(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】乾燥椎茸の製造方法及び機能性食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 19/00 20160101AFI20221025BHJP
C12P 13/00 20060101ALI20221025BHJP
C12N 1/14 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
A23L19/00 101
C12P13/00
C12N1/14 F
(21)【出願番号】P 2020178975
(22)【出願日】2020-10-26
【審査請求日】2021-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2019228527
(32)【優先日】2019-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】397053845
【氏名又は名称】兼貞物産株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591065549
【氏名又は名称】福岡県
(74)【代理人】
【識別番号】100114627
【氏名又は名称】有吉 修一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100182501
【氏名又は名称】森田 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100175271
【氏名又は名称】筒井 宣圭
(74)【代理人】
【識別番号】100190975
【氏名又は名称】遠藤 聡子
(72)【発明者】
【氏名】有冨 正和
(72)【発明者】
【氏名】川口 友彰
【審査官】小路 杏
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-163055(JP,A)
【文献】特開2014-045736(JP,A)
【文献】特開2015-188317(JP,A)
【文献】特開昭59-188500(JP,A)
【文献】特開平02-119744(JP,A)
【文献】特開2012-187068(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 19/00
C12P 13/00
C12N 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥椎茸の子実体を加湿する加湿工程と、
加湿した前記子実体を乾燥する乾燥工程と
、
前記加湿工程に伴い、水分が前記子実体に吸水され、同子実体の内部の酵素反応が進む時間を担保する酵素反応担保工程を備える
乾燥椎茸の製造方法。
【請求項2】
前記酵素反応担保工程は、前記加湿工程の終了後から24時間の範囲内で同子実体の内部の酵素反応が進む時間を担保する
請求項1に記載の乾燥椎茸の製造方法。
【請求項3】
前記加湿工程は、前記子実体に、水を噴霧して加湿し、
前記酵素反応担保工程は、前記加湿工程の終了後から1時間~同終了後から4時間の範囲内で同子実体の内部の酵素反応が進む時間を担保する
請求項2に記載の乾燥椎茸の製造方法。
【請求項4】
前記加湿工程は、前記子実体に、水を噴霧して加湿し、
前記酵素反応担保工程は、前記加湿工程の終了後から4時間~同終了後から18時間の範囲内で同子実体の内部の酵素反応が進む時間を担保する
請求項2に記載の乾燥椎茸の製造方法。
【請求項5】
前記加湿工程は、前記子実体を、水蒸気雰囲気下で加湿し、
前記酵素反応担保工程は、前記加湿工程の終了後から6時間の範囲内で同子実体の内部の酵素反応が進む時間を担保する
請求項2に記載の乾燥椎茸の製造方法。
【請求項6】
前記酵素反応担保工程は、前記加湿工程で、前記子実体に水分が付与されたタイミングから進行する
請求項1、請求項2、請求項3、請求項4または請求項5に記載の乾燥椎茸の製造方法。
【請求項7】
前記酵素反応担保工程の後に、前記子実体を切断する切断工程を備える
請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5または請求項6に記載の乾燥椎茸の製造方法。
【請求項8】
前記乾燥工程を経た前記子実体のγ―アミノ酪酸の含有量が1.0mg/g以上である
請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5、請求項6または請求項7に記載の乾燥椎茸の製造方法。
【請求項9】
前記乾燥工程を経た前記子実体の水分含有率が13%以下である
請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5、請求項6、請求項7または請求項8に記載の乾燥椎茸の製造方法。
【請求項10】
前記加湿工程は、5~80℃の温度範囲で行う
請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5、請求項6、請求項7、請求項8または請求項9に記載の乾燥椎茸の製造方法。
【請求項11】
前記加湿工程は、40~98%RHの湿度範囲で行う
請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5、請求項6、請求項7、請求項8、請求項9または請求項10に記載の乾燥椎茸の製造方法。
【請求項12】
前記乾燥工程は、50~80℃の温度範囲で行う
請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5、請求項6、請求項7、請求項8、請求項9、請求項10または請求項11に記載の乾燥椎茸の製造方法。
【請求項13】
請求項1~12のいずれかに記載の乾燥椎茸の製造方法で製造した乾燥椎茸を含む機能性食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は乾燥椎茸の製造方法及び機能性食品の製造方法に関する。詳しくは、添加物等を用いることなく、安全性に優れ、γ―アミノ酪酸の含有量が充分に高められた乾燥椎茸を製造することが可能な乾燥椎茸の製造方法及び機能性食品の製造方法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
γ-アミノ酪酸(γ-amino butyric acid:以下、GABAと称する。)は、生体内でグルタミン酸の脱炭酸によって生成するアミノ酸の1種であり、抑制性の神経伝達物質として機能し、血圧上昇抑制、その他の作用を有することが知られている。
【0003】
このようなGABAの機能に鑑みて、従来の食品にGABAを添加した嗜好品やサプリメント等が広く市販されている。また、近年様々な食品素材に適当な処理を施して、GABA含有量を高めることが試みられている。
【0004】
例えば、特許文献1に記載された製造方法では、エノキタケあるいは椎茸等の低温性担子菌において、GABAがわずかに含まれる点、及び、グルタミン酸が豊富に含まれる点に着目し、椎茸等に内在するグルタミン酸脱炭酸酵素を活性化して、GABAの含有量を高める方法が提案されている。
【0005】
ここで、特許文献1に記載された製造方法では、椎茸等の子実体に、水と添加物としてのピリドキサルリン酸あるいはグルタミン酸(グルタミン酸塩)を混合し、10~30℃好ましくは10~20℃で2~25時間保持することでGABA含有量を富化した食品が得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された製造方法では、GABAの含有量を高めたい椎茸等に対して、添加物として、ピリドキサルリン酸あるいはグルタミン酸(グルタミン酸塩)を混合する必要があった。
【0008】
このような添加物の混合は、添加物等を含まない天然由来の食品を求める消費者のニーズに反するものであった、そのため、食品素材に添加物を混合することなく、GABAの含有量を高める処理方法が求められていた。
【0009】
本発明は、以上の点に鑑みて創案されたものであり、添加物等を用いることなく、安全性に優れ、γ―アミノ酪酸の含有量が充分に高められた乾燥椎茸を製造することが可能な乾燥椎茸の製造方法及び機能性食品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明の乾燥椎茸の製造方法は、乾燥椎茸の子実体を加湿する加湿工程と、加湿した前記子実体を乾燥する乾燥工程とを備える。
【0011】
ここで、加湿工程で乾燥椎茸の子実体を加湿することによって、原料となる乾燥椎茸に本来含まれるグルタミン酸から、椎茸等に内在するグルタミン酸脱炭酸酵素によりGABAを生成する酵素反応が促進され、GABAの含有量を高めることができる。
【0012】
また、乾燥工程で加湿した子実体を乾燥することによって、加湿された椎茸の子実体におけるグルタミン酸脱炭酸酵素の酵素反応が、より高い温度で進むものとなり、酵素反応が一層促進され、乾燥椎茸に含まれるGABAの含有量を高めることができる。また、乾燥により子実体における脱水が進むことで、水分の減少に起因して酵素反応が生じる反応系が小さくなり、酵素とグルタミン酸の濃度が高くなることで、酵素反応をより一層促進させることができる。
【0013】
また、加湿工程に伴い、水分が子実体に吸水され、子実体の内部の酵素反応が進む時間を担保する酵素反応担保工程を備える場合には、水分が子実体に吸水された状態でグルタミン酸脱炭酸酵素の酵素反応が進む時間が担保され、より一層、GABAの含有量を高めることができる。なお、ここでいう酵素反応担保工程とは、子実体の内部の酵素反応が進む時間を確保する工程を意味する。即ち、酵素反応が進む状態で時間が経過する処理であれば、その内容は特に限定されるものではなく、例えば、酵素反応が進行する温度の下(0℃以下を除く)に、子実体を置いておく処理を意味する。
【0014】
また、酵素反応担保工程が、加湿工程の終了後から24時間の範囲内で子実体の内部の酵素反応が進む時間を担保する場合には、充分に、水分が子実体に吸水された状態で、グルタミン酸脱炭酸酵素の酵素反応が進む時間が担保され、より一層、GABAの含有量を高めることができる。なお、ここでいう加湿工程の終了後とは、例えば、椎茸へ加湿処理が終了した直後(終了後0分)も含んでいる。
【0015】
また、一方で、酵素反応担保工程が、加湿工程の終了後から24時間を超えて、子実体の内部の酵素反応が進む時間を担保する場合には、加湿した椎茸に雑菌等が繁殖するおそれがある。
【0016】
また、加湿工程では、子実体に、水を噴霧して加湿し、酵素反応担保工程が、加湿工程の終了後から1時間~同終了後から4時間の範囲内で子実体の内部の酵素反応が進む時間を担保する場合には、乾燥椎茸に含まれるGABAの含有量を充分に高めることができる。また、水を噴霧する態様で加湿が可能なため、簡易な装置構成で加湿を行うことが可能となる。また、酵素反応担保工程に要する時間を、ある程度の短い範囲内に収めることができる。即ち、例えば、生産現場において、原料から乾燥椎茸の加工完了までの全工程を、1日で行いやすくすることができる。
【0017】
また、加湿工程では、子実体に、水を噴霧して加湿し、酵素反応担保工程は、加湿工程の終了後から4時間~同終了後から18時間の範囲内で子実体の内部の酵素反応が進む時間を担保する場合には、乾燥椎茸に含まれるGABAの含有量を充分に高めることができる。また、酵素反応担保工程に要する時間を、ある程度の長い範囲内に収めることができる。即ち、例えば、生産現場において、原料から乾燥椎茸の加工完了までの全工程において、夜間の時間帯に酵素反応担保工程を行い、2日間にわたる全行程の作業を行いやすくすることができる。
【0018】
また、加湿工程が、子実体を、水蒸気雰囲気下で加湿する場合には、水蒸気を発生させた環境中に乾燥椎茸の子実体を置くという簡易な構成で、乾燥椎茸の子実体を加湿することができる。なお、ここでいう水蒸気雰囲気下での加湿とは、水蒸気のみが加湿に働くものではなく、水蒸気の温度が下がって発生した湯気が加湿に働くものを含んでいる。
【0019】
また、加湿工程では、子実体を、水蒸気雰囲気下で加湿し、酵素反応担保工程は、加湿工程の終了後から6時間の範囲内で子実体の内部の酵素反応が進む時間を担保する場合には、乾燥椎茸に含まれるGABAの含有量を充分に高めることができる。また、水蒸気雰囲気下で加湿することで、比較的短い時間で、酵素反応担保工程でのGABAの含有量の増加を図ることができる。
【0020】
また、酵素反応担保工程は、加湿工程で、子実体に水分が付与されたタイミングから進行するものとなっている。即ち、加湿工程において、乾燥椎茸に水分が付与された時点から、酵素反応担保工程は始まり、加湿中も、酵素反応が進む状態で時間が経過し、乾燥椎茸に含まれるGABAの含有量を高めることができる。
【0021】
また、酵素反応担保工程の後に、子実体を切断する切断工程を備える場合には、次工程で乾燥する際に、椎茸の子実体のサイズが小さくなり表面積が大きくなることから、子実体の温度が上昇しやすくなり、グルタミン酸脱炭酸酵素の酵素反応を、より一層促進させることができる。さらに、上述したような、子実体における脱水に伴う酵素とグルタミン酸の濃度が高くなる現象が生じやすくなり、酵素反応をより一層促進させることができる。なお、ここでいう子実体を切断するとは、原料として用いられる椎茸の子実体を2つ以上に切り分けていく作業であり、切断後の子実体の数が3つ以上となるように、細かく切り分けられる工程を含んでいてもよい。
【0022】
また、加湿工程の後に、子実体を切断する切断工程を備える場合には、次工程で乾燥する際に、椎茸の子実体のサイズが小さくなり表面積が大きくなることから、子実体の温度が上昇しやすくなり、グルタミン酸脱炭酸酵素の酵素反応を、より一層促進させることができる。さらに、上述したような、子実体における脱水に伴う酵素とグルタミン酸の濃度が高くなる現象が生じやすくなり、酵素反応をより一層促進させることができる。
【0023】
また、乾燥工程を経た子実体のγ―アミノ酪酸の含有量が1.0mg/g以上である場合には、GABAの含有量が充分に高められた乾燥椎茸とすることができる。
【0024】
また、乾燥工程を経た子実体の水分含有率が13%以下である場合には、GABAの含有量が高められ、かつ、充分に乾燥した乾燥椎茸を得ることができる。なお、ここでいう水分含有率とは、既知の水分測定計等で測定可能な水分含有率を意味するものである。
【0025】
また、加湿工程を、5~80℃の温度範囲で行う場合には、グルタミン酸脱炭酸酵素によりGABAを生成する酵素反応を、充分に促進させることが可能となる。
【0026】
一方、加湿工程を、5℃未満の温度で行う場合には、グルタミン酸脱炭酸酵素による酵素反応が進みにくくなり、GABAの生成量が少なくなってしまうおそれがある。また、加湿工程を、80℃を超える温度で行う場合には、酵素が失活してGABAの生成量が少なくなってしまうおそれがある。
【0027】
また、加湿工程を、40~98%RHの湿度範囲で行う場合には、グルタミン酸脱炭酸酵素によりGABAを生成する酵素反応を、充分に促進させることが可能となる。
【0028】
また、乾燥工程を、50~80℃の温度範囲で行う場合には、加湿した椎茸の子実体を乾燥させながら、グルタミン酸脱炭酸酵素によりGABAを生成する酵素反応を、充分に促進させることが可能となる。
【0029】
一方、乾燥工程を、50℃未満の温度で行う場合には、加湿した椎茸を乾燥させるために必要な時間が長くなり、製造の効率が悪くなってしまう。また、乾燥工程を、80℃を超える温度で行う場合には、加湿した椎茸の子実体に褐変あるいは焦げが生じて、製造後の乾燥椎茸の風味が損なわれてしまうおそれがある。
【0030】
また、請求項1~16に記載の乾燥椎茸の製造方法で製造した乾燥椎茸を含む機能性食品の製造方法では、GABAの含有量が充分に高められた天然由来の椎茸を原料に含むことを特徴とする機能性食品を製造することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係る乾燥椎茸の製造方法及び機能性食品の製造方法は、添加物等を用いることなく、安全性に優れ、γ―アミノ酪酸の含有量が充分に高められた乾燥椎茸を製造することが可能な方法となっている。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】GABAの含有量の測定結果を示すグラフである。
【
図2】加湿後の静置する時間と、GABAの含有量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明を適用した乾燥椎茸の製造方法の一例の組成について説明する。
【0034】
[第1の実施の形態]
本発明を適用した乾燥椎茸の製造方法の一例である製造方法(第1の実施の形態)は以下の工程を有している。なお、以下に示す製造方法は、一例に過ぎず、本発明の内容は以下に限定されるものではない。
【0035】
(1)原料として、水分含有率13%以下の乾燥椎茸を準備する。また、乾燥椎茸が、軸が取り除かれていないホール(原型)である場合には、椎茸の軸をカットする。また、乾燥椎茸が、軸が取り除かれたスライスである場合には、そのまま利用できる。さらに、乾燥椎茸は、軸を有するものをそのまま利用することも可能である。
(2)乾燥椎茸を水蒸気式加湿器に供給して、次の設定条件で乾燥椎茸を加湿する。
湿度条件:40~98%RH、温度条件:5~80℃、加湿時間:5分~24時間。
(3)加湿した椎茸を転圧ローラーで圧搾し、乾燥椎茸の厚みを均一にする。
(4)圧搾した椎茸を切断機で3mm幅にカットする。
(5)カットした椎茸を温風乾燥機に供給して熱風をあて、次の設定条件で乾燥椎茸を乾燥させる。
温度条件:50~80℃、乾燥時間:3分~1時間。
また、乾燥後の椎茸は、水分含有率13%以下となる。
【0036】
ここで、必ずしも、原料として水分含有率13%以下の乾燥椎茸が用いられる必要はなく、原料はこれに限定されるものではない。また、原料となる乾燥椎茸は、ホール(原型)やスライスを用いることができる。さらに、乾燥椎茸が栽培された方法も特に限定されず、原木栽培や菌床栽培で栽培された椎茸が利用できる。
【0037】
また、乾燥椎茸を加湿する工程で、必ずしも水蒸気式加湿器が用いられる必要はなく、乾燥椎茸を効率よく加湿できる手段であれば、採用しうる。例えば、水を噴霧する手法で加湿する方法や、乾燥椎茸を配置した所定の空間に加湿器を設けて加湿する方法も採用しうる。但し、簡易な構成でありながら効率よく乾燥椎茸を加湿することができ、かつ、加湿する際の湿度条件、温度条件、または加湿時間の調整等が行いやすくなる点から、水蒸気式加湿器が用いられることが好ましい。
【0038】
また、必ずしも、乾燥椎茸を加湿する際の湿度条件は、40~98%RHの範囲内に限定されるものではない。但し、乾燥椎茸を充分に加湿でき、グルタミン酸脱炭酸酵素によりGABAを生成する酵素反応を促進させやすくなる点から、乾燥椎茸を加湿する際の湿度条件は、40~98%RHの範囲内となることが好ましい。
【0039】
また、必ずしも、乾燥椎茸を加湿する際の温度条件は、5~80℃の範囲内に限定されるものではない。但し、椎茸における、グルタミン酸脱炭酸酵素によりGABAを生成する酵素反応を、充分に促進させることが可能となる点から、乾燥椎茸を加湿する際の温度条件は、5~80℃の範囲内となることが好ましい。
【0040】
一方、加湿工程を、5℃未満の温度で行う場合には、グルタミン酸脱炭酸酵素による酵素反応が進みにくくなり、GABAの生成量が少なくなってしまうおそれがある。また、加湿工程を、80℃を超える温度で行う場合には、酵素が失活してGABAの生成量が少なくなってしまうおそれがある。
【0041】
また、必ずしも、乾燥椎茸を加湿する際の加湿時間は、5分~24時間の範囲内に限定されるものではない。但し、椎茸における、グルタミン酸脱炭酸酵素によりGABAを生成する酵素反応を、充分に促進させることが可能となる点から、乾燥椎茸を加湿する際の加湿時間は、5分~24時間の範囲内となることが好ましい。
【0042】
一方、加湿時間が5分未満である場合には、後の工程である椎茸を切断機で切断する工程において、椎茸が充分に柔らかくならず、椎茸を切り分けにくくなってしまう。また、加湿時間が24時間を超える場合には、椎茸において菌が増殖して、品質が損なわれてしまうおそれがある。
【0043】
また、必ずしも、加湿した椎茸を転圧ローラーで圧搾する必要はない。但し、椎茸の厚みを均一にしやすくなり、椎茸の見た目が良くなるとともに、その後の処理で取り扱いやすくなるため、加湿した椎茸を転圧ローラーで圧搾することが好ましい。
【0044】
また、必ずしも、圧搾した椎茸を切断機でカットする必要はない。但し、後の工程で乾燥する際に、椎茸のサイズが小さくなることから、その温度が上昇しやすくなり、グルタミン酸脱炭酸酵素の酵素反応を、より一層促進させることができる点、及び、椎茸において、脱水に伴う酵素とグルタミン酸の濃度が高くなる現象が生じやすくなり、酵素反応をより一層促進させることができる点から、椎茸を切断機でカットすることが好ましい。
【0045】
また、必ずしも、切断機で椎茸が3mm幅に切断される必要はなく、切断後の大きさは適宜設定を変更することが可能である。例えば、2mm幅、2mm×30mm、5mm×5mm等、所望の形状に切り分けることが可能である。
【0046】
また、必ずしも、カットした椎茸を乾燥機で乾燥する際の温度条件は、50~80℃の範囲内に限定されるものではない。但し、加湿した椎茸を充分に乾燥させる点、及び、椎茸における、グルタミン酸脱炭酸酵素によりGABAを生成する酵素反応を、充分に促進させることが可能となる点から、カットした椎茸を乾燥機で乾燥する際の温度条件は、50~80℃の範囲内となることが好ましい。
【0047】
一方、カットした椎茸を乾燥機で乾燥する際の温度が50℃未満である場合には、加湿された椎茸を、所望の水分含有率以下となるように乾燥させるための時間が長くなり製造の効率が悪くなるおそれがある。また、カットした椎茸を乾燥機で乾燥する際の温度が80℃を超える場合には、乾燥した椎茸に褐変もしくは焦げが生じ、製造後の乾燥椎茸の風味が損なわれてしまうおそれがある。
【0048】
また、必ずしも、カットした椎茸を乾燥機で乾燥する際の乾燥時間は、3分~1時間の範囲内に限定されるものではない。但し、加湿した椎茸を充分に乾燥させる点、及び、椎茸における、グルタミン酸脱炭酸酵素によりGABAを生成する酵素反応を、充分に促進させることが可能となる点から、カットした椎茸を乾燥機で乾燥する際の乾燥時間は、3分~1時間の範囲内となることが好ましい。
【0049】
一方、カットした椎茸を乾燥機で乾燥する際の乾燥時間が3分未満である場合には、加湿された椎茸を、所望の水分含有率以下にできず、良好な乾燥椎茸を製造できないおそれがある。また、カットした椎茸を乾燥機で乾燥する際の乾燥時間が1時間を超える場合には、乾燥した椎茸に褐変もしくは焦げが生じ、製造後の乾燥椎茸の風味が損なわれてしまうおそれがある。
【0050】
また、必ずしも、椎茸を乾燥させる工程で、熱風で乾燥させる温風乾燥機が用いられる必要はなく、種々の乾燥方法や装置が採用しうる。例えば、ドラム乾燥、遠赤外線乾燥、マイクロ波による乾燥、低温乾燥が可能な乾燥機等も用いることができる。
【0051】
また、必ずしも、乾燥した椎茸の水分含有率が13%以下となる必要はない。但し、GABAの含有量が高められ、かつ、充分に乾燥した乾燥椎茸を得ることができる点から、乾燥した椎茸の水分含有率が13%以下となることが好ましい。
【0052】
[第2の実施の形態]
本発明では、本発明を適用した乾燥椎茸の製造方法の他の例(第2の実施の形態)として、以下の構成も採用しうる。
【0053】
ここでは、第1の実施の形態における、上記(1)~(5)の工程において、上記(2)の水蒸気式加湿器による加湿と、上記(3)の厚みを均一にする工程との間のタイミングで、加湿した椎茸を一定時間、静置し、酵素反応を担保する工程を含めることができる。
【0054】
この加湿した椎茸を静置する工程では、加湿した椎茸を一定時間静置する。本工程により、水分が子実体に吸水された状態で酵素反応が進む時間が担保され、GABAの含有量を高めることができる。
【0055】
また、水蒸気式加湿器で加湿した後の静置では、加湿の終了後(0分)から24時間の範囲内で静置する。
【0056】
ここで、必ずしも、加湿した椎茸を「静置」する必要はなく、加湿後の椎茸の内部で酵素反応が進む状態で時間が経過する処理であれば、その内容は静置に限定されるものではない。端的に言えば、椎茸の内部の酵素反応が進む状態であれば、椎茸が揺動する環境下に置かれたり、生産ライン上で放置されたりする状態であってもよい。また、酵素反応が進行する温度の下(0℃以下を除く)であれば、加湿後の椎茸が処理される環境の温度は特に限定されるものではない。
【0057】
また、必ずしも、水蒸気式加湿器で加湿した後の静置時間は、加湿の終了後(0分)から24時間の範囲内に限定されるものではない。但し、加湿した椎茸で雑菌が繁殖することを避ける点から、水蒸気式加湿器で加湿した後の静置時間は、加湿の終了後(0分)から24時間の範囲内となることが好ましい。また、ある程度の短い時間で、椎茸における、グルタミン酸脱炭酸酵素によりGABAを生成する酵素反応を、充分に促進させることが可能となる点から、水蒸気式加湿器で加湿した後の静置時間は、加湿の終了後(0分)から6時間の範囲内となることが、さらに好ましい。
【0058】
[第3の実施の形態]
本発明では、本発明を適用した乾燥椎茸の製造方法の更なる他の例(第3の実施の形態)として、以下の構成も採用しうる。
【0059】
ここでは、第1の実施の形態における、上記(1)~(5)の工程において、上記(2)の水蒸気式加湿器による加湿の代わりに、水を噴霧する形式の加湿器で加湿すると共に、この加湿の工程と、上記(3)の厚みを均一にする工程との間のタイミングで、加湿した椎茸を一定時間、静置し、酵素反応を担保する工程を含めることができる。
【0060】
この加湿した椎茸を静置する工程では、加湿した椎茸を一定時間静置する。本工程により、水分が子実体に吸水された状態で酵素反応が進む時間が担保され、GABAの含有量を高めることができる。
【0061】
また、水を噴霧する形式の加湿器で加湿した後の静置では、加湿の終了後(0分)から24時間の範囲内で静置する。
【0062】
ここで、必ずしも、加湿した椎茸を「静置」する必要はなく、加湿後の椎茸の内部で酵素反応が進む状態で時間が経過する処理であれば、その内容は静置に限定されるものではない。端的に言えば、椎茸の内部の酵素反応が進む状態であれば、椎茸が揺動する環境下に置かれたり、生産ライン上で放置されたりする状態であってもよい。また、酵素反応が進行する温度の下(0℃以下を除く)であれば、加湿後の椎茸が処理される環境の温度は特に限定されるものではない。
【0063】
また、必ずしも、水を噴霧する形式の加湿器で加湿した後の静置時間は、加湿の終了後(0分)から24時間の範囲内に限定されるものではない。但し、加湿した椎茸で雑菌が繁殖することを避ける点から、静置時間は加湿の終了後(0分)から24時間の範囲内となることが好ましい。また、椎茸のGABAの含有量を充分に高める観点から、静置時間は、加湿の終了後の1時間から4時間の範囲内、または、加湿の終了後の4時間から18時間の範囲内とされることが好ましい。
【0064】
さらに、静置時間が、加湿の終了後の1時間から4時間の範囲内とされることで、生産現場において、原料から乾燥椎茸の加工完了までの全工程を、1日の作業時間内で完了させやすくなり、作業の効率を向上させることができる。
【0065】
また、静置時間が、加湿の終了後の4時間から18時間の範囲内とされることで、生産現場において、原料から乾燥椎茸の加工完了までの全工程を2日間にわたって作業する場合に、夜間の時間帯に静置工程をあてることができる。これにより、夜間の作業をなくし、2日間にわたる全行程の作業を行いやすくすることができる。
【実施例】
【0066】
以下、本発明の実施例を説明する。
【0067】
[実施例1]
本発明を適用した乾燥椎茸の製造方法の一例である製造方法(第1の実施の形態)により製造した乾燥椎茸の実施例及び比較例の試料を作成し、GABAの含有量を測定した。
上述した、第1の実施の形態における製造方法の工程(1)~(5)により製造した乾燥椎茸を実施例1とした。また、未処理の原料となる椎茸を比較例1とした。また、上述した製造方法の工程(1)~(5)につき、(5)の乾燥する工程を行わずに製造したもの(乾燥無し)を比較例2とした。さらに、上述した製造方法の工程(1)~(5)につき、(2)の加湿する工程を行わずに製造したもの(加湿無し)を比較例3とした。これらの実施例1及び比較例1~3について、GABAの含有量を測定した。GABAの含有量の測定方法は以下のとおりである。
【0068】
(GABAの測定方法)
比較例2(加湿して、乾燥する工程を含まない試料)については、粉砕した試料10gに10%スルホサリチル酸100mLを加えて、ワーリングブレンダーを用いて均一化し、水酸化ナトリウムによりpHを約2.3に調整した後、純水を加えて全量を250mLとした。次に試料を遠心分離(2330×g、15分)して、得られた上清をフィルター(0.45μm)でろ過して、GABA分析用試料とした。
また、実施例1、比較例1及び比較例3(乾燥する工程を含む試料)については、粉砕した試料3.0gに10%スルホサリチル酸30mLを加えて30分攪拌した。攪拌後の試料について、水酸化ナトリウムによりpHを約2.3に調整した後、純水を加えて全量を50mLとした。その後の遠心分離、フィルターろ過を比較例2と同様に行い、GABA分析用試料とした。全自動アミノ酸分析機(日本電子(株)JLC-500/V2)により、試料中のGABAを定量した。
【0069】
実施例1及び比較例1~3におけるGABAの含有量(mg/g(乾燥椎茸))の結果を
図1に示す。なお、比較例2におけるGABAの含有量は、原料とした乾燥椎茸の量で換算した、1gあたりの含有量で示している。
【0070】
実施例1におけるGABAの含有量は、1.02mg/g(乾燥椎茸)であった。比較例1~3におけるGABAの含有量は、いずれも1.00mg/g(乾燥椎茸)を下回っていた。実施例1では、GABAの含有量が充分に高められていることが明らかとなった。
【0071】
[実施例2~6]
本発明を適用した乾燥椎茸の製造方法の他の例である製造方法(第2の実施の形態)をベースに製造した乾燥椎茸の実施例の試料を作成し、GABAの含有量を測定した。
【0072】
ここでは、以下の条件で各試料を準備した。
本発明の第2の実施の形態において、上記(2)の水蒸気式加湿器による加湿を行った後、加湿した椎茸を一定時間静置した。静置した時間により、静置時間:0分(実施例2)、静置時間:1時間(実施例3)、静置時間:2時間(実施例4)、静置時間:4時間(実施例5)、静置時間:6時間(実施例6)とした。各実施例の試料を乾燥機(設定温度:60度、乾燥時間:30分)にかけ、乾燥後の試料のGABAの含有量を測定した。なお、GABAの測定方法は、上記の実施例1で説明した方法と同じ方法により測定した。各実施例のGABAの測定結果を表1に示す。
【0073】
【0074】
表1に示すとおり、実施例2~6はいずれもGABAの含有量は、1.50mg/g(乾燥椎茸)以上の高い数値を示した。特に、実施例6では、2.00mg/g(乾燥椎茸)以上の値となり、GABAの含有量が充分に高められていることが明らかとなった。
【0075】
[実施例7~13]
本発明を適用した乾燥椎茸の製造方法の他の例である製造方法(第3の実施の形態)をベースに製造した乾燥椎茸の実施例の試料を作成し、GABAの含有量を測定した。
【0076】
ここでは、以下の条件で各試料を準備した。
本発明の第3の実施の形態において、水を噴霧する形式の加湿器で加湿を行った後、加湿した椎茸を一定時間静置した。静置した時間により、静置時間:0分(実施例7)、静置時間:30分(実施例8)、静置時間:1時間(実施例9)、静置時間:2時間(実施例10)、静置時間:4時間(実施例11)、静置時間:6時間(実施例12)、静置時間:24時間(実施例13)とした。各実施例の試料を乾燥機(設定温度:60度、乾燥時間:30分)にかけ、乾燥後の試料のGABAの含有量を測定した。なお、GABAの測定方法は、上記の実施例1で説明した方法と同じ方法により測定した。各実施例のGABAの測定結果を
図2及び表2に示す。
【0077】
【0078】
図2及び表2に示すとおり、実施例7~13はいずれもGABAの含有量は、1.00mg/g(乾燥椎茸)以上の高い数値を示した。また、実施例9~13では、1.50mg/g(乾燥椎茸)以上の値となり、GABAの含有量が充分に高められていることが明らかとなった。
【0079】
以上のとおり、本発明を適用した乾燥椎茸の製造方法は、添加物等を用いることなく、安全性に優れ、γ―アミノ酪酸の含有量が充分に高められた乾燥椎茸を製造することが可能な方法となっている。