(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】ヘッドアップディスプレイ
(51)【国際特許分類】
G02B 27/01 20060101AFI20221025BHJP
【FI】
G02B27/01
(21)【出願番号】P 2018135870
(22)【出願日】2018-07-19
【審査請求日】2021-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】509354422
【氏名又は名称】大塚 作一
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(72)【発明者】
【氏名】大塚 作一
【審査官】横井 亜矢子
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-096974(JP,A)
【文献】特開2017-021148(JP,A)
【文献】特開2014-089324(JP,A)
【文献】特開2016-071373(JP,A)
【文献】特開2016-142919(JP,A)
【文献】特開2017-134362(JP,A)
【文献】特開2017-107050(JP,A)
【文献】特開平10-138794(JP,A)
【文献】特開平05-330362(JP,A)
【文献】特開平09-325293(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0351134(US,A1)
【文献】国際公開第2018/066555(WO,A1)
【文献】独国特許出願公開第10353156(DE,A1)
【文献】中国特許出願公開第107045199(CN,A)
【文献】特開2000-039581(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/00-30/60
B60K 35/00-37/06
G02B 5/00-5/136
G02F 1/13,1/137-1/141
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
視認者の眼前に配置された透過パネルに虚像を形成して情報を表示するヘッドアップディスプレイであって、
前記視認者の側から前記透過パネルに画像を投影するプロジェクタと、
前記透過パネルの一部に設けられ、前記プロジェクタから出射された画像の投影光を入射して前記視認者の方向に半反射することにより、前記虚像を形成して情報を表示するハーフミラーと、
前記視認者に向かって前記透過パネルに入射する外光の前記ハーフミラーへの入射を抑制するとともに、前記ハーフミラーを透過する前記投影光の反射を抑制する透光抑制部と、
を備え
、
前記透光抑制部は、
前記外光を拡散する拡散板と、
前記拡散板で拡散された前記外光と前記ハーフミラーを透過する前記投影光を減衰させるとともに、前記拡散板で拡散された前記投影光をさらに減衰させる減衰板と、
を備える、
ヘッドアップディスプレイ。
【請求項2】
前記拡散板は、
透過率を制御可能で、白色拡散液晶
として動作可能な第1の液晶表示板で構成され、
前記減衰板は、透過率を制御可能な第2の液晶表示板で構成され、
前記虚像を表示しないときに、前記第1の液晶表示板及び前記第2の液晶表示板の透過率が
高くなるように制御し、前記虚像を表示するときに、前記第1の液晶表示板を前記白色拡散液晶として動作させるとともに前記第2の液晶表示板の透過率が
低くなるように制御する制御部を備える、
請求項
1に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項3】
前記透光抑制部は、
前記拡散板と前記減衰板との間が離間している、
請求項
1又は
2に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項4】
前記プロジェクタから出射された前記投影光は、直線偏光であり、
前記拡散板と前記減衰板との間に、前記ハーフミラーを透過する前記直線偏光を遮光する偏光板が設けられている、
請求項
1から
3のいずれか一項に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項5】
前記減衰板は、
表面に光を回折させて吸収する周期的な凹凸面が配列された吸収面が形成された光吸収体である、
請求項
1から
4のいずれか一項に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項6】
前記透光抑制部は、
前記拡散板と前記減衰板との間に積層され、いずれか一方の偏光板が、通過する直線偏光の偏光方向
を調整可能な一対の偏光板を備える、
請求項1から
3のいずれか一項に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項7】
前記プロジェクタから出力される前記投影光は、前記ハーフミラーにS偏光として入射する直線偏光であり、
前記一対の偏光板のうち、前記ハーフミラーに近い偏光板では、前記
投影光の偏光方向と、通過
する
直線偏光の偏光方向
とが直交しており、
前記一対の偏光板のうち、前記ハーフミラーから遠い偏光板では、
通過する直線偏光の偏光方向を調整可能である、
請求項
6に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項8】
視認者の眼前に配置された透過パネルに虚像を形成して情報を表示するヘッドアップディスプレイであって、
前記視認者の側から前記透過パネルに画像を投影するプロジェクタと、
前記透過パネルの一部に設けられ、前記プロジェクタから出射された画像の投影光を入射して前記視認者の方向に半反射することにより、前記虚像を形成して情報を表示するハーフミラーと、
前記視認者に向かって前記透過パネルに入射する外光の前記ハーフミラーへの入射を抑制するとともに、前記ハーフミラーを透過する前記投影光の反射を抑制する透光抑制部と、
を備え、
前記透光抑制部は、一対の偏光板を備え、
前記プロジェクタから出力される前記投影光は、前記ハーフミラーにS偏光として入射する直線偏光であり、
前記一対の偏光板のうち、前記ハーフミラーに近い偏光板では、前記投影光の偏光方向と、通過する直線偏光の偏光方向とが直交しており、
前記一対の偏光板のうち、前記ハーフミラーから遠い偏光板では、通過する直線偏光の偏光方向を調整可能である、
ヘッドアップディスプレイ。
【請求項9】
前記ハーフミラー及び前記透光抑制部の外縁をぼかすぼかし部が設けられている、
請求項1から8のいずれか一項に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項10】
前記虚像が表示される領域よりも前記拡散板が大きい、
請求項
1から
7のいずれか一項に記載のヘッドアップディスプレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッドアップディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のフロントガラス等の透過パネルに、情報を表示するヘッドアップディスプレイが従来から知られている(例えば特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-079197号公報
【文献】特開平9-325293号公報
【文献】特表2018-506052号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】Ken Kihara, Marina Seki, Sakuichi Ohtsuka, "Deterioration of Visibility of Scrolling Text Presented Nearby Image Moving in the Opposite Direction", IEICE TRANSACTIONS on Fundamentals of Electronics, Communications and Computer Sciences, Vol.E96-A, No.1, pp.340-344 (2013).
【文献】Sakuichi Ohtsuka, Shintaro Oka, Ken Kihara, Takaki Tsuruda, Marina Seki, "Effect of human-body swing on visibility of scrolled texts with direction dependency", ITE Transactions on Media Technology and Applications, Vol.1, No.4, pp.263-270 (2013).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ヘッドアップディスプレイでは、表示される画像が、フロントガラスに表示される。このため、表示を見る視認者である運転手から見れば、
図15に示すように、表示される画像が、フロントガラスの向こうの景色と重なり合うことになる。この場合、低角度の太陽又は高輝度LEDを使用したデジタルサイネージなどにより、景色が明るすぎたり、表示される画像と一体化したりすると、表示される画像が見にくくなり、そのことが、画像を見る視認者にとって負担となる。
【0006】
また、赤と緑が見分けにくい2色覚者の場合には、表示と背景とが混同色となり視認性が著しく低下する場合も想定される。さらに、人間の視覚特性として、複数の異なる動きをする対象(特に左右方向に対して)を視認しようとする場合に、その動きの組み合わせによって視認しようとする文字等の情報が極端に読み取り困難になる場合もある(非特許文献1,2)。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、虚像を見やすくして視認者の負担を軽減することができるヘッドアップディスプレイを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の第1の観点に係るヘッドアップディスプレイは、
視認者の眼前に配置された透過パネルに虚像を形成して情報を表示するヘッドアップディスプレイであって、
前記視認者の側から前記透過パネルに画像を投影するプロジェクタと、
前記透過パネルの一部に設けられ、前記プロジェクタから出射された画像の投影光を入射して前記視認者の方向に半反射することにより、前記虚像を形成して情報を表示するハーフミラーと、
前記視認者に向かって前記透過パネルに入射する外光の前記ハーフミラーへの入射を抑制するとともに、前記ハーフミラーを透過する前記投影光の反射を抑制する透光抑制部と、
を備え、
前記透光抑制部は、
前記外光を拡散する拡散板と、
前記拡散板で拡散された前記外光と前記ハーフミラーを透過する前記投影光を減衰させるとともに、前記拡散板で拡散された前記投影光をさらに減衰させる減衰板と、
を備える。
【0010】
また、前記拡散板は、透過率を制御可能で、白色拡散液晶として動作可能な第1の液晶表示板で構成され、
前記減衰板は、透過率を制御可能な第2の液晶表示板で構成され、
前記虚像を表示しないときに、前記第1の液晶表示板及び前記第2の液晶表示板の透過率が高くなるように制御し、前記虚像を表示するときに、前記第1の液晶表示板を前記白色拡散液晶として動作させるとともに前記第2の液晶表示板の透過率が低くなるように制御する制御部を備える、
こととしてもよい。
【0011】
前記透光抑制部は、
前記拡散板と前記減衰板との間が離間している、
こととしてもよい。
【0012】
前記プロジェクタから出射された前記投影光は、直線偏光であり、
前記拡散板と前記減衰板との間に、前記ハーフミラーを透過する前記直線偏光を遮光する偏光板が設けられている、
こととしてもよい。
【0013】
前記減衰板は、
表面に光を回折させて吸収する周期的な凹凸面が配列された吸収面が形成された光吸収体である、
こととしてもよい。
【0014】
前記透光抑制部は、
前記拡散板と前記減衰板との間に積層され、いずれか一方の偏光板が、通過する直線偏光の偏光方向を調整可能な一対の偏光板を備える、
こととしてもよい。
【0015】
前記プロジェクタから出力される前記投影光は、前記ハーフミラーにS偏光として入射する直線偏光であり、
前記一対の偏光板のうち、前記ハーフミラーに近い偏光板では、前記投影光の偏光方向と、通過する直線偏光の偏光方向とが直交しており、
前記一対の偏光板のうち、前記ハーフミラーから遠い偏光板では、通過する直線偏光の偏光方向を調整可能である、
こととしてもよい。
本発明の第2の観点に係るヘッドアップディスプレイは、
視認者の眼前に配置された透過パネルに虚像を形成して情報を表示するヘッドアップディスプレイであって、
前記視認者の側から前記透過パネルに画像を投影するプロジェクタと、
前記透過パネルの一部に設けられ、前記プロジェクタから出射された画像の投影光を入射して前記視認者の方向に半反射することにより、前記虚像を形成して情報を表示するハーフミラーと、
前記視認者に向かって前記透過パネルに入射する外光の前記ハーフミラーへの入射を抑制するとともに、前記ハーフミラーを透過する前記投影光の反射を抑制する透光抑制部と、
を備え、
前記透光抑制部は、一対の偏光板を備え、
前記プロジェクタから出力される前記投影光は、前記ハーフミラーにS偏光として入射する直線偏光であり、
前記一対の偏光板のうち、前記ハーフミラーに近い偏光板では、前記投影光の偏光方向と、通過する直線偏光の偏光方向とが直交しており、
前記一対の偏光板のうち、前記ハーフミラーから遠い偏光板では、通過する直線偏光の偏光方向を調整可能である。
【0016】
前記ハーフミラー及び前記透光抑制部の外縁をぼかすぼかし部が設けられている、
こととしてもよい。
【0017】
前記虚像が表示される領域よりも前記拡散板が大きい、
こととしてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、透過パネルの一部に設けられたハーフミラーは、プロジェクタから出射された画像の投影光を入射して視認者の方向に半反射することにより虚像を形成し、情報を表示する。また、透光抑制部は、視認者に向かって透過パネルに入射する外光のハーフミラーへの入射を抑制するとともに、ハーフミラーを透過する投影光の反射を抑制する。このようにすれば、ハーフミラーへの外光の入射を抑制して、外光による透過パネル越しの景色と、虚像とが重なり合わないようにすることができるとともに、ハーフミラー以外で視認者へ向かって反射する投影光の強度を小さくして、虚像周辺のノイズ成分を低減することができる。この結果、虚像を見やすくして視認者の負担を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施の形態1に係るヘッドアップディスプレイの構成を示す模式図である。
【
図2】
図1のヘッドアップディスプレイを構成するハーフミラー及び透光抑制部における外光の光路図である。
【
図3】
図1のヘッドアップディスプレイを構成するハーフミラー及び透光抑制部における投影光の光路図である。
【
図4】
図1のヘッドアップディスプレイの効果を示す図である。
【
図5】
図1のヘッドアップディスプレイの変形例を示す図である。
【
図6】拡散板及び減衰板を液晶表示板で構成した場合の制御系のブロック図である。
【
図7】拡散板としての錐状の光吸収体の構造の一例を示す断面図である。
【
図8】拡散板を省略できる場合の構成の一例を示す図である。
【
図9】ぼかし部が設けられたヘッドアップディスプレイの構成を示す図である。
【
図10】本発明の実施の形態2に係るヘッドアップディスプレイの構成を示す模式図である。
【
図11】
図10のヘッドアップディスプレイの光学系の構成を示す模式図である。
【
図12】本発明の実施の形態3に係るヘッドアップディスプレイの構成を示す模式図である。
【
図13】ハーフミラー及び透光抑制部における外光及び投影光の光路図である。
【
図15】従来のヘッドアップディスプレイで表示される虚像の様子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。全図において、同一又は相当する構成要素には、同一の符号が付されている。本実施の形態に係るヘッドアップディスプレイは、自動車に組み込まれている。
【0021】
実施の形態1.
まず、本発明の実施の形態1について説明する。本実施の形態に係るヘッドアップディスプレイは、自動車のフロントガラスに虚像を形成して情報を表示する。
【0022】
図1に示すように、ヘッドアップディスプレイ1Aは、運転手Pの眼前に配置されたフロントガラス2に虚像Im2を形成して、情報を表示する。ヘッドアップディスプレイ1Aは、プロジェクタ3と、ハーフミラー4と、透光抑制部5Aと、を備える。
【0023】
プロジェクタ3は、画像を投影する投影機である。プロジェクタ3は、車内のフロントガラス2の下部(例えばダッシュボートの上部)に配設されている。プロジェクタ3は、運転手Pの側からフロントガラス2に画像を投影する。投影される画像Im1は、フロントガラス2に表示される虚像Im2の鏡像となる。
【0024】
ハーフミラー4は、フロントガラス2の一部に設けられている。ハーフミラー4は、入射した光の約50%を反射するとともに、残りを透過する。ハーフミラー4は、プロジェクタ3から出射された画像Im1の投影光ILを入射して運転手Pの方向に半反射する。これにより、フロントガラス2の虚像Im2が形成され、情報が表示される。
【0025】
透光抑制部5Aは、運転手Pに向かってフロントガラス2に入射する外光ELのハーフミラー4への入射を抑制する。
【0026】
本実施の形態では、透光抑制部5Aは、拡散板10と、減衰板11と、を備える。ハーフミラー4、減衰板11及び拡散板10は、運転手Pから見てこの順に積層されている。拡散板10は、入射する光を拡散(散乱)させる。減衰板11は、入射する光の強度を減衰させる。
【0027】
より具体的には、
図2に示すように、外光ELは、フロントガラス2に入射し、ハーフミラー4に入射する前に、透光抑制部5Aの拡散板10に入射する。拡散板10は、入射した外光ELを拡散する。拡散板10で拡散された外光ELは、減衰板11に入射する。減衰板11は、拡散板10で拡散された外光ELの強度を減衰させる。この結果、ハーフミラー4を透過する外光ELは、均一になり、その強度は非常に小さくなる。
【0028】
さらに、透光抑制部5Aは、ハーフミラー4を透過する投影光ILの反射を抑制する。より具体的には、
図3に示すように、プロジェクタ3から出射された投影光ILは、ハーフミラー4で半反射されるとともに、残りはハーフミラー4を透過して減衰板11に入射する。減衰板11は、ハーフミラー4を透過する投影光ILを減衰させる。
【0029】
減衰板11で減衰した投影光ILは、拡散板10に入射する。拡散板10は入射した投影光ILを拡散する。拡散板10で拡散した投影光ILの一部は、再び減衰板11に入射する。減衰板11は、再入射した投影光ILを減衰させる。減衰板11を通過した投影光ILは、ハーフミラー4を透過して、投影光IL’として運転手Pの方に向かう。虚像Im2のノイズとなるこの投影光IL’は、拡散板10で拡散され、減衰板11を2度透過しているため、その強度は、無視できるほど小さくなっている。
【0030】
図4に示すように、フロントガラス2には、プロジェクタ3によって投影された虚像Im2が表示されている。フロントガラス2の虚像Im2が表示される領域ARには、ハーフミラー4及び透光抑制部5Aが組み込まれており、この領域ARでは、外光ELの入射が抑制され、外光ELによる領域ARにおける像の形成が防止される。このことは、3次元の奥行知覚の観点でみると運転手Pが虚像Im2以外の奥行を知覚できなくなるので自然に虚像Im2に焦点を合わせることが出来る。また、通常は外光ELによってもたらさせる背景象の左右方向の動きに依存して虚像Im2の情報取得の容易さが変動するのに対し、この領域ARの動きの知覚も殆ど感じられなくなるので、安定した知覚が得られる。さらに、この領域ARでは、投影光ILによる虚像Im2に対するノイズ成分も低減されている。これらにより、運転手Pが、「フロントガラス2に虚像Im2がはっきりと表示されている」と感じることが出来る。
【0031】
以上詳細に説明したように、本実施の形態によれば、フロントガラス2の一部に設けられたハーフミラー4は、プロジェクタ3から出射された画像Im1の投影光ILを入射して運転手Pの方向に半反射することにより虚像Im2を形成し、情報を表示する。また、透光抑制部5Aは、運転手Pに向かってフロントガラス2に入射する外光ELのハーフミラー4への入射を抑制するとともに、ハーフミラー4を透過する投影光ILの反射を抑制する。
【0032】
このようにすれば、ハーフミラー4への外光ELの入射を抑制して、外光ELによる透フロントガラス2越しの景色と、虚像Im2とが重なり合わないようにすることができるとともに、ハーフミラー4以外で運転手Pへ向かって反射する投影光IL’の強度を小さくして、虚像Im2周辺のノイズ成分を低減することができる。この結果、虚像Im2を見やすくして運転手Pの負担を軽減することができる。
【0033】
また、透光抑制部5Aに拡散板10を組み込むことにより、外光ELを、虚像Im2を表示するためのバックライトとして用いることができるので、虚像Im2をさらに見やすくすることができる。
【0034】
なお、
図5に示すように、拡散板10と減衰板11との間に、スペーサ12を設けるようにしてもよい。スペーサ12は、フロントガラス2の材料と同質の材料より構成することができる。このようにすれば、拡散板10による外光EL及び投影光ILの拡散度合をさらに高めることができる。
【0035】
なお、スペーサ12の代わりに、拡散板10と減衰板11との間に、単なる空隙を設けるようにしてもよい。すなわち、拡散板10と、減衰板11との間に間隔が空いていれば、拡散板10による外光EL及び投影光ILの拡散度合をさらに高めることができる。
【0036】
なお、
図6に示すように、拡散板10は、白色拡散液晶である第1の液晶表示板10aで構成されるようにしてもよい。また、減衰板11は、透過率を制御可能な第2の液晶表示板11aで構成するようにしてもよい。
【0037】
この場合、第1、第2の液晶表示板10a,11aは、制御部20で制御される。制御部20は、虚像Im2を表示しないときに、第1の液晶表示板10a及び第2の液晶表示板11aの透過率が高くなるように制御する。これにより、フロントガラス2と同様に、ハーフミラー4及び透光抑制部5Aを介して、外光ELを取り入れ、外の景色を見ることができる。
【0038】
また、制御部20は、虚像Im2を表示するときに、第1の液晶表示板10aを白色拡散液晶として動作させるとともに第2の液晶表示板11aの透過率が低くなるように制御する。これにより、上述のように、表示された虚像Im2を見やすくすることができる。
【0039】
また、減衰板11として、
図7に示すように、光吸収体30を用いるようにしてもよい。この光吸収体30では、高さhの錐状の突起31が複数設けられている。これら錐状の突起31は、ピッチpで周期的に2次元に配列されており、この2次元アレイが、光を減衰させる光回折構造を形成している。
【0040】
ピッチpは、好ましくは可視光線の波長域の1/2以下であり、さらに1/3以下であることが好ましい。斜めから入射する光に対しても反射率を抑えるにはよりピッチpが小である方が好ましい。
【0041】
突起31の高さhは、特に限定されない。突起31の高さhが必ずしも一定である必要はない。しかしながら、突起31の高さhは、高ければ高いほど、投影光ILに対する反射防止機能が向上する。突起31の高さhは、好ましくは少なくともピッチp以上であり、少なくともピッチpの3倍以上であるのが望ましい。上述したように、突起31の高さhがピッチp以上であれば、反射率を抑えることができる。より反射率を抑えるには、ピッチpに対する高さhのアスペクト比が、大きい方がよい。
【0042】
なお、突起31の形状は、錐状でなくてもよい。例えば、楔状であってもよい。すなわち、光吸収体30には、表面に光を吸収する周期的な凹凸面が配列された吸収面が形成されていればよい。
【0043】
さらに、拡散板10に代えて、
図8に示すように、減衰板11の表面に不規則な凹凸を有する拡散面40を形成するようにしてもよい。こうすることにより、その表面に外光EL及び投影光ILが入射しても、それらの光を拡散させることができる。
【0044】
また、
図9に示すように、虚像Im2が形成された領域ARの外縁、すなわちハーフミラー4及び透光抑制部5Aの外縁をぼかすぼかし部50が設けられるようにしてもよい。ぼかし部50は、領域ARの左右両端の横幅wの領域に形成されている。ぼかし部50は、グラデーションでぼかされ、ハーフミラー4及び透光抑制部5Aの左右の輪郭線(外縁)が見えないようになっている。この横幅wは、虚像Im2を視認する運転手Pの左右の眼の視差よりも大きくなるように設定されている。
【0045】
図1に示すように、虚像Im2の結像位置は、フロントガラス2上にはなく、その前方にある。運転手Pは、その結像位置に焦点を合わせて虚像Im2が示す情報を見る。しかしながら、ハーフミラー4及び透光抑制部5Aの外縁がフロントガラス2上にはっきり出ている場合には、運転手Pは、その外縁に焦点を合わせがちとなり、虚像Im2を見づらくなる。そこで、本実施の形態では、運転手Pが虚像Im2に焦点を合わせ易くなるようにするためにハーフミラー4及び透光抑制部5Aの左右の輪郭をぼかしている。この現象は、運転手Pの左右の眼の視差に基づくものであるため、ぼかし部50の幅wをその視差以上としている。
【0046】
このようなぼかし部50は、様々な構成で実現することができる。例えば、ぼかし部50において、拡散板10の光の拡散度を、左右外側に向かって次第に小さくするようにしてもよい。また、ぼかし部50において、減衰板11の減衰率を、左右外側に向かって次第に大きくするようにしてもよい。
【0047】
なお、
図9では、虚像Im2の領域ARの左右の外縁だけぼかし部50を設けるようにしたが、虚像Im2の領域AR(ハーフミラー4及び透光抑制部5A)の上下の外縁をぼかすようにしてもよい。
【0048】
実施の形態2.
次に、本発明の実施の形態2について説明する。本実施の形態に係るヘッドアップディスプレイ1Bでは、透光抑制部5Aの代わりに、透光抑制部5Bを備える点が、上記実施の形態に係るヘッドアップディスプレイ1Aの構成と異なる。
【0049】
図10に示すように、本実施の形態では、プロジェクタ3によって出射された画像を形成する投影光ILは、ハーフミラー4に入射する前に、偏光板13に入射する。偏光板13は、特定の偏光方向の直線偏光だけを通過させる。これにより、プロジェクタ3から出射された画像を形成する投影光ILは、直線偏光となる。
【0050】
また、本実施の形態では、拡散板10と減衰板11との間に、偏光板14が設けられている。偏光板14は、ハーフミラー4を透過する直線偏光を遮光する。
【0051】
図11に示すように、偏光板13を通過した投影光ILは、ハーフミラー4で一部は反射し、残りはハーフミラー4を透過する。ハーフミラー4を透過した投影光ILは、減衰板11に入射し、減衰して、偏光板14に達する。ここで、投影光IL(直線偏光)は遮光され、一部は反射して、減衰板11に再入射し、さらに減衰して、投影光IL’として、ハーフミラー4に至る。この経路を通った投影光IL’は、減衰板11で2度減衰した光であるので、その強度は無視できる程度の大きさである。
【0052】
なお、P偏光に対して相対的にS偏光の反射率を高めるために投影光ILのハーフミラー4への入射角を、ブリュースター角θもしくはそれ以上の角度としてもよい。ブリュースター角θとは、P偏光の反射率が0となる入射角のことである。ブリュースター角θの場合、ハーフミラー4で反射する投影光ILは、S偏光のみとなる。
【0053】
実施の形態3.
次に、本発明の実施の形態3について説明する。
図12に示すように、本実施の形態に係るヘッドアップディスプレイ1Cでは、透光抑制部5Aの代わりに、透光抑制部5Cを備える点が、上記実施の形態1に係るヘッドアップディスプレイ1Aの構成と異なる。
【0054】
図12に示すように、本実施の形態では、透光抑制部5Cは、減衰板11とスペーサ12との間に、調光スペーサ25を備えている点が、
図5に示す透光抑制部5Aと異なっている。調光スペーサ25は、調光可能な液晶シャッタであり、両端に設けられた一対の偏光板により、透過する光量を調節可能なND(Neutral Density)フィルタである。
【0055】
図13に示すように、調光スペーサ25は、一対の偏光板25a、25bと、スペーサ25cと、を備える。ハーフミラー4に近い偏光板25aは、特定方向の直線偏光のみを通過させる。通過する直線偏光の偏光方向は、偏光板13
の偏光方向と直交する。ハーフミラー4から遠い偏光板25bは、特定方向の直線偏光のみを通過させる。偏光板25bは、液晶素子から成り、その液晶分子の配列方向を制御することにより、
透過する直線偏光の方向を調整可能である。この調整により、調光スペーサ25は、透過する光量を調整可能である。スペーサ25cは、透過部材である。
【0056】
プロジェクタ3から出射された投影光ILは、偏光板13で直線偏光となって、ハーフミラー4にS偏光として入射し、半反射する。ハーフミラー4を透過する投影光ILは、減衰板11で減衰し、調光スペーサ25の偏光板25aで反射され、減衰板11でさらに減衰した後、ハーフミラー4から投影光IL’として出射される。投影光IL’は、減衰板11で二重に減衰しているので、無視できる程度に小さくなっている。
【0057】
一方、外光ELは、拡散板10に入射して拡散し、一部は、スペーサ12を介して調光スペーサ25に入射する。調光スペーサ25は、調整された透過率で、外光ELを透過させ、減衰板11は、調光スペーサ25を透過した外光ELがある場合には、その外光ELをさらに減衰させる。
【0058】
本実施の形態によれば、ハーフミラー4への外光ELの入射を抑制して、外光ELによる透フロントガラス2越しの景色と、虚像Im2とが重なり合わないようにすることができる。また、ハーフミラー4以外で運転手Pへ向かって反射する投影光IL’の強度を小さくして、虚像Im2周辺のノイズ成分を低減することができる。
【0059】
なお、
図14に示すように、虚像Im2が表示される領域ARよりも拡散板10を大きくするようにしてもよい。このようにすれば、領域AR外で外光ELが拡散された緩衝帯が形成される。この緩衝帯は、運転手Pの視野に十分収まるように、横方向に長くなっている。このようにしても、
図9のぼかし部50と同様に、運転手Pが虚像Im2に焦点を合わせ易くなる。
【0060】
さらに、透光抑制部を減衰板だけで構成したり、透過する光の偏光方向が互いに直交する一対の偏光板だけで構成したりするようにしてもよい。このようにしても、外光ELのハーフミラー4への入射を抑制することができる。
【0061】
なお、上記各実施の形態では、フロントガラス2の下部に虚像Im2を表示した。しかしながら、本発明はこれには限られない。運転の邪魔にならないのであれば、フロントガラス2の上部に、虚像Im2を表示するようにしてもよい。フロントガラス2の上部にうつる景色は、明るく、虚像Im2と干渉することが多いが、上記各実施の形態のヘッドアップディスプレイ1A~1Cによれば、そのような景色は拡散板10及び減衰板11によりぼかされ、虚像Im2のノイズ成分となる投影光IL’も無視できるほど小さくなるため、虚像Im2をはっきりと表示することができる。
【0062】
なお、上記各実施の形態では、プロジェクタ3の前に偏光板13を置き、プロジェクタ3から出射される投影光ILを直線偏光としたが、本発明はこれには限られない。プロジェクタ3から出射された投影光ILをブリュースター角θでミラーに入射させてS偏光のみ反射させ、その反射したS偏光を投影光ILとして用いるようにしてもよい。
【0063】
なお、上記各実施の形態では、ハーフミラー4、拡散板10及び減衰板11は、フロントガラス2に組み込まれていたが、本発明はこれには限られない。フロントガラス2の手前に透過パネルを設け、その透過パネルにハーフミラー4、減衰板11及び拡散板10が組み込まれるようにしてもよい。また、フロントガラス2に透過パネルを貼り付け、その透過パネルにハーフミラー4、減衰板11及び拡散板10が組み込まれるようにしてもよい。
【0064】
なお、上記各実施の形態では、自動車のフロントガラス2に情報を表示するヘッドマウントディスプレイについて説明したが、本発明はこれには限られない。鉄道、飛行機、船等の様々な乗り物にも適用することができる。また、ヘルメットや眼鏡などの装着物にも適用することができる。
【0065】
この発明は、この発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、この発明の範囲を限定するものではない。すなわち、この発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、自動車のフロントガラスに虚像を形成して情報を表示するヘッドアップディスプレイに適用することができる。
【符号の説明】
【0067】
1A,1B,1C ヘッドアップディスプレイ、2 フロントガラス、3 プロジェクタ、4 ハーフミラー、5A,5B,5C 透光抑制部、10 拡散板、10a 第1の液晶表示板、11 減衰板、11a 第2の液晶表示板、12 スペーサ、13,14 偏光板、20 制御部、25 調光スペーサ、25a,25b 偏光板、25c スペーサ、30 光吸収体、31 突起、40 拡散面、50 ぼかし部、AR 領域、Im1 画像、1m2 虚像、IL,IL’ 投影光、EL 外光、P 運転者