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特許7163927プリプレグの製造方法、プリプレグテープの製造方法および繊維強化複合材料の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】プリプレグの製造方法、プリプレグテープの製造方法および繊維強化複合材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29B 15/12 20060101AFI20221025BHJP
   B05D 1/02 20060101ALI20221025BHJP
   B05D 1/36 20060101ALI20221025BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20221025BHJP
   B05D 1/18 20060101ALI20221025BHJP
   B29B 11/16 20060101ALI20221025BHJP
   B29K 101/10 20060101ALN20221025BHJP
【FI】
B29B15/12
B05D1/02 Z
B05D1/36 Z
B05D7/00 A
B05D1/18
B29B11/16
B29K101:10
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019546263
(86)(22)【出願日】2019-08-20
(86)【国際出願番号】 JP2019032497
(87)【国際公開番号】W WO2020040155
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2022-07-12
(31)【優先権主張番号】P 2018155080
(32)【優先日】2018-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018174737
(32)【優先日】2018-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】越智 隆志
(72)【発明者】
【氏名】西野 聡
(72)【発明者】
【氏名】青木 惇一
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-178411(JP,A)
【文献】特開平01-178412(JP,A)
【文献】特開2008-050587(JP,A)
【文献】特開2011-144213(JP,A)
【文献】特開2016-147925(JP,A)
【文献】特開平05-200747(JP,A)
【文献】国際公開第2013/008720(WO,A1)
【文献】特開2005-066962(JP,A)
【文献】特表2010-540297(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第00976515(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16;15/08-15/14
C08J 5/04-5/10;5/24
B29C 70/00-70/88
B32B 1/00-43/00
B05D 1/00- 7/26
B05C 1/00- 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス樹脂が貯留された塗布部の内部に、強化繊維シートを実質的に鉛直方向下向きに通過させてマトリックス樹脂を強化繊維シートに付与し、その後、前記塗布部から引き出された1次プリプレグにさらに液体を吐出するスプレー塗布を行うプリプレグの製造方法であって、前記塗布部は互いに連通された液溜り部と前記液溜り部の下方に位置する狭窄部を備え、前記液溜り部は強化繊維シートの走行方向に沿って断面積が連続的に減少する部分を有し、前記狭窄部はスリット状の断面を有し、かつ液溜り部上面よりも小さい断面積を有する、プリプレグの製造方法。
【請求項2】
マトリックス樹脂が貯留された塗布部の内部に、強化繊維シートを実質的に鉛直方向下向きに通過させてマトリックス樹脂を強化繊維シートに付与し、その後、前記塗布部から引き出された1次プリプレグにさらに液体を吐出するカーテン塗布を行うプリプレグの製造方法であって、前記塗布部は互いに連通された液溜り部と前記液溜り部の下方に位置する狭窄部を備え、前記液溜り部は強化繊維シートの走行方向に沿って断面積が連続的に減少する部分を有し、前記狭窄部はスリット状の断面を有し、かつ液溜り部上面よりも小さい断面積を有する、プリプレグの製造方法。
【請求項3】
マトリックス樹脂が貯留された塗布部の内部に、強化繊維シートを実質的に鉛直方向下向きに通過させてマトリックス樹脂を強化繊維シートに付与するプリプレグの製造方法であって、前記塗布部は互いに連通された液溜り部と前記液溜り部の下方に位置する狭窄部を備え、前記液溜り部は強化繊維シートの走行方向に沿って断面積が連続的に減少する部分を有し、前記狭窄部はスリット状の断面を有し、かつ液溜り部上面よりも小さい断面積を有し、強化繊維シートを塗布部の内部に通過させる前に、強化繊維シートに糸割れ防止剤、靭性向上剤、難燃剤および毛羽集束剤からなる群から選ばれる少なくとも一つの改質剤を付与するプリプレグの製造方法。
【請求項4】
付与後の強化繊維シートにおいて、改質剤の目付が20g/m以下となるように改質剤を付与する請求項3に記載のプリプレグの製造方法。
【請求項5】
強化繊維長手方向に間欠なく、または、塗布間隔が最大30mm以内となるように改質剤を付与する請求項3または4に記載のプリプレグの製造方法。
【請求項6】
前記改質剤が糸割れ防止剤である請求項3~5のいずれか1項に記載のプリプレグの製造方法。
【請求項7】
強化繊維の配列方向における液溜り部の下部の幅(L)と、狭窄部の直下における一次プリプレグの幅(W)との関係が、L≦W+10(mm)を満たす、請求項1~6のいずれか1項に記載のプリプレグの製造方法。
【請求項8】
液溜り部内に強化繊維シートの幅を規制するための幅規制機構を備え、狭窄部の直下における一次プリプレグの幅(W)と該幅規制機構下端において幅規制機構により規制される幅(L2)との関係が、L2≦W+10(mm)を満たす、請求項1~7のいずれか1項に記載のプリプレグの製造方法。
【請求項9】
液溜り部における断面積が連続的に減少する部分の鉛直方向高さが10mm以上である、請求項1~8のいずれか1項に記載のプリプレグの製造方法。
【請求項10】
請求項1~のいずれか1項に記載のプリプレグの製造方法により得られたプリプレグに更に追含浸を行うプリプレグの製造方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載のプリプレグの製造方法により得られたプリプレグをスリットするプリプレグテープの製造方法。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか1項に記載のプリプレグの製造方法により得られたプリプレグまたは請求項11に記載のプリプレグテープの製造方法により得られたプリプレグテープを成形する繊維強化複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリプレグの製造方法に関し、特に、強化繊維シートにマトリックス樹脂を均一に含浸する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を含むマトリックス樹脂を強化繊維で補強した繊維強化複合材料(FRP)は、航空・宇宙用材料、自動車材料、産業用材料、圧力容器、建築材料、筐体、医療用途、スポーツ用途など様々な分野で用いられている。特に高い力学特性と軽量性が必要な場合には、炭素繊維強化複合材料(CFRP)が幅広く好適に用いられている。一方、力学特性や軽量性よりもコストが優先される場合にはガラス繊維強化複合材料(GFRP)が用いられる場合がある。FRPは強化繊維束にマトリックス樹脂を含浸し中間基材を得、これを積層、成形し、さらに熱硬化樹脂を用いた場合には熱硬化させて、FRPからなる部材を製造している。前記用途では平面状物やそれを折り曲げた形態のものが多く、FRPの中間基材としても1次元のストランドやロービング状物よりも、2次元のシート状物の方が部材を作製する際の積層効率や成形性の観点から幅広く使用されている。
【0003】
また、最近、FRPからなる部材の生産効率を向上させるため、シート状中間基材の積層の機械化・自動化が推進されており、ここでは細幅テープ状中間基材が好適に使用されている。細幅テープ状中間基材は広幅シート状中間基材を所望の幅でスライスしたり、細幅の強化繊維シートに直接マトリックス樹脂を含浸させたりして得ることができる。
【0004】
2次元のシート状中間基材としては、プリプレグが一般的に用いられている。プリプレグは強化繊維にマトリックス樹脂を付与・含浸して作製する。強化繊維シートとしては、複数本の強化繊維を一方向に面上で配列させた一方向材(UD基材)や、強化繊維を多軸で配列させる、またはランダム配置してシート化した強化繊維ファブリックがある。
【0005】
プリプレグの製造方法の一つであるホットメルト法は、マトリックス樹脂を溶融した後、離型紙上にコーティングし、これを強化繊維シートの上面、下面でサンドイッチした積層構造を作製後、熱と圧力でマトリックス樹脂を強化繊維シート内部に含浸するものである。本方法は工程数が多く、また生産速度も上げられず、高コストとなる問題があった。
【0006】
含浸の効率化としては、例えば特許文献1のような提案があった。これはガラス繊維を溶融紡糸し、それを集束してストランドやロービング状としたものを熱可塑性樹脂を満たした円錐状の流路を有する液溜り部に通過させる方法であった。
【0007】
他方、シート状物の両面に同時に塗膜形成する方法が特許文献2に記載されているが、これは塗膜形成時のシート状物の揺らぎを防止するため、ウエブガイドにシート状物を通し、その後、パイプ型ドクターで塗工するものである。
【0008】
熱可塑性樹脂を用いた帯状プリプレグの製造方法として、帯状強化繊維束を水平方向(横方向)に搬送し、ダイに通過させ、帯状強化繊維束に熱可塑性樹脂を付与・含浸する横型引き抜き方式(特許文献3)が知られている。特許文献3には、複数の帯状強化繊維束を別々に溶融熱可塑樹脂が満たされたダイ内へ導入し、固定ガイド(例えばスクイーズバー)により、開繊、含浸、積層し、最終的に1枚のシート状プリプレグとしてダイから引き抜くことが記載されている。
【0009】
特許文献4には、マニホールドに熱可塑性樹脂を満たし、強化繊維束を縦に引き抜くプルトルージョン方法において出口に超音波振動を与える装置が記載されている。
【0010】
また、特許文献5にはいわゆるメルトブロー法を用いて、炭素繊維シートに熱可塑性樹脂を吹きつけることが記載されている。さらに、特許文献5の比較例1には炭素繊維シートにフィルムスリットダイを用い、熱可塑性樹脂であるPPS(ポリフェニレンスルフィド)を積層することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公開WO2001/028951号パンフレット
【文献】特開平10-337516号公報
【文献】国際公開WO2012/002417号パンフレット
【文献】特開平1-178412号公報
【文献】国際公開WO2003/091015号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1の方法ではストランドやロービング状物しか製造できず、本発明の対象とするシート状プリプレグの製造には適用できない。また、特許文献1では含浸効率を向上させるため、ストランドやロービング状強化繊維束側面に熱可塑性樹脂の流体を当て円錐状流路内で乱流を積極的に発生させている。これは強化繊維束の配列を一部乱してマトリックス樹脂を流入させることを意図していると考えられるが、この思想を強化繊維シートに適用すると、強化繊維シートが変形し、プリプレグの品位が低下するばかりか、FRPの力学特性が低下してしまうと考えられる。
【0013】
また、特許文献2の技術を適用した場合には、ウエブガイドでの擦過により毛羽が発生し、強化繊維シートが走行困難になると考えられる。また、特許文献2の技術は樹脂の塗工であり、含浸は意図されていない。
【0014】
また、特許文献3の方法では連続生産時に液溜り部に毛羽が滞留し易く、引き抜き部で毛羽が詰まり易い。特に、帯状強化繊維束を高速で連続走行させると、毛羽が詰まる頻度が非常に高まるため、非常に遅い速度でしか生産ができず、生産性が上がらない問題点があった。また、横型引き抜き方式の場合、ダイ部は液漏れ防止のため密閉する必要があり、連続生産中に毛羽を回収することも十分ではない。さらに、横型引き抜き方式においては、強化繊維シートの内部にマトリックス樹脂が含浸する際、帯状強化繊維束の内部に残留していた気泡は、浮力により強化繊維束の配向方向と直交する方向(帯状強化繊維束の厚み方向)に排出されるため、含浸してくるマトリックス樹脂を押しのけるようにして気泡の排出が進む。そのため、気泡の移動が液によって阻害される上に、マトリックス樹脂の含浸も気泡によって阻害されるため、含浸効率が悪いという問題点があった。更に、気泡をベントから排気することも提案されているが、ダイ出口付近のみであり、その効果は限定的と考えられる。
【0015】
また、特許文献4記載の方法では、マニホールド上部に樹脂で満たされていないノズル部が設けられており、ノズルはストランドやロービング状物で最適化することができるが、強化繊維シートのような平面形状には対応が難しく、強化繊維シートがここを通過する際、毛羽が発生し、それがマニホールドに持ち込まれるとダイで詰まり易いと考えられる。
【0016】
特許文献5で開示されている方法では、炭素繊維シートの片面にしかマトリックス樹脂塗布ができないため、効率が低いものであった。
【0017】
このように、強化繊維シートへの効率的なマトリックス樹脂付与方法、特にUD基材を用いたプリプレグの効率的な製造方法は未だ確立されていなかった。
【0018】
本発明の課題は、プリプレグの製造方法に関して、毛羽発生を抑制し、かつ毛羽が詰まることなく連続生産が可能であり、さらに強化繊維シートにマトリックス樹脂を両面同時に塗布するとともに、効率よく含浸させ、生産速度の高速化が可能で、さらには、得られたプリプレグの折れなどが抑制され目付量が均一で外観および加工性に優れる、プリプレグの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前記の課題を解決する本発明のプリプレグの製造方法は、マトリックス樹脂が貯留された塗布部の内部に、強化繊維シートを実質的に鉛直方向下向きに通過させてマトリックス樹脂を強化繊維シートに付与し、その後、前記塗布部から引き出された1次プリプレグにさらに液体を吐出するスプレー塗布を行うプリプレグの製造方法であって、前記塗布部は互いに連通された液溜り部と前記液溜り部の下方に位置する狭窄部を備え、前記液溜り部は強化繊維シートの走行方向に沿って断面積が連続的に減少する部分を有し、前記狭窄部はスリット状の断面を有し、かつ液溜り部上面よりも小さい断面積を有する、プリプレグの製造方法である。
【0020】
また、マトリックス樹脂が貯留された塗布部の内部に、強化繊維シートを実質的に鉛直方向下向きに通過させてマトリックス樹脂を強化繊維シートに付与し、その後、前記塗布部から引き出された1次プリプレグにさらに液体を吐出するカーテン塗布を行うプリプレグの製造方法であって、前記塗布部は互いに連通された液溜り部と前記液溜り部の下方に位置する狭窄部を備え、前記液溜り部は強化繊維シートの走行方向に沿って断面積が連続的に減少する部分を有し、前記狭窄部はスリット状の断面を有し、かつ液溜り部上面よりも小さい断面積を有する、プリプレグの製造方法である。
【0021】
また、マトリックス樹脂が貯留された塗布部の内部に、強化繊維シートを実質的に鉛直方向下向きに通過させてマトリックス樹脂を強化繊維シートに付与するプリプレグの製造方法であって、前記塗布部は互いに連通された液溜り部と前記液溜り部の下方に位置する狭窄部を備え、前記液溜り部は強化繊維シートの走行方向に沿って断面積が連続的に減少する部分を有し、前記狭窄部はスリット状の断面を有し、かつ液溜り部上面よりも小さい断面積を有し、強化繊維シートを塗布部の内部に通過させる前に、強化繊維シートに糸割れ防止剤、靭性向上剤、難燃剤および毛羽集束剤からなる群から選ばれる少なくとも一つの改質剤を付与するプリプレグの製造方法である。
【0022】
また、本発明のプリプレグテープの製造方法は、前記のプリプレグの製造方法により得られたプリプレグをスリットすることを特徴とする。
【0023】
さらに、本発明の繊維強化複合材料の製造方法は、前記のプリプレグの製造方法により得られたプリプレグまたは前記のプリプレグテープの製造方法により得られたプリプレグテープを成形することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明のプリプレグの製造方法によれば、毛羽による詰まりを大幅に抑制、防止できる。さらに、強化繊維シートを連続かつ高速で走行させることが可能となりプリプレグの生産性が向上する。
【0025】
さらに、本発明の実施形態の一つでは、プリプレグの表面に別の物質が付与されたものとすることができるため、プリプレグ、またこれから得られるFRPの物性や機能性を向上することができる。また前記別の物質に代えてマトリックス樹脂と同じ樹脂を用いた場合には、工程安定性や品位を向上することができる。
【0026】
また、他の実施形態では、マトリックス樹脂を塗布する前の強化繊維シートに改質剤を付与することができるため、FRPの物性や機能性を向上することができるとともに、工程安定性や品位を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1a】本発明の第1の製造方法の一実施形態に係るプリプレグの製造方法および塗工装置を示す概略横断面図である。
図1b】本発明の第2の製造方法の一実施形態に係るプリプレグの製造方法および塗工装置を示す概略横断面図である。
図2図1a、図1bにおける塗布部20の部分を拡大した詳細横断面図である。
図3図2における塗布部20を、図2のAの方向から見た下面図である。
図4a図2における塗布部20を、図2のBの方向から見た場合の塗布部内部の構造を説明する断面図である。
図4b図4aにおける隙間26でのマトリックス樹脂2の流れを表す断面図である。
図5】幅規制機構の設置例を示す図である
図6図2とは別の実施形態の塗布部20bの詳細横断面図である。
図7図6とは別の実施形態の塗布部20cの詳細横断面図である。
図8図6とは別の実施形態の塗布部20dの詳細横断面図である。
図9図6とは別の実施形態の塗布部20eの詳細横断面図である。
図10】本発明とは異なる実施形態の塗布部30の詳細横断面図である。
図11】本発明の実施形態の一例である液溜まり部内にバーを具備した態様を示す図である。
図12】本発明で用いるスプレー塗布工程の例を示す概略図である。
図13】本発明で用いるスプレー塗布工程において、塗布高さhを低くした場合の吐出された液体やその固化物の紡糸挙動を説明する模式図である。
図14】本発明で用いるスプレー塗布工程において、塗布高さhを高くした場合の吐出された液体やその固化物の紡糸挙動を説明する模式図である。
図15】本発明で用いるカーテン塗布工程において、塗布角を90°とした場合の側面図である。
図16】本発明で用いるカーテン塗布工程において、塗布角をα°としてカーテン塗布装置を傾けた場合の側面図である。
図17】本発明で用いるカーテン塗布工程において、膜の端部の様子(気流制御有りの場合)を説明するための前面図である。
図18】本発明で用いるカーテン塗布工程近傍を上から見た上面図である。
図19】本発明で用いるカーテン塗布工程の膜の面部の様子(気流制御無しの場合)を説明するための側面図である。
図20】本発明で用いるカーテン塗布工程の膜の面部の様子(気流制御有りの場合)を説明するための側面図である。
図21】気流による制御手段が具備された本発明で用いるカーテン塗布装置の例を示す側面図である。
図22】本発明で用いるカーテン塗布工程において、ロール上に塗布する場合の側面図である。
図23】本発明の一実施形態に係る簡易含浸装置を具備する態様の例を示す図である。
図24】本発明の一実施形態に係る複数の塗布部を具備する態様の例を示す図である。
図25】本発明の一実施形態に係る複数のプリプレグを積層する態様の例を示す図である。
図26】本発明の一実施形態に係る複数の塗布部を具備する別の態様の例を示す図である。
図27】本発明の第1の製造方法を用いたプリプレグ製造工程・装置の例を示す概略図である。
図28】本発明の第1の製造方法を用いた別のプリプレグ製造工程・装置の例の概略図である。
図29a】本発明の第2の製造方法を用いたプリプレグ製造工程・装置の例を示す概略図である。
図29b】本発明の第2の製造方法を用いたプリプレグ製造工程・装置の例を示す概略図である。
図30】本発明の第2の製造方法を用いた別のプリプレグ製造工程・装置の例を示す概略図である。
図31】本発明の第2の製造方法を用いた別のプリプレグ製造工程・装置の例を示す概略図である。
図32】本発明の第2の製造方法を用いた別のプリプレグ製造工程・装置の例を示す概略図である。
図33】本発明の第2の製造方法を用いた別のプリプレグ製造工程・装置の例を示す概略図である。
図34】本発明の第2の製造方法を用いた別のプリプレグ製造工程・装置の例を示す概略図である。
図35a図29aにおける改質剤付与装置としてスプレー塗布を用いた例を示す概略図である。
図35b図35aの改質剤付与の様子を図35aのMの方向から見た概略図である。
図36a図29aにおける改質剤付与装置としてメルトブローを用いた例を示す概略図である。
図36b図36aの改質剤付与の様子を図36aのMの方向から見た概略図である。
図37a図29aにおける改質剤付与装置としてカーテン塗布を用いた例を示す概略図である。
図37b図37aの改質剤付与の様子を図37aのMの方向から見た概略図である。
図38a図37aとは別の実施形態の図29aにおける改質剤付与装置として面塗布装置を用いた例を示す概略図である。
図38b図38aの改質剤付与の様子を図38aのMの方向から見た概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の望ましい実施形態について、図面に基づいて説明する。なお、以下の説明は発明の実施形態を例示するものであり、本発明はこれに限定して解釈されるものではなく、本発明の目的・効果を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0029】
<プリプレグの製造方法の概略>
本発明では、強化繊維シートへのマトリックス樹脂の付与方法に特徴があるが、さらに、この工程の安定化、得られるプリプレグの機能性や品位向上のため、マトリックス樹脂の塗布・含浸の前後に、さらに樹脂や改質剤などを付与するものである。
【0030】
まず、図1aを参照して、マトリックス樹脂付与後に更に塗布を行う本発明の第1の製造方法の概略を述べる。図1aは本発明の第1の製造方法の一実施形態に係るプリプレグの製造方法および装置を示す概略断面図である。塗工装置100には、強化繊維シート1aを実質的に鉛直方向下向きZに走行させる走行機構である搬送ロール13、14と、搬送ロール13、14の間に設けられ、マトリックス樹脂2が溜められた塗布部20が具備されている。また、塗工装置100の前後には、強化繊維1を巻き出す複数のクリール11と、巻き出された強化繊維1を一方向に配列した強化繊維シート1a(図1aでは紙面奥行き方向に配列)を得る配列装置12とプリプレグ1cの巻取り装置15を備えることができ、また、図示していないが塗工装置100にはマトリックス樹脂の供給装置が具備されている。さらに、離型シート3aおよび3bを供給する供給装置16aおよび16bを備える。そして、1次プリプレグ1c形成後に、スプレー塗布装置41およびカーテン塗布装置42が配置されている。スプレー塗布装置41、カーテン塗布装置42はどちらか一方のみを使用してもよいし、両方を使用することもできる。また、両方を使用する場合には、スプレー塗布装置41とカーテン塗布装置42の順序は目的に応じて入れ替えが可能である。また、図1aにはスプレー塗布装置41、カーテン塗布装置42は1次プリプレグ1cの片面にしか描画していないが、これらは1次プリプレグ1cの両面に配置し、両面同時塗布することも可能である。
【0031】
次に、図1bを参照して、マトリックス樹脂の付与の前に改質剤の付与を行う本発明の第2の製造方法の概略を述べる。図1bは本発明の第2の製造方法の一実施形態に係る強化繊維シートとしてUD基材を用いた時のプリプレグの製造方法を示す概略断面図である。塗工装置100には、強化繊維シート1aを実質的に鉛直方向下向きZに走行させる走行機構である搬送ロール13と搬送ロール14の間に設けられ、塗布機構であるマトリックス樹脂2が溜められた塗布部20が具備されている。また、塗工装置100の前後には、強化繊維1を巻き出す複数のクリール11と、巻き出された強化繊維1を一方向に配列しUD基材とした強化繊維シート1a(図1bでは紙面奥行き方向に配列)を得る配列装置12と、改質剤を付与した強化繊維シート1bを得る改質剤付与装置28とプリプレグ1dの巻取り装置15を備えることができ、また、図示していないが塗工装置100にはマトリックス樹脂の供給装置が具備されている。さらに、必要に応じ、離型シート3を供給する離型シート供給装置16を備えることもできる。
【0032】
また、強化繊維シートとして強化繊維ファブリックを用いる場合、図1a、図1bのクリール11に代えて強化繊維ファブリックを巻き出す巻出し装置、配列装置12に代えて強化繊維ファブリックを引き出すニップロールを備えることで強化繊維ファブリックにマトリックス樹脂が含浸されたプリプレグを製造することができる。
【0033】
なお、図1a、図1bでは、強化繊維シートを塗布部に通過させる方向として、鉛直下向きの例を示したが、この方向は、水平方向であっても良く、また、水平面から傾斜した方向であってもよい。水平方向に通過させる場合は、必ずしも厳密に水平である必要は無く、水平面±5°の範囲から選択できる。
【0034】
<強化繊維シート>
ここで、強化繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、金属繊維、金属酸化物繊維、金属窒化物繊維、有機繊維(アラミド繊維、ポリベンゾオキサゾール繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエチレン繊維など)などを例示することができるが、炭素繊維を用いることが、FRPの力学特性、軽量性の観点から好ましい。
【0035】
強化繊維シートとしては、複数本の強化繊維を一方向に面上で配列させた一方向材(UD基材)や、強化繊維を多軸で配列させる、またはランダム配置してシート化した強化繊維ファブリックが挙げられる。
【0036】
UD基材を形成する方法は公知の方法を用いることができ、特に制限は無いが、単繊維をあらかじめ配列させた強化繊維束を形成し、この強化繊維束を更に配列させて強化繊維シートを形成させることが、工程効率化、配列均一化の観点から好ましい。例えば炭素繊維では、テープ状の強化繊維束である「トウ」がボビンに巻かれているが、ここから引き出されたテープ状の強化繊維束を配列させて強化繊維シートを得ることができる。また、クリールにかけられたボビンから引き出された強化繊維束を整然と並べ、強化繊維シート中で強化繊維束の望ましくない重なりや折りたたみ、強化繊維束間の隙間を無くするための強化繊維配列機構を有することが好ましい。強化繊維配列機構としては公知のローラーやくし型配列装置などを用いることができる。また、予め配列した強化繊維シートを複数枚重ねることも強化繊維間の隙間を減じる観点から有用である。なお、クリールには強化繊維を引き出す際に張力制御機構が付与されていることが好ましい。張力制御機構としては、公知のものを使用可能であるが、ブレーキ機構などが挙げられる。また、糸道ガイドの調整などによっても張力を制御することができる。
【0037】
一方、強化繊維ファブリックの具体例としては、織物や編物などの他、強化繊維を2次元で多軸配置したものや、不織布やマット、紙など強化繊維をランダム配向させたものを挙げることができる。この場合、強化繊維はバインダー付与、交絡、溶着、融着などの方法を利用してシート化することもできる。織物としては、平織、ツイル、サテンの基本織組織の他、ノンクリンプ織物やバイアス構造、絡み織、多軸織物、多重織物などを用いることができる。バイアス構造とUD基材を組み合わせた織物は、UD構造により塗布・含浸工程での引っ張りでの織物の変形を抑制するだけでなく、バイアス構造による擬似等方性も併せ持っており、好ましい形態である。また、多重織物では織物上面または下面、また織物内部の構造や特性をそれぞれ設計できる利点がある。編物では塗布・含浸工程での形状安定性を考慮すると経編が好ましいが、筒状編み物であるブレードを用いることもできる。
【0038】
これらの中で、FRPの力学特性を優先させる場合には、UD基材を用いることが好ましく、UD基材は、強化繊維を一方向にシート状に配列させる既知の方法により作製することができる。
【0039】
<強化繊維シートの平滑化>
本発明においては、強化繊維シートの表面平滑性を高くすることで、塗布部での塗布量の均一性を向上させることができる。このため、強化繊維シートを平滑化処理した後、液溜り部に導くことが好ましい。平滑化処理法は特に制限は無いが、対向ロールなどで物理的に押しつける方法や気流を用いて強化繊維を動かす方法などを例示できる。物理的に押しつける方法は簡便かつ、強化繊維の配列を乱しにくいため好ましい。より具体的にはカレンダー加工などを用いることができる。気流を用いる方法は擦過が起こりにくいだけでなく、強化繊維シートを拡幅する効果もあり好ましい。
【0040】
<強化繊維シートの拡幅>
また、本発明において、強化繊維シートを拡幅処理した後、液溜り部に導くことも、薄いプリプレグを効率的に製造できる観点から好ましい。拡幅処理方法は特に制限は無いが、機械的に振動を付与する方法、気流により強化繊維束を拡げる方法などを例示できる。機械的に振動を付与する方法としては、例えば特開2015-22799号公報記載のように、振動するロールに強化繊維シートを接触させる方法がある。振動方向としては、強化繊維シートの進行方向をX軸とすると、Y軸方向(水平方向)、Z軸方向(垂直方向)の振動を与えることが好ましく、水平方向振動ロールと垂直方向振動ロールを組み合わせて用いることも好ましい。また振動ロール表面は複数の突起を設けておくと、ロールでの強化繊維の擦過を抑制でき、好ましい。気流を用いる方法としては、例えば、SEN-I
GAKKAISHI,vol.64,P-262-267(2008).記載の方法を用いることができる。
【0041】
<強化繊維シートの予熱>
また、本発明において、強化繊維シートを加熱した後、液溜り部に導くと、マトリックス樹脂の温度低下を抑制し、マトリックス樹脂の粘度均一性を向上させられるため予熱を行うことが好ましい。強化繊維シートはマトリックス樹脂温度近傍まで加熱されることが好ましいが、このための加熱手段としては、空気加熱、赤外線加熱、遠赤外線加熱、レーザー加熱、接触加熱、熱媒加熱(スチームなど)など多様な手段を用いることができる。中でも赤外線加熱は装置が簡便であり、また強化繊維シートシートを直接加熱できるため、走行速度が速くても所望の温度まで効率よく加熱が可能であり、好ましい。
【0042】
<マトリックス樹脂>
本発明で用いるマトリックス樹脂は、後述する各種樹脂や粒子、硬化剤、更に各種添加剤を含む、樹脂組成物として用いることができる。本発明により得られるプリプレグは、強化繊維シートにマトリックス樹脂が含浸した状態となり、そのままシート状プリプレグとして積層、成形してFRPからなる部材を得ることができる。含浸度は、塗布部の設計や、塗布以降の追含浸により制御することができる。マトリックス樹脂としては、用途に応じ適宜選択可能であるが、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を用いることが一般的である。マトリックス樹脂は、加熱し溶融させた溶融樹脂でも室温でマトリックス樹脂のものでも良い。また、溶媒を用いて溶液やワニス化したものでも良い。
【0043】
マトリックス樹脂としては、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂などFRPに一般的に使用されるものを用いることができる。また、これらは室温で液体であればそのまま用いても良いし、室温で固体や粘稠液体であれば、加温して低粘度化する、あるいは溶融し融液として用いても良いし、溶媒に溶解し溶液やワニス化して用いても良い。
【0044】
熱可塑性樹脂としては、主鎖に、炭素・炭素結合、アミド結合、イミド結合、エステル結合、エーテル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、尿素結合、チオエーテル結合、スルホン結合、イミダゾール結合、カルボニル結合から選ばれる結合を有するポリマーを用いることができる。具体的には、ポリアクリレート、ポリオレフィン、ポリアミド(PA)、アラミド、ポリエステル、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、ポリアミドイミド(PAI)などを例示できる。航空機用途などの耐熱性が要求される分野では、PPS、PES、PI、PEI、PSU、PEEK、PEKK、PEAKなどが好適である。一方、産業用途や自動車用途などでは、成形効率を上げるため、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィンやPA、ポリエステル、PPSなどが好適である。これらはポリマーでも良いし、低粘度、低温塗布のため、オリゴマーやモノマーを用いても良い。もちろん、これらは目的に応じ、共重合されていても良いし、各種を混合しポリマーブレンドやポリマーアロイとして用いることもできる。
【0045】
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂、ポリイミド樹脂、アセチレン末端を有する樹脂、ビニル末端を有する樹脂、アリル末端を有する樹脂、ナジック酸末端を有する樹脂、シアン酸エステル末端を有する樹脂があげられる。これらは、一般に硬化剤や硬化触媒と組合せて用いることができる。また、適宜、これらの熱硬化性樹脂を混合して用いることも可能である。
【0046】
本発明に適した熱硬化性樹脂として、耐熱性、耐薬品性、力学特性に優れていることからエポキシ樹脂が好適に用いられる。特に、アミン類、フェノール類、炭素・炭素二重結合を有する化合物を前駆体とするエポキシ樹脂が好ましい。具体的には、アミン類を前駆体とするエポキシ樹脂として、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジル-p-アミノフェノール、トリグリシジル-m-アミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾールの各種異性体、フェノール類を前駆体とするエポキシ樹脂として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、炭素・炭素二重結合を有する化合物を前駆体とするエポキシ樹脂としては脂環式エポキシ樹脂等があげられるが、これに限定されない。またこれらのエポキシ樹脂をブロモ化したブロモ化エポキシ樹脂も用いられる。テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンに代表される芳香族アミンを前駆体とするエポキシ樹脂は耐熱性が良好で強化繊維との接着性が良好なため本発明に最も適している。
【0047】
熱硬化性樹脂は硬化剤と組合せて、好ましく用いられる。例えばエポキシ樹脂の場合には、硬化剤はエポキシ基と反応しうる活性基を有する化合物であればこれを用いることができる。好ましくは、アミノ基、酸無水物基、アジド基を有する化合物が適している。具体的には、ジシアンジアミド、ジアミノジフェニルスルホンの各種異性体、アミノ安息香酸エステル類が適している。具体的に説明すると、ジシアンジアミドはプリプレグの保存性に優れるため好んで用いられる。またジアミノジフェニルスルホンの各種異性体は、耐熱性の良好な硬化物を与えるため本発明には最も適している。アミノ安息香酸エステル類としては、トリメチレングリコールジ-p-アミノベンゾエートやネオペンチルグリコールジ-p-アミノベンゾエートが好んで用いられ、ジアミノジフェニルスルホンに比較して、耐熱性に劣るものの、引張強度に優れるため、用途に応じて選択して用いられる。また、もちろん必要に応じ硬化触媒を用いることも可能である。また、マトリックス樹脂のポットライフを向上させる意味から、硬化剤や硬化触媒と錯体形成可能な錯化剤を併用することも可能である。
【0048】
また本発明では、熱硬化性樹脂に熱可塑性樹脂を混合して用いることも好適である。熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂の混合物は、熱硬化性樹脂を単独で用いた場合より良好な結果を与える。これは、熱硬化性樹脂が、一般に脆い欠点を有しながらオートクレーブによる低圧成型が可能であるのに対して、熱可塑性樹脂が、一般に強靭である利点を有しながらオートクレーブによる低圧成型が困難であるという二律背反した特性を示すため、これらを混合して用いることで物性と成形性のバランスをとることができるためである。混合して用いる場合は、プリプレグを硬化させてなるFRPの力学特性の観点から熱硬化性樹脂を50質量%より多く含むことが好ましい。
【0049】
<無機粒子、有機粒子、ポリマー粒子>
また、本発明では、無機粒子や有機粒子をマトリックス樹脂や後述する樹脂フィルムに含有させることができる。無機粒子は特に制限されないが、例えば、導電性、伝熱性、チクソトロピー性などを付与するために、カーボン系粒子や窒化ホウ素粒子、二酸化チタン粒子、二酸化珪素粒子などを好適に用いることができる。有機粒子も特に制限されないが、特に、ポリマー粒子を用いると、得られるFRPの靱性や耐衝撃性、制振性などを向上させることができ、好ましい。この時、ポリマー粒子のガラス転移温度(Tg)または融点(Tm)はマトリックス樹脂温度よりも20℃以上高くすると、マトリックス樹脂中でポリマー粒子の形態を保持し易く、好ましい。ポリマー粒子のTgは温度変調DSCを用い、以下の条件で測定することができる。温度変調DSC装置としては、TA Instrments社製 Q1000などが好適であり、窒素雰囲気下、高純度インジウムで校正して用いることができる。測定条件は、昇温速度は2℃/分、温度変調条件は周期60秒、振幅1℃とすることができる。これで得られた全熱流から可逆成分を分離し、階段状シグナルの中点の温度をTgとすることができる。
【0050】
また、Tmは通常のDSCで昇温速度10℃/分で測定し、融解に相当するピーク状シグナルのピークトップ温度をTmとすることができる。
【0051】
また、ポリマー粒子としては、マトリックス樹脂に溶けないことが好ましく、このようなポリマー粒子としては、例えば、WO2009/142231パンフレット記載などを参照し、適切なものを用いることができる。より、具体的には、ポリアミドやポリイミドを好ましく用いることができ、優れた靭性のため耐衝撃性を大きく向上できる、ポリアミドは最も好ましい。ポリアミドとしてはポリアミド12、ポリアミド11、ポリアミド6、ポリアミド66やポリアミド6/12共重合体、特開平01-104624号公報の実施例1記載のエポキシ化合物にてセミIPN(高分子相互侵入網目構造)化されたポリアミド(セミIPNポリアミド)などを好適に用いることができる。この熱可塑性樹脂粒子の形状としては、球状粒子でも非球状粒子でも、また多孔質粒子でもよいが、球状の方が樹脂の流動特性を低下させないため、本発明の製造法では特に好ましい。また、球状であれば応力集中の起点がなく、高い耐衝撃性を与えるという点でも好ましい態様である。
【0052】
ポリアミド粒子の市販品としては、SP-500、SP-10、TR-1、TR-2、842P-48、842P-80(以上、東レ(株)製)、“オルガソール(登録商標)”1002D、2001UD、2001EXD、2002D、3202D、3501D,3502D、(以上、アルケマ(株)製)、“グリルアミド(登録商標)”TR90(エムザベルケ(株)社製)、“TROGAMID(登録商標)”CX7323、CX9701、CX9704、(デグサ(株)社製)等を使用することができる。これらのポリアミド粒子は、単独で使用しても複数を併用してもよい。
【0053】
また、FRPの強化繊維層間樹脂層を高靭性化するためには、ポリマー粒子を強化繊維層間樹脂層に留めておくことが好ましい。そのため、ポリマー粒子の数平均粒径は5~50μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは7~40μmの範囲、さらに好ましくは10~30μmの範囲である。数平均粒径を5μm以上とすることで、粒子が強化繊維の束の中に侵入せず、得られる繊維強化複合材料の強化繊維層間樹脂層に留まることができる。数平均粒径を50μm以下とすることで、プリプレグ表面のマトリックス樹脂層の厚みを適正化し、ひいては得られるFRPにおいて、繊維質量含有率を適正化することができる。
【0054】
<マトリックス樹脂の粘度>
本発明で用いるマトリックス樹脂としては、工程通過性・安定性の観点から最適な粘度を選択することが好ましい。具体的には、粘度を1~60Pa・sの範囲とすると、狭窄部出口での液垂れを抑制するとともに強化繊維シートの高速走行性、安定走行性を向上させることができ、好ましい。ここで、粘度は歪み速度3.14s-1で液溜り部でのマトリックス樹脂温度で測定したものを言う。測定装置としては平行円盤型やコーン型などの粘弾性測定装置を用いることができる。マトリックス樹脂の粘度はより好ましくは10~30Pa・sである。
【0055】
<マトリックス樹脂の塗布工程>
UD基材を例として、図1aを参照してマトリックス樹脂の塗布工程を説明すると、塗工装置100におけるマトリックス樹脂2を強化繊維シート1aに付与する方法は、クリール11から巻き出された複数本の強化繊維1を、配列装置12によって一方向(紙面奥行き方向)に配列して強化繊維シート1aを得た後、強化繊維シート1aを塗布部20に通過させて、強化繊維シート1aの両面にマトリックス樹脂2を付与するものである。これにより、1次プリプレグ1cを得ることができる。なお、本発明の第2の製造方法では、強化繊維シート1aを塗布部20に導入する前に改質剤の付与が行われている。
【0056】
次に図2~4により、強化繊維シート1aあるいは改質剤が付与された強化繊維シート1bへのマトリックス樹脂2の付与工程について詳述する。これは第1の製造方法と第2の製造方法で共通する工程であるため、第1の製造方法を例にとり記載する。図2は、図1aにおける塗布部20を拡大した詳細横断面図である。塗布部20は、所定の隙間Dを開けて対向する壁面部材21a、21bを備え、壁面部材21a、21bの間には、鉛直方向下向きZ(すなわち強化繊維シートの走行方向)に断面積が連続的に減少する液溜り部22と、液溜り部22の下方(強化繊維シート1aの搬出側)に位置し、液溜り部22の上面(強化繊維シート1aの導入側)の断面積よりも小さい断面積を有するスリット状の狭窄部23が形成されている。図2において、強化繊維シート1aは、紙面の奥行き方向に配列されている。
【0057】
塗布部20において、液溜り部22に導入された強化繊維シート1aは、その周囲のマトリックス樹脂2を随伴しながら、鉛直方向下向きZに走行する。その際、液溜り部22の断面積は鉛直方向下向きZ(強化繊維シート1aの走行方向)に向かって減少するため、随伴するマトリックス樹脂2は徐々に圧縮され、液溜り部22の下部に向かうにつれてマトリックス樹脂2の圧力が増大する。液溜り部22の下部の圧力が高くなると、前記随伴液流がそれ以上は下部に流動し難くなり、壁面部材21a、21b方向に流れ、その後、壁面部材21a、21bに阻まれ、上方へ流れるようになる。結果、液溜り部22内では強化繊維シート1aの平面と、壁面部材21a、21b壁面に沿った循環流Tを形成する。これにより、仮にシート状強化繊維1aが毛羽を液溜り部22に持ち込んだとしても毛羽は循環流Tに沿って運動し、液圧の大きな液溜り部22下部や狭窄部23に近づくことができない。さらに下で述べるとおり、気泡が毛羽に付着することにより毛羽が循環流Tから上方に移動し、液溜り部22の上部液面付近を通過する。そのため、毛羽が液溜り部22の下部および狭窄部23に詰まることが防止されるだけでなく、滞留する毛羽は液溜り部22の上部液面から容易に回収することも可能となる。さらに、強化繊維シート1aを高速で走行させた場合、前記の液圧はさらに増大するため、毛羽の排除効果がより高くなる。その結果、強化繊維シート1aにより高速でマトリックス樹脂2を付与することが可能となり、生産性が大きく向上する。
【0058】
また、前記の増大した液圧により、マトリックス樹脂2が強化繊維シート1aの内部に含浸しやすくなる効果がある。これは、強化繊維束のような多孔質体にマトリックス樹脂が含浸される際、その含浸度がマトリックス樹脂の圧力で増大する性質(ダルシーの法則)に基づく。これについても、強化繊維シート1aをより高速で走行させた場合、液圧がより増大することから、含浸効果をより高めることができる。なお、マトリックス樹脂2は強化繊維シート1aの内部に残留する気泡と気/液置換で含浸されるが、気泡は前記の液圧と浮力により強化繊維シート1aの内部の隙間を通って、繊維の配向方向(鉛直方向上向き)に排出される。このとき、気泡は含浸してくるマトリックス樹脂2を押しのけずに排出されるため、含浸を阻害しない効果もある。また、気泡の一部は強化繊維シート1aの表面から面外方向(法線方向)に排出されるが、この気泡も前記の液圧と浮力により速やかに鉛直方向上向きに排除されるため、含浸効果の高い液溜り部22の下部に留まらず、効率よく気泡の排出が進む効果もある。これらの効果により、強化繊維シート1aにマトリックス樹脂2を効率よく含浸させることが可能となり、その結果、マトリックス樹脂2が均一に含浸された高品質の1次プリプレグ1cを得ることが可能となる。
【0059】
さらに、前記の増大した液圧により、強化繊維シート1aが隙間Dの中央に自動的に調心され、強化繊維シート1aが液溜り部22や狭窄部23の壁面に直接擦過せず、ここでの毛羽発生を抑制する効果もある。これは、外乱などにより強化繊維シート1aが隙間Dのどちらかに接近した場合、接近した側ではより狭い隙間にマトリックス樹脂2が押し込まれて圧縮されるため、接近した側で液圧がより増大し、強化繊維シート1aを隙間Dの中央に押し戻すためである。
【0060】
狭窄部23は、液溜り部22の上面よりも断面積が小さく設計される。図2図4から理解されるとおり専ら強化繊維シートによる疑似平面の垂線方向の長さが小さい、すなわち部材間の間隔が狭くなる、ことで断面積は小さくなる。これは、前記のように狭窄部で液圧を高くすることで、含浸や自動調心効果を得るためである。また、狭窄部23の最上部の面の断面形状は、液溜り部22の最下部の面の断面形状と一致させることが、強化繊維シート1aの走行性やマトリックス樹脂2の流れ制御の観点から好ましいが、必要に応じ狭窄部23の方を若干大きくしてもよい。
【0061】
ここで、図2の塗布部20では、強化繊維シート1aが完全に鉛直方向下向き(水平面から90度)に走行しているが、これに限定されず、前記の毛羽回収、気泡の排出効果が得られ、強化繊維シート1aが安定して連続走行可能な範囲で、実質的に鉛直方向下向きであればよい。
【0062】
また、強化繊維シート1aに付与されるマトリックス樹脂2の総量は、狭窄部23の隙間Dで制御可能であり、例えば、強化繊維シート1aに付与するマトリックス樹脂2の総量を多くしたい(目付けを大きくしたい)場合は、隙間Dが広くなるよう、壁面部材21a、21bを設置すればよい。
【0063】
図3は、塗布部20を、図2のAの方向から見た下面図である。塗布部20には、強化繊維シート1aの配列方向両端からマトリックス樹脂2が漏れるのを防ぐための側壁部材24a、24bが設けられており、壁面部材21a、21bと側壁部材24a、24bに囲われた空間に狭窄部23の出口25が形成されている。ここで、出口25はスリット状をしており、断面アスペクト比(図3のY/D)はマトリックス樹脂2を付与したい強化繊維シート1aの形状に合わせて設定すればよい。
【0064】
図4aは塗布部20を、Bの方向から見た場合の塗布部内部の構造を説明する断面図である。なお、図を見やすくするため壁面部材21bは省略してあるほか、強化繊維シート1aは強化繊維1を、隙間を開けて配列しているように描画しているが、実際には強化繊維1を隙間無く配列することが、シート状プリプレグの品位、FRPの力学特性の観点から好ましい。
【0065】
図4bは隙間26でのマトリックス樹脂2の流れを示している。隙間26が大きいとマトリックス樹脂2には、Rの向きに渦流れが発生する。この渦流れRは、液溜り部22の下部では外側に向かう流れ(Ra)となるため、強化繊維シートを引き裂いてしまう(シート状繊維束の割れが発生する)場合や強化繊維間の間隔を拡げてしまい、そのためにプリプレグとしたときに強化繊維の配列ムラを発生する可能性がある。一方、液溜り部22の上部では、内側に向かう流れ(Rb)となるため、強化繊維シート1aが幅方向に圧縮され、その端部が折れてしまう場合がある。特許文献2(特許第3252278号公報)に代表されるような、一体物のシート状基材(特にフィルム)にマトリックス樹脂を両面塗布する装置ではこのような隙間26での渦流れが発生しても品質への影響が少ないため、注意がされていなかった。
【0066】
そこで、本発明においては、隙間26を小さくする幅規制を行い、端部での渦流れの発生を抑制することが好ましい。具体的には、液溜り部22の幅L、すなわち、側板部材24aと24bの間隔Lは、狭窄部23の直下で測定した1次プリプレグの幅Wと以下の関係を満たすよう構成することが好ましい。
L≦W+10(mm)
これにより、端部での渦流れ発生が抑制され、強化繊維シート1aの割れや端部折れを抑制でき、1次プリプレグ1cの全幅(W)にわたって均一に強化繊維1が配列された、高品位で安定性の高い1次プリプレグ1cを得ることができる。さらに、この技術をプリプレグに適用した場合には、プリプレグの品位、品質を向上させるのみならず、これを用いて得られるFRPの力学特性や品質を向上させることができる。LとWの関係はより好ましくは、L≦W+2(mm)とすると、さらに強化繊維シートの割れや端部折れを抑制することができる。
【0067】
また、Lの下限は、W-5(mm)以上となるよう調整することが、1次プリプレグ1cの幅方向寸法の均一性を向上させる観点から好ましい。
【0068】
なお、この幅規制は、液溜り部22下部の高い液圧による渦流れR発生を抑制する観点から、少なくとも液溜り部22の下部(図4aのGの位置)で行うことが好ましい。さらに、この幅規制はより好ましくは、液溜り部22の全域で行うと、渦流れRの発生をほぼ完全に抑制することができ、その結果、強化繊維シートの割れや端部折れをほぼ完全に抑制することが可能となる。
【0069】
また、前記幅規制は、前記隙間26の渦流れ抑制の観点からは、液溜り部22だけでもよいが、狭窄部23も同様に行うと1次プリプレグ1cの側面に過剰なマトリックス樹脂2が付与されることを抑制する観点から好ましい。
【0070】
<幅規制機構>
前記では幅規制を側壁部材24a、24bが担う場合を示したが、図5に示すように、側壁部材24a、24b間に幅規制機構27a、27bを設け、かかる機構で幅規制を行うこともできる。これにより、幅規制機構によって規制される幅を自在に変更可能とすることで一つの塗布部により、種々の幅のプリプレグを製造できる観点から好ましい。ここで、狭窄部の直下における強化繊維シートの幅(W)と該幅規制機構下端において幅規制機構により規制される幅(L2)との関係はL2≦W+10(mm)とすることが好ましく、より好ましくは、L2≦W+2(mm)である。また、L2の下限は、W-5(mm)以上、好ましくはW(mm)以上となるよう調整することが、プリプレグ1bの幅方向寸法の均一性を向上させる観点から好ましい。幅規制機構の形状および材質に特に制限は無いが、板形状のブッシュであると簡便であり、好ましい。また、上部、すなわち液面に近い場所では壁面部材21a、21bとの間隔よりも小さい幅(図5参照。「Z方向からみた図」中、幅規制機構の上下方向の長さを指す)を有することで、マトリックス樹脂の水平方向の流れを妨げないようにでき、好ましい。一方、幅規制機構の中間部から下部にかけては塗布部の内部形状に沿った形状とすることが液溜り部でのマトリックス樹脂の滞留を抑制でき、マトリックス樹脂の劣化を抑制できることから好ましい。この意味から、幅規制機構は狭窄部23まで挿入されることが好ましい。図5は、幅規制機構として板形状ブッシュの例を示しているが、ブッシュの中間より下部が液溜り部22のテーパー形状に沿い、狭窄部23まで挿入される例を示している。図5にはL2が液面から出口まで一定の例を示しているが、幅規制機構の目的を達成する範囲で部位によって規制する幅を変更してもよい。幅規制機構は任意の方法で塗布部20に固定することができるが、板形状ブッシュの場合には、上下方向で複数の部位で固定することで、高液圧による板形状ブッシュの変形による規制幅の変動を抑制することができる。例えば、上部はステーを用い、下部は塗布部に差し込むようにすると、幅規制機構による幅の規制が容易であり、好ましい。
【0071】
<液溜り部の形状>
前記で詳述したように、本発明においては、液溜り部22で強化繊維シートの走行方向に断面積が連続的に減少することで、強化繊維シートの走行方向に液圧を増大させることが重要であるが、ここで強化繊維シートの走行方向に断面積が連続的に減少するとは、走行方向に連続的に液圧を増大可能であれば、その形状には特に制限は無い。液溜り部の横断面図において、テーパー状(直線状)であったり、ラッパ状などのように曲線的な形態を示してもよい。また、断面積減少部は液溜り部全長にわたって連続してもよいし、本発明の目的、効果が得られる範囲であれば、一部に断面積が減少しない部分や逆に拡大する部分を含んでいてもよい。これらについて、以下に図6~9で例を挙げて詳述する。
【0072】
図6は、図2とは別の実施形態の塗布部20bの詳細横断面図である。液溜り部22を構成する壁面部材21c、21dの形状が異なる以外は、図2の塗布部20と同じである。図6の塗布部20bのように、液溜り部22が、鉛直方向下向きZに断面積が連続的に減少する領域22aと、断面積が減少しない領域22bに分かれていてもよい。このとき、断面積が連続的に減少する鉛直方向高さHは10mm以上であることが好ましい。さらに好ましい断面積が連続的に減少する鉛直方向高さHは50mm以上である。これにより、強化繊維シート1aによって随伴されたマトリックス樹脂2が、液溜まり部22の断面積が連続的に減少する領域22aで圧縮される距離が確保され、液溜り部22の下部で発生する液圧を十分に増大させることができる。その結果、液圧により毛羽が狭窄部23に詰まるのを防止し、また液圧によりマトリックス樹脂2が強化繊維シート1aに含浸する効果を得ることができる。なお、塗布部において強化繊維シートが水平方向あるいは傾斜方向に通過される場合にあっては、「鉛直方向」は「水平方向」あるいは「傾斜方向」と読み替え、「高さ」は「液溜まり部出口(すなわち、液溜まり部と狭窄部との境界面)からの距離」と読み替えるものとする。
【0073】
ここで、図2の塗布部20や図6の塗布部20bのように、液溜り部22の断面積が連続的に減少する領域22aをテーパー状とする場合、テーパーの開き角度θは小さい方が好ましく、具体的には鋭角(90°以下)にすることが好ましい。これにより、液溜り部22の断面積が連続的に減少する領域22a(テーパー部)でマトリックス樹脂2の圧縮効果を高め、高い液圧を得やすくすることができる。
【0074】
図7は、図6とは別の実施形態の塗布部20cの詳細横断面図である。液溜り部22を構成する壁面部材21e、21fの形状が2段テーパー状となっている以外は、図6の塗布部20bと同じである。このように、液溜り部22の断面積が連続的に減少する領域22aを2段以上の多段テーパー部で構成してもよい。このとき、狭窄部23に最も近いテーパー部の開き角度θを鋭角にするのが、前記の圧縮効果を高める観点から好ましい。またこの場合も、液溜り部22の断面積が連続的に減少する領域22aの高さHを10mm以上にすることが好ましい。さらに好ましい断面積が連続的に減少する鉛直方向高さHは50mm以上である。図7のように液溜り部22の断面積が連続的に減少する領域22aを多段のテーパー部にすることで、液溜り部22に貯留できるマトリックス樹脂2の体積を維持しつつ、狭窄部23に最も近いテーパー部の角度θをより小さくすることができる。これにより液溜り部22の下部で発生する液圧がより高くなり、毛羽の排除効果やマトリックス樹脂2の含浸効果をさらに高めることが可能となる。
【0075】
図8は、図6とは別の実施形態の塗布部20dの詳細横断面図である。液溜り部22を構成する壁面部材21g、21hの形状が階段状となっている以外は、図6の塗布部20bと同じである。このように、液溜り部22の最下部に断面積が連続的に減少する領域22aがあれば、本発明の目的である液圧の増大効果は得られるため、液溜り部22の他の部分に断面積が断続的に減少する領域22cを含んでいてもよい。液溜り部22を図8のような形状にすることで、断面積が連続的に減少する領域22aの形状を維持しつつ、液溜り部22の奥行きBを拡大して貯留できるマトリックス樹脂2の体積を大きくすることができる。その結果、塗布部20dにマトリックス樹脂2を連続して供給できない場合でも、長時間強化繊維シート1aにマトリックス樹脂2を付与し続けることが可能となり、プリプレグの生産性がより向上する。
【0076】
図9は、図6とは別の実施形態の塗布部20eの詳細横断面図である。液溜り部22を構成する壁面部材21i、21jの形状がラッパ状(曲線状)となっている以外は、図6の塗布部20bと同じである。図6の塗布部20bでは、液溜り部22の断面積が連続的に減少する領域22aはテーパー状(直線状)だが、これに限定されず、例えば図9のようにラッパ状(曲線状)でもよい。ただし、液溜り部22の下部と、狭窄部23の上部は滑らかに接続することが好ましい。これは、液溜り部22の下部と、狭窄部23の上部の境界に段差があると、強化繊維シート1aが段差に引っ掛かり、この部分で毛羽が発生する懸念があるためである。また、このように液溜り部22の断面積が連続的に減少する領域をラッパ状とする場合は、液溜り部22の断面積が連続的に減少する領域22aの最下部における仮想接線の開き角度θを鋭角にするのが好ましい。
【0077】
なお、上記は滑らかに断面積が減少する例をあげて説明したが、本発明の目的を損なわない限り、本発明において液溜まり部の断面積は必ずしも滑らかに減少しなくともよい。
【0078】
図10は本発明とは別の実施形態の塗布部30の詳細横断面図である。本発明の実施形態とは異なり、図10の液溜り部32は鉛直方向下向きZに断面積が連続的に減少する領域を含まず、狭窄部23との境界33で断面積が不連続で急激に減少する構成である。このため、強化繊維シート1aが詰まり易い。
【0079】
また、塗布部内で強化繊維シートを複数本のバーに接触させることで含浸効果を向上させることも可能である。図11にバー(35a、35bおよび35c)を3本用いた例を示しているが、バーは本数が大きいほど、強化繊維シートとバーの接触長が長いほど、接触角が大きいほど、含浸率を向上させることができる。図11の例では含浸率を90%以上とすることが可能である。なお、係る含浸効果の向上手段は複数種を組み合わせて用いても良い。
【0080】
<スプレー塗布工程>
次に、第1の製造方法において用いられる、1次プリプレグ形成後のスプレー塗布を行う工程について詳述する。なお、第2の製造方法において、改質剤を付与する手段としてスプレー塗布を用いることもできるが、このときは、強化繊維シート上に塗布することになる。本発明で言うスプレー塗布工程とは、液体を吐出部から吐出し、吐出された液体を気流または電気力線により導き、連続的に搬送されるシート上で吐出された液体を捕集する工程のことを言う。気流を用いる方法としてはメルトブローやスパンボンド等を挙げることができる。これらの方法については、例えば、「最新の紡糸技術」、繊維学会編集、高分子刊行会、p123~p127(メルトブロー法)、p118~123(スパンボンド法)、(1992年)に記載されている。本塗布法では、装置が比較的簡便である。また、電気力線を用いる方法としては、エレクトロスピニング法やエレクトロスプレー法を挙げることができる。これらの方法については、例えば、「ナノファイバーテクノロジー」、CMC出版、p113~118に記載されている。本塗布法では、塗布方向は電気力線によって決められるため、上から下のみならず、下から上や水平方向にも塗布可能であり、塗布面の選択や1次プリプレグの搬送方向(上から下、水平方向、下から上など)の設定に自由度が生まれる。
【0081】
吐出する液体は常温で固体であれば、加熱をして溶融させたり、溶媒に溶解して液体化することができる。また、常温で液体であっても溶媒を加えて希釈することも可能である。さらに、液体には前記した無機粒子や有機粒子、ポリマー粒子などの固形物を含有させることもできる。
【0082】
以下、気流を用いたスプレー塗布方法について詳述する。
【0083】
本スプレー塗布方法では、メルトブロー法のように、口金孔を幅方向に1列から数列並べ、液体を吐出する箇所付近で、加温された気流を作用させることが好ましい。この時、図12に示したように、幅方向に並べた口金孔列の前後から気流44を作用させることが塗布安定性の観点から好ましい。また、気流の温度、流量、流速、方向を調整することにより、吐出された液体やその固化物46の紡糸性や冷却を制御可能である。メルトブロー法は通常、熱可塑性樹脂の短繊維不織布の製造に用いられており、低粘度樹脂に高速気流を作用させ、口金孔から吐出した樹脂を吹き飛ばして短繊維化している。ここで得られる樹脂繊維の繊維直径は1μm~数十μmとばらつきが大きいものである。本発明では樹脂の目付け均一性を向上させる観点から、なるべく繊維直径ばらつきも小さくし、さらに短繊維ではなく連続繊維化、すなわち長繊維化することが好ましい。通常のポリエステル不織布において採用されるメルトブロー法での製造条件の設定は超極細繊維を得るために、樹脂粘度を超低粘度とし、かつ吐出したポリマーに随伴させる空気の気流速度も高く設定しているが、本発明においては1次プリプレグ1b上に均一に液体やその固化物46を付与することを目的として吐出条件や随伴させる気流速度等が調整される。かかる観点から、スプレー塗布装置での液体の粘度は1~60Pa・sとすることが好ましい。液体の粘度は歪み速度3.14sec-1で測定した値を使用できる。一方、気流速度については、吐出された液体19の繊維化状況を見ながら決定することができる。
【0084】
なお、吐出された液体やその固化物46が繊維状に賦形されているかは、例えば、スプレー塗布装置41から1次プリプレグ1cに達する繊維状に賦形された液体やその固化物46の経路(紡糸線)の動きを高速度ビデオカメラで撮影し、それを観察することで判断することができる。連続繊維化している場合には、繊維状に賦形された液体やその固化物46の動きが紡糸線上流と下流でリンクして揺動しているように観察される。また、1次プリプレグ1c上で捕集された液体の固化物を観察すると長繊維不織布状になっていると、連続繊維化していると判断することができる。また、短繊維の場合にも1次プリプレグ1c上で捕集された液体の固化物を観察し、短繊維不織布状になっていると繊維化していると判断できる。本発明においては捕集された繊維状に賦形された液体の固化物の繊維長が1cm以上であることが好ましく、10cm以上であるとより好ましく、連続繊維化されていることが更に好ましい。また、前記したように一方、連続繊維化せず液滴として飛び散っている場合には1次プリプレグ1c上で捕集された液体やその固化物は液滴形状となる。また、前記した高速度ビデオカメラで観察してもが紡糸線上流と下流でリンクして動いているように観察され難い。
【0085】
本発明では吐出された液体やその固化物は繊維状に賦形されて1次プリプレグ上に捕集すると、液体やその固化物の目付のムラを抑制でき、プリプレグとしての品位を良好にできるため好ましい。また、装置の周囲を液体やその固化物によって汚すことも少なくできるメリットもある。なお、吐出された液体やその固化物が液滴となる場合、特に液滴サイズが数μm~数百μmの微小液滴の場合には、液滴質量が小さいため飛散し易く、また連続繊維の場合とは異なり液滴の飛散を繋ぎとめる機構が無いため、汚れが発生し易くなると考えられる。
【0086】
本発明において、液体が加温されている場合には、液体は吐出された後、1次プリプレグに向けて冷却され、粘度、剛性が増加していく。特に連続繊維化される場合には、冷却により粘度、剛性が増加すると、繊維状に賦形された液体やその固化物が1次プリプレグに到達するまでの経路が、気流により大きく影響を受けるようになる。図13において、1次プリプレグ1bから液体の吐出部であるスプレー塗布装置41の下面(口金)までの高さh(紡糸長に相当。以下、塗布高さと呼ぶ)が低いと、繊維状に賦形された液体やその固化物46が低粘度・低剛性の状態で1次プリプレグ1cに到達し、気流により繊維状に賦形された液体やその固化物46の到達経路(紡糸線に相当)が影響を受け難いので、繊維状に賦形された液体やその固化物46が紡糸線途中で交差・交絡したり、1次プリプレグ1c上で水平方向に流されたりすることが少なく、紡糸線が直線状となる。このため、繊維状に賦形された液体やその固化46同士の間隔がほぼ等間隔となり、液体やその固化物46の幅方向の目付け均一性が向上する。一方、図14のように塗布高さhが高い場合には、1次プリプレグ1cに到達する前に繊維状に賦形された液体やその固化物46が高粘度・高剛性化するため気流により流され易くなり、紡糸線の途中で繊維状に賦形された液体やその固化物46が交差・交絡したり、1次プリプレグ1c上で水平方向に流され易くなったりする場合がある。このため、塗布高さhは1~100mmとすると樹脂の目付け均一性が向上し、好ましい。より好ましくは70mm以下である。一方、塗布高さhは25mm以上であると、1次プリプレグ1b上での気流の乱れが抑制されるため、液体やその固化物46の液滴や繊維の飛散が抑制され、塗布工程付近の樹脂汚れを抑制でき、より好ましい。
【0087】
また、吐出された液体は繊維化、特に連続繊維化されると、気流による飛散が抑制され、塗布工程付近の液体やその固化物汚れを抑制でき、好ましい。
【0088】
また、上記したように吐出された繊維状に賦形された液体やその固化物は紡糸線下流でも低粘度および/または低剛性を保持できる方が気流の影響を受け難い。このため、液体やその固化物質量や繊維比表面積により繊維状に賦形された液体やその固化物の冷却速度を制御し、気流の影響を受け難くできる場合がある。このため、液体の単孔吐出量や単孔吐出面積を調整することができる。また、低粘度液体の使用、吐出する液体温度の高温化により低粘度化しても、気流の影響を受け難くできる場合がある。液体として熱硬化性樹脂では適用できる樹脂温度上限に制約があるので、樹脂粘度が高い場合には、上記したように、単孔吐出量や単孔吐出面積を調整することも有効である。また、吐出された樹脂に作用させる気流の温度、流量、流速によっても繊維状に賦形された樹脂の冷却や細化過程を調整できるため、これらの工程パラメータも適宜組み合わせることができる。気流の流速や流量は、工業的な生産装置では供給する空気の圧力で調整する場合がある。
【0089】
また、本発明では、1次プリプレグが実質的に平面状に搬送されている領域において吐出された液体やその固化物を捕集すると、特許文献5記載のように強化繊維シートが下方に湾曲することに起因する種々の問題を解決することができる。なお、ここで、実質的に平面状に搬送されている領域とは、図12に示されるように液体やその固化物46の捕集部付近で1次プリプレグ1cが長手方向に実質的に直線状に搬送されている領域をいう。これは図12においては、強化繊維の水平配列方向、すなわち手前から奥から見た時に、液体やその固化物46の捕集部付近で搬送される1次プリプレグ1cが実質的に直線状に見えることを意味している。本発明において、スプレー塗布工程で下向き空気流が有っても1次プリプレグが下方向に湾曲しないようにする具体的方法については、特に制限は無いが、例えば図12に示したように、塗布工程で1次プリプレグ1c下部に、これを支持できる物(図12ではテーブル45を例示)を配置することが有効である。また、1次プリプレグに適切な張力をかけて搬送することが強化繊維の配列を保持する観点から好ましい。
【0090】
<カーテン塗布工程>
次に、1次プリプレグ形成後のカーテン塗布工程について詳述する。ここで、カーテン塗布とは液体を面状に吐出して、これが吐出された空間において膜状物を形成し、塗布されることを意味し、膜は液体のままでも半固化や固化されていても良い。このため、本発明では非接触塗布であるため、塗布ヘッドを押し付ける方法に比べ、擦過に起因する種々の問題を解決することができる。なお、第2の製造方法において、改質剤を付与する手段としてカーテン塗布を用いることもできるが、このときは、強化繊維シート上に塗布することになる。
【0091】
次に本発明では、液体の吐出方向と1次プリプレグの搬送方向の成す角度(この角度を便宜的に「塗布角」と称することがある)を80°以下とすることが好ましい。図15には、1次プリプレグ1cの搬送方向を水平方向とした時の一般的な塗布方法を示しているが、液体の吐出方向と1次プリプレグ1cの搬送方向の成す角度は90°である。本発明者らが、熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂など)を用いて実験を行ったところ、液体の吐出方向と1次プリプレグの搬送方向の成す角度を90°とすると搬送速度を高くして塗布することが難しい場合があった。なお、塗布装置を1次プリプレグに押し付けている場合には、空中での膜の形成がないため、このような問題は発生しないと考えられる。しかしながら、図16に示したように液体の吐出方向と1次プリプレグ1cの搬送方向の成す角度を80°以下とすることで、液体を面状に吐出して膜47を形成させる場合であっても、安定して高速で塗布できることを本発明者らは見出したのである。塗布角αは小さい方が安定して高速で塗布でき、好ましい。ただし、塗布角αが小さくなると塗布ヘッドの大きさが1次プリプレグの搬送工程に干渉し易くなるため、装置上の制約が生じる場合がある。この観点から、塗布角αは30~70°とすることが好ましい。
【0092】
図16に示した、吐出線中心と1次プリプレグ1cとの距離である塗布高さhは3mm以上とすることで、カーテン塗布装置42の口金への液溜りによる口金汚れを抑制し、塗布安定性を向上できるため好ましい。また、18mm以下とすることで膜の形成が安定化するため好ましい。
【0093】
カーテン塗布装置は、面状に液体の吐出が可能な装置であればよい。より詳細に説明すると、好適な例として、液体を吐出する口金から、幅方向に厚みが均一な液体が吐出され、面あるいはカーテン状の膜を形成できる装置である。一般的には、ダイコーターとよばれるものを使用可能であり、厚みが均一で間欠のないスリットから液体を吐出できる構造を用いることができる。また、カーテン塗布装置は吐出直前に液体を加熱し、任意の粘度に調整できる加熱機構を有することが好ましい。特に液体として硬化性樹脂を用いる場合、保管時の樹脂の熱履歴による劣化、粘度上昇、暴走反応の危険性があることから、樹脂の加温時間を短くし、かつ適切な温度管理を行うことが好ましい。なお、カーテン塗布装置での液体の粘度は1~60Pa・sとすることが好ましい。液体の粘度は歪み速度3.14sec-1で測定した値を使用できる。
【0094】
また、本発明では、液体が吐出された空間において膜は自由表面を有することとなるので、膜形状が変形し易い。例えば、膜の端部がいわゆる「ネックイン」により幅方向での縮退を発生したり、1次プリプレグが高速で搬送された際に膜全体が引っ張られる等により、膜の形成が不安定になったり、膜の目付けの均一性が損なわれる場合がある。このため、気流を膜の幅方向の端部に作用させ、膜形成を安定化することが好ましい。
【0095】
膜は、引っ張り方向に対して垂直方向に膜の端部が膜の中心方向に引き込まれて膜の幅が縮小する「ネックイン」という現象が発生する(図17参照。Nで示された分、膜47の幅が減少している)。この現象は特に、膜を形成する液体やその固化物の粘度が高いときや、引っ張り速度が速いときなど、膜に高張力がかかる時に発生し易いと考えられる。特に本発明のプリプレグの製造方法によって高速で膜の形成を行う場合にはネックインを抑制することが好ましい。このため、本発明では、膜前面から端部に向けて気流(端部エア48)を作用させて、例えば吹き付けて(図17図18参照)、膜端部を拡げるにようにすることが好ましい。このための気流を本発明では端部エアと呼ぶ。端部エアを作用させる手段としては一般的に金属管やノズルを用いることができる。端部エアの気流速度、流量、角度、位置、温度はネックインや樹脂膜の形成が安定して行われるかなどを考慮し、適切に選ぶことが好ましい。また、端部エアは膜を塗布する際に用いることができる。塗布する際とは、口金から液体を吐出し始める前、口金から液体の吐出を開始するとき、口金から液体を吐出する間、膜が形成され、膜が1次プリプレグに塗布される間など適宜選択して適用することができる。
【0096】
また、図19に示したように膜の引っ張り方向、すなわちプリプレグ搬送方向へ膜が過度に引っ張られる場合が有るが、この時には、例えば、図20のように膜前面から膜47の全面またはほぼ全面に向けて気流(面部エア47)を吹き付け、膜47が1次プリプレグ1cに接触する位置をカーテン塗布装置側に近づけることが好ましい。このための気流を本発明では面部エアと呼ぶ。面部エアの気流速度、流量、角度、位置、温度は膜の形成が安定して行われるかなどを考慮し、適切に選ぶことが好ましい。面部エアを付与する手段としては一般的にスリット状または線上に多孔が配列されたノズルを用いることができる。また、端部エア、面部エアとも付与装置はカーテン塗布装置に備えることが、装置をコンパクトにでき、また、取り扱い性の観点から好ましい(図21参照)。また、膜の面部への作用については、膜の背面側から空気を吸引することによっても膜が1次プリプレグに接触する位置を塗布部側に近づけることができる。
【0097】
以上は1次プリプレグが水平に搬送される場合を示したが、図22に示すように、カーテン塗布はロール上の1次プリプレグに施すこともできる。この時には、膜47とロール50上の1次プリプレグ1bが接する時の接線と吐出方向の成す角を「塗布角」とすることができる。
【0098】
<第1の製造方法における、スプレー塗布、カーテン塗布で塗布する液体>
本発明の第1の製造方法において、スプレー塗布、カーテン塗布を用いて1次プリプレグに塗布する液体については、特に制限は無く、目的に合わせて適宜選択することができる。例えば、前記したマトリックス樹脂を用いることができる。また、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を単独で用いることもできるし、硬化剤や各種添加剤を単独で用いることもできる。さらに、前記した無機粒子や有機粒子、ポリマー粒子などの固形物を液体に含有させることもできる。また、これらのものは目的に応じて、加温や溶媒を加えることでスプレー塗布やカーテン塗布に適切な粘度に調整することができる。
【0099】
例えば、プリプレグ表面にタック性を付与したい場合には、液状エポキシ樹脂やウレタン樹脂、ゴム等のタック性を付与できる物質を所望のタック性になるよう適宜調整して用いることができる。また、1次プリプレグを形成させる時に用いるマトリックス樹脂から硬化剤の一部または全部を抜き出し、改めてスプレー塗布やカーテン塗布で付与することもできる。こうすることで、1次プリプレグを形成させる時に用いるマトリックス樹脂を低粘度化でき、工程安定性を向上させたり、製造速度を高速化することができる。また、1次プリプレグを形成させる時に用いるマトリックス樹脂から粒子の一部または全部を抜き出し、改めてスプレー塗布やカーテン塗布で付与することもできる。こうすることで、1次プリプレグを形成させる時に用いるマトリックス樹脂を低粘度化でき、工程安定性を向上させたり、製造速度を高速化することができる。このとき粒子は、適切な液体とサスペンジョンを形成させたり、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂に含有させて用いることができる。また、こうすることでプリプレグ表面に選択的に粒子を配置することが可能となり、強化繊維層と強化繊維層の層間に粒子を選択的に配置することができる。また、常温で固体となる液体を用いることで、プリプレグ表面の凹凸(粗度)を調整することも可能であり、これにより真空圧成形性などを向上することもできる。
【0100】
<第2の製造方法における、改質剤の付与>
本発明の第2の製造方法においては、塗布部に導入する前の強化繊維シート1aに対し、改質剤を付与する。
【0101】
(改質剤)
改質剤とは、糸割れ防止剤、靭性向上剤、難燃剤および毛羽集束剤からなる群から選ばれる薬剤を総称したものであり、プリプレグの品位や機能性を向上させることができる薬剤である。付与する改質剤はこれらの群から一つの改質剤を選択して付与することもできるし、複数の改質剤を併用して用いることや、混合して用いることももちろん可能である。各改質剤について詳細に説明する。
【0102】
(糸割れ防止剤)
糸割れ防止剤とは、プリプレグの重要な品位である幅方向の目付け均一性を高める薬剤である。糸割れについて図1bを用い説明する。炭素繊維を強化繊維1として用いる場合、強化繊維シート1aはトウを配列させて得ることができるが、この強化繊維シート1aが配列装置12から塗布部20まで搬送される間に、隣接するトウとトウの間が割れることがある。これを糸割れと称する。この糸割れした強化繊維シートをマトリックス樹脂2に通すと、得られるプリプレグ1cは幅方向に強化繊維がない品位不良が生じ、幅方向の目付け均一性が低下することがある。特にプリプレグ1cの強化繊維配列方向に対し幅方向に強化繊維がない部分の幅が2mm以上であるとき、品位不良と判定する。この糸割れは、塗布部20を通過する前の強化繊維シート1aに糸割れ防止剤を付与することで、改善または解消することができる。糸割れ防止剤はトウとトウの間を繋ぐ、あるいは掛け渡すように付与する薬剤のことである。糸割れ防止剤の付与により、トウの幅方向への移動を拘束あるいは抑制することで、強化繊維シートを実質的に一体化でき、結果としてトウとトウの間の糸割れを抑制できるものである。付与する糸割れ防止剤の成分は、トウとトウの間の糸割れを抑制できるものであれば特に限定されない。糸割れ防止剤は後に説明する塗布部20で塗布するマトリックス樹脂2、マトリックス樹脂2に含まれる成分またはその成分から選択されたものの組み合わせたものであるとき、最終的に得られるプリプレグを積層、硬化させたCFRPの機械特性が大きく低下せず好ましい。具体的な成分としては、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂の硬化剤、熱可塑性樹脂から選択され混合された混合物も好ましく、得られるプリプレグを積層、硬化させたCFRPの耐熱性、耐薬品性、力学特性に優れる。付与する糸割れ防止剤の成分の具体例としては、低粘度な樹脂が好ましく、付与する際の溶融に必要な加熱を省略・簡略化できたり、塗布時あるいは追含浸時の含浸度を高めることができる。ここでいう低粘度とは、40℃において歪み速度3.14s-1で測定したときの粘度が4000Pa・s以下のものをいう。測定装置としては平行円盤型やコーン型などの粘弾性測定装置を用いることができる。
【0103】
(靭性向上剤)
靭性向上剤とは、付与することで得られるプリプレグを積層、硬化してなるCFRPの靭性や耐衝撃性を高めることができる薬剤である。靭性向上剤をマトリックス樹脂に進入する前の強化繊維シートに付与することで、強化繊維シート表層に靭性向上成分を付与することができ、CFRPの靭性を高められ、さらには糸割れ防止剤としての役割を同時に達成することも可能である。付与する靭性向上剤の成分としては、ポリアミドやポリイミドが好ましく、優れた靭性のため耐衝撃性を高めることができる。また、高い耐熱性を付与するという観点からは、Tgは180℃以上のものが好ましく、分子内に芳香環を有することが好ましい。具体的にはポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホンなどが好ましく用いられる。靭性向上剤としては、これら成分を溶融して付与することもできるし、粒子状としたものを樹脂に混練し用いることも可能である。
【0104】
(難燃材)
難燃剤とは、付与することでCFRPの難燃性を向上させることができる薬剤であり、特に航空機や車両等の構造部材、建築材料で必要とされる特性である。難燃剤をマトリックス樹脂に進入する前の強化繊維シートに付与することで、強化繊維シート表層に難燃剤を付与することで、CFRPの難燃性を付与することができる。本発明で用いる難燃剤としては、一般に公知の難燃剤を混練した樹脂を用いることができる。例えば金属水酸化物、金属酸化物、赤リン、リン酸エステル、リン酸塩などのリン原子含有化合物、窒素含有化合物、三酸化アンチモンなどを混練した樹脂を用いることができる。
【0105】
(毛羽集束剤)
毛羽集束剤とは、付与することで強化繊維シートの面外方向に飛び出た毛羽を強化繊維シートに一体化させる薬剤である。強化繊維シートの面外方向に飛び出た毛羽がある場合、塗布部の狭窄部を通過する際、毛羽が切れ、塗布部に貯留するマトリックス樹脂中に堆積することがある。あらかじめ塗布部に進入する前の強化繊維シートに毛羽集束剤を付与することで、塗布部内で強化繊維シートから飛び出た毛羽が狭窄部で切れ、塗布部に貯留するマトリックス樹脂中に毛羽が滞留することを抑制でき、さらには糸割れ防止剤としての役割を同時に達成することも可能である。付与する毛羽集束剤の成分は特に問わないが、毛羽防止剤は後に説明する塗布部20で塗布するマトリックス樹脂2、マトリックス樹脂2に含まれる成分またはその成分から選択されたものの組み合わせたものであるとき、最終的に得られるプリプレグを積層、硬化させたCFRPの機械特性が大きく低下せず、塗布部に堆積する毛羽の発生を抑制でき好ましい。具体的な成分としては、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂の硬化剤、熱可塑性樹脂から選択され混合された混合物も好ましく、得られるプリプレグを積層、硬化させたCFRPの耐熱性、耐薬品性、力学特性に優れる。付与する毛羽集束剤の成分の具体例としては、低粘度な樹脂が好ましく、付与する際の溶融に必要な加熱を省略・簡略化できたり、塗布時あるいは追含浸時の含浸度を高めることができる。ここでいう低粘度とは、40℃において歪み速度3.14s-1で測定したときの粘度が4000Pa・s以下のものをいう。測定装置としては平行円盤型やコーン型などの粘弾性測定装置を用いることができる。
【0106】
(改質剤の付与方法)
改質剤の付与方法としては、特に限定されず種々の方法を用いることができるが、強化繊維シートとの擦過で生じる毛羽による連続生産性の低下、強化繊維の配列性や直進性の乱れを抑制できることから、強化繊維シートに対し非接触の塗布方法が好ましい。例えば、前記したスプレー塗布(メルトブローを含む)、カーテン塗布を用いることができる。
【0107】
(付与する改質剤の目付)
付与する改質剤の両面合わせた目付(強化繊維シート1aに付与される単位面積あたりの改質剤の質量)は、20g/m以下であることが好ましい。この範囲であるとき、工程安定性やプリプレグの品質、品位、機能性が得られるとともに、最終的に得られるプリプレグを積層、硬化させたCFRPの機械特性の大きな低下を抑制することができる。
【0108】
(改質剤の長手方向の付与間隔)
スプレー塗布ヘッドの幅が強化繊維シート幅方向の幅に比べて狭い場合、スプレー塗布ヘッドを幅方向にトラバースさせることもできる。この場合、スプレー塗布が強化繊維シート上でジグザグ形状となることがあるため、強化繊維シートの走行方向に対し、改質剤の付与が間欠的になる場合がある。このとき、改質剤の長手方向の付与間隔(改質剤の付与がスプレー塗布による場合はスプレー塗布間隔ともいう)は最大30mm以内であることが好ましく、この範囲であるとき改質剤による効果を得やすい。なお、付与間隔が最大30mm以内とは、改質剤が付与された強化シートを100cm(走行方向)×10cm(幅方向)で強化繊維シートの両端付近および中央付近の3箇所で観察した時に、いずれの観察箇所でも、改質剤が付与されていない部分が走行方向において30mmを超える距離が開いている箇所が存在していないことをいう。広幅スプレー塗布ヘッドを用いたり複数のスプレ塗布ヘッドを用いると、強化繊維シートの走行速度を速くしてもスプレー塗布間隔を減じることができる。
【0109】
<第2の製造方法における、改質剤付与工程>
強化繊維シートとしてUD基材を用いた場合について、改質剤付与工程を図1bを参照して説明する。クリール11から巻き出された複数本の強化繊維1は配列装置12により配列され、得られた強化繊維シートを直線的に改質剤付与装置を通し改質剤を付与し、得られた改質剤を付与した強化繊維シート1bを搬送ロール13で走行方向を水平方向から鉛直方向下向きに方向転換させ塗布部20に通過させる例である。
【0110】
改質剤付与装置としては本発明の目的を達成する範囲で制限なく種々の付与装置から適宜選択し用いることができる。スプレー塗布(メルトブローを含む)であると低目付けの塗布が容易であり好ましい。さらにメルトブローは改質剤を空気流により強化繊維シートへ導くため、装置周辺の汚染が少なく、改質剤のロスも少なく、目付け均一性が高く好ましい。カーテン布は間欠なく改質剤の付与が可能であり好ましい。
【0111】
改質剤を付与する面は強化繊維シート1aに対し片面でも両面でもよい。なお、図1bでは強化繊維シート1aに対し改質剤を付与する場所は、配列装置12で得られた強化繊維シート1aを方向転換する搬送ロール13までの水平搬送する区間内に改質剤付与装置28を具備し改質剤を付与する例を示したが、もちろん改質剤の付与は強化繊維の配列装置12から塗布部20までの間であれば特に限定されず、搬送ロール13から塗布部までの区間内に改質剤付与装置を具備し、鉛直方向下向きに走行する強化繊維シートに対し改質剤を付与してもよい。なお、図1bでは省略したが、強化繊維を巻き出すクリールから塗布部までの間において、適宜強化繊維シートの拡幅装置、平滑化装置、また、強化繊維シートの予熱装置を用いることもできる。また、かかる配列装置、拡幅装置、平滑化装置、予熱装置は適宜順番を変更し用いることもできる。
【0112】
なお、強化繊維ファブリックを用いる場合は、図1bのクリール11を強化繊維ファブリックの巻きだし設備に置き換え、図1の配列装置12をニップロールに置き換えて、強化繊維ファブリックを引き出せばよい。
【0113】
<走行機構>
強化繊維シートや本発明のプリプレグを搬送するための走行機構としては、公知のローラー等を好適に用いることができる。
【0114】
また、本発明では、強化繊維の配列乱れや毛羽立ちを抑制するため、強化繊維シートの走行経路はなるべく直線状であることが好ましい。また、プリプレグは離型シートとの積層体であるシート状一体物とすることが多いが、これの搬送工程において、屈曲部を有すると、内層と外層の周長差による皺が発生する場合が有るため、シート状一体物の走行経路もなるべく直線状であることが好ましい。この観点からは、シート状一体物の走行経路中では、ニップロールを用いる方が好ましい。
【0115】
S字ロールとニップロールのどちらを用いるかは、製造条件や製造物の特性に応じ、適宜選択することが可能である。
【0116】
<高張力引き取り装置>
本発明では、塗布部から1次プリプレグを引き出すための高張力引き取り装置を塗布部より工程下流に配置することが好ましい。これは、塗布部で、強化繊維シートとマトリックス樹脂の間で高い摩擦力、せん断応力が発生するため、それに打ち勝ってプリプレグを引き出すためには、工程下流で高い引き取り張力を発生させることが好ましいためである。高張力引き取り装置としては、ニップロールやS字ロールなどを用いることができるが、いずれもロールとプリプレグの間の摩擦力を高めることで、スリップを防止し、安定した走行を可能とすることができる。このためには、摩擦係数の高い材料をロール表面に配したり、ニップ圧力やS字ロールへのプリプレグの押し付け圧を高くすることが好ましい。スリップを防止する観点からは、S字ロールの方がロール径や接触長などで容易に摩擦力を制御でき、好ましい。
【0117】
<離型シート供給装置、ワインダー>
本発明を用いてのプリプレグやFRPの製造においては適宜離型シート供給装置やワインダーを用いることができ、そのようなものとしては公知のものを使用することができるが、いずれも巻き出し、あるいは巻き取り張力を巻き出しあるいは巻き取り速度にフィードバックできる機構を備えていることがシートの安定走行の観点から好ましい。
【0118】
<追含浸>
所望の含浸度に調整するために、本発明にさらに塗布後に別途、含浸装置を用いて更に含浸度を高める手段を組み合わせることも可能である。ここでは、塗布部での含浸と区別するために、塗布後に追加で含浸することを追含浸、そのための装置を追含浸装置と称することとする。追含浸装置として用いられる装置には特に制限は無く、目的に応じて公知のものから適宜選択することができる。例えば、特開2011-132389号公報やWO2015/060299パンフレット記載のように、シート状炭素繊維束と樹脂の積層体を、熱板で予熱しシート状炭素繊維束上の樹脂を十分軟化させた後、やはり加熱されたニップロールで加圧する装置を用いることで含浸を進めることができる。予熱のための熱板温度やニップロール表面温度、ニップロールの線圧、ニップロールの直径・数は所望の含浸度になるように適宜選択することができる。また、WO2010/150022パンフレット記載のようなプリプレグシートがS字型に走行する“S-ラップロール”を用いることも可能である。本発明では“S-ラップロール”を単に“S字ロール”と称することとする。WO2010/150022パンフレット図1ではプリプレグシートがS字型に走行する例が記載されているが、含浸が可能であれば、U字型や、V型またはΛ型のようにシートとロールの接触長を調整してもよい。また、含浸圧を高め含浸度を上げる場合には、対向するコンタクトロールを付加することも可能である。さらにWO2015/076981パンフレット図4記載のように、“S-ラップロール”に対向してコンベヤーベルトを配することで含浸効率を向上させ、プリプレグの製造速度の高速化をはかることも可能である。また、WO2017/068159パンフレットや特開2016-203397号公報などに記載のように、含浸前にプリプレグに超音波を付与し、プリプレグを急速昇温することで、含浸効率を向上させることも可能である。また、特開2017-154330号公報記載のように、超音波発生装置で複数の“しごき刃”振動させる含浸装置を用いることも可能である。また、特開2013-22868号公報記載のようにプリプレグを折り畳んで含浸することも可能である。
【0119】
<簡易追含浸>
上記では、従来の追含浸装置を適用する例を示したが、塗布部直下では未だ1次プリプレグの温度が高い場合があり、そのような場合には塗布部を出て後、あまり時間が経っていない段階で追含浸操作を加えると、1次プリプレグを再昇温するための熱板などの加熱装置を省略あるいは簡略化し、含浸装置を大幅に簡略化・小型化することも可能である。このように塗布部直下に位置させる含浸装置を簡易追含浸装置と称することとする。簡易追含浸装置としては加熱ニップロールや加熱S字ロールを用いることができるが、通常の含浸装置に比較し、ロール径や設定圧力、1次プリプレグとロールの接触長を減じることができ、装置を小型化できるだけでなく消費電力なども減じることができ、好ましい。
【0120】
また、1次プリプレグが簡易追含浸装置に入る前に、1次プリプレグに離形シートを付与すると、1次プリプレグの走行性が向上し好ましい。
【0121】
図23には、追含浸装置を具備した工程の一例を示している。塗布部430の直下に簡易追含浸装置453を備えている。ここでは、簡易追含浸装置453はニップロールの例を示しているが、ニップローラーは加熱機構を備えていることが好ましい。また、ニップロールの段数は目的により適宜選択可能であるが、工程簡略化の観点からは3段以下が好ましい(図23では2段の例を示している)。また、ニップローラーは駆動装置を備えていることがプリプレグ搬送の張力制御が容易である観点から好ましい。ニップ圧力は所望の含浸度に合わせ、適宜調整可能である。
【0122】
また、ニップロール表面は1次プリプレグが貼りつかないように適切な離型処理が施されていたり、1次プリプレグとニップロールの間に離型シートを挿入したりすることが好ましい(簡略化のため図23には描画していない)。1次プリプレグとニップロールの間に離型シートを挿入する場合には、塗布部430側から挿入し、高張力引き取り装置444側のロールで離型シートを1次プリプレグから引き離すことが好ましい。引き離された離型シートはそのまま巻き取ってもよいし、そのまま再度、塗布部430側から挿入するようサーキット走行させてもよい。
【0123】
また、追含浸装置としてはニップロールのほか、前記した“S-ラップロール”や固定バー等を用いることもできる。また、赤外線やレーザーなどによる非接触加熱装置を用いることもできる。
【0124】
<プリプレグ>
本発明の製造方法で得られるプリプレグにおいてマトリックス樹脂の含浸率は10%以上であることが望ましい。マトリックス樹脂の含浸の様子は、採取したプリプレグを裂き、内部を目視することで含浸の有無を確認することができ、より定量的には例えば剥離法で評価することが可能である。剥離法によるマトリックス樹脂の含浸率は以下のようにして測定することができる。すなわち、採取したプリプレグを粘着テープで挟み、これを剥離し、マトリックス樹脂が付着した強化繊維とマトリックス樹脂が付着していない強化繊維を分離する。そして、投入した強化繊維シート全体の質量に対するマトリックス樹脂が付着した強化繊維の質量の比率を剥離法によるマトリックス樹脂の含浸率とすることができる。また、含浸度が高いプリプレグでは、プリプレグの毛細管現象による吸水率により含浸度を評価することもできる。具体的には、特表2016-510077号公報に記載の方法にならい、プリプレグを10cm×10cmにカットし、その1辺を5mm、水に5分間浸漬した時の質量変化から計算することができる。
【0125】
なお、本発明を説明するにおいて、塗布部から導出されたマトリックス樹脂が含浸された強化繊維シートを1次プリプレグと称しているが、用語として、1次プリプレグはプリプレグの概念に属する用語であることはいうまでもない。
【0126】
<プリプレグ幅>
FRPの前駆体の一種であるプリプレグは本発明で得られるプリプレグの一形態であるため、本発明をFRP用途に適用する場合について、以下説明する。
【0127】
プリプレグの幅には、特に制限は無く、幅が数十cm~2m程度の広幅でも良いし、幅数mm~数十mmのテープ状でも良く、用途に応じ幅を選択することができる。近年では、プリプレグの積層工程を効率化するため、細幅プリプレグやプリプレグテープを自動積層していくATL(Automated Tape Laying)やAFP(Automated Fiber Placement)と呼ばれる装置が広く用いられるようになってきており、これに適合した幅とすることも好ましい。ATLでは幅が約7.5cm、約15cm、約30cm程度の細幅プリプレグが用いられることが多く、AFPでは約3mm~約25mm程度のプリプレグテープが用いられることが多い。
【0128】
所望の幅のプリプレグを得る方法には特に制限は無く、幅1m~2m程度の広幅プリプレグを細幅にスリットする方法を用いることができる。また、スリット工程を簡略化あるいは省略するため、最初から所望の幅となるよう本発明で用いる塗布部の幅を調整することもできる。例えば、ATL用に30cm幅の細幅プリプレグを製造する場合には、塗布部出口の幅をそれに応じて調整すればよい。また、これを効率的に製造するためには、製品幅を30cmとして製造することが好ましく、係る製造装置を複数個並列させると、同一の走行装置・搬送装置、各種ロール、ワインダーを用いて複数ラインのプリプレグを製造することができる。図24には一例として、塗布部を5つ並列方向に連結した例を示している。この時、5枚の強化繊維シート416は、それぞれ独立した5つの強化繊維予熱装置420、塗布部430を通過し、5枚の1次プリプレグ471が得られるようにしても良いし、強化繊維予熱装置420、塗布部430は並列方向に一体化されていてもよい。この場合には、塗布部430中で幅規制機構、塗布部出口幅を独立に5つ備えればよい。
【0129】
また、プリプレグテープの場合には、テープ状の強化繊維束が1糸条~3糸状程度で強化繊維シートを形成させ、これを所望のテープ幅が得られるように幅を調整した塗布部に通すことで得ることもできる。プリプレグテープの場合はテープ同士の横方向の重なりを制御する観点から、特にテープ幅の精度が求められる場合が多い。このため、塗布部出口幅をより厳密に管理することが好ましく、この場合には、前記のL、L2およびWが、L≦W+1mmおよび/またはL2≦W+1mm、の関係を満たすようすることが好ましい。
【0130】
<スリット>
プリプレグのスリット方法にも特に制限は無く、公知のスリット装置を用いることができる。プリプレグを一旦巻き取った後、改めてスリット装置に設置し、スリットを行っても良いし、効率化のため、プリプレグ一旦巻き取ることなくプリプレグ作製工程から連続してスリット工程を配置しても良い。また、スリット工程は1m以上の広幅プリプレグを直接、所望の幅にスリットしても良いし、一旦、30cm程度の細幅プリプレグにカット・小分けした後、これを改めて所望の幅にスリットしても良い。
【0131】
なお、上記の細幅プリプレグ、プリプレグテープを複数の塗布部を並列させた場合には、それぞれ独立に離型シートを供給しても良いし、1枚の広幅離型シートを供給し、これに複数枚のプリプレグを積層させても良い。このようにして得られるプリプレグの幅方向の端部を切り落とし、ATLやAFPの装置に供給することができる。この場合には切り落とす端部の大部分が離型シートとなるため、スリットカッター刃に付着するマトリックス樹脂成分(FRPの場合には樹脂成分)を減じることができ、スリットカッター刃の清掃周期を延長できるというメリットもある。
【0132】
<本発明の変形態様(バリエーション)および応用態様>
本発明においては、塗布部を複数個用い、更なる製造工程の効率化やの高機能化を図ることができる。
【0133】
例えば、複数枚のプリプレグを積層させるように複数の塗布部を配置することができる。図25には一例として、2つの塗布部を用いてプリプレグの積層を行う態様の例を示している。第1の塗布部431と第2の塗布部432から引き出された2枚の1次プリプレグ471は方向転換ロール445を経て、その下方の積層ロール447で樹脂フィルム443とともに積層される。プリプレグと方向転換ロール間に離型シートを位置させると、プリプレグがニップロールに貼りつくことを抑制し、走行を安定化することができ、好ましい。図16では、2つの方向転換ロール445に離型シート446をサーキット走行させている装置を例示している。なお、方向転換ロールは、離型処理の施された方向転換ガイド等で代用することも可能である。図25では高張力引き取り装置444は1次プリプレグ471の積層後に配置しているが、積層前に配置することももちろん可能である。なお、図25ではスプレー塗布装置、カーテン塗布装置の描画は省略しているが、1次プリプレグ形成後の任意の位置に配置することができる。
【0134】
このような積層型のプリプレグとすることで、プリプレグ積層工程の効率化を図ることができ、例えば厚ものFRPを作製する場合に有効である。また、薄ものプリプレグを多層積層することで、FRPの靱性や耐衝撃性が向上することが期待でき、本製造方法を適用することで、薄もの多層積層プリプレグを効率的に得ることができる。さらに、異なる種類のプリプレグを容易に積層することで、機能性を付加したヘテロ結合プリプレグを容易に得ることができる。この場合、強化繊維の種類や繊度、フィラメント数、力学物性、繊維表面特性などを変更することが可能である。また、マトリックス樹脂(プリプレグの場合は樹脂)も異なるものを用いることが可能である。例えば、厚みの異なるプリプレグや力学物性が異なるものを積層したヘテロ結合プリプレグとすることができる。また、第1の塗布部で力学物性の優れる樹脂を付与し、第2の塗布部でタック性に優れる樹脂を付与し、これらを積層することで力学物性とタック性を両立できるプリプレグを容易に得ることができる。また、逆に表面にタック性の無い樹脂を配置することも可能である。また、第1の塗布部で粒子なしの樹脂を付与し、第2の塗布部で粒子含有樹脂を付与することもできる。
【0135】
別の様態としては、図24で例示し前記したように、塗布部を強化繊維シートの走行方向に対し、複数個並列させる、すなわち複数個の塗布部を強化繊維シートの幅方向に並列させることができる。これにより、細幅やテープ状のプリプレグの製造を効率化することができる。また、塗布部毎に、強化繊維やマトリックス樹脂を変更すると幅方向に性質の異なるプリプレグを得ることもできる。
【0136】
また、別の様態としては、強化繊維シートの走行方向に対して塗布部を直列に複数個配置させることができる。図26には一例として、2つの塗布部を直列に配置させた例を示している。第1の塗布部431と第2の塗布部432の間には高張力引き取り装置448を配置させると強化繊維シート416の走行を安定化させる観点から好ましいが、塗布条件、工程下流の引き取り条件によっては省略することも可能である。また、第1の塗布部から引き出した1次プリプレグと高張力引き取り装置448間に離型シートを位置させると、1次プリプレグがニップロールに貼りつくことを抑制し、走行を安定化することができ、好ましい。図26では、高張力引き取り装置448をニップロールとし、また、2つのロールに離型シート446をサーキット走行させている装置を例示している。
【0137】
このような直列型の配置とすることで、1次プリプレグの厚み方向にマトリックス樹脂種類を変えることができる。また、同じ種類のマトリックス樹脂であっても、塗布部によって塗布条件を変えることで、走行安定性や高速走行性などを向上することもできる。例えば、第1の塗布部で力学物性の優れる樹脂を付与し、第2の塗布部でタック性に優れる樹脂を付与し、これらを積層することで力学物性とタック性を両立できるプリプレグを容易に得ることができる。また、逆に表面にタック性の無い樹脂を配置することも可能である。また、第1の塗布部で粒子なしの樹脂を付与し、第2の塗布部で粒子含有樹脂を付与することもできる。なお、図26ではスプレー塗布装置、カーテン塗布装置の描画は省略しているが、1次プリプレグ形成後の任意の位置に配置することができる。
【0138】
以上のように、複数の塗布部を配置させる様態をいくつか示したが、塗布部の数に特に制限は無く、目的に応じ種々、適用することができる。また、これらの配置を複合させることももちろん可能である。更に、塗布部の各種サイズ・形状や塗布条件(温度など)も混合して用いることもできる。
【0139】
以上述べてきたように、本発明の製造方法は製造効率化・安定化のみならず、製品の高性能化・機能化も可能であり、拡張性にも優れた製造方法である。
【0140】
<マトリックス樹脂供給機構>
本発明において塗布部内にマトリックス樹脂は貯留されているが、塗工が進行するのでマトリックス樹脂を適宜補給することが好ましい。マトリックス樹脂を塗布部に供給する機構には特に制限は無く、公知の装置を使用することができる。マトリックス樹脂は連続的に塗布部に供給することが、塗布部の上部液面を乱さず、強化繊維シートの走行を安定化でき、好ましい。例えば、マトリックス樹脂を貯留する槽から自重を駆動力として供給したり、ポンプなどを用いて連続的に供給することができる。ポンプとしては、ギヤポンプやチューブポンプ、圧力ポンプなどマトリックス樹脂の性質に応じ適宜使用することができる。また、マトリックス樹脂が室温で固体の場合には、貯留層上部にメルターを備えておくことが好ましい。また、連続押し出し機などを用いることもできる。また、マトリックス樹脂供給量はマトリックス樹脂の塗布部上部の液面がなるべく一定となるよう、塗布量に応じ連続供給できる機構を備えることが好ましい。このためには、例えば液面高さや塗布部重量などをモニタリングし、それを供給装置にフィードバックするような機構が考えられる。
【0141】
なお、スプレー塗布、カーテン塗布に用いる液体供給機構も上記マトリックス樹脂供給機構のように備えることができる。
【0142】
<オンラインモニタリング>
また、塗布量のモニタリングのために、塗布量をオンラインモニタリングできる機構を備えることが好ましい。オンラインモニタリング方法についても特に制限は無く、公知のものを使用可能である。例えば、厚みを計測する装置として、例えばベータ線計などを用いることができる。この場合は、強化繊維シート厚みとプリプレグの厚みを計測し、その差分を解析することで塗布量を見積もることが可能である。オンラインモニタリングされた塗布量は、直ぐに塗布部にフィードバックされ、塗布部の温度や狭窄部23の隙間D(図2参照)の調整に利用することができる。塗布量モニタリングは、もちろん欠点モニタリングとしても使用可能である。厚み計測位置としては、例えば図27で言えば、方向転換ロール419近傍で強化繊維シート416の厚みを計測し、塗布部430から方向転換ロール441の間でプリプレグの厚みを計測することができる。また、赤外線、近赤外線、カメラ(画像解析)などを用いたオンライン欠点モニタリングを行うことも好ましい。
【0143】
以下では、本発明によるプリプレグの製造例を具体的に挙げて本発明をより詳細に説明する。なお、以下は例示であり、本発明は以下に説明される態様に限定して解釈されるものではない。
【0144】
図27は本発明の第1の製造方法を用いたプリプレグの製造工程・装置の例の概略図である。複数個の強化繊維ボビン412はクリール411に掛けられ、方向転換ガイド413を経て、引き出される。この時、クリールに付与されたブレーキ機構により一定張力で強化繊維束414を引き出すことができる。引き出された複数本の強化繊維束414は強化繊維配列装置415により整然と配列され、強化繊維シート416が形成される。なお、図27では強化繊維束は3糸条しか描画されていないが、実際には、1糸条~数百糸条とすることができ、所望のプリプレグ幅、繊維目付けとするよう調整可能である。その後、拡幅装置417、平滑化装置418を経て、方向転換ロール419を経て、鉛直下向きに搬送される。図27では、強化繊維配列装置415~方向転換ロール419まで強化繊維シート416は装置間を直線状に搬送される。なお、拡幅装置417、平滑化装置418は、目的に応じ、適宜スキップすることもできるし、装置を配置しないこともできる。また、強化繊維配列装置415、拡幅装置417、平滑化装置418の配列順序は目的に応じ適宜変更することもできる。強化繊維シート416は方向転換ロール419から鉛直下向きに走行し、強化繊維予熱装置420、塗布部430を経て方向転換ロール441に到達する。塗布部430は本発明の目的を達成する範囲で任意の塗布部形状を採用することができる。例えば、図2図6図9のような形状が挙げられる。また、必要に応じ図5のようにブッシュを備えることもできる。さらに、図11のように、塗布部内にバーを備えることもできる。図27の装置では、塗布部430で1次プリプレグ471を形成させた後、スプレー塗布装置481、カーテン塗布装置482を備えている。図27では、スプレー塗布装置481、カーテン塗布装置482は1次プリプレグの両面に描画されているが、どちらか片面でもよいし、スプレー塗布装置481、カーテン塗布装置482のどちらか一方のみを使用してもよいし、順番を入れ替えてもよい。そして、スプレー塗布および/またはカーテン塗布を施した後、離型シート443を付与し、高張力引取り装置444で引き取ることができる。図27では高張力引き取り装置444としてニップロールを描画している。その後、シート状一体物は熱板451と加熱ニップロール452を備えた追含浸装置450を経て、冷却装置461で冷却された後、引き取り装置462で引き取られ、上側の離型シート446を剥がした後、ワインダー464で巻き取り、製品となるプリプレグ/離型シートからなるシート状一体物472を得ることができる。方向転換ロール441からワインダー464までシート状一体物は基本直線状に搬送されるため、皺の発生を抑制することができる。なお、図27では、マトリックス樹脂供給装置、オンラインモニタリング装置の描画は省略してある。
【0145】
図28は本発明の第1の製造方法を用いたプリプレグの製造工程・装置の別の例の概略図である。図28では、クリール~塗布部430までは図27と同様であるため、描画を省略している。図28では、1次プリプレグ471形成後に離型シート446を付与し、高張力引取り装置444で引き取る。ここでは高張力引取り装置444はS字ロールの例を示している。そして、上側の離型シートを剥がした後、スプレー塗布装置481、カーテン塗布装置482を用いて塗布を行うことができる。スプレー塗布装置481、カーテン塗布装置482は、どちらか一方のみを使用してもよいし、順番を入れ替えてもよい。その後、上側の離型シートを付与した後、追含浸が施され、上側離型紙を剥がし、プリプレグ/離型シートのシート状一体物が巻き取られる。
【0146】
次に第2の製造方法について、製造例を具体的に挙げて本発明をより詳細に説明する。
【0147】
図29aは強化繊維シートとして、UD基材を用いた時の本発明を用いたプリプレグの製造工程の例の概略図である。複数個の強化繊維ボビン412はクリール411に掛けられ、方向転換ガイド413を経て、上方に引き出される。この時、クリールに付与されたブレーキ機構により一定張力で強化繊維束414を引き出すことができる。引き出された複数本の強化繊維束414は強化繊維配列装置415により整然と配列され、強化繊維シート416が形成される。なお、図29aでは強化繊維束は3糸条しか描画されていないが、実際には、2糸条~数百糸条とすることができ、所望のプリプレグ幅、繊維目付とするよう調整可能である。その後、拡幅装置417、平滑化装置418、改質剤付与装置421を経て、改質剤を付与した強化繊維シート422が得られる。改質剤を付与した強化繊維シート422は方向転換ロール419を経て、鉛直下向きに搬送される。
【0148】
改質剤付与装置としては本発明の目的を達成する範囲で制限なく種々の付与方式から適宜選択し用いることができる。例えばスプレー塗布(メルトブローを含む)、カーテン塗布などを用いることができる。
【0149】
図29aは、強化繊維配列装置415~改質剤付与装置421まで強化繊維シート416は装置間を直線状に搬送させる例を示した。なお、拡幅装置417、平滑化装置418は目的に応じ公知のものを使用したり適宜スキップすることもできるし、装置を配置しないこともできる。また、強化繊維配列装置415、拡幅装置417、平滑化装置418の配列順序は目的に応じ適宜変更することもできる。改質剤を付与した強化繊維シート422は方向転換ロール419から鉛直下向きに走行し、強化繊維予熱装置420、塗布部430を経て方向転換ロール441に到達する。強化繊維予熱装置420は目的に応じ適宜スキップすることもできるし、装置を配置しないこともできる。塗布部430は本発明の目的を達成する範囲で任意の塗布部形状を採用することができる。例えば、図2図6図9のような形状が挙げられる。また、必要に応じ図5のようにブッシュを備えることもできる。さらに、図11のように、塗布部内にバーを備えることもできる。図12aでは、離型シート(上)供給装置442から巻き出された離型シート446を方向転換ロール441上でプリプレグ471に積層し、シート状一体物とすることができる。さらに、離型シート供給装置442から巻き出された離型シート446を前記シート状一体物の下面に挿入することができる。ここでは、離型シートは離型紙や離型フィルムなどを用いることができる。これを高張力引取り装置444で引き取ることができる。図29aでは高張力引き取り装置444としてニップロールを描画している。その後、シート状一体物は熱板451と加熱ニップロール452を備えた追含浸装置450を経て、冷却装置461で冷却された後、引き取り装置462で引き取られ、上側の離型シート446を剥がした後、ワインダー464で巻き取り、製品となるプリプレグ/離型シートからなるシート状一体物472を得ることができる。方向転換ロール441からワインダー464までシート状一体物は基本直線状に搬送されるため、皺の発生を抑制することができる。なお、図29aでは、マトリックス樹脂供給装置、オンラインモニタリング装置の描画は省略してある。
【0150】
図29bは図29aに示した例と同様、強化繊維シートとしてUD基材を用いた時の本発明を用いたプリプレグの製造工程の例であるが、強化繊維シートが方向転換ロール419により走行方向が水平方向から鉛直方向下向きとした後に改質剤を付与する場所とした点が異なる。また、改質剤付与装置421は強化繊維予熱装置420の後に設置した例を示す。改質剤付与装置421と強化繊維予熱装置420は適宜配列順序を変えてもよいが、改質剤として低粘度樹脂を用いる場合は、拡幅装置417、平滑化装置418、強化繊維予熱装置420の後に改質剤付与装置421を配置するのが好ましい。これにより強化繊維シートに付与した改質剤との接触による装置やロールの汚染を防止できたり、改質剤が強化繊維予熱装置420で熱せられ、改質剤の流動性が高まることで塗布部430に貯留されたマトリックス樹脂中に改質剤が溶解するのを抑制することができる。図29bでは改質剤を付与する際の強化繊維シートの走行方向が水平方向から鉛直方向下向きになるが、改質剤付与装置の向きを90度変更し付与すればよい。なお、図29bでは、マトリックス樹脂供給装置、オンラインモニタリング装置の描画は省略してある。
【0151】
図29a、図29bでは水平または鉛直方向下向きに搬送されている強化繊維シートに対し改質剤を付与する例を示したが、方向転換をするロール上で付与することもできる。
【0152】
図30は強化繊維シートとして、UD基材を用いた時の本発明を用いたプリプレグの製造工程・装置の別の例の概略図である。図30では、クリール411から強化繊維束414を引き出し、そのまま強化繊維配列装置415で強化繊維シート416を形成し、その後、拡幅装置417、平滑化装置418まで直線状に搬送され、その後、強化繊維シート416を上方に導く点が図29bとは異なる。このような構成とすることで、上方に装置を設置することが不要となり、足場などの設置を大幅に簡略化することができる。
【0153】
図31は強化繊維シートとして、UD基材を用いた時の本発明を用いたプリプレグの製造工程・装置の別の例の概略図である。図31では、階上にクリール411を設置し、強化繊維シート416の走行経路を更に直線化している。
【0154】
図32は強化繊維シートとして、UD基材を用いた時の本発明を用いたプリプレグの製造工程・装置の別の例の概略図である。図29bで示した通常の追含浸装置の代わりに、簡易追含浸装置を用いた例を示している。32においては、簡易追含浸装置453は塗布部430の直下に設置されているため、プリプレグ471が高温状態で簡易追含浸装置453に導かれるため、含浸装置を簡略化・小型化できる。図32では、一例として加熱ニップロール454を描画しているが、目的によっては、もちろん小型の加熱S字ロールや非接触加熱装置でも良い。簡易追含浸装置を用いるとプリプレグ製造装置全体を非常にコンパクトにすることができることもメリットである。
【0155】
図30図31図32は、図29bと同様に強化繊維シートとして、一方向配列強化繊維束を用いた時のプリプレグの製造工程・装置の別の例の概略図であるが、411に巻出し装置、412に強化繊維ファブリックロール、413にニップロールを用いていることで、強化繊維ファブリックを用いた場合であっても各図に示した装置を適用することができる。
【0156】
図33では、高張力引き取り装置として高張力引取りS字ロール449、追含浸装置として“S-ラップロール”型の加熱S字ロール455を2ロール-2セット(合計4個)用いた例を描画しているが、ロール数は目的に応じ、もちろん増減できる。また、図33では含浸効果を高めるためのコンタクトロール456も描画しているが、目的により省略することももちろん可能である。
【0157】
図34は本発明を用いたプリプレグの製造工程・装置の別の例の概略図である。この例では“S-ラップロール”型の加熱S字ロールを高張力引き取り装置と兼用する例を示している。プリプレグ製造装置全体を非常にコンパクトにすることができるメリットがある。
【0158】
以下に、より具体的な例として糸割れ防止剤を用いる例を記載する。
【0159】
プリプレグの製造装置としては、図29a記載の構成の装置(樹脂供給部は描写から省略)から、拡幅装置417、平滑化装置418、追含浸装置450を除いた装置を用いることができる。
【0160】
(糸割れ防止剤の付与)
複数個の強化繊維ボビン412はクリール411に掛けることができ、方向転換ガイド413を経て、上方に引き出すことができる。引き出された複数本の強化繊維束414は強化繊維配列装置415により整然と配列することができ、強化繊維シート416を形成することができる。形成された強化繊維シート416に対し改質剤付与装置421を用い、糸割れ防止剤を付与することができ、糸割れ防止剤を付与した強化繊維シート422を得ることができる。糸割れ防止剤を付与した強化繊維シート422は、方向転換ロール419を経て走行方向を水平方向から鉛直下向きに向きを変えて走行させることができ、強化繊維予熱装置420を経て塗布部430を通過させることができる。
【0161】
強化繊維としては、炭素繊維(東レ製、“トレカ(登録商標)”T800S(24K))などを用いることができる。強化繊維ボビンの数は作製するプリプレグの目付に応じて変更可能だが、56糸条とすると一般的な目付のプリプレグが得られる。
【0162】
(糸割れ防止剤の付与方法)
糸割れ防止剤の付与方法としては本発明の目的を達成する範囲で制限なく任意の付与装置を適宜選択し用いることができる。例えばスプレー塗布、カーテン塗布などを用いることができる。
【0163】
スプレー塗布を用いる場合、図35a、図35bに示すように糸割れ防止剤を付与することができる。図35aのように、スプレーノズル510を強化繊維シート416に対し上部に非接触となるよう設置し、設置したスプレーノズル510から液滴化した糸割れ防止剤である改質剤500を水平方向に走行する強化繊維シート416に対し片面に付与することができ、図35bに示すようにスプレーノズル510により糸割れ防止剤を微細な液滴にして強化繊維シート416に付与することができる。スプレーノズル以外にも糸割れ防止剤を液滴化し噴霧できるものであれば用いることができる。図35aでは強化繊維シート416に糸割れ防止剤である改質剤500を片面に付与しているが、もちろんスプレーノズル510を強化繊維シート416の両面に配置し、両面に付与することもできる。なお、図35a、図35bでは省略したが、スプレーノズル510には改質剤を連続的に供給する機構を具備することができ、改質剤の付与目付はスプレーノズル510に供給する改質剤の量で調節することができる。供給する改質剤は加熱し溶融したものを供給することもできる。
【0164】
メルトブロー方式を用いる場合、図36a、図36bに示すように糸割れ防止剤を付与することができる。図36aのように、吐出部を有する塗布ヘッド520を強化繊維シート416に対し上部に非接触となるよう設置し、設置した塗布ヘッド520から糸割れ防止である改質剤500を吐出させ、吐出させた改質剤500を空気流521により導くことで、糸割れ防止剤を繊維状に賦形した後、強化繊維シート416に対し片面に付与することができる。図36bに示すように塗布ヘッド520により吐出された糸割れ防止剤は空気流により導かれ、繊維状賦形された後強化繊維シートに到達する前に繊維状に賦形された糸割れ防止剤が交差・交絡し強化繊維シートに付与することができる。メルトブロー方式としては、より具体的には特願2018-511189号に記載のような手法を用いることができる。塗布ヘッドは内部に供給される糸割れ防止剤を幅方向に分配する複数の流路を持ち、吐出部に糸割れ防止剤を導く構造のものを用いることができる。塗布ヘッドの吐出部としては幅方向に複数の孔を有し、孔の面積を調整することで吐出により賦形される繊維径を調整することができ、糸割れ防止剤の強化繊維長手方向の塗布の間隔を調整することもできる。図36aでは強化繊維シート416に糸割れ防止剤である改質剤500を片面に付与しているが、もちろん塗布ヘッド520を強化繊維シート416の両面に配置し、両面に付与することもできる。なお、図36a、図36bでは省略したが、塗布ヘッドには糸割れ防止剤を連続的に供給する機構を具備し、糸割れ防止剤の付与目付は塗布ヘッドに供給する糸割れ防止剤の量を調整することで、目的とする目付の糸割れ防止剤の付与が可能である。供給する機構としてギアポンプを用いることもでき、使用するギアポンプとその回転数で供給量を調整し付与する糸割れ防止剤の目付を調整することができる。糸割れ防止剤は加熱し溶融したものを供給することができる。
【0165】
カーテン塗布を用いる場合、図37a、図37bや図38図38bに示すように糸割れ防止剤を付与することができる。図37aのように塗布ヘッド530を強化繊維シート416に対し上部に非接触となるよう設置し、設置した塗布ヘッド530から糸割れ防止剤を面状に吐出した改質剤500を水平方向に走行する強化繊維シート416に対し片面に付与することができる。なお、塗布ヘッドは特願2018-511188号のように、糸割れ防止剤の吐出方向と強化繊維シート416の搬送方向なす角が80°以下となるよう設置することもできる。塗布ヘッドは供給される糸割れ防止剤を面状に吐出できるものであればよく、幅方向に厚みが均一な樹脂が吐出され、面状あるいはカーテン状の膜を形成できるものを用いることができる。より詳細には厚みが均一で間欠のないスリットから樹脂を吐出できる構造を用いることができる。また、図37aでは強化繊維シート416に糸割れ防止剤である改質剤500を片面に付与しているが、もちろん塗布ヘッド530を強化繊維シート416の両面に配置し、両面に付与することもできる。図38aに示すように方向転換ロール419上に塗布ヘッド530を設置することにより、塗布ヘッドの吐出方向と強化繊維シートの搬送方向のなす角を80°以下とすることもできる。図38aに示すように改質剤を付与する場合、方向転換ロール419の直径を大きいロールとし改質剤付与スタート時の作業性や塗布の安定性を向上させることもできる。なお、図37a、図37b、図38a、図38bでは省略したが、塗布ヘッド530には改質剤を連続的に供給する機構を具備しており、改質剤の付与目付は塗布ヘッドに供給する改質剤の量を調整することで、目的とする目付の改質剤の付与ができる。供給する機構としてギアポンプを用いることもでき、使用するギアポンプとその回転数で供給量を調整することで付与する目付の調整ができる。また改質剤は加熱し溶融したものを供給することもできる。
【0166】
(糸割れ防止剤)
付与する糸割れ防止剤の目付は20g/m以下とすることができる。糸割れ防止剤の付与が間欠的である場合、付与する糸割れ防止剤の長手方向の付与間隔としては最大30mm以内とすることができる。
【0167】
糸割れ防止剤の成分としては種々の樹脂を用いることができ、前記した熱硬化性樹脂、熱硬化樹脂の硬化剤、熱可塑性樹脂、ポリマー粒子やこれらを組み合わせたものを用いることもできる。糸割れ防止剤は、加熱し溶融させた溶融樹脂でも室温で液体のもの用いることができる。溶媒を用いて溶液やワニス化したものも用いることができる。
【0168】
熱硬化性樹脂としてはエポキシ樹脂を用いることもできる。特に、室温で流動性がある樹脂であると改質剤付与装置で溶融するための加熱装置が簡略・簡易化でき、強化繊維シートへの樹脂含浸が進みやすいため好ましく用いることができ、具体的にはエポキシ樹脂の市販品として、液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂であれば、“jER(登録商標)”825、“jER(登録商標)”827、“jER(登録商標)”828、“エピクロン(登録商標)”850(DIC(株)製)、“エポトート(登録商標)”YD-128(新日鐵住金化学(株)製)、DER-331(ダウケミカル社製)などを用いることができ、液状のビスフェノールF型エポキシ樹脂の市販品としては“jER(登録商標)”806、“jER(登録商標)”807、“jER(登録商標)”1750、“エピクロン(登録商標)”830(DIC(株)製)、“エポトート(登録商標)”YDF-170(新日鐵住金化学(株)製)などを用いることができ、液状のトリグリシジルアミノフェノールの市販品としては、p-アミノフェノールを前駆体としてもつ“アラルダイト(登録商標)”MY0500、“アラルダイト(登録商標)”MY0510(以上ハンツマンアドバンストマテリアル社製)や“jER(登録商標)”630(三菱ケミカル(株)製)などを用いることができ、m-アミノフェノールを前駆体としてもつ“アラルダイト(登録商標)”MY0600、“アラルダイト(登録商標)”MY0610(以上ハンツマンアドバンストマテリアル社製)などを用いることができる。
【0169】
これらに、靭性向上剤を混合することもでき、具体的にはポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホンなどを用いることができる。ポリエーテルスルホンの市販品としては、“スミカエクセル(登録商標)”PES5003P(住友化学(株)製)や、“Virantage(登録商標)”VW10700(Solvay Advanced
Polymers社製)、“スミカエクセル(登録商標)”PES7600P(住友化学(株)製)、ポリエーテルイミドの市販品としては“Ultem(登録商標)”1010(Sabicイノベーティブプラスチックス(株)製)、ポリスルホンの市販品としては“Virantage(登録商標)”VW30500(Solvay Advanced Polymers(株)製)などを用いることができる。なお、これらを溶融したものだけでなく、粒子状としたものを混練し用いることもできる。また、先に述べたポリマー粒子を混合することもできる。
【0170】
また、糸割れ防止剤には、金属水酸化物、金属酸化物、赤リン、リン酸エステル、リン酸塩などのリン原子含有化合物、窒素含有化合物、三酸化アンチモンなどの難燃剤を混練して用いることもできる。
【0171】
(マトリックス樹脂の塗布)
図29aに示すように改質剤を付与した強化繊維シート422を塗布部430を通過させることで両面にマトリックス樹脂を塗布したプリプレグが得られる。
【0172】
塗布部としては、図7の形態の塗布部20cタイプの塗布部を用いることができる。
【0173】
塗布部はステンレス製とし、さらにマトリックス樹脂を加温するため、塗布部外周にプレートヒーターを貼り付け、熱電対で温度測定を行いながら、マトリックス樹脂の温度および粘度を調整できるようにすることができる。また、液溜り部での強化繊維シートの走行方向は鉛直方向下向き、液溜り部は2段テーパー状であるが、1段目テーパーは開き角度15~20°、テーパー長さ(すなわちH)は10~70mm、2段目テーパーは開き角度5~10°とすることができる。また、幅規制機構として、図5記載のような塗布部内部形状に合わせた板状ブッシュを備えており、さらにこの板状ブッシュの設置位置自在に変更し、L2を適宜調整できるようにできる。所望の目付に応じ調整可能であるがL2を300mm、さらに狭窄部の隙間Dは0.2mm程度とすると一般的な目付のプリプレグが得られる。また、狭窄部出口からマトリックス樹脂が漏れないように、狭窄部出口面においてブッシュより外側は塞いで使用することができる。
【0174】
(マトリックス樹脂)
塗布部430で塗布するマトリックス樹脂としては、熱硬化性エポキシ樹脂組成物であるマトリックス樹脂を用いることができる。これは、エポキシ樹脂(芳香族アミン型エポキシ樹脂+ビスフェノール型エポキシ樹脂の混合物)、硬化剤(ジアミノジフェニルスルホン)、ポリエーテルスルホンの混合物であり、ポリマー粒子は含有していない。このマトリックス樹脂の粘度はTA Instruments社製ARES-G2を用いて測定でき、測定周波数0.5Hz、昇温速度1.5℃/分、40℃で3675Pa・s、75℃で50Pa・s、90℃で15Pa・s、105℃で4Pa・sである。このマトリックス樹脂を用い、塗布部のマトリックス樹脂温度を75~105℃とし、強化繊維シート、プリプレグの走行速度を5~25m/分としてプリプレグを作製することができる。
【0175】
改質剤として糸割れ防止剤を使用し、糸割れ防止剤の付与方式としては、特願2018-511189号の記載を参考にして、図36aに示すようにメルトブロー方式を用い、強化繊維シート416に対し糸割れ防止剤である改質剤500を付与することができる。幅方向に複数の吐出孔を有する塗布ヘッドを、水平方向に搬送する強化繊維シート416の上に非接触な状態で配置することができる。塗布ヘッドに糸割れ防止剤を供給するギアポンプの回転数を調整し、糸割れ防止剤の付与目付は10g/mとし、付与する糸割れ防止剤の長手方向の付与間隔は最大30mmとし、糸割れ防止剤の成分としてはマトリックス樹脂と同じものを用い、塗布部のマトリックス樹脂の温度を90℃とし、塗布部1段目のテーパーは開き角度17°、H=70mm、2段目テーパーは開き角度7°とすることができる。強化繊維シート、改質剤を付与した強化繊維シート、プリプレグの走行速度を20m/分とすると、塗布部での糸詰まりや糸切れなく強化繊維シートを30分間以上連続走行させることができる。
【0176】
糸割れ防止剤を強化繊維シートに付与しない場合、幅2mm以上の糸割れが存在し品位不良であり、糸割れ防止処理をしたプリプレグの糸割れは2mm以下とすることができ、品位良好なプリプレグを得ることができる。プリプレグの糸割れは、得られたプリプレグを10m分巻き出し、強化繊維がない糸割れの部分の最大幅をノギスで測定する。
【0177】
また得られるプリプレグの剥離法による含浸率を50%以上とすることができる。剥離法による含浸率は、採取したプリプレグを粘着テープで挟み、これを剥離し、マトリックス樹脂が付着した強化繊維とマトリックス樹脂が付着していない強化繊維を分離し、投入した強化繊維シート全体の質量に対するマトリックス樹脂が付着した強化繊維の質量の比率から計算する。
【0178】
また、プリプレグの幅方向100mm四方角の目付は、炭素繊維、樹脂ともプラスマイナス3質量%の範囲に収めることができ、優れた幅方向の目付均一性を得ることができる。なお、プリプレグの幅方向の目付均一性は以下のように評価できる。幅300mmのプリプレグを幅方向に100mm四方で右端部、中央、左端部で切り出し、プリプレグの質量、炭素繊維の質量をそれぞれn=3で測定する。炭素繊維の質量はプリプレグから樹脂を溶剤で溶出した残渣として測定する。これから、各サンプリング位置での平均値をそれぞれ算出し、各サンプリング位置での平均値同士を比較する。
【0179】
また、このプリプレグを6層積層し、オートクレーブを用いて180℃、6kgf/cm(0.588MPa)で2時間硬化させることでCFRPを得ることができる。引っ張り強度は2.9GPa程度であり、糸割れ防止剤付与をせずに得たプリプレグと、炭素繊維およびマトリックス樹脂Aを用い、従来のホットメルト法で作製したプリプレグを同様に積層、硬化させることで得たCFRPの引っ張り強度も2.9GPa程度と同程度である。なお、CFRP引っ張り強度は、WO2011/118106パンフレットと同様に測定を行い、プリプレグ中の強化繊維の体積%を56.5%に規格化した値を用いる。
【0180】
また、強化繊維シート1aに対し糸割れ防止剤を付与する面は上面の片面のみとすることで、強化繊維シートに付与した糸割れ防止剤が搬送ロール419に付着し汚染するのを防止することができる。
【0181】
糸割れ防止剤を付与することで、工程安定性を損なうことなく最終的に得られるプリプレグの糸割れを改善できる、品位良好かつ積層、硬化してなるCFRPの引っ張り強度の大きな低下もないプリプレグを得ることができる。
【実施例
【0182】
<プリプレグ製造装置>
図7の形態の塗布部20cタイプの塗布部を用い、プリプレグ製造装置として図28記載の装置を用いた。図28にはクリールなどの装置などの描画は省略してあり、強化繊維予熱装置以降を描画してある。
【0183】
<塗布部>
塗布部は、液溜り部および狭窄部を形成する壁面部材にはステンレス製のブロックを用い、また側板部材にはステンレス製のプレートを用いた。さらにマトリックス樹脂を加温するため、壁面部材および側板部材の外周にプレートヒーターを貼り付け、熱電対で温度計測を行いながら、マトリックス樹脂の温度および粘度を調整した。また強化繊維シートの走行方向は鉛直方向下向き、液溜り部は2段テーパー状であるが、上部テーパーは開き角度17°、テーパー高さ(すなわちH)は100mm、下部テーパは開き角度7°であった。また、幅規制機構として、図5記載のような塗布部内部形状に合わせた板状ブッシュを備えており、さらにこの板状ブッシュの設置位置自在に変更し、L2を適宜調整できるようにした。狭窄部の幅Yは、L2を300mmとした場合、300mmとなるようにした。狭窄部の隙間Dは0.18mmとした。この場合、出口スリットのアスペクト比は1500となる。また、狭窄部出口からマトリックス樹脂が漏れないように、狭窄部出口下面においてブッシュより外側は塞いで使用した。
【0184】
<強化繊維シート>
プリプレグの作製は、強化繊維として炭素繊維(東レ製、“トレカ(登録商標)”T800S(24K))を用い、マトリックス樹脂として後記する熱硬化性エポキシ樹脂組成物を用い、上記装置によりFRP用シート状プリプレグの作製を行った。また、強化繊維ボビンの数は作製するプリプレグに応じて変更を行ったが、特に断らない限り、56とした。
【0185】
<プリプレグ製造工程>
クリールに掛けられた複数の強化繊維ボビンから強化繊維束を引き出し、強化繊維配列装置で強化繊維シートを形成させ、方向転換ロールで一旦上方に導いた。その後、強化繊維シートは方向転換ロールを経て、鉛直下向きに搬送され、強化繊維予熱装置で塗布部温度以上に加熱され、塗布部に導かれ、マトリックス樹脂が塗布された。その後、塗布部から1次プリプレグが引き出され、離型シートが付与された後、高張力引き取り装置で引き取られ、さらに上側の離型シートが剥がされた。そして、テーブル上でスプレー塗布を行った。この後、上側の離型シートが付与され、これが熱板と加熱ニップロールを備えた追含浸装置に導かれ、場合により追含浸を行った。その後、冷却装置を経て、上側離型紙を剥がし、プリプレグ/離型シートのシート状一体物が巻き取られた。
【0186】
<マトリックス樹脂>
マトリックス樹脂(熱硬化性エポキシ樹脂組成物):
エポキシ樹脂(芳香族アミン型エポキシ樹脂+ビスフェノール型エポキシ樹脂の混合物)、硬化剤(ジアミノジフェニルスルホン)、ポリエーテルスルホンの混合物であり、ポリマー粒子は含有していない。この熱硬化性エポキシ樹脂の粘度をTA Instruments社製ARES-G2を用いて、測定周波数0.5Hz、昇温速度1.5℃/分で測定したところ、75℃で50Pa・s、90℃で15Pa・s、105℃で4Pa・sであった。
【0187】
<スプレー塗布に供する液体>
ビスフェノール型の液状エポキシ樹脂を用いた。この液状エポキシ樹脂の粘度をTA Instruments社製ARES-G2を用いて、測定周波数0.5Hz、温度25℃で測定したところ10Pa・sであった。
【0188】
<スプレー塗布条件>
塗布ヘッド温度は25℃、口金の単孔面積を0.025mm、単孔吐出量を0.16g/分、幅方向の口金孔数を220とした。また、空気流を0.15MPaで空気を供給し、炭素繊維シートから塗布ヘッド下面(口金面)までの塗布高さhは50mmとした。
【0189】
<連続走行性の評価>
強化繊維シートの塗布部での連続走行性を評価するため、30分間連続走行させ、毛羽詰まり・糸切れが無いものを「Good」、毛羽が詰まり糸切れしたものを「Bad」とした。
【0190】
また、毛羽詰まりの兆候を評価するため、60分間および120分間の連続走行後に塗布部を分解して壁面部材の接液面を目視で観察し、毛羽の有無を調べた。連続走行後に狭窄部の付近に毛羽が付着しているものを毛羽防止性「Poor」、連続走行後に狭窄部23から遠い部分(液溜り部22の上部付近)に毛羽が付着しているものを毛羽防止性「Fair」、連続走行後に壁面部材21の接液面に毛羽が付着していないものを毛羽防止性「Good」として、毛羽防止性を評価した。
【0191】
また、走行速度20m/分で60分間連続走行させ、液溜まり部直上の強化繊維シートに繊維束の割れ(縦スジ状にシート状炭素繊維束が裂けている部分)や繊維束の端部折れ(炭素繊維束が重なっている部分)がなく均一に走行している時間を測定した。繊維束の割れ、および繊維束の端部折れがなく均一に走行している時間の割合が全走行時間の90%以上を占めるものを「Excellent」、50%以上90%未満のものを「Good」、10%以上50%未満のものを「Fair」、10%未満のものを「Poor」とした。
【0192】
<含浸度の評価>
・剥離法(含浸度が低い場合)
採取したプリプレグを粘着テープで挟み、これを剥離し、マトリックス樹脂が付着した強化繊維とマトリックス樹脂が付着していない強化繊維を分離した。そして、投入した強化繊維シート全体の質量に対するマトリックス樹脂が付着した強化繊維の質量の比率を剥離法によるマトリックス樹脂の含浸率とした。
【0193】
・吸水率(含浸度が高い場合)
特表2016-510077号公報に記載の方法にならい、プリプレグを10cm×10cmにカットし、その1辺を5mm、水に5分間浸漬した時の質量変化から計算した。
【0194】
[実施例1~4]
塗布部で前記熱硬化性エポキシ樹脂組成物(マトリックス樹脂)を用い、スプレー塗布で前記液状エポキシ樹脂を用い、プリプレグを作製した。ただし、本実施例では、スプレー塗布後の追含浸は行わなかった。なお、液溜り部のマトリックス樹脂温度は90℃(15Pa・s相当)とした。また、強化繊維シート、プリプレグの走行速度は20m/分とした。
【0195】
幅規制機構下端部の幅L2と1次プリプレグの幅Wの関係L2-Wと塗布部の断面積が連続的に減少する高さHを種々変更した時の塗布部での1次プリプレグの走行安定性の評価結果を表1に示す。これよりL2-Wが小さく、Hが大きい方が1次プリプレグの安定走行性が向上することが分かる。なお、簡易追含浸を行わず、簡易追含浸装置下部で1次プリプレグを採取し、含浸率を剥離法で調べたところ、いずれも50~60%であり、塗布部で含浸が進んでいることを確認した。また、前記のように採取した1次プリプレグの幅方向の目付け均一性を以下のように評価した。幅300mmのプリプレグを幅方向に100mm四方で右端部、中央、左端部で切り出し、プリプレグの質量、炭素繊維の質量をそれぞれn=3で測定した。炭素繊維の質量はプリプレグから樹脂を溶剤で溶出した残渣として測定した。これから、各サンプリング位置での平均値をそれぞれ算出し、各サンプリング位置での平均値同士を比較したしたところ、炭素繊維、樹脂ともプラスマイナス2質量%の範囲に収まっており、優れた目付け均一性であった。また、スプレー塗布した液体の効果により、プリプレグ表面のタック性も優れていた。
【0196】
【表1】
【0197】
[比較例1]
塗布部として、図10に示す断面積が連続的に減少する部分の無いもの(H=0)を用い、表1記載の条件で実施例1と同様にプリプレグを作製しようとしたが、20m/分で走行開始後、すぐに強化繊維シートが詰まり、連続走行性が不良であった。
【0198】
[実施例5]
実施例1の条件でマトリックス樹脂を塗布した後、スプレー塗布を行い、さらに追含浸装置に導き、追含浸を行った。このプリプレグの吸水率を調べたところ、5%と十分な含浸度であった。
【0199】
次に、得られたプリプレグを6層積層し、オートクレーブを用いて180℃、6kgf/cm(0.588MPa)で2時間硬化させ、CFRPを得た。得られたCFRPは何れも引っ張り強度が3.0GPaであり、航空・宇宙用の構造材料として好適な機械特性を有していた。なお、CFRP引っ張り強度は、WO2011/118106パンフレットと同様に測定を行い、プリプレグ中の強化繊維の体積%を56.5%に規格化した値を用いた。
【0200】
[参考例1]
炭素繊維および熱硬化性エポキシ樹脂(マトリックス樹脂)を用い、従来のホットメルト法で作製したプリプレグをオートクレーブを用いて180℃、6kgf/cm(0.588MPa)で2時間硬化させたCFRPの引っ張り強度2.9GPaであった。
【産業上の利用可能性】
【0201】
本発明の製造方法で得られるプリプレグは、CFRPに代表されるFRPとして、航空・宇宙用途や自動車・列車・船舶などの構造材や内装材、圧力容器、産業資材用途、スポーツ材料用途、医療機器用途、筐体用途、土木・建築用途など広く適用することができる。
【符号の説明】
【0202】
1 強化繊維
1a 強化繊維シート
1b 改質剤が付与された強化繊維シート
1c 1次プリプレグ
1d プリプレグ
2 マトリックス樹脂
3、3a、3b 離型シート
11 クリール
12 配列装置
13、14 搬送ロール
15 巻取り装置
16、16a、16b 供給装置
20 塗布部
20b 別の実施形態の塗布部
20c 別の実施形態の塗布部
20d 別の実施形態の塗布部
20e 別の実施形態の塗布部
21a、21b 壁面部材
21c、21d 別の形状の壁面部材
21e、21f 別の形状の壁面部材
21g、21h 別の形状の壁面部材
21i、21j 別の形状の壁面部材
22 液溜り部
22a 液溜り部のうち断面積が連続的に減少する領域
22b 液溜り部のうち断面積が減少しない領域
22c 液溜り部のうち断面積が断続的に減少する領域
23 狭窄部
24a、24b 側板部材
25 出口
26 隙間
27、27a、27b 幅規制機構
28 改質剤付与装置
30 比較例1の塗布部
31a、31b 比較例1の壁面部材
32 比較例1の液溜り部
33 比較例1の液溜り部のうち断面積が断続的に減少する領域
35a、35b、35c バー
41 スプレー塗布装置
42 カーテン塗布装置
43 液体
44 気流
45 テーブル
46 液体もしくはその固化物またはそれらの混合物
47 膜
48 端部エア
49 面部エア
50 ロール
100 塗工装置
B 液溜り部22の奥行き
C 液溜り部22の上部液面までの高さ
D 狭窄部の隙間
G 幅規制を行う位置
H 液溜り部22の断面積が連続的に減少する鉛直方向高さ
L 液溜り部22の幅
R、Ra、Rb 渦流れ
T 循環流
W 狭窄部23の直下で測定した1次プリプレグ1bの幅
Y 狭窄部23の幅
Z 強化繊維シート、1次プリプレグ、プリプレグの搬送方向
θ テーパー部の開き角度
E 端部エアの吹き付け方向
F 面部エアの吹き付け方向
N ネックイン
h 塗布高さ
α 塗布角
411 クリール
412 強化繊維ボビン
413 方向転換ガイド
414 強化繊維束
415 強化繊維配列装置
416 強化繊維シート
416’ 改質剤が付与された強化繊維シート
417 拡幅装置
418 平滑化装置
419 方向転換ロール
420 強化繊維予熱装置
421 改質剤付与装置
422 改質剤を付与した強化繊維シート
430 塗布部
431 テーブル
441 方向転換ロール
442 離型シート供給機構
443 離型シート
444 高張力引取り装置
445 方向転換ロール
446 離型シート
447 積層ロール
448 高張力引取り装置
449 高張力引取りS字ロール
450 追含浸装置
451 熱板
452 加熱ニップロール
453 簡易追含浸装置
454 加熱ニップロール
455 加熱S字ロール
456 コンタクトロール
461 冷却装置
462 引き取り装置
463 離型シート(上)巻取装置
464 ワインダー
471 1次プリプレグ/プリプレグ
472 シート状一体物
481 スプレー塗布装置
482 カーテン塗布装置
500 改質剤
510 スプレーノズル
520 塗布ヘッド
521 空気流
530 塗布ヘッド
図1a
図1b
図2
図3
図4a
図4b
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29a
図29b
図30
図31
図32
図33
図34
図35a
図35b
図36a
図36b
図37a
図37b
図38a
図38b