(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】操舵制御方法及び操舵制御装置
(51)【国際特許分類】
B62D 5/04 20060101AFI20221025BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20221025BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20221025BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20221025BHJP
【FI】
B62D5/04 ZYW
B62D6/00
B62D101:00
B62D113:00
(21)【出願番号】P 2021573312
(86)(22)【出願日】2020-11-16
(86)【国際出願番号】 JP2020042547
(87)【国際公開番号】W WO2022102112
(87)【国際公開日】2022-05-19
【審査請求日】2021-12-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100114177
【氏名又は名称】小林 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 一弘
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-151881(JP,A)
【文献】特開2006-137215(JP,A)
【文献】特開2007-237938(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/04, 6/00,15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールの操舵角を検出し、
検出された前記操舵角が大きいほど大きくなる第1操舵反力を算出し、
前記検出された操舵角に対して位相を遅らせた遅延操舵角を算出し、
前記検出された操舵角と算出された前記遅延操舵角との偏差である偏差角の絶対値が大きいほど大きくなる第2操舵反力を算出し、
前記第1操舵反力と前記第2操舵反力との和に基づいた操舵反力を前記ステアリングホイールに付与する、
ことを特徴とする操舵制御方法。
【請求項2】
前記偏差角の絶対値が所定値以下になるように制限することを特徴とする請求項1に記載の操舵制御方法。
【請求項3】
前記遅延操舵角の位相を制御することにより前記偏差角の絶対値が所定値以下になるように制限することを特徴とする請求項2に記載の操舵制御方法。
【請求項4】
車速が高くなるほど大きな値を前記所定値として設定することを特徴とする請求項2又は3に記載の操舵制御方法。
【請求項5】
閾値以上の車速において前記所定値を一定に設定することを特徴とする請求項4に記載の操舵制御方法。
【請求項6】
車速が高いほど大きくなるゲインと前記偏差角の絶対値との積に基づいて、前記第2操舵反力を算出することを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の操舵制御方法。
【請求項7】
検出された前記操舵角の位相をローパスフィルタにより遅らせることにより前記遅延操舵角を算出することを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の操舵制御方法。
【請求項8】
ステアリングホイールの操舵角を検出するセンサと、
前記センサが検出した前記操舵角が大きいほど大きくなる第1操舵反力を算出し、前記操舵角に対して位相を遅らせた遅延操舵角を算出し、前記操舵角と前記遅延操舵角との偏差である偏差角の絶対値が大きいほど大きくなる第2操舵反力を算出し、前記第1操舵反力と前記第2操舵反力とを加算して合計操舵反力を算出するコントローラと、
前記合計操舵反力に基づいた操舵反力を前記ステアリングホイールに付与するアクチュエータと、
を備えることを特徴とする操舵制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵制御方法及び操舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ステアリングホイールと操向輪との間が機械的に分離されたステアバイワイヤ式の操舵装置が記載されている。
ステアバイワイヤ式の操舵装置では、操向輪が路面から受ける路面反力が、ステアリングホイールに機械的に伝達されない。このため、ステアバイワイヤ式の操舵装置には、アクチュエータによって操舵反力をステアリングホイールに付与するものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
運転者がステアリングホイールを回転させている状態からステアリングホイールを停止した状態(保舵状態)へ移行する際のステアリングホイールの操作性には、操舵反力が影響する。
ステアリングホイールを所望の操舵角で停止させるまでは、適度な大きさの操舵反力が維持されているとともに、ステアリングホイールを停止させたら、速やかに操舵反力が減少して操舵角に応じた大きさの操舵反力に収束することが望ましい。
【0005】
操舵反力は、ステアリングホイールの操舵角に応じた定常成分に、過渡成分を加えて生成できる。この過渡成分は、操舵角の変化に応じて定常成分に付加される操舵反力の成分である。過渡成分を加えることで、運転者がステアリングホイールを回転させている間の操舵反力を適度に強めることができ、操舵角が変化しない保舵状態では操舵角に応じた定常成分に操舵反力を収束できる。例えば、特許文献1には操舵角速度に基づいて操舵反力を付与することが記載されている。
【0006】
しかしながら、操舵角速度に基づいて過渡成分を設定すると、運転者に違和感を与えることがある。
すなわち、操舵角速度は、ステアリングホイールが停止する前から徐々に低下する。このため操舵角速度の低下に伴って過渡成分が減少すると、ステアリングホイールが停止する前から操舵反力が低下する。この結果、ステアリングホイールを止めようとするときに操舵に必要な力が弱くなり、ステアリングホイールを停止させた時の操舵角が、運転者が意図した操舵角よりも大きくなることがある。
本発明は、運転者がステアリングホイールを回転させている状態からステアリングホイールを停止させる際に、ステアリングホイールを運転者が意図した操舵角に停止し易くして、操作性を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様による操舵制御方法では、ステアリングホイールの操舵角を検出し、検出された前記操舵角が大きいほど大きくなる第1操舵反力を算出し、前記検出された操舵角に対して位相を遅らせた遅延操舵角を算出し、前記検出された操舵角と算出された前記遅延操舵角との偏差である偏差角の絶対値が大きいほど大きくなる第2操舵反力を算出し、前記第1操舵反力と前記第2操舵反力との和に基づいた操舵反力を前記ステアリングホイールに付与する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、運転者がステアリングホイールを回転させている状態からステアリングホイールを停止させる際に、ステアリングホイールを運転者が意図した操舵角に停止し易くして、操作性を向上することができる。
本発明の目的及び利点は、特許請求の範囲に示した要素及びその組合せを用いて具現化され達成される。前述の一般的な記述及び以下の詳細な記述の両方は、単なる例示及び説明であり、特許請求の範囲のように本発明を限定するものでないと解するべきである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態の操舵装置の一例の概略構成図である。
【
図2】
図1に示すコントローラの機能構成例のブロック図である。
【
図3A】好適な操舵反力の一例を示すタイムチャートである。
【
図3B】保舵状態へ移行する際に操舵反力が保舵力へ早く移行した場合を示すタイムチャートである。
【
図3C】保舵状態へ移行する際に保舵力への操舵反力の移行が遅れた場合を示すタイムチャートである。
【
図4A】操舵角と遅延操舵角の一例のタイムチャートである。
【
図4C】反力指令値の過渡成分の一例のタイムチャートである。
【
図4D】反力指令値の定常成分と反力指令値の全体の一例のタイムチャートである。
【
図5】実施形態の操舵制御方法の一例のフローチャートである。
【
図6】第1実施形態の反力制御部の機能構成の一例のブロック図である。
【
図7】第1実施形態のセルフアライニングトルク(SAT:Self-Aligning Torque)反力成分算出部の機能構成の一例のブロック図である。
【
図8A】
図7に示す過渡成分算出部の機能構成の一例のブロック図である。
【
図8C】リミット角と位相遅れの関係の説明図である。
【
図9】
図8Aに示す制限付ローパスフィルタ(LPF:Low Pass Filter)の機能構成の一例のブロック図である。
【
図10A】リミッタで制限した場合の過渡成分の一例を示す図である。
【
図10B】遅延操舵角の位相遅れを制限した場合の過渡成分の一例を示す図である。
【
図11】第2実施形態の反力制御部の機能構成の一例のブロック図である。
【
図12A】第2実施形態のSAT反力成分算出部の機能構成の一例のブロック図である。
【
図12B】第2実施形態の操舵系反力成分算出部の機能構成の一例のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、各図面は模式的なものであって、現実のものとは異なる場合がある。また、以下に示す本発明の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0011】
(第1実施形態)
図1は、車両に搭載される第1実施形態~第3実施形態の操舵装置の一例の概略構成図である。
実施形態の操舵装置は、運転者の操舵入力を受け付ける操舵部31と、操向輪である左右前輪34FL、34FRを転舵する転舵部32と、バックアップクラッチ33と、コントローラ11を備える。
この操舵装置は、バックアップクラッチ33が解放状態になると、操舵部31と転舵部32とが機械的に分離されるステアバイワイヤ(SBW)システムを採用している。以下の説明において左右前輪34FL、34FRを「操向輪34」と表記することがある。
【0012】
操舵部31は、ステアリングホイール31aと、コラムシャフト31bと、反力アクチュエータ31cと、第1駆動回路31dと、操舵角センサ31eと、電流センサ31fとを備える。
一方で転舵部32は、ピニオンシャフト32aと、ステアリングギア32bと、ラックギア32cと、ステアリングラック32dと、転舵アクチュエータ32eと、第2駆動回路32fと、転舵角センサ32gと、電流センサ32hを備える。
【0013】
操舵部31のステアリングホイール31aは、反力アクチュエータ31cによって反力トルクが付与されると共に、運転者によって付与される操舵トルクの入力を受けて回転する。なお、本明細書においてアクチュエータによってステアリングホイールに付与される反力トルクを「操舵反力トルク」と表記することがある。
コラムシャフト31bは、ステアリングホイール31aと一体に回転する。
【0014】
反力アクチュエータ31cは、例えば電動モータであってよい。反力アクチュエータ31cは、コラムシャフト31bと同軸上に配置された出力軸を有する。
第1駆動回路31dは、コントローラ11から出力される反力指令値fsに基づいて反力アクチュエータ31cを駆動する。反力指令値fsは、ステアリングホイールへ付与する操舵反力トルク(ステアリングホイール31aへ付与する回転トルクであり、以下では反力トルクとも言う)の指令値である。
【0015】
操舵角センサ31eは、コラムシャフト回転角、すなわち、ステアリングホイール31aの操舵角θs(ハンドル角度)を検出する。
電流センサ31fは、反力アクチュエータ31cの駆動電流である反力電流Isを検出する。
【0016】
一方で転舵部32のステアリングギア32bはラックギア32cと歯合し、ピニオンシャフト32aの回転に応じて操向輪34を転舵する。ステアリングギア32bとして、例えば、ラック・アンド・ピニオン式のステアリングギア等を採用してよい。
バックアップクラッチ33は、コラムシャフト31bとピニオンシャフト32aとの間に設けられる。そして、バックアップクラッチ33は、解放状態になると操舵部31と転舵部32とを機械的に切り離し、締結状態になると操舵部31と転舵部32とを機械的に接続する。
【0017】
転舵アクチュエータ32eは、例えばブラシレスモータ等の電動モータであってよい。転舵アクチュエータ32eの出力軸は、減速機を介してラックギア32cと接続される。
第2駆動回路32fは、コントローラ11から出力される転舵力指令値ftに基づいて転舵アクチュエータ32eを駆動する。転舵力指令値ftは、操向輪34を転舵させる転舵トルクの指令値である。
転舵角センサ32gは、操向輪34の実際の転舵角である実転舵角θtを検出する。
【0018】
電流センサ32hは、転舵アクチュエータ32eの駆動電流である転舵電流Itを検出する。
車速センサ16は、実施形態の転舵装置が搭載された車両の車輪速を検出し、車輪速に基づいて車両の車速Vvを算出する。
加速度センサ17は、車両の横方向加速度Gyを検出する。
ヨーレイトセンサ18は、車両のヨーレイトγを検出する。
【0019】
コントローラ11は、操向輪の転舵制御とステアリングホイールの反力制御を行う電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)である。
本明細書において「反力制御」とは、反力アクチュエータ31c等のアクチュエータによりステアリングホイール31aに与える操舵反力トルクの制御をいう。コントローラ11は、プロセッサ20と記憶装置21等の周辺部品とを含む。プロセッサ20は、例えばCPU(Central Processing Unit)、やMPU(Micro-Processing Unit)であってよい。
【0020】
記憶装置21は、半導体記憶装置、磁気記憶装置及び光学記憶装置を備えてよい。記憶装置21は、レジスタ、キャッシュメモリ、主記憶装置として使用されるROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等のメモリを含んでよい。
なお、汎用の半導体集積回路中に設定される機能的な論理回路でコントローラ11を実現してもよい。例えば、コントローラ11はフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA:Field-Programmable Gate Array)等のプログラマブル・ロジック・デバイス(PLD:Programmable Logic Device)等を有していてもよい。
【0021】
図2は、コントローラ11の機能構成例を示すブロック図である。コントローラ11は、反力制御部40と転舵制御部41を備える。反力制御部40と転舵制御部41の機能は、例えばコントローラ11の記憶装置21に格納されたコンピュータプログラムを、プロセッサ20が実行することによって実現されてよい。
転舵制御部41は、ステアリングホイール31aの操舵角θsと、操向輪34の実転舵角θtに基づいて転舵力指令値ftを算出する。
【0022】
具体的には、転舵制御部41は、操舵角θsに基づいて、操向輪34の転舵角の目標値である目標転舵角θtrを設定する。
転舵制御部41は、実転舵角θtと目標転舵角θtrとの差(θtr-θt)に基づいて、実転舵角θtを目標転舵角θtrに一致させるための転舵力指令値ftを算出する。
転舵制御部41は、転舵力指令値ftを第2駆動回路32fに出力する。第2駆動回路32fは、転舵力指令値ftに基づいて転舵アクチュエータ32eを駆動する。
【0023】
転舵アクチュエータ32eは、第2駆動回路32fから出力される指令電流に応じて、操向輪34を転舵するための転舵トルクをステアリングラック32dに出力する。
第2駆動回路32fは、転舵アクチュエータ32eの駆動電流である転舵電流Itから推定される実際の転舵トルクと、転舵制御部41から出力される転舵力指令値ftが示す転舵トルクとを一致させるトルクフィードバックにより、転舵アクチュエータ32eへ出力する指令電流を制御する。あるいは、転舵電流Itと、転舵力指令値ftに相当する駆動電流とを一致させる電流フィードバックによって、転舵アクチュエータ32eへ出力する指令電流を制御してもよい。
【0024】
反力制御部40は、操舵角センサ31eが検出した操舵角θsと、車速センサ16が検出した車速Vvと、加速度センサ17が検出した横方向加速度Gyと、ヨーレイトセンサ18が検出したヨーレイトγと、電流センサ32hが検出した転舵電流Itと、転舵制御部41が設定した目標転舵角θtrに応じて反力指令値fsを算出する。
反力制御部40は、反力指令値fsを第1駆動回路31dへ出力する。第1駆動回路31dは、反力指令値fsに基づいて反力アクチュエータ31cを駆動する。
【0025】
反力アクチュエータ31cは、第1駆動回路31dから出力される指令電流に応じて、ステアリングホイール31aに付与する回転トルクをコラムシャフト31bに出力する。回転トルクを付与することによって、ステアリングホイール31aに操舵反力トルクを発生させる。
第1駆動回路31dは、反力アクチュエータ31cの駆動電流である反力電流Isから推定される実際の操舵反力トルクと、反力制御部40から出力される反力指令値fsが示す反力トルクとを一致させるトルクフィードバックにより、反力アクチュエータ31cへ出力する指令電流を制御する。あるいは、反力電流Isと、反力指令値fsに相当する駆動電流とを一致させる電流フィードバックによって、反力アクチュエータ31cへ出力する指令電流を制御してもよい。
【0026】
次に、反力アクチュエータ31cによりステアリングホイール31aに付与する操舵反力について説明する。
図3Aは、好適な操舵反力の一例を示すタイムチャートである。なお、実線は操舵角θsを示し、一点鎖線は操舵反力を示す。また、
図3Aにおいては理解容易のため便宜上、操舵角θ及び操舵反力の異なる2つのパラメータを一つの縦軸で表しているが、これらはそれぞれ単位の異なるパラメータであり、実際には操舵角θ及び操舵反力のそれぞれ異なる単位のパラメータ毎に縦軸が存在することは言うまでもない。後述の
図3B及び
図3Cでも同様である。また、本実施例においては以降の図面においても同様に理解容易のため便宜上、異なる単位の複数のパラメータを一つの縦軸で表す場合がある。
一般的に、操舵反力は以下の特徴1~4を有していることが好ましい。
(特徴1)時刻t0において操舵が開始すると、操舵初期において車両挙動が発生する前に操舵反力の増加が開始し、十分な強度まで増加すること。
【0027】
(特徴2)操舵中(時刻t0~t1)には、操舵角θsの増減に対応した操舵反力の傾きを有し、車両挙動を予見し易いこと。
(特徴3)時刻t1においてステアリングホイール31aを回転させている状態からステアリングホイール31aを停止した状態(保舵状態)へ移行する際に、ステアリングホイール31aを所望の操舵角で停止させるまでは、適度な大きさの操舵反力が維持されることによりステアリングホイール31aを所望の操舵角で止め易いこと。
【0028】
(特徴4)ステアリングホイール31aを停止させ保舵状態となったら、速やかに操舵反力が減少して、時刻t2において操舵角に応じた大きさに収束し、ステアリングホイール31aを保舵し易いこと。
なお、以下の説明において、保舵状態における操舵角に応じた大きさの操舵反力を「保舵力」と表記することがある。
【0029】
一方で
図3Bは、保舵状態への移行時において保舵力への操舵反力の移行が早すぎる場合のタイムチャートである。
運転者は、時刻t1においてステアリングホイール31aを所望の操舵角で停止させようとするが、それ以前の時刻t3で操舵反力の減少が始まっている。この結果、運転者がステアリングホイール31aを止めようとするときに、運転者が加える力に反した力である操舵反力が弱くなり、運転者の意図よりも操舵角θsが大きくなる。
【0030】
例えば、ステアリングホイール31aの操舵角速度ωに応じた過渡成分を操舵角θsに応じた定常成分に加えて操舵反力を生成すると、操舵角速度ωは、ステアリングホイールが停止する前から徐々に低下する。このため、操舵角速度ωの低下に伴って過渡成分が減少するため、ステアリングホイール31aが停止する前から操舵反力が低下する。
【0031】
また
図3Cは、保舵状態への移行時において保舵力への操舵反力の移行が遅すぎる場合のタイムチャートである。
運転者は、時刻t1においてステアリングホイール31aを所望の操舵角で停止させようとするが、それよりも後の時刻t4で操舵反力の減少が始まる。このように操舵反力が遅れて減少すると、運転者が保舵のためにステアリングホイール31aにかけている力によって、誤ってステアリングホイール31aが回転してしまい、運転者の意図よりも操舵角θsが大きくなる。
【0032】
したがって、ステアリングホイールを所望の操舵角で止め易くする(操作性を向上する)には、操舵反力が上記の特徴3及び特徴4を備えることが好ましい。
そこで、実施形態の反力制御部40は、操舵角θsに対して位相を遅らせた遅延操舵角θsdを算出し、操舵角θsと遅延操舵角θsdとの偏差である偏差角Δθ=θs-θsdに基づいて操舵反力の過渡成分を算出する。具体的には、反力制御部40は、偏差角Δθが大きいほどより大きくなる操舵反力の過渡成分を算出する。
図4Aは、操舵角θsと遅延操舵角θsdの一例のタイムチャートである。実線50は操舵角θsを示し、二点鎖線52は遅延操舵角θsdを示す。
【0033】
遅延操舵角θsdの位相は、操舵角θsに対して遅れている。このため、操舵角θsが増加を開始する時刻、すなわち操舵開始時刻t0よりも後の時刻t2に、遅延操舵角θsdが増加を開始する。
また、操舵角θsが増加を停止した時刻、すなわちステアリングホイール31aが停止した時刻t1よりも後の時刻t3に、遅延操舵角θsdが操舵角θsに追いついて増加を停止する。
【0034】
図4Bは、操舵角θsと遅延操舵角θsdとの偏差角Δθ=θs-θsdを示す。
偏差角Δθは、操舵開始時刻t0から遅延操舵角θsdが増加を開始する時刻t2までの期間に増加し、その後は、遅延操舵角θsdの位相遅れ量に応じた値を有する。
また、ステアリングホイール31aが停止した時刻t1から遅延操舵角θsdが操舵角θsに追いついて増加を停止する時刻t3までの期間にゼロまで減少する。
【0035】
図4Cは、偏差角Δθに基づいて算出した反力指令値の過渡成分の一例のタイムチャートである。実線53が偏差角Δθに基づいて算出した過渡成分を示す。
過渡成分は、上記の偏差角Δθと同様に、操舵開始時刻t0から増加し、操舵角θsの増加中、すなわちステアリングホイール31aの回転中は、遅延操舵角θsdの位相遅れ量に応じた強度を有する。ステアリングホイール31aが停止した時刻t1から減少を開始して時刻t3においてゼロに収束する。
【0036】
比較のため、操舵角速度ωに基づいて算出した過渡成分を一点鎖線54で示す。操舵角速度ωに基づいて算出した過渡成分(一点鎖線54)と偏差角Δθに基づいて算出した過渡成分(実線53)とを比較する。
操舵角速度ωに基づいて算出した過渡成分は、操舵角速度ωの低下のためにステアリングホイール31aが停止する時刻t1以前に減少する。これに対して、偏差角Δθに基づいて算出した過渡成分(実線53)は、ステアリングホイール31aが停止する時刻t1まで減少開始が遅れるとともに、時刻t1以後は速やかにゼロに収束する。
【0037】
図4Dを参照する。反力制御部40は、
図4Cの実線53に示す操舵反力の過渡成分を、操舵角θsに応じた操舵反力の定常成分に加えた和に基づいて、反力指令値fsを算出する。
一点鎖線55は、操舵角θsに応じた定常成分を示し、実線51は、一点鎖線55の定常成分に
図4Cの実線53の過渡成分を加えて得られる合計操舵反力を示す。反力制御部40は、操舵角θsが大きいほど、より大きくなるように定常成分を設定する。
ステアリングホイール31aが停止する時刻t1までは、過渡成分の減少開始が遅れるため、操舵反力(実線51)の減少開始を遅らせることができる。この結果、適度な強度の操舵反力を維持できる。
また、時刻t1以後に過渡成分が減少するため、ステアリングホイール31aが停止すると速やかに操舵反力(実線51)が減少し、定常成分(一点鎖線55)に収束させることができる。
【0038】
このように、実施形態の反力制御部40により付与される操舵反力は、ステアリングホイール31aを保舵状態へ移行する際に、ステアリングホイール31aを所望の操舵角で停止させるまで適度な大きさに維持される。
また、ステアリングホイール31aが停止すると操舵反力が速やかに減少して操舵角に応じた大きさに収束する。これによりステアリングホイール31aを保舵し易くなる。
【0039】
図5は、実施形態の操舵制御方法の一例のフローチャートである。
ステップS1において操舵角センサ31eは、ステアリングホイール31aの操舵角θsを検出する。
ステップS2において反力制御部40は、操舵角θsに基づいて、操舵角θsが大きいほどより大きくなる第1操舵反力を、操舵反力の定常成分として算出する。
【0040】
ステップS3において反力制御部40は、操舵角θsに対して位相を遅らせた遅延操舵角θsdを算出する。
ステップS4において反力制御部40は、操舵角θsと遅延操舵角θsdとの偏差角Δθ=θs-θsdを算出する。
ステップS5において反力制御部40は、偏差角Δθに基づいて、偏差角Δθが大きいほどより大きくなる第2操舵反力を、操舵反力の過渡成分として算出する。
【0041】
ステップS6において反力制御部40は、第1操舵反力と第2操舵反力とを加算して得られる合計操舵反力に基づいて、反力指令値fsを算出する。
ステップS7において第1駆動回路31dは、反力指令値fsに基づいて反力アクチュエータ31cを駆動して、ステアリングホイールへ操舵反力を付与する。
その後に処理は終了する。
【0042】
次に、第1実施形態の反力制御部40の詳細を説明する。
図6は、第1実施形態の反力制御部40の機能構成の一例のブロック図である。
第1実施形態の反力制御部40は、第1操舵反力(すなわち操舵反力の定常成分)及び第2操舵反力(すなわち操舵反力の過渡成分)を、セルフアライニングトルク(SAT:Self-Aligning Torque)に含まれる成分として算出する。
【0043】
例えば反力制御部40は、操向輪34が路面から受ける路面反力による操舵反力を第1操舵反力として算出してよい。
また反力制御部40は、ステアリングラック32dよりも路面に近い部材(操向輪34やサスペンションなど)の転舵時の捩れによる操舵反力を第2操舵反力として算出してよい。
反力制御部40は、SAT反力成分算出部60と、操舵系反力成分算出部61と、加算器62を備える。
【0044】
SAT反力成分算出部60は、SATにより発生する操舵反力を模擬した成分であるSAT反力成分fsatを算出する。
SAT反力成分算出部60は、操舵角センサ31eが検出した操舵角θsと、車速センサ16が検出した車速Vvと、加速度センサ17が検出した横方向加速度Gyと、ヨーレイトセンサ18が検出したヨーレイトγと、電流センサ32hが検出した転舵電流Itと、転舵制御部41が設定した目標転舵角θtrに基づいて、SAT反力成分fsatを算出する。
【0045】
操舵系反力成分算出部61は、操舵部31に働く摩擦力、粘性抵抗、操舵部31の捩れなどによる操舵反力を模擬した成分である操舵系反力成分fstrを算出する。
操舵系反力成分算出部61は、操舵角θsに基づいて操舵系反力成分fstrを算出する。なお、操舵系反力成分算出部61は、操舵角θsに加えて、車速Vvや目標転舵角θtrに基づいて、操舵系反力成分fstrを算出してもよい。
加算器62は、SAT反力成分fsatと操舵系反力成分fstrとを加算して、反力指令値fsを算出する。
【0046】
図7は、第1実施形態のSAT反力成分算出部60の機能構成の一例のブロック図である。SAT反力成分算出部60は、フィードフォワード(FF:feedforward)軸力算出部70と、フィードバック(FB:feedback)軸力算出部71と、混合部72と、過渡成分算出部73と、加算器74と、変換部75を備える。
FF軸力算出部70は、転舵制御部41が設定した目標転舵角θtrに基づいて、下記の式(1)で与えられるステアリングラック軸力を、FF軸力fffとして算出する。ステアリングラック軸力とは、ステアリングラック32dに働くラック軸力である。
【0047】
fff=(Ks+Css)/(JrS2+(Cr+Cs)s+Ks)・k・V/(1+A・V2)・θtr+Ks(Jrs2+Crs)/(JrS2+(Cr+Cs)s+Ks)・θtr …(1)
Ksはピニオン剛性、Csはピニオン粘性、Jrはラック慣性、Crはラック粘性、k、Aは予め設定した定数である。
【0048】
FB軸力算出部71は、加速度センサ17が検出した横方向加速度Gyに基づき、下記の式(2)で与えられるステアリングラック軸力と、横G軸力として算出する。
横G軸力=前輪荷重×横方向加速度Gy×リンク比 …(2)
なお、リンク比はリンクの角度やサスペンションに応じて設定される定数である。
【0049】
またFB軸力算出部71は、電流センサ32hが検出した転舵電流Itと、転舵アクチュエータ32eのモータのトルク定数と、モータギア比と、ピニオンギア半径と、効率とに基づいて、下記の式(3)で与えられるステアリングラック軸力を、電流軸力として選出する。
電流軸力=転舵電流Id×モータギア比×トルク定数/ピニオン半径×効率 …(3)
【0050】
またFB軸力算出部71は、車速センサ16が検出した車速Vv、ヨーレイトセンサ18が検出したヨーレイトγに基づき、下記の式(4)で与えられるステアリングラック軸力を、ヨーレイト軸力として算出する。
ヨーレイト軸力=前輪荷重×車速Vv×ヨーレイトγ×リンク比 …(4)
FB軸力算出部71は、下記の式(5)で与えられるステアリングラック軸力を、FB軸力ffbとして算出する。
ffb=横G軸力×K1+電流軸力×K2+ヨーレイト軸力×K3 …(5)
K1、K2及びK3は所定の配分比率である。
【0051】
混合部72は、FF軸力算出部70が算出したFF軸力fffと、FB軸力算出部71が算出したFB軸力ffbに基づき、下記の式(6)に従って、路面反力により生じるステアリングラック軸力(以下、「路面成分frd」と表記する)を算出する。
路面成分frd=FF軸力fff×GF-FB軸力ffb×(1-GF) …(6)
GFは配分比率である。
【0052】
過渡成分算出部73は、ステアリングラック軸力の過渡成分ftrを算出する。過渡成分算出部73は、ステアリングラック32dよりも路面に近い部材(操向輪34やサスペンションなど)の転舵時の捩れにより生じるステアリングラック軸力を、過渡成分ftrとして算出する。過渡成分算出部73の詳細は後述する。
加算器74は、路面成分frdに過渡成分ftrを加算して、最終的なステアリングラック軸力fshを算出する。
【0053】
変換部75は、ステアリングラック軸力fshをSAT反力成分fsatに変換する。例えば変換部75は、車速Vvおよびステアリングラック軸力fshに対応したSAT反力成分fsatを軸力-操舵反力変換マップから読み出してもよい。軸力-操舵反力変換マップは、例えば、車速Vv毎に、ステアリングラック軸力に対応する操舵反力が設定されたマップである。
なお、路面成分frdから変換された操舵反力は、転舵角(すなわち操舵角)が大きいほど大きくなる反力である第1操舵反力の一例であり、過渡成分ftrから変換された操舵反力は、第2操舵反力の一例である。
【0054】
次に、過渡成分算出部73の詳細を説明する。
図8Aは、過渡成分算出部73の機能構成の一例のブロック図である。
過渡成分算出部73は、操舵角θsに対して位相を遅らせた遅延操舵角θsdを算出し、操舵角θsと遅延操舵角θsdとの偏差角Δθ=θs-θsdに基づいて、過渡成分ftrを算出する。
【0055】
過渡成分算出部73は、リミット角設定部90と、制限付ローパスフィルタ(LPF)91と、減算器92と、ゲイン設定部93と、乗算器94を備える。
リミット角設定部90は、偏差角Δθの絶対値の上限であるリミット角θLを設定する。偏差角Δθに上限を設けることにより、過渡成分ftrが過大となるのを防止できる。リミット角θLは、特許請求の範囲に記載の「所定値」の一例である。
【0056】
例えば、リミット角設定部90は、車速Vvが高くなるほど大きくなるようにリミット角θLを設定してよい。また、リミット角設定部90は、車速Vvが閾値以上の場合にリミット角θLを一定に設定してもよい。
図8Bは、リミット角θLの特性の一例の説明図である。車速Vvが0からV1まで増加するのに伴い、リミット角θLはθL1からθL2まで増加する。車速Vvが閾値V1以上の場合には、リミット角θLは一定値θL2となる。
【0057】
図8Aを参照する。制限付LPF91は、リミット角θLに応じて操舵角θsの位相を遅らせた遅延操舵角θsdを算出する。具体的には、制限付LPF91は、偏差角Δθ=θs-θsdの絶対値がリミット角θLを越えないように、操舵角θsに対する遅延操舵角θsdの位相遅れを制限する。
リミット角θLと遅延操舵角θsdの位相遅れの関係を
図8Cに示す。実線は操舵角θsを示し、二点鎖線は遅延操舵角θsdを示す。操舵角θsに対する遅延操舵角θsdの位相遅れを制限することにより、操舵角θsと遅延操舵角θsdとの偏差角Δθ=θs-θsdの絶対値をリミット角θL以下に制限できる。
【0058】
例えば制限付LPF91は、通常のLPFに操舵角θsを入力し、入力θsとLPF出力θlpfとの偏差の絶対値|θs-θlpf|がリミット角θL未満の場合には、LPF出力θlpfを遅延操舵角θsdとして出力する。
また、入力θsと出力θlpfとの偏差(θs-θlpf)がリミット角θL以上の場合には、制限付LPF91は、遅延操舵角θsdの値を(θs-θL)に制限して出力する。また、偏差(θs-θlpf)が(-θL)以下の場合には、制限付LPF91は、遅延操舵角θsdの値を(θs+θL)に制限して出力する。
また制限付LPF91は、LPF出力θlpfの前回値を、制限後の値に更新する。
【0059】
図9は、
図8Aに示す制限付LPF91の機能構成の一例のブロック図である。制限付LPF91は、通常のLPFであるフィルタ部100と、制限処理部101を備える。
フィルタ部100には操舵角θsが入力される。フィルタ部100は、入力である操舵角θsにローパスフィルタをかけて出力する。制限処理部101は、フィルタ部100の出力θlpfを制限して、制限後の信号を遅延操舵角θsdとして出力する。
【0060】
フィルタ部100は、乗算器102、103及び104と、遅延素子105及び106と、加算器107と、減算器108を備える。なお、本例のフィルタ部100は、1次LPFであるが、本発明はこれに限定される他の任意のLPFを利用可能である。
乗算器102は、フィルタ部100への入力である操舵角θsと係数a0との積を演算して加算部107に入力する。遅延素子105は、操舵角θsを単位時間だけ遅延させて出力する。乗算器103は、遅延素子105の出力と係数a1との積を演算して加算部107に入力する。
【0061】
一方で、遅延素子106は、制限処理部101から出力される遅延操舵角θsd(すなわち制限付LPF91の前回出力値)を単位時間だけ遅延させて出力する。乗算器104は、遅延素子106の出力と係数b0との積を演算して減算部107に入力する。
減算器107は、加算部107の出力から乗算器104の出力を減じて、減算結果θlpfを出力する。
【0062】
制限処理部101は、フィルタ部100の出力θlpfをリミット角θLにより制限して、制限後の信号を遅延操舵角θsdとして出力する。
具体的には、フィルタ部100への入力である操舵角θsと出力θlpfとの偏差の絶対値|θs-θlpf|がリミット角θL未満の場合には、LPF出力θlpfを遅延操舵角θsdとして出力する。
【0063】
入力θsと出力θlpfとの偏差(θs-θlpf)がリミット角θL以上の場合には、制限付LPF91は、遅延操舵角θsdの値を(θs-θL)に制限して出力する。また、偏差(θs-θlpf)が(-θL)以下の場合には、制限付LPF91は、遅延操舵角θsdの値を(θs+θL)に制限して出力する
【0064】
図8Aを参照する。減算器92は、操舵角θsと遅延操舵角θsdとの偏差角Δθの絶対値を算出する。
ゲイン設定部93は、車速Vvに応じたゲインGvを設定する。例えばゲイン設定部93は、車速Vvが高いほど大きなゲインGvを設定してよい。また例えばゲイン設定部93は、車速Vvが高いほど小さなゲインGvを設定してもよい。すなわち、車速Vvに対するゲインGvの特性は、ユーザの好みに応じて適宜変更してよい。
乗算器94は、偏差角Δθの絶対値にゲインGvを乗算した積を、過渡成分ftrとして出力する。
【0065】
ここで、偏差角Δθをリミット角θLに制限する際に、遅延操舵角θsdの位相遅れを制限する効果について説明する。
図10Aは、乗算器94が出力する過渡成分ftrをリミッタで制限した場合の一例を示す参考図であり、破線56は制限前の過渡成分ftrを示し、実線57は単純に上限値をリミット角θLに制限した過渡成分ftrを示す。
図10Bは、遅延操舵角θsdの位相遅れを制限した場合の過渡成分ftrの一例を示す図である。
【0066】
図10Aに示すように過渡成分ftrを単にリミッタで制限する場合(実線57)には、ステアリングホイール31aが停止した時刻t1よりも、過渡成分ftrの減少開始が遅れることがある。
このため、
図3Cを参照して上述したように、時刻t1で運転者が所望の操舵角で停止させようとしても、その後に操舵反力が遅れて減少し、運転者が保舵のためにステアリングホイール31aにかけている力によって、ステアリングホイール31aが回転してしまい、運転者の意図よりも操舵角θsが大きくなることがある。
【0067】
これに対して、
図10Bに示すように遅延操舵角θsdの位相遅れを制限した場合には、ステアリングホイール31aが停止した時刻t1から速やかに過渡成分ftrを減少させることができる。
このため、運転者は、ステアリングホイール31aを所望の操舵角に止め易くなる。
【0068】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態の反力制御部40を説明する。
図11は、第2実施形態の反力制御部40の機能構成の一例のブロック図である。
第2実施形態の反力制御部40は、操舵角が大きくなるほど大きくなる反力である第1操舵反力(すなわち操舵反力の定常成分)をSATとして算出し、第2操舵反力(すなわち操舵反力の過渡成分)を操舵系反力成分fstrに含まれる成分として算出する。
【0069】
なお、上記の通り操舵系反力成分fstrは、操舵部31に働く摩擦力、粘性抵抗、操舵部31の捩れなどによる操舵反力を模擬した成分である。
例えば、反力制御部40は、操舵系反力成分fstrに含まれる操舵反力のうち、操舵部31の捩れによる操舵反力を、第2操舵反力として算出してよい。
【0070】
SAT反力成分算出部60は、操舵角センサ31eが検出した操舵角θsと、車速センサ16が検出した車速Vvと、加速度センサ17が検出した横方向加速度Gyと、ヨーレイトセンサ18が検出したヨーレイトγと、電流センサ32hが検出した転舵電流Itと、転舵制御部41が設定した目標転舵角θtrに基づいて、SAT反力成分fsatを算出する。
【0071】
操舵系反力成分算出部61は、操舵角θsと車速Vvに基づいて操舵系反力成分fstrを算出する。
加算器62は、SAT反力成分fsatと操舵系反力成分fstrとを加算して、反力指令値fsを算出する。
【0072】
図12Aは、第2実施形態のSAT反力成分算出部60の機能構成の一例のブロック図である。
FF軸力算出部70、FB軸力算出部71、混合部72及び変換部75の機能は、第1実施形態のFF軸力算出部70、FB軸力算出部71、混合部72及び変換部75の機能と同じである。
混合部72から出力される路面成分frdは、変換部75によりSAT反力成分fsatへ変換される。
【0073】
図12Bは、第2実施形態の操舵系反力成分算出部61の機能構成の一例のブロック図である。
操舵系反力成分算出部61は、微分器95と、摩擦成分算出部96と、粘性成分算出部97と、捩れ成分算出部98と、加算器99を備える。
微分器95は、操舵角θsを微分して操舵角速度ωを算出する。
【0074】
摩擦成分算出部96は、操舵角速度ωに基づいて摩擦成分ffrを算出する。摩擦成分ffrは、操舵部31に働く摩擦力による操舵反力を模擬した成分である。
粘性成分算出部97は、操舵角速度ωに基づいて粘性成分fvsを算出する。粘性成分fvsは、操舵部31に働く粘性抵抗による操舵反力を模擬した成分である。
捩れ成分算出部98は、操舵角θs及び車速Vvに基づいて、第2操舵反力(操舵反力の過渡成分)として捩れ成分ftrを算出する。捩れ成分ftrは、操舵部31の捩れによる操舵反力を模擬した成分である。
【0075】
捩れ成分算出部98の構成及び機能は、
図8Aを参照して説明した第1実施形態の過渡成分算出部73と同様である。
すなわち、捩れ成分算出部98は、操舵角θsに対して位相を遅らせた遅延操舵角θsdを算出し、操舵角θsと遅延操舵角θsdとの偏差角Δθ=θs-θsdに基づいて、捩れ成分ftrを算出する。
加算器99は、摩擦成分ffrと粘性成分fvsと捩れ成分ftrを加算して、操舵系反力成分fstrを算出する。
【0076】
(第3実施形態)
第3実施形態の反力制御部40は、第2操舵反力(すなわち操舵反力の過渡成分)を含んだSAT反力成分fsatと、第2操舵反力を含んだ操舵系反力成分fstrを算出する。
例えば、第3実施形態の反力制御部40は、ステアリングラック32dよりも路面に近い部材(操向輪34やサスペンションなど)の転舵時の捩れによる操舵反力と、操舵部31の捩れなどによる操舵反力と、を含んだ第2操舵反力を算出してよい。
【0077】
また、第3実施形態の反力制御部40は、第1操舵反力として、操向輪34が路面から受ける路面反力による操舵反力を算出してよい。
例えば、第3実施形態の反力制御部40は、第1実施形態のSAT反力成分算出部60と、第2実施形態の操舵系反力成分算出部61とを備え、これらSAT反力成分算出部60及び操舵系反力成分算出部61からそれぞれ出力されるSAT反力成分fsat及び操舵系反力成分fstrを加算して、反力指令値fsを算出してよい。
【0078】
(実施形態の効果)
(1)操舵角センサ31eは、ステアリングホイール31aの操舵角θsを検出する。反力制御部40は、操舵角θsが大きいほど大きくなる第1操舵反力を算出し、操舵角θsに対して位相を遅らせた遅延操舵角θsdを算出し、操舵角θsと遅延操舵角θsdとの偏差である偏差角Δθの絶対値が大きいほど大きくなる第2操舵反力を算出する。反力アクチュエータ31cは、第1操舵反力と第2操舵反力との和に基づいた操舵反力をステアリングホイール31aに付与する。
【0079】
これにより、ステアリングホイール31aを保舵状態へ移行する際に、ステアリングホイール31aを所望の操舵角で停止させるまで、操舵反力を適度な強度に維持できる。また、ステアリングホイール31aが停止すると操舵反力が速やかに減少して収束する。これによりステアリングホイール31aを止め易くなる。
【0080】
(2)反力制御部40は、偏差角Δθの絶対値がリミット角θL以下になるように制限してよい。
これにより第2操舵反力が過大になることを防止できる。
(3)反力制御部40は、遅延操舵角θsdの位相を制御することにより偏差角Δθの絶対値がリミット角θL以下になるように制限してよい。
これにより、偏差角Δθの絶対値を制限しても、ステアリングホイール31aが停止した時刻から第2操舵反力の減少開始が遅れるのを回避できる。このため、ステアリングホイール31aが停止した時刻から速やかに過渡成分ftrの減少を減少させることができるので、運転者は、ステアリングホイール31aを所望の位置に保舵し易くなる。
【0081】
(4)反力制御部40は、車速Vvが高くなるほど大きな値をリミット角θLとして設定してよい。
(5)反力制御部40は、閾値V1以上の車速Vvにおいてリミット角θLを一定に設定してもよい。
これにより、車速Vvに応じて適切な第2操舵反力の上限を設定できる。
【0082】
(6)反力制御部40は、車速が高いほど大きくなるゲインGvと偏差角の絶対値との積に基づいて、第2操舵反力を算出してもよい。これにより、車速Vvに応じて第2操舵反力を増加させることができる。
(7)反力制御部40は、操舵角θsの位相をローパスフィルタにより遅らせることにより遅延操舵角θsdを算出してもよい。これにより、操舵角θsに対して位相の遅れた遅延操舵角θsdを算出できる。
【0083】
ここに記載されている全ての例及び条件的な用語は、読者が、本発明と技術の進展のために発明者により与えられる概念とを理解する際の助けとなるように、教育的な目的を意図したものであり、具体的に記載されている上記の例及び条件、並びに本発明の優位性及び劣等性を示すことに関する本明細書における例の構成に限定されることなく解釈されるべきものである。本発明の実施例は詳細に説明されているが、本発明の精神及び範囲から外れることなく、様々な変更、置換及び修正をこれに加えることが可能であると解すべきである。
【符号の説明】
【0084】
11…コントローラ、16…車速センサ、17…加速度センサ、18…ヨーレイトセンサ、20…プロセッサ、21…記憶装置、31…操舵部、31a…ステアリングホイール、31b…コラムシャフト、31c…反力アクチュエータ、31d…第1駆動回路、31e…操舵角センサ、31f、32h…電流センサ、32…転舵部、32a…ピニオンシャフト、32b…ステアリングギア、32c…ラックギア、32d…ステアリングラック、32e…転舵アクチュエータ、32f…第2駆動回路、32g…転舵角センサ、33…バックアップクラッチ、34…操向輪、40…反力制御部、41…転舵制御部、60…SAT反力成分算出部、61…操舵系反力成分算出部、62、74、99…加算器、70…FF軸力算出部、70…フィードフォワード軸力算出部、71…FB軸力算出部、71…フィードバック軸力算出部、72…混合部、73…過渡成分算出部、75…変換部、90…リミット角設定部、91…制限付ローパスフィルタ、92…減算器、93…ゲイン設定部、94…乗算器、95…微分器、96…摩擦成分算出部、97…粘性成分算出部、98…捩れ成分算出部