(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】ネスト型光変調器を用いた光変調方法および装置
(51)【国際特許分類】
G02F 1/01 20060101AFI20221025BHJP
G02F 2/00 20060101ALI20221025BHJP
H04B 10/556 20130101ALI20221025BHJP
H04B 10/70 20130101ALI20221025BHJP
【FI】
G02F1/01 B
G02F2/00
H04B10/556
H04B10/70
(21)【出願番号】P 2021507210
(86)(22)【出願日】2020-03-06
(86)【国際出願番号】 JP2020009781
(87)【国際公開番号】W WO2020189348
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-09-03
(31)【優先権主張番号】P 2019049863
(32)【優先日】2019-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、革新的研究開発推進プログラム「量子人工脳を量子ネットワークでつなぐ高度知識社会基盤の実現」に関する委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124811
【氏名又は名称】馬場 資博
(74)【代理人】
【識別番号】100088959
【氏名又は名称】境 廣巳
(74)【代理人】
【識別番号】100097157
【氏名又は名称】桂木 雄二
(74)【代理人】
【識別番号】100187724
【氏名又は名称】唐鎌 睦
(72)【発明者】
【氏名】吉野 健一郎
【審査官】野口 晃一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-060555(JP,A)
【文献】国際公開第2018/202698(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/124357(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第108964778(CN,A)
【文献】田島 章雄 他,単一光子伝送による高速量子暗号通信システム,電子情報通信学会技術研究報告,日本,電子情報通信学会,2008年06月05日,Vol.108. No.83,p. 51- p. 56
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/125
H04B 10/00-10/90
H04J 14/00-14/08
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マッハツェンダ(MZ)型の第1変調部と第2変調部とが並列接続され、前記第1変調部および前記第2変調部の出力光の間に所定の位相差を与える位相シフタを備えたネスト型変調器と、
前記位相シフタにより与えられる前記位相差と前記第1変調部および前記第2変調部の各々により与えられる強度および位相の変調の大きさとを制御することで、前記ネスト型変調器の出力光をIQ平面に配置された4信号点の間で変化させる制御手段と、
を有し、前記4信号点の第1信号点の強度が0、第2信号点の相対的強度が1、第3信号点の相対的強度および第4信号点の相対的強度がそれぞれ前記0と前記1との間の値であって、前記第3信号点と前記第4信号点とが90°の位相差を有
し、
前記位相シフタにより与えられる前記位相差が90°に設定され、
前記第1信号点は、前記第1変調部および前記第2変調部を共に出力光の強度0のオフ状態に設定することで得られ、
前記第2信号点が、前記第1変調部および前記第2変調部を共に出力光の相対的強度1のオン状態に設定することで得られ、
前記第3信号点および前記第4信号点が、前記第1変調部および前記第2変調部の一方を出力光の強度0のオフ状態、他方を相対的強度1のオン状態にそれぞれ設定することで得られる、
ことを特徴とする光変調装置。
【請求項2】
前記第1変調部および前記第2変調部の各々が、強度および位相変調の大きさを制御するための制御電極を有するMZ変調器であり、
前記制御手段が、前記第1変調部の第1制御電極と前記第2変調部の第2制御電極とに180°の位相変調に相当する振幅の電圧をそれぞれ印加し、前記位相シフタに位相差90°に相当するDCバイアス電圧を印加する、
ことを特徴とする請求項
1に記載の光変調装置。
【請求項3】
マッハツェンダ(MZ)型の第1変調部と第2変調部とが並列接続され、前記第1変調部および前記第2変調部の出力光の間に所定の位相差を与える位相シフタを備えたネスト型変調器と、
前記位相シフタにより与えられる前記位相差と前記第1変調部および前記第2変調部の各々により与えられる強度および位相の変調の大きさとを制御することで、前記ネスト型変調器の出力光をIQ平面に配置された4信号点の間で変化させる制御手段と、
を有し、前記4信号点の第1信号点の強度が0、第2信号点の相対的強度が1、第3信号点の相対的強度および第4信号点の相対的強度がそれぞれ前記0と前記1との間の値であって、前記第3信号点と前記第4信号点とが90°の位相差を有し、
前記第1信号点は、前記位相シフタにより前記位相差が与えられた出力光と当該位相差が与えられない出力光との位相差を180°とすることで得られることを特徴とす
る光変調装置。
【請求項4】
前記位相シフタにより与えられる前記位相差が180°に設定され、
前記第2信号点が、前記第1変調部を90°の位相変調、前記第2変調部を-90°の位相変調に設定することで得られ、
前記第3信号点および前記第4信号点が、前記第1変調部および前記第2変調部の一方を出力光の強度1のオン状態、他方を90°あるいは-90°の位相変調にそれぞれ設定することで得られる、
ことを特徴とする請求項
3に記載の光変調装置。
【請求項5】
マッハツェンダ(MZ)型の第1変調部と第2変調部とが並列接続され、前記第1変調部および前記第2変調部の出力光の間に所定の位相差を与える位相シフタを備えたネスト型変調器と、
前記位相シフタにより与えられる前記位相差と前記第1変調部および前記第2変調部の各々により与えられる強度および位相の変調の大きさとを制御することで、前記ネスト型変調器の出力光をIQ平面に配置された4信号点の間で変化させる制御手段と、
を有し、前記4信号点の第1信号点の強度が0、第2信号点の相対的強度が1、第3信号点の相対的強度および第4信号点の相対的強度がそれぞれ前記0と前記1との間の値であって、前記第3信号点と前記第4信号点とが90°の位相差を有し、
前記第1変調部および前記第2変調部の各々が、強度および位相変調の大きさを制御するための制御電極を有するMZ変調器であり、
前記制御手段が、前記第1変調部の第1制御電極と前記第2変調部の第2制御電極とに90°の位相変調に応答する振幅の電圧と-90°の位相変調に応答する振幅の電圧とをそれぞれ印加し、前記位相シフタに位相差180°に応答するDCバイアス電圧を印加する、
ことを特徴とす
る光変調装置。
【請求項6】
前記第1変調部および前記第2変調部の各々が、強度および位相変調の大きさを制御するための制御電極を有するMZ変調器であり、
前記制御手段が、前記第1変調部の第1制御電極と前記第2変調部の第2制御電極とに90°の位相変調に応答する振幅の電圧と-90°の位相変調に応答する振幅の電圧とをそれぞれ印加し、前記位相シフタに位相差180°に応答するDCバイアス電圧を印加する、
ことを特徴とする請求項3または4に記載の光変調装置。
【請求項7】
前記ネスト型変調器が、コヒーレントな2連光パルスに対して位相-時間コーディング方式に従って強度位相変調を実行し、
前記制御手段が、前記位相-時間コーディング方式のZ基底状態を前記第1信号点と前記第2信号点との間で、Y基底状態を前記第3信号点と前記第4信号点との間で生成することを特徴とする請求項1-
6のいずれか1項に記載の光変調装置。
【請求項8】
請求項
7に記載の光変調装置を有する、量子鍵配送システムの送信機。
【請求項9】
マッハツェンダ(MZ)型の第1変調部と第2変調部とが並列接続され、前記第1変調部および前記第2変調部の出力光の間に所定の位相差を与える位相シフタを備えたネスト型変調器を用いた光変調方法であって、
制御手段が、前記位相シフタにより与えられる前記位相差と前記第1変調部および前記第2変調部の各々により与えられる強度および位相の変調の大きさとを制御することで、前記ネスト型変調器の出力光をIQ平面に配置された4信号点の間で変化させ、
前記4信号点の第1信号点の強度が0、第2信号点の相対的強度が1、第3信号点の相対的強度および第4信号点の相対的強度がそれぞれ前記0と前記1との間の値であって、前記第3信号点と前記第4信号点とが90°の位相差を有し、
前記位相シフタにより与えられる前記位相差が90°に設定され、
前記第1信号点は、前記第1変調部および前記第2変調部を共に出力光の強度0のオフ状態に設定することで得られ、
前記第2信号点が、前記第1変調部および前記第2変調部を共に出力光の相対的強度1のオン状態に設定することで得られ、
前記第3信号点および前記第4信号点が、前記第1変調部および前記第2変調部の一方を出力光の強度0のオフ状態、他方を相対的強度1のオン状態にそれぞれ設定することで得られる、
ことを特徴とする光変調方法。
【請求項10】
マッハツェンダ(MZ)型の第1変調部と第2変調部とが並列接続され、前記第1変調部および前記第2変調部の出力光の間に所定の位相差を与える位相シフタを備えたネスト型変調器を用いた光変調方法であって、
制御手段が、前記位相シフタにより与えられる前記位相差と前記第1変調部および前記第2変調部の各々により与えられる強度および位相の変調の大きさとを制御することで、前記ネスト型変調器の出力光をIQ平面に配置された4信号点の間で変化させ、
前記4信号点の第1信号点の強度が0、第2信号点の相対的強度が1、第3信号点の相対的強度および第4信号点の相対的強度がそれぞれ前記0と前記1との間の値であって、前記第3信号点と前記第4信号点とが90°の位相差を有し、
前記第1信号点は、前記位相シフタにより前記位相差が与えられた出力光と当該位相差が与えられない出力光との位相差を180°とすることで得られる、
ことを特徴とする光変調方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光通信システムにおける光パルスの変調技術に係り、特に位相-時間コーディング方式の光パルス変調技術に関する。
【背景技術】
【0002】
位相-時間コーディング(あるいはYZ状態)方式の一例が特許文献1に記載されている。たとえば位相-時間コーディング方式をコヒーレントな2連光パルスに適用することができる。この場合、
図1に例示するように、2連光パルスの相対位相を2値変調し、2連光パルスのいずれか一方を強度0に強度変調することで、4状態の2連光パルスが生成される。
図1の例では、2連光パルスP1およびP2、それらの強度が半減した前パルスをp1、後パルスをp2とすれば、以下の4状態が生成される。すなわち、前パルスp1が後パルスp2に対して位相が90°進んだY0状態;90°遅れたY1状態;前パルスP1だけが消光したZ0状態;および後パルスP2だけが消光したZ1状態の4状態である。
【0003】
特許文献1による変調器は、一対の位相変調器を並列接続した2電極型強度変調器を採用している。この一対の位相変調器に対して{θ,θ+90°}および{θ-90°,θ}の位相変調を与えることで、位相-時間コーディングの上記4状態を生成することができる。
【0004】
他方、特許文献2にはネスト型光変調器が記載されている。特許文献2によれば、ネスト型光変調器は、信号の振幅や位相を多値設定することで、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)だけでなく、任意の信号点をベクトル合成することができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5286852号公報
【文献】国際公開第WO2011/004615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、位相-時間コーディング方式では、光パルスに強度変調および位相変調を施した4状態の信号光を生成する必要がある。しかしながら、特許文献2は、高周波電極およびDCバイアス電極に任意の電圧を印加して任意の信号点のベクトル合成を可能にするという一般的な記載に止まっており、ネスト型変調器により位相-時間コーディング方式に必要な4状態の光信号を生成する具体的な方法を開示していない。
【0007】
本発明の目的は、位相-時間コーディング方式に必要な4状態であって強度0の状態を含む光信号をネスト型変調器により安定的に生成することができる光変調方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様による光変調装置は、マッハツェンダ(MZ)型の第1変調部と第2変調部とが並列接続され、前記第1変調部および前記第2変調部の出力光の間に所定の位相差を与える位相シフタを備えたネスト型変調器と、前記位相シフタにより与えられる前記位相差と前記第1変調部および前記第2変調部の各々により与えられる強度および位相の変調の大きさとを制御することで、前記ネスト型変調器の出力光をIQ平面に配置された4信号点の間で変化させる制御手段と、を有し、前記4信号点の第1信号点の強度が0、第2信号点の相対的強度が1、第3信号点の相対的強度および第4信号点の相対的強度がそれぞれ前記0と前記1との間の値であって、前記第3信号点と前記第4信号点とが90°の位相差を有し、前記位相シフタにより与えられる前記位相差が90°に設定され、前記第1信号点は、前記第1変調部および前記第2変調部を共に出力光の強度0のオフ状態に設定することで得られ、前記第2信号点が、前記第1変調部および前記第2変調部を共に出力光の相対的強度1のオン状態に設定することで得られ、前記第3信号点および前記第4信号点が、前記第1変調部および前記第2変調部の一方を出力光の強度0のオフ状態、他方を相対的強度1のオン状態にそれぞれ設定することで得られる、ことを特徴とする。
本発明の他の態様による光変調装置は、マッハツェンダ(MZ)型の第1変調部と第2変調部とが並列接続され、前記第1変調部および前記第2変調部の出力光の間に所定の位相差を与える位相シフタを備えたネスト型変調器と、前記位相シフタにより与えられる前記位相差と前記第1変調部および前記第2変調部の各々により与えられる強度および位相の変調の大きさとを制御することで、前記ネスト型変調器の出力光をIQ平面に配置された4信号点の間で変化させる制御手段と、を有し、前記4信号点の第1信号点の強度が0、第2信号点の相対的強度が1、第3信号点の相対的強度および第4信号点の相対的強度がそれぞれ前記0と前記1との間の値であって、前記第3信号点と前記第4信号点とが90°の位相差を有し、前記第1信号点は、前記位相シフタにより前記位相差が与えられた出力光と当該位相差が与えられない出力光との位相差を180°とすることで得られることを特徴とする。
本発明の更に他の態様による光変調装置は、マッハツェンダ(MZ)型の第1変調部と第2変調部とが並列接続され、前記第1変調部および前記第2変調部の出力光の間に所定の位相差を与える位相シフタを備えたネスト型変調器と、前記位相シフタにより与えられる前記位相差と前記第1変調部および前記第2変調部の各々により与えられる強度および位相の変調の大きさとを制御することで、前記ネスト型変調器の出力光をIQ平面に配置された4信号点の間で変化させる制御手段と、を有し、前記4信号点の第1信号点の強度が0、第2信号点の相対的強度が1、第3信号点の相対的強度および第4信号点の相対的強度がそれぞれ前記0と前記1との間の値であって、前記第3信号点と前記第4信号点とが90°の位相差を有し、前記第1変調部および前記第2変調部の各々が、強度および位相変調の大きさを制御するための制御電極を有するMZ変調器であり、前記制御手段が、前記第1変調部の第1制御電極と前記第2変調部の第2制御電極とに90°の位相変調に応答する振幅の電圧と-90°の位相変調に応答する振幅の電圧とをそれぞれ印加し、前記位相シフタに位相差180°に応答するDCバイアス電圧を印加する、ことを特徴とする。
本発明の別の態様による光変調方法は、マッハツェンダ(MZ)型の第1変調部と第2変調部とが並列接続され、前記第1変調部および前記第2変調部の出力光の間に所定の位相差を与える位相シフタを備えたネスト型変調器を用いた光変調方法であって、制御手段が、前記位相シフタにより与えられる前記位相差と前記第1変調部および前記第2変調部の各々により与えられる強度および位相の変調の大きさとを制御することで、前記ネスト型変調器の出力光をIQ平面に配置された4信号点の間で変化させ、前記4信号点の第1信号点の強度が0、第2信号点の相対的強度が1、第3信号点の相対的強度および第4信号点の相対的強度がそれぞれ前記0と前記1との間の値であって、前記第3信号点と前記第4信号点とが90°の位相差を有し、前記位相シフタにより与えられる前記位相差が90°に設定され、前記第1信号点は、前記第1変調部および前記第2変調部を共に出力光の強度0のオフ状態に設定することで得られ、前記第2信号点が、前記第1変調部および前記第2変調部を共に出力光の相対的強度1のオン状態に設定することで得られ、前記第3信号点および前記第4信号点が、前記第1変調部および前記第2変調部の一方を出力光の強度0のオフ状態、他方を相対的強度1のオン状態にそれぞれ設定することで得られる、ことを特徴とする。
本発明の更に別の態様による光変調方法は、マッハツェンダ(MZ)型の第1変調部と第2変調部とが並列接続され、前記第1変調部および前記第2変調部の出力光の間に所定の位相差を与える位相シフタを備えたネスト型変調器を用いた光変調方法であって、制御手段が、前記位相シフタにより与えられる前記位相差と前記第1変調部および前記第2変調部の各々により与えられる強度および位相の変調の大きさとを制御することで、前記ネスト型変調器の出力光をIQ平面に配置された4信号点の間で変化させ、前記4信号点の第1信号点の強度が0、第2信号点の相対的強度が1、第3信号点の相対的強度および第4信号点の相対的強度がそれぞれ前記0と前記1との間の値であって、前記第3信号点と前記第4信号点とが90°の位相差を有し、前記第1信号点は、前記位相シフタにより前記位相差が与えられた出力光と当該位相差が与えられない出力光との位相差を180°とすることで得られる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、位相-時間コーディング方式に必要な4状態であって強度0の状態を含む光信号をネスト型変調器により安定的に生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は背景技術としての位相-時間コーディングの一例を示すYZ基底状態図である。
【
図2】
図2は本発明の一実施形態による光変調装置を構成するネスト型変調器の平面構成の一例を示す概略的構成図である。
【
図3】
図3は本実施形態で用いられるMZ変調器の平面構成の一例を示す概略的構成図である。
【
図4】
図4(A)は本実施形態によるネスト型変調器により得られる光パルスのI-Q平面上の信号点配置の一例を示す図であり、
図4(B)は、比較例として、既存のQPSK信号点配置を示す図である。
【
図5】
図5は本発明の第1実施例による光変調装置を構成するネスト型変調器の平面構成の一例を示す概略的構成図である。
【
図6】
図6は、
図5に示すネスト型変調器の動作を説明するために、振幅および位相の変化と最終的に得られる信号点配置とを示す図である。
【
図7】
図7は、
図5に示すネスト型変調器による光変調方法の一例を示すタイミングチャートである。
【
図8】
図8は本発明の第2実施例による光変調装置を構成するネスト型変調器の平面構成の一例を示す概略的構成図である。
【
図9】
図9は、
図8に示すネスト型変調器の動作を説明するために、振幅および位相の変化と最終的に得られる信号点配置とを示す図である。
【
図10】
図10は本発明の第3実施例による光変調装置の回路構成の一例を示すブロック図である。
【
図11】
図11は
図2に例示した本発明の一実施形態による光変調装置を用いた送信機(Alice)と受信機(Bob)のそれぞれの概略的構成を示すシステム構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<実施形態の概要>
本発明の実施形態によれば、干渉計を構成する2つの導波路(親アーム)により2つのMZ(Mach-Zehnder)変調器が並列接続されたネスト型光変調器を用いる。2つのMZ変調器のRF用電極および親アームのDCバイアス電極に対して、それぞれ所定の位相変調に相当する電圧を所定の順序で印加する。これらの位相変調を与える印加電圧とそれらの印加順序とを制御することにより、強度0を含む位相-時間コーディング方式に必要な4状態の信号光を生成することができる。1台のネスト型光変調器により位相-時間コーディングに必要な信号光を生成することができるので、小型化および低コスト化が可能となる。
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。ただし、以下の実施形態および実施例に記載されている構成要素は単なる例示であって、本発明の技術範囲をそれらのみに限定する趣旨ではない。
【0013】
1.実施形態
1.1)構成
図2に例示するように、本実施形態に使用されるネスト型変調器100は、親MZ干渉計MZ
CのアームAおよびBに、2つのMZ変調器MZ
AおよびMZ
Bがそれぞれ接続された入れ子構造を有する。さらに、親アーム間で相対的な位相変調差φを与えるために、いずれか一方の親アーム(
図2では親アームB)に位相シフタ101が設けられる。ネスト型変調器100の動作は制御部200により制御される。後述するように、MZ変調器MZ
AおよびMZ
Bにそれぞれ印加されるRF電圧と位相シフタ101に印加されるDC電圧とが制御部200により制御される。
【0014】
図3に例示するように、MZ変調器MZ(MZ
AあるいはMZ
B)は、MZ干渉計の2つの導波路(子アーム)の間に導波路方向に伸びたRF(高周波:Radio Frequency)電極102が設けられ、2つの子アームの外側に基準となるGND電極103および104がそれぞれ設けられた構成を有する。したがって、RF電極の電圧極性に従って、上下の子アームに対して、電圧の大きさに応じた逆方向の電界が印加され、電気光学効果により逆方向の屈折率変化が生じる。この屈折率の変化が上下の子アームでの逆方向の位相変化を生じさせ、それによって通過パルスの位相変調が可能となる。
【0015】
たとえば、位相差0に相当するRF電圧であれば、入力した光パルス信号P1はそのままの強度で光パルス信号P2として出力する(オン状態)。位相差180°に相当するRF電圧であれば、2分岐した光パルスがキャンセルされ、出力光P2は消光状態となる(オフ状態)。以下、位相差θ°を実現するRF電圧を便宜的に「θ°RF電圧」と記すものとする。
【0016】
なお、MZ変調器MZは、所望の位相差を実現するために、子アーム間にDCバイアス用電極105を、それに対向する子アームの外側にGND電極106および107をそれぞれ有する。電極105に印加されるDCバイアス電圧(DCAあるいはDCB)を制御することにより、位相変調の変調動作点を調整できる。
【0017】
ネスト型変調器100は、
図3に示す構成を有するMZ変調器MZ
AおよびMZ
Bが
図2に示すように親アームAおよびBによって並列接続され、さらに親アームBに位相シフタ101が設けられた構成を有する。なお、親アーム間で相対的な位相変調差φを与える位相シフタ101は、
図3に例示したDCバイアス用電極とGND電極と同様の構成を有しても良い。すなわち、DCバイアス電極に印加される電圧DC
Cを制御することにより、所望の位相差φを与えるようにネスト型変調器100の位相変調の変調動作点を調整できる。
【0018】
ネスト型変調器100は、制御部200の制御に従って、入力光パルスを次に述べるように変調し、強度0を含む4状態の光パルスを出力する。この4状態はIQ平面上で4つの信号点に対応する。
図4(A)はその信号点配置の一例を示す。以下、ネスト型変調器100の変調動作について説明する。
【0019】
1.2)動作
図2に戻って、入力した光パルスINはMZ干渉計MZ
Cの分岐部で光パルスP1
AおよびP1
Bに2分岐し、分岐光パルスP1
AおよびP1
BがMZ変調器MZ
AおよびMZ
Bへそれぞれ入力する。MZ変調器MZ
AおよびMZ
Bは、印加されるRF電圧RF
AおよびRF
Bによりそれぞれ分岐光パルスP1
AおよびP1
Bに対して所定の位相変調を実行し、位相変調された分岐光パルスP2
AおよびP2
Bをそれぞれ出力する。このうち分岐光パルスP2
Bは、親アーム間に所定の位相差φを与える位相シフタ101によってさらに位相変調され、分岐光パルスP2’
Bが生成される。こうして、親アームA側の分岐光パルスP2
Aと親アームB側の分岐光パルスP2’
Bとが合波することで光パルスOUTが出力される。
【0020】
図4(A)に例示するように、出力光パルスOUTは強度0(信号点S0)を含む4状態を有する。強度0の信号点S0以外の3信号点の配置は
図4(A)に限定されない。4信号点の配置形態は、MZ変調器MZ
AおよびMZ
Bにそれぞれ印加されるRF電圧RF
AおよびRF
Bに応じた位相変調の大きさと、位相シフタ101に印加されるバイアス電圧DC
Cに応じた位相シフト量と、に依存する。比較のために、既存のQPSKでの信号点配置を
図4(B)に示す。なお、
図4におけるI軸およびQ軸上の数値は任意単位であり、相対的な位置関係を示すための数値である。以下に示す
図6、
図9においても同様である。
【0021】
図4(A)に示す強度0の信号点S0の生成方法としては以下の2つがある。
1)MZ変調器MZ
AおよびMZ
Bが共にオフ状態(消光状態)となるようにRF電圧RF
AおよびRF
Bを設定する(第1実施例)。
2)分岐光パルスP2
Aと分岐岐光パルスP2’
Bとが位相差180°となってキャンセルされるようにRF電圧RF
A、RF
Bおよびバイアス電圧DC
Cを設定する(第2実施例)。
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。
【0022】
2.第1実施例
2.1)構成
図5に例示するように、本発明の第1実施例による光変調装置は、位相シフタ101に印加されるバイアス電圧DC
Cが親アーム間に位相差φ=90°を与える。さらに、上述したように、RF電圧RF
AおよびRF
BがMZ変調器MZ
AおよびMZ
Bをそれぞれオフ状態(消光状態)にすることができ、MZ変調器MZ
AおよびMZ
Bを共にオフ状態にすることでIQ平面状の強度0の信号点S0を生成する。このようなオフ状態が実現されるように、MZ変調器MZ
AおよびMZ
Bは、それぞれのバイアス電圧DC
AおよびDC
Bによって位相変調動作点が予め調整され、バイアス電圧DC
Cも同様に、位相差φ=90°を維持するように調整されているものとする。なお、
図5に例示する光導波路構成および制御部は、基本的に
図2と同様であるから、同一の構成要素には同一の参照符号を用いて詳細な説明は省略する。
【0023】
2.2)動作
以下、光パルスの強度あるいはパワーに関しては、最大値を「1」として正規化し、0と1の間の相対的数値により表すものとする。強度あるいはパワーが振幅の2乗に比例するものとすれば、光パルスの振幅についても同様に正規化した値で説明する。
【0024】
図6に例示するように、ネスト型変調器100はRF電圧RF
AおよびRF
Bによって4状態のいずれかの基底を生成可能である。すなわち、0°RF電圧RF
Aが印加されたMZ変調器MZ
Aは、位相変調を与えないので、入力光パルスP1
Aとほぼ同じ強度および同じ位相の光パルスP2
Aを出力する。なお、以下、0°RF電圧RF
Aが印加された時の光パルスP2
Aを「A0」という。180°RF電圧RF
Aが印加されたMZ変調器MZ
Aは、オフ状態となるので、強度が実質的に0および位相が90°シフトした光パルスP2
Aを出力する。以下、180°RF電圧RF
Aが印加された時の光パルスP2
Aを「A1」という。
【0025】
同様に、0°RF電圧RFBが印加されたMZ変調器MZBは、位相変調を与えないので、入力光パルスP1Bとほぼ同じ強度および同じ位相の光パルスP2Bを出力する。180°RF電圧RFBが印加されたMZ変調器MZBは、オフ状態となるので、強度が実質的に0、位相が90°シフトした光パルスP2Bを出力する。さらに、光パルスP2Bは位相シフタ101により90°の位相変調を与えられる。したがって、0°RF電圧RFBが印加された場合、位相シフタ101は90°の位相変調を受けた光パルスP2’Bを出力する。以下、0°RF電圧RFBが印加された時の光パルスP2’Bを「B0」という。180°RF電圧RFBが印加された場合、MZ変調器MZBがオフ状態となるので、位相シフタ101は強度が実質的に0および位相が180°シフトした光パルスP2’Bを出力する。以下、180°RF電圧RFBが印加された時の光パルスP2’Bを「B1」という。
【0026】
こうして、親アームA側のA0/A1と親アームB側のB0/B1とが合波することで、以下の4状態S1~S4のいずれかの光信号OUTを得ることができる。
・ A0+B0:MZ変調器MZAおよびMZBが共に0°RF電圧が印加されているので、いずれもオン状態となる。したがって、A0+B0は強度1、位相45°の信号点S1(Z(ON)基底)に対応する。
・ A0+B1:MZ変調器MZAに0°RF電圧、MZ変調器MZBに180°RF電圧が印加されている。したがって、A0+B1は強度0.5、位相0°の信号点S2(Y基底)に対応する。
・ A1+B0:MZ変調器MZAに180°RF電圧、MZ変調器MZBに0°RF電圧が印加されている。したがって、A1+B0は強度0.5、位相90°の信号点S3(Y基底)に対応する。
・ A1+B1:MZ変調器MZAおよびMZBが共に180°RF電圧が印加されているので、共にオフ状態となる。したがって、A1+B1は強度0、位相135°の信号点S4(Z(OFF)基底)に対応する。
【0027】
<位相-時間コーディング>
コヒーレントな2連パルスに対して上記4状態の光変調をどのような順序で実行するかによって、
図7に示すような位相-時間コーディングの4状態Y0、Y1、Z0、Z1を得ることができる。
【0028】
図7に例示するように、RF電圧RF
AおよびRF
Bを変化させる。詳しくは、以下の通りである。
・ 2連パルスの前パルスに対して信号点S2(A0+B1)の変調を行い、後パルスに対して信号点S3(A1+B0)の変調を行う。これにより、後パルスは前パルスに対して+90°だけ位相シフトしY0状態が得られる。
・ 2連パルスの前パルスに対して信号点S3(A1+B0)の変調を行い、後パルスに対して信号点S2(A0+B1)の変調を行う。これにより、後パルスは前パルスに対して-90°だけ位相シフトしY1状態が得られる。
・ 2連パルスの前パルスに対して信号点S1(A0+B0)の変調を行い、後パルスに対して信号点S4(A1+B1)の変調を行う。これにより、前パルスが強度1、後パルスは強度0となり、Z0状態が得られる。
・ 2連パルスの前パルスに対して信号点S4(A1+B1)の変調を行い、後パルスに対して信号点S1(A0+B0)の変調を行う。これにより、前パルスが強度0、後パルスは強度1となり、Z1状態が得られる。
【0029】
2.3)効果
以上述べたように、本発明の第1実施例によれば、位相シフタ101に印加されるバイアス電圧DC
Cが親アーム間に位相差φ=90°を与え、さらに、
図6に例示するようにRF電圧RF
AおよびRF
Bを設定することでIQ平面上に4信号点配置S1~S4を実現できる。特に、MZ変調器MZ
AおよびMZ
Bを共にオフ状態にすることで、
図6に示すIQ平面における強度0の信号点S4を生成することができる。
【0030】
また、
図7に例示するように、強度0の信号点S4を含む4つの信号点S1~S4のうち、信号点S1と信号点S4との間の位相変調によりZ0/Z1状態を、信号点S2と信号点S3との間の位相変調によりY0/Y1状態をそれぞれ実現することで、位相-時間コーディング方式に必要な4状態の信号光を生成することができる。
【0031】
さらに、本実施例によれば、MZ変調器MZAおよびMZBが強度0のオフ状態となり得るので、MZ変調器MZAおよびMZBの各出力光の強度をモニタすることにより行われるMZ変調器の位相変調動作点の制御が容易になるという利点がある。
【0032】
3.第2実施例
3.1)構成
図8に例示するように、本発明の第2実施例による光変調装置は、位相シフタ101に印加されるバイアス電圧DC
Cが親アーム間に位相差φ=180°を与える。さらに、IQ平面上の強度0の信号点S0(オフ状態)は、上述したように、分岐光パルスP2
Aと分岐岐光パルスP2’
Bとが位相差180°となってキャンセルされるようにRF電圧RF
AおよびRF
Bを設定することで生成される。なお、このようなオフ状態が実現されるように、MZ変調器MZ
AおよびMZ
Bは、それぞれのバイアス電圧DC
AおよびDC
Bによって位相変調動作点が予め調整され、バイアス電圧DC
Cも同様に、位相差φ=180°を維持するように調整されているものとする。なお、
図8に例示する光導波路構成および制御部200は、基本的に
図2と同様であるから、同一の構成要素には同一の参照符号を用いて詳細な説明は省略する。
【0033】
3.2)動作
図9に例示するように、ネスト型変調器100はRF電圧RF
AおよびRF
Bによって4状態のいずれかの状態を生成可能である。すなわち、0°RF電圧RF
Aが印加されたMZ変調器MZ
Aは、位相変調を与えないので、入力光パルスP1
Aとほぼ同じ強度および同じ位相の光パルスP2
Aを出力する。以下、0°RF電圧RF
Aが印加された時の光パルスP2
Aを「A0」という。90°RF電圧RF
Aが印加されたMZ変調器MZ
Aは、強度が0.5および位相が45°シフトした光パルスP2
Aを出力する。以下、90°RF電圧RF
Aが印加された時の光パルスP2
Aを「A1」という。
【0034】
同様に、-90°RF電圧RFBが印加されたMZ変調器MZBは、強度が0.5および位相が-45°シフトした光パルスP2Bを出力する。0°RF電圧RFBが印加されたMZ変調器MZBは、入力光パルスP1Bとほぼ同じ強度および同じ位相の光パルスP2Bを出力する。さらに、光パルスP2Bは位相シフタ101により180°の位相変調を与えられる。したがって、-90°RF電圧RFBが印加された場合、位相シフタ101は135°の位相変調を受けた光パルスP2’Bを出力する。以下、-90°RF電圧RFBが印加された時の光パルスP2Bを「B0」という。0°RF電圧RFBが印加された場合、位相シフタ101は位相が180°シフトした光パルスP2’Bを出力する。以下、0°RF電圧RFBが印加された時の光パルスP2’Bを「B1」という。
【0035】
こうして、親アームA側のA0/A1と親アームB側のB0/B1とが合波することで、以下の4状態S1~S4のいずれかの信号OUTを得ることができる。
・ A0+B0:MZ変調器MZAに0°RF電圧、MZ変調器MZBに-90°RF電圧が印加されているので、A0+B0は強度0.25、位相45°の信号点S1(Y基底)に対応する。
・ A0+B1:MZ変調器MZAに0°RF電圧、MZ変調器MZBに0°RF電圧が印加されているので、A0+B1は強度0、位相90°の信号点S2(Z(OFF)基底)に対応する。
・ A1+B0:MZ変調器MZAに90°RF電圧、MZ変調器MZBに-90°RF電圧が印加されているので、A1+B0は強度0.5、位相90°の信号点S3(Z(ON)基底)に対応する。
・ A1+B1:MZ変調器MZAに90°RF電圧、MZ変調器MZBに0°RF電圧が印加されているので、A1+B1は強度0.25、位相135°の信号点S4(Y基底)に対応する。
【0036】
<位相-時間コーディング>
コヒーレントな2連パルスに対して上記4状態の光変調をどのような順序で実行するかによって、第1実施例と同様に、位相-時間コーディングの4状態Y0、Y1、Z0、Z1を得ることができる。詳しくは、以下の通りである。
・ 2連パルスの前パルスに対して信号点S1(A0+B0)の変調を行い、後パルスに対して信号点S4(A1+B1)の変調を行う。これにより、後パルスは前パルスに対して+90°だけ位相シフトしY0状態が得られる。
・ 2連パルスの前パルスに対して信号点S4(A1+B1)の変調を行い、後パルスに対して信号点S1(A0+B0)の変調を行う。これにより、後パルスは前パルスに対して-90°だけ位相シフトしY1状態が得られる。
・ 2連パルスの前パルスに対して信号点S3(A1+B0)の変調を行い、後パルスに対して信号点S2(A0+B1)の変調を行う。これにより、前パルスが強度0.5、後パルスは強度0となり、Z0状態が得られる。
・ 2連パルスの前パルスに対して信号点S2(A0+B1)の変調を行い、後パルスに対して信号点S3(A1+B0)の変調を行う。これにより、前パルスが強度0、後パルスは強度0.5となり、Z1状態が得られる。
【0037】
3.3)効果
以上述べたように、本発明の第2実施例によれば、位相シフタ101に印加されるバイアス電圧DC
Cが親アーム間に位相差φ=180°を与え、さらに、
図9に例示するようにRF電圧RF
AおよびRF
Bを設定することでIQ平面上に4信号点配置S1~S4を実現できる。特に、MZ変調器MZ
Aを「A0」、MZ変調器MZ
Bを「B1」に設定することで、分岐光パルスP2
Aと分岐岐光パルスP2’
Bとが位相差180°となってキャンセルされ、
図9に示すIQ平面における強度0の信号点S2を生成することができる。
【0038】
また、
図9に例示するように、強度0の信号点S2を含む4つの信号点S1~S4のうち、信号点S2と信号点S3との間の位相変調によりZ0/Z1状態を、信号点S1と信号店S4との間の位相変調によりY0/Y1状態をそれぞれ実現することで、第1実施例より少ない位相シフト量で位相-時間コーディング方式に必要な4状態の信号光を生成することができる。
【0039】
4.第3実施例
上述したように、MZ変調器MZAおよびMZBは、それぞれのバイアス電圧DCAおよびDCBによって位相変調動作点が調整され、バイアス電圧DCCも同様に、所定の位相差φを維持するように調整される。
【0040】
本発明の第3実施例による光変調装置は、上述した第1実施例あるいは第2実施例によるネスト型変調器100のバイアス制御を行う制御手段を有する。以下、第1実施例によるネスト型変調器100を例示して、本実施形態におけるバイアス制御について説明する。
【0041】
図10に例示するように、ネスト型変調器100において、MZ変調器MZ
AおよびMZ
Bの出力側光導波路には強度モニタ用のカプラ201および202がそれぞれ設けられ、親MZ変調器MZ
Cの出力側光導波路には強度モニタ用のカプラ203が設けられている。光強度モニタ204は、それぞれのカプラで得られた光パルスP2
A、P2
BおよびOUTのモニタ用の光信号からそれぞれの強度I
A、I
BおよびI
OUTを検出し、コントローラ205へ出力する。
【0042】
コントローラ205は、強度IA、IBおよびIOUTに基づいてバイアス駆動回路206を制御し、期待通りの位相変調結果が得られるようにDCバイアス電圧DCA、DCBおよびDCCを制御する。さらに、コントローラ205は、所定の信号点S1~S4により位相-時間コーディングが実行されるように、RF駆動回路207を制御し、RF電圧RFAおよびRFBを変化させる。
【0043】
コントローラ205は、ハードウエアで構成することもできるが、コンピュータプログラムを実行可能なプロセッサにより実行することもできる。すなわち、CPU(Central Processing Unit)がプログラムメモリ208に格納されたプログラムを実行することにより、上述したDCバイアス電圧DCA、DCBおよびDCCの制御が可能となる。
【0044】
すでに述べたように、本発明の第1実施例では、MZ変調器MZAおよびMZBが共にオフ状態になることで強度0の状態になるので、その状態で強度IA、IBおよびIOUTを検出し、所定しきい値と比較することで各位相変調器の動作点を容易に制御することができる。このようなバイアス制御は、本発明の第2実施例によるネスト型変調器100にも適用可能である。
【0045】
5.QKDシステム
上述した第1~第3実施例による光変調装置は、位相-時間コーディング方式の量子暗号鍵配送(Quantum Key Distribution)システムに適用可能である。
【0046】
以下、一例として、位相-時間コーディング方式の単一方向型QKDシステムについて
図11を参照しながら説明する。なお、上記実施例は単一方向型だけでなく、双方向型のQKDシステムであっても同様に適用可能である。
【0047】
図11に例示するように、単一方向型QKDシステムは、送信機(Alice)と受信機(Bob)とが光ファイバで接続され、種々の量子暗号鍵配送アルゴリズムを用いてAliceからBobへ量子鍵を配送することができる。
【0048】
Aliceは、レーザ光源301、非対称干渉計302、強度位相変調器303、減衰器304、乱数供給部305、変調制御部306、その他同期部や制御部(図示せず)等を有する。強度位相変調器303は、本発明の第1あるいは第2実施例によるネスト型変調器100により構成することができる。また、強度位相変調器303および変調制御部306は、本発明の第3実施例によるネスト型変調器100およびコントローラ205により構成することができる。Bobは、位相変調器307、非対称干渉計308、光子検出部309および310、その他同期部や制御部(図示せず)等を有する。Aliceの非対称干渉計302とBobの非対称干渉計308とは同一構成の干渉計である。
【0049】
変調制御部306は乱数供給部305から入力した乱数に従って強度位相変調器303を制御する。より詳しくは、たとえば
図7に例示したように、ネスト型変調器100のRF電圧RF
AおよびRF
Bを基底および情報ビット用の乱数に従って変化させ、コヒーレントな2連パルスに対して強度位相変調を実行する。その際、第3実施例で述べたように、出力光パルスP2
A、P2
BおよびOUTのモニタ用の光信号からそれぞれ検出された強度I
A、I
BおよびI
OUTに基づいてバイアス駆動回路206を制御し、期待通りの位相変調結果が得られるようにDCバイアス電圧DC
A、DC
BおよびDC
Cを制御することが望ましい。
【0050】
レーザ光源301から出力された光パルスは、非対称干渉計302を通ることでコヒーレントな2連パルス(ダブルパルス)に時間的に分割する。ダブルパルス列は、基底および情報ビット用の乱数に従った強度位相変調器303(ネスト型変調器100)により位相-時間コーディング方式で符号化される。このように符号化されたダブルパルス列が減衰器304を通してBobへ送信される。
【0051】
Bobの位相変調器307は、到達したダブルパルスに対して、基底用の乱数に従って位相変調し、このダブルパルスが非対称干渉計308を通ることで、先行パルスと後行パルスとが干渉し、その結果が光子検出部309および310により検出される。すなわち、ダブルパルス毎に先行パルスと後方パルスとの間の位相差から情報を検出することができる。
【0052】
6.付記
上述した実施形態および実施例の一部あるいは全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、これらに限定されるものではない。
(付記1)
マッハツェンダ(MZ)型の第1変調部と第2変調部とが並列接続され、前記第1変調部および前記第2変調部の出力光の間に所定の位相差を与える位相シフタを備えたネスト型変調器と、
前記位相シフタにより与えられる前記位相差と前記第1変調部および前記第2変調部の各々により与えられる強度および位相の変調の大きさとを制御することで、前記ネスト型変調器の出力光をIQ平面に配置された4信号点の間で変化させる制御手段と、
を有し、前記4信号点の第1信号点の強度が0、第2信号点の相対的強度が1、第3信号点の相対的強度および第4信号点の相対的強度がそれぞれ前記0と前記1との間の値であって、前記第3信号点と前記第4信号点とが90°の位相差を有する、
ことを特徴とする光変調装置。
(付記2)
前記第1信号点は、前記第1変調部および前記第2変調部を共に出力光の強度0のオフ状態に設定することで得られることを特徴とする付記1に記載の光変調装置。
(付記3)
前記位相シフタにより与えられる前記位相差が90°に設定され、
前記第2信号点が、前記第1変調部および前記第2変調部を共に出力光の相対的強度1のオン状態に設定することで得られ、
前記第3信号点および前記第4信号点が、前記第1変調部および前記第2変調部の一方を出力光の強度0のオフ状態、他方を相対的強度1のオン状態にそれぞれ設定することで得られる、
ことを特徴とする付記2に記載の光変調装置。
(付記4)
前記第1変調部および前記第2変調部の各々が、強度および位相変調の大きさを制御するための制御電極を有するMZ変調器であり、
前記制御手段が、前記第1変調部の第1制御電極と前記第2変調部の第2制御電極とに180°の位相変調に相当する振幅の電圧をそれぞれ印加し、前記位相シフタに位相差90°に相当するDCバイアス電圧を印加する、
ことを特徴とする付記1-3のいずれか1項に記載の光変調装置。
(付記5)
前記第1信号点は、前記位相シフタにより前記位相差が与えられた出力光と当該位相差が与えられない出力光との位相差を180°とすることで得られることを特徴とする付記1に記載の光変調装置。
(付記6)
前記位相シフタにより与えられる前記位相差が180°に設定され、
前記第2信号点が、前記第1変調部を90°の位相変調、前記第2変調部を-90°の位相変調に設定することで得られ、
前記第3信号点および前記第4信号点が、前記第1変調部および前記第2変調部の一方を出力光の強度1のオン状態、他方を90°あるいは-90°の位相変調にそれぞれ設定することで得られる、
ことを特徴とする付記5に記載の光変調装置。
(付記7)
前記第1変調部および前記第2変調部の各々が、強度および位相変調の大きさを制御するための制御電極を有するMZ変調器であり、
前記制御手段が、前記第1変調部の第1制御電極と前記第2変調部の第2制御電極とに90°の位相変調に応答する振幅の電圧と-90°の位相変調に応答する振幅の電圧とをそれぞれ印加し、前記位相シフタに位相差180°に応答するDCバイアス電圧を印加する、
ことを特徴とする付記1、5、6のいずれか1項に記載の光変調装置。
(付記8)
前記ネスト型変調器が、コヒーレントな2連光パルスに対して位相-時間コーディング方式に従って強度位相変調を実行し、
前記制御手段が、前記位相-時間コーディング方式のZ基底状態を前記第1信号点と前記第2信号点との間で、Y基底状態を前記第3信号点と前記第4信号点との間で生成することを特徴とする付記1-7のいずれか1項に記載の光変調装置。
(付記9)
付記8に記載の光変調装置を有する、量子鍵配送システムの送信機。
(付記10)
マッハツェンダ(MZ)型の第1変調部と第2変調部とが並列接続され、前記第1変調部および前記第2変調部の出力光の間に所定の位相差を与える位相シフタを備えたネスト型変調器を用いた光変調方法であって、
制御手段が、前記位相シフタにより与えられる前記位相差と前記第1変調部および前記第2変調部の各々により与えられる強度および位相の変調の大きさとを制御することで、前記ネスト型変調器の出力光をIQ平面に配置された4信号点の間で変化させ、
前記4信号点の第1信号点の強度が0、第2信号点の相対的強度が1、第3信号点の相対的強度および第4信号点の相対的強度がそれぞれ前記0と前記1との間の値であって、前記第3信号点と前記第4信号点とが90°の位相差を有する、
ことを特徴とする光変調方法。
(付記11)
前記制御手段が前記第1変調部および前記第2変調部を共に出力光の強度0のオフ状態に設定することで、前記第1信号点が得られることを特徴とする付記10に記載の光変調方法。
(付記12)
前記制御手段が、
前記位相シフタにより与えられる前記位相差を90°に設定し、
前記第1変調部および前記第2変調部を共に出力光の相対的強度1のオン状態に設定することで前記第2信号点が得られ、
前記第1変調部および前記第2変調部の一方を出力光の強度0のオフ状態、他方を相対的強度1のオン状態にそれぞれ設定することで前記第3信号点および前記第4信号点が得られる、
ことを特徴とする付記11に記載の光変調方法。
(付記13)
前記第1変調部および前記第2変調部の各々が、強度および位相変調の大きさを制御するための制御電極を有するMZ変調器であり、
前記制御手段が、前記第1変調部の第1制御電極と前記第2変調部の第2制御電極とに180°の位相変調に相当する振幅の電圧をそれぞれ印加し、前記位相シフタに位相差90°に相当するDCバイアス電圧を印加する、
ことを特徴とする付記10-13のいずれか1項に記載の光変調方法。
(付記14)
前記第1信号点は、前記位相シフタにより前記位相差が与えられた出力光と当該位相差が与えられない出力光との位相差を180°とすることで得られることを特徴とする付記10に記載の光変調方法。
(付記15)
前記制御手段が、
前記位相シフタにより与えられる前記位相差を180°に設定し、
前記第1変調部を90°の位相変調、前記第2変調部を-90°の位相変調に設定することで前記第2信号点が得られ、
前記第1変調部および前記第2変調部の一方を出力光の強度1のオン状態、他方を90°あるいは-90°の位相変調にそれぞれ設定することで前記第3信号点および前記第4信号点が得られる、
ことを特徴とする付記14に記載の光変調方法。
(付記16)
前記第1変調部および前記第2変調部の各々が、強度および位相変調の大きさを制御するための制御電極を有するMZ変調器であり、
前記制御手段が、前記第1変調部の第1制御電極と前記第2変調部の第2制御電極とに90°の位相変調に応答する振幅の電圧と-90°の位相変調に応答する振幅の電圧とをそれぞれ印加し、前記位相シフタに位相差180°に応答するDCバイアス電圧を印加する、
ことを特徴とする付記10、14、15のいずれか1項に記載の光変調方法。
(付記17)
前記ネスト型変調器が、コヒーレントな2連光パルスに対して位相-時間コーディング方式に従って強度位相変調を実行し、
前記制御手段が、前記位相-時間コーディング方式のZ基底状態を前記第1信号点と前記第2信号点との間で、Y基底状態を前記第3信号点と前記第4信号点との間で生成することを特徴とする付記10-16のいずれか1項に記載の光変調方法。
(付記18)
マッハツェンダ(MZ)型の第1変調部と第2変調部とが並列接続され、前記第1変調部および前記第2変調部の出力光の間に所定の位相差を与える位相シフタを備えたネスト型変調器を制御する制御手段としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、
前記位相シフタにより与えられる前記位相差と前記第1変調部および前記第2変調部の各々により与えられる強度および位相の変調の大きさとを制御することで、前記ネスト型変調器の出力光をIQ平面に配置された4信号点の間で変化させ、
前記4信号点の第1信号点の強度が0、第2信号点の相対的強度が1、第3信号点の相対的強度および第4信号点の相対的強度がそれぞれ前記0と前記1との間の値であって、前記第3信号点と前記第4信号点とが90°の位相差を有する、
ことを特徴とするプログラム。
なお、本発明は、日本国にて2019年3月18日に出願された特願2019-049863の特許出願に基づく優先権主張の利益を享受するものであり、当該特許出願に記載された内容は、全て本明細書に含まれるものとする。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、光通信システム、特に量子鍵配送システムの光変調器に利用することができる。
【符号の説明】
【0054】
100 ネスト型変調器
101 位相シフタ
102 RF電極
103、104、106、107 接地(GND)電極
105 DCバイアス電極
200 制御部
201~203 カプラ
204 光強度モニタ
205 コントローラ
206 バイアス駆動回路
207 RF駆動回路
208 プログラムメモリ
301 レーザ光源
302 非対称干渉計
303 強度位相変調器
304 減衰器
305 乱数供給部
306 変調制御部
307 位相変調器(基底)
308 非対称干渉計
309、310 光子検出器
MZA、MZB マッハツェンダ(MZ)変調器
MZC 親MZ干渉計
RFA、RFB 高周波電圧
DCA、DCB、DCC DCバイアス電圧