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▶ 株式会社村田製作所の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】導電性複合構造体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/04 20060101AFI20221025BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20221025BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20221025BHJP
   H01B 5/00 20060101ALI20221025BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20221025BHJP
   H01G 11/26 20130101ALI20221025BHJP
   H01G 11/70 20130101ALI20221025BHJP
   H01G 11/68 20130101ALI20221025BHJP
   H01G 11/36 20130101ALI20221025BHJP
【FI】
B32B15/04 Z
B32B9/00 A
H01M4/66 A
H01B5/00 Z
H01G11/86
H01G11/26
H01G11/70
H01G11/68
H01G11/36
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021567168
(86)(22)【出願日】2020-12-07
(86)【国際出願番号】 JP2020045508
(87)【国際公開番号】W WO2021131643
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2019233667
(32)【優先日】2019-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(72)【発明者】
【氏名】阿部 匡矩
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-78002(JP,A)
【文献】特表2019-500745(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第3564325(EP,A1)
【文献】特開2017-76739(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00- 43/00
H01M 4/00- 4/98
H01B 5/00- 5/16
H01G 11/00- 11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材と、該金属基材の表面に設けられた導電性フィルムとを含む導電性複合構造体であって、
前記導電性フィルムが、1つまたは複数の層を含む層状材料を含み、
前記層が、以下の式:

(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、酸素原子またはそれらの組み合わせである)とを含み、
前記金属基材の前記表面および前記層本体の前記表面のそれぞれに、水酸基、カルボニル基またはそれらの組み合わせを有する炭素数2以上8以下の有機化合物に由来する残部が結合しており、
前記導電性複合構造体が、下記(1)および(2)を満たす、導電性複合構造体。
(1)軸芯巻き付け試験として、前記導電性複合構造体を直径4mmのアルミニウム製丸棒に2周程度巻き付け、その状態を維持して目視にて確認したときに、該導電性フィルムにおけるひび割れおよび該金属基材からの該導電性フィルムの剥落が、いずれも認められないこと
(2)テープ剥離試験として、前記導電性複合構造体の前記導電性フィルムの上面の一部に、セロハン粘着テープを貼付し、その後、引き剥がして目視にて確認したときに、該テープによって剥離された該導電性フィルムの領域の合計が、該テープを貼付した該導電性フィルムの領域の20%以下であること
【請求項2】
前記有機化合物が、イソプロピルアルコール、N-メチルピロリドンおよびメチルエチルケトンからなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項1に記載の導電性複合構造体。
【請求項3】
前記金属基材が、シート状の形態を有する、請求項1または2に記載の導電性複合構造体。
【請求項4】
前記金属基材が、アルミニウム基材、銅基材またはステンレス鋼基材である、請求項1~3のいずれかに記載の導電性複合構造体。
【請求項5】
電極として使用される、請求項1~4のいずれかに記載の導電性複合構造体。
【請求項6】
金属基材と、該金属基材の表面に設けられた導電性フィルムとを含む導電性複合構造体の製造方法であって、
(a)1つまたは複数の層を含む層状材料であって、
前記層が、以下の式:

(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、酸素原子またはそれらの組み合わせである)とを含む、層状材料が、水酸基、カルボニル基またはそれらの組み合わせを有する炭素数2以上8以下の有機化合物を含む液状媒体中で分散した分散液を準備すること、
(b)前記分散液を金属基材の表面に適用すること、および
(c)前記分散液が適用された前記金属基材を熱処理に付すこと
を含む、製造方法。
【請求項7】
前記熱処理が、70℃以上200℃以下の温度で実施される、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記有機化合物が、イソプロピルアルコール、N-メチルピロリドンおよびメチルエチルケトンからなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項6または7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記金属基材が、シート状の形態を有する、請求項6~8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
前記金属基材が、アルミニウム基材、銅基材またはステンレス鋼基材である、請求項6~9のいずれかに記載の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性複合構造体、より詳細には、金属基材と、該金属基材の表面に設けられた導電性フィルムとを含む導電性複合構造体、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、導電性を有する新規材料としてMXeneが注目されている。MXeneは、いわゆる二次元材料の1種であり、後述するように、1つまたは複数の層の形態を有する層状材料である。
【0003】
MXeneは、電気化学キャパシタ(特にシュードキャパシタ)やリチウムイオンバッテリの電極活物質として利用可能であることが知られている(例えば特許文献1等を参照のこと)。MXeneを電極活物質として利用した電極は、MXeneおよびバインダを含む混合物から成る導電性フィルムとして作製され得、場合により、MXeneのみから成る導電性フィルムとして作製され得る。また、MXeneを電極活物質として利用した電極は、このような導電性フィルムを、金属基材から成る集電体の表面に形成することによっても作成され得る。より詳細には、電極活物質であるMXene、バインダおよび有機溶媒を含むスラリーを調製し、これを集電体上に塗布し、乾燥し、プレスすることにより、固着することができる。(特許文献1の第0020、0026、0042段落等を参照のこと。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-63171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来既知のMXeneのみから成る導電性フィルムは、MXene単独ではフィルムの形態を維持することが困難であり、曲げた場合にひび割れが生じ得、耐屈曲が低いという難点がある。これに比べて、MXeneおよびバインダを含む混合物から成る導電性フィルムは、耐屈曲性が向上するものの、MXeneの表面および/または層間がバインダで妨げられ得ることから、MXeneそれ自体の電気特性を十分に活用しつつ、十分に高い耐屈曲性を得ることは困難である。更に、従来既知の方法に従って、MXeneのみから成る導電性フィルムまたはMXeneおよびバインダを含む混合物から成る導電性フィルムを、金属基材から成る集電体の表面に形成した場合、導電性フィルムと金属基材との間の結合が十分でなく、剥離し易いという難点がある。
【0006】
本発明の目的は、金属基材と、該金属基材の表面に設けられた導電性フィルムとを含む導電性複合構造体であって、導電性フィルムがMXeneを含み、耐屈曲性が高く、かつ、導電性フィルムと金属基材との間の結合力が高い導電性複合構造体を提供することにある。本発明の更なる目的は、かかる導電性複合構造体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの要旨によれば、金属基材と、該金属基材の表面に設けられた導電性フィルムとを含む導電性複合構造体であって、
前記導電性フィルムが、1つまたは複数の層を含む層状材料を含み、
前記層が、以下の式:

(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、酸素原子またはそれらの組み合わせである)とを含み、
前記金属基材の前記表面および前記層本体の前記表面のそれぞれに、水酸基、カルボニル基またはそれらの組み合わせを有する炭素数2以上8以下の有機化合物に由来する残部が結合している、導電性複合構造体が提供される。
【0008】
本発明のもう1つの要旨によれば、金属基材と、該金属基材の表面に設けられた導電性フィルムとを含む導電性複合構造体の製造方法であって、
(a)1つまたは複数の層を含む層状材料であって、
前記層が、以下の式:

(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、酸素原子またはそれらの組み合わせである)とを含む、層状材料が、水酸基、カルボニル基またはそれらの組み合わせを有する炭素数2以上8以下の有機化合物を含む液状媒体中で分散した分散液を準備すること、
(b)前記分散液を金属基材の表面に適用すること、および
(c)前記分散液が適用された前記金属基材を熱処理に付すこと
を含む、製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の導電性複合構造体によれば、金属基材と、金属基材の表面に設けられた導電性フィルムとを含む導電性複合構造体において、導電性フィルムが所定の層状材料(本明細書において「MXene」とも言う)を含み、金属基材の表面および層状材料の層本体の表面のそれぞれに、水酸基、カルボニル基またはそれらの組み合わせを有する炭素数2以上8以下の有機化合物に由来する残部が結合しており、これにより、耐屈曲性が高く、かつ、導電性フィルムと金属基材との間の結合力が高い導電性複合構造体が提供される。また、本発明の導電性複合構造体の製造方法によれば、MXeneが、水酸基、カルボニル基またはそれらの組み合わせを有する炭素数2以上8以下の有機化合物を含む液状媒体中で分散した分散液を使用し、かかる分散液を金属基材の表面に適用して熱処理に付しており、これにより、耐屈曲性が高く、かつ、導電性フィルムと金属基材との間の結合力が高い導電性複合構造体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の1つの実施形態における導電性複合構造体を示す概略模式断面図である。
図2】本発明の1つの実施形態における導電性複合構造体に利用可能な層状材料であるMXeneを示す概略模式断面図である。
図3】本発明の実施例1で作製した導電性複合構造体の評価結果を示す図であって、(a)は軸巻き付け試験の結果を示し、(b)はアセトン浸漬試験の結果を示し、(c)はテープ剥離試験の結果を示す。
図4】本発明の実施例2で作製した導電性複合構造体の評価結果を示す図であって、(a)は軸巻き付け試験の結果を示し、(b)はアセトン浸漬試験の結果を示し、(c)はテープ剥離試験の結果を示す。
図5】本発明の実施例3で作製した導電性複合構造体の評価結果を示す図であって、(a)は軸巻き付け試験の結果を示し、(b)はアセトン浸漬試験の結果を示し、(c)はテープ剥離試験の結果を示す。
図6】本発明の実施例4で作製した導電性複合構造体の評価結果を示す図であって、(a)は軸巻き付け試験の結果を示し、(b)はアセトン浸漬試験の結果を示し、(c)はテープ剥離試験の結果を示す。
図7】比較例1で作製した導電性複合構造体の評価結果を示す図であって、(a)は軸巻き付け試験の結果を示し、(b)はアセトン浸漬試験の結果を示し、(c)はテープ剥離試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の1つの実施形態における導電性複合構造体について、その製造方法を通じて詳述するが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではない。
【0012】
図1を参照して、本実施形態の導電性複合構造体20は、金属基材11と、金属基材11の表面に設けられた導電性フィルム13とを含む。
【0013】
本実施形態の導電性複合構造体20の製造方法は、
(a)所定の層状材料が、水酸基、カルボニル基またはそれらの組み合わせ(換言すれば、水酸基および/または酸素原子)を有する炭素数2以上8以下の有機化合物を含む液状媒体中で分散した分散液を準備すること、
(b)前記分散液を金属基材の表面に適用すること、および
(c)前記分散液が適用された前記金属基材を熱処理に付すことを含む。
【0014】
・工程(a)
まず、所定の層状材料を準備する。本実施形態において使用可能な所定の層状材料はMXeneであり、次のように規定される:
1つまたは複数の層を含む層状材料であって、該層が、以下の式:

(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、いわゆる早期遷移金属、例えばSc、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、MoおよびMnからなる群より選択される少なくとも1種を含み得、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体(該層本体は、各XがMの八面体アレイ内に位置する結晶格子を有し得る)と、該層本体の表面(より詳細には、該層本体の互いに対向する2つの表面の少なくとも一方)に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、酸素原子またはそれらの組み合わせ(換言すれば、水酸基および/または酸素原子)であり、更に場合により、フッ素原子および/または水素原子であり得る)とを含む層状材料(これは層状化合物として理解され得、「M」とも表され、sは任意の数であり、従来、sに代えてxが使用されることもある)。代表的には、nは、1、2、3または4であり得るが、これに限定されない。
【0015】
本実施形態において、MXeneは、修飾または終端Tとして水酸基および/または酸素原子を有し、好ましくは水酸基および酸素原子の双方を有し得る。MXeneに修飾または終端Tとして存在する水酸基および/または酸素原子が、後述する反応に寄与する。
【0016】
MXeneの上記式中、Mは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、CrおよびMoからなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0017】
かかるMXeneは、MAX相からA原子(および場合によりM原子の一部)を選択的にエッチング(除去および場合により層分離)することにより合成することができる。MAX相は、以下の式:
AX
(式中、M、X、nおよびmは、上記の通りであり、Aは、少なくとも1種の第12、13、14、15、16族元素であり、通常はA族元素、代表的にはIIIA族およびIVA族であり、より詳細にはAl、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、P、As、SおよびCdからなる群より選択される少なくとも1種を含み得、好ましくはAlである)
で表され、かつ、Mで表される2つの層(各XがMの八面体アレイ内に位置する結晶格子を有し得る)の間に、A原子により構成される層が位置した結晶構造を有する。MAX相は、代表的にm=n+1の場合、n+1層のM原子の層の各間にX原子の層が1層ずつ配置され(これらを合わせて「M層」とも称する)、n+1番目のM原子の層の次の層としてA原子の層(「A原子層」)が配置された繰り返し単位を有するが、これに限定されない。MAX相からA原子(および場合によりM原子の一部)が選択的にエッチング(除去および場合により層分離)されることにより、A原子層(および場合によりM原子の一部)が除去されて、露出したM層の表面にエッチング液(通常、含フッ素酸の水溶液が使用されるがこれに限定されない)中に存在する水酸基および/または酸素原子(更に場合によりフッ素原子および/または水素原子等)が修飾して、かかる表面を終端する。エッチングは、Fを含むエッチング液を用いて実施され得、例えば、フッ化リチウムおよび塩酸の混合液を用いた方法や、フッ酸を用いた方法などであってよい。その後、適宜、任意の適切な後処理(例えば超音波処理、ハンドシェイクまたはオートマチックシェイカーなど)により、MXeneの層分離(デラミネーション、多層MXeneを単層MXeneおよび/または少層MXeneに分離すること)を促進してもよい。なお、超音波処理は、せん断力が大きすぎてMXene粒子が破壊され得るので、アスペクト比がより大きい2次元形状のMXene(好ましくは単層MXeneおよび/または少層MXene)を得ることが望まれる場合には、ハンドシェイクまたはオートマチックシェイカーなどにより適切なせん断力を付与することが好ましい。
【0018】
MXeneは、上記の式:Mが、以下のように表現されるものが知られている。
ScC、TiC、TiN、ZrC、ZrN、HfC、HfN、VC、VN、NbC、TaC、CrC、CrN、MoC、Mo1.3C、Cr1.3C、(Ti,V)C、(Ti,Nb)C、WC、W1.3C、MoN、Nb1.3C、Mo1.30.6C(上記式中、「1.3」および「0.6」は、それぞれ約1.3(=4/3)および約0.6(=2/3)を意味する。)、
Ti、Ti、Ti(CN)、Zr、(Ti,V)、(TiNb)C、(TiTa)C、(TiMn)C、Hf、(HfV)C、(HfMn)C、(VTi)C、(CrTi)C、(CrV)C、(CrNb)C、(CrTa)C、(MoSc)C、(MoTi)C、(MoZr)C、(MoHf)C、(MoV)C、(MoNb)C、(MoTa)C、(WTi)C、(WZr)C、(WHf)C
Ti、V、Nb、Ta、(Ti,Nb)、(Nb,Zr)、(TiNb)C、(TiTa)C、(VTi)C、(VNb)C、(VTa)C、(NbTa)C、(CrTi)C、(Cr)C、(CrNb)C、(CrTa)C、(MoTi)C、(MoZr)C、(MoHf)C、(Mo)C、(MoNb)C、(MoTa)C、(WTi)C、(WZr)C、(WHf)C
【0019】
代表的には、上記の式において、Mがチタンまたはバナジウムであり、Xが炭素原子または窒素原子であり得る。例えば、MAX相は、TiAlCであり、MXeneは、Tiである。
【0020】
なお、本発明において、MXeneは、残留するA原子を比較的少量、例えば元のA原子に対して10質量%以下で含んでいてもよい。A原子の残留量は、好ましくは8質量%以下、より好ましくは6質量%以下であり得る。しかしながら、A原子の残留量は、10質量%を超えていたとしても、導電性複合構造体の用途や使用条件によっては問題がない場合もあり得る。
【0021】
図2に模式的に示すように、このようにして合成されるMXene10は、1つまたは複数のMXene層7a、7b、7c(図中、3つの層を例示的に示しているが、これに限定されない)を含む層状材料であり得る。より詳細には、MXene層7a、7b、7cは、Mで表される層本体(M層)1a、1b、1cと、層本体1a、1b、1cの表面(より詳細には、各層にて互いに対向する2つの表面の少なくとも一方)に存在する修飾または終端T 3a、5a、3b、5b、3c、5cとを有する。よって、MXene層7a、7b、7cは、「M」とも表され、sは任意の数である。MXene10は、かかるMXene層が個々に分離されて1つの層で存在するもの(単層構造体、いわゆる単層MXene)であっても、複数のMXene層が互いに離間して積層された積層体(多層構造体、いわゆる多層MXene)であっても、それらの混合物であってもよい。MXeneは、単層MXeneおよび/または多層MXeneから構成される集合体としての粒子(粉末またはフレークとも称され得る)であり得る。多層MXeneである場合、隣接する2つのMXene層(例えば7aと7b、7bと7c)は、必ずしも完全に離間していなくてもよく、部分的に接触していてもよい。
【0022】
本実施形態を限定するものではないが、MXeneの各層(上記のMXene層7a、7b、7cに相当する)の厚さは、例えば0.8nm以上5nm以下、特に0.8nm以上3nm以下であり(主に、各層に含まれるM原子層の数により異なり得る)、層に平行な平面(二次元シート面)内における最大寸法は、例えば0.1μm以上200μm以下、特に1μm以上40μm以下である。
【0023】
MXeneが積層体(多層MXene)である場合、個々の積層体について、層間距離(または空隙寸法、図2中にΔdにて示す)は、例えば0.8nm以上10nm以下、特に0.8nm以上5nm以下、より特に約1nmであり、積層方向に垂直な平面(二次元シート面)内における最大寸法は、例えば0.1μm以上100μm以下、特に1μm以上20μm以下である。
【0024】
また、MXeneが積層体(多層MXene)である場合、個々の積層体について、層の総数は、2以上であればよいが、例えば50以上100,000以下、特に1,000以上20,000以下であり、積層方向の厚さは、例えば0.1μm以上200μm以下、特に1μm以上40μm以下である。
【0025】
MXeneが積層体(多層MXene)である場合、層数の少ないMXeneであってよい。用語「層数が少ない」とは、例えばMXeneの積層数が6層以下であることを言う。また、層数の少ない多層MXeneの積層方向の厚さは、10nm以下であることが好ましい。本明細書において、この「層数の少ない多層MXene」(狭義の多層MXene)を「少層MXene」とも称する。
【0026】
本実施形態において、MXene10は、その大部分が単層MXene10aおよび/または少層MXeneから構成される粒子(ナノシートとも称され得る)であってよい。換言すれば、MXeneの粒子全体における、積層方向の厚さが10nm以下の粒子(単層MXeneおよび/または少層MXene)の割合が50体積%以上であり得る。
【0027】
なお、上述したこれら寸法は、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)または原子間力顕微鏡(AFM)の写真に基づく数平均寸法(例えば少なくとも40個の数平均)あるいはX線回折(XRD)法により測定した(002)面の逆格子空間上の位置より計算した実空間における距離として求められる。
【0028】
別途、水酸基および/またはカルボニル基を有する炭素数2以上8以下の有機化合物(以下、単に「反応性有機化合物」とも言う)を含む液状媒体を準備する。
【0029】
反応性有機化合物は、水酸基および/またはカルボニル基を有し、代表的には、水酸基およびカルボニル基のいずれか一方を有し得る。反応性有機化合物の水酸基および/またはカルボニル基が、後述する反応に寄与する。
【0030】
反応性有機化合物は、炭素数2以上8以下、好ましくは炭素数3以上および/または7以下である。炭素数が2以上、好ましくは3以上であることによって、(後述する熱処理前の)分散液中でのMXeneの凝集を防止することができる。炭素数が8以下、好ましくは7以下であることによって、MXeneが積層体(多層MXene)である場合に、積層体の層間に適切に侵入することができる。
【0031】
反応性有機化合物は、炭素数2以上8以下のアルコールまたはケトンであり得る。より詳細には、反応性有機化合物は、イソプロピルアルコール、N-メチルピロリドンおよびメチルエチルケトンからなる群より選択される少なくとも1つであり得、これらのいずれか1つまたは任意の2つ以上の混合物であり得る。
【0032】
液状媒体は、反応性有機化合物から成ることが好ましいが、反応性有機化合物に加えて、他の有機化合物を比較的少量(全体基準で例えば30質量%以下、好ましくは20質量%以下)で含んでいてもよい。液状媒体は、使用する反応性有機化合物に応じて、水をごくわずかに(全体基準で例えば30質量%以下、好ましくは20質量%以下)で含んでいてもよい。
【0033】
上述のMXeneが、かかる液状媒体中で分散した分散液(懸濁液またはスラリーとも称され得る)を調製する。分散方法は特に限定されないが、代表的には撹拌(シェアミキサー、ポットミルなど)、超音波処理、振とうなどであり得る。
【0034】
この分散液において、反応性有機化合物は、MXeneの表面と接触し得、MXeneが積層体(多層MXene)である場合には、積層体の最表面と接触し得、かつ、積層体の層間に侵入し得る。
【0035】
分散液中のMXeneの含有割合は、特に限定されないが、例えば20~95質量%であり得る。
【0036】
・工程(b)
まず、金属基材11を準備する。金属基材11は、1種または2種以上の金属をベースとする導電性部材であればよい。「金属をベースとする導電性部材」とは、金属基材11における金属の含有量(2種以上の金属を含む場合はそれら金属について合計した含有量)が80重量%以上、例えば90重量%以上、好ましくは95重量%以上であり、全体として導電性である部材を意味する。金属基材11を構成し得る金属以外の他の導電性物質としては、例えばカーボンなどが挙げられる。
【0037】
金属基材11は、その最表面において、水酸基、酸素原子またはそれらの組み合わせ(換言すれば、水酸基および/または酸素原子)を有し、好ましくは水酸基および酸素原子の双方を有し得る。金属基材11の最表面に存在する水酸基および/または酸素原子が、後述する反応に寄与する。
【0038】
金属基材11は、代表的にはシート状の形態を有し得る。「シート状」とは、一般的に理解されるように、互いに対向する2つの平面を有し、これら平面間の距離(厚さ)が比較的小さい形状を言い、シートのほか、フィルムまたは箔などとも称され得る。しかしながら、金属基材11は、これに限定されず、任意の適切な形態を有していてよい。
【0039】
金属基材11は、金属製部材であっても、厳密にその全てが金属の原子のみから成るものではないことに留意されたい。金属基材11の最表面に存在する水酸基および/または酸素原子は、金属基材11の表面部分に存在する金属酸化物皮膜(より詳細にはアモルファスの金属酸化物の皮膜であり、いわゆる不動態皮膜)の最表面に存在するものであってよい。
【0040】
金属基材11は、アルミニウム基材、銅基材またはステンレス鋼基材(換言すれば、アルミニウム、銅またはステンレス鋼をベースとする導電性部材)であってよく、より詳細には、アルミニウム製部材、銅製部材またはステンレス鋼製部材であってよい。アルミニウム製部材は、その表面部分に形成されたアルミナ(アモルファスであり得る)の皮膜を有し、アルミナ皮膜の最表面において、水酸基および/または酸素原子を、通常は水酸基および酸素原子の双方を有する。銅製部材は、その表面部分に形成された酸化銅(アモルファスであり得る)の皮膜を有し、酸化銅皮膜の最表面において、水酸基および/または酸素原子を、通常は水酸基および酸素原子の双方を有する。ステンレス鋼は、炭素含有量1.2質量%以下、クロム含有量10.5質量%以上の鋼であり、場合によりニッケル等の添加金属を含み得る。ステンレス鋼は、例えばSUS304、SUS316、SUS430などであってよい。ステンレス鋼製部材は、その表面部分に形成された酸化鉄および酸化クロム(アモルファスであり得る)の皮膜を有し、酸化鉄-酸化クロム皮膜の最表面において、水酸基および/または酸素原子を、通常は水酸基および酸素原子の双方を有する。
【0041】
しかしながら、金属基材11(例えばアルミニウム基材、銅基材またはステンレス鋼基材)は、上述したように金属以外の他の導電性物質を有していてよい。代表的には、金属製部材(例えばアルミニウム製部材、銅製部材またはステンレス鋼製部材)の上にカーボンのコート層が形成されたものであってもよい。カーボンは、疎水処理等の特別な処理を施さない限り、その最表面において、水酸基および/または酸素原子を、通常は水酸基および酸素原子の双方を有する。
【0042】
金属基材11の寸法は特に限定されず、導電性複合構造体20の用途に応じて適宜選択され得る。金属基材11の厚さは、湾曲可能な厚さであることが好ましいが、このことは、高い耐屈曲性が要求されない用途においては必須でない。
【0043】
そして、上記工程(a)で準備した分散液を、かかる金属基材11の表面に適用(より詳細には塗布)する。適用方法は特に限定されず、例えば、ブレードコート、ナイフコート、バーコート、スクリーン印刷、スリットコート、ダイコート、ロールコート、ディップコート、スプレーコート、スピンコートなどを利用できる。
【0044】
金属基材11の表面に適用された分散液の厚さは、分散液の組成および導電性フィルム13に所望される厚さ等に応じて異なり得る。
【0045】
・工程(c)
上記工程(b)にて分散液が適用された金属基材11を熱処理に付す。
【0046】
熱処理により、反応性有機化合物を、金属基材11に対して反応させること、および、MXene10に対して反応させることができる。より詳細には、以下の反応が進行し得る。
反応性有機化合物が水酸基を有する場合、反応性有機化合物の水酸基は、金属基材11の最表面に存在する酸素原子と反応して、これらの間に結合を形成し得る。また、反応性有機化合物の水酸基は、MXene10の層本体1a、1b、1cの表面に修飾または終端Tとして存在する酸素原子と反応して、これらの間に結合を形成し得る。より具体的には、これら反応は、反応性有機化合物の水酸基の水素原子と、金属基材11/MXene10の酸素原子との間で水素結合を形成する反応であり得るが、これに限定されない。例えば、反応性有機化合物から水素原子が脱離する反応等を伴っていてもよい。
反応性有機化合物がカルボニル基を有する場合、反応性有機化合物のカルボニル基は、金属基材11の最表面に存在する水酸基と反応して、これらの間に結合を形成し得る。また、反応性有機化合物のカルボニル基は、MXene10の層本体1a、1b、1cの表面に修飾または終端Tとして存在する水酸基と反応して、これらの間に結合を形成し得る。より具体的には、これら反応は、反応性有機化合物のカルボニル基の酸素原子と、金属基材11/MXene10の水酸基の水素原子との間で水素結合を形成する反応であり得るが、これに限定されない。例えば、反応性有機化合物から水素原子が脱離する反応等を伴っていてもよい。
【0047】
本発明はいかなる理論によっても拘束されないが、反応機構は下記に模式的に示すように理解され得る。なお、下記では、例示的に、反応性有機化合物が水酸基を有する場合として、イソプロピルアルコールが、MXeneに対して反応し、および銅製部材に対して反応する場合を示し、反応性有機化合物がカルボニル基を有する場合として、N-メチルピロリドンが、MXeneに対して反応し、およびアルミニウム製部材に対して反応する場合ならびにメチルエチルケトンがアルミニウム製部材に対して反応する場合を示すが、他の場合も同様に理解可能である。
【0048】
・反応性有機化合物が水酸基を有する場合
【化1】
【化2】
【0049】
・反応性有機化合物がカルボニル基を有する場合
【化3】
【化4】
【化5】
【0050】
また、熱処理により、未反応の反応性有機化合物を蒸発除去することができる。
【0051】
熱処理の間に、反応性有機化合物の反応および蒸発除去が進行することにより、MXene(単層MXeneであるか多層MXeneにあるかに関わらず)を密着凝集させることができる。
【0052】
熱処理条件は、使用する反応性有機化合物によって異なり得る。熱処理温度は、例えば70℃以上200℃以下であり得、好ましくは80℃以上180℃以下であり得る。熱処理時間は、適宜設定され得、例えば0.5時間以上24時間以下であり得る。熱処理雰囲気は、減圧(または真空)雰囲気、空気雰囲気、窒素雰囲気などであり得る。
【0053】
熱処理の結果、分散液に由来する導電性フィルム13が、金属基材11の表面に形成されて、本実施形態の導電性複合構造体20が製造される(図1参照)。なお、本実施形態の導電性複合構造体20の製造方法は、工程(c)の熱処理の後、任意の適切な後工程を実施してもよい。かかる後工程は、導電性複合構造体20を所望の形状に切断(例えば打ち抜き加工等)する工程、および/または、導電性複合構造体20をプレスする工程などであり得る。
【0054】
本実施形態の導電性複合構造体20においては、金属基材11の表面に反応性有機化合物に由来する残部が結合し、かつ、およびMXeneの層本体1a、1b、1cの表面(換言すれば、MXeneの表面および/または層間)に反応性有機化合物に由来する残部が結合したものとなる。「反応性有機化合物に由来する残部」とは、上記熱処理後の反応性有機化合物の残存物を意味する。例えば、元の反応性有機化合物の化学式と比較して、「反応性有機化合物に由来する残部」は、水素結合形成部を除いて同じ化学式で表されるものであっても、水素原子の脱離等によって変化した化学式で表されるものであってもよい。なお、本実施形態の導電性複合構造体20において、MXeneの層本体1a、1b、1cの表面には、修飾または終端Tとして、未反応の水酸基および/または酸素原子が残存することに留意されたい。
【0055】
また、本実施形態の導電性複合構造体20においては、未反応の反応性有機化合物が蒸発除去されているので、導電性フィルム13は乾燥膜として理解され得る。
【0056】
更に、本実施形態の導電性複合構造体20においては、導電性フィルム13は、MXeneを含み、かつ、バインダを含まずに(バインダレスで)、金属基材11の表面に設けられる。導電性複合構造体20におけるMXeneおよび金属基材については、特に断りのない限り、本実施形態の製造方法における説明が同様に当て嵌まり得る。
【0057】
本実施形態によれば、耐屈曲性(特に柔軟性(フレキシビリティ))が高く、かつ、導電性フィルム11と金属基材13との間の結合力(特に、有機溶媒に対する化学的安定性、剥離強度等)が高い導電性複合構造体20を製造することができる。より詳細には、導電性複合構造体20を曲げても、導電性フィルム13にひび割れが生じ難く、導電性複合構造体20を有機溶媒に浸漬したり、テープ剥離試験に付したりしても、導電性フィルム13が金属基材11から剥がれ難い。本発明はいかなる理論によっても拘束されないが、導電性複合構造体20において高い耐屈曲性が得られる理由は、MXeneの表面および/または層間に反応性有機化合物に由来する残部が存在することにより、導電性フィルム13は、従来既知のMXeneのみから成る導電性フィルムに比べて、MXeneの密度が高くなると共に、MXene(単層MXeneおよび/または多層MXene)同士の密着強度が高くなって、(バインダレスであっても)導電性フィルムそのものの強度、賦形性および柔軟性が向上したことによると理解され得る。また、導電性フィルム13と金属基材11との間において高い結合力が得られる理由は、MXeneの表面および金属基材の表面の双方に反応性有機化合物に由来する残部が存在することにより、導電性フィルム13と金属基材11との間で、反応性有機化合物に由来する残部が接着剤のように機能することによると理解され得る。
【0058】
本実施形態の導電性複合構造体20は、任意の適切な用途に利用され得る。本実施形態の導電性複合構造体20は、導電性フィルム13におけるMXene密度が高く、所望される電気特性をより小さい寸法で達成することができるので、導電性複合構造体20の小型化、ひいてはそれが組み込まれる製品の小型化が要求される場合に好ましく利用され得る。また、本実施形態の導電性複合構造体20は、それが組み込まれる最終製品のユーザーによる使用の間および/または最終製品に組み込まれるまでの製造過程において、導電性複合構造体20が曲げ伸ばしに耐えることが要求される場合に好ましく利用され得る。
【0059】
特に好ましくは、本実施形態の導電性複合構造体20は電極として使用され得る。導電性複合構造体20が電極として使用される場合、導電性フィルム13のMXeneが電極活物質(電解液中の電解質イオンとの間で電子の授受を行う物質)として機能し、金属基材11が集電体として機能する。
【0060】
電極は、特に限定されないが、例えばキャパシタ用電極、バッテリ用電極、生体電極、センサ用電極、アンテナ用電極などであり得る。本実施形態の導電性複合構造体20を使用することにより、より小さい容積(装置占有体積)でも、大容量のキャパシタおよびバッテリ、低インピーダンスの生体電極、高感度のセンサおよびアンテナを得ることができる。
【0061】
キャパシタは、電気化学キャパシタであり得る。電気化学キャパシタは、電極(電極活物質)と電解液中のイオン(電解質イオン)との間での物理化学反応に起因して発現する容量を利用したキャパシタであり、電気エネルギーを蓄えるデバイス(蓄電デバイス)として使用可能である。バッテリは、繰り返し充放電可能な化学電池であり得る。バッテリは、例えばリチウムイオンバッテリ、マグネシウムイオンバッテリ、リチウム硫黄バッテリ、ナトリウムイオンバッテリなどであり得るが、これらに限定されない。キャパシタおよびバッテリの製造過程において、電極が曲げ伸ばしに耐える柔軟性を有するように要求されることがあり得、また、キャパシタおよびバッテリ内において電極が曲げられて配置されることがあり得、かかる用途において本実施形態の導電性複合構造体20が電極として好適に利用され得る。
【0062】
生体電極は、生体信号を取得するための電極である。生体電極は、例えばEEG(脳波)、ECG(心電図)、EMG(筋電図)、EIT(電気インピーダンストモグラフィ)を測定するための電極であり得るが、これらに限定されない。生体電極は、生体(特に皮膚)に対して貼付して使用され得、皮膚の伸縮があっても皮膚から剥がれずに曲げ伸ばしに耐える柔軟性が要求され、かかる用途において本実施形態の導電性複合構造体20が電極として好適に利用され得る。
【0063】
センサ用電極は、目的の物質、状態、異常等を検知するための電極である。センサは、例えばガスセンサ、バイオセンサ(生体起源の分子認識機構を利用した化学センサ)などであり得るが、これらに限定されない。本実施形態の導電性複合構造体20をセンサ用電極として利用することにより、金属基材との結合力が高く、かつ、全体がフレキシブルなセンサ用電極を提供することができる。
【0064】
アンテナ用電極は、空間に電磁波を放射する、および/または、空間中の電磁波を受信するための電極である。本実施形態の導電性複合構造体20をアンテナ用電極として利用することにより、金属基材との結合力が高く、かつ、全体がフレキシブルなアンテナ用電極を提供することができる。
【0065】
以上、本発明の1つの実施形態における導電性複合構造体について、その製造方法を通じて詳述したが、種々の改変が可能である。なお、本発明の導電性複合構造体は、上述の実施形態における製造方法とは異なる方法によって製造されてもよく、また、本発明の導電性複合構造体の製造方法は、上述の実施形態における導電性複合構造体を提供するもののみに限定されないことに留意されたい。
【実施例
【0066】
(実施例1)
本実施例は、反応性有機化合物としてイソプロピルアルコール(IPA)を使用し、金属基材として銅箔を使用して、導電性複合構造体を作製した例に関する。
【0067】
・MXene粉末の調製
MAX粒子としてTiAlC粒子を既知の方法で調製した。このTiAlC粒子(粉末)を1g秤量し、1gのLiFと共に9モル/Lの塩酸10mLに添加して35℃にてスターラーで24時間撹拌して、TiAlC粉末に由来する固体成分を含む固液混合物(懸濁液)を得た。これに対して、純水による洗浄および遠心分離機を用いたデカンテーションによる上澄み液の分離除去(上澄みを除いた残りの沈降物は再び洗浄に付す)操作を10回程度繰り返し実施し、沈降物に純水を添加してなるMXeneスラリーを得た。
得られたMXeneスラリーを凍結乾燥に付し、凝集した乾燥粉をチューブミルコントロール(IKA製)で粉砕した。これにより、MXene粉末としてTi粉末を得た。
【0068】
・分散液の調製
上記で調製したMXene粉末(Ti粉末)とイソプロピルアルコール(IPA)とを、MXeneが30質量%(全体基準)となる割合で、薄膜旋回型高速ミキサー(プライミクス株式会社製、40-L型)にて撹拌した。撹拌は、1回撹拌する毎に氷水で20℃まで冷却しつつ、概ね均一なMXene-IPA分散液が得られるまで繰り返し実施した。
【0069】
・金属基材への分散液の塗布
上記で調製したMXene-IPA分散液を、テーブルコーター(テスター産業株式会社製、PI-1210自動塗工装置)を用いて、金属基材として銅箔(株式会社サンクメタル製、厚さ10μm)の上面に塗布した。なお、テーブルコーターは、可変ブレード(ヨシミツ精機株式会社製、ベーカーアプリケーター YBA-3型)をギャップ127μmにてセットしたものを使用した。
【0070】
・熱処理
上記でMXene-IPA分散液を塗布した銅箔を真空オーブン(アズワン株式会社製、ETTAS真空乾燥器 AVO-310SB)にて真空中(真空度 0.1kPa)で120℃にて3時間の熱処理に付した。これにより、導電性フィルムとして、IPA分散液由来のMXene乾燥膜(以下、「IPA-MXene膜」と言う)が銅箔の上面に形成された構造体が得られた。
【0071】
・プレス
その後、上記で得られた構造体をロールプレス機にて線圧0.6kN/cmおよび搬送速度0.3m/分でプレスした。
これにより、実施例1の導電性複合構造体が得られた。
【0072】
・評価
上記で作製した実施例1の導電性複合構造体を、軸芯巻き付け試験、アセトン浸漬試験、およびテープ剥離試験に付して評価した。
【0073】
巻き付け試験では、導電性複合構造体を直径4mmのアルミニウム製丸棒に2周程度巻き付け、その状態を維持してひび割れおよび剥落の有無を目視にて確認した。
その結果、図3(a)に示すように、IPA-MXene膜におけるひび割れおよび銅箔からのIPA-MXene膜の剥落は、いずれも全く認められなかった。
【0074】
アセトン浸漬試験では、導電性複合構造体を切断して1cm角の試験片を得た。この試験片を有機溶媒の1種であるアセトンに室温にて1分間浸漬して、剥離の有無を目視にて確認した。
その結果、図3(b)に示すように、IPA-MXene膜はもとの形状を維持し、IPA-MXene膜と銅箔との間の剥離は全く認められなかった。
【0075】
テープ剥離試験では、導電性複合構造体のIPA-MXene膜の上面の一部に、セロハン粘着テープ(ニチバン株式会社製、「セロテープ」(登録商標))を貼付し、その後、引き剥がして、テープによる剥離(テープ粘着面への転移)の有無を目視にて確認した。
その結果、図3(c)に示すように、IPA-MXene膜は、テープによって、その貼付領域のうち合計約5%程度の部分がまばらに銅箔から剥離したに過ぎなかった。
【0076】
(実施例2)
本実施例は、反応性有機化合物としてイソプロピルアルコール(IPA)を使用し、金属基材としてアルミニウム箔を使用して、導電性複合構造体を作製した例に関する。なお、特に説明のない限り、実施例1と同様の装置を使用し、同様の作製条件および評価方法が当て嵌まるものとする(以下の実施例および比較例も同様である)。
【0077】
・MXene粉末の調製
実施例1と同様にして得られたMXeneスラリーを凍結乾燥に付し、凝集した乾燥粉を遊星ボールミルで粉砕した。これにより、MXene粉末としてTi粉末を得た。
【0078】
・分散液の調製
上記で調製したMXene粉末(Ti粉末)5.8gとイソプロピルアルコール(IPA)13.6gとをガラス製容器内に入れ、これらの混合物が入ったガラス製容器を、水を満たした超音波バスに浸漬して1時間の超音波処理に付した。超音波処理は、概ね均一なMXene-IPA分散液が得られるまで実施した。
【0079】
・金属基材への分散液の塗布
上記で調製したMXene-IPA分散液を、テーブルコーターを用いて、金属基材としてアルミニウム箔(株式会社サンクメタル製、厚さ10μm)の上面に塗布した。
【0080】
・熱処理
上記でMXene-IPA分散液を塗布したアルミニウム箔を、ホットプレートで予備熱処理(100℃、15分間)に付した後、真空オーブンにて真空中(真空度0.1kPa)で120℃にて3時間の熱処理に付した。これにより、導電性フィルムとして、IPA分散液由来のMXene乾燥膜(以下、「IPA-MXene膜」と言う)がアルミニウム箔の上面に形成された構造体が得られた。
【0081】
・プレス
その後、上記で得られた構造体をロールプレス機にて線圧4.4kN/cmおよび搬送速度0.3m/分でプレスした。
これにより、実施例2の導電性複合構造体が得られた。
【0082】
・評価
上記で作製した実施例2の導電性複合構造体を、実施例1と同様に軸芯巻き付け試験、アセトン浸漬試験、およびテープ剥離試験に付して評価した。軸巻き付け試験の結果、図4(a)に示すように、IPA-MXene膜におけるひび割れおよびアルミニウム箔からのIPA-MXene膜の剥落は、いずれも全く認められなかった。アセトン浸漬試験の結果、図4(b)に示すように、IPA-MXene膜はもとの形状を維持し、IPA-MXene膜とアルミニウム箔との間の剥離は全く認められなかった。テープ剥離試験の結果、図4(c)に示すように、IPA-MXene膜は、テープによってアルミニウム箔から全く剥離しなかった。実施例2は、実施例1~4の中で最も優れた結果を示した。
【0083】
(実施例3)
本実施例は、反応性有機化合物としてN-メチルピロリドン(NMP)を使用し、金属基材としてアルミニウム箔を使用して、導電性複合構造体を作製した例に関する。
【0084】
・MXene粉末の調製
実施例1と同様にして得られたMXeneスラリーを凍結乾燥に付し、凝集した乾燥粉をチューブミルコントロール(IKA製)で粉砕した。これにより、MXene粉末としてTi粉末を得た。
【0085】
・分散液の調製
上記で調製したMXene粉末(Ti粉末)9.5gとN-メチルピロリドン(NMP)18gとを自公転式撹拌機にて撹拌し、途中でNMP4gを追加して更に撹拌した。撹拌は、概ね均一なMXene-NMP分散液が得られるまで実施した。
【0086】
・金属基材への分散液の塗布
上記で調製したMXene-NMP分散液を、テーブルコーターを用いて、金属基材としてアルミニウム箔(株式会社サンクメタル製、厚さ10μm)の上面に塗布した。
【0087】
・熱処理
上記でMXene-NMP分散液を塗布したアルミニウム箔を、ホットプレートで予備熱処理(80℃、10分間)に付した後、真空オーブンにて真空中(真空度0.1kPa)で100℃にて10時間の熱処理に付した。これにより、導電性フィルムとして、NMP分散液由来のMXene乾燥膜(以下、「NMP-MXene膜」と言う)がアルミニウム箔の上面に形成された構造体が得られた。
【0088】
・プレス
その後、上記で得られた構造体をロールプレス機にて線圧0.6kN/cmおよび搬送速度0.3m/分でプレスした。
これにより、実施例3の導電性複合構造体が得られた。
【0089】
・評価
上記で作製した実施例3の導電性複合構造体を、実施例1と同様に軸芯巻き付け試験、アセトン浸漬試験、およびテープ剥離試験に付して評価した。軸巻き付け試験の結果、図5(a)に示すように、NMP-MXene膜におけるひび割れおよびアルミニウム箔からのNMP-MXene膜の剥落は、いずれも全く認められなかった。アセトン浸漬試験の結果、図5(b)に示すように、NMP-MXene膜はもとの形状を維持し、NMP-MXene膜とアルミニウム箔との間の剥離は全く認められなかった。テープ剥離試験の結果、図5(c)に示すように、NMP-MXene膜は、テープによってアルミニウム箔から全く剥離しなかった。
【0090】
(実施例4)
本実施例は、反応性有機化合物としてメチルエチルケトン(MEK)を使用し、金属基材としてアルミニウム箔を使用して、導電性複合構造体を作製した例に関する。
【0091】
・MXene粉末の調製
実施例3と同様にして、MXene粉末としてTi粉末を得た。
【0092】
・分散液の調製
上記で調製したMXene粉末(Ti粉末)5.8gとメチルエチルケトン(MEK)13.5gとを自公転式撹拌機にて撹拌し、途中でMXene粉末1.8gと蒸留水4.3gとを追加して更に撹拌した。撹拌は、概ね均一なMXene-MEK分散液が得られるまで実施した。
【0093】
・金属基材への分散液の塗布
上記で調製したMXene-MEK分散液を、テーブルコーターを用いて、金属基材としてアルミニウム箔(株式会社サンクメタル製、厚さ10μm)の上面に塗布した。
【0094】
・熱処理
上記でMXene-MEK分散液を塗布したアルミニウム箔を、ホットプレートで予備熱処理(80℃、10分間)に付した後、真空オーブンにて真空中(真空度0.1kPa)で100℃にて10時間の熱処理に付した。これにより、導電性フィルムとして、MEK分散液由来のMXene乾燥膜(以下、「MEK-MXene膜」と言う)がアルミニウム箔の上面に形成された構造体が得られた。
【0095】
・プレス
その後、上記で得られた構造体をロールプレス機にて線圧0.6kN/cmおよび搬送速度0.3m/分でプレスした。
これにより、実施例4の導電性複合構造体が得られた。
【0096】
・評価
上記で作製した実施例の導電性複合構造体を、実施例1と同様に軸芯巻き付け試験、アセトン浸漬試験、およびテープ剥離試験に付して評価した。軸巻き付け試験の結果、図6(a)に示すように、MEK-MXene膜におけるひび割れおよびアルミニウム箔からのMEK-MXene膜の剥落は、いずれも全く認められなかった。アセトン浸漬試験の結果、図6(b)に示すように、MEK-MXene膜はもとの形状を維持し、MEK-MXene膜とアルミニウム箔との間の剥離は全く認められなかった。テープ剥離試験の結果、図6(c)に示すように、MEK-MXene膜は、テープによって、その貼付領域のうち合計約20%程度の部分がアルミニウム箔から剥離したに過ぎなかった。
【0097】
(比較例1)
本比較例は、反応性有機化合物を使用せず、金属基材としてアルミニウム箔を使用して、導電性複合構造体を作製した例に関する。
【0098】
・MXeneクレイの調製
MAX粒子としてTiAlC粒子を既知の方法で調製した。このTiAlC粒子(粉末)を1g秤量し、1gのLiFと共に9モル/Lの塩酸10mLに添加して35℃にてスターラーで24時間撹拌して、TiAlC粉末に由来する固体成分を含む固液混合物(懸濁液)を得た。これに対して、純水による洗浄および遠心分離機を用いたデカンテーションによる上澄み液の分離除去(上澄みを除いた残りの沈降物は再び洗浄に付す)操作を10回程度繰り返し実施し、沈降物として粘土状物質(クレイ)を得た。これにより、MXeneクレイとして、Ti-水分散体クレイを得た。
【0099】
・分散液の調製
上記で調製したMXeneクレイ(Ti-水分散体クレイ)24.4gを薄膜旋回型高速ミキサー(プライミクス株式会社製、40-L型)にて撹拌し、途中で、実施例1と同様にして調製したMXene粉末(Ti粉末)8.4gを添加して更に撹拌して、MXene-水分散液を得た。撹拌は、概ね均一なMXene-水分散液が得られるまで実施した。
【0100】
・金属基材への分散液の塗布、熱処理およびプレス
MXene-MEK分散液に代えて、上記で調製したMXene-水分散液を用いたこと以外は、実施例3と同様にして、アルミニウム箔への分散液の塗布、熱処理およびプレスを実施した。
これにより、比較例1の導電性複合構造体が得られた。
【0101】
・評価
上記で作製した比較例1の導電性複合構造体を、実施例1と同様に軸芯巻き付け試験、アセトン浸漬試験、およびテープ剥離試験に付して評価した。軸巻き付け試験の結果、図7(a)に示すように、水-MXene膜にひび割れが生じて、水-MXene膜がアルミニウム箔から剥落し、曲げに弱いことが認められた。アセトン浸漬試験の結果、図7(b)に示すように、水-MXene膜とアルミニウム箔との間の剥離は認められなかった。テープ剥離試験の結果、図7(c)に示すように、水-MXene膜は、テープによって、その貼付領域のうち約70%を超える大面積部分に亘ってアルミニウム箔から剥離し、水-MXene膜とアルミニウム箔との間の結合力が低かった。
【0102】
(比較例2)
本比較例は、有機化合物としてジメチルエーテル(DME)を使用し、金属基材としてアルミニウム箔を使用した例に関する。
【0103】
・MXene粉末の調製
実施例3と同様にして、MXene粉末としてTi粉末を得た。
【0104】
・分散液の調製
上記で調製したMXene粉末(Ti粉末)5.8gとジメチルエーテル(DME)13.5gとを自公転式撹拌機にて撹拌し、途中でMXene粉末1.8gと蒸留水4.3gとを追加して更に撹拌した。これらの混合物では、塊状物が形成されてしまい、概ね均一な分散液を調製することができず、塊状物を含むMXene-DME混合物が得られた。
【0105】
・金属基材への分散液の塗布
上記で得られたMXene-DME混合物を、テーブルコーターを用いて、金属基材としてアルミニウム箔(株式会社サンクメタル製、厚さ10μm)の上面に塗布しようと試みた。しかしながら、MXene-DME混合物は塗布することが困難であった。また、塗布後にアルミニウム箔から剥がれてしまった。
【0106】
よって、本比較例2では、アルミニウム箔からMXene-DME混合物が剥離した(密着しなかった)時点で試験を中止し、導電性複合構造体を製造することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の導電性複合構造体は、任意の適切な用途に利用され得るが、小型化および/または曲げ伸ばしに耐えることが求められる用途に好ましく利用され得、例えば電極として特に好ましく使用され得る。
【0108】
本願は、2019年12月25日付けで日本国にて出願された特願2019-233667に基づく優先権を主張し、その記載内容の全てが、参照することにより本明細書に援用される。
【符号の説明】
【0109】
1a、1b、1c 層本体(M層)
3a、5a、3b、5b、3c、5c 修飾または終端T
7a、7b、7c MXene層
10 MXene(層状材料)
11 金属基材
13 導電性フィルム
20 導電性複合構造体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7