(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】抗疲労経口組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/164 20060101AFI20221025BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20221025BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
A61K31/164
A61P3/02
A61P43/00 111
(21)【出願番号】P 2019541013
(86)(22)【出願日】2018-09-07
(86)【国際出願番号】 JP2018033138
(87)【国際公開番号】W WO2019049964
(87)【国際公開日】2019-03-14
【審査請求日】2021-07-29
(31)【優先権主張番号】P 2017172536
(32)【優先日】2017-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】517315066
【氏名又は名称】株式会社ジェヌインR&D
(73)【特許権者】
【識別番号】591027927
【氏名又は名称】福岡県醤油醸造協同組合
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮鍋 征克
(72)【発明者】
【氏名】植木 達朗
(72)【発明者】
【氏名】菅原 達也
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 祐樹
【審査官】鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-254632(JP,A)
【文献】特開2012-180311(JP,A)
【文献】特開2012-126910(JP,A)
【文献】福岡県リサイクル総合研究事業化センター成果発表会,2016年06月16日,pp.1-19,インターネット:<URL: http://www.recycle-ken.or.jp/k_seika/2016/0302_genuin_rd.pdf>
【文献】Fragrance Journal,2013年,Vol.41,No.12,pp.44-49
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61P 3/02
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フリーセラミドを含む、抗疲労経口組成物。
【請求項2】
セラミド骨格が(ヒドロキシル基を3個有し、炭素数18で、炭素間二重結合を0又は1個有するスフィンゴイド塩基)-(炭素数22~26、炭素間二重結合が0、ヒドロキシル基を0、1、又は2個有する脂肪酸)の組み合わせであるフリーセラミド、並びに、セラミド骨格が(ヒドロキシル基を3個有し、炭素数20で、炭素間二重結合を有さないスフィンゴイド塩基)-(炭素数24又は25、炭素間二重結合が0、ヒドロキシル基を0、1又は2個有する脂肪酸)の組み合わせであるフリーセラミド、
からなる群より選択される少なくとも1種のフリーセラミドを含む、
請求項
1に記載の抗疲労経口組成物。
【請求項3】
t18:0-22:0h、
t18:1-22:0h、
t18:0-23:0h、
t18:1-23:0h、
t18:0-24:0h、
t18:1-24:0h、
t20:0-24:0h、
t18:1-26:0h、
t18:0-25:0h、及び
t18:0-24:0h
2
からなる群より選択される少なくとも1種のフリーセラミドを含む、
請求項
2に記載の抗疲労経口組成物。
【請求項4】
少なくとも、t18:0-24:0h、t18:1-24:0h、及びt20:0-24:0hを含む、請求項
3に記載の抗疲労経口組成物。
【請求項5】
t18:0-24:0h、t18:1-24:0h、及びt20:0-24:0hの合計量が、含有されるフリーセラミド全量の30質量%以上である、
請求項
4に記載の抗疲労経口組成物。
【請求項6】
抗疲労が、体の疲れやすさ改善、及び/又は、全身倦怠感改善である、請求項
1~5のいずれかに記載の抗疲労経口組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗疲労経口組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、セラミドはヒト表皮の細胞間脂質の主成分であることから、機能性化粧品素材等として市場を拡大している。加齢による角質セラミドは徐々に減少することが知られており、このため外用セラミドの補給が健康な肌を保つために重要ではないかと考えられている。また、角質層細胞間脂質として存在するセラミドは遊離型のフリーセラミドであることから、フリーセラミドにも注目が集まっている。
【0003】
これまでに、有用なセラミドを効率的に調製するための研究も行われてきている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
セラミドについては、その肌への与える効果に関しては研究開発が盛んに行われているものの、その他の機能についてはほとんど研究開発はなされていない。
【0006】
そこで、本発明は、セラミドの新たな機能を見出すことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、セラミドを経口摂取することにより、抗疲労効果が奏される可能性を見出し、さらに改良を重ねて本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明は例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
セラミドを含む、抗疲労経口組成物。
項2.
フリーセラミドを含む、項1に記載の抗疲労経口組成物。
項3.
セラミド骨格が(ヒドロキシル基を3個有し、炭素数18で、炭素間二重結合を0又は1個有するスフィンゴイド塩基)-(炭素数22~26、炭素間二重結合が0、ヒドロキシル基を0、1、又は2個有する脂肪酸)の組み合わせであるフリーセラミド、並びに、セラミド骨格が(ヒドロキシル基を3個有し、炭素数20で、炭素間二重結合を有さないスフィンゴイド塩基)-(炭素数24又は25、炭素間二重結合が0、ヒドロキシル基を0、1又は2個有する脂肪酸)の組み合わせであるフリーセラミド、
からなる群より選択される少なくとも1種のフリーセラミドを含む、
項2に記載の抗疲労経口組成物。
項4.
t18:0-22:0h、
t18:1-22:0h、
t18:0-23:0h、
t18:1-23:0h、
t18:0-24:0h、
t18:1-24:0h、
t20:0-24:0h、
t18:1-26:0h、
t18:0-25:0h、及び
t18:0-24:0h2
からなる群より選択される少なくとも1種のフリーセラミドを含む、
項3に記載の抗疲労経口組成物。
項5.
少なくとも、t18:0-24:0h、t18:1-24:0h、及びt20:0-24:0hを含む、項4に記載の抗疲労経口組成物。
項6.
t18:0-24:0h、t18:1-24:0h、及びt20:0-24:0hの合計量が、含有されるフリーセラミド全量の30質量%以上である、
項5に記載の抗疲労経口組成物。
項7.
抗疲労が、体の疲れやすさ改善、及び/又は、全身倦怠感改善である、項1~6のいずれかに記載の抗疲労経口組成物。
項8.
t18:0-22:0h、
t18:1-22:0h、
t18:0-23:0h、
t18:1-23:0h、
t18:0-24:0h、
t18:1-24:0h、
t20:0-24:0h、
t18:1-26:0h、
t18:0-25:0h、及び
t18:0-24:0h2
からなる群より選択される少なくとも1種のフリーセラミドを含む、経口セラミド組成物。
項9.
少なくとも、t18:0-24:0h、t18:1-24:0h、及びt20:0-24:0hを含む、項8に記載の経口セラミド組成物。
項10.
t18:0-24:0h、t18:1-24:0h、及びt20:0-24:0hの合計量が、含有されるフリーセラミド全量の30質量%以上である、
項9に記載の経口セラミド組成物。
項11.
速攻吸収用である、項1~10のいずれかに記載の経口セラミド組成物。
項12.
速効疲労回復用である、項1~10のいずれかに記載の経口セラミド組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、抗疲労経口組成物が提供される。当該抗疲労経口組成物は経口摂取により、疲労を改善させ得る。
【0010】
また、セラミドの経口摂取による抗疲労効果を見出すにあたり、本発明者らは特定のセラミドが経口摂取時に極めて速やかに吸収され血中にとりこまれ得ることをも見出し、この点についても検討を重ね、特定のセラミドを含むセラミド経口組成物についても発明をするに至った。本発明に包含される経口セラミド組成物は、特定のセラミドを含むことにより、特に腸管吸収性及び血中移行性に優れる。よって、これら特定のフリーセラミド種を含有する経口組成物は、他のセラミドと比べ、経口摂取時に速効性が高いと考えられる。また、公知のセラミドの効果についても、他のセラミドに比べて、経口摂取時に得られる効果は高いと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】セラミド組成物経口摂取前後において、POMS(Profile of Mood States)を用いて「体が疲れやすい」かについて評価した結果を示す。
【
図2】セラミド組成物経口摂取前後において、POMS(Profile of Mood States)を用いて「全身がだるい」かについて評価した結果を示す。
【
図3】セラミド組成物をLC-MS(高速液体クロマトグラフ質量分析計)にて解析し、当該セラミド組成物に含まれる各種フリーセラミド種について分析した結果を示す。
【
図4】セラミド組成物経口摂取による肌への影響(経皮水分蒸散量(TEWL))を検討した結果を示す。
【
図5】ICRマウスにセラミド組成物3mgを経口投与し、投与3時間後に採血して、血漿中に存在する各フリーセラミド種をLC-MSにより解析した結果を示す。
【
図6】フリーセラミドの構造理解の助けのため、フリーセラミドの一例を構造式で示す。
【
図7】セラミド組成物経口摂取前後において、気分尺度アンケートを用いて「昼間の眠気が強い」かについて評価した結果を示す。
【
図8】セラミド組成物経口摂取前後において、気分尺度アンケートを用いて「多忙感」を有するかについて評価した結果を示す。
【
図9】セラミド組成物経口摂取前後において、CFSを用いて「横になっていたいと感じ」るかについて評価した結果を示す。
【
図10】セラミド組成物経口摂取前後において、CFSを用いて「ぐったりと感じ」るかについて評価した結果を示す。
【
図11】セラミド組成物経口摂取前後において、CFSを用いて「身体がだるいと感じ」るかについて評価した結果を示す。
【
図12】セラミド組成物経口摂取前後において、POMSを用いて「緊張する」かについて評価した結果を示す。
【
図13】セラミド組成物経口摂取前後において、POMSを用いて「積極的な気分」かについて評価した結果を示す。
【
図14】セラミド組成物経口摂取前後において、POMSを用いて「元気がいっぱい」かについて評価した結果を示す。
【
図15】セラミド組成物経口摂取前後において、POMSを用いて「活気がわいてくる」かについて評価した結果を示す。
【
図16】セラミド組成物経口摂取前後において、POMSを用いて「疲れた」かについて評価した結果を示す。
【
図17】セラミド組成物経口摂取前後において、POMSを用いて「だるい」かについて評価した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の各実施形態について、さらに詳細に説明する。
【0013】
本発明は抗疲労経口組成物を包含する。当該抗疲労経口組成物はセラミドを含む。セラミドはスフィンゴイド塩基のアミノ基(-NH2)に脂肪酸のカルボキシル基(-COOH)が結合した構造(-NH-CO-)を有する化合物である。セラミドのスフィンゴイド塩基のアルコール性ヒドロキシル基(-OH)に、更に糖及びリン酸などの極性基が結合し、それぞれスフィンゴ糖脂質及びスフィンゴリン脂質となる。ここで、糖が結合したものを特にグリコシルセラミドと呼び、特に糖がグルコースである場合グルコシルセラミドと呼ぶ。セラミドに糖及びリン酸が結合していない場合を特にフリーセラミドと呼ぶ。本発明の抗疲労経口組成物に含まれるセラミドとしては、フリーセラミドが好適である。
【0014】
フリーセラミドを構成するスフィンゴイド塩基としては、ヒドロキシル基を2又は3個有するものが好ましく、3個有するものがより好ましい。また、当該スフィンゴイド塩基は、炭素数14~22(14、15、16、17、18、19、20、21、又は22)であるものが好ましく、炭素数16~20であるものがより好ましく、炭素数18又は20であるものがさらに好ましい。また、炭素間二重結合を0又は1有するものが好ましい。より具体的な好ましいスフィンゴイド塩基としては、例えばスフィンゴシン、ジヒドロスフィンゴシン、フィトスフィンゴシン等が挙げられる。
【0015】
フリーセラミドを構成する脂肪酸としては、炭素数16~30(16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、又は30)の脂肪酸が好ましく、炭素数18~28の脂肪酸がより好ましく、炭素数20~26の脂肪酸がさらに好ましく、炭素数22~26の脂肪酸がよりさらに好ましい。また、炭素間二重結合を0又は1個有する脂肪酸が好ましく、0個有する脂肪酸(すなわち飽和脂肪酸)がより好ましい。また、ヒドロキシル基を0、1、又は2個有する脂肪酸が好ましく、1又は2個有する脂肪酸がより好ましい。特に制限されないが、ヒドロキシル基を有する場合、α-ヒドロキシル基であることが好ましい。
【0016】
フリーセラミドにおいて、セラミド骨格の(スフィンゴイド塩基)-(脂肪酸)の組み合わせは、上記のスフィンゴイド塩基及び脂肪酸をどのように組み合わせたものであってもよい。中でも好ましい組み合わせとして、例えば、(ヒドロキシル基を2又は3(特に3)個有するスフィンゴイド塩基)-(ヒドロキシル基を有する(特にα-ヒドロキシル基を有する)脂肪酸)の組み合わせが挙げられる。当該脂肪酸のヒドロキシル基数は0、1、又は2が好ましく、1又は2がより好ましい。
【0017】
例えば、フィトスフィンゴシン(P)とヒドロキシル基数1の脂肪酸(A)の組み合わせであるセラミドAP、フィトスフィンゴシン(P)とヒドロキシル基数0脂肪酸(N)の組み合わせであるセラミドNP等が好ましく挙げられる。またさらに、フィトスフィンゴシン(P)とヒドロキシル基数2の脂肪酸(D)の組み合わせであるセラミドDPも好ましく例示できる。なお、セラミドAP、及びセラミドNPは一般に使用される用語であるが、セラミドDPは本明細書中で使用する用語であって、一般に使用される用語ではない。セラミドDPとしては、具体的には例えば、ジヒドロキシリグノセロイルフィトスフィンゴシン等が挙げられる。
【0018】
これらのなかでも、フリーセラミドとして、(i)セラミド骨格が(ヒドロキシル基を3個有し、炭素数18で、炭素間二重結合を0又は1個有するスフィンゴイド塩基)-(炭素数22~26、炭素間二重結合が0、ヒドロキシル基を0、1、又は2個有する脂肪酸)の組み合わせであるフリーセラミド、並びに、(ii)セラミド骨格が(ヒドロキシル基を3個有し、炭素数20で、炭素間二重結合を有さないスフィンゴイド塩基)-(炭素数24又は25、炭素間二重結合が0、ヒドロキシル基を0、1、又は2個有する脂肪酸)の組み合わせであるフリーセラミド、が好ましい。なかでも、より具体的には例えば、t18:0-22:0h、t18:1-22:0h、t18:0-23:0h、t18:1-23:0h、t18:0-24:0h、t18:1-24:0h、t20:0-24:0h、t18:1-26:0h、t18:0-25:0h、及びt18:0-24:0h2等が好ましい。なお、当該表記について「t18:0-22:0h」を例に挙げて説明すると、この前半部分の「t18:0」がスフィンゴイド塩基についての情報であって、ヒドロキシル基を3個(「t」)有し、炭素数が「18」で、炭素間二重結合を「0」個有する(すなわち、炭素間二重結合を有さない)スフィンゴイド塩基を示している。また、この後半部分「22:0h」が脂肪酸についての情報であって、炭素数「22」、炭素間二重結合が「0」、ヒドロキシル基を1個有する(「h」)脂肪酸である脂肪酸であることを示している。なお、「h2」はヒドロキシル基を2個有することを示す。
【0019】
上記具体的なフリーセラミドの中でも、特にt18:0-24:0h、t18:1-24:0h、及びt20:0-24:0hが好ましい。
【0020】
また、本発明の抗疲労経口組成物には、少なくともフリーセラミドとしてt18:0-24:0h、t18:1-24:0h、及びt20:0-24:0hが含まれることが好ましく、当該組成物に含まれるフリーセラミド全量に対して、t18:0-24:0h、t18:1-24:0h、及びt20:0-24:0hの合計量が30質量%、40質量%、又は50質量%以上となることがより好ましい。
【0021】
なお、各セラミドは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、各セラミドは、公知の方法か、又は公知の方法から容易に想到できる方法により、調製することができる。また、市販されるセラミドを購入して用いることもできる。例えば、株式会社ジェヌインR&Dから外用美容素材として販売される天然ヒト型セラミドは、本発明に係る組成物に用いるために好ましいセラミド種を多く含んでおり、好適である。また例えば、上記特許文献1に記載の方法により、本発明の抗疲労経口組成物に好適なセラミド種を含有する組成物を得ることができる。
【0022】
本発明に係る抗疲労経口組成物は、疲労回復及び/又は疲労予防等のために好適に用いることができる。疲労としては、特に限定されないが、例えば眠気(特に昼間の眠気)、多忙感、疲労感(例えば、体が疲れやすい、横になっていたい、ぐったりしている、身体がだるい、緊張する、等といった感覚)、積極性の欠如、充実感(元気がいっぱい、活気がわいてくる、等と行った感覚)の欠如、等が挙げられ、これらの回復及び/又は予防のために本発明に係る抗疲労経口組成物を好ましく用いることができる。
【0023】
本発明に係る抗疲労経口組成物は、例えば、医薬分野及び食品分野で好ましく用いられる。当該組成物は、以下に詳述するように、セラミドのみからなるものでもよいし、セラミド及び他の成分(各種基剤、担体、添加剤等)を含む組成物であってもよい。セラミド含有生体組織抽出物そのものも当該組成物に含まれる。つまり、セラミド含有生体組織抽出物(及び必要に応じてさらに他の成分が配合されたもの)も本発明に係る抗疲労経口組成物として用い得る。
【0024】
本発明に係る抗疲労経口組成物を医薬分野(医薬品及び医薬部外品を含む)にて用いる場合、当該組成物(以下「本発明に係る医薬組成物」と記載することがある)は、各種セラミドのみからなるものでもよいし、他の成分を配合した医薬組成物でもよい。例えば、本発明に係る医薬組成物においては、有効成分であるセラミドに、必要に応じて薬学的に許容される基剤、担体、添加剤(例えば賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、溶剤、甘味剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤、界面活性剤、保湿剤、保存剤、pH調整剤、粘稠化剤等)等を配合することができる。このような基材、担体、添加剤等は、例えば医薬品添加物辞典2016(株式会社薬事日報社)に具体的に記載されており、例えばこれに記載されるものを用いることができる。また製剤形態も特に制限されず、常法により有効成分及びその他の成分を混合し、例えば錠剤、被覆錠剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、カプセル剤、丸剤、液剤、懸濁剤、乳剤、ゼリー剤、チュアブル剤、ソフト錠剤等の製剤に調製することができる。例えば、錠剤の製造は打錠法により行い得る。混合した原料をそのまま打錠する直接打錠法、混合した原料を顆粒にしてから打錠する顆粒打錠法、のいずれも用い得る。また例えば、カプセル剤の場合はソフトカプセル及びハードカプセルのいずれであってもよい。
【0025】
本発明に係る医薬組成物におけるセラミドの配合量は、抗疲労効果が発揮される限り特に制限されず、対象者に応じて適宜設定できる。好ましくは0.0005~100質量%、より好ましくは0.005~90質量%、さらに好ましくは0.05~80質量%である。なお、下限は10質量%、20質量%、30質量%、40質量%、50質量%、60質量%、70質量%、又は80質量%程度であってもよい。
【0026】
本発明に係る医薬組成物を投与する対象としては、制限はされないが、疲労感を感じているヒトが好適である。疲労感は若干感じる程度でも強く感じる程度であってもよい。またさらに、近い将来に肉体的及び/又は精神的疲労を生じることが予測される場合に、予防的に用いることもできる。
【0027】
さらには、本発明に係る医薬組成物を投与する対象には、ヒトのみならず、非ヒト哺乳動物も含まれる。疲労を示す哺乳動物が例示でき、特にペット及び家畜として飼育される哺乳動物が好ましい。具体的には、イヌ、ネコ、サル、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウサギ、マウス、ラット、ラクダ、リャマ等が例示できる。哺乳動物の場合も、人の場合と同様、本発明に係る医薬組成物を予防的に用いることもできる。
【0028】
本発明に係る医薬組成物の投与時期は特に限定されず、例えば製剤形態、投与対象の年齢、投与対象の症状の程度等を考慮して適宜投与時期を選択することが可能である。なお、投与形態は経口投与である。
【0029】
本発明に係る医薬組成物の投与量は、投与対象の年齢、投与対象の症状の程度、その他の条件等に応じて適宜選択され得る。特に含まれるセラミド量を基準として、本発明の効果が損なわれない範囲で適宜設定することができる。なお、1日1回又は複数回(好ましくは2~3回)に分けて投与することができる。哺乳動物の場合も、当該人の場合を参考として適宜投与量を設定できる。
【0030】
本発明に係る抗疲労経口組成物を食品組成物(例えば飲食品や食品添加物)として用いる場合、当該組成物(以下「本発明に係る食品組成物」と記載することがある)は、セラミド、及び食品衛生学上許容される基剤、担体、添加剤、その他飲食品として利用され得る成分・材料等が適宜配合されたものである。例えば、セラミドを含む、疲労改善用若しくは予防用の加工食品、飲料、健康食品(栄養機能食品、特定保健用食品等)、サプリメント、病者用食品(病院食、病人食又は介護食等)等の食品組成物が例示できる。特に制限はされないが、当該食品組成物に配合されるセラミドが生物(特に動物又は植物)組織から抽出された生体組織抽出セラミドである場合は、例えば当該セラミドが配合された加工食品、健康食品(栄養機能食品、特定保健用食品等)、サプリメント、病者用食品等であることが好ましい。また、セラミドを例えば粉末状にする等して、飲料類(ジュース等)、菓子類、パン類、スープ類(粉末スープ等を含む)、加工食品等の各種飲食品に含有させたものであってもよい。
【0031】
なお、健康食品(栄養機能食品、特定保健用食品等)、サプリメントとして、本発明に係る食品組成物を調製する場合は、継続的な摂取が行いやすいように、例えば顆粒、カプセル、錠剤(チュアブル剤等を含む)、飲料(ドリンク剤)等の形態に調製することが好ましく、なかでもカプセル、タブレット、錠剤の形態が摂取の簡便さの点からは好ましいが、特にこれらに限定されるものではない。顆粒、カプセル、錠剤等の形態の、本発明に係る食品組成物は、薬学的及び/又は食品衛生学的に許容される担体等を用いて、常法に従って適宜調製することができる。また、他の形態に調製する場合であっても、従来の方法に従えばよい。
【0032】
本発明に係る食品組成物におけるセラミドの配合量は、抗疲労効果が発揮され得る限り特に制限されない。、好ましくは0.0005~100質量%、より好ましくは0.005~90質量%、さらに好ましくは0.05~80質量%である。なお、下限は10質量%、20質量%、30質量%、40質量%、50質量%、60質量%、70質量%、又は80質量%程度であってもよい。
【0033】
本発明に係る食品組成物は、疲労症状改善又は予防のために好ましく用いることができる。また、摂取量、摂取対象等は、例えば上述した本発明に係る医薬組成物と同様であることが好ましい。
【0034】
なお、病院食とは病院に入院した際に供される食事であり、病人食は病人用の食事であり、介護食とは被介護者用の食事である。本発明に係る食品組成物は、特に入院、自宅療養等されている患者、あるいは介護を受けられている患者であって疲労を感じている対象者用の病院食、病人食又は介護食として好ましく用いることができる。また、近い将来に肉体的及び/又は精神的疲労を生じることが予測される場合に、予防的に用いることもできる。
【0035】
本発明はまた、セラミドを含む経口セラミド組成物も包含する。当該経口セラミド組成物は、上記のセラミドを含む抗疲労経口組成物をも包含する。換言すれば、上記抗疲労経口組成物は、当該経口セラミド組成物の好ましい一態様であって、特に抗疲労という用途に用いるものであるといえる。
【0036】
本発明に係る経口セラミド組成物において、含まれるセラミド種、その他成分等については、上記の抗疲労経口組成物についてのそれらと同様である。ただし、投与対象としては特に制限されない。抗疲労効果を必要とする対象のみならず、例えば、肌機能改善効果を必要とする対象等も包含される。
【0037】
本発明に係る経口セラミド組成物に含まれるセラミド種としてはフリーセラミドが好ましく、中でも好ましいのは、t18:0-22:0h、t18:1-22:0h、t18:0-23:0h、t18:1-23:0h、t18:0-24:0h、t18:1-24:0h、t20:0-24:0h、t18:1-26:0h、t18:0-25:0h、及びt18:0-24:0h2等であり、特にt18:0-24:0h、t18:1-24:0h、及びt20:0-24:0hが好ましい。また、少なくともフリーセラミドとしてt18:0-24:0h、t18:1-24:0h、及びt20:0-24:0hが含まれることが好ましく、当該組成物に含まれるフリーセラミド全量に対して、t18:0-24:0h、t18:1-24:0h、及びt20:0-24:0hの合計量が30質量%、40質量%、又は50質量%以上となることがより好ましい。
【0038】
上記特定のフリーセラミド種を含有することにより、本発明に係る経口セラミド組成物は、特に腸管吸収性及び血中移行性に優れる。よって、これら特定のフリーセラミド種を含有する経口組成物は、他のセラミドと比べ、経口摂取時に速効性が高いと考えられる。また、公知のセラミドの効果についても、他のセラミドに比べて、経口摂取時に得られる効果は高いと考えられる。
【0039】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term "comprising" includes "consisting essentially of” and "consisting of.")。
【実施例】
【0040】
以下、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
セラミド組成物の調製
特開2012-126910号公報に記載の方法を参考に、醤油の搾り粕をエタノール抽出し、溶媒分画して高純度フリーセラミドを精製して、セラミド組成物を得た。
【0041】
より具体的には、次のようにして当該調製を行った。すなわち、常法により製造された醤油の副産物である圧搾粕の乾燥物についてエタノール抽出を行い、得られた抽出物をエタノール及び水を用いて固液分離して固形部を得た。さらに当該固形部をアセトン、エタノール、及び水で洗浄し、乾燥及び粉砕してさらに水、アセトン、及びヘキサンで洗浄したのち、再度エタノール抽出して得られた固形部をセラミド組成物として得た。
【0042】
セラミド組成物の経口摂取による抗疲労効果検討1
1カプセル当たり、セラミド組成物2mg又は10mgを含むサプリメントカプセルを調製した。具体的には、乳糖とセラミド組成物を混合した後、当該混合物をプルランハードカプセルに充填してサプリメントカプセルを調製した。また、セラミド組成物を含まないカプセル(乳糖のみを充填)も調製した。
【0043】
健康な成人40人を、プラセボ群13人、低用量群14人、高用量群13人に群分けし、プラセボ群にはセラミド組成物非含有カプセルを、低用量群にはセラミド組成物2mg含有カプセルを、高用量群にはセラミド組成物10mg含有カプセルを、それぞれ1日1カプセルずつ、28日間摂取させた(二重盲検法)。当該摂取開始前及び摂取後において、POMS(Profile of Mood States)を用いて気分尺度アンケートをとった。「体が疲れやすい」か、及び「全身がだるい」か、について評価した。POMSにおけるこれらの項目は、5段階評価アンケートに回答してもらう形式であり、各群における回答の平均値を解析した結果を、
図1及び
図2に示す。
【0044】
当該結果から、セラミド組成物を経口摂取することにより、抗疲労効果が得られることがわかった。
【0045】
セラミド組成物のLC-MSによる組成分析
セラミド組成物をLC-MS(高速液体クロマトグラフ質量分析計)にて解析し、当該セラミド組成物に含まれる各種フリーセラミド種について分析した。当該分析から解った、当該セラミド組成物における各種フリーセラミド種の含有割合(質量%)について、
図3に示す。t18:0-24:0h、t18:1-24:0h、及びt20:0-24:0hの3種のフリーセラミド種で、当該セラミド組成物の50質量%以上を占めていた。また、その他にもフリーセラミドが含まれることがわかった。
【0046】
セラミド組成物の経口摂取による肌への影響の検討
ヘアレスマウス(雌、7週齢)を用いて、セラミド組成物の経口摂取による肌への影響を検討した。食餌にセラミド組成物を0.1重量%配合して、ヘアレスマウス(n=5)に2週間与えた。同様に、食餌にトウモロコシ由来植物グルコシルセラミド(長良サイエンス株式会社)を0.1重量%配合して、ヘアレスマウス(n=5)に2週間与えた。また、通常の食餌を2週間与えたヘアレスマウス(n=5)をコントロールとした。
【0047】
この検討期間、検討初日、7日目、11日目、及び14日目に、各ヘアレスマウスの経皮水分蒸散量(TEWL)をTewameter(Courage+Khazaka社製)を用いて測定した。結果を
図4に示す。
図4では、セラミド組成物は「セラミド」、トウモロコシ由来植物グルコシルセラミドは「グルコシルセラミド」と、表す。
【0048】
当該結果から、用いたセラミド組成物からは経口摂取により経皮水分蒸散量(TEWL)改善効果が得られること、及びその効果は、植物由来セラミド(トウモロコシ由来植物グルコシルセラミド)に比べて高いこと、が分かった。
【0049】
セラミド組成物の腸管からの吸収効率の検討
ICRマウスにセラミド組成物3mgを経口投与し、投与3時間後に採血して、血漿中に存在する各フリーセラミド種をLC-MSにより解析した。セラミド組成物を投与していないICRマウスからも血液を採取して同様の解析を行った。結果を
図5に示す。
図5において、セラミド組成物は「WSS」と表記される。また、黄色マーカーが付されたフリーセラミド種は、MS/MSで確認を行ったものを示す(それ以外のフリーセラミド種は分子イオンから推定したものである)。投与したセラミド組成物と類似した分子種が血液中から多く検出されており、投与3時間後という短時間後の解析結果であることをふまえると、投与した各フリーセラミド種は、そのまま腸管から吸収されている可能性が示唆された。また、仮に腸管吸収前に一度分解され、吸収後に再合成されていると考えても、投与した各フリーセラミド種が血中に素早く取り込まれることに変わりはない。従って、用いたセラミド組成物に含まれる各フリーセラミド、中でもt18:0-24:0h、t18:1-24:0h、及びt20:0-24:0hの3種は特に腸管吸収性及び血中移行性に優れていることがわかった。このことから、これら特定のフリーセラミド種を含有する組成物については、セラミドの中でも経口摂取時に速効性が高いことが示唆された。
【0050】
セラミド組成物の経口摂取による抗疲労効果検討2
1カプセル当たり、セラミド組成物2mgを含むサプリメントカプセルを調製した。具体的には、デキストランとセラミド組成物を混合した後、プルランハードカプセルに充填してサプリメントカプセルを調製した。また、セラミド組成物を含まないカプセル(デキストランのみ充填)も調製した。
健康な成人40人を、プラセボ群19人、セラミド群20人に群分けし、プラセボ群にはセラミド組成物非含有カプセルを、セラミド群にはセラミド組成物2mg含有カプセルを、それぞれ1日1カプセルずつ、84日間摂取させた(二重盲検法)。当該摂取開始前及び摂取後において、気分尺度アンケート(SD法(Semantic Differential Technique)による)、CFS(Cancer Fatigue Scale:がん患者の倦怠感を評価する質問票)、及びPOMS(Profile of Mood States)による評価を行った。具体的には、気分尺度アンケートでは16問、CFSでは15問、POMSでは30問の項目を有するアンケートについて、被験者に回答してもらい、集計した。以下に各アンケートの特定のアンケート項目及び評価結果について記載する。
【0051】
気分尺度アンケート項目「昼間の眠気が強い」及び「多忙感」、CFSアンケート項目「横になっていたいと感じますか」、「ぐったりと感じますか」、及び「身体がだるいと感じますか」、並びにPOMSアンケート項目「緊張する」、「積極的な気分だ」、「元気がいっぱいだ」、「活気がわいてくる」、「疲れた」、及び「だるい」、についての回答を集計し評価した。なお、これら項目のアンケートは、次の5段階又は4段階のいずれに当てはまるかを選択してもらう形式で行った。
気分尺度アンケート(「昼間の眠気が強い」):「全くあてはまらない」1点、「わずかにあてはまる」2点、「少しあてはまる」3点、「かなりあてはまる」4点、「非常にあてはまる」5点
気分尺度アンケート(「多忙感」):「全く忙しくない」1点、「さほど忙しくない」2点、「忙しい」3点、「大変忙しい」4点
CFSアンケート:「いいえ」1点、「少し」2点、「まあまあ」3点、「かなり」4点、「とても」5点
POMSアンケート:「まったくなかった」1点、「すこしあった」2点、「まあまああった」3点、「かなりあった」4点、「非常に多くあった」5点
【0052】
各項目のプラセボ群及びセラミド群における回答を解析した結果を
図7~17に示す。なお、これらの図ではセラミド群は2mg群と表記する。また、摂取開始前及び摂取後をそれぞれ事前及び事後と表記する。
【0053】
図7~17に示すように、上記アンケート項目全てにおいて、摂取開始前と摂取後とでは、プラセボ群では有意差はなかったが、セラミド群では有意差があった。当該結果からも、セラミド組成物を経口摂取することにより、抗疲労効果が得られることが確認できた。