(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】調光シート、感光性組成物、及び調光シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
G02F 1/1334 20060101AFI20221025BHJP
G02F 1/13 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
G02F1/1334
G02F1/13 505
(21)【出願番号】P 2022034923
(22)【出願日】2022-03-08
【審査請求日】2022-03-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 泰佑
【審査官】岩村 貴
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106707593(CN,A)
【文献】特開2019-211719(JP,A)
【文献】特開2021-063156(JP,A)
【文献】特許第7010401(JP,B1)
【文献】国際公開第2020/184420(WO,A1)
【文献】特表2019-531373(JP,A)
【文献】特開2008-170475(JP,A)
【文献】特開平10-007617(JP,A)
【文献】特開平06-230346(JP,A)
【文献】特開平06-214218(JP,A)
【文献】特開平06-194636(JP,A)
【文献】特開昭63-253334(JP,A)
【文献】特開平11-006988(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111694182(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110596961(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1334
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の空隙を区画する有機高分子層、前記空隙を埋める液晶組成物、及びスペーサを備えた調光層と、
前記調光層を挟む一対の透明電極層と、
前記調光層及び一対の前記透明電極層を挟む一対の透明支持層と、を備え、
前記液晶組成物の駆動によって可視光線の透過率を変える調光シートであって、
前記有機高分子層は、光重合性化合物を重合させることで得られるポリマーであり、
前記光重合性化合物は、
アクリロイル基及びメタクリロイル基の何れか一方または両方を含み、かつ、炭化水素基、エーテル基、エステル基、アミド基からなる群から選択される少なくとも1種を含むモノマーと、
アクリロイル基及びメタクリロイル基の何れかを1つのみ含み、かつ、ヒドロキシ基を含むモノマーと、から選択される少なくとも1種であり、
各光重合性化合物
単体の重合体のガラス転移温度Tg
k、及び、各光重合性化合物の質量比W
kから下記式(1)を用いて算出される前記ポリマーのガラス転移温度Tg
aveが323K以上363K以下であ
り、
【数1】
前記有機高分子層と前記液晶組成物との総量に対する前記有機高分子層の含有率は、30質量%以上70質量%以下であり、
前記光重合性化合物の少なくとも1種は、下記式(2)で表されるモノマーであり、
【化1】
R
1
及びR
2
は、それぞれ水素またはメチル基であり、
繰り返し単位数nは、5以上20以下であり、
上記式(2)で表されるモノマーの質量比は、前記調光層の全固形分に対して2.5%以上10%以下である
ことを特徴とする調光シート。
【請求項2】
調光層を製造するための感光性組成物であって、
光重合性化合物と、液晶組成物と、を含み、
前記光重合性化合物は、
アクリロイル基及びメタクリロイル基の何れか一方または両方を含み、かつ、炭化水素基、エーテル基、エステル基、アミド基からなる群から選択される少なくとも1種を含むモノマーと、
アクリロイル基及びメタクリロイル基の何れかを1つのみ含み、かつ、ヒドロキシ基を含むモノマーと、から選択される少なくとも1種であり、
前記光重合性化合物を重合させて得られるポリマーのガラス転移温度Tg
aveであって、各光重合性化合物
単体の重合体のガラス転移温度Tg
k、及び、各光重合性化合物の質量比W
kから下記式(1)を用いて算出される前記ガラス転移温度Tg
aveが323K以上363K以下であ
り、
【数2】
前記光重合性化合物と前記液晶組成物との総量に対する前記光重合性化合物の含有率は、30質量%以上70質量%以下であり、
前記光重合性化合物の少なくとも1種は、下記式(2)で表されるモノマーであり、
【化2】
R
1
及びR
2
は、それぞれ水素またはメチル基であり、
繰り返し単位数nは、5以上20以下であり、
上記式(2)で表されるモノマーの質量比は、前記感光性組成物の全体の質量に対して2.5%以上10%以下である
ことを特徴とする感光性組成物。
【請求項3】
透明電極層及び透明支持層を含む積層体の前記透明電極層に、光重合性化合物と、液晶組成物と、を含む感光性組成物を塗布する工程と、
前記感光性組成物が塗布された前記積層体と他の前記積層体との間に前記感光性組成物が位置するように重ねた状態で光を照射することで、前記光重合性化合物を重合させてポリマーを形成する工程と、を含み、
前記光重合性化合物は、
アクリロイル基及びメタクリロイル基の何れか一方または両方を含み、かつ、炭化水素基、エーテル基、エステル基、アミド基からなる群から選択される少なくとも1種を含むモノマーと、
アクリロイル基及びメタクリロイル基の何れかを1つのみ含み、かつ、ヒドロキシ基を含むモノマーと、から選択される少なくとも1種であり、
各光重合性化合物
単体の重合体のガラス転移温度Tg
k、及び、各光重合性化合物の質量比W
kから下記式(1)を用いて算出される前記ポリマーのガラス転移温度Tg
aveが323K以上363K以下であ
り、
【数3】
前記光重合性化合物と前記液晶組成物との総量に対する前記光重合性化合物の含有率は、30質量%以上70質量%以下であり、
前記光重合性化合物の少なくとも1種は、下記式(2)で表されるモノマーであり、
【化3】
R
1
及びR
2
は、それぞれ水素またはメチル基であり、
繰り返し単位数nは、5以上20以下であり、
上記式(2)で表されるモノマーの質量比は、前記感光性組成物の全体の質量に対して2.5%以上10%以下である
ことを特徴とする調光シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調光シート、感光性組成物、及び調光シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
調光シートは、調光層と、調光層を挟む一対の透明電極層とを備える。調光層は、例えば、透明な有機高分子層と、液晶組成物と、調光層の厚さを制御するためのスペーサとを備える。有機高分子層は、複数の空隙を有する。液晶組成物は、有機高分子層が有する空隙に充填される。液晶組成物は、液晶分子を含む。液晶分子は、一対の透明電極層間に電位差が生じていない状態と、一対の透明電極層間に電位差が生じている状態との間で、互いに異なる配向を有する。例えば、調光シートは、一対の透明電極層間に電位差が生じていない状態での液晶分子の配向によって不透明な状態を示し、一対の透明電極層間に電位差が生じた状態での液晶分子の配向によって透明な状態を示す。
【0003】
調光シートは、製造時や加工時において調光シートを構成する各層の剥離を抑制する観点から、各層の間に高い密着性を要求する。例えば、重合性リン酸化合物のような大きな極性を有するモノマーを含む感光性組成物を重合させて有機高分子層を形成することで、有機高分子層の極性を大きくすることができる。これにより、調光層と透明電極層の密着性を高めることができる(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、有機高分子層の材料として相対的に大きな極性を有するモノマーを用いる場合、調光層の原材料を混合した感光性組成物のなかで、モノマーの極性によってスペーサが凝集し易くなる。感光性組成物のなかでスペーサが凝集した場合、スペーサの分布の偏りによって調光層の厚さに差異が生じ易い。また、過度なスペーサの凝集は、調光層のなかでの有機高分子層及び液晶組成物の適切な配置を妨げ、これによって調光シートの部分的な機能低下を引き起こすおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための調光シートは、複数の空隙を区画する有機高分子層、前記空隙を埋める液晶組成物、及びスペーサを備えた調光層と、前記調光層を挟む一対の透明電極層と、前記調光層及び一対の前記透明電極層を挟む一対の透明支持層と、を備え、前記液晶組成物の駆動によって可視光線の透過率を変える調光シートであって、前記有機高分子層は、光重合性化合物を重合させることで得られるポリマーであり、前記光重合性化合物は、アクリロイル基及びメタクリロイル基の何れか一方または両方を含み、かつ、炭化水素基、エーテル基、エステル基、アミド基からなる群から選択される少なくとも1種を含むモノマーと、アクリロイル基及びメタクリロイル基の何れかを1つのみ含み、かつ、ヒドロキシ基を含むモノマーと、から選択される少なくとも1種であり、各光重合性化合物のガラス転移温度Tgk、及び、各光重合性化合物の質量比Wkから下記式(1)を用いて算出される前記ポリマーのガラス転移温度Tgaveが323K以上363K以下である。
【0007】
【0008】
上記課題を解決するための感光性組成物は、調光層を製造するための感光性組成物であって、光重合性化合物と、液晶組成物と、を含み、前記光重合性化合物は、アクリロイル基及びメタクリロイル基の何れか一方または両方を含み、かつ、炭化水素基、エーテル基、エステル基、アミド基からなる群から選択される少なくとも1種を含むモノマーと、アクリロイル基及びメタクリロイル基の何れかを1つのみ含み、かつ、ヒドロキシ基を含むモノマーと、から選択される少なくとも1種であり、前記光重合性化合物を重合させて得られるポリマーのガラス転移温度Tgaveであって、各光重合性化合物のガラス転移温度Tgk、及び、各光重合性化合物の質量比Wkから上記式(1)を用いて算出される前記ガラス転移温度Tgaveが323K以上363K以下である。
【0009】
上記課題を解決するための調光シートの製造方法は、透明電極層及び透明支持層を含む積層体の前記透明電極層に、光重合性化合物と、液晶組成物と、を含む感光性組成物を塗布する工程と、前記感光性組成物が塗布された前記積層体と他の前記積層体との間に前記感光性組成物が位置するように重ねた状態で光を照射することで、前記光重合性化合物を重合させてポリマーを形成する工程と、を含み、前記光重合性化合物は、アクリロイル基及びメタクリロイル基の何れか一方または両方を含み、かつ、炭化水素基、エーテル基、エステル基、アミド基からなる群から選択される少なくとも1種を含むモノマーと、アクリロイル基及びメタクリロイル基の何れかを1つのみ含み、かつ、ヒドロキシ基を含むモノマーと、から選択される少なくとも1種であり、各光重合性化合物のガラス転移温度Tgk、及び、各光重合性化合物の質量比Wkから上記式(1)を用いて算出される前記ポリマーのガラス転移温度Tgaveが323K以上363K以下である。
【0010】
上記各構成及び上記製造方法によれば、光重合性化合物として、相対的に極性の低い原子団によって構成されるモノマーを用いることで、調光層を形成する際のスペーサの凝集を抑制できる。また、有機高分子層を構成するポリマーのガラス転移温度Tgaveを323K以上とすることで、調光層の過度な軟化が抑制される。したがって、調光層の機械的強度を高めることができる。これにより、調光層内での剥離を抑制できる。そして、有機高分子層を構成するポリマーのガラス転移温度Tgaveを363K以下とすることで、調光層の過度な硬化が抑制されることにより、調光層と透明電極層との密着性を高めることができる。これにより、調光層と透明電極層との層間での剥離を抑制できる。
【0011】
上記調光シートにおいて、前記光重合性化合物の少なくとも1種は、下記式(2)で表されるモノマーであり、R1及びR2は、それぞれ水素またはメチル基であり、繰り返し単位数nは、5以上20以下であり、下記式(2)で表されるモノマーの質量比は、前記調光層の全固形分に対して2.5%以上10%以下であることが好ましい。
【0012】
【0013】
上記感光性組成物において、前記光重合性化合物の少なくとも1種は、上記式(2)で表されるモノマーであり、R1及びR2は、水素またはメチル基であり、繰り返し単位数nは、5以上20以下であり、上記式(2)で表されるモノマーの質量比は、前記感光性組成物の全固形分に対して2.5%以上10%以下であることが好ましい。
【0014】
上記調光シートの製造方法において、前記光重合性化合物の少なくとも1種は、上記式(2)で表されるモノマーであり、R1及びR2は、水素またはメチル基であり、繰り返し単位数nは、5以上20以下であり、上記式(2)で表されるモノマーの質量比は、前記感光性組成物の全固形分に対して2.5%以上10%以下であることが好ましい。
【0015】
上記各構成及び上記製造方法によれば、モノマーの状態ではスペーサの凝集を抑制できる極性としつつ、モノマーが重合した有機高分子層の状態では有機高分子層の極性を高めることで、調光層と透明電極層との間の密着性をより高めることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、スペーサの凝集を抑制しつつ、調光層と透明電極層との剥離を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、調光シートの層構成を示す模式図である。
【
図3】
図3は、実施例1~7の成分比及び評価結果を示す表である。
【
図4】
図4は、実施例8~14の成分比及び評価結果を示す表である。
【
図5】
図5は、実施例15~17及び比較例1~4の成分比及び評価結果を示す表である。
【
図6】
図6は、比較例5~11の成分比、及び、評価結果を示す表である。
【
図7】
図7は、剥離試験後の調光シートの外観を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[調光シート]
調光シートは、取付対象物である透明基材に貼り付けられる。透明基材は、ガラス基板や樹脂基板である。透明基材の一例は、車両や航空機等の移動体が搭載する窓ガラス、建物に設置された窓ガラス、車内や屋内に配置された間仕切りである。調光シートが貼り付けられる面は、平面状あるいは曲面状である。調光シートは、2つの透明基材によって挟まれてもよい。
【0019】
本実施形態の調光シートの駆動型式は、一例として、電圧印加によって不透明状態から透明状態に遷移し、当該電圧印加の解除によって透明状態から不透明状態に戻るノーマル型である。なお、調光シートは、電圧印加によって透明状態から不透明状態に遷移し、当該電圧印加の解除によって不透明状態から透明状態に戻るリバース型であってもよい。
【0020】
[調光シートの積層構造]
図1に示すように、調光シート10は、調光層11、第1透明電極層12A、第2透明電極層12B、第1透明支持層13A、及び、第2透明支持層13Bを備える。調光層11は、第1透明電極層12Aと第2透明電極層12Bとに挟まれている。第1透明支持層13Aは、第1透明電極層12Aのうち調光層11と反対側の面を支持する。第2透明支持層13Bは、第2透明電極層12Bのうち調光層11と反対側の面を支持する。
【0021】
調光層11は、例えば、高分子分散型液晶(PDLC:Polymer Dispersed Liquid Crystal)、高分子ネットワーク型液晶(PNLC:Polymer Network Liquid Crystal)、カプセル型ネマティック液晶(NCAP:Nematic Curvilinear Aligned Phase)等の構造を有する。高分子分散型液晶を含む調光層11は、独立した多数の空隙、または独立した形状の一部が接合された形状を有する空隙を樹脂層のなかに備え、空隙のなかに液晶組成物を保持する。高分子ネットワーク型液晶は、3次元の網目状を有した樹脂層である高分子ネットワークを備え、高分子ネットワークが有する空隙に、配向粒子として液晶分子を保持する。カプセル型ネマティック液晶層は、カプセル状を有した液晶組成物を樹脂層のなかに保持する。本実施形態の調光層11は、高分子ネットワーク型液晶を含む。
【0022】
第1透明電極層12A及び第2透明電極層12Bは、それぞれ可視光を透過する光透過性、及び電気的な導電性を有する。第1透明電極層12A及び第2透明電極層12Bを構成する材料の一例は、それぞれ酸化インジウムスズ、フッ素ドープ酸化スズ、酸化スズ、酸化亜鉛、カーボンナノチューブ、ポリ3,4‐エチレンジオキシチオフェンからなる群から選択される少なくとも1種である。
【0023】
第1透明支持層13A及び第2透明支持層13Bは、それぞれ可視光を透過する光透過性、及び電気的な絶縁性を有する。第1透明支持層13A及び第2透明支持層13Bを構成する材料は、それぞれ有機高分子化合物または無機高分子化合物である。有機高分子化合物の一例は、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリオレフィンからなる群から選択される少なくとも1種である。無機高分子化合物の一例は、二酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、及び、窒化ケイ素からなる群から選択される少なくとも1種である。
【0024】
第1透明電極層12Aは、第1配線21A、及び第1電極22Aを通じて制御部20に接続される。第2透明電極層12Bは、第2配線21B、及び第2電極22Bを通じて制御部20に接続される。第1配線21A及び第2配線21Bの各々は、例えば、金属製のワイヤーと、金属製のワイヤーを覆う絶縁層とによって構成される。ワイヤーは、一例として銅によって構成される。絶縁層は、一例として樹脂によって構成される。第1電極22A及び第2電極22Bの各々は、例えば、フレキシブルプリント基板(FPC:Flexible Printed Circuits)である。
【0025】
第1電極22A及び第2電極22Bの各々は、例えば、図示されない導電性接着層を介して第1透明電極層12A及び第2透明電極層12Bの各々に取り付けられる。導電性接着層は、例えば、異方性導電フィルム(ACF:Anisotropic Conductive Film)、異方性導電ペースト(ACP:Anisotropic Conductive Paste)、等方性導電フィルム(ICF:Isotropic Conductive Film)、等方性導電ペースト(ICP:Isotropic Conductive Paste)等から構成される。
【0026】
なお、第1透明電極層12Aと制御部20との接続手段、及び、第2透明電極層12Bと制御部20との接続手段は、上記の例に限定されない。例えば、第1配線21Aが第1電極22Aを介さずに第1透明電極層12Aに対して直接はんだ付けされる構成であってもよい。同様に、第2配線21Bが第1電極22Aを介さずに第2透明電極層12Bに対して直接はんだ付けされる構成であってもよい。
【0027】
制御部20は、第1透明電極層12Aと第2透明電極層12Bとの間に電圧を印加する。調光層11は、第1透明電極層12A及び第2透明電極層12Bの間において生じる電圧の変化を受けて、液晶分子の配向を変える。液晶分子における配向の変化は、調光層11に入る可視光の散乱、吸収、及び、透過の度合いを変える。調光層11は、第1透明電極層12A及び第2透明電極層12Bに電圧信号が印加されていないとき、液晶分子の長軸方向の向きが不規則であるため、調光層11に入射した可視光の散乱度合いが大きくなることで不透明状態となる。一方、調光層11は、第1透明電極層12A及び第2透明電極層12Bに電圧信号が印加されると、液晶分子が配向されることで、液晶分子の長軸方向が第1透明電極層12A及び第2透明電極層12B間の電界方向に沿った向きとなる。その結果、調光層11は、可視光を透過しやすい透明状態となる。
【0028】
[調光層]
図2を参照して調光層11について詳述する。
図2は、PNLC型の調光シート10の断面構造の一部を示す。調光層11は、有機高分子層11A、液晶組成物11B、及びスペーサSPを含む。有機高分子層11Aは、調光層11内で空隙11Dを区画する。液晶組成物11Bは、空隙11Dに充填されている。
【0029】
調光層11は、調光層11を製造するための感光性組成物の硬化体である。感光性組成物は、一例として、光重合性化合物と、液晶組成物11Bと、重合開始剤と、スペーサSPとを含む。有機高分子層11Aは、光重合性化合物の硬化体である。光重合性化合物は、液晶組成物11Bと相溶性を有する。光重合性化合物は、相対的に極性の低い原子団によって構成されるモノマーが用いられる。光重合性化合物は、以下の条件1,条件2の何れかを満たす1種のモノマー、あるいは2種以上のモノマーの組み合わせである。
【0030】
・(条件1)アクリロイル基及びメタクリロイル基の何れか一方または両方を含み、かつ、炭化水素基、エーテル基、エステル基、アミド基からなる群から選択される少なくとも1種を含む。
【0031】
・(条件2)アクリロイル基及びメタクリロイル基の何れかを1つのみ含み、かつ、ヒドロキシ基を含む。
上記の条件1または2を満たすモノマーは、相対的に極性の低い原子団によって構成されることから、スペーサSPの凝集を誘起し難い。したがって、上記の条件1または2を満たすモノマーを光重合性化合物として用いることで、調光層11を形成する際に、感光性組成物のなかで生じるスペーサSPの凝集を抑制できる。
【0032】
有機高分子層11Aは、上記のモノマーを重合させて得られるポリマーによって構成される。有機高分子層11Aを構成するポリマーのガラス転移温度Tgaveは、323K以上363K以下である。ポリマーのガラス転移温度Tgaveは、各モノマーのガラス転移温度Tgk、及び、調光層11における各モノマーの質量比Wkから、以下の式(1)を用いて算出できる。
【0033】
【0034】
ガラス転移温度は、樹脂材料における粘弾性の指標となる。例えば、ガラス転移温度が高いほど、樹脂材料が硬化して常温でガラス状になりやすく、ガラス転移温度が低いほど、樹脂材料が軟化して常温でゴム状になりやすい。有機高分子層11Aを構成するポリマーのガラス転移温度Tgaveが323K以上であることで、調光層11の過度な軟化が抑制される。したがって、調光層11の機械的強度を高めることができる。これにより、調光シート10において、調光層11内での剥離を抑制できる。そして、有機高分子層11Aを構成するポリマーのガラス転移温度Tgaveを363K以下とすることで、調光層11の過度な硬化が抑制されることにより、調光層11と透明電極層12A,12Bとの密着性を高めることができる。これにより、調光シート10において、調光層11と透明電極層12A,12Bとの層間での剥離を抑制できる。
【0035】
また、光重合性化合物の少なくとも1種は、上記の条件1,2の何れかを満たすモノマーのなかでも、以下の条件3を満たすモノマーであることが好ましい。
・(条件3)以下の式(2)で表されるモノマーである。
【0036】
【0037】
上記の式(2)において、R1及びR2は、それぞれ水素またはメチル基である。繰り返し単位数nは、5以上20以下である。上記式(2)で表されるモノマーの質量比は、感光性組成物の全固形分に対して、例えば、2.5%以上10%以下である。なお、上記式(2)で表されるモノマーの質量比は、一例として、調光層11の全固形分に対しても同様に2.5%以上10%以下である。
【0038】
上記の式(2)で表されるモノマーを用いることで、モノマーの状態の極性をスペーサSPの凝集を誘起しない程度としつつ、モノマーが重合した有機高分子層11Aの状態の極性を高めて透明電極層12A,12Bとの密着性を向上できる。
【0039】
液晶組成物11Bは、液晶化合物11BLを含む。なお、液晶組成物11Bは、さらに粘度低下剤、消泡剤、酸化防止剤、耐候剤、及び二色性色素等を含有してもよい。耐候剤の一例は、紫外線吸収剤や光安定剤である。
【0040】
有機高分子層11Aによる液晶組成物11Bの保持型式は、高分子分散型、ポリマーネットワーク型、カプセル型からなる群のうちいずれか一種である。または、有機高分子層11Aによる液晶組成物11Bの保持型式は、これらの群のうち複数種類を組み合わせた型式であってもよい。
【0041】
高分子分散型の調光層11の有機高分子層11Aは、孤立した多数の空隙11Dを区画する。高分子ネットワーク型の調光層11の有機高分子層11Aは、3次元の網目状の空隙11Dを有する。液晶組成物11Bは、相互に連通した網目状の空隙11D内に位置する。カプセル型の調光層11の有機高分子層11Aは、分散したカプセル状の空隙11Dを有する。空隙11Dの大きさは2種類以上であり、空隙11Dの形状は、球形状、楕円体状、あるいは不定形状である。
【0042】
液晶化合物11BLの長軸方向の誘電率は、液晶化合物11BLの短軸方向の誘電率よりも高い、正の誘電異方性を有する。あるいは、液晶化合物11BLの長軸方向の誘電率は、液晶化合物11BLの短軸方向の誘電率よりも低い、負の誘電異方性を有する。液晶化合物11BLの誘電異方性は、調光シート10における各配向層の有無、及び駆動型式に基づいて適宜選択される。
【0043】
液晶化合物11BLは、シッフ塩基系、アゾ系、アゾキシ系、ビフェニル系、ターフェニル系、安息香酸エステル系、トラン系、ピリミジン系、ピリダジン系、シクロヘキサンカルボン酸エステル系、フェニルシクロヘキサン系、ビフェニルシクロヘキサン系、ジシアノベンゼン系、ナフタレン系、ジオキサン系からなる群から選択される少なくとも一種である。非重合性液晶化合物は、1種の液晶化合物、あるいは2種以上の液晶化合物の組み合わせである。
【0044】
有機高分子層11Aと液晶組成物11Bとの総量に対する有機高分子層11Aの含有率の下限値は20質量%であり、より好ましい含有率の下限値は30質量%である。有機高分子層11Aと液晶組成物11Bとの総量に対する有機高分子層11Aの含有率の上限値は70質量%であり、より好ましい含有率の上限値は60質量%である。
【0045】
有機高分子層11Aの含有率の下限値及び上限値は、光重合性化合物の硬化過程において、液晶組成物11Bからなる液晶粒子が光重合性化合物の硬化体から相分離可能な範囲に応じて決まる。有機高分子層11Aの機械的な強度を高めることを要する場合、有機高分子層11Aの含有率の下限値が高いことが好ましい。液晶化合物11BLの駆動電圧を低めることを要する場合、有機高分子層11Aの含有率の上限値が低いことが好ましい。
【0046】
スペーサSPは、有機高分子層11Aの全体にわたり分散されている。スペーサSPは、スペーサSPの周辺において調光層11の厚さを定めると共に、調光層11の厚さを均一化する。スペーサSPは、例えば、粒状スペーサである。スペーサSPは、透光性を有し、無色透明でもよいし、有色透明でもよい。
【0047】
重合開始剤は、ジケトン化合物、アセトフェノン化合物、ベンゾイン化合物、ベンゾフェノン化合物、チオキサンソン化合物からなる群から選択される少なくとも一種である。重合開始剤は、1種の化合物でもよいし、2種以上の化合物の組み合わせでもよい。重合開始剤の一例は、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、シクロヘキシルフェニルケトンからなる群から選択される何れか一種である。
【0048】
制御部20は、第1透明電極層12A及び第2透明電極層12Bに駆動電圧を印加することで、第1透明電極層12Aと第2透明電極層12Bとの間の電位差によって液晶化合物11BLの配向を制御する。駆動電圧は、液晶化合物11BLの駆動によって、調光層11における可視光線の透過率を変えるための電圧である。制御部20は、液晶化合物11BLの配向状態を変えて、透明状態と不透明状態とのうちの一方から他方に調光シート10の状態を切り替える。不透明状態の調光シート10は、曇り値であるヘイズが透明状態よりも高くなる。
【0049】
駆動電圧の印加が解除されているとき、液晶化合物11BLの長軸方向は、無秩序になる。これにより、調光シート10は、可視光全域にわたり調光層11での散乱を生じ、不透明状態となる。駆動電圧が印加されると、液晶化合物11BLは、電界による配向規制力を受ける。このとき、液晶化合物11BLの長軸方向は、電界方向に沿う配向状態となる。これにより、調光シート10の全光線透過率は、不透明状態よりも高くなる。駆動電圧の印加が再び解除されると、液晶化合物11BLは、電界による配向規制力が解除されて長軸方向が無秩序になる。これにより、調光シート10は、可視光全域にわたり調光層11での散乱を生じ、再び不透明状態となる。
【0050】
[調光シートの製造方法]
調光シート10の製造方法は、第1透明電極層12Aを備えた第1透明支持層13Aからなるシートと、第2透明電極層12Bを備えた第2透明支持層13Bからなるシートとを準備する。第1透明電極層12A及び第2透明電極層12Bは、スパッタリング、真空蒸着、コーティング等の公知の薄膜形成方法によって形成される。
【0051】
次に、感光性組成物を調製する。感光性組成物は、上記の条件1または条件2を満たすモノマーである光重合性化合物と、液晶組成物11Bと、重合開始剤と、スペーサSPと、その他の添加剤とを混合及び撹拌して得られる。
【0052】
そして、一対のシートの少なくとも一方に感光性組成物を塗布する工程を行う。塗布方法は、例えば、インクジェット法、グラビアコーティング法、スピンコーティング法、スリットコーティング法、バーコーティング法、フレキソコーティング法、ダイコーティング法、ディップコーティング法、ロールコーティング法等の公知の手段である。その後、感光性組成物が塗布された層を内側にして、一対のシートを貼り合わせる。最後に、感光性組成物が塗布された層を挟むシートの積層体に、紫外線等の重合性組成物の重合反応を進行させる特定波長の光線を照射する工程を行う。これにより調光層11が形成される。
【0053】
[実施形態の効果]
本実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)光重合性化合物として、上記の条件1または条件2の何れかを満たすモノマーを用いることで、当該モノマーが相対的に極性の低い原子団によって構成されることから、調光層11を形成する際のスペーサSPの凝集を抑制できる。
【0054】
(2)有機高分子層11Aを構成するポリマーのガラス転移温度Tgaveを323K以上とすることで、調光層11の過度な軟化が抑制されて調光層11の機械的強度を高めることができる。これにより、調光シート10において、調光層11内での剥離を抑制できる。
【0055】
(3)有機高分子層11Aを構成するポリマーのガラス転移温度Tgaveを363K以下とすることで、調光層11の過度な硬化が抑制されることにより、調光層11と透明電極層12A,12Bとの密着性を高めることができる。これにより、調光シート10において、調光層11と透明電極層12A,12Bとの層間での剥離を抑制できる。
【0056】
(4)光重合性化合物として、上記の条件3を満たすモノマーを用いることで、モノマーの状態ではスペーサSPの凝集を抑制しつつ、有機高分子層11Aの状態では調光層11と透明電極層12A,12Bとの間の密着性をより高めることができる。
【0057】
[実施例]
図3~
図7を参照して実施例、比較例について説明する。なお、以下の実施例は、上記実施形態の効果を説明するための一例であって、本発明を限定するものではない。また、実施例及び比較例では、以下に記載の第1モノマーから第14モノマーのうち、複数のモノマーを光重合性化合物として用いた。
【0058】
[第1モノマー]
・モノマー名 :イソボロニルアクリレート(新中村化学工業株式会社製)
・官能基 :炭化水素基のみ
・ガラス転移温度 :370.15K
・適合する条件 :条件1
・分子骨格 :式(3)
【0059】
【0060】
[第2モノマー]
・モノマー名 :アクリル酸2-エチルヘキシル(三菱ケミカル株式会社製)
・官能基 :炭化水素基のみ
・ガラス転移温度 :203.15K
・適合する条件 :条件1
・分子骨格 :式(4)
【0061】
【0062】
[第3モノマー]
・モノマー名 :トリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学工業株式会社製)
・官能基 :炭化水素基のみ
・ガラス転移温度 :335.15K
・適合する条件 :条件1
・分子骨格 :式(5)
【0063】
【0064】
[第4モノマー]
・モノマー名 :ライトアクリレートMTG-A(共栄社化学株式会社製、ライトアクリレートは登録商標)
・官能基 :エーテル基
・ガラス転移温度 :223.15K
・適合する条件 :条件1
・分子骨格 :式(6)
【0065】
【0066】
[第5モノマー]
・モノマー名 :ライトアクリレート3EG-A(共栄社化学株式会社製、ライトアクリレートは登録商標)
・官能基 :エーテル基
・ガラス転移温度 :323.15K
・適合する条件 :条件1
・分子骨格 :式(7)
【0067】
【0068】
[第6モノマー]
・モノマー名 :ライトアクリレート9EG-A(共栄社化学株式会社製、ライトアクリレートは登録商標)
・官能基 :エーテル基
・ガラス転移温度 :276.15K
・適合する条件 :条件1、条件3
・分子骨格 :式(8)
【0069】
【0070】
[第7モノマー]
・モノマー名 :ライトアクリレート 14EG-A(共栄社化学株式会社製、ライトアクリレートは登録商標)
・官能基 :エーテル基
・ガラス転移温度 :231.15K
・適合する条件 :条件1、条件3
・分子骨格 :式(9)
【0071】
【0072】
[第8モノマー]
・モノマー名 :N,N-ジエチルアクリルアミド(東京化成工業株式会社製)
・官能基 :アミド基
・ガラス転移温度 :354.15K
・適合する条件 :条件1
・分子骨格 :式(10)
【0073】
【0074】
[第9モノマー]
・モノマー名 :メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(東京化成工業株式会社製)
・官能基 :ヒドロキシ基
・ガラス転移温度 :328.15K
・適合する条件 :条件2
・分子骨格 :式(11)
【0075】
【0076】
[第10モノマー]
・モノマー名 :NKエステル-701(新中村化学工業株式会社製)
・官能基 :ヒドロキシ基
・ガラス転移温度 :280.00K
・適合する条件 :なし
・分子骨格 :式(12)
【0077】
【0078】
[第11モノマー]
・モノマー名 :エポキシエステル70PA(共栄社化学株式会社製)
・官能基 :ヒドロキシ基
・ガラス転移温度 :320.00K
・適合する条件 :なし
・分子骨格 :式(13)
【0079】
【0080】
[第12モノマー]
・モノマー名 :エポキシエステル80MFA(共栄社化学株式会社製)
・官能基 :ヒドロキシ基
・ガラス転移温度 :360.00K
・適合する条件 :なし
・分子骨格 :式(14)
【0081】
【0082】
[第13モノマー]
・モノマー名 :アクリル酸カルボキシエチル(シグマアルドリッチジャパン合同会社製)
・官能基 :カルボキシ基
・ガラス転移温度 :370.00K
・適合する条件 :なし
・分子骨格 :式(15)
【0083】
【0084】
[第14モノマー]
・モノマー名 :ライトエステルP-1M(共栄社化学株式会社製)
・官能基 :リン酸基
・ガラス転移温度 :360.00K
・適合する条件 :なし
・分子骨格 :式(16)
【0085】
【0086】
[実施例1]
図3に示すように、まず、調光層11を形成するための感光性組成物を調製した。感光性組成物は、感光性組成物が含む全固形分量に対して、42.3質量%の第1モノマーと、4.7質量%の第4モノマーと、50質量%の液晶化合物11BLと、2質量%の重合開始剤と、1質量%のスペーサSPとを含むように構成された。液晶化合物11BLは、MLC-6609(メルク社製)を用いた。重合開始剤は、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパノン(IGM Resins社製)を用いた。スペーサSPは、ミクロパールSP-214(積水化学工業株式会社製、ミクロパールは登録商標)を用いた。
【0087】
酸化インジウムスズ(ITO)からなる第1透明電極層12Aと、ポリエチレンテレフタレートからなる第1透明支持層13Aとを含む第1のシートを準備した。同様に、酸化インジウムスズからなる第2透明電極層12Bと、ポリエチレンテレフタレートからなる第2透明支持層13Bとを含む第2のシートを準備した。第1のシートの第1透明電極層12Aが露出した面に調光層11を形成するための感光性組成物を塗布した。そして、第2のシートの第2透明電極層12Bが露出した面が感光性組成物と接するように、一対のシートが感光性組成物を挟み込んだ状態で、感光性組成物に紫外線を照射した。これにより、光重合性化合物を重合させて感光性組成物を硬化させた。以上の手順により、実施例1の調光シート10を得た。実施例1の調光層11が含むポリマーのガラス転移温度Tgaveは、347.3Kであった。
【0088】
[実施例2]
感光性組成物の成分が異なる点を除き、実施例1と同様に実施例2の調光シート10を得た。感光性組成物は、40.0質量%の第1モノマーと、7.0質量%の第5モノマーと、50質量%の液晶化合物11BLと、2質量%の重合開始剤と、1質量%のスペーサSPとを含むように構成された。調光層11が含むポリマーのガラス転移温度Tgaveは、362.7Kであった。
【0089】
[実施例3]
感光性組成物の成分が異なる点を除き、実施例1と同様に実施例3の調光シート10を得た。感光性組成物は、37.6質量%の第1モノマーと、9.4質量%の第5モノマーと、50質量%の液晶化合物11BLと、2質量%の重合開始剤と、1質量%のスペーサSPとを含むように構成された。調光層11が含むポリマーのガラス転移温度Tgaveは、359.7Kであった。
【0090】
[実施例4]
感光性組成物の成分が異なる点を除き、実施例1と同様に実施例4の調光シート10を得た。感光性組成物は、28.2質量%の第1モノマーと、18.8質量%の第5モノマーと、50質量%の液晶化合物11BLと、2質量%の重合開始剤と、1質量%のスペーサSPとを含むように構成された。調光層11が含むポリマーのガラス転移温度Tgaveは、349.8Kであった。
【0091】
[実施例5]
感光性組成物の成分が異なる点を除き、実施例1と同様に実施例5の調光シート10を得た。感光性組成物は、44.2質量%の第1モノマーと、2.8質量%の第6モノマーと、50質量%の液晶化合物11BLと、2質量%の重合開始剤と、1質量%のスペーサSPとを含むように構成された。調光層11が含むポリマーのガラス転移温度Tgaveは、362.7Kであった。
【0092】
[実施例6]
感光性組成物の成分が異なる点を除き、実施例1と同様に実施例6の調光シート10を得た。感光性組成物は、51.3質量%の第1モノマーと、5.7質量%の第6モノマーと、40質量%の液晶化合物11BLと、2質量%の重合開始剤と、1質量%のスペーサSPとを含むように構成された。調光層11が含むポリマーのガラス転移温度Tgaveは、358.0Kであった。
【0093】
[実施例7]
感光性組成物の成分が異なる点を除き、実施例1と同様に実施例7の調光シート10を得た。感光性組成物は、42.3質量%の第1モノマーと、4.7質量%の第6モノマーと、50質量%の液晶化合物11BLと、2質量%の重合開始剤と、1質量%のスペーサSPとを含むように構成された。調光層11が含むポリマーのガラス転移温度Tgaveは、358.0Kであった。
【0094】
[実施例8]
図4に示すように、感光性組成物の成分が異なる点を除き、実施例1と同様に実施例8の調光シート10を得た。感光性組成物は、33.3質量%の第1モノマーと、3.7質量%の第6モノマーと、60質量%の液晶化合物11BLと、2質量%の重合開始剤と、1質量%のスペーサSPとを含むように構成された。調光層11が含むポリマーのガラス転移温度Tg
aveは、358.0Kであった。
【0095】
[実施例9]
感光性組成物の成分が異なる点を除き、実施例1と同様に実施例9の調光シート10を得た。感光性組成物は、37.6質量%の第1モノマーと、9.4質量%の第6モノマーと、50質量%の液晶化合物11BLと、2質量%の重合開始剤と、1質量%のスペーサSPとを含むように構成された。調光層11が含むポリマーのガラス転移温度Tgaveは、346.6Kであった。
【0096】
[実施例10]
感光性組成物の成分が異なる点を除き、実施例1と同様に実施例10の調光シート10を得た。感光性組成物は、44.2質量%の第1モノマーと、2.8質量%の第7モノマーと、50質量%の液晶化合物11BLと、2質量%の重合開始剤と、1質量%のスペーサSPとを含むように構成された。調光層11が含むポリマーのガラス転移温度Tgaveは、357.3Kであった。
【0097】
[実施例11]
感光性組成物の成分が異なる点を除き、実施例1と同様に実施例11の調光シート10を得た。感光性組成物は、51.3質量%の第1モノマーと、5.7質量%の第7モノマーと、40質量%の液晶化合物11BLと、2質量%の重合開始剤と、1質量%のスペーサSPとを含むように構成された。調光層11が含むポリマーのガラス転移温度Tgaveは、349.2Kであった。
【0098】
[実施例12]
感光性組成物の成分が異なる点を除き、実施例1と同様に実施例12の調光シート10を得た。感光性組成物は、42.3質量%の第1モノマーと、4.7質量%の第7モノマーと、50質量%の液晶化合物11BLと、2質量%の重合開始剤と、1質量%のスペーサSPとを含むように構成された。調光層11が含むポリマーのガラス転移温度Tgaveは、349.2Kであった。
【0099】
[実施例13]
感光性組成物の成分が異なる点を除き、実施例1と同様に実施例13の調光シート10を得た。感光性組成物は、33.3質量%の第1モノマーと、3.7質量%の第7モノマーと、60質量%の液晶化合物11BLと、2質量%の重合開始剤と、1質量%のスペーサSPとを含むように構成された。調光層11が含むポリマーのガラス転移温度Tgaveは、349.2Kであった。
【0100】
[実施例14]
感光性組成物の成分が異なる点を除き、実施例1と同様に実施例14の調光シート10を得た。感光性組成物は、37.6質量%の第1モノマーと、9.4質量%の第7モノマーと、50質量%の液晶化合物11BLと、2質量%の重合開始剤と、1質量%のスペーサSPとを含むように構成された。調光層11が含むポリマーのガラス転移温度Tgaveは、330.4Kであった。
【0101】
[実施例15]
図5に示すように、感光性組成物の成分が異なる点を除き、実施例1と同様に実施例15の調光シート10を得た。感光性組成物は、23.5質量%の第1モノマーと、23.5質量%の第8モノマーと、50質量%の液晶化合物11BLと、2質量%の重合開始剤と、1質量%のスペーサSPとを含むように構成された。調光層11が含むポリマーのガラス転移温度Tg
aveは、362.0Kであった。
【0102】
[実施例16]
感光性組成物の成分が異なる点を除き、実施例1と同様に実施例16の調光シート10を得た。感光性組成物は、37.6質量%の第1モノマーと、9.4質量%の第9モノマーと、50質量%の液晶化合物11BLと、2質量%の重合開始剤と、1質量%のスペーサSPとを含むように構成された。調光層11が含むポリマーのガラス転移温度Tgaveは、360.9Kであった。
【0103】
[実施例17]
感光性組成物の成分が異なる点を除き、実施例1と同様に実施例17の調光シート10を得た。感光性組成物は、26.8質量%の第1モノマーと、2.8質量%の第2モノマーと、14.6質量%の第3モノマーと、2.8質量%の第4モノマーと、50質量%の液晶化合物11BLと、2質量%の重合開始剤と、1質量%のスペーサSPとを含むように構成された。調光層11が含むポリマーのガラス転移温度Tgaveは、330.1Kであった。
【0104】
[比較例1]
感光性組成物の成分が異なる点を除き、実施例1と同様に比較例1の調光シート10を得た。感光性組成物は、25.4質量%の第1モノマーと、7.0質量%の第2モノマーと、6.1質量%の第3モノマーと、8.5質量%の第4モノマーと、50質量%の液晶化合物11BLと、2質量%の重合開始剤と、1質量%のスペーサSPとを含むように構成された。調光層11が含むポリマーのガラス転移温度Tgaveは、294.8Kであった。
【0105】
[比較例2]
感光性組成物の成分が異なる点を除き、実施例1と同様に比較例2の調光シート10を得た。感光性組成物は、43.7質量%の第1モノマーと、0.3質量%の第2モノマーと、2.8質量%の第3モノマーと、0.2質量%の第4モノマーと、50質量%の液晶化合物11BLと、2質量%の重合開始剤と、1質量%のスペーサSPとを含むように構成された。調光層11が含むポリマーのガラス転移温度Tgaveは、365.2Kであった。
【0106】
[比較例3]
感光性組成物の成分が異なる点を除き、実施例1と同様に比較例3の調光シート10を得た。感光性組成物は、45.8質量%の第1モノマーと、1.2質量%の第6モノマーと、50質量%の液晶化合物11BLと、2質量%の重合開始剤と、1質量%のスペーサSPとを含むように構成された。調光層11が含むポリマーのガラス転移温度Tgaveは、367.0Kであった。
【0107】
[比較例4]
感光性組成物の成分が異なる点を除き、実施例1と同様に比較例4の調光シート10を得た。感光性組成物は、25.9質量%の第1モノマーと、21.1質量%の第6モノマーと、50質量%の液晶化合物11BLと、2質量%の重合開始剤と、1質量%のスペーサSPとを含むように構成された。調光層11が含むポリマーのガラス転移温度Tgaveは、321.4Kであった。
【0108】
[比較例5]
図6に示すように、感光性組成物の成分が異なる点を除き、実施例1と同様に比較例5の調光シート10を得た。感光性組成物は、45.8質量%の第1モノマーと、1.2質量%の第7モノマーと、50質量%の液晶化合物11BLと、2質量%の重合開始剤と、1質量%のスペーサSPとを含むように構成された。調光層11が含むポリマーのガラス転移温度Tg
aveは、364.7Kであった。
【0109】
[比較例6]
図6に示すように、感光性組成物の成分が異なる点を除き、実施例1と同様に比較例6の調光シート10を得た。感光性組成物は、25.9質量%の第1モノマーと、21.1質量%の第7モノマーと、50質量%の液晶化合物11BLと、2質量%の重合開始剤と、1質量%のスペーサSPとを含むように構成された。調光層11が含むポリマーのガラス転移温度Tg
aveは、291.7Kであった。
【0110】
[比較例7]
感光性組成物の成分が異なる点を除き、実施例1と同様に比較例7の調光シート10を得た。感光性組成物は、42.3質量%の第1モノマーと、4.7質量%の第10モノマーと、50質量%の液晶化合物11BLと、2質量%の重合開始剤と、1質量%のスペーサSPとを含むように構成された。調光層11が含むポリマーのガラス転移温度Tgaveは、358.6Kであった。
【0111】
[比較例8]
感光性組成物の成分が異なる点を除き、実施例1と同様に比較例8の調光シート10を得た。感光性組成物は、44.7質量%の第1モノマーと、2.3質量%の第11モノマーと、50質量%の液晶化合物11BLと、2質量%の重合開始剤と、1質量%のスペーサSPとを含むように構成された。調光層11が含むポリマーのガラス転移温度Tgaveは、367.7Kであった。
【0112】
[比較例9]
感光性組成物の成分が異なる点を除き、実施例1と同様に比較例9の調光シート10を得た。感光性組成物は、44.7質量%の第1モノマーと、2.3質量%の第12モノマーと、50質量%の液晶化合物11BLと、2質量%の重合開始剤と、1質量%のスペーサSPとを含むように構成された。調光層11が含むポリマーのガラス転移温度Tgaveは、370.0Kであった。
【0113】
[比較例10]
感光性組成物の成分が異なる点を除き、実施例1と同様に比較例10の調光シート10を得た。感光性組成物は、44.7質量%の第1モノマーと、2.3質量%の第13モノマーと、50質量%の液晶化合物11BLと、2質量%の重合開始剤と、1質量%のスペーサSPとを含むように構成された。調光層11が含むポリマーのガラス転移温度Tgaveは、370.5Kであった。
【0114】
[比較例11]
感光性組成物の成分が異なる点を除き、実施例1と同様に比較例11の調光シート10を得た。感光性組成物は、44.7質量%の第1モノマーと、2.3質量%の第14モノマーと、50質量%の液晶化合物11BLと、2質量%の重合開始剤と、1質量%のスペーサSPとを含むように構成された。調光層11が含むポリマーのガラス転移温度Tgaveは、370.0Kであった。
【0115】
[評価1:スペーサの分散性]
各実施例及び各比較例において用いた感光性組成物について、スペーサSPの沈降の有無に基づいてスペーサSPの分散性を評価した。感光性組成物のなかでスペーサSPが安定して分散してスペーサSPの沈降が確認されないものを「〇」、感光性組成物のなかでスペーサSPの沈降が確認されたものを「×」とした。
【0116】
図3~
図6に示すように、実施例1~17、及び比較例1~6のように、光重合性化合物として用いたモノマーが、条件1または条件2の何れかを満たす場合には、スペーサSPの沈降が確認されなかった。一方、比較例7~9のように、ヒドロキシ基に加えて、2つのメタクリロイル基、または2つのアクリロイル基を含むモノマーを用いた場合には、感光性組成物のなかでスペーサSPの沈降が確認された。そして、比較例10,11のように、カルボキシ基またはリン酸基を含むモノマーを用いた場合には、感光性組成物のなかでスペーサSPの沈降が確認された。つまり、光重合性化合物として用いたモノマーが、条件1または条件2の何れにも適合しない場合には、感光性組成物のなかでスペーサSPの沈降が確認された。したがって、光重合性化合物として、極性が相対的に小さいモノマー用いることで、スペーサSPの沈降を抑制できることが確認された。
【0117】
[評価2:剥離試験]
各実施例及び各比較例の調光シート10を25mm幅に切断した後、調光層11を挟む一対のシートのうち第1のシートを180°の角度で剥離した際の剥離強度を測定した。評価基準は、剥離強度が0.1N/25mm以上のものを合格とし、剥離強度が0.1N/25mm未満のものを不合格とした。
【0118】
さらに、剥離試験後の調光層11の粘弾性を目視にて評価した。調光層11が適度な粘弾性のものを「〇」、調光層11がガラス状となって脆化していたもの、もしくは、調光層11がゴム状となって軟化していたものを「×」とした。なお、剥離試験は、評価1において、スペーサSPの沈降が確認されない実施例1~17、及び比較例1~6の調光シート10に対して行った。
【0119】
実施例1~17のように、光重合性化合物が重合したポリマーのガラス転移温度Tgaveが323K以上363K以下である場合は、何れも剥離強度が0.1N/25mm以上であった。特に、条件3を満たす実施例5~14では、0.5~2.3N/25mmの高い剥離強度を示した。これに対して、比較例1,4,6のようにガラス転移温度Tgaveが323K未満の場合、もしくは、比較例2,3,5のようにガラス転移温度Tgaveが363K超である場合は、何れも剥離強度が0.1N/25mm未満であった。
【0120】
図7の表中(a)に示すように、実施例1~17の調光シート10が含む調光層11は、過剰な軟化、及び、過剰な脆化が生じていない適度な粘弾性(評価結果:〇)を有していた。実施例1~17の剥離試験における破壊モードは、調光層11と第1透明電極層12Aとの界面での剥離であった。実施例1~17の剥離試験後における調光層11は、外観上で大きな損傷が確認されなかった。
【0121】
図7の表中(b)に示すように、ガラス転移温度Tg
aveが323K未満である比較例1,4,6の調光シート10が含む調光層11は、過剰に軟化してゴム状となっていた(評価結果:×)。比較例1,4,6の剥離試験における破壊モードは、調光層11と第1透明電極層12Aとの界面での剥離に加えて、調光層11の一部で層内剥離が生じて第1透明電極層12Aに付着して引き伸ばされたような破壊モードが確認された。
【0122】
図7の表中(c)に示すように、ガラス転移温度Tg
aveが363K超である比較例2,3,5の調光シート10が含む調光層11は、過剰に硬化及び脆化してガラス状となっていた(評価結果:×)。比較例2,3,5の剥離試験における破壊モードは、調光層11と第1透明電極層12Aとの界面での剥離であり、これに伴って滑らかに剥離せず断続的に剥離が進行するジッピングが生じた。比較例2,3,5の剥離試験後における調光層11は、ジッピングに伴う剥離痕Zが確認された。
【0123】
以上より、光重合性化合物が重合したポリマーのガラス転移温度Tgaveを323K以上363K以下とすることで、調光層11の層内での剥離、及び、調光層11と第1透明電極層12Aとの層間での剥離を抑制できることが確認された。
【0124】
[評価3:光学特性]
各実施例及び各比較例の調光シート10において、不透明状態及び透明状態のそれぞれの状態でのヘイズを測定した。測定方法は、JIS K 7136:2000に準拠した方法を用いた。なお、透明状態におけるヘイズは、一対の透明電極層間に電圧を印加したときにヘイズの値が飽和したときの値とした。
【0125】
図3~
図6に示すように、実施例1~17、及び比較例1~6の調光シート10は、何れも不透明状態におけるヘイズが20%以下、かつ透明状態におけるヘイズが80%以上であった。スペーサSPの沈降が確認された比較例7~11の調光シート10では、ヘイズの測定は行わなかった。
【0126】
[変更例]
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。
・光重合性化合物は、少なくとも上記の条件1または条件2の何れかを満たすものであればよく、条件3を満たすものでなくてもよい。
【0127】
・スペーサSPは、感光性組成物に添加せず、他の手段によって調光層11に含まれるようにしてもよい。例えば、透明電極層と透明支持層とを備えたシートに、スペーサSPを分散させた分散媒を塗布した後、加熱して溶媒を除去することでスペーサSPを散布してもよい。その後、スペーサSPを含まない感光性組成物を塗布することで、スペーサSPを含んだ調光層11が形成される。
【符号の説明】
【0128】
SP…スペーサ
10…調光シート
11…調光層
11A…有機高分子層
11B…液晶組成物
11BL…液晶化合物
11D…空隙
12A…第1透明電極層
12B…第2透明電極層
13A…第1透明支持層
13B…第2透明支持層
20…駆動部
21A…第1配線
21B…第2配線
22A…第1電極
22B…第2電極
【要約】
【課題】スペーサの凝集を抑制しつつ、調光層と透明電極層との剥離を抑制可能とした調光シート、感光性組成物、及び調光シートの製造方法を提供する。
【解決手段】有機高分子層11A、液晶組成物11B、及びスペーサSPを備えた調光層11と、透明電極層12A,12Bと、透明支持層13A,13Bと、を備える調光シート10であって、有機高分子層11Aは、光重合性化合物を重合させることで得られるポリマーであって、光重合性化合物は、アクリロイル基及びメタクリロイル基の何れか一方または両方を含み、かつ、炭化水素基、エーテル基、エステル基、アミド基のからなる群から選択される少なくとも1種を含むモノマーと、アクリロイル基及びメタクリロイル基の何れかを1つのみ含み、かつ、ヒドロキシ基を含むモノマーと、から選択される少なくとも1種であり、ポリマーのガラス転移温度が323K以上363K以下である。
【選択図】
図2