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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】シート状物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06N 3/14 20060101AFI20221025BHJP
   D06M 15/333 20060101ALI20221025BHJP
   D06M 11/00 20060101ALI20221025BHJP
   D06M 15/564 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
D06N3/14 101
D06M15/333
D06M11/00 140
D06M11/00 110
D06M15/564
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020525734
(86)(22)【出願日】2019-06-18
(86)【国際出願番号】 JP2019024016
(87)【国際公開番号】W WO2019244862
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2022-05-30
(31)【優先権主張番号】P 2018116758
(32)【優先日】2018-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】古井 孝宜
(72)【発明者】
【氏名】小出 現
(72)【発明者】
【氏名】西村 誠
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/084253(WO,A1)
【文献】特開2013-234409(JP,A)
【文献】特表平08-510796(JP,A)
【文献】国際公開第2014/042241(WO,A1)
【文献】特開昭53-050302(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06N 1/00- 7/06
D06M 13/00-15/715
B32B 1/00-43/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
極細繊維を含む繊維質基材とポリウレタンとを含むシート状物の製造方法であって、次の(1)~(4)の工程を含む、シート状物の製造方法。
(1)極細繊維発現型繊維を主構成成分とする繊維質基材に、ポリビニルアルコールの水溶液であるポリビニルアルコール水溶液を付与することにより、繊維質基材に含まれる繊維質量に対して前記ポリビニルアルコールを0.1~50質量%付与させる工程であって、前記ポリビニルアルコールのけん化度が98%以上で、重水溶媒中、13C-NMRで測定される立体規則性評価において、rrr組成存在比率が15.0%以上、28.0%以下であり、mrr組成存在比率が25.5%以上である、ポリビニルアルコール付与工程、
(2)前記工程の後に、前記繊維質基材の極細繊維発現型繊維を平均単繊維直径が0.1μm~10μmの極細繊維にする、極細繊維発現工程、
(3)前記工程の後に、前記ポリビニルアルコールが付与された前記繊維質基材に、水分散型ポリウレタンを付与する、ポリウレタン付与工程、
(4)前記工程の後に、前記水分散型ポリウレタンが付与された繊維質基材から、前記ポリビニルアルコールを除去する、ポリビニルアルコール除去工程。
【請求項2】
前記ポリビニルアルコールの重合度が200~3500である、請求項1に記載のシート状物の製造方法。
【請求項3】
前記極細繊維発現工程において、前記極細繊維発現型繊維を主構成成分とする繊維質基材をアルカリ水溶液で処理する、請求項1または2に記載のシート状物の製造方法。
【請求項4】
前記ポリビニルアルコール付与工程において、前記ポリビニルアルコール水溶液を付与した後、80~190℃で加熱する、請求項1~3のいずれかに記載のシート状物の製造方法。
【請求項5】
前記ポリビニルアルコール付与工程において、繊維質基材が繊維と織物および/または編物とが絡合一体化されたものである、請求項1~4のいずれかに記載のシート状物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バインダー樹脂に水分散型ポリウレタンを用いることで、製造工程における有機溶剤の使用量を少なくし、環境に配慮したシート状物において、良好な柔軟性と高級な外観品位を両立し、かつ良好な耐摩耗性を有するシート状物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
主として繊維質基材とポリウレタンからなるシート状物は、天然皮革にない優れた特徴を有しており、種々の用途に広く利用されている。とりわけ、ポリエステル系繊維質基材を用いた皮革様シート状物は、耐光性に優れているため、衣料や椅子張りおよび自動車内装材用途等にその使用が年々広がってきた。
【0003】
かかるシート状物を製造するにあたっては、繊維質基材にポリウレタンの有機溶剤溶液を含浸せしめた後、得られた繊維質基材を、ポリウレタンの非溶媒である水または有機溶剤/水の混合溶液中に浸漬してポリウレタンを湿式凝固せしめる工程が、一般的に採用されている。かかるポリウレタンの溶媒である有機溶剤としては、N,N-ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」と言う。)等の水混和性有機溶剤が用いられており、例えば、不織布にポリビニルアルコール水溶液を含浸して繊維シート状物を得て、この繊維シート状物をポリウレタン含浸液に浸漬し、さらに、20℃の45%DMF水溶液中でポリウレタンを湿式凝固させた後、85℃の熱水でDMFとポリビニルアルコールを除去してシート状物を製造する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
さらに近年、シート状物の製造に際し、作業者の健康状態、安全性や周辺環境への配慮から有機溶剤の使用を低減させる技術が非常に注目されている。
【0005】
その具体的な解決手段として、例えば、従来の有機溶剤に溶解するポリウレタンに代えて、水中にポリウレタンを分散させた水分散型ポリウレタンを用いる方法が検討されている。また、従来の有機溶剤に溶解するポリウレタンを適用した製造工程と同様の、繊維とポリウレタンとの間の空隙を形成するため、繊維質基材に予めポリビニルアルコールを付与し、その後ポリウレタンを付与し、次いでポリビニルアルコールを除去する方法が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-30579号公報
【文献】国際公開第2014/084253号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の繊維質基材に水分散型ポリウレタンを含浸し、ポリウレタンを付与したシート状物は、ポリウレタンが繊維質基材の繊維と強く接着等してしまうため、風合いが硬くなるという課題がある。
【0008】
特許文献2に開示された技術のように、繊維質基材に予めポリビニルアルコールを付与し、その後ポリウレタンを付与し、次いでポリビニルアルコールを除去する方法においては、ポリビニルアルコールが水溶性であるため、繊維質基材にポリビニルアルコールを付与した後に水に濡らした場合、ポリビニルアルコールは溶解・脱落することがある。このため、例えば特許文献2では、けん化度98%以上かつ重合度800~3500で、不純物の少ないポリビニルアルコール水溶液を用いることにより、水へのポリビニルアルコール脱落を抑制することが試みられている。
【0009】
しかしながら、重合度の高いポリビニルアルコールを用いていることで、ポリビニルアルコール水溶液の粘度が高くなり、繊維質基材への含浸性や、ポリビニルアルコール水溶液の取り扱い性が低下するという課題がある。
【0010】
そこで本発明は、製造工程における有機溶剤の使用を少なくして環境に配慮し、低重合度、低粘度のポリビニルアルコール水溶液を用いた場合でも、立毛を有する優美な外観と柔軟な風合いを両立し、かつ良好な耐摩耗性を有するシート状物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成すべく本発明者らが検討を重ねた結果、高いけん化度のポリビニルアルコールを適用し、ポリビニルアルコールを付与した後にポリウレタンを付与することで、優れた柔軟性を有するシート状物が得られ、かつ、ポリビニルアルコールの立体規則性をよりシンジオタクチック性の高い構造とすることで、ポリビニルアルコールの水への溶解性を効果的に下げることが可能であることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は、上記の課題を解決せんとするものであって、本発明は極細繊維を含む繊維質基材とポリウレタンとを含むシート状物の製造方法であって、次の(1)~(4)の工程を含むシート状物の製造方法である。
(1)極細繊維発現型繊維を主構成成分とする繊維質基材に、以下の特徴を有するポリビニルアルコールの水溶液であるポリビニルアルコール水溶液を付与することにより、繊維質基材に含まれる繊維質量に対して前記ポリビニルアルコールを0.1~50質量%付与させる、ポリビニルアルコール付与工程、
(ポリビニルアルコール:けん化度が90%以上で、重水溶媒中、13C-NMRで測定される立体規則性評価において、rrr組成存在比率が14.5%以上である。)
(2)前記工程の後に、前記繊維質基材の極細繊維発現型繊維を平均単繊維直径が0.1~10μmの極細繊維にする、極細繊維発現工程、
(3)前記工程の後に、前記ポリビニルアルコールが付与された前記繊維質基材に、水分散型ポリウレタンを付与する、ポリウレタン付与工程、
(4)前記工程の後に、前記水分散型ポリウレタンが付与された繊維質基材から、前記ポリビニルアルコールを除去する、ポリビニルアルコール除去工程。
【0013】
本発明の製造方法の好ましい態様によれば、前記ポリビニルアルコールの重合度が200~3500である。
【0014】
本発明のシート状物の製造方法の好ましい態様によれば、前記の極細繊維発現工程において、前記の極細繊維発現型繊維を主構成成分とする繊維質基材をアルカリ水溶液で処理する。
【0015】
本発明の製造方法の好ましい態様によれば、前記ポリビニルアルコール付与工程において、前記のポリビニルアルコールを付与した後、80~190℃で加熱する。
【0016】
本発明の製造方法の好ましい態様によれば、前記ポリビニルアルコール付与工程において、前記の極細繊維発現型繊維を主構成成分とする繊維質基材が繊維と織物および/または編物とが絡合一体化したものを用いる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、環境に配慮した製造工程で、水への溶解性が高い低重合度、低粘度のポリビニルアルコール水溶液を用いた場合であっても、優美な外観と柔軟な風合いを達成し、かつ良好な耐摩耗性を有するシート状物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のシート状物の製造方法は、次の(1)~(4)の工程を行うものである。
(1)極細繊維発現型繊維を主構成成分とする繊維質基材に、以下の特徴を有するポリビニルアルコールの水溶液であるポリビニルアルコール水溶液を付与することにより、繊維質基材に含まれる繊維質量に対して前記ポリビニルアルコールを0.1~50質量%付与させる、ポリビニルアルコール付与工程、
(ポリビニルアルコール:けん化度が90%以上で、重水溶媒中、13C-NMRで測定される立体規則性評価において、rrr組成存在比率が14.5%以上である。)
(2)前記工程の後に、前記繊維質基材の極細繊維発現型繊維を平均単繊維直径が0.1~10μmの極細繊維にする、極細繊維発現工程、
(3)前記工程の後に、前記ポリビニルアルコールが付与された前記繊維質基材に、水分散型ポリウレタンを付与する、ポリウレタン付与工程、
(4)前記工程の後に、前記水分散型ポリウレタンが付与された繊維質基材から、前記ポリビニルアルコールを除去する、ポリビニルアルコール除去工程。
【0019】
以下に、その構成要素について詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下に説明する範囲に何ら限定されるものではない。
【0020】
(シート状物の製造方法)
本発明のシート状物の製造方法では前記(1)~(4)の工程をこの順に行う。極細繊維発現型繊維を主構成成分とする繊維質基材に前記のポリビニルアルコール水溶液を付与した後に、極細繊維発現型繊維(例えば海島型繊維)から、極細繊維を発現する工程(例えば脱海工程)を行い、次いでポリビニルアルコールが付与された極細繊維を主構成成分とする繊維質基材に水分散型ポリウレタン液を付与し、さらにその繊維質基材からポリビニルアルコールを除去する。繊維とポリウレタンの間に、除去されたポリビニルアルコールと除去された海成分とに由来する大きな空隙が生じる。さらに部分的にポリウレタンが極細繊維を直接把持することで、優美な外観および柔軟な風合いとともに、良好な耐摩耗性を発現させることができる。
【0021】
また、ポリビニルアルコール水溶液を繊維質基材に付与し、加熱乾燥すると水中のポリビニルアルコールが乾燥時の水の移動に引きつられて繊維質基材の表層に集中的に付着する、いわゆるマイグレーション現象が発生する。結果として、ポリビニルアルコールが繊維質基材の表層およびその近いところに多く、内部のほうには少なく付着している状態となる。このような状態となっていることによって、その後に付与する水分散型ポリウレタンが繊維質基材の内部に主に付着することとなる。そして、ポリビニルアルコールを除去すると、ポリビニルアルコールが多く付着していた繊維質基材の表層およびその近いところには、繊維とポリウレタンの間に空隙が大きく存在し、立毛工程を行うと得られたシート状物の表面の外観は立毛が束になりにくく、立毛が均一にさばけた優美な外観となる。
【0022】
一方、脱海処理をポリビニルアルコール除去後に行うと、ポリウレタンと極細繊維との間に、ポリビニルアルコールを除去したことに起因する空隙と、脱海された海成分に起因する空隙の両方が生じる。そのため極細繊維の表面を直接ポリウレタンが把持する面積がさらに少なくなる。シート状物の風合いは柔軟となるが、耐摩耗性等の特性は悪化する傾向にある。
【0023】
以下に、各工程についての詳細を示す。
【0024】
[ポリビニルアルコール付与工程]
まず、第1の工程である、極細繊維発現型繊維を主構成成分とする繊維質基材に、以下の特徴を有するポリビニルアルコールの水溶液であるポリビニルアルコール水溶液を付与することにより、繊維質基材に含まれる繊維質量に対して該ポリビニルアルコールを0.1~50質量%付与させる、ポリビニルアルコール付与工程について述べる。ここで使用するポリビニルアルコールはけん化度が90%以上で、rrr組成存在比率が14.5%以上である。
【0025】
本発明において、繊維質基材に付与するポリビニルアルコールはポリ酢酸ビニルを原料としたものが好ましい。またポリ(トリフルオロ酢酸ビニル)を原料としたものも好ましい。ポリビニルアルコールはけん化度が90%以上である。好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上である。ポリビニルアルコールのけん化度を一定値以上とすることで、繊維質基材にポリビニルアルコールを付与した後に、水分散型ポリウレタンを付与する際に水分散型ポリウレタン液内にポリビニルアルコールが溶解するのを防ぐことができる。一方ケン化度が低いと水分散型ポリウレタン液を繊維質基材に付与する際、水分散型ポリウレタン液にポリビニルアルコールが溶解し、ポリウレタン内部にポリビニルアルコールが取り込まれ、後にポリビニルアルコールを除去することが困難となる。そのため、ポリウレタンと繊維の接着状態を安定的に制御できず、また風合いは硬くなる。
【0026】
なお、本発明において、ポリビニルアルコールのけん化度は、JIS K6726:1994「ポリビニルアルコール試験方法」の3.5「けん化度」に記載のとおり以下のように算出できる。
(1)ポリビニルアルコールを秤量し、三角フラスコに入れ、水とフェノールフタレイン溶液を加え、90℃以上の温度で完全に溶解させる。
(2)室温まで放冷後、水酸化ナトリウム水溶液をビュレットにて加え、よく振り混ぜた後、室温で2時間以上保持する。ここでケン化度が97%未満の場合は0.5mol/L、97%以上の場合は0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を使用する。
(3)水酸化ナトリウム水溶液と同じモル濃度(単位mol/L)の硫酸または塩酸を水酸化ナトリウム水溶液と同量ビュレットにて加え、よく振り混ぜる。
(4)水酸化ナトリウム水溶液で微紅色になるまで滴定する。
(5)ポリビニルアルコールを加えない空試験を実施する。
(6)下記式よりけん化度Hを算出する。
【0027】
【数1】
【0028】
ここで、
:残存酢酸基に相当する酢酸量(%)
:残存酢酸基(mol%)
H:けん化度(mol%)
a:(4)での水酸化ナトリウム水溶液の使用量(mL)
b:(5)の空試験での水酸化ナトリウム水溶液の使用量(mL)
f:水酸化ナトリウム水溶液のファクター
D:水酸化ナトリウム水溶液の濃度(mol/L)
S:ポリビニルアルコール採取量(g)
P:ポリビニルアルコールの純分(%)。
【0029】
なお、ケン化前の原料がポリ酢酸ビニル以外のカルボン酸ビニルエステル重合体の場合には、上式は以下のとおり読み替える。
:残存カルボン酸基に相当するカルボン酸量(%)
:残存カルボン酸基(mol%)
を求める式の60.05(酢酸の分子量)に代えてカルボン酸ビニルエステルを構成するカルボン酸の分子量を使用する。
【0030】
また、本発明において、繊維質基材に付与するポリビニルアルコールは、重水溶媒中、13C-NMRで測定される立体規則性評価において、rrr組成存在比率が14.5%以上のものである。
【0031】
ビニルアルコール単位の繰り返し構造において、隣り合うヒドロキシル基が互いに異方向となる「r」(racemo)構造が繰り返されたものは部分的にシンジオタクチック構造となる。シンジオタクチック構造は高分子中の炭素鎖が形成する平面に対してヒドロキシル基が上下に交互に並ぶため、シンジオタクチック構造のポリビニルアルコールの分子にある水酸基による水素結合を多数形成しやすい構造となる。その結果、水分子との水素結合の形成に寄与するヒドロキシル基が減少し、水に対する溶解性が低下し、また温水への溶解性も低下する。
【0032】
重水溶媒中での13C-NMR測定において、ビニルアルコール単位の隣り合うヒドロキシル基が互いに同方向となる「m」、異方向となる「r」がどのような配列となっているかは、ポリビニルアルコール骨格中のメチレン炭素に由来するピークが5つに分裂するため、ビニルアルコール4単位分のm、rの配列として評価できる。これらの配列は高磁場側のピークから、「mmm」、「mmr」、「mrr」、「rmr」、「rrr」となることが知られている。これらの吸収の積分値の合計を100%として、各配列の存在比率を百分率で表現する。最もシンジオタクチック性の高いrrr構造の存在比率が14.5%以上であるポリビニルアルコールは、水への溶解性を効果的に下げることができる。rrr構造の存在比率は、好ましくは14.7%以上、より好ましくは15.0%以上である。rrr構造の存在比率が高いことはシンジオタクチック構造の割合が高いことになり、より水への溶解性を低下させることができる。rrr構造の存在比率が14.5%未満である場合、ポリビニルアルコール同士の水素結合形成が少なくなり、脱海工程などで水へのポリビニルアルコールの溶解、脱落が発生し、ポリウレタンが繊維を直接的に把持する部分が増加し、シート状物の柔軟性や表面外観が低下する。
【0033】
ポリビニルアルコールの水への溶解性を低下させる観点から、rrr構造以外ではmrr構造の存在比率が25%以上であることが好ましい。より好ましくは25.5%以上、さらに好ましくは26%以上である。また、rrr構造の存在比率とmrr構造の存在比率の合計が39.5%以上であることが好ましい。より好ましくは40%以上、さらに好ましくは40.5%以上である。一方、mmm構造の存在比率とmmr構造の存在比率の合計は50%以下であることが好ましい。より好ましくは48%以下、さらに好ましくは45%以下である。
【0034】
rrr構造の好ましい上限は特にないが、入手または作製の容易さから28.0%以下、さらに20.0%以下が好ましい。
【0035】
なお、ポリビニルアルコールのrrr組成存在比率は次のようにして測定し、算出される値を採用する。
【0036】
まず、重水溶媒中、ポリビニルアルコールを80℃の温度で溶解させ、測定温度80℃で共鳴周波数100MHzの13C-NMR測定を行う。ポリビニルアルコールの炭素原子に該当する2つのピーク群のうち、45~49ppmに観測されるピーク群がポリビニルアルコール骨格中のメチレン炭素に該当するピーク群である。なお低磁場側のピーク群はポリビニルアルコール骨格中のヒドロキシル基が結合したメチン炭素ピーク群である。このメチレン基を構成する炭素ピーク群について、検出される5つのピークについて、ピークが重なる場合は、ピークの谷で垂直分割して、積分値を算出し、各配列の存在比率を百分率で算出する。なお、rrr構造のピークはピーク群のうち、最も低磁場側に観測されるものである。
【0037】
rrr構造の存在比率は、ポリビニルアルコールまたは原料となりうるポリ酢酸ビニルの重合条件や重合触媒を適宜変更することによって調整することができる。
【0038】
また、ポリビニルアルコールは重合度によって、水への溶解性、ポリビニルアルコール水溶液の粘度が変化する。ポリビニルアルコールの重合度は小さい方がポリビニルアルコール水溶液の粘度は低く、水溶液の繊維質基材への含浸性、水溶液の取り扱い性に優れたものとなる。一方で、ポリビニルアルコールの重合度が大きい方が水への溶解性は低くなる。水分散型ポリウレタンを付与する際に、水分散型ポリウレタン液へのポリビニルアルコールの溶解をより抑えることができる。本発明のポリビニルアルコールは前述ようにrrr組成存在比率が高いため、ポリビニルアルコールの重合度が低い場合でも水分散型ポリウレタン液へのポリビニルアルコールの溶解を効果的に抑えることができる。そのため、ポリビニルアルコールの平均重合度は、好ましくは200以上、より好ましくは300以上、さらに好ましくは400以上である。ポリビニルアルコールの重合度を200以上とすることで、ポリビニルアルコールの水への溶解を抑えることができる。また、ポリビニルアルコールの平均重合度は、好ましくは3500以下、より好ましくは2500以下、さらに好ましくは1500以下、特に好ましくは1000以下である。ポリビニルアルコールの重合度を3500以下とすることで、ポリビニルアルコール水溶液の粘度が高くなり過ぎることを抑え、繊維質基材への含浸性、ポリビニルアルコール水溶液の取り扱い性を高めることができる。
【0039】
なお、本発明において、ポリビニルアルコールの平均重合度は、JIS K6726:1994「ポリビニルアルコール試験方法」の3.7「平均重合度」にしたがい以下の(1)~(7)のように測定され、(8)で本発明において算出される平均重合度のこととする。
(1)ポリビニルアルコールを三角フラスコに入れ、メタノールを加えた後、水酸化ナトリウム水溶液を加えてかき混ぜる。
(2)40±2℃の水浴中で1時間加熱し、残存カルボン酸基を完全にけん化する。
(3)メタノールで洗浄し、水酸化ナトリウムおよびカルボン酸ナトリウムを除去し、105±2℃の温度で1時間乾燥する。
(4)(3)で得られた試料を量り採り、水を加えて加熱溶解し、室温まで放冷後、ろ過する。
(5)(4)のろ液の30.0±0.1℃で同温度の水に対する相対粘度をオストワルド粘度計を用いて求める。
(6)粘度を測定したろ液の濃度を105±2℃で4時間以上乾燥させて求める。
(7)下式より平均重合度Pを算出する。
【0040】
【数2】
【0041】
C:試験溶液の濃度(g/L)
:乾燥後の試料と蒸発皿の質量(g)
:蒸発皿の質量(g)
V:ろ液の容量(mL)
:平均重合度
[η]:極限粘度
ηrel:相対粘度
:水の落下秒数(s)
:試験溶液の落下秒数(s)
(8)得られた平均重合度の小数点以下を丸めて整数とする。その値をn+50*mとして表現する。nは0~49の整数。mはゼロ以上の整数。nが0~24の場合平均重合度を50*mとする。nが25~49の場合、平均重合度を50*(m+1)とする。
【0042】
なお上の(7)で算出された平均重合度PAの値のそのものが本発明で特定する範囲の外にある場合には、本発明で特定する平均重合度のポリビニルアルコールではないものとする。
【0043】
本発明において、ポリビニルアルコール水溶液の粘度は、JIS K6726:1994「ポリビニルアルコール試験方法」の3.11.1「回転粘度計法」において以下のように測定される、濃度4質量%のポリビニルアルコール水溶液の20℃における粘度のこととする。
(1)ポリビニルアルコールを秤量し、三角フラスコに入れる。これを3つ用意する。
(2)濃度が3.8質量%、4.0質量%、4.2質量%になるようにそれぞれ水を加え、完全に加熱溶解し、20℃の温度まで放冷し、完全に脱泡する。
(3)回転粘度計を用いて、20.0±0.1℃の温度における粘度を測定する。
(4)測定に使用した液の濃度(質量%)を測定し、縦軸に粘度、横軸に濃度を取ったグラフを作成し、濃度4質量%における粘度(mPa・s)を求める。
【0044】
本発明において、ポリビニルアルコールは、当該ポリビニルアルコールの4質量%水溶液の20℃における粘度が2~70mPa・sとなるものであることが好ましい。ポリビニルアルコールの粘度がこの範囲であることで、乾燥時に繊維質基材内部で適度なマイグレーション構造を得ることができ、シート状物の柔軟性と表面外観、耐摩耗性等の物理特性のバランスを得られる。上記粘度を2mPa・s以上、より好ましくは3mPa・s以上、さらに好ましくは4mPa・s以上とすることで、極端なマイグレーション構造となるのを抑えることができる。一方、粘度を70mPa・s以下、より好ましくは50mPa・s以下、さらに好ましくは40mPa・s以下、とすることで、繊維質基材にポリビニルアルコールを含浸しやすくさせることができる。
【0045】
本発明において、ポリビニルアルコールのガラス転移温度(Tg)は70~100℃以下であることが好ましい。ポリビニルアルコールのガラス転移温度を70℃以上、より好ましくは75℃以上とすることで、乾燥工程での軟化を防ぎ、繊維質基材の寸法安定性を得ることができ、シート状物の表面外観の悪化を抑えることができる。また、ガラス転移温度を100℃以下、より好ましくは95℃以下とすることで、繊維質基材が硬くなりすぎることによってハンドリング性が悪化するのを防ぐことができる。
【0046】
本発明において、ポリビニルアルコールの融点は200~250℃であることが好ましい。ポリビニルアルコールの融点を200℃以上、より好ましくは210℃以上とすることで、乾燥工程での軟化を防ぎ、繊維質基材の寸法安定性を得ることができ、シート状物の表面外観の悪化を抑えることができる。また、ポリビニルアルコールの融点を250℃以下、より好ましくは240℃以下とすることで、繊維質基材が硬くなりすぎることによってハンドリング性が悪化するのを防ぐことができる。
【0047】
なお、本発明において、ポリビニルアルコールのガラス転移点および融点は、それぞれJIS K7121:1987「プラスチックの転移温度測定方法」の示差走査熱量測定(DSC)において測定されるガラス転移温度、融解温度のこととする。
(1)ポリビニルアルコールを秤量し、アルミニウム製容器に入れる。
(2)ガラス転移温度では20℃/分、融解温度では10℃/分の加熱速度でDSC曲線を得て、DSC曲線からそれぞれの温度を読み取る。
【0048】
次に、極細繊維発現型繊維を主構成成分とする繊維質基材に、ポリビニルアルコール水溶液を付与することにより、繊維質基材に含まれる繊維質量に対して該ポリビニルアルコールを0.1~50質量%付与させる、ポリビニルアルコール付与工程について述べる。
【0049】
本発明の繊維質基材は極細繊維発現型繊維を主な構成成分とする。繊維質機材中における極細繊維発現型繊維は50~100質量%が好ましい。繊維質基材における極細繊維発現型繊維はシート状物の優美な表面外観を得られることから、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。極細繊維発現型繊維を用いることにより、その後の繊維極細化工程を経ることで、繊維を極細化でき、優美な表面外観を得ることができる。
【0050】
前記極細繊維発現型繊維としては、(a)溶剤溶解性の異なる2成分の熱可塑性樹脂を海成分と島成分とし、海成分を溶剤などを用いて溶解除去することにより、島成分を極細繊維とする「海島型繊維」を使用することができる。また(b)2成分の熱可塑性樹脂を繊維断面に放射状または多層状に交互に配置し、各成分を剥離分割することによって極細繊維に割繊する「剥離型複合繊維」なども使用することができる。なかでも、海島型繊維は、海成分を除去することによって島成分間、すなわち極細繊維間に適度な空隙を付与することができるので、シート状物の柔軟性や風合いの観点からも好ましく用いられる。
【0051】
前記海島型繊維には、例えば、海島型複合口金を用い、海成分と島成分の2成分を相互配列して紡糸した海島型複合繊維や海成分と島成分の2成分を混合して紡糸した混合紡糸繊維などがある。均一な繊度の極細繊維が得られる点、また十分な長さの極細繊維が得られシート状物の強度にも資する点からは、前者の海島型複合繊維が好ましく用いられる。
【0052】
海島型繊維の島成分としては、特に限定されないが、以下のものが例示される。
ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートおよびポリ乳酸などのポリエステル。
ポリアミド6やポリアミド66などのポリアミド;アクリル;ポリエチレン;ポリプロピレン。および熱可塑性セルロースなどの溶融紡糸可能な熱可塑性樹脂。
【0053】
中でも、強度、寸法安定性および耐光性の観点から、ポリエステル繊維を用いることが好ましい。また、環境配慮の観点から、リサイクル原料、植物由来原料から得られる繊維であることが好ましい。さらに、繊維質基材は異なる素材の繊維が混合して構成されていてもよい。
【0054】
海島型繊維の海成分としては、特に限定されないが、以下のものが例示される。
ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどの炭化水素の付加重合体。
スルホイソフタル酸ナトリウムやポリエチレングリコールなどを共重合した共重合ポリエステル。ポリ乳酸。ポリビニルアルコール。
【0055】
なかでも、環境配慮の観点から、有機溶剤を使用せずに分解可能なアルカリ分解性のスルホイソフタル酸ナトリウムやポリエチレングリコールなどを共重合した共重合ポリエステルまたはポリ乳酸、熱水溶解性のポリビニルアルコールが好ましい。
【0056】
繊維質基材を構成する繊維の横断面形状は、特に限定されず、丸断面でもよいが、楕円、扁平および三角などの多角形や、扇形および十字型などの異形断面のものを採用してもよい。
【0057】
本発明の繊維質基材の形態は、織物、編物および不織布等を採用することができる。中でも、表面起毛処理した際のシート状物の表面外観が良好であることから、不織布が好ましく用いられる。
【0058】
不織布は、短繊維不織布および長繊維不織布のいずれでもよい。ただ長繊維不織布は起毛した際の立毛となるシート状物の厚さ方向を向く繊維が短繊維不織布よりも少なくなり、立毛の緻密感が低くなって表面外観が劣る傾向にあることから、短繊維不織布が好ましく用いられる。
【0059】
前記短繊維不織布における短繊維の繊維長は、25~90mmであることが好ましい。繊維長を25mm以上、より好ましくは30mm以上とすることにより、絡合により耐摩耗性に優れたシート状物を得ることができる。また、繊維長を90mm以下、より好ましくは80mm以下とすることにより、風合いや品位に優れたシート状物を得ることができる。
【0060】
不織布の繊維あるいは繊維束を絡合させる方法としては、ニードルパンチやウォータージェットパンチを採用することができる。
【0061】
本発明において、極細繊維発現型繊維からなる繊維質基材が不織布の場合、その不織布は極細繊維発現型繊維同士が予め絡合していることが好ましい。このようにすることで、極細繊維からなる繊維質基材が、極細繊維の束が絡合された構造を有するものとなり、極細繊維が束の状態で絡合していることによって、シート状物の強度が向上する。
【0062】
極細繊維発現型繊維を主構成成分とする繊維質基材が不織布である場合、その内部に強度を向上させるなどの目的で、さらに織物や編物と絡合一体化していてもよい。例えば、織物の場合、平織、綾織および朱子織等が挙げられ、コスト面から平織が好ましく用いられる。また、編物の場合は、丸編、トリコットおよびラッセル等が挙げられる。かかる織物や編物を構成する繊維の平均単繊維直径としては、0.3~20μmが好ましい。
【0063】
極細繊維発現型繊維を主構成成分とする繊維質基材の内部で繊維と織物および/または編物とが絡合一体化している場合においては、水分散型ポリウレタンの付与前にポリビニルアルコールを付与しておくことで、水分散型ポリウレタンが織物または編物を直接把持する面積が少なくなり、シート状物の風合いが硬いものになりにくい。特に使用される織物および/または編物が極細繊維発現型繊維ではない繊維から構成される場合、顕著に柔軟性に優れたシート状物を得ることができる。
【0064】
繊維質基材へのポリビニルアルコールの付与量は、繊維質基材の繊維質量に対し、0.1~50質量%である。ポリビニルアルコールの付与量を0.1質量%以上、好ましくは1質量%以上とすることにより、柔軟性と風合いの良好なシート状物が得られ、ポリビニルアルコールの付与量を50質量%以下、好ましくは45質量%以下とすることにより、加工性が良く、耐摩耗性等の物理特性が良好なシート状物が得られる。
【0065】
本発明において、繊維質基材にポリビニルアルコールを付与する方法としては、特に限定はなく、当分野で通常用いる各種方法を採用できる。中でもポリビニルアルコールを水に溶解させ、繊維質基材に含浸し加熱乾燥する方法が、均一に付与できる観点から好ましい。乾燥温度は、温度が低すぎると長い乾燥時間が必要となり、温度が高すぎるとポリビニルアルコールが不溶化して、後での溶解除去が困難になる。そのため、乾燥温度は80~140℃で乾燥することが好ましく、乾燥温度はさらに好ましくは110~130℃である。乾燥時間は、通常1~20分、加工性の観点から、好ましくは1~10分、より好ましくは1~5分である。また、ポリビニルアルコールをより不溶化するために、乾燥後に加熱処理を行ってもよい。加熱処理の好ましい温度は80~190℃である。加熱処理することで、ポリビニルアルコールの不溶化とポリビニルアルコールの熱劣化が同時に進行するため、より好ましい温度は90~170℃である。
【0066】
[極細繊維発現工程]
次に、第2の工程である、極細繊維発現型繊維を含むとする繊維質基材から、平均単繊維直径が0.1~10μmの極細繊維を発現する、極細繊維発現工程について述べる。
【0067】
上で説明したとおり、極細繊維発現型繊維としては海島型繊維であることが好ましい。そのような繊維を主構成成分とする繊維質基材の極細繊維発現処理は脱海処理となる。溶剤中に繊維質基材を浸漬し、海成分を溶剤に溶解し、繊維質基材を搾液することによって行うことができる。極細繊維発現型繊維が海島型繊維である場合、溶剤としては、海成分がポリエチレン、ポリプロピレンまたはポリスチレンの場合にはトルエンやトリクロロエチレンなどの有機溶剤を用い、海成分が共重合ポリエステルまたはポリ乳酸の場合には水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液を用いることができる。また、海成分がポリビニルアルコールの場合は熱水を用いることができる。工程の環境配慮の観点からは、水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液や、熱水での脱海処理が好ましい。
【0068】
本発明の好ましい態様において、極細繊維発現型繊維から繊維極細化工程を経て得られる極細繊維の平均単繊維直径は、0.1~10μmである。平均単繊維直径を10μm以下、より好ましくは7μm以下、更に好ましくは5μm以下とすることにより、優れた柔軟性や立毛品位のシート状物を得ることができる。一方、平均単繊維直径を0.1μm以上、より好ましくは0.3μm以上、更に好ましくは0.7μm以上とすることにより、染色後の発色性やサンドペーパーなどによる研削など立毛処理時の束状繊維の分散性に優れ、さばけ易さにも優れる。
【0069】
なお、本発明において、平均単繊維直径は以下の手順によって得られる値を採用することとする。
(1)繊維質基材、脱海シート、シート状物から、試料となる部分を切り出す。
(2)試料について、繊維を含む厚さ方向に垂直な断面3個を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて3000倍で観察し、断面1個につき30μm×30μmの視野内で無作為に抽出した50本の極細繊維の単繊維直径をμm単位で、小数第1位まで測定する。
(3)断面3個の合計150本の単繊維の直径を測定し、平均値を小数第1位までで算出する。
(4)ただし、繊維径が50μmを超える繊維が混在している場合には、当該繊維は極細繊維に明らかに該当しないものとして平均繊維径の測定対象から除外するものとする。また、極細繊維が異形断面の場合、まず単繊維の断面積(S)を測定し、当該断面積に相当する円の直径(D)を以下のとおり算出することによって、単繊維の直径を求めた。これを母集団とした平均値を算出し、平均単繊維直径とすることとする。
【0070】
S=πD/4 。
【0071】
[ポリウレタン付与工程]
次に、第3の工程である、ポリビニルアルコールが付与された極細繊維を主構成成分とする繊維質基材に水分散型ポリウレタンを付与する、ポリウレタン付与工程について述べる。
【0072】
水分散型ポリウレタンは、(I)界面活性剤を用いて強制的に水中に分散・安定化させる強制乳化型ポリウレタンと、(II)ポリウレタン分子構造中に親水性構造を有し、界面活性剤が存在しなくても水中に分散・安定化する自己乳化型ポリウレタンとに分類されるが、本発明ではいずれを用いてもよい。
【0073】
繊維質基材に水分散型ポリウレタンを付与する方法としては、特に限定はない。水分散型ポリウレタン液を繊維質基材に含浸・塗布し、凝固後、加熱乾燥する方法が均一に付与できるため、好ましい。
【0074】
水分散型ポリウレタン液の貯蔵安定性の観点から、ポリウレタンの濃度は、水分散型ポリウレタン液中10~50質量%が好ましく、より好ましくは15~40質量%である。
【0075】
また、本発明に用いる水分散型ポリウレタン液は、貯蔵安定性や製膜性向上のために、水溶性有機溶剤をポリウレタン液に対して40質量%以下含有していてもよいが、製膜環境の保全等の点から、有機溶剤の含有量は1質量%以下とすることが好ましい。
【0076】
また、本発明で用いられる水分散型ポリウレタン液としては、感熱凝固性を有するものが好ましい。感熱凝固性を有する水分散型ポリウレタン液を用いることにより、繊維質基材の厚み方向に均一にポリウレタンを付与することができる。
【0077】
本発明において、感熱凝固性とは、ポリウレタン液を加熱した際に、ある温度に達するとポリウレタン液の流動性が減少し、凝固する性質のことを言う。そのようになる温度を感熱凝固温度という。ポリウレタン付きシート状物の製造においてはポリウレタン液を繊維質基材に付与後、それを乾式凝固、湿熱凝固、湿式凝固、またはこれらの組み合わせにより凝固させ、乾燥することにより、繊維質基材にポリウレタンを付与する。感熱凝固性を示さない水分散型ポリウレタン液を凝固させる方法としては、乾式凝固が工業的な生産において現実的である。その場合、繊維質基材の表層にポリウレタンが集中するマイグレーション現象が発生し、ポリウレタン付きシート状物の風合いは硬化する傾向にある。その場合は、水分散型ポリウレタン液の粘度を増粘剤で調整することで、マイグレーションを防ぐことができる。また、感熱凝固性を示す水分散型ポリウレタン液の場合も、増粘剤を加え乾式凝固することで、マイグレーションを防ぐことができる。
【0078】
水分散型ポリウレタン液の感熱凝固温度は、40~90℃であることが好ましい。感熱凝固温度を40℃以上とすることにより、ポリウレタン液の貯蔵時の安定性が良好となり、操業時のマシンへのポリウレタンの付着等を抑制することができる。また、感熱凝固温度を90℃以下とすることにより、繊維質基材の表層へのポリウレタンのマイグレーション現象を抑制することができる。
【0079】
本発明のひとつの態様において、感熱凝固温度を前記のとおりとするために、適宜感熱凝固剤を添加してもよい。感熱凝固剤としては例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウムおよび塩化カルシウム等の無機塩;過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、アゾビスイソブチロニトリル、および過酸化ベンゾイル等のラジカル反応開始剤などが挙げられる。
【0080】
本発明の好ましい態様においては、ポリウレタン液を、繊維質基材に含浸、塗布等し、乾式凝固、湿熱凝固、湿式凝固、あるいはこれらの組み合わせによりポリウレタンを凝固させることができる。
【0081】
前記湿熱凝固の温度は、ポリウレタンの感熱凝固温度以上とすることが好ましく、40~200℃であることが好ましい。湿熱凝固の温度を40℃以上、より好ましくは80℃以上とすることにより、ポリウレタンの凝固までの時間を短くしてマイグレーション現象をより抑制することができる。一方、湿熱凝固の温度を200℃以下、より好ましくは160℃以下とすることにより、ポリウレタンやポリビニルアルコールの熱劣化を防ぐことができる。
【0082】
前記湿式凝固の温度は、ポリウレタンの感熱凝固温度以上とし、40~100℃とすることが好ましい。熱水中での湿式凝固の温度を40℃以上、より好ましくは80℃以上とすることにより、ポリウレタンの凝固までの時間を短くしてマイグレーション現象をより抑制することができる。
【0083】
前記乾式凝固の温度および乾燥温度は、80~140℃であることが好ましい。乾式凝固温度および乾燥温度を80℃以上、より好ましくは90℃以上とすることにより、生産性に優れる。一方、乾式凝固温度および乾燥温度を140℃以下、より好ましくは130℃以下とすることにより、ポリウレタンやポリビニルアルコールの熱劣化を防ぐことができる。
【0084】
本発明において、ポリウレタンを凝固させた後に、加熱処理をしてもよい。加熱処理をすることでポリウレタン分子間の界面が減少し、より強固なポリウレタンとなる。水分散ポリウレタンを付与したシートからポリビニルアルコールを除去した後に加熱処理することも好ましい態様である。加熱処理の温度は、80~170℃とすることが好ましい。
【0085】
本発明で用いられるポリウレタンとしては、ポリマージオールと有機ジイソシアネートと鎖伸長剤との反応により得られるものが好ましい。
【0086】
前記ポリマージオールとしては、特に限定されないが、例えば、ポリカーボネート系、ポリエステル系、ポリエーテル系、シリコーン系およびフッ素系のジオールを採用することができ、これらを組み合わせた共重合体を用いてもよい。耐加水分解性の観点からは、ポリカーボネート系およびポリエーテル系のジオールが好ましく用いられる。また、耐光性と耐熱性の観点からは、ポリカーボネート系およびポリエステル系が好ましく用いられる。さらに、耐加水分解性と耐熱性と耐光性のバランスの観点からは、ポリカーボネート系とポリエステル系のジオールがより好ましく、特に好ましくはポリカーボネート系のジオールが好ましく用いられる。
【0087】
前記ポリカーボネート系ジオールは、アルキレングリコールと炭酸エステルのエステル交換反応、あるいはホスゲンまたはクロル蟻酸エステルとアルキレングリコールとの反応などによって製造することができる。
【0088】
前記アルキレングリコールとしては、特に限定されないが、例えば以下のものが挙げられる。
直鎖アルキレングリコールとして、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオールなど。
分岐アルキレングリコールとして、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオールなど。
その他には1,4-シクロヘキサンジオールなどの脂環族ジオール、ビスフェノールAなどの芳香族ジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、およびペンタエリスリトールなど。
【0089】
それぞれ単独のアルキレングリコールから得られるポリカーボネート系ジオールでも、2種類以上のアルキレングリコールから得られる共重合ポリカーボネート系ジオールのいずれでも良い。
【0090】
前記ポリエステル系ジオールとしては、各種低分子量ポリオールと多塩基酸とを縮合させて得られるポリエステルジオールを挙げることができる。
【0091】
前記低分子量ポリオールとしては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,8-オクタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、シクロヘキサン-1,4-ジオール、およびシクロヘキサン-1,4-ジメタノールから選ばれる一種または二種以上を使用することができる。また、ビスフェノールAに各種アルキレンオキサイドを付加させた付加物も使用可能である。
【0092】
また、前記多塩基酸としては、特に限定されないが、例えば、コハク酸、マレイン酸、アジピン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、およびヘキサヒドロイソフタル酸から選ばれる一種または二種以上が挙げられる。
【0093】
前記ポリエーテル系ジオールとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、およびそれらを組み合わせた共重合ジオールを挙げることができる。
【0094】
本発明に用いられるポリマージオールの数平均分子量は、500~4000であることが好ましい。数平均分子量を500以上、より好ましくは1500以上とすることにより、風合いが硬くなるのを防ぐことができる。また、数平均分子量を4000以下、より好ましくは3000以下とすることにより、ポリウレタンとしての強度を維持することができる。
【0095】
前記有機ジイソシアネートとしては、特に限定されないが、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の脂肪族系ジイソシアネートや、ジフェニルメタンジイソシアネート、およびトリレンジイソシアネート等の芳香族系ジイソシアネートが挙げられ、またこれらを組み合わせて用いてもよい。中でも、耐光性の観点から、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートおよびイソフォロンジイソシアネート等の脂肪族系ジイソシアネートが好ましく用いられる。
【0096】
前記鎖伸長剤としては、特に限定されないが、エチレンジアミンおよびメチレンビスアニリン等のアミン系の鎖伸長剤、およびエチレングリコール等のジオール系の鎖伸長剤を用いることができる。また、ポリイソシアネートと水を反応させて得られるポリアミンを鎖伸長剤として用いることもできる。
【0097】
ポリウレタンには、所望により、耐水性、耐摩耗性および耐加水分解性等を向上する目的で架橋剤を併用してもよい。架橋剤は、ポリウレタンに対し、第3成分として添加する外部架橋剤でもよく、またポリウレタン分子構造内に予め架橋構造となる反応点を導入する内部架橋剤でもよい。本発明においては、ポリウレタン分子構造内により均一に架橋点を形成でき、柔軟性の減少を軽減できる点から、内部架橋剤を用いることが好ましい。
【0098】
前記架橋剤としては、イソシアネート基、オキサゾリン基、カルボジイミド基、エポキシ基、メラミン樹脂、およびシラノール基などを有する化合物を用いることができる。ただし、架橋が過剰に進むとポリウレタンが硬化してシート状物の風合いも硬くなる傾向にあるため、反応性と柔軟性とのバランスの点ではシラノール基を有するものが好ましく用いられる。
【0099】
また、本発明で用いられるポリウレタンは、分子構造内に親水性基を有していることが好ましい。分子構造内に親水性基を有することで、水分散型ポリウレタンとしての分散・安定性を向上させることができる。
【0100】
前記親水性基としては例えば、4級アミン塩等のカチオン系、スルホン酸塩やカルボン酸塩等のアニオン系、ポリエチレングリコール等のノニオン系、およびカチオン系とノニオン系の組み合わせ、およびアニオン系とノニオン系の組み合わせのいずれの親水性基も採用することができる。なかでも、光による黄変や中和剤による弊害の懸念のないノニオン系の親水性基が特に好ましく用いられる。
【0101】
なお、アニオン系の親水性基の場合は、中和剤が必要となり、例えば、前記中和剤がアンモニア、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリメチルアミンおよびジメチルエタノールアミン等の第3級アミンである場合は、製膜や乾燥時の熱によってアミンが発生・揮発し、系外へ放出される。そのため、大気放出や作業環境の悪化を抑制するために、揮発するアミンを回収する装置の導入が必須となる。また、アミンは加熱によって揮発せずに最終製品であるシート状物中に残留した場合、製品の焼却時等に環境へ排出されることも考えられる。これに対し、ノニオン系の親水性基の場合は、中和剤を使用しないためアミン回収装置を導入する必要はなく、アミンのシート状物中への残留の心配もないため、好ましく用いることができる。
【0102】
また、前記アニオン系親水性基の中和剤が水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび水酸化カルシウム等のアルカリ金属、またはアルカリ土類金属の水酸化物等である場合、ポリウレタン部分が水に濡れるとアルカリ性を示すこととなるが、ノニオン系の親水性基の場合は中和剤を使用しないため、ポリウレタンの加水分解による劣化を心配する必要もない。
【0103】
本発明に用いられる水分散型ポリウレタンは、所望により各種の添加剤、例えば、カーボンブラックなどの顔料、リン系、ハロゲン系、シリコーン系および無機系などの難燃剤、フェノール系、イオウ系およびリン系などの酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系、シアノアクリレート系およびオキザリックアシッドアニリド系などの紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系やベンゾエート系などの光安定剤、ポリカルボジイミドなどの耐加水分解安定剤、可塑剤、帯電防止剤、界面活性剤、柔軟剤、撥水剤、凝固調整剤、粘度調整剤、染料、防腐剤、抗菌剤、消臭剤、セルロース粒子、マイクロバルーン等の充填剤、およびシリカや酸化チタン等の無機粒子などを含有していてもよい。また、繊維とポリウレタンの間の空隙をさらに大きくするために、炭酸水素ナトリウムなどの無機系、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]等の有機系発泡剤を含有してもよい。
【0104】
本発明の極細繊維を主構成成分とする繊維質基材に対するポリウレタンの含有比率は、1~80質量%であることが好ましい。ポリウレタンの比率を1質量%以上、より好ましくは5質量%以上とすることにより、シート強度を得るとともに繊維の脱落を防ぐことができる。また、ポリウレタンの配合比率を80質量%以下、より好ましくは70質量%以下とすることにより、風合いが硬くなることを防ぎ、良好な立毛品位を得ることができる。
【0105】
[ポリビニルアルコール除去工程]
次に、第4の工程である、ポリビニルアルコールと水分散型ポリウレタンが付与された極細繊維とを含む繊維質基材からポリビニルアルコールを除去する工程について述べる。
【0106】
本発明の好ましい態様では、ポリウレタン付与後の繊維質基材から、ポリビニルアルコールを除去することにより、柔軟なシート状物を得る。ポリビニルアルコールを除去する方法は特に限定されないが、例えば、60~100℃の熱水にシートを浸漬し、必要に応じてマングル等で搾液することにより、溶解除去することが好ましい態様である。
【0107】
本発明のシート状物の製造方法においては、少なくともポリビニルアルコールを付与した繊維質基材に水分散型ポリウレタンを付与した後において、厚み方向に半裁する工程を含んでもよい。ポリビニルアルコールを付与する工程では、マイグレーションによってポリビニルアルコールが繊維質基材の表層に多く付着し、内層へのポリビニルアルコールの付着量は少ない。その後、水分散型ポリウレタンを付与してから厚み方向に半裁することにより、ポリビニルアルコール付着量が多い側には水分散型ポリウレタンは少なく付着し、ポリビニルアルコール付着量が少ない側には水分散型ポリウレタンは多く付着する構造のシート状物が得られる。ポリビニルアルコールが多く付着していた面、言い換えると水分散型ポリウレタン付着が少ない面をシート状物の立毛面とした場合、次の作用効果が得られる。ポリビニルアルコールが付与されていたことによって、ポリウレタンと立毛を構成する極細繊維との間に空隙が大きく生じる。それにより立毛を構成する繊維に自由度が与えられ、表面の風合いが柔軟となり、良好な外観品位と柔らかなタッチが得られる。
【0108】
逆に、ポリビニルアルコールが少なく付着していた面、すなわち水分散型ポリウレタン付着が多い面をシート状物の立毛面とした場合、以下の作用効果が得られる。立毛を構成する繊維はポリウレタンに強く把持される。そのことによって立毛長は短いが、緻密感のある良好な外観品位が得られ、さらには耐摩耗性が良好となる。さらに、シート厚み方向に半裁する工程を含むことにより、生産効率を向上させることができる。
【0109】
本発明では、シート状物の少なくとも一面を起毛処理して表面に立毛を形成させてもよい。立毛を形成する方法は、特に限定されず、サンドペーパー等によるバフィング等、当分野で通常行われる各種方法を用いることができる。立毛長は短すぎると優美な外観が得られにくく、長すぎると、ピリングが発生しやすくなる傾向にあることから、立毛長は0.2~1mmであることが好ましい。
【0110】
また、本発明のひとつの態様において、起毛処理の前に、シート状物に滑剤としてシリコーン等を付与してもよい。滑剤を付与することにより、表面研削による起毛が容易に可能となり、表面品位が非常に良好となるため好ましい。また、起毛処理の前に帯電防止剤を付与してもよく、帯電防止剤の付与により、研削によってシート状物から発生した研削粉がサンドペーパー上に堆積しにくくなるため好ましい態様である。
【0111】
本発明のひとつの態様において、シート状物は、染色することができる。染色方法としては、当分野で通常用いられる各種方法を採用することができるが、シート状物の染色と同時に揉み効果を与えてシート状物を柔軟化することができることから、液流染色機を用いる方法が好ましい。
【0112】
染色温度は、繊維の種類にもよるが、80~150℃であることが好ましい。染色温度を80℃以上、より好ましくは110℃以上とすることにより、繊維への染着を効率良く行わせることができる。一方、染色温度を150℃以下、より好ましくは130℃以下とすることにより、ポリウレタンの劣化を防ぐことができる。
【0113】
本発明で用いられる染料は、繊維質基材を構成する繊維の種類にあわせて選択すればよく、特に限定されないが、例えば、ポリエステル系繊維であれば分散染料を用いることができ、ポリアミド系繊維であれば酸性染料や含金染料を用いることができ、更にそれらの組み合わせを用いることができる。分散染料で染色した場合は、染色後に還元洗浄を行ってもよい。
【0114】
また、染色時に染色助剤を使用することも好ましい態様である。染色助剤を用いることにより、染色の均一性や再現性を向上させることができる。また、染色と同浴または染色後に、例えば、シリコーン等の柔軟剤、帯電防止剤、撥水剤、難燃剤、耐光剤および抗菌剤等を用いた仕上げ剤処理を施すことができる。
【0115】
(シート状物)
前記の製造方法によって得られるシート状物は、優美な外観と柔軟な風合いを達成し、かつ良好な耐摩耗性を有するものである。
【0116】
本発明において、シート状物の表面外観は、以下の方法によって評価されるものとする。
【0117】
シート状物の表面外観は、健康状態の良好な成人男性と成人女性各10名ずつ、計20名を評価者として、目視と官能評価によって下記のように5段階評価し、最も多かった評価を当該シート状物の表面外観とする。なお、表面外観は、3級~5級を良好とする。
5級:均一な繊維の立毛があり、繊維の分散状態は良好で、外観は良好である。
4級:5級と3級の間の評価である。
3級:繊維の分散状態はやや良くない部分があるが、繊維の立毛はあり、外観はまずまず良好である。
2級:3級と1級の間の評価である。
1級:全体的に繊維の分散状態は非常に悪い、または繊維の立毛が長く、外観は不良である。
【0118】
本発明において、シート状物の柔軟性は、JIS L1096:2010「織物及び編物の生地試験方法」の8.21「剛軟度」、8.21.1記載の「A法(45°カンチレバー法)」に基づき、以下のように測定される剛軟度(mm)の大きさによって評価されるものとする。
(1)タテ方向とヨコ方向へそれぞれ2cm×15cmの試験片を作成する。
(2)45°の斜面を有する水平台に置く。
(3)試験片を滑らせて試験片の一端の中央点が斜面と接したときの他端の位置をスケールによって読む。
(4)このときの試験片が移動した長さを(mm)で表し、試験片5枚でのその移動長さの平均値を求め、剛軟度(mm)とする。
【0119】
本発明においては、シート状物の剛軟度は、20~45mmが好ましい。より好ましくは25mm以上である。また剛軟度が高いところでは40mm以下が好ましい。
【0120】
本発明において、耐摩耗性は、以下の方法によって測定される摩耗減量(mg)の少なさによって評価されるものとする。
(1)シート状物の円形サンプル(直径45mm)を切り出し、質量を測定する。
(2)ポリアミド6からなる直径0.4mmのポリアミド繊維を、繊維の長手方向に垂直に長さ11mmに切ったものを100本そろえて束とし、前記の束を直径110mmの円内に6重の同心円状に97個(中心に1個、直径17mmの円に6個、直径37mmの円に13個、直径55mmの円に19個、直径74mmの円に26個、直径90mmの円に32個、それぞれの円において等間隔に)配置した円形ブラシ(ナイロン糸9700本)を用い、荷重8ポンド(約3629g)、回転速度65rpm、回転回数50回の条件で、シート状物の円形サンプル(直径45mm)の表面を摩耗せしめる。
(3)摩耗後のサンプル質量を測定し、摩耗前後のサンプルの質量変化を算出する。
(4)5サンプルの質量変化の平均値である摩耗減量(mg)を耐摩耗性とした。
【0121】
本発明においては、シート状物の摩耗減量は、30mg以下が好ましい。より好ましくは25mg以下である。
【0122】
さらに、前記の製造方法によって得られるシート状物の密度は0.2~0.7g/cmであることが好ましい。密度が0.2g/cm以上、より好ましくは0.3g/cm以上とすることにより、表面外観が緻密となり高級な品位を発現させることができる。一方、密度を0.7g/cm以下、より好ましくは0.6g/cm以下とすることにより、シート状物の風合いが硬くなるのを防ぐことができる。
【実施例
【0123】
次に、本発明のシート状物の製造方法を、実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。
【0124】
[評価方法]
以下に評価方法について、詳細に説明するが、各物性の測定において特段の記載がないものは、上で説明した方法に基づいて測定を行ったものである。
(1)ポリビニルアルコールの立体規則性
ストレートチューブに、ポリビニルアルコール10mgを重水(DO)1mLに80℃の温度で溶解させた試料を入れ、測定温度80℃、共鳴周波数100MHz、積算回数20000回以上で13C-NMR測定を行った。測定には、JEOL RESONANCE社製ECA400を用いた。
(2)平均単繊維直径
走査型電子顕微鏡として、キーエンス社製VE-7800型を用いた。
【0125】
[実施例1]
(繊維質基材用不織布形成工程)
海成分として、5-スルホイソフタル酸ナトリウムを8mol%共重合したポリエチレンテレフタレート、島成分として、ポリエチレンテレフタレートを準備した。海成分45質量%、島成分55質量%の複合比率で、島数36島/1フィラメント、平均単繊維直径17μmの海島型複合繊維を得た。得られた海島型複合繊維を繊維長51mmにカットしてステープルとした。それをカードおよびクロスラッパーを通して繊維ウェブを形成し、ニードルパンチ処理により、不織布とした。このようにして得られた不織布を、98℃の温度の湯中に2分間浸漬させて収縮させ、100℃の温度で5分間乾燥させ、繊維質基材用不織布とした。
【0126】
(ポリビニルアルコール水溶液調製工程)
ポリ酢酸ビニルから得られたけん化度98%、rrr組成存在比率15.5%、重合度450のポリビニルアルコールを準備した。それを25℃の水に添加し、90℃まで昇温後、2時間攪拌しながら90℃を保持して、固形分10質量%の水溶液に調製し、ポリビニルアルコール水溶液を得た。
【0127】
(ポリビニルアルコール付与工程)
上記の繊維質基材用不織布に上記のポリビニルアルコール水溶液を含浸させ、140℃の温度で10分間加熱乾燥後、160℃の温度で5分間加熱処理を行った。繊維質基材用不織布の繊維質量に対するポリビニルアルコールの付着量が30質量%のポリビニルアルコール付与シートを得た。
【0128】
(極細繊維発現工程)
上記のポリビニルアルコール付与シートを60℃の温度に加熱した濃度10g/Lの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬して30分間処理を行い、海島型複合繊維の海成分を除去した脱海シートを得た。脱海シート断面の平均単繊維直径は、3μmであった。
【0129】
(ポリウレタン液調製工程)
ポリオールにポリヘキサメチレンカーボネートを適用し、イソシアネートにジシクロヘキシルメタンジイソシアネートを適用したポリカーボネート系自己乳化型ポリウレタン液の固形分100質量部に対して、感熱凝固剤として硫酸マグネシウム1質量部を加え、水によって全体を固形分20質量%に調製し、水分散型ポリウレタン液を得た。感熱凝固温度は、65℃であった。
【0130】
(ポリウレタン付与工程)
上記のポリビニルアルコールを付与した脱海シートに、上記のポリカーボネート系ポリウレタン液を含浸させた。120℃の温度の乾熱雰囲気下で10分間処理、乾燥させ、さらに150℃の温度で2分間乾熱処理を行った。不織布の繊維質量に対するポリウレタンの付着量が30質量%であるシートを得た。
【0131】
(ポリビニルアルコール除去工程)
上記のポリウレタンが付着したシートを、95℃に加熱した水中に浸漬して10分処理を行い、付与したポリビニルアルコールを除去したシートを得た。
【0132】
(半裁・起毛・染色・還元洗浄工程)
上記のポリビニルアルコールを除去したシートを厚さ方向に半裁した。半裁面と反対の表面を240メッシュのエンドレスサンドペーパーを用いた研削によって起毛処理した。その後、サーキュラー染色機を用いて分散染料により染色し、還元洗浄を行い、シート状物を得た。
【0133】
得られたシート状物の表面外観は良好で、柔軟な風合いを有していた。
【0134】
[実施例2]
(繊維質基材用不織布形成工程)
海成分として、5-スルホイソフタル酸ナトリウムを8mol%共重合したポリエチレンテレフタレート、島成分として、ポリエチレンテレフタレートを準備した。海成分45質量%、島成分55質量%の複合比率で、島数16島/1フィラメント、平均単繊維直径12μmの海島型複合繊維を得た。得られた海島型複合繊維を繊維長51mmにカットしてステープルとした。それをカードおよびクロスラッパーを通して繊維ウェブを形成し、ニードルパンチ処理を行い不織布とした。このようにして得られた不織布を98℃の温度の湯中に2分間浸漬させて収縮させ、100℃の温度で5分間乾燥させ、繊維質基材用不織布とした。
【0135】
(ポリビニルアルコール水溶液調製工程)
実施例1と同様にして、ポリビニルアルコール水溶液を得た。
【0136】
(ポリビニルアルコール付与工程)
実施例1と同様のポリビニルアルコール水溶液を用い、繊維質基材用不織布の繊維質量に対するポリビニルアルコールの付着量が30質量%のポリビニルアルコール付与シートを得た。
【0137】
(極細繊維発現工程)
上記の繊維質基材用不織布を実施例1と同様にして処理を行い、海島型複合繊維の海成分を除去した脱海シートを得た。脱海シート断面の平均単繊維直径は、2μmであった。
【0138】
(ポリウレタン液調製工程)
実施例1と同様にして、水分散型ポリウレタン液を得た。
【0139】
(ポリウレタン付与工程)
実施例1と同様にして、ポリウレタン付与シートを得た。
【0140】
(ポリビニルアルコール除去工程)
実施例1と同様にして、ポリビニルアルコール除去シートを得た。
【0141】
(半裁・起毛・染色・還元洗浄)
実施例1と同様にして、シート状物を得た。
【0142】
得られたシート状物の表面外観は良好で、柔軟な風合いを有し、耐摩耗性も良好であった。
【0143】
[実施例3]
(繊維質基材用不織布形成工程)
海成分として、5-スルホイソフタル酸ナトリウムを8mol%共重合したポリエチレンテレフタレート、島成分として、ポリエチレンテレフタレートを準備した。海成分20質量%、島成分80質量%の複合比率で、島数16島/1フィラメント、平均単繊維直径20μmの海島型複合繊維を得た。得られた海島型複合繊維を繊維長51mmにカットしてステープルとした。それをカードおよびクロスラッパーを通して繊維ウェブを形成し、ニードルパンチ処理を行い不織布とした。このようにして得られた不織布を98℃の温度の湯中に2分間浸漬させて収縮させ、100℃の温度で5分間乾燥させ、繊維質基材用不織布とした。
【0144】
(ポリビニルアルコール水溶液調製工程)
実施例1と同様にして、ポリビニルアルコール水溶液を得た。
【0145】
(ポリビニルアルコール付与工程)
実施例1と同様のポリビニルアルコール水溶液を用い、繊維質基材用不織布の繊維質量に対するポリビニルアルコールの付着量が30質量%のポリビニルアルコール付与シートを得た。
【0146】
(極細繊維発現工程)
上記の繊維質基材用不織布を実施例1と同様にして処理を行い、海島型複合繊維の海成分を除去した脱海シートを得た。脱海シート断面の平均単繊維直径は、4.4μmであった。
【0147】
(ポリウレタン液調製工程)
実施例1と同様にして、水分散型ポリウレタン液を得た。
【0148】
(ポリウレタン付与工程)
実施例1と同様にして、ポリウレタン付与シートを得た。
【0149】
(ポリビニルアルコール除去工程)
実施例1と同様にして、ポリビニルアルコール除去シートを得た。
【0150】
(半裁・起毛・染色・還元洗浄工程)
実施例1と同様にして、シート状物を得た。
【0151】
得られたシート状物の表面外観は良好で、柔軟な風合いを有し、耐摩耗性も良好であった。
【0152】
[実施例4]
(繊維質基材用不織布形成工程)
海成分として、5-スルホイソフタル酸ナトリウムを8mol%共重合したポリエチレンテレフタレート、島成分として、ポリエチレンテレフタレートを準備した。海成分10質量%、島成分90質量%の複合比率で、島数16島/1フィラメント、平均単繊維直径24μmの海島型複合繊維を得た。得られた海島型複合繊維を繊維長51mmにカットしてステープルとした。それをカードおよびクロスラッパーを通して繊維ウェブを形成し、ニードルパンチ処理を行い不織布とした。このようにして得られた不織布を98℃の温度の湯中に2分間浸漬させて収縮させ、100℃の温度で5分間乾燥させ、繊維質基材用不織布とした。
【0153】
(ポリビニルアルコール水溶液調製工程)
実施例1と同様にして、ポリビニルアルコール水溶液を得た。
【0154】
(ポリビニルアルコール付与工程)
実施例1と同様のポリビニルアルコール水溶液を用い、繊維質基材用不織布の繊維質量に対するポリビニルアルコールの付着量が30質量%のポリビニルアルコール付与シートを得た。
【0155】
(極細繊維発現工程)
上記の繊維質基材用不織布を実施例1と同様にして処理を行い、海島型複合繊維の海成分を除去した脱海シートを得た。脱海シート断面の平均単繊維直径は、5.5μmであった。
【0156】
(ポリウレタン液調製工程)
実施例1と同様の水分散型ポリウレタン液を用いた。
【0157】
(ポリウレタンの付与工程)
実施例1と同様にして、ポリウレタン付与シートを得た。
【0158】
(ポリビニルアルコール除去工程)
実施例1と同様にして、ポリビニルアルコール除去シートを得た。
【0159】
(半裁・起毛・染色・還元洗浄工程)
実施例1と同様にして、シート状物を得た。得られたシート状物の表面外観は良好で、柔軟な風合いを有し、耐摩耗性も良好であった。
【0160】
[実施例5]
(繊維質基材用不織布)
実施例1と同様の繊維質基材用不織布を用いた。
【0161】
(ポリビニルアルコール水溶液の調製)
実施例1と同様にして、ポリビニルアルコール水溶液を得た。
【0162】
(ポリビニルアルコールの付与)
実施例1と同様のポリビニルアルコール水溶液を用い、含浸後の絞りを調節してポリビニルアルコールの付着量を変更した以外は実施例1と同様にしてポリビニルアルコール付与シートを得た。そのシートは繊維質基材用不織布の繊維質量に対するポリビニルアルコールの付着量が20質量%であった。
【0163】
(極細繊維発現工程)
実施例1と同様にして、上記の繊維質基材用不織布から脱海シートを得た。
【0164】
(ポリウレタン液調製工程)
実施例1と同様の水分散型ポリウレタン液を用いた。
【0165】
(ポリウレタン付与工程)
実施例1と同様にして、ポリウレタン付与シートを得た。
【0166】
(ポリビニルアルコール除去工程)
実施例1と同様にして、ポリビニルアルコール除去シートを得た。
【0167】
(半裁・起毛・染色・還元洗浄工程)
実施例1と同様にして、シート状物を得た。
【0168】
得られたシート状物の表面外観は良好で、柔軟な風合いを有し、耐摩耗性も良好であった。
【0169】
[実施例6]
(繊維質基材用不織布形成工程)
海成分として、5-スルホイソフタル酸ナトリウムを8mol%共重合したポリエチレンテレフタレート、島成分として、ポリエチレンテレフタレートを準備した。海成分20質量%、島成分80質量%の複合比率で、島数16島/1フィラメント、平均単繊維直径20μmの海島型複合繊維を得た。得られた海島型複合繊維を繊維長51mmにカットしてステープルとした。それをカードおよびクロスラッパーを通して繊維ウェブを形成した。ウェブの両面に、ポリエチレンテレフタレート(PET)の84dtex-72フィラメント、撚り数2000T/mの強撚糸使いの平織物を積層し、ニードルパンチ処理を行い不織布とした。このようにして得られた不織布を98℃の温度の湯中に2分間浸漬させて収縮させ、100℃の温度で5分間乾燥させ、繊維質基材用不織布とした。
【0170】
(ポリビニルアルコール水溶液調製工程)
実施例1と同様にして、ポリビニルアルコール水溶液を得た。
【0171】
(ポリビニルアルコール付与工程)
実施例1と同様のポリビニルアルコール水溶液を用い、含浸後の絞りを調節してポリビニルアルコールの付着量を変更した以外は実施例1と同様にしてポリビニルアルコール付与シートを得た。そのシートは繊維質基材用不織布の繊維質量に対するポリビニルアルコールの付着量が15質量%であった。
【0172】
(極細繊維発現工程)
上記の繊維質基材用不織布を実施例1と同様にして処理を行い、海島型複合繊維の海成分を除去した脱海シートを得た。脱海シート断面の平均単繊維直径は、4.4μmであった。
【0173】
(ポリウレタン液調製工程)
実施例1と同様の水分散型ポリウレタン液を用いた。
【0174】
(ポリウレタン付与工程)
実施例1と同様にして、ポリウレタン付与シートを得た。
【0175】
(ポリビニルアルコール除去工程)
実施例1と同様にして、ポリビニルアルコール除去シートを得た。
【0176】
(半裁・起毛・染色・還元洗浄)
半裁面を研削して起毛したこと以外は、実施例1と同様にしてシート状物を得た。
【0177】
得られたシート状物の表面外観は良好で、柔軟な風合いを有し、耐摩耗性も良好であった。
【0178】
[実施例7]
(繊維質基材用不織布形成工程)
実施例1と同様の繊維質基材用不織布を用いた。
【0179】
(ポリビニルアルコール水溶液調製工程)
ポリ酢酸ビニルから得られたけん化度98%、rrr組成存在比率15.2%、重合度1000のポリビニルアルコールを準備した。それを25℃の水に添加し、90℃まで昇温後、2時間攪拌しながら90℃を保持して、固形分10質量%のポリビニルアルコール水溶液を得た。
【0180】
(ポリビニルアルコール付与工程)
上記のポリビニルアルコール水溶液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、繊維質基材用不織布の繊維質量に対するポリビニルアルコールの付着量が30質量%のポリビニルアルコール付与シートを得た。
【0181】
(極細繊維発現工程)
実施例1と同様にして、上記の繊維質基材用不織布から脱海シートを得た。
【0182】
(ポリウレタン液調製工程)
実施例1と同様の水分散型ポリウレタン液を用いた。
【0183】
(ポリウレタン付与工程)
実施例1と同様にして、ポリウレタン付与シートを得た。
【0184】
(ポリビニルアルコール除去工程)
実施例1と同様にして、ポリビニルアルコール除去シートを得た。
【0185】
(半裁・起毛・染色・還元洗浄工程)
実施例1と同様にして、シート状物を得た。
【0186】
得られたシート状物の表面外観は良好で、柔軟な風合いを有し、耐摩耗性も良好であった。
【0187】
[実施例8]
(繊維質基材用不織布形成工程)
実施例6と同様にして、繊維質基材用不織布を得た。
【0188】
(ポリビニルアルコール水溶液調製工程)
実施例7と同様にして、ポリビニルアルコール水溶液を得た。
【0189】
(ポリビニルアルコール付与工程)
実施例7のポリビニルアルコール水溶液を用いたこと以外は実施例6と同様にして、繊維質基材用不織布の繊維質量に対するポリビニルアルコールの付着量が15質量%のポリビニルアルコール付与シートを得た。
【0190】
(極細繊維発現工程)
実施例1と同様にして、脱海シートを得た。
【0191】
(ポリウレタン液調製工程)
実施例1と同様の水分散型ポリウレタン液を用いた。
【0192】
(ポリウレタン付与工程)
実施例1と同様にして、ポリウレタン付与シートを得た。
【0193】
(ポリビニルアルコール除去工程)
実施例1と同様にして、ポリビニルアルコール除去シートを得た。
【0194】
(半裁・起毛・染色・還元洗浄工程)
実施例6と同様にして、シート状物を得た。
【0195】
得られたシート状物の表面外観は良好で、柔軟な風合いを有し、耐摩耗性も良好であった。
【0196】
[比較例1]
(繊維質基材用不織布形成工程)
実施例1と同様の繊維質基材用不織布を用いた。
【0197】
(ポリビニルアルコール水溶液調製工程)
ポリ酢酸ビニルから得られたけん化度98%、rrr組成存在比率14.1%、重合度400のポリビニルアルコールを準備した。それを25℃の水に添加し、90℃まで昇温後、2時間攪拌しながら90℃を保持して、固形分10質量%の水溶液に調製し、ポリビニルアルコール水溶液を得た。
【0198】
(ポリビニルアルコール付与工程)
上記のポリビニルアルコール水溶液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、繊維質基材用不織布の繊維質量に対するポリビニルアルコールの付着量が30質量%のポリビニルアルコール付与シートを得た。
【0199】
(極細繊維発現工程)
実施例1と同様にして、上記の繊維質基材用不織布から脱海シートを得た。
【0200】
(ポリウレタン液調製工程)
実施例1と同様の水分散型ポリウレタン液を用いた。
【0201】
(ポリウレタン付与工程)
実施例1と同様にして、ポリウレタン付与シートを得た。
【0202】
(ポリビニルアルコール除去工程)
実施例1と同様にして、ポリビニルアルコール除去シートを得た。
【0203】
(半裁・起毛・染色・還元洗浄工程)
実施例1と同様にして、シート状物を得た。
【0204】
得られたシート状物は、ポリビニルアルコールがアルカリ水溶液や水分散型ポリウレタン液に一部溶解したことによって均一な付与状態とならず、表面外観は繊維の分散状態が悪く、立毛の緻密感がない不良であり、風合いは硬いものであった。
【0205】
[比較例2]
(繊維質基材用不織布)
実施例6と同様にして、繊維質基材用不織布を得た。
【0206】
(ポリビニルアルコール水溶液調製)
比較例1と同様にして、ポリビニルアルコール水溶液を得た。
【0207】
(ポリビニルアルコール付与)
比較例1のポリビニルアルコール水溶液を用いたこと以外は実施例6と同様にして、繊維質基材用不織布の繊維質量に対するポリビニルアルコールの付着量が15質量%のポリビニルアルコール付与シートを得た。
【0208】
(極細繊維発現工程)
実施例1と同様にして、脱海シートを得た。
【0209】
(ポリウレタン液調製工程)
実施例1と同様の水分散型ポリウレタン液を用いた。
【0210】
(ポリウレタン付与工程)
実施例1と同様にして、ポリウレタン付与シートを得た。
【0211】
(ポリビニルアルコール除去工程)
実施例1と同様にして、ポリビニルアルコール除去シートを得た。
【0212】
(半裁・起毛・染色・還元洗浄工程)
実施例6と同様にして、シート状物を得た。
【0213】
得られたシート状物は、ポリビニルアルコールがアルカリ水溶液や水分散型ポリウレタン液に一部溶解したことによって均一な付与状態とならず、表面外観は繊維の分散状態が悪く、立毛の緻密感がない不良であり、風合いは硬いものであった。
【0214】
[比較例3]
(繊維質基材用不織布形成工程)
実施例1と同様の繊維質基材用不織布を用いた。
【0215】
(ポリビニルアルコール水溶液調製工程)
ポリ酢酸ビニルから得られたけん化度98%、rrr組成存在比率13.9%、重合度500のポリビニルアルコールを準備した。それを25℃の水に添加し、90℃まで昇温後、2時間攪拌しながら90℃を保持して、固形分10質量%の水溶液に調製し、ポリビニルアルコール水溶液を得た。
【0216】
(ポリビニルアルコール付与工程)
上記のポリビニルアルコール水溶液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、繊維質基材用不織布の繊維質量に対するポリビニルアルコールの付着量が30質量%のポリビニルアルコール付与シートを得た。
【0217】
(極細繊維発現工程)
実施例1と同様にして、上記の繊維質基材用不織布から脱海シートを得た。
【0218】
(ポリウレタン液調製工程)
実施例1と同様の水分散型ポリウレタン液を用いた。
【0219】
(ポリウレタン付与工程)
実施例1と同様にして、ポリウレタン付与シートを得た。
【0220】
(ポリビニルアルコール除去工程)
実施例1と同様にして、ポリビニルアルコール除去シートを得た。
【0221】
(半裁・起毛・染色・還元洗浄工程)
実施例1と同様にして、シート状物を得た。
【0222】
得られたシート状物は、ポリビニルアルコールがアルカリ水溶液や水分散型ポリウレタン液に一部溶解したことによって均一な付与状態とならず、表面外観は繊維の分散状態が悪く、立毛の緻密感がない不良であり、風合いは硬いものであった。
【0223】
[比較例4]
(繊維質基材用不織布形成工程)
実施例1と同様の繊維質基材用不織布を用いた。
【0224】
(ポリビニルアルコール水溶液調製工程)
ポリ酢酸ビニルから得られたけん化度99%、rrr組成存在比率14.4%、重合度500のポリビニルアルコールを準備した。それを25℃の水に添加し、90℃まで昇温後、2時間攪拌しながら90℃を保持して、固形分10質量%の水溶液に調製し、ポリビニルアルコール水溶液を得た。
【0225】
(ポリビニルアルコール付与工程)
上記のポリビニルアルコール水溶液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、繊維質基材用不織布の繊維質量に対するポリビニルアルコールの付着量が30質量%のポリビニルアルコール付与シートを得た。
【0226】
(極細繊維発現工程)
実施例1と同様にして、上記の繊維質基材用不織布から脱海シートを得た。
【0227】
(ポリウレタン液調製工程)
実施例1と同様の水分散型ポリウレタン液を用いた。
【0228】
(ポリウレタン付与工程)
実施例1と同様にして、ポリウレタン付与シートを得た。
【0229】
(ポリビニルアルコール除去工程)
実施例1と同様にして、ポリビニルアルコール除去シートを得た。
【0230】
(半裁・起毛・染色・還元洗浄工程)
実施例1と同様にして、シート状物を得た。
【0231】
得られたシート状物は、ポリビニルアルコールがアルカリ水溶液や水分散型ポリウレタン液に一部溶解したことによって均一な付与状態とならず、表面外観は繊維の分散状態が悪く、立毛の緻密感がない不良であり、風合いは硬いものであった。
【0232】
[比較例5]
(繊維質基材用不織布形成工程)
実施例1と同様の繊維質基材用不織布を用いた。
【0233】
(ポリビニルアルコール水溶液調製工程)
ポリ酢酸ビニルから得られたけん化度88%、rrr組成存在比率14.2%、重合度500のポリビニルアルコールを準備した。それを25℃の水に添加し、90℃まで昇温後、2時間攪拌しながら90℃を保持して、固形分10質量%の水溶液に調製し、ポリビニルアルコール水溶液を得た。
【0234】
(ポリビニルアルコール付与工程)
上記のポリビニルアルコール水溶液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、繊維質基材用不織布の繊維質量に対するポリビニルアルコールの付着量が30質量%のポリビニルアルコール付与シートを得た。
【0235】
(極細繊維発現工程)
実施例1と同様にして、上記の繊維質基材用不織布から脱海シートを得た。
【0236】
(ポリウレタン液調製工程)
実施例1と同様の水分散型ポリウレタン液を用いた。
【0237】
(ポリウレタン付与工程)
実施例1と同様にして、ポリウレタン付与シートを得た。
【0238】
(ポリビニルアルコール除去工程)
実施例1と同様にして、ポリビニルアルコール除去シートを得た。
【0239】
(半裁・起毛・染色・還元洗浄工程)
実施例1と同様にして、シート状物を得た。
【0240】
得られたシート状物は、ポリビニルアルコールがアルカリ水溶液や水分散型ポリウレタン液に一部溶解したことによって均一な付与状態とならず、表面外観は繊維の分散状態が悪く、立毛の緻密感がない不良であり、風合いは硬いものであった。
【0241】
[比較例6]
(繊維質基材用不織布形成工程)
実施例1と同様の繊維質基材用不織布を用いた。
【0242】
(ポリビニルアルコール水溶液調製工程)
実施例1と同様にして、ポリビニルアルコール水溶液を得た。
【0243】
(極細繊維発現工程)
上記で得られた繊維質基材用不織布を95℃の温度に加熱した濃度10g/リットルの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬して10分間処理を行い、海島型複合繊維の海成分を除去した脱海シートを得た。脱海シート表面の平均単繊維直径は、3μmであった。
【0244】
(ポリビニルアルコール付与工程)
上記の脱海シートに実施例1で得たポリビニルアルコール水溶液を含浸させた。それを140℃の温度で10分間加熱乾燥を行い、脱海シートに対するポリビニルアルコールの付着量が30質量%のポリビニルアルコール付与シートを得た。
【0245】
(ポリウレタン液調製工程)
実施例1と同様の水分散型ポリウレタン液を用いた。
【0246】
(ポリウレタン付与工程)
実施例1と同様にして、ポリウレタン付与シートを得た。
【0247】
(ポリビニルアルコール除去工程)
実施例1と同様にして、ポリビニルアルコール除去シートを得た。
【0248】
(半裁・起毛・染色・還元洗浄工程)
実施例1と同様にして、シート状物を得た。
【0249】
得られたシート状物の表面外観は良好で、柔軟な風合いを有していたが、摩耗減量は多めであった。
【0250】
[比較例7]
(繊維質基材用不織布形成工程)
実施例1と同様の繊維質基材用不織布を用いた。
【0251】
(ポリビニルアルコール水溶液調製工程)
実施例1と同様にして、ポリビニルアルコール水溶液を得た。
【0252】
(ポリビニルアルコール付与工程)
実施例1と同様のポリビニルアルコール水溶液を用い、含浸後の絞りを調節してポリビニルアルコールの付着量を変更した以外は実施例1と同様にして、繊維質基材用不織布の繊維質量に対するポリビニルアルコールの付着量が55質量%のポリビニルアルコール付与シートを得た。
【0253】
(極細繊維発現工程)
実施例1と同様にして、上記の繊維質基材用不織布から脱海シートを得た。
【0254】
(ポリウレタン液調製工程)
実施例1と同様の水分散型ポリウレタン液を用いた。
【0255】
(ポリウレタン付与工程)
実施例1と同様にして、ポリウレタン付与シートを得た。
【0256】
(ポリビニルアルコール除去工程)
実施例1と同様にして、ポリビニルアルコール除去シートを得た。
【0257】
(半裁・起毛・染色・還元洗浄工程)
実施例1と同様にしてシート状物を得た。得られたシート状物は、風合いは柔軟であったが、ポリビニルアルコールが多すぎたためにポリウレタンによる繊維の把持が不十分で、表面外観は立毛が長すぎて不良となり、また耐摩耗性は悪いものであった。
【0258】
各実施例および比較例の試験条件およびシート状物の評価結果を、表1に示す。
【0259】
【表1】
【0260】
実施例1~8で得られたシート状物は、脱海工程や水分散型ポリウレタン付与工程におけるポリビニルアルコールの水への溶解や脱落が抑えられていたため、繊維とポリウレタンの間に適度な空隙を有して把持されているため、いずれも表面外観は良好で、柔軟な風合いを有し、耐摩耗性も良好であった。一方、比較例1~5で得られたシート状物は、脱海工程や水分散型ポリウレタン付与工程におけるポリビニルアルコールの水への溶解や脱落が発生したため、繊維とポリウレタンの直接的な把持が多くなったため、風合いは硬いものとなった。また表面外観も繊維の分散状態が悪く、緻密感もなく、不良であった。比較例6と7で得られたシート状物は、製造途中での繊維とポリビニルアルコールの接着が多く、繊維とポリウレタンの把持が弱くなったことから耐摩耗性は悪いものとなった。
【産業上の利用可能性】
【0261】
本発明により得られるシート状物は、家具、椅子および壁材や、自動車、電車および航空機などの車輛室内における座席、天井および内装などの表皮材として非常に優美な外観を有する内装材、シャツ、ジャケット、カジュアルシューズ、スポーツシューズ、紳士靴および婦人靴等の靴のアッパー、トリム等、鞄、ベルト、財布等、およびそれらの一部に使用した衣料用資材、ワイピングクロス、研磨布およびCDカーテン等の工業用資材として好適に用いることができる。