(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】X線位相差撮影システム
(51)【国際特許分類】
G01N 23/041 20180101AFI20221025BHJP
G01N 23/046 20180101ALI20221025BHJP
【FI】
G01N23/041
G01N23/046
(21)【出願番号】P 2020554766
(86)(22)【出願日】2019-07-25
(86)【国際出願番号】 JP2019029232
(87)【国際公開番号】W WO2020090168
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2018205454
(32)【優先日】2018-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】白井 太郎
(72)【発明者】
【氏名】木村 健士
(72)【発明者】
【氏名】土岐 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】森本 直樹
【審査官】越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-524897(JP,A)
【文献】特表2017-524139(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0227476(US,A1)
【文献】特開2003-079611(JP,A)
【文献】特開2009-279289(JP,A)
【文献】特開平07-204189(JP,A)
【文献】特開2003-290214(JP,A)
【文献】特開2006-214879(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00 - G01N 23/2276
A61B 6/00 - A61B 6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線源と、
前記X線源から照射されたX線を検出する検出器と、
前記X線源と前記検出器との間に配置された複数の格子と、
被写体と、前記X線源と前記検出器と前記複数の格子とによって構成される撮像系とを相対的に回転させる回転機構と、
前記回転機構により回転された場合における複数の回転角度の各々において、前記検出器により検出されたX線の強度分布に基づいて、少なくとも、X線の散乱に起因する暗視野像を生成する画像処理部と、
被写体を撮影する際の回転角度によるX線の散乱度合いの大きさに基づいて撮影条件を切り替える制御を行う制御部とを備え
、
前記画像処理部は、前記X線の散乱度合いまたは前記暗視野像の画素値に基づく特徴量を取得するように構成されており、
前記制御部は、前記特徴量に基づいて、撮影条件を切り替える回転角度を決定するように構成されている、X線位相差撮影システム。
【請求項2】
前記制御部は、複数の回転角度のうち、第1回転角度範囲において、第1撮影条件によって撮影を行い、前記第1回転角度範囲よりも被写体によるX線の散乱度合いが相対的に大きくなる第2回転角度範囲では、前記第1撮影条件よりもX線の実効エネルギーが相対的に大きい第2撮影条件に切り替える制御を行うように構成されている、請求項1に記載のX線位相差撮影システム。
【請求項3】
前記制御部は、前記特徴量と閾値とを比較することにより、撮影条件を切り替える回転角度を決定するように構成されている、請求項
1に記載のX線位相差撮影システム。
【請求項4】
前記制御部は、第1撮影条件によって複数の回転角度において被写体を撮影する制御を行うとともに、撮影した後に、前記第1撮影条件よりもX線の実効エネルギーが相対的に大きい第2撮影条件に切り替えて、前記特徴量が第1閾値よりも小さい回転角度範囲のそれぞれにおいて、再び被写体を撮影する制御を行うように構成されている、請求項
3に記載のX線位相差撮影システム。
【請求項5】
前記制御部は、第1撮影条件による撮影をしながら、前記特徴量が第1閾値よりも小さくなった場合に、前記第1撮影条件よりもX線の実効エネルギーが相対的に大きい第2撮影条件に切り替えて撮影するとともに、前記第2撮影条件による撮影をしながら、前記特徴量が、前記第1閾値よりも大きい第2閾値よりも大きくなった場合に、前記第1撮影条件に切り替えて撮影する制御を行うように構成されている、請求項
3に記載のX線位相差撮影システム。
【請求項6】
前記制御部は、前記第1撮影条件よりも前記X線源に印加する電圧を大きくすること、および、前記X線源に設けるX線フィルタを変更することのうち、少なくともいずれかを行うことにより、前記検出器に向けて照射されるX線の実効エネルギーを相対的に大きくすることによって、前記第2撮影条件に切り替える制御を行うように構成されている、請求項2に記載のX線位相差撮影システム。
【請求項7】
前記複数の格子のいずれかを並進移動させる格子移動機構をさらに備え、
前記制御部は、前記第2撮影条件において被写体を撮影する際に、前記第1撮影条件よりも前記X線源に印加する電流を大きくすること、前記検出器における蓄積時間を大きくすること、および、前記格子移動機構による前記複数の格子のいずれかを並進移動させる際のステップ数を大きくすることのうち、少なくともいずれかを行うことによって、前記検出器に到達するX線量を増加させる制御を行うように構成されている、請求項
6に記載のX線位相差撮影システム。
【請求項8】
前記画像処理部は、複数の回転角度において被写体を撮影する際に、撮影条件の切り替えによって不連続になった前記X線の散乱度合いまたは前記暗視野像の画素値を滑らかに連結する補正を行うように構成されている、請求項1に記載のX線位相差撮影システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線位相差撮影システムに関し、特に、被写体と撮像系とを相対回転させながら撮影するX線位相差撮影システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被写体と撮像系とを相対回転させながら撮影するX線位相差撮影システムが知られている。このようなX線位相差撮影システムは、たとえば、M Bech, et al., Quantitative x-ray dark-field computed tomography, PHYSICS IN MEDICINE AND BIOLOGY, 55(2010), P.5529- 5539(以下、非特許文献1という)に開示されている。
【0003】
上記非特許文献1のX線位相差撮影システムは、X線源と、位相格子と、検出器と、画像処理装置とを備えている。X線源からのX線は、被写体により散乱され、位相格子を通過して検出器に照射される。検出器により検出されるX線の干渉強度に基づいて、画像処理装置により暗視野像が生成される。また、被写体が360度回転された場合における各々の回転角度において撮影することにより暗視野像の生成が行われる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】M Bech, et al., Quantitative x-ray dark-field computed tomography, PHYSICS IN MEDICINE AND BIOLOGY, 55(2010), P.5529- 5539
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記非特許文献1には明記されていないが、上記非特許文献1に記載されているような従来のX線位相差撮影システムにおいて、被写体を回転させながら撮影する際に、回転角度に応じてX線が透過する経路長が異なる場合がある。たとえば、被写体として、板状形状を有する炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を回転させながら撮影する際に、板状形状の長手方向に沿った特定範囲の回転角度(撮影角度)においてX線が透過する経路長が長くなることによってX線の散乱度合いが大きくなり、ビジビリティ(鮮明度)がゼロ付近まで低下する場合がある。ビジビリティがゼロ付近まで低下した場合、X線の干渉強度を正確に抽出することが困難になり、暗視野像の画質が劣化するという問題点がある。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、回転角度に基づいてX線の散乱度合いが大きくなることに起因して、被写体の暗視野像の画質が劣化することを抑制することが可能なX線位相差撮影システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明の一の局面におけるX線位相差撮影システムは、X線源と、X線源から照射されたX線を検出する検出器と、X線源と検出器との間に配置された複数の格子と、被写体と、X線源と検出器と複数の格子とによって構成される撮像系とを相対的に回転させる回転機構と、回転機構により回転された場合における複数の回転角度の各々において、検出器により検出されたX線の強度分布に基づいて、少なくとも、X線の散乱に起因する暗視野像を生成する画像処理部と、被写体を撮影する際の回転角度によるX線の散乱度合いの大きさに基づいて撮影条件を切り替える制御を行う制御部とを備え、画像処理部は、X線の散乱度合いまたは暗視野像の画素値に基づく特徴量を取得するように構成されており、制御部は、特徴量に基づいて、撮影条件を切り替える回転角度を決定するように構成されている。
【0008】
この発明の一の局面におけるX線位相差撮影システムでは、上記のように、被写体を撮影する際の回転角度によるX線の散乱度合いの大きさに基づいて撮影条件を切り替える制御を行う制御部を備え、画像処理部は、X線の散乱度合いまたは暗視野像の画素値に基づく特徴量を取得するように構成されており、制御部は、特徴量に基づいて、撮影条件を切り替える回転角度を決定するように構成されている。これにより、たとえば、回転角度に基づいてX線の散乱度合いが大きくなった場合でも、X線のビジビリティが低下することを抑制することが可能な撮影条件に変更して撮影することができる。その結果、ビジビリティがゼロ付近まで低下することを抑制することが可能となるので、回転角度に基づいてX線の散乱度合いが大きくなることに起因して、被写体の暗視野像の画質が劣化することを抑制することができる。また、このように構成すれば、複数の回転角度の各々における検出器の検出画素ごとのX線の散乱度合い、または、複数の回転角度の各々における暗視野像の画素ごとの画素値を比較することにより撮影条件を切り替える判定を行う構成と比較して、複数の画素におけるX線の散乱度合いまたは画素値に基づいて取得された特徴量によって撮影条件を切り替える回転角度を決定することにより、撮影条件を切り替える回転角度を決定する際に用いる情報量を低減することができる。その結果、撮影条件を切り替える判定を行う際の計算負荷を軽減することができる。なお、特徴量とは、検出器におけるX線の散乱度合いの大きさの最小値または平均値、または、暗視野像において被写体が写っている領域の画素値の最小値または平均値などである。
【0009】
上記一の局面におけるX線位相差撮影システムにおいて、好ましくは、制御部は、複数の回転角度のうち、第1回転角度範囲において、第1撮影条件によって撮影を行い、第1回転角度範囲よりも被写体によるX線の散乱度合いが相対的に大きくなる第2回転角度範囲では、第1撮影条件よりもX線の実効エネルギーが相対的に大きい第2撮影条件に切り替える制御を行うように構成されている。このように構成すれば、X線の散乱度合いが相対的に大きくなる第2回転角度範囲において撮影する場合に、第1撮影条件よりもX線の実効エネルギーが相対的に大きい第2撮影条件によって撮影することにより、X線を散乱しにくくすることができる。その結果、X線の散乱度合いが大きい被写体を撮影する場合でも、第1撮影条件によって撮影する場合と比較して、ビジビリティが低下することを抑制することが可能となるので、暗視野像を精度よく生成することができる。
【0012】
上記特徴量に基づいて、撮影条件を切り替える回転角度を決定する構成において、好ましくは、制御部は、特徴量と閾値とを比較することにより、撮影条件を切り替える回転角度を決定するように構成されている。このように構成すれば、各回転角度における特徴量と閾値とを比較することにより、各回転角度におけるX線のビジビリティの低下度合いを容易に把握することができる。その結果、撮影条件を切り替える回転角度を容易に決定することができる。
【0013】
この場合、好ましくは、制御部は、第1撮影条件によって複数の回転角度において被写体を撮影する制御を行うとともに、撮影した後に、第1撮影条件よりもX線の実効エネルギーが相対的に大きい第2撮影条件に切り替えて、特徴量が第1閾値よりも小さい回転角度範囲のそれぞれにおいて、再び被写体を撮影する制御を行うように構成されている。このように構成すれば、第1条件による撮影と、第2撮影条件による撮影とを2回に分けて行うことができる。その結果、撮影中において撮影条件を切り替える回数を1回にすることが可能となるので、X線の散乱度合いの大きさに基づいて第1撮影条件と第2撮影条件とを切り替えながらリアルタイムに撮影する構成と比較して、制御が複雑化することを抑制することができる。
【0014】
上記特徴量と閾値とを比較することにより、撮影条件を切り替える回転角度を決定する構成において、好ましくは、制御部は、第1撮影条件による撮影をしながら、特徴量が第1閾値よりも小さくなった場合に、第1撮影条件よりもX線の実効エネルギーが相対的に大きい第2撮影条件に切り替えて撮影するとともに、第2撮影条件による撮影をしながら、特徴量が、第1閾値よりも大きい第2閾値よりも大きくなった場合に、第1撮影条件に切り替えて撮影する制御を行うように構成されている。このように構成すれば、1度の撮影中に第1撮影条件と第2撮影条件とを切り替えながらリアルタイムに撮像することができる。その結果、第1撮影条件によって撮影した後に、特徴量が第1閾値よりも小さくなった撮影角度範囲において第2撮影条件によって再び撮影する場合と比較して、撮影回数を低減することが可能となるので、撮影に要する時間を短縮することができる。
【0015】
上記第1回転角度範囲よりも被写体によるX線の散乱度合いが相対的に大きくなる第2回転角度範囲において、第1撮影条件よりもX線の実効エネルギーが相対的に大きい第2撮影条件に切り替える構成おいて、好ましくは、制御部は、第1撮影条件よりもX線源に印加する電圧を大きくすること、および、X線源に設けるX線フィルタを変更することのうち、少なくともいずれかを行うことにより、検出器に向けて照射されるX線の実効エネルギーを相対的に大きくすることによって、第2撮影条件に切り替える制御を行うように構成されている。このように構成すれば、X線源に印加する電圧を大きくすることまたはX線源に設けるX線フィルタを変更することにより、X線源を交換することなく照射されるX線の実効エネルギーを大きくすることができる。その結果、たとえば、互いに異なるX線の実効エネルギーが予め設定されている複数のX線源を交換することにより撮影条件を切り替える構成と比較して、システム構成が複雑化することを抑制することができる。
【0016】
この場合、好ましくは、複数の格子のいずれかを並進移動させる格子移動機構をさらに備え、制御部は、第2撮影条件において被写体を撮影する際に、第1撮影条件よりもX線源に印加する電流を大きくすること、検出器における蓄積時間を大きくすること、および、格子移動機構による複数の格子のいずれかを並進移動させる際のステップ数を大きくすることのうち、少なくともいずれかを行うことによって、検出器に到達するX線量を増加させる制御を行うように構成されている。このように構成すれば、各回転角度における暗視野像のS/N比(信号対雑音比(signal-to-noise ratio))を大きくすることができる。その結果、たとえば、各回転角度における暗視野像を再構成することによってCT画像を取得する場合、取得されるCT画像のS/N比を大きくすることが可能となるので、ノイズに起因してCT画像の画質が劣化することを抑制することができる。
【0017】
上記一の局面におけるX線位相差撮影システムにおいて、好ましくは、画像処理部は、複数の回転角度において被写体を撮影する際に、撮影条件の切り替えによって不連続になったX線の散乱度合いまたは暗視野像の画素値を滑らかに連結する補正を行うように構成されている。このように構成すれば、撮影条件の切り替えにより生じたX線の散乱度合いの不連続または暗視野像の画素値の不連続に起因してアーチファクト(ノイズ)などが発生することを抑制することができる。その結果、たとえば、各回転角度における暗視野像を再構成することによってCT画像を取得する場合、暗視野像に生じるアーチファクトに起因して、CT画像の画質が劣化することを抑制することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、上記のように、回転角度に基づいてX線の散乱度合いが大きくなることに起因して、被写体の暗視野像の画質が劣化することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1実施形態によるX線位相差撮影システムの構成を示した模式図である。
【
図2】第1実施形態による画像処理部が生成する吸収像(A)、位相微分像(B)、暗視野像(C)、3次元吸収像(D)、3次元位相像(E)、および、3次元暗視野像(F)である。
【
図3】X線が被写体を透過する経路長が短い場合のステップカーブを説明するための模式図である。
【
図4】X線が被写体を透過する経路長が長い場合のステップカーブを説明するための模式図である。
【
図5】X線の実効エネルギーの違いによるビジビリティの低下度合いの違いを説明するためのグラフである。
【
図6】第1回転角度範囲および第2回転角度範囲を説明するための模式図である。
【
図7】第1撮影条件によって被写体を撮影した際の特徴量のグラフを示す模式図(A)、第2撮影条件によって被写体を撮影した際の特徴量のグラフを示す模式図(B)および補正後の特徴量のグラフを示す模式図(C)である。
【
図8】第1実施形態によるX線位相差撮影システムが3次元暗視野像を取得する処理を説明するためのフローチャートである。
【
図9】第2実施形態によるX線位相差撮影システムが第1撮影条件と第2撮影条件とを切り替えながら被写体を撮影した際の特徴量のグラフを示す模式図(A)および補正後の特徴量のグラフを示す模式図(B)である。
【
図10】第2実施形態によるX線位相差撮影システムが3次元暗視野像を取得する処理を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
[第1実施形態]
図1~
図7を参照して、第1実施形態によるX線位相差撮影システム100の構成について説明する。
【0022】
(X線位相差撮影システムの構成)
図1に示すように、X線位相差撮影システム100は、被写体Tを通過したX線の拡散(散乱)を利用して、被写体Tの暗視野像22(
図2参照)を生成する。具体的には、X線位相差撮影システム100は、タルボ(Talbot)効果を利用して、少なくとも被写体Tの暗視野像22を生成する。X線位相差撮影システム100は、たとえば、非破壊検査用途では、物体の内部の画像化に用いることが可能である。第1実施形態では、被写体Tとして、たとえば、板状形状を有する炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を撮影する例を示す。
【0023】
図1は、X線位相差撮影システム100をX方向から見た図である。
図1に示すように、X線位相差撮影システム100は、X線源1と、第1格子2と第2格子3と第3格子4とを含む複数の格子と、検出器5と、画像処理部6と、制御部7と、回転機構8と、格子移動機構9とを備えている。なお、本明細書において、X線源1から第1格子2に向かう方向をZ2方向、その逆向きの方向をZ1方向とする。また、Z方向と直交する面内において、互いに直交する2方向のうち、一方方向をX方向とし、紙面の奥に向かう方向をX2方向、紙面の手前側に向かう方向をX1方向とする。また、Z方向と直交する面内において、互いに直交する2方向のうち、他方方向をY方向とし、紙面の上方向をY1方向、下方向をY2方向とする。
【0024】
X線源1は、高電圧が印加されることにより、X線を発生させるとともに、発生されたX線をZ2方向に向けて照射するように構成されている。また、X線源1には、X線フィルタ10が設けられている。X線フィルタ10は、金属板を含み、所定の波長範囲のX線のみを透過するように構成されている。
【0025】
第1格子2は、Y方向に所定の周期(ピッチ)p1で配列される複数のスリット2a、および、X線位相変化部2bを有している。各スリット2aおよびX線位相変化部2bはそれぞれ、直線状に延びるように形成されている。また、各スリット2aおよびX線位相変化部2bはそれぞれ、平行に延びるように形成されている。第1格子2は、いわゆる位相格子である。
【0026】
第1格子2は、X線源1と、第2格子3との間に配置されており、X線源1からX線が照射される。第1格子2は、タルボ効果により、第1格子2の自己像(図示せず)を形成するために設けられている。なお、可干渉性を有するX線が、スリットが形成された格子を通過すると、格子から所定の距離(タルボ距離)離れた位置に、格子の像(自己像)が形成される。これをタルボ効果という。
【0027】
第2格子3は、Y方向に所定の周期(ピッチ)p2で配列される複数のX線透過部3aおよびX線吸収部3bを有する。X線吸収部3bは、X線位相変化部2bが延びる方向に沿って延びている。各X線透過部3aおよびX線吸収部3bはそれぞれ、直線状に延びるように形成されている。また、各X線透過部3aおよびX線吸収部3bはそれぞれ、平行に延びるように形成されている。第2格子3は、いわゆる、吸収格子である。第1格子2、第2格子3はそれぞれ異なる役割を持つ格子であるが、スリット2aおよびX線透過部3aはそれぞれX線を透過させる。また、X線吸収部3bはX線を遮蔽する役割を担っており、X線位相変化部2bはスリット2aとの屈折率の違いによってX線の位相を変化させる。
【0028】
第2格子3は、第1格子2と検出器5との間に配置されており、第1格子2を通過したX線が照射される。また、第2格子3は、第1格子2からタルボ距離離れた位置に配置される。第2格子3は、第1格子2の自己像と干渉して、検出器5の検出表面上にモアレ縞(図示せず)を形成する。
【0029】
第3格子4は、Y方向に所定の周期(ピッチ)p3で配列される複数のX線透過部4aおよびX線吸収部4bを有する。各X線透過部4aおよびX線吸収部4bはそれぞれ、直線状に延びるように形成されている。また、各X線透過部4aおよびX線吸収部4bはそれぞれ、平行に延びるように形成されている。第3格子4は、いわゆる、マルチスリットである。
【0030】
第3格子4は、X線源1と第1格子2との間に配置されている。第3格子4は、各X線透過部4aを通過したX線を線光源とするように構成されている。3枚の格子(第1格子2、第2格子3、および、第3格子4)のピッチと格子間の距離とが一定の条件を満たすことにより、X線源1から照射されるX線の可干渉性を高めることが可能である。これを、ロー効果という。これにより、X線源1の管球の焦点サイズが大きくても干渉強度を保持できる。このように、第1実施形態におけるX線位相差撮影システム100は、いわゆるタルボ・ロー干渉計により構成される。
【0031】
検出器5は、X線を検出するとともに、検出されたX線を電気信号に変換し、変換された電気信号を画像信号として読み取るように構成されている。検出器5は、たとえば、FPD(Flat Panel Detector)である。検出器5は、複数の変換素子(図示せず)と複数の変換素子上に配置された画素電極(図示せず)とにより構成されている。複数の変換素子および画素電極は、所定の周期(画素ピッチ)で、X方向およびY方向にアレイ状に配列されている。また、検出器5は、取得した画像信号を、画像処理部6に出力するように構成されている。
【0032】
画像処理部6は、検出器5により検出されたX線の強度分布に基づいて、吸収像20(
図2参照)を生成するように構成されている。また、画像処理部6は、検出器5により検出されたX線の強度分布に基づいて、位相微分像21(
図2参照)を生成するように構成されている。また、画像処理部6は、検出器5により検出されたX線の強度分布に基づいて、X線の散乱に起因する暗視野像22(
図2参照)を生成するように構成されている。ここで、吸収像20とは、被写体TによるX線の吸収の差によって生じるコントラストを画像化したものである。すなわち、吸収像20とは、被写体TによるX線の透過率を画像化したものである。また、位相微分像21とは、X線が被写体Tを通過した際に発生するX線の位相のずれをもとに画像化した像である。すなわち、位相微分像21とは、X線の位相の変化をコントラストとして画像化してものである。また、暗視野像22とは、被写体Tの内部にある微細構造によるX線の屈折(散乱)度合いをコントラストとして画像化したものである。言い換えると、暗視野像22は、検出器5におけるビジビリティVの低下を画像化したものであり、ビジビリティVの変化は被写体Tの散乱の程度に依存する。
【0033】
また、画像処理部6は、回転機構8によって被写体Tを回転させながら(複数の回転角度の各々において)撮像された複数の吸収像20、複数の位相微分像21および複数の暗視野像22をそれぞれ再構成することにより、3次元吸収像30(
図2参照)、3次元位相像31(
図2参照)および3次元暗視野像32(
図2参照)を生成する。また、画像処理部6は、たとえば、GPU(Graphics Processing Unit)や画像処理用に構成されたFPGA(Field-Programmable Gate Array)などのプロセッサを含む。
【0034】
制御部7は、回転機構8により、被写体Tと、X線源1、検出器5、および、複数の格子(第1格子2、第2格子3、および、第3格子4)によって構成される撮像系11とを相対的に回転させるように構成されている。また、制御部7は、格子移動機構9により、第1格子2を格子面内において格子方向と直交する方向にステップ移動させるように構成されている。X線位相差撮影システム100では、第1格子2を一定周期間隔に走査することにより得られた複数のモアレ縞(画像)から再構成画像を取得する手法(縞走査法)が用いられている。また、制御部7は、X線の散乱度合いの大きさに基づいて、撮影条件を切り替える制御を行うように構成されている。制御部7が撮影条件を切り替える構成の詳細については後述する。制御部7は、たとえば、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサを含む。
【0035】
回転機構8は、制御部7からの信号に基づいて、被写体Tと撮像系11とを相対的に回転させるように構成されている。具体的には、回転機構8は、被写体TをY方向に沿って延びる軸線AR周りに回転させることにより、撮像系11に対して被写体Tを相対的に回転させるように構成されている。回転機構8は、たとえば、モータなどによって駆動される回転ステージ8aを含む。
【0036】
画像処理部6は、複数の回転角度のそれぞれにおいて被写体Tを撮影することにより取得した複数の吸収像20、複数の位相微分像21、および、複数の暗視野像22をそれぞれ再構成することにより、3次元吸収像30、3次元位相像31、および、3次元暗視野像33を生成する。
【0037】
格子移動機構9は、制御部7からの信号に基づいて、第1格子2を格子面内(XY面内)において格子方向と直交する方向(
図1ではY方向)にステップ移動させるように構成されている。具体的には、格子移動機構9は、第1格子2の周期p1をn分割し、p1/nずつ第1格子2をステップ移動させる。格子移動機構9は、少なくとも第1格子2の1周期p1分、第1格子2をステップ移動させるように構成されている。画像処理部6は、格子移動機構9によって第1格子2をステップ移動させながら撮影した際の各ステップにおけるX線の信号強度に基づいて、ステップカーブSC(
図3参照)を取得する。なお、nは正の整数であり、たとえば、4などである。また、格子移動機構9は、たとえば、ステッピングモータやピエゾアクチュエータなどを含む。
【0038】
(暗視野像の生成方法)
ここで、画像処理部6による暗視野像22の生成の方法について説明する。画像処理部6は、被写体Tが配置されていない状態で撮影を行うことにより取得されたビジビリティVと、被写体Tが配置されている状態で撮影を行うことにより取得されたビジビリティVとの比に基づいて、暗視野像22を生成する。なお、ビジビリティVは、鮮明度を意味する。また、ステップカーブSC(
図3参照)における輝度値の最大値および最小値をそれぞれImaxおよびIminとすると、ビジビリティVは、V=(Imax-Imin)/(Imax+Imin)で表される。
【0039】
(被写体の撮影角度とビジビリティとの関係)
第1実施形態では、回転機構8によって被写体Tと撮像系11とを相対回転させながら撮影を行う。板状形状を有する被写体Tを撮影する場合、被写体Tを撮影する際の回転角度が変化することによって、被写体Tを透過するX線の経路長が変化する。被写体Tを透過する経路長が長くなると、被写体TによるX線の散乱度合いが大きくなる。
【0040】
図3に示す例は、被写体Tを透過するX線の経路長が短い場合の例である。たとえば、板状形状を有するCFRPなどを被写体Tとする場合、被写体Tの短手方向からX線が照射される回転角度となった際の例である。
図4に示す例は、被写体Tを透過するX線の経路長が長い場合の例である。たとえば、板状形状を有する被写体Tを撮影する場合、被写体Tの長手方向からX線が照射される回転角度となった際の例である。
【0041】
図3に示すように、被写体Tの短手方向からX線が照射された場合に、X線の光軸XRに沿って照射されるX線が被写体Tを透過する経路長を距離d1とする。また、
図4に示すように被写体Tの長手方向からX線が照射された場合に、X線の光軸XRに沿って照射されるX線が被写体Tを透過する経路長を距離d2とする。被写体Tは板状形状を有するため、被写体Tを透過する経路長の距離d1は、被写体Tを透過する経路長の距離d2よりも短くなる。
【0042】
被写体Tを透過する経路長の距離d1が短い場合、
図3のグラフG1に示すように、ステップカーブSC1の振幅A1の大きさは、
図4のグラフG2に示すステップカーブSC2の振幅A2の大きさよりも大きくなる。言い換えると、X線の散乱度合いが大きくなると、得られるステップカーブSCの振幅Aの大きさが小さくなる。ステップカーブSCの振幅Aの大きさが小さくなると、位相微分像21および暗視野像22を正確に抽出することが困難になる。なお、ステップカーブSCの振幅Aは、ImaxとIminとの差であるため、被写体TによるX線吸収量が小さい場合は、ビジビリティVと等しいと見なすことができる。すなわち、被写体Tを透過するX線の経路長が長くなる回転角度においてX線を照射した場合、ビジビリティVが低下する。
【0043】
(被写体を透過するX線の経路長とビジビリティとの関係)
図5を参照して、X線の経路長とビジビリティVとの関係について説明する。
図5に示すグラフG3aおよびグラフG3bは、X線源1から照射されるX線が被写体Tを透過する経路長とビジビリティVとの関係を示したグラフである。グラフG3aおよびグラフG3bは、それぞれ、横軸が、X線が透過する経路長であり、縦軸がビジビリティである。所定の実効エネルギー(設計エネルギー)によってX線を照射した場合の被写体Tを透過するX線の経路長とビジビリティVとの関係を示すグラフが、グラフG3aである。グラフG3aに示すように、X線の経路長が増加するにつれて、ビジビリティVが低下する。これは、X線の経路長が長くなることにより、被写体TによるX線の散乱度合いが大きくなることが原因であると考えられる。
【0044】
図5に示すグラフG3bは、グラフG3aよりも実効エネルギーが大きいX線を照射した場合のグラフである。グラフG3bでは、照射されるX線の実効エネルギーが大きいため、X線が散乱されにくくなる。そのため、被写体Tを透過するX線の経路長が0(ゼロ)の場合のビジビリティVは、グラフG3aにおける被写体Tを透過するX線の経路長が0(ゼロ)の場合のビジビリティVよりも小さくなる。一方、被写体Tを透過するX線の経路長が増加するにつれて、グラフG3bのビジビリティVの値は、グラフG3aのビジビリティVの値よりも大きくなる。これは、X線の実効エネルギーが大きくなったことにより、X線が散乱しにくくなるため、X線の散乱度合いによる影響を受けにくくなるためであると考えられる。すなわち、被写体Tを透過するX線の経路長が長い場合に、X線の実効エネルギーを大きくすることにより、被写体Tによる散乱の影響を受けにくくなるため、ステップカーブSCの振幅Aが小さくなることを抑制することができる。
【0045】
(撮影条件の切り替え)
そこで、第1実施形態では、制御部7は、被写体Tを撮影する際の回転角度によるX線の散乱度合いの大きさに基づいて撮影条件を切り替える制御を行うように構成されている。なお、撮影条件とは、X線源1に印加される電圧(管電圧)、X線源1に設けられるX線フィルタ10、X線源1に印加される電流(管電流)、検出器5による蓄積時間、格子移動機構9による第1格子2をステップ移動させる回数などに基づく条件である。
【0046】
図6は、回転機構8に配置された被写体TをY1方向から見た模式図である。第1実施形態では、制御部7は、被写体TによるX線の散乱度合いが小さい回転角度範囲を、第1回転角度範囲FRと設定する。なお、
図6に示す例は、便宜上、回転機構8の図示を省略している。
【0047】
第1実施形態では、制御部7は、複数の回転角度のうち、第1回転角度範囲FRにおいて、第1撮影条件によって撮影を行い、第1回転角度範囲FRよりも被写体TによるX線の散乱度合いが相対的に大きくなる第2回転角度範囲SRでは、第1撮影条件よりもX線の実効エネルギーが相対的に大きい第2撮影条件に切り替える制御を行うように構成されている。なお、第1撮影条件とは、X線位相差撮影システム100(撮像系11)の設計エネルギーに基づいて、X線源1に印加する電圧やX線源1に設けるX線フィルタ10などが決定された撮影条件である。
【0048】
第1実施形態では、制御部7は、第1撮影条件よりもX線源1に印加する電圧(管電圧)を大きくすることにより、検出器5に向けて照射されるX線の実効エネルギーを相対的に大きくするように構成されている。これにより、制御部7は、第1撮影条件よりもX線の実効エネルギーが相対的に大きい第2撮影条件に切り替える制御を行うように構成されている。
【0049】
また、制御部7は、撮影条件を切り替える回転角度を、複数の回転角度の各々において生成されたX線の散乱に起因する暗視野像22の画素値に基づいて決定した回転角度において取得するように構成されている。具体的には、画像処理部6は、暗視野像22の画素値に基づく特徴量を取得するように構成されている。特徴量としては、たとえば、暗視野像22において被写体Tが写っている領域の画素値の最小値または平均値を採用できる。第1実施形態では、画像処理部6は、特徴量として、暗視野像22において被写体Tが写っている領域の画素値の最小値を取得するように構成されている。
【0050】
(撮影条件を切り替える回転角度の決定)
制御部7は、特徴量に基づいて、撮影条件を切り替える回転角度を決定するように構成されている。具体的には、制御部7は、特徴量と閾値とを比較することにより、撮影条件を切り替える回転角度を決定するように構成されている。より具体的には、
図7に示すように、制御部7は、第1撮影条件によって複数の回転角度において被写体Tを撮影する制御を行うとともに、撮影した後に、第1撮影条件よりもX線の実効エネルギーが相対的に大きい第2撮影条件に切り替えて、特徴量が第1閾値ThrAよりも小さい回転角度範囲(第2回転角度範囲SR)のそれぞれにおいて、再び被写体Tを撮影する制御を行うように構成されている。なお、第1閾値ThrAは、暗視野像22を画像化可能な範囲であれば、任意の値に設定すればよい。第1実施形態では、第1閾値ThrAは、たとえば、被写体Tを配置せずに撮影した際の画素値の10%の値に設定する。
【0051】
図7(A)に示すように、制御部7は、第1撮影条件によって被写体Tを360度回転させながら撮影を行う。グラフG4は、被写体Tの回転角度を横軸に、特徴量を縦軸にしたグラフである。グラフG4に示すように、被写体Tの回転角度が90度付近および270度付近になった場合、特徴量が第1閾値ThrAよりも小さくなる。そこで、制御部7は、第1撮影条件による被写体Tの撮影が終了した後に、撮影条件を、第2撮影条件を切り替える制御を行い、特徴量が第1閾値ThrAよりも小さくなった回転角度において、再び被写体Tを撮影する。
【0052】
図7(A)に示す例では、たとえば、80度以上100度以下の範囲と、260度以上270度以下の範囲とにおいて、特徴量が第1閾値ThrA以下となっている。そこで、制御部7は、80度以上100度以下の範囲と、260度以上270度以下の範囲とを、それぞれ、第2回転角度範囲SRとする。
図7(B)に示すグラフG5のように、制御部7は、第2回転角度範囲SRにおいて、第2撮影条件に切り替えて被写体Tを撮影する。なお、
図7(B)のグラフG5に示す例では、第2回転角度範囲SRの全範囲において、特徴量が第1閾値ThrAよりも大きい値となっている。しかし、第2撮影条件における撮影では、第1撮影条件における撮影時よりも特徴量が大きくなっていればよいので、第2回転角度範囲SRの全範囲において特徴量が第1閾値ThrAよりも大きくなっていなくてもよい。すなわち、第2回転角度範囲SRにおいて、第2撮影条件における撮影時の特徴量の最小値が、第1撮影条件における撮影時の特徴量の最小値よりも大きくなっていればよい。
【0053】
図7(A)および
図7(B)に示すように、撮影条件を切り替えて被写体Tを撮影したため、X線の実効エネルギーが変化し、特徴量(暗視野像22の画素値)のグラフが不連続となる。したがって、各回転角度における暗視野像22を再構成することにより3次元暗視野像32を生成した場合、3次元暗視野像32において、アーチファクトが生じる原因となる。そこで、
図7(C)に示すグラフG6のように、画像処理部6は、複数の回転角度において被写体Tを撮影する際に、撮影条件の切り替えによって不連続になった暗視野像22の画素値を滑らかに連結する補正を行うように構成されている。画像処理部6は、たとえば、第1撮影条件における暗視野像22の画素値の感度と、第2撮影条件における暗視野像22の画素値の感度とを予め取得しておき、感度が等しくなるように補正するように構成されていてもよい。また、画像処理部6は、各回転角度における暗視野像22の画素値を揃えることにより補正するように構成されていてもよい。
【0054】
また、第1実施形態では、制御部7は、X線のフォトン数に依存するノイズ(量子ノイズ)や、検出器5由来のノイズに起因して暗視野像22の画質が劣化することを抑制するために、補正処理を行うように構成されている。具体的には、制御部7は、第2撮影条件において被写体Tを撮影する際に、第1撮影条件よりもX線源1に印加する電流を大きくすること、検出器5における蓄積時間を大きくすること、および、格子移動機構9による第1格子2を並進移動させる際のステップ数を大きくすることのうち、少なくともいずれかを行うことによって、検出器5に到達するX線量を増加させる制御を行うように構成されている。なお、制御部7は、X線源1に印加する電流を大きくすること、検出器5における蓄積時間を大きくすること、および、格子移動機構9による第1格子2を並進移動させる際のステップ数を大きくすることのうち、いくつかの制御を組み合わせて行ってもよいし、全ての制御を行ってもよい。
【0055】
次に、
図8を参照して、第1実施形態によるX線位相差撮影システム100が3次元暗視野像32を生成する処理について説明する。なお、
図8に示す処理は、ユーザの操作によって入力された撮影開始の信号を制御部7が取得したことをトリガーとして開始される。
【0056】
ステップS1において、制御部7は、撮影条件を第1撮影条件に設定する。なお、撮影条件がすでに第1撮影条件に設定されている場合には、ステップS1の処理は省略可能である。
【0057】
次に、ステップS2において、制御部7は、回転機構8を制御することにより、被写体Tを360度回転させながら撮影を行う。すなわち、制御部7は、360度の回転範囲を、第1回転角度範囲FRとして撮影を行う。その後、処理は、ステップS3へ進む。
【0058】
ステップS3において、画像処理部6は、各回転における暗視野像22から、特徴量を取得する。制御部7は、各回転角度における暗視野像22の特徴量と第1閾値ThrAとを比較する。制御部7は、特徴量が第1閾値ThrA以下となる回転角度を記憶部(図示せず)などに記憶する。特徴量が第1閾値ThrA以下となる回転角度がある場合には、処理は、ステップS4へ進む。特徴量が第1閾値ThrA以下となる回転角度がない場合には、処理は、ステップS6へ進む。
【0059】
ステップS4において、制御部7は、撮影条件を第2撮影条件に切り替える。次に、ステップS5において、制御部7は、記憶部などに記憶しておいた回転角度に被写体Tを回転させ、各回転角度において撮影を行う。すなわち、制御部7は、ステップS2において、第1回転角度範囲FRとして撮影した回転角度のうち、特徴量が第1閾値ThrA以下となった角度範囲を第2回転角度範囲SRとし、第2撮影条件によって再度撮影を行う。また、制御部7は、上記した検出器5に到達するX線量を増加させる制御を行う。
【0060】
次に、ステップS6において、画像処理部6は、各回転角度における暗視野像22を生成する。また、画像処理部6は、上記した暗視野像22の画素値を滑らかに連結する補正を行う。次に、ステップS7において、画像処理部6は、各回転角度における暗視野像22を再構成することにより、3次元暗視野像32を生成し、処理を終了する。なお、画像処理部6は、3次元暗視野像32を生成する際には、第2回転角度範囲SRに含まれる回転角度において、第2撮影条件によって再度撮影することにより得られた暗視野像22を用いる。
【0061】
なお、ステップS6において、画像処理部6は、各回転角度において撮影された複数の吸収像20および複数の位相微分像21をそれぞれ再構成することにより、3次元吸収像30および3次元位相像31を生成する。画像処理部6は、3次元位相像31を生成する際には、3次元暗視野像32の生成と同等に、第2回転角度範囲SRに含まれる回転角度において、第2撮影条件によって再度撮影することにより得られた位相微分像21を用いる。
【0062】
(第1実施形態の効果)
第1実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0063】
第1実施形態では、上記のように、X線位相差撮影システム100は、X線源1と、X線源1から照射されたX線を検出する検出器5と、X線源1と検出器5との間に配置された複数の格子(第1格子2、第2格子3および第3格子4)と、被写体Tと、X線源1と検出器5と複数の格子とによって構成される撮像系11とを相対的に回転させる回転機構8と、回転機構8により回転された場合における複数の回転角度の各々において、検出器5により検出されたX線の強度分布に基づいて、少なくとも、X線の散乱に起因する暗視野像22を生成する画像処理部6と、被写体Tを撮影する際の回転角度によるX線の散乱度合いの大きさに基づいて撮影条件を切り替える制御を行う制御部7とを備える。これにより、X線の散乱度合いが大きくなった場合でも、X線のビジビリティVが低下することを抑制することが可能な撮影条件に変更して撮影することができる。その結果、ビジビリティVがゼロ付近まで低下することを抑制することが可能となるので、X線の散乱度合いが大きくなることに起因して、再構成された被写体TのCT画像(3次元暗視野像32)の画質が劣化することを抑制することができる。
【0064】
また、第1実施形態では、上記のように、制御部7は、複数の回転角度のうち、第1回転角度範囲FRにおいて、第1撮影条件によって撮影を行い、第1回転角度範囲FRよりも被写体TによるX線の散乱度合いが相対的に大きくなる第2回転角度範囲SRでは、第1撮影条件よりもX線の実効エネルギーが相対的に大きい第2撮影条件に切り替える制御を行うように構成されている。これにより、X線の散乱度合いが相対的に大きくなる第2回転角度範囲SRにおいて撮影する場合に、第1撮影条件よりもX線の実効エネルギーが相対的に大きい第2撮影条件によって撮影することにより、X線を散乱しにくくすることができる。その結果、X線の散乱度合いが大きい被写体Tを撮影する場合でも、第1撮影条件によって撮影する場合と比較して、ビジビリティVが低下することを抑制することが可能となるので、暗視野像22を精度よく生成することができる。また、X線の散乱度合いが大きくなる回転角度を予め把握できる場合でも、ユーザが入力することなく撮影条件を切り替えることができる。その結果、ユーザビリティ(ユーザの利便性)を向上させることができる。
【0065】
また、第1実施形態では、上記のように、制御部7は、撮影条件を切り替える回転角度を、複数の回転角度の各々において生成されたX線の散乱に起因する暗視野像22の画素値に基づいて決定した回転角度において取得するように構成されている。これにより、被写体Tの形状からではX線の散乱度合いが大きくなる回転角度が予め把握できない場合は、一度被写体Tを撮影することによって、暗視野像22の画素値の実測値に基づいて、正確に撮影条件を切り替える角度を決定することができる。その結果、被写体Tが所定の角度範囲でX線の散乱度合いが大きくなる構造を有している場合でも、所定の角度範囲においてビジビリティVが低下することを抑制することが可能となるので、所定の角度範囲における暗視野像22を精度よく生成することができる。
【0066】
また、第1実施形態では、上記のように、画像処理部6は、暗視野像22の画素値に基づく特徴量を取得するように構成されており、制御部7は、特徴量に基づいて、撮影条件を切り替える回転角度を決定するように構成されている。これにより、複数の回転角度の各々における検出器5の検出画素ごとのX線の散乱度合い、または、複数の回転角度の各々における暗視野像22の画素ごとの画素値を比較することにより撮影条件を切り替える判定を行う構成と比較して、複数の画素におけるX線の散乱度合いまたは画素値に基づいて取得された特徴量によって撮影条件を切り替える回転角度を決定することにより、撮影条件を切り替える回転角度を決定する際に用いる情報量を低減することができる。その結果、撮影条件を切り替える判定を行う際の計算負荷を軽減することができる。
【0067】
また、第1実施形態では、上記のように、制御部7は、特徴量と閾値とを比較することにより、撮影条件を切り替える回転角度を決定するように構成されている。これにより、各回転角度における特徴量と閾値とを比較することにより、各回転角度におけるX線のビジビリティVの低下度合いを容易に把握することができる。その結果、撮影条件を切り替える回転角度を容易に決定することができる。
【0068】
また、第1実施形態では、上記のように、制御部7は、第1撮影条件によって複数の回転角度において被写体Tを撮影する制御を行うとともに、撮影した後に、第1撮影条件よりもX線の実効エネルギーが相対的に大きい第2撮影条件に切り替えて、特徴量が第1閾値ThrAよりも小さい回転角度範囲のそれぞれにおいて、再び被写体Tを撮影する制御を行うように構成されている。これにより、第1条件による撮影と、第2撮影条件による撮影とを2回に分けて行うことができる。その結果、撮影中において撮影条件を切り替える回数を1回にすることが可能となるので、X線の散乱度合いの大きさに基づいて第1撮影条件と第2撮影条件とを切り替えながらリアルタイムに撮影する構成と比較して、制御が複雑化することを抑制することができる。
【0069】
また、第1実施形態では、上記のように、制御部7は、第1撮影条件よりもX線源1に印加する電圧を大きくすることにより、検出器5に向けて照射されるX線の実効エネルギーを相対的に大きくすることによって、第2撮影条件に切り替える制御を行うように構成されている。これにより、X線源1に印加する電圧を大きくすることによって、X線源1を交換することなく照射されるX線の実効エネルギーを大きくすることができる。その結果、たとえば、互いに異なるX線の実効エネルギーが予め設定されている複数のX線源1を交換することにより撮影条件を切り替える構成と比較して、システム構成が複雑化することを抑制することができる。
【0070】
また、第1実施形態では、上記のように、制御部7は、第2撮影条件において被写体Tを撮影する際に、第1撮影条件よりもX線源1に印加する電流を大きくすること、検出器5における蓄積時間を大きくすること、および、格子移動機構9による第1格子2を並進移動させる際のステップ数を大きくすることのうち、少なくともいずれかを行うことによって、検出器5に到達するX線量を増加させる制御を行うように構成されている。これにより、各回転角度における暗視野像22のS/N比(信号対雑音比(signal-to-noise ratio))を大きくすることができる。その結果、たとえば、各回転角度における暗視野像22を再構成することによってCT画像(3次元暗視野像32)を取得する場合、取得されるCT画像(3次元暗視野像32)のS/N比を大きくすることが可能となるので、ノイズに起因してCT画像(3次元暗視野像32)の画質が劣化することを抑制することができる。
【0071】
また、第1実施形態では、上記のように、画像処理部6は、複数の回転角度において被写体Tを撮影する際に、撮影条件の切り替えによって不連続になった暗視野像22の画素値を滑らかに連結する補正を行うように構成されている。これにより、撮影条件の切り替えにより生じた暗視野像22の画素値の不連続に起因してアーチファクト(ノイズ)などが発生することを抑制することができる。その結果、たとえば、各回転角度における暗視野像22を再構成することによってCT画像(3次元暗視野像32)を取得する場合、暗視野像22に生じるアーチファクトに起因して、CT画像(3次元暗視野像32)の画質が劣化することを抑制することができる。
【0072】
[第2実施形態]
次に、
図1、
図9および
図10を参照して、第2実施形態によるX線位相差撮影システム200(
図1参照)について説明する。第1撮影条件によって撮影した後に、第2撮影条件に切り替えて撮影する第1実施形態とは異なり、第2実施形態では、制御部70(
図1参照)は、被写体Tを回転させながら撮影する際に、特徴量と閾値とを比較し、第1撮影条件と第2撮影条件とを切り替えながら撮影する制御を行うように構成されている。なお、上記第1実施形態と同様の構成については同様の符号を付し、説明を省略する。
【0073】
図1に示すように、X線位相差撮影システム200は、制御部70を備える点を除いて、上記第1実施形態によるX線位相差撮影システム100と同様の構成を有している。
【0074】
制御部70は、第1撮影条件による撮影をしながら、特徴量が第1閾値ThrAよりも小さくなった場合に、第1撮影条件よりもX線の実効エネルギーが相対的に大きい第2撮影条件に切り替えて撮影するとともに、第2撮影条件による撮影をしながら、特徴量が、第1閾値ThrAよりも大きい第2閾値ThrBよりも大きくなった場合に、第1撮影条件に切り替えて撮影する制御を行うように構成されている。なお、第2閾値ThrBは、暗視野像22を画像化可能な範囲で、かつ、第1閾値ThrAのよりも大きければ、任意の値に設定すればよい。第2実施形態では、第2閾値ThrBは、たとえば、被写体Tを配置せずに撮影した際の画素値の20%の値に設定する。
【0075】
図9(A)に示すように、制御部70は、第1回転角度範囲FRにおいて、第1撮影条件によって撮影をしながら、暗視野像22(
図2参照)の特徴量が第1閾値ThrAよりも小さくなった場合、回転角度を変更せずに撮影条件を第2撮影条件に切り替える。そして、暗視野像22の特徴量が第1閾値ThrAよりも小さくなった回転角度において、第2撮影条件において再び被写体Tの撮影を行う。その後、第2回転角度範囲SRにおいて、第2撮影条件によって被写体Tの撮影を行う。制御部70は、各回転角度において撮影を行う度に、特徴量が第2閾値ThrBを超えているか否かの判定を行う。特徴量が第2閾値ThrBを超えた場合には、制御部70は、撮影条件を第1撮影条件に切り替えて、再び撮影を行う。すなわち、制御部70は、第1回転角度範囲FRと第2回転角度範囲SRとにおいて、第1撮影条件と第2撮影条件とを切り替えながら撮影を行う制御を行うように構成されている。なお、X線源1に印加する電圧を変更することにより撮影条件を切り替えた場合には、X線源1が安定するまでに、所定の時間間隔を設けることが好ましい。
【0076】
第2実施形態においても、撮影条件を切り替えて撮影するため、特徴量のグラフG7は、不連続となる。そこで、画像処理部6は、第1実施形態における制御部7と同様に、
図9(B)に示すグラフG8のように、撮影条件の切り替えによって不連続になった暗視野像22の画素値を滑らかに連結する補正を行う。
【0077】
次に、
図10を参照して、第2実施形態によるX線位相差撮影システム200が3次元暗視野像32を生成する処理について説明する。なお、
図10に示す処理も、上記第1実施形態と同様に、ユーザの操作によって入力された撮影開始の信号を制御部70が取得したことをトリガーとして開始される。また、上記第1実施形態における処理と同様の処理を行うステップについては、詳細な説明は省略する。
【0078】
ステップS1において、制御部7は、撮影条件を第1撮影条件に設定する。なお、上記第1実施形態と同様に、撮影条件がすでに第1撮影条件に設定されている場合には、ステップS1の処理は省略可能である。
【0079】
次に、ステップS8において、被写体Tの撮影を行う。その後、処理は、ステップS9へ進む。
【0080】
ステップS9において、制御部70は、暗視野像22の特徴量に基づいて、撮影条件の切り替えが必要か否かを判定する。具体的には、制御部70は、第1撮影条件において撮影している際には、特徴量と第1閾値ThrAとを比較することにより、撮影条件の切り替えが必要か否かを判定する。また、制御部70は、第2撮影条件において撮影している際には、特徴量と第2閾値ThrBとを比較することにより、撮影条件の切り替えが必要か否かを判定する。撮影条件の切り替えが必要な場合には、処理は、ステップS10へ進む。撮影条件の切り替えが必要ない場合には、処理は、ステップS12へ進む。
【0081】
ステップS10において、制御部70は、撮影条件を切り替える。具体的には、制御部70は、第1撮影条件によって撮影していた場合には、第2撮影条件に切り替える制御を行う。また、制御部70は、第2撮影条件によって撮影していた場合には、第1撮影条件に切り替える制御を行う。次に、ステップS11において、制御部7は、回転角度を変更することなく、被写体Tを撮影する。ステップS11では回転角度を変更することなく、被写体Tを撮影しているが、所定角度分回転させてから、被写体Tを撮影しても良い。この場合は、ステップS11の処理は省略可能である。その後、処理は、ステップS12へ進む。
【0082】
次に、ステップS12において、制御部70は、360度回転させて被写体Tを撮影したか否かの判定を行う。360度回転させて被写体Tを撮影した場合には、処理は、ステップS6、ステップS7へと進み、画像処理部6は、3次元暗視野像32を生成して処理を終了する。360度回転させて被写体Tを撮影していない場合には、処理は、ステップS13へ進む。
【0083】
ステップS13において、制御部70は、回転機構8を制御することにより、被写体Tを所定の回転角度分だけ回転させる。その後、処理は、ステップS8へ進む。
【0084】
なお、上記第1実施形態と同様に、ステップS6において、第2撮影条件によって被写体Tを撮影する際には、制御部70は、検出器5に到達するX線量を増加させる制御を行ってもよい。また、ステップS7において暗視野像22を生成する際には、画像処理部6は、暗視野像22の画素値を滑らかに連結する補正を行ってもよい。
【0085】
なお、第2実施形態のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0086】
(第2実施形態の効果)
第2実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0087】
第2実施形態では、上記のように、制御部70は、第1撮影条件による撮影をしながら、特徴量が第1閾値ThrAよりも小さくなった場合に、第1撮影条件よりもX線の実効エネルギーが相対的に大きい第2撮影条件に切り替えて撮影するとともに、第2撮影条件による撮影をしながら、特徴量が、第1閾値ThrAよりも大きい第2閾値ThrBよりも大きくなった場合に、第1撮影条件に切り替えて撮影する制御を行うように構成されている。これにより、1度の撮影中に第1撮影条件と第2撮影条件とを切り替えながらリアルタイムに撮像することができる。その結果、第1撮影条件によって撮影した後に、特徴量が第1閾値ThrAよりも小さくなった撮影角度範囲において第2撮影条件によって再び撮影する場合と比較して、撮影回数を低減することが可能となるので、撮影に要する時間を短縮することができる。
【0088】
なお、第2実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0089】
(変形例)
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく、請求の範囲によって示され、さらに請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0090】
たとえば、上記第1および第2実施形態では、制御部7(70)が暗視野像22の画素値に基づいて、撮影条件を切り替える回転角度を決定する構成の例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、制御部7(70)は、撮影条件を切り替える回転角度を、X線の散乱度合いに寄与する被写体Tの形状に基づいて予め設定された設定値に基づいて決定した回転角度において取得するように構成されていてもよい。たとえば、被写体Tが板状の形状を有している場合、
図6に示すように、被写体Tの回転角度が90度および180度から所定の角度範囲において、被写体Tを透過するX線の経路長が長くなることがわかる。そこで、ユーザは、90度および180度から所定の角度範囲を、第2回転角度範囲SRと設定する。
図6に示す例では、たとえば、80度から100度の角度範囲、および、260度から280度の角度範囲を、第2回転角度範囲SRと設定する。また、ユーザは、それ以外の回転角度範囲を、第1回転角度範囲FRと設定する。制御部7(70)は、ユーザが設定した回転角度範囲に応じて、撮影条件を切り替える制御を行うように構成されればよい。
【0091】
上記のように構成すれば、板状形状を有する被写体Tを撮影する場合など、X線の散乱度合いが大きくなる回転角度をユーザが予め把握できる場合には、被写体Tを撮影することなく撮影条件を切り替える角度を設定することができる。その結果、撮影条件を切り替える角度を取得するために事前に撮影を行う必要がなくなるので、撮影回数が増加することを抑制することができる。
【0092】
また、上記第1および第2実施形態では、制御部7(70)が暗視野像22の画素値に基づいて、撮影条件を切り替える回転角度を決定する構成の例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、制御部7(70)は、撮影条件を切り替える回転角度を、複数の回転角度の各々において検出器5により検出されたX線の散乱度合いに基づいて決定した回転角度において取得するように構成されていてもよい。このように構成すれば、被写体Tの形状からではX線の散乱度合いが大きくなる回転角度が予め把握できない場合でも、一度被写体Tを撮影することによって、X線の散乱度合いの実測値に基づいて、正確に撮影条件を切り替える角度を決定することができる。その結果、被写体Tが所定の角度範囲でX線の散乱度合いが大きくなる構造を有している場合でも、ビジビリティVが低下することを抑制することが可能となるので、暗視野像22を精度よく生成することができる。
【0093】
また、上記第1および第2実施形態では、制御部7(70)が暗視野像22の画素値に基づいて、撮影条件を切り替える回転角度を決定する構成の例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、撮影条件を切り替える回転角度は、暗視野像22の画素値が低い範囲をユーザが指定することにより決定されてもよい。
【0094】
また、上記第1および第2実施形態では、画像処理部6が、暗視野像22の画素値に基づいて特徴量を取得する構成の例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、画像処理部6は、X線の散乱度合いに基づいて、特徴量を取得するように構成されていてもよい。ステップカーブSCの振幅Aの大きさを把握することができれば、どのような値を特徴量としてもよい。たとえば、画像処理部6は、暗視野像22の全画素値の和や、暗視野像22の全画素値の対数値の和などを特徴量として取得してもよい。
【0095】
また、上記第1および第2実施形態では、制御部7(70)が、X線源1に印加する電圧を大きくすることにより、第2撮影条件に切り替える構成の例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、制御部7(70)は、X線源1に設けられるX線フィルタ10を交換することにより、第2撮影条件に切り替えるように構成されていてもよい。X線フィルタ10を交換することにより第2撮影条件に切り替える構成の場合、制御部7(70)は、X線フィルタ10が透過可能なX線の波長をより低波長側に設計されたX線フィルタに交換することにより、X線の実効エネルギーを大きくすることができる。
【0096】
また、上記第1および第2実施形態では、制御部7(70)が、暗視野像22のノイズを低減する制御を行う構成の例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、制御部7(70)は、暗視野像22のノイズを低減する制御を行わなくてもよい。しかしながら、暗視野像22に生じるノイズが増加すると、3次元暗視野像32の画質が劣化するため、暗視野像22のノイズを低減する制御を行う方が好ましい。
【0097】
また、上記第1および第2実施形態では、画像処理部6が、暗視野像22の画素値を滑らかに連結する補正を行う構成の例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、画像処理部6は、X線の散乱度合いが滑らかに連結する補正を行うように構成されていてもよい。
【0098】
また、上記第1および第2実施形態では、被写体Tを回転機構8により回転させてCT撮影を行う例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、撮像系11を回転させてCT撮影を行ってもよい。
【0099】
また、上記第1および第2実施形態では、第3格子4が設けられている例を示したが、本発明はこれに限られない。可干渉性が高いX線を照射するX線源1を用いる場合、第3格子4が設けられていなくてもよい。
【0100】
また、上記第1および第2実施形態では、縞走査法によって暗視野像22を生成する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、第1格子2、第2格子3、または、第3格子4のうちのいずれかを、X線の光軸XR方向(Z方向)に直交する平面内において回転させる手法(いわゆる、モアレ1枚撮り手法)によって、暗視野像22を生成してもよい。
【0101】
また、上記第1および第2実施形態では、第1格子2が位相格子である例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、第1格子2は吸収格子であってもよい。
【0102】
また、上記第1および第2実施形態では、第1格子2を格子面内においてステップ移動させる例を示したが、本発明はこれに限られない。複数の格子のうち、いずれの格子をステップ移動させてもよい。
【0103】
また、上記第1および第2実施形態では、被写体Tとして、板状形状を有する炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を撮像する例を示したが、本発明はこれに限られない。被写体Tの回転角度に応じてX線が透過する経路長が変化する被写体Tであれば、どのようなものを被写体Tとしてもよい。
【0104】
また、上記第1および第2実施形態では、制御部7(70)が、第1撮影条件と第2撮影条件とを切り替える制御を行う構成の例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、制御部7(70)は、3つ以上の撮影条件を切り替える制御を行うように構成されていてもよい。
【0105】
また、上記第1および第2実施形態では、制御部7(70)が、暗視野像22の画質が劣化することを抑制するために撮影条件を切り替える制御を行う構成の例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、制御部7(70)は、位相微分像21の画質が劣化することを抑制するために撮影条件を切り替える制御を行うように構成されていてもよい。位相微分像21の画質が劣化することを抑制するために撮影条件を切り替える制御を行う場合、画像処理部6は、位相微分像21の画素値の平均値、位相微分像21の画素値の最小値、または被写体Tを配置せずに撮影した際のステップカーブSCと、被写体Tを配置して撮影した際のステップカーブSCとの位相のずれなどを特徴量として取得するように構成すればよい。また、制御部7(70)は、画像処理部6が取得した位相微分像21の特徴量に基づいて、撮影条件を切り替える制御を行うように構成すればよい。
【0106】
また、上記第1および第2実施形態では、説明の便宜上、制御部7(70)の処理を「フロー駆動型」のフローチャートを用いて説明したが、本発明はこれに限られない。制御部7(70)の処理をイベント単位で実行する「イベント駆動型」により行ってもよい。この場合、完全なイベント駆動型で行ってもよいし、イベント駆動およびフロー駆動を組み合わせて行ってもよい。
【符号の説明】
【0107】
1 X線源
2 第1格子(複数の格子)
3 第2格子(複数の格子)
4 第3格子(複数の格子)
5 検出器
6 画像処理部
7、70 制御部
8 回転機構
9 格子移動機構
10 X線フィルタ
11 撮像系
22 暗視野像
100、200 X線位相差撮影システム
FR 第1回転角度範囲
SR 第2回転角度範囲
T 被写体
ThrA 第1閾値
ThrB 第2閾値