(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】ドリル
(51)【国際特許分類】
B23B 51/00 20060101AFI20221025BHJP
【FI】
B23B51/00 L
B23B51/00 K
B23B51/00 S
(21)【出願番号】P 2021568412
(86)(22)【出願日】2020-06-03
(86)【国際出願番号】 JP2020021941
(87)【国際公開番号】W WO2021245840
(87)【国際公開日】2021-12-09
【審査請求日】2021-11-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503212652
【氏名又は名称】住友電工ハードメタル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 弘児
(72)【発明者】
【氏名】神代 政章
(72)【発明者】
【氏名】木原 明博
(72)【発明者】
【氏名】松野 友輔
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-161912(JP,A)
【文献】実開平05-053817(JP,U)
【文献】特開2017-177236(JP,A)
【文献】中国実用新案第201371263(CN,Y)
【文献】特開平07-164225(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1本体部と、
前記第1本体部に対して後方に位置し、かつ前記第1本体部の直径と異なる直径を有する第2本体部とを備えたドリルであって、
前記第1本体部は、
前記ドリルの中心軸の周りに螺旋状に設けられた切屑排出面と、
前記切屑排出面に連なる逃げ面と、
前記切屑排出面および前記逃げ面の各々に連なる外周面とを含み、
前記切屑排出面と前記逃げ面との稜線は、切刃を構成し、
前記切屑排出面は、
前記中心軸の周りに螺旋状に設けられ、かつ前記切刃に連なる主溝面と、
前記中心軸の周りに螺旋状に設けられ、前記切刃および前記主溝面の各々に連なり、かつ前記主溝面に対して前記ドリルの回転方向の反対側に凹んだ副溝面とを有し、
前記逃げ面と前記副溝面との境界により構成される副切刃部は、第1端部と、前記第1端部の反対側にある第2端部とを有し、
前記第2本体部は、前記第1本体部に連なる第3本体部を有し、
前記第3本体部は、前記主溝面に連なるフルート面を有し、
前記中心軸に沿った方向で見た場合、前記第2本体部の直径の最大値を前記第1本体部の直径で除した値は、1.5以上であり、
前記中心軸に沿った方向で見た場合、前記中心軸と前記第1端部との距離は、前記中心軸と前記切刃の外周端部との距離の20%以上40%未満であり、かつ、前記中心軸と前記第2端部との距離は、前記中心軸と前記外周端部との距離の60%以上80%以下であり、
前記第1本体部の直径に対する前記フルート面の芯厚の比率は、40%以上60%以下であり、
前記副切刃部の中間位置における前記副溝面の軸方向すくい角は、正であ
り、
前記フルート面の芯厚は、前記第1本体部の前記主溝面の芯厚と同じであり、 前記中心軸に対して垂直な断面において、前記主溝面の形状は、円弧状である、ドリル。
【請求項2】
前記中心軸に沿った方向で見た場合、前記第1端部と前記第2端部とを通る直線に対する前記副切刃部の凹み量は、前記第1本体部の直径の1%以上5%以下である、請求項1に記載のドリル。
【請求項3】
前記外周面には、前記切刃および前記逃げ面の各々に連なるマージンが設けられており、
周方向における前記マージンの長さは、0.1mm以上0.3mm以下である、請求項1または請求項2に記載のドリル。
【請求項4】
前記切刃の先端角は、150°以上175°以下である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のドリル。
【請求項5】
前記第1本体部の直径は、1mm以上10mm以下である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のドリル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ドリルに関する。
【背景技術】
【0002】
特開2009-18384号公報(特許文献1)および特開2006-55941号公報(特許文献2)には、鋳造品の鋳抜き穴を加工するためのドリルが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-18384号公報
【文献】特開2006-55941号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示に係るドリルは、第1本体部と、第2本体部とを備えている。第2本体部は、第1本体部に対して後方に位置し、かつ第1本体部の直径と異なる直径を有している。第1本体部は、ドリルの中心軸の周りに螺旋状に設けられた切屑排出面と、切屑排出面に連なる逃げ面と、切屑排出面および逃げ面の各々に連なる外周面とを含んでいる。切屑排出面と逃げ面との稜線は、切刃を構成している。切屑排出面は、中心軸の周りに螺旋状に設けられ、かつ切刃に連なる主溝面と、中心軸の周りに螺旋状に設けられ、切刃および主溝面の各々に連なり、かつ主溝面に対してドリルの回転方向の反対側に凹んだ副溝面とを有している。逃げ面と副溝面との境界により構成される副切刃部は、第1端部と、第1端部の反対側にある第2端部とを有している。中心軸に沿った方向で見た場合、第2本体部の直径の最大値を第1本体部の直径で除した値は、1.5以上である。中心軸に沿った方向で見た場合、中心軸と第1端部との距離は、中心軸と切刃の外周端部との距離の20%以上40%未満であり、かつ、中心軸と第2端部との距離は、中心軸と外周端部との距離の60%以上80%以下である。第1本体部の直径に対する主溝面の芯厚の比率は、40%以上60%以下である。副切刃部の中間位置における副溝面の軸方向すくい角は、正である。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】
図1は、本実施形態に係るドリルの構成を示す平面模式図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係るドリルの構成を示す正面模式図である。
【
図5】
図5は、第1切刃の軸方向すくい角を示す図である。
【
図6】
図6は、
図4のVI-VI線に沿った断面模式図である。
【
図7】
図7は、
図1のVII-VII線に沿った断面模式図である。
【
図8】
図8は、鋳抜き穴中心軸とドリル中心軸とのずれを説明するための断面模式図である。
【
図9】
図9は、鋳抜き穴中心軸とドリル中心軸とのずれを説明するための平面模式図である。
【
図10】
図10は、ドリルで鋳抜き穴を加工する状態を示す断面模式図である。
【
図11】
図11は、副溝の終了点と、穴位置度との関係を示す図である。
【
図12】
図12は、副溝の開始点と、穴位置度との関係を示す図である。
【
図13】
図13は、副溝の凹み量と、穴位置度との関係を示す図である。
【
図14】
図14は、ドリルの切屑排出面の軸方向すくい角を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
本開示の目的は、アルミニウム合金鋳物の鋳抜き穴加工における穴位置度を低減可能なドリルを提供することである。
【0007】
[本開示の効果]
本開示によれば、アルミニウム合金鋳物の鋳抜き穴加工における穴位置度を低減可能なドリルを提供することができる。
【0008】
[本開示の実施形態の概要]
まず、本開示の実施形態の概要について説明する。
【0009】
(1)本開示に係るドリル100は、第1本体部81と、第2本体部82とを備えている。第2本体部82は、第1本体部81に対して後方に位置し、かつ第1本体部81の直径と異なる直径を有している。第1本体部81は、ドリル100の中心軸Xの周りに螺旋状に設けられた切屑排出面1と、切屑排出面1に連なる逃げ面2と、切屑排出面1および逃げ面2の各々に連なる外周面3とを含んでいる。切屑排出面1と逃げ面2との稜線は、切刃4を構成している。切屑排出面1は、中心軸Xの周りに螺旋状に設けられ、かつ切刃4に連なる主溝面72と、中心軸Xの周りに螺旋状に設けられ、切刃4および主溝面72の各々に連なり、かつ主溝面72に対してドリルの回転方向の反対側に凹んだ副溝面73とを有している。逃げ面2と副溝面73との境界により構成される副切刃部63は、第1端部91と、第1端部91の反対側にある第2端部92とを有している。中心軸Xに沿った方向で見た場合、第2本体部82の直径の最大値を第1本体部81の直径で除した値は、1.5以上である。中心軸Xに沿った方向で見た場合、中心軸Xと第1端部91との距離は、中心軸Xと切刃4の外周端部との距離の20%以上40%未満であり、かつ、中心軸Xと第2端部92との距離は、中心軸Xと外周端部との距離の60%以上80%以下である。第1本体部81の直径に対する主溝面72の芯厚の比率は、40%以上60%以下である。副切刃部63の中間位置93における副溝面73の軸方向すくい角θ2は、正である。
【0010】
(2)上記(1)に係るドリル100においては、中心軸Xに沿った方向で見た場合、第1端部91と第2端部92とを通る直線に対する副切刃部63の凹み量Hは、第1本体部81の直径の1%以上5%以下であってもよい。
【0011】
(3)上記(1)または(2)に係るドリル100においては、外周面3には、切刃4および逃げ面2の各々に連なるマージン31が設けられていてもよい。周方向におけるマージン31の長さは、0.1mm以上0.3mm以下であってもよい。
【0012】
(4)上記(1)から(3)のいずれかに係るドリル100においては、切刃4の先端角θ1は、150°以上175°以下であってもよい。
【0013】
(5)上記(1)から(4)のいずれかに係るドリル100においては、第1本体部81の直径は、1mm以上10mm以下であってもよい。
【0014】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、図面に基づいて本開示の実施形態(以降、本実施形態とも称する)の詳細について説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。
【0015】
図1は、本実施形態に係るドリルの構成を示す平面模式図である。
図1に示されるように、本実施形態に係るドリル100は、鋳抜き穴加工用ドリルであって、第1本体部81と、第2本体部82とを有している。第2本体部82は、第1本体部81に対して後方に位置している。第2本体部82は、第1本体部81の直径と異なる直径を有している。第2本体部82は、第1本体部81に連なっている。第2本体部82は、第3本体部83と、シャンク部84とを有している。第3本体部83は、第1本体部81に対して後方に位置している。第3本体部83は、第1本体部81に連なっている。シャンク部84は、第3本体部83に対して後方に位置している。シャンク部84は、第3本体部83に連なっている。第1本体部81は、ドリル100の前端11を構成する。シャンク部84は、ドリル100の後端12を構成する。
【0016】
ドリル100の前端11は、被削材に対向する部分である。ドリル100の後端12は、ドリル100を回転させる工具に対向する部分である。シャンク13は、ドリル100を回転させる工具に取り付けられる部分である。中心軸Xは、前端11と後端12とを通っている。中心軸Xに沿った方向は、軸方向である。軸方向に対して垂直な方向が径方向である。本明細書においては、前端11から後端12に向かう方向を軸方向の後方と称する。反対に、後端12から前端11に向かう方向を軸方向の前方と称する。ドリル100は、中心軸Xの周りを回転可能に構成されている。
【0017】
図2は、
図1の領域IIの拡大模式図である。
図2に示されるように、本実施形態に係るドリル100の第1本体部81は、第1外周面3を有している。第1外周面3には、第1マージン31と、第2マージン32とが設けられていてもよい。第1マージン31は、第1外周領域21と、第2外周領域22とを有している。第2マージン32は、第3外周領域23と、第4外周領域24とを有している。外周面3は、第5外周領域25を有している。第1外周領域21は、第2外周領域22に連なっている。第2外周領域22は、第5外周領域25に連なっている。第2外周領域22は、第1外周領域21および第5外周領域25の各々に対して傾斜している。第4外周領域24は、第5外周領域25に連なっている。第3外周領域23は、第4外周領域24に連なっている。第4外周領域24は、第5外周領域25および第3外周領域23の各々に対して傾斜している。第5外周領域25は、第2外周領域22と第4外周領域24との間に位置している。
【0018】
図2に示されるように、第1本体部81は、第1切刃4を有している。第1切刃4は、ドリル100の前端11に位置している。第1切刃4の先端角θ1は、たとえば150°以上175°以下である。先端角θ1の下限は、特に限定されないが、たとえば155°以上であってもよいし、160°以上であってもよい。先端角θ1の上限は、特に限定されないが、たとえば170°以下であってもよい。なお、第1切刃4の先端角θ1は、中心軸Xに平行な面に、第1切刃4を平行にして投影したときに、2つの第1切刃4によって形成される角度である。
【0019】
図2に示されるように、本実施形態に係るドリル100の第1本体部81は、切屑排出面1を有している。切屑排出面1は、ドリル100の中心軸Xの周りに螺旋状に設けられている。切屑排出面1は、第1面71と、主溝面72と、副溝面73と、シンニング面74とを有している。第1面71は、第1外周面3に連なっている。第1面71は、たとえば戻し面である。主溝面72は、第1面71に連なっている。主溝面72は、第1面71よりも内周側に位置している。主溝面72は、第1面71と副溝面73との間に位置している。主溝面72は、中心軸Xの周りに螺旋状に設けられている。主溝面72は、切刃4に連なっている。
【0020】
次に、主溝面72および副溝面73の形成方法について説明する。まず、円筒状の第1本体部81に螺旋状の主溝80が形成される。主溝80を構成する面が主溝面72である。次に、主溝面72に対して螺旋状の副溝70が形成される。副溝70を構成する面が副溝面73である。主溝面72の芯厚は、主溝面72に副溝70が形成される前における主溝面72の芯厚である。
【0021】
切屑排出面1には、副溝70が設けられている。副溝70は、副溝面73により構成されている。副溝面73は、主溝面72に連なっている。副溝面73は、主溝面72よりも内周側に位置している。副溝面73は、主溝面72と、シンニング面74との間に位置している。副溝面73は、中心軸Xの周りに螺旋状に設けられている。副溝面73は、主溝面72に対してドリル100の回転方向Rの反対側に凹んでいる。副溝面73は、第1切刃4に連なっている。シンニング面74は、副溝面73に連なっている。シンニング面74は、副溝面73よりも内周側に位置している。第1面71、主溝面72およびシンニング面74の各々は、第1切刃4に連なっている。
【0022】
図3は、本実施形態に係るドリルの構成を示す正面模式図である。
図4は、
図3の領域IVの拡大模式図である。
図3および
図4に示されるように、本実施形態に係るドリル100の第1本体部81は、逃げ面2と、第1後方面5と、第2後方面6とを有している。逃げ面2は、切屑排出面1に連なっている。第1外周面3は、切屑排出面1および逃げ面2の各々に連なっている。切屑排出面1と逃げ面2との稜線は、第1切刃4を構成している。
図3において、矢印は、ドリル100の回転方向Rを示している。
【0023】
第1後方面5は、逃げ面2に連なっている。第1後方面5は、逃げ面2に対して回転方向後方に位置している。第1後方面5には、クーラント供給孔8が設けられている。第2後方面6は、第1後方面5に連なっている。第2後方面6は、第1後方面5に対して回転方向後方に位置している。径方向において、シャンクの外周面(シャンク外周面50)は、第1外周面3よりも外周側に位置している。
【0024】
図3に示されるように、第1外周領域21は、第1切刃4および逃げ面2の各々に連なっている。第2外周領域22は、第1外周領域21に対して回転方向後方に位置している。第2外周領域22は、逃げ面2に連なっている。径方向において、第1外周領域21は、逃げ面2よりも外周側に位置している。第3外周領域23は、第1後方面5に連なっている。第4外周領域24は、第3外周領域23に対して回転方向前方に位置している。第4外周領域24は、第1後方面5に連なっている。第5外周領域25は、逃げ面2および第1後方面5の各々に連なっている。径方向において、第5外周領域25は、第1外周領域21および第3外周領域23の各々よりも内周側に位置している。
【0025】
図4に示されるように、第1マージン31は、第1切刃4に連なっている。周方向における第1マージン31の長さ(第1長さA1)は、0.1mm以上0.3mm以下である。第1長さA1の下限は、特に限定されないが、たとえば0.15mm以上であってもよい。第1長さA1の上限は、特に限定されないが、たとえば0.25mm以下であってもよい。
【0026】
図3に示されるように、第2マージン32は、第1マージン31に対して、回転方向後方に位置している。第2マージン32は、第1切刃4から離間している。周方向における第2マージン32の長さ(第2長さA2)は、たとえば0.3mm以上7mm以下である。第2長さA2は、第1長さA1よりも大きくてもよい。第2長さA2は、第1長さA1の5倍以上であってもよい。
【0027】
図3に示されるように、第1本体部81の直径(第1直径W1)に対する主溝面72の芯厚Bmの比率は、たとえば40%以上60%以下である。第1直径W1に対する主溝面72の芯厚Bmの比率の下限は、特に限定されないが、たとえば45%以上であってもよい。第1直径W1に対する主溝面72の芯厚Bmの比率の上限は、特に限定されないが、たとえば55%以下であってもよい。第1本体部81の直径(第1直径W1)とは、軸方向に見た場合における第1外周面3の直径である(
図3参照)。
図3に示されるように、中心軸Xに沿った方向で見た場合、主溝面72の芯厚Bmの比率は、主溝面72に沿って形成される仮想の主溝面72の芯厚である。
【0028】
第1直径W1は、たとえば1mm以上10mm以下である。第1直径W1の下限は、特に限定されないが、たとえば2mm以上であってもよいし、3mm以上であってもよい。第1直径W1の上限は、特に限定されないが、たとえば9mm以下であってもよいし、8mm以下であってもよい。
【0029】
図1に示されるように、第2本体部82は、第3本体部83と、シャンク部84とを有している。第3本体部83は、第2切刃7と、第2外周面9と、フルート面14とを有している。切屑排出面1は、フルート面14に連なっている。副溝面73は、フルート面14に達していてもよい。軸方向において、第2切刃7は、第1切刃4とシャンク部84との間に位置している。
図3に示されるように、径方向において、第2切刃7は、第1切刃4よりも外周側に位置していている。径方向において、第2外周面9は、第1外周面3よりも外周側に位置している。
【0030】
図7は、
図1のVII-VII線に沿った断面模式図である。
図7に示す断面は、中心軸Xに対して垂直で平面で第3本体部83を切断した断面を、前端11から後端12に向かう方向に見た断面である。
図1に示されるように、主溝80は、第1本体部81から第3本体部83にかけて連続的に設けられている。
図7に示されるように、第3本体部83に設けられた主溝80は、フルート面14により構成されている。第3本体部83のフルート面14の芯厚Baは、第1本体部81の主溝面72の芯厚Bm(
図3参照)と同じであってもよい。
【0031】
図3に示されるように、シャンク部84の直径(第2直径W2)は、第3本体部83の直径(第3直径W3)よりも大きい。この場合、第2本体部82の直径の最大値は、第2直径W2である。反対に、シャンク部84の直径(第2直径W2)は、第3本体部83の直径(第3直径W3)よりも小さくてもよい。この場合、第2本体部82の直径の最大値は、第3直径W3となる。
【0032】
中心軸Xに沿った方向で見た場合、第2本体部82の直径の最大値を第1本体部81の直径で除した値は、1.5以上である。第2本体部82の直径の最大値を第1本体部81の直径で除した値の下限は、特に限定されないが、たとえば1.7以上であってもよい。第2本体部82の直径の最大値を第1本体部81の直径で除した値の上限は、特に限定されないが、たとえば3以下であってもよい。
【0033】
図4に示されるように、第1切刃4は、第1切刃部61と、第2切刃部62と、副切刃部63と、シンニング切刃部64とを有している。第1切刃部61は、逃げ面2と第1面71との稜線により構成されている。第2切刃部62は、逃げ面2と主溝面72との稜線により構成されている。副切刃部63は、逃げ面2と副溝面73との稜線により構成されている。シンニング切刃部64は、逃げ面2とシンニング面74との稜線により構成されている。
【0034】
第1切刃部61は、第1切刃4の外周端部60を含む。中心軸Xに沿った方向で見た場合、第1切刃部61は、直線状であってもよい。第2切刃部62は、第1切刃部61に連なっている。第1切刃部61は、第2切刃部62よりも外周側に位置している。中心軸Xに沿った方向で見た場合、第2切刃部62は、円弧状であってもよい。
図4に示されるように、中心軸Xに沿った方向で見た場合、第2切刃部62は、ドリル100の回転方向Rの反対側に凹んでいてもよい。第2切刃部62は、第1切刃部61と副切刃部63との間に位置している。第2切刃部62は、たとえば主切刃部である。
【0035】
副切刃部63は、第2切刃部62に連なっている。第2切刃部62は、副切刃部63よりも外周側に位置している。中心軸Xに沿った方向で見た場合、副切刃部63は、円弧状であってもよい。副切刃部63は、第2切刃部62とシンニング切刃部64との間に位置している。
図4に示されるように、中心軸Xに沿った方向で見た場合、副切刃部63は、ドリル100の回転方向Rの反対側に凹んでいる。
【0036】
副切刃部63は、第1端部91と、第2端部92とを有している。第2端部92は、第1端部91の反対側にある。第1端部91は、シンニング切刃部64と、副切刃部63との境界である。第2端部92は、第2切刃部62と、副切刃部63との境界である。第2端部92は、第1端部91よりも外周側に位置している。別の観点から言えば、第1端部91は、副切刃部63の開始点である。第2端部92は、副切刃部63の終了点である。
【0037】
図3に示されるように、副溝面73の芯厚Bsは、中心軸Xに沿った方向で見た前端側のウェブ厚みである。副溝面73の芯厚Bsは、中心軸Xと第1端部91との距離(第1距離L1)の2倍である(
図4参照)。
図4に示されるように、中心軸Xに沿った方向で見た場合、中心軸Xと第1端部91との距離(第1距離L1)は、中心軸Xと第1切刃4の外周端部60との距離(第3距離L3)の20%以上40%未満である。別の観点から言えば、中心軸Xから第1端部91までの長さは、第1外周面3の半径の20%以上40%未満である。第1距離L1は、第3距離L3の25%以上であってもよいし、30%以上であってもよい。第1距離L1は、第3距離L3の38%以下であってもよいし、35%以下であってもよい。第1距離L1は、第3距離L3の30%以上38%以下であってもよい。
【0038】
図4に示されるように、中心軸Xに沿った方向で見た場合、中心軸Xと第2端部92との距離(第2距離L2)は、中心軸Xと外周端部60との距離(第3距離L3)の60%以上80%以下である。別の観点から言えば、中心軸Xから第2端部92までの長さは、第1外周面3の半径の60%以上80%以下である。第2距離L2は、第3距離L3の65%以上であってもよいし、68%以上であってもよい。第2距離L2は、第3距離L3の75%以下であってもよいし、70%以下であってもよい。第2距離L2は、第3距離L3の60%以上70%以下であってもよい。
【0039】
図4に示されるように、中心軸Xに沿った方向で見た場合、第1端部91と第2端部92とを通る直線(第4直線L4)に対する副切刃部63の凹み量Hは、第1本体部81の直径(第1直径W1)の0.5%以上7%以下であってもよく、さらに好ましくは1%以上5%以下であってもよい。中心軸Xに沿った方向で見た場合、第4直線L4に対する副切刃部63の凹み量Hは、副切刃部63上の点の中で、第4直線L4との距離が最も大きくなる点と、第4直線L4との距離である。第4直線L4に対する副切刃部63の凹み量Hの下限は、特に限定されないが、たとえば第1直径W1の1.5%以上であってもよいし、2%以上であってもよい。第4直線L4に対する副切刃部63の凹み量Hの上限は、特に限定されないが、たとえば第1直径W1の4.5%以下であってもよいし、4%以下であってもよい。
【0040】
図5は、第1切刃4の軸方向すくい角を示す図である。
図5に示されるように、第1面71、主溝面72および副溝面73の各々の軸方向すくい角は、正である。第1面71の軸方向すくい角は、主溝面72の軸方向すくい角よりも大きくてもよい。主溝面72の軸方向すくい角は、副溝面73の軸方向すくい角よりも大きくてもよい。副溝面73の軸方向すくい角は、シンニング面74の軸方向すくい角よりも大きくてもよい。シンニング面74の軸方向すくい角は、ほぼ0°である。
【0041】
図5に示されるように、副溝面73の軸方向すくい角は、外周側に向かうにつれて単調に大きくなっていてもよい。主溝面72の軸方向すくい角は、外周側に向かうにつれて単調に大きくなっていてもよい。第1面71の軸方向すくい角は、外周側に向かうにつれて単調に大きくなる部分を有していてもよい。第1端部91における副溝面73の軸方向すくい角は、第2端部92における副溝面73の軸方向すくい角よりも小さくてもよい。
【0042】
図6は、
図4のVI-VI線に沿った断面模式図である。
図6に示す断面は、中心軸Xに対して平行であり、かつ副切刃部63の中間位置93を通る。さらに、
図6に示す断面は、中間位置93から中心軸Xに下した垂線に対して垂直である。副切刃部63の中間位置93は、副切刃部63上の点の中で、第1端部91および第2端部92の各々からの沿線距離が同じ点である。
図6に示されるように、中心軸Xに対して垂直な方向であってかつ径方向に平行な方向に見て、副切刃部63の中間位置93における副溝面73の軸方向すくい角θ2は、正である。副溝面73の軸方向すくい角θ2は、副切刃部63のある特定位置を通り、中心軸Xに平行な直線Cに対する副溝面73のすくい角である。
【0043】
図6に示されるように、軸方向すくい角θ2が「正」であるとは、副切刃部63のある特定位置を通り、中心軸Xに対して垂直な方向であってかつ径方向に平行な方向に見た場合に、副切刃部63のある特定位置を通り、中心軸Xに平行な直線Cに対して、副溝面73がドリル100の回転方向Rの反対側に傾斜している状態をいう。反対に、軸方向すくい角θ2が「負」であるとは、副切刃部63のある特定位置を通り、中心軸Xに対して垂直な方向であってかつ径方向に平行な方向に見た場合に、副切刃部63のある特定位置を通り、中心軸Xに平行な直線Cに対して、副溝面73がドリル100の回転方向Rに傾斜している状態をいう。
【0044】
次に、本実施形態に係るドリル100の作用効果について説明する。
アルミ製品において鋳造により形成された穴(鋳抜き穴)は、鋳造の精度により寸法および位置精度にばらつきが生じることがある。
図8は、鋳抜き穴中心軸とドリル中心軸とのずれを説明するための断面模式図である。
図8に示されるように、被削材40には、鋳抜き穴41が設けられている。
図9は、鋳抜き穴中心軸とドリル中心軸とのずれを説明するための平面模式図である。
図8および
図9に示されるように、鋳抜き穴中心軸は、ドリル中心軸とは一致していない。
図9に示されるように、平面視において、鋳抜き穴中心軸は、ドリル中心軸に対して距離Dだけずれている。
【0045】
図8に示されるように、ドリル100で鋳抜き穴を加工する場合、鋳抜き穴の右側における被削材40とドリル100との接触断面積は、鋳抜き穴の左側における被削材40とドリル100との接触断面積よりも大きいことがある。この場合、ドリル100は、
図8の右から左に向かう力を受け、左側にたわんでしまう。つまり、ドリル100は、鋳抜き穴中心軸の方向にたわみ、偏心する。結果として、実際のドリル100の中心位置は、狙いのドリル100の中心位置からずれてしまう。実際のドリル100の中心位置と、狙いのドリル100の中心位置とのずれの2倍の値が、穴位置度である。穴位置度は、小さいことが望ましい。
【0046】
本実施形態に係るドリル100によれば、中心軸Xに沿った方向で見た場合、第2本体部82の直径の最大値を第1本体部81の直径で除した値は、1.5以上である。第1本体部81の直径に対する主溝面72の芯厚Bmの比率は、40%以上60%以下である。これにより、ドリル100の剛性を向上することができる。そのため、ドリル100で鋳抜き穴を加工する場合、ドリル100がたわむことを抑制することができる。また切屑排出面1は、中心軸Xの周りに螺旋状に設けられ、切刃4に連なり、かつドリル100の回転方向Rの反対側に凹んだ副溝面73を有している。副切刃部63の中間位置93における副溝面73の軸方向すくい角θ2は、正である。主溝面72の芯厚Bmを大きくした場合、軸方向すくい角が0°のシンニング面で加工開始されるため、切れ味が悪くなる。副切刃部63の中間位置93における副溝面73の軸方向すくい角θ2を正とすることにより、切刃4の切れ味を向上することができる。結果として、穴位置度を低減することができる。
【0047】
またドリル100の第1本体部81の直径に対する主溝面72の芯厚の比率を大きくすると、軸方向の分力(スラスト)が大きくなる。一方。アルミニウムは、鋼よりも硬度が低い材料である。そのため、アルミ製品に対して穴開け加工する場合には、鋼製品に対して穴開け加工する場合と比較して、軸方向の分力は小さくなる。従って、アルミ製品に対して穴開け加工する場合には、ドリル100の第1本体部81の直径に対する主溝面72の芯厚の比率を大きくすることができる。
【0048】
さらにドリル100の第1本体部81の直径に対する主溝面72の芯厚の比率を大きくすると、切屑排出溝の断面積は小さくなるため、切屑の排出性能は劣化する。しかしながら、アルミニウム合金鋳物およびアルニミウム合金ダイキャストは鋼と比較して、切屑が分断されやすい。そのため、アルミ製品に対して穴開け加工する場合には、溝の断面積が小さくなった場合であっても、切屑が溝に詰まることを抑制することができる。
【0049】
また本実施形態に係るドリル100によれば、中心軸Xに沿った方向で見た場合、第1端部91と第2端部92とを通る直線に対する副切刃部63の凹み量Hは、第1本体部81の直径の1%以上5%以下であってもよい。これにより、穴位置度をさらに低減することができる。
【0050】
ドリル100で穴開け加工をする場合は、ドリル100は中心軸Xの周りを回転しつつ、水平方向にも振動している。そのため、穴位置度を低減しようとする場合には、周方向のマージン31の長さを大きくすることで、穴の内壁面との接触面積を大きくし、水平方向の振動を抑制しようとすることが、当業者の常識であった。しかしながら、発明者らは、周方向のマージン31(第1マージン31)の長さを大きくして穴位置度を測定したところ、当業者の常識に反し、第1マージン31の長さが大きくなると、穴位置度が大きくなるという知見を得た。この知見に基づき、発明者らは、第1マージン31を通常よりも小さくすることを着想した。
【0051】
さらに本実施形態に係るドリル100によれば、第1外周面3には、第1切刃4および逃げ面2の各々に連なるマージン31が設けられている。周方向におけるマージン31の長さは、0.1mm以上0.3mm以下である。これにより、穴位置度を低減することができる。
【0052】
図10は、ドリル100で鋳抜き穴を加工する状態を示す断面模式図である。
図10において、実線で記載されている第1切刃4の状態は、第1切刃4が被削材に喰いつき始めた時点(即ち加工開始時点)の状態である。実線で記載されている第1切刃4の状態は、第1切刃4が鋳抜き穴の右側の内壁面に接しているが、左側の内壁面には接していない状態である(第1状態)。一方、
図10において、破線で記載されている第1切刃4の状態は、第1切刃4が鋳抜き穴の右側の内壁面と左側の内壁面との双方に接し始めた状態である(第2状態)。
【0053】
第1切刃4の先端角θ1が小さい場合と比較して、第1切刃4の先端角θ1が大きい場合には、第1状態から第2状態までの距離(不安定加工距離E)を低減することができる。また第1切刃4の先端角θ1が小さい場合と比較して、第1切刃4の先端角θ1が大きい場合には、水平方向の分力を低減することができる。
【0054】
本実施形態に係るドリル100によれば、第1切刃4の先端角θ1は、150°以上175°以下であってもよい。これにより、不安定加工距離を低減し、かつ水平方向の分力を低減することができる。そのため、ドリル100の偏心を抑制することができる。結果として、穴位置度をさらに低減することができる。
【0055】
さらに本実施形態に係るドリル100によれば、第1本体部81の直径は、1mm以上10mm以下であってもよい。第1本体部81の直径が上記の範囲のように小さい場合には、穴位置度が顕著に大きくなりやすい。本実施形態に係るドリル100によれば、第1本体部81の直径が小さい場合において、特に効果的に穴位置度を低減することができる。
【実施例1】
【0056】
(サンプル準備)
まず、サンプル1-1~1-4のドリル100を準備した。サンプル1-1および1-2のドリル100は、比較例に係るドリル100である。サンプル1-3および1-4のドリル100は、実施例に係るドリル100である。サンプル1-1~1-4のドリル100において、第1外周面3の直径(第1直径W1)は、6mmとした。サンプル1-1~1-4のドリル100において、第2本体部82の最大径は、それぞれ6mm、7mm、9mmおよび11mmとした。つまり、サンプル1-1~1-4のドリル100において、第2本体部82の直径の最大値を第1本体部81の直径で除した値は、それぞれ6/6、7/6、9/6および11/6とした。
【0057】
サンプル1-1~1-4のドリル100において、ドリル100の第1外周面3の直径(第1直径W1)に対する主溝面72の芯厚Bmの比率は、50%とした。中心軸Xと第1端部91(開始点)との距離は、中心軸Xと第1切刃4の外周端部60との距離の30%とした。中心軸Xと第2端部92(終了点)との距離は、中心軸Xと第1切刃4の外周端部60との距離の70%とした。凹み量Hは、第1外周面3の直径の2.9%とした。第1マージン31の長さ(第1長さA1)は、0.15mmとした。第1切刃4の先端角θ1は、160°とした。
【0058】
(評価方法)
次に、サンプル1-1~1-4のドリル100を用いて鋳抜き穴を加工した。被削材は、日本工業規格(JIS)H5302:2006の規定によるAl-Si-Cu系ダイカスト材料であるADC12とした。設備は、立形マシニングセンタ(FANUC株式会社製 ROBODRILL α-T14iFLa)とした。回転数は、10000rpmとした。送り量(f)は、1mm/回転とした。深さは、20mmとした。内部給油が用いられた。
【0059】
(評価結果)
【0060】
【0061】
表1に示されるように、サンプル1-1~1-4のドリル100を用いて鋳抜き穴を加工した際の穴位置度は、それぞれ、1.29mm、0.85mm、0.37mmおよび0.26mmであった。サンプル1-3および1-4のドリル100を用いて鋳抜き穴を加工した際の穴位置度は、サンプル1-1および1-2のドリル100を用いて鋳抜き穴を加工した際の穴位置度よりも小さかった。以上により、第2本体部82の直径の最大値を第1本体部81の直径で除した値が1.5以上である場合には、穴位置度が顕著に低減することが実証された。
【実施例2】
【0062】
(サンプル準備)
まず、サンプル2-1~2-4のドリル100を準備した。サンプル2-1のドリル100は、比較例に係るドリル100である。サンプル2-2~2-4のドリル100は、実施例に係るドリル100である。サンプル2-1~2-4のドリル100において、第1外周面3の直径(第1直径W1)は、6mmとした。第2本体部82の最大径は、11mmとした。サンプル2-1~2-4のドリル100において、第1本体部81の直径に対する主溝面72の芯厚Bmの比率は、それぞれ30%、40%、50%および60%とした。
【0063】
サンプル2-1~2-4のドリル100において、中心軸Xと第1端部91(開始点)との距離は、中心軸Xと第1切刃4の外周端部60との距離の30%とした。中心軸Xと第2端部92(終了点)との距離は、中心軸Xと第1切刃4の外周端部60との距離の70%とした。凹み量Hは、第1外周面3の直径の2.9%とした。第1マージン31の長さ(第1長さA1)は、0.15mmとした。第1切刃4の先端角θ1は、160°とした。
【0064】
(評価方法)
次に、サンプル2-1~2-4のドリル100を用いて鋳抜き穴を加工した。被削材は、日本工業規格(JIS)H5302:2006の規定によるAl-Si-Cu系ダイカスト材料であるADC12とした。設備は、立形マシニングセンタ(FANUC株式会社製 ROBODRILL α-T14iFLa)とした。回転数は、10000rpmとした。送り量(f)は、1mm/回転とした。深さは、20mmとした。内部給油が用いられた。
【0065】
(評価結果)
【0066】
【0067】
表2に示されるように、サンプル2-1~2-4のドリル100を用いて鋳抜き穴を加工した際の穴位置度は、それぞれ、0.51mm、0.33mm、0.26mmおよび0.23mmであった。サンプル2-2~2-4のドリル100を用いて鋳抜き穴を加工した際の穴位置度は、サンプル2-1のドリル100を用いて鋳抜き穴を加工した際の穴位置度よりも小さかった。以上により、第1本体部81の直径に対する主溝面72の芯厚Bmの比率が40%以上60%以下である場合には、穴位置度が顕著に低減することが実証された。
【実施例3】
【0068】
(サンプル準備)
まず、サンプル3-1~3-9のドリル100を準備した。サンプル3-1、3-6、3-8および3-9のドリル100は、比較例に係るドリル100である。サンプル3-2~3-5および3-7のドリル100は、実施例に係るドリル100である。サンプル3-1~3-9のドリル100において、第1外周面3の直径(第1直径W1)は、6mmとした。第2本体部82の最大径は、11mmとした。サンプル3-1~3-9のドリル100において、第1本体部81の直径に対する主溝面72の芯厚Bmの比率は、50%とした。
【0069】
サンプル3-1~3-9のドリル100において、中心軸Xと第1端部91(開始点)との距離は、中心軸Xと第1切刃4の外周端部60との距離の18%以上45%以下とした。中心軸Xと第2端部92(終了点)との距離は、中心軸Xと第1切刃4の外周端部60との距離の60%以上85%以下とした。凹み量Hは、第1外周面3の直径の1.5%以上6.2%以下とした。第1マージン31の長さ(第1長さA1)は、0.15mmとした。第1切刃4の先端角θ1は、160°とした。
【0070】
(評価方法)
次に、サンプル3-1~3-9のドリル100を用いて鋳抜き穴を加工した。被削材は、日本工業規格(JIS)H5302:2006の規定によるAl-Si-Cu系ダイカスト材料であるADC12とした。設備は、立形マシニングセンタ(FANUC株式会社製 ROBODRILL α-T14iFLa)とした。回転数は、10000rpmとした。送り量(f)は、1mm/回転とした。深さは、20mmとした。内部給油が用いられた。
【0071】
(評価結果)
図11は、副溝の終了点と、穴位置度との関係を示す図である。
図11および表3に示されるように、開始点の割合(具体的には、中心軸Xと第1切刃4の外周端部60との距離に対する、中心軸Xと第1端部91(開始点)との距離の割合)が一定(30%)の場合には、終了点の割合(具体的には、中心軸Xと第1切刃4の外周端部60との距離に対する、中心軸Xと第2端部92(終了点)との距離の割合)が小さくなるにつれて、穴位置度が低減する。
【0072】
【0073】
図12は、副溝の開始点と、穴位置度との関係を示す図である。
図12および表4に示されるように、中心軸Xと第1端部91(開始点)との距離が、中心軸Xと第1切刃4の外周端部60との距離の20%以上40%未満の場合において、穴位置度が低減する。以上により、中心軸Xと第1端部91(開始点)との距離が、中心軸Xと第1切刃4の外周端部60との距離の20%以上40%未満であり、かつ中心軸Xと第2端部92(終了点)との距離が、中心軸Xと第1切刃4の外周端部60との距離の60%以上80%以下の場合には、穴位置度が顕著に低減することが実証された。
【0074】
【0075】
図13は、副溝の凹み量Hと、穴位置度との関係を示す図である。
図13および表5に示されるように、開始点の割合(具体的には、中心軸Xと第1切刃4の外周端部60との距離に対する、中心軸Xと第1端部91(開始点)との距離の割合)が一定(30%)の場合には、第1外周面3の直径に対する凹み量Hの割合が小さくなるにつれて、穴位置度が低減する。中心軸Xと第1端部91(開始点)との距離の割合)が20%以上40%未満であって、かつ第1外周面3の直径に対する凹み量Hの割合が5%以下である場合には、穴位置度が低減する。
【0076】
【実施例4】
【0077】
(サンプル準備)
まず、サンプル3-10~3-12のドリル100を準備した。サンプル3-11のドリル100は、比較例に係るドリル100である。サンプル3-11のドリル100の切屑排出溝には、副溝が形成されていない。サンプル3-10および3-12のドリル100は、実施例に係るドリル100である。サンプル3-10および3-12のドリル100の切屑排出溝には、副溝が形成されている。
【0078】
図14は、ドリルの切屑排出面の軸方向すくい角を示す図である。
図14に示されるように、サンプル3-10のドリル100の副溝面73における軸方向すくい角は、サンプル3-12のドリル100の副溝面73における軸方向すくい角よりも大きい。サンプル3-10のドリル100の副溝面73における軸方向すくい角は、9°以上17°以下である。サンプル3-12のドリル100の副溝面73における軸方向すくい角は、1°以上16°以下である。
【0079】
(評価方法)
次に、サンプル3-10~3-12のドリル100を用いて鋳抜き穴を加工した。被削材は、日本工業規格(JIS)H5302:2006の規定によるAl-Si-Cu系ダイカスト材料であるADC12とした。設備は、立形マシニングセンタ(FANUC株式会社製 ROBODRILL α-T14iFLa)とした。回転数は、10000rpmとした。送り量(f)は、1mm/回転とした。深さは、20mmとした。内部給油が用いられた。
【0080】
(評価結果)
【0081】
【0082】
表6に示されるように、サンプル3-10~3-12のドリル100を用いて鋳抜き穴を加工した際の穴位置度は、それぞれ、0.26mm、0.43mmおよび0.40mmであった。以上により、切屑排出面1に副溝が形成されていないドリル100と比較して、切屑排出面1に副溝が形成されているドリル100は、穴位置度が低減することが実証された。また副溝の軸方向すくい角θ2を大きくすることにより、穴位置度がさらに低減することが実証された。
【実施例5】
【0083】
(サンプル準備)
まず、サンプル4-1~4-4のドリル100を準備した。サンプル4-3および4-4のドリル100は、比較例に係るドリル100である。サンプル4-1および4-2のドリル100は、実施例に係るドリル100である。サンプル4-1~4-4のドリル100において、第1外周面3の直径(第1直径W1)は、6mmとした。サンプル4-1~4-4のドリル100において、第1マージン31の長さ(第1長さA1)は、それぞれ0.1mm、0.3mm、0.6mmおよび1.5mmとした。
【0084】
サンプル4-1~4-4のドリル100において、第2本体部82の最大径は、11mmとした。ドリル100の第1外周面3の直径(第1直径W1)に対する主溝面72の芯厚Bmの比率は、50%とした。中心軸Xと第1端部91(開始点)との距離は、中心軸Xと第1切刃4の外周端部60との距離の30%とした。中心軸Xと第2端部92(終了点)との距離は、中心軸Xと第1切刃4の外周端部60との距離の70%とした。凹み量Hは、第1外周面3の直径の2.9%とした。第1切刃4の先端角θ1は、160°とした。
【0085】
(評価方法)
次に、サンプル4-1~4-4のドリル100を用いて鋳抜き穴を加工した。被削材は、日本工業規格(JIS)H5302:2006の規定によるAl-Si-Cu系ダイカスト材料であるADC12とした。設備は、立形マシニングセンタ(FANUC株式会社製 ROBODRILL α-T14iFLa)とした。回転数は、10000rpmとした。送り量(f)は、1mm/回転とした。深さは、20mmとした。内部給油が用いられた。
【0086】
(評価結果)
【0087】
【0088】
表7に示されるように、サンプル4-1~4-4のドリル100を用いて鋳抜き穴を加工した際の穴位置度は、それぞれ、0.27mm、0.33mm、0.45mmおよび0.72mmであった。サンプル4-1および4-2のドリル100を用いて鋳抜き穴を加工した際の穴位置度は、サンプル4-3および4-4のドリル100を用いて鋳抜き穴を加工した際の穴位置度よりも小さかった。以上により、第1マージン31の長さ(第1長さA1)が0.1mm以上0.3mm以下である場合には、穴位置度が顕著に低減することが実証された。
【実施例6】
【0089】
(サンプル準備)
まず、サンプル5-1~5-5のドリル100を準備した。サンプル5-1および5-2のドリル100は、比較例に係るドリル100である。サンプル5-3~5-5のドリル100は、実施例に係るドリル100である。サンプル5-1~5-5のドリル100において、第1外周面3の直径(第1直径W1)は、6mmとした。サンプル5-1~5-5のドリル100において、第1切刃4の先端角θ1は、それぞれ135°、140°、150°、160°および175°とした。
【0090】
サンプル5-1~5-5のドリル100において、第2本体部82の最大径は、11mmとした。ドリル100の第1外周面3の直径(第1直径W1)に対する主溝面72の芯厚Bmの比率は、50%とした。中心軸Xと第1端部91(開始点)との距離は、中心軸Xと第1切刃4の外周端部60との距離の30%とした。中心軸Xと第2端部92(終了点)との距離は、中心軸Xと第1切刃4の外周端部60との距離の70%とした。凹み量Hは、第1外周面3の直径の2.9%とした。第1マージン31の長さ(第1長さA1)は、それぞれ0.15mmとした。
【0091】
(評価方法)
次に、サンプル4-1~4-4のドリル100を用いて鋳抜き穴を加工した。被削材は、日本工業規格(JIS)H5302:2006の規定によるAl-Si-Cu系ダイカスト材料であるADC12とした。設備は、立形マシニングセンタ(FANUC株式会社製 ROBODRILL α-T14iFLa)とした。回転数は、10000rpmとした。送り量(f)は、1mm/回転とした。深さは、20mmとした。内部給油が用いられた。
【0092】
(評価結果)
【0093】
【0094】
表8に示されるように、サンプル5-1~5-5のドリル100を用いて鋳抜き穴を加工した際の穴位置度は、それぞれ、0.72mm、0.5mm、0.32mm、0.26mmおよび0.25mmであった。サンプル5-3~5-5のドリル100を用いて鋳抜き穴を加工した際の穴位置度は、サンプル5-1および5-2のドリル100を用いて鋳抜き穴を加工した際の穴位置度よりも小さかった。以上により、第1切刃4の先端角θ1が150°以上175°以下である場合には、穴位置度が顕著に低減することが実証された。
【0095】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0096】
1 切屑排出面、2 逃げ面、3 第1外周面(外周面)、4 第1切刃(切刃)、5 第1後方面、6 第2後方面、7 第2切刃、8 クーラント供給孔、9 第2外周面、11 前端、12 後端、13 シャンク、14 フルート面、21 第1外周領域、22 第2外周領域、23 第3外周領域、24 第4外周領域、25 第5外周領域、31 第1マージン(マージン)、32 第2マージン、40 被削材、41 穴、50 シャンク外周面、60 外周端部、61 第1切刃部、62 第2切刃部、63 副切刃部、64 シンニング切刃部、70 副溝、71 第1面、72 主溝面、73 副溝面、74 シンニング面、81 第1本体部、82 第2本体部、83 第3本体部、84 シャンク部、91 第1端部、92 第2端部、93 中間位置、100 ドリル、A1 第1長さ、A2 第2長さ、B 芯厚、C 直線、D 距離、E 不安定加工距離、H 凹み量、L1 第1距離、L2 第2距離、L3 第3距離、L4 第4直線、R 第1矢印、W1 第1直径、W2 第2直径、W3 第3直径、X 中心軸、θ1 先端角、θ2 軸方向すくい角。