(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】乗客コンベアの保守用具
(51)【国際特許分類】
B66B 31/00 20060101AFI20221025BHJP
B66B 31/02 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
B66B31/00 D
B66B31/02 Z
(21)【出願番号】P 2021142169
(22)【出願日】2021-09-01
【審査請求日】2022-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000236056
【氏名又は名称】三菱電機ビルソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹森 健
【審査官】加藤 三慶
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-249294(JP,A)
【文献】特開2002-68664(JP,A)
【文献】特開2011-32006(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 31/00
B66B 31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗客コンベアの手摺の帰路において前記手摺の裏側に設けられた長手方向に沿う開口の上方から前記手摺の内側に挿入され前記手摺の移動をガイドするガイドローラの前記手摺への着脱に用いられる保守用具であり、
左右方向に間隔を開けて互いに平行になるように対向する一対の拡張板と、
前記一対の拡張板の各々の上部に接続され、前記一対の拡張板を平行に保って前記一対の拡張板の間隔を変位させる変位機構と、
を備え、
前記一対の拡張板の各々の左右方向の外側の外面が前記開口の縁をなす耳部に左右方向の内側から接触し、かつ、前記一対の拡張板の各々の下端が前記手摺の内面に上方から接触することで自立する
乗客コンベアの保守用具。
【請求項2】
前記変位機構は、前記一対の拡張板の各々の前記外面の間隔が、前記開口の左右方向の通常時における幅より狭い第1間隔から、および前記開口の左右方向の通常時における幅より広い第2間隔まで変化しうるように、前記一対の拡張板の間隔を変位させる
請求項1に記載の乗客コンベアの保守用具。
【請求項3】
前記変位機構は、
前記一対の拡張板の各々の前記外面の間隔が、前記第2間隔より広がることを規制する規制部材
を備える請求項2に記載の乗客コンベアの保守用具。
【請求項4】
前記一対の拡張板の各々は、前記手摺の長手方向に沿う下端部の辺で前記手摺の内面に接触する
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の乗客コンベアの保守用具。
【請求項5】
前記一対の拡張板の各々の下端部の辺は、前後方向の端部で面取りされている
請求項4に記載の乗客コンベアの保守用具。
【請求項6】
前記一対の拡張板の各々は、前後方向に関して対称に設けられ、
前記変位機構は、前記一対の拡張板の各々の上部の前後方向の中心に接続される
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の乗客コンベアの保守用具。
【請求項7】
前記一対の拡張板の各々は、前記外面において弾性体からなる接触面が設けられ、前記接触面で前記手摺の前記耳部に接触する
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の乗客コンベアの保守用具。
【請求項8】
前記変位機構は、前記一対の拡張板の各々の上部に接続される基部を有し、前記基部は、接続される拡張板の前記外面より左右方向の外側に突出する
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の乗客コンベアの保守用具。
【請求項9】
前記変位機構は、前記一対の拡張板の間隔を変位させる操作を行う操作部を、前記一対の拡張板のいずれか一方の前記外面より外側に有し、前記操作部および当該拡張板の前記外面の左右方向における距離は、前記手摺の前記開口の縁から前記手摺の左右方向の外側までの距離より長い
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の乗客コンベアの保守用具。
【請求項10】
前記一対の拡張板の各々は、下端部における単位高さ当たりの重量が、前記耳部に前記外面が接触する部分における単位高さ当たりの重量より重い
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の乗客コンベアの保守用具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、乗客コンベアの保守用具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、エスカレーター用の手摺の着脱工具の例を開示する。着脱工具において、可動フックは、可動レバーの端部を支点として回転させることで、本体レバー上を移動するように稼働レバーに連結される。可動フックおよび本体レバー上の固定フックは、手摺の耳部に掛けられる。可動フックおよび固定フックは、可動レバーが回転操作されるときに耳部の間の間隔を広げる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エスカレーターの保守作業において、手摺の帰路において手摺の移動をガイドするガイドローラを、手摺の裏側の開口から手摺に着脱することがある。ここで、ガイドローラの着脱の際に、ガイドローラおよび手摺は固定されていないことがある。このとき、ガイドローラの着脱の作業を行う作業員は、ガイドローラおよび手摺の両方を支持する必要がある。一方、ガイドローラの着脱の作業に特許文献1の着脱工具を用いようとすると、着脱工具は可動レバーおよび本体レバーが手摺の左右方向の一方側に大きく偏って位置するため、作業員は、ガイドローラおよび手摺に加え、着脱工具も支持する必要がある。このため、2人以上の作業員が必要となり、ガイドローラの着脱作業の効率が低下する可能性がある。
【0005】
本開示は、このような課題の解決に係るものである。本開示は、ガイドローラの着脱作業の効率をより高められる乗客コンベアの保守用具を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る乗客コンベアの保守用具は、乗客コンベアの手摺の帰路において前記手摺の裏側に設けられた長手方向に沿う開口の上方から前記手摺の内側に挿入され前記手摺の移動をガイドするガイドローラの前記手摺への着脱に用いられる保守用具であり、左右方向に間隔を開けて互いに平行になるように対向する一対の拡張板と、前記一対の拡張板の各々の上部に接続され、前記一対の拡張板を平行に保って前記一対の拡張板の間隔を変位させる変位機構と、を備え、前記一対の拡張板の各々の左右方向の外側の外面が前記開口の縁をなす耳部に左右方向の内側から接触し、かつ、前記一対の拡張板の各々の下端が前記手摺の内面に上方から接触することで自立する。
【発明の効果】
【0007】
本開示に係る保守用具であれば、乗客コンベアのガイドローラの着脱作業の効率をより高められる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態1に係る乗客コンベアの構成図である。
【
図2】実施の形態1に係る手摺の長手方向に垂直な平面による断面図である。
【
図3】実施の形態1に係る保守用具の正面図である。
【
図4】実施の形態1に係る保守用具の側面図である。
【
図5】実施の形態1に係る手摺を側方から見た図である。
【
図6】実施の形態1に係る手摺および保守用具の斜視図である。
【
図7】実施の形態1に係る手摺の長手方向に垂直な平面による断面図である。
【
図8】実施の形態1に係る手摺および保守用具の斜視図である。
【
図9】実施の形態2に係る保守用具の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の対象を実施するための形態について添付の図面を参照しながら説明する。各図において、同一または相当する部分には同一の符号を付して、重複する説明は適宜に簡略化または省略する。なお、本開示の対象は以下の実施の形態に限定されることなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲において、実施の形態の任意の構成要素の変形、または実施の形態の任意の構成要素の省略が可能である。
【0010】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る乗客コンベア1の構成図である。
【0011】
乗客コンベア1は、施設に適用される。施設は、例えば屋内施設もしくは屋外施設、または複合施設などである。乗客コンベア1は、施設において乗客を乗せて輸送する装置である。この例において、施設は、複数の階床を有している。乗客コンベア1は、例えば傾斜式のエスカレーターである。乗客コンベア1は、施設の上階と下階との間において掛け渡される。このとき、乗客コンベア1は、上階および下階の間で乗客を輸送する。施設の上階側および下階側において、乗客コンベア1の乗降口2が設けられる。乗降口2は、乗客が乗客コンベア1から乗降する場所である。一方の乗降口2は、乗客が乗客コンベア1に乗り込む出発側の乗降口2である。他方の乗降口2は、乗客が乗客コンベア1から降りる到着側の乗降口2である。
【0012】
乗客コンベア1は、複数のステップ3と、一対の手摺4と、を備える。
【0013】
各々のステップ3は、図示されないモータなどが発生させる駆動力によって循環移動する機器である。各々のステップ3は、出発側の乗降口2から到着側の乗降口2まで往路を移動し、到着側の乗降口2から出発側の乗降口2まで往路より下方の帰路を移動する。複数のステップ3は、往路の傾斜部において階段状に配置される。
【0014】
各々の手摺4は、モータなどが発生させる駆動力によって循環移動する機器である。各々の手摺4は、出発側の乗降口2から到着側の乗降口2まで往路を移動し、到着側の乗降口2から出発側の乗降口2まで往路より下方の帰路を移動する。各々の手摺4は、可撓性を有する環状の部材からなる。一方の手摺4は、複数のステップ3の左側に配置される。他方の手摺4は、複数のステップ3の右側に配置される。各々の手摺4は、往路などにおいて図示されないガイドレールにガイドされながら移動する。各々の手摺4は、例えば帰路の一部において、ガイドローラ5に案内されながら移動する。ガイドローラ5は、例えば帰路の傾斜部に配置される。
【0015】
通常運転において、乗客コンベア1は、例えば一方の手摺4の表側を掴みながらいずれかのステップ3の上に立ち止まっている乗客を、モータなどが発生させる駆動力によって輸送する。このとき、各々のステップ3は、例えば予め設定された通常速度で移動する。各々の手摺4は、複数のステップ3に合わせた移動速度で循環移動する。
【0016】
図2は、実施の形態1に係る手摺4の長手方向に垂直な平面による断面図である。
図2において、帰路における手摺4の断面が示される。
【0017】
手摺4の断面形状は、C字状の形状である。手摺4の裏側において、長手方向に沿う開口6が設けられる。帰路において、開口6は上方に向けられる。手摺4において、開口6の縁をなす耳部7が左右の両側に設けられる。耳部7は、手摺4の内側および外側の境界にあたる。この例において、手摺4の内側は、キャンバスなどの布によって形成される。手摺4の外側は、ゴムなどによって形成される。
【0018】
帰路において手摺4をガイドするガイドローラ5は、開口6の上方から手摺4の内側に挿入される。ガイドローラ5の直径は、手摺4の内側の左右方向の幅より小さい。ガイドローラ5の直径は、手摺4の開口6の左右方向の通常時における幅より大きい。開口6の通常時における幅は、例えば乗客コンベア1が通常運転しているときの開口6の幅などである。開口6の通常時における幅は、例えば手摺4の幅についての設計値などであってもよい。ガイドローラ5は、乗客コンベア1の通常運転時において、アングル材などの構造物に対して固定される。構造物は、例えば乗客コンベア1のトラスなどの施設に対して固定されている機器の一部分、またはトラスなどの機器に対して固定されている部材などである。ガイドローラ5は、手摺4が左右方向にずれて移動しないように、手摺4の内側に接触して手摺4の移動をガイドする。
【0019】
ここで、乗客コンベア1の保守作業において、手摺4を交換することがある。このとき、ガイドローラ5は、手摺4に着脱される。ガイドローラ5の直径は手摺4の開口6の通常時の幅より大きいので、保守作業を行う作業員は、
図2に図示されない保守用具を用いて開口6の幅を広げることで、ガイドローラ5の手摺4への着脱の作業を行う。
【0020】
図3は、実施の形態1に係る保守用具8の正面図である。
【0021】
保守用具8は、一対の拡張板9と、変位機構10と、を備える。
【0022】
各々の拡張板9は、板状の部材である。一対の拡張板9は、互いに平行に配置される。一対の拡張板9は、左右方向に間隔を開けて配置される。各々の拡張板9は、外面11およびその裏面を有する。この例において、各々の拡張板9の外面11は、平坦な平面である。各々の拡張板9は、外面11の法線が左右方向の外側を向くように配置される。この例において、各々の拡張板9の外面11の裏面は、平坦な平面である。各々の拡張板9の外面11の裏面の法線は、左右方向の内側を向く。一対の拡張板9は、互いに外面11の裏面を向けて対向する。
【0023】
変位機構10は、一対の拡張板9の間隔を変位させる部分である。変位機構10は、一対の基部12と、回り止め13と、ボルト14と、操作部15と、規制部材16と、を備える。
【0024】
各々の基部12は、いずれかの拡張板9の上部に接続される。この例において、各々の基部12は、接続される拡張板9と一体に設けられる。基部12が一体に接続された拡張板9の組は、左右方向に関して互いに対称な形状である。各々の基部12は、接続される拡張板9の外面11より、左右方向の外側に突出する。各々の基部12において、左右方向に貫通する2つの穴が設けられる。各々の基部12において、2つの穴は、上下に並ぶ。各々の基部12において、例えば下側の穴の内側にネジ加工が施されている。
【0025】
回り止め13は、棒状の部材である。回り止め13は、各々の基部12においてネジ加工が施されていない穴に通される。ボルト14は、各々の基部12においてネジ加工が施された穴に通される。変位機構10は、ボルト14の回転によって、一対の拡張板9を平行に保って一対の拡張板9の間隔を変位させる。このとき、回り止め13によって、基部12が一体に接続された拡張板9の左右方向の周りの回転が抑えられる。変位機構10は、各々の拡張板9の外面11の間の左右方向における間隔が第1間隔から第2間隔までの範囲で変化しうるように、一対の拡張板9の間隔を変位させる。ここで、第1間隔は、開口6の左右方向の通常時における幅より狭い間隔である。また、第2間隔は、開口6の左右方向の通常時における幅より広い間隔である。第2間隔は、開口6の幅を広げる変形によって手摺4が損傷しうるような開口6の幅より、十分狭い間隔である。
【0026】
操作部15は、作業員が一対の拡張板9の間隔を変位させる操作を行う部分である。操作部15は、例えばボルト14の端部に設けられ、ボルト14を回転させるハンドルなどである。操作部15は、いずれかの拡張板9の外面11より左右方向の外側に配置される。操作部15および当該拡張板9の外面11の左右方向における距離は、手摺4の開口6の縁から手摺4の左右方向の外側の端部までの距離より長い。すなわち、操作部15は、手摺4の左右方向の外側の端部よりさらに左右方向の外側に位置するように配置される。
【0027】
規制部材16は、各々の拡張板9の外面11の間の左右方向における間隔が第2間隔より広がることを規制する部材である。規制部材16は、例えば外面11の間の間隔が第2間隔となる間隔に対応するボルト14の位置に設けられた止め輪またはピンなどである。
【0028】
図4は、実施の形態1に係る保守用具8の側面図である。
【0029】
各々の拡張板9の形状は、面取りされた矩形状の形状である。各々の拡張板9は、前後方向に関して対称な形状である。各々の拡張板9の下端部において、直線状の辺が設けられる。各々の拡張板9は、当該辺の前後方向の端部において、面取りされている。
【0030】
各々の基部12は、拡張板9の前後方向の中心に設けられる。各々の基部12の下端部の形状は、円筒面状の形状である。基部12が一体に接続された拡張板9の各々は、前後方向に関して対称な形状である。すなわち、操作部15を除いた保守用具8は、前後方向および左右方向に関して対称に設けられる。
【0031】
続いて、
図5から
図7を用いて、保守用具8を用いたガイドローラ5の手摺4への装着の作業の例を説明する。
図5は、実施の形態1に係る手摺4を側方から見た図である。
図6および
図8は、実施の形態1に係る手摺4および保守用具8の斜視図である。
図7は、実施の形態1に係る手摺4の長手方向に垂直な平面による断面図である。
【0032】
作業員は、
図5に示されるように、開口6の上方から手摺4の内側に拡張板9の下部を入れるように、帰路においてガイドローラ5が設けられる部分の近傍の手摺4上に保守用具8を置く。このとき、各々の拡張板9の外面11の間の左右方向における間隔が第1間隔の程度となるように、一対の拡張板9の間隔は変位機構10によって調整されている。基部12が左右方向の外側に突出しているので、基部12の円筒面状の部分が手摺4の耳部7の上に乗る。これにより、保守用具8は、開口6の幅を広げていないときにおいても、帰路の手摺4上に容易に安定して置かれる。
【0033】
その後、作業員は、保守用具8の上下方向が手摺4の長手方向に垂直になるように、保守用具8を起こす。このとき、保守用具8の前後方向と、手摺4の進行方向における前後方向とが一致する。各々の拡張板9は、手摺4の長手方向に沿う下端部の辺によって、手摺4の内面に上方から接触する。
【0034】
作業員は、
図6に示されるように、変位機構10の操作部15の操作によって、一対の拡張板9の間隔を広げる。一対の拡張板9の間隔が広がることで、左側の拡張板9の外面11は、左側の耳部7に右方向から接触する。右側の拡張板9の外面11は、右側の耳部7に左方向から接触する。
【0035】
図7において、手摺4の帰路において保守用具8が置かれた部分の断面が示される。
図7に示されるように、各々の拡張板9の外面11は、耳部7に左右方向の内側から接触して手摺4の開口6の幅を広げている。また、各々の拡張板9の下端部の辺は、手摺4の内面に上方から接触する。このとき、各々の拡張板9の下端部が上方から接触する手摺4の内面の部分は、当該拡張板9の外面11が左右方向の内側から接触する耳部7と異なる部分である。保守用具8は、このように手摺4に4点で接触することで自立する。
【0036】
作業員は、
図8に示されるように、固定されていないガイドローラ5を保守用具8によって幅を拡げられた開口6から手摺4の内側に挿入する。このとき、保守用具8は自立しているので、作業員は、保守用具8を支持する必要がない。このため、例えば一方の手でガイドローラ5を支持し、他方の手で手摺4を支持することなどにより、1人の作業員であってもガイドローラ5の挿入がより容易にできるようになる。作業員は、ガイドローラ5を手摺4の内側に挿入した後に、一対の拡張板9の間隔を狭める。これにより、手摺4の開口6の幅は、手摺4の弾性力などにより通常時における幅に戻る。その後、作業員は、ガイドローラ5をアングル材などの乗客コンベア1の構造物に対して固定し、ガイドローラ5の手摺4への装着の作業を完了する。
【0037】
作業員は、ガイドローラ5が複数設けられる場合に、同様の作業を繰り返し行ってもよい。あるいは、開口6の幅を広げている保守用具8の近傍から挿入したガイドローラ5を手摺4の内側で移動させることで、複数のガイドローラ5の挿入を続けて行ってもよい。また、作業員は、反対側の手摺4についても同様の作業によってガイドローラ5の挿入を行う。このとき、保守用具8は左右方向および前後方向に関して対称な形状であるので、作業員は、同一の保守用具8を用いて同様の作業を行うことができる。また、作業員は、ガイドローラ5を手摺4から取り外す場合においても、保守用具8を用いて同様の手順で手摺4の開口6の幅を広げることで、作業をより容易に行うことができる。
【0038】
以上に説明したように、実施の形態1に係る乗客コンベア1の保守用具8は、ガイドローラ5の手摺4への着脱に用いられる。ここで、手摺4は、裏側に設けられた長手方向に沿う開口6の縁をなす耳部7を有する。ガイドローラ5は、開口6の上方から手摺4の内側に挿入され手摺4の移動をガイドする。保守用具8は、一対の拡張板9と、変位機構10と、を備える。一対の拡張板9は、左右方向に間隔を開けて互いに平行になるように対向する。変位機構10は、一対の拡張板9の各々の上部に接続される。変位機構10は、一対の拡張板9を平行に保って一対の拡張板9の間隔を変位させる。保守用具8は、各々の拡張板9の左右方向の外側の外面11が手摺4の耳部7に左右方向の内側から接触し、かつ、各々の拡張板9の下端が手摺4の内面に上方から接触することで自立する。
【0039】
このような構成により、手摺4の開口6の幅を広げている保守用具8が自立するので、作業員は、保守用具8を支持する必要がない。これにより、空いた手を手摺4またはガイドローラ5などの支持に用いることで、1人の作業員であってもガイドローラ5の挿入がより容易にできるようになる。あるいは、空いた手を作業姿勢の維持などに用いることで、乗客コンベア1の傾斜部などの作業しにくい場所においても、作業性の低下を抑えられるようになる。保守用具8によって手摺4の開口6が広げられるので、ガイドローラ5の挿抜の際に作業員が力をかけて手摺4の開口6を直接広げる必要がなくなる。新しい手摺4などの硬い手摺4についても、ガイドローラ5の挿抜の作業がより容易になる。また、保守用具8は手摺4の内側に挿入可能であるようにコンパクトに設けられているので、帰路側の手摺4が通る狭い作業空間においてもより容易に手摺4の開口6の幅を広げられるようになる。このため、ガイドローラ5の着脱作業の効率がより高められるようになる。
【0040】
また、変位機構10は、各々の拡張板9の外面11の間隔が、第1間隔から第2間隔まで変化しうるように一対の拡張板9の間隔を変位させる。ここで、第1間隔は、開口6の左右方向の通常時における幅より狭い。また、第2間隔は、開口6の左右方向の通常時における幅より広い。
【0041】
このような構成により、外面11の間隔を第1間隔まで狭めることで、保守用具8の手摺4の内側への挿入が容易になる。また、手摺4の内側に挿入された保守用具8の外面11の間隔を第2間隔まで広げることで、手摺4の開口6の幅を通常時の幅より広げることができる。これにより、ガイドローラ5の着脱作業の効率がより高められるようになる。
【0042】
また、変位機構10は、規制部材16を備える。規制部材16は、各々の拡張板9の外面11の間隔が、第2間隔より広がることを規制する。
【0043】
このような構成により、拡張板9によって広げる手摺4の幅が規制されるので、開口6の幅を広げすぎることによって手摺4に損傷を与えることが防がれる。
【0044】
また、各々の拡張板9は、手摺4の長手方向に沿う下端部の辺で手摺4の内面に上方から接触する。
【0045】
このような構成により、より多くの部分で拡張板9および手摺4の内面が接触するようになるので、保守用具8の自立の安定性がより高められる。
【0046】
また、各々の拡張板9の下端部の辺は、前後方向の端部で面取りされている。
【0047】
このような構成により、拡張板9の下端部によって手摺4の内面が傷つけられにくくなる。
【0048】
また、各々の拡張板9は、前後方向に関して対称に設けられる。変位機構10は、各々の拡張板9の上部の前後方向の中心に接続される。
【0049】
このような構成により、作業員は、左右の手摺4のいずれにおいても同様の手順で保守用具8を用いた作業を行えるようになる。このため、ガイドローラ5の着脱作業の効率がより高められるようになる。また、変位機構10による保守用具8の前後方向の重量の偏りが抑えられるので、保守用具8の自立の安定性がより高められる。
【0050】
また、変位機構10は、各々の拡張板9の上部に接続される基部12を有する。基部12は、接続される拡張板9の外面11より左右方向の外側に突出する。
【0051】
このような構成により、保守用具8が手摺4上に置かれるときに、基部12が手摺4の耳部7の上に乗るようになる。これにより、保守用具8は、開口6の幅を広げていないときにおいても、帰路の手摺4上に容易に安定して置かれる。このため、開口6の幅を広げる前に保守用具8を保持しておく必要がなくなるので、ガイドローラ5の着脱作業の効率がより高められるようになる。
【0052】
また、変位機構10は、一対の拡張板9の間隔を変位させる操作を行う操作部15を、いずれかの拡張板9の外面11より外側に有する。操作部15および当該拡張板9の外面11の左右方向における距離は、手摺4の開口6の縁から手摺4の左右方向の外側までの距離より長い。
【0053】
このような構成により、作業員は、操作部15を介した変位機構10の操作を手摺4に干渉せずに行えるようになる。これにより、ガイドローラ5の着脱作業の効率がより高められるようになる。
【0054】
なお、この例において、各々の拡張板9は均一な厚さの矩形の板状部材であるため、各々の拡張板9の単位高さ当たりの重量は一定となる。一方、各々の拡張板9において、単位高さ当たりの重量は一定でなくてもよい。例えば、保守用具8がより安定に自立しうるように、各々の拡張板9において単位高さ当たりの重量を下方の部分ほど大きくすることで、保守用具8の重心を下げてもよい。例えば、各々の拡張板9は、下端部における単位高さ当たりの重量が、耳部7に外面11が接触する部分における単位高さ当たりの重量より重くなるように形成されていてもよい。例えば、各々の拡張板9は、下方に向けて前後方向の幅が広がる台形状の板状部材であってもよい。あるいは、各々の拡張板9は、下方に向けて厚さが増す板状部材であってもよい。あるいは、各々の拡張板9において、下端部の内側に錘が設けられていてもよい。
【0055】
また、保守用具8は、図示されない落下防止具を備えてもよい。落下防止具は、保守用具8が手摺4から下方に脱落することを防ぐ器具である。落下防止具は、例えば紐またはチェーンなどの線状部を有する。線状部の一端は、例えば回り止め13などの保守用具8の一部に取り付けられる。線状部の他端において、例えばクリップなどが設けられる。クリップは、例えばアングル材などの乗客コンベア1の構造物に取り付けられる。これにより、保守用具8の手摺4からの脱落が防止されるため、ガイドローラ5の着脱作業の効率の低下がより抑えられる。
【0056】
また、作業員がガイドローラ5の下側において保守用具8を用いる場合に、自立している保守用具8は、ガイドローラ5が下方に滑り落ちることを抑制するストッパの役割を果たす。このとき、ガイドローラ5が滑り落ちることなどによる工程の無駄が生じにくくなるので、ガイドローラ5の着脱作業の効率の低下がより抑えられる。
【0057】
また、乗客コンベア1は、傾斜式のエスカレーターでなくてもよい。乗客コンベア1は、例えば動く歩道、または動くスロープなどであってもよい。
【0058】
実施の形態2.
実施の形態2において、実施の形態1で開示される例と相違する点について特に詳しく説明する。実施の形態2で説明しない特徴については、実施の形態1で開示される例のいずれの特徴が採用されてもよい。
【0059】
図9は、実施の形態2に係る保守用具8の側面図である。
【0060】
各々の拡張板9の外面11において、弾性体からなる接触面17が設けられる。接触面17は、例えばゴムシートなどからなる。接触面17は、外面11のうち耳部7に接触する部分に設けられる。接触面17は、例えば外面11のうちの耳部7に接触する高さの部分に帯状に設けられる。各々の拡張板9は弾性体からなる接触面17で手摺4の耳部7に接触するようになるので、保守用具8との接触によって手摺4に傷がつきにくくなる。なお、接触面17は、各々の拡張板9の外面11全体に設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0061】
1 乗客コンベア、 2 乗降口、 3 ステップ、 4 手摺、 5 ガイドローラ、 6 開口、 7 耳部、 8 保守用具、 9 拡張板、 10 変位機構、 11 外面、 12 基部、 13 回り止め、 14 ボルト、 15 操作部、 16 規制部材、 17 接触面
【要約】 (修正有)
【課題】ガイドローラの着脱作業の効率をより高められる乗客コンベアの保守用具を提供する。
【解決手段】乗客コンベアの保守用具8は、ガイドローラ5の手摺への着脱に用いられる。ここで、手摺は、裏側に設けられた長手方向に沿う開口6の縁をなす耳部7を有する。ガイドローラ5は、開口6の上方から手摺の内側に挿入され手摺の移動をガイドする。保守用具8は、一対の拡張板9と、変位機構10と、を備える。一対の拡張板9は、左右方向に間隔を開けて互いに平行になるように対向する。変位機構10は、一対の拡張板9の各々の上部に接続される。変位機構10は、一対の拡張板9を平行に保って一対の拡張板9の間隔を変位させる。保守用具8は、各々の拡張板9の左右方向の外側の外面11が手摺の耳部7に左右方向の内側から接触し、かつ、各々の拡張板9の下端が手摺の内面に上方から接触することで自立する。
【選択図】
図8