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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】コモンモードチョークコイル
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/00 20060101AFI20221025BHJP
   H03H 7/01 20060101ALI20221025BHJP
   H01F 17/00 20060101ALN20221025BHJP
   H01F 27/28 20060101ALN20221025BHJP
   H01F 41/04 20060101ALN20221025BHJP
【FI】
H01F27/00 R
H03H7/01 Z
H01F17/00 B
H01F27/28 104
H01F41/04 C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020017324
(22)【出願日】2020-02-04
(65)【公開番号】P2021125534
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2021-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100085143
【弁理士】
【氏名又は名称】小柴 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】松浦 耕平
(72)【発明者】
【氏名】比留川 敦夫
(72)【発明者】
【氏名】植木 大志
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-306014(JP,A)
【文献】特開2018-195984(JP,A)
【文献】特開平05-326269(JP,A)
【文献】特開2019-067883(JP,A)
【文献】特開2019-102792(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/00-21/12
H01F 27/00
H01F 27/02
H01F 27/06
H01F 27/08
H01F 27/23
H01F 27/26-27/30
H01F 27/32
H01F 27/36
H01F 27/42
H01F 38/42
H03H 1/00- 3/00
H03H 5/00- 7/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非導電体からなりかつ積層された複数の非導電体層を有する積層体と、
前記積層体に内蔵された第1コイルおよび第2コイルと、
前記積層体の外表面に設けられ、前記第1コイルの互いに異なる第1端および第2端にそれぞれ電気的に接続された第1端子電極および第2端子電極と、
前記積層体の外表面に設けられ、前記第2コイルの互いに異なる第3端および第4端にそれぞれ電気的に接続された第3端子電極および第4端子電極と、
を備え、
前記第1コイルは、前記非導電体層間の界面に沿って配置された第1コイル導体を有し、
前記第2コイルは、前記第1コイル導体が配置された前記非導電体層間の界面とは異なる前記非導電体層間の界面に沿って配置された第2コイル導体を有し、
前記第1コイル導体および前記第2コイル導体の各々のターン数は2ターン未満であり、
前記第1コイル導体および前記第2コイル導体を前記積層体の積層方向で平面視したとき、前記第1コイル導体と前記第2コイル導体とが互いに交差する箇所は、2箇所以下であり、
前記第1コイルは、前記第1端および前記第2端をそれぞれ与える第1引き出し導体および第2引き出し導体を有し、前記第1引き出し導体は、前記第1端子電極に接続された第1接続端部と、前記第1コイル導体および前記第1接続端部間を接続する直線状の第1連結部と、を有し、
前記第2コイルは、前記第3端および前記第4端をそれぞれ与える第3引き出し導体および第4引き出し導体を有し、前記第3引き出し導体は、前記第3端子電極に接続された第3接続端部と、前記第2コイル導体および前記第3接続端部間を接続する直線状の第2連結部と、を有し、
前記第1コイル導体と前記第2コイル導体との間の距離は、6μm以上かつ26μm以下とされ、
前記第1コイル導体および前記第2コイル導体の各々の線幅は、10μm以上かつ24μm以下とされ、
ディファレンシャルモード成分の透過特性であるSdd21透過特性を0.1GHz以上かつ100GHz以下の周波数で測定したとき、前記Sdd21透過特性が-3dB以下となる周波数が30GHz以上であり、
コモンモード成分の透過特性であるScc21透過特性を10GHz以上かつ60GHz以下の周波数で測定したとき、前記Scc21透過特性が最小となる周波数が20GHz以上であり、
前記Scc21透過特性の最小値が-20dB以下である、
コモンモードチョークコイル。
【請求項2】
25GHz以上かつ35GHz以下の周波数で測定したとき、前記Scc21透過特性が-10dB以下である、請求項1に記載のコモンモードチョークコイル。
【請求項3】
前記Sdd21透過特性が-3dB以下となる周波数が40GHz以上である、請求項1または2に記載のコモンモードチョークコイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コモンモードチョークコイルに関するもので、特に、積層された複数の非導電体層を有する積層体と、積層体に内蔵された第1コイルおよび第2コイルと、を備える、積層型のコモンモードチョークコイルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この発明にとって興味ある技術が、たとえば特開2006-313946号公報(特許文献1)に記載されている。特許文献1に記載の技術は、積層型のコモンモードチョークコイルに関するもので、当該コモンモードチョークコイルは、超小型の薄膜型のものであり、GHz近傍の伝送信号の高速伝送が可能とされている。より具体的には、特許文献1には、伝送信号(ディファレンシャルモードの信号)の減衰特性が-3dBとなる周波数をカットオフ周波数と定義したとき、このカットオフ周波数が2.4GHz以上となるコモンモードチョークコイルが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-313946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高速通信技術の進展により、より高周波において、ディファレンシャルモードの信号を透過し、かつコモンモードのノイズ成分を減衰できる積層型のコモンモードチョークコイルが必要となってきている。
【0005】
そこで、この発明の目的は、たとえば25GHz~30GHzといった高い周波数帯において、さらには30GHzを超えるような極めて高い周波数帯においても、従来では想定されていなかった、ディファレンシャルモードの信号の透過特性およびコモンモードの信号の透過特性を実現し得る積層型のコモンモードチョークコイルを提供しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、非導電体からなりかつ積層された複数の非導電体層を有する積層体と、積層体に内蔵された第1コイルおよび第2コイルと、積層体の外表面に設けられ、第1コイルの互いに異なる第1端および第2端にそれぞれ電気的に接続された第1端子電極および第2端子電極と、積層体の外表面に設けられ、第2コイルの互いに異なる第3端および第4端にそれぞれ電気的に接続された第3端子電極および第4端子電極と、を備える、コモンモードチョークコイルに向けられる。
【0007】
そして、この発明に係るコモンモードチョークコイルは、上述した技術的課題を解決するため、
第1コイルは、非導電体層間の界面に沿って配置された第1コイル導体を有し、
第2コイルは、第1コイル導体が配置された非導電体層間の界面とは異なる非導電体層間の界面に沿って配置された第2コイル導体を有し、
第1コイル導体および第2コイル導体の各々のターン数は2ターン未満であり、
第1コイル導体および第2コイル導体を積層体の積層方向で平面視したとき、第1コイル導体と第2コイル導体とが互いに交差する箇所は、2箇所以下であり、
第1コイルは、第1端および第2端をそれぞれ与える第1引き出し導体および第2引き出し導体を有し、第1引き出し導体は、第1端子電極に接続された第1接続端部と、第1コイル導体および第1接続端部間を接続する直線状の第1連結部と、を有し、
第2コイルは、第3端および第4端をそれぞれ与える第3引き出し導体および第4引き出し導体を有し、第3引き出し導体は、第3端子電極に接続された第3接続端部と、第2コイル導体および第3接続端部間を接続する直線状の第2連結部と、を有し、
第1コイル導体と第2コイル導体との間の距離は、6μm以上かつ26μm以下とされ、
第1コイル導体および第2コイル導体の各々の線幅は、10μm以上かつ24μm以下とされるとともに、
次のような新規な特性を備えることを特徴としている。
【0008】
すなわち、この発明に係るコモンモードチョークコイルは、ディファレンシャルモード成分の透過特性であるSdd21透過特性を0.1GHz以上かつ100GHz以下の周波数で測定したとき、Sdd21透過特性が-3dB以下となる周波数が30GHz以上であり、コモンモード成分の透過特性であるScc21透過特性を10GHz以上かつ60GHz以下の周波数で測定したとき、Scc21透過特性が最小となる周波数が20GHz以上であり、Scc21透過特性の最小値が-20dB以下であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、従来にはない、ディファレンシャルモードの信号の透過特性およびコモンモードの信号の透過特性を実現し得る積層型のコモンモードチョークコイルを得ることができる。したがって、この発明によれば、たとえば高速通信技術の分野において、画期的な進歩を期待することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】この発明の一実施形態によるコモンモードチョークコイル1の外観を示す斜視図である。
図2図1に示したコモンモードチョークコイル1の主要部を分解して示す平面図である。
図3図1に示したコモンモードチョークコイル1の平面図であり、積層体2に内蔵された第1コイル11および第2コイル12を積層方向に透視して模式的に示す図である。
図4図1に示したコモンモードチョークコイル1における第1コイル11に備える第1コイル導体17を示す平面図であり、コイル導体のターン数を説明するための図である。
図5】この発明の効果を確認するために実施した実験例において作製された試料1に係るコモンモードチョークコイルについて求めたコモンモード成分の透過特性(Scc21透過特性)を示す図である。
図6】上記試料1に係るコモンモードチョークコイルについて求めたディファレンシャルモード成分の透過特性(Sdd21透過特性)を示す図である。
図7】上記実験例において作製された試料2に係るコモンモードチョークコイルについて求めたコモンモード成分の透過特性(Scc21透過特性)を示す図である。
図8】上記試料2に係るコモンモードチョークコイルについて求めたディファレンシャルモード成分の透過特性(Sdd21透過特性)を示す図である。
図9】上記実験例において作製された試料3に係るコモンモードチョークコイルについて求めたコモンモード成分の透過特性(Scc21透過特性)を示す図である。
図10】上記試料3に係るコモンモードチョークコイルについて求めたディファレンシャルモード成分の透過特性(Sdd21透過特性)を示す図である。
図11】上記実験例において作製された試料4に係るコモンモードチョークコイルについて求めたコモンモード成分の透過特性(Scc21透過特性)を示す図である。
図12】上記試料4に係るコモンモードチョークコイルについて求めたディファレンシャルモード成分の透過特性(Sdd21透過特性)を示す図である。
図13】上記実験例において作製された試料5に係るコモンモードチョークコイルについて求めたコモンモード成分の透過特性(Scc21透過特性)を示す図である。
図14】上記試料5に係るコモンモードチョークコイルについて求めたディファレンシャルモード成分の透過特性(Sdd21透過特性)を示す図である。
図15】上記実験例において作製された試料6に係るコモンモードチョークコイルについて求めたコモンモード成分の透過特性(Scc21透過特性)を示す図である。
図16】上記試料6に係るコモンモードチョークコイルについて求めたディファレンシャルモード成分の透過特性(Sdd21透過特性)を示す図である。
図17】比較例として作製された上記試料6に係るコモンモードチョークコイルの主要部を分解して示す、図2に相当する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1ないし図4を参照して、この発明の一実施形態によるコモンモードチョークコイル1について説明する。
【0012】
図1に示すように、コモンモードチョークコイル1は、積層された複数の非導電体層を有する積層体2を備える。図2には、複数の非導電体層のうち、代表的な非導電体層3a、3b、3c、3dおよび3eが図示されている。以下において、図2に示す非導電体層3a、3b、3c、3dおよび3eのように互いに区別する場合を除いて、非導電体層を一般的に説明する場合には、非導電体層について、「3」の参照符号を用いる。非導電体層3は、たとえばガラスおよびセラミックを含む非導電体から構成される。
【0013】
積層体2は、非導電体層3の延びる方向に延びかつ互いに対向する第1主面5および第2主面6と、第1主面5および第2主面6間を連結しかつ互いに対向する第1側面7および第2側面8と、第1主面5および第2主面6間ならびに第1側面7および第2側面8間をそれぞれ連結しかつ互いに対向する第1端面9および第2端面10と、を有する、直方体形状である。直方体形状は、たとえば、稜線部分および角部分に丸みや面取りが付与された形状であってもよい。
【0014】
コモンモードチョークコイル1は、図2および図3に示すように、積層体2に内蔵された第1コイル11および第2コイル12を備える。また、コモンモードチョークコイル1は、図1に示すように、積層体2の外表面に設けられる、第1端子電極13、第2端子電極14、第3端子電極15および第4端子電極16を備える。より具体的には、第1端子電極13および第3端子電極15は、第1側面7に設けられ、第2端子電極14および第4端子電極16は、それぞれ、第1端子電極13および第3端子電極15と対称の形状を有していて、第2側面8に設けられる。
【0015】
図2に示すように、第1端子電極13および第2端子電極14は、第1コイル11の互いに異なる第1端11aおよび第2端11bにそれぞれ電気的に接続される。第3端子電極15および第4端子電極16は、第2コイル12の互いに異なる第3端12aおよび第4端12bにそれぞれ電気的に接続される。
【0016】
以下の説明において、非導電体層3a、3b、3c、3dおよび3eは、図2に示す順序で下から上に向かって積層されているとする。
【0017】
図2を参照して、第1コイル11は、非導電体層3bおよび3c間の界面に沿って配置された第1コイル導体17を有する。第1コイル11は、第1端11aおよび第2端11bをそれぞれ与える第1引き出し導体19および第2引き出し導体20を有する。第1引き出し導体19は、積層体2の外表面において第1端子電極13に接続された第1接続端部23を含む。第2引き出し導体20は、積層体2の外表面において第2端子電極14に接続された第2接続端部24を含む。
【0018】
上記第1接続端部23は、第1コイル導体17が配置された非導電体層3bおよび3c間の界面とは異なる非導電体層3aおよび3b間の界面に沿って配置される。また、第1引き出し導体19は、第1コイル導体17に接続されかつ第1コイル導体17と第1接続端部23との間に位置する非導電体層3bを厚み方向に貫通する第1ビア導体27と、第1接続端部23が配置された非導電体層3aおよび3b間の界面に沿って配置されかつ第1ビア導体27と第1接続端部23とを接続する第1連結部29と、を有する。第1連結部29は、好ましくは、直線状に延びる形状を有する。これによって、第1連結部29に起因するインダクタンスを小さくでき、高周波特性を向上させることができる。
【0019】
他方、第2コイル12においても、以下に説明するように、第1コイル11の場合と同様の要素を備えている。
【0020】
第2コイル12は、非導電体層3cおよび3d間の界面に沿って配置された第2コイル導体18を有する。第2コイル12は、第3端12aおよび第4端12bをそれぞれ与える第3引き出し導体21および第4引き出し導体22を有する。第3引き出し導体21は、積層体2の外表面において第3端子電極15に接続された第3接続端部25を含む。第4引き出し導体22は、積層体2の外表面において第4端子電極16に接続された第4接続端部26を含む。
【0021】
上記第3接続端部25は、第2コイル導体18が配置された非導電体層3cおよび3d間の界面とは異なる非導電体層3dおよび3e間の界面に沿って配置される。また、第3引き出し導体21は、第2コイル導体18に接続されかつ第2コイル導体18と第3接続端部25との間に位置する非導電体層3dを厚み方向に貫通する第2ビア導体28と、第3接続端部25が配置された非導電体層3dおよび3e間の界面に沿って配置されかつ第2ビア導体28と第3接続端部25とを接続する第2連結部30と、を有する。第2連結部30は、前述した第2連結部29と同様、好ましくは、直線状に延びる形状を有する。これによって、第2連結部30に起因するインダクタンスを小さくでき、高周波特性を向上させることができる。
【0022】
コモンモードチョークコイル1は、積層体2の第2主面6を実装基板側に向けた状態で実装される。実施品では、たとえば、積層体2における第1端面9と第2端面10とが対向する長さ方向の寸法Lが0.55mm以上かつ0.75mm以下とされ、第1側面7と第2側面8とが対向する幅方向の寸法Wが0.40mm以上かつ0.60mm以下とされ、第1主面5と第2主面6とが対向する高さ方向の寸法Hが0.20mm以上かつ0.40mm以下とされる。
【0023】
コモンモードチョークコイル1は、図2および図3からわかるように、第1コイル導体17および第2コイル導体18の各々のターン数は2ターン未満であることが好ましい。
【0024】
上述のターン数は、以下のように定義される。第1コイル導体17および第2コイル導体18の各々は、円弧状に延びる部分を有している。図4を参照して、第1コイル11に備える第1コイル導体17について説明する。図4に示すように、コイル導体17の始端から終端にかけて、コイル導体17の外周に沿って接線Tを順次引き、この接線Tが360度回転した段階で1ターンと定義する。図4に示したコイル導体17では、接線Tが約307度回転しているので、約0.85ターンと定義できる。第2コイル12に備える第2コイル導体18についても同様にターン数が定義される。
【0025】
第1コイル導体17および第2コイル導体18のターン数が少ないほど、第1コイル11と第2コイル12との間に形成される浮遊容量を低減できるので、コモンモードチョークコイル1の高周波特性を向上させることに寄与し得る。
【0026】
コモンモードチョークコイル1は、図3によく示されているように、第1コイル導体17および第2コイル導体18を積層体2の積層方向で平面視したとき、第1コイル導体17および第2コイル導体18には、互いに交差する部分を除いて、互いに重なる部分がないようにされることが好ましい。すなわち、第1コイル導体17と第2コイル導体18とは、互いに重なりながら同じ方向に並走する部分がないことが好ましい。これによって、第1コイル11と第2コイル12との間に形成される浮遊容量を低減することができ、結果として、コモンモードチョークコイル1の高周波特性を向上させることに寄与し得る。
【0027】
また、図3からわかるように、第1コイル導体17および第2コイル導体18を積層体2の積層方向で平面視したとき、第1コイル導体17と第2コイル導体18とが互いに交差する箇所は、2箇所である。このように、交差する箇所が2箇所以下とされることにより、第1コイル導体17と第2コイル導体18との間に形成される浮遊容量が低減され、高周波特性の向上に寄与し得る。
【0028】
好ましくは、第1コイル導体17と第2コイル導体18との間の距離は、6μm以上かつ26μm以下とされる。当該距離が6μm未満になると、第1コイル導体17と第2コイル導体18との間に形成される浮遊容量が、高周波特性を低下させる程度に大きくなるおそれがある。他方、当該距離が26μmを超えると、第1コイル11と第2コイル12との結合係数が低下するおそれがある。
【0029】
なお、図2において、非導電体層3a、3b、3c、3dおよび3eの各々は、単層のものであるかのように図示されたが、少なくともいくつかは複数層から構成されてもよい。したがって、たとえば、上述した第1コイル導体17と第2コイル導体18との間の距離の調整は、非導電体層3cの単層での厚みを変更することによって行なわれても、非導電体層3cを構成する層の数を変更することによって行なわれてもよい。
【0030】
また、端子電極13~16は、第1主面5から第2主面6にわたって形成されるが、端子電極13~16の各々の第1側面7または第2側面8上での幅(図1において、第1端子電極13についての第1側面7上での幅が“W1”で示されている。)は、好ましくは、0.1mm以上かつ0.25mm以下とされ、より好ましくは、0.15mm以上とされる。当該幅が0.1mm未満であると、コモンモードチョークコイル1を実装基板へ実装したときの固着強度が不足するおそれがある。他方、当該幅が0.25mmを超えると、コモンモードチョークコイル1のコモンモード成分の透過特性であるScc21のピーク位置が30GHz未満になるおそれがある。
【0031】
図1において、端子電極13~16の各々の一部が第1主面5にまで延長されて形成されている状態が図示されている。図1に図示されないが、端子電極13~16の各々の一部は、第2主面6においても、同様に延長されて形成されている。このような延長部の寸法Eは、0.02mm以上かつ0.2mm以下であることが好ましく、0.17mm以下であることがより好ましい。寸法Eが0.02mm未満になると、実装基板へ実装したときのコモンモードチョークコイル1の固着強度が低下するおそれがある。他方、寸法Eが0.2mmを超えると、コモンモードチョークコイル1のコモンモード成分の透過特性であるScc21のピーク位置が30GHz未満になるおそれがある。
【0032】
また、好ましくは、第1コイル導体17および第2コイル導体18の各々の線幅は、10μm以上かつ24μm以下とされる。当該線幅が10μm未満であると、コイル導体17および18における直流抵抗が大きくなるおそれがある。他方、当該線幅が24μmを超えると、第1コイル導体17と第2コイル導体18との間に形成される浮遊容量が、高周波特性を低下させる程度に大きくなるおそれがある。
【0033】
次に、コモンモードチョークコイル1の好ましい製造方法について説明する。
【0034】
非導電体層3となるべきガラスセラミックシートを製造するため、以下の工程が実施される。KO、BおよびSiO、ならびに必要に応じてAlが所定の比率になるように秤量され、白金製のるつぼに入れられ、焼成炉で1500~1600℃の温度に昇温されることによって溶融される。この溶融物を急冷することでガラス材料が得られる。
【0035】
上述したガラス材料としては、たとえば、少なくともK、BおよびSiを含有し、KをKOに換算して0.5~5質量%、BをBに換算して10~25質量%、SiをSiOに換算して70~85質量%、AlをAlに換算して0~5質量%からなるガラス材料が用いられる。
【0036】
次に、D50(体積基準の累積百分率50%相当の粒径)が1~3μm程度となるように、上記ガラス材料が粉砕されることによってガラス粉末が得られる。
【0037】
次に、D50がともに0.5~2.0μmのアルミナ粉末と石英(SiO)粉末とが上記のガラス粉末に添加され、PSZメディアとともに、ボールミルに入れられ、さらに、ポリビニルブチラール系等の有機バインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、可塑剤とがボールミルに入れられ、混合されることによって、ガラスセラミックスラリーが得られる。
【0038】
次に、上記スラリーが、ドクターブレード法等により膜厚が20~30μmのシート状となるように成形加工され、得られたシートを矩形状に打ち抜くことによって、複数のガラスセラミックシートが得られる。
【0039】
上述したガラスセラミックシートに含まれる無機成分は、たとえば、ガラス材料を60~66質量%、石英を34~37質量%、アルミナを0.5~4質量%含む誘電体ガラス材料を含む。
【0040】
他方、第1コイル11および第2コイル12を形成するためのAgを導電成分とする導電性ペーストが用意される。
【0041】
次に、所定のガラスセラミックシートに、たとえばレーザー光を照射することによって、ビア導体27および28を配置するための貫通孔が設けられる。その後、たとえばスクリーン印刷によって導電性ペーストが所定のガラスセラミックシートに付与され、それによって、上記貫通孔に導電性ペーストを充填した状態のビア導体27および28が形成されるとともに、コイル導体17および18ならびに引き出し導体19~22を構成する接続端部23~26および連結部29および30がパターニングされた状態で形成される。
【0042】
次に、図2に示した非導電性体層3a~3eの積層順序が得られるように、複数のガラスセラミックシートが積み重ねられる。このとき、これらガラスセラミックシートの積み重ねの上下に、必要に応じて、貫通孔が設けられずかつ導電性ペーストが付与されない適当数のガラスセラミックシートがさらに積み重ねられる。
【0043】
次に、積み重ねられた複数のガラスセラミックシートが、温度80℃、圧力100MPaの条件で温間等方圧プレス処理され、積層ブロックが得られる。
【0044】
次に、積層ブロックがダイサー等で切断され、個々のコモンモードチョークコイル1に備える積層体2となり得る寸法の積層構造物に個片化される。
【0045】
次に、個片化された積層構造物が、焼成炉において、860~900℃の温度で1~2時間、たとえば880℃の温度で1.5時間焼成され、積層体2が得られる。
【0046】
焼成後の積層体2は、好ましくは、メディアとともに、回転バレル機に入れられ、回転されることにより、稜線部分および角部分に丸みや面取りが施される。
【0047】
次に、積層体2における接続端部23~26が引き出された箇所にAgおよびガラスを含む導電性ペーストが塗布され、次いで、導電性ペーストがたとえば温度810℃、1分間の条件で焼き付けられ、それによって、端子電極13~16のための下地膜が形成される。下地膜の厚みはたとえば5μmである。次いで、下地膜上に、電気めっきにより、たとえばNi膜およびSn膜が順次形成される。これらNi膜およびSn膜の厚みは、たとえば、それぞれ、3μmおよび3μmである。
【0048】
以上のようにして、図1に示すコモンモードチョークコイル1が完成される。
【0049】
コモンモードチョークコイル1は、ディファレンシャルモード成分の透過特性であるSdd21を0.1GHz以上かつ100GHz以下の周波数で測定したとき、Sdd21が-3dB以下となる周波数が30GHz以上であり、コモンモード成分の透過特性であるScc21を10GHz以上かつ60GHz以下の周波数で測定したとき、Scc21が最小となる周波数が20GHz以上であり、Scc21の最小値が-20dB以下であることを特徴としている。
【0050】
好ましくは、コモンモードチョークコイル1は、25GHz以上かつ35GHz以下の周波数で測定したとき、Scc21が-10dB以下である。
【0051】
また、好ましくは、Sdd21が-3dBとなる周波数が40GHz以上である。
【0052】
上述した特性を有するコモンモードチョークコイルの実現性を実証し、かつこの発明の効果を確認するために実施した実験例について以下に説明する。
【0053】
[実験例]
以下の試料を用意した。なお、各試料に係るコモンモードチョークコイルに備える積層体の寸法は、長さ方向寸法Lを0.65mm、幅方向寸法Wを0.50mm、高さ方向寸法Hを0.30mmとした。また、各試料に係るコモンモードチョークコイルにおいて、第1コイル導体および第2コイル導体の各々の線幅を0.018mmとした。
【0054】
1.試料1(実施例)
図2を参照して、第1コイル導体17のターン数が0.8ターン、第2コイル導体18のターン数が1ターンであり、第1コイル導体17から側面7および8ならびに端面10の各々までの距離SG1が0.025mm、第2コイル導体18から側面7および8ならびに端面9および10の各々までの距離SG2が0.105mmである、試料1に係るコモンモードチョークコイルを用意した。
【0055】
2.試料2(実施例)
第1コイル導体17から側面7および8ならびに端面10の各々までの距離SG1が0.045mmであることを除いて、試料1の場合と同様である、試料2に係るコモンモードチョークコイルを用意した。
【0056】
3.試料3(実施例)
第1コイル導体17から側面7および8ならびに端面10の各々までの距離SG1が0.065mmであることを除いて、試料1の場合と同様である、試料3に係るコモンモードチョークコイルを用意した。
【0057】
4.試料4(実施例)
第1コイル導体17から側面7および8ならびに端面10の各々までの距離SG1が0.085mmであることを除いて、試料1の場合と同様である、試料4に係るコモンモードチョークコイルを用意した。
【0058】
5.試料5(実施例)
第1コイル導体17から側面7および8ならびに端面10の各々までの距離SG1が0.105mmであることを除いて、試料1の場合と同様である、試料5に係るコモンモードチョークコイルを用意した。
【0059】
図17は、以下に説明する試料6(比較例)を示す、図2に相当する図である。図17において、図2に示す要素に相当する要素には同様の参照符号を付している。
【0060】
6.試料6(比較例)
図17を参照して、第1コイル導体17のターン数が2ターン、第2コイル導体18のターン数が2ターンであり、第1コイル導体17から側面7および8ならびに端面9および10の各々までの距離SG1が0.045mm、第2コイル導体18から側面7および8ならびに端面9および10の各々までの距離SG2が0.105mmである、試料6に係るコモンモードチョークコイルを用意した。
【0061】
以上の試料1~6に係るコモンモードチョークコイルについて、コモンモード成分の透過特性(Scc21透過特性)およびディファレンシャルモード成分の透過特性(Sdd21透過特性)を求めた。
【0062】
図5および図6には、試料1に係るコモンモードチョークコイルについて求めたScc21透過特性およびSdd21透過特性がそれぞれ示されている。
【0063】
図7および図8には、試料2に係るコモンモードチョークコイルについて求めたScc21透過特性およびSdd21透過特性がそれぞれ示されている。
【0064】
図9および図10には、試料3に係るコモンモードチョークコイルについて求めたScc21透過特性およびSdd21透過特性がそれぞれ示されている。
【0065】
図11および図12には、試料4に係るコモンモードチョークコイルについて求めたScc21透過特性およびSdd21透過特性がそれぞれ示されている。
【0066】
図13および図14には、試料5に係るコモンモードチョークコイルについて求めたScc21透過特性およびSdd21透過特性がそれぞれ示されている。
【0067】
図15および図16には、試料6に係るコモンモードチョークコイルについて求めたScc21透過特性およびSdd21透過特性がそれぞれ示されている。
【0068】
図5および図6に示した特性図から、試料1について、Scc21透過特性についてのピーク位置、最小値(ピーク位置での透過率)、25GHzでの値(透過率)、および35GHzでの値(透過率)、ならびにSdd21透過特性についての30GHzでの値(透過率)および40GHzでの値(透過率)を求めた。
【0069】
同様に、図7および図8から試料2について、図9および図10から試料3について、図11および図12から試料4について、図13および図14から試料5について、図15および図16から試料6について、それぞれ、Scc21透過特性についてのピーク位置および最小値(ピーク位置での透過率)、25GHzでの値(透過率)、および35GHzでの値(透過率)、ならびにSdd21透過特性についての30GHzでの値(透過率)および40GHzでの値(透過率)を求めた。これらの結果が表1に示されている。
【0070】
【表1】
【0071】
Sdd21透過特性が示される図6図8図10図12図14および図16からわかるように、試料1~6において、Sdd21透過特性を0.1GHz以上かつ100GHz以下の周波数で測定したとき、Sdd21透過特性が-3dB以下となる周波数が30GHz以上となっている。したがって、試料1~6によれば、25GHzから35GHzの高周波領域で、ディファレンシャルモードの信号を減衰なく透過することができる。
【0072】
他方、Scc透過特性が示される図5図7図9図11図13および図15ならびに表1からわかるように、試料1~6では、Scc21透過特性の最小値が-20dB以下であるが、Scc21透過特性を10GHz以上かつ60GHz以下の周波数で測定したとき、試料1~5では、Scc21透過特性が最小となる周波数が20GHz以上であるのに対して、試料6では、Scc21透過特性が最小となる周波数が20GHz未満の12.70GHzとなっている。したがって、試料1~5によれば、25GHzから35GHzの高周波領域で、コモンモードのノイズ成分を効果的に減衰することができる。これに対して、試料6では、25GHzから35GHzの高周波領域で、コモンモードのノイズ成分を減衰することができない。
【0073】
また、表1に示したScc21透過特性についての25GHzでの値および35GHzでの値からわかるように、試料1~5では、25GHz以上かつ35GHz以下の周波数で測定したとき、Scc21透過特性が-10dB以下である。これに対して、試料6では、当該Scc21透過特性は、-10dBを超えている。このことからも、試料1~5によれば、25GHzから35GHzの高周波領域で、コモンモードのノイズ成分を効果的に減衰できることがわかる。
【0074】
また、Sdd21透過特性が示される図6図8図10図12図14および図16からわかるように、実施例である試料1~5のうち、試料1~4では、Sdd21透過特性が-3dB以下となる周波数が40GHz以上である。したがって、40GHz以上の高周波領域であっても、ディファレンシャルモードの信号を減衰なく透過することができる。
【0075】
他方、試料5では、表1に示したSdd21透過特性についての40GHzでの値からわかるように、Sdd21透過特性についての40GHzでの値が既に-4.11dBとなっており、Sdd21透過特性が-3dB以下となる周波数は40GHz未満ということになる。これは、前述したように、試料5では、第1コイル導体17から測定される距離SG1と第2コイル導体18から測定される距離SG2とがともに0.105mmであったため、積層体2の積層方向で平面視したとき、第1コイル導体17と第2コイル導体18とが多くの部分で互いに重なり、そのため高周波特性に悪影響を及ぼす浮遊容量が増大したためであると推測される。
【0076】
以上、この発明を図示した実施形態に関連して説明したが、この発明の範囲内において、その他種々の変形例が可能である。
【0077】
たとえば、第1コイルおよび第2コイルの少なくとも一方に備える1つのコイル導体が2つの部分に分割され、分割された第1部分および第2部分が、それぞれ、非導電体層間の互いに異なる第1界面および第2界面に沿って配置され、第1部分と第2部分とがビア導体で接続されていてもよい。
【符号の説明】
【0078】
1 コモンモードチョークコイル
2 積層体
3,3a,3b,3c,3d,3e 非導電体層
5,6 主面
7,8 側面
9,10 端面
11 第1コイル
12 第2コイル
13~16 端子電極
17,18 コイル導体
19~22 引き出し導体
23~26 接続端部
27,28 ビア導体
29,30 連結部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17