(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】ターゲット構造、ターゲット装置、及びターゲット装置を備える装置
(51)【国際特許分類】
G21K 5/08 20060101AFI20221025BHJP
H05H 3/06 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
G21K5/08 C
G21K5/08 N
H05H3/06
(21)【出願番号】P 2018145981
(22)【出願日】2018-08-02
【審査請求日】2021-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100097515
【氏名又は名称】堀田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100136700
【氏名又は名称】野村 俊博
(72)【発明者】
【氏名】小林 知洋
(72)【発明者】
【氏名】大竹 淑恵
(72)【発明者】
【氏名】須長 秀行
(72)【発明者】
【氏名】李 曉博
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-185784(JP,A)
【文献】特開2014-044098(JP,A)
【文献】特開2018-011872(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21K 5/00 - 5/10
H05H 3/06
H05H 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームが照射されることにより中性子を発生するターゲットと、
互いに反対側を向く表面と裏面を有し、前記表面に前記ターゲットが直接的に又は間接的に接合されており、冷却液を流す流路が形成された冷却部と、を備え、
前記表面から前記裏面へ向かう前記冷却部の厚み方向に外部へ放出される前記中性子のビームが前記冷却液中の水素元素により減速されないようにするためのターゲット構造であって、
前記厚み方向に見た場合に、前記冷却部において、前記ターゲットの中央部と重なる領域に冷却水が流れないように、前記流路は、前記中央部からずれて位置しており、
前記ターゲット構造を外部から遮蔽する遮蔽構造の粒子通路を通して粒子ビーム発生装置からの前記荷電粒子ビームが照射される、前記ターゲットの領域が、前記中央部全体の領域、又は、前記中央部内の一部の領域となるように、前記中央部の広さが設定されている、ターゲット構造。
【請求項2】
前記厚み方向に見た場合に、前記流路は、前記ターゲットの前記中央部を囲むように形成されている、請求項1に記載のターゲット構造。
【請求項3】
前記厚み方向に見た場合に、前記流路は、前記中央部を通る基準直線に関して線対称に形成されている、請求項1又は2に記載のターゲット構造。
【請求項4】
前記流路は、前記表面に沿って延びている、請求項1~3のいずれか一項に記載のターゲット構造。
【請求項5】
前記ターゲットは板状であり、
前記ターゲットの裏面が前記冷却部の前記表面に直接的に又は間接的に接合されている、請求項1~4のいずれか一項に記載のターゲット構造。
【請求項6】
前記冷却部は、銅、チタン、バナジウム、ニッケル、鉄、アルミニウム、又は、これらの任意の組合せの合金で形成されている、請求項1~5のいずれか一項に記載のターゲット構造。
【請求項7】
前記ターゲットは、リチウム、ベリリウム、リチウム化合物、又はベリリウム化合物により形成されている、請求項1~6のいずれか一項に記載のターゲット構造。
【請求項8】
前記流路は、
前記冷却部の外部から冷却液が流入する流入部と
前記流入部から冷却液が流入し前記表面に沿って延びている主流路部と、
前記主流路部を流れた冷却液を外部へ流出させる流出部とを含み、
前記流入部と前記主流路部と前記流出部とを1組として、前記流路は、1組または複数組の前記流入部と前記主流路部と前記流出部を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のターゲット構造。
【請求項9】
前記流路は、
前記冷却部の外部から冷却液が流入する流入部と、
該流入部から冷却液が流入し前記表面に沿って延びている主流路部と、
主流路部を流れた冷却液を前記冷却部の外部へ流出させる流出部と、を含み、
前記流入部の内面は、前記冷却部の外部から流入した冷却液が前記表面と交差する方向に衝突する領域を有する、
請求項1~7のいずれか一項に記載のターゲット構造。
【請求項10】
荷電粒子ビームが照射されることにより中性子を発生するターゲットと、
互いに反対側を向く表面と裏面を有し、前記表面に前記ターゲットが直接的に又は間接的に接合されており、冷却液を流す流路が形成された冷却部と、を備え、
前記表面から前記裏面へ向かう前記冷却部の厚み方向に見た場合に、前記流路は、前記ターゲットの中央部からずれて位置しており、
前記厚み方向と逆の方向に見た場合に、前記冷却部の前記裏面は、前記ターゲットの前記中央部と重なる内側領域と、該内側領域を囲み前記流路と重なる部分を含む流路重複領域を有し、
前記内側領域は、前記流路重複領域に対して窪んでいる、ターゲット構造。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載のターゲット構造と、
前記ターゲット構造を覆って外部から遮蔽する遮蔽構造と、を備え、
前記遮蔽構造は、前記ターゲット構造が取り付けられる支持部を有し、
前記遮蔽構造には、外部からの荷電粒子ビームを前記冷却部の前記厚み方向に前記ターゲットへ通す粒子通路と、前記ターゲットで発生した中性子を前記厚み方向に外部へ通す中性子通路とが形成されている、ターゲット装置。
【請求項12】
請求項11に記載のターゲット装置と、
前記粒子通路に前記荷電粒子ビームを導入する粒子ビーム発生装置と、を備える装置であって、
前記厚み方向に見た場合に、前記粒子ビーム発生装置からの前記荷電粒子ビームが照射される、前記ターゲットの領域が、前記中央部全体の領域、又は、前記中央部内の一部の領域となるように、前記中央部の広さが設定されている、装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビームが照射されることにより中性子を発生するターゲットを備えるターゲット構造に関する。また、本発明は、ターゲット構造を備えるターゲット装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ターゲット装置は、中性子を発生させる中性子源に設けられる。中性子源は、荷電粒子を発生して加速し、加速した荷電粒子ビームをターゲット装置におけるターゲットに照射し、これにより、ターゲットから中性子を発生させる。
【0003】
近年、中性子源の小型化が可能となり、小型の中性子源を用いて中性子ビームを対象物に入射させることにより、対象物の非破壊検査を行う技術が開発されている。例えば、中性子ビームを対象物に入射させ、対象物で散乱されて戻って来た中性子に基づいて、対象物の検査を行うことができる(例えば下記の特許文献1を参照)。ここで、対象物の検査とは、一例では、対象物に特定の物質成分又は空洞が存在するかどうかの検査である(以下、同様)。また、中性子ビームを対象物に入射させて、対象物を透過した中性子ビームに基づいて透過画像を生成し、この透過画像に基づいて、対象物の検査を行うこともできる。なお、下記の特許文献2には、本発明の実施形態の一部に関連する内容が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/043581
【文献】特許第5888760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ターゲットは、荷電粒子ビームが照射されることにより加熱されるので、ターゲットの温度が上昇し過ぎてしまわないようにターゲットは冷却される。例えば、固体のターゲットが加熱されて溶けてしまわないように、ターゲットは冷却される。この冷却のために、ターゲットが接合されている構造部において、冷却液(例えば水)を流す流路を形成している。
【0006】
しかし、ターゲットにおいて発生した中性子は、流路内の冷却液を通過する時に冷却液中の水素元素により減速されてしまう。中性子ビームを用いて対象物を検査する場合には、減速されていない高速の中性子ビームを、対象物に入射させることが望ましい場合が多い。例えば、中性子ビームを対象物に入射させ、散乱で戻って来る中性子に基づいて対象物を検査する場合には、中性子ビームが、冷却液中の水素元素により減速されると、対象物において深い位置から散乱で戻ってくる中性子の数が減ってしまう。そのため、対象物の深い部分について検査が行えない。あるいは、中性子ビームを対象物に入射させ、対象物を透過した中性子ビームに基づいて透過画像を生成する場合には、対象物が厚いと、対象物を透過する中性子の数が減ってしまう。そのため、厚みの大きい対象物について検査が行えない。
【0007】
そこで、本発明の目的は、荷電粒子ビームが照射されることにより中性子を発生するターゲットを冷却液で冷却する場合に、外部へ放出する中性子ビームが、冷却液中の水素元素により減速されてしまうことを防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によるターゲット構造は、ターゲットと冷却部を備える。ターゲットは、荷電粒子ビームが照射されることにより中性子を発生する。冷却部は、互いに反対側を向く表面と裏面を有する。冷却部の表面にターゲットが直接的に又は間接的に接合されている。冷却部には、水素元素を含む冷却液を流す流路が形成されている。冷却部の表面から裏面へ向かう冷却部の厚み方向に見た場合に、流路は、ターゲットの中央部からずれて位置している。
【0009】
本発明によるターゲット装置は、上述したターゲット構造と、ターゲット構造を覆って外部から遮蔽する遮蔽構造とを備える。遮蔽構造は、冷却部が取り付けられる支持部を有する。遮蔽構造には、外部からの荷電粒子ビームを冷却部の厚み方向にターゲットへ通す粒子通路と、ターゲットで発生した中性子を冷却部の厚み方向に外部へ通す中性子通路とが形成されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、冷却部の厚み方向に見た場合に、流路は、ターゲットの中央部からずれて位置している。したがって、荷電粒子ビームの照射によりターゲットから中性子を発生させ、冷却部の厚み方向に中性子ビームを放出させる場合に、中性子ビームは、当該厚み方向に流路の冷却液を通過することなく放出される。よって、放出される中性子ビームは、流路の冷却液に含まれる水素元素により減速されない。このように、冷却液の水素元素が中性子を減速させてしまうことを回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態によるターゲット装置の一例を示す断面図である。
【
図2A】
図1における部分拡大図であり、本発明の実施形態によるターゲット構造を示す断面図である。
【
図4A】
図2Aの右側から見たターゲット構造の斜視図である。
【
図5A】
図2Aの左側から見たターゲット構造の斜視図である。
【
図6】
図4Aに対応するが、ターゲットを間接的に冷却部の表面に接合した場合の構成例を示す。
【
図7】
図2Bに対応するが、流路が3組の流入部と主流路部と流出部を含む場合を示す。
【
図8】
図2Aに対応する図であるが、流路の他の構成例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の好ましい実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0013】
(ターゲット装置の全体構成)
図1は、本発明の実施形態によるターゲット構造10が適用可能なターゲット装置100の一例を示す断面図である。ターゲット装置100は、外部から導入される荷電粒子ビームBcをターゲット構造10のターゲット1へ照射させることにより、ターゲット1において中性子を発生させ、その中性子ビームBnを所定の目的で外部へ放出方向Dに放出させる装置である。
【0014】
ここで、所定の目的は、本実施形態では、上述したような対象物の非破壊検査である。すなわち、この非破壊検査では、例えば、ターゲット装置100から放出方向Dに放出された中性子ビームBnを対象物に入射させ、対象物で散乱されて戻って来た中性子に基づいて、対象物の検査を行う。あるいは、中性子ビームBnを対象物に入射させて対象物を透過した中性子ビームBnに基づいて透過画像を生成し、この透過画像に基づいて、対象物の検査を行う。なお、上記所定の目的は、対象物の非破壊検査以外に、ターゲット1で発生させた中性子を(後述の冷却液Lの水素元素で)減速させずに使用する他の目的であってもよい。
【0015】
ターゲット装置100は、ターゲット構造10と、ターゲット構造10を覆って外部から遮蔽する遮蔽構造20とを備える。遮蔽構造20は、ターゲット構造10(例えば後述の冷却部3)が取り付けられる支持部20aを有する。遮蔽構造20は、中性子やガンマ線が透過し難い材料で形成されている。遮蔽構造20には、外部からの荷電粒子ビームBcを放出方向Dにターゲット1へ通す粒子通路Pcと、ターゲット1で発生した中性子を中性子ビームBnとして放出方向Dに外部へ通す中性子通路Pnとが形成されている。すなわち、粒子通路Pcと中性子通路Pnは、遮蔽構造20を貫通している。また、粒子通路Pcと中性子通路Pnは、
図1の例では、放出方向Dに延びる同一直線上に位置している。
【0016】
図1では、遮蔽構造20には、荷電粒子ビームBcを通過させて粒子通路Pcに導入する粒子ダクト103が接続されている。また、
図1では、遮蔽構造20には、ターゲット1で発生し中性子通路Pnを通った中性子ビームBnを外部へ導出させる中性子ダクト105が接続されている。
【0017】
なお、荷電粒子ビームBcは、粒子ビーム発生装置(図示せず)により、発生させられてターゲット装置100へ導入される。例えば、粒子ビーム発生装置において、イオン源により陽子(水素イオン)が発生させられ、発生した陽子を加速器により加速し、加速された陽子ビームの方向や広がりを、磁場コイルにより調整する。方向や広がりが調整された陽子ビームが、荷電粒子ビームBcとして粒子ダクト103を通して粒子通路Pcへ導入される。
【0018】
ターゲット1に照射される陽子ビームの各陽子は、例えば7MeVのエネルギーを有し、ターゲット装置100の外部へ放出される中性子ビームBnの各中性子は、例えば、1MeV以上(例えば4MeV以上であり5MeV以下)のエネルギーを有する。ただし、本発明は、これに限定されない。
【0019】
遮蔽構造20は、一例では、互いに重ねられた複数の遮蔽部20a~20cを有していてよい。遮蔽部20aは、中性子反射体であり、中性子を反射する材料(例えばグラファイト)で形成されている。遮蔽部20bは、中性子遮蔽体であり、中性子を遮蔽する材料(例えばBPE:ボロン入りポリエチレン)で形成されている。遮蔽部20cは、ガンマ線遮蔽体であり、ガンマ線を遮蔽する材料(例えばPb)で形成されている。
【0020】
(ターゲット構造の構成)
図2Aは、
図1における部分拡大図であり、ターゲット構造10、流入チューブ107、及び流出チューブ109のみを示す断面図である。
図2Bは、
図2Aの2B-2B矢視図である。
図3Aは、
図2Bの3A-3A断面図であり、
図3Bは、
図2Aの3B-3B断面図である。
また、
図4Aは、
図2Aの右側から見たターゲット構造10の斜視図であり、
図4Bは、
図4Aの4B-4B断面を示す斜視図である。
図5Aは、
図2Aの左側から見たターゲット構造10の斜視図であり、
図5Bは、
図5Aの5B-5B断面を示す斜視図である。
【0021】
ターゲット構造10は、荷電粒子ビームBcが照射されることにより中性子を発生し、その中性子ビームBnを上記所定の目的で放出方向Dに放出するためのものである。ターゲット構造10は、ターゲット1と冷却部3を備える。
【0022】
ターゲット1は、荷電粒子ビームBcが照射されることにより中性子を発生する。ターゲット1は、本実施形態では、室温で固体の状態にある。ターゲット1は、例えばリチウム(Li)、ベリリウム(Be)、リチウム化合物、又はベリリウム化合物により形成されてよいが、他の材料で形成されてもよい。リチウム化合物は、例えば、フッ化リチウム(LiF)、炭酸リチウム(Li2CO3)、酸化リチウム(Li2O)であってよい。ベリリウム化合物は、例えば、酸化ベリリウム(BeO)であってよい。
【0023】
ターゲット1は、荷電粒子ビームBcが照射されることにより発熱する。ターゲット1は
図4Aのように板状であってよい。この場合、ターゲット1は、ターゲット1の厚み方向に見た場合に、円形であってもよいし、矩形であってもよいし、他の形状であってもよい。
図4Aの例では、ターゲット1は円板形状を有している。なお、ターゲット1は、板状でなくてもよく、他の形状であってもよい。
【0024】
冷却部3は、ターゲット1から熱を受けてターゲット1を冷却する。冷却部3は、
図5Aのように略平板状に形成されていてよい。冷却部3は、
図2Aのように、互いに反対側を向く表面3aと裏面3bを有する。
図2Aや
図4Aのように、表面3aは平面であってよい。冷却部3の表面3aにターゲット1が直接的又は間接的に(
図2Aでは直接的に)接合されている。この場合、板状のターゲット1の裏面(
図2Aにおける右側の面)が冷却部3の表面3aに直接的又は間接的に接合されていてよい。冷却部3の表面3aへのターゲット1の接合は、圧着によりなされてよい。この圧着は、拡散接合(例えば、HIP:Hot Isostatic Pressing)により行われてよい。冷却部3の表面3aへのターゲット1の接合は、他の手段(例えばろう付け又はボルト)でなされてもよい。
【0025】
また、冷却部3には、冷却液Lを流す流路5が形成されている。本実施形態では、冷却液Lは、水素元素を含む液体である。実施例では、冷却液Lは水である。また、冷却液Lは、添加剤(例えば、防食剤、抗菌剤、pH緩衝剤など)が加えられた水であってもよい。更に、冷却液Lは、水素元素を含み所定値以上の沸点を有する有機溶媒であってもよい。当該所定値は、上述のようにターゲット装置100においてターゲット1から中性子を発生させている時に当該有機溶媒が液体の状態に保たれる値(例えば、80℃、100℃、又は、120℃)である。
【0026】
冷却部3は、熱伝導性材料で形成されている。熱伝導性材料は、金属材料であってよい。この金属材料は、次の基準1と基準2の一方または両方を満たすものであってよい。
【0027】
基準1:ターゲットからの中性子により当該金属材料に生じる各放射性核種が所定時間(例えば12時間)以下の半減期を示す。
基準2:ターゲットからの中性子により放射性核種が生じた当該金属材料の(単位体積当たり又は単位重量当たりの)放射能の強さが所定値以下である。
【0028】
具体的には、冷却部3を形成する金属材料は、例えば、銅(Cu)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、又は、これらの任意の組合せの合金であってよい。ここで、銅は純銅であってよい。冷却部3が銅で形成されている場合には、高い熱伝導率が得られ、且つ、上記の基準1、2が満たされる。なお、冷却部3は、このような金属材料だけで形成されていてもよいし、または、このような金属材料を主成分として含むものであってもよい。冷却部3は、実施例では鋳造により形成されるが、他の方法(例えば3Dプリンタを用いて金属粉末から形成する方法)で形成されてもよい。
【0029】
冷却部3の表面3aから裏面3bへ向かう冷却部3の厚み方向が上述の放出方向Dである。
図2Aの例では、放出方向Dは、平面である冷却部3の表面3aに直交する方向である。放出方向Dに見た場合に、流路5(本実施形態では流路5の全体)は、
図2Bのように、ターゲット1の中央部1a(すなわち、
図2Aや
図2Bにおいて破線で囲んだ領域)からずれて位置している。
図2Bにおいて、符号Wは主流路部5bの幅を示す。
【0030】
より詳しくは、
図2Bのように、放出方向Dに見た場合に、流路5(後述の主流路部5b)は、ターゲット1の中央部1aを囲むように形成されていてよい。また、放出方向Dに見た場合に、
図2Bのように、流路5(後述の主流路部5b)は、ターゲット1の中央部1aを回る周方向(以下で単に周方向ともいう)に延びていてよい。また、放出方向Dに見た場合に、流路5(流路5全体または後述の主流路部5b)は、中央部1a(中央部1aの中心)を通る基準直線Sに関して線対称に形成されていてよい。このような流路5は、冷却部3の表面3aに沿って延びていてよい。なお、放出方向に見た場合に、荷電粒子ビームBcが照射されるターゲット1の領域は、例えば、中央部1a全体の領域、又は、中央部1a内の一部の領域であってよい。
【0031】
流路5は、流入部5aと主流路部5bと流出部5cを含む。流入部5aには、冷却部3の外部から冷却液Lが流入する。主流路部5bには、流入部5aから冷却液Lが流入する。主流路部5bは、表面3aに沿って延びていてよい。
図2Bの例では、主流路部5bの形状は、放出方向Dに見た場合に、周方向に連続して延びて1周する環状である。流出部5cは、主流路部5bを流れた冷却液Lを冷却部3の外部へ流出させる。
【0032】
図2Bの例では、流入部5aから主流路部5bへ流入した冷却液Lは、主流路部5bにおける右側部分と左側部分に分岐して流れ、再び合流して流出部5cへ流入するようになっている。
【0033】
また、放出方向D(すなわち冷却部3の厚み方向)と逆の方向に見た場合に、冷却部3の裏面3bは、
図3Bと
図5Bのように、ターゲット1の中央部1aと重なる内側領域R1と、内側領域R1を囲み流路5と重なる部分を含む流路重複領域R2を有する。内側領域R1は、放出方向Dと逆の方向に見た場合にターゲット1の中央部1a全体と、形と寸法が一致する領域であってよい。冷却部3の裏面3bにおいて、内側領域R1は、流路重複領域R2に対して窪んでいる。すなわち、内側領域R1は、冷却部3の裏面3bにおける窪み3dになっている。窪み3dにより、ターゲット1からの中性子が放出方向Dに冷却部3を通過する距離を短くしている。
【0034】
窪み3dの形状は、
図2A、
図5A及び
図5Bの例に限定されない。例えば、放出方向Dに直交する平面による窪み3dの断面の面積は、窪み3dの底面から冷却部3の表面3aと反対側へ移行するにつれて増加していてもよい。
【0035】
実施例では、放出方向Dと逆の方向(以下で単に逆方向ともいう)に見た場合に、
図3Bと
図5Bのように、冷却部3の裏面3bは、逆の方向に見た場合に流路重複領域R2を囲む外周領域R3を更に含む。流路重複領域R2は、内側領域R1と外周領域R3の両方に対して、冷却部3の表面3aと反対側に(放出方向Dに)突出している。これにより、流路5の断面積を増加させている。
【0036】
(ターゲット構造の取り付け)
冷却部3は、放出方向Dに見た場合に、ターゲット1の中央部1aを囲む外周部3c(
図3A)を有する。外周部3cの裏面(
図3Aの右側の面)は、上述の外周領域R3である。外周部3cが、
図3Aのように、ターゲット装置100の支持部20aに(例えば放出方向Dに)取り付けられる。この取り付けは、ボルト21又は他の適宜の手段によりなされてよい。ボルト21を用いる場合には、外周部3cには、放出方向Dにボルト21が貫通する穴が形成されていてよい。
【0037】
(冷却液を供給する構成)
冷却部3の流入部5aと流出部5cは、
図2Aのように、それぞれ冷却部3の外部への開口6,7を有する。ターゲット構造10は例えば
図1のようにターゲット装置100の支持部20aに取り付けられた状態で、流入部5aの開口6には流入チューブ107が接続され、流出部5cの開口7には流出チューブ109が接続されている。流入チューブ107と流出チューブ109は、それぞれ開口6,7から遮蔽構造20を貫通して遮蔽構造20の外部へ延びている。流入チューブ107を通して遮蔽構造20の外部から冷却液Lを流路5へ流入させ、流路5を流れた冷却液Lを流出チューブ109を通して遮蔽構造20の外部へ流出させる。流入チューブ107と流出チューブ109は、例えば、遮蔽構造20の外部において冷却液供給装置111に接続されていてよい。
【0038】
この場合、冷却液供給装置111により、流入チューブ107を通して流入部5aへ冷却液Lを流入させ、流出部5cから流出した冷却液Lを流出チューブ109を通してターゲット装置100の外部へ流出させる。冷却液供給装置111は、例えばチラー(Chiller)と呼ばれる装置であってよい。チラーは、流入チューブ107と流路5と流出チューブ109に、この順で冷却液Lを流して循環させる機構(ポンプ等)と、流出チューブ109から戻って来た冷却液Lを冷却する機構(冷凍機等)とを備えていてよい。
【0039】
(実施形態の効果)
上述した本実施形態によるターゲット構造10によると、冷却部3の厚み方向(放出方向D)に見た場合に、流路5は、ターゲット1の中央部1aからずれて位置している。したがって、荷電粒子ビームBcの照射によりターゲット1で発生した中性子は、流路5の冷却液Lを通過することなく放出方向Dに外部へ放出される。よって、中性子ビームBnは、流路5内の冷却液Lに含まれる水素元素により減速されることなく放出方向Dに外部へ放出される。したがって、高速の中性子ビームBnを、従来よりも効果的にターゲット装置100から放出させて、非破壊検査の対象物に入射させることができる。
【0040】
荷電粒子ビームBcはターゲット1の中央部1aに照射されるので、この中央部1aが発熱する。放出方向Dに見た場合に、このような中央部1aを囲むように流路5が形成されているので、流路5を流れる冷却液Lにより、ターゲット1を効率的に且つ迅速に冷却できる。
【0041】
また、放出方向Dに見た場合に、ターゲット1の中央部1aを回る周方向に流路5が延びているので、中央部1aを取り巻く流路5を比較的に簡単な形状で形成できる。また、流路5は、ターゲット1が接合された表面3aに沿って延びているので、ターゲット1を効果的に冷却できる。
【0042】
板状のターゲット1の裏面(例えば当該裏面の全体)を冷却部3の表面3aに接合しているので、ターゲット1の熱を迅速に冷却部3へ伝達させることができる。
【0043】
冷却部3の裏面3bにおいて、ターゲット1で発生した中性子が放出方向Dに通過する内側領域R1が、流路重複領域R2に対して窪んでいる。これにより、ターゲット1で発生した中性子が放出方向Dに通過する冷却部3の距離が短くなる。したがって、当該中性子が冷却部3を通過する時に冷却部3により散乱または回折されてしまう可能性を下げることができる。
【0044】
また、流路重複領域R2は、外周領域R3(および内側領域R1)から放出方向Dに突出している。これにより、冷却部3において、流路重複領域R2の部分以外の厚みを小さくしつつ、流路5の断面積を大きくすることができる。
【0045】
本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の技術的思想の範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、本発明の実施形態によるターゲット構造10は、上述した複数の事項の全て有していなくてもよく、上述した複数の事項のうち一部のみを有していてもよい。
【0046】
また、以下の変更例1~6のいずれかを単独で採用してもよいし、変更例1~6の2つ以上を任意に組み合わせて採用してもよい。この場合、以下で述べない点は、上述と同じである。
【0047】
(変更例1)
上述の
図2Aなどでは、ターゲット1は、直接的に冷却部3の表面3aに接合されていたが、ターゲット1は、間接的に冷却部3の表面3aに接合されていてもよい。
図6は、
図4Aに対応するが、ターゲット1を間接的に冷却部3の表面3aに接合した場合の構成例を示す。
【0048】
図6のように、ターゲット1は、金属層2を介して冷却部3の表面3aに接合されてもよい。この場合、板状のターゲット1の裏面(
図6において下方を向く面)が金属層2の表面(
図6において上方を向く面)に接合され、金属層2の裏面が冷却部3の表面3aに接合されてよい。金属層2は、板状の部材であってよい。冷却部3への金属層2の接合と、金属層2へのターゲット1の接合は、圧着(例えば拡散接合)又はろう付けによりなされてよい。
【0049】
金属層2は、ターゲット1のブリスタリング(Blistering)を防止するために設けられる。ブリスタリングは、荷電粒子ビームBcとしての陽子ビームがターゲット1に照射された時に、陽子(水素)がターゲット1に蓄積することによりターゲット1が破壊されてしまう現象である。
【0050】
金属層2は、例えば、特許文献2に記載の金属層であってよい。すなわち、金属層2は、次の条件を満たすものであってよい。
条件:60℃において10-11(m2/秒)以上の水素拡散係数を示し、かつ中性子ビームBnを受けて生じる放射性核種のうち総放射線量の最も多い放射性核種が所定時間(例えば12時間)以下の半減期を示す金属元素を主成分として含む。
【0051】
具体的には、この金属元素は、例えば、バナジウム(V)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、または、これらの任意の組合せの合金であってよい。
【0052】
金属層2を設けることにより、ターゲット1および金属層2において、上述の陽子ビームで生じる水素を速やかに拡散させて、水素の濃度を減少させ又は水素を外部へ放出させる。これにより、ターゲット1のブリスタリングが防止される。
【0053】
なお、冷却部3が上述の条件を満たす材料で形成されている場合には、冷却部3により、ターゲット1のブリスタリングを防止できる。したがって、この場合には、金属層2を設けなくてもよい。
一方、冷却部3が上述の条件を満たす材料で形成されていない場合には(例えば冷却部3が銅で形成され、又は銅を主成分として含む材料で形成されている場合には)、ブリスタリングを防止するために、上述のように金属層2を設けてよい。
【0054】
また、上記金属層2は、ターゲット1のブリスタリングを防止する機能に加えて、又は、当該機能に代えて、冷却部3に対するターゲット1の圧着強度を高める機能を有していてもよい、すなわち、冷却部3の表面3aに直接的にターゲット1を圧着(例えば拡散接合)により接合した場合よりも、冷却部3の表面3aに金属層2の裏面を圧着により接合し、この金属層2の表面にターゲット1の裏面を圧着により接合した場合のほうが、冷却部3に対するターゲット1の圧着強度が高い。
【0055】
(変更例2)
流路5は、上述では1組の流入部5aと主流路部5bと流出部5cを含んでいたが、複数組の流入部5aと主流路部5bと流出部5cを含んでいてもよい。
図7は、
図2Bに対応するが、流路5が3組の流入部5aと主流路部5bと流出部5cを含む場合を示す。各組同士は、互いに独立していてよい。各組に対して、上述の流入チューブ107と流出チューブ109が設けられる。このような組の数は、
図7では3つであるが、2つであっても4つ以上であってもよい。
【0056】
複数の組に対して、それぞれ1つずつ上述の冷却液供給装置111が設けられてよい。すなわち、複数の冷却液供給装置111が設けられてよい。
あるいは、複数の組に対して、1つの共通の冷却液供給装置111が設けられてよい。すなわち、複数の組にそれぞれ対応する複数の流入チューブ107への冷却液Lの供給は、1つの冷却液供給装置111により行われてよい。この場合、当該冷却液供給装置111から延びる1本の第1チューブが途中で複数本の流入チューブ107へ分岐し、冷却部3から延びる複数本の流出チューブ109は、途中で、冷却液供給装置111に至る1本の第2チューブに合流していてよい。冷却液供給装置111は、第2チューブからの冷却液Lを冷却して第1チューブを介して複数本の流入チューブ107へ供給してよい。
【0057】
複数組の流入部5aと主流路部5bと流出部5cを設けることにより、各流路5を短くできるので、冷却部3に流す冷却液Lの総流量を増やすことが可能となる。
【0058】
(変更例3)
図8は、
図2Aに対応する図であるが、変更例3の場合の構成を示す。
図8のように、流入部5aの内面は、開口6を通して冷却部3の外部(流入チューブ107)から流入した冷却液Lが冷却部3の表面3aと交差(例えば直交)する方向に衝突する領域8を有する。
図8の例では、開口6は冷却部3の表面3aに形成されており、領域8は表面3aの側を向いているが、開口6は冷却部3の裏面3bに形成されており、衝突領域8は裏面3bの側を向いていてもよい。
【0059】
開口6を通して流入部5aに流入した冷却液Lが流入部5aの内面の領域8に衝突することにより、冷却液Lの乱流が生じる。乱流が生じた状態で冷却液Lが主流路部5bを通過するので、冷却液Lの全体が、主流路部5bを通過する過程で、ターゲット1側の主流路部5bの内面に接して或いは互いに混ざって、ターゲット1の冷却に寄与できる。
【0060】
(変更例4)
冷却部3の厚み方向Dに互いに隣接する複数層の流路5が形成されていてもよい。この場合、複数層の流路5は、例えば1つの流入部5aと1つの流出部5cを共有して、互いに連通していてもよい。または、複数層の流路5は、互いに独立していてもよい。
【0061】
(変更例5)
上述では、流路5は、冷却部3の内部に形成されていたが、流路5の一部(例えば主流路部5b)又は全部が、冷却部3の裏面3bに溝として形成されていてもよい。この場合、冷却部3の裏面3bには、当該溝を閉じるカバー部材が取り付けられてよい。これにより、流路5は、当該溝の内面と当該カバー部材とにより区画されてよい。
【0062】
あるいは、流路5の一部(例えば主流路部5b)又は全部が、冷却部3の表面3aに溝として形成されていてもよい。この場合、冷却部3の表面3aには、当該溝を閉じるカバー部材が取り付けられてよい。これにより、流路5は、当該溝の内面と当該カバー部材とにより区画されてよい。また、当該カバー部材は、放出方向Dに見た場合に、ターゲット1を囲む形状(例えば環状形状)を有していてよい。または、当該カバー部材は、ターゲット1であってもよい。この場合、当該カバー部材としてのターゲット1は、放出方向Dに見た場合に、内側領域R1と流路重複領域R2(例えば
図3A)の両方に重なる寸法と形状を有していてよい。
【0063】
(変更例6)
冷却液Lが流路5を流れる方向を、時間の間隔をおいて切り替える適宜の機構が設けられてもよい。この場合、当該機構は、ターゲット装置100の外部において流入チューブ107と流出チューブ109の途中箇所に設けられてよい。
【0064】
(参考例)
上述と違って、冷却液Lが水素元素を含まない場合には、流路5とターゲット1の中央部1aは放出方向Dに互いに重複していてよい。このような冷却液Lは、例えば、液体ガリウムであってよい。このように冷却液Lが水素元素を含まないので、中性子ビームBnは、冷却液Lを通過しても冷却液Lにより減速されずに、放出方向Dに外部へ放出される。
【符号の説明】
【0065】
1 ターゲット、2 金属層、1a 中央部、3 冷却部、3a 表面、3b 裏面、3c 外周部、3d 窪み、5 流路、5a 流入部、5b 主流路部、5c 流出部、6,7 開口、8 流入部の内面の領域、10 ターゲット構造、20 遮蔽構造、20a 遮蔽部(支持部)、20b 遮蔽部、20c 遮蔽部、21 ボルト、100 ターゲット装置、103 粒子ダクト、105 中性子ダクト、107 流入チューブ、109 流出チューブ、111 冷却液供給装置、Pc 粒子通路、Pn 中性子通路、R1 内側領域、R2 流路重複領域、R3 外周領域、D 放出方向(冷却部の厚み方向)、Bc 荷電粒子ビーム、Bn 中性子ビーム、L 冷却液