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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】作業機械の遠隔操縦システム
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/20 20060101AFI20221025BHJP
   H04M 11/00 20060101ALI20221025BHJP
   H04Q 9/00 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
E02F9/20 Q
H04M11/00 301
H04Q9/00 301B
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020057933
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2021156030
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 輝樹
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 賢人
(72)【発明者】
【氏名】楢▲崎▼ 昭広
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-237758(JP,A)
【文献】特開2019-065657(JP,A)
【文献】特開2017-005416(JP,A)
【文献】国際公開第2012/061888(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/20
H04M 11/00
H04Q 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機械に備えられた複数のアクチュエータを操縦者が操作するための操作レバーと、
前記操作レバーの操作により生成される前記複数のアクチュエータを動作させるための指令信号を、通信ネットワークを介して送信する操縦者側遠隔制御装置と、
前記指令信号を前記通信ネットワークを介して受信して前記作業機械に送信する作業機械側遠隔制御装置と、
前記操縦者側遠隔制御装置から送信される前記指令信号に対する、前記作業機械側遠隔制御装置が受信する前記指令信号の通信遅れ状態を判断する遅れ状態判断装置と、
前記通信遅れ状態があらかじめ設定された遅れ状態判断閾値よりも悪化していると判断される場合に、操作されている前記複数のアクチュエータの全ての前記指令信号をその比率を維持するように補正する指令信号補正装置と、を備えることを特徴とする作業機械の遠隔操縦システム。
【請求項2】
請求項1に記載の作業機械の遠隔操縦システムにおいて、
前記指令信号補正装置は、前記通信遅れ状態が悪化するほど前記複数のアクチュエータの動作速度が遅くなるように、操作されている前記複数のアクチュエータの全ての前記指令信号を補正することを特徴とする作業機械の遠隔操縦システム。
【請求項3】
請求項1に記載の作業機械の遠隔操縦システムにおいて、
前記指令信号補正装置は、前記通信遅れ状態があらかじめ設定された通信途絶判断閾値よりも悪化していると判断される場合は、通信が途絶していると判断し、前記複数のアクチュエータが動作しないように、操作されている前記複数のアクチュエータの全ての前記指令信号を補正することを特徴とする作業機械の遠隔操縦システム。
【請求項4】
請求項1に記載の作業機械の遠隔操縦システムにおいて、
前記遅れ状態判断閾値は、前記複数のアクチュエータの動作速度に応じて設定されることを特徴とする作業機械の遠隔操縦システム。
【請求項5】
請求項1に記載の作業機械の遠隔操縦システムにおいて、
前記遅れ状態判断装置と前記指令信号補正装置は、前記操縦者側遠隔制御装置内に設けられ、
前記指令信号補正装置は、前記指令信号が前記操縦者側遠隔制御装置から前記作業機械側遠隔制御装置に送信される前に、操作されている前記複数のアクチュエータの全ての前記指令信号を補正することを特徴とする作業機械の遠隔操縦システム。
【請求項6】
請求項1に記載の作業機械の遠隔操縦システムにおいて、
前記遅れ状態判断装置と前記指令信号補正装置は、前記作業機械側遠隔制御装置内に設けられ、
前記指令信号補正装置は、前記指令信号が前記作業機械側遠隔制御装置から前記作業機械に送信される前に、操作されている前記複数のアクチュエータの全ての前記指令信号を補正することを特徴とする作業機械の遠隔操縦システム。
【請求項7】
請求項1に記載の作業機械の遠隔操縦システムにおいて、
前記指令信号補正装置は、前記通信遅れ状態があらかじめ設定された遅れ状態判断閾値よりも悪化していると判断される場合に、前記通信遅れ状態に応じた指令補正値を出力し、操作されている前記複数のアクチュエータの全ての前記指令信号に前記指令補正値を乗算して補正することを特徴とする作業機械の遠隔操縦システム。
【請求項8】
請求項1に記載の作業機械の遠隔操縦システムにおいて、
前記指令信号補正装置は、操作されている前記複数のアクチュエータごとに前記指令信号を補正することを特徴とする作業機械の遠隔操縦システム。
【請求項9】
請求項8に記載の作業機械の遠隔操縦システムにおいて、
前記指令信号補正装置は、前記複数のアクチュエータごとに、前記遅れ状態判断閾値と、前記指令信号を補正するための前記通信遅れ状態に応じた指令補正値とが設定されていることを特徴とする作業機械の遠隔操縦システム。
【請求項10】
請求項1に記載の作業機械の遠隔操縦システムにおいて、
前記作業機械の動作状態を外部から確認するための動作状態確認装置と、
前記動作状態確認装置の出力を、前記通信ネットワークを介して受信し、操縦者が視認できるようにする動作状態表示装置と、を備えることを特徴とする作業機械の遠隔操縦システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のアクチュエータを有する作業機械の遠隔操縦システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年のインターネット等の普及および通信速度の高速化に伴い、自動車、ドローン、ロボット、作業機械といった様々な分野において、通信ネットワークを介して遠隔操縦を行う遠隔操縦システムを構築する取り組みが行われている。
【0003】
特に作業機械においては、制御対象装置である作業機械に搭載したカメラを用いて、制御対象装置やその周囲の映像を撮影し、撮影した映像を制御対象装置から遠隔制御装置に送信し、当該映像を遠隔制御装置に映し出してモニタリングしながら操作者が操作し、操作された制御信号を遠隔制御装置から制御対象装置に送信することで、制御対象装置を遠隔操作する。また、制御対象装置が屋外で使用される場合、制御対象装置と通信ネットワークとの間には無線通信ネットワークを用いることが多い。
【0004】
一方、無線通信ネットワークでは、受信信号品質の変化や通信回線の混雑などにより、データパケットの損失、通信遅延や通信速度の変動が生じることがあり、リアルタイムに制御を行う遠隔操縦システムの安定性や操作性が悪化する可能性がある。例えば、油圧ショベルのフロント装置を操縦者が所望する軌跡に沿うように動作させたい場合、無線通信ネットワークで大きな通信遅延が生じると、モニタに表示される映像に遅れが生じ、操縦者がフロント装置の実状態を正確に把握することができなくなる。そのため、リアルタイムで正確にフロント装置を移動させることが困難となり、作業効率が低下する可能性がある。そこで、遠隔制御装置と制御対象装置との間で通信遅延や通信速度の変動が発生した場合にも、安定した遠隔制御を可能にする検討が行われている。
【0005】
上述した遠隔操縦システムの通信遅延を解決する技術として特許文献1に示される従来技術がある。この従来技術は、通信ネットワークを介して制御対象装置を遠隔制御する遠隔制御装置において、通信遅延時間と制御対象の動作速度から、通信遅延時間によって生じる可能性があるオーバーシュート量を算出し、そのオーバーシュート量があらかじめ設定された閾値未満となるように、動作速度を制限する、というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-107568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
複数のアクチュエータを同時に操作する必要がある作業機械に、特許文献1に所載の技術を適用しようとした場合、通信遅延に起因するオーバーシュート量の算出および閾値の設定は、アクチュエータごとになされる。そのため、ある通信遅延状態において、あるアクチュエータのみが動作速度制限にかかった場合、特定のアクチュエータのみが減速され、作業機械の複合動作バランスが崩れてしまう。すなわち、作業機械において複数のアクチュエータの操作を遠隔操縦で行っているとき、ある特定のアクチュエータのみ通信遅延によるオーバーシュートが発生すると、操縦者の意図しない作業機械の動作となってしまい非効率的となる。
【0008】
例えば、ブーム、アーム、バケット操作による土砂の掘削作業を行っている場合に、アームの速度のみ、通信遅延時間によって、操縦者が所望する速度に対する実際の速度のオーバーシュートが発生すると、アーム速度のオーバーシュート量が所定値未満となるようにアームの指令速度のみが制限される。このとき、ブームとバケットに関しては通信遅延時間によるオーバーシュートが発生していないとすると、ブームとバケットの指令速度は制限されない。そのため、アームの速度のみが操縦者の意図よりも制限されることになるため、操縦者の意図した通りに作業機械を操作することができず、操作性が悪化してしまう。
【0009】
また、遠隔操縦の一般的な問題点として、通信遅延時間が大きくなると、操縦者が通信ネットワークを介してカメラで見た作業機械の状態と、実際の作業機械の状態との乖離が大きくなってしまうため、操縦者の意図するものとは大きくかけ離れた動作をするなどの状態が起こりうる。
【0010】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、安定性を高めることができ、操作性を効果的に向上させることのできる作業機械の遠隔操縦システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の作業機械の遠隔操縦システムは、作業機械に備えられた複数のアクチュエータを操縦者が操作するための操作レバーと、前記操作レバーの操作により生成される前記複数のアクチュエータを動作させるための指令信号を、通信ネットワークを介して送信する操縦者側遠隔制御装置と、前記指令信号を前記通信ネットワークを介して受信して前記作業機械に送信する作業機械側遠隔制御装置と、前記操縦者側遠隔制御装置から送信される前記指令信号に対する、前記作業機械側遠隔制御装置が受信する前記指令信号の通信遅れ状態を判断する遅れ状態判断装置と、前記通信遅れ状態があらかじめ設定された遅れ状態判断閾値よりも悪化していると判断される場合に、操作されている前記複数のアクチュエータの全ての前記指令信号をその比率を維持するように補正する指令信号補正装置と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、複数のアクチュエータを有する作業機械の遠隔操縦システムにおいて、複数のアクチュエータを操作しているときに、通信遅延時間が生じた場合でも、操作されている複数のアクチュエータの全ての指令信号を補正することで、複数のアクチュエータに対して指令信号(操作信号)の比率を保ちながら制限をかけるため、操縦者が所望する複数のアクチュエータの動作バランスを保ちやすく操縦できるようになり、操作がしやすくなる。また、指令信号を制限することで、例えばモニタで操縦者が把握できる作業機械の動作状態と実際の作業機械の動作状態との乖離を低減できるため、モニタに表示されている作業機械の目視結果を基に操作レバーに的確なフィードバックを入力でき、効率的に作業を行える。
【0013】
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第一の実施形態に係る作業機械の一例である油圧ショベルの遠隔操縦システムの概略構成図。
図2】第一の実施形態に係る作業機械の一例である油圧ショベルの遠隔操縦システムのブロック構成図。
図3】第一の実施形態に係る指令信号補正部のブロック構成図。
図4】第一、第二の実施形態に係る遅れ状態に基づいた指令値演算部の演算テーブル。
図5】第一、第二の実施形態に係る遅れ時間に基づいた指令値演算部の演算テーブル。
図6】第一、第二の実施形態に係る遅れ状態に基づいた指令値演算部の演算テーブルの変形例。
図7】第一、第二の実施形態に係る最大操作指令信号に基づいた補正状態閾値の演算テーブル。
図8】第一、第二の実施形態に係る遅れ時間に基づいた指令値演算部の演算テーブルの変形例。
図9】第一、第二の実施形態に係る最大操作指令信号に基づいた補正時間閾値の演算テーブル。
図10】第二の実施形態に係る作業機械の一例である油圧ショベルの遠隔操縦システムのブロック構成図。
図11】第三の実施形態に係る指令信号補正部のブロック構成図。
図12】第三の実施形態に係る遅れ状態に基づいた指令値演算部の演算テーブル。
図13】第三の実施形態に係る遅れ時間に基づいた指令値演算部の演算テーブル。
図14】第三の実施形態に係る遅れ状態に基づいた指令値演算部の演算テーブルの変形例。
図15】第三の実施形態に係る最大操作指令信号に基づいた補正状態閾値の演算テーブル。
図16】第三の実施形態に係る遅れ時間に基づいた指令値演算部の演算テーブルの変形例。
図17】第三の実施形態に係る最大操作指令信号に基づいた補正時間閾値の演算テーブル。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面を用いて説明する。各図において、同一の機能を有する部分には同一の符号を付して繰り返し説明を省略する場合がある。なお、本実施形態は、作業機械の一例として、油圧ショベルを例示して説明するが、遠隔操縦(遠隔制御)により作業機械に備えられた複数のアクチュエータを操縦者が操作可能であれば、油圧ショベルに限定されず、ホイールローダやクレーン、ブルドーザ、ダンプ、道路機械といった建設機械、建設機械以外の作業機械全般に適用可能であることは勿論である。
【0016】
<第一の実施形態>
[遠隔操縦システムの全体構成]
図1および図2は、第一の実施形態に係る作業機械の一例である油圧ショベルの遠隔操縦システムを示し、図1は、概略構成図、図2は、ブロック構成図である。
【0017】
図1に示すように、油圧ショベル(作業機械)1は、クローラ式の下部走行体2と、下部走行体2に対して旋回可能に設けられた上部旋回体3と、上部旋回体3の前部に俯仰動可能に取り付けられ、掘削作業などを行うフロント装置7とから概略構成されている。
【0018】
下部走行体2には左右一対の走行モータ11(以下、右走行モータ11、左走行モータ11という場合がある)が設置されている。上部旋回体3には、エンジン等の原動機、油圧ポンプ、旋回モータ12などが設置されている。フロント装置7は、(作動油によって駆動される油圧シリンダであるブームシリンダ、アームシリンダ、バケットシリンダにより駆動される)ブーム8、アーム9、バケット10を有する。ブーム8、アーム9、バケット10、旋回モータ12、走行モータ11はそれぞれ、本実施形態の作業機械のアクチュエータ31を構成している(図2参照)。
【0019】
油圧ショベル1には、指令情報(指令信号)を送受信する指令情報送受信部27などが設けられた作業機械側遠隔制御装置21が付設されている。油圧ショベル1の外部、例えば操縦室内には、指令情報(指令信号)を送受信する指令情報送受信部24などが設けられた操縦者側遠隔制御装置(無線リモコン装置ともいう)20が設置されている。本実施形態の遠隔操縦システムは、操縦者側遠隔制御装置20(の指令情報送受信部24)と作業機械側遠隔制御装置21(の指令情報送受信部27)との間で、通信ネットワーク34を介して、情報ないし信号を無線通信可能(送受信可能)となっている。
【0020】
また、本実施形態において、操縦者側遠隔制御装置20には、操縦者が複数のアクチュエータ31(ブーム8、アーム9、バケット10、左右の走行モータ11、旋回モータ12)の各々を操作するための複数の遠隔操作用操作レバー(以下、単に操作レバーという)22が配備されている。操縦者が各操作レバー22を操作することにより、各操作レバー22に対応したアクチュエータ31(ブーム8、アーム9、バケット10、左右の走行モータ11、旋回モータ12)を動作させるための、各操作レバー22の操作(操作レバー入力量)に応じた指令信号が生成され、指令情報送受信部24に出力される。
【0021】
油圧ショベル1は、図2に示すように、基本構成として、複数のアクチェエータ31を動作させるための油圧信号を生成する複数の電磁弁30と、複数のアクチェエータ31の動作(状態)を制御するために、外部(ここでは、作業機械側遠隔制御装置21の指令情報送受信部27)から入力される指令信号を電流に変換して電磁弁30に指令するコントローラ29とを有する。
【0022】
ここでは、図1、2に示すような操縦室内の操作レバー22の操作により生成される指令信号を、コントローラ29を介して電磁弁30に指令し、その電磁弁30から出力される油圧によってコントロールバルブを介してアクチュエータ31(ブーム8、アーム9、バケット10、左右の走行モータ11、旋回モータ12)を動作させる電気レバーシステムを有する一般的な油圧ショベル1の基本構成に対し、本実施形態の遠隔操縦システムを適用する実施形態について述べる。
【0023】
一般的な油圧ショベル1の構成の詳細説明はここでは省略する。
【0024】
なお、図示のように、操作レバー22と操縦者側遠隔制御装置20を一つの装置として構成してもよい(換言すれば、操作レバー22が操縦者側遠隔制御装置20に備えられていてもよい)し、それらを別装置として構成してもよいことは当然である。また、図示のように、油圧ショベル(作業機械)1と作業機械側遠隔制御装置21を別装置として構成してもよいし、それらを一つの装置として構成してもよい(換言すれば、作業機械側遠隔制御装置21が油圧ショベル1に内蔵されていてもよい)ことは当然である。
【0025】
[遠隔操縦システムのブロック構成]
前述した操縦者側遠隔制御装置20および作業機械側遠隔制御装置21は、図示は省略するが、各種演算を行うCPU(Central Processing Unit)、CPUによる演算を実行するためのプログラムを格納するROM(Read Only Memory)やHDD(Hard Disk Drive)などの記憶装置、CPUがプログラムを実行する際の作業領域となるRAM(Random Access Memory)などを含むマイクロコンピュータ(マイコン)として構成されている。操縦者側遠隔制御装置20および作業機械側遠隔制御装置21の各機能は、CPUが、記憶装置に格納された各種プログラムをRAMにロードして実行することにより、実現される。
【0026】
操縦者は、図2に示す操縦者側遠隔制御装置20にある操作レバー22によって、作業機械のアクチュエータ31(ブーム8、アーム9、バケット10、左右の走行モータ11、旋回モータ12)の操作を行う。
【0027】
詳しくは、操縦者は、油圧ショベル1(の複数のアクチュエータ31)の動作状態を外部、例えば操縦室内からカメラ32で撮影した映像を通信ネットワーク34を介してモニタ33に表示し、このモニタ33の映像を見ながら操縦者側遠隔制御装置20にある操作レバー22を操作し、作業機械のアクチュエータ31の遠隔操縦(遠隔制御)を行う。つまり、カメラ32は、油圧ショベル1(の複数のアクチュエータ31)の動作状態を外部から確認するための動作状態確認装置であり、モニタ33は、カメラ(動作状態確認装置)32の出力(映像)を、通信ネットワーク34を介して受信し、操縦者が視認できるようにする動作状態表示装置である。
【0028】
図2に示すように、操縦者側遠隔制御装置20は、遅れ状態判断部(遅れ状態判断装置)26の出力に基づき操作レバー22の操作に応じて生成される指令信号の補正を行う指令信号補正部(指令信号補正装置)23、指令情報(詳しくは、指令信号補正部23から出力される指令信号)を通信ネットワーク34を介して送信する指令情報送受信部24、操縦者側遠隔制御装置20の通信状態の判別を行う通信状態判断部25、作業機械側遠隔制御装置21の通信状態の判別を行う通信状態判断部28と操縦者側遠隔制御装置20の通信状態の判別を行う通信状態判断部25の出力を基に、作業機械側遠隔制御装置21との間の通信遅れ状態(以下、単に遅れ状態という場合がある)の判断を行う遅れ状態判断部26を有する。
【0029】
一方、油圧ショベル1側の作業機械側遠隔制御装置21は、操縦者側遠隔制御装置20(の指令情報送受信部24)から送信された指令情報(指令信号)を通信ネットワーク34を介して受信し、油圧ショベル1のコントローラ29へその指令信号を送信する指令情報送受信部27、作業機械側制御装置21の通信状態の判断を行う通信状態判断部28を有する。
【0030】
[操縦者側遠隔制御装置20の遅れ状態判断部26の動作]
前述したように、遅れ状態判断部26は、操縦者側遠隔制御装置20の通信状態判断部25と作業機械側遠隔制御装置21の通信状態判断部28の出力を基に、作業機械側遠隔制御装置21との間の通信遅れ状態の判断を行う。詳しくは、遅れ状態判断部26は、操縦者側遠隔制御装置20の通信状態判断部25と作業機械側遠隔制御装置21の通信状態判断部28の出力を基に、操縦者側遠隔制御装置20の指令情報送受信部24から送信される指令信号に対する、作業機械側遠隔制御装置21の指令情報送受信部27が受信する指令信号の通信遅れ状態を判断する。
【0031】
遅れ状態判断部26の具体的な通信遅れ状態の判断方法としては、通信状態判断部25、28にて操縦者側と作業機械側それぞれの遠隔制御装置(20、21)の電波強度をモニタリングし、その2つの結果を基に総合的な通信遅れ状態を出力する方法がある。
【0032】
操縦者側遠隔制御装置20の電波強度をα(通信状態判断部25にてモニタ)、作業機械側遠隔制御装置21の電波強度をβ(通信状態判断部28にてモニタ)とすると、遅れ状態判断部26は、遅れ状態Ls=α×βとして算出する。電波強度α、βは大きいほど通信状態が良好であり、小さいほど通信状態が悪いことを表す。
【0033】
[操縦者側遠隔制御装置20の指令信号補正部23の動作]
指令値補正部23は、図3に示すように、補正値演算部35と補正値乗算部36で構成されている。補正値演算部35では、図4に示すグラフ(演算テーブル)に従い、遅れ状態判断部26の出力結果である遅れ状態Lsを基に、操作レバー22から出力される指令信号を補正する指令補正値を出力する。図4のグラフは、遅れ状態Lsに基づき算出される指令補正値を表しており、例えば、通信状態が良好な状態であると判断されるLs=80~100の間は指令信号の補正を行わない1.0が指令補正値として出力されるが、Ls=20~80の間では遅れ状態Lsが小さくなる(つまり通信状態が悪くなる)ほど指令補正値は1.0から0.5まで次第に(ここでは比例的に)減少する。つまり、ここでは、Ls=80が、遅れ状態判断部26から出力される遅れ状態Lsを基に補正の要否を判断する遅れ状態判断閾値に設定されており、遅れ状態判断部26から出力される遅れ状態Lsが遅れ状態判断閾値であるLs=80よりも小さい(つまり悪化している)と判断される場合に、指令信号の補正を行う1.0未満の指令補正値が出力される。更に、遅れ状態Ls=3未満の場合は極めて通信状態が悪いと判断し、遅れ状態の指令補正値を直ちに0まで低下させる。つまり、ここでは、Ls=3が、極めて通信状態が悪く、通信が途絶していると判断する通信途絶判断閾値に設定されており、遅れ状態判断部26から出力される遅れ状態Lsが通信途絶判断閾値であるLs=3よりも小さい(つまり悪化している)と判断される場合は、通信が途絶していると判断し、複数のアクチュエータ31が動作しないように指令信号を補正する0が指令補正値として出力される。
【0034】
補正値乗算部36では、操作されている操作レバー22から出力された指令信号全て(換言すれば、操作レバー22を介して操作されている複数のアクチュエータ31の全ての指令信号)に補正値演算部35で演算された指令補正値を乗算して(一律に)補正する。これによって、操縦者が操作レバー22に入力した複数の操作レバー入力量の比率を維持するように、操縦者側遠隔制御装置20内で(言い換えれば、操作レバー22から出力される指令信号が操縦者側遠隔制御装置20から作業機械側遠隔制御装置21に送信される前に)一律に全ての指令信号を補正する。
【0035】
[操縦者側遠隔制御装置20の指令情報送受信部24などの動作]
指令情報送受信部24は、指令値補正部23の補正値乗算部36から出力される(補正後の)指令信号を通信ネットワーク34を介して作業機械側遠隔制御装置21の指令情報送受信部27に送信する。作業機械側遠隔制御装置21の指令情報送受信部27は、操縦者側遠隔制御装置20の指令情報送受信部24から通信ネットワーク34を介して受信した指令信号を、油圧ショベル1のコントローラ29に送信する。コントローラ29は、前述した方法に従って、複数のアクチェエータ31の動作(状態)を制御する。
【0036】
これにより、操縦者側遠隔制御装置20と作業機械側遠隔制御装置21との間の通信状態が良好な状態であると判断されるLs=80~100の間は作業機械のアクチュエータ31(ブーム8、アーム9、バケット10、左右の走行モータ11、旋回モータ12)の動作速度が制限(減速)されないが、Ls=20~80の間では(言い換えれば、遅れ状態判断部26から出力される遅れ状態Lsが遅れ状態判断閾値であるLs=80よりも悪化していると判断される場合は)遅れ状態Lsが悪化するほど作業機械のアクチュエータ31(ブーム8、アーム9、バケット10、左右の走行モータ11、旋回モータ12)の動作速度が(一律に)制限(減速)される。更に、遅れ状態Ls=3未満の場合は(言い換えれば、遅れ状態判断部26から出力される遅れ状態Lsが通信途絶判断閾値であるLs=3よりも悪化していると判断される場合は)、通信が途絶していると判断し、操縦者が操作レバー22を操作しても作業機械のアクチュエータ31(ブーム8、アーム9、バケット10、左右の走行モータ11、旋回モータ12)が動作しなくなる。
【0037】
[効果]
通常、複数のアクチュエータ31を操作している場合に通信遅延が発生すると、操縦者が操作レバー22を介して入力している指令信号に対して、実際の作業機械の動作が遅れてしまうため、モニタ33に表示されている作業機械の動きを見た操縦者は意図通りにアクチュエータ31が動いていないと認識し、操作レバー22の操作(すなわち指令信号)を大きくする。
【0038】
その結果、操縦者が狙っていたアクチュエータ31の速度に対して、実際のアクチュエータ31の速度が速くなって、オーバーシュートが生じてしまう。ブーム上げ、アームクラウド、バケットクラウド操作による掘削動作を行っている場合、ブーム上げ速度に関してオーバーシュートが発生すると、ブームが上がりすぎて意図した土砂を掘削することができず、効率が悪化する。逆にアームクラウド速度に関してオーバーシュートが発生すると、アームがクラウドしすぎて土砂を掘削しすぎてしまい、直し作業を要する場合、効率悪化に繋がる。
【0039】
ここで特許文献1の制御が働いている場合を想定すると、ブーム上げに関してオーバーシュートが発生する場合、ブーム上げの指令信号のみが補正されてしまい、ブームが上がらず、土砂を掘削しすぎてしまい、効率悪化に繋がる。
【0040】
このような場合に、本実施形態を適用すると、ブーム上げの指令信号とアームクラウドの指令信号とバケットクラウドの指令信号全てに、遅れ状態に応じた指令補正値が(一律に)乗算されるため、遅れ状態に応じて、指令信号が操縦者の意図した動作バランスを維持し、かつ操縦者が狙っていたアクチュエータ31の速度に対する実際の作業機械のアクチュエータ31の速度のオーバーシュートを抑制し、操縦者の意図した動作を行いやすくなる。その結果、作業機械の遠隔操縦において、複数のアクチュエータ31を操作しているときに通信遅延が発生した場合でも、効率の悪化を防ぐことができる。
【0041】
以上で説明したように、本第一の実施形態は、作業機械に備えられた複数のアクチュエータ31を操縦者が操作するための操作レバー22と、前記操作レバー22の操作により生成される前記複数のアクチュエータ31を動作させるための指令信号を、通信ネットワーク34を介して送信する操縦者側遠隔制御装置20と、前記指令信号を前記通信ネットワーク34を介して受信して前記作業機械に送信する作業機械側遠隔制御装置21と、前記操縦者側遠隔制御装置20から送信される前記指令信号に対する、前記作業機械側遠隔制御装置21が受信する前記指令信号の通信遅れ状態を判断する遅れ状態判断部(遅れ状態判断装置)26と、前記通信遅れ状態があらかじめ設定された遅れ状態判断閾値よりも悪化していると判断される場合に、操作されている前記複数のアクチュエータ31の全ての前記指令信号をその比率を維持するように補正する指令信号補正部(指令信号補正装置)23と、を備えることを特徴とする。
【0042】
また、前記指令信号補正部(指令信号補正装置)23は、前記通信遅れ状態が悪化するほど前記複数のアクチュエータ31の動作速度が遅くなるように、操作されている前記複数のアクチュエータ31の全ての前記指令信号を補正する。
【0043】
また、前記指令信号補正部(指令信号補正装置)23は、前記通信遅れ状態があらかじめ設定された通信途絶判断閾値よりも悪化していると判断される場合は、通信が途絶していると判断し、前記複数のアクチュエータ31が動作しないように、操作されている前記複数のアクチュエータ31の全ての前記指令信号を補正する。
【0044】
換言すれば、本第一の実施形態は、通信遅延時間によるアクチュエータ31の動作速度のオーバーシュートが発生する場合に、操作をしているアクチュエータ31の動作速度のバランスが崩れないように、複数の指令速度を制限する。オペレータの意図する動作速度のバランスを崩さないように指令速度を制限する方法として、操縦者が操作レバー22に入力した複数の操作レバー入力量の比率を維持するように、操縦者側遠隔制御装置20内で一律に全ての操作信号を補正する。
【0045】
本第一の実施形態によれば、複数のアクチュエータ31を有する作業機械の遠隔操縦システムにおいて、複数のアクチュエータ31を操作しているときに、通信遅延時間が生じた場合でも、操作されている複数のアクチュエータ31の全ての指令信号を補正することで、複数のアクチュエータ31に対して指令信号(操作信号)の比率を保ちながら制限をかけるため、操縦者が所望する複数のアクチュエータ31の動作バランスを保ちやすく操縦できるようになり、操作がしやすくなる。また、指令信号を制限することで、例えばモニタ33で操縦者が把握できる作業機械の動作状態と実際の作業機械の動作状態との乖離を低減できるため、モニタ33に表示されている作業機械の目視結果を基に操作レバー22に的確なフィードバックを入力でき、効率的に作業を行える。
【0046】
また、本第一の実施形態は、前記遅れ状態判断部(遅れ状態判断装置)26と前記指令信号補正部(指令信号補正装置)23は、前記操縦者側遠隔制御装置20内に設けられ、前記指令信号補正部(指令信号補正装置)23は、前記指令信号が前記操縦者側遠隔制御装置20から前記作業機械側遠隔制御装置21に送信される前に、操作されている前記複数のアクチュエータ31の全ての前記指令信号を補正する。
【0047】
本第一の実施形態によれば、無線リモコン装置である操縦者側遠隔制御装置20から作業機械側遠隔制御装置21に送信する指令信号が(通信ネットワーク34を介して)遅れることを見越した補正をかけることができる。また、例えば1台の操縦者側遠隔制御装置20で複数の油圧ショベル1を切り替えながら動かすことを想定すると、油圧ショベル1側(つまり、作業機械側遠隔制御装置21)の構成要素が少なくて済むため、例えば後述する第二の実施形態に比べて、コストを低減することができる。
【0048】
[変形例(その1)]
遅れ状態判断部26で行う通信遅れ状態の判断方法としては、通信状態判断部25、28にて操縦者側遠隔制御装置20から送信される指令信号の送信時間と作業機械側遠隔制御装置21がその指令信号を受信したときの受信時間をモニタリングし、その2つの結果を基に通信遅れ状態を出力する方法もある。
【0049】
ある信号を操縦者側遠隔制御装置20が送信した時間をT1(通信状態判断部25にてモニタ)、作業機械側遠隔制御装置21がその信号を受信した時間T2(通信状態判断部28にてモニタ)とすると、遅れ状態判断部26は、遅れ時間Lt=T2-T1として算出できる。遅れ時間Ltは小さいほど通信状態が良好であり、大きいほど通信状態が悪いことを表す。
【0050】
この場合、指令値補正部23の補正値演算部35は、図5に示すグラフ(演算テーブル)に従い、遅れ状態判断部26の出力結果である遅れ時間Ltを基に、操作レバー22から出力される指令信号を補正する指令補正値を出力する。図5のグラフは、遅れ時間Ltに基づき算出される指令補正値を表しており、例えば、通信状態が良好な状態であると判断されるLt=0~0.5秒の間は指令信号の補正を行わない1.0が指令補正値として出力されるが、Lt=0.5~1の間では遅れ時間Ltが大きくなる(つまり通信状態が悪くなる)ほど指令補正値は1.0から0.5まで次第に(ここでは比例的に)減少する。つまり、ここでは、Lt=0.5が、遅れ状態判断部26から出力される遅れ時間Ltを基に補正の要否を判断する遅れ状態判断閾値に設定されており、遅れ状態判断部26から出力される遅れ時間Ltが遅れ状態判断閾値であるLt=0.5よりも大きい(つまり悪化している)と判断される場合に、指令信号の補正を行う1.0未満の指令補正値が出力される。更に、遅れ時間Lt=5より大きい場合は極めて通信状態が悪いと判断し、遅れ状態の指令補正値を直ちに0まで低下させる。つまり、ここでは、Lt=5が、極めて通信状態が悪く、通信が途絶していると判断する通信途絶判断閾値に設定されており、遅れ状態判断部26から出力される遅れ時間Ltが通信途絶判断閾値であるLt=5よりも大きい(つまり悪化している)と判断される場合は、通信が途絶していると判断し、複数のアクチュエータ31が動作しないように指令信号を補正する0が指令補正値として出力される。
【0051】
指令補正部23の補正値乗算部36においては、操作されている操作レバー22から出力された指令信号全て(換言すれば、操作レバー22を介して操作されている複数のアクチュエータ31の全ての指令信号)に補正値演算部35で演算された指令補正値を乗算して(一律に)補正する。これによって、操縦者が操作レバー22に入力した複数の操作レバー入力量の比率を維持するように、操縦者側遠隔制御装置20内で(言い換えれば、操作レバー22から出力される指令信号が操縦者側遠隔制御装置20から作業機械側遠隔制御装置21に送信される前に)一律に全ての指令信号を補正する。
【0052】
これにより、操縦者側遠隔制御装置20と作業機械側遠隔制御装置21との間の通信状態が良好な状態であると判断されるLt=0~0.5の間は作業機械のアクチュエータ31(ブーム8、アーム9、バケット10、左右の走行モータ11、旋回モータ12)の動作速度が制限(減速)されないが、Lt=0.5~1の間では(言い換えれば、遅れ状態判断部26から出力される遅れ時間Ltが遅れ状態判断閾値であるLt=0.5よりも悪化していると判断される場合は)遅れ時間Ltが悪化するほど作業機械のアクチュエータ31(ブーム8、アーム9、バケット10、左右の走行モータ11、旋回モータ12)の動作速度が(一律に)制限(減速)される。更に、遅れ時間Lt=5より大きい場合は(言い換えれば、遅れ状態判断部26から出力される遅れ時間Ltが通信途絶判断閾値であるLt=5よりも悪化していると判断される場合は)、通信が途絶していると判断し、操縦者が操作レバー22を操作しても作業機械のアクチュエータ31(ブーム8、アーム9、バケット10、左右の走行モータ11、旋回モータ12)が動作しなくなる。
【0053】
[変形例(その2)]
また、指令値補正部23(の補正値演算部35)で用いる遅れ状態Lsと指令補正値の関係は、図6のように設定されても良い。図6のグラフ(演算テーブル)では、指令補正値が1.0から下降し始める遅れ状態Lsの閾値(補正の要否を判断する遅れ状態判断閾値、以下、補正状態閾値ともいう)LsXが、図7のグラフ(演算テーブル)によって決定される。図7は、作業機械で操作されているアクチュエータ31の指令信号のうちの最大の操作指令信号(以下、最大操作指令信号とする)と補正状態閾値LsXの関係を示したものである。この図7のグラフによれば、最大操作指令信号が大きいほど、指令補正値が1.0から下降し始める補正状態閾値LsXは大きく、最大操作指令信号が小さいほど、指令補正値が1.0から下降し始める補正状態閾値LsXは小さい。
【0054】
これは、最大操作指令信号が大きい場合、つまり作業機械のアクチュエータ31の動作スピードが速い場合は、通信遅延によって生じる単位時間あたりの作業機械のアクチュエータ31の稼働量と操縦者が想定する作業機械のアクチュエータ31の稼働量との乖離が大きいためで、指令補正値が下降し始める補正状態閾値LsXを大きくすることで、通信遅延が少しでも生じたときに指令信号を補正するためである。こうすることで、作業機械のアクチュエータ稼働速度が速いときに通信遅延が生じた場合、その通信遅延時間が小さくとも、指令信号が小さく補正されるため、通信遅延によって生じる単位時間あたりの作業機械のアクチュエータ31の稼働量と操縦者が想定する作業機械のアクチュエータ31の稼働量との乖離を小さくすることができる。
【0055】
一方、この図7のグラフによれば、最大操作指令信号が小さいほど、指令補正値が1.0から下降し始める補正状態閾値LsXは小さい。これは、最大操作指令信号が小さい場合、つまり作業機械のアクチュエータ31の動作スピードが遅い場合は、通信遅延によって生じる単位時間あたりの作業機械のアクチュエータ31の稼働量と操縦者が想定する作業機械のアクチュエータ31の稼働量との乖離は小さいためである。つまり、アクチュエータ31の稼働速度が小さい場合は指令補正値が下降し始める補正状態閾値LsXを小さくすることで、通信が大きく遅延するまで指令信号を補正しない。こうすることで、作業機械のアクチュエータ稼働速度が遅いときに通信遅延が生じた場合、通信遅延によって生じる単位時間あたりの作業機械のアクチュエータ31の稼働量と操縦者が想定する作業機械のアクチュエータ31の稼働量との乖離を小さいと想定される範囲では指令信号を補正せずに速度を低下させることなく操作することができる。
【0056】
このように、指令補正値が1.0から下降し始める遅れ状態Lsの補正状態閾値(遅れ状態判断閾値)LsXを、作業機械の複数のアクチュエータ31の動作速度に応じて設定する。これにより、安定性をより高めることができ、操作性をより効果的に向上させることができる。
【0057】
[変形例(その3)]
また、遅れ状態判断部26で行う通信遅れ状態の判断方法として、通信状態判断部25、28にて操縦者側遠隔制御装置20から送信される指令信号の送信時間と作業機械側遠隔制御装置21がその指令信号を受信したときの受信時間をモニタリングし、その2つの結果を基に通信遅れ状態を出力する方法を採用する場合、前述の図6および図7と同様の考え方で、指令補正値が1.0から下降し始める遅れ時間Ltの補正時間閾値(遅れ状態判断閾値)LtXを作業機械の複数のアクチュエータ31の動作速度に応じて設定すると、遅れ時間Ltと指令補正値の関係は図8、最大操作指令信号と補正状態閾値LtXの関係は図9のようになる。
【0058】
<第二の実施形態>
[遠隔操縦システムのブロック構成]
第二の実施形態に係る作業機械の一例である油圧ショベルの遠隔操縦システムのブロック構成図を図10に示す。
【0059】
上述した第一の実施形態では、操縦者側遠隔制御装置20と作業機械側遠隔制御装置21の間の通信遅れ状態の判断を行う遅れ状態判断部26、遅れ状態判断部26の出力に基づき操作レバー22の操作に応じて生成される指令信号の補正を行う指令信号補正部23が操縦者側遠隔制御装置20内に備えられている。そして、操作レバー22から出力される指令信号が操縦者側遠隔制御装置20から作業機械側遠隔制御装置21に送信される前に、全ての指令信号を補正する。
【0060】
一方、第二の実施形態では、作業機械側遠隔制御装置21内に遅れ状態判断部(遅れ状態判断装置)37、指令信号補正部(指令信号補正装置)38を備えている。そして、操作レバー22から出力され、操縦者側遠隔制御装置20の指令情報送受信部24から通信ネットワーク34を介して作業機械側遠隔制御装置21の指令情報送受信部27に送信された指令信号が作業機械側遠隔制御装置21の指令情報送受信部27から油圧ショベル1のコントローラ29に送信される前に、全ての指令信号を補正する。
【0061】
遅れ状態判断部37は、第一の実施形態で述べた遅れ状態判断部26と同様の働きをする。ただし、遅れ状態判断部37は、操縦者側遠隔制御装置20の通信状態判断部25の信号は通信ネットワーク34を介して受信し、作業機械側遠隔制御装置21の通信状態判断部28の信号は装置内で直接受信する。
【0062】
[作業機械側遠隔制御装置21の遅れ状態判断部37の動作]
前述したように、遅れ状態判断部37は、操縦者側遠隔制御装置20の通信状態判断部25と作業機械側遠隔制御装置21の通信状態判断部28の出力を基に、操縦者側遠隔制御装置20との間の通信遅れ状態の判断を行う。詳しくは、遅れ状態判断部37は、操縦者側遠隔制御装置20の通信状態判断部25と作業機械側遠隔制御装置21の通信状態判断部28の出力を基に、操縦者側遠隔制御装置20の指令情報送受信部24から送信される指令信号に対する、作業機械側遠隔制御装置21の指令情報送受信部27が受信する指令信号の通信遅れ状態を判断する。
【0063】
遅れ状態判断部37の具体的な通信状態の判断方法としては、第一の実施形態と同様である。
【0064】
[作業機械側遠隔制御装置21の指令信号補正部38の動作]
指令値補正部38は、図3に示す指令信号補正部23(補正値演算部35と補正値乗算部36を含む)と同様の構成となっている。補正値演算部35では、図4に示すグラフ(演算テーブル)に従い、遅れ状態判断部37の出力結果である遅れ状態Lsを基に、操作レバー22から出力される指令信号を補正する指令補正値を出力する。
【0065】
補正値乗算部36では、操作されている操作レバー22から出力され、通信ネットワーク34を介して操縦者側遠隔制御装置20(の指令情報送受信部24)から受信した指令信号全て(換言すれば、操作レバー22を介して操作されている複数のアクチュエータ31の全ての指令信号)に補正値演算部35で演算された指令補正値を乗算して(一律に)補正する。これによって、操縦者が操作レバー22に入力した複数の操作レバー入力量の比率を維持するように、作業機械側遠隔制御装置21内で(言い換えれば、操作レバー22から出力され、操縦者側遠隔制御装置20の指令情報送受信部24から通信ネットワーク34を介して作業機械側遠隔制御装置21の指令情報送受信部27に送信された指令信号が作業機械側遠隔制御装置21の指令情報送受信部27から油圧ショベル1のコントローラ29に送信される前に)一律に全ての操作信号を補正する。
【0066】
補正値乗算部36は、出力結果である(補正後の)指令信号を、油圧ショベル1のコントローラ29に送信する。
【0067】
[効果]
第二の実施形態においても、通信遅延時間によるアクチュエータ31の動作速度のオーバーシュートが発生する場合に、操作をしているアクチュエータ31の動作速度のバランスが崩れないように、複数の指令速度を制限する。オペレータの意図する動作速度のバランスを崩さないように指令速度を制限する方法として、操縦者が操作レバー22に入力した複数の操作レバー入力量の比率を維持するように、作業機械側遠隔制御装置21内で一律に全ての操作信号を補正する。そのため、第一の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0068】
また、本第二の実施形態は、前記遅れ状態判断部(遅れ状態判断装置)37と前記指令信号補正部(指令信号補正装置)38は、前記作業機械側遠隔制御装置21内に設けられ、前記指令信号補正部(指令信号補正装置)38は、前記指令信号が前記作業機械側遠隔制御装置21から前記作業機械(のコントローラ29)に送信される前に、操作されている前記複数のアクチュエータ31の全ての前記指令信号を補正する。
【0069】
本第二の実施形態によれば、通信遅延を検知した場合、補正情報(補正後の指令信号)は通信ネットワーク34を介さずに油圧ショベル(作業機械)1のコントローラ29に送信されるため、即座にアクチュエータ31の動作に反映することができる。また、例えば複数の操縦者側遠隔制御装置20を切り替えながら1台の油圧ショベル1を動かすことを想定すると、無線リモコン装置である操縦者側遠隔制御装置20の構成要素が少なくて済むため、例えば上述した第一の実施形態に比べて、コストを低減することができる。
【0070】
なお、第二の実施形態においても、図4に加えて図5図9に基づき説明した内容を含むことができることは勿論である。
【0071】
<第三の実施形態>
[遠隔操縦システムのブロック構成]
第三の実施形態に係る作業機械の一例である油圧ショベルの遠隔操縦システムにおける指令値補正部のブロック構成図を図11に示す。なお、ここでは、本第三の実施形態を、第一の実施形態における操縦者側遠隔制御装置20の指令値補正部23の変形例として説明するが、第二の実施形態における作業機械側遠隔制御装置21の指令値補正部38にも適用できることは詳述するまでもない。
【0072】
第三の実施形態では、第一の実施形態における指令値補正部23(或いは、第二の実施形態における指令値補正部38)の構成が図11のようになっており、指令値補正部23は、遅れ状態判断部26の出力結果である遅れ状態Lsを基に、操作レバー22から出力される指令信号を補正する指令補正値を出力する補正演算部として、遅れ状態Lsに基づいてブーム8とアーム9とバケット10の指令信号(ブーム指令信号、アーム指令信号、バケット指令信号)を補正するための指令補正値Aを演算する補正値A演算部39、旋回モータ12の指令信号(旋回指令信号)を補正するための指令補正値Bを演算する補正値B演算部40、右走行モータ11と左走行モータ11の指令信号(走行右指令信号、走行左指令信号)を補正するための指令補正値Cを演算する補正値C演算部41を有する。
【0073】
補正値A演算部39、補正値B演算部40、補正値C演算部41では、図12に示すような演算テーブルを参照して遅れ状態Lsに基づき指令補正値A、指令補正値B、指令補正値Cが演算される(詳細は後で説明)。
【0074】
補正値A演算部39で演算された指令補正値Aは、補正値A乗算部42においてブーム8とアーム9とバケット10の指令信号(ブーム指令信号、アーム指令信号、バケット指令信号)にそれぞれ乗算される。補正値B演算部40で演算された指令補正値Bは、補正値B乗算部43において旋回モータ12の指令信号(旋回指令信号)に乗算される。補正値C演算部41で演算された補正値Cは、補正値C乗算部44において右走行モータ11と左走行モータ11の指令信号(走行右指令信号、走行左指令信号)にそれぞれ乗算される。
【0075】
[操縦者側遠隔制御装置20の指令信号補正部23の動作]
補正値A演算部39、補正値B演算部40、補正値C演算部41において、図12に示すグラフ(演算テーブル)に基づいて指令補正値A、指令補正値B、指令補正値Cを演算する場合、通信遅れ状態Lsに対する、各アクチュエータ31の指令補正値を変更することができる。
【0076】
図12のグラフは、遅れ状態Lsに基づき算出される指令補正値A、指令補正値B、指令補正値Cを表しており、例えば、指令補正値Aにおいては、通信状態が良好な状態であると判断されるLs=80~100の間は指令信号の補正を行わない1.0が指令補正値Aとして出力されるが、Ls=20~80の間では遅れ状態Lsが小さくなる(つまり通信状態が悪くなる)ほど指令補正値Aは次第に小さくなる。指令補正値Bにおいては、通信状態が良好な状態であると判断されるLs=90~100の間は指令信号の補正を行わない1.0が指令補正値Bとして出力されるが、Ls=20~90の間では遅れ状態Lsが小さくなる(つまり通信状態が悪くなる)ほど指令補正値Bは次第に小さくなる。指令補正値Cにおいては、Ls=100のときは指令信号の補正を行わない1.0が指令補正値Cとして出力されるが、Ls=20~100の間では通信遅れ状態Lsが小さくなる(つまり通信状態が悪くなる)ほど指令補正値Cは次第に小さくなる。遅れ状態Ls=20の場合、指令補正値A、指令補正値B、指令補正値Cはそれぞれ0.5、0.25、0となり、ブーム8とアーム9とバケット10の指令信号は0.5倍、旋回モータ12の指令信号は0.25倍、右走行モータ11、左走行モータ11の指令信号は0倍まで小さくなる。更に、遅れ状態Ls=3未満の場合は極めて通信状態が悪いと判断し、指令補正値A、指令補正値Bについても直ちに0まで低下させる。
【0077】
補正値A乗算部42、補正値B乗算部43、補正値C乗算部44では、操作されている操作レバー22から出力された指令信号全て(換言すれば、操作レバー22を介して操作されている複数のアクチュエータ31の全ての指令信号)に補正値A演算部39、補正値B演算部40、補正値C演算部41で演算された指令補正値A、指令補正値B、指令補正値Cを乗算して補正し、操作レバー22を介して操作されている複数のアクチュエータ31ごとに指令信号を補正する。これによって、通信遅延時間がある閾値を超過した場合、特定のアクチュエータ31については、制限(減速)のかけ方を変更する。
【0078】
[効果]
このように、アクチュエータ31に応じて、遅れ状態に基づく指令補正値を変更することで、通信状態に応じた各アクチュエータ31の動作制限の振る舞いを変更できる。
【0079】
例えば、遅れ状態Ls=20の場合、通信遅れ状態が非常に悪いと判断し、指令補正値A、指令補正値B、指令補正値Cはそれぞれ0.5、0.25、0とされ、ブーム8、アーム9、バケット10は半分の操作指令で動作し、旋回モータ12は1/4の操作指令で動作する。さらに右走行モータ11、左走行モータ11に関しては、指令信号がゼロ倍され、操縦者が操作レバー22を操作しても動作しない状態となる。
【0080】
こうすることで、モニタ33に表示される作業機械の動作と実際の作業機械の動作に乖離が大きいときに、動作を遅くするアクチェチュエータ31と、動作させない(もしくは極めて動作を遅くする)アクチチュエータ31を設定することができ、危険な状態にはならない作業を止めずに作業効率を維持しながら、通信状態が悪い場合に作業機械が危険な状態に陥る可能性を低減させることができる。
【0081】
以上で説明したように、本第三の実施形態は、前記指令信号補正部(指令信号補正装置)23は、操作されている前記複数のアクチュエータ31ごとに前記指令信号を補正する。
【0082】
また、前記指令信号補正部(指令信号補正装置)23は、前記複数のアクチュエータ31ごとに、前記遅れ状態判断閾値と、前記指令信号を補正するための前記通信遅れ状態に応じた指令補正値とが設定されている。
【0083】
換言すれば、本第三の実施形態は、通信遅延時間によるアクチュエータ31の動作速度のオーバーシュートが発生する場合に、操作をしているアクチュエータ31の動作速度のバランスが崩れないように、複数の指令速度を制限する。更に、通信遅延時がある閾値を超過する場合は、特定のアクチュエータ31に関しては、操作しているアクチュエータ31の動作速度バランスを保つことよりも、速度を制限することを優先し、例えば走行中に油圧ショベル1が転落するなどの状態を防ぐ。オペレータの意図する動作速度のバランスを崩さないように指令速度を制限する方法として、通信遅延時間がある閾値を超過した場合、特定のアクチュエータ31については、制限のかけ方を変更する。
【0084】
本第三の実施形態においても、第一、第二の実施形態と同様、複数のアクチュエータ31を有する作業機械の遠隔操縦システムにおいて、複数のアクチュエータ31を操作しているときに、通信遅延時間が生じた場合でも、操作されている複数のアクチュエータ31の全ての指令信号を補正することで、複数のアクチュエータ31に対して指令信号(操作信号)の比率を保ちながら制限をかけるため、操縦者が所望する複数のアクチュエータ31の動作バランスを保ちやすく操縦できるようになり、操作がしやすくなる。また、指令信号を制限することで、例えばモニタ33で操縦者が把握できる作業機械の動作状態と実際の作業機械の動作状態との乖離を低減できるため、モニタ33に表示されている作業機械の目視結果を基に操作レバー22に的確なフィードバックを入力でき、効率的に作業を行える。
【0085】
また、本第三の実施形態によれば、通信遅延時間が大きくなった場合であっても、特定のアクチュエータ31に関しては制限のかけ方を変更することで、例えば走行中の油圧ショベル1の転落などを防ぐことができる。
【0086】
[変形例(その1)]
遅れ状態判断部26において、通信状態判断部25、28にて操縦者側遠隔制御装置20から送信される指令信号の送信時間と作業機械側遠隔制御装置21がその指令信号を受信したときの受信時間をモニタリングし、その2つの結果を基に出力した通信遅れ遅れ時間Ltを用いて通信遅れ状態を判断する場合、指令値補正部23の補正値A演算部39、補正値B演算部40、補正値C演算部41は、図13に示すグラフ(演算テーブル)に従い、遅れ時間Ltに基づき、指令補正値A、指令補正値B、指令補正値Cを演算する。図13のグラフは、遅れ時間Ltに基づき算出される指令補正値A、指令補正値B、指令補正値Cを表しており、例えば、指令補正値Aにおいては、通信状態が良好な状態であると判断されるLt=0~0.5の間は指令信号の補正を行わない1.0が指令補正値Aとして出力されるが、Lt=0.5~1.0の間では遅れ時間Ltが大きくなる(つまり通信状態が悪くなる)ほど指令補正値Aは次第に小さくなる。指令補正値Bにおいては、通信状態が良好な状態であると判断されるLt=0~0.35の間は指令信号の補正を行わない1.0が指令補正値Bとして出力されるが、Lt=0.35~1.0の間では遅れ時間Ltが大きくなる(つまり通信状態が悪くなる)ほど指令補正値Bは次第に小さくなる。指令補正値Cにおいては、通信状態が良好な状態であると判断されるLt=0~0.2の間は指令信号の補正を行わない1.0が指令補正値Cとして出力されるが、Lt=0.2~1.0の間では遅れ時間Ltが大きくなる(つまり通信状態が悪くなる)ほど指令補正値Cは次第に小さくなる。遅れ時間Lt=1.0の場合、指令補正値A、指令補正値B、指令補正値Cはそれぞれ0.5、0.25、0となり、ブーム8とアーム9とバケット10の指令信号は0.5倍、旋回モータ12の指令信号は0.25倍、右走行モータ11、左走行モータ11の指令信号は0倍まで小さくなる。更に、遅れ時間Lt=5.0より大きい場合は極めて通信状態が悪いと判断し、指令補正値A、指令補正値Bについても直ちに0まで低下させる。
【0087】
指令補正部23の補正値A乗算部42、補正値B乗算部43、補正値C乗算部44においては、操作されている操作レバー22から出力された指令信号全て(換言すれば、操作レバー22を介して操作されている複数のアクチュエータ31の全ての指令信号)に補正値A演算部39、補正値B演算部40、補正値C演算部41で演算された指令補正値A、指令補正値B、指令補正値Cを乗算して補正し、操作レバー22を介して操作されている複数のアクチュエータ31ごとに指令信号を補正する。これによって、通信遅延時間がある閾値を超過した場合、特定のアクチュエータ31については、制限(減速)のかけ方を変更する。
【0088】
[変形例(その2)]
また、指令値補正部23(の補正値A演算部39、補正値B演算部40、補正値C演算部41)で用いる遅れ状態Lsと指令補正値の関係は、図14のように設定されても良い。図14のグラフ(演算テーブル)では、各指令補正値A、B、Cが1.0から下降し始める遅れ状態Lsの閾値(補正の要否を判断する遅れ状態判断閾値、以下、補正状態閾値ともいう)LsXA、LsXB、LsXCが、図15のグラフ(演算テーブル)によって決定される。図15は、作業機械で操作されているアクチュエータ31の指令信号のうちの最大の操作指令信号(最大操作指令信号)と各補正状態閾値LsXA、LsXB、LsXCの関係を示したものである。この図15のグラフによれば、最大操作指令信号が大きいほど、指令補正値が1.0から下降し始める各補正状態閾値LsXA、LsXB、LsXCは大きく、最大操作指令信号が小さいほど、指令補正値が1.0から下降し始める各補正状態閾値LsXA、LsXB、LsXCは小さい。
【0089】
これは、最大操作指令信号が大きい場合、つまり作業機械のアクチュエータ31の動作スピードが速い場合は、通信遅延によって生じる単位時間あたりの作業機械のアクチュエータ31の稼働量と操縦者が想定する作業機械のアクチュエータ31の稼働量との乖離が大きいためで、指令補正値が下降し始める各補正状態閾値LsXA、LsXB、LsXCを大きくすることで、通信遅延が少しでも生じたときに指令信号を補正するためである。こうすることで、作業機械のアクチュエータ稼働速度が速いときに通信遅延が生じた場合、その通信遅延時間が小さくとも、指令信号が小さく補正されるため、通信遅延によって生じる単位時間あたりの作業機械のアクチュエータ31の稼働量と操縦者が想定する作業機械のアクチュエータ31の稼働量との乖離を小さくすることができる。
【0090】
一方、この図15のグラフによれば、最大操作指令信号が小さいほど、指令補正値が1.0から下降し始める各補正状態閾値LsXA、LsXB、LsXCは小さい。これは、最大操作指令信号が小さい場合、つまり作業機械のアクチュエータ31の動作スピードが遅い場合は、通信遅延によって生じる単位時間あたりの作業機械のアクチュエータ31の稼働量と操縦者が想定する作業機械のアクチュエータの稼働量との乖離は小さいためである。つまり、アクチュエータ31の稼働速度が小さい場合は指令補正値が下降し始める各補正状態閾値LsXA、LsXB、LsXCを小さくすることで、通信が大きく遅延するまで指令信号を補正しない。こうすることで、作業機械のアクチュエータ稼働速度が遅いときに通信遅延が生じた場合、通信遅延によって生じる単位時間あたりの作業機械のアクチュエータ31の稼働量と操縦者が想定する作業機械のアクチュエータ31の稼働量との乖離を小さいと想定される範囲では指令信号を補正せずに速度を低下させることなく操作することができる。
【0091】
このように、各指令補正値A、B、Cが1.0から下降し始める遅れ状態Lsの補正状態閾値(遅れ状態判断閾値)LsXA、LsXB、LsXCを、作業機械の複数のアクチュエータ31の動作速度に応じて設定する。これにより、安定性をより高めることができ、操作性をより効果的に向上させることができる。
【0092】
[変形例(その3)]
また、遅れ状態判断部26で行う通信状態の判断方法として、通信状態判断部25、28にて操縦者側遠隔制御装置20から送信される指令信号の送信時間と作業機械側遠隔制御装置21がその指令信号を受信したときの受信時間をモニタリングし、その2つの結果を基に通信遅れ状態を出力する方法を採用する場合、前述の図14および図15と同様の考え方で、各指令補正値A、B、Cが1.0から下降し始める遅れ時間Ltの補正時間閾値(遅れ状態判断閾値)LsXA、LsXB、LsXCを作業機械の複数のアクチュエータ31の動作速度に応じて設定すると、遅れ時間Ltと各指令補正値A、B、Cの関係は図16、最大操作指令信号と各補正状態閾値LtXA、LtXB、LtXCの関係は図17のようになる。
【0093】
なお、本発明は上記した実施形態に限られるものではなく、様々な変形形態が含まれる。上記した実施形態は本発明をわかり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【0094】
また、上記した実施形態のコントローラの各機能は、それらの一部または全部を、例えば集積回路で設計することによりハードウェアで実現してもよい。また、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、コントローラ内の記憶装置の他に、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【符号の説明】
【0095】
1…油圧ショベル(作業機械ないし建設機械)、2…下部走行体、3…上部旋回体、7…フロント装置、8…ブーム、9…アーム、10…バケット、11…走行モータ、12…旋回モータ、20…操縦者側遠隔制御装置、21…作業機械側遠隔制御装置、22…遠隔操作用操作レバー、23…指令信号補正部(指令信号補正装置)、24…指令情報送受信部(操縦者側遠隔制御装置側)、25…通信状態判断部(操縦者側遠隔制御装置側)、26…遅れ状態判断部(遅れ状態判断装置)、27…指令情報送受信部(作業機械側遠隔制御装置側)、28…通信状態判断部(作業機械側遠隔制御装置側)、29…コントローラ、30…電磁弁、31…アクチュエータ、32…カメラ(動作状態確認装置)、33…モニタ(動作状態表示装置)、34…通信ネットワーク、35…補正値演算部、36…補正値乗算部、37…遅れ状態判断部(遅れ状態判断装置)、38…指令信号補正部(指令信号補正装置)、39…補正値A演算部、40…補正値B演算部、41…補正値C演算部、42…補正値A乗算部、43…補正値B乗算部、44…補正値C乗算部
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