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特許7164092偏光分割多重化強度変調システムおよび該システムを使用する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】偏光分割多重化強度変調システムおよび該システムを使用する方法
(51)【国際特許分類】
   H04J 14/06 20060101AFI20221025BHJP
   H04B 10/516 20130101ALI20221025BHJP
   H04B 10/66 20130101ALI20221025BHJP
【FI】
H04J14/06
H04B10/516
H04B10/66
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020541614
(86)(22)【出願日】2018-01-31
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-06-24
(86)【国際出願番号】 JP2018003280
(87)【国際公開番号】W WO2019150509
(87)【国際公開日】2019-08-08
【審査請求日】2020-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(74)【代理人】
【識別番号】100165847
【弁理士】
【氏名又は名称】関 大祐
(74)【代理人】
【識別番号】100220696
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一郎
(72)【発明者】
【氏名】ソアレス ルイス ルーベン
(72)【発明者】
【氏名】ラーデマッハ ゲオルグ フレデリック
(72)【発明者】
【氏名】パットナム ベン
(72)【発明者】
【氏名】品田 聡
(72)【発明者】
【氏名】和田 尚也
【審査官】前田 典之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0369698(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0076507(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04J 14/06
H04B 10/516
H04B 10/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信機(3)および受信機(5)を備えるデータ伝送システム(1)であって、
前記送信機(3)は、第1の信号プロセッサ(11)および光信号発生器(13)を備え、
前記光信号発生器(13)は、X偏光成分e(t)およびY偏光成分e(t)を有する光信号を出力し、
前記第1の信号プロセッサ(11)は、第1のデータストリームSおよび第2のデータストリームSを受信し、前記第1のデータストリームおよび前記第2のデータストリームをそれぞれ反映するように前記X偏光成分および前記Y偏光成分を制御し、
前記受信機(5)は、前記X偏光成分e(t)および前記Y偏光成分e(t)を有する前記光信号を受信するただ1つの光検出器(21)および第2の信号プロセッサ(23)を備える、
データ伝送システム(1)であって、
前記第1の信号プロセッサ(11)は、発振器(25)を備え、前記第1の信号プロセッサ(11)は、以下の式(I)を使用して前記X偏光成分および前記Y偏光成分を制御し、
前記式(I)において、e(t)は、前記光信号を表し、E は、前記光信号の一定レベルの成分であり、s (t)は、前記X偏光成分で伝送される前記第1のデータストリームの信号であり、s (t)は、前記Y偏光成分で伝送される前記第2のデータストリームの信号であり、Bは、前記発振器(25)の周波数であり、jは、(-1) 1/2 である、
データ伝送システム(1)。
【請求項2】
前記第1の信号プロセッサ(11)は、前記X偏光成分e(t)および前記Y偏光成分e(t)をそれぞれ(Re(e(t)))および(Im(e(t)))になるように制御し、
e(t)は、前記式(I)で定義され、Re(e(t))は、e(t)の実部であり、Im(e(t))は、e(t)の虚部である、
請求項1に記載のデータ伝送システム(1)。
【請求項3】
前記第1の信号プロセッサ(11)は、前記X偏光成分e(t)および前記Y偏光成分e(t)をそれぞれRe(e(t))およびIm(e(t))になるように制御し、e(t)は、前記式(I)で定義され、Re(e(t))は、e(t)の実部であり、Im(e(t))は、e(t)の虚部であり、前記受信機(5)は、リニアライザを備える、
請求項1に記載のデータ伝送システム(1)。
【請求項4】
第1の信号プロセッサ(11)によって第1のデータストリームSおよび第2のデータストリームSを受信するステップと、
光信号発生器(13)から出力された出力信号のX偏光成分ex(l)およびY偏光成分e(t)がそれぞれ前記第1のデータストリームおよび前記第2のデータストリームを反映するように、前記第1の信号プロセッサ(11)によって前記出力信号を制御するステップと、
ただ1つの光検出器(21)によって前記X偏光成分ex(l)および前記Y偏光成分e(t)を有する前記出力信号を受信し、前記出力信号を使用して第2の信号プロセッサ(23)によって前記第1のデータストリームSおよび前記第2のデータストリームSを再構成するステップと
を含む、
データを送信するための方法であって、
前記第1の信号プロセッサ(11)は、発振器(25)を備え、前記第1の信号プロセッサ(11)は、以下の式(I)を使用して前記X偏光成分および前記Y偏光成分を制御し、
前記式(I)において、e(t)は、前記光信号を表し、E は、前記光信号の一定レベルの成分であり、s (t)は、前記X偏光成分で伝送される前記第1のデータストリームの信号であり、s (t)は、前記Y偏光成分で伝送される前記第2のデータストリームの信号であり、Bは、前記発振器(25)の周波数であり、jは、(-1) 1/2 である、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光分割多重化強度変調システムおよび該システムを使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
データセンタ内ネットワークおよびアクセスネットワーク一般の低コストトランシーバの現在の技術は、強度変調および直接検出に基づいている。この方式のいくつかの可能な実施形態は、図1に示されているものであり、以下のように簡潔に説明される。図1-a)は、直接変調レーザ(DML:directly modulated laser)送信の場合を示している。そこでは、エンコードされた情報を含む電気信号が直接レーザに送られる。結果として、レーザによって生成された光の強度は、その情報パターンで変調され、ファイバを介して送信される。一般的な送信光波長は、シングルモードファイバの場合、約1.3マイクロメートルである。情報パターンには2つの強度レベルがある。その場合、それは、オン/オフキーイング、またはシンボルごとに1ビットの容量を有する2パルス振幅変調(2-PAM:2-pulse-amplitude modulation)と呼ばれる。あるいは、情報パターンにはより多くのレベルの情報があり、現在、4レベルの振幅を有する4-PAMを実現するための標準化の取り組みが進行中である。この場合、シンボル間の距離が短くなり、性能が低下するが、シンボルごとに2ビットの容量が得られる。送信後の光波の検出は、光検出器(PD:photodetect)で行われる。このデバイスは、入射光の強度を電流に変換する。電流は、光波の瞬時電力に比例する。したがって、それは、レーザを駆動する元の電気信号の近似となる。図1-bは、一定の振幅の光波を生成する代替の方式であって、レーザが連続的に供給される方式を示している。このとき、この光波は、外部変調器によって変調される。一般的な低コストトランシーバは、複数のレベルの強度を有するシンボルを生成するために電界吸収変調器(EAM:electro-absorption modulator)を使用する。この方式は、チャープ(動的周波数変動)を低減することにより、図1-a)に示したDMLよりも高品質の信号を生成する。
【0003】
図1に示した従来のアプローチには、主に2つの問題がある。
【0004】
問題1.PDは、その入力で光信号の強度のみを検出することができ、生成される電流は、
r(t)=|e(t)|(1)
に比例し、ただし、e(t)は、受信電界の複素包絡線であり、単一偏光であると仮定し、tは、時間である。そのため、受信機には光場の位相に関する情報がない。このため、分散などのファイバ伝送路歪みの補償が妨げられる。これにより、データレートを上げると、伝送距離が大幅に制限される。
【0005】
問題2.送信信号は、単一偏光である。これは、2つの偏光モードを用いることができる伝送ファイバの容量を浪費するファイバ伝送路を活用していない。
理論的には二重偏光(DP:dual polarization)信号を生成できるが、これらの信号の検出にはコヒーレント受信機が必要であり、図1に示した簡単なPDよりもはるかに複雑でコストがかかる。したがって、短距離ネットワークに対して実用的な解決策ではない。
【0006】
問題1に対する従来技術の解決策は、単側波帯(SSB:single-side band)信号の使用である。特に、クラマース・クローニッヒの関係式によってサポートされるSSB信号の使用である。これらの関係式は、送信される光場包絡線が以下の形式で変換されることを示している。
【0007】
数式1
【0008】
ただし、s(t)は、元の情報信号であり、Eは、定数値であり、Bは、s(t)のスペクトルが-B/2とB/2の間に含まれるような周波数である。これは、SSB信号の標準的な定義である。ただし、EおよびBの値が適切に選択される場合、これは、最小位相信号となる[1]。その場合、その位相phi(t)=arg[e(t)]と振幅|e(t)|は、[1]のようにヒルベルト変換によって一意に関連付けられる。
【0009】
数式2
【0010】
これは、[1]のようにその強度のみを検出することにより、光場包絡線に関する情報全体を復元できることを含意する。
【0011】
数式3
【0012】
ただし、r(t)は、PDの検出電流であり、式(1)によって定義されており、ここでは以下のように表される。
【0013】
数式4
【0014】
この原理は、現在一般にクラマース・クローニッヒ(KK:Kramers-Kronig)受信機として知られている[1]。この受信機の可能な実施態様が、図2に示されている。図2-a)の場合、トーンは、MZM変調器(デルタf)を使用して送信機側で生成され、信号とともにファイバで伝送される。このアプローチは、[2]で提案されている。このアプローチには、光場をその強度だけでなく変調する必要があるという意味で、1つの大きな制限がある。このため、トーンを生成するために、マッハ・ツェンダー変調器などの、何らかの形の干渉計変調器を使用する必要がある。あるいは、図2-b)に示すように、トーンは、局部発振器により受信機側に挿入される[3]。この場合、トーンと信号との相対的な偏光に関して制限がある。この方式では、トーンの偏光と入力信号の偏光を調整するために、何らかの偏光トラッキングおよび調整メカニズムが必要である。さらに、受信機側に追加のレーザが必要になるため、トランシーバの全体的なコストが増加する。あるいは、図3-b)に示す、受信機の偏光ダイバーシティのバージョンがあり、これも問題2に対処する。
【0015】
問題2の解決策として、2つの従来技術がある。1つ目は、ストークス受信機と呼ばれるものであり[4]、2つ目は、クラマー・クローニッヒ受信機に基づいている[3]。ストークス受信機から始める。図3-a)に示すように、偏光多重化強度変調信号の生成を想定する。レーザ源からの光は、eおよびeの2つの部分に分割され、それぞれは、強度変調器によって個別に変調される。変調後、2つの成分は、偏光合成器で合成される。この場合、偏光合成器の出力における電界包絡線は、以下の形式の列ベクトルとして表されなければならない。
【0016】
数式5
【0017】
ただし、上付き文字Tは、転置を表す。この信号のストークス検出は、図3-a)に示す方式で実行される。この方式では、入力信号の偏光は分割され、一組の検出器およびハイブリッドに進む。この方式は、コヒーレントおよび直接検出受信機の組み合わせであり、デジタル信号処理(DSP:digital signal processing)を使用して2つの偏光を逆多重化できる。しかしながら、それは非常に複雑な構造となる。実際、それは、従来のコヒーレント受信機とほぼ同じくらい複雑であり、6つのPDを必要とする。なお、これらは、代替のハイブリッド構造を使用して5つのPDに削減される(ちなみに、コヒーレント受信機は8つのPDを必要とする)。
【0018】
偏光逆多重化の2番目の選択肢では、図3-b)に示す方式が使用される。この場合、入力信号は、その偏光成分に分割され、局部発振器と混合されて、KK受信機の最小位相条件を満足する[3]。その後、2つのPDが、各偏光の電界を受信するために使用される。検波の後、DSPが、偏光逆多重化に使用される。この方式には、問題1を解決するために説明したKK受信機と同じ制限がある。さらに、受信機における2つの光検出器および偏光ビームスプリッタの使用を必要とする。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0019】
【文献】A. Mecozzi,C Antonelli,and M Shtaif,“Kramers Kronig coherent receiver,” Optica,vol. 3,no. 11,p. 1220,Nov 2016.
【文献】X. Chen et al.,“2l8-Gb/s single-wavelength,single-polarization,single photodiode transmission over l25-km of standard singlemode fiber using Kramers-Kronig detection,” in OFC,2017,p. Th5B-6.
【文献】X. Chen et al.,“4x240Gb/s Dense WDM and PDM Kramers-Kronig detection with l25-km SSMF transmission,” in ECOC,2017.
【文献】M. Morsy-Osman et al.,“1 ramda x 224 Gb/s 10 km transmission of polarization division multiplexed PAM-4 signals using 1.3 micor meter SiP intensity modulator and a direct-detection MIMO-based receiver,” in ECOC,2014,pp. 1-3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
従来技術を確立した後で、低コストのアクセスネットワークトランシーバの望ましい条件は、
1.DMLまたはEAMのいずれかを使用する集積送信機
2.単一のPDを使用する簡単な受信機
として列挙できることは明らかである。
【0021】
偏光多重化を用いて容量を増加させるために、複合的な干渉計送信機、集積が難しいハイブリッドを有する複合的な受信機、および/または受信機における多数のPDを必要とする、従来技術に列挙されたすべての場合は、これらの条件を達成することができない。
【0022】
したがって、本文書の開示の目的は、DMLまたはEAMのいずれかを使用して偏光多重化を実施する簡単な送信機と、ただ1つのPDを有する受信機とを有するデータ伝送システムを実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本明細書で提案される方式は、送信機側でDMLまたはEAMのいずれかを使用し、受信機側で単一のPDを使用して偏光多重化を実現することを可能にする。提案されるシステムは、送信機構の電子的および光学的機能ならびに受信機のDSPからなる。
【0024】
本文書の開示の第1の態様は、データ伝送システムに関する。
データ伝送システム1は、送信機3および受信機5を備える。
送信機3は、第1の信号プロセッサ11および光信号発生器13を備える。
光信号発生器13は、X偏光成分e(t)およびY偏光成分e(t)を含む光信号を出力する。
第1の信号プロセッサ11は、第1のデータストリームSおよび第2のデータストリームSを受信し、第1のデータストリームSおよび第2のデータストリームSに応じて光信号のX偏光成分およびY偏光成分を制御する。
受信機5は、ただ1つの光検出器21および第2の信号プロセッサ23を備える。
【0025】
データ伝送システム1の好ましい実施形態は、第1の信号プロセッサ11が発振器25を備えることである。さらに、第1の信号プロセッサ11は、以下の式(I)を使用してX偏光成分およびY偏光成分を制御する。
【0026】
数式6
【0027】
式(I)において、e(t)は、光信号を表し、Eは、光信号の一定レベルの成分であり、s(t)は、X偏光成分で伝送される第1のデータストリームの信号であり、s(t)は、Y偏光成分で伝送される第2のデータストリームの信号であり、Bは、発振器25の周波数であり、jは、(-1)1/2である。
【0028】
データ伝送システム1の好ましい実施形態は、第1の信号プロセッサ11がX偏光成分e(t)およびY偏光成分e(t)をそれぞれ(Re(e(t)))および(Im(e(t)))になるように制御することである。e(t)は、式(I)で定義され、Re(e(t))は、e(t)の実部であり、Im(e(t))は、e(t)の虚部である。
【0029】
データ伝送システム1の好ましい実施形態は、第1の信号プロセッサ11がX偏光成分e(t)およびY偏光成分e(t)をそれぞれRe(e(t))およびIm(e(t))になるように制御することである。e(t)は、式(I)で定義され、Re(e(t))は、e(t)の実部であり、Im(e(t))は、e(t)の虚部である。受信機5は、リニアライザを備える。
【0030】
本文書の開示の第2の態様は、
第1の信号プロセッサ11によって第1のデータストリームSおよび第2のデータストリームSを受信するステップと、
光信号発生器13から出力された出力信号のX偏光成分e(t)およびY偏光成分e(t)がそれぞれ第1のデータストリームおよび第2のデータストリームに応じて、第1の信号プロセッサ11によって出力信号を制御するステップと、
ただ1つの光検出器21によって出力信号を受信するステップと、
出力信号を使用して第2の信号プロセッサ23によって第1のデータストリームSおよび第2のデータストリームSを再構成するステップと
を含む、データを送信するための方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】(a)直接変調レーザ(DML)、および(b)連続波形レーザに続いて電界吸収変調器(EAM)を使用する強度変調・直接検出(IM-DD:intensity-modulation and direct detection)の一般的な伝送方式を示している。
図2】(a)送信機に挿入されるトーンおよび(b)受信機に局部発振器として導入されるトーンを伴うクラマース・クローニッヒコヒーレント受信機の単一偏光の実施態様を示している。
図3】(a)ストークス受信機および(b)クラマー・クローニッヒ受信機に基づく直接検出をサポートする偏光多重化方式を示している。
図4】データ伝送システムの概略図を示している。
図5】第1の信号プロセッサの例を示している。
図6】第2の信号プロセッサの例を示している。
図7】(a)電気的線形化および(b)光学的線形化によるアップコンバージョンを使用する理想的なPDM-IM-DD受信機の方式。副図(c)は、線形化された信号を使用する受信機の方式を示している。線形化された信号を使用しない場合、(d)に示す受信機は、歪みを小さくすることができる。
図8】(a)線形化ありおよび(b)線形化なしで、アップコンバートされた信号を使用する単純化されたPDM-IM-DD受信機の方式を示している。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本文書の開示の第1の態様は、データ伝送システムに関する。本システムは、偏光分割多重化強度変調システムに関し得る。本システムの送信機は、光偏光分割多重化強度変調信号を送信する。
【0033】
PON(Passive Optical Network(受動光ネットワーク))、GPON(Gigabit capable Passive Optical Network(ギガビット対応受動光ネットワーク))、およびEPON(Ethenet Passive Optical Network(イーサネット受動光ネットワーク))の制約は、以下のように列挙される。
OLT(Optical Line Terminal(光回線終端装置))の場合、構成要素のコストが、ユーザ数で分けることができ、次世代100G EPONでは、光増幅器の使用が見込まれており、
25Gb/sの信号に、データセンタの25GHzハードウェアまたは既存の10GHz用ハードウェアが使用でき、外部変調レーザ(EML:Externally modulated laser)が許容できる。
ONU(Optical Network Unit(光回線終端装置))の場合、構成要素のコストが深刻であり、光増幅の使用は見込まれていない。ただし、OLTは、前置増幅器を有してもよく、25Gb/sの信号に、データセンタのための25GHzハードウェアが使用され、直接変調レーザが好ましい。
【0034】
図4は、データ伝送システムの概略図を示している。図4に示すように、データ伝送システム1は、送信機3および受信機5を備える。送信機3は、第1の信号プロセッサ11および光信号発生器13を備える。光信号発生器13は、X偏光成分e(t)およびY偏光成分e(t)を含む光信号を出力する。第1の信号プロセッサ11は、第1のデータストリームSおよび第2のデータストリームSを入力し、第1のデータストリームSおよび第2のデータストリームSに応じて、それぞれ、光信号のX偏光成分およびY偏光成分を制御する。送信機は、変調器として1つもしくは複数の直接変調レーザ(DML)または1つもしくは複数の電界吸収変調器(EAM)のみを備えることが好ましい。DMLまたはEAMは、強度変調を実行し、信号プロセッサは、偏光分割多重化を制御できる。
【0035】
図5は、第1の信号プロセッサの例を示している。図5(a)は、リニアライザを含む信号プロセッサを示している。回路は、ハードウェア資源、およびソフトウェア資源とハードウェア資源の組み合わせによって実装され得る。送信機が、ソフトウェア資源とハードウェア資源を用いて実装される場合、各要素の役割は、コンピュータプログラムによって実現され得る。リニアライザは、図では()として示されている。リニアライザの例は、日本特許第5505082号明細書および日本特許第5834804号明細書に開示されている。図では、pi/2回路が、位相差を提供する。信号発生器13は、変調器として1つもしくは複数の直接変調レーザ(DML)または1つもしくは複数の電界吸収変調器(EAM)のみを備える。Bは、発振器の周波数を表す。図5(a)および図5(b)に示されている回路の役割は、記号を辿ることで容易に理解される。
【0036】
送信機から出力される光信号は、以下によって表される。
【0037】
数式7
【0038】
ただし、eおよびeは、それぞれ光信号のX偏光成分およびY偏光成分を表す。
【0039】
受信機5は、ただ1つの光検出器21および第2の信号プロセッサ23を備える。図6は、第2の信号プロセッサの例を示している。図6(a)は、平方根演算回路、log演算回路、HT(ヒルベルト変換)回路、およびephai回路を含む信号プロセッサを示している。図6(b)は、リニアライザをさらに含む信号プロセッサを示している。回路は、ハードウェア資源、およびソフトウェア資源とハードウェア資源の組み合わせによって実装され得る。
【0040】
第2の信号プロセッサは、以下の式を実現する従来のKK受信機の構成要素から成る。
【0041】
数式8
【0042】
第2の信号プロセッサは、式(I)を適用することによって、PDから出力された出力電気信号を分析し、第1のデータストリームSおよび第2のデータストリームSの情報を復元する。
【0043】
データ伝送システム1の好ましい実施形態は、第1の信号プロセッサ11が発振器25またはリニアライザを備えることである。さらに、第1の信号プロセッサ11は、以下の式(I)を使用してX偏光成分およびY偏光成分を制御する。
【0044】
数式9
【0045】
(式(I)において、e(t)は、光信号を表し、Eは、光信号の定数成分であり、s(t)は、X偏光成分で伝送される第1のデータストリームの信号、s(t)は、Y偏光成分で伝送される第2のデータストリームの信号であり、Bは、発振器25の周波数であり、jは、(-1)1/2である。)上記は、図5に示した信号プロセッサを用いて実行される。
【0046】
データ伝送システム1の好ましい実施形態は、第1の信号プロセッサ11がX偏光成分e(t)およびY偏光成分e(t)をそれぞれ(Re(e(t)))および(Im(e(t)))になるように制御することである。e(t)は、式(I)で定義され、Re(e(t))は、e(t)の実部であり、Im(e(t))は、e(t)の虚部である。
【0047】
データ伝送システム1の好ましい実施形態は、第1の信号プロセッサ11がX偏光成分e(t)およびY偏光成分e(t)をそれぞれRe(e(t))およびIm(e(t))になるように制御することである。e(t)は、式(I)で定義され、Re(e(t))は、e(t)の実部であり、Im(e(t))は、e(t)の虚部である。受信機5は、リニアライザを備える。
【0048】
本文書の開示の第2の態様は、データを送信するための方法に関する。送信機3の第1の信号プロセッサ11は、第1のデータストリームSおよび第2のデータストリームSを受信する。第1の信号プロセッサ11は、光信号発生器13から出力される出力信号が、第1のデータストリームおよび第2のデータストリームに応じて、それぞれX偏光成分e(t)およびY偏光成e(t)を有するように、光信号に適用されるデータを制御する。次に、出力信号は、例えば光ファイバを介して受信機5に送信される。出力信号は、SSB(単側波帯)信号などの変調信号である。単一の光検出器21は、光信号発生器13から出力された出力信号を受信する。第2の信号プロセッサ23は、光検出器21から出力された電気信号を使用して第1のデータストリームSおよび第2のデータストリームSを再構成する。
【0049】
詳細なシステム
これは、これまでに提案された強度変調直接検波システムの偏光多重化の潜在的に最も低コストの構造である。図7は、EAMを使用する光学方式の概略図を示している。構成要素の総数は、以前のどの従来技術よりも大幅に少なく、それは、DMLまたはEAMおよび受信機側で1つのPDを使用することにより、実現する。
【0050】
図7において、光信号発生器13は、光源として単一のLD(レーザダイオード)を備え、2つのEAM(電界吸収変調器)を備える。これらを2つのDMLに置き換えることが可能である。バイアス電圧は、EAMに印加される。信号発生器11から出力された2つの信号は、2つのEAMに加えられる。2つのEAMから出力された信号は、PBS(偏光ビームスプリッタ)に入力される。PBSは、受信機側に送信される信号を出力する。
【0051】
本発明を説明するために、2つの偏光成分を有する信号の場合の単一偏光信号において、(1)によって表される二乗検波則を書くことから始める。
【0052】
数式10
【0053】
ただし、eおよびeは、受信される二重偏光信号の複素包絡線である。
式(7)は、よく知られている結果であるが、これを新しい方法で書くことができる。
【0054】
数式11
【0055】
ただし、e’(t)は、以下のような複素量の絶対値である。
【0056】
数式12
【0057】
したがって、e’(t)が式(2)と同じ形式を有すると想定すると、KK受信機を実装するための条件が整う。しかしながら、KK受信機が受信信号の実部および虚部を検出するように動作すると想定する代わりに、我々の発明は、X偏光成分およびY偏光成分を検出すると想定する。実際、実部および虚部を表すために使用される手段を、複素領域から偏光領域に変更した。これは、本発明の最初の革新的なステップであり、直交の代わりに偏光で、KKの基本原理を特性付けることである。ここで、e’(t)が最小位相信号の条件に従うと想定した上で、KK受信機の原理を利用してこの信号を検出することが可能となる。
【0058】
信号e’(t)を生成するために、以下の形式を想定する。
1.アップコンバートされた信号。この信号は以下の形式を取る。
【0059】
数式13
【0060】
この形式は、信号がX偏光およびY偏光でそれぞれ伝送されるsおよびsを有するが、式(2)と同様である。この信号を生成するために、図7-a)に示す方式を検討する。これは、X偏光およびY偏光で伝送される光信号の成分の計算を実行する。変調器を駆動する信号の最小帯域幅はBであることに留意されたい。しかしながら、光変調器は、駆動電圧に対して線形の光強度を有するようにバイアスされる。我々のシステムでは、光場を駆動電圧に対して線形にすることが望ましい。したがって、駆動信号の電気的な線形化が必要となる。この場合、駆動信号をその二乗値に変換する必要がある。これにより、必要な帯域幅が2Bに増加する。この問題を防ぐために、図7-b)に示すように、生成された光場が既に非線形性を含むように、変調器をその特性の非線形部にバイアスし得る。図7-c)は、ヒルベルト変換(HT:Hilbert transform)およびダウンコンバージョンを含む受信機を示している。あるいは、非線形化信号を使用する。これにより、送信機および受信機の実現が簡素になる。しかしながら、非線形化によって生じる歪みにより、信号は劣化し得る。この歪みを処理するために、図7-d)に示すように、受信機には線形化モジュールを含める。
【0061】
2.簡素化されたアップコンバートされた信号
この場合、以下の形式の信号を想定することで、形式1のアップコンバージョンプロセスを簡素化する。
【0062】
数式14
【0063】
これにより、X偏光信号およびY偏光信号を生成するために必要なアップコンバージョンの数は減少するが、多少の歪みが生じる。機構を簡素化する利点を考えると、この歪みは許容可能であり得る。図8-a)および図8-b)は、線形化ありまたはなしの可能な方式を示している。これらの方式は、それぞれ図7-c)および図7-d)で示されている受信機を使用しなければならない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8