(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】近赤外線カットフィルターおよび該近赤外線カットフィルターを用いた装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/22 20060101AFI20221025BHJP
G02B 5/26 20060101ALI20221025BHJP
G02B 5/28 20060101ALI20221025BHJP
G02B 1/115 20150101ALI20221025BHJP
G03B 11/00 20210101ALI20221025BHJP
G03B 17/02 20210101ALI20221025BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20221025BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20221025BHJP
H01L 27/146 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
G02B5/22
G02B5/26
G02B5/28
G02B1/115
G03B11/00
G03B17/02
B32B27/18 A
B32B7/023
H01L27/146 D
(21)【出願番号】P 2019532634
(86)(22)【出願日】2018-07-24
(86)【国際出願番号】 JP2018027693
(87)【国際公開番号】W WO2019022069
(87)【国際公開日】2019-01-31
【審査請求日】2021-01-26
(31)【優先権主張番号】P 2017145369
(32)【優先日】2017-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】重岡 大介
(72)【発明者】
【氏名】長屋 勝也
(72)【発明者】
【氏名】大月 敏敬
【審査官】倉本 勝利
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/158461(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/171219(WO,A1)
【文献】特開2015-040895(JP,A)
【文献】国際公開第2014/192714(WO,A1)
【文献】特開2012-008532(JP,A)
【文献】国際公開第2017/051867(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/054864(WO,A1)
【文献】特開2018-004869(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/22
G02B 5/26
G02B 5/28
G02B 1/115
G03B 11/00
G03B 17/02
B32B 27/18
B32B 7/023
H01L 27/146
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
近赤外線吸収剤を含む透明樹脂層およびガラス製支持体を有する基材と、前記基材の少なくとも一方の面に形成された誘電体多層膜とを含み、
前記近赤外線吸収剤が、波長650~750nmに吸収極大を有するスクアリリウム系化合物(A)および波長700~850nmに吸収極大を有する化合物(B)(前記化合物(A)を除く)を含み、
前記化合物(B)が、下記式(V-2)で表されるシアニン系化合物を含み、かつ、
下記要件(a)を満たす近赤外線カットフィルター:
(a)波長600~800nmの領域において、前記基材の垂直方向から測定した場合の透過率が50%となる最も短い波長の値(Xa)と、波長700~1200nmの領域において、基材の垂直方向から測定した場合の透過率が50%となる最も長い波長の値(Xb)との差の絶対値|Xa-Xb|が160nm以上である。
【化1】
[式(V-2)中、X
a
-
は1価の陰イオンを表し、
複数あるDは、独立に炭素原子、窒素原子、酸素原子または硫黄原子を表し、
複数あるR
a
、R
b
、R
c
、R
d
、R
e
、R
f
、R
g
は、それぞれ独立に水素原子、塩素原子、水酸基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、イミド基、シアノ基、シリル基、-L
1
、-S-L
2
、-SS-L
2
、-SO
2
-L
3
、-N=N-L
4
、または、R
b
とR
c
、R
d
とR
e
、R
e
とR
f
、およびR
f
とR
g
のうち少なくとも1つの組み合わせが結合した、下記式(A)~(H)で表される基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を表し、
前記アミノ基、アミド基、イミド基およびシリル基は、置換基Lを有してもよく、
置換基Lは、炭素数1~9の脂肪族炭化水素基、炭素数1~9のハロゲン置換アルキル基、炭素数3~14の脂環式炭化水素基、炭素数6~14の芳香族炭化水素基および炭素数3~14の複素環基からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
L
1
は、下記に示すL
a
、L
b
、L
c
、L
d
、L
e
、L
f
、L
g
またはL
h
であり、
(L
a
)置換基Lを有してもよい炭素数1~9の脂肪族炭化水素基
(L
b
)置換基Lを有してもよい炭素数1~9のハロゲン置換アルキル基
(L
c
)置換基Lを有してもよい炭素数3~14の脂環式炭化水素基
(L
d
)置換基Lを有してもよい炭素数6~14の芳香族炭化水素基
(L
e
)置換基Lを有してもよい炭素数3~14の複素環基
(L
f
)置換基Lを有してもよい炭素数1~9のアルコキシ基
(L
g
)置換基Lを有してもよい炭素数1~9のアシル基
(L
h
)置換基Lを有してもよい炭素数1~9のアルコキシカルボニル基
L
2
は、水素原子または前記L
a
~L
e
のいずれかを表し、
L
3
は、水素原子または前記L
a
~L
e
のいずれかを表し、
L
4
は、前記L
a
~L
e
のいずれかを表し、
Z
a
~Z
c
およびY
a
~Y
d
は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、イミド基、シアノ基、シリル基、-L
1
、-S-L
2
、-SS-L
2
、-SO
2
-L
3
、-N=N-L
4
(L
1
~L
4
は、前記L
1
~L
4
と同義である。)、あるいは、
隣接した二つから選ばれるZ同士もしくはY同士が相互に結合して形成される、窒素原子、酸素原子もしくは硫黄原子を少なくとも1つ含んでもよい5乃至6員環の脂環式炭化水素基、
隣接した二つから選ばれるZ同士もしくはY同士が相互に結合して形成される、炭素数6~14の芳香族炭化水素基、または、
隣接した二つから選ばれるZ同士もしくはY同士が相互に結合して形成され、窒素原子、酸素原子もしくは硫黄原子を少なくとも1つ含む、炭素数3~14の複素芳香族炭化水素基を表し、
これらの脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基および複素芳香族炭化水素基は、炭素数1~9の脂肪族炭化水素基またはハロゲン原子を有してもよい。]
【化2】
[式(A)~(H)中、R
x
とR
y
の組み合わせは、R
b
とR
c
、R
d
とR
e
、R
e
とR
f
、およびR
f
とR
g
の組み合わせであり、
複数あるR
A
~R
L
は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、イミド基、シアノ基、シリル基、-L
1
、-S-L
2
、-SS-L
2
、-SO
2
-L
3
または-N=N-L
4
(L
1
~L
4
は、前記式(V-2)において定義したL
1
~L
4
と同義である。)を表し、前記アミノ基、アミド基、イミド基およびシリル基は、前記置換基Lを有してもよい。]
【請求項2】
前記波長Xa~Xbの領域において、前記基材の垂直方向から測定した場合の透過率の平均値(Ta)が35%以下であることを特徴とする請求項1に記載の近赤外線カットフィルター。
【請求項3】
さらに下記要件(b)を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載の近赤外線カットフィルター:
(b)波長560~800nmの範囲において、前記近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が50%となる最も短い波長の値(Ya)と、近赤外線カットフィルターの垂直方向に対して30°の角度から測定した場合の透過率が50%となる最も短い波長の値(Yb)との差の絶対値|Ya-Yb|が15nm未満である。
【請求項4】
前記透明樹脂層が、前記近赤外線吸収剤を2種以上含むことを特徴とする請求項1~
3のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルター。
【請求項5】
前記誘電体多層膜が前記基材の両方の面に形成されていることを特徴とする請求項1~
4のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルター。
【請求項6】
前記基材の両方の面に形成された誘電体多層膜が、近赤外線反射膜と可視光反射防止膜からなることを特徴とする請求項
5に記載の近赤外線カットフィルター。
【請求項7】
波長600~900nmの領域において、近赤外線カットフィルターのいずれか一方の面の垂直方向に対して30°の角度から測定した場合の反射率が50%となる最も短い波長の値(Xr)が620nm以上であることを特徴とする請求項1~
6のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルター。
【請求項8】
前記透明樹脂層を構成する透明樹脂が、環状(ポリ)オレフィン系樹脂、芳香族ポリエーテル系樹脂、ポリイミド系樹脂、フルオレンポリカーボネート系樹脂、フルオレンポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリサルホン系樹脂、ポリエーテルサルホン系樹脂、ポリパラフェニレン系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエチレンナフタレート系樹脂、フッ素化芳香族ポリマー系樹脂、(変性)アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、アリルエステル系硬化型樹脂、シルセスキオキサン系紫外線硬化型樹脂、アクリル系紫外線硬化型樹脂およびビニル系紫外線硬化型樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂であることを特徴とする請求項1~
7のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルター。
【請求項9】
固体撮像装置用である請求項1~
8のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルター。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルターを具備する固体撮像装置。
【請求項11】
請求項1~
9のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルターを具備するカメラモジュール。
【請求項12】
近赤外線吸収剤を含む透明樹脂層およびガラス製支持体を有する基材の少なくとも一方の面に誘電体多層膜を形成する工程を含む近赤外線カットフィルターの製造方法であって、
前記近赤外線吸収剤が、波長650~750nmに吸収極大を有するスクアリリウム系化合物(A)および波長700~850nmに吸収極大を有する化合物(B)(前記化合物(A)を除く)を含むこと、
前記化合物(B)が、下記式(V-2)で表されるシアニン系化合物を含むこと、かつ、
該近赤外線カットフィルターが下記要件(a)を満たすことを特徴とする近赤外線カットフィルターの製造方法:
(a)波長600~800nmの領域において、前記基材の垂直方向から測定した場合の透過率が50%となる最も短い波長の値(Xa)と、波長700~1200nmの領域において、基材の垂直方向から測定した場合の透過率が50%となる最も長い波長の値(Xb)との差の絶対値|Xa-Xb|が160nm以上である。
【化3】
[式(V-2)中、X
a
-
は1価の陰イオンを表し、
複数あるDは、独立に炭素原子、窒素原子、酸素原子または硫黄原子を表し、
複数あるR
a
、R
b
、R
c
、R
d
、R
e
、R
f
、R
g
は、それぞれ独立に水素原子、塩素原子、水酸基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、イミド基、シアノ基、シリル基、-L
1
、-S-L
2
、-SS-L
2
、-SO
2
-L
3
、-N=N-L
4
、または、R
b
とR
c
、R
d
とR
e
、R
e
とR
f
、およびR
f
とR
g
のうち少なくとも1つの組み合わせが結合した、下記式(A)~(H)で表される基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を表し、
前記アミノ基、アミド基、イミド基およびシリル基は、置換基Lを有してもよく、
置換基Lは、炭素数1~9の脂肪族炭化水素基、炭素数1~9のハロゲン置換アルキル基、炭素数3~14の脂環式炭化水素基、炭素数6~14の芳香族炭化水素基および炭素数3~14の複素環基からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
L
1
は、下記に示すL
a
、L
b
、L
c
、L
d
、L
e
、L
f
、L
g
またはL
h
であり、
(L
a
)置換基Lを有してもよい炭素数1~9の脂肪族炭化水素基
(L
b
)置換基Lを有してもよい炭素数1~9のハロゲン置換アルキル基
(L
c
)置換基Lを有してもよい炭素数3~14の脂環式炭化水素基
(L
d
)置換基Lを有してもよい炭素数6~14の芳香族炭化水素基
(L
e
)置換基Lを有してもよい炭素数3~14の複素環基
(L
f
)置換基Lを有してもよい炭素数1~9のアルコキシ基
(L
g
)置換基Lを有してもよい炭素数1~9のアシル基
(L
h
)置換基Lを有してもよい炭素数1~9のアルコキシカルボニル基
L
2
は、水素原子または前記L
a
~L
e
のいずれかを表し、
L
3
は、水素原子または前記L
a
~L
e
のいずれかを表し、
L
4
は、前記L
a
~L
e
のいずれかを表し、
Z
a
~Z
c
およびY
a
~Y
d
は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、イミド基、シアノ基、シリル基、-L
1
、-S-L
2
、-SS-L
2
、-SO
2
-L
3
、-N=N-L
4
(L
1
~L
4
は、前記L
1
~L
4
と同義である。)、あるいは、
隣接した二つから選ばれるZ同士もしくはY同士が相互に結合して形成される、窒素原子、酸素原子もしくは硫黄原子を少なくとも1つ含んでもよい5乃至6員環の脂環式炭化水素基、
隣接した二つから選ばれるZ同士もしくはY同士が相互に結合して形成される、炭素数6~14の芳香族炭化水素基、または、
隣接した二つから選ばれるZ同士もしくはY同士が相互に結合して形成され、窒素原子、酸素原子もしくは硫黄原子を少なくとも1つ含む、炭素数3~14の複素芳香族炭化水素基を表し、
これらの脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基および複素芳香族炭化水素基は、炭素数1~9の脂肪族炭化水素基またはハロゲン原子を有してもよい。]
【化4】
[式(A)~(H)中、R
x
とR
y
の組み合わせは、R
b
とR
c
、R
d
とR
e
、R
e
とR
f
、およびR
f
とR
g
の組み合わせであり、
複数あるR
A
~R
L
は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、イミド基、シアノ基、シリル基、-L
1
、-S-L
2
、-SS-L
2
、-SO
2
-L
3
または-N=N-L
4
(L
1
~L
4
は、前記式(V-2)において定義したL
1
~L
4
と同義である。)を表し、前記アミノ基、アミド基、イミド基およびシリル基は、前記置換基Lを有してもよい。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外線カットフィルターおよび近赤外線カットフィルターを用いた装置に関する。詳しくは、特定の波長域に吸収を有する色素化合物を含む近赤外線カットフィルター、ならびに該近赤外線カットフィルターを用いた固体撮像装置およびカメラモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、カメラ機能付き携帯電話などの固体撮像装置にはカラー画像の固体撮像素子であるCCDやCMOSイメージセンサーが使用されているが、これら固体撮像素子は、その受光部において人間の目では感知できない近赤外線に感度を有するシリコンフォトダイオードが使用されている。これらの固体撮像素子では、人間の目で見て自然な色合いにさせる視感度補正を行うことが必要であり、特定の波長領域の光線を選択的に透過もしくはカットする近赤外線カットフィルターを用いることが多い。
【0003】
このような近赤外線カットフィルターとしては、従来から、各種方法で製造されたものが使用されている。例えば、基材として透明樹脂を用い、透明樹脂中に近赤外線吸収色素を含有させた近赤外線カットフィルターが知られている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された近赤外線カットフィルターは、可視光透過率を高く保ったまま基材の吸収帯域幅を広げることができず、700~800nm付近の透過率を十分に下げるためには、誘電体多層膜のカット波長を比較的短波長側にする必要がある。
【0005】
カメラモジュールに内蔵される近赤外線カットフィルターは、レンズ側に誘電体多層膜(近赤外線反射膜)、イメージセンサー側に反射防止膜という配置で使われているが、誘電体多層膜とレンズ間で反射光が多重反射を起こすことがあるその結果、センサー感度が比較的高い700~800nm付近の多重反射光が撮像素子に入射してカメラ画像が劣化する場合があった。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された近赤外線カットフィルターは、近赤外領域において十分な光吸収帯域を有しておらず、センサーへの近赤外光の入光を十分にカットするには、近赤外線カットフィルターの近赤外線反射率を高くする必要がある。
【0007】
さらに、モバイル機器におけるカメラモジュールの小型化に伴い、特に画面端部において光線の入射角度が従来よりも大きくなる傾向にあるが、従来の近赤外線カットフィルターでは、近赤外線カットフィルターとレンズ間の多重反射に起因するゴーストが問題となる場合があった。具体的には、
図1に示すように、レンズ4を透過した入射光のうち、可視光は近赤外線カットフィルター1を透過するが近赤外光は反射される(反射光3A)。反射された近赤外光はレンズ4の表面で再度反射され(反射光3B)、多重反射を起こす。この近赤外線カットフィルターとレンズ間の多重反射光(透過光3C)がセンサー5に入射してカメラ画像が劣化する場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年ではモバイル機器等においてもカメラ画像に要求される画質レベルが非常に高くなってきている。本発明者らの検討によれば、高画質化の要求を満たすためには、近赤外線カットフィルターにおいて、広い視野角および高い可視光透過率に加え、長波長領域においても高い光線カット特性が必要となる。しかしながら、従来の近赤外線カットフィルターでは、上述したように、多重反射に起因するゴーストが問題となる場合があった。
【0010】
本発明は、近赤外線カット特性に優れ、入射角依存性が少なく、可視波長域での透過率特性および近赤外波長領域の多重反射光の低減効果に優れた近赤外線カットフィルターを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本出願人は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、基材の吸収帯域幅を近赤外線領域まで広げることで、入射角度を変えても光学特性の変化が少なく、多重反射による画像劣化の少ない近赤外線カットフィルターが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明の態様の例を以下に示す。
【0012】
[1] 近赤外線吸収剤を含む透明樹脂層を有する基材と、前記基材の少なくとも一方の面に形成された誘電体多層膜とを含み、かつ、下記要件(a)を満たす近赤外線カットフィルター:
(a)波長600~800nmの領域において、前記基材の垂直方向から測定した場合の透過率が50%となる最も短い波長の値(Xa)と、波長700~1200nmの領域において、基材の垂直方向から測定した場合の透過率が50%となる最も長い波長の値(Xb)との差の絶対値|Xa-Xb|が120nm以上である。
【0013】
[2] 前記波長Xa~Xbの領域において、前記基材の垂直方向から測定した場合の透過率の平均値(Ta)が35%以下であることを特徴とする項[1]に記載の近赤外線カットフィルター。
【0014】
[3] さらに下記要件(b)を満たすことを特徴とする項[1]または[2]に記載の近赤外線カットフィルター:
(b)波長560~800nmの範囲において、前記近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が50%となる最も短い波長の値(Ya)と、近赤外線カットフィルターの垂直方向に対して30°の角度から測定した場合の透過率が50%となる最も短い波長の値(Yb)との差の絶対値|Ya-Yb|が15nm未満である。
【0015】
[4] 前記近赤外線吸収剤が、スクアリリウム系化合物、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、クロコニウム系化合物およびシアニン系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする項[1]~[3]のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルター。
【0016】
[5] 前記透明樹脂層が、前記近赤外線吸収剤を2種以上含むことを特徴とする項[1]~[4]のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルター。
【0017】
[6] 前記近赤外線吸収剤が、波長650~750nmに吸収極大を有するスクアリリウム系化合物(A)および波長660~850nmに吸収極大を有する化合物(B)(前記化合物(A)を除く)を含むことを特徴とする項[1]~[5]のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルター。
【0018】
[7] 前記誘電体多層膜が前記基材の両方の面に形成されていることを特徴とする項[1]~[6]のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルター。
【0019】
[8] 前記基材の両方の面に形成された誘電体多層膜が、近赤外線反射膜と可視光反射防止膜からなることを特徴とする項[7]に記載の近赤外線カットフィルター。
【0020】
[9] 波長600~900nmの領域において、近赤外線カットフィルターのいずれか一方の面の垂直方向に対して30°の角度から測定した場合の反射率が50%となる最も短い波長の値(Xr)が620nm以上であることを特徴とする項[1]~[8]のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルター。
【0021】
[10] 前記透明樹脂が、環状(ポリ)オレフィン系樹脂、芳香族ポリエーテル系樹脂、ポリイミド系樹脂、フルオレンポリカーボネート系樹脂、フルオレンポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリサルホン系樹脂、ポリエーテルサルホン系樹脂、ポリパラフェニレン系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエチレンナフタレート系樹脂、フッ素化芳香族ポリマー系樹脂、(変性)アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、アリルエステル系硬化型樹脂、シルセスキオキサン系紫外線硬化型樹脂、アクリル系紫外線硬化型樹脂およびビニル系紫外線硬化型樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂であることを特徴とする項[1]~[9]のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルター。
【0022】
[11] 前記基材が、透明樹脂製支持体およびガラス製支持体から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする項[1]~[10]のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルター。
【0023】
[12] 固体撮像装置用である項[1]~[11]のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルター。
【0024】
[13] 項[1]~[12]のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルターを具備する固体撮像装置。
【0025】
[14] 項[1]~[12]のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルターを具備するカメラモジュール。
【0026】
[15] 近赤外線吸収剤を含む透明樹脂層を有する基材の少なくとも一方の面に誘電体多層膜を形成する工程を含む近赤外線カットフィルターの製造方法であって、該近赤外線カットフィルターが下記要件(a)を満たすことを特徴とする近赤外線カットフィルターの製造方法:
(a)波長600~800nmの領域において、前記基材の垂直方向から測定した場合の透過率が50%となる最も短い波長の値(Xa)と、波長700~1200nmの領域において、基材の垂直方向から測定した場合の透過率が50%となる最も長い波長の値(Xb)との差の絶対値|Xa-Xb|が120nm以上である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、近赤外線カット特性に優れ、入射角依存性が少なく、可視波長域における透過率特性および近赤外波長領域における多重反射光の低減効果に優れた近赤外線カットフィルターを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、近赤外線カットフィルターとレンズの間で多重反射した光線が固体撮像素子に入射することを示す概略図である。
【
図2】
図2(a)は、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率を測定する方法を示す概略図である。
図2(b)は、近赤外線カットフィルターの垂直方向に対して30°の角度から測定した場合の透過率を測定する方法を示す概略図である。
図2(c)は、近赤外線カットフィルターの垂直方向に対して30°の角度から測定した場合の反射率を測定する方法を示す概略図である。
【
図3】
図3(a)、(b)は、本発明の近赤外線カットフィルターの好ましい構成の例を示した模式図である。
【
図4】
図4は、実施例1で得られた基材の分光透過スペクトルである。
【
図5】
図5(a)は、実施例1で形成した誘電体多層膜(I)の垂直方向に対して5°の角度から測定した場合の分光反射スペクトルであり、
図5(b)は、実施例1で形成した誘電体多層膜(II)の垂直方向に対して5°の角度から測定した場合の分光反射スペクトルである。
【
図6】
図6は、実施例1で得られた近赤外線カットフィルターの分光透過スペクトルである。
【
図7】
図7は、実施例1で得られた近赤外線カットフィルターについて、光線の入射面を誘電体多層膜(II)(第二光学層)側とした際の、近赤外線カットフィルターの垂直方向に対して30°の角度から測定した分光反射スペクトルである。
【
図8】
図8は、実施例2で得られた基材の分光透過スペクトルである。
【
図9】
図9は、実施例2で得られた近赤外線カットフィルターの分光透過スペクトルである。
【
図10】
図10は、実施例2で得られた近赤外線カットフィルターについて、光線の入射面を誘電体多層膜(IV)(第二光学層)側とした際の、近赤外線カットフィルターの垂直方向に対して30°の角度から測定した分光反射スペクトルである。
【
図11】実施例および比較例で行ったカメラ画像の色味評価を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0030】
[近赤外線カットフィルター]
本発明に係る近赤外線カットフィルターは、近赤外線吸収剤を含む透明樹脂層を有する基材(i)と、前記基材(i)の少なくとも一方の面上に形成された誘電体多層膜とを含み、かつ、下記要件(a)を満たすことを特徴とする。
【0031】
要件(a);波長600~800nmの領域において、前記基材(i)の垂直方向から測定した場合の透過率が50%となる最も短い波長の値(Xa)と、波長700~1200nmの領域において、前記基材(i)の垂直方向から測定した場合の透過率が50%となる最も長い波長の値(Xb)との差の絶対値(吸収半値幅)|Xa-Xb|が120nm以上である。
【0032】
このような本発明の近赤外線カットフィルターは、近赤外線カット特性に優れ、入射角依存性が少なく、可視波長域での透過率特性および近赤外波長領域の多重反射光の低減効果に優れている。
【0033】
また、波長Xa~Xbの領域における透過率は、その値が大きければ、近赤外領域の多重反射低減効果に優れた近赤外線カットフィルターである。
【0034】
本発明の近赤外線カットフィルターを固体撮像素子用に使用する場合、近赤外波長域の透過率が低い方が好ましい。特に、波長700~1000nmの領域は固体撮像素子の受光感度が比較的高いことが知られており、この波長域の透過率を低減させることにより、カメラ画像と人間の目の視感度補正を効果的に行うことができ、優れた色再現性を達成することができる。
【0035】
本発明の近赤外線カットフィルターは、波長700~1000nmの領域において、該フィルターの垂直方向から測定した場合の平均透過率が5%以下、好ましくは4%以下、さらに好ましくは3%以下、特に好ましくは2%以下である。波長700~1000nmの平均透過率がこの範囲にあると、近赤外線を十分にカットすることができ、優れた色再現性を達成できるため好ましい。
【0036】
本発明の近赤外線カットフィルターを固体撮像素子などに使用する場合、可視光透過率が高い方が好ましい。具体的には、波長430~580nmの領域において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の平均透過率が好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは83%以上、特に好ましくは85%以上である。この波長域において平均透過率がこの範囲にあると、本発明の近赤外線カットフィルターを固体撮像素子用途として使用した場合、優れた撮像感度を達成することができる。
【0037】
本発明の近赤外線カットフィルターは、さらに下記要件(b)を満たすことが好ましい。
【0038】
要件(b);波長560~800nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した時の透過率が50%となる最も短い波長の値(Ya)と、近赤外線カットフィルターの垂直方向に対して30°の角度から測定した時の透過率が50%となる最も短い波長の値(Yb)との差の絶対値|Ya-Yb|が15nm未満である。
【0039】
前記絶対値|Ya-Yb|は、より好ましくは10nm未満、特に好ましくは5nm未満である。要件(b)を満たす近赤外線カットフィルターを固体撮像素子用途として使用した場合、入射角に依存した透過率変化が小さくなり画像の色シェーディングが良好となる。このような近赤外線カットフィルターは、前記基材(i)上に誘電体多層膜を形成することで得られる。
【0040】
上記のような近赤外線カットフィルターは、L* a* b*表色系におけるL* の値、a*の値およびb*の値が好ましい値となる。ここで、「L* a* b*表色系」とは、国際照明委員会(CIE)が策定したものである。「L*」は「明度指数」と呼ばれ、明度を示すものであり、「a*」および「b*」は、「クロマティクネス指数」と呼ばれ、色相と彩度に相当する位置を示すものである。前記色相と彩度については、a*の値が負であれば緑色系の色となり、a*の値が正であれば赤色系の色となる。また、b*の値が負であれば青色系の色となり、b*の値が正であれば黄色系の色となる。近赤外線カットフィルターのL* a* b*表色系の「a* の値」「b* の値」および「L* の値」は、カメラモジュールに用いた際、カメラ画像の明るさと色味に影響するため、ある値の範囲内であることが望ましい。
【0041】
本発明では、L* a* b* 表色系における「L* の値」「a* の値」「b* の値」は、株式会社日立ハイテクノロジーズ製の分光光度計「U-4100」を用いて、近赤外線カットフィルターの垂直方向(入射角0°)から380~780nmの透過率を測定して求めた値を採用するものとする。
【0042】
L* a* b*表色系におけるL* の値は、好ましくは70以上であり、より好ましくは80以上である。L* の値がこの範囲にある近赤外線カットフィルターを固体撮像素子用途として使用した場合、得られる画像の色再現性の目視評価が良好な結果を示す。
【0043】
L* a* b*表色系におけるa* の値は、好ましくは-31以上5以下であり、より好ましくは-25以上-2以下、さらに好ましくは-21以上-5以下である。また、L* a* b*表色系におけるb* の値は、好ましくは-5以上10以下である。L* a* b*表色系におけるa* の値とb* の値がこの範囲にあると、得られる画像の色再現性の目視評価が良好な結果を示す。
【0044】
L* a* b*表色系は画像の色シェーディングの指標としても利用できる。近赤外線カットフィルターの垂直方向から30°の角度(入射角30°)から、上記と同様に380~780nmの透過率を測定してL* a* b*表色系における値を求めたときのL* の値、a*の値およびb*の値を、それぞれ「L* の値(30°)」、「a* の値(30°)」および「b* の値(30°)」とし、入射角0°における各値との差の絶対値|△L*|、|△a*|および|△b*|は下記式で算出される。
【0045】
|△L*|=|(L* の値(30°))-(L* の値)|
|△a*|=|(a* の値(30°))-(a* の値)|
|△b*|=|(b* の値(30°))-(b* の値)|
上記式で算出される|△a*|は、好ましくは9以下、より好ましくは3以下であり、かつ、上記式で算出される|△b*|は、好ましくは9以下、より好ましくは3以下である。|△a*|および|△b*|が前記範囲内にある近赤外線カットフィルターを固体撮像素子用途として使用した場合、得られる画像の色再現性の目視評価が良好な結果を示す。
【0046】
本発明の近赤外線カットフィルターは、基材(i)のレンズ側の面に関し、波長700~800nmの領域における反射率が低いため、近赤外線カットフィルターとレンズ間の光の反射を低減することができる。
【0047】
波長700~800nmの領域において、近赤外線カットフィルターの少なくとも一方の面の垂直方向に対して30°の角度から測定した場合の反射率の最低値は、好ましくは80%以下、さらに好ましくは50%以下、特に好ましくは10%以下である。前記反射率がこのような範囲であると、特に固体撮像素子に使用する場合、多重反射光に由来する各種ゴーストを低減できる傾向にあるため好ましい。
【0048】
ここで、多重反射によるゴースト強度について、
図1を参照しながら説明する。レンズ4を透過してきた光は、近赤外線カットフィルター1上で一部が反射し(反射光3A)、さらにレンズ面で反射し(反射光3B)、近赤外線カットフィルター1を透過して(透過光3C)センサー5の面上に到達する。そのため、近赤外線カットフィルターとレンズ間の多重反射によるゴースト強度は、700~850nmにおける近赤外線カットフィルターの垂直方向から30°の方向から測定した平均反射率を(a)%、700~850nmにおけるレンズの平均反射率を(b)%、700~850nmにおいて垂直方向から30°の方向から測定した近赤外線カットフィルターの平均透過率を(c)%とすると、下記式で計算できる。
【0049】
[ゴースト強度]=(a)×(b)×(c)
本発明では、700~850nmにおけるレンズの平均反射率(b)は1%として計算する。
【0050】
上記式で算出される多重反射によるゴースト強度は、好ましくは0.300以下、より好ましくは0.100以下、さらに好ましくは0.060以下である。このようなゴースト強度の近赤外線カットフィルターをカメラに用いると、得られる画像の色再現性の目視評価が良好な結果を示す。
【0051】
本発明の近赤外線カットフィルターの厚みは、所望の用途に応じて適宜選択すればよいが、近年の固体撮像装置の薄型化および軽量化等の流れによれば、本発明の近赤外線カットフィルターの厚みも薄いことが好ましい。本発明の近赤外線カットフィルターは、前記基材(i)を含むため、薄型化が可能である。
【0052】
本発明の近赤外線カットフィルターの厚みは、例えば、好ましくは200μm以下、より好ましくは180μm以下、さらに好ましくは150μm以下、特に好ましくは120μm以下であることが望ましく、下限は特に制限されないが、例えば20μmであることが望ましい。
【0053】
樹脂性基板の厚みが前記範囲にあると、該基板を用いた近赤外線カットフィルターを小型化及び軽量化することができ、固体撮像装置等の様々な用途に好適に用いることができる。特に、前記樹脂性基板をカメラモジュール等のレンズユニットに用いた場合には、レンズユニットの低背化を実現することができるため好ましい。
【0054】
[基材(i)]
前記基材(i)は、近赤外線吸収剤を含む透明樹脂層を有する。前記近赤外線吸収剤としては、例えば、波長650~750nmに吸収極大を有するスクアリリウム系化合物(A)(以下「化合物(A)」ともいう。)および波長660~850nmに吸収極大を有する化合物(B)(前記化合物(A)を除く。以下「化合物(B)」ともいう。)などが挙げられる。
【0055】
前記基材(i)は、単層であっても多層であってもよい。基材(i)が単層の場合、例えば、化合物(A)と化合物(B)を含む透明樹脂製基板(ii)からなる基材を挙げることができ、この透明樹脂製基板(ii)が前記透明樹脂層となる。前記基材(i)が多層の場合、例えば、ガラス支持体やベースとなる樹脂製支持体などの支持体上に化合物(A)と化合物(B)を含有する硬化性樹脂等からなるオーバーコート層などの透明樹脂層が積層された基材、化合物(B)を含む透明樹脂製基板(iii)上に化合物(A)を含む硬化性樹脂等からなるオーバーコート層などの樹脂層が積層された基材、化合物(A)を含む透明樹脂製基板(iv)上に化合物(B)を含む硬化性樹脂等からなるオーバーコート層などの樹脂層が積層された基材、化合物(A)と化合物(B)を含む透明樹脂製基板(ii)上に硬化性樹脂等からなるオーバーコート層などの樹脂層が積層された基材などを挙げることができる。製造コストや光学特性調整の容易性、さらに、樹脂製支持体や透明樹脂製基板(ii)の傷消し効果を達成できることや基材(i)の耐傷つき性向上等の点から、化合物(A)と化合物(B)を含有する透明樹脂製基板(ii)上に硬化性樹脂からなるオーバーコート層などの樹脂層が積層された基材が特に好ましい。
【0056】
以下、少なくとも1種の近赤外線吸収剤と透明樹脂とを含有する層を「透明樹脂層」ともいい、それ以外の樹脂層を単に「樹脂層」ともいう。
【0057】
前記要件(a)における絶対値|Xa-Xb|は、好ましくは120nm以上、さらに好ましくは160nm以上、特に好ましくは180nm以上である。基材(i)の|Xa-Xb|がこのような範囲にあれば、基材(i)上に誘電体多層膜を製膜した際、700~800nm付近の反射率を低減することができるため、この領域の光による多重反射を低減することができる。特に固体撮像素子用に使用した場合、多重反射光に由来する各種ゴーストを低減できる傾向にある。
【0058】
波長Xa~Xbの領域において、前記基材(i)の垂直方向から測定した場合の透過率の平均値(Ta)は、好ましくは35%以下、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは25%以下、特に好ましくは20%以下である。基材(i)の(Ta)がこのような範囲にあれば、基材(i)上に誘電体多層膜を製膜した際、700~800nm付近の反射率をより好適に低減することができる。特に固体撮像素子用に使用した場合、多重反射光に由来する各種ゴーストを低減できる傾向にある。
【0059】
<近赤外線吸収剤>
前記近赤外線吸収剤は、波長650nm以上850nm以下に吸収極大を有する化合物であれば特に制限されないが、樹脂中での凝集を抑制できるという観点から溶剤可溶型の色素化合物であることが好ましい。このような近赤外線吸収剤の例としては、スクアリリウム系化合物、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、クロコニウム系化合物およびシアニン系化合物などが挙げられる。本発明では、近赤外線吸収剤として、前記化合物(A)および前記化合物(B)を含むことが好ましい。
【0060】
≪化合物(A)≫
化合物(A)は、波長650~750nmに吸収極大を有するスクアリリウム系化合物であれば特に制限されない。スクアリリウム系化合物は、優れた可視光透過性、急峻な吸収特性および高いモル吸光係数を有するが、光線吸収時に散乱光の原因となる蛍光を発生させる場合がある。そのような場合、化合物(A)と化合物(B)とを組み合わせて使用することにより、散乱光が少なくカメラ画質がより良好な近赤外線カットフィルターを得ることができる。
【0061】
化合物(A)の吸収極大波長は、好ましくは650~748nm、さらに好ましくは655~745nm、特に好ましくは660~740nmである。
【0062】
化合物(A)の具体例としては、式(A-I)で表されるスクアリリウム系化合物および式(A-II)で表されるスクアリリウム系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。以下、それぞれ「化合物(A-I)」および「化合物(A-II)」ともいう。
【0063】
【化1】
式(A-I)中、R
a、R
bおよびYは、下記(A-i)または(A-ii)の条件を満たす。
【0064】
条件(A-i)
複数あるRaは、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、スルホ基、水酸基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシ基、リン酸基、-L1または-NReRf基を表す。ReおよびRfは、それぞれ独立に水素原子、-La、-Lb、-Lc、-Ldまたは-Leを表す。
【0065】
複数あるRbは、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、スルホ基、水酸基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシ基、リン酸基、-L1または-NRgRh基を表す。RgおよびRhは、それぞれ独立に水素原子、-La、-Lb、-Lc、-Ld、-Leまたは-C(O)Ri基(Riは、-La、-Lb、-Lc、-Ldまたは-Leを表す。)を表す。
【0066】
複数あるYは、それぞれ独立に-NRjRk基を表す。RjおよびRkは、それぞれ独立に水素原子、-La、-Lb、-Lc、-Ldまたは-Leを表す。
【0067】
L1は、La、Lb、Lc、Ld、Le、Lf、LgまたはLhである。
前記La~Lhは、
(La)置換基Lを有してもよい炭素数1~9の脂肪族炭化水素基、
(Lb)置換基Lを有してもよい炭素数1~9のハロゲン置換アルキル基、
(Lc)置換基Lを有してもよい炭素数3~14の脂環式炭化水素基、
(Ld)置換基Lを有してもよい炭素数6~14の芳香族炭化水素基、
(Le)置換基Lを有してもよい炭素数3~14の複素環基、
(Lf)置換基Lを有してもよい炭素数1~9のアルコキシ基、
(Lg)置換基Lを有してもよい炭素数1~9のアシル基、または
(Lh)置換基Lを有してもよい炭素数1~9のアルコキシカルボニル基
を表す。
【0068】
置換基Lは、炭素数1~9の脂肪族炭化水素基、炭素数1~9のハロゲン置換アルキル基、炭素数3~14の脂環式炭化水素基、炭素数6~14の芳香族炭化水素基および炭素数3~14の複素環基からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0069】
前記La~Lhは、さらにハロゲン原子、スルホ基、水酸基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシ基、リン酸基およびアミノ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の原子または基を有していてもよい。
【0070】
前記La~Lhは、置換基を含めた炭素数の合計が、それぞれ50以下であることが好ましく、炭素数40以下であることが更に好ましく、炭素数30以下であることが特に好ましい。炭素数がこの範囲よりも多いと、色素の合成が困難となる場合があるとともに、単位重量あたりの吸収強度が小さくなってしまう傾向がある。
【0071】
条件(A-ii)
1つのベンゼン環上の2つのRaのうちの少なくとも1つが、同じベンゼン環上のYと相互に結合して、窒素原子を少なくとも1つ含む構成原子数5または6の複素環を形成し、前記複素環は置換基を有していてもよく、Rbおよび前記複素環の形成に関与しないRaは、それぞれ独立に前記(A-i)のRbおよびRaと同義である。
【0072】
【化2】
式(A-II)中、Xは、O、S、Se、N-R
cまたはC-R
dR
dを表し;複数あるR
cは、それぞれ独立に水素原子、-L
a、-L
b、-L
c、-L
dまたは-L
eを表し;複数あるR
dは、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、スルホ基、水酸基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシ基、リン酸基、-L
1または-NR
eR
f基を表し、隣り合うR
d同士は連結して置換基を有していてもよい環を形成してもよく;L
a~L
e、L
1、R
eおよびR
fは、前記式(A-I)において定義したL
a~L
e、L
1、R
eおよびR
fと同義である。
【0073】
化合物(A-I)および化合物(A-II)は、下記式(A-I-1)および下記式(A-II-1)のような記載方法に加え、下記式(A-I-2)および下記式(A-II-2)のように共鳴構造を取るような記載方法でも構造を表すことができる。つまり、下記式(A-I-1)と下記式(A-I-2)の違い、および下記式(A-II-1)と下記式(A-II-2)の違いは構造の記載方法のみであり、化合物としてはどちらも同一のものを表す。本発明中では特に断りのない限り、下記式(A-I-1)および下記式(A-II-1)のような記載方法にてスクアリリウム系化合物の構造を表すものとする。
【0074】
【化3】
化合物(I)および化合物(A-II)は、それぞれ上記式(A-I)および上記式(A-II)の要件を満たせば特に構造は限定されないが、例えば上記式(A-I-1)および上記式(A-II-1)のように構造を表した場合、中央の四員環に結合している左右の置換基は同一であっても異なっていてもよいが、同一であった方が合成上容易であるため好ましい。なお、例えば、下記式(A-I-3)で表される化合物と下記式(A-I-4)で表される化合物は、同一の化合物であると見なすことができる。
【0075】
【化4】
化合物(A)の含有量は、前記基材(i)として、例えば、化合物(A)と化合物(B)を含有する透明樹脂製基板(ii)からなる基材や、化合物(A)を含有する透明樹脂製基板(iv)上に化合物(B)を含有する硬化性樹脂等からなるオーバーコート層などの樹脂層が積層された基材を用いる場合には、透明樹脂100重量部に対して、好ましくは0.01~2.0重量部、より好ましくは0.015~1.50重量部、特に好ましくは0.02~1.00重量部である。また、前記基材(i)として、ガラス支持体やベースとなる樹脂製支持体に化合物(A)と化合物(B)を含有する硬化性樹脂等からなるオーバーコート層などの透明樹脂層が積層された基材や、化合物(B)を含有する透明樹脂製基板(iii)上に化合物(A)を含有する硬化性樹脂等からなるオーバーコート層などの透明樹脂層が積層された基材を用いる場合には、化合物(A)を含む透明樹脂層を形成する樹脂100重量部に対して、好ましくは0.1~5.0重量部、より好ましくは0.2~4.5重量部、特に好ましくは0.3~4.0重量部である。
【0076】
≪化合物(B)≫
化合物(B)は、波長660~850nmに吸収極大を有すれば特に制限されないが、溶剤可溶型の色素化合物であることが好ましく、スクアリリウム系化合物、フタロシアニン系化合物、シアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物およびクロコニウム系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることがより好ましく、スクアリリウム系化合物およびフタロシアニン系化合物であることがさらに好ましい。このような化合物(B)を用いることにより、吸収極大付近での高い近赤外線カット特性と良好な可視光透過率を同時に達成することができる。
【0077】
化合物(B)の吸収極大波長は、好ましくは680~830nm、より好ましくは700~820nm、特に好ましくは720~800nmである。化合物(B)の吸収極大波長がこのような範囲にあると、各種ゴーストの原因となる不要な近赤外線を効率よくカットすることができる。
【0078】
前記フタロシアニン系化合物としては、特に構造は限定されないが、例えば、下記式(III)で表される化合物が挙げられる。
【0079】
【化5】
式(III)中、Mは、2個の水素原子、2個の1価の金属原子、2価の金属原子、または3価もしくは4価の金属原子を含む置換金属原子を表し、
複数あるR
a、R
b、R
cおよびR
dは、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、イミド基、シアノ基、シリル基、-L
1、-S-L
2、-SS-L
2、-SO
2-L
3、-N=N-L
4、または、R
aとR
b、R
bとR
cおよびR
cとR
dのうち少なくとも1つの組み合わせが結合した、下記式(A)~(H)で表される基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を表し、同じ芳香環に結合したR
a、R
b、R
cおよびR
dのうち少なくとも1つが水素原子ではない。
【0080】
前記アミノ基、アミド基、イミド基およびシリル基は、前記式(A-I)において定義した置換基Lを有してもよく、
L1は前記式(I)において定義したL1と同義であり、
L2は、水素原子または前記式(A-I)において定義したLa~Leのいずれかを表し、
L3は、水酸基または前記La~Leのいずれかを表し、
L4は、前記La~Leのいずれかを表す。
【0081】
【化6】
式(A)~(H)中、R
xとR
yの組み合わせは、R
aとR
b、R
bとR
cまたはR
cとR
dの組み合わせであり、
複数あるR
A~R
Lは、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、イミド基、シアノ基、シリル基、-L
1、-S-L
2、-SS-L
2、-SO
2-L
3、-N=N-L
4を表し、
前記アミノ基、アミド基、イミド基およびシリル基は、前記置換基Lを有してもよく、L
1~L
4は前記式(III)において定義したL
1~L
4と同義である。
【0082】
前記ナフタロシアニン系化合物としては、特に構造は限定されないが、例えば、下記式(IV)で表される化合物が挙げられる。
【0083】
【化7】
式(IV)中、Mは、前記式(7)中のMと同義であり、R
a、R
b、R
c、R
d、R
eおよびR
fは、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、イミド基、シアノ基、シリル基、-L
1、-S-L
2、-SS-L
2、-SO
2-L
3、-N=N-L
4を表す。
【0084】
前記シアニン系化合物としては、特に構造は限定されないが、例えば、下記式(V-1)~(V-3) で表される化合物が挙げられる。
【0085】
【化8】
式(V-1)~(V-3)中、X
a
-は1価の陰イオンを表し、
複数あるDは、独立に炭素原子、窒素原子、酸素原子または硫黄原子を表し、
複数あるR
a、R
b、R
c、R
d、R
e、R
f、R
g、R
hおよびR
iは、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、イミド基、シアノ基、シリル基、-L
1、-S-L
2、-SS-L
2、-SO
2-L
3、-N=N-L
4、または、R
bとR
c、R
dとR
e、R
eとR
f、R
fとR
g、R
gとR
hおよびR
hとR
iのうち少なくとも1つの組み合わせが結合した、下記式(A)~(H)で表される基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を表し、
前記アミノ基、アミド基、イミド基およびシリル基は、前記式(A-I)において定義した置換基Lを有してもよく、
L
1は、前記式(A-I)において定義したL
1と同義であり、
L
2は、水素原子または前記式(A-I)において定義したL
a~L
eのいずれかを表し、
L
3は、水素原子または前記L
a~L
eのいずれかを表し、
L
4は、前記L
a~L
eのいずれかを表し、
Z
a~Z
dおよびY
a~Y
dは、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、イミド基、シアノ基、シリル基、-L
1、-S-L
2、-SS-L
2、-SO
2-L
3、-N=N-L
4(L
1~L
4は、前記R
a~R
iにおけるL
1~L
4と同義である。)、あるいは、
隣接した二つから選ばれるZ同士もしくはY同士が相互に結合して形成される、窒素原子、酸素原子もしくは硫黄原子を少なくとも1つ含んでもよい5乃至6員環の脂環式炭化水素基、
隣接した二つから選ばれるZ同士もしくはY同士が相互に結合して形成される、炭素数6~14の芳香族炭化水素基、または、
隣接した二つから選ばれるZ同士もしくはY同士が相互に結合して形成され、窒素原子、酸素原子もしくは硫黄原子を少なくとも1つ含む、炭素数3~14の複素芳香族炭化水素基を表し、これらの脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基および複素芳香族炭化水素基は、炭素数1~9の脂肪族炭化水素基またはハロゲン原子を有してもよい。
【0086】
【化9】
式(A)~(H)中、R
xとR
yの組み合わせは、R
bとR
c、R
dとR
e、R
eとR
f、R
fとR
g、R
gとR
hおよびR
hとR
iの組み合わせであり、
複数あるR
A~R
Lは、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、イミド基、シアノ基、シリル基、-L
1、-S-L
2、-SS-L
2、-SO
2-L
3または-N=N-L
4(L
1~L
4は、前記式(V-1)~(V-3)において定義したL
1~L
4と同義である。)を表し、前記アミノ基、アミド基、イミド基およびシリル基は、前記置換基Lを有してもよい。
【0087】
前記スクアリリウム系色素としては、たとえば、下記式(VI)で表される化合物が挙げられる。
【0088】
【化10】
式(VI)中、Xは、独立に酸素原子、硫黄原子、セレン原子、テルル原子または-NR
8-を表し、
R
1~R
8は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、スルホ基、水酸基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシ基、リン酸基、-NR
gR
h基、-SO
2R
i基、-OSO
2R
i基または下記L
a~L
hのいずれかを表し、R
gおよびR
hは、それぞれ独立に水素原子、-C(O)R
i基または下記L
a~L
eのいずれかを表し、R
iは下記L
a~L
eのいずれかを表す。
(L
a)炭素数1~12の脂肪族炭化水素基
(L
b)炭素数1~12のハロゲン置換アルキル基
(L
c)炭素数3~14の脂環式炭化水素基
(L
d)炭素数6~14の芳香族炭化水素基
(L
e)炭素数3~14の複素環基
(L
f)炭素数1~12のアルコキシ基
(L
g)置換基Lを有してもよい炭素数1~12のアシル基、
(L
h)置換基Lを有してもよい炭素数1~12のアルコキシカルボニル基
置換基Lは、炭素数1~12の脂肪族炭化水素基、炭素数1~12のハロゲン置換アルキル基、炭素数3~14の脂環式炭化水素基、炭素数6~14の芳香族炭化水素基および炭素数3~14の複素環基からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0089】
前記R1としては、好ましくは水素原子、塩素原子、フッ素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、水酸基、アミノ基、ジメチルアミノ基、ニトロ基であり、より好ましくは水素原子、塩素原子、フッ素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、水酸基である。
【0090】
前記R2~R7としては、好ましくはそれぞれ独立に水素原子、塩素原子、フッ素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、水酸基、アミノ基、ジメチルアミノ基、シアノ基、ニトロ基、アセチルアミノ基、プロピオニルアミノ基、N-メチルアセチルアミノ基、トリフルオロメタノイルアミノ基、ペンタフルオロエタノイルアミノ基、t-ブタノイルアミノ基、シクロヘキシノイルアミノ基、n-ブチルスルホニル基であり、より好ましくは水素原子、塩素原子、フッ素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、tert-ブチル基、水酸基、ジメチルアミノ基、ニトロ基、アセチルアミノ基、プロピオニルアミノ基、トリフルオロメタノイルアミノ基、ペンタフルオロエタノイルアミノ基、t-ブタノイルアミノ基、シクロヘキシノイルアミノ基である。
【0091】
前記R8としては、好ましくは水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、シクロヘキシル基、フェニル基であり、より好ましくは水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基である。
【0092】
前記Xとしては、好ましくは酸素原子、硫黄原子であり、特に好ましくは酸素原子である。
【0093】
化合物(VI)は、下記式(VI-1)のような記載方法に加え、下記式(VI-2)のように共鳴構造を取るような記載方法でも構造を表すことができる。つまり、下記式(VI-1)と下記式(VI-2)との違いは構造の記載方法のみであり、どちらも同一の化合物を表す。本発明中では特に断りのない限り、下記式(VI-1)のような記載方法にてスクアリリウム系化合物の構造を表すものとする。
【0094】
【化11】
さらに、例えば、下記式(VI-1)で表される化合物と下記式(VI-3)で表される化合物は、同一の化合物であると見なすことができる。
【0095】
【化12】
化合物(VI)は、前記式(VI-1)の要件を満たせば特に構造は限定されない。中央の四員環に結合している左右の置換基は同一であっても異なっていてもよいが、同一であった方が合成上容易であるため好ましい。
【0096】
化合物(B)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、化合物(B)の含有量は、前記基材(i)として、例えば、化合物(A)と化合物(B)を含有する透明樹脂製基板(ii)からなる基材や、化合物(B)を含有する透明樹脂製基板(iii)上に化合物(A)を含有する硬化性樹脂等からなるオーバーコート層などの樹脂層が積層された基材を用いる場合には、透明樹脂100重量部に対して、好ましくは0.003~2.0重量部、より好ましくは0.0005~1.8重量部、特に好ましくは0.008~1.5重量部である。また、前記基材(i)として、ガラス支持体やベースとなる樹脂製支持体に化合物(A)と化合物(B)を含有する硬化性樹脂等からなるオーバーコート層などの透明樹脂層が積層された基材や、化合物(A)を含有する透明樹脂製基板(iv)上に化合物(B)を含有する硬化性樹脂等からなるオーバーコート層などの樹脂層が積層された基材を用いる場合には、化合物(A)を含む透明樹脂層を形成する樹脂100重量部に対して、好ましくは0.1~5.0重量部、より好ましくは0.2~4.0重量部、特に好ましくは0.3~3.0重量部である。化合物(B)の含有量が前記範囲内にあると、良好な近赤外線吸収特性と高い可視光透過率とを両立した近赤外線カットフィルターを得ることができる。
【0097】
<その他の色素(X)>
前記基材(i)には、さらに、化合物(A)および化合物(B)に該当しない、その他の色素(X)が含まれていてもよい。
【0098】
その他の色素(X)としては、吸収極大波長が650nm未満もしくは850nm超のものであれば特に制限されないが、例えば、スクアリリウム系化合物、フタロシアニン系化合物、シアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、クロコニウム系化合物、オクタフィリン系化合物、ジイモニウム系化合物、ペリレン系化合物、および金属ジチオラート系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物が挙げられる。このようなその他の色素(X)を用いることで、より広範囲の近赤外光を吸収して近赤外領域の透過率を下げることができる。
【0099】
<透明樹脂>
樹脂製支持体やガラス支持体などに積層する透明樹脂層および透明樹脂製基板(ii)~(iv)は、透明樹脂を用いて形成することができる。前記基材(i)に用いる透明樹脂としては、1種単独でもよいし、2種以上でもよい。
【0100】
透明樹脂としては、本発明の効果を損なわないものである限り特に制限されないが、例えば、熱安定性およびフィルムへの成形性を確保し、かつ、100℃以上の蒸着温度で行う高温蒸着により誘電体多層膜を形成しうるフィルムとするため、ガラス転移温度(Tg)が、好ましくは110~380℃、より好ましくは110~370℃、さらに好ましくは120~360℃である樹脂が挙げられる。また、前記樹脂のガラス転移温度が140℃以上であると、誘電体多層膜をより高温で蒸着形成しえるフィルムが得られるため、特に好ましい。
【0101】
透明樹脂としては、当該樹脂からなる厚さ0.1mmの樹脂板を形成した場合に、この樹脂板の全光線透過率(JIS K7105)が、好ましくは75~95%、さらに好ましくは78~95%、特に好ましくは80~95%となる樹脂を用いることができる。全光線透過率がこのような範囲となる樹脂を用いれば、得られる基板は光学フィルムとして良好な透明性を示す。
【0102】
透明樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定される、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、通常15,000~350,000、好ましくは30,000~250,000であり、数平均分子量(Mn)は、通常10,000~150,000、好ましくは20,000~100,000である。
【0103】
透明樹脂としては、例えば、環状(ポリ)オレフィン系樹脂、芳香族ポリエーテル系樹脂、ポリイミド系樹脂、フルオレンポリカーボネート系樹脂、フルオレンポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド(アラミド)系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリサルホン系樹脂、ポリエーテルサルホン系樹脂、ポリパラフェニレン系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)系樹脂、フッ素化芳香族ポリマー系樹脂、(変性)アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、アリルエステル系硬化型樹脂、シルセスキオキサン系紫外線硬化型樹脂、アクリル系紫外線硬化型樹脂およびビニル系紫外線硬化型樹脂を挙げることができる。
【0104】
≪環状(ポリ)オレフィン系樹脂≫
環状(ポリ)オレフィン系樹脂としては、下記式(X0)で表される単量体および下記式(Y0)で表される単量体からなる群より選ばれる少なくとも1種の単量体から得られる樹脂、および当該樹脂を水素添加することで得られる樹脂が好ましい。
【0105】
【化13】
式(X
0)中、R
x1~R
x4はそれぞれ独立に、下記(i')~(ix')より選ばれる原子または基を表し、k
x、m
xおよびp
xはそれぞれ独立に、0または正の整数を表す。
(i')水素原子
(ii')ハロゲン原子
(iii')トリアルキルシリル基
(iv')酸素原子、硫黄原子、窒素原子またはケイ素原子を含む連結基を有する、置換または非置換の炭素数1~30の炭化水素基
(v')置換または非置換の炭素数1~30の炭化水素基
(vi')極性基(但し、(iv')を除く。)
(vii')R
x1とR
x2またはR
x3とR
x4とが、相互に結合して形成されたアルキリデン基(但し、前記結合に関与しないR
x1~R
x4は、それぞれ独立に前記(i')~(vi')より選ばれる原子または基を表す。)
(viii')R
x1とR
x2またはR
x3とR
x4とが、相互に結合して形成された単環もしくは多環の炭化水素環または複素環(但し、前記結合に関与しないR
x1~R
x4は、それぞれ独立に前記(i')~(vi')より選ばれる原子または基を表す。)
(ix')R
x2とR
x3とが、相互に結合して形成された単環の炭化水素環または複素環(但し、前記結合に関与しないR
x1とR
x4は、それぞれ独立に前記(i')~(vi')より選ばれる原子または基を表す。)
【0106】
【化14】
式(Y
0)中、R
y1およびR
y2はそれぞれ独立に、前記(i')~(vi')より選ばれる原子または基を表すか、R
y1とR
y2とが、相互に結合して形成された単環もしくは多環の脂環式炭化水素、芳香族炭化水素または複素環を表し、k
yおよびp
yはそれぞれ独立に、0または正の整数を表す。
【0107】
≪芳香族ポリエーテル系樹脂≫
芳香族ポリエーテル系樹脂は、下記式(1)で表される構造単位および下記式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造単位を有することが好ましい。
【0108】
【化15】
式(1)中、R
1~R
4はそれぞれ独立に、炭素数1~12の1価の有機基を示し、a~dはそれぞれ独立に、0~4の整数を示す。
【0109】
【化16】
式(2)中、R
1~R
4およびa~dはそれぞれ独立に、前記式(1)中のR
1~R
4およびa~dと同義であり、Yは、単結合、-SO
2-または>C=Oを示し、R
7およびR
8はそれぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1~12の1価の有機基またはニトロ基を示し、gおよびhはそれぞれ独立に、0~4の整数を示し、mは0または1を示す。但し、mが0のとき、R
7はシアノ基ではない。
【0110】
また、前記芳香族ポリエーテル系樹脂は、さらに下記式(3)で表される構造単位および下記式(4)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造単位を有することが好ましい。
【0111】
【化17】
式(3)中、R
5およびR
6はそれぞれ独立に、炭素数1~12の1価の有機基を示し、Zは、単結合、-O-、-S-、-SO
2-、>C=O、-CONH-、-COO-または炭素数1~12の2価の有機基を示し、eおよびfはそれぞれ独立に、0~4の整数を示し、nは0または1を示す。
【0112】
【化18】
式(4)中、R
7、R
8、Y、m、gおよびhはそれぞれ独立に、前記式(2)中のR
7、R
8、Y、m、gおよびhと同義であり、R
5、R
6、Z、n、eおよびfはそれぞれ独立に、前記式(3)中のR
5、R
6、Z、n、eおよびfと同義である。
【0113】
≪ポリイミド系樹脂≫
ポリイミド系樹脂としては、特に制限されず、繰り返し単位にイミド結合を含む高分子化合物であればよく、例えば、特開2006-199945号公報や特開2008-163107号公報に記載されている方法で合成することができる。
【0114】
≪フルオレンポリカーボネート系樹脂≫
フルオレンポリカーボネート系樹脂としては、特に制限されず、フルオレン部位を含むポリカーボネート樹脂であればよく、例えば、特開2008-163194号公報に記載されている方法で合成することができる。
【0115】
≪フルオレンポリエステル系樹脂≫
フルオレンポリエステル系樹脂としては、特に制限されず、フルオレン部位を含むポリエステル樹脂であればよく、例えば、特開2010-285505号公報や特開2011-197450号公報に記載されている方法で合成することができる。
【0116】
≪フッ素化芳香族ポリマー系樹脂≫
フッ素化芳香族ポリマー系樹脂としては、特に制限されないが、フッ素原子を少なくとも1つ有する芳香族環と、エーテル結合、ケトン結合、スルホン結合、アミド結合、イミド結合およびエステル結合からなる群より選ばれる少なくとも1つの結合を含む繰り返し単位とを含有するポリマーであることが好ましく、例えば特開2008-181121号公報に記載されている方法で合成することができる。
【0117】
≪アクリル系紫外線硬化型樹脂≫
アクリル系紫外線硬化型樹脂としては、特に制限されないが、分子内に一つ以上のアクリル基もしくはメタクリル基を有する化合物と、紫外線によって分解して活性ラジカルを発生させる化合物を含有する樹脂組成物から合成されるものを挙げることができる。アクリル系紫外線硬化型樹脂は、前記基材(i)として、ガラス支持体上やベースとなる樹脂製支持体上に化合物(B)および硬化性樹脂を含む透明樹脂層が積層された基材や、化合物(B)を含有する透明樹脂製基板(ii)上に硬化性樹脂等からなるオーバーコート層などの樹脂層が積層された基材を用いる場合、該硬化性樹脂として特に好適に使用することができる。
【0118】
≪市販品≫
透明樹脂の市販品としては、以下の市販品等を挙げることができる。環状(ポリ)オレフィン系樹脂の市販品としては、JSR(株)製アートン、日本ゼオン(株)製ゼオノア、三井化学(株)製APEL、ポリプラスチックス(株)製TOPASなどを挙げることができる。ポリエーテルサルホン系樹脂の市販品としては、住友化学(株)製スミカエクセルPESなどを挙げることができる。ポリイミド系樹脂の市販品としては、三菱ガス化学(株)製ネオプリムLなどを挙げることができる。ポリカーボネート系樹脂の市販品としては、帝人(株)製ピュアエースなどを挙げることができる。フルオレンポリカーボネート系樹脂の市販品としては、三菱ガス化学(株)製ユピゼータEP-5000などを挙げることができる。フルオレンポリエステル系樹脂の市販品としては、大阪ガスケミカル(株)製OKP4HTなどを挙げることができる。アクリル系樹脂の市販品としては、(株)日本触媒製アクリビュアなどを挙げることができる。シルセスキオキサン系紫外線硬化型樹脂の市販品としては、新日鐵化学(株)製シルプラスなどを挙げることができる。
【0119】
<その他成分>
前記基材(i)は、本発明の効果を損なわない範囲において、さらに酸化防止剤、近紫外線吸収剤、蛍光消光剤および金属錯体系化合物等の添加剤を含有してもよい。これらその他成分は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0120】
前記近紫外線吸収剤としては、例えばアゾメチン系化合物、インドール系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物などが挙げられる。
【0121】
前記酸化防止剤としては、例えば2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、2,2'-ジオキシ-3,3'-ジ-t-ブチル-5,5'-ジメチルジフェニルメタン、およびテトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンなどが挙げられる。
【0122】
なお、これら添加剤は、基材(i)を製造する際に、樹脂などとともに混合してもよいし、樹脂を合成する際に添加してもよい。また、添加量は、所望の特性に応じて適宜選択されるものであるが、樹脂100重量部に対して、通常0.01~5.0重量部、好ましくは0.05~2.0重量部である。
【0123】
<基材(i)の製造方法>
前記基材(i)が、前記透明樹脂製基板(ii)~(iv)を含む基材である場合、該透明樹脂製基板(ii)~(iv)は、例えば、溶融成形またはキャスト成形により形成することができ、さらに、必要により、成形後に、反射防止剤、ハードコート剤および/または帯電防止剤等のコーティング剤をコーティングすることで、オーバーコート層が積層された基材を製造することができる。
【0124】
前記基材(i)が、ガラス支持体やベースとなる樹脂製支持体上に化合物(A)と化合物(B)を含有する硬化性樹脂等からなるオーバーコート層などの透明樹脂層が積層された基材である場合、例えば、ガラス支持体やベースとなる樹脂製支持体に化合物(A)と化合物(B)を含む樹脂溶液を溶融成形またはキャスト成形することで、好ましくはスピンコート、スリットコート、インクジェットなどの方法にて塗工した後に溶媒を乾燥除去し、必要に応じてさらに光照射や加熱を行うことで、ガラス支持体やベースとなる樹脂製支持体上に透明樹脂層が形成された基材を製造することができる。
【0125】
≪溶融成形≫
前記溶融成形としては、具体的には、樹脂と化合物(A)と化合物(B)等とを溶融混練りして得られたペレットを溶融成形する方法;樹脂と化合物(A)と化合物(B)とを含有する樹脂組成物を溶融成形する方法;または、化合物(A)、化合物(B)、樹脂および溶剤を含む樹脂組成物から溶剤を除去して得られたペレットを溶融成形する方法などが挙げられる。溶融成形方法としては、射出成形、溶融押出成形またはブロー成形などを挙げることができる。
【0126】
≪キャスト成形≫
前記キャスト成形としては、化合物(A)、化合物(B)、樹脂および溶剤を含む樹脂組成物を適当な支持体の上にキャスティングして溶剤を除去する方法;または化合物(A)、化合物(B)、光硬化性樹脂および/または熱硬化性樹脂とを含む硬化性組成物を適当な支持体の上にキャスティングして溶媒を除去した後、紫外線照射や加熱などの適切な手法により硬化させる方法などにより製造することもできる。
【0127】
前記基材(i)が、化合物(A)と化合物(B)を含有する透明樹脂製基板(ii)からなる基材である場合には、該基材(i)は、キャスト成形後、支持体から塗膜を剥離することにより得ることができ、また、前記基材(i)が、ガラス支持体やベースとなる樹脂製支持体等の支持体などの上に化合物(A)と化合物(B)を含有する硬化性樹脂等からなるオーバーコート層などの透明樹脂層が積層された基材である場合には、該基材(i)は、キャスト成形後、塗膜を剥離しないことで得ることができる。
【0128】
前記支持体としては、例えば、ガラス板、スチールベルト、スチールドラムおよび透明樹脂(例えば、ポリエステルフィルム、環状オレフィン系樹脂フィルム)製支持体が挙げられる。
【0129】
さらに、ガラス板、石英または透明プラスチック製等の光学部品に、前記樹脂組成物をコーティングして溶剤を乾燥させる方法、または、前記硬化性組成物をコーティングして硬化および乾燥させる方法などにより、光学部品上に透明樹脂層を形成することもできる。
【0130】
前記方法で得られた透明樹脂層(透明樹脂製基板(ii))中の残留溶剤量は可能な限り少ない方がよい。具体的には、前記残留溶剤量は、透明樹脂層(透明樹脂製基板(ii))の重さに対して、好ましくは3重量%以下、より好ましくは1重量%以下、さらに好ましくは0.5重量%以下である。残留溶剤量が前記範囲にあると、変形や特性が変化しにくい、所望の機能を容易に発揮できる透明樹脂層(透明樹脂製基板(ii))が得られる。
【0131】
[誘電体多層膜]
本発明の近赤外線カットフィルターは、前記基材(i)の少なくとも一方の面に誘電体多層膜を有する。本発明の誘電体多層膜は、近赤外線を反射する能力を有する膜である。本発明では、近赤外線反射膜は前記基材(i)の片面に設けてもよいし、両面に設けてもよい。片面に設ける場合、製造コストや製造容易性に優れ、両面に設ける場合、高い強度を有し、反りやねじれが生じにくい近赤外線カットフィルターを得ることができる。近赤外線カットフィルターを固体撮像素子用途に適用する場合、近赤外線カットフィルターの反りやねじれが小さい方が好ましいことから、誘電体多層膜を基材(i)の両面に設けることが好ましい。
【0132】
前記誘電体多層膜は、波長700~1100nmの範囲全体にわたって反射特性を有することが好ましく、さらに好ましくは波長700~1150nm、特に好ましくは700~1200nmの範囲全体にわたって反射特性を有することが好ましい。基材(i)の両面に誘電体多層膜を有する形態として、近赤外線カットフィルターの垂直方向に対して30°の角度から測定した場合に波長700~1150nm付近に主に反射特性を有する第一光学層を、ガラス支持体を有する基材(i)の片面に有し、他方の面上に可視域の反射防止特性を有する第二光学層を有する形態(
図3(a)参照)や、近赤外線カットフィルターの垂直方向に対して30°の角度から測定した場合に波長700~950nm付近に主に反射特性を有する第三光学層を基材(i)の片面に有し、基材(i)の他方の面上に近赤外線カットフィルターの垂直方向に対して30°の角度から測定した場合に900nm~1150nm付近に主に反射特性を有する第四光学層を有する形態(
図3(b)参照)などが挙げられる。
【0133】
本発明の近赤外線カットフィルターは、前記基材(i)がガラス支持体を有し、かつ、該基材(i)の両方の面に誘電体多層膜が備えられていることが好ましく、それら誘電体多層膜は近赤外線反射膜と可視光反射防止膜であることがより好ましく、前記基材(i)の一方の面に近赤外線反射膜を有し、もう一方の面に可視光反射防止膜が備えられていることが特に好ましい。
【0134】
誘電体多層膜としては、高屈折率材料層と低屈折率材料層とを交互に積層したものが挙げられる。高屈折率材料層を構成する材料としては、屈折率が1.7以上の材料を用いることができ、屈折率が通常は1.7~2.5の材料が選択される。このような材料としては、例えば、酸化チタン、酸化ジルコニウム、五酸化タンタル、五酸化ニオブ、酸化ランタン、酸化イットリウム、酸化亜鉛、硫化亜鉛または酸化インジウム等を主成分とし、酸化チタン、酸化錫および/または酸化セリウム等を少量(例えば、主成分に対して0~10重量%)含有させたものが挙げられる。
【0135】
低屈折率材料層を構成する材料としては、屈折率が1.6以下の材料を用いることができ、屈折率が通常は1.2~1.6の材料が選択される。このような材料としては、例えば、シリカ、アルミナ、フッ化ランタン、フッ化マグネシウムおよび六フッ化アルミニウムナトリウムが挙げられる。
【0136】
高屈折率材料層と低屈折率材料層とを積層する方法については、これらの材料層を積層した誘電体多層膜が形成される限り特に制限はない。例えば、基材(i)上に、直接、CVD法、スパッタ法、真空蒸着法、イオンアシスト蒸着法またはイオンプレーティング法等により、高屈折率材料層と低屈折率材料層とを交互に積層した誘電体多層膜を形成することができる。
【0137】
高屈折率材料層および低屈折率材料層の各層の厚さは、通常、遮断しようとする近赤外線波長をλ(nm)とすると、0.1λ~0.5λの厚さが好ましい。λ(nm)の値としては、例えば700~1400nm、好ましくは750~1300nmである。厚さがこの範囲であると、屈折率(n)と膜厚(d)との積(n×d)がλ/4で算出される光学的膜厚と、高屈折率材料層および低屈折率材料層の各層の厚さとがほぼ同じ値となって、反射・屈折の光学的特性の関係から、特定波長の遮断・透過を容易にコントロールできる傾向にある。
【0138】
誘電体多層膜における高屈折率材料層と低屈折率材料層との合計の積層数は、近赤外線カットフィルター全体として16~70層であることが好ましく、20~60層であることがより好ましい。各層の厚み、近赤外線カットフィルター全体としての誘電体多層膜の厚みや合計の積層数が前記範囲にあると、十分な製造マージンを確保できる上に、近赤外線カットフィルターの反りや誘電体多層膜のクラックを低減することができる。
【0139】
本発明では、化合物(A)や化合物(B)の吸収特性に合わせて高屈折率材料層および低屈折率材料層を構成する材料種、高屈折率材料層および低屈折率材料層の各層の厚さ、積層の順番、積層数を適切に選択することで、可視域に十分な透過率を確保した上で近赤外波長域に十分な光線カット特性を有し、且つ、斜め方向から近赤外線が入射した際の反射率を低減することができる。
【0140】
ここで、前記条件を最適化するには、例えば、光学薄膜設計ソフト(例えば、Essential Macleod、Thin Film Center社製)を用い、可視域の反射防止効果と近赤外域の光線カット効果を両立できるようにパラメーターを設定すればよい。上記ソフトの場合、例えば第一光学層の設計にあたっては、波長400~700nmの目標透過率を100%、Target Toleranceの値を1とした上で、波長705~950nmの目標透過率を0%、Target Toleranceの値を0.5にするなどのパラメーター設定方法が挙げられる。これらのパラメーターは基材(i)の各種特性などに合わせて波長範囲をさらに細かく区切ってTarget Toleranceの値を変えることもできる。
【0141】
[その他の機能膜]
本発明の近赤外線カットフィルターは、本発明の効果を損なわない範囲において、基材(i)と誘電体多層膜との間、基材(i)の誘電体多層膜が設けられた面と反対側の面、または誘電体多層膜の基材(i)が設けられた面と反対側の面に、基材(i)や誘電体多層膜の表面硬度の向上、耐薬品性の向上、帯電防止および傷消しなどの目的で、反射防止膜、ハードコート膜や帯電防止膜などの機能膜を適宜設けることができる。
【0142】
本発明の近赤外線カットフィルターは、前記機能膜からなる層を1層含んでもよく、2層以上含んでもよい。本発明の近赤外線カットフィルターが前記機能膜からなる層を2層以上含む場合には、同様の層を2層以上含んでもよいし、異なる層を2層以上含んでもよい。
【0143】
機能膜を積層する方法としては、特に制限されないが、反射防止剤、ハードコート剤および/または帯電防止剤等のコーティング剤などを基材(i)または誘電体多層膜に、前記と同様に溶融成形またはキャスト成形する方法等を挙げることができる。
【0144】
また、前記コーティング剤などを含む硬化性組成物をバーコーター等で基材(i)または誘電体多層膜上に塗布した後、紫外線照射等により硬化することによっても製造することができる。
【0145】
前記コーティング剤としては、紫外線(UV)/電子線(EB)硬化型樹脂や熱硬化型樹脂などが挙げられ、具体的には、ビニル化合物類や、ウレタン系、ウレタンアクリレート系、アクリレート系、エポキシ系およびエポキシアクリレート系樹脂などが挙げられる。これらのコーティング剤を含む前記硬化性組成物としては、ビニル系、ウレタン系、ウレタンアクリレート系、アクリレート系、エポキシ系およびエポキシアクリレート系硬化性組成物などが挙げられる。
【0146】
また、前記硬化性組成物は、重合開始剤を含んでいてもよい。前記重合開始剤としては、公知の光重合開始剤または熱重合開始剤を用いることができ、光重合開始剤と熱重合開始剤を併用してもよい。重合開始剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0147】
前記硬化性組成物中、重合開始剤の配合割合は、硬化性組成物の全量を100重量%とした場合、好ましくは0.1~10重量%、より好ましくは0.5~10重量%、さらに好ましくは1~5重量%である。重合開始剤の配合割合が前記範囲にあると、硬化性組成物の硬化特性および取り扱い性が優れ、所望の硬度を有する反射防止膜、ハードコート膜や帯電防止膜などの機能膜を得ることができる。
【0148】
さらに、前記硬化性組成物には溶剤として有機溶剤を加えてもよく、有機溶剤としては、公知のものを使用することができる。有機溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、オクタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、γ-ブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエステル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類を挙げることができる。これら溶剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0149】
前記機能膜の厚さは、好ましくは0.1~20μm、さらに好ましくは0.5~10μm、特に好ましくは0.7~5μmである。
【0150】
また、基材(i)と機能膜および/または誘電体多層膜との密着性や、機能膜と誘電体多層膜との密着性を上げる目的で、基材(i)、機能膜または誘電体多層膜の表面にコロナ処理やプラズマ処理等の表面処理をしてもよい。
【0151】
[近赤外線カットフィルターの製造方法]
本発明の近赤外線カットフィルターの製造方法は、上記基材(i)の少なくとも一方の面に誘電体多層膜を形成する工程を含むことを特徴とする。誘電体多層膜を形成する方法は前述のとおりである。また、必要に応じて、上記基材(i)上に機能膜を形成する工程を含んでもよい。
【0152】
なお、誘電体多層膜を形成した際に近赤外線カットフィルターに反りが生じてしまう場合には、これを解消するために、近赤外線カットフィルター両面に誘電体多層膜を形成したり、近赤外線カットフィルターの誘電体多層膜を形成した面に紫外線等の電磁波を照射したりする方法等をとることができる。なお、電磁波を照射する場合、誘電体多層膜の形成中に照射してもよいし、形成後に別途照射してもよい。
【0153】
[近赤外線カットフィルターの用途]
本発明の近赤外線カットフィルターは、視野角が広く、優れた近赤外線カット能等を有する。したがって、カメラモジュールのCCDやCMOSイメージセンサー等の固体撮像素子の視感度補正用として有用である。特に、デジタルスチルカメラ、スマートフォン用カメラ、携帯電話用カメラ、デジタルビデオカメラ、ウェアラブルデバイス用カメラ、PCカメラ、監視カメラ、自動車用カメラ、テレビ、カーナビゲーション、携帯情報端末、ビデオゲーム機、携帯ゲーム機、指紋認証システム、デジタルミュージックプレーヤー等に有用である。さらに、自動車や建物等のガラス板等に装着される熱線カットフィルターなどとしても有用である。
【0154】
[固体撮像装置]
本発明の固体撮像装置は、本発明の近赤外線カットフィルターを具備する。ここで、固体撮像装置とは、CCDやCMOSイメージセンサー等といった固体撮像素子を備えたイメージセンサーであり、具体的にはデジタルスチルカメラ、スマートフォン用カメラ、携帯電話用カメラ、ウェアラブルデバイス用カメラ、デジタルビデオカメラ等の用途に用いることができる。例えば、本発明のカメラモジュールは、本発明の近赤外線カットフィルターを具備する。
【実施例】
【0155】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。なお、「部」は、特に断りのない限り「重量部」を意味する。また、各物性値の測定方法および物性の評価方法は以下のとおりである。
【0156】
<分子量>
樹脂の分子量は、各樹脂の溶剤への溶解性等を考慮し、下記の(a)または(b)の方法にて測定を行った。
(a)ウオターズ(WATERS)社製のゲルパーミエ-ションクロマトグラフィー(GPC)装置(150C型、カラム:東ソー社製Hタイプカラム、展開溶剤:o-ジクロロベンゼン)を用い、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)を測定した。
(b)東ソー社製GPC装置(HLC-8220型、カラム:TSKgelα‐M、展開溶剤:THF)を用い、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)を測定した。
【0157】
なお、後述する樹脂合成例3で合成した樹脂については、上記方法による分子量の測定ではなく、下記方法(c)による対数粘度の測定を行った。
(c)ポリイミド樹脂溶液の一部を無水メタノールに投入してポリイミド樹脂を析出させ、ろ過して未反応単量体から分離した。80℃で12時間真空乾燥して得られたポリイミド0.1gをN-メチル-2-ピロリドン20mLに溶解し、キャノン-フェンスケ粘度計を使用して30℃における対数粘度(μ)を下記式により求めた。
【0158】
μ={ln(ts/t0)}/C
t0:溶媒の流下時間
ts:希薄高分子溶液の流下時間
C:0.5g/dL
<ガラス転移温度(Tg)>
エスアイアイ・ナノテクノロジーズ株式会社製の示差走査熱量計(DSC6200)を用いて、昇温速度:毎分20℃、窒素気流下で測定した。
【0159】
<分光透過率>
基材の透過率、ならびに、近赤外線カットフィルターの透過率および反射率は、株式会社日立ハイテクノロジーズ製の分光光度計(U-4100)を用いて測定した。
【0160】
ここで、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率では、
図2(a)のようにフィルターに対して垂直に透過した光を測定し、近赤外線カットフィルターの垂直方向に対して30°の角度から測定した場合の透過率では、
図2(b)のようにフィルターの垂直方向に対して30°の角度で透過した光を測定した。また、近赤外線カットフィルターの垂直方向に対して30°の角度から測定した場合の反射率では、
図2(c)のように装置付属の治具に近赤外線カットフィルターを設定して測定を行った。なお、近赤外線カットフィルターとレンズ間の多重反射によるゴースト強度は、700~850nmにおける近赤外線カットフィルターの垂直方向から30°の方向から測定した平均反射率(a)(%)と、700~850nmにおいて垂直方向から30°の方向から測定した近赤外線カットフィルターの平均透過率(c)(%)との積として計算した。
【0161】
また、L* a* b* 表色系における「a* の値」、「b* の値」、「L* の値」、「a* の値(30°)」、「b* の値(30°)」および「L* の値(30°)」は、近赤外線カットフィルターの垂直方向(入射角0°)から380~780nmの透過率を測定して求めた値と、近赤外線カットフィルターの垂直方向から30°の角度(入射角30°)から380~780nmの透過率を測定して求めた値を採用した。
【0162】
<反り>
5mm角にチップカットした近赤外線カットフィルターを、(株)KEYENCE製「デジタルマイクロスコープVHX-600」の観察ステージ上に配置し、横から観察してチップ端部の反りの高さを測定し、下記基準で評価した。
【0163】
○○○:反りの高さ<20μm
○○:20μm≦反りの高さ<40μm
○:40μm≦反りの高さ<60μm
△:60μm≦反りの高さ<80μm
×:80μm≦反りの高さ
【0164】
<カメラ画像の色味評価>
光学フィルターをカメラモジュールに組み込んだ際の色味評価は下記の方法で行った。特開2016-110067号公報と同様の方法でカメラモジュールを作成し、作成したカメラモジュールを用いて300mm×400mmサイズの白色板をD65光源(X-Rite社製標準光源装置「マクベスジャッジII」)下で撮影し、カメラ画像における色味を以下の基準で評価した。
【0165】
全く問題がなく許容可能なレベルを○、若干色目の違いは認められるが高画質カメラモジュールとして実用上問題がなく許容可能なレベルを△、色味に問題があり高画質カメラモジュール用途としては許容不可能なレベルを×、明らかに色が異なり一般的なカメラモジュール用途としても許容不可能なレベルを××と判定した。
【0166】
なお、
図11に示すように、撮影を行う際はカメラ画像111の中で白色板112が面積の90%以上を占めるように白色板112とカメラモジュールの位置関係を調節した。
【0167】
[合成例]
下記実施例で用いた化合物(A)および化合物(B)は、一般的に知られている方法で合成した。一般的合成方法としては、例えば、特許第3366697号公報、特許第2846091号公報、特許第2864475号公報、特許第3703869号公報、特開昭60-228448号公報、特開平1-146846号公報、特開平1-228960号公報、特許第4081149号公報、特開昭63-124054号公報、「フタロシアニン -化学と機能―」(アイピーシー、1997年)、特開2007-169315号公報、特開2009-108267号公報、特開2010-241873号公報、特許第3699464号公報、特許第4740631号公報などに記載されている方法を挙げることができる。
【0168】
<樹脂合成例1>
下記式(a)で表される8-メチル-8-メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン(以下「DNM」ともいう。)100部、1-ヘキセン(分子量調節剤)18部およびトルエン(開環重合反応用溶媒)300部を、窒素置換した反応容器に仕込み、この溶液を80℃に加熱した。次いで、反応容器内の溶液に、重合触媒として、トリエチルアルミニウムのトルエン溶液(0.6mol/リットル)0.2部と、メタノール変性の六塩化タングステンのトルエン溶液(濃度0.025mol/リットル)0.9部とを添加し、この溶液を80℃で3時間加熱攪拌することにより開環重合反応させて開環重合体溶液を得た。この重合反応における重合転化率は97%であった。
【0169】
【化19】
このようにして得られた開環重合体溶液1,000部をオートクレーブに仕込み、この開環重合体溶液に、RuHCl(CO)[P(C
6H
5)
3]
3を0.12部添加し、水素ガス圧100kg/cm
2、反応温度165℃の条件下で、3時間加熱撹拌して水素添加反応を行った。得られた反応溶液(水素添加重合体溶液)を冷却した後、水素ガスを放圧した。この反応溶液を大量のメタノール中に注いで凝固物を分離回収し、これを乾燥して、水素添加重合体(以下「樹脂A」ともいう。)を得た。得られた樹脂Aは、数平均分子量(Mn)が32,000、重量平均分子量(Mw)が137,000であり、ガラス転移温度(Tg)が165℃であった。
【0170】
<樹脂合成例2>
3Lの4つ口フラスコに2,6-ジフルオロベンゾニトリル35.12g(0.253mol)、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン87.60g(0.250mol)、炭酸カリウム41.46g(0.300mol)、N,N-ジメチルアセトアミド(以下「DMAc」ともいう。)443gおよびトルエン111gを添加した。続いて、4つ口フラスコに温度計、撹拌機、窒素導入管付き三方コック、ディーンスターク管および冷却管を取り付けた。次いで、フラスコ内を窒素置換した後、得られた溶液を140℃で3時間反応させ、生成する水をディーンスターク管から随時取り除いた。水の生成が認められなくなったところで、徐々に温度を160℃まで上昇させ、そのままの温度で6時間反応させた。室温(25℃)まで冷却後、生成した塩をろ紙で除去し、ろ液をメタノールに投じて再沈殿させ、ろ別によりろ物(残渣)を単離した。得られたろ物を60℃で一晩真空乾燥し、白色粉末(以下「樹脂B」ともいう。)を得た(収率95%)。得られた樹脂Bは、数平均分子量(Mn)が75,000、重量平均分子量(Mw)が188,000であり、ガラス転移温度(Tg)が285℃であった。
【0171】
<樹脂合成例3>
温度計、撹拌器、窒素導入管、側管付き滴下ロート、ディーンスターク管および冷却管を備えた500mLの5つ口フラスコに、窒素気流下、1,4-ビス(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)ベンゼン27.66g(0.08モル)および4,4'-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル7.38g(0.02モル)を入れて、γ―ブチロラクトン68.65g及びN,N-ジメチルアセトアミド17.16gに溶解させた。得られた溶液を、氷水バスを用いて5℃に冷却し、同温に保ちながら1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物22.62g(0.1モル)およびイミド化触媒としてトリエチルアミン0.50g(0.005モル)を一括添加した。添加終了後、180℃に昇温し、随時留出液を留去させながら、6時間還流させた。反応終了後、内温が100℃になるまで空冷した後、N,N-ジメチルアセトアミド143.6gを加えて希釈し、攪拌しながら冷却し、固形分濃度20重量%のポリイミド樹脂溶液264.16gを得た。このポリイミド樹脂溶液の一部を1Lのメタノール中に注ぎいれてポリイミドを沈殿させた。濾別したポリイミドをメタノールで洗浄した後、100℃の真空乾燥機中で24時間乾燥させて白色粉末(以下「樹脂C」ともいう。)を得た。得られた樹脂CのIRスペクトルを測定したところ、イミド基に特有の1704cm-1、1770cm-1の吸収が見られた。樹脂Cはガラス転移温度(Tg)が310℃であり、対数粘度を測定したところ、0.87であった。
【0172】
[実施例1]
実施例1では、片面に化合物(A)および化合物(B)を含む透明樹脂層を有する透明ガラス基板からなる基材を有する近赤外線カットフィルターを以下の手順および条件で作成した。
【0173】
容器に、樹脂合成例1で得られた樹脂A 100部、化合物(A)として下記式(a-1)で表わされるスクアリリウム系化合物(a-1)(ジクロロメタン中での吸収極大波長698nm)0.03部、化合物(B)として下記式(b-1)で表されるスクアリリウム系化合物(b-1)(ジクロロメタン中での吸収極大波長776nm)0.02部、および下記式(b-2)で表わされるフタロシアニン系化合物(b-2)(ジクロロメタン中での吸収極大波長733nm)0.03部、および塩化メチレンを加えて樹脂濃度が20重量%の溶液を調製した。得られた溶液を、縦60mm、横60mmの大きさにカットした透明ガラス基板「OA-10G(厚み100μm)」(日本電気硝子(株)製)上にキャストし、20℃で8時間乾燥した後、さらに減圧下100℃で8時間乾燥した。これにより、ガラス基板の片面に透明樹脂層を有する、厚さ190μm、縦60mm、横60mmの基材を得た。この基材の分光透過率を測定し、波長430~580nmの領域での透過率平均値、Xa、Xb、絶対値|Xa-Xb|および波長Xa~Xbの領域での透過率平均値を求めた。結果を
図4および表4に示す。
【0174】
【化20】
続いて、得られた基材の片面に第一光学層として誘電体多層膜(I)を形成し、さらに基材のもう一方の面に第二光学層として誘電体多層膜(II)を形成し、厚さ約0.194mmの近赤外線カットフィルターを得た。
【0175】
誘電体多層膜(I)は、蒸着温度100℃でシリカ(SiO2)層とチタニア(TiO2)層とが交互に積層されてなる(合計26層)。誘電体多層膜(II)は、蒸着温度100℃でシリカ(SiO2)層とチタニア(TiO2)層とが交互に積層されてなる(合計20層)。誘電体多層膜(I)および(II)のいずれにおいても、シリカ層およびチタニア層は、基材側からチタニア層、シリカ層、チタニア層、・・・シリカ層、チタニア層、シリカ層の順で交互に積層されており、近赤外線カットフィルターの最外層をシリカ層とした。
【0176】
誘電体多層膜(I)および(II)の設計は、以下のようにして行った。
【0177】
各層の厚さと層数については、可視域の反射防止効果と近赤外域の選択的な透過・反射性能を達成できるよう基材屈折率の波長依存特性や、適用した化合物(B)および化合物(A)の吸収特性に合わせて光学薄膜設計ソフト(Essential Macleod、Thin Film Center社製)を用いて最適化を行った。最適化を行う際、本実施例においてはソフトへの入力パラメーター(Target値)を下記表1の通りとした。
【0178】
【表1】
膜構成最適化の結果、実施例1では、誘電体多層膜(I)は、膜厚31~157nmのシリカ層と膜厚10~95nmのチタニア層とが交互に積層されてなる、積層数26の多層蒸着膜となり、誘電体多層膜(II)は、膜厚36~194nmのシリカ層と膜厚11~114nmのチタニア層とが交互に積層されてなる、積層数20の多層蒸着膜となった。最適化を行った膜構成の一例を表2に示し、各誘電体多層膜を単体で片面に成膜した蒸着モニター用ガラス基板の垂直方向に対して5°の角度から測定した分光反射率スペクトルを
図5に示す。なお、蒸着モニター用ガラスの反射率を測定する際は裏面反射の影響をなくすため誘電体多層膜が成膜されていない面を黒色のアクリル塗料で塗りつぶして反射防止処理を施した上で、誘電体多層膜が成膜されている面を測定光の入射面とした。
【0179】
【表2】
得られた近赤外線カットフィルターの垂直方向および垂直方向に対して30°の角度から測定した分光透過率を測定し、光学特性を評価した。結果を
図6および表4に示す。また、得られた近赤外線カットフィルターについて、各面の垂直方向から30°の角度から測定した分光反射率を測定したところ、光線の入射面を誘電体多層膜(II)側(第二光学層側)とした際に、波長700~800nmにおける最低反射率の値が小さくなることが確認された。結果を表4に示し、光線の入射面を誘電体多層膜(II)側とした際の、近赤外線カットフィルターの垂直方向に対して30°の角度から測定した分光反射率スペクトルを
図7に示す。さらに、得られた近赤外線カットフィルターの垂直方向(入射角0°)および垂直方向から30°の角度(入射角30°)から380~780nmの透過率を測定し、L
* a
* b
* 表色系における「a
* の値」「b
* の値」、「L
* の値」、「a
* の値(30°)」「b
* の値(30°)」および「L
* の値(30°)」を求めるとともに、入射角0°における各値との差の絶対値|△a
*|、|△b
*|および|△L
*|を算出した。これらの結果およびその他の各種評価の結果を表4に示す。
【0180】
[実施例2]
実施例1において、化合物(A)として化合物(a-1)0.03部の代わりに下記式(a-2)で表わされるスクアリリウム系化合物(a-2)(ジクロロメタン中での吸収極大波長703nm)0.033部を用いたこと、ならびに、化合物(B)として化合物(b-1)0.02部および化合物(b-2)0.03部の代わりに下記式(b-3)で表されるフタロシアニン系化合物(b-3)(ジクロロメタン中での吸収極大波長770nm)0.077部を用いたこと以外は実施例1と同様の手順および条件で、ガラス基板の片面に化合物(A)および化合物(B)を含む透明樹脂層を有する基材を得た。この基材の分光透過率を測定し、光学特性を評価した。結果を
図8および表4に示す。
【0181】
【化21】
続いて、実施例1と同様に、得られた基材の片面に第一光学層としてシリカ(SiO
2)層とチタニア(TiO
2)層とが交互に積層されてなる(合計26層)誘電体多層膜(III)を形成し、さらに基材のもう一方の面に第二光学層としてシリカ(SiO
2)層とチタニア(TiO
2)層とが交互に積層されてなる(合計20層)誘電体多層膜(IV)を形成し、厚さ約0.194mmの近赤外線カットフィルターを得た。誘電体多層膜の設計は、基材屈折率の波長依存性を考慮した上で、実施例1と同じ設計パラメーターを用いて行った。得られた近赤外線カットフィルターの分光透過率および分光反射率を測定し、光学特性を評価した。結果を
図9および表5に示す。また、得られた近赤外線カットフィルターについて、各面の垂直方向に対して30°の角度から測定した分光反射率を測定したところ、光線の入射面を誘電体多層膜(IV)側(第二光学層側)とした際に、波長700~800nmにおける平均反射率の値が小さくなることが確認された。結果を表4に示し、光線の入射面を誘電体多層膜(IV)側とした際の、近赤外線カットフィルターの垂直方向に対して30°の角度から測定した分光反射率スペクトルを
図10に示す。さらに、得られた近赤外線カットフィルターのL
* a
* b
* 表色系における「a
* の値」「b
* の値」、「L
* の値」、「a
* の値(30°)」「b
* の値(30°)」および「L
* の値(30°)」を求めるとともに、入射角0°における各値との差の絶対値|△a
*|、|△b
*|および|△L
*|を算出した。これらの結果およびその他の各種評価の結果も表4に示す。
【0182】
[実施例3]
実施例3では、両面に樹脂層を有する透明樹脂製基板からなる基材を有する近赤外線カットフィルターを以下の手順および条件で作成した。
【0183】
容器に、樹脂合成例1で得られた樹脂A 100部、化合物(A)として化合物(a-1)0.03部および化合物(a-2)0.01部、ならびに、化合物(B)として化合物(b-3)0.08部および下記式(b-4)で表わされる化合物(b-4)(ジクロロメタン中での吸収極大波長781nm)0.02部、および塩化メチレンを加えて樹脂濃度が20重量%の溶液を調製した。得られた溶液を平滑なガラス板上にキャストし、20℃で8時間乾燥した後、ガラス板から剥離した。剥離した塗膜をさらに減圧下100℃で8時間乾燥して、厚さ0.1mm、縦60mm、横60mmの透明樹脂製基板を得た。
【0184】
【化22】
得られた透明樹脂製基板の片面に、下記組成の樹脂組成物(1)をバーコーターで塗布し、オーブン中70℃で2分間加熱し、溶剤を揮発除去した。この際、乾燥後の厚みが2μmとなるように、バーコーターの塗布条件を調整した。次に、コンベア式露光機を用いて露光(露光量500mJ/cm
2,200mW)を行い、樹脂組成物(1)を硬化させ、透明樹脂製基板上に樹脂層を形成した。同様に、透明樹脂製基板のもう一方の面にも樹脂組成物(1)からなる樹脂層を形成し、化合物(A)および化合物(B)を含む透明樹脂製基板の両面に樹脂層を有する基材を得た。この基材の分光透過率を測定し、光学特性を評価した。結果を表4に示す。
【0185】
樹脂組成物(1):トリシクロデカンジメタノールアクリレート 60重量部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 40重量部、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン 5重量部、メチルエチルケトン(溶剤、固形分濃度(TSC):30%)
続いて、実施例1と同様に、得られた基材の片面に第一光学層としてシリカ(SiO2)層とチタニア(TiO2)層とが交互に積層されてなる(合計26層)誘電体多層膜(V)を形成し、さらに基材のもう一方の面に第二光学層としてシリカ(SiO2)層とチタニア(TiO2)層とが交互に積層されてなる(合計20層)誘電体多層膜(VI)を形成し、厚さ約0.108mmの近赤外線カットフィルターを得た。誘電体多層膜の設計は、実施例1と同様に基材屈折率の波長依存性等を考慮した上で、実施例1と同じ設計パラメーターを用いて行った。この近赤外線カットフィルターを実施例1と同様にして評価した。結果を表4に示す。
【0186】
[実施例4]
実施例4では、両面に化合物(A)および化合物(B)を含む透明樹脂層を有する樹脂製基板からなる基材を有する近赤外線カットフィルターを以下の手順および条件で作成した。
【0187】
容器に、樹脂合成例1で得られた樹脂Aおよび塩化メチレンを加えて樹脂濃度が20重量%の溶液を調製し、得られた溶液を用いたこと以外は、実施例3と同様にして樹脂製基板を作成した。
【0188】
得られた樹脂製基板の両面に、実施例3と同様に下記組成の樹脂組成物(2)からなる樹脂層を形成し、樹脂製基板の両面に化合物(A)および化合物(B)を含む透明樹脂層を有する基材を得た。この基材の分光透過率を測定し、光学特性を評価した。結果を表4に示す。
【0189】
樹脂組成物(2):トリシクロデカンジメタノールアクリレート 100重量部、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン 4重量部、化合物(a-1)0.75重量部、化合物(b-2)0.75重量部、メチルエチルケトン(溶剤、TSC:25%)
続いて、実施例1と同様に、得られた基材の片面に第一光学層としてシリカ(SiO2)層とチタニア(TiO2)層とが交互に積層されてなる(合計26層)誘電体多層膜(VII)を形成し、さらに基材のもう一方の面に第二光学層としてシリカ(SiO2)層とチタニア(TiO2)層とが交互に積層されてなる(合計20層)誘電体多層膜(VIII)を形成し、厚さ約0.108mmの近赤外線カットフィルターを得た。誘電体多層膜の設計は、実施例1と同様に基材屈折率の波長依存性等を考慮した上で、実施例1と同じ設計パラメーターを用いて行った。この近赤外線カットフィルターを実施例1と同様にして評価した。結果を表4に示す。
【0190】
[実施例5~12]
樹脂、化合物(A)、化合物(B)、溶媒および樹脂製基板の乾燥条件を表4に示すように変更したこと以外は、実施例3と同様にして、基材および近赤外線カットフィルターを作成して評価した。結果を表4に示す。
【0191】
[実施例13~15]
樹脂、化合物(A)、化合物(B)、溶媒および樹脂製基板の乾燥条件を表4に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、基材および近赤外線カットフィルターを作成して評価した。結果を表4に示す。
【0192】
[実施例16~17]
樹脂、化合物(A)、化合物(B)、溶媒および樹脂製基板の乾燥条件を表4に示すように変更したこと以外は、実施例3と同様にして、基材および近赤外線カットフィルターを作成して評価した。結果を表4に示す。
【0193】
[実施例18~19]
樹脂、化合物(A)、化合物(B)、溶媒および樹脂製基板の乾燥条件を表4に示すように変更したこと以外は、実施例4と同様にして、基材および近赤外線カットフィルターを作成して評価した。結果を表4に示す。
【0194】
[比較例1]
実施例1において、化合物(A)および化合物(B)を用いなかったこと以外は実施例1と同様にして基材および近赤外線カットフィルターを作成して評価した。結果を表5に示す。
【0195】
[比較例2]
化合物(A)として化合物(a-1)0.01部および化合物(a-2)0.01部を用いたこと以外は実施例3と同様にして、基材および近赤外線カットフィルターを作成して評価した。結果を表5に示す。
【0196】
[比較例3]
基材として透明ガラス基板「OA-10G(厚み100μm)」(日本電気硝子(株)製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして近赤外線カットフィルターを作成して評価した。結果を表5に示す。
【0197】
[比較例4]
比較例4では、両面に樹脂層を有する透明樹脂製基板からなる基材を有する近赤外線カットフィルターを以下の手順および条件で作成した。
【0198】
容器に、樹脂合成例1で得られた樹脂A 100部および化合物(B)として化合物(b-3)0.135部を加えて樹脂濃度が20重量%の溶液を調製した。得られた溶液を平滑なガラス板上にキャストし、20℃で8時間乾燥した後、ガラス板から剥離した。剥離した塗膜をさらに減圧下100℃で8時間乾燥して、厚さ0.1mm、縦60mm、横60mmの透明樹脂製基板を得た。
【0199】
得られた樹脂製基板の両面に、下記組成の樹脂組成物(3)からなる樹脂層を実施例3と同様にして形成し、樹脂製基板の両面に吸収材を含む透明樹脂層を有する基材、兼、近赤外線カットフィルターを得た。この基材、兼、近赤外線カットフィルターを、実施例1と同様にして評価した。結果を表5に示す。
【0200】
樹脂組成物(3):トリシクロデカンジメタノールアクリレート 100重量部、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン 4重量部、YMF-02〔住友金属鉱山(株)製、セシウム酸化タングステン(Cs0.33WO3(平均分散粒径800nm以下;極大吸収波長(λmax)=1550~1650nm(膜))の18.5質量%分散液〕30重量部、メチルエチルケトン(溶剤、TSC:25%)
【0201】
[比較例5]
樹脂、化合物(A)、化合物(B)、溶媒および樹脂製基板の乾燥条件を表5に示すように変更したこと以外は、実施例3と同様にして、基材および近赤外線カットフィルターを作成して評価した。結果を表5に示す。
【0202】
[比較例6]
基材として熱可塑性ポリイミドフィルム(アズワン社製、厚さ0.5mm)を用い、吸収材も透明樹脂層形成用組成物も使用しなかったこと以外は、実施例3と同様にして近赤外線カットフィルターを作成して評価した。結果を表5に示す。
【0203】
[比較例7]
基材として透明ガラス基板「OA-10G(厚み100μm)」(日本電気硝子(株)製)を用い、表3のような誘電体多層膜を積層したこと以外は、実施例1と同様にして近赤外線カットフィルターを作成して評価した。結果を表5に示す。
【0204】
【表3】
[比較例8]
樹脂、化合物(A)、化合物(B)、溶媒および樹脂製基板の乾燥条件を表5に示すように変更するとともに、誘電体多層膜(I)、誘電体多層膜(II)、基材の順序になるように、得られた基材の片面に誘電体多層膜(I)および誘電体多層膜(II)を形成したこと以外は、実施例3と同様にして、基材および近赤外線カットフィルターを作成して評価した。結果を表5に示す。
【0205】
【0206】
【表5】
表4~5における基材の構成や各種化合物などの内容は下記の通りである。
【0207】
<基材の形態>
形態(1):ガラス基板の片方の面に化合物(A)および化合物(B)を含む透明樹脂層を有する形態
形態(2):化合物(A)および化合物(B)を含む透明樹脂製基板の両面に樹脂層を有する形態
形態(3):樹脂製基板の両面に化合物(A)および化合物(B)を含む透明樹脂層を有する形態
形態(4):化合物(A)および化合物(B)を含まない透明樹脂製基板
形態(5):化合物(A)を含む透明樹脂製基板の両面に樹脂層を有する形態
形態(6):ガラス基板
形態(7):樹脂製基板
【0208】
<透明樹脂>
樹脂A:環状オレフィン系樹脂(樹脂合成例1)
樹脂B:芳香族ポリエーテル系樹脂(樹脂合成例2)
樹脂C:ポリイミド系樹脂(樹脂合成例3)
樹脂D:環状オレフィン系樹脂「ゼオノア 1420R」(日本ゼオン(株)製)
【0209】
<ガラス基板>
ガラス基板(1):縦60mm、横60mmの大きさにカットした透明ガラス基板「OA-10G(厚み100μm)」(日本電気硝子(株)製)
【0210】
<近赤外線吸収色素>
≪化合物(A)≫
化合物(a-1):上記式(a-1)で表わされるスクアリリウム系化合物(a-1)(ジクロロメタン中での吸収極大波長698nm)
化合物(a-2):上記式(a-2)で表わされるスクアリリウム系化合物(a-2)(ジクロロメタン中での吸収極大波長703nm)
化合物(a-3):下記式(a-3)で表わされるスクアリリウム系化合物(a-3)(ジクロロメタン中での吸収極大波長710nm)
化合物(a-4):下記式(a-4)で表わされるスクアリリウム系化合物(a-4)(ジクロロメタン中での吸収極大波長733nm)
化合物(a-5):下記式(a-5)で表わされるスクアリリウム系化合物(a-5)(ジクロロメタン中での吸収極大波長713nm)
【0211】
【0212】
【0213】
【化25】
≪化合物(B)≫
化合物(b-1):上記式(b-1)で表わされるスクアリリウム系化合物(b-1)(ジクロロメタン中での吸収極大波長776nm)
化合物(b-2):上記式(b-2)で表わされるフタロシアニン系化合物(b-2)(ジクロロメタン中での吸収極大波長733nm)
化合物(b-3):上記式(b-3)で表わされるフタロシアニン系化合物(b-3)(ジクロロメタン中での吸収極大波長770nm)
化合物(b-4):上記式(b-4)で表わされるスクアリリウム系化合物(b-4)(ジクロロメタン中での吸収極大波長781nm)
化合物(b-5):下記式(b-5)で表されるシアニン系化合物(b-5)(ジクロロメタン中での吸収極大波長681nm)
化合物(b-6):下記式(b-6)で表わされるシアニン系化合物(b-6)(ジクロロメタン中での吸収極大波長791nm)
化合物(b-7):下記式(b-7)で表わされるシアニン系化合物(b-7)(ジクロロメタン中での吸収極大波長812nm)
化合物(b-8):下記式(b-8)で表わされるシアニン系化合物(b-8)(ジクロロメタン中での吸収極大波長760nm)
化合物(b-9):下記式(b-9)で表わされるフタロシアニン系化合物(b-9)(ジクロロメタン中での吸収極大波長752nm)
【0214】
【0215】
【0216】
【0217】
【0218】
【化30】
<溶媒>
溶媒(1):塩化メチレン
溶媒(2):N,N-ジメチルアセトアミド
溶媒(3):シクロヘキサン/キシレン(重量比:7/3)
<フィルム乾燥条件>
条件(1):20℃/8hr→減圧下 100℃/8hr
条件(2):60℃/8hr→80℃/8hr→減圧下 140℃/8hr
条件(3):60℃/8hr→80℃/8hr→減圧下 100℃/24hr
なお、減圧乾燥前に、塗膜をガラス板から剥離した(形態(1)を除く)。
【産業上の利用可能性】
【0219】
本発明の近赤外線カットフィルターは、デジタルスチルカメラ、携帯電話用カメラ、デジタルビデオカメラ、パーソナルコンピューター用カメラ、監視カメラ、自動車用カメラ、テレビ、カーナビゲーションシステム用車載装置、携帯情報端末、ビデオゲーム機、携帯ゲーム機、指紋認証システム用装置、デジタルミュージックプレーヤー等に好適に用いることができる。さらに、自動車や建物などのガラス等に装着される熱線カットフィルターなどとしても好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0220】
1:近赤外線カットフィルター
2:分光光度計
3:光
3A:反射光
3B:反射光
3C:透過光(多重反射光)
4:レンズ
5:センサー(固体撮像素子)
7:反射ミラー
10:ガラス製支持体
11:透明樹脂層
12:第一光学層
13:第二光学層
14:基材(i)
15:第三光学層
16:第四光学層
111:カメラ画像
112:白色板
113:白色板の中央部の例
114:白色板の端部の例