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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】冷却装置
(51)【国際特許分類】
   F28D 15/06 20060101AFI20221025BHJP
【FI】
F28D15/06 D
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021506814
(86)(22)【出願日】2019-03-15
(86)【国際出願番号】 JP2019010937
(87)【国際公開番号】W WO2020188651
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-07-14
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2015年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「航空機用先進システム実用化プロジェクト/次世代空調システム研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】関本 峻介
【審査官】原 泰造
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-198019(JP,A)
【文献】特開2006-29672(JP,A)
【文献】特開平5-90777(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機を用いずに蒸発潜熱を利用して冷却を行う冷却装置であって、
冷媒を送液する送液部と、
送液された冷媒を蒸発させる蒸発器と、
蒸発した冷媒を凝縮させる凝縮器と、
冷媒の流量を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記蒸発器の温度と前記蒸発器の冷媒温度とに基づいて、前記蒸発器の冷媒流路内面に気相の冷媒が接するドライアウトが発生したか否かを判断するように構成されている、冷却装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記蒸発器出口の冷媒流路近傍の温度と前記蒸発器出口の冷媒温度との差が、熱源の発熱量の設計値に基づくしきい値温度差以上の場合に、前記蒸発器の冷媒流路内面にドライアウトが発生したと判断するように構成されている、請求項1に記載の冷却装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記蒸発器の冷媒流路内面にドライアウトが発生したと判断した場合に、前記蒸発器に供給する冷媒の流量を大きくする制御を行うように構成されている、請求項1または2に記載の冷却装置。
【請求項4】
前記蒸発器出口近傍の冷媒流路の近傍に設けられた温度センサをさらに備え、
前記制御部は、前記温度センサにより前記蒸発器の温度を取得するように構成されている、請求項1または2に記載の冷却装置。
【請求項5】
前記送液部は、複数の前記蒸発器に対して冷媒を送液可能なポンプを含み、
複数の前記蒸発器への冷媒の流量を調整する複数の流量制御弁をさらに備え、
前記制御部は、複数の前記蒸発器のうち少なくとも1つの前記蒸発器にドライアウトが発生したと判断した場合に、ドライアウトが発生した前記蒸発器に供給する冷媒の流量を大きくするように対応する前記流量制御弁の制御を行うように構成されている、請求項1または2に記載の冷却装置。
【請求項6】
前記蒸発器は、熱源と接するとともに、熱伝導により前記熱源の熱を奪うように構成されている、請求項1または2に記載の冷却装置。
【請求項7】
前記冷媒は、15℃以上50℃以下の沸点を有している、請求項1または2に記載の冷却装置。
【請求項8】
電子機器を冷却するように構成されている、請求項1または2に記載の冷却装置。
【請求項9】
移動体に搭載されるように構成されている、請求項1または2に記載の冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、冷却装置に関し、特に、圧縮機を用いずに蒸発潜熱を利用して冷却を行う冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧縮機を用いずに蒸発潜熱を利用して冷却を行う冷却装置が知られている。このような冷却装置は、たとえば、特許第5835479号公報に開示されている。
【0003】
上記特許第5835479号公報には、圧縮機を用いずに冷媒の蒸発潜熱を利用して冷却を行う排気熱回収装置(冷却装置)が開示されている。この排気熱回収装置は、蒸発器出口の冷媒の流路中の温度の時間変化が所定の値以上の場合、循環経路部内の冷媒の液相が不十分になり熱を回収する効率が低下するドライアウト状態であると判定するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5835479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許第5835479号公報の排気熱回収装置(冷却装置)では、冷媒の流路中の温度の時間変化が所定の値以上の場合、ドライアウト状態であると判定するため、ドライアウトが進行して、蒸発器出口の冷媒の温度が上昇し始めなければ、ドライアウト状態と判定することができないという不都合がある。つまり、冷媒の液相が不十分な場合でも気液の2相の冷媒が流路中に存在する場合は、熱は蒸発潜熱として冷媒に回収されるので、冷媒が完全に気相に変化するまで、冷媒の温度は上昇しない。このため、冷媒が完全に気相に変化するまでドライアウト状態と判定することができない。その結果、ドライアウトの発生を迅速に検知することが困難であるという問題点がある。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、ドライアウトの発生を迅速に検知することが可能な冷却装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明の一の局面における冷却装置は、圧縮機を用いずに蒸発潜熱を利用して冷却を行う冷却装置であって、冷媒を送液する送液部と、送液された冷媒を蒸発させる蒸発器と、蒸発した冷媒を凝縮させる凝縮器と、冷媒の流量を制御する制御部と、を備え、制御部は、蒸発器の温度と蒸発器の冷媒温度とに基づいて、蒸発器の冷媒流路内面に気相の冷媒が接するドライアウトが発生したか否かを判断するように構成されている。
【0008】
この発明の一の局面による冷却装置では、上記のように冷媒温度のみならず蒸発器の温度にも基づいてドライアウトの発生の有無を判断することによって、蒸発器の冷媒温度が上昇しない場合でも、ドライアウトが発生したことに起因して熱伝達率が低下することにより蒸発器の温度が上昇したことに基づいてドライアウトが発生したことを判断することができる。これにより、冷媒温度が上昇して冷媒温度の時間変化が大きくなるのを待つことなく、ドライアウトの発生を検知することができる。このため、ドライアウトの発生を迅速に検知することができる。その結果、冷却装置の冷却効率が低下するのを抑制することができるので、冷却対象(熱源)の温度が上昇するのを抑制することができる。また、圧縮機を用いずに蒸発潜熱を利用して冷却を行う冷却装置は、送液部に比べて高い出力が必要な圧縮機を用いる場合と比べて、装置構成を簡素化することができるとともに、装置の小型化を図ることができる。また、圧縮機を用いずに蒸発潜熱を利用して冷却を行う冷却装置は、蒸発潜熱を利用せず冷媒の温度変化(顕熱)のみを利用する場合と比べて、冷媒の循環量を小さくすることができるので、送液部の出力を小さくすることができる。これによっても、装置の小型化を図ることができる。このような効果は、搭載する機器の小型化が望まれる移動体に冷却装置を用いる場合に特に有効である。
【0009】
上記一の局面による冷却装置において、好ましくは、制御部は、蒸発器出口の冷媒流路近傍の温度と蒸発器出口の冷媒温度との差が、熱源の発熱量の設計値に基づくしきい値温度差以上の場合に、蒸発器の冷媒流路内面にドライアウトが発生したと判断するように構成されている。このように構成すれば、蒸発器への入熱が大きい場合と、ドライアウトが発生した場合との判別を、熱源の発熱量の設計値に基づく蒸発器出口の冷媒流路近傍の温度と蒸発器出口の冷媒温度との温度差を基準に判断することができるので、ドライアウトの発生の有無を容易に判断することができる。
【0010】
上記一の局面による冷却装置において、好ましくは、制御部は、蒸発器の冷媒流路内面にドライアウトが発生したと判断した場合に、蒸発器に供給する冷媒の流量を大きくする制御を行うように構成されている。このように構成すれば、迅速に検知されたドライアウトの発生に基づいて、蒸発器に供給される液相の冷媒の流量を大きくすることができるので、ドライアウトを迅速に解消することができる。
【0011】
上記一の局面による冷却装置において、好ましくは、蒸発器出口近傍の冷媒流路の近傍に設けられた温度センサをさらに備え、制御部は、温度センサにより蒸発器の温度を取得するように構成されている。このように構成すれば、冷媒の気化が一番進む蒸発器出口近傍の冷媒流路の近傍に温度センサが設けられるので、温度センサの温度に基づいて、ドライアウトをより迅速に検知することができる。
【0012】
上記一の局面による冷却装置において、好ましくは、送液部は、複数の蒸発器に対して冷媒を送液可能なポンプを含み、複数の蒸発器への冷媒の流量を調整する複数の流量制御弁をさらに備え、制御部は、複数の蒸発器のうち少なくとも1つの蒸発器にドライアウトが発生したと判断した場合に、ドライアウトが発生した蒸発器に供給する冷媒の流量を大きくするように対応する流量制御弁の制御を行うように構成されている。このように構成すれば、1つの送液部に対して複数の蒸発器を設けた場合に、複数の蒸発器の各々についてドライアウトの発生を迅速に検知することができるとともに、ドライアウトが発生した蒸発器のドライアウトを迅速に解消することができる。
【0013】
上記一の局面による冷却装置において、好ましくは、蒸発器は、熱源と接するとともに、熱伝導により熱源の熱を奪うように構成されている。このように構成すれば、蒸発器により空気を冷却し、冷却された空気を送風することにより熱源を冷却する場合と異なり、直接熱源を冷却することができる。これにより、送風のための装置を設ける必要がないので、装置構成を簡素化することができる。また、送風のためのスペースを設ける必要がないので、装置の小型化を図ることができる。
【0014】
上記一の局面による冷却装置において、好ましくは、冷媒は、15℃以上50℃以下の沸点を有している。このように構成すれば、沸点(液化温度)が常温に近いので、圧縮機を用いなくても気相の冷媒を凝縮器により容易に液化することができる。なお、沸点は、蒸発器内における圧力においての沸点である。
【0015】
上記一の局面による冷却装置は、好ましくは、電子機器を冷却するように構成されている。このように構成すれば、ドライアウトの発生を迅速に検知することが可能な冷却装置により電子機器を効率よく冷却することができる。
【0016】
上記一の局面による冷却装置は、好ましくは、移動体に搭載されるように構成されている。このように構成すれば、ドライアウトの発生を迅速に検知することが可能な冷却装置により移動体に搭載された熱源を効率よく冷却することができる。
【発明の効果】
【0017】
上記のように、本発明によれば、ドライアウトの発生を迅速に検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態による冷却装置の構成を示したブロック図である。
図2】本発明の一実施形態による冷却装置の蒸発器を示した模式図である。
図3】本発明の一実施形態による冷却装置と熱源としての電子機器を示した図である。
図4】本発明の一実施形態による蒸発器の冷媒流路内の冷媒が液相の場合を示した断面図である。
図5】本発明の一実施形態による蒸発器の冷媒流路内の冷媒が液相および気相の場合を示した断面図である。
図6】本発明の一実施形態による蒸発器の冷媒流路内の冷媒が液相および気相でドライアウトを発生した場合を示した断面図である。
図7】本発明の一実施形態による冷却装置の状態の時間変化の一例を示した図である。
図8】本発明の一実施形態の変形例による冷却装置の送液部を示したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
(冷却装置の構成)
図1図7を参照して、本発明の一実施形態による冷却装置100の構成について説明する。
【0021】
本発明の一実施形態による冷却装置100は、図1に示すように、圧縮機を用いずに蒸発潜熱を利用して冷却を行う冷却装置である。具体的には、冷却装置100は、ポンプ10と、複数の蒸発器20と、凝縮器30と、貯留部40と、制御部50と、を備えている。また、冷却装置100は、調整弁11と、複数の流量制御弁12とを備えている。また、蒸発器20は、図2に示すように、冷媒流路21と、本体部22とを含んでいる。また、蒸発器20には、温度センサ23と、冷媒温度センサ24と、冷媒圧力センサ25とが設けられている。なお、ポンプ10は、請求の範囲の「送液部」の一例である。
【0022】
また、冷却装置100は、図3に示すように、電子機器60を冷却するように構成されている。つまり、蒸発器20は、熱源としての電子機器60と接するとともに、熱伝導により電子機器60(熱源)の熱を奪うように構成されている。
【0023】
また、冷却装置100は、冷媒を循環させて熱源としての電子機器60を冷却するように構成されている。冷媒は、蒸発器20内における圧力において、15℃以上50℃以下の沸点を有している。冷媒は、たとえば、フロンである。冷媒は、たとえば、R245faのフロン(大気圧における沸点15.3℃)である。
【0024】
また、冷却装置100は、図1に示すように、移動体200に搭載されるように構成されている。移動体200は、たとえば、車両、船舶、航空機などである。
【0025】
ポンプ10は、冷媒を送液するように構成されている。また、ポンプ10は、所定の範囲の出力により運転されている。また、ポンプ10は、液体の状態の冷媒を送るように構成されている。また、ポンプ10は、複数の蒸発器20に対して冷媒を送液可能に構成されている。ポンプ10は、貯留部40から複数の蒸発器20に冷媒を送るように構成されている。
【0026】
調整弁11は、ポンプ10をバイパスする流路に設けられている。調整弁11は、ポンプ10により送られる冷媒の流量を調整するために設けられている。具体的には、調整弁11の開度を大きくする(開く)ことにより、バイパスする冷媒の流量が多くなり、蒸発器20に送られる冷媒の流量が小さくなる。一方、調整弁11の開度を小さくする(絞る)ことにより、バイパスする冷媒の量が少なくなり、蒸発器20に送られる冷媒の流量が大きくなる。調整弁11は、制御部50により開度が調整される。
【0027】
複数の流量制御弁12は、複数の蒸発器20への冷媒の流量を調整するために設けられている。具体的には、流量制御弁12は、複数の蒸発器20の各々の上流に設けられている。流量制御弁12は、開度を調整することにより、下流の蒸発器20に送られる冷媒の流量を調整するように構成されている。流量制御弁12の開度を大きくする(開く)ことにより、下流の蒸発器20に送られる冷媒の流量が大きくなる。一方、流量制御弁12の開度を小さくする(絞る)ことにより、下流の蒸発器20に送られる冷媒の流量が小さくなる。流量制御弁12は、それぞれ、制御部50により開度が調整される。
【0028】
蒸発器20は、送液された冷媒を蒸発させるように構成されている。具体的には、蒸発器20の本体部22内に設けられた冷媒流路21を冷媒が流れ、本体部22および冷媒流路21を介して熱源から熱が伝導する。冷媒は、熱が加えらることにより、冷媒流路21内で蒸発(気化)する。蒸発器20は、冷媒の蒸発潜熱(気化熱)により、熱源の熱を奪って、熱源を冷却するように構成されている。なお、図2に示す冷媒流路21は、模式的なものである。つまり、冷媒流路21は、効率よく熱交換を行うために、本体部22内において、複数回屈曲する構造を有していてもよい。また、冷媒流路21は、入口において複数に分かれて本体部22内を通り出口において1つに合流するように形成されていてもよい。
【0029】
冷媒流路21は、金属材料により形成されている。冷媒流路21は、たとえば、ステンレス材、アルミニウム材、または、銅材により形成されている。冷媒流路21は、パイプ状に形成されている。本体部22は、金属材料により形成されている。本体部22は、たとえば、ステンレス材、アルミニウム材、または、銅材により形成されている。また、冷媒流路21は、水平方向に延びるように形成されている。
【0030】
蒸発器20出口から出た気液2相の冷媒は、凝縮器30に送られる。
【0031】
温度センサ23は、図2に示すように、蒸発器20出口近傍の冷媒流路21の近傍に設けられている。具体的には、温度センサ23は、蒸発器20出口近傍の冷媒流路21の上方に設けられている。つまり、温度センサ23は、蒸発器20の出口近傍の冷媒流路21の上方の本体部22の温度を測定するように構成されている。温度センサ23は、制御部50に測定した温度を送信するように構成されている。
【0032】
温度センサ23は、本体部22に設けられた穴に挿入されている。また、温度センサ23は、測温抵抗体または熱電対を含んでいる。これにより、温度センサ23は、蒸発器20出口近傍の冷媒流路21の内壁の温度を測定する。
【0033】
冷媒温度センサ24は、蒸発器20の出口近傍の冷媒流路21内の冷媒の温度を測定するように構成されている。冷媒温度センサ24は、制御部50に測定した温度を送信するように構成されている。
【0034】
冷媒圧力センサ25は、蒸発器20の出口近傍の冷媒流路21内の冷媒の圧力を測定するように構成されている。冷媒圧力センサ25は、制御部50に測定した圧力を送信するように構成されている。
【0035】
凝縮器30は、蒸発した冷媒を凝縮(液化)させるように構成されている。具体的には、凝縮器30は、外部の空気と熱交換することにより、冷媒を冷却して、凝縮させるように構成されている。凝縮器30には、ファン(図示せず)が設けられており、ファンにより送風される外気(空気)を用いて冷媒が冷却される。
【0036】
凝縮器30出口から出た液体の冷媒は、貯留部40に送られる。
【0037】
貯留部40は、液体の冷媒を貯留するように構成されている。貯留部40に貯留された冷媒は、ポンプ10に送られる。
【0038】
制御部50は、冷媒の流量を制御するように構成されている。具体的には、制御部50は、温度センサ23、冷媒温度センサ24および冷媒圧力センサ25の測定結果に基づいて、複数の蒸発器20の各々に送られる冷媒の流量を制御するように構成されている。制御部50は、調整弁11を制御することにより、複数の蒸発器20に供給される冷媒の合計の流量を制御する。また、制御部50は、流量制御弁12を制御することにより、複数の蒸発器20の各々に供給される冷媒の流量を制御する。
【0039】
制御部50は、温度センサ23により蒸発器20の温度を取得するように構成されている。また、制御部50は、冷媒温度センサ24により蒸発器20出口の冷媒の温度を取得するように構成されている。また、制御部50は、冷媒圧力センサ25により蒸発器20出口の冷媒の圧力を取得するように構成されている。
【0040】
ここで、本実施形態では、制御部50は、蒸発器20の温度と蒸発器20の冷媒温度とに基づいて、蒸発器20の冷媒流路21内面に気相の冷媒が接するドライアウトが発生したか否かを判断するように構成されている。ドライアウトとは、図6に示すように、蒸発器20の冷媒流路21内の内壁の一部または全部から液相が無くなり、冷媒流路21内の内壁に気相の冷媒が接している状態である。ドライアウトが発生すると、蒸発器20と冷媒との熱伝達の効率が低下する。つまり、液相の冷媒に比べて、気相の冷媒は、熱伝達率が小さくなるため、冷媒流路21の内壁に気相の冷媒が接すると、全体としての熱伝達率が小さくなる。
【0041】
ここで、熱輸送量Qは、熱伝達率h、流路表面積A、冷媒流路21の内壁温度と冷媒との温度差ΔTを用いると式(1)のように表される。
Q=h・A・ΔT …(1)
式(1)に示すように、熱輸送量Qが略一定であれば、ドライアウトが発生して熱伝達率hが小さくなると、冷媒流路21の内壁温度と冷媒との温度差ΔTは大きくなる。
【0042】
言い換えると、ドライアウトが発生することで蒸発器20の冷媒流路21の内壁と冷媒との間の熱伝達率が大きく低下する。これにより、ドライアウトが発生すると冷媒流路21の内壁と冷媒との温度差が大きくなる。そこで、蒸発器20出口付近の冷媒流路21近傍の本体部22の温度を計測することで、ドライアウトの発生を検知することが可能である。この冷媒流路21の内壁面温度と蒸発器20出口の冷媒温度との差は、蒸発器20への入熱が大きい場合(熱源からの熱が大きい場合)にも大きくなる。ドライアウトが発生した場合には、通常運転時の最大温度差よりも大きな温度差になる。たとえば、ドライアウトが発生した場合には、蒸発器20で想定される最大熱負荷および最少流量の冷媒での冷媒流路21の内壁温度と冷媒との温度差よりも大きな温度差になる。これにより、通常運転時の冷媒流路21の内壁温度と冷媒との最大温度差を基準にして、その最大温度差を超えた場合には、蒸発器20においてドライアウトが発生したと判断することが可能である。通常運転時の冷媒流路21の内壁温度と冷媒との最大温度差は、熱源の発熱量の設計値に基づいて決定される。
【0043】
つまり、本実施形態では、制御部50は、蒸発器20出口の冷媒流路21近傍の温度と蒸発器20出口の冷媒温度との差が、熱源の発熱量の設計値に基づくしきい値温度差以上の場合に、蒸発器20の冷媒流路21内面にドライアウトが発生したと判断するように構成されている。具体的には、制御部50は、蒸発器20出口の冷媒流路21近傍の温度と蒸発器20出口の冷媒温度との差が、通常運転時の熱源の設計値における最大の発熱量に基づくしきい値温度差以上の場合に、蒸発器20の冷媒流路21内面にドライアウトが発生したと判断するように構成されている。
【0044】
また、制御部50は、蒸発器20の冷媒流路21内面にドライアウトが発生したと判断した場合に、蒸発器20に供給する冷媒の流量を大きくする制御を行うように構成されている。具体的には、制御部50は、複数の蒸発器20のうち少なくとも1つの蒸発器20にドライアウトが発生したと判断した場合に、ドライアウトが発生した蒸発器20に供給する冷媒の流量を大きくするように対応する流量制御弁12の制御を行うように構成されている。
【0045】
図4に示すように、蒸発器20入口では、冷媒流路21内の冷媒は、略液相である。図5に示すように、冷媒流路21の下流に行くにしたがって、冷媒が蒸発(気化)して、冷媒流路21内の冷媒は、気液の2相になる。この場合、液相の冷媒は、冷媒流路21の内壁に付着する。また、気相の冷媒は、流速が大きくなるため、冷媒流路21の内側を通る。
【0046】
冷媒の蒸発が進むと、図6に示すように、気相の冷媒が冷媒流路21の内壁に接するドライアウトが発生する。ドライアウトは、冷媒の気化が一番進む蒸発器20出口近傍で起こりやすい。また、冷媒流路21は、水平方向に延びるため、冷媒の流れも水平方向である。そして、ドライアウトは、密度が小さい気相が上方に行きやすいため、冷媒流路21の上方で起こりやすい。なお、通常の運転時では、冷媒の流量が制御されるので、ドライアウトが発生することは稀である。冷媒の流量が何らかの原因により小さくなった場合などに、ドライアウトは発生し得る。
【0047】
図7に示す例では、高熱負荷状態において冷媒の流量を徐々に小さくした場合の、発熱量、冷媒流量、蒸発器20出口の冷媒流路21の内壁温度、蒸発器20出口の冷媒温度、蒸発器20入口の冷媒温度の時間変化を示している。この図7の例では、複数の蒸発器20が並列に接続されており、冷媒の流量を少なくすることにより、そのうちの1つの蒸発器20においてドライアウトが発生して冷媒流路21の内壁面の温度が上昇した。図7に示すように、時間t1において、蒸発器20出口の内壁面の温度が上昇し始める。時間t1より遅い時間t2において、蒸発器20出口の冷媒の温度が上昇し始める。蒸発器20においてドライアウトが発生した場合でも、蒸発器20出口の冷媒の温度がすぐには上がらない。そのため、蒸発器20出口の冷媒の状態から蒸発器20でのドライアウトの発生を検知する場合と比較して、蒸発器20の内壁面の温度と出口冷媒の温度との差によりドライアウトを検知することにより、ドライアウトを早く検知することが可能である。また、蒸発器20に熱負荷がかかっていない状態では、この蒸発器20の内壁面の温度と出口冷媒の温度との差はゼロまたは微小であり、この温度差をトリガーにして蒸発器20に流れる流量の制御も可能である。
【0048】
(実施形態の効果)
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0049】
本実施形態では、上記のように、制御部50を、蒸発器20の温度と蒸発器20の冷媒温度とに基づいて、蒸発器20の冷媒流路21内面に気相の冷媒が接するドライアウトが発生したか否かを判断するように構成する。これにより、蒸発器20の冷媒温度が上昇しない場合でも、ドライアウトが発生したことに起因して熱伝達率が低下することにより蒸発器20の温度が上昇したことに基づいてドライアウトが発生したことを判断することができるので、冷媒温度が上昇して冷媒温度の時間変化が大きくなるのを待つことなく、ドライアウトの発生を検知することができる。これにより、ドライアウトの発生を迅速に検知することができる。その結果、冷却装置100の冷却効率が低下するのを抑制することができるので、冷却対象(熱源)の電子機器60の温度が上昇するのを抑制することができる。また、圧縮機を用いずに蒸発潜熱を利用して冷却を行う冷却装置100は、ポンプ10に比べて高い出力が必要な圧縮機を用いる場合と比べて、装置構成を簡素化することができるとともに、装置の小型化を図ることができる。また、圧縮機を用いずに蒸発潜熱を利用して冷却を行う冷却装置100は、蒸発潜熱を利用せず冷媒の温度変化(顕熱)のみを利用する場合と比べて、冷媒の循環量を小さくすることができるので、ポンプ10の出力を小さくすることができる。これによっても、装置の小型化を図ることができる。このような効果は、搭載する機器の小型化が望まれる移動体200に冷却装置を用いる場合に特に有効である。
【0050】
また、本実施形態では、上記のように、制御部50を、蒸発器20出口の冷媒流路21近傍の温度と蒸発器20出口の冷媒温度との差が、熱源の発熱量の設計値に基づくしきい値温度差以上の場合に、蒸発器20の冷媒流路21内面にドライアウトが発生したと判断するように構成する。これにより、蒸発器20への入熱が大きい場合と、ドライアウトが発生した場合との判別を、熱源の発熱量の設計値に基づく蒸発器20出口の冷媒流路21近傍の温度と蒸発器20出口の冷媒温度との温度差を基準に判断することができるので、ドライアウトの発生の有無を容易に判断することができる。
【0051】
また、本実施形態では、上記のように、制御部50を、蒸発器20の冷媒流路21内面にドライアウトが発生したと判断した場合に、蒸発器20に供給する冷媒の流量を大きくする制御を行うように構成する。これにより、迅速に検知されたドライアウトの発生に基づいて、蒸発器20に供給される液相の冷媒の流量を大きくすることができるので、ドライアウトを迅速に解消することができる。
【0052】
また、本実施形態では、上記のように、蒸発器20出口近傍の冷媒流路21の上方に温度センサ23を設け、制御部50を、温度センサ23により蒸発器20の温度を取得するように構成する。これにより、冷媒の気化が一番進む蒸発器20出口近傍で、重力の影響によりドライアウトが最初に発生する冷媒流路21の上方に温度センサ23が設けられるので、温度センサ23の温度に基づいて、ドライアウトをより迅速に検知することができる。
【0053】
また、本実施形態では、上記のように、制御部50を、複数の蒸発器20のうち少なくとも1つの蒸発器20にドライアウトが発生したと判断した場合に、ドライアウトが発生した蒸発器20に供給する冷媒の流量を大きくするように対応する流量制御弁12の制御を行うように構成する。これにより、1つのポンプ10に対して複数の蒸発器20を設けた場合に、複数の蒸発器20の各々についてドライアウトの発生を迅速に検知することができるとともに、ドライアウトが発生した蒸発器20のドライアウトを迅速に解消することができる。
【0054】
また、本実施形態では、上記のように、蒸発器20を、熱源としての電子機器60と接するとともに、熱伝導により電子機器60の熱を奪うように構成する。これにより、蒸発器20により空気を冷却し、冷却された空気を送風することにより電子機器60を冷却する場合と異なり、直接電子機器60を冷却することができる。その結果、送風のための装置を設ける必要がないので、装置構成を簡素化することができる。また、送風のためのスペースを設ける必要がないので、装置の小型化を図ることができる。
【0055】
また、本実施形態では、上記のように、冷媒は、15℃以上50℃以下の沸点を有している。これにより、沸点(液化温度)が常温に近いので、圧縮機を用いなくても気相の冷媒を凝縮器30により容易に液化することができる。
【0056】
また、本実施形態では、上記のように、冷却装置100を、移動体200に搭載する。これにより、ドライアウトの発生を迅速に検知することが可能な冷却装置100により移動体200に搭載された電子機器60(熱源)を効率よく冷却することができる。
【0057】
(変形例)
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく請求の範囲によって示され、さらに請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0058】
たとえば、上記実施形態では、1つのポンプ(送液部)に3つの蒸発器が接続されている構成の例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、1つの送液部に1、2または4以上の蒸発器が接続されていてもよい。また、1つの送液部に1つの蒸発器が設けられている場合、調整弁または流量制御弁は設けなくてもよい。
【0059】
また、上記実施形態では、冷媒にフロンが用いられる構成の例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、冷媒にフロン以外の物質を用いてもよい。また、冷媒の1気圧における沸点は、15℃未満でも50℃より大きくてもよい。
【0060】
また、上記実施形態では、蒸発器と熱源を接するように配置し、熱伝導により熱源の熱を奪う構成の例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、蒸発器により、空気や液体などの流体を冷やして、冷やした流体により熱源の熱を奪う構成でもよい。
【0061】
また、上記実施形態では、熱源としての電子機器を冷却する構成の例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、電子機器以外の熱源を冷却してもよい。
【0062】
また、上記実施形態では、冷却装置が移動体に設けられている構成の例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、冷却装置は移動体以外に設けられていてもよい。
【0063】
また、上記実施形態では、蒸発器にパイプ状の冷媒流路が設けられている構成の例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、パイプ状の冷媒流路以外の冷媒流路が設けられた蒸発器であってもよい。
【0064】
また、上記実施形態では、凝縮器においてファンによる送風により冷媒を冷却する構成の例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、凝縮器にチラーを設け、循環する冷却水を用いて冷媒を冷却してもよい。また、凝縮器に冷却源(ヒートシンク)を設け、冷媒を冷却してもよい。
【0065】
また、上記実施形態では、冷媒を送液する送液部としてポンプを用いる構成の例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、図8に示す変形例のように、送液部として多孔質体302を用いてもよい。この場合、多孔質体302は、蒸発器301に設けられ、毛細管として機能して、冷媒を浸透させながら、送液する。そして、多孔質体302により送液された冷媒は、熱交換により熱源から熱を奪い蒸発する。
【符号の説明】
【0066】
10 ポンプ(送液部)
12 流量制御弁
20 蒸発器
23 温度センサ
30 凝縮器
50 制御部
60 電子機器(熱源)
100 冷却装置
200 移動体
301 蒸発器
302 多孔質体(送液部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8