(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】構造物用補修剤及び構造物用補修剤作製キット
(51)【国際特許分類】
C04B 22/14 20060101AFI20221025BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20221025BHJP
C04B 22/06 20060101ALI20221025BHJP
C04B 22/10 20060101ALI20221025BHJP
C04B 24/28 20060101ALI20221025BHJP
C04B 24/00 20060101ALI20221025BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20221025BHJP
E01D 1/00 20060101ALI20221025BHJP
E02D 37/00 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
C04B22/14 B
C04B22/08 Z
C04B22/06 Z
C04B22/10
C04B24/28 A
C04B24/00
E04G23/02 B
E01D1/00 C
E02D37/00
(21)【出願番号】P 2020027292
(22)【出願日】2020-02-20
【審査請求日】2022-06-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 英一
(72)【発明者】
【氏名】山本 鋼志
(72)【発明者】
【氏名】丸山 一平
(72)【発明者】
【氏名】刈茅 孝一
(72)【発明者】
【氏名】島田 昌紀
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 節男
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-060410(JP,A)
【文献】特開2003-026460(JP,A)
【文献】特開昭64-022345(JP,A)
【文献】特開2017-115539(JP,A)
【文献】特表2007-535600(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 - 32/02
E04G 23/02
E01D 1/00
E02D 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物を補修するために用いられる補修剤であって、
硬化性成分と、炭酸イオン又はカルシウムイオンを放出可能な化合物とを含
み、
前記硬化性成分が、硬化性化合物と、硬化剤とを含み、
前記硬化性化合物が、エポキシ化合物、シリコーン化合物、フェノール化合物、又はビニルエステル化合物である、構造物用補修剤。
【請求項2】
前記炭酸イオン又はカルシウムイオンを放出可能な化合物が、ケイ酸三カルシウム、ケイ酸二カルシウム、カルシウムアルミネート、カルシウムアルミノフェライト、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸ナトリウム、又は炭酸水素ナトリウムである、請求項1に記載の構造物用補修剤。
【請求項3】
前記炭酸イオン又はカルシウムイオンを放出可能な化合物が、マイクロカプセルの内包物である、請求項1
又は2に記載の構造物用補修剤。
【請求項4】
前記マイクロカプセルが、前記炭酸イオン又はカルシウムイオンを放出可能な化合物を放出可能である、請求項
3に記載の構造物用補修剤。
【請求項5】
前記炭酸イオン又はカルシウムイオンを放出可能な化合物の表面が、コーティング剤により被覆されている、請求項1
又は2に記載の構造物用補修剤。
【請求項6】
混合によって、構造物用補修剤を得るための構造物用補修剤作製キットであって、
第1の組成物と、第2の組成物とを有し、
前記第1の組成物が、硬化性化合物を含み、
前記第2の組成物が、硬化剤を含み、
前記第1の組成物及び前記第2の組成物の少なくとも一方が、炭酸イオン又はカルシウムイオンを放出可能な化合物を含
み、
前記硬化性化合物が、エポキシ化合物、シリコーン化合物、フェノール化合物、又はビニルエステル化合物である、構造物用補修剤作製キット。
【請求項7】
混合によって、構造物用補修剤を得るための構造物用補修剤作製キットであって、
第1の組成物と、第2の組成物と、第3の組成物とを有し、
前記第1の組成物が、硬化性化合物を含み、
前記第2の組成物が、硬化剤を含み、
前記第3の組成物が、炭酸イオン又はカルシウムイオンを放出可能な化合物を含
み、
前記硬化性化合物が、エポキシ化合物、シリコーン化合物、フェノール化合物、又はビニルエステル化合物である、構造物用補修剤作製キット。
【請求項8】
前記炭酸イオン又はカルシウムイオンを放出可能な化合物が、ケイ酸三カルシウム、ケイ酸二カルシウム、カルシウムアルミネート、カルシウムアルミノフェライト、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸ナトリウム、又は炭酸水素ナトリウムである、請求項
6又は
7に記載の構造物用補修剤作製キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート等の構造物に用いる補修剤に関する。また、本発明は、上記構造物用補修剤を得るための構造物用補修剤作製キットに関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁及びトンネル等の構造物では、建築時に施工不良が生じたり、建築されてから長期間経過したりすると、ひび割れ及びジャンカ等が生じることがある。ひび割れ及びジャンカ等が発生した構造物では、構造物の強度が低下する。構造物の多くは、交通及び輸送等の社会基盤インフラを担っているため、建替えや取り壊しを安易に行うことができない。また、インフラ機能を停止させての大規模な補修又は補強は、困難である。
【0003】
そのため、構造物の補修方法として、ひび割れ部分やジャンカ部分に、エポキシ樹脂等の硬化性樹脂を含む補修剤を注入し、該硬化性樹脂を硬化させる方法が広く行われている(例えば、特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-031661号公報
【文献】特開2018-104996号公報
【文献】特開2015-030987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の補修剤を用いて、構造物のひび割れ部分やジャンカ部分の補修を行った場合、補修からある程度の期間が経過するまでは、補修した箇所の強度を高めることができる。しかしながら、エポキシ樹脂等を含む従来の補修剤では、雨水及びコンクリートに付着した水分等によって、硬化したエポキシ樹脂が徐々に劣化して、補修剤と構造物表面との界面において、界面剥離が生じることがある。また、季節変動や繰り返しの振動・伸縮によっても、補修剤と構造物表面との界面において、界面剥離が生じることがある。このため、従来の補修剤では、補修した箇所の強度が徐々に低下し、補修から長期間経過すると(例えば、補修から20年~50年経過後)、再度の補修が必要となる。
【0006】
なお、補修剤としてモルタルを用いると、補修箇所の強度を長期間維持することができる。しかしながら、モルタルの粘度は高いため、ひび割れ部分及びジャンカ部分等のわずかな空隙部に、該モルタルを効率よく注入することは困難であり、作業性に劣る。
【0007】
本発明の目的は、補修した箇所の強度を高めることができ、かつ高い強度を長期間維持することができる構造物用補修剤を提供することである。また、本発明の目的は、上記構造物用補修剤を得るための構造物用補修剤作製キットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の広い局面によれば、構造物を補修するために用いられる補修剤であって、硬化性成分と、炭酸イオン又はカルシウムイオンを放出可能な化合物とを含む、構造物用補修剤が提供される。
【0009】
本発明に係る構造物用補修剤のある特定の局面では、前記炭酸イオン又はカルシウムイオンを放出可能な化合物が、ケイ酸三カルシウム、ケイ酸二カルシウム、カルシウムアルミネート、カルシウムアルミノフェライト、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸ナトリウム、又は炭酸水素ナトリウムである。
【0010】
本発明に係る構造物用補修剤のある特定の局面では、前記硬化性成分が、硬化性化合物と、硬化剤とを含む。
【0011】
本発明に係る構造物用補修剤のある特定の局面では、前記炭酸イオン又はカルシウムイオンを放出可能な化合物が、マイクロカプセルの内包物である。
【0012】
本発明に係る構造物用補修剤のある特定の局面では、前記マイクロカプセルが、前記炭酸イオン又はカルシウムイオンを放出可能な化合物を放出可能である。
【0013】
本発明に係る構造物用補修剤のある特定の局面では、前記炭酸イオン又はカルシウムイオンを放出可能な化合物の表面が、コーティング剤により被覆されている。
【0014】
本発明の広い局面によれば、混合によって、構造物用補修剤を得るための構造物用補修剤作製キットであって、第1の組成物と、第2の組成物とを有し、前記第1の組成物が、硬化性化合物を含み、前記第2の組成物が、硬化剤を含み、前記第1の組成物及び前記第2の組成物の少なくとも一方が、炭酸イオン又はカルシウムイオンを放出可能な化合物を含む、構造物用補修剤作製キットが提供される。
【0015】
本発明の広い局面によれば、混合によって、構造物用補修剤を得るための構造物用補修剤作製キットであって、第1の組成物と、第2の組成物と、第3の組成物とを有し、前記第1の組成物が、硬化性化合物を含み、前記第2の組成物が、硬化剤を含み、前記第3の組成物が、炭酸イオン又はカルシウムイオンを放出可能な化合物を含む、構造物用補修剤作製キットが提供される。
【0016】
本発明に係る構造物用補修剤作製キットのある特定の局面では、前記炭酸イオン又はカルシウムイオンを放出可能な化合物が、ケイ酸三カルシウム、ケイ酸二カルシウム、カルシウムアルミネート、カルシウムアルミノフェライト、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸ナトリウム、又は炭酸水素ナトリウムである。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る構造物用補修剤は、構造物を補修するために用いられる補修剤であって、硬化性成分と、炭酸イオン又はカルシウムイオンを放出可能な化合物とを含む。本発明に係る構造物用補修剤では、上記の構成が備えられているので、補修した箇所の強度を高めることができ、かつ高い強度を長期間維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る構造物用補修剤を用いた、構造物の補修方法を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0020】
(構造物用補修剤)
本発明に係る構造物用補修剤(以下、「補修剤」と略記することがある)は、構造物を補修するために用いられる。本発明に係る補修剤は、硬化性成分と、炭酸イオン又はカルシウムイオンを放出可能な化合物(以下、「化合物X」と記載することがある)とを含む。本発明に係る補修剤は、硬化性成分と、化合物Xとを含む。
【0021】
本発明に係る補修剤では、上記の構成が備えられているので、補修した箇所の強度を高めることができ、かつ高い強度を長期間維持することができる。
【0022】
本発明に係る補修剤では、構造物のひび割れ部分やジャンカ部分に該補修剤を注入又は充填した後、硬化性成分が硬化し、補修した箇所の強度を高めることができる。また、補修した箇所が、雨水及びコンクリートに付着した水分等と接触した場合、これらの水分に含まれる炭酸イオン又はカルシウムイオンと、上記補修剤に含まれる化合物Xから放出された炭酸イオン又はカルシウムイオンとが化学反応し、水分と硬化した補修剤との接触面において、炭酸カルシウム(セメント)が生成する。すなわち、硬化した補修剤の表面に、炭酸カルシウム層が生成する。生成した炭酸カルシウムにより、補修箇所の強度はさらに高められる。また、生成した炭酸カルシウムにより、補修剤と水分とのさらなる接触が効果的に抑えられ、硬化性成分の硬化物の劣化及び構造物の劣化を効果的に抑えることができる。このため、本発明に係る補修剤では、補修した箇所の強度及び構造物の強度を長期間高く維持することができる。なお、炭酸カルシウムは、通常、数カ月~数年をかけて生成すると考えられる。
【0023】
また、本発明に係る補修剤は、補修する箇所が乾燥状態であっても、湿潤状態であっても用いることができる。本発明に係る補修剤は、ひび割れ内部が乾燥状態であっても、湿潤状態であっても用いることができる。さらに、本発明に係る補修剤は、ひび割れから水が流出している場合であっても、用いることができる。このため、本発明に係る補修剤は、様々な用途の構造物を迅速に補修することが可能である。
【0024】
上記構造物としては、コンクリート構造物、RC高架橋構造物、山岳トンネル、及び地下トンネル等が挙げられる。本発明の効果がより一層効果的に発揮されるので、上記構造物は、コンクリート構造物であることが好ましい。上記構造物用補修剤は、コンクリート構造物用補修剤であることが好ましい。
【0025】
以下、本発明に係る補修剤に用いられる各成分の詳細などを説明する。
【0026】
<硬化性成分>
上記補修剤は、硬化性成分を含む。上記硬化性成分は、硬化可能な成分である。上記硬化性成分は、23℃で液状であってもよく、23℃でペースト状であってもよく、23℃で半固形状であってもよい。上記硬化性成分としては、硬化性化合物、硬化剤、及び光重合開始剤等が挙げられる。上記硬化性成分は、上記硬化性化合物と、上記硬化剤とを含むことが好ましい。上記硬化性成分は、上記硬化性化合物と上記硬化剤との混合物であることが好ましい。上記硬化性化合物、上記硬化剤、及び上記光重合開始剤はそれぞれ、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0027】
上記硬化性成分は、樹脂と溶剤とを混合した樹脂含有溶液を加熱乾燥して、溶剤を除去して得られる23℃で固体の樹脂であってもよく、モノマー溶液又はオリゴマー溶液を重合して得られる23℃で固体のポリマーであってもよく、2種以上のモノマー又は2種以上のオリゴマーを反応させて得られる23℃で固体のポリマーであってもよい。
【0028】
上記補修剤は、硬化性化合物を含むことが好ましい。上記補修剤は、上記硬化性成分として、硬化性化合物を含むことが好ましい。上記硬化性化合物としては、硬化剤との混合により硬化可能な硬化性化合物、加熱により硬化可能な熱硬化性化合物、光の照射により硬化可能な光硬化性化合物等が挙げられる。上記補修剤を補修箇所に充填してから硬化させる観点及び保存安定性の観点から、上記硬化性化合物は、上記硬化剤との混合により硬化可能な硬化性化合物であることが好ましい。上記硬化剤との混合により硬化可能な硬化性化合物は、熱硬化性化合物であってもよく、熱硬化性化合物でなくてもよい。上記硬化剤との混合により硬化可能な硬化性化合物は、例えば、硬化剤との混合により、0℃以下で硬化可能な硬化性化合物であってもよい。
【0029】
上記硬化性化合物としては、エポキシ化合物、ポリオール化合物、シリコーン化合物、フェノール化合物、ビニルエステル化合物、及びナフトキサジン化合物等が挙げられる。硬化後の補修箇所の強度をより一層効果的に高める観点から、上記硬化性化合物は、エポキシ化合物であることが好ましい。
【0030】
上記エポキシ化合物としては、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ビスフェノールS型エポキシ化合物、水添加ビスフェノールA型エポキシ化合物、ダイマー酸変性ビスフェノールA型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、ナフタレン型エポキシ化合物、ビフェニル型エポキシ化合物、ダイマー酸型エポキシ化合物、トリエポキシプロピルイソシアヌレート(トリグリシジルイソシアヌレート)、ヒダントインエポキシ化合物、脂肪族系エポキシ化合物、ジシクロ環型エポキシ化合物、グリシジルエーテル型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、及びグリシジルアミン型エポキシ化合物等が挙げられる。
【0031】
上記エポキシ化合物の硬化剤(エポキシ硬化剤)としては、アミン化合物、イミダゾール化合物、アミド化合物、シアノ化合物、及び酸無水物等が挙げられる。上記アミン化合物としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、それらのアミンアダクト、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、及びジアミノジフェニルスルホン等が挙げられる。上記イミダゾール化合物としては、メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-イソブチル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、エチルイミダゾール、イソプロピルイミダゾール、2,4-ジメチルイミダゾール、フェニルイミダゾール、ウンデシルイミダゾール、ヘプタデシルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、及び2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール等が挙げられる。上記アミド化合物としては、ポリアミド等が挙げられる。上記シアノ化合物としては、ジシアンジアミド等が挙げられる。上記酸無水物としては、無水マレイン酸及びその化合物、無水フタル酸及びその化合物等が挙げられる。
【0032】
上記エポキシ化合物と上記エポキシ硬化剤とを反応させることにより、エポキシ樹脂の硬化物を得ることができる。
【0033】
本発明の効果をより一層効果的に発揮させる観点からは、上記エポキシ化合物は、ビスフェノールA型エポキシ化合物、又はビスフェノールF型エポキシ化合物であることが好ましい。本発明の効果をより一層効果的に発揮させる観点からは、上記エポキシ硬化剤は、アミン系硬化剤(アミン化合物)、又は酸系硬化剤であることが好ましい。
【0034】
上記エポキシ化合物と上記エポキシ硬化剤との配合比は、エポキシ化合物とエポキシ硬化剤との種類の組み合わせによって適宜変更可能である。上記エポキシ化合物と上記エポキシ硬化剤との配合比は、例えば、エポキシ当量(活性水素当量)を基準にして、設定することができる。上記エポキシ化合物100重量部に対して、上記エポキシ硬化剤の含有量は、好ましくは10重量部以上、より好ましくは20重量部以上、好ましくは120重量部以下、より好ましくは100重量部以下である。
【0035】
上記ポリオール化合物としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、シクロヘキサンジオール、メチルシクロヘキサンジオール、イソホロンジオール、ジシクロヘキシルメタンジオール、ジメチルジシクロヘキシルメタンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、多塩基酸と多価アルコールとを脱水縮合して得られる重合体、ε-カプロラクトン又はα-メチル-ε-カプロラクトンなどのラクトンを開環重合して得られる重合体等が挙げられる。
【0036】
上記ポリオール化合物の硬化剤としては、ポリイソシアネート化合物等が挙げられる。上記ポリイソシアネート化合物としては、芳香族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、及び脂肪族ポリイソシアネート等が挙げられる。上記芳香族ポリイソシアネートとしては、フェニレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ジメチルジフェニルタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、及びポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート等が挙げられる。上記脂環族ポリイソシアネートとしては、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、及びジメチルジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等が挙げられる。上記脂肪族ポリイソシアネートとしては、メチレンジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、及びヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0037】
上記ポリオール化合物と上記ポリイソシアネート化合物とを硬化反応させることにより、ウレタン樹脂を得ることができる。
【0038】
本発明の効果をより一層効果的に発揮させる観点からは、上記ポリオール化合物は、ポリエステルポリオール、又はポリエーテルポリオールであることが好ましい。本発明の効果をより一層効果的に発揮させる観点からは、上記ポリオール化合物の硬化剤(ポリイソシアネート化合物)は、ジフェニルメタンジイソシアネート、又はトルエンジイソシアネートであることが好ましい。
【0039】
上記ポリオール化合物と上記ポリイソシアネート化合物との配合比は、ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物との種類の組み合わせによって適宜変更可能である。上記ポリイソシアネート化合物の配合量は、上記ポリオール化合物の水酸基量と、上記ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基量(NCO量)とが等量となる量であることが好ましい。
【0040】
上記シリコーン化合物としては、ケイ素原子に結合したアルケニル基を2個以上有するオルガノポリシロキサン等が挙げられる。上記オルガノポリシロキサンの主鎖は、ジオルガノシロキサンの重合体が一般的であるが、一部枝分かれした構造又は環状の構造を有していてもよい。上記オルガノポリシロキサンが有するアルケニル基としては、ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、1-メチル-2-プロペニル基、ペテニル基、へキセニル基、オクテニル基、及びシクロへキセニル基等が挙げられる。
【0041】
上記シリコーン化合物の硬化剤(架橋剤)としては、SiH基を2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン等が挙げられる。上記オルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、フェニルメチルハイドロジェンポリシロキサン、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、及び両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体等が挙げられる。
【0042】
上記フェノール化合物としては、ノボラック型フェノール、ビフェノール型フェノール、ナフタレン型フェノール、ジシクロペンタジエン型フェノール、アラルキル型フェノール、及びジシクロペンタジエン型フェノール等が挙げられる。
【0043】
上記フェノール化合物の硬化剤としては、ヘキサメチレンテトラミン、及びパラホルムアルデヒド等が挙げられる。
【0044】
上記ビニルエステル化合物としては、エポキシ化合物と不飽和一塩基酸との反応物等が挙げられる。上記エポキシ化合物としては、ビスフェノールAジグリシジルエーテル及びその高分子量同族体、ノボラック型ポリグリシジルエーテル及びその高分子量同族体、並びに1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル等の脂肪族系グリシジルエーテル類等が挙げられる。上記不飽和一塩基酸としては、アクリル酸及びメタクリル酸等が挙げられる。上記エポキシ化合物と、上記アクリル酸及び上記メタクリル酸との反応物としては、エポキシ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0045】
上記ビニルエステル化合物の硬化剤としては、有機過酸化物等が挙げられる。上記有機過酸化物としては、ケトンパーオキサイド、パーベンゾエート、ハイドロパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアリルパーオキサイド、パーオキシエステル、及びパーオキシジカーボネート等が挙げられる。
【0046】
上記硬化性成分が上記ビニルエステル化合物を含む場合に、該硬化性成分は、ラジカル重合性不飽和単量体を含んでいてもよい。上記ラジカル重合性不飽和単量体としては、スチレンモノマー、スチレンのα-,o-,m-,p-アルキル,ニトロ,シアノ,アミド,エステル誘導体、クロルスチレン、ビニルトルエン、及びジビニルベンゼン等のスチレン系モノマー、ブタジエン、2,3-ジメチルブタジエン、イソプレン、及びクロロプレン等のジエン類;(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸-n-プロピル、(メタ)アクリル酸-i-プロピル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフリル、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート及びフェノキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリル酸アミド及び(メタ)アクリル酸N,N-ジメチルアミド等の(メタ)アクリル酸アミド;(メタ)アクリル酸アニリド等のビニル化合物;シトラコン酸ジエチル等の不飽和ジカルボン酸ジエステル;N-フェニルマレイミド等のモノマレイミド化合物;N-(メタ)アクリロイルフタルイミドなどが挙げられる。
【0047】
なお、上記硬化性成分が上記ビニルエステル化合物を含む場合に、後述する構造物用補修剤作製キットにおいては、後述の第1の組成物が、上記ビニルエステル化合物と上記ラジカル重合性不飽和単量体とを含むことが好ましい。
【0048】
上記補修剤100重量%中、上記硬化性化合物の含有量は、好ましくは20重量%以上、より好ましくは30重量%以上、さらに好ましくは50重量%以上であり、好ましくは95重量%以下、より好ましくは70重量%以下、さらに好ましくは60重量%以下である。上記硬化性化合物の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、補修した箇所の強度をより一層効果的に高めることができる。
【0049】
<炭酸イオン又はカルシウムイオンを放出可能な化合物(化合物X)>
上記補修剤は、炭酸イオン又はカルシウムイオンを放出可能な化合物(化合物X)を含む。上記化合物Xは、炭酸イオンを放出可能な化合物であってもよく、カルシウムイオンを放出可能な化合物であってもよく、炭酸イオンとカルシウムイオンとの双方を放出可能な化合物であってもよく、炭酸イオンを放出可能な化合物とカルシウムイオンを放出可能な化合物との混合物であってもよい。上記化合物Xは、粒子状であってもよい。上記化合物Xは、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0050】
上記炭酸イオンを放出可能な化合物Xとしては、炭酸塩、及び炭酸水素塩等が挙げられる。上記炭酸塩としては、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸リチウム、炭酸銅(II)、炭酸鉄(II)、及び炭酸銀(I)等が挙げられる。上記炭酸水素塩としては、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素カルシウム、及び炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。
【0051】
上記カルシウムイオンを放出可能な化合物Xとしては、ケイ酸三カルシウム、ケイ酸二カルシウム、カルシウムアルミネート、カルシウムアルミノフェライト、炭酸水素カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、及び硫酸カルシウム等が挙げられる。
【0052】
上記炭酸イオンとカルシウムイオンとの双方を放出可能な化合物Xとしては、炭酸水素カルシウムが挙げられる。
【0053】
上記化合物Xは、ケイ酸三カルシウム、ケイ酸二カルシウム、カルシウムアルミネート、カルシウムアルミノフェライト、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸ナトリウム、又は炭酸水素ナトリウムであることが好ましい。上記化合物Xは、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸ナトリウム、又は炭酸水素ナトリウムであることがより好ましい。この場合には、本発明の効果をより一層効果的に発揮することができる。
【0054】
上記硬化性化合物100重量部に対して、上記化合物Xの含有量は、好ましくは20重量部以上、より好ましくは50重量部以上であり、好ましくは300重量部以下、より好ましくは200重量部以下である。上記化合物Xの含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、炭酸イオン又はカルシウムイオンがより一層効果的に放出され、炭酸カルシウムが良好に生成される。また、上記化合物Xの含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、硬化性成分の物性を良好に維持することができる。
【0055】
上記硬化性化合物と上記硬化剤との合計100重量部に対して、上記化合物Xの含有量は、好ましくは20重量部以上、より好ましくは50重量部以上であり、好ましくは300重量部以下、より好ましくは200重量部以下である。上記化合物Xの含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、炭酸イオン又はカルシウムイオンがより一層効果的に放出され、炭酸カルシウムが良好に生成される。また、上記化合物Xの含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、硬化性成分の物性を良好に維持することができる。
【0056】
上記補修剤の上記化合物Xを除く成分100重量部に対して、上記化合物Xの含有量は、好ましくは20重量部以上、より好ましくは50重量部以上であり、好ましくは300重量部以下、より好ましくは200重量部以下である。上記化合物Xの含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、炭酸イオン又はカルシウムイオンがより一層効果的に放出され、炭酸カルシウムが良好に生成される。また、上記化合物Xの含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、硬化性成分の物性を良好に維持することができる。
【0057】
上記補修剤100重量%中、上記化合物Xの含有量は、好ましくは20重量%以上、より好ましくは50重量%以上であり、好ましくは300重量%以下、より好ましくは200重量%以下である。上記化合物Xの含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、炭酸イオン又はカルシウムイオンがより一層効果的に放出され、炭酸カルシウムが良好に生成される。また、上記化合物Xの含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、硬化性成分の物性を良好に維持することができる。
【0058】
上記化合物Xは、マイクロカプセルの内包物であってもよい。上記構造物用補修剤は、上記化合物Xを内包物として含有するマイクロカプセルを含んでいてもよい。上記化合物Xは、表面がコーティング剤により被覆されていてもよい。上記化合物Xがマイクロカプセルの内包物であるか、又は、上記化合物Xの表面がコーティング剤により被覆されていると、該化合物Xから炭酸イオン又はカルシウムイオンが放出される時期及び量を制御することができる。
【0059】
上記マイクロカプセルは、上記化合物Xを放出可能であることが好ましい。上記マイクロカプセルは、水分と接触したときに、マイクロカプセルを構成する膜が崩壊することが好ましい。この場合には、化合物Xから炭酸イオン又はカルシウムイオンが放出される時期及び量をより一層良好に制御することができる。
【0060】
上記マイクロカプセルを構成する膜の材料及び化合物Xの表面を被覆するためのコーティング剤としては、加水分解性を有するエチルセルロース、ゼラチン等のタンパク質、アルギン酸、デンプン、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、及びポリブチレンテレフタレート等が挙げられる。
【0061】
<他の成分>
上記補修剤は、必要に応じて、上記硬化性成分及び上記化合物X以外の他の成分を含んでいてもよい。上記他の成分としては、反応促進剤、酸化防止剤、及び着色剤等が挙げられる。上記他の成分は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0062】
作製直後の上記補修剤の23℃での粘度は、好ましくは200mPa・s以上、より好ましくは500mPa・s以上であり、好ましくは200000mPa・s以下、より好ましくは100000mPa・s以下である。上記粘度が上記下限以上及び上記上限以下であると、補修剤を補修する箇所へ容易に注入又は充填することができ、作業性を高めることができる。なお、上記粘度は、配合成分の種類及び配合量により適宜調整することができる。
【0063】
上記粘度は、例えば、B型粘度計(FUNGILAB社製「VISCOSTAR」)等を用いて、23℃及び20rpmの条件で測定することができる。
【0064】
(構造物用補修剤作製キット)
本発明に係る構造物用補修剤作製キット(以下、「補修剤作製キット」と略記することがある)は、混合によって、構造物用補修剤を得るための構造物用補修剤作製キットである。上記補修剤作製キットは、構造物を補修するために用いられる補修剤を得るための構造物用補修剤作製キットである。
【0065】
上記補修剤作製キットは、以下の構成(1)又は構成(2)を備える。
【0066】
構成(1):上記補修剤作製キットは、第1の組成物と、第2の組成物とを有し、上記第1の組成物が、硬化性化合物を含み、上記第2の組成物が、硬化剤を含み、上記第1の組成物及び上記第2の組成物の少なくとも一方が、上記炭酸イオン又はカルシウムイオンを放出可能な化合物(化合物X)を含む。
【0067】
構成(2):上記補修剤作製キットは、第1の組成物と、第2の組成物と、第3の組成物とを有し、上記第1の組成物が、硬化性化合物を含み、上記第2の組成物が、硬化剤を含み、上記第3の組成物が、炭酸イオン又はカルシウムイオンを放出可能な化合物(化合物X)を含む。
【0068】
上記構成(1)を備える上記補修剤作製キットにおいて、上記第1の組成物と上記第2の組成物とは、混合される前の状態である。上記構成(1)を備える上記補修剤作製キットでは、上記第1の組成物が第1の容器に収容されており、上記第2の組成物が第2の容器に収容されていることが好ましい。上記構成(1)においては、上記第1の組成物と上記第2の組成物とを混合することにより、混合物である構造物用補修剤を得ることができる。上記第1の組成物と上記第2の組成物とを混合して得られる上記構造物用補修剤は、硬化性成分(硬化性化合物及び硬化剤)と化合物Xとを含む。
【0069】
上記構成(2)を備える上記補修剤作製キットにおいて、上記第1の組成物と上記第2の組成物と上記第3の組成物とは、混合される前の状態である。上記構成(2)を備える上記補修剤作製キットでは、上記第1の組成物が第1の容器に収容されており、上記第2の組成物が第2の容器に収容されており、上記第3の組成物が第3の容器に収容されていることが好ましい。上記構成(2)においては、上記第1の組成物と上記第2の組成物と上記第3の組成物とを混合することにより、混合物である構造物用補修剤を得ることができる。上記第1の組成物と上記第2の組成物と上記第3の組成物とを混合して得られる上記構造物用補修剤は、硬化性成分(硬化性化合物及び硬化剤)と化合物Xとを含む。
【0070】
本発明に係る補修剤作製キットでは、上記の構成が備えられているので、補修した箇所の強度を高めることができ、かつ高い強度を長期間維持することができる。
【0071】
また、本発明に係る補修剤作製キットでは、硬化性化合物と硬化剤とを、補修剤の使用時に混合することができるので、使用前の意図しない補修剤の硬化を防ぐことができる。
【0072】
上記構成(1)を備える補修剤作製キットは、例えば、2液混合型構造物用補修剤作製キットである。上記構成(2)を備える補修剤作製キットは、例えば、3液混合型構造物用補修剤作製キットである。
【0073】
上記第1の組成物は、上記硬化性化合物のみを含んでいてもよい。上記第1の組成物は上記硬化性化合物であってもよい。上記第2の組成物は、上記硬化剤のみを含んでいてもよい。上記第2の組成物は上記硬化剤であってもよい。上記第3の組成物は、上記化合物Xのみを含んでいてもよい。上記第3の組成物は上記化合物Xであってもよい。上記第1の組成物100重量%中の硬化剤の含有量は、上記第2の組成物100重量%中の硬化剤の含有量よりも少ないことが好ましく、上記第1の組成物は、硬化剤を含まないことが好ましい。上記第2の組成物100重量%中の硬化性化合物の含有量は、上記第1の組成物100重量%中の硬化性化合物の含有量よりも少ないことが好ましく、上記第2の組成物は、硬化性化合物を含まないことが好ましい。
【0074】
上記構成(1)を備える補修剤作製キットでは、上記第1の組成物及び上記第2の組成物の少なくとも一方が、上記化合物Xを含む。この場合に、上記化合物Xは、上記第1の組成物に含まれていてもよく、上記第2の組成物に含まれていてもよく、上記第1の組成物と上記第2の組成物との双方に含まれていてもよい。
【0075】
上記第1の組成物に含まれる上記硬化性化合物以外の成分としては、酸化防止剤、及び着色剤等が挙げられる。
【0076】
上記第2の組成物に含まれる上記硬化剤以外の成分としては、架橋剤、及び吸水剤等が挙げられる。
【0077】
上記第3の組成物に含まれる上記化合物X以外の成分としては、反応触媒、及び硬化促進剤等が挙げられる。
【0078】
(構造物の補修方法)
上記補修剤又は上記補修剤作製キットを用いて、構造物を補修することができる。
【0079】
上記構造物の補修方法は、構造物のひび割れ部分又はジャンカ部分に、上記補修剤を注入する工程と、上記補修剤を硬化させる工程とを備えることが好ましい。
【0080】
上記構造物の補修方法は、上記補修剤作製キットにおける第1の組成物と第2の組成物(と第3の組成物)とを混合して補修剤を得る工程と、構造物のひび割れ部分又はジャンカ部分に、上記補修剤を注入する工程と、上記補修剤を硬化させる工程とを備えることが好ましい。
【0081】
上記補修剤を注入する方法としては、特に限定されず、補修剤を構造物の割れ部分又はジャンカ部分に直接注入する方法、構造物の表面から割れ部分又はジャンカ部分に向かって穿孔して注入口を形成し、該注入口より補修剤を注入する方法等が挙げられる。構造物の内部に空隙等がある場合、又は、ひび割れ等が構造物の深部にまで達する場合には、構造物に注入口を形成し、該注入口より構造物用補修剤を注入することが好ましい。また、上記補修剤の注入量は、補修する箇所のサイズ等に応じて適宜変更可能である。
【0082】
上記補修剤を注入する際の圧力は、補修剤の粘度、補修する箇所のサイズ等に応じて、適宜変更可能である。上記補修剤は、ひび割れ部分又はジャンカ部分に、高圧で注入されてもよく、低圧で注入されてもよい。高圧で注入する場合の圧力は、0.5MPa以上24MPa以下であることが好ましい。低圧で注入する場合の圧力は、0.01MPa以上0.5MPa以下であることが好ましい。上記補修剤は、低粘度の場合でも本発明の効果を発揮することができるため、作業時間を短縮し、かつ、ひび割れ深部まで補修剤を良好に注入する観点から、上記補修剤を注入する際の圧力は、0.5MPa以上24MPa以下であることが好ましい。
【0083】
上記補修剤を硬化させる条件は、硬化性成分の種類等により適宜変更可能である。
【0084】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る構造物用補修剤を用いた、構造物の補修方法を説明するための断面図である。
【0085】
構造物100は、コンクリート構造物である。構造物100の壁面101には、ひび割れ102が生じている。
【0086】
補修剤の供給装置5は、注入ガン51とタンク52とを備える。タンク52には、上記補修剤が充填されている。
【0087】
まず、壁面101のひび割れが生じていない部分からひび割れ102に向けて、所定の角度で穿孔し、注入口104を形成する。次いで、注入口104に、逆止弁付きの注入プラグ1を装着する。注入プラグ1と、注入ガン51とを接続する。次いで、コンプレッサーを用いて、補修剤をひび割れ102に注入し、補修剤が硬化するまで養生する。このようにして、構造物を補修することができる。
【0088】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。本発明は、以下の実施例のみに限定されない。
【0089】
硬化性成分:
硬化性成分1:積水化学工業社製「インフラガード CRJ」(エポキシ化合物を含む第1の組成物(第1の組成物中のエポキシ化合物の含有量:50重量%)と、エポキシ硬化剤を含む第2の組成物(第2の組成物中のエポキシ硬化剤の含有量:50重量%)とを備えるエポキシ系2液硬化型接着剤)
硬化性成分2:積水化学工業社製「インフラガード CRJM」(エポキシ化合物を含第1の組成物(第1の組成物中のエポキシ化合物の含有量:67重量%)と、エポキシ硬化剤を含む第2の組成物(第2の組成物中のエポキシ硬化剤の含有量:33重量%)とを備えるエポキシ系2液硬化型接着剤)
【0090】
化合物X:
カルシウムを放出可能な化合物:塩化カルシウム
炭酸イオンを放出可能な化合物:炭酸水素ナトリウム
【0091】
(実施例1)
(1)構造物用補修剤の作製
硬化性成分1における第1の組成物と第2の組成物とを等量で混合した。得られた混合液100重量部に対して、炭酸水素ナトリウム50重量部を混合し、補修剤を得た。
【0092】
(実施例2~7及び比較例1,2)
配合成分の種類及び配合量を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして補修剤を得た。
【0093】
(評価)
(1)接着強度
JIS A6024:2015に記載の接着強さ試験A法に準拠して、接着強度を測定した。なお、試験機としては、島津製作所社製「オートグラフAG-100KNG」を用いた。
【0094】
(2)作製直後の補修剤の粘度(23℃)
作製直後の補修剤の23℃での粘度を測定した。上記粘度は、B型粘度計(FUNGILAB社製「VISCOSTAR」)を用いて、23℃及び20rpmの条件で測定した。
【0095】
(3)浸漬試験
得られた補修剤を、23℃で1週間静置して硬化させ、立方体状の約3gの試験サンプルを作製した。この試験サンプルの重量を浸漬前の試験サンプルの重量とした。次いで、実施例1~5及び比較例1,2における試験サンプルを、4重量%の塩化カルシウム溶液(海水の100倍濃度を想定)100gに浸漬した。浸漬から1日後、3日後、6日後、12日後、30日後、60日後、110日後に、試験サンプルを取り出し、その重量を測定した。実施例6,7における試験サンプルを、3000ppmの炭酸水素ナトリウム水溶液100gに同様に浸漬し、浸漬から30日後、60日後に、試験サンプルを取り出し、その重量を測定した。浸漬前の試験サンプルを基準として、該試験サンプルの重量増加割合を求めた。
【0096】
また、断面をスライスし表面状態及び内部構造を観察した。
【0097】
補修剤の組成及び結果を表1に示す。
【0098】
【0099】
実施例1~7で得られた試験サンプルでは、浸漬時間が長くなるにつれて、重量が増加する傾向があった。一方、比較例1,2で得られた試験サンプルでは、重量の増加は認められなかった。また、実施例1~7では浸漬初期から試験サンプルの表面が白濁しており、浸漬から156時間後の実施例1~7で得られた試験サンプルを詳細に観察したところ、試験サンプルの表面に粒子が析出していた。この試験サンプルの表面を走査型電子顕微鏡で観察すると、緻密な結晶構造を持つ粒子(炭酸カルシウムのカルサイト構造)の集合体が確認された。このため、実施例1~7で得られた試験サンプルでは、試験サンプルの表面に形成された炭酸カルシウムに起因して、吸着水分等により重量が増加していると考えられる。
【符号の説明】
【0100】
1…注入プラグ
5…供給装置
51…注入ガン
52…タンク
100…構造物
101…壁面
102…ひび割れ
104…注入口