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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】電力変換装置、制御方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/18 20160101AFI20221025BHJP
   H02P 6/185 20160101ALI20221025BHJP
【FI】
H02P21/18
H02P6/185
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021066779
(22)【出願日】2021-04-09
(65)【公開番号】P2021184692
(43)【公開日】2021-12-02
【審査請求日】2021-04-28
(31)【優先権主張番号】P 2020088091
(32)【優先日】2020-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006622
【氏名又は名称】株式会社安川電機
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100171099
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貞之
(72)【発明者】
【氏名】井浦 英昭
(72)【発明者】
【氏名】古賀 光浩
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-254112(JP,A)
【文献】特開2002-095282(JP,A)
【文献】特開2004-112942(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107846166(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/18
H02P 6/185
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力変換回路から電動機に探索出力を供給させる第1探索制御部と、
前記探索出力に対する応答に基づいて前記電動機の磁極の位置を推定する磁極位置推定部と、
前記磁極の位置の推定結果に応じてパルス供給条件を設定する条件設定部と、
前記パルス供給条件に従い正パルス出力及び負パルス出力を前記電力変換回路から前記電動機に供給させる第2探索制御部と、
前記正パルス出力に対する応答の大きさと、前記負パルス出力に対する応答の大きさとの差分を評価する差分評価部と、
前記正パルス出力及び前記負パルス出力の供給により生じる磁束ベクトルの方向を、前記磁極の位置に対して相対的に変えるように前記パルス供給条件を変更することと、変更後の前記パルス供給条件に従い前記第2探索制御部に前記正パルス出力及び前記負パルス出力を供給させることと、前記差分評価部に前記差分を評価させることとを、前記差分の評価結果が所定のレベルを超えるまで繰り返す条件変更部と、
前記差分の評価結果に基づいて前記磁極の極性を推定する極性推定部と、を備える電力変換装置。
【請求項2】
前記条件設定部は、前記正パルス出力及び前記負パルス出力の供給により生じる磁束ベクトルが前記磁極を通るように前記パルス供給条件を設定する、請求項1記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記電動機は、前記磁極の回転方向に沿って所定の角度ピッチで並ぶ複数のコイルを備え、
前記条件変更部は、前記角度ピッチに基づいて前記磁束ベクトルの方向の変更角度を特定し、前記変更角度に応じて前記磁束ベクトルの方向を変えるように前記パルス供給条件を変更するように前記パルス供給条件を変更する、請求項記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記条件変更部は、実質的に、前記角度ピッチの半ピッチを奇数倍した角度で前記磁束ベクトルの方向を変えるように前記パルス供給条件を変更する、請求項記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記磁極位置推定部は、前記探索出力における電圧と電流との関係に基づいて、前記電動機の第2磁極の位置を更に推定し、
前記条件設定部は、前記正パルス出力及び前記負パルス出力の供給により生じる磁束ベクトルが前記磁極を通るように前記パルス供給条件を設定し、
前記条件変更部は、前記正パルス出力及び前記負パルス出力の供給により生じる磁束ベクトルが前記第2磁極を通るように前記パルス供給条件を変更する、請求項2~4のいずれか一項記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記条件変更部は、前記正パルス出力及び前記負パルス出力の大きさを変えるように前記パルス供給条件を変更する、請求項のいずれか一項記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記条件変更部は、前記正パルス出力及び前記負パルス出力の幅を変えるように前記パルス供給条件を変更する、請求項のいずれか一項記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記電動機は、前記磁極の位置の変化を検出するセンサを更に備え、
前記電力変換装置は、
前記磁極位置推定部による前記磁極の位置の推定結果を、前記センサによる検出結果に基づいて更新する磁極位置更新部と、
前記磁極位置更新部により更新された前記磁極の位置の推定結果と、前記極性推定部による前記磁極の極性の推定結果とに基づいて、前記電力変換回路から前記電動機に駆動電力を供給させる駆動制御部と、
前記駆動電力の供給に応じて、前記センサにより検出された前記磁極の位置の変化方向に基づいて、前記磁極の極性の推定エラーを検知するエラー検知部と、を更に備える、請求項1~のいずれか一項記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記極性推定部は、前記エラー検知部により前記推定エラーが検知された場合に、前記磁極の極性の推定結果を反転させる、請求項記載の電力変換装置。
【請求項10】
磁極の位置の変化を検出するセンサを有する電動機に対し、電力変換回路から探索出力を供給させる第1探索制御部と、
前記探索出力に対する応答に基づいて前記電動機の前記磁極の位置を推定する磁極位置推定部と、
前記磁極の位置の推定結果に応じてパルス供給条件を設定する条件設定部と、
前記パルス供給条件に従い正パルス出力及び負パルス出力を前記電力変換回路から前記電動機に供給させる第2探索制御部と、
前記正パルス出力に対する応答の大きさと、前記負パルス出力に対する応答の大きさとの差分を評価する差分評価部と、
前記差分の評価結果に基づいて前記磁極の極性を推定する極性推定部と、
前記磁極位置推定部による前記磁極の位置の推定結果を、前記センサによる検出結果に基づいて更新する磁極位置更新部と、
前記磁極位置更新部により更新された前記磁極の位置の推定結果と、前記極性推定部による前記磁極の極性の推定結果とに基づいて、前記電力変換回路から前記電動機に駆動電力を供給させる駆動制御部と、
前記駆動電力の供給に応じて、前記センサにより検出された前記磁極の位置の変化方向に基づいて、前記磁極の極性の推定エラーを検知するエラー検知部と、を備える電力変換装置。
【請求項11】
前記極性推定部は、前記エラー検知部により前記推定エラーが検知された場合に、前記磁極の極性の推定結果を反転させる、請求項10記載の電力変換装置。
【請求項12】
電力変換回路から電動機に探索出力を供給させることと、
前記探索出力に対する応答に基づいて前記電動機の磁極の位置を推定することと、
前記磁極の位置の推定結果に応じてパルス供給条件を設定することと、
前記パルス供給条件に従い正パルス出力及び負パルス出力を前記電力変換回路から前記電動機に供給させることと、
前記正パルス出力に対する応答の大きさと、前記負パルス出力に対する応答の大きさとの差分を評価することと、
前記正パルス出力及び前記負パルス出力の供給により生じる磁束ベクトルの方向を、前記磁極の位置に対して相対的に変えるように前記パルス供給条件を変更することと、変更後の前記パルス供給条件に従い前記正パルス出力及び前記負パルス出力を前記電力変換回路から前記電動機に供給させることと、前記差分を評価することとを、前記差分の評価結果が所定のレベルを超えるまで繰り返すことと、
前記差分の評価結果に基づいて前記磁極の極性を推定することと、を含む制御方法。
【請求項13】
磁極の位置の変化を検出するセンサを有する電動機に対し、電力変換回路から探索出力を供給させることと、
前記探索出力に対する応答に基づいて前記電動機の前記磁極の位置を推定することと、
前記磁極の位置の推定結果に応じてパルス供給条件を設定することと、
前記パルス供給条件に従い正パルス出力及び負パルス出力を前記電力変換回路から前記電動機に供給させることと、
前記正パルス出力に対する応答の大きさと、前記負パルス出力に対する応答の大きさとの差分を評価することと、
前記差分の評価結果に基づいて前記磁極の極性を推定することと、
前記磁極の位置の推定結果を、前記センサによる検出結果に基づいて更新することと、
更新された前記磁極の位置の推定結果と、前記磁極の極性の推定結果とに基づいて、前記電力変換回路から前記電動機に駆動電力を供給させることと、
前記駆動電力の供給に応じて、前記センサにより検出された前記磁極の位置の変化方向に基づいて、前記磁極の極性の推定エラーを検知することと、を含む制御方法。
【請求項14】
電力変換回路から電動機に探索出力を供給させることと、
前記探索出力に対する応答に基づいて前記電動機の磁極の位置を推定することと、
前記磁極の位置の推定結果に応じてパルス供給条件を設定することと、
前記パルス供給条件に従い正パルス出力及び負パルス出力を前記電力変換回路から前記電動機に供給させることと、
前記正パルス出力に対する応答の大きさと、前記負パルス出力に対する応答の大きさとの差分を評価することと、
前記正パルス出力及び前記負パルス出力の供給により生じる磁束ベクトルの方向を、前記磁極の位置に対して相対的に変えるように前記パルス供給条件を変更することと、変更後の前記パルス供給条件に従い前記正パルス出力及び前記負パルス出力を前記電力変換回路から前記電動機に供給させることと、前記差分を評価することとを、前記差分の評価結果が所定のレベルを超えるまで繰り返すことと、
前記差分の評価結果に基づいて前記磁極の極性を推定することと、を装置に実行させるためのプログラム。
【請求項15】
磁極の位置の変化を検出するセンサを有する電動機に対し、電力変換回路から探索出力を供給させることと、
前記探索出力に対する応答に基づいて前記電動機の前記磁極の位置を推定することと、
前記磁極の位置の推定結果に応じてパルス供給条件を設定することと、
前記パルス供給条件に従い正パルス出力及び負パルス出力を前記電力変換回路から前記電動機に供給させることと、
前記正パルス出力に対する応答の大きさと、前記負パルス出力に対する応答の大きさとの差分を評価することと、
前記差分の評価結果に基づいて前記磁極の極性を推定することと、
前記磁極の位置の推定結果を、前記センサによる検出結果に基づいて更新することと、
更新された前記磁極の位置の推定結果と、前記磁極の極性の推定結果とに基づいて、前記電力変換回路から前記電動機に駆動電力を供給させることと、
前記駆動電力の供給に応じて、前記センサにより検出された前記磁極の位置の変化方向に基づいて、前記磁極の極性の推定エラーを検知することと、を装置に実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力変換装置、制御方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、同期電動機の起動時に、出力電圧の位相に所定の位相補正値を加え、位相補正値を1回以上変更し、且つ、出力電流の検出値に基づいて出力電圧の周波数の補正値を演算し、出力電圧の周波数を補正する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-259610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、起動時における電動機の逆転抑制に有効な装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一側面に係る電力変換装置は、電力変換回路から電動機に探索出力を供給させる第1探索制御部と、探索出力に対する応答に基づいて電動機の磁極の位置を推定する磁極位置推定部と、磁極の位置の推定結果に応じてパルス供給条件を設定する条件設定部と、パルス供給条件に従い正パルス出力及び負パルス出力を電力変換回路から電動機に供給させる第2探索制御部と、正パルス出力に対する応答の大きさと、負パルス出力に対する応答の大きさとの差分を評価する差分評価部と、パルス供給条件を変更することと、変更後のパルス供給条件に従い第2探索制御部に正パルス出力及び負パルス出力を供給させることと、差分評価部に差分を評価させることとを、差分の評価結果が所定のレベルを超えるまで繰り返す条件変更部と、差分の評価結果に基づいて磁極の極性を推定する極性推定部と、を備える。
【0006】
本開示の他の側面に係る電力変換装置は、磁極の位置の変化を検出するセンサを有する電動機に対し、電力変換回路から探索出力を供給させる第1探索制御部と、探索出力に対する応答に基づいて電動機の磁極の位置を推定する磁極位置推定部と、磁極の位置の推定結果に応じてパルス供給条件を設定する条件設定部と、パルス供給条件に従い正パルス出力及び負パルス出力を電力変換回路から電動機に供給させる第2探索制御部と、正パルス出力に対する応答の大きさと、負パルス出力に対する応答の大きさとの差分を評価する差分評価部と、差分の評価結果に基づいて磁極の極性を推定する極性推定部と、磁極位置推定部による磁極の位置の推定結果を、センサによる検出結果に基づいて更新する磁極位置更新部と、磁極位置更新部により更新された磁極の位置の推定結果と、極性推定部による磁極の極性の推定結果とに基づいて、電力変換回路から電動機に駆動電力を供給させる駆動制御部と、駆動電力の供給に応じて、センサにより検出された磁極の位置の変化方向に基づいて、磁極の極性の推定エラーを検知するエラー検知部と、を備える。
【0007】
本開示の更に他の側面に係る制御方法は、電力変換回路から電動機に探索出力を供給させることと、探索出力に対する応答に基づいて電動機の磁極の位置を推定することと、磁極の位置の推定結果に応じてパルス供給条件を設定することと、パルス供給条件に従い正パルス出力及び負パルス出力を電力変換回路から電動機に供給させることと、正パルス出力に対する応答の大きさと、負パルス出力に対する応答の大きさとの差分を評価することと、パルス供給条件を変更することと、変更後のパルス供給条件に従い正パルス出力及び負パルス出力を電力変換回路から電動機に供給させることと、差分を評価することとを、差分の評価結果が所定のレベルを超えるまで繰り返すことと、差分の評価結果に基づいて磁極の極性を推定することと、を含む。
【0008】
本開示の更に他の側面に係る制御方法は、磁極の位置の変化を検出するセンサを有する電動機に対し、電力変換回路から探索出力を供給させることと、探索出力に対する応答に基づいて電動機の磁極の位置を推定することと、磁極の位置の推定結果に応じてパルス供給条件を設定することと、パルス供給条件に従い正パルス出力及び負パルス出力を電力変換回路から電動機に供給させることと、正パルス出力に対する応答の大きさと、負パルス出力に対する応答の大きさとの差分を評価することと、差分の評価結果に基づいて磁極の極性を推定することと、磁極の位置の推定結果を、センサによる検出結果に基づいて更新することと、更新された磁極の位置の推定結果と、磁極の極性の推定結果とに基づいて、電力変換回路から電動機に駆動電力を供給させることと、駆動電力の供給に応じて、センサにより検出された磁極の位置の変化方向に基づいて、磁極の極性の推定エラーを検知することと、を含む。
【0009】
本開示の更に他の側面に係るプログラムは、電力変換回路から電動機に探索出力を供給させることと、探索出力に対する応答に基づいて電動機の磁極の位置を推定することと、磁極の位置の推定結果に応じてパルス供給条件を設定することと、パルス供給条件に従い正パルス出力及び負パルス出力を電力変換回路から電動機に供給させることと、正パルス出力に対する応答の大きさと、負パルス出力に対する応答の大きさとの差分を評価することと、パルス供給条件を変更することと、変更後のパルス供給条件に従い正パルス出力及び負パルス出力を電力変換回路から電動機に供給させることと、差分を評価することとを、差分の評価結果が所定のレベルを超えるまで繰り返すことと、差分の評価結果に基づいて磁極の極性を推定することと、を装置に実行させるためのプログラムである。
【0010】
本開示の更に他の側面に係るプログラムは、磁極の位置の変化を検出するセンサを有する電動機に対し、電力変換回路から探索出力を供給させることと、探索出力に対する応答に基づいて電動機の磁極の位置を推定することと、磁極の位置の推定結果に応じてパルス供給条件を設定することと、パルス供給条件に従い正パルス出力及び負パルス出力を電力変換回路から電動機に供給させることと、正パルス出力に対する応答の大きさと、負パルス出力に対する応答の大きさとの差分を評価することと、差分の評価結果に基づいて磁極の極性を推定することと、磁極の位置の推定結果を、センサによる検出結果に基づいて更新することと、更新された磁極の位置の推定結果と、磁極の極性の推定結果とに基づいて、電力変換回路から電動機に駆動電力を供給させることと、駆動電力の供給に応じて、センサにより検出された磁極の位置の変化方向に基づいて、磁極の極性の推定エラーを検知することと、を装置に実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、起動時における電動機の逆転抑制に有効な装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】電力変換装置の構成を例示する模式図である。
図2】磁極位置と、正パルス出力及び負パルス出力との関係を例示する模式図である。
図3】正パルス出力に対する応答の大きさと、負パルス出力に対する応答の大きさとを例示するグラフである。
図4】制御回路のハードウェア構成を例示するブロック図である。
図5】制御手順を例示するフローチャートである。
図6】第1探索制御手順を例示するフローチャートである。
図7】第2探索制御手順を例示するフローチャートである。
図8】電力変換装置の変形例を示す模式図である。
図9】制御手順の変形例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0014】
〔装置〕
本実施形態に係る電力変換装置1は、モータ20(電動機)に駆動電力を供給する装置である。モータ20は、ロータが磁極を有する同期電動機である。ロータが磁極を有する同期電動機の具体例としては、永久磁石型の同期電動機等が挙げられる。永久磁石型の同期電動機の具体例としては、SPM(Surface Permanent Magnet)モータ、IPM(Interior Permanent Magnet)モータ等が挙げられる。モータ20は、ロータが突極性を有する同期電動機であってもよい。ロータが突極性を有する同期電動機の具体例としては、IPMモータ等が挙げられる。
【0015】
図2に例示するモータ20は、IPMモータであり、ステータ30と、ロータ40とを有する。ステータ30は、環状のヨーク31と、複数のティース32と、複数のコイル33とを有する。複数のティース32は、ヨーク31の周方向に沿って等間隔に並んでいる。複数のティース32のそれぞれは、ヨーク31の内周からヨーク31の中心に向かって突出している。複数のティース32は、ロータ40の回転方向(磁極の回転方向)に沿って所定の角度ピッチ(図示においては60°)で等間隔に並んでいる。複数のコイル33は、複数のティース32にそれぞれ装着されている。ステータ30は、複数のコイル33への電力の供給に応じて、ヨーク31の中心まわりに回転する磁界を発生させる。
【0016】
ロータ40は、シャフト41と、ロータコア42と、複数の永久磁石43とを有する。シャフト41は、ヨーク31の中心まわりに回転する。ロータコア42は軟質磁性材料により構成され、ヨーク31の外周に固定されている。複数の永久磁石43は、ロータコア42に埋め込まれており、ロータ40に複数の磁極を形成する。図示の例においては、4つの永久磁石43a,43b,43c,43dが、4箇所の磁極40a,40b,40c,40dをそれぞれ形成している。
【0017】
図1に示すように、電力変換装置1は、電源90の電力(一次側電力)を駆動電力(二次側電力)に変換してモータ20に供給する。一次側電力は、交流電力であってもよく、直流電力であってもよい。二次側電力は交流電力である。一例として、一次側電力及び二次側電力は、いずれも三相交流電力である。例えば電力変換装置1は、電力変換回路10と、制御回路100とを有する。
【0018】
電力変換回路10は、一次側電力を二次側電力に変換してモータ20に供給する。電力変換回路10は、例えば電圧形インバータであり、電圧指令に従った駆動電圧をモータ20に印加する。例えば電力変換回路10は、コンバータ回路11と、平滑コンデンサ12と、インバータ回路13と、電流センサ14とを有する。コンバータ回路11は、例えばダイオードブリッジ回路又はPWMコンバータ回路であり、上記電源電力を直流電力に変換する。平滑コンデンサ12は、上記直流電力を平滑化する。
【0019】
インバータ回路13は、上記直流電力と上記駆動電力との間の電力変換を行う。例えばインバータ回路13は、複数のスイッチング素子15を有し、複数のスイッチング素子15のオン・オフを切り替えることによって上記電力変換を行う。スイッチング素子15は、例えばパワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)又はIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等であり、ゲート駆動信号に応じてオン・オフを切り替える。電流センサ14は、インバータ回路13とモータ20との間に流れる電流を検出する。例えば電流センサ14は、三相交流の全相(U相、V相及びW相)の電流を検出するように構成されていてもよいし、三相交流のいずれか2相の電流を検出するように構成されていてもよい。零相電流が生じない限り、U相、V相、及びW相の電流の合計はゼロなので、2相の電流を検出する場合にも全相の電流の情報が得られる。
【0020】
以上に示した電力変換回路10の構成はあくまで一例であり、モータ20に駆動電力を供給し得る限りにおいていかようにも変更可能である。例えば電力変換回路10は、電流形インバータであってもよい。電流形インバータは、電流指令に従った駆動電流をモータ20に出力する。電力変換回路10は、直流化を経ることなく電源電力と駆動電力との双方向の電力変換を行うマトリクスコンバータ回路であってもよい。電源電力が直流電力である場合に、電力変換回路10はコンバータ回路11を有していなくてもよい。
【0021】
制御回路100は、モータ20に駆動電力を供給するように電力変換回路10を制御する。例えば電力変換回路10が電圧形インバータである場合、制御回路100は、電圧指令に従った駆動電圧をモータ20に印加するように電力変換回路10を制御する。電力変換回路10が電流形インバータである場合、制御回路100は、電流指令に従った駆動電流をモータ20に供給するように電力変換回路10を制御する。
【0022】
ここで、モータ20を駆動するためには、駆動電力の供給によりステータ30に流れる電流の位相を、ロータ40の磁極の位置(例えば磁極40aの位置)に基づいて調節する必要がある。制御回路100は、磁極の位置をセンサを用いて、あるいはセンサレスにて検知する機能を有する。モータ20を駆動している最中において、制御回路100は、例えばセンサの情報に基づき、あるいは電圧指令と、これに応じてモータ20に供給された駆動電流と、周波数指令とに基づく推定により、磁極の位置を検知する。しかしながら、制御回路100に電源が投入された直後は、例えば絶対値エンコーダのようなセンサを用いない限り、磁極の位置を検知することができない。この制御回路100立ち上がり時における磁極の位置及び極性が未知の状態でモータ20の駆動を開始すると、以後の磁極の位置の検知も正しく行われず、例えばロータ40を逆転させてしまうといった可能性を生じる。
【0023】
これに対し、制御回路100は、電力変換回路10からモータ20に探索出力を供給させることと、探索出力に対する応答に基づいてモータ20の少なくとも一つの磁極の位置を推定することと、磁極の位置の推定結果に応じてパルス供給条件を設定することと、パルス供給条件に従い正パルス出力及び負パルス出力を電力変換回路10からモータ20に供給させることと、正パルス出力に対する応答の大きさと、負パルス出力に対する応答の大きさとの差分(以下、「応答差分」という。)を評価することと、パルス供給条件を変更することと、変更後のパルス供給条件に従い正パルス出力及び負パルス出力を電力変換回路10からモータ20に供給させることと、応答差分を評価することとを、応答差分の評価結果が所定のレベルを超えるまで繰り返すことと、応答差分の評価結果に基づいてモータ20の少なくとも一つの磁極の極性を推定することと、を実行するように構成されている。
【0024】
このような構成によれば、正パルス出力と負パルス出力との差分の評価結果が所定のレベルを超えていない場合に、正パルス出力及び負パルス出力の供給と、上記差分の評価とが繰り返されるので、差分に基づく極性の誤検知が抑制される。従って、磁極の極性の誤検知に起因するモータ20の逆転が抑制されるので、モータ20の逆転抑制に有効である。
【0025】
例えば制御回路100は、ロータ40が追従できない高周波の探索出力を電力変換回路10からモータ20に供給させる。電力変換回路10が電圧形インバータである場合、制御回路100は、高周波の探索電圧(探索出力)を電力変換回路10からモータ20に印加させ、探索電圧の印加に応じてモータ20に供給された探索電流(応答)に基づいて少なくとも一つの磁極の位置を推定する。また、制御回路100は、パルス供給条件に従い正パルス電圧(正パルス出力)及び負パルス電圧(負パルス出力)を電力変換回路10からモータ20に印加させ、正パルス電圧に応じてモータ20に供給された正電流と、負パルス電圧に応じてモータ20に供給された負電流との差分(応答差分)を評価する。
【0026】
電力変換回路10が電流形インバータである場合、制御回路100は、高周波の探索電流(探索出力)を電力変換回路10からモータ20に供給させ、探索電流の供給に応じてモータ20に印加された探索電圧(応答)に基づいて少なくとも一つの磁極の位置を推定する。また、制御回路100は、パルス供給条件に従い正パルス電流(正パルス出力)及び負パルス電流(負パルス出力)を電力変換回路10からモータ20に供給させ、正パルス電流に応じてモータ20に印加された正電圧と、負パルス電流に応じてモータ20に印加された負電圧との差分(応答差分)を評価する。以下、電力変換回路10が電圧型インバータである場合の制御回路100の構成をより具体的に例示する。
【0027】
図1に示すように、制御回路100は、機能上の構成(以下、「機能ブロック」という。)として、PWM制御部111と、第1探索制御部112と、磁極位置推定部113と、条件設定部114と、第2探索制御部115と、差分評価部116と、条件変更部117と、極性推定部118と、駆動制御部121とを有する。
【0028】
PWM制御部111は、電圧指令に従った駆動電圧をモータ20に印加するように電力変換回路10を制御する。例えばPWM制御部111は、ステータ30に固定された固定座標系における電圧指令ベクトルに対応する駆動電圧をモータ20に印加するように、インバータ回路13の複数のスイッチング素子15のオン・オフを切り替える。
【0029】
第1探索制御部112は、電力変換回路10からモータ20に高周波の探索電圧を印加させる。例えば第1探索制御部112は、上記探索電圧を電力変換回路10に印加させるための探索電圧指令を生成し、PWM制御部111に出力する。探索電圧指令は、例えば固定座標系における電圧指令ベクトルの位相の時間変化を含む。
【0030】
図2に示すように、固定座標系は、ロータ40の回転中心を原点とし、α軸と、α軸と電気角にて90度の角度を成すβ軸とを有する。探索電圧指令は、α軸に対する電圧指令ベクトルの位相角との時間変化を含む。
【0031】
図1に戻り、磁極位置推定部113は、探索電圧の印加に応じてモータ20に供給された探索電流(探索出力に対する応答)に基づいてモータ20の少なくとも一つの磁極の位置を推定する。例えば磁極位置推定部113は、探索電流の検出結果を電流センサ14から取得する。磁極位置推定部113は、磁極40a,40b,40c,40dのいずれか一つの位置を推定してもよいし、磁極40a,40b,40c,40dのそれぞれの位置を推定してもよい。例えば磁極位置推定部113は、α軸を基準としたロータ40の回転中心まわりの角度にて、磁極40aの中心の位置である磁極位置θ1と、磁極40bの中心の位置である磁極位置θ2と、磁極40cの中心の位置である磁極位置θ3と、磁極40dの中心の位置である磁極位置θ4とを推定する(図2参照)。
【0032】
条件設定部114は、磁極の位置の推定結果に応じてパルス供給条件を設定する。例えば条件設定部114は、磁極位置θ1の推定結果に応じてパルス供給条件を設定する。パルス供給条件は、上記正パルス電圧及び負パルス電圧の印加条件である。正パルス電圧は、ロータ40の動きを微動に留める短期間で、固定座標系における所定方向に単発の磁束ベクトルを発生させる電圧である。負パルス電圧は、ロータ40の動きを微動に留める短期間で、正パルス電圧による磁束ベクトルと逆向きの磁束ベクトルを発生させる電圧である。
【0033】
正パルス電圧及び負パルス電圧の印加条件は、正パルス電圧及び負パルス電圧の位相を定めるパルス位相条件と、正パルス電圧及び負パルス電圧のパルス幅(時間幅)を定めるパルス幅条件と、正パルス電圧及び負パルス電圧の大きさを定めるパルス大きさ条件とを含む。例えば条件設定部114は、磁極位置θ1の推定結果に基づいて、正パルス電圧及び負パルス電圧の位相が磁極位置θ1に対応するようにパルス位相条件を定める。一例として、条件設定部114は、正パルス電圧PV1の印加により生じる磁束ベクトルMV1及び負パルス電圧PV2の印加により生じる磁束ベクトルMV2が少なくとも一つの磁極の位置(例えば磁極40aの位置)を通るようにパルス位相条件を定める(図2参照)。なお、図示の例においては、永久磁石43を通ることが、磁極を通ることであると認識できるが、永久磁石43の配置によっては、どこまでが磁極の範囲であるのかが不明瞭な場合もあり得る。そのような場合、磁極を通るとは、例えば、磁極の中心の位置に対して、電気角で±30°以内を通ることを意味する。
【0034】
条件設定部114は、正パルス電圧のパルス幅と負パルス電圧のパルス幅とが同じ所定値となるようにパルス幅条件を定め、正パルス電圧の大きさと負パルス電圧の大きさとが同じ所定値となるようにパルス大きさ条件を定める。所定値は、ロータ40を動かさないか、ロータ40の動きを少なくとも微動に留めるように、予め設定されている。例えば所定値は、正パルス電圧及び負パルス電圧の印加によりロータ40に微動が生じたとしても、磁束ベクトルMV1,MV2が磁極から外れないように予め設定されている。
【0035】
図3は、経過時間と電圧ベクトルの大きさとの関係を表すグラフである。このグラフにおいて、正パルス電圧PV1は、正方向に突出した単発の矩形波であり、負パルス電圧PV2は、負方向に突出した単発の矩形波である。図3においては、印加期間T1が正パルス電圧PV1の幅に相当し、印加期間T2が負パルス電圧PV2の幅に相当する。また、印加電圧V1が正パルス電圧PV1の大きさに相当し、印加電圧V2が負パルス電圧PV2の大きさに相当する。
【0036】
図3に示すように、条件設定部114は、正パルス電圧PV1及び負パルス電圧PV2をこの順で印加するようにパルス供給条件を設定してもよい。これとは逆に、条件設定部114は、負パルス電圧PV2及び正パルス電圧PV1をこの順で印加するようにパルス供給条件を設定してもよい。また、条件設定部114は、正パルス電圧PV1と負パルス電圧PV2との間に所定期間をあけるようにパルス供給条件を設定してもよい。例えば所定期間は、先のパルス電圧の印加により生じた電流が、後のパルス電圧の印加前にゼロとなるように定められる。
【0037】
図1に戻り、第2探索制御部115は、パルス供給条件に従い正パルス電圧及び負パルス電圧を電力変換回路10からモータ20に印加させる。例えば第2探索制御部115は、正パルス電圧PV1及び負パルス電圧PV2を電力変換回路10からモータ20に印加させるための電圧指令を生成し、PWM制御部111に出力する。
【0038】
差分評価部116は、正パルス電圧の印加に応じてモータ20に供給される正電流の大きさと、負パルス電圧の印加に応じてモータ20に供給される負電流の大きさとの差分(上記応答差分)を評価する。例えば差分評価部116は、正電流及び負電流の検出結果を電流センサ14から取得する。
【0039】
応答差分の大きさを定量的に評価し得る限り、応答差分の評価手法に特に制限はない。例えば差分評価部116は、図3に例示するように、正パルス電圧PV1の印加に応じてモータ20に供給される正電流RA1の大きさと、負パルス電圧PV2の印加に応じてモータ20に供給される負電流RA2の大きさとの差分を応答差分として評価する。
【0040】
差分評価部116は、正電流RA1の大きさの積分値と、負電流RA2の大きさの積分値との差分に基づいて応答差分を評価してもよい。差分評価部116は、正電流RA1の大きさの平均値と、負電流RA2の大きさの平均値との差分に基づいて応答差分を評価してもよい。差分評価部116は、正電流RA1の大きさの最大値と、負電流RA2の大きさの最大値との差分に基づいて応答差分を評価してもよい。
【0041】
正電流RA1の大きさと、負電流RA2の大きさとの大小関係は、磁極の極性(例えば磁極40aの極性)に応じて変わる。例えば正パルス電圧PV1の印加により生じる磁束の方向(上記磁束ベクトルMV1の方向)が、磁極位置θ1で磁極40aが生じる磁束の方向(以下、「磁石磁束方向」という。)と一致する場合、磁束ベクトルMV1の方向が磁石磁束方向と逆向きである場合に比較して、正電流RA1が大きくなる。同様に、負パルス電圧PV2の印加により生じる磁束の方向(上記磁束ベクトルMV2の方向)が、磁石磁束方向と一致する場合、磁束ベクトルMV2の方向が磁石磁束方向と逆向きである場合に比較して、負電流RA2が大きくなる。このため、正パルス電圧PV1の幅及び大きさと負パルス電圧PV2の幅及び大きさとが等しい場合、正電流RA1と負電流RA2との大小関係に基づき磁石磁束方向を推定することが可能である。例えば上述した応答差分が正の値である場合、磁極40aの極性は、磁石磁束方向が磁束ベクトルMV1に一致する極性(例えばN極)であると推定される。また、上記応答差分が負の値である場合、磁極40aの極性は、磁石磁束方向が磁束ベクトルMV2に一致する極性(例えばS極)であると推定される。しかしながら、実際のモータ20においては、正パルス電圧PV1及び負パルス電圧PV2の印加時に、ティース32がロータ40のどの部位に対向しているかによって、応答差分の大きさに変化が生じる。例えば、ティース32が永久磁石43に対向する場合と、ティース32が永久磁石43同士の間に対向する場合とで、応答差分の大きさは変わる。このような実環境の影響により、応答差分の大きさが小さい場合、磁極の極性の推定結果に誤りが生じる可能性がある。
【0042】
これに対し、条件変更部117は、パルス供給条件を変更することと、変更後のパルス供給条件に従い第2探索制御部115に正パルス電圧及び負パルス電圧を印加させることと、差分評価部116に応答差分を評価させることとを、応答差分の評価結果が所定のレベルを超えるまで繰り返す。
【0043】
例えば条件変更部117は、正パルス電圧及び負パルス電圧の供給により生じる磁束ベクトルの方向を変えるようにパルス供給条件を変更してもよい。一例として、条件変更部117は、図2の磁束ベクトルMV1,MV2が同一の磁極から外れない範囲で、磁束ベクトルMV1,MV2の方向を変えるように上記パルス位相条件を変更する。例えば条件変更部117は、条件設定部114により定められたパルス位相条件による磁束ベクトルMV1,MV2が通る磁極の範囲内(当該磁極の中心の位置に対して±30°以内)で磁束ベクトルMV1,MV2の方向を変えるようにパルス位相条件を変更する。
【0044】
条件変更部117は、コイル33の角度ピッチに基づいて磁束ベクトルの方向の変更角度を特定し、変更角度に応じて前記磁束ベクトルの方向を変えるようにパルス供給条件を変更してもよい。例えば条件変更部117は、実質的に、角度ピッチの半ピッチ(角度ピッチの0.5倍)を奇数倍(例えば1倍、3倍、又は5倍等)したの角度で磁束ベクトルの方向を変えるようにパルス供給条件を変更してもよい。
【0045】
条件変更部117は、磁束ベクトルMV1,MV2が磁極40a(第1磁極)を通る状態で応答差分が所定のレベルを超えない場合に、磁束ベクトルMV1,MV2が磁極40b,40c,40dのいずれか(第2磁極)を通るようにパルス位相条件を変更してもよい。例えば条件変更部117は、磁束ベクトルMV1,MV2が磁極40a(第1磁極)を通る状態で応答差分が所定のレベルを超えない場合に、磁束ベクトルMV1,MV2が磁極40b(第2磁極)を通るようにパルス位相条件を変更してもよい。更に条件変更部117は、磁束ベクトルMV1,MV2が磁極40b(第1磁極)を通る状態で応答差分が所定のレベルを超えない場合に、磁束ベクトルMV1,MV2が磁極40c(第2磁極)を通るようにパルス位相条件を変更してもよい。更に条件変更部117は、磁束ベクトルMV1,MV2が磁極40c(第1磁極)を通る状態で応答差分が所定のレベルを超えない場合に、磁束ベクトルMV1,MV2が磁極40d(第2磁極)を通るようにパルス位相条件を変更してもよい。
【0046】
条件変更部117は、正パルス電圧及び負パルス電圧の大きさを変えるようにパルス供給条件を変更してもよい。例えば条件変更部117は、正パルス電圧PV1の印加電圧V1及び負パルス電圧PV2の印加電圧V2の大きさを大きくするように上記パルス大きさ条件を変更してもよい。条件変更部117は、正パルス電圧及び負パルス電圧の幅を変えるようにパルス供給条件を変更してもよい。例えば条件変更部117は、正パルス電圧PV1の印加期間T1及び負パルス電圧PV2の印加期間T2を長くするように上記パルス幅条件を変更してもよい。条件変更部117は、正パルス電圧及び負パルス電圧の供給により生じる磁束ベクトルの方向を変えることと、正パルス電圧及び負パルス電圧の大きさを変えることと、正パルス電圧及び負パルス電圧の幅を変えることと、の3種のうち2種以上を組み合わせて実行してもよい。
【0047】
極性推定部118は、上記所定のレベルを超えた応答差分の評価結果に基づいて磁極40aの極性を推定する。なお、磁極40aの他の磁極を磁束ベクトルMV1,MV2が通るパルス供給条件に従い、所定のレベルを超える応答差分が得られた場合には、当該応答差分の評価結果に基づいて当該他の磁極の極性が推定される。他の磁極の極性が決まれば、自ずと磁極40aの極性も決まるので、他の磁極の極性を推定することは、磁極40aの磁極を推定することに相当する。
【0048】
駆動制御部121は、磁極位置推定部113による磁極の位置の推定結果と、極性推定部118による磁極の極性の推定結果とに基づいて、電力変換回路10からモータ20への駆動電力の供給を開始させる。例えば駆動制御部121は、電力変換回路10からモータ20に駆動電力を供給させるための電圧指令を生成し、PWM制御部111に出力する。例えば駆動制御部121は、磁極位置推定部113による磁極の位置の推定結果と、極性推定部118による磁極の極性の推定結果とに基づいて、磁極の位置を特定する。この場合、磁束ベクトルMV1と方向が一致する磁石磁束を作る磁極の位置の推定値が磁極の位置に特定される。以下、当該位置が特定された磁極を、「正方向磁極」という。駆動制御部121は、正方向磁極と同期して回転するよう回転速度が決定される回転座標系における電圧指令を生成する。例えば駆動制御部121は、モータ20に供給する駆動電流を電流指令に追従させるように、回転座標系における電圧指令を生成する。その後、駆動制御部121は、回転座標系における電圧指令と、正方向磁極の位置とに基づいて、上述の固定座標系における電圧指令ベクトルを算出し、算出した電圧指令ベクトルをPWM制御部111に出力する。
【0049】
以後、駆動制御部121は、回転検出センサ(例えばエンコーダ)の出力に基づく磁極位置演算、又はセンサレスでの磁極位置推定(例えば電圧指令とこれに応じてモータ20に供給された駆動電流と、周波数指令とに基づく磁極位置推定)を行い、こうして得られた正方向磁極の位置に基づき、固定座標系における電圧指令ベクトルを更新し、PWM制御部111に出力することを繰り返す。これにより、正方向磁極の位置に応じた駆動電力の供給が継続される。駆動制御部121は、駆動電流の検出結果を電流センサ14から取得する。
【0050】
図4は、制御回路100のハードウェア構成を例示する模式図である。図4に示すように、制御回路100は、一つ又は複数のプロセッサ191と、メモリ192と、ストレージ193と、入出力ポート194と、スイッチング制御回路195とを含む。ストレージ193は、例えば不揮発性の半導体メモリ等、コンピュータによって読み取り可能な記憶媒体を有する。ストレージ193は、電力変換回路10からモータ20に探索出力を供給させることと、探索出力に対する応答に基づいてモータ20の少なくとも一つの磁極の位置を推定することと、磁極の位置の推定結果に応じてパルス供給条件を設定することと、パルス供給条件に従い正パルス出力及び負パルス出力を電力変換回路10からモータ20に供給させることと、正パルス出力に対する応答の大きさと、負パルス出力に対する応答の大きさとの差分を評価することと、パルス供給条件を変更することと、変更後のパルス供給条件に従い正パルス出力及び負パルス出力を電力変換回路10からモータ20に供給させることと、差分を評価することとを、差分の評価結果が所定のレベルを超えるまで繰り返すことと、差分の評価結果に基づいてモータ20の少なくとも一つの磁極の極性を推定することと、を制御回路100に実行させるためのプログラムを記憶している。例えばストレージ193は、上述した各機能ブロックを制御回路100に構成させるためのプログラムを記憶している。
【0051】
メモリ192は、ストレージ193の記憶媒体からロードしたプログラム及びプロセッサ191による演算結果を一時的に記憶する。プロセッサ191は、メモリ192と協働して上記プログラムを実行することで、制御回路100の各機能ブロックを構成する。入出力ポート194は、プロセッサ191からの指令に従って、電流センサ14との間で電気信号の入出力を行う。スイッチング制御回路195は、プロセッサ191からの指令に従って、インバータ回路13内の複数のスイッチング素子15のオン、オフを切り替えることにより、上記駆動電力をモータ20へ出力する。
【0052】
なお、制御回路100は、必ずしもプログラムにより各機能を構成するものに限られない。例えば制御回路100は、専用の論理回路又はこれを集積したASIC(Application Specific Integrated Circuit)により少なくとも一部の機能を構成してもよい。
【0053】
〔制御手順〕
続いて、制御方法の一例として、制御回路100が実行するモータ20の起動制御手順を例示する。この手順は、電力変換回路10からモータ20に探索出力を供給させることと、探索出力に対する応答に基づいてモータ20の少なくとも一つの磁極の位置を推定することと、磁極の位置の推定結果に応じてパルス供給条件を設定することと、パルス供給条件に従い正パルス出力及び負パルス出力を電力変換回路10からモータ20に供給させることと、正パルス出力に対する応答の大きさと、負パルス出力に対する応答の大きさとの差分を評価することと、パルス供給条件を変更することと、変更後のパルス供給条件に従い正パルス出力及び負パルス出力を電力変換回路10からモータ20に供給させることと、差分を評価することとを、差分の評価結果が所定のレベルを超えるまで繰り返すことと、差分の評価結果に基づいてモータ20の少なくとも一つの磁極の極性を推定することと、を含む。
【0054】
図5に示すように、制御回路100は、まずステップS01,S02,S03,S04,S05,S06を実行する。ステップS01では、第1探索制御部112が、電力変換回路10からモータ20に高周波の探索電圧を印加させる。ステップS01のより詳細な手順については後述する。ステップS02では、磁極位置推定部113が、探索電圧の印加に応じてモータ20に供給された探索電流に基づいてモータ20の磁極の位置を推定する。ステップS03では、条件設定部114が、磁極の位置の推定結果に応じてパルス供給条件を設定する。
【0055】
ステップS04では、第2探索制御部115が、パルス供給条件に従い正パルス電圧及び負パルス電圧を電力変換回路10からモータ20に印加させる。ステップS04のより詳細な手順については後述する。ステップS05では、差分評価部116が、正パルス電圧の印加に応じてモータ20に供給される正電流の大きさと、負パルス電圧の印加に応じてモータ20に供給される負電流の大きさとの差分(上記応答差分)を評価する。ステップS06では、応答差分の評価結果が所定のレベルを超えているか否かを条件変更部117が確認する。
【0056】
ステップS06において応答差分の評価結果が所定のレベルを超えていないと判定した場合、制御回路100はステップS07を実行する。ステップS07では、条件変更部117がパルス供給条件を変更する。その後、条件変更部117は処理をステップS04に戻す。以後、応答差分の評価結果が所定のレベルを超えるまで、パルス供給条件に従い正パルス電圧及び負パルス電圧を電力変換回路10からモータ20に印加させることと、応答差分を評価することと、パルス供給条件を変更することとが繰り返される。
【0057】
ステップS06において応答差分の評価結果が所定のレベルを超えていると判定した場合、制御回路100はステップS08,S09を実行する。ステップS08では、極性推定部118が、所定のレベルを超えた応答差分の評価結果に基づいて、磁極40aの極性を推定する。ステップS09では、駆動制御部121が、磁極位置推定部113による磁極の位置の推定結果と、極性推定部118による磁極の極性の推定結果とに基づいて、電力変換回路10からモータ20への駆動電力の供給を開始させる。以後、駆動制御部121は、回転検出センサの出力に基づく磁極位置演算、又はセンサレスでの磁極位置推定を行い、こうして得られた磁極の位置に基づき電圧指令を再生成し、PWM制御部111に出力することを繰り返す。これにより、磁極の位置に応じた駆動電力の供給が継続される。以上でモータ20の起動制御手順が完了する。
【0058】
図6は、ステップS01における探索電圧の印加手順を例示するフローチャートである。図6に示すように制御回路100は、まずステップS11,S12,S13を実行する。ステップS11では、第1探索制御部112が、電力変換回路10からモータ20への探索電圧の印加を開始させる。ステップS12では、磁極位置推定部113が、探索電流の検出結果を電流センサ14から取得し、取得した検出結果とその時の探索電圧の位相とを記憶する。ステップS13では、所定の探索期間が経過したか否かを第1探索制御部112が確認する。
【0059】
ステップS13において探索期間が経過していないと判定した場合、制御回路100は処理をステップS12に戻す。以後、探索期間が経過するまでは、探索電圧の印加と、これに応じた探索電流の検出結果の取得と記憶とが繰り返される。
【0060】
ステップS13において探索期間が経過したと判定した場合、制御回路100はステップS14を実行する。ステップS14では、第1探索制御部112が、電力変換回路10からモータ20への探索電圧の印加を停止させる。以上で探索電圧の印加手順が完了する。
【0061】
図7は、ステップS04における正パルス電圧及び負パルス電圧の印加手順を例示するフローチャートである。図7に示すように、制御回路100は、まずステップS21,S22,S23,S24を実行する。ステップS21では、第2探索制御部115が、正パルス電圧の印加時刻を待機する。ステップS22では、第2探索制御部115が、電力変換回路10からモータ20への正パルス電圧の印加を開始させる。ステップS23では、差分評価部116が、正電流の検出結果を電流センサ14から取得する。ステップS24では、正パルス電圧の印加期間が経過したか否かを第2探索制御部115が確認する。
【0062】
ステップS24において正パルス電圧の印加期間が経過していないと判定した場合、制御回路100は処理をステップS23に戻す。以後、正パルス電圧の印加期間が経過するまでは、正パルス電圧の印加と正電流の検出結果の取得とが繰り返される。
【0063】
ステップS24において正パルス電圧の印加期間が経過したと判定した場合、制御回路100はステップS25,S31,S32,S33,S34を実行する。ステップS25では、第2探索制御部115が、電力変換回路10からモータ20への正パルス電圧の印加を停止させる。ステップS31では、第2探索制御部115が、負パルス電圧の印加時刻を待機する。ステップS32では、第2探索制御部115が、電力変換回路10からモータ20への負パルス電圧の印加を開始させる。ステップS33では、差分評価部116が、負電流の検出結果を電流センサ14から取得する。ステップS34では、負パルス電圧の印加期間が経過したか否かを第2探索制御部115が確認する。
【0064】
ステップS34において負パルス電圧の印加期間が経過していないと判定した場合、制御回路100は処理をステップS33に戻す。以後、負パルス電圧の印加期間が経過するまでは、負パルス電圧の印加と負電流の検出結果の取得とが繰り返される。
【0065】
ステップS34において負パルス電圧の印加期間が経過したと判定した場合、制御回路100はステップS35を実行する。ステップS35では、第2探索制御部115が、電力変換回路10からモータ20への負パルス電圧の印加を停止させる。以上で正パルス電圧及び負パルス電圧の印加手順が完了する。
【0066】
〔本実施形態の効果〕
以上に説明したように、電力変換装置1は、電力変換回路10からモータ20に探索出力を供給させる第1探索制御部112と、探索出力に対する応答に基づいてモータ20の少なくとも一つの磁極の位置を推定する磁極位置推定部113と、磁極の位置の推定結果に応じてパルス供給条件を設定する条件設定部114と、パルス供給条件に従い正パルス出力及び負パルス出力を電力変換回路10からモータ20に供給させる第2探索制御部115と、正パルス出力に対する応答の大きさと、負パルス出力に対する応答の大きさとの差分を評価する差分評価部116と、パルス供給条件を変更することと、変更後のパルス供給条件に従い第2探索制御部115に正パルス出力及び負パルス出力を供給させることと、差分評価部116に差分を評価させることとを、差分の評価結果が所定のレベルを超えるまで繰り返す条件変更部117と、差分の評価結果に基づいてモータ20の少なくとも一つの磁極の極性を推定する極性推定部118と、を備える。
【0067】
起動時におけるモータ20の逆転を防ぐには、磁極位置及び極性に対し適切なベクトルにてモータ20に駆動出力を供給する必要がある。これに対し、電力変換装置1によれば、正パルス出力と負パルス出力との差分の評価結果が所定のレベルを超えていない場合には、正パルス出力及び負パルス出力の供給と、上記差分の評価とが繰り返されるので、差分に基づく極性の誤検知が抑制される。従って、磁極の極性の誤検知に起因するモータ20の逆転とが抑制されるので、モータ20の逆転抑制に有効である。
【0068】
条件設定部114は、正パルス出力及び負パルス出力の供給により生じる磁束ベクトルがモータ20の少なくとも一つの磁極の位置を通るようにパルス供給条件を設定してもよい。この場合、正パルス出力及び負パルス出力の供給回数をより確実に抑制することができる。
【0069】
条件変更部117は、正パルス出力及び負パルス出力の供給により生じる磁束ベクトルの方向を変えるようにパルス供給条件を変更してもよい。この場合、パルス供給条件を迅速に調節することができる。
【0070】
モータ20は、磁極の回転方向に沿って所定の角度ピッチで並ぶ複数のコイル33を備え、条件変更部117は、角度ピッチに基づいて磁束ベクトルの方向の変更角度を特定し、変更角度に応じて磁束ベクトルの方向を変えるようにパルス供給条件を変更してもよい。正パルス出力に対する応答の大きさと、負パルス出力に対する応答の大きさとの差分は、各コイル33が、ロータ40のどの部位に対向しているかによって変わり得る。角度ピッチに基づき磁束ベクトルの方向を変えることによって、ロータ40の影響を受け易いコイル33への供給電流を減らしつつ、ロータ40の影響を受け難いコイル33への供給電流を増やし、パルス供給条件を迅速に調節することができる。
【0071】
条件変更部117は、実質的に、上記角度ピッチの半ピッチを奇数倍した角度で磁束ベクトルの方向を変えるようにパルス供給条件を変更してもよい。この場合、パルス供給条件をより迅速に調節することができる。
【0072】
磁極位置推定部113は、探索出力における電圧と電流との関係に基づいて、少なくともモータ20の第2磁極の位置を更に推定し、条件設定部114は、正パルス出力及び負パルス出力の供給により生じる磁束ベクトルが上記磁極を通るようにパルス供給条件を設定し、条件変更部117は、正パルス出力及び負パルス出力の供給により生じる磁束ベクトルが第2磁極を通るようにパルス供給条件を変更してもよい。この場合、パルス供給条件を迅速に調節することができる。
【0073】
条件変更部117は、正パルス出力及び負パルス出力の大きさを変えるようにパルス供給条件を変更してもよい。この場合、パルス供給条件を迅速に調節することができる。
【0074】
条件変更部117は、正パルス出力及び負パルス出力の幅を変えるようにパルス供給条件を変更してもよい。この場合、パルス供給条件を迅速に調節することができる。
【0075】
図8は、電力変換装置1の変形例を示す模式図である。本変形例において、モータ20は、センサ21を有する。センサ21は、磁極40a,40b,40c,40dの変位を検出する。磁極40a,40b,40c,40dの変位を検出することは、磁極40a,40b,40c,40dの変位方向を検出することを含む。センサ21の具体例としては、ロータ40の回転に応じて第1パルス波信号及び第2パルス波信号を出力するパルスジェネレータが挙げられる。第2パルス波信号は、第1パルス波信号とパルス幅が等しく、且つ第1パルス波信号に対して位相がずれた信号である。第1パルス波信号及び第2パルス波信号に基づき、ロータ40がいずれの方向に回転しているのか(磁極40a,40b,40c,40dがいずれの方向に変位しているのか)が検出される。また、第1パルス波信号及び第2パルス波信号の周波数に基づき、ロータ40の回転速度(磁極40a,40b,40c,40dの変位速度)が検出される。更に、第1パルス波信号及び第2パルス波信号のカウント値に基づき、ロータ40の回転角度(磁極40a,40b,40c,40dの変位角度)が検出される。
【0076】
本変形例における制御回路100は、上述の磁極位置推定部113に代えて、磁極位置推定部131と、磁極位置更新部132とを有する。磁極位置推定部131は、上述した磁極位置推定部113と同様に、探索電圧の印加に応じてモータ20に供給された探索電流に基づいてモータ20の磁極の位置を推定する。
【0077】
磁極位置更新部132は、磁極位置推定部131による磁極の位置の推定結果を、センサ21による検出結果に基づいて更新する。例えば磁極位置更新部132は、センサ21が出力する第1パルス波信号及び第2パルス波信号に基づいて磁極の変位方向及び変位角度を特定し、特定した変位方向及び変位角度に基づいて磁極の位置の推定結果を更新する。このように、磁極位置推定部131による磁極の位置の推定結果を磁極位置更新部132が更新することによって、磁極位置推定部131による磁極の位置の推定以降も、磁極の現在位置の情報が継続的に得られる。
【0078】
駆動制御部121は、磁極位置更新部132により更新された磁極の位置の推定結果と、極性推定部118による磁極の極性の推定結果とに基づいて、電力変換回路10からモータ20に駆動電力を供給させる。例えば駆動制御部121は、磁極位置更新部132により更新された磁極の位置の推定結果と、極性推定部118による磁極の極性の推定結果とに基づいて、正方向磁極の位置を特定し、回転座標系における電圧指令と、正方向磁極の位置とに基づいて、上述の固定座標系における電圧指令ベクトルを算出する。
【0079】
本変形例における制御回路100は、エラー検知部133を更に有する。エラー検知部133は、駆動電力の供給に応じて、センサ21により検出された磁極の位置の変化方向に基づいて、磁極の極性の推定エラーを検知する。例えばエラー検知部133は、駆動電力に応じ発生する回転磁界の回転方向と逆の方向に磁極の位置が変化している場合に、磁極の極性の推定エラーを検知する。
【0080】
極性推定部118は、エラー検知部133により推定エラーが検知された場合に、磁極の極性の推定結果を反転させてもよい。例えば、極性推定部118は、正方向磁極の位置を電気角にて180°シフトさせてもよい。正方向磁極を電気角で180°シフトさせる場合、それまで正方向磁極とされてきた位置の極性が反転することとなる。このため、正方向磁極の位置を180°シフトすることは、磁極の極性の推定結果を判定させることの一例に相当する。その後、駆動制御部121は、シフト後の正方向磁極の位置に基づいて、電力変換回路10からモータ20に駆動電力を供給させる。この場合、極性推定部118は、正方向磁極の位置を、所定期間に亘って徐々にシフトさせてもよい。
【0081】
また、極性推定部118は、正方向磁極とされてきた位置を、磁束ベクトルMV1と逆向きの磁石磁束を作る磁極の位置として特定し直してもよい。以下、磁束ベクトルMV1と逆向きの磁石磁束を作る磁極を「負方向磁極」という。この場合、駆動制御部121は、正方向磁極に対する制御を、負方向磁極に対する制御に改めるべく、d軸電流指令値、q軸電流指令値、V/f電圧指令値の符号を反転させてもよい。この場合、駆動制御部121は、d軸電流指令値、q軸電流指令値、V/f電圧指令値の値を符号反転後の値に向かって、所定期間に亘って徐々に反転させてもよい。
【0082】
本変形例における制御回路100は、例えば、図5のステップS09における駆動制御を開始した後、図9に示す手順を実行する。例えば制御回路100は、まずステップS41を実行する。ステップS41では、磁極位置更新部132が、磁極位置推定部131による磁極の位置の推定結果を、センサ21による検出結果に基づいて更新する。
【0083】
次に、制御回路100はステップS42を実行する。ステップS42では、エラー検知部133が、駆動電力に応じ発生する回転磁界の回転方向と逆の方向に磁極の位置が変化しているか否かを確認する。ステップS42において、回転磁界の回転方向と逆の方向に磁極の位置が変化していると判定した場合、制御回路100はステップS43,S44,S45,S46を実行する。
【0084】
ステップS43では、エラー検知部133が、磁極の極性の推定エラーを検知する。ステップS44では、駆動制御部121が、電力変換回路10からモータ20への駆動電力の供給を停止させる。ステップS45では、極性推定部118が、磁極の極性の推定結果を反転させる。ステップS46では、駆動制御部121が、反転された磁極の極性に基づいて、電力変換回路10からモータ20への駆動電力の供給を再開させる。
【0085】
以上に示したように、本変形例に係る電力変換装置1は、磁極位置推定部131による磁極の位置の推定結果を、センサ21による検出結果に基づいて更新する磁極位置更新部132と、磁極位置更新部132により更新された磁極の位置の推定結果と、極性推定部118による磁極の極性の推定結果とに基づいて、電力変換回路10からモータ20に駆動電力を供給させる駆動制御部121と、駆動電力の供給に応じて、センサ21により検出された磁極の位置の変化方向に基づいて、磁極の極性の推定エラーを検知するエラー検知部133と、を備える。これにより、磁極の極性の推定エラーを迅速に検知し、その影響を小さくすることができる。
【0086】
極性推定部118は、エラー検知部133により推定エラーが検知された場合に、磁極の極性の推定結果を反転させてもよい。この場合、磁極位置更新部132により継続的にトラッキングされている磁極位置と、極性推定部118により反転された磁極の極性の推定結果とに基づいて、モータ20の動作を迅速に正常化することができる。
【0087】
なお、磁極位置更新部132と、エラー検知部133とを更に備える場合、上述のように、推定エラーを迅速に検知し、モータ20の動作を迅速に正常化することができるので、条件変更部117を省略し、極性推定部118は、差分の評価結果が所定のレベルを超えているか否かに寄らず、差分の評価結果に基づいて磁極の極性を推定してもよい。
【0088】
以上、実施形態について説明したが、本開示は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0089】
1…電力変換装置、10…電力変換回路、20…モータ(電動機)、112…第1探索制御部、113…磁極位置推定部、114…条件設定部、115…第2探索制御部、116…差分評価部、117…条件変更部、118…極性推定部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9