(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】プレス成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 43/58 20060101AFI20221025BHJP
B29C 43/34 20060101ALI20221025BHJP
B29C 70/06 20060101ALI20221025BHJP
B29C 70/42 20060101ALI20221025BHJP
B29K 105/06 20060101ALN20221025BHJP
【FI】
B29C43/58
B29C43/34
B29C70/06
B29C70/42
B29K105:06
(21)【出願番号】P 2019518333
(86)(22)【出願日】2019-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2019012313
(87)【国際公開番号】W WO2019188873
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-12-08
(31)【優先権主張番号】P 2018067929
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】武部 佳樹
(72)【発明者】
【氏名】篠原 光太郎
(72)【発明者】
【氏名】本間 雅登
【審査官】北澤 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-235779(JP,A)
【文献】国際公開第2016/084824(WO,A1)
【文献】特開2008-254437(JP,A)
【文献】国際公開第2014/103658(WO,A1)
【文献】特開2016-163989(JP,A)
【文献】特開2014-069403(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105269833(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107471679(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0280871(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 43/00-43/58
B29C 70/00-70/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形品の開口部を形成する凹部の型と、該凹部に対応し前記凹部の型
と凸部の型との間でキャビティが構成される凸部の成形型を具備し、かつ、プレス成形機から前記成形型に加えられる圧力方向に直交する面(A)に対して、前記プレス成形機より面(A)に負荷される圧力を100%とした場合に、負荷される圧力が面(A)に対して0~70%の範囲内となる面(B)を少なくとも1面有する、成形型を具備したプレス成形機を用いて、前記成形型のキャビティ内に配置された、マトリックス樹脂に強化繊維がランダムに分散したシート状の成形基材をプレス成形する製造方法において、
前記強化繊維が略モノフィラメント状であり、前記成形基材中に配合される強化繊維の配合割合が、10~50体積%の範囲内であり、面(A)に対して、前記プレス成形機からの外部圧力として1MPa以上の面圧を負荷する賦形工程(III)と、
賦形工程(III)の後に、成形型を解放しないまま、
除圧しないで、前記プレス成形機から外部圧力として成形基材に負荷する圧力を0.1MPa以下とする保圧工程(IV)と、を有するプレス成形品の製造方法。
【請求項2】
賦形工程(III)において、前記プレス成形機から外部圧力として成形基材に負荷する圧力を1MPa以上とする、請求項1に記載のプレス成形品の製造方法。
【請求項3】
前記成形型が、面(A)に対し0~60度の傾きを持つ面(a)と、面(A)に対し45~90度の傾きを持ち、面(a)より傾斜が大きい面(b)と、を有し、面(b)の少なくとも1面は面(B)に相当する、請求項1または2のいずれかに記載のプレス成形品の製造方法。
【請求項4】
賦形工程(III)において、面(a)に負荷される面圧Pa(MPa)と、面(b)に負荷される面圧Pb(MPa)は、0.2×Pa≦Pb≦2×Paを満たす、請求項1~3のいずれかに記載のプレス成形品の製造方法。
【請求項5】
保圧工程(IV)において、面(a)に負荷される面圧Pa(MPa)と、面(b)に負荷される面圧Pb(MPa)は、0.2×Pa≦Pb≦2×Paを満たす、請求項1~3のいずれかに記載のプレス成形品の製造方法。
【請求項6】
賦形工程(III)において、成形型締結後のキャビティ内の面(a)上のシート状の成形基材に負荷される面圧は、面(a)に負荷される圧力の平均値に対して±10%のバラツキの範囲内であり、成形型締結後のキャビティ内の面(b)上のシート状の成形基材に負荷される面圧が、該面(b)に負荷される圧力の平均値に対して±10%のバラツキの範囲内である、請求項1~5のいずれかに記載のプレス成形品の製造方法。
【請求項7】
賦形工程(III)の前に、前記シート状の成形基材を成形型キャビティに配置する工程(II)を有し、工程(II)において、前記シート状の成形基材を2層以上積層する、請求項1~6のいずれかに記載のプレス成形品の製造方法。
【請求項8】
保圧工程(IV)が、プレス成形機の位置制御により行われる、請求項1~7のいずれかに記載のプレス成形品の製造方法。
【請求項9】
工程(II)は溶融した成形
基材を成形キャビティに配置する工程であって、シート状の成形基材を、成形型キャビティにおける、プレス成形機から加えられる圧力方向に直交する方向への投影面の90%以上を覆うように配置する、請求項1~8のいずれかに記載のプレス成形品の製造方法。
【請求項10】
前記強化繊維が、炭素繊維である、請求項1~
9のいずれかに記載のプレス成形品の製造方法。
【請求項11】
前記マトリックス樹脂は熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂から選択される、請求項1~
10のいずれかに記載のプレス成形品の製造方法。
【請求項12】
前記シート状の成形基材は、前記マトリックス樹脂の溶融温度ないし軟化温度に加熱したとき、厚み方向に150~1000%の膨張率を有する、請求項1~
11のいずれかに記載のプレス成形品の製造方法。
【請求項13】
賦形工程(III)の前に、シート状の成形基材を予め成形品の展開形状に加工するプリフォーム工程を含む、請求項1~
12のいずれかに記載のプレス成形品の製造方法。
【請求項14】
工程(II)において、成形型キャビティの表面温度を予め、成形基材中の樹脂の硬化温度ないしは固化温度以上、分解温度以下に調整する、請求項7~
13のいずれかに記載のプレス成形品の製造方法。
【請求項15】
保圧工程(IV)の後に、成形型キャビティの表面温度を降下させ、その後成形型から成形品を取り出す工程(V)を有し、工程(V)において、成形型キャビティの表面温度を、シート状の成形基材中の樹脂が熱可塑性樹脂の場合は軟化点以下、熱硬化性樹脂の場合はガラス転移点以下に降下させる、請求項1~
14のいずれかに記載のプレス成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも強化繊維とマトリックス樹脂を含むプレス成形品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車、航空機、スポーツ製品、電子機器等の産業用製品については、剛性の向上に対する市場要求が年々高まっている。この要求に応えるべく、剛性に優れる繊維強化樹脂からなるシート状の成形基材を用いた製品が、各種産業用途に幅広く利用されている。中でも、製品形状による補強効果を狙い、形状が平面状の成形品のみならず立ち壁部分を形成させた成形品を得るためのプレス成形方法や、シート状の成形基材の加熱技術による賦形性向上に関する技術が提案されている(特許文献1~3参照)。
【0003】
例えば、プレス成形品に立ち壁形状を形成するためにシート状の繊維強化樹脂の積層構成の検討(特許文献1参照)や、賦形性を向上させるためのプレス成形を行う方法において、繊維強化樹脂中の熱可塑性樹脂を溶融させた際の最適な溶融温度の検討(特許文献2参照)が知られている。また、一般的に困難とされる深絞り形状の成形技術として、繊維強化樹脂の表面にフィルムを配置することで形状を賦形する時に、成形型への押し込みにより繊維強化樹脂が破れることを防止する成形手法が検討されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5332227号明細書
【文献】特許第5459005号明細書
【文献】特開平6-344431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、繊維強化樹脂からなるシート状の成形基材の成形方法、中でも生産性を考慮したプレス成形方法では、成形品に外観不良のない成形品を精度良く得ることが必要である。ただし、成形品において立ち壁などの形状を有する場合、プレス成形機からシート状の成形基材に加わる圧力は製品形状の影響から一定とすることは困難である。そのため、シート状の成形基材に一様なプレス圧力を加えるための検討はなされていない。
【0006】
また、プレス成形時にシート状の成形基材をプレス成形して得られる成形品の寸法や表面外観を精度良く得るためには、フィルムなどの副資材を設けたり、成形型に特別な機構を設けたり、複数回の成形工程を経ることで、シート状の成形基材を除々に変形させて形作る製造方法を採用する必要がある。そのため副資材の準備、プレス成形工程数の増加や、専用設備の導入など生産性、経済性に劣ることとなる。また、製品形状の制約によりプレス成形機からシート状の成形基材に加わる圧力が不均一となるため、成形基材に圧力が極めて低い箇所と高い箇所が混在し、成形品にシワやカスレなどの外観不良や、力学特性の低下を招いていた。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、特別な副資材や成形設備を設けることなく、複雑な立ち壁などの形状を容易に形成可能で表面外観に優れるプレス成形品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
成形品の開口部を形成する凹部の型と、該凹部に対応し前記凹部の型と凸部の型との間でキャビティが構成される凸部の成形型を具備し、かつ、プレス成形機から前記成形型に加えられる圧力方向に直交する面(A)に対して、前記プレス成形機より面(A)に負荷される圧力を100%とした場合に、負荷される圧力が面(A)に対して0~70%の範囲内となる面(B)を少なくとも1面有する、成形型を具備したプレス成形機を用いて、
前記成形型のキャビティ内に配置された、マトリックス樹脂に強化繊維がランダムに分散したシート状の成形基材をプレス成形する製造方法において、
前記強化繊維が略モノフィラメント状であり、前記成形基材中に配合される強化繊維の配合割合が、10~50体積%の範囲内であり、面(A)に対して、前記プレス成形機からの外部圧力として1MPa以上の面圧を負荷する賦形工程(III)と、
賦形工程(III)の後に、成形型を解放しないまま、除圧しないで、前記プレス成形機から外部圧力として成形基材に負荷する圧力を0.1MPa以下とする保圧工程(IV)と、を有するプレス成形品の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、プレス成形機からの加圧力が十分に負荷することができない形状においても、賦形性に優れ、かつ、外観品位に優れたプレス成形品の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】プレス成形機のプラテンと成形型の位置関係の一例を示す模式図である。
【
図2】プレス成形機による加圧力にて成形型が締結する方向と状態を示す模式図である。
【
図3】プレス成形機のプラテンと成形型における面(a)および面(b)の角度の関係の一例を示す模式図である。
【
図5】本発明で用いる強化繊維マットにおける強化繊維の分散状態の一例を示す模式図である。(a)は平面図である。(b)は厚み方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係るプレス成形品の製造方法について説明する。 本発明において開示する「圧力」および「面圧」について、まず、説明する。
【0012】
本発明において、「プレス成形機から前記成形型に加えられる圧力方向に直交する面(A)」とは、成形型を付設するプラテンの一面に、外部から加える圧力の方向に対して、直交する水平な仮想面である。実在の面との関係で意味するところは、圧力を加えるプラテンの1つの面に対して、面(A)は平行な面となる。そして、成形型をプレス成形機に配置したとき、成形型の水平な面を指すことが多い。
【0013】
そして、「面(A)に負荷される圧力」とは、プラテンのある一面に成形機から加える圧力と等価である。また、成形型に加える圧力の向きから見て、投影された面積に一様に加えられたとしたときの圧力と等しい。その上で、「面(A)に負荷される圧力を100%とした場合に、負荷される圧力が面(A)に対して0~70%の範囲内となる面(B)」とは、成形品の開口部を形成する凹部の型と、該凹部に対応する凸部の型において、傾斜面であって、傾斜面の各部位における接線が水平面に対して、およそ45°~90°となる面を、面(B)と表わす。傾斜面は、直線状のほかに、曲線状および球面状をも含む。これは、成形機からプラテンに垂直方向に加えられる圧力が、角度を有する傾斜面に加わった際に、傾斜面に垂直な方向にかかる力と斜面方向にかかる力に分解され、傾斜面に垂直な方向にかかる力が0~70%となることを意味する。ここで、0%とは、垂直(角度90°)の場合、70%とはおよそ45°の場合である。
【0014】
本発明において、「少なくとも1面有する成形型」とは、たとえば、深絞り型に代表される、立体形状を成形する成形型において、およそ45°から90°の立壁を少なくとも1面含むことである。
【0015】
本発明において、プレス成形機から加えられる圧力方向に直交する面に水平な面(A)を基準として、当該面(A)に負荷される圧力を100%とした場合に、負荷される面圧が上記面(A)に対して0~70%の範囲内となる面(B)を有する成形型を用いる。面(A)を有することが好ましい場合もあるが、必ずしもこれに限らない。面(A)は、プレス成形機から加えられる圧力方向に直交する面に水平な面であって、成形型において実在する面とは限らず、仮想面である。成形品の開口部を形成する凹部の型と凸部の型からなる成形型において、面(A)は、成形型に付設するプラテンから、成形型の外側から加えられた圧力の方向に対して、直交する面に水平な仮想面となる。一方、成形型には、面(a)と面(b)が少なくとも含まれる。
図2は、成形型と圧力付与方法を示す図である。
図2において、プレス成形機からの加圧力の負荷方向7は、成形型に加えられる圧力の向きで、重力方向と同じ方向となっている。キャビティ6は、成形型を閉じた際に生じる隙間部分で、成形品の形状に対応する部分である。その場合、成形型の面(a)が重力方向に水平であれば、その水平な面(a)は面(A)に該当し、成形型は面(A)を有する。一方、成形型の面(a)が、重力方向に水平でなければ、その面(a)は面(A)に該当せず、成形型は面(A)を有しないこととなる。
【0016】
また、成形型のキャビティ6内に配置される成形基材は、成形型の形状に賦形され、面を形成する。成形品には、プレス成形機から加えられる圧力方向に直交する面に水平な面(A)の全部または一部に対応する面が存在する場合がある(
図4、符号11)。
【0017】
続いて、面(B)について説明する。面(B)は、 前記面(A)(仮想面)に対して、プレス成形機より面(A)に負荷される圧力の0~70%の範囲内となる面である。成形型には、面(b)が存在し、面(b)の少なくとも1面は面(B)に相当する。面(b)は、プレス成形機より面(A)に負荷される圧力の0~70%の範囲内である面で、複数面が存在する場合もある。また、成形型のキャビティ6内に配置される成形基材は、成形型の形状に賦形され、面(B)上に形成される(
図4、符号12)。
【0018】
面(B)について、「傾斜面の各部位における接線」を説明する。傾斜面が直線状である場合(たとえば、
図2に示す成形型)には、傾斜面の各部位における接線の傾きは同じである。一方、直線状であるが、傾斜が変化する場合は、各部位における接線の傾きが異なる。また、傾斜面が曲線状である場合は、各部位における接線の傾きが異なる場合がある。面(B)は、傾斜面の各部位における接線のうち、少なくとも成形型中央部の接線の傾きが水平面に対して、およそ45°~90°となる面である。ここで、成形型中央部の接線とは、成形型における傾斜面を断面方向に投影したとき、傾斜が開始する上端と下端の高さの2分の1にあたる位置の接線である。
図2は成形型の断面図であるが、成形型凸部4において図示すると、傾斜面の上端(U)と傾斜面の下端(L)の高さ方向の中央位置(M)における部位における接線である。
【0019】
賦形工程と保圧工程において、成形基材にかかる圧力は、成形基材が成形型に接しているのであれば、成形型の面(a)および面(b)にかかる圧力と等しい。
【0020】
本発明において、「面(a)に負荷される面圧Pa(MPa)と、面(b)に負荷される面圧Pb(MPa)」とは、それぞれ、面(a)に垂直な方向に加えられる圧力、つまり、面(a)に接する成形基材に加わる面圧と同じであり、と面(b)に垂直な方向に加えられる圧力、つまり、面(b)に接する成形基材に加わる面圧と同じである。
【0021】
〔成形型〕
本発明に用いる成形型について
図1を用いて説明する。本発明における成形型は、成形品の開口部を形成する凹部の型と、該凹部に対応する凸部を有し、該凹部の型との間でキャビティが構成される。成形型は
図1に示されるように、プレス成形機の上下プラテン(1、2)に取り付けられた少なくとも凹部と凸部の雌雄一対(3、4)の型から構成される。これらの成形型は成形品の形状に応じたキャビティを有している。また、キャビティ(6)とは、
図2に示すように、成形型を閉じた際に生じる隙間部分を指し、成形品の形状に対応する部分である。
【0022】
さらに、本発明における成形型は、面(A)に対し0~60度の傾きを持つ面(a)(
図3の8の角度は0度。
図3では凹部の型について図示する。)と、面(A)に対して45~90度の傾きを持つ面(b)(
図3の9の角度は60度。
図3では凹部の型について図示する。)の少なくとも二つの面を有することで、製品設計の幅を広げることが可能となるため好ましい。この場合、面(a)の傾きが0度の場合は面(A)と同一であり、また、面(b)は面(B)に相当する。プレス成形機のプラテンに対し0~60度の傾きを持つ面(a)を有することで、後述する賦形工程(III)において、プレス成形機からの加圧力がシート状の成形基材へ十分に付与されるためプレス成形品の厚みの制御が容易となる観点から好ましい。同様の理由から、さらに好ましくは面(a)は面(A)対し0~45度の傾きであり、とりわけ好ましくは0~15度の傾きである。0度のときは、面(A)は面(a)と同一である。さらに、面(A)に対して45~90度の傾きを持つ面(b)を有することで、シート状の成形基材をプレス成形する際、プレス成形機からの圧力が過大にシート状の成形基材に加わることを回避することができるため、かつ、シート状の成形基材が成形型キャビティ内で過大に移動することが防止され、成形品の表面外観を良好とすることができるため好ましい。同様の理由から、さらに好ましくは面(b)は面(A)に対し60~90度の傾きである。本発明に用いる成形型において、面(a)と面(b)の連続する角部分は、製品設計に応じて適宜、R形状を有していることが、賦形工程(III)におけるシート状の成形基材の賦形の容易さや、成形品を取り出した後の成形型キャビティの清掃の容易さの観点から採用しても良い。
【0023】
〔プレス成形工程〕
本発明の製造方法は、強化繊維とマトリックス樹脂を含むシート状の成形基材をプレス成形する方法であり、プレス成形機から加えられる圧力方向に直交する面に対して水平な面を基準とした面(A)(
図4(a)の11)に負荷される圧力を100%とした場合に、少なくとも成形型キャビティ内の成形基材に負荷される面圧が、当該面(A)に対して0~70%の範囲内となる面(B)(
図4(b)の12)を有する成形型を用いてなる。
【0024】
面(B)の一例としては、箱型形状の立ち壁部分や、四角錐形状の頂点以外の高さ方向に勾配を有する箇所、半球形状における高さ方向の曲率を有する箇所を例示できる。面(B)への圧力が0~70%の範囲内において、成形品における成形不良とされるカスレやシワなどを抑制することができることから成形品の外観品位が良好となる。より本発明の効果である成形圧力の定圧化を実現できる観点から、好ましくは0~50%の範囲内である。一方、0~70%の範囲を外れる場合には、成形品における面(B)に配置されているシート状の成形基材に過大な圧力が加わり、プレス成形中に成形型キャビティ内で成形基材の移動(ズレ)が起こり、成形品の表面にシワが発生するため好ましくない。
【0025】
本発明に係る強化繊維と樹脂とを含むシート状の成形基材をプレス成形する製造方法の一例は、
工程(I):成形基材中の成形基材を加熱して熱可塑性樹脂を溶融させる工程
工程(II):溶融した成形基材を成形型キャビティに配置する工程
工程(III):プレス成形機から当該面(A)に対して1MPa以上の面圧を負荷する賦形工程
工程(IV):賦形後の成形基材に、プレス成形機から0.1MPa以下の面圧を負荷しながら成形形状を固定する保圧工程
工程(V): 成形型キャビティの表面温度を降下させ、その後成形型から成形品を取出す工程
である。
【0026】
ここで、賦形が行われる工程(III)と、賦形後の成形基材の形状を固定するために保圧する工程(IV)は必須の構成である。賦形工程(III)とは、シート状の成形基材を成形品の形状に賦形する、言い換えると、成形型キャビティ6の形状に沿わせる工程である。本工程において、上記面(A)に対し、プレス成形機から1MPa以上の外部からの面圧を付与することにより、シート状の成形基材に十分な加圧力を加えることができ、厚みの制御が可能となり成形品の形状を安定させることができる。通常、プレス成形機から圧力が付与される時間は、数秒程度である。プレス成形機から1MPa以上の外部からの面圧は、成形機に付設される圧力ゲージ等で確認される。成形機から加えた圧力は、成形型の面(a)と面(b)を介して成形基材に負荷される。「面(A)に対して」とは、成形型がプラテンに対して水平な面を有している場合は、「成形型の面(a)に対して」と読み替えることができる。好ましくは3MPa以上、さらに好ましくは5MPa以上である。前記面(A)に対して1MPaを下回ると成形基材中の強化繊維や樹脂に十分に加圧力が加わらず、成形品厚み制御が困難になるため好ましくない。かかる面圧の上限値としては、特に制限を設けないが、当該成形基材中の強化繊維が圧力により折損せず、プレス成形品の力学特性の低下を防ぐ観点から20MPaである。保圧工程(IV)は、成形基材に0.1MPa以下の面圧を負荷する工程である。ここで、保圧工程とは、賦形工程(III)により形状が形成された成形基材の形状を固定する工程であり、成形品の寸法安定性および外観品位に寄与する。
【0027】
以下、各工程の詳細について説明する。
【0028】
工程(II):溶融した成形基材を成形型キャビティに配置する工程
溶融した成形基材を成形型キャビティに配置する工程(II)では、前記キャビティにおけるプレス成形機から加えられる圧力方向に直交する方向への投影面の90%以上を覆うように配置することが好ましい。これは、得られる成形品の末端まで成形材料を充填させることができるため、成形品に欠損が生じることを抑制する観点から好ましい。
【0029】
さらに、工程(II)は、シート状の成形基材を2層以上積層することが、成形品の厚み調整の観点、製品設計によるデザインの自由度の観点から好ましい。積層する層数に特段の制限はないが、製品の厚みに合わせた層数を選択することが好ましい。また、成形基材を構成する樹脂が熱可塑性樹脂の場合は、成形基材をプレス成形する際に、成形型キャビティにて熱可塑性樹脂を溶融させるために加熱工程を経ても良い。そのため、加熱効率を上げることを目的として厚みが1mm以下の材料を加熱装置の中に並列して配置し、成形型キャビティへ配置する直前に積層とすることが好ましい。
【0030】
また、成形基材が積層されたものである場合は、その積層成形基材の成形型キャビティへの配置に先立って、予め成形型キャビティの表面温度を、シート状の成形基材中の樹脂の硬化温度ないしは固化温度以上、分解温度以下に調整することが、成形品の表面外観および生産速度の向上の観点から好ましい。
【0031】
シート状の成形基材に熱硬化性樹脂を用いる場合、架橋構造を形成して硬化する前の熱硬化性樹脂を溶融ないし軟化せしめるのに十分な熱量を与えることが、プレス成形される成形品の厚み制御の容易さおよび製造速度の観点から好ましい。成形基材中の樹脂の硬化する温度は、DSC(Differential Scanning Calorimetry)により求めことができる。昇温速度10℃/minで測定し、得られたDSC曲線における発熱ピークのピークトップの温度から±20℃の範囲を硬化温度とすることができる。
【0032】
シート状の成形基材が、熱可塑性樹脂である場合、加熱により溶融ないし軟化したシート状の成形基材を固化させるのに十分な熱量を奪うことが、製造されるプレス成形品の厚み制御及び製造速度の観点から好ましい。さらに好ましい態様として、成形型キャビティの温度がシート状の成形基材を構成する熱可塑性樹脂の固化温度より20~50℃高い温度の範囲内で行われることが可塑化したシート状の成形基材の賦形のしやすさや、成形品の表面外観の観点から好ましい。例えば、樹脂としてポリアミド6樹脂を用いる場合は、200℃~250℃の範囲内、ポリプロピレン樹脂を用いる場合は180℃~210℃の範囲内が好ましく例示できる。上記の上限のいずれかと下限のいずれかとの組み合わせによる範囲であってもよい。成形基材中の樹脂の固化温度は、DSC(Differential Scanning Calorimetry)により求めことができる。昇温速度10℃/minで測定し、得られたDSC曲線における融解ピークの立ち上がりの点を固化温度とする。
【0033】
また、成形型キャビティの表面温度の上限は、成形基材中の樹脂の樹脂成分が熱分解に達しない温度とすることが表面性に優れた成形品を得る観点から好ましい。
【0034】
工程(III):プレス成形機から当該面(A)に対して1MPa以上の面圧を負荷する賦形工程
プレス成形機から当該面(A)に対して1MPa以上の面圧を負荷する賦形工程(III)において、面(a)に負荷される面圧Pa(MPa)と、面(B、b)に負荷される面圧Pb(MPa)は、0.2×Pa≦Pb≦2×Paを満たすことが好ましい。なお、面(B、b)が複数存在する場合、すべての面(B、b)について0.2×Pa≦Pb≦2Paの条件を満たすことが好ましい。面(B)にプレス成形機から過大な圧力が成形基材に加わり続けることがなく、プレス成形中に成形型キャビティ内で成形基材の移動(ズレ)が起こり、プレス成形品の表面にシワが発生するなどの外観不良を抑制できるため好ましい。同様の理由により、0.5×Pa≦Pb≦Paの範囲内とすることがさらに好ましい。上記の上限のいずれかと下限のいずれかとの組み合わせによる範囲であってもよい。
【0035】
さらに、賦形工程(III)において、成形型締結後のキャビティ内の面(a)上のシート状の成形基材に負荷される面圧が、面(a)に負荷される圧力の平均値に対して、±10%のバラツキの範囲内であることが、成形品の表面にシワが発生するなどの外観不良を抑制できるため好ましい。バラツキは少ないほど好ましいが、現実的な範囲として±5%以下が好ましく例示できる。同様に、成形型締結後のキャビティ内の面(B、b)上のシート状の成形基材に負荷される面圧が、面(B、b)に負荷される圧力の平均値に対して、±10%のバラツキの範囲内であることが、成形品の表面にシワが発生するなどの外観不良を抑制できるため好ましい。バラツキは少ないほど好ましいが、現実的な範囲として±5%以下が好ましく例示できる。上記の上限のいずれかと下限のいずれかとの組み合わせによる範囲であってもよい。
【0036】
プレス成形の賦形が行われる際、シート状の成形基材はキャビティ内に引き込まれて、ないしは折りたたまれて賦形されるため成形品の立ち壁部などの形成が容易であり、得られる成形品の表面外観が向上する。シート状の成形基材は成形型キャビティの上記投影面の100%以上を覆うことが、さらに好ましい。
【0037】
さらに、工程(III)の前に、シート状の成形基材の形状を、予め成形品の展開形状に加工するプリフォーム工程を含むことが成形品の賦形性の容易さの観点から好ましい。展開形状とすることで、賦形工程(III)において、例えば、箱型に代表される成形品の形状では角部分にシート状の成形基材が余剰に存在することを防止することが可能となるため好ましい。また、半球形状や面上に凹凸を有するリブ形状などの展開形状が不成立な形状では、必ずしも得ようとする成形品を全て平面上にした形状である必要はなく、端部にオーバーラップ部分を有していても良い。
【0038】
工程(IV): 賦形後の成形基材に、0.1MPa以下の面圧を負荷しながら成形形状を固定する保圧工程
さらに、本発明に係る製造方法では、保圧工程(IV)として、プレス機成形機から成形基材に0.1MPa以下の面圧を負荷する工程を有する。ここで、保圧工程とは、賦形工程(III)により形状が形成された成形基材の形状を固定する工程であり、成形品の寸法安定性に寄与する。また、保圧工程(IV)は、賦形工程(III)の後に成形型を解放せずに実施する。これにより寸法安定性を優れたものとなる。この保圧工程(IV)における、プレス成形機からの外部圧力を0.1MPa以下とすることで、一度、賦形されたシート状の成形基材の寸法変化を抑制することができる。この圧力は、成形機に付設される圧力ゲージ等で確認される。ここでいう0.1MPa以下の面圧とは、プレス機からかかる圧力を示し、この圧力を0MPaとすることもあり得るが、加圧後に金型を解放して除圧しないことから、賦形された成形基材に圧力はかかり続ける。保圧工程(IV)におけるプレス成形機からの外部圧力が0.1MPaを超えると成形基材が流動もしくは変形してしまうなど、形状安定性に劣ることとなり好ましくない。一般に、プレス成形機を用いた保圧には、成形圧力を解除することによりプレス成形機から賦形されたシート状の成形材料への加圧力の供給を遮断する方法(圧力除圧方法)や、プレス成形機のプラテンの位置制御により、賦形されたシート状の成形材料へ実質的に圧力がかからない状態とする方法が例示できるが、成形品を所望の厚みに制御する観点から、保圧工程(IV)はプレス成形型から解放せず、プレス成形機のプラテンの位置は賦形工程を実施した位置のまま行われることが好ましい。この圧力制御方法を、位置制御方式と表す。
【0039】
面(a)に負荷される面圧Pa(MPa)と、面(B、b)に負荷される面圧Pb(MPa)は、0.2×Pa≦Pb≦2×Paを満たすことが好ましい。なお、面(B、b)が複数存在する場合、すべての面(B、b)について0.2×Pa≦Pb≦2×Paの条件を満たすことが好ましい。面(B、b)にプレス成形機から過大な圧力が成形基材に加わり続けることがなく、プレス成形中に成形型キャビティ内で成形基材の移動(ズレ)が起こり、プレス成形品の表面にシワが発生するなどの外観不良を抑制できるため好ましい。同様の理由により、0.5×Pa≦Pb≦Paの範囲内とすることがさらに好ましい。上記の上限のいずれかと下限のいずれかとの組み合わせによる範囲であってもよい。
【0040】
さらに、保圧工程における面圧Pa(保圧)、Pb(保圧)の適正な面圧条件は、0.1~5MPaの範囲内である。また、賦形工程におけるPa(賦形)、Pb(賦形)の0.5~10%の範囲内が好ましい。
【0041】
かかる保圧工程(IV)における継続時間(保圧時間)は、賦形されたシート状の成形基材が固化するまでの間、継続することが、成形型から成形品を取り出した後に、所望の形状からの寸法変化を小さくする観点から好ましい。通常、数分から10分程度である。該保圧時間は、成形品の厚さが厚くなるほど、成形型の表面温度が高くなるほど長時間化する。そのため、保圧工程(IV)の短時間化による経済性の向上の観点からは、600秒以下とすることが好ましく、とりわけ好ましくは300秒以下である。60秒以上が好ましい場合もある。該保圧工程(IV)を短時間とする手法としては、成形型の表面温度を樹脂の固化温度より十分に低い温度とすること、成形型を高速昇温、高速冷却させる手法が好ましく用いられる
本発明において、少なくとも強化繊維とマトリックス樹脂を含むシート状の成形基材をプレス成形する方法は、所望する成形品の形状に応じ選択が可能である。ここで、プレス成形とは、加工機械および型、工具等を用いて、金属、プラスチック材料、セラミックス材料などに例示される各種材料に曲げ、剪断、圧縮等の変形を与えて成形品を得る方法である。成形形態としては、絞り、深絞り、フランジ、コールゲート、エッジカーリング、型打ちなどが例示される。また、プレス成形の方法としては、型を用いて成形をおこなう金型プレス成形法、ラバープレス成形法(静水圧成形法)押出し成形法などが例示される。上記プレス成形の方法のなかでも、成形圧力、温度の自由度の観点から、金属製の型を用いて成形をおこなう金型プレス成形法を好ましく用いることができる。
【0042】
上記プレス成形方法のなかでも、少なくとも強化繊維と熱可塑性樹脂を含む成形基材においては、金型プレス成形法を用い、成形基材を型内に予め配置しておき、型締とともに加圧、加熱をおこない、次いで型締をおこなったまま、金型の冷却により成形材料の冷却をおこない成形体を得るホットプレス法や、予め、成形材料を、熱可塑性樹脂の溶融温度以上に、遠赤外線ヒーター、加熱板、高温オーブン、誘電加熱などに例示される加熱装置で加熱し、熱可塑性樹脂を溶融、軟化させた状態で、前記成形型の下面となる型の上に配置し、次いで型を閉じて型締を行い、その後加圧冷却する方法であるコールドプレス法を採用することができるが、本発明のプレス成形方法では、特に制限はないものの、経済性、作業性に優れたコールドプレス法を採用することが好ましい。
【0043】
工程(V): 成形型キャビティの表面温度を降下させ、その後成形型から成形品を取出す工程
さらに、工程(V)において成形型キャビティの表面温度を降下させるが、この際、シート状の成形基材中の樹脂が熱可塑性樹脂の場合は軟化点以下、熱硬化性樹脂の場合はガラス転移点以下に降下させることが、成形品の寸法を安定化した状態で成形型から取り出すことができるため好ましい。
【0044】
シート状の成形基材に熱硬化性樹脂を用いる場合、架橋構造を形成して硬化する前の熱硬化性樹脂を溶融ないし軟化せしめるのに十分な熱量を与えた後、ガラス転移点温度以下とすることで、プレス成形された成形品の寸法変化の懸念を最小とすることができることから好ましい。ガラス転移点温度は、DSC(Differntial Scanning Calorimetry)により求めることができる。昇温速度10℃/minで測定し、得られたDSC曲線における測定により得られたDSC曲線の吸熱部におけるベースラインと立ち上がりラインとの延長線の交点の温度をもってガラス転移温度とすることができる。
〔シート状の成形基材〕
本発明において、シート状の成形基材は少なくとも樹脂と強化繊維を含み、樹脂は熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂から選択されることが、成形品の賦形性、表面外観の選択性、力学特性や軽量性が向上する観点から好ましい。
【0045】
本発明のプレス成形品の製造方法に用いるシート状の成形基材を構成する強化繊維としては、アルミニウム、ステンレス等の金属繊維、PAN系、レーヨン系、リグニン系、ピッチ系の炭素繊維、黒鉛繊維、ガラス等の絶縁性繊維、アラミド、PBO、ポリフェニレンスルフィド等の有機繊維、シリコンカーバイト、シリコンナイトライド等の無機繊維を例示できる。また、これらの繊維に表面処理が施されているものであってもよい。表面処理としては、導電体として金属の被着処理の他に、カップリング剤による処理、サイジング剤による処理、結束剤による処理、添加剤の付着処理等がある。また、これらの繊維は1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。中でも、軽量化効果の観点から、比強度、比剛性に優れるPAN系、ピッチ系、レーヨン系等の炭素繊維が好ましく用いられる。また、得られるプレス成形品の経済性を高める観点からは、ガラス繊維が好ましく用いられ、とりわけ力学特性と経済性とのバランスから炭素繊維とガラス繊維とを併用することが好ましい。さらに、プレス成形品の賦型性を高める観点からは、アラミド繊維が好ましく用いられ、本発明の効果を損なわない範囲であれば、炭素繊維とアラミド繊維とを併用することが好ましい。また、プレス成形品の導電性を高める観点からは、ニッケルや銅等の金属を被覆した強化繊維を用いることもできる。これらの中で、強度と弾性率等の力学特性に優れるPAN系の炭素繊維をより好ましく用いることができる。
【0046】
さらに、強化繊維は略モノフィラメント状であり、シート状の成形材料中にランダムに分散した炭素繊維であることが好ましい。強化繊維をかかる態様とすることで、シート状の成形基材をプレス成形する場合に、複雑形状への賦型が容易となる。また、強化繊維をかかる態様とすることで、強化繊維によって形成された空隙が緻密化し、シート状の成形基材中における強化繊維の繊維束端における弱部を極小化できるため、優れた補強効率及び信頼性に加えて、等方性が付与されたプレス成形品とすることができるため好ましい。
【0047】
ここで、略モノフィラメント状とは、強化繊維単糸が500本未満の細繊度ストランドにて存在することを指す。さらに好ましくは、モノフィラメント状、つまり単糸として分散していることである。
【0048】
ここで、略モノフィラメント状、又は、モノフィラメント状に分散しているとは、シート状の成形基材中にて任意に選択した強化繊維について、その二次元配向角が1度以上である単繊維の割合(以下、繊維分散率とも称す)が80%以上であることを指す。言い換えれば、シート状の成形基材中において2本以上の単繊維が接触して平行に並んだ束が20%未満であることをいう。従って、ここでは、少なくとも強化繊維におけるフィラメント数100本以下の繊維束の質量分率が100%に該当するものが特に好ましい。
【0049】
さらに、強化繊維はランダムに分散していることが、より好ましい。ここで、強化繊維がランダムに分散しているとは、シート状の成形基材における任意に選択した単繊維の二次元配向角の算術平均値が30度以上、60度以下の範囲内にあることをいう。かかる二次元配向角とは、強化繊維の単繊維とこの単繊維と交差する単繊維とで形成される角度のことであり、交差する単繊維同士が形成する角度のうち、0度以上、90度以下の範囲内にある鋭角側の角度と定義する。
【0050】
この二次元配向角について、図面を用いてさらに説明する。
図5(a)は2次元に投影した模式図、
図5(b)は断面方向の模式図である。
図5(a)において、単繊維13aを基準とすると、単繊維13aは他の単繊維13b~13fと交差している。ここで、交差とは、観察する二次元平面において、基準とする単繊維が他の単繊維と交わって観察される状態のことを意味し、単繊維13aと単繊維13b~13fとが必ずしも接触している必要はない。図に用いて詳しく説明すると、
図5(b)は、単繊維13aの長さ方向に対して垂直に切断した断面図で、単繊維13aは、紙面の奥に向かって伸びている。単繊維13aと13eおよび13fとは単繊維同士が接触していない。しかしながら、
図5(a)に示すように2次元に投影した際、単繊維13aと単繊維13b~13fは交差しており、2次元配向角が存在する。つまり、交差とは、投影して見た場合に交わって観察される状態を含んでいる。つまり、基準となる単繊維13aについて見た場合、単繊維13b~13fの全てが二次元配向角の評価対象であり、
図5(a)中において二次元配向角は交差する2つの単繊維が形成する2つの角度のうち、0度以上、90度以下の範囲内にある鋭角側の角度である(
図5において、2次元配向角14を示す)。
【0051】
二次元配向角を測定する方法としては、特に制限はないが、例えば、シート状の成形基材やプレス成形品の表面から強化繊維の配向を観察する方法を例示できる。二次元配向角の平均値は、次の手順で測定する。すなわち、無作為に選択した単繊維(
図5における単繊維13a)に対して交差している全ての単繊維(
図5における単繊維13b~13f)との二次元配向角の平均値を測定する。例えば、ある単繊維に交差する別の単繊維が多数の場合には、交差する別の単繊維を無作為に20本選び、測定した算術平均値を代用してもよい。この測定を別の単繊維を基準として合計5回繰り返し、その算術平均値を二次元配向角の算術平均値として算出する。
【0052】
強化繊維が略モノフィラメント状、且つ、ランダムに分散していることで、上述した略モノフィラメント状に分散した強化繊維により与えられる性能を最大限まで高めることができる。また、シート状の成形基材やプレス成形品において力学特性に等方性を付与できる。かかる観点から、強化繊維の繊維分散率は80%以上であることが好ましく、100%に近づくほどより好ましい。また、強化繊維の二次元配向角の算術平均値は、40度以上、50度以下の範囲内にあることが好ましく、理想的な角度である45度に近づくほど好ましい。二次元配向角の好ましい範囲としては、上記した上限のいずれの値を上限としてもよく、上記した下限のいずれの値を下限としてもよい。
【0053】
シート状の成形基材中の強化繊維の配合割合は、10~50体積%の範囲内であることが、シート状の成形基材における強化繊維の補強効果や軽量性を満足する観点から好ましい。前記強化繊維の体積含有率が50体積%以下であると、強化繊維に由来する補強効果を十分なものとすることができるので好ましい。一方、強化繊維の体積含有率が10体積%以上の場合には、強化繊維の樹脂に対する体積含有率が相対的に多くなり、シート状の成形基材中の強化繊維同士を結着し、強化繊維の補強効果を十分なものとできること、またプレス成形品の表面に樹脂皮膜が形成されやすくなるため、プレス成形品の力学特性や表面外観を満足できるので好ましい。強化繊維の配合割合が50体積%を超えると、補強効果は得られるものの樹脂被膜が形成されにくくなる。また、強化繊維の配合割合が10体積%を下回ると、補強効果が得られにくい。
【0054】
本発明のプレス成形品の製造方法に用いるシート状の成形基材を構成する樹脂としては、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を例示できる。また、本発明においては、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とがブレンドされていてもよく、その場合は、樹脂を構成する成分のうち、50質量%を超える量を占める成分をその樹脂の名称とする。
【0055】
本発明における樹脂は、少なくとも1種類以上の熱可塑性樹脂を含むことができる。熱可塑性樹脂としては、「ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、液晶ポリエステル等のポリエステル、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレン等のポリオレフィン、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)等のポリアリーレンスルフィド、ポリケトン(PK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂、液晶ポリマー(LCP)」等の結晶性樹脂、「スチレン系樹脂の他、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリサルホン(PSU)、ポリエーテルサルホン、ポリアリレート(PAR)」等の非晶性樹脂、その他、フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、さらにポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、ポリイソプレン系、フッ素系樹脂、及びアクリロニトリル系等の熱可塑エラストマー等や、これらの共重合体及び変性体等から選ばれる熱可塑性樹脂を例示できる。中でも、得られる成形品の軽量性の観点からはポリオレフィンが好ましく、強度の観点からはポリアミドが好ましく、表面外観の観点からポリカーボネートやスチレン系樹脂のような非晶性樹脂が好ましく、耐熱性の観点からポリアリーレンスルフィドが好ましく、連続使用温度の観点からポリエーテルエーテルケトンが好ましく、さらに耐薬品性の観点からフッ素系樹脂が好ましく用いられる。
【0056】
本発明における樹脂は、少なくとも1種類以上の熱硬化性樹脂を含むことができる。熱硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル、ビニルエステル、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、熱硬化性ポリイミド、これらの共重合体、変性体、及びこれらの少なくとも2種類をブレンドした樹脂を例示できる。得られる成形品の力学特性の観点からエポキシ樹脂を好ましく用いることができる。また、表面意匠の観点から、不飽和ポリエステル、ビニルエステル、エポキシ樹脂を好ましく用いることができる。難燃性の観点からは、フェノール樹脂を好ましく用いることができる。
【0057】
また、本発明の目的を損なわない範囲で、上記樹脂はエラストマー又はゴム成分等の耐衝撃性向上剤、他の充填材や添加剤を含有してもよい。充填材や添加剤の例としては、無機充填材、難燃剤、導電性付与剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、発泡剤、又は、カップリング剤を例示できる。
【0058】
また、強化繊維マットを目留めしたり、強化繊維マットと樹脂の含浸性を向上させたり、強化繊維マットと樹脂を含むシート状の成形基材の力学特性の向上などの様々な観点から、バインダー成分を含んでいても良い。バインダー成分は本発明のシート状の成形基材を用いたプレス成形品の力学特性や、その製造方法における各工程を阻害しない範囲で、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂およびそれらの混合物や共重合体のいずれも採用することができる。
【0059】
さらに、本発明におけるシート状の成形基材を構成する樹脂およびバインダー成分は、熱可塑性樹脂とすることが、形状賦型性、シート状の成形基材の作製のしやすさの観点から好ましい。熱可塑性樹脂の形態としては、シート、フィルム、不織布、繊維、粒子、液体の形態を適宜選択することができる。その形態については、本発明のシート状の成形基材を用いたプレス成形品の力学特性や、その製造方法における各工程を阻害しない範囲で特段の制限は設けないものの、上述の強化繊維マットとの含浸工程でのハンドリング性や生産性、経済性の観点から、シート、フィルムが好ましく選択され、強化繊維マットとの含浸性の観点から不織布、繊維の形態が好ましく選択され、強化繊維マット中に樹脂を混合させやすいといった観点からは繊維、粒子の形態が好ましく選択される。フィルムやシートの厚さはシート状の成形基材における樹脂の含有量を満足できるものであれば良い。不織布や繊維における繊維直径については、一般的に市販される繊維直径のものを使用することができるが、強化繊維と樹脂繊維を混合して混抄マットとする場合は、その工程の安定性から強化繊維の直径以上の繊維直径を選択して使用することが好ましい。また、粒子の場合についても粒子径について特段の制限を設けないが、強化繊維マットと混合した混抄マットとした場合に工程中において粒子の脱落を防止する観点から適宜、粒子径を調整することが好ましい。熱硬化性樹脂は、力学特性の安定性、信頼性、賦型性の観点から好ましく用いることができる。その形状については、液状のまま強化繊維マットに塗布して含浸させても良いし、一度、フィルム状とした後、強化繊維マットと積層し、含浸させても良い。
【0060】
本発明における強化繊維は不織布状の形態をとることが、強化繊維への樹脂の含浸の容易さの観点から好ましい。強化繊維が不織布状の形態を有していることにより、不織布自体のハンドリング性の容易さに加え、一般的に高粘度とされる熱可塑性樹脂を用いる場合においても、繊維への含浸を容易なものとできるため好ましい。ここで、不織布状の形態とは、強化繊維のストランド及び/又はモノフィラメントがランダムに面状に分散した形態を指し、チョップドストランドマット、コンティニュアンスストランドマット、抄紙マット、カーディングマット、エアレイドマット等の形態を例示できる(以下、これらをまとめて強化繊維マットと称す)。
【0061】
強化繊維が上記形態をとらない場合の例としては、強化繊維が一方向に配列されてなるシート基材、織物基材、及びノンクリンプ基材等がある。これらの形態は、強化繊維が規則的に密に配置されるため、シート状の成形基材中の空隙が少なくなってしまい、樹脂の含浸が極めて困難となり、未含浸部を形成したり、含浸手段や樹脂種の選択肢を大きく制限したりする場合がある。
【0062】
強化繊維マットの製造方法としては、例えば強化繊維を予めストランド及び/又は略モノフィラメント状に分散して強化繊維マットを製造する方法がある。強化繊維マットの製造方法としては、強化繊維を空気流にて分散シート化するエアレイド法や、強化繊維を機械的に櫛削りながら形状を整えシート化するカーディング法等の乾式プロセス、強化繊維を水中にて攪拌して抄紙するラドライト法による湿式プロセスを公知技術として挙げることができる。強化繊維をよりモノフィラメント状に近づける手段としては、乾式プロセスにおいては、開繊バーを設ける方法やさらに開繊バーを振動させる方法、さらにカードの目を細かくする方法や、カードの回転速度を調整する方法等を例示できる。湿式プロセスにおいては、強化繊維の攪拌条件を調整する方法、分散液の強化繊維濃度を希薄化する方法、分散液の粘度を調整する方法、分散液を移送させる際に渦流を抑制する方法等を例示できる。特に、強化繊維マットは湿式プロセスで製造することが好ましく、投入繊維の濃度を増やしたり、分散液の流速(流量)とメッシュコンベアの速度を調整したりすることで強化繊維マットの強化繊維の割合を容易に調整できる。例えば、分散液の流速に対してメッシュコンベアの速度を遅くすることで、得られる強化繊維マット中の繊維の配向が引き取り方向に向き難くなり、嵩高い強化繊維マットを製造でき好ましい。強化繊維マットは、強化繊維単体から構成されていてもよいが、強化繊維が粉末形状や繊維形状のマトリックス樹脂成分と混合されていてもよい。また、強化繊維が有機化合物や無機化合物と混合されていてもよい。
【0063】
さらに、強化繊維マットには予め樹脂を含浸させておくこともできる。その製造する方法としては、強化繊維マットに樹脂を溶融ないし軟化する温度以上に加熱された状態で圧力を付与し、強化繊維マットに含浸させる方法を用いることが、製造の容易さの観点から好ましい。具体的には、強化繊維マットの厚み方向の両側から樹脂を配置した積層物を溶融含浸させる方法が好ましく例示できる。
【0064】
上記、各方法を実現するための設備としては、圧縮成形機やダブルベルトプレスを好適に用いることができる。バッチ式の場合は前者であり、加熱用と冷却用との2機以上を並列した間欠式プレスシステムとすることで生産性の向上が図れる。連続式の場合は後者であり、連続的な加工を容易に行うことができるので連続生産性に優れる。
【0065】
シート状の成形基材は、基材を構成する樹脂の溶融温度もしくは軟化温度に加熱したとき、厚み方向に150~1000%の膨張率を有するものであると、成形型キャビティ内に加熱したシート状の成形基材を投入してプレス成形を行う際、賦形しやすくなり、プレス成形品の形状を得ることが容易となるため好ましい。成形型キャビティ内にて賦形されたシート状の成形基材が、成形型キャビティの厚み方向に膨張することで、プレス成形機から負荷される圧力を低くしても、シート状の成形基材の膨張力に起因とした圧力により、低いプレス成形圧力にて成形することが可能となる。上記膨張率は、ハンドリング性の観点から、厚み方向に200~800%の範囲が好ましい。また、膨張力を活用し、プレス成形品の表面外観を向上させる観点からは、厚み方向に300~600%の範囲が好ましい。上記の上限のいずれかと下限のいずれかとの組み合わせによる範囲であってもよい。
【0066】
ここで上記膨張率(t3)は、軟化状態にあるシート状の成形基材の膨張の程度を表す指標であり、23℃の温度でのシート状の成形基材の厚み(t1)と、シート状の成形基材に含まれる樹脂が熱可塑性樹脂の場合は、その熱可塑性樹脂の融点から40℃高い温度でのシート状の成形基材の厚み(t2)、シート状の成形基材に含まれる樹脂が熱硬化性樹脂の場合はその熱硬化性樹脂が最低粘度に達する温度でのシート状の成形基材の厚み(t2)を用いて、次式で表される。
・t3=t2/t1×100(%)
なお、成形基材の厚みt1およびt2を測定するにおいて、測定試料のサイズは、縦100mm、横100mmとすることが例示される。t1およびt2の測定点は、測定試料において、同一の箇所とすることで、膨張率を精度良く測定することができる。さらに測定点は、5点以上とし、測定箇所は、例えば5点で測定する場合は、測定試料の中心および中心部分から、上下左右に40mm移動した位置を測定点とすることが例示される。
【0067】
また、シート状の成形基材中の強化繊維は、質量平均繊維長さが1~15mmであることが、プレス成形品への強化繊維の補強効率を高めること、および、上記膨張率を実現できる観点から好ましい。強化繊維の質量平均繊維長さが1mm以上であることにより、シート状の成形基材中の強化繊維が厚み方向に存在する確率が高くなることから膨張時の厚みバラツキの少ないシート状の成形基材とすることができる。さらに、強化繊維マットの品位を良くすることができることから、プレス成形品の表面外観が向上する。一方、強化繊維の質量平均繊維長さが15mm以下の場合には、シート状の成形基材中で強化繊維が自重により屈曲しにくく、力学特性の発現を阻害しないため好ましい。質量平均繊維長さが1mmを下回ると、凝集しやすくなり分散性が低下してしまう。質量平均繊維長さが15mmを超えると、強化繊維が自重により屈曲しやすくなり、力学特性が低下してしまう。強化繊維の質量平均繊維長は、シート状の成形基材の樹脂成分を焼き飛ばす方法や溶出等の方法により取り除き、残った強化繊維から無作為に400本を選択し、その長さを10μm単位まで測定し、それらの質量平均繊維長として算出できる。
【0068】
本発明のプレス成形品の製造方法により得られるプレス成形品は、例えば、「パソコン、ディスプレイ、OA機器などの家電製品等の筐体、トレイ、シャーシ、内装部材、またはそのケース」等の電気、電子機器部品、「各種メンバ、各種フレーム、各種ヒンジ、各種アーム、各種車軸、各種車輪用軸受、各種ビーム」、「フード、ルーフ、ドア、フェンダ、トランクリッド、サイドパネル、リアエンドパネル、フロントボディー、アンダーボディー、各種ピラー、各種メンバ、各種フレーム、各種ビーム、各種サポート、各種レール、各種ヒンジ等の、外板、又はボディー部品」、「バンパー、バンパービーム、モール、アンダーカバー、エンジンカバー、整流板、スポイラー、カウルルーバー、エアロパーツ等の外装部品」、「インストルメントパネル、シートフレーム、ドアトリム、ピラートリム、ハンドル、各種モジュール等の内装部品」、等の自動車、二輪車用構造部品、「バッテリートレイ、ヘッドランプサポート、ペダルハウジング、プロテクター、ランプリフレクター、ランプハウジング、ノイズシールド、スペアタイヤカバー」等の自動車、二輪車用部品、「ランディングギアポッド、ウィングレット、スポイラー、エッジ、ラダー、エレベーター、フェイリング、リブ、シート」等の航空機用部品が挙げられる。力学特性の観点からは、自動車内外装、電気・電子機器筐体、自転車、スポーツ用品用構造材、航空機内装材、輸送用箱体に好ましく用いられる。なかでも、とりわけ複数の部品から構成されるモジュール部材用途の製造方法に好適である。
【実施例】
【0069】
以下、実施例を用いて、本発明を具体的に説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0070】
〔評価・測定方法〕
(1)シート状の成形基材およびプレス成形品における強化繊維の体積含有率
シート状の成形基材から縦10mm、横10mmに試験片を切り出し、質量Wsと多孔質体(a)の体積Vsを測定した後、試験片を空気中500℃で30分間加熱して樹脂成分を焼き飛ばし、残った強化繊維の質量Wfを測定し、次式により算出した。
強化繊維のVf(体積%)=(Wf/ρf)/{Wf/ρf+(Ws-Wf)/ρr}×Vs×100
ρf:強化繊維の密度(g/cm3)
ρr:樹脂の密度(g/cm3)
Vs:多孔質体(a)の見かけ体積(cm3)
(2)成形基材における強化繊維の分散状態
以下の(2-1)と(2-2)を満足するものを、繊維の分散状態がランダムである、とした。
【0071】
(2-1)シート状の成形基材およびプレス成形品における繊維分散状態
上記(1)と同様の方法にて、シート状の成形基材から強化繊維マットを取り出した。得られた強化繊維マットの表面を電子顕微鏡(キーエンス(株)製、VHX-500)を用いて観察し、無作為に単繊維を1本選定し、該単繊維に接触する別の単繊維との二次元配向角を測定した。倍率は、50倍とする。二次元配向角は互いに接触する2つの単繊維のなす2つの角度のうち、0度以上90度以下の角度(鋭角側)を採用した。二次元配向角の測定は、選定した単繊維に接触する全ての単繊維を対象とし、これを100本選定した単繊維について実施した。得られた結果から、二次元配向角を測定した全ての単繊維の総本数に対する二次元配向角度が1度以上である単繊維の本数の比率を繊維分散率として求め、繊維分散率が90%以上のものをランダムと判断する第1の条件とした。また、観察において強化繊維が束状に観察されたものは束状とし、分散状態に優れないものと判断した。
【0072】
(2-2)シート状の成形基材およびプレス成形品における二次元配向角
上記(1)と同様の方法にて、シート状の成形基材から強化繊維マットを取り出した。得られた強化繊維マットを電子顕微鏡(キーエンス(株)製、VHX-500)を用いて観察し、無作為に単繊維を1本選定し、その単繊維に交差する別の単繊維との二次元配向角を画像観察より測定した。配向角は交差する2つの単繊維とのなす2つの角度のうち、0度以上90度以下の角度(鋭角側)を採用した。選定した単繊維1本あたりの二次元配向角の測定数はn=20とした。同様の測定を合計5本の単繊維を選定しておこない、その平均値をもって二次元配向角とし、40度~50度のものをランダムと判断する第2の条件とした。
【0073】
(3)成形基材における厚み方向の膨張率
加熱後の膨脹率は、以下の手順(A)~(C)により測定した。なお全ての厚み測定は、ノギス(ミツトヨ(株)社製、デジタルノギス(CD-67S20PS(商品名))にて測定した。
【0074】
(A)室温(23℃)での、シート状の成形基材の厚み(t1)を測定する。
【0075】
(B)加熱装置(樹脂が熱可塑性樹脂の場合は融点から40℃高い温度、樹脂が熱硬化性樹脂の場合は熱硬化性樹脂が加熱・熱硬化時に最低粘度に達する温度)から取り出した後、溶融軟化している成形基材を空気中にて冷却した後の厚みを測定する(t2)。なお、測定試料のサイズは、縦100mm、横100mmとした。t1およびt2の測定点は、測定試料において、同一の箇所とした。さらに測定点は、5点とし、測定試料の中心および中心部分から上下左右に40mm移動した位置を測定点とした。
【0076】
(C)加熱後の成形基材の膨脹率(t3)を次式にて算出する。5点の測定からt3を求め、その平均値を求める。
【0077】
t3[%]=(t2[mm]/t1[mm])×100
(4)賦形工程におよび保圧工程おける成形型の面(a)および面(b)にかかる圧力の測定
プレス成形型の面(a)および角度を有する面(b)に配置した圧力センサーにより測定をおこなった。圧力センサーは成形品の面(a)に等分割となる位置に設置した(n=5)。立ち壁部分(面(b)に相当)には、長手方向に1箇所圧力センサーを配置した。面(b)は複数あり、それぞれに圧力センサーを1か所取り付け、複数の面(b)の圧力測定を行う。この圧力センサーより測定された数値の算術平均値を、面(a)および面(b)のそれぞれの面圧とした。さらに、各面にかかる圧力のバラツキは、各々の測定値より標準偏差を算出し、その標準偏差を平均値で除することにより、バラツキの指標である変動係数(CV値(%))を算出して求めた。なお、バラツキは面(a)と面(b)を分けて算出した。面(a)と面(b)の両方が面(B)の条件を満たす場合は、面(A)からの傾きが大きく、面圧が低くなる方を面(b)の値として表に示した。なお、賦形工程と保圧工程において、成形基材にかかる圧力は、成形基材が成形型に接しているのであれば、成形型のそれぞれに対応する面(a)および面(b)にかかる圧力と等しい。
【0078】
(5)プレス成形機から成形品の投影面に負荷される圧力
プレス成形機に設置された圧力モニターを読み取ったプレス成形機の出力をFpとし、成形品の投影面積Smにより除することで、成形品の投影面に負荷される圧力(σp)を下式により算出した。
σp[MPa]=Fp[kN]/Sm[mm2]×1000
(6)成形品の外観評価
プレス成形により得られた成形品について、平面部分(面(A)部分)、立ち壁部分(面(B)部分)のそれぞれに対し、目視により、カスレ、シワなどに代表される成形不良を観察した。評価の指標は、カスレないしシワが存在しない成形品には可を示す“良”を、カスレないしシワが存在するものは不可を示す“不良”とした。
【0079】
<使用した成形型>
[成形型M-1]
成形型M-1として、上下型からなる金属製の箱型形状金型を用いた。天面、底面はそれぞれ四辺を有するものであった(以下M-2からMー4において同じ)。
上型(凸部)は成形品投影面のサイズが、縦196mm、横196mm、高さ22mm。
下型(凹部)は成形品投影面のサイズが、縦200mm、横200mm、高さ20mm。
面(a)とプラテンとの角度は、0度
面(b)とプラテンとの角度は、90度
なお、圧力センサーは、面(a)には下型の中心に1点、上型の中心点から四方の角部に向って100mmの位置(4箇所)の合計5箇所、面(b)には各辺の中心に1箇所ずつ(計4箇所)設置した。
【0080】
[成形型M-2]
成形型M-2として、上下型からなる金属製の箱型形状金型を用いた。
上型の凸部のサイズ、下型の凹部のサイズ、面(a)とプラテンとの角度、圧力センサーの位置は、M-1と同様である。
面(b)とプラテンとの角度:45度
[成形型M-3]
成形型M-3として、上下型からなる金属製の箱型形状金型を用いた。
上型となる凸部のサイズ、下型となる凹部のサイズ、圧力センサーの位置は、M-1と同様である。
面(a)とプラテンとの角度:45度
面(b)とプラテンとの角度:60度
[成形型M-4]
成形型M-4として、上下型からなる金属製の箱型形状金型を用いた。
上型となる凸部のサイズ、下型となる凹部のサイズ、圧力センサーの位置は、M-1と同様である。
面(a)とプラテンとの角度:15度
面(b)とプラテンとの角度:70度
<使用した材料>
[炭素繊維]
ポリアクリロニトリルを主成分とする共重合体から紡糸、焼成処理、及び表面酸化処理を行い、総単糸数12,000本の連続炭素繊維を得た。この連続炭素繊維の特性は次に示す通りであった。
比重:1.8
引張強度:4600MPa
引張弾性率:220GPa
引張破断伸度:2.1%
[PP樹脂]
未変性ポリプロピレン樹脂(プライムポリマー(株)製“プライムポリプロ”(登録商標)J105G)80質量%と、酸変性ポリプロピレン樹脂(三井化学(株)製“アドマー” (登録商標)QB510)20質量%とからなる目付200g/m2の樹脂シートを作製した。
【0081】
[PPS樹脂]
ポリフェニレンサルファイド樹脂(東レ(株)製“トレリナ”(登録商標)A900)からなる目付268g/m2の樹脂シートを作製した。
【0082】
[成形基材S-1]
強化繊維として炭素繊維を用い、カートリッジカッターで5mmにカットし、チョップド炭素繊維を得た。水と界面活性剤(ナカライテクス(株)製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(商品名))とからなる濃度0.1質量%の分散液を作製し、この分散液とチョップド炭素繊維とを用いて、強化繊維マットを製造した。製造装置は、分散槽としての容器下部に開口コックを有する直径1000mmの円筒形状の容器、分散槽と抄紙槽とを接続する直線状の輸送部(傾斜角30度)を備えている。分散槽の上面の開口部には撹拌機が付属し、開口部からチョップド炭素繊維及び分散液(分散媒体)を投入可能である。抄紙槽が、底部に幅500mmの抄紙面を有するメッシュコンベアを備え、また、炭素繊維からなるマットを運搬可能なコンベアをメッシュコンベアに接続している。抄紙は分散液中の炭素繊維の濃度を0.05質量%として行った。抄造した炭素繊維マットは200℃の乾燥炉で30分間乾燥し、強化繊維マットを得た。得られたマットの目付は90g/m2であった。
【0083】
次いで、強化繊維マットとPP樹脂を、[PP樹脂/強化繊維マット/強化繊維マット/PP樹脂]の順番に配置した積層物を作製した。さらに以下の工程(i)~(iv)を経ることによりS-1を得た。特性を表1に示す。
(i)積層物を200℃に予熱したプレス成形用成形型キャビティ内に配置して上型、下型がともに平板形状の成形型を閉じた。
(ii)次いで、120秒間保持した後、3MPaの圧力を付与してさらに60秒間保持した。
(iii)次いで、圧力を保持した状態でキャビティ温度を50℃まで冷却した。
(iv)成形型を開いて成形基材を取り出した。
【0084】
[成形基材S-2]
強化繊維として炭素繊維を用い、カートリッジカッターで8mmにカットし、チョップド炭素繊維を得た。強化繊維マットは成形基材S-1の記載の手法にて作製した。得られたマットの目付は90g/m2であった。
【0085】
次いで、強化繊維マットとPP樹脂を、[PP樹脂/強化繊維マット/強化繊維マット/強化繊維マット/強化繊維マット/PP樹脂]の順番に配置した積層物を作製した。さらに、成形基材S-1に記載の工程(i)~(iv)を順に経ることによりS-2を得た。特性を表1に示す。
【0086】
[成形基材S-3]
強化繊維として炭素繊維を用い、カートリッジカッターで15mmにカットした以外は、成形基材S-1に記載の手法にて強化繊維マットを得た。得られたマットの目付は90g/m2であった。
【0087】
次いで、成形基材S-1に記載の工程(i)~(iv)を順に経ることにより成形基材S-3を作製した。
【0088】
[成形基材S-4]
強化繊維として炭素繊維を用い、カートリッジカッターで8mmにカットした以外は、成形基材S-1に記載の手法にて強化繊維マットを得た。得られたマットの目付は90g/m2であった。
【0089】
次いで、強化繊維マットとPPS樹脂を、[PPS樹脂/強化繊維マット/強化繊維マット/強化繊維マット/強化繊維マット/強化繊維マット/PPS樹脂]の順番に配置した積層物を作製した。さらに以下の工程(i)~(iv)を順に経ることによりS-4を得た。特性を表1に示す。
(i)積層物を320℃に予熱したプレス成形用成形型キャビティ内に配置して成形型を閉じた。
【0090】
工程(ii)~(iv)はS-1と同様。
【0091】
[成形基材S-5]
強化繊維として炭素繊維を用い、カートリッジカッターで5mmにカットし、チョップド炭素繊維を得た。チョップド炭素繊維を開綿機に投入して当初の太さの炭素繊維束が多数存在した状態の綿状の炭素繊維集合体を得た。この強化繊維集合体を直径600mmのシリンダーロールを有するカーディング装置(シリンダーロールの回転数は100rpm、ドッファーの速度は13m/分)に投入し、炭素繊維からなる強化繊維マットを形成した。この強化繊維マットには束状の炭素繊維が多数観察された。得られたマットの目付は90g/m2であった。
上記以外の作製方法はS-1と同様にして、S-5を得た。特性を表1に示す。
【0092】
[成形基材S-6]
成形基材S-1に記載の手法にて強化繊維マットを得た。得られたマットの目付は90g/m2であった。
【0093】
次いで、強化繊維マットとPP樹脂を、[PP樹脂/PP樹脂/強化繊維マット/PP樹脂/PP樹脂]の順番に配置した積層物を作製した。さらに、成形基材S-1に記載の工程(i)~(iv)を順に経ることによりS-6を得た。特性を表1に示す。
【0094】
(実施例1)
成形材料にS-1を用い、成形型はM-1を用い、以下の工程(I)~(V)を順に経ることにより成形品を成形した。プレス成形には、油圧式プレス成形機、成形基材の溶融には遠赤外線ヒーターを用いた。なお、成形基材は成形型のキャビティの投影面の150%となるようにサイズを調整した。成形した成形品の特性は表2に示す。
工程(I):成形基材を200℃に加熱し、熱可塑性樹脂を溶融させた。
工程(II):予め、成形型キャビティを100℃に温調し、溶融した成形基材を4層積み重ね、ただちに成形型キャビティに配置した。
工程(III):成形型を締結し、プレス成形機から加圧力をプレス成形機から加えられる圧力方向に直交する面(A)に対して3MPaとなるように加圧し、賦形した。
工程(IV):加圧力を解除し、位置制御により厚みを固定し、保圧した。このとき、圧力センサーが示した面(a)の面圧Paは3MPa、面(b)の面圧Pbは2.5MPaであった。
工程(V):工程(IV)を1分間保持した後、成形型を解放し、成形品を脱型した。
【0095】
得られた成形品は成形型キャビティに準じた形状が賦形されており、いずれの部位においてもシワやカスレがなく、良好な表面状態であった。
【0096】
(実施例2)
成形材料にS-2を用い、成形型はM-2を用い、成形基材は成形型のキャビティの投影面の130%となるようにサイズを調整し、工程(III)にてプレス成形機から加圧力を成形基材の投影面に対して15MPaとなるように加圧し、賦形した以外は、実施例1と同様の工程にて、プレス成形品を得た。
【0097】
なお、工程(IV)で、圧力センサーが示した面(a)の面圧Paは3MPa、面(b)の面圧Pbは3MPaであった。
【0098】
得られた成形品は成形型キャビティに準じた形状が賦形されており、いずれの部位においてもシワやカスレがなく、良好な表面状態であった。成形した成形品の特性は表2に示す。
【0099】
(実施例3)
成形材料にS-3を用い、成形型はM-3を用い、以下の工程(I)~(V)を順に経ることにより成形品を成形した。プレス成形には、実施例1と同様の装置を用いた。なお、成形基材は成形型のキャビティの投影面の110%となるようにサイズを調整した。成形した成形品の特性は表2に示す。
工程(I)、工程(III)~工程(V)は実施例1と同様とした。工程(II)で予め、成形型キャビティを120℃に温調し、溶融した成形基材を2層積み重ね、ただちに成形型キャビティに配置した。
【0100】
なお、圧力センサーが示した面(a)の面圧Paは3MPa、面(b)の面圧Pbは2.5MPaであった。
【0101】
得られた成形品は成形型キャビティに準じた形状が賦形されており、いずれの部位においてもシワやカスレがなく、良好な表面状態であった。
【0102】
(実施例4)
成形材料にS-4を用い、成形型はM-1を用い、以下の工程(I)~(V)を順に経ることにより成形品を成形した。プレス成形には、実施例1と同様の装置を用いた。なお、成形基材は成形型のキャビティの投影面の150%となるようにサイズを調整した。成形した成形品の特性は表2に示す。
工程(I)、工程(IV)、工程(V)は実施例1と同様とした。
工程(II)で予め、成形型キャビティを80℃に温調した以外は実施例1と同様とした。
工程(III)でプレス成形機からの加圧力を成形基材の投影面に対して10MPaとなるように加圧し、賦形した以外は実施例1と同様とした。
【0103】
なお、工程(IV)にて、圧力センサーが示した面(a)の面圧Paは3MPa、面(b)の面圧Pbは2.5MPaであった。
【0104】
得られた成形品は成形型キャビティに準じた形状が賦形されており、いずれの部位においてもシワやカスレがなく、良好な表面状態であった。
【0105】
(比較例1)
成形材料にS-5を用い、成形型はM-1を用い、以下の工程(I)~(V)を順に経ることにより成形品を成形した。プレス成形には、実施例1と同様の装置を用いた。なお、成形基材は成形型のキャビティの投影面の100%となるようにサイズを調整した。成形した成形品の特性は表2に示す。
工程(I)、工程(III)、工程(V)は実施例4と同様とした。
工程(II)で成形型キャビティを100℃に温調した以外は、実施例4と同様とした。
【0106】
工程(IV)で、圧力センサーが示した面(a)の面圧Paは0MPa、面(b)の面圧Pbは0MPaであった。
【0107】
得られた成形品は成形型キャビティに準じた形状には賦形されておらず、また、立ち壁部分にはシワやカスレが発生し、外観不良が見られた。
【0108】
(比較例2)
成形材料にS-6を用い、成形型はM-4を用い、成形基材は成形型のキャビティの投影面の80%となるようにサイズを調整し、工程(III)にてプレス成形機からの加圧力を成形基材の投影面に対して15MPaとなるように加圧し、賦形した以外は、比較例1と同様の手法にてプレス成形品を得た。成形した成形品の特性は表2に示す。
【0109】
なお、工程(IV)にて、圧力センサーが示した面(a)の面圧Paは0MPa、面(b)の面圧Pbは0MPaであった。
【0110】
得られた成形品は成形型キャビティに準じた形状には賦形されておらず、また、立ち壁部分にはシワやカスレが発生し、外観不良が見られた。
【0111】
(比較例3)
成形材料にS-2を用い、成形型はM-2を用い、成形基材は成形型のキャビティの投影面の130%となるようにサイズを調整し、工程(III)にてプレス成形機からの加圧力を成形基材の投影面に対して15MPaとなるように加圧し、賦形した以外は、工程(IV)を実施せずに、実施例2と同様の手法にてプレス成形品を得た。成形した成形品の特性は表3に示す。
【0112】
得られた成形品は成形型キャビティに準じた形状には賦形されておらず、また、立ち壁部分にはシワやカスレが発生し、外観不良が見られた。
【0113】
【0114】
【0115】
【0116】
〔検討〕
上記の実施例1~4において、立ち壁を有し、プレス成形装置からの圧力を受けない箇所が存在する成形品でもシワなどの外観不良を有することのない、美麗な成形品を得ることができた。本手法によれば、過大な加圧力を必要としないため大型のプレス成形装置を導入する必要がないことにより、多くのコストを要することなく極めて経済的にプレス成形品を得ることができる。これは、得たプレス成形品の各面における二次元配向角とプレス成形前のシート状の成形基材の二次元配向角に差が無いことから表面状態の変化が少ないためである。
【0117】
一方、比較例1においては、立ち壁部分にカスレが生じた。これは賦形工程での加圧力が低すぎること、また、成形材料中の強化繊維が束状で存在しているため成形型内に成形材料から発生する圧力が低いことにより形状を担保できなかったことが考えられる。比較例2では、成形型における面(B)の傾斜が緩やかであること、成形材料中における強化繊維量が少なく加圧による流動現象がおこることにより、成形品の立ち壁部分にシワが生じた。比較例1、2のいずれにおいても、表面外観に優れたプレス成形品ではない。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明によれば、成形品の形状が起因してプレス成形機からの加圧力が十分に負荷されない形状においても、形状追随性に優れ、かつ、外観品位に優れた成形品を製造する方法を提供することにある。
【符号の説明】
【0119】
1 プレス成形機のプラテン(上)
2 プレス成形機のプラテン(下)
3 成形型凸部
4 成形型凹部
6 成形型締結後のキャビティ
7 プレス成形機からの加圧力の負荷方向
8 プラテンの水平面と成形型の面(a)との角度
9 プラテンの水平面と成形型の面(b)の角度
10 プレス成形品
11 プレス成形品における基準となる面(A)
12 基準となる面(A)に対して面圧が0~70%の範囲内となる面(B)
13a~13f 単繊維
14 二次元配向角
15 面(a)
16 面(b)
17 厚み制御用スペーサー