(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】繊維処理剤組成物
(51)【国際特許分類】
D06M 13/463 20060101AFI20221025BHJP
D06M 15/643 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
D06M13/463
D06M15/643
(21)【出願番号】P 2017131158
(22)【出願日】2017-07-04
【審査請求日】2020-06-29
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】714008950
【氏名又は名称】白元アース株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002778
【氏名又は名称】弁理士法人IPシーガル
(72)【発明者】
【氏名】中村 圭介
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-151775(JP,A)
【文献】特開2005-154645(JP,A)
【文献】特開平01-292184(JP,A)
【文献】特開2006-342459(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/00-15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーンオイルと、カチオン系界面活性剤とを含有し、
前記カチオン系界面活性剤は、
デシルトリメチルアンモニウムクロリド、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロリド及びステアリルトリメチルアンモニウムクロリドから選択され、
前記シリコーンオイルは、フェニル変性シリコーンオイル及びアミノ変性シリコーンオイルから選択され、
前記シリコーンオイル及びカチオン系界面活性剤の配合比は、質量比で、シリコーンオイル:カチオン系界面活性剤=1:1~2:1であること
を特徴とする繊維処理剤組成物。
【請求項2】
請求項1
に記載の繊維処理剤組成物を含有すること
を特徴とする毛羽立ち及び毛玉の発生抑制剤。
【請求項3】
請求項1
に記載の繊維処理剤組成物を含有すること
を特徴とする繊維又は繊維製品用の帯電防止剤。
【請求項4】
請求項1
に記載の繊維処理剤組成物で処理した繊維を使用して製造され、または
請求項1
に記載の繊維処理剤組成物で処理されたこと
を特徴とする繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、繊維処理剤組成物に関するものである。
より詳しくは、毛羽立ちや毛玉の発生を防止又は効果的に抑制するため、各種繊維及び繊維製品に適用される繊維処理剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
衣類、特にニットやカーディガンなどの編物においては、着用中の摩擦などにより、生地表面の毛羽立ち、ひいては毛玉(ピリングとも云う)が発生することがある。
このような毛羽立ちや毛玉の発生は、外観上好ましくないばかりか、毛玉の抜け落ちによって生地表面の損傷が引き起こされるおそれがあるので、衣類の寿命を縮める原因となっている。
【0003】
毛羽立ちや毛玉の発生を防ぐための具体的な方法として、一般的には、シリカゲルや樹脂をコーティングした糸を使用して繊維製品を製造する方法など、繊維製品の製造段階で行うものが知られている。
【0004】
さらに、特許第5670815号公報(特許文献1)においては、しなやかな風合いを損なうことなく、衣料(繊維製品)の毛羽立ち及び毛玉の発生を抑制することができる衣料用処理剤組成物が提案されている。
【0005】
この衣料用処理剤組成物は、
(a)成分:重量平均分子量が10万~1000万のポリビニルピロリドン
及び
(b)成分:末端ヒドロキシル基の数が6~64であり、分子内にエステル結合を有するポリエステル型樹枝状ポリマー
を含有するもので、
(a)成分と(b)成分の質量比が(a)/(b)=10~1
のものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、シリカゲルや樹脂をコーティングした糸を使用して繊維製品を製造する方法では、この繊維製品を長期間に亘って繰り返して着用した場合、糸にコーティングされたシリカゲルや樹脂が経時的に脱落して失われてしまい、毛羽立ち及び毛玉の発生防止効果も経時的に劣化してしまうため、十分な毛羽立ち及び毛玉の発生防止効果が得られないという問題があった。
さらに、全ての衣類が、シリカゲルや樹脂をコーティングした糸を使用して製造されているわけではないため、消費者のお気に入りの衣類と必ずしも一致しないという問題もあった。
【0008】
前記特許文献1に開示されている衣料用処理剤組成物では、処理した衣料に対して付与した毛羽立ち及び毛玉の発生の抑制効果を長期間に亘って維持するという点においては必ずしも十分ではない場合があった。
【0009】
この発明はかかる現状に鑑み、衣類などの繊維製品の着用中の摩擦によって発生する毛羽立ち及び毛玉と静電気による帯電を防止又は効果的に抑制する作用効果を有し、処理した繊維製品を長期に亘って繰り返し着用した場合であっても、その作用効果が持続可能な繊維処理剤組成物を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、この発明の請求項1に記載の発明は、
シリコーンオイルと、カチオン系界面活性剤とを含有し、
前記カチオン系界面活性剤は、デシルトリメチルアンモニウムクロリド、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロリド及びステアリルトリメチルアンモニウムクロリドから選択され、
前記シリコーンオイルは、フェニル変性シリコーンオイル及びアミノ変性シリコーンオイルから選択され、
前記シリコーンオイル及びカチオン系界面活性剤の配合比は、質量比で、シリコーンオイル:カチオン系界面活性剤=1:1~2:1であること
を特徴とする繊維処理剤組成物である。
【0011】
この発明の請求項2に記載の発明は、
請求項1に記載の繊維処理剤組成物を含有すること
を特徴とする毛羽立ち及び毛玉の発生抑制剤である。
【0012】
この発明の請求項3に記載の発明は、
請求項1に記載の繊維処理剤組成物を含有すること
を特徴とする繊維又は繊維製品用の帯電防止剤である。
【0013】
この発明の請求項4に記載の発明は、
請求項1に記載の繊維処理剤組成物で処理した繊維を使用して製造され、または
請求項1に記載の繊維処理剤組成物で処理されたこと
を特徴とする繊維製品である。
【発明の効果】
【0014】
この発明の繊維処理剤組成物は、シリコーンオイルと、カチオン系界面活性剤とを含有するものである。
前記繊維処理剤組成物において、前記カチオン系界面活性剤は、その疎水基によって、前記シリコーンオイル(有効成分としてのシリコーン)を保持し、その状態で繊維または繊維製品の表面に電気的に強く結合するので、繊維製品や、その原料となる繊維に適用した場合には、着用時の摩擦によるシリコーンオイルの脱落が防止されるか又は効果的に抑制され、さらに、処理した繊維製品を長期に亘って繰り返し着用した場合であっても、その毛羽立ち及び毛玉の発生抑制効果と帯電防止効果が長期に亘って発揮される。
なお、この発明においては、前記シリコーンオイルは、フェニル変性シリコーンオイル及びアミノ変性シリコーンオイルから選択される。
【0015】
前記作用効果は、前記カチオン系界面活性剤が、デシルトリメチルアンモニウムクロリド、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロリド及びステアリルトリメチルアンモニウムクロリドから選択される場合に、特に優れている。
なお、この発明においては、前記カチオン系界面活性剤は、デシルトリメチルアンモニウムクロリド、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロリド及びステアリルトリメチルアンモニウムクロリドから選択される。
【0016】
前記繊維処理剤組成物においては、前記シリコーンオイル及びカチオン系界面活性剤の配合比を、質量比で、
シリコーンオイル:カチオン系抗菌剤=1:2~66:1
とすることが好ましい。
なお、この発明においては、前記シリコーンオイル及びカチオン系界面活性剤の配合比については、質量比で、シリコーンオイル:カチオン系界面活性剤=1:1~2:1が選択される。
【0017】
前記繊維処理剤組成物は、既製衣類を含む各種繊維製品やその原料となるウールやアクリルなどの各種繊維に適用することによって、毛羽立ち及び毛玉の発生と静電気による帯電の発生を防止又は効果的に抑制し、さらにその作用効果を長期間に亘って持続させることができるもので、例えば、繊維製品やその原料となる繊維への噴霧や、浸漬、塗布などによって、簡便にかつ着用の都度繰り返して使用することができるものである。
したがって、消費者は、着用前の繊維製品に対して、前記繊維処理剤組成物を適用することによって、繊維製品のケアを手軽に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明にかかる繊維処理剤組成物を実施するための形態を、詳細に説明するが、この発明は、これらに限定されるものではない。
【0019】
この発明の繊維処理剤組成物は、シリコーンオイルと、カチオン系界面活性剤とを含有するものである。
【0020】
前記シリコーンオイルは、各種繊維および各種繊維製品に処理されたときに、これらに対して、毛羽立ちおよび毛玉の発生を抑制する作用効果と、帯電を防止する作用効果を付与するものである。
【0021】
前記シリコーンオイルとしては、ポリオルガノシロキサン構造を持つもので、かつ各種繊維に対する処理に使用可能なものであれば、特に限定されることなく使用することができる。
したがって、前記シリコーンオイルは、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイルなどの未変性シリコーンオイルであってもよいし、ポリオルガノシロキサン構造中の側鎖の一部および/またはポリオルガノシロキサン構造の片末端部分、もしくは、ポリオルガノシロキサン構造の両末端部分に各種有機基が導入された変性シリコーンオイルであってもよい。
【0022】
前記変性シリコーンオイルとしては、例えば、
アルキル変性シリコーンオイル、アルキル・アラルキル変性シリコーンオイル、フェニル変性シリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイル、高級アルコキシ変性シリコーンオイル、高級脂肪酸変性シリコーンオイル、メチルスチリル変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、カルボキシル変性シリコーンオイル、アクリル変性シリコーンオイル、メタクリル変性シリコーンオイル、メルカプト変性シリコーンオイル、フェノール変性シリコーンオイル、カルビノール変性シリコーンオイルなど
を挙げることができる。
【0023】
これらの中で、フェニル変性シリコーンオイルおよびアミノ変性シリコーンオイルが好ましい。
前記シリコーンオイルが、フェニル変性シリコーンオイルおよびアミノ変性シリコーンオイルから選択される場合には、毛羽立ちおよび毛玉の発生が著しく抑制されると共に、帯電防止効果が著しく向上する。
【0024】
前記シリコーンオイルは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて、使用することができる。
【0025】
前記シリコーンオイルの含有量は、組成物全体に対して好ましくは0.1~5質量%、より好ましくは0.1~3質量%である。
含有量が0.1質量%未満の場合には、十分な毛羽立ちおよび毛玉の発生抑制効果と帯電防止効果が得られない傾向にある。
含有量が5質量%よりも多い場合には、その含有量に見合う効果が認められず不経済となる傾向にある。
【0026】
前記カチオン系界面活性剤は、有効成分であるシリコーンを保持した状態で、マイナスに帯電している衣類などの繊維製品やその原料となる繊維の表面に電気的に強く結合することができるもので、これによって、繊維製品や繊維からのシリコーンオイルの脱落を長期間に亘って抑制することができるものである。
したがって、この発明にかかる繊維処理剤組成物においては、前記シリコーンオイルが有する毛羽立ち及び毛玉の発生抑制効果と帯電防止効果が長期に亘って持続する。
【0027】
前記カチオン系界面活性剤については、特段の制限はなく、有効成分であるシリコーンを保持するのに十分な疎水基を有するカチオン性のものを使用することができる。
好ましくは、分子内に第4級窒素を含有するものが選択される。
【0028】
前記カチオン系界面活性剤は、より好ましくは、下記一般式(I)で表される4級アンモニウム塩であり、さらに好ましくは、その疎水基が長い(親水基が少ない)ものである。
【0029】
【0030】
〔式中、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ独立して、ベンジル基又はアルキル基、アルケニル基若しくはヒドロキシアルキル基を示し、
X-は、陰イオンを示す。〕
【0031】
上記一般式(I)中、R1、R2、R3及びR4のうち少なくとも1つ、例えばR1は、好ましくは総炭素数8以上、より好ましくは10以上、さらに好ましくは10~28の、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アルカノイルアミノ基若しくはアルケノイルアミノ基で置換されていてもよいアルキル基又はアルケニル基であり、さらに好ましくはCH3(CH2)n-で表される基である。
式中、nは、1以上の整数であり、好ましくは7以上の整数、より好ましくは9以上の整数、さらに好ましくは13以上の整数である。
【0032】
また、残余、例えばR2、R3及びR4は、好ましくは、それぞれ独立して、アルキル基又はアルケニル基であり、より好ましくは全てが炭素数1~5のアルキル基、さらに好ましくは全てがメチル基である。
【0033】
上記一般式(I)中、陰イオンX-としては、
塩化物イオン、臭化物イオン、塩化物イオンなどのハロゲン化物イオン;メトサルフェートイオン、エトサルフェートイオン、メトフォスフェートイオン、エトフォスフェートイオン、メトカーボナートイオンなどの無機・有機陰イオンなど
を挙げることができる。
これらの中で、ハロゲン化物イオンが好ましく、塩化物イオンがより好ましい。
【0034】
上記一般式(I)で表される4級アンモニウム塩の好ましい具体例としては、
デシルトリメチルアンモニウム塩、テトラデシルトリメチルアンモニウム塩、セチルトリメチルアンモニウム塩、ステアリルトリメチルアンモニウム塩、ベヘニルトリメチルアンモニウム塩、セチロキシプロピルトリメチルアンモニウム塩、ステアロキシプロピルトリメチルアンモニウム塩など
を挙げることができる。
【0035】
これらの中で、デシルトリメチルアンモニウムクロリド、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロリドおよびステアリルトリメチルアンモニウムクロリドが好ましい。
前記カチオン系界面活性剤が、デシルトリメチルアンモニウムクロリド、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロリドおよびステアリルトリメチルアンモニウムクロリドから選択される場合には、繰り返し着用された場合であっても、毛羽立ちおよび毛玉の発生を抑制する作用効果と、帯電を防止する作用効果が経時的に劣化せずに維持された繊維および繊維製品が得られる。
【0036】
前記カチオン系界面活性剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて、使用することができる。
【0037】
前記カチオン系界面活性剤の含有量は、組成物全体に対して好ましくは0.03~5質量%、より好ましくは0.03~3質量%、さらに好ましくは0.1~3質量%である。
含有量が0.03質量%未満の場合には、十分な毛羽立ちおよび毛玉発生の抑制効果(作用)と、帯電防止効果が得られない傾向にある。
含有量が5質量%よりも多い場合には、その含有量に見合う効果が認められず不経済となる傾向にある。
なお、前記カチオン系界面活性剤として、上記一般式(I)で表される4級アンモニウム塩が選択され、式中、R1、R2、R3及びR4のうち少なくとも1つ、例えばR1が、CH3(CH2)n-で表される基で、nが7未満の整数である場合、またはR1が、CH3(CH2)n-で表される基であり、nが7以上の整数であり、残余のうち少なくとも1つが、アルキル基以外の基もしくはアルケニル基以外の基である場合、前記カチオン系界面活性剤の含有量は、組成物全体に対して好ましくは0.5~5質量%である。
【0038】
なお、この発明において、前記シリコーンオイルおよびカチオン系界面活性剤の配合比は、質量比で、好ましくはシリコーンオイル:カチオン系界面活性剤=1:2~66:1、より好ましくは1:1~2:1である。
【0039】
この発明の繊維処理剤組成物においては、前記シリコーンオイルおよび前記カチオン系界面活性剤を、適当な溶媒に溶解(希釈)して用いることができる。
【0040】
前記溶媒としては、水が最も好ましいが、水と相溶可能な溶媒を混合していてもよい。
前記相溶可能な溶媒としては、例えば、
エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコールなど
を挙げることができる。
【0041】
前記溶媒は、繊維処理剤組成物全体に対して、好ましくは90~99.8質量%、より好ましくは94~99.8質量%である。
含有量が前記範囲内であれば、前記シリコーンオイルおよび前記カチオン系界面活性剤が均一に溶解している組成物が得られる。
【0042】
この発明の繊維処理剤組成物には、必要に応じて、さらに、この発明の目的および効果(毛羽立ちおよび毛玉の発生の抑制効果ならびに帯電防止効果)を阻害しない範囲で、各種添加剤を任意に添加することができる。
かかる添加剤としては、例えば、
消臭剤、油剤、ゲル化剤、酵素(プロテアーゼ、リパーゼ、セルラーゼなど)、風合い向上剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、香料、色素、紫外線吸収剤などを適宜添加することができる。
【0043】
さらに、この発明の繊維処理剤組成物には、この発明の目的および効果を阻害しない範囲で、添加剤として、カチオン系界面活性剤以外の界面活性剤を添加することができる。
かかる界面活性剤としては、例えば、
ポリオキシエチレン(POE)硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン(POE・POP)ブロックポリマー、POE・POPアルキルエーテル、POEアルキルエーテル、POEアルキルフェニルエーテル、POE脂肪酸エステル、POE高級アルコールエーテル、POE・POP脂肪酸エステル、POEソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルなどの非イオン系界面活性剤;ラウリル硫酸ナトリウム、ミリスチル硫酸ナトリウム、POEアルキルエーテル硫酸塩、ラウロイルサルコシンナトリウム、ミリストイルサルコシンナトリウム、アルキルエーテルカルボン酸塩、アルキルリン酸塩、POEアルキルエーテルリン酸塩、N-アシルタウリン塩、POEアルキルエーテルリン酸またはリン酸塩、スルホン酸塩などのアニオン系界面活性剤;イミダゾリン系、カルボベタイン系、アミドベタイン系、スルホベタイン系、ヒドロキシスルホベタイン系、アミドスルホベタイン系などの両性界面活性剤
を挙げることができる。
【0044】
この発明の繊維処理剤組成物の調製方法については、特に限定されず、種々の方法で調製可能である。
各種成分の混合順序についても特に限定されないが、例えば、適当な溶媒に、前記シリコーンオイル、カチオン系界面活性剤および必要に応じて各種添加剤を添加・混合して、この発明の繊維処理剤組成物を調製することができる。
【0045】
前記繊維処理剤組成物については、その性状および必要に応じて配合される各種添加剤に応じて、任意の形態で使用することができ、その使用形態は特に限定されない。
したがって、液状、ゲル状、ジェル状、ミスト状、エアゾール状、エマルジョン状、サスペンション状などの形態で使用することができる。
【0046】
前記繊維処理剤組成物については、各種繊維および各種繊維製品に適用することができる。
【0047】
かかる繊維製品としては、特に限定はされないが、例えば、
セーターなどのニット類、靴下、タオル、スポーツウエア、Tシャツ、ポロシャツ、ブラウス、チノパン、スーツ、スラックス、スカート、肌着など
を挙げることができる。
【0048】
さらに、繊維(前記繊維製品の素材)についても、特に限定はされないが、例えば、
綿、ウール、麻などの天然繊維、ポリエステル、ナイロン、アクリルなどの合成繊維、アセテートなどの半合成繊維、レーヨン、テンセル、ポリノジックなどの再生繊維およびこれら各種繊維の混紡品、混織品、混編品など
を挙げることができる。
【0049】
かかる繊維処理剤組成物を、前記繊維または繊維製品に、噴霧、塗布、吸着、混合、分散、乳化、混練、担持、浸透あるいは含浸等によって適用することで、毛羽立ちおよび毛玉発生の抑制作用および帯電防止作用の両方を付与することができる。
すなわち、前記繊維処理剤組成物は、毛羽立ち及び毛玉の発生抑制剤、または繊維もしくは繊維製品用の帯電防止剤として使用可能なものである。
【0050】
なお、前記繊維処理剤組成物を適用する方法としては、噴霧や塗布、含浸が好ましいが、噴霧がより好ましく、各種トリガースプレイヤー等の空気圧を利用した噴霧方法が考えられる。
すなわち、噴霧手段を備えた容器(スプレー容器)に充填してなるスプレー式の繊維処理剤、特にスプレー式の毛羽立ちおよび毛玉の発生抑制剤や帯電防止剤として使用することが好適である。
したがって、既製衣類を対象とする場合であっても、消費者は、着用前に手軽に衣類のケアを行うことができる。
【0051】
なお、前記繊維処理剤組成物を適用する方法としては、前記繊維または繊維製品に前記繊維処理剤組成物を、直接塗布や噴霧、含浸等させる方法の他、衣類の洗濯の際のすすぎの段階において、すすぎ水に、前記繊維処理剤組成物を溶解させて処理する方法や、所定の容器に衣類と、前記繊維処理剤組成物を水等の溶媒に溶解させたものとを入れて、浸漬処理する方法等であってもよい。
【0052】
さらに、前記繊維処理剤組成物を、洗剤や柔軟剤、漂白剤、仕上げ剤などの洗濯用の製品に配合して、これらの製品と同様の処理方法によって、前記繊維または繊維製品に適用してもよい。
その際、前記繊維処理剤組成物の配合量は、洗濯用の製品の種類や、期待される作用の程度などに応じて選択すればよく、特に限定されないが、例えば、洗濯用の製品全量中に、10~80質量%である。
【0053】
なお、前記繊維処理剤組成物は、繊維または繊維製品に適用することによって、毛羽立ちおよび毛玉の発生と、繊維もしくは繊維製品における帯電を防止または効果的に抑制し、さらにその作用効果を長期間に亘って持続させるものである。
したがって、この発明によれば、前記繊維処理剤組成物を含む毛羽立ちおよび毛玉の発生抑制剤や帯電防止剤、前記繊維処理剤組成物を繊維もしくは繊維製品に適用することによる毛羽立ちおよび毛玉の発生の抑制方法、ならびに繊維もしくは繊維製品における帯電防止方法も提供することができる。
【実施例】
【0054】
以下に、実施例を挙げて、この発明を詳細に説明するが、この発明は、これらの実施例により制限されることはない。
【0055】
[実施例1および2ならびに比較例1~5]
下記表1に示した組成に従い、各成分を混合し、撹拌して、繊維処理剤組成物を得た。
【0056】
【表1】
*1 NIKKOL NET-SG-60C(ステアリルトリメチルアンモニウムク ロリド3.4%含有)(日光ケミカルズ株式会社製)
*2 BELSIL ADM8104E(ノニオンエマルションタイプ アミノ変性 シリコーンオイル)(旭化成ワッカーシリコーン株式会社製)
*3 BELSIL PF200(フェニル変性シリコーンオイル)(旭化成ワッ カーシリコーン株式会社製)
*4 BELSIL DMC6038(ポリエーテル変性シリコーンオイル)(旭化 成ワッカーシリコーン株式会社製)
【0057】
[実施例3]
上記実施例1において得られた繊維処理剤組成物を、トリガー式スプレー容器(噴霧量0.5g/1プッシュ)に充填してスプレー式の繊維処理剤を得た。
【0058】
[実施例4および比較例6~10]
実施例1において得られた繊維処理剤組成物に代えて、実施例2または比較例1~5のいずれかにおいて得られた繊維処理剤組成物を用いること以外は、実施例1と同様の方法により、スプレー式の繊維処理剤を製造した。
【0059】
[試験例1]毛玉(ピリング)発生抑制効果の評価
上記実施例3および4ならびに比較例6~10において得られたスプレー式の繊維処理剤について、JIS L 1076:2012の「織物及び編物のピリング試験方法」のA法(5時間)に即した下記測定方法に基づき、ピリングの発生の程度を判定することによって、毛玉発生抑制効果の評価を行った。
なお、繊維処理剤を適用しないものを、比較例11とした。
その結果を、表2に示す。
【0060】
<測定方法>
スプレー式の繊維処理剤から繊維処理剤組成物を、ウール生地(100mm×120mm)に対して、下記表2に示されている噴霧量になるよう噴霧・乾燥し、試験片を作製した。
得られた試験片を、室温で1週間保存した。
1週間保存後、試験片を、ウェール方向およびコース方向にそれぞれ2枚採取し、短辺方向に張力を与えないように自然の状態でピリング試験用ゴム管に巻き付けた。
ピリング試験用ゴム管に巻き付けた試験片を4個一組として、ICI形試験機の回転箱に入れ、毎分60回転±2回転の回転速度で、5時間操作した。
得られた試験片とJIS L 1076:2012のA法で定められたピリング判定標準写真との対比を行って、ウール生地のピリングの発生の程度を判定した。
【0061】
【0062】
<結 果>
実施例3および4において得られたスプレー式の繊維処理剤から、繊維処理剤組成物を噴霧した試験片(生地)では、いずれも、加工ないし処理から長期間経過した後であっても、ピリングの発生の程度が低かった。
これに対して、比較例6~10において得られたスプレー式の繊維処理剤から繊維処理剤組成物を噴霧した試験布では、いずれも、噴霧量に関わらず、多量のピリングの発生が認められた。
さらに、繊維処理剤組成物を噴霧しなかった比較例11のいずれの試験布においても、多量のピリングの発生が認められた。
したがって、この発明の繊維処理剤組成物によれば、処理した繊維や繊維製品において、その毛羽立ちおよび毛玉の発生を長期に亘って防止又は効果的に抑制することができることは、明らかである。
【0063】
[実施例5~7および比較例12]
下記表3に示した組成に従い、各成分を混合し、撹拌して、繊維処理剤組成物を得た。
得られた繊維処理剤組成物を、トリガー式スプレー容器(噴霧量0.5g/1プッシュ)に充填してスプレー式の繊維処理剤を得た。
【0064】
【表3】
*5 ビオサイド120(株式会社タイショーテクノス製)
*6 BELSIL PF200(フェニル変性シリコーンオイル)(旭化成ワッ カーシリコーン株式会社製)
【0065】
[実施例8~10]
塩化ベンザルコニウムに代えて、テトラメチルアンモニウムクロリド(東京化成工業株式会社製 試薬)を用いること以外は、実施例5~7と同様の方法により、スプレー式の繊維処理剤を製造した。
【0066】
[実施例11~14]
下記表4に示した組成に従い、各成分を混合し、撹拌して、繊維処理剤組成物を得た。
得られた繊維処理剤組成物を、トリガー式スプレー容器(噴霧量0.5g/1プッシュ)に充填してスプレー式の繊維処理剤を得た。
【0067】
【表4】
*7 東京化成工業株式会社製 試薬
*8 BELSIL PF200(フェニル変性シリコーンオイル)(旭化成ワッ カーシリコーン株式会社製)
【0068】
[実施例15~18]
n-オクチルトリメチルアンモニウムクロリドに代えて、デシルトリメチルアンモニウムクロリド(東京化成工業株式会社製 試薬)を用いること以外は、実施例11~14と同様の方法により、スプレー式の繊維処理剤を製造した。
【0069】
[実施例19~22]
n-オクチルトリメチルアンモニウムクロリドに代えて、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロリド(東京化成工業株式会社製 試薬)を用いること以外は、実施例11~14と同様の方法により、スプレー式の繊維処理剤を製造した。
【0070】
[実施例23~26]
n-オクチルトリメチルアンモニウムクロリドに代えて、ステアリルトリメチルアンモニウムクロリド(東京化成工業株式会社製 試薬)を用いること以外は、実施例11~14と同様の方法により、スプレー式の繊維処理剤を製造した。
【0071】
[試験例2]毛玉(ピリング)発生抑制効果の評価
上記実施例5~26、および比較例12において得られたスプレー式の繊維処理剤について、JIS L 1076:2012の「織物及び編物のピリング試験方法」のA法に準じた下記測定方法に基づき、ピリングの発生の程度を判定することによって、毛玉発生抑制効果の評価を行った。
なお、繊維処理剤を適用しないものを、比較例13とした。
その結果を、表5に示す。
【0072】
<測定方法>
スプレー式の繊維処理剤から繊維処理剤組成物0.5gを、アクリル生地(10cm角)に対して噴霧・乾燥し、試験片を作製した。
得られた試験片を、500gの加重をかけた状態で、ウール布で50回、円を描くように擦った。
その後の試験片の表面とJIS L 1076:2012のA法で定められた標準写真との対比を行って、試験片のピリングの発生の程度を判定した。
【0073】
【0074】
<結 果>
上記実施例5~26において得られたスプレー式の繊維処理剤から繊維処理剤組成物を噴霧した試験布では、いずれもピリングの発生の程度が低かった。
特に、実施例15~26において得られたスプレー式の繊維処理剤から繊維処理剤組成物を噴霧した試験布では、いずれもピリングの発生の程度がきわめて低かった。
以上のことから、この発明の繊維処理剤組成物においては、カチオン系界面活性剤として、CH3(CH2)n-で表される基を有する4級アンモニウム塩を使用する場合であって、nが9以上のときに、優れた毛羽立ちおよび毛玉の発生を防止又は効果的に抑制する効果が発揮され、nが13以上で、かつシリコーンオイルおよびカチオン系界面活性剤の配合比が、質量比で、1:1~2:1のときに、きわめて優れた毛羽立ちおよび毛玉の発生を防止又は効果的に抑制する効果が発揮されることは、明らかである。
【0075】
[実施例27および比較例14]
下記表6に示した組成に従い、各成分を混合し、撹拌して、繊維処理剤組成物を得た。
得られた繊維処理剤組成物を、トリガー式スプレー容器(噴霧量0.5g/1プッシュ)に充填してスプレー式の繊維処理剤を得た。
【0076】
【表6】
*9 NIKKOL NET-SG-60C(ステアリルトリメチルアンモニウムク ロリド3.4%含有)(日光ケミカルズ株式会社製)
*10 BELSIL PF200(フェニル変性シリコーンオイル)(旭化成ワッ カーシリコーン株式会社製)
【0077】
[試験例3]帯電防止性の評価
上記実施例27および比較例14において得られたスプレー式の繊維処理剤について、JIS L 1094:2014の「織物及び編物の帯電性試験方法」のB法に則した下記測定方法に基づき、摩擦帯電圧(織物及び編物を摩擦したときの静電気電位)を測定した。
さらに、上記実施例27および比較例14において得られたスプレー式の繊維処理剤について、JIS L 1094:2014の「織物及び編物の帯電性試験方法」のA法に則した下記測定方法に基づき、半減期(織物及び編物の静電気減衰特性)を測定することによって、帯電防止性の評価を行った。
なお、繊維処理剤を適用しないものを、比較例15とした。
その結果を、表8に示す。
【0078】
<摩擦帯電圧の測定方法>
スプレー式の繊維処理剤から繊維処理剤組成物を、下記表7に示されている生地(50mm×80mm)に対して、下記表8に示されている噴霧量になるよう噴霧・乾燥して、試験布を作製した。
得られた試験片を、摩擦帯電圧測定機の回転ドラムに取り付け、毛摩擦布で擦り、その際の帯電圧を測定した。
その際、縦方向と横方向について測定を行い、平均値を「摩擦帯電圧」とした。
【0079】
<半減期の測定方法>
スプレー式の繊維処理剤から繊維処理剤組成物を、下記表7に示されている生地(45mm×45mm)に対して、噴霧・乾燥し、下記表8に示されている噴霧量で、噴霧・乾燥して、試験布を作製した。
得られた試験片を、10kvの印加電圧で帯電させた後、この帯電圧が1/2に減衰するまでの時間(秒)を測定した。
【0080】
【0081】
【0082】
<結 果>
実施例27において得られたスプレー式の繊維処理剤から、繊維処理剤組成物を噴霧した試験片(布)では、いずれも摩擦帯電圧の値が低く、半減期の値も低かった。
これに対して、比較例14において得られたスプレー式の繊維処理剤から、繊維処理剤組成物を噴霧した試験布では、摩擦帯電圧の値と半減期の値が、実施例27において得られたスプレー式の繊維処理剤、繊維処理剤組成物を噴霧した試験片のものよりも高かった。
以上のことから、この発明の繊維処理剤組成物は、優れた帯電防止効果を有することは、明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0083】
この発明にかかる繊維処理剤組成物は、毛羽立ちおよび毛玉の発生を防止又は効果的に抑制する効果と、帯電防止効果の両方を兼ね備えたもので、処理した繊維製品やその原料となる繊維を長期に亘って繰り返し着用した場合であっても、その作用効果が持続可能で、繊維製品やその原料となる繊維への噴霧や、浸漬、塗布などによって、簡便にかつ着用の都度繰り返して使用することができるものである。
したがって、衣類などの繊維製品や、その原料となる繊維を取扱う業界に利用される可能性の高いものである。