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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】ガスクロマトグラフ質量分析装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/04 20060101AFI20221025BHJP
   H01J 49/00 20060101ALI20221025BHJP
   H01J 49/26 20060101ALI20221025BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20221025BHJP
   G01N 30/72 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
H01J49/04 220
H01J49/00 400
H01J49/04 680
H01J49/26
G01N27/62 C
G01N30/72 F
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021525423
(86)(22)【出願日】2019-06-10
(86)【国際出願番号】 JP2019022968
(87)【国際公開番号】W WO2020250282
(87)【国際公開日】2020-12-17
【審査請求日】2021-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【弁理士】
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【弁理士】
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】内田 剛史
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-283982(JP,A)
【文献】実開昭53-157793(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49
G01N 27
G01N 30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を成分分離するカラムを有するガスクロマトグラフ部と、
真空ハウジング内に設けられた質量分析部と、
前記ガスクロマトグラフ部で成分分離された試料を前記質量分析部に導入するインターフェース部と、を備え、
前記インターフェース部は、
前記真空ハウジングに形成された開口を塞ぐように前記真空ハウジングに固定される隔壁部と、
前記隔壁部を内外に貫通するように前記隔壁部に固定され、前記カラムの試料出口側ラインを内包して前記試料を前記質量分析部に導入するラインパイプと、
前記ラインパイプ軸方向における一端面および他端面を有し、前記ラインパイプを前記軸方向に沿って加熱する加熱部と、
前記加熱部の前記軸方向の前記一端面を前記隔壁部に接触させた状態で固定する固定部と、を備え
前記加熱部は、前記一端面から前記他端面まで前記ラインパイプの外周面を全周にわたって取り囲むように設けられる、ガスクロマトグラフ質量分析装置。
【請求項2】
試料を成分分離するカラムを有するガスクロマトグラフ部と、
真空ハウジング内に設けられた質量分析部と、
前記ガスクロマトグラフ部で成分分離された試料を前記質量分析部に導入するインターフェース部と、を備え、
前記インターフェース部は、
前記真空ハウジングに形成された開口を塞ぐように前記真空ハウジングに固定される隔壁部と、
前記隔壁部を内外に貫通するように前記隔壁部に固定され、前記カラムの試料出口側ラインを内包して前記試料を前記質量分析部に導入するラインパイプと、
前記ラインパイプを軸方向に沿って加熱する加熱部と、
前記加熱部を前記隔壁部に接触させた状態で固定する固定部と、を備え、
前記固定部は前記加熱部を前記隔壁部に対して押圧する、ガスクロマトグラフ質量分析装置。
【請求項3】
請求項2に記載のガスクロマトグラフ質量分析装置において、
前記加熱部は前記ラインパイプに外挿され、
前記固定部は、前記ラインパイプの外周に形成された雄ねじ部と螺合する雌ねじ部が形成されたナット部材であって、
前記ラインパイプに対して前記ナット部材が回転されて締め付けられると、前記加熱部が前記隔壁部に押圧されるように固定される、ガスクロマトグラフ質量分析装置。
【請求項4】
請求項3に記載のガスクロマトグラフ質量分析装置において、
前記ナット部材と前記加熱部との間にばね部材が配置される、ガスクロマトグラフ質量分析装置。
【請求項5】
請求項2に記載のガスクロマトグラフ質量分析装置において、
前記固定部は、前記隔壁部に固定されて前記隔壁部との間に前記加熱部を挟持する固定板である、ガスクロマトグラフ質量分析装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載のガスクロマトグラフ質量分析装置において、
前記ラインパイプは、前記隔壁部を内外に貫通するように前記隔壁部に固定される第1の端部と、前記ガスクロマトグラフ部の筐体に設けられた開口に挿入される第2の端部とを有する棒状部材であって、
前記第2の端部は断熱部材を介して前記開口に挿入されている、ガスクロマトグラフ質量分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスクロマトグラフ質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスクロマトグラフ質量分析装置は、ガスクロマトグラフ部、質量分析部およびインターフェース部を備える(例えば、特許文献1参照)。インターフェース部は、ガスクロマトグラフ部と質量分析部とを連結する。ガスクロマトグラフ部で成分分離された試料はインターフェース部を介して質量分析部に導入され、質量分析部は、成分分離された試料をイオン化し、「m/z」に応じて分離・検出する。インターフェース部にはヒータブロックが設けられ、インターフェース部を通るカラムの温度低下を防止するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国特開平10-283982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、インターフェース部の温度分布が不均一になって内包されるカラムの低温部にサンプル(特に高沸点成分)が吸着され、分析精度の悪化を招くという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様によると、ガスクロマトグラフ質量分析装置は、試料を成分分離するカラムを有するガスクロマトグラフ部と、真空ハウジング内に設けられた質量分析部と、前記ガスクロマトグラフ部で成分分離された試料を前記質量分析部に導入するインターフェース部と、を備え、前記インターフェース部は、前記真空ハウジングに形成された開口を塞ぐように前記真空ハウジングに固定される隔壁部と、前記隔壁部を内外に貫通するように前記隔壁部に固定され、前記カラムの試料出口側ラインを内包して前記試料を前記質量分析部に導入するラインパイプと、前記ラインパイプを軸方向に沿って加熱する加熱部と、前記加熱部を前記隔壁部に接触させた状態で固定する固定部と、を備える。
本発明の第2の態様によると、第1の態様のガスクロマトグラフ質量分析装置において、前記固定部は前記加熱部を前記隔壁部に対して押圧する。
本発明の第3の態様によると、第2の態様のガスクロマトグラフ質量分析装置において、前記加熱部は前記ラインパイプに外挿され、前記固定部は、前記ラインパイプの外周に形成された雄ねじ部と螺合する雌ねじ部が形成されたナット部材であって、前記ラインパイプに対して前記ナット部材が回転されて締め付けられると、前記加熱部が前記隔壁部に押圧されるように固定される。
本発明の第4の態様によると、第3の態様のガスクロマトグラフ質量分析装置において、前記ナット部材と前記加熱部との間にばね部材が配置される。
本発明の第5の態様によると、第2の態様のガスクロマトグラフ質量分析装置において、前記固定部は、前記隔壁部に固定されて前記隔壁部との間に前記加熱部を挟持する固定板である。
本発明の第6の態様によると、第1から第5の態様までのいずれか一の態様のガスクロマトグラフ質量分析装置において、前記ラインパイプは、前記隔壁部を内外に貫通するように前記隔壁部に固定される第1の端部と、前記ガスクロマトグラフ部の筐体に設けられた開口に挿入される第2の端部とを有する棒状部材であって、前記第2の端部は断熱部材を介して前記開口に挿入されている。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、インターフェース部の温度分布の均一性向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、ガスクロマトグラフ質量分析装置の概略構成を示す模式図である。
図2図2は、インターフェース部の詳細を示す断面図である。
図3図3は、比較例を示す図である。
図4図4は、軸方向温度分布を示す図である。
図5図5は、軸方向温度分布を示す図である。
図6図6は、変形例1を示す図である。
図7図7は、変形例2を示す図である。
図8図8は、変形例4を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。図1は、ガスクロマトグラフ質量分析装置の概略構成を模式的に示した図である。ガスクロマトグラフ質量分析装置1は、ガスクロマトグラフ部10と、インターフェース部20と、質量分析部30とを備える。ガスクロマトグラフ部10は、試料に混在する各成分を時間的に分離する。インターフェース部20は、ガスクロマトグラフ部10と質量分析部30とを連結し、ガスクロマトグラフ部10で成分分離された試料を質量分析部30に導入する。質量分析部30は、ガスクロマトグラフ部10で分離された成分を「m/z」に応じて分離および検出する。
【0009】
ガスクロマトグラフ部10は、カラムオーブン11、カラム12およびインジェクタ13を備えている。図示していないが、インジェクタ13は液体試料を加熱して気化するための試料気化室を有し、試料気化室には所定流量のキャリアガス(例えばHeガス)が供給される。マイクロシリンジ等により試料気化室に注入された液体試料は試料気化室で気化し、キャリアガス流に乗ってカラム12内に送られる。カラム12はカラムオーブン11により適度の温度に加熱されている。
【0010】
気化した試料(すなわち試料ガス)はキャリアガスとともにカラム12内を移動する。試料ガスには複数の成分が含まれるが、カラム12内を進む速度は成分ごとに異なるので、カラム12の出口にそれぞれの成分が到着する時間に差が生じる。その結果、各成分が時間的に分離されてカラム12の出口に到着する。
【0011】
インターフェース部20は、カラム12の試料出口側ラインが挿入されるラインパイプ21と、ラインパイプ21を加熱するためのヒータブロック22とを備えている。ヒータブロック22でラインパイプ21を加熱することで、ラインパイプ21内のカラム12も加熱される。
【0012】
質量分析部30は、イオン化室31、分離部32および検出部33を備えている。イオン化室31、分離部32および検出部33は、真空ポンプ35により真空排気される真空ハウジング34内に収められている。イオン化室31にはイオン化用の電子ビームを発生する電子源(不図示)が設けられていて、インターフェース部20からイオン化室31に導入された試料分子は電子ビームによってイオン化される。発生したイオンはイオン化室31から分離部32へ送出され、分離部32により「m/z」に応じて分離される。分離されたイオンは検出部33によって検出される。
【0013】
図2は、インターフェース部20の詳細を示す断面図である。インターフェース部20は、ガスクロマトグラフ部10と質量分析部30との間、詳細には図中右側のカラムオーブン11と左側のイオン化室31との間で、後述するように、真空ハウジング34に固定されて設けられている。インターフェース部20は、隔壁240およびフランジ241を有する隔壁部24と、隔壁240に固定されるラインパイプ21と、ヒータ23が設けられたヒータブロック22と、ナット部材25とを備えている。ヒータ23には、例えば、カートリッジヒータが用いられる。ラインパイプ21はカラム12の試料出口側ライン12aを内包しており、試料はラインパイプ21の先端からイオン化室31に導入される。ラインパイプ21の先端側は、隔壁240を内外に貫通するように隔壁240に固定されている。ラインパイプ21は溶接によって隔壁240に固定されている。ラインパイプ21の先端にはキャップ26が装着される。
【0014】
イオン化室31、分離部32および検出部33が収められる真空ハウジング34には、隔壁部24が固定される開口340が形成されている。隔壁部24に設けられたフランジ241を真空ハウジング34にボルト固定することにより、ラインパイプ21が固定された隔壁部24によって開口340が塞がれる。フランジ241と真空ハウジング34との間には真空シール242が設けられている。隔壁部24を真空ハウジング34に固定すると、キャップ26が装着されたラインパイプ21の先端部分がイオン化室31の開口310に挿入される。
【0015】
カラム12が挿入されるラインパイプ21の図示右端領域は、カラムオーブン11内に挿入されている。ラインパイプ21の図示右端部の外周面には、ナット部材25に形成された雌ねじ250が螺合する雄ねじ210が形成されている。ヒータブロック22はラインパイプ21の周囲を囲むように設けられている。例えば、円柱状のヒータブロック22に軸方向に貫通する貫通孔220が形成され、その貫通孔220内にラインパイプ21が挿入される。
【0016】
ヒータブロック22をラインパイプ21に外挿し、ナット部材25をラインパイプ21の雄ねじ210に螺合させることで、ヒータブロック22は、端面222が隔壁240に直接接触するようにラインパイプ21に固定される。そのため、隔壁240は他の部材を介することなくヒータブロック22によって直接加熱されることになり、ヒータブロック22とほぼ等しい温度とすることができる。このような構成とすることで、隔壁240から真空ハウジング34への熱伝達が抑えられ、隔壁240を介した放熱によるラインパイプ21の温度低下が防止され、ラインパイプ21の軸方向に関する温度均一性を向上させることができる。特に、ラインパイプ21の真空ハウジング34側の温度低下が抑制され、ラインパイプ21のカラムオーブン11側と真空ハウジング34側の温度とを従来に比べて均一化できる。なお、隔壁240は熱抵抗が大きくなるように厚さが薄く設定されており、さらに、凹形状とすることでヒータブロック接触領域とフランジ241までの距離(すなわち、熱抵抗)が大きくなるように構成されている。また、凹形状とすることで、ヒータブロック接触領域をラインパイプ21の先端まで近づけることが可能となり、出来るだけラインパイプ21の先端まで加熱することができる。
【0017】
一方、特許文献1に記載の発明の場合、ラインパイプは熱抵抗部を介して隔壁部に取り付けられており、ヒータブロックと隔壁部とは熱伝導部材を介して熱的に接触している。しかし、熱伝導部材は隔壁部の一部に接触しているのだけなので、隔壁部の温度はヒータブロックよりも低くなる傾向にあり、ラインパイプから熱抵抗部を介した熱の逃げが無視できない。そのため、ラインパイプの先端部分の温度はヒータブロックにより加熱されている部分に比べて低くなり、ラインパイプの軸方向に関する温度均一性が低下する。その結果、低温部分への試料(高沸点成分)の吸着という問題が発生しやすい。
【0018】
さらに、ナット部材25を締め付けてヒータブロック22の端面221を押圧することで、ヒータブロック22の端面222が隔壁240に押圧される。その結果、端面222を隔壁240に対して簡易な構造で確実に接触させることができ、組付け作業のバラつきによる接触状態のバラつき等を防止することができる。さらに、ナット部材25を締め付けて端面222を隔壁240に押圧することで、隔壁240に対する端面222の接触面圧が大きくなる。その結果、ヒータブロック22から隔壁240への熱伝達効率が高まり、ヒータブロック22と隔壁240との温度差をより小さくすることができる。
【0019】
例えば、図3に示す比較例のような取り付け構造の場合、ヒータブロック22Aに形成された溝223にラインパイプ21を収めてヒータブロック22Bをヒータブロック22Aにボルト締結することで、ラインパイプ21を挟み込むようにヒータブロック22A,22Bをラインパイプ21に固定するようにしている。比較例の場合には、図2に示すナット部材25のようなヒータブロック22A,22Bを隔壁240に押し当てる構造を設けていないので、組付け作業のバラつきによってヒータブロック22A,22Bと隔壁240との間の接触が不完全となったり隙間ができたりして、良好な接触状態が得難い。
【0020】
図4,5は、図2に示す本実施の形態と図3に示す比較例との相違点を説明するための図であり、ラインパイプ21の軸方向温度分布を示したものである。図4は、イオン化室31の温度が200℃で、ヒータブロック22(22A,22B)の温度が250℃の場合を示し、図5は、イオン化室31およびヒータブロック22(22A,22B)の温度が280℃の場合を示す。図4,5において、実線L1,L2が本実施の形態の場合の温度分布を示し、破線L3,L4が比較例の場合の温度分布を示す。図4,5において、縦軸は温度を表し、横軸はラインパイプ21の先端からの距離を表している。距離d1は、ラインパイプ先端からラインパイプ21が固定されている隔壁240までの距離である。すなわち、図2を参照すると、横軸の距離d1において、ラインパイプ21が隔壁240に固定され、隔壁240から真空ハウジング34内に挿入されているラインパイプ21の最先端が、横軸の距離ゼロの位置に相当する。
【0021】
図4を参照して説明する。
図2に示す本実施の形態の場合、隔壁240およびラインパイプ21の隔壁240の位置よりも図示右側の領域はヒータブロック22により250℃に加熱され、イオン化室31の壁部はヒータ等により200℃に維持されている。ラインパイプ21の隔壁固定領域における放熱としては、イオン化室31への熱伝導と、ラインパイプ21の真空ハウジング34内に突き出ている部分(図4の0~d1の領域)からの放熱にほぼ限られる。図4のラインL1を見ると、距離2×d1付近から温度の低下が見られ、先端の温度は245℃程度と250℃よりも若干低くなっているが、ラインパイプ21の全体にわたっての温度不均一性は小さく、高温部と低温部との温度差は5℃程度に抑えられている。
【0022】
一方、図3に示す比較例の場合、ヒータブロック22A,22Bと隔壁240との間に隙間があり、隔壁240がヒータブロック22A,22Bにより直接加熱されない構造となっている。フランジ241により真空ハウジング34に固定されている隔壁240は、ヒータブロック22A,22Bの温度(250℃)よりも低くなりやすい。その結果、ラインパイプ21の熱は、隔壁240から突き出ている先端部から放熱されるだけでなく、隔壁240を介して真空ハウジング34にも逃げて行くことになる。なお、ヒータブロック22A,22Bと隔壁240との接触が不十分な場合も、同様に隔壁240を介して真空ハウジング34に逃げる熱が無視できない。その結果、図4のラインL3に示すように、先端から3×d1付近から温度が低下し、先端では220℃付近まで低下している。すなわち、ラインパイプ21の軸方向の温度不均一性が大きくなり、30℃程度の温度差が生じている。
【0023】
図5を参照して説明する。
図5は、イオン化室31およびヒータブロック22(22A,22B)の温度を同じ温度(=280℃)に保持した場合の温度分布を示す。ラインL2に示す本実施の形態の場合、図4のL1とほぼ同様の温度分布傾向を示しており、高温部と低温部との温度差も3℃程度と小さく抑えられている。その結果、インターフェース部20における試料(高沸点成分)の吸着を防止することができる。
【0024】
一方、ラインL4に示す比較例の場合には、距離3×d1から距離d1にかけて大きく低下し、距離d1付近から先端にかけて上昇している。これは、隔壁240を介してラインパイプ21の隔壁固定部から真空ハウジング34側へ熱が逃げてしまうことが影響しており、隔壁固定部(先端から距離d1の位置)付近において大きく温度が低下している。ラインパイプ21の軸方向に関する高温部と低温部との温度差は、15℃程度とラインL2の場合よりも大きい。
【0025】
図4、5から分かるように、図3の比較例のような構成では、隔壁240の温度が、ラインパイプ21のヒータブロック22A,22Bで加熱されている部分の温度よりも低くなり、隔壁240を介した真空ハウジング34側への熱移動が大きい。そのため、ラインパイプ21の固定部付近の温度低下が大きくなって温度分布が不均一になり、低温部において試料(高沸点成分)の吸着が生じやすい。
【0026】
(変形例1)
図6は、上述した実施の形態の変形例1を示す図である。変形例1では、ナット部材25とヒータブロック22の端面221との間に、ばね部材である皿ばね251が設けられている。その他の構成は図2に示す場合と同様である。ナット部材25を回転して締め付けることにより皿ばね251が変形し、ヒータブロック22が隔壁240の方向に押圧されて端面222が隔壁240に密着する。
【0027】
このように、皿ばね251を用いることで、隔壁240に対する端面222の面圧を皿ばね251のバネ定数に応じた大きさに制御することが可能となる。この場合も、隔壁240に対する端面222の面圧を大きくすることができ、ヒータブロック22から隔壁240への熱伝達効率が向上してヒータブロック22と隔壁240との温度差を小さくすることができる。その結果、図2の構成の場合と同様に、ラインパイプ21の軸方向の温度分布をより均一に保つことができる。
【0028】
なお、ばね部材としては、ナット部材25の締め付け量(すなわち、回転量)に応じて弾性変形する部材であれば皿ばね251に限定されず、例えば、波ワッシャー等を用いても良い。
【0029】
ところで、図2に示す構成の場合、加熱によってヒータブロック22が熱膨張すると、ナット部材25とラインパイプ21との螺合部に過大な剪断応力がかかるという問題が生じる。一方、図6に示す構成の場合には、ヒータブロック22の熱膨張が皿ばね251の変形により吸収されるので、剪断応力が過大になるのを防止することができる。
【0030】
(変形例2)
図7は、上述した実施の形態の変形例2を示す図である。変形例2では、図2に示したナット部材25に代えて、一対の固定板225が、ヒータブロック22を隔壁部24に接触させた状態で固定する固定部としてインターフェース部20に設けられている。ヒータブロック22は直径D1の円柱領域と直径D2(>D1)の円柱領域とから成り、それらの境界部分にはリング状の段差面224が形成されている。フランジ241の上面にはヒータブロック22を隔壁部24に固定する一対の固定板225がボルト固定され、固定板225の先端、すなわち環状に形成された固定板225の内周側先端はヒータブロック22の段差面224に当接している。
【0031】
ヒータブロック22の端面222から段差面224までの高さH1は、隔壁240の底板からフランジ241の上面までの高さH2よりも大きく(H1>H2)設定されている。固定板225をフランジ241の上面にボルト固定すると、ヒータブロック22の直径D2の部分が固定板225と隔壁240との間に挟持され、ヒータブロック22の端面222が隔壁240に押圧された状態となる。なお、固定板225を薄板やばね板のような弾性変形する部材で形成すると、図7に示すように、ボルト固定した際に固定板225が弾性変形する。弾性変形した固定板225によってヒータブロック22の端面222が隔壁240に押圧される。
【0032】
このように、端面222が隔壁240に大きな面圧で接触することでヒータブロック22から隔壁240への熱伝達効率が高まり、ヒータブロック22と隔壁240との温度差をより小さくすることができる。その結果、図2の構成の場合と同様に、ラインパイプ21の軸方向の温度分布をより均一に保つことができる。なお、上述した例では一対の固定板225としたが、固定板225の数は2つに限らず、リング状の固定板を一つ設けても良いし、矩形の固定板を3つ以上設けても良い。
【0033】
(変形例3)
図3に示したように、ラインパイプ21を挟み込むようにヒータブロック22A,22Bをラインパイプ21に固定する構成のヒータブロックの場合においても、図2に示すようなナット部材25や図7に示すようなナット部材25および皿ばね251を適用することができる。そのような構成とすることで、ヒータブロック22A,22Bの端面を隔壁240に押圧させることができ、ラインパイプ21の軸方向温度分布の均一性の向上を図ることができる。また、ヒータブロック22A,22Bに図7に示すような段差面を形成して、固定板225でヒータブロック22A,22Bを固定するようにしても良い。
【0034】
(変形例4)
図8に示す変形例4では、ラインパイプ21と開口110との間に、熱伝導率の低い材料で形成された断熱部材111を配置するようにした。このような構成とすることで、ラインパイプ21の剥き出しの部分から外気へ熱が逃げるのを防ぐことができる。なお、図6、7に示す変形例1、2においても断熱部材111を適用することができる。
【0035】
上述した例示的な実施の形態および複数の変形例は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0036】
[1]一態様に係るガスクロマトグラフ質量分析装置は、試料を成分分離するカラムを有するガスクロマトグラフ部と、真空ハウジング内に設けられた質量分析部と、前記ガスクロマトグラフ部で成分分離された試料を前記質量分析部に導入するインターフェース部と、を備え、前記インターフェース部は、前記真空ハウジングに形成された開口を塞ぐように前記真空ハウジングに固定される隔壁部と、前記隔壁部を内外に貫通するように前記隔壁部に固定され、前記カラムの試料出口側ラインを内包して前記試料を前記質量分析部に導入するラインパイプと、前記ラインパイプを軸方向に沿って加熱する加熱部と、前記加熱部を前記隔壁部に接触させた状態で前記インターフェース部に固定する固定部と、を備える。
【0037】
加熱部は、固定部によって隔壁部に接触させた状態で設けられるので、隔壁部は加熱部により直接加熱される。このため、隔壁部と加熱部により加熱されるラインパイプとの温度差が低減され、隔壁部を介してラインパイプから真空ハウジングへ熱が逃げるのを抑制することができる。その結果、カラムを内包するラインパイプの温度分布の均一性が向上し、低温部への試料(高沸点成分)の吸着を低減することができる。
【0038】
[2]上記[1]に記載のガスクロマトグラフ質量分析装置において、前記固定部は前記加熱部を前記隔壁部に対して押圧する。加熱部を隔壁部に対して押圧することで加熱部と隔壁部との接触部の面圧がより大きくなり、加熱部から接触部への熱伝達効率が向上する。その結果、隔壁部とラインパイプとの温度差がより低減される。
【0039】
[3]上記[2]に記載のガスクロマトグラフ質量分析装置において、前記加熱部は前記ラインパイプに外挿され、前記固定部は、前記ラインパイプの外周に形成された雄ねじ部と螺合する雌ねじ部が形成されたナット部材であってもよく、前記ラインパイプに対して前記ナット部材が回転されて締め付けられると、前記加熱部が前記隔壁部に押圧されるように固定される。加熱部が隔壁部に押圧されることで隔壁部と加熱部との温度差が低減され、加熱部により加熱されるラインパイプから隔壁部を介して真空ハウジングへ熱が逃げるのを抑制することができる。
【0040】
[4]上記[3]に記載のガスクロマトグラフ質量分析装置において、前記ナット部材と前記加熱部との間にばね部材が配置される。加熱部が熱膨張した場合でもばね部材が変形するので、固定部とラインパイプとの螺合部に過大な剪断応力がかかるのを防止することができる。
【0041】
[5]上記[2]に記載のガスクロマトグラフ質量分析装置において、前記固定部は、前記隔壁部に固定されて前記隔壁部との間に前記加熱部を挟持する固定板であってもよい。加熱部は隔壁部と固定板との間に挟持され、加熱部と隔壁部との接触部の面圧を大きくすることができる。
【0042】
[6]上記[1]から[5]までのいずれか一つに記載のガスクロマトグラフ質量分析装置において、前記ラインパイプは、前記隔壁部を内外に貫通するように前記隔壁部に固定される第1の端部と、前記ガスクロマトグラフ部の筐体に設けられた開口に挿入される第2の端部とを有する棒状部材であって、前記第2の端部は断熱部材を介して前記開口に挿入されている。第2の端部は断熱部材を介して開口に挿入されているので、ラインパイプの剥き出しの部分から外気へ熱が逃げるのを防ぐことができる。
【0043】
上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0044】
1…ガスクロマトグラフ質量分析装置、10…ガスクロマトグラフ部、12…カラム、20…インターフェース部、21…ラインパイプ、22,22A,22B…ヒータブロック、23…ヒータ、24…隔壁部、25…ナット部材、30…質量分析部、31…イオン化室、32…分離部、33…検出部、34…真空ハウジング、111…断熱部材、210…雄ねじ、225…固定板、240…隔壁、250…雌ねじ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8