゲン原子」とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を意味する。
【0049】
「ハロゲン原子で置換されていてもよい、メチル基又はエチル基」とは、水素原子が、それぞれ独立に、上記のハロゲン原子で置換されていてもよい、メチル基又はエチル基を意味する。例えば、メチル基若しくはエチル基又はジフルオロメチル基、2-フルオロエチル基、2-クロロエチル基、2,2-ジフルオロエチル基若しくは2,2,2-トリフルオロエチル基が挙げられる。
【0050】
「炭素数2~5のアルキルカルボニル基」とは、炭素数1~4の直鎖状、分岐鎖状又は環状の飽和炭化水素基がカルボニル基に結合した基を意味し、例えば、アセチル基、n-プロピオニル基、n-ブチリル基、イソブチリル基又はバレリル基が挙げられる。
【0051】
上記の一般式(I)で示される環状アミン誘導体(以下、環状アミン誘導体(I))の好ましい具体例を表1-1及び表1-2に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0052】
【表1-1】
【0053】
【表1-2】
【0054】
なお、環状アミン誘導体(I)に、鏡像異性体、立体異性体等の異性体が存在する場合には、いずれか一方の異性体及びそれらの混合物が環状アミン誘導体(I)に包含される。また、環状アミン誘導体(I)が、鏡像異性体、立体異性体等の異性体を含有する場合には、いずれか一方の異性体及びそれらの混合物も環状アミン誘導体(I)に含まれる。また、コンホメーションによる異性体が生成する場合があるが、このような異性体及びそれらの混合物も環状アミン誘導体(I)に含まれる。目的とする異性体は、公知の方法又はそれに準ずる方法によって得ることができる。例えば、環状アミン誘導体(I)に鏡像異性体が存在する場合には、環状アミン誘導体(I)から分割された鏡像異性体も環状アミン誘導体(I)に包含される。
【0055】
目的とする鏡像異性体は、公知の手段(例えば、光学活性な合成中間体を用いるか、又は、最終物のラセミ混合物に対し、公知の方法又はそれに準ずる方法(例えば、光学分割)を用いる)により得ることができる。
【0056】
また、本発明は、環状アミン誘導体(I)のプロドラッグ又はその薬理学的に許容される塩が含まれる。環状アミン誘導体(I)のプロドラッグとは、生体内で酵素的又は化学的に、環状アミン誘導体(I)に変換される化合物である。環状アミン誘導体(I)のプロドラッグの活性本体は、環状アミン誘導体(I)であるが、環状アミン誘導体(I)のプロドラッグそのものが活性を有していてもよい。
【0057】
環状アミン誘導体(I)のプロドラッグとしては、例えば、環状アミン誘導体(I)の水酸基が、アルキル化、リン酸化又はホウ酸化された化合物が挙げられる。これらの化合物は、公知の方法に従って、環状アミン誘導体(I)から合成することができる。
【0058】
また、環状アミン誘導体(I)のプロドラッグは、公知文献(「医薬品の開発」、広川書店、1990年、第7巻、p.163~198及びProgress in Medicine、第5巻、1985年、p.2157~2161)に記載の生理的条件で、環状アミン誘導体(I)に変化するものであってもよい。
【0059】
環状アミン誘導体(I)は、同位元素で標識されていてもよく、標識される同位元素としては、例えば、H、H、13C、14C、15N、15O、18O及び/又は125Iが挙げられる。
【0060】
環状アミン誘導体(I)の薬理学的に許容される塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩若しくは臭化水素酸塩等の無機酸塩、又はシュウ酸塩、マロン酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、グルコン酸塩、安息香酸塩、サリチル酸塩、キシナホ酸塩、パモ酸塩、アスコルビン酸塩、アジピン酸塩、メタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩若しくはケイ皮酸塩等の有機酸塩が挙げられる。さらに、これらの塩は、水和物、溶媒和物又は結晶多形を形成してもよい。
【0061】
環状アミン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩は、例えば、公知文献(国際公開第2016/136944号)に記載の方法に従って合成することができる。
【0062】
末梢神経としては、感覚神経、運動神経及び自律神経が挙げられる。
【0063】
末梢神経障害は、末梢神経を構成する神経細胞及び髄鞘(シュワン細胞)の少なくとも1つが傷害されることで引き起こされる。
【0064】
末梢神経障害としては、以下に挙げるものに限定されるものではないが、例えば、薬剤性末梢神経障害、自己免疫性末梢神経障害、代謝性末梢神経障害、遺伝性末梢神経障害、血管炎性末梢神経障害、中毒性末梢神経障害、感染性末梢神経障害、悪性腫瘍に伴う末梢神経障害等が挙げられる。
【0065】
末梢神経障害の症状としては、以下に挙げるものに限定されるものではないが、例えば、傷害される神経が感覚神経の場合は、四肢のしびれ(異常感覚)、錯感覚、感覚鈍磨、疼痛、及び難聴等が挙げられ、傷害される神経が運動神経の場合は、筋力低下・萎縮、弛緩性麻痺、及び深部腱反射の低下・消失等が挙げられ、傷害される神経が自律神経の場合は、便秘、腹痛、発汗障害、排尿障害、及び起立性低血圧等が挙げられる。
【0066】
薬剤性末梢神経障害としては、例えば、抗がん剤による末梢神経障害、抗ウイルス薬による末梢神経障害、抗菌薬による末梢神経障害、抗結核薬による末梢神経障害、抗不整脈薬による末梢神経障害、高脂血症治療薬による末梢神経障害、免疫抑制薬による末梢神経障害、痛風治療薬による末梢神経障害、及びその他の薬剤による末梢神経障害等が挙げられる。
【0067】
抗がん剤としては、例えば、核酸代謝阻害剤、微小管重合又は脱重合阻害剤、ホルモン拮抗剤、細胞内シグナル伝達阻害剤、悪性腫瘍特異的分子標的薬、非特異的免疫賦活剤等が挙げられる。
【0068】
核酸代謝阻害剤としては、例えば、アルキル化剤、抗腫瘍性抗生物質、トポイソメラーゼ阻害剤、白金製剤、ピリミジン代謝阻害剤、プリン代謝阻害剤、葉酸合成阻害剤等が挙げられる。
【0069】
微小管重合又は脱重合阻害剤としては、例えば、ビンカアルカロイド系抗がん剤、タキサン系抗がん剤等が挙げられる。
【0070】
ホルモン拮抗剤としては、例えば、抗エストロゲン剤、抗アンドロゲン剤等が挙げられる。
【0071】
細胞内シグナル伝達阻害剤としては、例えば、プロテオソーム阻害剤、セレブロン阻害剤等が挙げられる。
【0072】
悪性腫瘍特異的分子標的薬としては、例えば、チロシンキナーゼ阻害剤、抗体製剤、砒素製剤等が挙げられる。
【0073】
非特異的免疫賦活剤としては、例えば、溶連菌製剤、かわらたけ多糖体製剤等が挙げられる。
【0074】
以下に挙げる具体的な抗がん剤に限定されるものではないが、核酸代謝阻害剤としては例えば、オキサリプラチン、シスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン、シタラビン、ネララビン、エトポシド、テニポシド等が挙げられ、微小管重合又は脱重合阻害剤としては例えば、パクリタキセル、ドセタキセル、カバジタキセル、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビン、ビンデシン、エリブリン、ビンフルニン、エポチロン、イクサベピロン等が挙げられ、細胞内シグナル伝達阻害剤としては例えば、ボルテゾミブ、カルフィルゾミブ等が挙げられ、悪性腫瘍特異的分子標的薬としては、例えば、ブレンツキシマブ ベドチン、トラスツズマブ エムタンシン、サリドマイド、ポマリドミド又はレナリドミド等が挙げられる。
【0075】
抗ウイルス薬としては、以下に挙げるものに限定されるものではないが、例えば、エファビレンツ、エムトリシタビン、エムトリシタビン・フタル酸テノホビル ジソプロキシル、サキナビル、サニルブジン、ザルシタビン、ジダノシン、スタブジン、ジドプジン、ダルナビル、デラビルジンメシル酸塩、ネビラピン、フマル酸テノホビル ジソプロキシル、ホスカルネットナトリウム水和物、ラミブジン、ラミブジン・硫酸アバカビル、リトナビル、リバビリン、ロピナビル・リトナビル、アタザナビル、インジナビル等が挙げられる。
【0076】
抗菌薬としては、以下に挙げるものに限定されるものではないが、例えば、クロラムフェニコール、ニトロフラントイン、メトロニダゾール、ジアフェニルスルホン、エタンブトール、フルオロキノロン(レボフロキサシン、シプロフロキサシン、モキシフロキサシン、ノルフロキサシン、オフロキサシン等)等が挙げられる。
【0077】
抗結核薬としては、以下に挙げるものに限定されるものではないが、例えば、イソニアジド、エタンブトール等が挙げられる。
【0078】
抗不整脈薬としては、以下に挙げるものに限定されるものではないが、例えば、アミオダロン、プロカインアミド等が挙げられる。
【0079】
高脂血症治療薬としては、以下に挙げるものに限定されるものではないが、例えば、プラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチン等が挙げられる。
【0080】
免疫抑制薬としては、以下に挙げるものに限定されるものではないが、例えば、タクロリムス、シクロスポリン、ミコフェノール酸モフェチル、レフルノミド、クロロキン、インターフェロンα、金製剤等が挙げられる。
【0081】
その他の薬剤としては、以下に挙げるものに限定されるものではないが、例えば、痛風治療薬のコルヒチン又はアロプリノール、抗てんかん薬のフェニトイン、麻酔薬の亜酸化窒素、ビタミン剤のピリドキシン、抗酒癖薬のジスルフィラム、降圧薬のヒドララジン等が挙げられる。
【0082】
薬剤性末梢神経障害を引き起こす薬剤は、上記分類に基づいて、現在までに見出されているものだけでなく、今後見出されるものも含まれる。
【0083】
自己免疫性末梢神経障害としては、以下に挙げるものに限定されるものではないが、例えば、ギラン・バレー症候群、慢性炎症性脱髄性多発根神経炎、多巣性運動神経障害及び異常タンパク血症に伴う神経障害が挙げられる。ギラン・バレー症候群に含まれる亜型として、例えば、急性炎症性脱髄性神経炎、急性運動性軸索型神経炎、急性運動感覚性軸索型神経炎、フィッシャー症候群等が挙げられる。
【0084】
代謝性末梢神経障害としては、以下に挙げるものに限定されるものではないが、例えば、糖尿病性末梢神経障害、尿毒症性末梢神経障害、膠原病性末梢神経障害、ビタミン欠乏性末梢神経障害、甲状腺機能低下症性末梢神経障害等が挙げられる。
【0085】
遺伝性末梢神経障害としては、以下に挙げるものに限定されるものではないが、例えば、シャルコー・マリー・トゥース病、家族性アミロイド・ポリニューロパチー、遺伝性圧脆弱性ニューロパチー、遺伝性神経痛性筋肉萎縮症等が挙げられる。
【0086】
環状アミン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩が末梢神経細胞の障害に対する抑制作用を有することは、ラット後根神経節由来株化神経細胞を用いて評価できる。具体的には、ラット後根神経節由来株化神経細胞に細胞障害物質を処置することで細胞活性低下を誘導し、その細胞活性低下に対する抑制作用を評価する。
【0087】
環状アミン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩が髄鞘形成促進作用を有することは、ラット後根神経節神経細胞・シュワン細胞共培養を用いて評価できる。具体的には、ラット後根神経節神経細胞及びシュワン細胞を共に培養し、アスコルビン酸処置による髄鞘形成を誘導し、その髄鞘形成が促進されるかを評価する。
【0088】
上記の細胞活性低下抑制作用及び髄鞘形成促進作用を有するということは、末梢神経障害の予防及び治療に有効であると考えられる。なお、この推測により本実施形態が制限されることはない。
【0089】
環状アミン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩が薬剤性末梢神経障害、特に抗がん剤誘発末梢神経障害の治療又は予防に有効であることは、各種薬剤、特に各種抗がん剤により誘発した末梢神経障害モデルを用いて評価できる(Hoekeら、ILAR Journal、2014年、第54巻、p.273-281)。
【0090】
環状アミン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩が自己免疫性末梢神経障害の治療又は予防に有効であることは、実験的自己免疫性神経炎(Experimental autoimmune neuritis:EAN)モデルを用いて評価できる(Soliven、ILAR Journal、1994年、第54巻、p.282-290)。
【0091】
環状アミン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩が代謝性末梢神経障害、特に糖尿病性末梢神経障害の治療又は予防に有効であることは、ストレプトゾトシン誘発糖尿病モデルを用いて評価できる(O‘Brienら、ILAR Journal、2014年、第54巻、p.259-272)。
【0092】
環状アミン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩が遺伝性末梢神経障害、特にシャルコー・マリー・トゥース病の治療又は予防に有効であることは、PMP22 Trembler-Jマウスを用いて評価できる(Nicksら、Neurobiology of Disease、2014年、第70巻、p.224-236)。
【0093】
環状アミン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩は、哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、サル又はヒト)、特にヒトに対する優れた末梢神経障害の治療又は予防に有用な医薬品として用いることができる。
【0094】
環状アミン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩を医薬として用いる場合、環状アミン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩を、そのまま若しくは医薬として許容される担体を配合して、経口的又は非経口的に投与することができる。
【0095】
環状アミン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する医薬を経口投与する場合の剤形としては、例えば、錠剤(糖衣錠及びフィルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤及びマイクロカプセル剤を含む)、シロップ剤、乳剤又は懸濁剤が挙げられる。また、環状アミン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する医薬を非経口投与する場合の剤形としては、例えば、注射剤、注入剤、点滴剤、坐剤、塗布剤又は貼付剤が挙げられる。さらには、適当な基剤(例えば、酪酸の重合体、グリコール酸の重合体、酪酸-グリコール酸の共重合体、酪酸の重合体とグリコール酸の重合体との混合物又はポリグリセロール脂肪酸エステル)と組み合わせて、徐放性製剤とすることも有効である。
【0096】
上記の剤形の製剤の調製は、製剤分野において一般的に用いられる公知の製造方法に従って行うことができる。この場合、必要に応じて、製剤分野において一般的に用いられる賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、甘味剤、界面活性剤、懸濁化剤又は乳化剤等を含有させて製造することができる。
【0097】
錠剤の調製は、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤又は滑沢剤を含有させて行うことができる。丸剤及び顆粒剤の調製は、例えば、賦形剤、結合剤又は崩壊剤を含有させて行うことができる。また、散剤及びカプセル剤の調製は、例えば、賦形剤を含有させて行うことができる。シロップ剤の調製は、例えば、甘味剤を含有させて行うことができる。乳剤又は懸濁剤の調製は、例えば、界面活性剤、懸濁化剤又は乳化剤を含有させて行うことができる。
【0098】
賦形剤としては、例えば、乳糖、ブドウ糖、デンプン、ショ糖、微結晶セルロース、カンゾウ末、マンニトール、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム又は硫酸カルシウムが挙げられる。
【0099】
結合剤としては、例えば、デンプンのり液、アラビアゴム液、ゼラチン液、トラガント液、カルボキシメチルセルロース液、アルギン酸ナトリウム液又はグリセリンが挙げられる。
【0100】
崩壊剤としては、例えば、デンプン又は炭酸カルシウムが挙げられる。
【0101】
滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム又は精製タルクが挙げられる。
【0102】
甘味剤としては、例えば、ブドウ糖、果糖、転化糖、ソルビトール、キシリトール、グリセリン又は単シロップが挙げられる。
【0103】
界面活性剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリソルベート80、ソルビタンモノ脂肪酸エステル又はステアリン酸ポリオキシル40が挙げられる。
【0104】
懸濁化剤としては、例えば、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース又はベントナイトが挙げられる。
【0105】
乳化剤としては、例えば、アラビアゴム、トラガント、ゼラチン又はポリソルベート80が挙げられる。
【0106】
さらに、環状アミン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する医薬を、上記の剤形に調製する場合には、製剤分野において一般的に用いられる着色剤、保存剤、芳香剤、矯味剤、安定剤又は粘稠剤等を添加することができる。
【0107】
環状アミン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する医薬の1日あたりの投与量は、患者の状態若しくは体重、化合物の種類又は投与経路等によって異なるが、例えば、成人(体重約60kg)に経口投与する場合には、環状アミン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩を有効成分量として1~1000mgの範囲で、1~3回に分けて投与することが好ましく、成人(体重約60kg)に非経口投与する場合には、注射剤であれば、環状アミン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩を有効成分量として体重1kgあたり0.01~100mgの範囲で静脈注射により投与することが好ましい。
【0108】
環状アミン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩は、治療若しくは予防効果の補完又は増強、あるいは投与量の低減のために、他の薬剤と適量配合又は併用しても構わない。例えば、末梢神経障害の症状を和らげる薬剤と併用することもできる。
【実施例
【0109】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0110】
被験化合物としては、下記の化学式で示される、(S)-1-(4-(ジメチルアミノ)ピペリジン-1-イル)-3-ヒドロキシ-3-(1-メチル-1H-イミダゾール-2-イル)プロパン-1-オン(以下、化合物1)を用い、公知文献(国際公開第2016/136944号)に記載の方法に従って合成した。
【化5】
【0111】
(実施例1)ラット後根神経節由来株化神経細胞における細胞傷害に対する環状アミン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩の保護効果:
環状アミン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩のラット後根神経節由来株化神経細胞における細胞傷害に対する保護効果を検討した。
【0112】
ラット胎児後根神経節由来株化細胞ND15を、10%FBS含有DMEM培地で培養した。その翌日、EC23(10μM、Reinner)を含む10%FBS含有DMEM培地で8日間培養し、神経細胞に分化させた。
【0113】
シスプラチン(最終濃度50μM)を含むDMEM/F12培地に交換し、4時間培養することで、細胞傷害を誘導した。化合物1はシスプラチンと同様、培地に含ませて処置した(最終濃度0.5、5又は50μM)。群構成は、無処置群、化合物1 50μM処置群、シスプラチン処置群、シスプラチン及び化合物1 0.5μM処置群、シスプラチン及び化合物1 5μM処置群、シスプラチン及び化合物1 50μM処置群の6群とした。
【0114】
細胞活性を測定するために、アラマーブルー(Invitrogen)を含むDMEM/F12培地に交換し、2時間培養後、570nm及び595nmの吸光度を測定した。細胞活性は、595nmの吸光度に対する570nmの吸光度の比で算出し、無処置群を100%とした。
【0115】
化合物1の細胞活性に対する効果の評価の結果を図1に示す。図1の縦軸は、細胞活性(%)を示す(平均値±標準誤差;各群6例)。横軸は、左から無処置群、化合物1 50μM処置群、シスプラチン処置群、シスプラチン及び化合物1 0.5μM処置群、シスプラチン及び化合物1 5μM処置群及びシスプラチン及び化合物1 50μM処置群を示す。図中の「#」は、無処置群と比較して統計学的に有意(#:p<0.05、Studentのt検定)な差であることを示し、図中の「*」は、シスプラチン処置群と比較して統計学的に有意(*:p<0.025、Williamsの多重比較、片側)な差であることを示す。
【0116】
シスプラチン処置によってラット後根神経節由来株化神経細胞の細胞活性の低下が観察されたのに対して、化合物1の同時処置によって、その低下の抑制が観察された。すなわち、化合物1はラット後根神経節由来株化神経細胞に対する傷害を保護することが明らかとなった。
【0117】
(実施例2)ラット後根神経節由来株化神経細胞における細胞傷害に対する環状アミン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩の修復効果:
環状アミン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩のラット後根神経節由来株化神経細胞における細胞傷害に対する修復効果を検討した。
【0118】
実施例1と同様の方法でラット胎児後根神経節由来株化細胞ND15に対してシスプラチンによる細胞傷害を誘導し、細胞活性を測定した。化合物1は24時間のシスプラチン処理の後、培地に含ませて2時間処置した(最終濃度0.5、5又は50μM)。群構成は、無処置群、化合物1 50μM処置群、シスプラチン処置群、シスプラチン及び化合物1 0.5μM処置群、シスプラチン及び化合物1 5μM処置群、シスプラチン及び化合物1 50μM処置群の6群とした。
【0119】
化合物1の細胞活性に対する効果の評価の結果を図2に示す。図2の縦軸は、細胞活性(%)を示す(平均値±標準誤差;各群6例)。横軸は、左から無処置群、化合物1 50μM処置群、シスプラチン処置群、シスプラチン及び化合物1 0.5μM処置群、シスプラチン及び化合物1 5μM処置群及びシスプラチン及び化合物1 50μM処置群を示す。図中の「#」は、無処置群と比較して統計学的に有意(#:p<0.05、Studentのt検定)な差であることを示し、図中の「*」は、シスプラチン処置群と比較して統計学的に有意(*:p<0.025、Williamsの多重比較、片側)な差であることを示す。
【0120】
シスプラチン処置によってラット後根神経節由来株化神経細胞の細胞活性の低下が観察されたのに対して、化合物1の後処置によって、その低下の抑制が観察された。すなわち、化合物1はラット後根神経節由来株化神経細胞に対する傷害を修復することが明らかとなった。
【0121】
(実施例3)ラット後根神経節神経細胞・シュワン細胞共培養の髄鞘形成に対する環状アミン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩の効果:
環状アミン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩のラット後根神経節細胞・シュワン細胞共培養の髄鞘形成に対する促進効果を検討した。
【0122】
妊娠15日目の雌性SDラットの胎児から後根神経節を摘出し、神経細胞とシュワン前駆細胞とに分けて培養した(細胞培養開始初日をDay1とした)。細胞培養開始初日から19日目(Day19)に、神経細胞の培地にシュワン前駆細胞を添加することで共培養を開始した。髄鞘形成は細胞培養開始初日から26~40日目(Day26~40)にアスコルビン酸を処置(中2~3の培地交換に合わせて計4~5回)することで誘導した。
【0123】
アスコルビン酸処置と合わせて、滅菌蒸留水に溶解させた化合物1(最終濃度30μM)を計4~5回処置した。対照として、化合物1溶液の代わりに滅菌蒸留水を処置した。群構成は、滅菌蒸留水処置群(Vehicle処置群)、30μM化合物1処置群(化合物1処置群)の2群とした。
【0124】
細胞免疫染色を行うために、細胞培養開始初日から40~43日目(Day40~43)に細胞をリン酸緩衝食塩水で洗浄した後、4%パラホルムアルデヒド・リン酸緩衝液で固定した。メタノール処理、ブロッキングを施した後、髄鞘マーカータンパク質であるMyelin Basic Protein(MBP)を蛍光免疫染色した。
【0125】
蛍光顕微鏡(DMI4000B,Leica)で、MBPの蛍光画像を撮影し、画像から髄鞘セグメント(≧25μm)数を解析した。なお、解析領域(ROI)は、共培養を4分割し、各分割のなかでMBPの線維状の染色像が最も多く観察された領域とした。
【0126】
化合物1の髄鞘形成に対する効果の評価の結果を図3に示す。図3の縦軸は、ROI当たりの髄鞘セグメント数を示す(平均値±標準誤差;各群8~12例)。横軸は、細胞培養日数を示す。
【0127】
(実施例4)ラット後根神経節神経細胞・シュワン細胞共培養におけるMBPの発現量に対する環状アミン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩の効果:
環状アミン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩のラット後根神経節細胞・シュワン細胞共培養におけるMBPの発現量に対する効果を検討した。
【0128】
実施例3と同様の方法でラット後根神経節神経細胞・シュワン細胞共培養を作製し、髄鞘形成の誘導及び化合物1の処置を行った。群構成は、滅菌蒸留水処置群(Vehicle処置群)、30μM化合物1処置群(化合物1処置群)の2群とした。
【0129】
ウエスタンブロッティングを行うために、細胞培養開始初日から43日目に、共培養をRIPA細胞溶解液に溶解し、細胞ライセートについてドデシル硫酸ナトリウム・ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行った。その後、PVDF膜にタンパク質を転写し、抗体反応によってMBPのバンドを検出した。検出されたバンドの定量にはImage Labソフトウェア(BIO-RAD)を用いた。
【0130】
化合物1のMBPの発現量に対する効果の評価の結果を図4に示す。図4の縦軸は、Vehicle群の平均値を1とした、MBPの相対発現量を示す(平均値±標準誤差;各群4例)。横軸は、左からVehicle処置群及び化合物1処置群を示す。図中の「*」は、Vehicle処置群と比較して統計学的に有意(*:p<0.05、Studentのt検定)な差であることを示す。
【0131】
化合物1の処置によって、髄鞘セグメント数の増加及び髄鞘マーカータンパク質であるMBPの増加が観察された。すなわち、化合物1はラット後根神経節神経細胞・シュワン細胞共培養における髄鞘形成を促進することが明らかとなった。
【0132】
実施例1、2、3及び4より、環状アミン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩は、末梢神経の神経細胞及び髄鞘の障害に対して有効であることが明らかとなった。
【0133】
(実施例5)ラットオキサリプラチン誘発末梢神経障害モデルにおける冷刺激に対するアロディニア(冷的アロディニア)及び触刺激に対するアロディニア(機械的アロディニア)に対する環状アミン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩の反復投与による効果:
オキサリプラチンの投与によって発症する冷的アロディニア及び機械的アロディニアに対する環状アミン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩の効果を検討した。
【0134】
SDラット(7週齢、オス;日本チャールス・リバー)にオキサリプラチン(4mg/kg、エルプラット点滴静注液200g;ヤクルト)を1週間サイクル(1週間に2日連日で腹腔内に2回投与)で2又は3週間投与することで、オキサリプラチン誘発末梢神経障害モデルを作製した。対照(偽誘発)として、5%ブドウ糖液(大塚製薬工場)を投与し、初回の投与日を病態誘発0日目とした。
【0135】
病態誘発0日目から、化合物1(3又は10mg/kg)を含む溶液又はその溶媒(注射用水;大塚製薬工場)をラットに18日間、1日2回連日経口投与(2回目の投与は1回目の投与から8時間後に投与)した。病態誘発0日目はオキサリプラチン投与前に1回目の投与を行い、アロディニア評価日は評価後に1回目の投与を行った。群構成は、偽誘発‐溶媒投与群(Sham群)、病態誘発‐溶媒投与群(Vehicle群)、病態誘発‐3mg/kg化合物1投与群(3mg/kg化合物1投与群)、病態誘発‐10mg/kg化合物1投与群(10mg/kg化合物1投与群)の4群とした。
【0136】
冷的アロディニアに対する薬効評価は、病態誘発前と病態誘発12日目(1回目の化合物1投与前)に行った。冷的アロディニアに対する薬効は、Cold Plate試験によって評価した。試験にはCold Plate装置(Ugo Basile)を用いた。一定の温度(8℃)に保たれたプレート上に動物を入れ、疼痛関連行動(足を上げる、足を振る、足をなめる、立ち上がる、ジャンプする)が確認されるまでの逃避潜時を測定した。なお、cut off timeは180秒とした。
【0137】
機械的アロディニアに対する薬効評価は、病態誘発前と病態誘発18日目(1回目の化合物1投与前)に行った。機械的アロディニアに対する薬効は、von Frey試験によって評価した。なお、試験方法は公知文献(Chaplanら、Journal of Neuroscience Methods、1994年、第53巻、p.55-63)に記載の方法に従い、von Freyフィラメント(North Coast Medical)を用いて行い、50%反応閾値を算出した。
【0138】
化合物1の冷的アロディニアに対する効果の評価の結果を図5に示す。図5の縦軸は、Cold Plate試験における逃避潜時を示し、数値が高いほど冷的アロディニアが改善されていることを示す(平均値±標準誤差;各群10例)。横軸は、左から病態誘発前(図中、「Day0(病態誘発前)」)、病態誘発12日目(図中、「Day12(病態誘発後)」)における各投与群を示す。図中の「#」は、Sham群と比較して統計学的に有意(#:p<0.05、Studentのt検定)な差であることを示し、図中の「*」は、Vehicle群と比較して統計学的に有意(*:p<0.025、Williamsの多重比較、片側)な差であることを示す。
【0139】
病態誘発12日目において、Vehicle群は、Sham群と比較して、逃避潜時の有意な短縮が観察された。すなわち、オキサリプラチンにより誘発される末梢神経障害である冷的アロディニアの発症が確認された。
【0140】
化合物1の1日2回連日経口投与により、病態誘発12日目において、10mg/kg化合物1投与群は、Vehicle群と比較して、逃避潜時の有意な延長が観察された。すなわち、化合物1は、オキサリプラチン誘発末梢神経障害モデルにおける冷的アロディニアを抑制することが明らかとなった。
【0141】
化合物1の機械的アロディニアに対する効果の評価の結果を図6に示す。図6の縦軸は、von Frey試験における50%反応閾値を示し、数値が高いほど機械的アロディニアが改善されていることを示す(平均値±標準誤差;各群10例)。横軸は、左から病態誘発前(図中、「Day0(病態誘発前)」)、病態誘発18日目(図中、「Day18(病態誘発後)」)における各投与群を示す。図中の「#」は、Sham群と比較して統計学的に有意(#:p<0.05、Welchのt検定)な差であることを示し、図中の「*」は、Vehicle群と比較して統計学的に有意(*:p<0.025、Shirley-Williamsの多重比較、片側)な差であることを示す。
【0142】
病態誘発18日目において、Vehicle群は、Sham群と比較して、50%反応閾値の有意な低下が観察された。すなわち、オキサリプラチンにより誘発される末梢神経障害である機械的アロディニアの発症が確認された。
【0143】
化合物1の1日2回連日経口投与により、病態誘発18日目において、3mg/kg化合物1投与群及び10mg/kg化合物1投与群は、Vehicle群と比較して、50%反応閾値の有意な上昇が観察された。すなわち、化合物1は、オキサリプラチン誘発末梢神経障害モデルにおける機械的アロディニアを抑制することが明らかとなった。
【0144】
以上より、環状アミン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩は、オキサリプラチンによって誘発される末梢神経障害に対して著しい抑制効果を示すことが明らかとなった。
【0145】
(実施例6)ラットシスプラチン誘発末梢神経障害モデルにおける機械的アロディニアに対する環状アミン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩の単回投与による治療効果:
シスプラチンの投与によって発症する機械的アロディニアに対する環状アミン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩の効果を検討した。
【0146】
SDラット(6週齢、オス;日本チャールス・リバー)にシスプラチン(和光純薬)を腹腔内に週に2回(1又は2mg/kg)、5週間間欠投与することで、シスプラチン誘発末梢神経障害モデルを作製した。シスプラチンは、生理食塩液で溶解させて10mg/mLに調製して投与した。対照(偽誘発)として、生理食塩液を投与した。初回の投与日を病態誘発1日目とした。
【0147】
病態誘発34日目に化合物1(10mg/kg)を含む溶液又はその溶媒(注射用水)をラットに経口投与した。群構成は、偽誘発‐溶媒投与群(Sham群)、病態誘発‐溶媒投与群(Vehicle群)、病態誘発‐10mg/kg化合物1投与群(10mg/kg化合物1投与群)の3群とした。
【0148】
機械的アロデニィアに対する薬効評価は実施例5と同様の方法にて評価し、病態誘発34日目の化合物1投与前及び投与2時間後に行った。
【0149】
化合物1の機械的アロディニアに対する効果の評価の結果を図7に示す。図7の縦軸は、von Frey試験における50%反応閾値を示し、数値が高いほど機械的アロディニアが改善されていることを示す(平均値±標準誤差;各群4~6例)。横軸は、左から化合物1投与前(図中、「Day34(投与前)」)、化合物投与2時間後(図中、「Day34(投与2時間後)」)における各投与群を示す。図中の「#」は、Sham群と比較して統計学的に有意(#:p<0.05、Studentのt検定)な差であることを示し、図中の「*」は、Vehicle群と比較して統計学的に有意(*:p<0.05、Studentのt検定)な差であることを示す。
【0150】
化合物1投与2時間後において、10mg/kg化合物1投与群は、Vehicle群と比較して、50%反応閾値の有意な上昇が観察された。すなわち、化合物1はシスプラチン誘発末梢神経障害モデルにおける機械的アロディニアを抑制することが明らかとなった。
【0151】
以上より、環状アミン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩は、シスプラチンによって誘発される末梢神経障害に対して、著しい抑制効果を示すことが明らかとなった。
【0152】
(実施例7)ラットパクリタキセル誘発末梢神経障害モデルにおける機械的アロディニアに対する環状アミン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩の単回投与による効果:
パクリタキセルの投与によって発症する機械的アロディニアに対する環状アミン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩の効果を検討した。
【0153】
SDラット(6週齢、オス;日本チャールス・リバー)にパクリタキセル(4mg/kg、ChromaDex)を隔日で4回腹腔内投与することで、パクリタキセル誘発末梢神経障害モデルを作製した。パクリタキセルは、1:1で混合したクレモフォールEL(ナカライテスク)とエタノール(和光純薬)で溶解させて6mg/mLに調製し、生理食塩液で4mg/mLに希釈して投与した。初回の投与日を病態誘発0日目とした。
【0154】
病態誘発14日目に化合物1(10mg/kg)を含む溶液又はその溶媒(注射用水)をラットに経口投与した。群構成は、溶媒投与群(Vehicle群)と10mg/kg化合物1投与群の2群とした。
【0155】
機械的アロデニィアに対する薬効評価は実施例5と同様の方法にて評価し、病態誘発前と病態誘発14日目(化合物1投与3時間後)に行った。
【0156】
化合物1の機械的アロディニアに対する効果の評価の結果を図8に示す。図8の縦軸は、von Frey試験における50%反応閾値を示し、数値が高いほど機械的アロディニアが改善されていることを示す(平均値±標準誤差;各群8例)。横軸は、左から病態誘発前、病態誘発14日目の化合物1投与3時間後(図中、「Day14(投与3時間後)」)における各投与群を示す。図中の「*」は、Vehicle群と比較して統計学的に有意(*:p<0.05、Studentのt検定、両側)な差であることを示す。
【0157】
病態誘発14日目(化合物1投与3時間後)において、10mg/kg化合物1投与群は、Vehicle群と比較して、50%反応閾値の有意な上昇が観察された。すなわち、化合物1はパクリタキセル誘発末梢神経障害モデルにおける機械的アロディニアを抑制することが明らかとなった。
【0158】
以上より、環状アミン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩は、パクリタキセルによって誘発される末梢神経障害に対して、著しい抑制効果を示すことが明らかとなった。
【0159】
(実施例8)ラットボルテゾミブ誘発末梢神経障害モデルにおける機械的アロディニアに対する環状アミン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩の単回投与による効果:
ボルテゾミブの投与によって発症する機械的アロディニアに対する環状アミン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩の治療効果を検討した。
【0160】
SDラット(6週齢、オス;日本チャールス・リバー)にボルテゾミブ(0.2mg/kg、AdooQ BioScience)を初回の投与日を病態誘発1日目(Day1)として、病態誘発1、4、8及び11日目に計4回腹腔内投与することで、ボルテゾミブ誘発末梢神経障害モデルを作製した。ボルテゾミブは、ジメチルスルホキシドで溶解させた後、Tween80を加えた。その後、注射用水を加えて、0.2mg/mLに調製した。ジメチルスルホキシド及びTween80の終濃度は各5%とした。
【0161】
病態誘発15日目に化合物1(20mg/kg)を含む溶液又はその溶媒(注射用水)をラットに経口投与した。群構成は、溶媒投与群(Vehicle群)と20mg/kg化合物1投与群の2群とした。
【0162】
機械的アロデニィアに対する薬効評価は実施例5と同様の方法にて評価し、病態誘発前と病態誘発15日目(化合物1投与3時間後)に行った。
【0163】
化合物1の機械的アロディニアに対する効果の評価の結果を図9に示す。図9の縦軸は、von Frey試験における50%反応閾値を示し、数値が高いほど機械的アロディニアが改善されていることを示す(平均値±標準誤差;各群8例)。横軸は、左から病態誘発前、病態誘発15日目の化合物1投与3時間後(図中、「Day15(投与3時間後)」)における各投与群を示す。図中の「*」は、Vehicle群と比較して統計学的に有意(*:p<0.05、Studentのt検定、両側)な差であることを示す。
【0164】
病態誘発15日目(化合物1投与3時間後)において、20mg/kg化合物1投与群は、Vehicle群と比較して、50%反応閾値の有意な上昇が観察された。すなわち、化合物1はボルテゾミミブ誘発末梢神経障害モデルにおける機械的アロディニアを抑制することが明らかとなった。
【0165】
以上より、環状アミン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩は、ボルテゾミブによって誘発される末梢神経障害に対して、著しい抑制効果を示すことが明らかとなった。
【0166】
したがって、環状アミン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩は、薬剤、特に抗がん剤で誘発される末梢神経障害に対して、著しい抑制効果を示すことが明らかとなった。
【0167】
(実施例9)ラットの実験的自己免疫性神経炎(EAN)モデルに対する環状アミン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩の効果:
環状アミン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩のラットEANモデルに対する抑制効果を検討した。
【0168】
EANモデルラットの作製方法を示す。末梢ミエリンタンパク質P2の部分ペプチドP2(57-81)ペプチド(東レリサーチセンターにて合成)を生理食塩液(大塚製薬工場)に溶解させて2mg/mLに調製し、結核死菌H37Raを含む2mg/mL完全フロイントアジュバント(Difco Laboratories)と等量混合して、エマルジョンのペプチド投与液とした。ルイスラット(6~7週齢、オス;日本チャールス・リバー)に麻酔下にて、尾根部の皮下にペプチド投与液を200μL投与することで、EANモデルを作製した。ペプチド投与日を病態誘発0日目とした。
【0169】
臨床スコアを次の通り評価した。0=症状なし、1=尾又は後肢の脱力、2=尾と後肢の脱力、3=後肢の部分麻痺、4=後肢の完全麻痺、5=瀕死又は死亡。また、体重測定も併せて行った。
【0170】
化合物1(20mg/kg)は、蒸留水(大塚製薬工場)に溶解してEANモデルに1日2回経口投与した(病態誘発10日目から投与開始)。対照として、EANモデルに蒸留水を経口投与した。群構成は、溶媒投与群(Vehicle群)、化合物1投与群の2群とした。
【0171】
病理組織学的評価を行うために、病態誘発17日目に坐骨神経及び脛骨神経を単離し、10%中性緩衝ホルマリン液に浸漬した。薄切した後、ヘマトキシリン・エオジン染色、クリューバー・バレラ染色(ルクソール・ファストブルー染色とニッスル染色の二重染色)及び免疫染色(Iba1、CD3、NFP及びMBP)を実施した。標本を光学顕微鏡で観察し、T細胞及びマクロファージの浸潤、髄鞘及び軸索の変性の有無を評価した。
【0172】
化合物1の臨床スコアに対する効果の評価の結果を図10に示す。図10の縦軸は、臨床スコアを示し、数値が低いほど症状が改善されていることを示す(平均値±標準誤差、n=6~7)。化合物1投与群はVehicle群と比較して、臨床スコアの上昇が抑制された。
【0173】
化合物1の体重減少に対する効果の評価の結果を図11に示す。図11の縦軸は、ラットの体重を示す(平均値±標準誤差、各群6~7例)。Vehicle群では体重減少が生じたが、20mg/kg化合物1投与群では体重減少は生じなかった。
【0174】
化合物1の病理組織学的評価の結果を表2に示す。表2は坐骨神経及び脛骨神経における組織学的変化を示した個体数を示す(各群3例)。Vehicle群では、T細胞及びマクロファージの浸潤、髄鞘及び軸索の変性が観察されたが、20mg/kg化合物1投与群ではほとんど観察されなかった。
【0175】
【表2】
【0176】
以上より、環状アミン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩は、自己免疫性末梢神経障害に対して有効であることが明らかとなった。
【0177】
(実施例10)ラットの実験的自己免疫性神経炎(EAN)モデルの機械的アロディニアに対する環状アミン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩の効果:
環状アミン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩のラットEANモデルの機械的アロディニアに対する抑制効果を検討した。
【0178】
実施例9と同様の方法でEANモデルラットを作製した。また、ペプチド投与液の代わりに生理食塩液(大塚製薬工場)を投与した、偽誘発動物を設けた。ペプチド投与液又は生理食塩液の投与日を病態誘発0日目とした。
【0179】
病態誘発14日目に化合物1(5又は10mg/kg)又はその溶媒(注射用水)をラットに経口投与した。群構成は、偽誘発‐溶媒投与群(Sham群)、病態誘発‐溶媒投与群(Vehicle群)、病態誘発‐5mg/kg化合物1投与群(5mg/kg化合物1投与群)、病態誘発‐10mg/kg化合物1投与群(10mg/kg化合物1投与群)の4群とした
【0180】
機械的アロデニィアに対する薬効評価は実施例5と同様の方法にて評価し、病態誘発14日目の化合物1投与3時間後に行った。
【0181】
化合物1の機械的アロディニアに対する効果の評価の結果を図12に示す。図12の縦軸は、von Frey試験における50%反応閾値を示し、数値が高いほど機械的アロディニアが改善されていることを示す(平均値±標準誤差、各群4-10例)。図中の「#」は、Sham群と比較して統計学的に有意(#:p<0.05、Studentのt検定)な差であることを、図中の「*」は、Vehicle群と比較して統計学的に有意(*:p<0.025、Williamsの多重比較、片側)な差であることを示す。
【0182】
Vehicle群は、Sham群と比較して、50%反応閾値の有意な低下が観察された。すなわち、EANモデルにおける機械的アロディニアの発症が確認された。
【0183】
5mg/kg化合物1投与群及び10mg/kg化合物1投与群は、Vehicle群と比較して、50%反応閾値の有意な上昇が観察された。すなわち、化合物1は、EANモデルにおける機械的アロディニアを抑制することが明らかとなった。
【0184】
この結果から、環状アミン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩は、自己免疫性末梢神経障害における機械的アロディニアに対して有効であることが明らかとなった。
【0185】
(実施例11)ラットストレプトゾトシン誘発糖尿病モデルの神経伝導速度低下に対する環状アミン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩の効果:
環状アミン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩のラットストレプトゾトシン誘発糖尿病モデルの機械的アロディニアに対する抑制効果を検討した。
【0186】
SDラット(6週齢、オス;日本チャールス・リバー)にストレプトゾトシン(50mg/kg、Sigma-Aldrich)を尾静脈内投与することで、ストレプトゾトシン誘発糖尿病モデルを作製した。ストレプトゾトシンはクエン酸緩衝液で溶解させて25mg/mLに調製して投与した。また、ストレプトゾトシン溶液を投与しない、病態非誘発動物を設けた。初回の投与日を病態誘発1日目とした。
【0187】
病態誘発14日目から28日間、化合物1(3又は10mg/kg)を含む溶液又はその溶媒(注射用水)をラットに1日2回経口投与した。群構成は、病態非誘発‐溶媒投与群(Normal群)、病態誘発‐溶媒投与群(Vehicle群)、病態誘発‐3mg/kg化合物1投与群(3mg/kg化合物1投与群)、病態誘発‐10mg/kg化合物1投与群(10mg/kg化合物1投与群)の4群とした。
【0188】
神経伝導速度の測定は、最終投与翌日から3日間で行った。2本の単針電極(A、B)を大腿部に挿入し坐骨神経に接触させ、さらに1本の単針電極(C)を腓腹筋の下端部(アキレス腱)に挿入し、足蹠に導出用の電極を設置した。A-B間及びB-C間の刺激をそれぞれ遠位刺激及び近位刺激として、足蹠の電極から得られるそれぞれの導出波形において刺激の伝達時間を解析した。神経伝導速度は、遠位刺激及び近位刺激の伝達時間の差と、電極間の距離とを元に算出した。
【0189】
化合物1の神経伝導速度低下に対する効果の評価の結果を図13に示す。図13の縦軸は、神経伝導速度を示す(平均値±標準誤差;各群5~6例)。図中の「#」は、Normal群と比較して統計学的に有意(#:p<0.05、Studentのt検定)な差であることを示し、図中の「*」は、Vehicle群と比較して統計学的に有意(*:p<0.025、Williamsの多重比較、片側)な差であることを示す。
【0190】
化合物1の反復投与によって、10mg/kg化合物1投与群は、Vehicle群と比較して、神経伝導速度の有意な上昇が観察された。すなわち、化合物1はストレプトゾトシン誘発糖尿病モデルにおける神経伝導速度低下を抑制することが明らかとなった。
【0191】
(実施例12)ラットストレプトゾトシン誘発糖尿病モデルの機械的アロディニアに対する環状アミン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩の効果:
環状アミン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩のラットストレプトゾトシン誘発糖尿病モデルの機械的アロディニアに対する抑制効果を検討した。
【0192】
SDラット(6週齢、オス;日本チャールス・リバー)にストレプトゾトシン(50mg/kg、Sigma-Aldrich)を尾静脈内投与することで、ストレプトゾトシン誘発糖尿病モデルを作製した。ストレプトゾトシンは、生理食塩液(大塚製薬工場)で溶解させて25mg/mLに調製して投与した。また、ストレプトゾトシン溶液の代わりに生理食塩液を投与した、偽誘発動物を設けた。初回の投与日を病態誘発0日目とした。
【0193】
病態誘発28日目に化合物1(3又は10mg/kg)を含む溶液又はその溶媒(注射用水)をラットに経口投与した。群構成は、偽誘発‐溶媒投与群(Sham群)、病態誘発‐溶媒投与群(Vehicle群)、病態誘発‐10mg/kg化合物1投与群(3mg/kg化合物1投与群)、病態誘発‐30mg/kg化合物1投与群(10mg/kg化合物1投与群)の4群とした。
【0194】
機械的アロデニィアに対する薬効評価は実施例5と同様の方法にて評価し、病態誘発28日目の化合物1投与3時間後に行った。
【0195】
化合物1の機械的アロディニアに対する効果の評価の結果を図14に示す。図14の縦軸は、von Frey試験における50%反応閾値を示し、数値が高いほど機械的アロディニアが改善されていることを示す(平均値±標準誤差;各群8例)。図中の「*」は、Vehicle群と比較して統計学的に有意(*:p<0.025、Shirley-Williamsの多重比較、片側)な差であることを示す。
【0196】
病態誘発28日目(化合物1投与3時間後)において、10mg/kg化合物1投与群及び30mg/kg化合物1投与群は、Vehicle群と比較して、50%反応閾値の有意な上昇が観察された。すなわち、化合物1はストレプトゾトシン誘発糖尿病モデルにおける機械的アロディニアを抑制することが明らかとなった。
【0197】
以上より、環状アミン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩は、代謝性末梢神経障害、特に糖尿病性末梢神経障害に対して有効であることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0198】
本発明の環状アミン誘導体又はその薬理学的に許容される塩は、末梢神経細胞の保護・修復効果及び髄鞘形成促進作用を有し、種々の末梢神経障害の症状等を顕著に抑制することから、末梢神経障害の治療剤又は予防剤として利用できる。
【0199】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
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