(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】乗客コンベアの手摺の保持具および乗客コンベアの手摺の駆動シーブの設置方法
(51)【国際特許分類】
B66B 31/00 20060101AFI20221025BHJP
B66B 23/04 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
B66B31/00 D
B66B23/04 C
(21)【出願番号】P 2021142380
(22)【出願日】2021-09-01
【審査請求日】2022-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000236056
【氏名又は名称】三菱電機ビルソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹森 健
【審査官】太田 義典
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-270677(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105197753(CN,A)
【文献】特開2012-171699(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 21/00-31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗客コンベアの手摺の左右方向の幅より各々の左右方向の幅が広く、上下方向に間隔をあけて互いに平行に設けられ、上下方向にあけられた間隔に前記手摺を挟み込んで保持する一対の保持板と、
前記一対の保持板の間隔を変化させることで、前記一対の保持板による前記手摺の保持の強さを調整する調整部と、
を備え、
前記手摺の帰路において前記手摺の長手方向に垂直な方向から前記手摺に面する構造物に前記手摺の長手方向の一方側から接触することで、前記一対の保持板が保持している前記手摺の部分の、前記構造物の他方側への移動を制限する
乗客コンベアの手摺の保持具。
【請求項2】
前記一対の保持板の少なくとも一方は、左右方向の端部において前記構造物に接触することで、前記一対の保持板が保持している前記手摺の部分の、前記構造物の他方側への移動を制限する
請求項1に記載の乗客コンベアの手摺の保持具。
【請求項3】
前記一対の保持板の各々は、上下方向の内側の面に弾性体からなる接触面を有する
請求項1または請求項2に記載の乗客コンベアの手摺の保持具。
【請求項4】
前記調整部は、ボルトおよびナットを有し、前記ボルトおよび前記ナットの締結によって前記一対の保持板の間隔を変化させる
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の乗客コンベアの手摺の保持具。
【請求項5】
前記一対の保持板の各々において、左右方向の端部に貫通部が設けられ、
前記ボルトは、前記一対の保持板の各々の前記貫通部に頭部を下にして下方から上方に通され、
前記ナットは、前記一対の保持板の上側において前記ボルトに取り付けられる
請求項4に記載の乗客コンベアの手摺の保持具。
【請求項6】
前記貫通部は、上下方向に垂直な方向から前記ボルトを挿入可能な切欠きである
請求項5に記載の乗客コンベアの手摺の保持具。
【請求項7】
上階および下階の間に掛け渡される傾斜式の乗客コンベアの手摺の帰路側において、前記手摺を下方に曲げて湾曲部を形成する曲げ工程と、
前記曲げ工程より後に、前記手摺の前記湾曲部より下階側の部分に、前記手摺を保持する下階側保持具を取り付ける下階側保持工程と、
前記下階側保持工程より後に、前記手摺の帰路において前記手摺の長手方向に垂直な方向から前記手摺に面する下階側構造物に前記手摺の長手方向の上階側から前記下階側保持具を接触させることで、前記下階側保持具に保持されている前記手摺の部分の、前記下階側構造物の下階側への移動を制限させる下階側制限工程と、
前記下階側制限工程より後に、前記下階側保持具によって維持されている前記湾曲部に、前記手摺を駆動する駆動シーブを設置する設置工程と、
前記設置工程より後に、前記下階側保持具を前記手摺から取り外す下階側撤去工程と、
を備える乗客コンベアの手摺の駆動シーブの設置方法。
【請求項8】
前記手摺の前記湾曲部より上階側の部分に、前記手摺を保持する上階側保持具を取り付ける上階側保持工程と、
前記上階側保持工程より後かつ前記設置工程より前に、前記手摺の帰路の前記下階側構造物より上階側において前記手摺の長手方向に垂直な方向から前記手摺に面する上階側構造物に前記手摺の長手方向の下階側から前記上階側保持具を接触させることで、前記上階側保持具に保持されている前記手摺の部分の、前記上階側構造物の上階側への移動を制限させる上階側制限工程と、
前記設置工程より後に、前記上階側保持具を前記手摺から取り外す上階側撤去工程と、
を備える請求項7に記載の乗客コンベアの手摺の駆動シーブの設置方法。
【請求項9】
前記上階側制限工程は、前記曲げ工程より前の工程である
請求項8に記載の乗客コンベアの手摺の駆動シーブの設置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、乗客コンベアの手摺の保持具および乗客コンベアの手摺の駆動シーブの設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、乗客コンベアの例を開示する。乗客コンベアは、手摺および手摺の駆動シーブを備える。駆動シーブは、手摺の帰路において下方に曲げられた手摺の湾曲部に設置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1などの乗客コンベアの保守作業において、一度取り外した駆動シーブ、または新設の駆動シーブを設置することがある。駆動シーブは手摺の湾曲部に設置されるので、駆動シーブの設置作業の間、手摺の自重などによって手摺の湾曲部が伸びないように湾曲部を維持する必要がある。保守作業を行う作業員が手摺を人手で保持して湾曲部を維持する場合に、駆動シーブの設置作業を行う作業員の他に手摺を保持する作業員が必要となり、乗客コンベアの保守作業の効率が低下する可能性がある。
【0005】
本開示は、このような課題の解決に係るものである。本開示は、乗客コンベアの保守作業の効率をより高められる手摺の保持具および手摺の駆動シーブの設置方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る乗客コンベアの手摺の保持具は、乗客コンベアの手摺の左右方向の幅より各々の左右方向の幅が広く、上下方向に間隔をあけて互いに平行に設けられ、上下方向にあけられた間隔に前記手摺を挟み込んで保持する一対の保持板と、前記一対の保持板の間隔を変化させることで、前記一対の保持板による前記手摺の保持の強さを調整する調整部と、を備え、前記手摺の帰路において前記手摺の長手方向に垂直な方向から前記手摺に面する構造物に前記手摺の長手方向の一方側から接触することで、前記一対の保持板が保持している前記手摺の部分の、前記構造物の他方側への移動を制限する。
【0007】
本開示に係る乗客コンベアの手摺の駆動シーブの設置方法は、上階および下階の間に掛け渡される傾斜式の乗客コンベアの手摺の帰路側において、前記手摺を下方に曲げて湾曲部を形成する曲げ工程と、前記曲げ工程より後に、前記手摺の前記湾曲部より下階側の部分に、前記手摺を保持する下階側保持具を取り付ける下階側保持工程と、前記下階側保持工程より後に、前記手摺の帰路において前記手摺の長手方向に垂直な方向から前記手摺に面する下階側構造物に前記手摺の長手方向の上階側から前記下階側保持具を接触させることで、前記下階側保持具に保持されている前記手摺の部分の、前記下階側構造物の下階側への移動を制限させる下階側制限工程と、前記下階側制限工程より後に、前記下階側保持具によって維持されている前記湾曲部に、前記手摺を駆動する駆動シーブを設置する設置工程と、前記設置工程より後に、前記下階側保持具を前記手摺から取り外す下階側撤去工程と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係る手摺の保持具または手摺の駆動シーブの設置方法によれば、乗客コンベアの保守作業の効率がより高められる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態1に係る乗客コンベアの構成図である。
【
図3】実施の形態1に係る乗客コンベアの側面図である。
【
図4】実施の形態1に係る乗客コンベアの側面図である。
【
図5】実施の形態1に係る乗客コンベアの側面図である。
【
図6】実施の形態1に係る乗客コンベアの要部拡大図である。
【
図7】実施の形態1に係る乗客コンベアの要部拡大図である。
【
図8】実施の形態1に係る乗客コンベアの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の対象を実施するための形態について添付の図面を参照しながら説明する。各図において、同一または相当する部分には同一の符号を付して、重複する説明は適宜に簡略化または省略する。なお、本開示の対象は以下の実施の形態に限定されることなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲において、実施の形態の任意の構成要素の変形、または実施の形態の任意の構成要素の省略が可能である。
【0011】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る乗客コンベア1の構成図である。
【0012】
乗客コンベア1は、施設に適用される。施設は、例えば屋内施設もしくは屋外施設、または複合施設などである。乗客コンベア1は、施設において乗客を乗せて輸送する装置である。この例において、施設は、複数の階床を有している。乗客コンベア1は、例えば傾斜式のエスカレーターである。乗客コンベア1は、施設の上階と下階との間において掛け渡される。このとき、乗客コンベア1は、上階および下階の間で乗客を輸送する。施設の上階側および下階側において、乗客コンベア1の乗降口2が設けられる。乗降口2は、乗客が乗客コンベア1から乗降する場所である。一方の乗降口2は、乗客が乗客コンベア1に乗り込む出発側の乗降口2である。他方の乗降口2は、乗客が乗客コンベア1から降りる到着側の乗降口2である。
【0013】
乗客コンベア1は、複数のステップ3と、一対の手摺4と、一対の駆動シーブ5と、を備える。
【0014】
各々のステップ3は、図示されないモータなどが発生させる駆動力によって循環移動する機器である。各々のステップ3は、出発側の乗降口2から到着側の乗降口2まで往路を移動し、到着側の乗降口2から出発側の乗降口2まで往路より下方の帰路を移動する。複数のステップ3は、往路の傾斜部において階段状に配置される。
【0015】
各々の手摺4は、乗客コンベア1において循環移動する機器である。各々の手摺4は、出発側の乗降口2から到着側の乗降口2まで往路を移動し、到着側の乗降口2から出発側の乗降口2まで往路より下方の帰路を移動する。各々の手摺4は、可撓性を有する環状の部材からなる。一方の手摺4は、複数のステップ3の左側に配置される。他方の手摺4は、複数のステップ3の右側に配置される。各々の手摺4は、往路などにおいてガイドレール6にガイドされながら移動する。各々の手摺4は、例えば帰路の傾斜部などにおいて、ガイドローラ7などに案内されながら移動する。ガイドローラ7は、乗客コンベア1の通常運転時において、アングル材などの構造物8に対して固定される。当該構造物8は、手摺4の長手方向に垂直な方向から手摺4に面するように配置される。ここで、構造物8は、例えば乗客コンベア1のトラスなどの施設に対して固定されている機器の一部分、またはトラスなどの機器に対して固定されている部材などである。
【0016】
各々の駆動シーブ5は、複数のステップ3を駆動するモータなどが発生させる駆動力によって回転する機器である。各々の駆動シーブ5は、いずれかの手摺4に対応する。各々の駆動シーブ5は、対応する手摺4が循環移動しうるように回転によって当該手摺4を駆動する機器である。右側の手摺4に対応する駆動シーブ5は、複数のステップ3の右側に配置される。左側の手摺4に対応する駆動シーブ5は、複数のステップ3の左側に配置される。各々の駆動シーブ5は、対応する手摺4の帰路において下方に曲げられた湾曲部9に設置される。ここで、手摺4の湾曲部9は、例えばガイドローラ7より上階側に設けられている。
【0017】
乗客コンベア1において、安全装置10が設けられる。安全装置10は、例えば手摺4の移動速度が複数のステップ3に同期する通常の移動速度から逸脱する場合に乗客コンベア1を停止させるHSS(Handrail Speed Safety device)などである。ガイドローラ7は、乗客コンベア1の通常運転時において、アングル材などの構造物8に対して固定される。当該構造物8は、手摺4の長手方向に垂直な方向から手摺4に面するように配置される。この例において、安全装置10は、手摺4の湾曲部9より上階側に設けられている。
【0018】
通常運転において、乗客コンベア1は、例えば一方の手摺4を掴みながらいずれかのステップ3の上に立ち止まっている乗客を、モータなどが発生させる駆動力によって輸送する。このとき、各々のステップ3は、例えば予め設定された通常速度で移動する。各々の手摺4は、複数のステップ3に合わせた移動速度で循環移動する。
【0019】
ここで、乗客コンベア1の保守作業において、手摺4を交換することがある。このとき、駆動シーブ5が取り外された後に、古い手摺4が撤去される。その後、保守作業を行う作業員は、乗客コンベア1に新しい手摺4を搬入する。作業員は、新しい手摺4において形成した湾曲部9に駆動シーブ5を設置する。なお、ここで設置される駆動シーブ5は、取り外された既設の駆動シーブ5、または新設の駆動シーブ5のいずれであってもよい。このとき、作業員は、
図1に図示されない保持具を用いて、手摺4の帰路に形成した湾曲部9を維持しながら駆動シーブ5の設置作業を行う。
【0020】
図2は、実施の形態1に係る保持具11の斜視図である。
【0021】
保持具11は、一対の保持板12と、調整部13と、を備える。
【0022】
各々の保持板12は、板状の部材である。各々の保持板12は、複数の金属板などの板材によって形成されていてもよい。この例において、各々の保持板12は、左右方向を長手方向とする。各々の保持板12の左右方向の幅は、手摺4の左右方向の幅より広い。一対の保持板12は、互いに平行に配置される。一対の保持板12は、上下方向に間隔を開けて配置される。各々の保持板12は、内面および外面を有する。この例において、各々の保持板12の内面は、平坦な平面である。各々の保持板12は、内面の法線が上下方向において互いに向き合うように配置される。すなわち、一対の保持板12は、互いに内面を向けて対向する。この例において、各々の保持板12の外面は、平坦な平面である。各々の保持板12の外面の法線は、上下方向において互いの反対側に向けられる。各々の保持板12の内面において、弾性体からなる接触面14が設けられる。接触面14は、例えばゴムシートなどからなる。接触面14は、各々の保持板12の内面の中央部に設けられる。各々の保持板12において、左右方向の端部の一方または両方に貫通部15が設けられる。この例において、各々の保持板12の左右方向の両端部に貫通部15が設けられる。貫通部15は、例えば貫通孔である。なお、貫通部15は、切欠きであってもよい。
【0023】
調整部13は、一対の保持板12の間隔を変化させる部分である。調整部13は、ボルト16およびナット17の組を一対備える。一方のボルト16は、頭部を下にして、下方から上方に向けて両方の保持板12の左側の貫通部15に通される。他方のボルト16は、頭部を下にして、下方から上方に向けて両方の保持板12の右側の貫通部15に通される。各々のナット17は、上側の保持板12の上方から、対応するボルト16に取り付けられる。調整部13は、ボルト16およびナット17の締結によって一対の保持板12の間隔を変化させる。
【0024】
続いて、
図3から
図8を用いて、駆動シーブ5の設置作業を含む手摺4の交換作業の例を説明する。この例において、駆動シーブ5の交換もあわせて行われる。ここで、一方の手摺4についての作業を例として説明する。作業員は、左右の手摺4についての作業を並行して行ってもよいし、左右の手摺4についての作業を順次行ってもよい。
図3から
図5、および
図8は、実施の形態1に係る乗客コンベア1の側面図である。
図6および
図7は、実施の形態1に係る乗客コンベア1の要部拡大図である。
【0025】
手摺4の交換作業において、作業員は、
図3に示されるように、古い駆動シーブ5を手摺4の湾曲部9から取り外す。その後、作業員は、古い手摺4を乗客コンベア1から撤去する。
【0026】
その後、作業員は、
図4に示されるように、新しい手摺4を乗客コンベア1に搬入する。作業員は、搬入した新しい手摺4を、乗客コンベア1に設けられた一部のローラなどに掛けることで、傾斜部にわたって配置する。作業員は、往路のガイドレール6にはまだ手摺4を装着しない。このとき、新しい手摺4は、帰路において自重によって下階側に偏る。これにより、駆動シーブ5を設置する帰路の箇所において、湾曲部9の曲げが小さくなる。
【0027】
その後、作業員は、曲げ工程の作業を行う。曲げ工程において、作業員は、
図5に示されるように、下階側に偏っている手摺4を、上階側に引き上げる。このとき、手摺4は、複数の作業員によって引き上げられてもよい。これにより、手摺4を引き上げている作業員より上階側において、手摺4が下方に撓んで湾曲部9が形成される。なお、例えば湾曲部9の曲げが小さい場合に、作業員は、湾曲部9を直接押し下げることなどによって曲げの大きさの調整を行ってもよい。
【0028】
その後、作業員は、下階側保持工程および上階側保持工程の作業を行う。下階側保持工程は、手摺4の湾曲部9より下階側の部分に保持具11を取り付ける工程である。上階側保持工程は、手摺4の湾曲部9より上階側の部分に他の保持具11を取り付ける工程である。手摺4の湾曲部9より下階側の部分に取り付けられた保持具11は、下階側保持具の例である。手摺4の湾曲部9より上階側の部分に取り付けられた保持具11は、上階側保持具の例である。
【0029】
下階側保持工程において、作業員は、下階側の保持具11の調整部13のナット17を対応するボルト16から取り外すことで、上側の保持板12を取り外す。作業員は、手摺4の下方から、ボルト16が取り付けられている他方の保持板12を当てる。作業員は、手摺4の上方から、上側の保持板12を被せることで、一対の保持板12の間の上下方向の間隔に手摺4を挟み込む。作業員は、調整部13のナット17を対応するボルト16に締結することで、一対の保持板12の上下方向の間隔を調整する。作業員は、ボルト16およびナット17の締結によって、一対の保持板12が手摺4を挟み込むことで保持する保持の強さを調整する。作業員は、一対の保持板12に挟み込まれることによる手摺4の変形が過度にならない範囲で、保持具11に対して手摺4が長手方向に移動しないように保持の強さを調整する。上階側保持工程においても同様の手順によって、作業員は、上階側の保持具11を手摺4に取り付ける。なお、作業員は、下階側保持工程および上階側保持工程のいずれの作業を先に行ってもよい。作業員は、下階側保持工程および上階側保持工程の作業を並行して行ってもよい。
【0030】
その後、作業員は、下階側制限工程および上階側制限工程の作業を行う。下階側制限工程は、下階側保持工程で手摺4に取り付けた保持具11によって、当該保持具11が取り付けられた手摺4の部分の下階側への移動を制限する工程である。上階側制限工程は、上階側保持工程で手摺4に取り付けた保持具11によって、当該保持具11が取り付けられた手摺4の部分の上階側への移動を制限する工程である。なお、作業員は、下階側制限工程および上階側制限工程のいずれの作業を先に行ってもよい。作業員は、下階側制限工程および上階側制限工程の作業を並行して行ってもよい。また、作業員は、下階側保持工程より後であれば、上階側保持工程より前に下階側制限工程の作業を行ってもよい。あるいは、作業員は、上階側保持工程より後であれば、下階側保持工程より前に上階側制限工程の作業を行ってもよい。
【0031】
下階側制限工程において、作業員は、
図6に示されるように、下階側保持工程で手摺4に取り付けた保持具11の上側の保持板12を、手摺4の長手方向に垂直な方向から手摺4に面するように配置された構造物8に、手摺4の長手方向の上階側から当てる。このとき、保持板12の左右方向の端部は、当該構造物8に接触している。当該構造物8に接触している保持具11は手摺4が長手方向に移動しないように保持しているので、当該保持具11が取り付けられた手摺4の部分の下階側への移動が制限される。当該構造物8は、例えばガイドローラ7を固定するアングル材などである。このとき、ガイドローラ7は当該構造物8から取り外されている。当該構造物8は、下階側構造物の例である。
【0032】
上階側制限工程において、作業員は、
図7に示されるように、上階側保持工程で手摺4に取り付けた保持具11の上側の保持板12を、手摺4の長手方向に垂直な方向から手摺4に面するように配置された構造物8に、手摺4の長手方向の下階側から当てる。このとき、保持板12の左右方向の端部は、当該構造物8に接触している。当該構造物8に接触している保持具11は手摺4が長手方向に移動しないように保持しているので、当該保持具11が取り付けられた手摺4の部分の上階側への移動が制限される。当該構造物8は、例えば安全装置10を固定するアングル材などである。このとき、安全装置10は当該構造物8から取り外されている。当該構造物8は、上階側構造物の例である。
【0033】
下階側制限工程および上階側制限工程によって、
図8に示されるように、手摺4の湾曲部9の下階側および上階側において、手摺4の長手方向の移動が制限される。これにより、手摺4の湾曲部9は手摺4の自重などによって伸びないように維持される。保持具11によって湾曲部9が維持されているので、作業員は、手摺4を人手で保持して湾曲部9を維持する必要がない。このため、曲げ工程において手摺4を引き上げた作業員は、駆動シーブ5の設置作業もしくはその補助作業、または保守点検におけるその他の作業などを行うことができる。
【0034】
その後、作業員は、駆動シーブ5の設置工程の作業を行う。設置工程は、湾曲部9に駆動シーブ5を設置する工程である。設置工程の作業は、駆動シーブ5の配置および取付けなどの設置作業を含む。
【0035】
その後、作業員は、下階側撤去工程および上階側撤去工程の作業を行う。下階側撤去工程は、下階側撤去工程で取り付けた保持具11を手摺4から取り外す工程である。上階側撤去工程は、上階側撤去工程で取り付けた保持具11を手摺4から取り外す工程である。下階側撤去工程および下階側撤去工程において、作業員は、例えば手摺4に取り付けるときと逆の手順によって保持具11を手摺4から取り外す。なお、作業員は、下階側撤去工程および上階側撤去工程のいずれの作業を先に行ってもよい。作業員は、下階側撤去工程および上階側撤去工程の作業を並行して行ってもよい。
【0036】
このように手摺4の駆動シーブ5を設置した後、作業員は、往路のガイドレール6への新しい手摺4の装着、ガイドローラ7の取付け、および安全装置10の取付けなどの作業を行う。
【0037】
以上に説明したように、実施の形態1に係る保持具11は、一対の保持板12と、調整部13と、を備える。各々の保持板12の左右方向の幅は、乗客コンベア1の手摺4の左右方向の幅より広い。一対の保持板12は、上下方向に間隔をあけて互いに平行に設けられる。一対の保持板12は、上下方向にあけられた間隔に手摺4を挟み込んで保持する。調整部13は、一対の保持板12の間隔を変化させることで、一対の保持板12による手摺4の保持の強さを調整する。保持具11は、構造物8に手摺4の長手方向の一方側から接触することで、一対の保持板12が保持している手摺4の部分の、当該構造物8の他方側への移動を制限する。当該構造物8は、手摺4の帰路において手摺4の長手方向に垂直な方向から手摺4に面する。
また、実施の形態1に係る駆動シーブ5の設置方法は、曲げ工程と、下階側保持工程と、下階側制限工程と、設置工程と、下階側撤去工程と、を備える。当該設置方法は、上階および下階の間に掛け渡される傾斜式の乗客コンベア1に適用される。曲げ工程は、手摺4の帰路側において、手摺4を下方に曲げて湾曲部9を形成する工程である。下階側保持工程は、手摺4の湾曲部9より下階側の部分に、手摺4を保持する保持具11を取り付ける工程である。下階側保持工程は、曲げ工程より後の工程である。下階側制限工程は、下階側の構造物8に、手摺4の長手方向の上階側から、下階側保持工程で手摺4に取り付けられた保持具11を接触させることで、当該保持具11に保持されている手摺4の部分の当該構造物8の下階側への移動を制限させる工程である。当該構造物8は、手摺4の帰路において手摺4の長手方向に垂直な方向から手摺4に面する。下階側制限工程は、下階側保持工程より後の工程である。設置工程は、保持具11によって維持されている湾曲部9に、手摺4を駆動する駆動シーブ5を設置する工程である。設置工程は、下階側制限工程より後の工程である。下階側撤去工程は、下階側保持工程で手摺4に取り付けられた保持具11を手摺4から取り外す工程である。下階側撤去工程は、設置工程より後の工程である。
【0038】
このような構成により、人手での手摺4の保持によって湾曲部9を維持する必要がなくなる。このため、曲げ工程などにおいて複数の作業員が参加する場合においても、いずれかの作業員がその後の駆動シーブ5の設置作業を行っている間に、他の作業員は他の保守作業などを行うことができるようになる。これにより、乗客コンベア1の保守作業の効率がより高められる。また、他の作業員は、駆動シーブ5の設置作業の補助を行うこともできる。一般に駆動シーブ5は重量物であるため、補助者の参加によって駆動シーブ5の設置作業自体の効率も高められる。また、湾曲部9を維持するため人手で長時間手摺4を保持する必要がないので、手摺4の重量などによっては、曲げ工程における手摺4の引き上げなどの作業を一人の作業員で行える場合もある。このような場合に、保守作業に必要な人員を最小限にすることができるようになる。また、湾曲部9は、保持具11で保持されているので、駆動シーブ5の設置作業の間、安定している。また、作業員が人手で維持する場合において、駆動シーブ5の設置作業の間、作業員の疲労などによって湾曲部9が変形することがあった。このとき、設置作業を行っている作業員は、手摺4を保持している作業員に声かけなどを行うことで手摺4の引き上げ量を調整させていた。ここで、手摺4を保持している作業員から湾曲部9が目視できない場合、設置作業を行っている作業員からの声かけのみに頼って引き上げ量の調整が行われるので、引き上げ量の調整に手間がかかることがあった。一方、保持具11を用いて湾曲部9を維持することで、駆動シーブ5の設置作業の間、湾曲部9が変形せずに安定するようになる。このため、駆動シーブ5の設置作業の効率がより高められる。また、保持具11は簡単でコンパクトな構成であるので、帰路などの狭い作業空間であっても手摺4の保持などの作業がより容易にできるようになる。
【0039】
また、少なくとも一方の保持板12は、左右方向の端部において長手方向の一方側から構造物8に接触することで、一対の保持板12が保持している手摺4の部分の、当該構造物8の他方側への移動を制限する。例えば、保持板12の中心から構造物8に接触する部分までの左右方向における長さは、手摺4の中心から当該構造物8までの左右方向における長さより長い。
【0040】
このような構成により、作業員は、保持板12を構造物8に当てる簡単な作業によって手摺4の移動を制限できるようになる。乗客コンベア1の保守作業の効率がより高められる。
【0041】
また、各々の保持板12は、上下方向の内側の面に弾性体からなる接触面14を有する。
【0042】
このような構成により、手摺4の保持板12に保持される部分に傷などがつきにくくなる。
【0043】
また、調整部13は、ボルト16およびナット17を有する。調整部13は、ボルト16およびナット17の締結によって一対の保持板12の間隔を変化させる。
【0044】
このような構成により、作業員は、保持板12による保持の強さを容易に調整できるようになる。また、作業員は、ボルト16およびナット17の締結の手応えによって保持の強さの感覚を得ることができるので、保持を強め過ぎることによる手摺4の損傷を抑えられる。
【0045】
また、各々の保持板12において、左右方向の端部に貫通部15が設けられる。ボルト16は、各々の保持板12の貫通部15に頭部を下にして下方から上方に通される。ナット17は、一対の保持板12の上側においてボルト16に取り付けられる。
【0046】
このような構成により、作業員は、手摺4の上方から締結の作業を行うことができるようになる。このため、保持具11を手摺4に取り付ける作業の作業性がより高められる。
【0047】
また、実施の形態1に係る駆動シーブ5の設置方法は、上階側保持工程と、上階側制限工程と、上階側撤去工程と、を備える。上階側保持工程は、手摺4の湾曲部9より上階側の部分に、手摺4を保持する保持具11を取り付ける工程である。上階側制限工程は、上階側の構造物8に、手摺4の長手方向の下階側から、上階側保持工程で手摺4に取り付けられた保持具11を接触させることで、当該保持具11に保持されている手摺4の部分の当該構造物8の上階側への移動を制限させる工程である。当該構造物8は、下階側保持工程で手摺4に取り付けられた保持具11が接触する構造物8より上階側の手摺4の帰路において、手摺4の長手方向に垂直な方向から手摺4に面する。上階側制限工程は、上階側保持工程より後、かつ、設置工程より前の工程である。上階側撤去工程は、上階側保持工程で手摺4に取り付けられた保持具11を手摺4から取り外す工程である。上階側撤去工程は、設置工程より後の工程である。
【0048】
手摺4の湾曲部9より下階側の部分の移動が下階側の手摺4によって制限されていても、手摺4の往路に近い側が自重によって下階側に偏ると、手摺4の湾曲部9より上階側の部分が引き上げられることで、湾曲部9の曲げが小さくなる可能性がある。これに対し、手摺4の湾曲部9より上階側の部分の移動が上階側の保持具11によって制限されるので、手摺4の湾曲部9より上階側の部分の引き上げによる湾曲部9の伸びが抑えられるようになる。これにより、湾曲部9がより安定に維持されるようになるので、駆動シーブ5の設置作業の効率がより高められる。なお、駆動シーブ5の設置作業の間において、手摺4は乗客コンベア1に設けられた一部のローラなどに掛けられているので、乗客コンベア1の構成および手摺4の重量などの条件によっては、手摺4は容易に移動しない場合もある。このような場合に、手摺4の湾曲部9より上階側の部分の引き上げによる湾曲部9の伸びの影響を考慮する必要がないこともある。このとき、作業員は、保守作業の簡略化などのため、湾曲部9より上階側の部分において保持具11を使用しなくてもよい。
【0049】
なお、上階側制限工程は、曲げ工程より前の工程であってもよい。
【0050】
このような構成により、曲げ工程の間に手摺4の湾曲部9より上階側の部分の引き上げによる湾曲部9の伸びが抑えられるようになるので、作業員は、湾曲部9をより容易に形成できるようになる。これにより、乗客コンベア1の保守作業の効率がより高められる。
【0051】
また、貫通部15は、保持具11の上下方向に垂直な方向からボルト16を挿入可能な切欠きであってもよい。
【0052】
このような構成により、ボルト16およびナット17を完全に分離することなく貫通部15に挿入できるようになる。このため、作業中にボルト16またはナット17を取り落とす可能性が抑えられる。これにより、乗客コンベア1の保守作業の効率が低下しにくくなる。
【0053】
また、保持具11は、構造物8に接触する制限部を、一対の保持板12と別体に備えていてもよい。制限部は、構造物8に手摺4の長手方向の一方側から接触することで、一対の保持板12が保持している手摺4の部分の当該構造物8の他方側への移動を制限する部分である。制限部は、例えば、いずれかの保持板12の左右方向の端部に固定される部材などである。あるいは、制限部は、構造物8の一方側に接触して掛けられるフックを含む部分であってもよい。このとき、一対の保持板12は、構造物8の他方側に配置されている。フックおよび一対の保持板12は、ロープ、バンド、ワイヤ、またはチェーンなどの線状の部材によって接続されている。一対の保持板12に保持される手摺4の部分は、構造物8の一方側に掛けられたフックおよび一対の保持板12を接続する線状の部材における張力によって、当該構造物8の他方側への移動が制限される。
【0054】
また、調整部13は、一対の保持板12による十分な保持の強さを確保できる場合に、保持板12の左右方向の一端のみに設けられるものであってもよい。例えば、保持板12の剛性が十分高い場合などに、保持板12による保持の強さが確保される。あるいは、一対の保持板12の間の調整部13の周りの回転が制限される場合などに、保持板12による保持の強さが確保される。例えば、各々の保持板12において、調整部13が設けられる側の端部に貫通孔などが設けられる。当該貫通孔に、棒状部材などの回り止めが上下方向から通される。回り止めが通されていることによって、一対の保持板12の間の調整部13の周りの上下方向を軸とした回転が制限される。これにより、保持板12が回転することによる保持の強さの低下が抑えられる。
【0055】
また、調整部13のナット17は、蝶ナットなどの工具を用いずに締結できるものであってもよい。あるいは、調整部13は、ナット17に代えて、工具を用いずに締結できるハンドルなどを有していてもよい。これにより、乗客コンベア1の保守作業の作業性がより高められる。
【0056】
また、調整部13のボルト16は、保持板12による保持の強さを調整するナット17の他のナットなどによって、下側の保持板12に固定されていてもよい。これにより、作業中にボルト16を取り落とす可能性が抑えられる。
【0057】
また、保持具11は、ボルト16およびナット17などの部品の脱落を防止する落下防止具を備えていてもよい。落下防止具は、例えば、ボルト16およびナット17などの部品と、いずれかの保持板12とを接続するロープ、バンド、ワイヤ、またはチェーンなどの線状の部材である。
【0058】
また、保持具11およびこれを用いて駆動シーブ5を設置する方法は、手摺4を交換せずに駆動シーブ5のみを交換する作業についても適用できる。また、保持具11およびこれを用いて駆動シーブ5を設置する方法は、いずれの部品も交換しない、例えば分解点検などの作業についても適用できる。
【0059】
また、乗客コンベア1は、例えば傾斜式の動くスロープなどであってもよい。
【符号の説明】
【0060】
1 乗客コンベア、 2 乗降口、 3 ステップ、 4 手摺、 5 駆動シーブ、 6 ガイドレール、 7 ガイドローラ、 8 構造物、 9 湾曲部、 10 安全装置、 11 保持具、 12 保持板、 13 調整部、 14 接触面、 15 貫通部、 16 ボルト、 17 ナット
【要約】 (修正有)
【課題】乗客コンベアの保守作業の効率をより高められる手摺の保持具および手摺の駆動シーブの設置方法を提供する。
【解決手段】保持具11は、一対の保持板12と、調整部13と、を備える。各々の保持板12の左右方向の幅は、乗客コンベアの手摺の左右方向の幅より広い。一対の保持板12は、上下方向に間隔をあけて互いに平行に設けられる。一対の保持板12は、上下方向にあけられた間隔に手摺を挟み込んで保持する。調整部13は、一対の保持板12の間隔を変化させることで、一対の保持板12による手摺の保持の強さを調整する。保持具11は、構造物に手摺の長手方向の一方側から接触することで、一対の保持板12が保持している手摺の部分の、当該構造物の他方側への移動を制限する。当該構造物は、手摺の帰路において手摺の長手方向に垂直な方向から手摺に面する。
【選択図】
図2