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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】眼用レンズの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/14 20060101AFI20221025BHJP
   A61L 27/16 20060101ALI20221025BHJP
   A61L 27/18 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
A61L27/14
A61L27/16
A61L27/18
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021029509
(22)【出願日】2021-02-26
(62)【分割の表示】P 2017511802の分割
【原出願日】2017-02-22
(65)【公開番号】P2021079193
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2021-02-26
(31)【優先権主張番号】P 2016030687
(32)【優先日】2016-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】北川 瑠美子
(72)【発明者】
【氏名】中村 正孝
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-047365(JP,A)
【文献】国際公開第2013/024799(WO,A1)
【文献】特開2003-171686(JP,A)
【文献】特表2010-508563(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L、A61K、A61F、G02C
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基を有するおよびアミド基を有する親水性ポリマーを含有する溶液の初期pHを2.0以上6.0以下に調整して、該溶液中に基材を配置し、該溶液を加熱することによって、基材表面上の少なくとも一部に前記親水性ポリマー層が固着したデバイスを得る、眼用レンズの製造方法であって、
基材の材料が、シロキサン結合を有するシリコーン、シリコーンを含まないハイドロゲルもしくはシリコーンを含むハイドロゲルであり、
前記親水性ポリマー層が2層以上の多層構造を有し、かつ、該親水性ポリマー層において、親水性ポリマー層の少なくとも一部が基材と混和した状態で存在し、
加熱温度が60℃~150℃であり、
加熱操作を行った後の溶液のpHが2.0~5.9である眼用レンズの製造方法。
【請求項2】
前記加熱をオートクレーブを用いて行う、請求項1記載の眼用レンズの製造方法。
【請求項3】
前記親水性ポリマー層形成前後の眼用レンズの含水率変化率が10質量%以下である請求項1または2に記載の眼用レンズの製造方法。
【請求項4】
前記親水性ポリマーを含有する溶液において、前記親水性ポリマーの合計量100質量部に対し、それ以外のポリマーの含有量が3質量部以下である請求項1~3のいずれか1項に記載の眼用レンズの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性デバイスおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の分野においてシリコーンゴム、ハイドロゲル(ヒドロゲル)等の樹脂製軟質材料、金属、ガラス等の硬質材料が多様な用途に用いられている。軟質材料の用途としては、生体内に導入したり、生体表面を被覆したりする医療デバイスや、細胞培養シート、組織再生用足場材料等のバイオテクノロジー用デバイスや、顔用パック等の美容デバイスが挙げられる。硬質材料の用途としては、パソコン、携帯電話、ディスプレイ等の電化製品、注射薬に使用されるアンプル、毛細管、バイオセンシングチップなどの診断・分析ツールとしての使用が挙げられる。
【0003】
種々の材料を、例えば医療デバイスとして生体内に導入したり、生体表面に貼付したりして用いる場合、生体と馴染みやすくするために、親水性や易滑性といった生体適合性を向上させる目的での材料の表面改質が重要となる。材料に改質前よりも良好な特性、例えば親水性、易滑性、生体適合性といった特性を与えることができれば、使用者(患者等)にとっては、使用感の向上、不快感の低減などを期待することができる。
【0004】
材料の表面を改質させる方法に関しては、種々の方法が知られている。従来技術においては1種類のポリマー材料では十分な親水性を付与することが難しかったことから、2種類以上のポリマー材料の層を1層ずつコーティングして積層する方法が知られている(たとえば特許文献1を参照)。中でも、2種類以上のポリマー材料を、1層ずつ下の層の荷電と反対の荷電を有する層を上に積層して、交互に異なる荷電を有する層をコーティングする方法は、LbL法(Layer by Layer法)などと呼ばれる。かかるLbL法により得られるコーティングにおいては、材料の各々の層が、他の層と静電相互作用によって結合されていると考えられている。
【0005】
しかしながら、従来のLbLコーティングにおいては、3層~20層程度といった多層を積層させることが通常行われており、製造工程が長くなり製造コストの増大を招くおそれがあった。
【0006】
そこで、最近では、コスト効率をよくするため、LbL法を改良した方法として、ポリイオン性物質とオートクレーブ時加水分解物質を使用し、1度の熱処理によりシリコーンハイドロゲル表面にポリイオン性物質を吸着させ、同時にシリコーンハイドロゲル表面を親水化する方法が開示されている(特許文献2参照)。
【0007】
しかしながら、上記発明を適用できる材料は含水性のハイドロゲルに限定されている。
【0008】
また、特許文献3には、1度の熱処理によりシリコーンハイドロゲル表面に2種類の親水性ポリマーを架橋させる方法が開示されている。
【0009】
しかしながら、これに関しても適用できる材料は含水性のハイドロゲルに限定されている。さらに、この発明では、熱処理前にカルボキシル基含有ポリマーをシリコーンハイドロゲル表面に架橋させる工程が必要であり、かつ、架橋しうる親水性ポリマー材料のエポキシド基と、シリコーンハイドロゲル表面に架橋されたカルボキシル基との間の共有結合を介して、水溶液中で親水性ポリマーをレンズ表面に架橋させていることから、工程が複雑となり、製造コストの増大を招くおそれがあった。
【0010】
また、特許文献4~6には、イオン性重合体によるコンタクトレンズの表面コーティングが開示されているものの、性能が不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公開第2013/024800号
【文献】特表2010-508563号公報
【文献】特表2014-533381号公報
【文献】特開昭54-116947号公報
【文献】特開昭63-246718号公報
【文献】特開2002-047365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記に鑑みてなされたものであって、表面が親水化されたデバイスおよびそれを簡便に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、本発明は下記の構成を有する。
【0014】
本発明は、水酸基を有するおよびアミド基を有する親水性ポリマーを含有する溶液の初期pHを2.0以上6.0以下に調整して、該溶液中に基材を配置し、該溶液を加熱することによって、基材表面上の少なくとも一部に前記親水性ポリマー層が固着したデバイスを得る、デバイスの製造方法であって、加熱操作を行った後の溶液のpHが2.0~5.9であるデバイスの製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、従来技術とは異なり、簡便な方法により基材表面が親水化されることから、親水性が付与されたデバイスを簡便なプロセスで得ることができる。また、適用できる基材は含水性のハイドロゲルに限られない。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明において、デバイスの基材としては、含水性の基材および非含水性の基材のいずれも使用することができる。
【0017】
具体的には、含水性の基材の材料としては、ハイドロゲル等を挙げることができる。非含水性の基材の材料としては、ポリメチルメタアクリレートのようなアクリル樹脂、シロキサン結合を有するシリコーン基材、アルミなどの金属、およびガラス等を挙げることができる。
【0018】
本発明は、含水性の基材の材料に関しては、シリコーンを含まない一般のハイドロゲルにも、シリコーンを含むハイドロゲル(シリコーンハイドロゲル)にも適用可能である。表面物性を大きく向上させることができることからシリコーンハイドロゲルに特に好適に用いることができる。
【0019】
本発明によれば、基材が含水性であっても、非含水性であっても、デバイスの表面に適度な弾性率と親水性を付与することができる。したがって、基材の含水率としては0~99質量%のいずれでもよい。デバイス表面に適度な弾性率と親水性を付与する効果が一段と高いことから、基材の含水率としては0.0001質量%以上が好ましく、最も好ましくは0.001質量%以上である。また、基材の含水率は、60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。
【0020】
本発明において、基材表面上に存在する親水性ポリマー層とは、親水性ポリマーが基材表面上に層として形成されてなるものである。親水性ポリマー層の一部が基材の内部に入り込んでいてもよい。
【0021】
親水性ポリマーからなるポリマー層が存在することによってデバイスの表面の少なくとも一部に親水性が与えられる。ポリマー層を構成する材料は、通常は基材とは異なる材料である。ただし、所定の効果が得られるのであれば、基材を構成する材料と同一の材料であってもよい。
【0022】
上記ポリマー層を形成するポリマーは、親水性を有する材料から構成される。ただし、親水性の発現を損ねない限りは、上記材料以外の添加剤等が含まれていてもよい。ここで、親水性を有する材料とは室温(20~23℃)の水100質量部に0.0001質量部以上可溶な材料であり、水100質量部に0.01質量部以上可溶であるとより好ましく、0.1質量部以上可溶であればさらに好ましく、1質量部以上可溶な材料が特に好ましい。
【0023】
親水性ポリマーとしては、水酸基を有する親水性ポリマーを用いる。水酸基を有する親水性ポリマーは、水濡れ性のみならず体液等に対する防汚性に優れた表面を形成できるために好ましい。ここでいう水酸基を有する親水性ポリマーとしては、酸性の水酸基を有するポリマーが好ましい。具体的には、カルボキシ基およびスルホン酸基から選ばれた基を有するポリマーが好ましく、カルボキシ基を有するポリマーが最も好ましい。カルボキシ基またはスルホン酸基は、塩になっていてもかまわない。
【0024】
上記水酸基を有する親水性ポリマーの例は、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸、ポリ(ビニル安息香酸)、ポリ(チオフェン-3-酢酸)、ポリ(4-スチレンスルホン酸)、ポリビニルスルホン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)およびこれらの塩などである。以上はホモポリマーの例であるが、親水性ポリマーを構成する親水性モノマー同士の共重合体、あるいは該親水性モノマーと他のモノマーの共重合体も好適に用いることができる。
【0025】
水酸基を有する親水性ポリマーが共重合体である場合、該共重合体を構成する親水性モノマーとしては、重合性の高さという点でアリル基、ビニル基、および(メタ)アクリロイル基から選ばれた基を有するモノマーが好ましく、(メタ)アクリロイル基を有するモノマーが最も好ましい。このようなモノマーとして好適なものを例示すれば、(メタ)アクリル酸、ビニル安息香酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、およびこれらの塩などが挙げられる。これらの中で、(メタ)アクリル酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、およびこれらの塩から選ばれたモノマーがより好ましく、最も好ましいのは(メタ)アクリル酸、およびその塩から選ばれたモノマーである。
【0026】
上記水酸基を有する親水性ポリマーは、水酸基に加えてアミド基を有することが、水濡れ性のみならず易滑性のある表面を形成できるために好ましい。
【0027】
水酸基およびアミド基を有する酸性の親水性ポリマーの例としては、カルボキシル基を有するポリアミド類、水酸基を有するモノマーとアミド基を有するモノマーとの共重合体などを挙げることができる。
【0028】
カルボキシル基を有するポリアミド類の好適な例としては、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸などのポリアミノ酸やポリペプチド類などを挙げることができる。
【0029】
水酸基を有するモノマーとしては、メタクリル酸、アクリル酸、ビニル安息香酸、チオフェン-3-酢酸、4-スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸およびこれらの塩から選ばれたモノマーを好適に使用することができる。
【0030】
アミド基を有するモノマーとしては、重合の容易さの点で(メタ)アクリルアミド基を有するモノマーおよびN-ビニルカルボン酸アミド(環状のものを含む)から選ばれたモノマーが好ましい。かかるモノマーの好適な例としては、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニルアセトアミド、N-メチル-N-ビニルアセトアミド、N-ビニルホルムアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、アクリロイルモルホリン、およびアクリルアミドを挙げることができる。これら中でも易滑性の点で好ましいのは、N-ビニルピロリドンおよびN,N-ジメチルアクリルアミドであり、N,N-ジメチルアクリルアミドが最も好ましい。
【0031】
水酸基に加えてアミド基を有する親水性ポリマーが共重合体である場合に、好ましい具体例は、(メタ)アクリル酸/N-ビニルピロリドン共重合体、(メタ)アクリル酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸/N-ビニルピロリドン共重合体、および2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体である。最も好ましくは(メタ)アクリル酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体である。
【0032】
水酸基を有するモノマーとアミド基を有するモノマーの共重合体を用いる場合、その共重合比率は、[水酸基を有するモノマーの質量]/[アミド基を有するモノマーの質量]が1/99~99/1のものが好ましい。水酸基を有するモノマーの共重合比率は、2質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましく、10質量%以上がさらに好ましい。また、水酸基を有するモノマーの共重合比率は、90質量%以下がより好ましく、80質量%以下がさらに好ましく、70質量%以下がさらに好ましい。アミド基を有するモノマーの共重合比率は、10質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましく、30質量%以上がさらに好ましい。また、アミド基を有するモノマーの共重合比率は、98質量%以下がより好ましく、95質量%以下がさらに好ましく、90質量%以下がさらに好ましい。共重合比率がこの範囲にある場合に、易滑性や体液に対する防汚性などの機能を発現しやすくなる。
【0033】
また、上記水酸基を有するモノマーとアミド基を有するモノマーに、さらに水酸基やアミド基が異なるモノマーや、水酸基やアミド基を有しないモノマーを1種類もしくは複数共重合させることも可能である。
【0034】
また、上記以外のモノマーの好適な例としては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、グリセロール(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N-(4-ヒドロキシフェニル)マレイミド、ヒドロキシスチレン、ビニルアルコール(前駆体としてカルボン酸ビニルエステル)を挙げることができる。この内、重合の容易さの点で(メタ)アクリロイル基を有するモノマーが好ましく、(メタ)アクリル酸エステルモノマーはより好ましい。これらの中で、体液に対する防汚性の点で好ましいのは、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、およびグリセロール(メタ)アクリレートであり、中でもヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが最も好ましいまた、親水性、抗菌性、防汚性等といった機能を示すモノマーを使用することも可能である。
【0035】
また、デバイスに求められる特性を損ねない限りは、上記材料以外の添加剤等が親水性ポリマー層に含まれることが妨げられるものではない。さらに、親水性ポリマー層には、水酸基を有する親水性ポリマーに加え、他の親水性ポリマーが1種類もしくは複数含まれることが排除されることはない。ただし、製造方法が複雑になる傾向があることから、親水性ポリマー層は、1種類の水酸基を有する親水性ポリマーのみからなることが好ましい場合が多いと考えられる。
【0036】
ここで、1種類のポリマーとは、1の合成反応により製造されたポリマーもしくはポリマー群(異性体、錯体等)を意味する。複数のモノマーを用いて共重合ポリマーとする場合は、構成するモノマー種が同一であっても、配合比を変えて合成したポリマーは同じ1種とは言わない。
【0037】
また、親水性ポリマー層が1種類の水酸基を有する親水性ポリマーのみからなるとは、親水性ポリマー層が、該水酸基を有する親水性ポリマー以外のポリマーを全く含まないか、もしくは、仮にその他のポリマーを含んだとしても、該水酸基を有する親水性ポリマー100質量部に対し、その他のポリマーの含有量が3質量部以下であることを意味する。その他のポリマーの含有量は、0.1質量部以下がより好ましく、0.0001質量部以下がさらに好ましい。
【0038】
特に、その他のポリマーが塩基性ポリマーの場合、含有量が上記の範囲よりも多いと、透明性に問題が生じ得る。従来技術においては、静電吸着作用を利用して基材の表面に親水性ポリマーを積層するため、酸性ポリマーと塩基性ポリマーを併用していたが、本発明によれば、1種類のポリマーのみからなる親水性ポリマー層を基材表面上に形成することができる。
【0039】
本発明において、基材表面上の少なくとも一部に水酸基を有する親水性ポリマー層が固着したとは、水素結合、イオン結合、ファンデルワールス結合、疎水結合、錯形成等といった化学結合によって基材表面上に親水性ポリマー層が固定されていることを意味する。親水性ポリマー層は、基材との間に共有結合により結合されていてもよいが、簡便な工程での製造が可能となることから、むしろ、基材との間に共有結合を有していないことが好ましい。
【0040】
用途にもよるが、基材表面における一つの面の全面に親水性ポリマー層が存在することが好ましい。基材が厚みを有しない、または、厚みがあっても無視できる程度の2次元形状の場合は、基材表面の片面全面の上に親水性ポリマー層が存在することが好ましい。また、基材の全表面の上に親水性ポリマー層が存在することが好ましい。
【0041】
また、上記親水性ポリマーは、基材が含水性であるか、非含水性であるかを問わずに、簡便な工程での製造が可能となることから、基材との間に共有結合を有していないことが好ましい。共有結合を有していないことは、化学反応性基を含まないことで判定する。化学反応性基の具体例としては、アゼチジニウム基、エポキシ基、イソシアネート基、アジリジン基、アズラクトン基およびそれらの組合せなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0042】
親水性ポリマー層の厚みは、含水状態で凍結させた状態(以下、凍結状態)のデバイス断面を走査透過型電子顕微鏡を用いて観察したときに、1nm以上100nm未満であることが、水濡れ性や易滑性などの機能を発現しやすくなることから好ましい。厚みは、5nm以上がより好ましく、10nm以上がさらに好ましく、15nm以上が最も好ましい。また、厚みは、90nm以下がより好ましく、80nm以下がさらに好ましく70nm以下が最も好ましい。凍結状態の親水性ポリマー層の厚み測定は、クライオトランスファーホルダーを用いた走査透過型電子顕微鏡観察によって行うことができる。
【0043】
凍結状態のポリマー層の厚みが100nm以上の場合、例えば、眼用レンズといった医療デバイスに用いる場合に、網膜に焦点をあわせるための光の屈折が乱れて視界不良が起こりやすくなることから好ましくない。
【0044】
乾燥状態の親水性ポリマー層の厚みは、水濡れ性や易滑性などの機能を発現しやすくなることから1~100nmが好ましい。厚みは、10nm以上がより好ましく、20nm以上がさらに好ましい。また、厚みは、90nm以下がより好ましく、80nm以下がさらに好ましく、最も好ましくは、70nm以下である。親水性ポリマー層の厚みが100nm以下であれば、水濡れ性や易滑性に優れ、例えば、眼用レンズといった医療デバイスに用いる場合、網膜に焦点をあわせるための光の屈折が乱れず視界不良が起こりにくくなる。
【0045】
また、上記親水性ポリマー層は、好ましくは2層以上または2相以上に分離した状態であることが好ましい。
【0046】
ここで、親水性ポリマー層が2層以上に分離した状態とは、デバイスの断面を透過型電子顕微鏡を用いて観察したときに、親水性ポリマー層に2層以上の多層構造が観察される状態を示す。透過型電子顕微鏡による観察だけでは、層の分離の判定が困難な場合は、デバイスの断面を走査透過電子顕微鏡法および電子エネルギー損失分光法、エネルギー分散型X線分光法、飛行時間型2次イオン質量分析法等の元素分析や組成分析ができる手段を用いて、断面の元素や組成を解析することにより判定する。また、親水性ポリマー層が2相以上に相分離した状態とは、デバイスの断面を透過型電子顕微鏡を用いて観察したときに、親水性ポリマー層中で2相以上に相分離した状態が観察される状態を示す。透過型電子顕微鏡による観察だけでは、相の分離の判定が困難な場合については、上記と同様である。
【0047】
従来、基材表面上に2層以上または2相以上のポリマー層を形成させるためには、2種類以上のポリマーが必要であったが、本発明においては、ポリマーが1種類しか存在しない場合でも、基材表面上に、2層以上または2相以上に分離した親水性ポリマー層を形成し得ることが見出された。
【0048】
親水性ポリマー層が2層以上の多層構造を有する場合、親水性ポリマー層が十分厚くなり、水濡れ性や易滑性がより良好となる。また、親水性ポリマー層が2相以上に相分離した状態を有する場合、デバイスの断面を透過型電子顕微鏡を用いて観察したときにゴミやほこりといった異物と区別することが容易となるため、基材表面上におけるポリマー層形成を確認しやすく、品質検査の上で効率的である。
【0049】
また、親水性ポリマー層において、親水性ポリマー層の少なくとも一部が基材と混和した状態で存在することが好ましい。親水性ポリマー層が基材と混和した状態は、デバイスの断面を走査透過電子顕微鏡法、電子エネルギー損失分光法、エネルギー分散型X線分光法、飛行時間型2次イオン質量分析法等の元素分析または組成分析を行える観察手段で観察したときに、親水性ポリマー層の少なくとも一部に基材由来の元素が検出されることで確認できる。親水性ポリマー層が基材と混和することにより、親水性ポリマーが基材により強固に固定されうる。
【0050】
親水性ポリマー層の少なくとも一部が基材と混和した状態で存在する場合、「親水性ポリマー層の少なくとも一部が基材と混和した層」(以下混和層)と「親水性ポリマーからなる層」(以下単独層)からなる二層構造が観察されることが好ましい。混和層の厚みは、混和層と単独層の合計厚みに対して、3%以上が好ましく、5%以上がより好ましく、10%以上がさらに好ましい。混和層の厚みは、混和層と単独層の合計厚みに対して、98%以下が好ましく、95%以下がより好ましく、90%以下がさらに好ましく、80%以下が最も好ましい。混和層の厚み割合が小さすぎると、親水性ポリマーと基材の混和が十分ではなく好ましくない。混和層の厚み割合が大きすぎると、親水性ポリマーの性質が十分に発現しない可能性があり好ましくない。
【0051】
層数または相数は、デバイスの透明性に優れる点から2~3層または相が好ましく、2層または相がより好ましい。デバイスの透明性が高ければ、例えば皮膚用材料として使用した際、皮膚の状態をデバイスを皮膚から剥がすことなしに容易に目視観察できる。また、デバイスの透明性が高ければ、眼用レンズ等としての利用が可能となる。
【0052】
本発明の好ましい態様において、本発明のデバイスは、チューブ状をなしても良い。チューブ状デバイスの例として、輸液用チューブ、気体輸送用チューブ、排液用チューブ、血液回路、被覆用チューブ、カテーテル、ステント、シース、チューブコネクター、アクセスポートなどが挙げられる。
【0053】
また、本発明の別の好ましい態様において、本発明のデバイスは、シート状またはフィルム状をなしても良い。具体的には、皮膚用被覆材、創傷被覆材、皮膚用保護材、皮膚用薬剤担体、バイオセンサーチップ、内視鏡用被覆材などが挙げられる。
【0054】
本発明のさらに別の好ましい態様において、本発明のデバイスは、収納容器形状を有しても良い。具体的には、薬剤担体、カフ、排液バッグなどが挙げられる。
【0055】
本発明のさらに別の好ましい態様において、本発明のデバイスは、レンズ形状を有しても良い。具体的には、コンタクトレンズ、眼内レンズ、人工角膜、角膜インレイ、角膜オンレイ、メガネレンズなどの眼用レンズが挙げられる。
【0056】
眼用レンズ、中でもコンタクトレンズは本発明の最も好ましい態様の一つである。
【0057】
本発明のデバイスが、例えば生体表面に貼付して用いられる医療デバイスや眼用レンズといった眼用デバイスである場合、使用者の皮膚等への貼り付きを防止する観点および装用者の角膜への貼り付きを防止する観点から、デバイスの表面の液膜保持時間が長いことが好ましい。ここで、液膜保持時間とは、リン酸緩衝液に浸漬したデバイスを液から引き上げ、空中に表面が垂直になるように保持した際に、デバイス表面の液膜が切れずに保持される時間である。液膜保持時間は15秒以上が好ましく、20秒以上がより好ましく、30秒以上が最も好ましい。
【0058】
本発明のデバイスが、例えば眼用レンズといった眼用デバイスである場合、装用者の角膜への貼り付きを防止する観点から、デバイス表面の動的接触角が低いことが好ましい。動的接触角は、60°以下が好ましく、55°以下がより好ましく、50°以下が最も好ましい。動的接触角(前進時、浸漬速度:0.1mm/sec)は、リン酸緩衝液による湿潤状態の試料にて測定される。測定方法の詳細は後述する。
【0059】
また、本発明のデバイスが例えば生体内に挿入して用いられる医療デバイスである場合、デバイスの表面が優れた易滑性を有することが好ましい。易滑性を表す指標としては、本明細書の実施例に示した方法で測定される摩擦係数が小さい方が好ましい。摩擦係数は、0.7以下が好ましく、0.6以下がより好ましく、0.5以下が最も好ましい。また、摩擦が極端に小さいと脱着用時の取扱が難しくなる傾向があるので、摩擦係数は0.001以上が好ましく、0.002以上がより好ましい。
【0060】
本発明のデバイスの親水性ポリマー層形成前後の含水率変化率は、例えば眼用レンズといった眼用デバイスに用いる場合、含水率が向上したことによる屈折率の歪みから引き起こされる視界不良や変形を防止する観点から、10質量%以下が好ましく、8質量%以下がより好ましく、6質量%以下が最も好ましい。測定方法の詳細は後述する。
【0061】
また、本発明のデバイスの親水性ポリマー層形成前後のサイズ変化率は、例えば眼用レンズといった眼用デバイスに用いる場合、変形に伴う角膜損傷を防止する観点から、5%以下が好ましく、4以下がより好ましく、3%以下が最も好ましい。測定方法の詳細は後述する。
【0062】
本発明のデバイスの親水性ポリマー層形成前後の引張弾性率変化率は、15%以下が好ましく、14%以下がより好ましく、13%以下が最も好ましい。引張弾性率変化率が大きすぎると、変形や使用感不良を引き起こす恐れがあり好ましくない。測定方法の詳細は後述する。
【0063】
本発明のデバイスの防汚性は、ムチン付着、脂質(パルミチン酸メチル)付着により、評価することができる。これらの評価による付着量が少ないものほど、使用感に優れるとともに、細菌繁殖リスクが低減されるために好ましい。ムチン付着量は10μg/cm以下が好ましく、5μg/cm以下がより好ましく、3μg/cm以下が最も好ましい。測定方法の詳細は後述する。
【0064】
次に、本発明のデバイスの製造方法について説明する。本発明のデバイスは、基材を水酸基を有する親水性ポリマーを含有する溶液中に配置した状態で加熱する方法により得ることができる。
【0065】
ここで、本発明の発明者らは、上記水酸基を有する親水性ポリマーを含有する溶液の初期pHを2.0以上6.0以下に調整して、かかる溶液中に基材を配置し、その状態で該溶液を加熱するという極めて簡便な方法で、従来知られている特別な方法、たとえば酸性ポリマーと塩基性ポリマーを併用した静電吸着作用を利用した方法、などによらずとも、水酸基を有する親水性ポリマーを基材表面上に固着でき、デバイスに優れた水濡れ性や易滑性等を付与しうることを見出した。これは、製造工程の短縮化という観点から、工業的に非常に重要な意味を持つ。
【0066】
1種類の水酸基を有する親水性ポリマーのみを用いて基材表面にポリマー層を形成させる場合、従来技術では、層の厚みが十分でないため、十分な水濡れ性、易滑性をデバイスに付与することが難しい問題があった。ここで、親水性ポリマーの分子量を増すと、一般に得られるポリマー層の厚さは増す。しかし、分子量が大きすぎる場合、粘度増大により製造時の取り扱い難さが増す可能性があることから、制限が有る。また、製造時の親水性ポリマーの溶液中の濃度を高くすると、一般に得られるポリマー層の厚さは増す。しかし、濃度が高すぎる場合、粘度増大により製造時の取り扱い難さが増す可能性があることから、同様に制限を受ける。しかしながら、本発明においては、水酸基を有する親水性ポリマーが1種類のみであるにも関わらず、基材表面上に2層以上の多層構造を有する場合において、下記分子量の範囲のポリマーを用いても、下記濃度範囲の設定としても、層の厚みを増大させることが可能となり、水濡れ性や易滑性を十分なものとすることが容易となる。
【0067】
なお、本発明で使用される水酸基を有する親水性ポリマーは、2000~1500000の分子量を有することが好ましい。分子量は、より好ましくは、5000以上であり、さらに好ましくは、10000以上である。また、分子量は、1200000以下がより好ましく、1000000以下がさらに好ましい。ここで、上記分子量としては、ゲル浸透クロマトグラフィー法(水系溶媒)で測定されるポリエチレングリコール換算の質量平均分子量を用いる。
【0068】
また、製造時の親水性ポリマーの溶液中の濃度については、これを高くすると、一般に得られる親水性ポリマー層の厚さは増す。しかし、親水性ポリマーの濃度が高すぎる場合、粘度増大により製造時の取り扱い難さが増す可能性があるため、水酸基を有する親水性ポリマーの溶液中の濃度については、0.0001~30質量%の濃度を有することが好ましい。親水性ポリマーの濃度は、より好ましくは、0.001質量%以上であり、さらに好ましくは、0.005質量%以上である。また、親水性ポリマーの濃度は、より好ましくは、20質量%以下であり、さらに好ましくは、15質量%以下である。
【0069】
上記工程において、親水性ポリマーを含有する溶液の初期pHの範囲としては、溶液に濁りが生じず、透明性が良好なデバイスが得られることから、2.0~6.0が好ましい。初期pHは、2.2以上がより好ましく、2.4以上がより好ましく、2.5以上がさらに好ましく、2.6以上が最も好ましい。また、初期pHは、5.0以下が好ましく、4.5以下がより好ましく、4.0以下が最も好ましい。初期pHが2.0以上であると、溶液の濁りが生じる場合がより少なくなる。溶液に濁りが生じないと、デバイスの表面の水濡れ性および易滑性が高い傾向があるため好ましい。初期pHが6.0を超える場合、得られる親水性ポリマー層は2層以上または2相以上に分離して存在しない傾向があり、デバイスの表面の水濡れ性および易滑性が低下し、好ましくない。
【0070】
上記溶液のpHは、pHメーター(例えばpHメーター Eutech pH2700(Eutech Instruments))を用いて測定することができる。ここで、水酸基を有する親水性ポリマーを含有する溶液の初期pHとは、溶液に親水性ポリマーを全て添加した後、室温(23~25℃)にて2時間回転子を用い撹拌し、溶液を均一とした後であって、基材を配置して加熱する前に測定したpHの値を指す。なお、本発明において、pHの値の小数点以下第2位は四捨五入する。
【0071】
なお、溶液のpHは、加熱操作を行った際に変化し得る。加熱操作を行った後の溶液のpHは、2.0~6.5が好ましい。加熱後のpHは、2.2以上がより好ましく、2.3以上がより好ましく、2.4以上が最も好ましい。また加熱後のpHは、5.9以下がより好ましく、5.5以下がより好ましく、5.0以下がさらに好ましく、4.5以下が最も好ましい。加熱操作を行った後の溶液のpHが、上記範囲であることで、加熱操作を行っている間、適切なpH条件とすることができ、得られるデバイスの物性が好適なものとなる。なお、本発明に係る加熱操作を行ってデバイス表面を改質した後で、中和処理を行ったり、水を加えたりしてpHを調整することもできるが、ここでいう加熱操作を行った後の溶液のpHとは、かかるpH調整処理を行う前のpHである。
【0072】
上記水酸基を有する親水性ポリマーを含んだ溶液の溶媒としては、水が好ましく挙げられる。溶液のpHは、例えば酢酸、クエン酸、ギ酸、アスコルビン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、メタンスルホン酸、硝酸、硫酸、リン酸、塩酸などの酸性物質を親水性ポリマーを含んだ溶液に添加することによって調整することができる。これらの中で、揮発性が少ないこと、生体に対する安全性が高いことなどの観点では、クエン酸、アスコルビン酸、および硫酸が好ましい。また、pHの微調整を容易にするために、溶液に緩衝剤を添加することも好ましい。
【0073】
緩衝剤としては、任意の生理学的に適合性のある公知の緩衝剤を使用することができる。本発明において適切な緩衝剤は当業者に公知であり、例としては以下のとおりである。例:ホウ酸、ホウ酸塩類(例:ホウ酸ナトリウム)、クエン酸、クエン酸塩類(例:クエン酸カリウム)、重炭酸塩(例:重炭酸ナトリウム)、リン酸緩衝液(例:NaHPO、NaHPO、およびKHPO)、TRIS(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)、2-ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ-2-(ヒドロキシメチル)-1,3-プロパンジオール、ビス-アミノポリオール、トリエタノールアミン、ACES(N-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸)、BES(N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸)、HEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸)、MES(2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸)、MOPS(3-[N-モルホリノ]-プロパンスルホン酸)、PIPES(ピペラジン-N,N’-ビス(2-エタンスルホン酸)、TES(N-[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]-2-アミノエタンスルホン酸)、およびそれらの塩。各緩衝剤の量としては、所望のpHを達成する上で有効であるために必要な分が用いられ、通常は、上記溶液中において0.001質量%~2質量%、好ましくは、0.01質量%~1質量%、より好ましくは、0.05質量%~0.30質量%存在する。上記上限および下限のいずれを組み合わせた範囲であってもよい。
【0074】
上記加熱の方法としては、高圧蒸気滅菌法、電磁波(γ線、マイクロ波など)照射、乾熱法、火炎法などが挙げられる。水濡れ性、易滑性、および製造工程短縮の観点から、高圧蒸気滅菌法が最も好ましい。装置としては、オートクレーブを用いることが好ましい。
【0075】
加熱温度は、良好な水濡れ性および易滑性を示すデバイス表面が得られ、かつ、デバイス自体の強度に影響が少ない観点から、60℃~200℃が好ましい。加熱温度は、80℃以上がより好ましく、100℃以上がさらに好ましく、101℃以上がさらに好ましく、110℃以上が最も好ましい。また加熱温度は、180℃以下がより好ましく、170℃以下がさらに好ましく、150℃以下が最も好ましい。
【0076】
加熱時間は、短すぎると良好な水濡れ性および易滑性を示すデバイス表面が得られず、長過ぎるとデバイス自体の強度に影響を及ぼすことから5分~600分が好ましい。加熱時間は、10分以上がより好ましく、15分以上がより好ましい。また、加熱時間は、400分以下がより好ましく、300分以下がより好ましい。
【0077】
上記の加熱処理後、得られたデバイスにさらに他の処理を行ってもよい。他の処理としては、水酸基を有する親水性ポリマーを含んだ溶液中において再び同様の加熱処理を行う方法、溶液を親水性ポリマーを含まない溶液に入れ替えて同様の加熱処理を行う方法、放射線照射を行う方法、反対の荷電を有するポリマー材料を1層ずつ交互にコーティングするLbL処理(Layer by Layer処理)を行う方法、金属イオンによる架橋処理を行う方法、化学架橋処理を行う方法など処理が挙げられる。ただし、簡便な方法により基材表面の親水化が可能とする本発明の思想に照らし、製造工程が複雑になり過ぎることのない範囲での処理の実施が好ましい。
【0078】
上記の放射線照射に用いる放射線としては、各種のイオン線、電子線、陽電子線、エックス線、γ線、中性子線が好ましく、より好ましくは電子線およびγ線であり、最も好ましくはγ線である。
【0079】
上記のLbL処理としては、例えば国際公開第2013/024800号公報に記載されているような酸性ポリマーと塩基性ポリマーを使用した処理を用いると良い。
【0080】
上記の金属イオンによる架橋処理に用いる金属イオンとしては、各種の金属イオンが好ましく、より好ましくは1価および2価の金属イオンであり、最も好ましくは2価の金属イオンである。また、キレート錯体を用いても良い。
【0081】
上記の化学架橋処理としては、例えば特表2014-533381号公報に記載されているようなエポキシド基とカルボキシル基との間の反応や公知の意の適切な水酸基を有する酸性の親水性ポリマーとの間で形成される架橋処理を用いると良い。
【0082】
上記の溶液を親水性ポリマーを含まない溶液に入れ替えて、同様の加熱処理を行う方法において、親水性ポリマーを含まない溶液としては、特に限定されないが、緩衝剤溶液が好ましい。緩衝剤としては、前記のものを用いることができる。
【0083】
緩衝剤溶液のpHは、生理学的に許容できる範囲である6.3~7.8が好ましい。緩衝剤溶液のpHは、好ましくは6.5以上、さらに好ましくは6.8以上である。また、緩衝剤溶液のpHは、7.6以下が好ましく、さらに好ましくは7.4以下である。
【実施例
【0084】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0085】
分析方法および評価方法
<水濡れ性(液膜保持時間)>
デバイスを、室温でビーカー中のリン酸緩衝液100mL中で軽く洗浄後、新たなリン酸緩衝液100mL中に24時間以上浸漬した。デバイスをリン酸緩衝液から引き上げ、空中に保持した際の表面の液膜が保持される時間を目視観察し、N=3の平均値を下記基準で判定した。
A:表面の液膜が20秒以上保持される。
B:表面の液膜が15秒以上20秒未満で切れる。
C:表面の液膜が5秒以上15秒未満で切れる。
D:表面の液膜が1秒以上5秒未満で切れる。
E:表面の液膜が瞬時に切れる(1秒未満)。
【0086】
<易滑性>
デバイスを、室温でビーカー中のリン酸緩衝液100mL中で軽く洗浄後、新たなリン酸緩衝液100mL中に24時間以上浸漬した。デバイスをリン酸緩衝液から引き上げ、人指で5回擦った時の感応評価で行った(N=1)。
A:非常に優れた易滑性がある(デバイス表面を流れるように指が滑り、抵抗を全く感じない)。
B:AとCの中間程度の易滑性がある。
C:中程度の易滑性がある(デバイス表面を指が滑り、抵抗をほとんど感じない)。
D:易滑性がほとんど無い(CとEの中間程度)。
E:易滑性が無い(デバイス表面を指が容易に滑らず、大きな抵抗を感じる)。
【0087】
<基材およびデバイスの含水率>
基材をリン酸緩衝液に浸漬して室温で24時間以上おいた。基材をリン酸緩衝液から引き上げ、表面水分をワイピングクロス(日本製紙クレシア製“キムワイプ”(登録商標))で拭き取った後、基材の質量(Ww)を測定した。その後、真空乾燥器で基材を40℃、2時間乾燥した後、質量(Wd)を測定した。これらの質量から、下式(1)により基材の含水率を算出した。得られた値が1%未満の場合は測定限界以下と判断し、「1%未満」と表記した。N=3の平均値を含水率とした。親水性ポリマー層の固着後のデバイスについても同様に含水率を算出した。
基材の含水率(%)=100×(Ww-Wd)/Ww 式(1)。
【0088】
<親水性ポリマー層の固着前後の含水率変化率>
下式(2)により算出した。N=3の平均値を親水性ポリマー層の固着前後の含水率変化率とした。
親水性ポリマー層の固着前後の含水率変化率(質量%)=親水性ポリマー層の固着後のデバイスの含水率(質量%)-親水性ポリマー層の固着前の基材の含水率(質量%) 式(2)。
【0089】
<接触角>
サンプルとして、コンタクトレンズ形状のサンプルから切り出した5mm×10mm×0.1mm程度のサイズの短冊状試験片を使用し、リン酸緩衝液に対する前進時の動的接触角を濡れ性試験機WET-6200(株式会社レスカ製)によって測定した。浸漬速度は0.1mm / sec、浸漬深さは7mmとした。
【0090】
<摩擦係数>
以下の条件でリン酸緩衝液(市販コンタクトレンズ測定の場合はパッケージ中の保存液)で濡れた状態のデバイス表面の摩擦係数をN=5で測定し、平均値を摩擦係数とした。
装置:摩擦感テスターKES-SE(カトーテック株式会社製)
摩擦SENS:H
測定SPEED:2×1mm/sec
摩擦荷重:44g。
【0091】
<脂質付着量>
20ccのスクリュー管にパルミチン酸メチル0.03g、純水10g、コンタクトレンズ形状のサンプル1枚を入れた。37℃、165rpmの条件下3時間スクリュー管を振とうさせた。振とう後、スクリュー管内のサンプルを40℃の水道水と家庭用液体洗剤(ライオン製“ママレモン(登録商標)”)を用いて擦り洗いした。洗浄後のサンプルをリン酸緩衝液の入ったスクリュー管内に入れ、4℃の冷蔵庫内で1時間保管した。その後、サンプルを目視観察し、白濁した部分があればパルミチン酸メチルが付着していると判定して、サンプルの表面全体に対するパルミチン酸メチルが付着した部分の面積を観察した。
【0092】
<ムチン付着量>
コンタクトレンズ形状のサンプルから、規定の打抜型を用いて幅(最小部分)5mm、長さ14mmの試験片を切り出した。ムチンとしてCALBIOCHEM社の Mucin, Bovine Submaxillary Gland(カタログ番号499643)を使用した。該試験片を0.1%濃度のムチン水溶液に20時間37℃の条件で浸漬させた後、BCA(ビシンコニン酸)プロテインアッセイ法によってサンプルに付着したムチンの量を定量した。N=3の平均値をムチン付着量とした。
【0093】
<引張弾性率>
コンタクトレンズ形状のサンプルから、規定の打抜型を用いて幅(最小部分)5mm、長さ14mmの試験片を切り出した。該試験片を用い、株式会社エー・アンド・デイ社製のテンシロンRTG-1210型を用いて引張試験を実施した。引張速度は100mm/分で、グリップ間の距離(初期)は5mmであった。親水性ポリマー層の固着前の基材と親水性ポリマー層の固着前後のデバイスの両方について測定を行った。N=8で測定を行い、最大と最小を除いたN=6の平均値を引張弾性率とした。
【0094】
<親水性ポリマー層の固着前後の引張弾性率変化率>
下式(3)により算出した。N=6の平均値をコートによる引張弾性率変化率とした。
親水性ポリマー層の固着前後の引張弾性率変化率(%)=(親水性ポリマー層の固着後のデバイスの引張弾性率-親水性ポリマー層の固着前の基材の引張弾性率)/親水性ポリマー層の固着前の基材の引張弾性率×100 式(3)。
【0095】
<サイズ>
コンタクトレンズ形状のサンプルについて、直径を測定し、N=3の平均値をサイズとした。
【0096】
<親水性ポリマー層の固着前後のサイズ変化率>
下式(4)により算出した。N=3の平均値をコートによるサイズ変化率とした。
親水性ポリマー層の固着前後のサイズ変化率(%)=(親水性ポリマー層の固着後のデバイスのサイズ-親水性ポリマー層の固着前の基材のサイズ)/親水性ポリマー層の固着前の基材のサイズ×100 式(4)。
【0097】
<分子量測定>
使用した親水性ポリマーの分子量は以下に示す条件で測定した。
(GPC測定条件)
装置:島津製作所製 Prominence GPCシステム
ポンプ:LC-20AD
オートサンプラ:SIL-20AHT
カラムオーブン:CTO-20A
検出器:RID-10A
カラム:東ソー社製GMPWXL(内径7.8mm×30cm、粒子径13μm)
溶媒:水/メタノール=1/1(0.1N硝酸リチウム添加)
流速:0.5mL/分
測定時間:30分
サンプル濃度:0.1質量%
注入量:100μL
標準サンプル:Agilent社製ポリエチレンオキシド標準サンプル(0.1kD~1258kD)。
【0098】
<pH測定法>
pHメーターEutech pH2700(Eutech Instruments)を用いて溶液のpHを測定した。表において、水酸基を有する親水性ポリマーを含有する溶液の初期pHは、各実施例等記載の溶液に親水性ポリマーを全て添加した後、室温(23~25℃)にて2時間回転子を用い撹拌し溶液を均一とした後に測定した。また、表において、「加熱処理後pH」は、加熱処理を1回行った後、溶液を室温(23~25℃)まで冷却した直後に測定したpHである。
【0099】
<親水性ポリマー層の分離の判定>
親水性ポリマー層が2層以上に分離しているかどうかの判定は、透過型電子顕微鏡を用いてデバイスの断面を観察することで行った。
装置: 透過型電子顕微鏡(日立製H-7100FA)
条件: 加速電圧 100kV
試料調製: シリコーン含有系基材(RuO染色超薄切片法)
ハイドロゲル系基材(OsO染色超薄切片法またはRuO染色超薄切片法)。
【0100】
<親水性ポリマー層の元素組成分析>
親水性ポリマー層の元素組成分析は、クライオトランスファーホルダーを用いて含水状態で凍結したデバイスの断面を走査透過型電子顕微鏡および電子エネルギー損失分光法にて分析することによって行った。
装置: 電界放出型電子顕微鏡(JEOL製 JEM-2100F)
加速電圧: 200kV
測定温度: 約-100℃
電子エネルギー損失分光法: GATAN GIF Tridiem
画像取得: Digital Micrograph
試料調製: RuO染色凍結超薄切片法。
【0101】
<親水性ポリマー層の膜厚>
乾燥状態の親水性ポリマー層の膜厚は、乾燥状態のデバイスの断面を透過型電子顕微鏡を用いて観察することで行った。上記<親水性ポリマー層の分離の判定>に記載の条件にて測定した。7ヶ所場所を変えて、各視野につき、5ヶ所膜厚を測定し、計35ヶ所の膜厚を測定した。測定された膜厚の最小値と最大値を記載した。
【0102】
凍結状態の親水性ポリマー層の膜厚は、クライオトランスファーホルダーを用いて含水状態で凍結したデバイスの断面を走査透過型電子顕微鏡を用いて観察することで行った。上記<親水性ポリマー層の元素組成分析>に記載の条件にて測定した。7ヶ所場所を変えて、各視野につき、5ヶ所膜厚を測定し、計35ヶ所の膜厚を測定した。測定された膜厚の最小値と最大値を記載した。
【0103】
[参考例1]
式(M1)で表される両末端にメタクリロイル基を有するポリジメチルシロキサン(FM7726、JNC株式会社、Mw:30,000)28質量部、式(M2)で表されるシリコーンモノマー 7質量部、トリフルオロエチルアクリレート(ビスコート(登録商標)3F、大阪有機化学工業株式会社)57.9質量部、2-エチルへキシルアクリレート(東京化成工業株式会社)7質量部およびジメチルアミノエチルアクリレート(株式会社興人)0.1質量部と、これらのモノマーの総質量に対し、光開始剤イルガキュア(登録商標)819(長瀬産業株式会社)5000ppm、紫外線吸収剤(RUVA-93、大塚化学)5000ppm、着色剤(RB246、Arran chemical)100ppmを準備し、さらに前記モノマーの総質量100質量部に対して10質量部のt-アミルアルコールを準備して、これら全てを混合し、撹拌した。撹拌された混合物をメンブレンフィルター(孔径:0.45μm)でろ過して不溶分を除いてモノマー混合物を得た。
【0104】
透明樹脂(ベースカーブ側の材質:ポリプロピレン、フロントカーブ側の材質:ポリプロピレン)製のコンタクトレンズ用モールドに上記モノマー混合物を注入し、光照射(波長405nm(±5nm)、照度:0~0.7mW/cm、30分間)して重合した。
【0105】
重合後に、得られた成型体を、フロントカーブとベースカーブを離型したモールドごと、60℃の100質量%イソプロピルアルコール水溶液中に1.5時間浸漬して、モールドからコンタクトレンズ形状の成型体を剥離した。それによって得られた成型体を、60℃に保った大過剰量の100質量%イソプロピルアルコール水溶液に2時間浸漬して残存モノマーなどの不純物を抽出した。その後、室温(23℃)中で12時間乾燥させた。
【0106】
【化1】
【0107】
[リン酸緩衝液]
下記実施例、比較例のプロセスおよび上記した測定において使用したリン酸緩衝液の組成は、以下の通りである。
KCl 0.2g/L
KHPO 0.2g/L
NaCl 8.0g/L
NaHPO(anhydrous) 1.15g/L
EDTA 0.25g/L。
【0108】
[実施例1]
基材として、参考例1で得られた成型体を使用した。基材を、アクリル酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合におけるモル比1/9、Mw:800000、大阪有機化学工業株式会社製)を純水中に0.2質量%含有した水溶液を硫酸によりpH2.6に調整した溶液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×30秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。この成型体について上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0109】
[実施例2]
基材として、参考例1で得られた成型体を使用した。基材を、アクリル酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合におけるモル比1/9、Mw:700000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.2質量%含有した溶液を硫酸によりpH2.7に調整した溶液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。この成型体について上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0110】
[実施例3]
基材として、参考例1で得られた成型体を使用した。基材を、アクリル酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合におけるモル比1/2、Mw:500000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.03質量%含有した溶液を硫酸によりpH3.1に調整した溶液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。この成型体について上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0111】
[実施例4]
基材として、参考例1で得られた成型体を使用した。基材を、アクリル酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合におけるモル比1/9、Mw:800000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.2質量%含有した溶液を硫酸によりpH2.4に調整した溶液中に入れ、80℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。この成型体について上記方法にて評価結果を表1~3に示す。
【0112】
[実施例5]
基材として、参考例1で得られた成型体を使用した。基材を、アクリル酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合におけるモル比1/9、Mw:800000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.2質量%含有した溶液を硫酸によりpH2.4に調整した溶液中に入れ、100℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。この成型体について上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0113】
[実施例6]
基材として、参考例1で得られた成型体を使用した。基材を、アクリル酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合におけるモル比1/9、Mw:800000、大阪有機化学工業株式会社製)を純水中に0.2質量%含有した水溶液を硫酸によりpH2.4に調整した溶液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。この成型体について上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0114】
[実施例7]
基材として、メタクリル酸2-ヒドロキシエチルを主成分とする市販ハイドロゲルレンズ“1day Acuvue(登録商標)”(Johnson&Johnson社製)を使用した。基材を、アクリル酸/ビニルピロリドン共重合体(共重合におけるモル比1/4、Mw:500000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.1質量%含有した溶液を硫酸によりpH3.1に調整した溶液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。この成型体について上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0115】
[実施例8]
基材として、メタクリル酸2-ヒドロキシエチルを主成分とする市販ハイドロゲルレンズ“1day Acuvue(登録商標)”(Johnson&Johnson社製)を使用した。基材を、アクリル酸/ビニルピロリドン共重合体(共重合におけるモル比1/4、Mw:500000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.1質量%含有した溶液を硫酸によりpH4.1に調整した溶液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。この成型体について上記方法にて評価結果を表1~3に示す。
【0116】
[実施例9]
基材として、メタクリル酸2-ヒドロキシエチルを主成分とする市販ハイドロゲルレンズ“1day Acuvue(登録商標)”(Johnson&Johnson社製)を使用した。基材を、アクリル酸/ビニルピロリドン共重合体(共重合におけるモル比1/4、Mw:500000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.1質量%含有した溶液を硫酸によりpH5.0に調整した溶液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。この成型体について上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0117】
[実施例10]
基材として、メタクリル酸2-ヒドロキシエチルを主成分とする市販ハイドロゲルレンズ“1day Acuvue(登録商標)”(Johnson&Johnson社製)を使用した。基材を、アクリル酸/ビニルピロリドン共重合体(共重合におけるモル比1/4、Mw:500000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.1質量%含有した溶液を硫酸によりpH5.7に調整した溶液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。この成型体について上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0118】
[実施例11]
基材として、メタクリル酸2-ヒドロキシエチルを主成分とする市販ハイドロゲルレンズ“1day Acuvue(登録商標)”(Johnson&Johnson社製)を使用した。基材を、アクリル酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合におけるモル比1/9、Mw:800000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.2質量%含有した溶液を硫酸によりpH3.3に調整した溶液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。この成型体について上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0119】
[実施例12]
基材として、メタクリル酸2-ヒドロキシエチルを主成分とする市販ハイドロゲルレンズ“1day Acuvue(登録商標)”(Johnson&Johnson社製)を使用した。基材を、アクリル酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合におけるモル比1/9、Mw:500000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.2質量%含有した溶液を硫酸によりpH3.0に調整した溶液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。この成型体について上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0120】
[実施例13]
基材として、メタクリル酸2-ヒドロキシエチルを主成分とする市販ハイドロゲルレンズ“1day Acuvue(登録商標)”(Johnson&Johnson社製)を使用した。基材を、アクリル酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合におけるモル比1/2、Mw:700000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.2質量%含有した溶液を硫酸によりpH3.0に調整した溶液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。この成型体について上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0121】
[実施例14]
基材として、メタクリル酸2-ヒドロキシエチルを主成分とする市販ハイドロゲルレンズ“1day Acuvue(登録商標)”(Johnson&Johnson社製)を使用した。基材を、アクリル酸/ビニルピロリドン共重合体(共重合におけるモル比1/4、Mw:500000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.1質量%含有した溶液を硫酸によりpH4.0に調整した溶液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。この成型体について上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0122】
[実施例15]
基材として、メタクリル酸2-ヒドロキシエチルを主成分とする市販ハイドロゲルレンズ“1day Acuvue(登録商標)”(Johnson&Johnson社製)を使用した。基材を、アクリル酸/ビニルピロリドン共重合体(共重合におけるモル比1/4、Mw:800000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.1質量%含有した溶液を硫酸によりpH4.0に調整した溶液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。この成型体について上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0123】
[実施例16]
基材として、メタクリル酸2-ヒドロキシエチルを主成分とする市販ハイドロゲルレンズ“1day Acuvue(登録商標)”(Johnson&Johnson社製)を使用した。基材を、アクリル酸/ビニルピロリドン共重合体(共重合におけるモル比1/9、Mw:400000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.1質量%含有した溶液を硫酸によりpH4.0に調整した溶液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。この成型体について上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0124】
[実施例17]
基材として、ポリビニルピロリドンおよびシリコーンを主成分とする市販シリコーンハイドロゲルレンズ“1day Acuvue Trueye(登録商標)”(Johnson&Johnson社製)を使用した。基材を、アクリル酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合におけるモル比1/9、Mw:800000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.2質量%含有した溶液を硫酸によりpH3.0に調整した溶液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。この成型体について上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0125】
[実施例18]
基材として、ポリビニルピロリドンおよびシリコーンを主成分とする市販シリコーンハイドロゲルレンズ“1day Acuvue Trueye(登録商標)”(Johnson&Johnson社製)を使用した。基材を、アクリル酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合におけるモル比1/9、Mw:500000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.2質量%含有した溶液を硫酸によりpH3.0に調整した溶液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。この成型体について上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0126】
[実施例19]
基材として、レンズ表面がプラズマ処理されたシリコーンを主成分とする市販シリコーンハイドロゲルレンズ“エア オプティクス アクア(登録商標)”(日本アルコン株式会社製)を使用した。基材を、アクリル酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合におけるモル比1/9、Mw:800000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.2質量%含有した溶液を硫酸によりpH2.9に調整した溶液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。この成型体について上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0127】
[実施例20]
基材として、MPCモノマー(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)が共重合されたメタクリル酸2-ヒドロキシエチルを主成分とする市販ハイドロゲルレンズ“プロクリアワンデー”(Cooper Vision社製)を使用した。基材を、アクリル酸/ビニルピロリドン共重合体(共重合におけるモル比1/4、Mw 500000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.1質量%含有した溶液を硫酸によりpH3.8に調整した溶液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。この成型体について上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0128】
[実施例21]
基材として、メタクリル酸2-ヒドロキシエチルを主成分とする市販ハイドロゲルカラーレンズ“1day Acuvue Define Moist(登録商標)”(Johnson&Johnson社製)を使用した。基材を、アクリル酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合におけるモル比1/9、Mw:800000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.2質量%含有した溶液を硫酸によりpH2.7に調整した溶液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。この成型体について上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0129】
【表1】
【0130】
【表2】
【0131】
【表3】
【0132】
[比較例1]
基材として、参考例1で得られた成型体を使用した。基材を、アクリル酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合におけるモル比1/9、Mw:800000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.2質量%含有した溶液(pH6.8)中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。この成型体について上記方法にて評価した結果を表4~6に示す。
【0133】
[比較例2]
基材として、参考例1で得られた成型体を使用した。基材を、リン酸緩衝液を硫酸によりpH2.7に調整した溶液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。この成型体について上記方法にて評価した結果を表4~6に示す。
【0134】
[比較例3]
基材として、参考例1で得られた成型体を使用した。基材を、アクリル酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合におけるモル比1/9、Mw:800000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.2質量%含有した溶液(pH6.8)中に入れ、室温(23℃)にて一晩静置浸漬させた。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。この成型体について上記方法にて評価した結果を表4~6に示す。
【0135】
[比較例4]
基材として、メタクリル酸2-ヒドロキシエチルを主成分とする市販ハイドロゲルレンズ“1day Acuvue(登録商標)”(Johnson&Johnson社製)を使用した。基材を、アクリル酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合におけるモル比1/9、Mw:800000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.2質量%含有した溶液(pH6.8)中に入れ、室温(23℃)にて一晩静置浸漬させた。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。この成型体について上記方法にて評価した結果を表4~6に示す。
【0136】
[比較例5]
基材として、参考例1で得られた成型体を使用した。基材を、ポリアクリル酸“Sokalan(登録商標) PA110S”(Mw:250000、BASF社製)をリン酸緩衝液中に0.1質量%含有した溶液(pH5.3)中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。この成型体について上記方法にて評価した結果を表4~6に示す。
【0137】
[比較例6]
基材として、参考例1で得られた成型体を使用した。基材を、ポリジメチルアクリルアミド(Mw:360000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.2質量%含有した溶液を硫酸によりpH2.5に調整した溶液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。この成型体について上記方法にて評価した結果を表4~6に示す。
【0138】
[比較例7]
基材として、参考例1で得られた成型体を使用した。基材を、ポリビニルピロリドンK-90(Mw:360000、東京化成工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.2質量%含有した溶液を硫酸によりpH2.5に調整した溶液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。この成型体について上記方法にて評価した結果を表4~6に示す。
【0139】
[比較例8]
基材として、参考例1で得られた成型体を使用した。基材を、ポリエチレングリコール200(Mw180~200、和光純薬工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.2質量%含有した溶液を硫酸によりpH2.5に調整した溶液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。この成型体について上記方法にて評価した結果を表4~6に示す。
【0140】
[比較例9]
基材として、参考例1で得られた成型体を使用した。基材を、ポリ-N-ビニルアセトアミド“GE-191-103”(Mw:1000000、昭和電工株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.2質量%含有した溶液を硫酸によりpH2.5に調整した溶液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。この成型体について上記方法にて評価した結果を表4~6に示す。
【0141】
[比較例10]
基材として、参考例1で得られた成型体を使用した。基材を、ポリビニルアルコール(Mw:31000~50000、SIGMA-ALDRICH社製)をリン酸緩衝液中に0.1質量%含有した溶液中に入れようとしたところ、ポリビニルアルコールの溶解性が悪く溶液に沈殿が生じコーティングを実施できなかった。
【0142】
[比較例11]
基材として、参考例1で得られた成型体を使用した。基材を、“メチルセルロース400”(Mw:84000、和光純薬工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.2質量%含有した溶液を硫酸によりpH2.5に調整した溶液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。この成型体について上記方法にて評価した結果を表4~6に示す。
【0143】
[比較例12]
基材として、参考例1で得られた成型体を使用した。基材を、ポロクサマー407(Mw:11500、BASF社製)をリン酸緩衝液中に0.2質量%含有した溶液を硫酸によりpH2.5に調整した溶液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。この成型体について上記方法にて評価した結果を表4~6に示す。
【0144】
[比較例13]
基材として、参考例1で得られた成型体を使用した。基材を、アルギン酸Na(昭和化学株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.2質量%含有した溶液を硫酸によりpH2.5に調整した溶液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。この成型体について上記方法にて評価した結果を表4~6に示す。
【0145】
[比較例14]
基材として、参考例1で得られた成型体を使用した。基材を、ポリ-2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(Mw:200000、自製)をリン酸緩衝液中に0.05質量%含有した溶液中(pH6.8)に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。この成型体について上記方法にて評価した結果を表4~6に示す。
【0146】
[比較例15]
基材として、参考例1で得られた成型体を使用した。基材を、ポリ-2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合におけるモル比1/9、Mw:200000、自製)をリン酸緩衝液中に0.05質量%含有した溶液中(pH6.8)に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。この成型体について上記方法にて評価した結果を表4~6に示す。
【0147】
[比較例16]
基材として、参考例1で得られた成型体を使用した。基材を、ポリ酢酸ビニル/ポリビニルピロリドン共重合体“PVA-6450”(Mw:50000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.2質量%含有した溶液を硫酸によりpH2.5に調整した溶液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。この成型体について上記方法にて評価した結果を表4~6に示す。
【0148】
[比較例17]
基材として、メタクリル酸2-ヒドロキシエチルを主成分とする市販ハイドロゲルレンズ“1day Acuvue(登録商標)”(Johnson&Johnson社製)を使用した。基材を、ポリ酢酸ビニル/ポリビニルピロリドン共重合体“PVA-6450”(Mw:50000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.2質量%含有した溶液を硫酸によりpH2.5に調整した溶液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。この成型体について上記方法にて評価した結果を表4~6に示す。
【0149】
[比較例18]
基材として、ポリビニルピロリドンおよびシリコーンを主成分とする市販シリコーンハイドロゲルレンズ“1day Acuvue Trueye(登録商標)”(Johnson&Johnson社製)を使用した。基材を、ポリ酢酸ビニル/ポリビニルピロリドン共重合体“PVA-6450”(Mw:50000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.2質量%含有した溶液を硫酸によりpH2.5に調整した溶液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。この成型体について上記方法にて評価した結果を表4~6に示す。
【0150】
[比較例19]
基材として、メタクリル酸2-ヒドロキシエチルを主成分とする市販ハイドロゲルレンズ“1day Acuvue(登録商標)”(Johnson&Johnson社製)を使用した。基材を、ポリ-N-ビニルアセトアミド“GE-191-103”(Mw:1000000、昭和電工株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.2質量%含有した溶液を硫酸によりpH2.5に調整した溶液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。この成型体について上記方法にて評価した結果を表4~6に示す。
【0151】
[比較例20]
基材として、ポリビニルピロリドンおよびシリコーンを主成分とする市販シリコーンハイドロゲルレンズ“1day Acuvue Trueye(登録商標)”(Johnson&Johnson社製)を使用した。基材を、ポリ-N-ビニルアセトアミド“GE-191-103”(Mw:1000000、昭和電工株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.2質量%含有した溶液を硫酸によりpH2.5に調整した溶液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。この成型体について上記方法にて評価した結果を表4~6に示す。
【0152】
[比較例21]
基材として、メタクリル酸2-ヒドロキシエチルを主成分とする市販ハイドロゲルレンズ“1day Acuvue(登録商標)”(Johnson&Johnson社製)を使用した。基材を、アルギン酸Na(昭和化学株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.2質量%含有した溶液を硫酸によりpH2.5に調整した溶液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。この成型体について上記方法にて評価した結果を表4~6に示す。
【0153】
【表4】
【0154】
【表5】
【0155】
【表6】
【0156】
[比較例22]
基材として、ポリビニルピロリドンおよびシリコーンを主成分とする市販シリコーンハイドロゲルレンズ“1day Acuvue Trueye(登録商標)”(Johnson&Johnson社製)を使用した。基材を、アルギン酸Na(昭和化学株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.2質量%含有した溶液を硫酸によりpH2.5に調整した溶液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。この成型体について上記方法にて評価した結果を表7~9に示す。
【0157】
[比較例23]
基材として、メタクリル酸2-ヒドロキシエチルを主成分とする市販ハイドロゲルレンズ“1day Acuvue(登録商標)”(Johnson&Johnson社製)を使用した。基材を、ポロクサマー407(Mw:11500、BASF社製)をリン酸緩衝液中に0.2質量%含有した溶液を硫酸によりpH2.5に調整した溶液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。この成型体について上記方法にて評価した結果を表7~9に示す。
【0158】
[比較例24]
基材として、ポリビニルピロリドンおよびシリコーンを主成分とする市販シリコーンハイドロゲルレンズ“1day Acuvue Trueye(登録商標)”(Johnson&Johnson社製)を使用した。基材を、ポロクサマー407(Mw:11500、BASFジャパン社製)をリン酸緩衝液中に0.2質量%含有した溶液を硫酸によりpH2.5に調整した溶液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。この成型体について上記方法にて評価した結果を表7~9に示す。
【0159】
[比較例25]
基材として、メタクリル酸2-ヒドロキシエチルを主成分とする市販ハイドロゲルレンズ“1day Acuvue(登録商標)”(Johnson&Johnson社製)を使用した。基材を、ポリ-2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(Mw:200000、自製)をリン酸緩衝液中に0.05質量%含有した溶液中(pH6.8)に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。この成型体について上記方法にて評価した結果を表7~9に示す。
【0160】
[比較例26]
基材として、ポリビニルピロリドンおよびシリコーンを主成分とする市販シリコーンハイドロゲルレンズ“1day Acuvue Trueye(登録商標)”(Johnson&Johnson社製)を使用した。基材を、ポリ-2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(Mw:200000、自製)をリン酸緩衝液中に0.05質量%含有した溶液中(pH6.8)に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。この成型体について上記方法にて評価した結果を表7~9に示す。
【0161】
[比較例27]
基材として、メタクリル酸2-ヒドロキシエチルを主成分とする市販ハイドロゲルレンズ“1day Acuvue(登録商標)”(Johnson&Johnson社製)を使用した。基材を、ポリ-2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合におけるモル比1/9、Mw:200000、自製)をリン酸緩衝液中に0.05質量%含有した溶液中(pH6.8)に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。この成型体について上記方法にて評価した結果を表7~9に示す。
【0162】
[比較例28]
基材として、ポリビニルピロリドンおよびシリコーンを主成分とする市販シリコーンハイドロゲルレンズ“1day Acuvue Trueye(登録商標)”(Johnson&Johnson社製)を使用した。基材を、ポリ-2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合におけるモル比1/9、Mw:200000、自製)をリン酸緩衝液中に0.05質量%含有した溶液中(pH6.8)に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。この成型体について上記方法にて評価した結果を表7~9に示す。
【0163】
[比較例29]
基材として、参考例1で得られた成型体を使用した。基材を、アクリル酸/ビニルピロリドン共重合体(共重合におけるモル比1/9、Mw:400000、大阪有機化学工業株式会社製)0.1質量%およびウレア0.3質量%を純水中に含有した水溶液を硫酸によりpH3.8に調整した溶液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×30秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。この成型体について上記方法にて評価した結果を表7~9に示す。
【0164】
[比較例30]
基材として、メタクリル酸2-ヒドロキシエチルを主成分とする市販ハイドロゲルレンズ“メダリスト(登録商標)ワンデープラス”(ボシュロム社製)を使用した。基材を、アクリル酸/ビニルピロリドン共重合体(共重合におけるモル比1/9、Mw:400000、大阪有機化学工業株式会社製)0.1質量%および0.3質量%ウレアを純水中に含有した水溶液を硫酸によりpH3.8に調整した溶液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×30秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。この成型体について上記方法にて評価した結果を表7~9に示す。
【0165】
[比較例31]
基材として、ポリビニルピロリドンおよびシリコーンを主成分とする市販シリコーンハイドロゲルレンズ“1day Acuvue Trueye(登録商標)”(Johnson&Johnson社製)を使用した。基材を、アクリル酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合におけるモル比1/9、Mw:800000、大阪有機化学工業株式会社製)0.2質量%およびウレア0.3質量%を純水中に含有した水溶液を硫酸によりpH3.0に調整した溶液中に入れ、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた成型体をリン酸緩衝液で250rpm×30秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替え、さらに121℃30分間オートクレーブにて加熱した。この成型体について上記方法にて評価した結果を表7~9に示す。
【0166】
[比較例32]
メタクリル酸2-ヒドロキシエチルを主成分とする市販ハイドロゲルレンズ“1day Acuvue(登録商標)”(Johnson&Johnson社製)について、上記方法にて評価した結果を表7~9に示す。
【0167】
[比較例33]
ポリビニルピロリドンおよびシリコーンを主成分とする市販シリコーンハイドロゲルレンズ“1day Acuvue Trueye(登録商標)”(Johnson&Johnson社製)について、上記方法にて評価した結果を表7~9に示す。
【0168】
[比較例34]
ポリビニルピロリドンおよびシリコーンを主成分とする市販シリコーンハイドロゲルレンズ“Acuvue Oasys(登録商標)”(Johnson&Johnson社製)について、上記方法にて評価した結果を表7~9に示す。
【0169】
[比較例35]
レンズ表面がプラズマ処理されたシリコーンを主成分とする市販シリコーンハイドロゲルレンズ“エア オプティクス EXアクア(登録商標)”(日本アルコン株式会社製)について、上記方法にて評価した結果を表7~9に示す。
【0170】
[比較例36]
MPCモノマー(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)が共重合されたメタクリル酸2-ヒドロキシエチルを主成分とする市販ハイドロゲルレンズ“プロクリアワンデー”(Cooper Vision社製)について、上記方法にて評価した結果を表7~9に示す。
【0171】
[比較例37]
基材として、参考例1で得られた成型体を、ポリアクリル酸“Sokalan(登録商標) PA110S”(Mw:250000、BASF社製)を使用した。基材を純水中に1.2質量%含有した溶液中(pH2.6)に入れ、37℃で30分間浸漬させた。得られた成型体を純水中で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替えた。この成型体について上記方法にて評価した結果を表7~9に示す。
【0172】
[比較例38]
基材として、メタクリル酸2-ヒドロキシエチルを主成分とする市販ハイドロゲルレンズ“1day Acuvue(登録商標)”(Johnson&Johnson社製)を使用した。基材を、ポリアクリル酸“Sokalan(登録商標) PA110S”(Mw:250000、BASFジャパン社製)を純水中に1.2質量%含有した溶液中(pH2.6)に入れ、37℃で30分間浸漬させた。得られた成型体を純水中で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替えた。この成型体について上記方法にて評価した結果を表7~9に示す。
【0173】
[比較例39]
基材として、ポリビニルピロリドンおよびシリコーンを主成分とする市販シリコーンハイドロゲルレンズ“1day Acuvue Trueye(登録商標)”(Johnson&Johnson社製)を使用した。基材を、ポリアクリル酸“Sokalan(登録商標) PA110S”(Mw:250000、BASF社製)を純水中に1.2質量%含有した溶液中(pH2.6)に入れ、37℃で30分間浸漬させた。得られた成型体を純水中で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替えた。この成型体について上記方法にて評価した結果を表7~9に示す。
【0174】
[比較例40]
基材として、参考例1で得られた成型体を使用した。基材を、塩酸を含有した水溶液(pH3.0)に室温で5分間浸漬後、純水中で250rpm×10秒振とう洗浄した。その後、ポリアクリル酸“Sokalan(登録商標) PA110S”(Mw:250000、BASF社製)を純水中に0.1質量%含有した溶液中(pH3.3)に入れ、室温に5分間浸漬させた。得られた成型体を純水中で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替えた。この成型体について上記方法にて評価した結果を表7~9に示す。
【0175】
[比較例41]
基材として、メタクリル酸2-ヒドロキシエチルを主成分とする市販ハイドロゲルレンズ“1day Acuvue(登録商標)”(Johnson&Johnson社製)を使用した。基材を、塩酸を含有した水溶液(pH3.0)に室温で5分間浸漬後、純水中で250rpm×10秒振とう洗浄した。その後、ポリアクリル酸“Sokalan(登録商標) PA110S”(Mw:250000、BASF社製)を純水中に0.1質量%含有した溶液中(pH3.3)に入れ、室温に5分間浸漬させた。得られた成型体を純水中で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替えた。この成型体について上記方法にて評価した結果を表7~9に示す。
【0176】
[比較例42]
基材として、ポリビニルピロリドンおよびシリコーンを主成分とする市販シリコーンハイドロゲルレンズ“1day Acuvue Trueye(登録商標)”(Johnson&Johnson社製)を使用した。基材を、塩酸を含有した水溶液(pH3.0)に室温で5分間浸漬後、純水中で250rpm×10秒振とう洗浄した。その後、ポリアクリル酸“Sokalan(登録商標) PA110S”(Mw:250000、BASF社製)を純水中に0.1質量%含有した溶液中(pH3.3)に入れ、室温に5分間浸漬させた。得られた成型体を純水中で250rpm×10秒振とう洗浄後、新たなリン酸緩衝液に入れ替えた。この成型体について上記方法にて評価した結果を表7~9に示す。
【0177】
[比較例43]
基材として、参考例1で得られた成型体を使用した。基材を、Chitosan(0.5% in 0.5%Acetic Acid at 20℃)(TCI社製)を純水中に0.1質量%含有した溶液中に入れようとしたところ、Chitosanの溶解性が悪く溶液に沈殿が生じコーティングを実施できなかった。
【0178】
[比較例44]
メタクリル酸2-ヒドロキシエチルを主成分とする市販ハイドロゲルレンズ“メダリスト(登録商標)ワンデープラス”(ボシュロム社製)について、上記方法にて評価した結果を表7~9に示す。
【0179】
【表7】
【0180】
【表8】
【0181】
【表9】