(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】ドリルおよびドリル加工装置
(51)【国際特許分類】
B23B 51/00 20060101AFI20221025BHJP
【FI】
B23B51/00 L
(21)【出願番号】P 2018019526
(22)【出願日】2018-02-06
【審査請求日】2020-05-07
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(73)【特許権者】
【識別番号】595054589
【氏名又は名称】株式会社デンソーダイシン
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】社本 英二
(72)【発明者】
【氏名】早坂 健宏
(72)【発明者】
【氏名】赤理 光
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】実開昭60-074904(JP,U)
【文献】特開2009-202288(JP,A)
【文献】実開昭48-044088(JP,U)
【文献】特表平11-502775(JP,A)
【文献】特表平02-501207(JP,A)
【文献】特開2016-078209(JP,A)
【文献】米国特許第04802799(US,A)
【文献】特開2002-126921(JP,A)
【文献】実開昭51-031193(JP,U)
【文献】特開2004-261931(JP,A)
【文献】特開2004-338032(JP,A)
【文献】特開2010-253616(JP,A)
【文献】国際公開第2010/143595(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 51/00-51/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドリル本体の先端に形成された切れ刃と、ドリル本体の先端側にすくい面を有して前記すくい面からドリル本体の後端側に向けて延設される切屑排出溝とを備えたドリルであって、
前記すくい面において、前記切れ刃が設けられた稜線部または稜線部近傍から前記切屑排出溝の延設方向に沿って延びる1つ以上の溝を有する切屑案内部を備え、
前記溝は前記すくい面の断面において、径方向内側の第1溝部と、径方向外側の第2溝部を有して形成され、前記第1溝部と前記第2溝部は、非対称な形状を有
し、
前記第1溝部は、切屑の横向きカールを抑制する形状を有して、前記切屑案内部は、前記切屑排出溝の延設方向に線状の切屑を流出させる、
ことを特徴とするドリル。
【請求項2】
前記切屑案内部は、前記切れ刃の両端の間に複数の溝を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載のドリル。
【請求項3】
前記第1溝部は、前記第2溝部よりも急峻な面を有する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のドリル。
【請求項4】
前記第1溝部は、すくい面に対して略垂直方向に形成される、
ことを特徴とする請求項1から
3のいずれかに記載のドリル。
【請求項5】
すくい面において切屑排出溝の延設方向に沿って設けられた切屑案内部を備えたドリルを回転させる回転ユニットと、
前記ドリルの前記切屑排出溝から排出される線状切屑を切断または回収する処置部と、を備え、
前記ドリルにおいて前記切屑案内部は、切れ刃が設けられた稜線部または稜線部近傍から前記切屑排出溝の延設方向に沿って延びる1つ以上の溝を有し、前記溝は前記すくい面の断面において、径方向内側の第1溝部と径方向外側の第2溝部を有して形成され、前記第1溝部と前記第2溝部は非対称な形状を有し、前記第1溝部は、切屑の横向きカールを抑制する形状を有して、前記切屑案内部は、前記切屑排出溝の延設方向に線状切屑を流出させるものであって、
前記処置部は、前記ドリルから離れた位置に、前記ドリルの回転による遠心力により前記切屑排出溝から離れた線状切屑を切断する切断部材または線状切屑を巻き取る巻き取り機構を有する、
ことを特徴とするドリル加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ドリルおよびドリル加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ドリル本体の外周面には、螺旋状の切屑排出溝が凹設されており、切削加工時に生成される切屑は、切屑排出溝の内壁に衝突して分断されて、切屑排出溝から外部に排出される。このとき切屑は3次元的にカールされた状態で分断されるため、カールの状態によっては、うまく切屑排出溝から排出されずに詰まることがある。切屑排出性を向上するためには、切屑排出溝の断面積を大きくしてチップポケットを拡大すればよいが、ドリル強度の低下を招くという問題がある。
【0003】
特に近年では、部品の軽量化の要請により部品穴の小径化が進んでいる。そのため使用するドリルも小径化しており、ドリル強度を確保する必要性から、切屑排出溝の断面積を大きくすることは一層難しくなっている。そこで切削加工中に、往復送りやステップ送り運動を適用して切屑を切削穴から排出させる工程が必要となるが、非加工時間が増えることで加工能率は下がる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで切屑排出溝に切屑を詰まらせずに、高能率な切削加工を実現するドリルの開発が望まれている。本開示者は、切屑排出溝における詰まりの原因が、切屑が3次元的にカールされた状態で分断されることにあると考え、切屑の流出挙動を改善することで、高能率加工を実現するドリルを想到するに至った。
【0006】
本開示はこうした状況に鑑みてなされており、その目的とするところは、切屑の排出性に優れたドリルを提供し、また当該ドリルを用いるドリル加工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示のある態様のドリルは、ドリル本体の先端に形成された切れ刃と、ドリル本体の先端側にすくい面を有して当該すくい面からドリル本体の後端側に向けて延設される切屑排出溝とを備えたドリルであって、すくい面において切屑排出溝の延設方向に沿って設けられた切屑案内部を備える。
【0008】
本開示の別の態様のドリル加工装置は、すくい面において切屑排出溝の延設方向に沿って設けられた切屑案内部を備えたドリルまたは被削材を回転させる回転ユニットと、ドリルの切屑排出溝から排出される線状切屑を切断または回収する処置部とを備える。
【0009】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本開示の表現を方法、装置、システムなどの間で変換したものもまた、本開示の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、切屑の排出性に優れたドリルを提供し、また当該ドリルを用いるドリル加工装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態のドリル加工装置の構成を示す図である。
【
図4】すくい面のA-A断面の一部の例を示す図である。
【
図5】すくい面のA-A断面の一部の別の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、実施形態のドリル加工装置1の構成を示す。ドリル加工装置1は、ドリル10を回転させる回転ユニット2と、回転ユニット2を垂直方向に移動させる駆動ユニット3と、回転ユニット2によるドリル10の回転および駆動ユニット3による回転ユニット2の垂直方向の移動を制御する制御ユニット4と、被削材6を固定する固定具7とを備える。ドリル10は、回転ユニット2の回転軸に固定された保持具14により保持される。回転ユニット2は取付部材5に固定され、駆動ユニット3は取付部材5に連結して取付部材5を垂直方向に動かすことで、回転ユニット2が垂直方向に移動する。
【0013】
実施形態のドリル加工装置1では、被削材6の切屑を3次元的にカールした状態で切屑排出溝に流出させるのではなく、切屑を2次元的な線状の状態で切屑排出溝に流出させるドリル10を用いた穴加工が実施される。2次元的な線状の切屑は分断されることなく、切屑排出溝を案内路として外部に排出される。そこでドリル加工装置1は、ドリル10の切屑排出溝から排出される線状切屑を切断または回収する処置部11を備える。
【0014】
実施形態で処置部11は、切削穴の外部において、ドリル10の回転による遠心力により切屑排出溝から離れた線状切屑を切断する切断部材12を有する。切断部材12は、取付部材5に設けられた長穴において、ばねなどの付勢部材13により付勢されて、垂直方向に進退可能に収容されており、切断部材12の先端は、被削材6または固定具7に接触した状態を維持する。切削加工中、遠心力により切屑排出溝から離れた線状切屑は、切断部材12に衝突して切断される。
【0015】
なお図示の処置部11は、線状切屑を切断する構成をもつが、たとえば線状切屑の巻き取り機構を有して、線状切屑を回収するものであってもよい。
【0016】
図2は、ドリル10の構成の例を示す。ドリル10は、被削材6に穴加工を行う切削工具であり、ドリル本体20およびシャンク21を有する。
図2に示す例では、軸線L方向のドリル本体20の一部が省略して図示されている。矢印Rは、ドリル10の回転方向を示し、角度αは、切屑排出溝23のねじれ角を示す。
【0017】
シャンク21が保持具14に保持されることで、ドリル10がドリル加工装置1に取り付けられる。回転ユニット2の回転力は保持具14を介してシャンク21に伝達され、ドリル10が軸線L回りに、矢印Rで示す方向に回転する。
【0018】
ドリル本体20は、ドリル本体20の先端に形成された切れ刃22と、ドリル本体20の先端側にすくい面24を有して当該すくい面24からドリル本体20の後端側に向けて延設される切屑排出溝23とを備える。ドリル本体20の先端には、2枚の切れ刃22が対称に設けられ、これら2枚の切れ刃22に対応して、ドリル本体20の外周面に2本の切屑排出溝23が螺旋状に凹設されている。切屑排出溝23は、先端側にて切れ刃22のすくい面24を構成して、切削加工時に切れ刃22によって生成される切屑を切削穴から外部に排出する機能をもつ。
【0019】
逃げ面25は、切削加工時にドリル本体20の先端部と被削材6との接触面積を減らして切削抵抗を抑制するために設けられる。切れ刃22は、逃げ面25とすくい面24との稜線部に形成される。
【0020】
通常のドリル切削によると、切屑に上向きカールと横向きカールが発生する。上向きカールは、切れ刃22と平行な軸回りのカールであり、切屑とすくい面との摩擦により発生する。横向きカールは、すくい面法線回りのカールであり、切れ刃22の内外径速度差により発生する。特にドリル10においては、切れ刃22が略中心位置からドリル外径まで延在するため、横向きカールの直径は概ねドリル直径と一致することになり、大きな横向きカールが生じる。切屑に上向きカールと横向きカールが発生すると、切屑が切れ刃22から3次元的にカールして生成されるため、切屑排出溝の内壁に衝突して分断されるようになり、特に穴が深くて切屑排出溝が狭いと、溝内に詰まる可能性がある。
【0021】
そこで実施形態のドリル10は、すくい面24において切屑排出溝23が延設される方向に実質的に沿って設けられた切屑案内部30を備える。切屑案内部30は、切屑排出溝23の延設方向に一致する方向に設けられることが好ましく、略一致する方向に設けられていてもよい。略一致する方向とは、切屑排出溝23の延設方向に対して、たとえば20度以内の角度をもつ方向を含む。切屑案内部30は、生成される切屑にカールが発生することを抑制するとともに、切屑の流出方向を規制する。切屑案内部30は、すくい面24を切り欠いて形成した1本以上の溝を有してよく、またすくい面24に設けた2本以上の突条部により形成した1本以上の溝を有してもよい。
【0022】
図3は、切屑案内部30の拡大図を示す。図示されるように、切屑案内部30は、すくい面24において切屑排出溝23の延設方向に実質的に沿って設けられ、切れ刃22が設けられた稜線部または稜線部近傍から切屑排出溝23の延設方向に実質的に沿って延びる1本以上の案内溝を有する。
【0023】
ドリル加工装置1のすくい面24に切屑案内部30を形成したことで、切れ刃22が被削材6を切削する際に、すくい面24に接触する切屑の塑性変形部分が、切屑案内部30の案内溝に嵌まり、切屑が案内溝に嵌った状態で、案内溝に沿う方向に流出するように案内される。このとき横向きカールは、塑性変形部分が案内溝に嵌まることで抑制され、上向きカールは、案内溝形状が転写された切屑が上向きカールが生じる方向に対して平らな構造にならず曲がりにくくなることで抑制される。これにより2次元的な切屑、すなわち、案内溝よりも大きな幅をもつ線状の切屑が、案内溝に沿う方向、すなわち切屑排出溝23の実質的な延設方向に流出される。これにより線状の切屑は、切屑排出溝23に沿って連続的に流出することになり、切屑排出溝23における詰まりを生じさせない。
【0024】
上向きカールおよび横向きカールを効果的に抑制するために、切屑案内部30は、切れ刃22の両端の間に、複数の案内溝を有することが好ましい。
図3には、切屑案内部30が、等間隔で複数の案内溝を有する様子を示しているが、複数の案内溝の間隔は、等間隔でなくてもよい。なお切屑案内部30における案内溝は、カール抑制効果および流出方向の規制効果を高めるために切屑の中央に対して少なくとも中心寄りに形成されることが好ましい。
【0025】
またカール抑制効果および流出方向の規制効果を高めるために、案内溝は、切屑厚みの2倍よりも深くなるように形成されることが好ましい。また案内溝は、切屑の接触長さ(切り込みの例えば3倍程度)よりも長くなるように形成されることが好ましい。なお案内溝は、接触長さより短くてもよいが、その場合には流出の妨げにならないように、切れ刃22から離れるにしたがって徐々に浅くなるように形成されることが好ましい。
【0026】
図4は、すくい面24のA-A断面の一部の例を示す。切屑案内部30は、互いに平行に設けられた複数の案内溝31を有する。各案内溝31は、径方向内側(中心側)の第1溝部31aと、径方向外側(外径側)の第2溝部31bを有して形成される。第1溝部31aと第2溝部31bとが実質的に対称な形状を有することで、急峻な斜面となることを避けることができるため、切屑が幅方向に分断されにくく、ドリル10の製造が容易となる。たとえば切屑案内部30は、正弦波形状をもつ断面を有してよい。
【0027】
図5は、すくい面24のA-A断面の一部の別の例を示す。切屑案内部30は、互いに平行に設けられた複数の案内溝32を有する。各案内溝32は、径方向内側(中心側)の第1溝部32aと、径方向外側(外径側)の第2溝部32bを有して形成される。案内溝32において、第1溝部31aと第2溝部31bとは非対称形状を有する。この例では、第1溝部32aを、すくい面24に対して略垂直方向に形成している。第1溝部32aをすくい面24に対して略垂直方向の壁部とすることで、切屑の横向きカールを効果的に抑制し、切屑の流出方向を効果的に規制できる。
【0028】
図6は、
図5に示す案内溝32を有するドリル10を用いて、穴加工を実施したときの切屑の例を示す。この例では、ドリル10の送り速度を変化させたときの切屑を示しており、切屑は、2次元的な線状の形状を有して詰まることなく切削穴から排出されている。
【0029】
以上のように、切屑案内部30が、切屑を直線状に切屑排出溝23の延設方向に流出させることにより、切屑の詰まりを生じさせない穴加工を実現できる。また切屑排出溝23内を切屑が分断されることなく進行することで、事実上ドリル強度が許す限りにおいて、加工能率に直接影響を与えるドリル送り速度を高速にできる。またカールが抑制されたまっすぐな切屑は、2次元的であって嵩張らないため、切屑排出溝23の断面積を小さくでき、ドリル強度を高めることが可能となる。
【0030】
以上、本開示を実施形態をもとに説明した。この実施形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本開示の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0031】
実施形態のドリル加工装置1は、回転ユニット2がドリル10を回転させるが、変形例のドリル加工装置1では、ドリル10を固定して、回転ユニット2が、被削材6を回転させてもよい。
【0032】
本開示の態様の概要は、次の通りである。本開示のある態様は、ドリル本体の先端に形成された切れ刃と、ドリル本体の先端側にすくい面を有してすくい面からドリル本体の後端側に向けて延設される切屑排出溝とを備えたドリルに関する。当該ドリルは、すくい面において切屑排出溝の延設方向に沿って設けられた切屑案内部を備える。なお切屑排出溝の延設方向に沿って設けられた切屑案内部は、切屑排出溝の延設方向に、所期の目的を逸脱しない範囲で実質的に沿って設けられたものを含んでよい。
【0033】
この態様によると、切屑案内部がすくい面に設けられることで、切屑を、切屑排出溝の略延設方向に流出させることが可能となる。
【0034】
切屑案内部は、切れ刃が設けられた稜線部または稜線部近傍から切屑排出溝の延設方向に沿って延びる1本以上の溝を有することが好ましい。切屑排出溝の延設方向に沿って延びる溝は、切屑排出溝の延設方向に実質的に沿って延びる溝を含んでよい。切屑案内部は、切れ刃の両端の間に複数の溝を有することが好ましい。切屑案内部が複数の溝を有することで、切屑の流出方向を安定させることができ、切屑のカール抑制も可能となる。
【0035】
溝は、径方向内側の第1溝部と、径方向外側の第2溝部を有して形成されている。このとき第1溝部と第2溝部は対称な形状を有してよい。ここで対称な形状とは、所期の目的を逸脱しない範囲で実質的に対称な形状を含んでよい。また第1溝部と第2溝部は非対称形状を有して、第1溝部はすくい面に対して略垂直方向に形成されてもよい。
【0036】
本開示の別の態様は、すくい面において切屑排出溝の延設方向に沿って設けられた切屑案内部を備えたドリルまたは被削材を回転させる回転ユニットと、ドリルの切屑排出溝から排出される線状切屑を切断または回収する処置部とを備えたドリル加工装置に関する。なお切屑排出溝の延設方向に沿って設けられた切屑案内部は、切屑排出溝の延設方向に実質的に沿って設けられたものを含んでよい。
【符号の説明】
【0037】
1・・・ドリル加工装置、2・・・回転ユニット、3・・・駆動ユニット、10・・・ドリル、11・・・処置部、12・・・切断部材、13・・・付勢部材、20・・・ドリル本体、22・・・切れ刃、23・・・切屑排出溝、24・・・すくい面、25・・・逃げ面、30・・・切屑案内部、31・・・案内溝、31a・・・第1溝部、31b・・・第2溝部、32・・・案内溝、32a・・・第1溝部、32b・・・第2溝部。