(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】生分解性ポリスチレン複合材及びその使用
(51)【国際特許分類】
C08L 25/04 20060101AFI20221025BHJP
C08L 3/02 20060101ALI20221025BHJP
C08K 5/053 20060101ALI20221025BHJP
C08K 5/06 20060101ALI20221025BHJP
C08L 67/02 20060101ALI20221025BHJP
C08L 25/10 20060101ALI20221025BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20221025BHJP
B29C 48/08 20190101ALI20221025BHJP
C08L 101/16 20060101ALN20221025BHJP
【FI】
C08L25/04
C08L3/02
C08K5/053
C08K5/06
C08L67/02
C08L25/10
C08J5/18 CEP
C08J5/18 CET
C08J5/18 CFD
B29C48/08
C08L101/16 ZBP
(21)【出願番号】P 2020504283
(86)(22)【出願日】2018-04-06
(86)【国際出願番号】 US2018026610
(87)【国際公開番号】W WO2018187784
(87)【国際公開日】2018-10-11
【審査請求日】2021-03-24
(32)【優先日】2017-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519359413
【氏名又は名称】クウィック ロック コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カレル,ドナルド
(72)【発明者】
【氏名】アレン,ドナルド,アール.
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-518541(JP,A)
【文献】特開平03-074446(JP,A)
【文献】特表2012-505280(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0250635(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 25/04
C08L 3/02
C08K 5/053
C08K 5/06
C08L 67/02
C08L 25/10
C08J 5/18
B29C 48/08
C08L 101/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
農産物若しくは可撓性の袋の留め具などの留め具、ラベル、又はタグとしての押出成形シートの使用であって、
前記押出成形シートが、生分解性ポリスチレン複合材を含み、
前記生分解性ポリスチレン複合材が:
55~85%(w/w)のポリスチレン;及び
15~45%(w/w)の熱可塑性非晶質デンプン
を含み;
前記熱可塑性非晶質デンプンが、
エステル化なしに1種以上の天然デンプンに由来し、
前記熱可塑性非晶質デンプンの1重量%未満の水含有量を有し、20~25度(2θ)のX線回折ピークを示さず、
押出成形シートが、厚さ0.01~0.09インチ(0.254~2.286 mm)である、押出成形シートの使用。
【請求項2】
前記熱可塑性非晶質デンプンが、10%未満の結晶化度を有する、請求項
1に記載の押出成形シートの使用。
【請求項3】
前記熱可塑性非晶質デンプンが、1種以上の天然デンプンに由来し、前記1種以上の天然デンプンと水素結合を形成する可塑剤をさらに含む、請求項1
又は2に記載の押出成形シートの使用。
【請求項4】
前記可塑剤が、グリセリン、ソルビトール、グリコール、マルトデキストリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、尿素又はそれらの組合せである、請求項
3に記載の押出成形シートの使用。
【請求項5】
前記生分解性ポリスチレン複合材が、相溶化剤をさらに含む、請求項1から
4のいずれか一項に記載の押出成形シートの使用。
【請求項6】
前記相溶化剤が、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンである、請求項
5に記載の押出成形シートの使用。
【請求項7】
前記生分解性ポリスチレン複合材が、生分解性樹脂添加剤をさらに含む、請求項1から
6のいずれか一項に記載の押出成形シートの使用。
【請求項8】
前記生分解性樹脂添加剤が、ポリブチレンサクシネート、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリブチレートアジペートテレフタレート又はそれらの混合物である、請求項
7に記載の押出成形シートの使用。
【請求項9】
前記ポリスチレンが、ポリスチレン-ポリブタジエンコポリマーである、請求項1から
8のいずれか一項に記載の押出成形シートの使用。
【請求項10】
前記熱可塑性非晶質デンプンが、2種以上の天然デンプンのブレンドに由来する、請求項1から
9のいずれか一項に記載の押出成形シートの使用。
【請求項11】
前記ポリスチレンが、前記生分解性ポリスチレン複合材の70~80%の量である、請求項1から
10のいずれか一項に記載の押出成形シートの使用。
【請求項12】
約0.01~0.03インチ(約0.254~0.762 mm)の厚さを有する請求項1から
11のいずれか一項に記載の押出成形シートの使用。
【請求項13】
約0.02~0.09インチ(約0.508~2.286 mm)の厚さを有する請求項1から
11のいずれか一項に記載の押出成形シートの使用。
【請求項14】
生分解性袋留め具であって、
アクセス隙間及び袋保持中心開口部を有する平坦樹脂製主部を含み、
前記アクセス隙間が、前記袋保持中心開口部に接続して連続的な空間を規定し、
前記平坦樹脂製主部が、0.02~0.09インチ(0.508~2.286 mm)厚であり、
前記平坦樹脂製主部が:
55~85%(w/w)のポリスチレン;及び
15~45%(w/w)の熱可塑性非晶質デンプン
を含む生分解性ポリスチレン複合材の押出成形シートを含み;
前記熱可塑性非晶質デンプンが、
エステル化なしに1種以上の天然デンプンに由来し、
前記熱可塑性非晶質デンプンの1重量%未満の水含有量を有し、20~25度(2θ)のX線回折ピークを示さない、生分解性袋留め具。
【請求項15】
前記熱可塑性非晶質デンプンが、10%未満の結晶化度を有する、請求項
14に記載の生分解性袋留め具。
【請求項16】
前記熱可塑性非晶質デンプンが、1種以上の天然デンプンに由来し、前記1種以上の天然デンプンと水素結合を形成する可塑剤をさらに含む、請求項
14又は15に記載の生分解性袋留め具。
【請求項17】
前記可塑剤が、グリセリン、ソルビトール、グリコール、マルトデキストリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、尿素又はそれらの組合せである、請求項
16に記載の生分解性袋留め具。
【請求項18】
前記生分解性ポリスチレン複合材が、相溶化剤をさらに含む、請求項
14から
17のいずれか一項に記載の生分解性袋留め具。
【請求項19】
前記相溶化剤が、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンである、請求項
18に記載の生分解性袋留め具。
【請求項20】
前記生分解性ポリスチレン複合材が、生分解性樹脂添加剤をさらに含む、請求項
14から
19のいずれか一項に記載の生分解性袋留め具。
【請求項21】
前記生分解性樹脂添加剤が、ポリブチレンサクシネート、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリブチレートアジペートテレフタレート又はそれらの混合物である、請求項2
0に記載の生分解性袋留め具。
【請求項22】
前記ポリスチレンが、ポリスチレン-ポリブタジエンコポリマーである、請求項
14から
21のいずれか一項に記載の生分解性袋留め具。
【請求項23】
前記熱可塑性非晶質デンプンが、2種以上の天然デンプンのブレンドに由来する、請求項
14から
22のいずれか一項に記載の生分解性袋留め具。
【請求項24】
前記ポリスチレンが、前記生分解性ポリスチレン複合材の70~80%の量である、請求項
14から
23のいずれか一項に記載の生分解性袋留め具。
【請求項25】
生分解性ラベルであって、
印刷可能な表面を有する平坦樹脂製主部を含み、
前記平坦樹脂製主部が、生分解性ポリスチレン複合材の押出成形シートを含み、
前記平坦樹脂製主部が、0.01~0.03インチ(0.254~0.762 mm)厚であり、
前記生分解性ポリスチレン複合材が:
55~85%(w/w)のポリスチレン;及び
15~45%(w/w)の熱可塑性非晶質デンプンを含み;
前記熱可塑性非晶質デンプンが、
エステル化なしに1種以上の天然デンプンに由来し、
前記熱可塑性非晶質デンプンの1重量%未満の水含有量を有し、20~25度(2θ)のX線回折ピークを示さない、生分解性ラベル。
【請求項26】
前記熱可塑性非晶質デンプンが、10%未満の結晶化度を有する、請求項
25記載の生分解性ラベル。
【請求項27】
前記熱可塑性非晶質デンプンが、1種以上の天然デンプンに由来し、前記1種以上の天然デンプンと水素結合を形成する可塑剤をさらに含む、請求項
25又は26に記載の生分解性ラベル。
【請求項28】
前記可塑剤が、グリセリン、ソルビトール、グリコール、マルトデキストリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、尿素又はそれらの組合せである、請求項
27に記載の生分解性ラベル。
【請求項29】
前記生分解性ポリスチレン複合材が、相溶化剤をさらに含む、請求項
25から
28のいずれか一項に記載の生分解性ラベル。
【請求項30】
前記相溶化剤が、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンである、請求項
29に記載の生分解性ラベル。
【請求項31】
前記生分解性ポリスチレン複合材が、生分解性樹脂添加剤をさらに含む、請求項
25から
30のいずれか一項に記載の生分解性ラベル。
【請求項32】
前記生分解性樹脂添加剤が、ポリブチレンサクシネート、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリブチレートアジペートテレフタレート又はそれらの混合物である、請求項
31に記載の生分解性ラベル。
【請求項33】
前記ポリスチレンが、ポリスチレン-ポリブタジエンコポリマーである、請求項
25から
32のいずれか一項に記載の生分解性ラベル。
【請求項34】
前記熱可塑性非晶質デンプンが、2種以上の天然デンプンのブレンドに由来する、請求項
25から
33のいずれか一項に記載の生分解性ラベル。
【請求項35】
前記ポリスチレンが、前記生分解性ポリスチレン複合材の70~80%の量である、請求項
25から
34のいずれか一項に記載の生分解性ラベル。
【請求項36】
印刷表面の反対側の表面に接着剤を含む、請求項
25に記載の生分解性ラベル。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
ポリスチレンは用途が広い熱可塑性樹脂であり、3つの主要な形態:結晶ポリスチレン(GPPS)としても知られる汎用ポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)及び発泡性ポリスチレン(EPS)で使用され得る。ポリスチレンの主要な性質は、高い剛性、GPPSの優れた光学的透明度及びHIPSの耐久性などの優れた機械的性質である。全てのポリスチレンは、優れた加工性及び低い熱容量値を有しており、加工エネルギーの減少をもたらす。高剛性及び低密度により、ポリスチレンから作製される物品は優れた強度対重量比を有し、このことは、重量の減少など特定の環境上の利益をもたらす。しかし、消費財におけるポリスチレンが遍在することは、石油系汎用化学品(スチレン)の大量且つ持続的需要に起因して著しい環境上の影響が有ることも意味する。より重要なことに、ポリスチレンは、再利用が困難であり、生分解がほとんどできない。
【0002】
再生可能な供給源(セルロース、デンプン、亜麻仁油エポキシ等)由来材料とブレンドしたポリスチレンは、その二酸化炭素排出量を減少させる見込みがある。しかしながら、公知のポリスチレンブレンドは、ブレンドされていないポリスチレンの物理的基準及び性能基準に適合させるのに著しい技術的障害に直面し得る。いかなる事象においても、ポリスチレン部分は分解に抵抗性であり、再生可能な成分だけが生分解する可能性が高いので、生分解は依然として達成困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、再生可能な供給源由来成分を利用する生分解性ポリスチレンブレンドを提供し、意味ある時間内で生分解を達成する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
様々な実施形態が、固有の均質で非晶質な構造により生分解性であるポリスチレン複合材を提供する。特に、生分解性ポリスチレン複合材は:55~85%(w/w)のポリスチレン;及び15~45%(w/w)の熱可塑性非晶質デンプンを含み;熱可塑性非晶質デンプンは、1種以上の天然デンプンに由来し、1種以上の天然デンプン中に存在したであろう20~25度(2θ)のX線回折ピークを示さない。
【0005】
さらなる実施形態において、生分解性ポリスチレン複合材の熱可塑性非晶質デンプンは、1%(w/w)未満の水を有する。
【0006】
他の実施形態において、熱可塑性非晶質デンプンは、1種以上の天然デンプンに由来し、1種以上の天然デンプンと水素結合を形成する可塑剤をさらに含む。より具体的な実施形態において、可塑剤は、グリセリン、ソルビトール、グリコール、マルトデキストリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、尿素又はそれらの組合せである。
【0007】
さらなる実施形態において、生分解性ポリスチレン複合材の熱可塑性非晶質デンプンの結晶化度は、10%未満である。
【0008】
さらに別の実施形態において、生分解性ポリスチレン複合材は、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンなどの相溶化剤をさらに含む。
【0009】
別の実施形態において、生分解性ポリスチレン複合材は、ポリブチレンサクシネート(バイオPBSを含む)、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリブチレートアジペートテレフタレート又はそれらの混合物などの生分解性樹脂添加剤をさらに含む。
【0010】
より具体的な実施形態において、ポリスチレンは、ポリスチレン-ポリブタジエンコポリマー(例えば、HIPS)である。
【0011】
さらに別の具体的な実施形態において、熱可塑性非晶質デンプンは、2種以上の天然デンプン(例えば、コーンスターチ及びジャガイモデンプン)のブレンドに由来する。
【0012】
さらなる実施形態は、上記の実施形態のいずれか1つによる生分解性ポリスチレン複合材の押出成形シートを提供する。一実施形態は、生分解性ポリスチレン複合材の押出成形シートであって、生分解性ポリスチレン複合材が:55~85%(w/w)のポリスチレン;及び15~45%(w/w)の熱可塑性非晶質デンプンを含み;熱可塑性非晶質デンプンが、1種以上の天然デンプンに由来し、20~25度(2θ)のX線回折ピークを示さない、生分解性ポリスチレン複合材の押出成形シートを提供する。
【0013】
より具体的な実施形態において、押出成形シートは厚さ0.01~0.09インチ(0.254~2.286 mm)である。様々なより具体的な実施形態において、押出成形シートは、厚さ0.01~0.03インチ(0.254~0.762 mm)であり、例えば、ラベル、新生児室タグ、農産物の束留め具等に適している。他のより具体的な実施形態において、押出成形シートは、厚さ0.02~0.09インチ(0.508~2.286 mm)であり、例えば、袋留め具に適している。他の実施形態において、押出成形シートは、0.02~0.09インチ(0.508~2.286 mm)厚、若しくは0.02~0.08インチ(0.508~2.032 mm)厚、若しくは0.02~0.06インチ(0.508~1.524 mm)厚、若しくは0.03~0.05インチ(0.762~1.270 mm)厚、若しくは0.01~0.02インチ(0.254~0.508 mm)厚、若しくは0.02~0.03インチ(0.508~0.762 mm)厚、又は0.01インチ(0.254 mm)厚、0.02インチ(0.508 mm)厚、若しくは0.03インチ(0.762 mm)厚、若しくは0.04インチ(1.016 mm)厚、若しくは0.05インチ(1.270 mm)厚、若しくは0.06インチ(1.524 mm)厚、若しくは0.07インチ(1.778 mm)厚、若しくは0.08インチ(2.032 mm)厚、若しくは0.09インチ(2.286 mm)厚である。
【0014】
さらに別の実施形態は、アクセス隙間及び袋保持中心開口部を有する平坦樹脂製主部を含む生分解性袋留め具であって、アクセス隙間が、袋保持中心開口部に接続して連続的な空間を規定し、平坦樹脂製主部が、上記の実施形態のいずれか1つの生分解性ポリスチレン複合材を含み、平坦樹脂製主部が、0.02~0.09インチ(0.508~2.286 mm)厚である、生分解性袋留め具を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】天然デンプンブレンドと比較した熱可塑性非晶質デンプンのX線回折パターンを示す図である。
【
図2】ポリスチレン樹脂製の従来の袋留め具を示す図である。
【
図3】本開示の生分解性袋留め具の一実施形態を示す図である。
【
図4】本開示の一実施形態による、複数留め具小片を示す図である。
【
図5】本開示の一実施形態によるポリスチレン樹脂及び熱可塑性非晶質デンプンの複合材の好気性条件(ASTM D5338試験手順)下における経時的な生分解の進行を示すグラフである。
【
図6】本開示の一実施形態によるポリスチレン樹脂及び熱可塑性非晶質デンプンの複合材の嫌気性条件(ASTM D5511試験手順)下における経時的な生分解の進行を示すグラフである。
【
図7】嫌気性条件(ASTM D5511試験手順)下におけるより長期間にわたる生分解の進行を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示の様々な実施形態は、石油化学系ポリマー(例えば、ポリスチレン)及び植物系ポリマー(例えば、デンプン)の複合材を提供する。特に、ポリマー複合材は、顕微鏡又は分子レベルで高い均質度を有する。本開示による均質な複合材において、デンプンを消費する微生物がデンプンのグルコース単位とポリスチレンのスチレン単位を容易に区別できないように、ポリスチレン成分及びデンプン成分のポリマー鎖が絡み合っており、それにより石油化学系及び植物系ポリマー鎖が二酸化炭素、メタン及び水に無差別にされる。
【0017】
さらに、本開示の複合材は、熱可塑性特性を与えるように天然デンプンから改質されたデンプン成分に少なくとも部分的に起因して、ブレンドされていないポリスチレンの熱可塑的及び機械的性質を保持している。特に、そのような熱可塑性デンプンは、それが由来する天然デンプンよりかなり低い結晶化度(例えば、1/5未満)を有する。熱可塑性デンプン成分の非晶質状態は、典型的には非晶質でもあるポリスチレン成分との混和性を向上させる。加えて、熱可塑性デンプン成分は、極めて低い水分含有量(例えば、1%w/w未満の水)を有し且つ耐水性であり、それにより熱可塑性デンプン成分は老化の影響を受けにくなる。
【0018】
これらの成分については、以下でより詳細に検討される。
【0019】
ポリスチレン
本出願の全体を通じて使用される場合、用語「ポリスチレン」とは、ポリマーの反復骨格内に少なくとも1つのスチレンモノマー連結(エチレン置換基を有するベンゼン環など)を有するスチレン系ホモポリマー又はコポリマーのことを指す。スチレン連結は、一般式:[-CH2-CH(フェニル)-]nによって表すことができる。ポリスチレンは、当業者に公知の任意の方法によって形成され得る。スチレン系ポリマーの例としては、これらに限定されるものではないが、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、超耐衝撃性ポリスチレン(SHIPS)、汎用ポリスチレン(GPPS)、スチレンアクリロニトリル(SAN)、スチレンブロックコポリマー(SBC)及びアクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)がある。
【0020】
HIPSは、ゴム改質ポリスチレンと呼ばれる場合もあり、スチレンと合成ゴム(例えば、ポリブタジエン)との共重合で通常生産される。HIPSの例としては、これらに限定されるものではないが、Chevron Phillips Company (The Woodlands、Tex.)から入手可能なEB6025ゴム改質耐衝撃性ポリスチレン;及びIneos Nova LLC (Channahon, Ill.)から入手可能な6210耐衝撃性ポリスチレンがある。他の例としては、衝撃性ポリスチレン825E及び830Eがあり、その両方が、Total Petrochemicals USA Inc.から入手可能である。SHIPSの例としては、これらに限定されるものではないが、TOTAL PETROCHEMICALS USA Inc. (Houston、Tex.)から入手可能なTOTAL Petrochemicals 945E、及びStyron LLC (Berwyn、Pa.)から入手可能なSTYRON(商標)487耐衝撃性ポリスチレンがある。
【0021】
GPPSは、樹脂の透明度と関連して結晶ポリスチレンとしばしば呼ばれる。GPPSの例としては、これらに限定されるものではないが、結晶ポリスチレン524B及び結晶ポリスチレン525Bがあり、その両方が、Total Petrochemicals USA Inc.から入手可能である。スチレンアクリロニトリル(SAN)の非限定的な例としては、Styron LLC (Berwyn、Pa.)によって提供されるSANのTYRIL(商標)ファミリー及びINEOS ABS (Koln、Germany)から入手可能な樹脂のLustran(商標)SANファミリーがある。スチレンブロックコポリマー(SBC)としては、スチレンブタジエンコポリマー(SB)がある。包装用途に適しているスチレンブタジエンコポリマーは、典型的にはブタジエンよりスチレンを多い割合で含有し、分子量分布に関して主にバイモーダルである樹脂ブロックコポリマーである。SBの非限定的な例としては、DK13 K-Resin(商標)スチレンブタジエンコポリマーがあり、Chevron Phillips Chemical Company (The Woodlands、Tex.)から入手可能である。アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)は、アクリロニトリル、ブタジエン及びスチレンのターポリマーである。通常の組成物は、約半分がスチレンであり、残部をブタジエン及びアクリロニトリルで分けあっている。多くの変形が当然ながら可能であり、多様な特徴及び用途を持つ多くの異なる品質のアクリロニトリルブタジエンスチレンを得られる。
【0022】
好ましい実施形態において、ポリスチレンは、ポリスチレンのグラフトコポリマーであり、スチレンモノマーの連続的な大量重合によって製造される。衝撃抵抗性質を達成するために、エラストマー(例えば、ポリブタジエン)が重合の間に組み込まれる。得られるコポリマーは、高い熱変形温度を持つ高衝撃強度ポリスチレンである。
【0023】
典型的な実施形態において、ポリスチレンは以下の特性を有するポリスチレン-ポリブタジエンコポリマーである:メルトフローレート(MFR)が、200℃及び5kgで3g/10分(ASTM D1238によって測定される)。引張試験(ASTM D638)において、ポリスチレンは、引張強度24MPa、引張伸び45%及び引張係数2206mPaを有してもよい。曲げ試験(ASTM D790)において、ポリスチレンは、2108MPaの曲げ係数及び49MPaの曲げ強度を有してもよい。
【0024】
熱可塑性非晶質デンプン
デンプンは、多くの植物によって生合成され、完全に生分解性であるので、最も豊富な再生可能資源の1つである。デンプンの植物供給源としては、穀物(例えば、小麦、コーン、米)、塊茎(例えば、ジャガイモ、キャッサバ)及び豆類(例えば、エンドウ)がある。したがってデンプンは、その植物供給源によって、コーンスターチ、ジャガイモデンプン、タピオカデンプン(キャッサバ根)などと記述される。植物供給源に関係なく、天然デンプンは、大部分が直鎖アミロース及び高分枝アミロペクチンで構成され、その両方がグリコシド結合によって連結されているグルコースポリマーである。
【0025】
天然の形態において、デンプンは顆粒の形態で存在する。顆粒は、デンプンの供給源によって、形状、サイズ及びアミロースとアミロペクチンの相対的割合が異なる。デンプン顆粒は、それが由来する生物学的供給源に応じて異なるサイズ及び形状を有する。例えば、ジャガイモ及びキャッサバのデンプン顆粒は、15~100μm又はより典型的には50~80μmの直径を有する。
【0026】
デンプンは、結晶性材料と考えられている。デンプン顆粒は、偏光において観察すると、複屈折を示す。複屈折は、分子の組織化の程度を示す。したがって、デンプン顆粒は、室温で部分的に結晶性であり水に不溶性である。X線散乱結果は、粒状デンプンが、約20~50%の全体の結晶化度を有することを示した。非晶質領域は、アミロース、及びアミロペクチンの分岐点周りの残基によって形成される。アミロペクチンの直鎖セグメントは、薄いラメラドメインに結晶化する二重らせんの形態で存在する。植物供給源に応じて、デンプンは、穀物、塊茎及び豆類供給源に対してそれぞれA、B、C型として一般に知られる異なる結晶構造を有する。表1は、各供給源由来の代表的なデンプンに対する典型的な結晶学的パラメーターを示す。
【0027】
【0028】
示した通り、角度(2θ)及びピーク強度にわずかな差異があるものの、天然デンプンは全て、共通のピーク特性を共有する。例えば、3つ全ての型のデンプンについて、約20~25度に強いピークが存在する。
【0029】
天然デンプンは、いくつかの理由により熱可塑性ではない。天然デンプンは、グルコース単位上に存在する大量の水酸基により、高親水性である。特に、アミロースは、水に溶解し、アミロペクチンは、水の存在下で膨潤する。したがって、天然デンプンは、水中で崩壊し、水分に曝露するとその性質を失う。水酸基は、デンプン鎖間に多くの強い水素結合を形成し、その結合は、デンプン分子をまとめ、顆粒形態に保つ。デンプンは、加熱されると、結晶融点に達する前に熱分解する。したがって、デンプンは、従来通りのプラスチック装置で融解加工することができない。
【0030】
本開示による熱可塑性非晶質デンプンは、天然デンプンを高度に改質したものである。熱可塑性非晶質デンプンは、結晶化度、顆粒サイズ、水分含有量及び水に対する感応性が大きく減少することを含め、いくつかの重要な点で天然デンプンと異なっている。
【0031】
有機可塑剤の使用並びに熱及び剪断力下で加工されることにより、天然デンプンを改質し、熱可塑性非晶質デンプンへと脱構造化することができる。適切な可塑剤としては、任意の水素結合形成性又は親水性の有機分子があり、これらに限定されないが、グリセリン(グリセロール)、ソルビトール、グリコール、マルトデキストリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、尿素などがある。これらの有機親水性可塑剤は、デンプン顆粒を透過し、高い温度、圧力及び剪断下で、デンプン内部の水素結合を破壊する。可塑剤の存在は、デンプン-デンプン相互作用を大きく減少させ又は排除する。なぜなら、デンプン-デンプン相互作用が、デンプン-可塑剤相互作用に置き換えられるためである。
【0032】
可塑剤は、それ自体が親水又は吸湿性なので、その存在量が、デンプン-デンプン水素結合を置き換えるのに必要な量より多い場合、過剰な可塑剤は、大気中の水分を誘引し得る。したがって、可塑剤の量を較正して、吸湿性を最小にするべきである。様々な実施形態において、可塑剤は、熱可塑性非晶質デンプンの10~35重量%、より典型的には20~35重量%、より典型的には27~32重量%であり得る。
【0033】
改質デンプン(加工デンプン)の非晶質の特質は、20~25度(より典型的には22~24度)(2θ)に強いピークが存在しないことによって明らかであり、その強いピークは、天然デンプンの全ての結晶形に存在する。
図1は、熱可塑性非晶質デンプンのX線回折パターンを示し(GS-300、BiologiQ Inc.、Idaho、U.S.から入手可能)、その熱可塑性非晶質デンプンは、ジャガイモデンプン(10%)及びコーンスターチ(90%)のブレンドを改質したものであり、可塑剤として約27~32%のグリセリン(得られたブレンドの重量に対して)がブレンドされている。比較として、天然デンプン(10%ジャガイモデンプン及び90%コーンスターチ)の単純なブレンドは、約20~25(又は22~24)度に強いピークを示す。
図1は、天然デンプンと比較した場合に、非晶質デンプンが、より少なく、より弱いピークを有することをさらに示す。約18度のピークを除いて、非晶質デンプンは、鋭いピークの代わりに幅広い(ブロードな)曲線を示し、このことは、天然デンプンと比較して結晶化度が大きく減少したことを示す。典型的に、熱可塑性非晶質デンプンの結晶化度は、10%未満、より典型的には5%未満、より典型的には3%未満である。それに対し天然デンプンは、約50%の結晶化度を有する。
【0034】
熱、圧力、剪断又はそれらの組合せを含めた脱構造化加工も、デンプン顆粒サイズを大いに減少させる。典型的に、熱可塑性非晶質デンプンは、2μm未満、より典型的には1μm未満の顆粒サイズを有する。可塑剤とデンプンとの強い相互作用は、デンプン分子が再結晶化する傾向を減少させる又は排除する。より小さい顆粒サイズにより、デンプン成分が顕微鏡レベルでポリスチレン成分と相互作用し、ブレンドして、均質性を高めることが可能になる。
【0035】
熱可塑性非晶質デンプンは、極めて低い水分含有量を有する。理論に束縛されるものではないが、有機可塑剤により、主として、デンプン分子との水素結合内の水分子が置き換えられたと考えられている。デンプンと有機可塑剤の間の強い相互作用も、大気中の水分を含めた水による浸潤を妨げる。熱可塑性非晶質デンプンは、(天然デンプンより長い時間がかかるが)熱湯に溶解し得るが、乾燥し、低い水含有量及び非晶質状態に戻すことができる(すなわち、水により可塑剤を置き換えることはできない)。典型的に、熱可塑性非晶質デンプンは、5%(w/w)未満の水、又は3%(w/w)未満の水、又は1%(w/w)未満の水、より典型的には0.5%(w/w)未満の水を有する。
【0036】
適切な熱可塑性非晶質デンプンの例は、商品名ESR(「Eco Starch Resin」)又はNuplastiQ(登録商標)でBiologiQから入手可能である。特定の例としては、これに限定されないが、GS-270、GS-300及びGS-250がある。そのようなESR材料の具体的な特性を、本明細書でさらに詳細に説明する。
【0037】
ESR(デンプン系又はデンプン系ポリマー材料の例)は、1種以上のデンプンを含む複数の材料(例えば、混合物)から形成できる。例えば、1種以上のデンプンは、コーンスターチ、タピオカデンプン、キャッサバデンプン、小麦デンプン、ジャガイモデンプン、米デンプン、モロコシデンプンなどの1種以上の植物から生産できる。様々な実施形態において、デンプン系ポリマーは、2種以上の植物、3種以上の植物、又は4種以上の植物由来のデンプンの混合物から形成され得る。いくつかの事例において、1種以上のデンプン系ポリマー材料を形成する材料は、可塑剤を含むこともできる。ある量の水が、完成した1種以上のデンプン系ポリマー材料中に存在し得る。
【0038】
一実施形態において、1種以上のデンプン系ポリマー材料は、少なくとも約65重量%、少なくとも約70重量%、少なくとも約75重量%又は少なくとも約80重量%の1種以上のデンプンを含む複数の材料から形成できる。
【0039】
1種以上のデンプン系ポリマー材料を形成するのに使用される可塑剤は、ポリエチレングリコール、ソルビトール、グリセリン、多価アルコール可塑剤、水酸基を持たない水素結合形成有機化合物、糖アルコールの無水物、動物性タンパク質、植物性タンパク、脂肪酸、フタル酸エステル、ジメチル及びジエチルサクシネート並びに関連エステル、グリセロールトリアセテート、グリセロールモノ及びジアセテート、グリセロールモノ、ジ及びトリプロピオネート、ブタノエート、ステアレート(tearates)、乳酸エステル、クエン酸エステル、アジピン酸エステル、ステアリン酸エステル、オレイン酸エステル、他の酸エステル、又はそれらの組合せを含み得る。具体的な実現例において、可塑剤はグリセリンを含み得る。
【0040】
別の実施形態において、1種以上の炭水化物系ポリマー材料を形成する材料は、少なくとも約12重量%、少なくとも約15重量%、少なくとも約18重量%、少なくとも約20重量%又は少なくとも約22重量%の可塑剤を含み得る。さらに、材料は、約35重量%を超えない、約32重量%を超えない、約28重量%を超えない又は約25重量%を超えない可塑剤を含み得る。
【0041】
いくつかの事例において、完成した1種以上のデンプン系ポリマー材料は、約5重量%を超えない水、約4重量%を超えない水、約3重量%を超えない水、約2重量%を超えない水又は約1重量%を超えない水を含む。さらに、完成した1種以上のデンプン系ポリマー材料は、少なくとも約0.1重量%の水、少なくとも約0.3重量%の水、少なくとも約0.6重量%の水又は少なくとも約0.8重量%の水を含み得る。実例において、完成した1種以上のデンプン系ポリマー材料は、約0.1重量%~約5重量%の水を含む。別の実例において、完成した1種以上のデンプン系ポリマー材料は、約0.4重量%~約2重量%の水を含む。追加の実例において、完成した1種以上のデンプン系ポリマー材料は、約0.5重量%~約1.5重量%の水を含み得る。BiologiQから入手可能なESR材料は、そのような完成したデンプン系ポリマー材料の例であるが、(例えば、近い将来に)他の場所で入手可能な他の材料も使用に適し得ることは理解されよう。
【0042】
ESRは、ペレット形態で提供されてもよい。GS-270の物理的な特性を、下の表2に示す。GS-270は、約27%のグリセリンから形成され、最終製品の実質的残部は、出発材料としての1種以上のデンプンから形成される又はそれに起因し得る。
【0043】
【0044】
GS-270について示した上記の特性は、BiologiQから入手可能な他のESR製品に代表的であるが、値は多少変動する場合がある。例えば、BiologiQのESR製品は、約70℃~約100℃のガラス転移温度を一般に有し得る。当業者は、ガラス転移温度が結晶化度を示し得ることを認識するだろう。他の特性も、GS-270について示した値から同様に多少(例えば、±25%又は±10%)変動する場合がある。ESRは、非晶質構造(例えば、典型的な未処理デンプンより非晶質)を有する。記述した通り、ESRは水含有量が少ない。ESRが水分を吸収すると、ESRは塑性を示し、可撓性(フレキシブル)になる。湿度の高い環境から取り出すと、材料は乾燥し、再び硬くなる(例えば、約1%未満の水含有量を再び示す)。ESR(例えば、ペレット形態)中に存在する水分は、加工の間に蒸気の形態で放出されてもよい。その結果、ESR内の水は典型的には、フィルム又は他の物品の形成時に放出され得るため、ESRなどのデンプン系ポリマー材料及び石油化学系ポリマー材料(例えば、ポリスチレン)から生産されるシートは、さらにより低い水含有量を示し得る。
【0045】
著しい水含有量は、薄膜を形成しようとする場合に石油化学系ポリマー材料との適合性をなくすこと、水が気化してフィルム内に空隙を生じること又は他の問題をもたらすことから、デンプン系ポリマー材料において水含有量がそのように低いことは重要であり得る。
【0046】
比較的低い水含有量を含み得るいくつかの従来のTPS材料で一般的なように、エステル化ではESR材料における低い水含有量は達成されない。そのようなエステル化は、実行が高額で複雑になり得る。
【0047】
比較的高温度での加工により、揮発したグリセリンが若干放出される場合がある(例えば、煙として見える)。ペレットの乾燥は、暖かい乾燥空気を、例えば、60℃で1~4時間導入することによって実行できる。ペレットは、加工前に約1%未満の水分含有量に乾燥されるべきである。ESRペレットは、熱を避けて、乾燥した場所で乾燥剤を入れた密封容器内に貯蔵されるだけでよい。
【0048】
ESRが熱可塑性であることに加えて、ESRはチキソトロピックであってよく、このことは、材料が、周囲温度で固体であるが、熱、圧力及び/又は摩擦運動が加えられると液体として流動することを意味する。有利には、ESRのペレットは、石油化学系ペレットと同様に標準的なプラスチック生産加工に使用できる。ESR材料は、ガスバリア特性を示す場合がある。そのようなESRペレットを使用して作製される製品(例えば、フィルム)は、酸素ガスバリア特性を示す(例えば、具体的な例示的結果については実施例5を参照のこと)。ESR材料は、非毒性且つ食用であり、全て食用である原材料を使用して作製されてよい。ESRは耐水性であり得る。例えば、ESRが5分以内に沸騰水中に完全に溶解しない温度に加熱した多湿加熱条件下で、ESRは膨潤に耐え得る。他の多くの熱可塑性デンプン材料と特性が異なるESRは、比較的高い湿度条件に放置しても、いかなる著しい老化も示さないという点で安定であり得る。ESRがそのような多湿条件で貯蔵される場合、過剰に吸収された水は簡単に蒸発でき、一旦水含有量が約1%以下になったら、ESRはフィルム又は他の物品の形成に使用できる。
【0049】
ESRは、非常に低い水含有量を含む。例えば、未処理デンプン(例えば、ESRの形成に使用したデンプン)は典型的には、約13重量%の水を含み得るが、BiologiQから入手可能な完成したESRペレットは、約1%未満の水を含む。ESR材料は生分解性であり、本明細書に記載の通り、デンプン系ESR材料は、生分解性であるだけでなく、ポリスチレンなど生分解性でない他のポリマーとブレンドされた場合、ブレンドされた材料も実質的に完全に生分解性となる。そのような結果は、非常な驚きであり、特に有利である。実施例は、本明細書においてそのような驚くべき結果を証明している。他の代表的な熱可塑性デンプン材料は、他のポリマーとブレンドした場合にそのような特性を獲得も又は示しもしない。
【0050】
ESR材料は、いくらかの弾性を示してもよいが、ESR材料の弾性は他の多くのポリマー(例えば、特に石油化学系ポリマー)より小さくてよい。フィルム、シート及び他の物品は、ESRと任意の所望の石油化学系ポリマーとのブレンドから形成され得、ブレンドした成分の加重平均になると期待され得る弾性結果が得られる。下の表3は、比較のために様々な標準的なプラスチック(「SP」)材料、様々な「環境に優しい」再生可能プラスチック材料、及びESRの破断伸び及び弾性係数値を示す。表3のESRの引張強度は、40MPaであった。
【0051】
【0052】
PLA(ポリ乳酸)は、堆肥化できる。これは、常温より高い温度条件(すなわち、堆肥条件)下で分解できることを意味するが、「生分解性」(すなわち、分解する)でなくてもよい。「BP」と表した上で挙げた他の典型的な材料は、生分解性であり、且つ堆肥化できる。FTCグリーンガイドラインは、プラスチックは、「通常の廃棄後」の「合理的に短い期間内」(最近、5年以内と定義された)に分解しない限り、「分解可能」であるという無条件の主張を行えないことを規定している。
【0053】
デンプン系ポリマー材料として本明細書における使用に適切であると記述されるESR材料は、実質的に非晶質である。例えば、未処理デンプン粉末(例えば、そのままESR及び他の様々な熱可塑性デンプン材料の作製に使用されるようなもの)は、およそ50%の結晶構造を有する。BiologiQから入手可能なESR材料は、結晶化度対非晶質特性において他の多くの市販されている熱可塑性デンプン(TPS)材料と異なっている。例えば、Kris FrostによるPhD論文「Thermoplastic Starch Composites and Blends」(2010年9月)の62~63頁は、「TPSにおいて特に関心がある事は、加工中のゼラチン化の完全性、及びV型アミロース結晶を形成する老化に向かう任意のその後の傾向」であると述べている。Frostは、「ゼラチン化は、水と加熱すること及び他の可塑剤又は改質用ポリマーをしばしば含めることにより、顆粒及び結晶構造の消失を伴う」とさらに続けている。「老化は、アミロースらせんコイルを巻き直すことによる。ゼラチン化の間に壊されるデンプン分子は、その天然のらせん配置又はV型として知られる新たな単一らせん配座へとゆっくり巻き直され、TPSフィルムが急速に脆くなり、光学的透明度が消失する」。したがって、従来のTPSは、未処理デンプンからTPSを生産するのに使用されるゼラチン化加工後に結晶構造を再形成する傾向がある。反対に、BiologiQから入手可能なESR材料は、結晶構造を再形成せず、脆くならない。
【0054】
典型的なTPS材料とは対照的に、本出願に記述される物品の形成に使用するデンプン系ポリマー材料の適切な例であるESR材料は、非晶質微細構造及び表2に示す物理的特性を有する。従来のTPSとESR材料との間の分子構造の差異は、X線結晶構造解析で示すように、本明細書に記載のESR材料が、従来の熱可塑性デンプン系材料よりもはるかに結晶化度が低いことによって証明される。
図1も参照のこと。
【0055】
例えば、本開示によるフィルム作製に使用されるデンプン系ポリマー材料は、約40%未満、約35%未満、約30%未満、約25%未満、約20%未満、約15%未満、又は約10%未満の結晶化度を有し得る。結晶化度を測定する任意の適切な試験機序が使用されてもよく、例えば、これに限定されないが、FTIR分析、X線回折法並びに対称反射法及び対称透過法がある。様々な適切な試験方法が、当業者に明らかになろう。ESRの追加の説明は、米国特許出願公開第2017/0362418号に見出すことができ、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0056】
ポリスチレン及び熱可塑性非晶質デンプンの複合材
本明細書に記述されるポリスチレン及び熱可塑性非晶質デンプンは、ブレンドすることができ、さらに、生分解性である熱可塑性複合材料へと加工することができる。ポリスチレン及び熱可塑性非晶質デンプン複合材は、「生分解性ポリスチレン複合材」とも呼ばれる。本明細書のさらなる詳細において議論されるように、そのような複合材料は、ポリスチレンの熱可塑的及び機械的性質を保持しており、従来のプラスチック装置を使用して様々な厚さ、例えば、約0.010~0.090インチ(約0.254~2.286 mm)の範囲(「約」は、所与の値の上下20%以内を意味する)の厚さのシートへと押出成形され得る。
【0057】
様々な実施形態において、ポリスチレン部分は、複合材の少なくとも半分又は大部分に相当する。より具体的な実施形態において、ポリスチレン部分は複合材の約50~90重量%であり、熱可塑性非晶質デンプンは複合材の約10~50重量%である。他の実施形態において、ポリスチレン部分は複合材の約55~85重量%であり、熱可塑性非晶質デンプンは複合材の約15~45重量%である。より典型的には、ポリスチレン部分は複合材の約60~80重量%であり、熱可塑性非晶質デンプンは複合材の約20~40重量%である。特に、熱可塑性非晶質デンプンは、1種以上の天然デンプンに由来し、20~25度(2θ)のX線回折ピークを示さず、又は熱可塑性非晶質デンプンは、1種以上の天然デンプンに由来し、22~24度(2θ)のX線回折ピークを示さない。
【0058】
より具体的な実施形態において、生分解性ポリスチレン複合材は、1%(w/w)未満の水を有する熱可塑性非晶質デンプンを含む。
【0059】
他のより具体的な実施形態において、生分解性ポリスチレン複合材は、10%未満の結晶化度を有する熱可塑性非晶質デンプンを含む。
【0060】
他の実施形態において、熱可塑性非晶質デンプンの含有量がより高い複合材のマスターバッチが作製されてもよく、そのマスターバッチを、ポリスチレンとさらにブレンドして、所望の比を達成できる。例えば、マスターバッチは、等量(50:50)のポリスチレンと熱可塑性非晶質デンプンを含んでもよい。
【0061】
一部の実施形態において、1種以上の相溶化剤を添加して、ポリスチレンと熱可塑性非晶質デンプンの混和性をさらに高めてもよい。用語「相溶化剤」とは、熱形成再利用操作において、2種以上の同じでないポリマーであり得るものを再押出時に均質な又はより均質な融液とすることよって、ポリマーの再押出を増強するために使用される、組成物、化合物等のことを指す。本開示の実施形態に使用され得る相溶化剤としては、例えば、無水マレイン酸、脂肪酸のクエン酸塩、グリセロールエステル等で改質された、スチレン及びポリオレフィンのブロックコポリマー、ポリブタジエンなどの生分解性ポリオレフィンがある。
【0062】
相溶化剤は、有利には、ポリマーの約0.05~約10重量%、より典型的には約1~約7重量%の量で使用されてよく、但しそれらが2種以上のポリマーを混和性にし、より均質に保つのに有効である限り、他の濃度が使用されてもよい。
【0063】
具体的な実施形態において、相溶化剤は、スチレンモノマー単位及びゴム若しくはポリオレフィンモノマー単位のジブロック又はトリブロック中間分子量コポリマーでもよい。例としては、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレン(SEBS)(例えば、TSRC Corporation、台湾から入手可能なTAIPOL(商標)7126)及びスチレン-エチレン/プロピレン-スチレン(SEPS)などの直鎖トリブロックコポリマーがある。
【0064】
したがって、様々な実施形態は、好ましくは1種以上の相溶化剤を含む、ポリスチレン及び熱可塑性非晶質デンプンの複合材を均質な混合物として提供する。熱(例えば、360~440°F(約182~227℃))及び剪断力(押出又は練和)を加えることにより、石油化学系ポリマー及びデンプン系ポリマーがブレンドされて均質な複合材となり、その複合材における2つの主要な成分の混和性は、顕微鏡的又は分子レベルでも最大化される。
【0065】
均質度は、示差走査熱量測定(DSC)によって評価し得る。均質な又は混和性のブレンドは、ブレンドされていない若しくは不混和性のポリスチレン及びデンプンより低い、又はブレンドされていない若しくは不混和性のポリスチレン及びデンプンとは異なるガラス転移温度を示す。
【0066】
他の添加剤を、デンプン系ポリマー材料及び石油化学系ポリマー材料を含む材料の混合物に含ませることができる。例えば、EnsoのRestore(登録商標)、Bio-Tec EnvironmentalのEcoPure(登録商標)、ECM BiofilmsのECM Masterbatch Pellets 1M又はBiodegradable 201及び/若しくはBiodegradable 302 BioSphere(登録商標)を含む、UV並びにOXO分解可能な様々な添加剤など、物品の生分解を助ける添加剤を、材料の混合物に含ませることができる。また、物品の強度特性を向上させる他の添加剤を、材料の混合物に添加できる。Dupont製のBiomax(登録商標) Strongなどの添加剤を、使用できる。様々な実施形態において、1種以上の添加剤を、少なくとも約0.5重量%、少なくとも約1重量%、少なくとも約1.5重量%、少なくとも約2重量%、少なくとも約2.5重量%、少なくとも約3重量%又は少なくとも約4重量%の量で材料の混合物に含ませることができる。更なる実施形態において、1種以上の添加剤が、約10重量%を超えない、約9重量%を超えない、約8重量%を超えない、約7重量%を超えない、約6重量%を超えない又は約5重量%を超えない量で材料の混合物中に存在できる。実例において、1種以上の添加剤が、約0.2重量%~約12重量%の量で材料の混合物中に存在できる。別の実例において、1種以上の添加剤が、約1重量%~約10重量%の量で材料の混合物中に存在できる。追加の例において、1種以上の添加剤が、約0.5重量%~約4重量%の量で材料の混合物中に存在できる。さらなる実例において、1種以上の添加剤が、約2重量%~約6重量%の量で材料の混合物中に存在し得る。
【0067】
生分解性
ポリスチレン及び熱可塑性非晶質デンプンの熱可塑性複合材は、生分解性である又は堆肥化できる。本明細書で使用する場合、「生分解性」とは、生きている生物(例えば、微生物及び/又は自然環境因子)によって、好気性又は嫌気性条件下でCO2、水、メタン、無機化合物又はバイオマスに分解され得る任意の有機材料(ポリマー、又はポリマーブレンド若しくは複合材を含む)を指す。ある特定の実施形態において、本開示の複合材は、ドイツDIN及び来る欧州(CEN)規格と一致する堆肥化できるプラスチックの米国ASTM規格(ASTM D6400-99)の要件を満たす。生分解は、ASTM規格ASTM D5338、ASTM 5988、ASTM 5511、ASTM D7475、ASTM 5526又はASTM D6691を使用して測定することもできる。
【0068】
実施例4及び実施例5内でさらに詳細に議論されるように、ポリスチレン及び熱可塑性非晶質デンプン複合材は、好気性及び嫌気性条件下で生分解することができる。
【0069】
「生分解性」は、「堆肥化できる」とは異なる。堆肥化できる材料は、以下の基準の1つ以上に当てはまり得る:(1)崩壊(すなわち、スクリーニング後に識別不可能な断片へと破片化し、生物同化及び微生物成長を問題なく支持する能力);(2)ASTM D6400-04試験方法によって測定すると、180日間で少なくとも約60%レベルまで炭素を二酸化炭素に転換することによる、固有の生分解;(3)安全性(すなわち、完成した堆肥においていかなる生態毒性の証拠もなく、土壌が植物生長を支持できる);及び(4)非毒性(すなわち、重金属濃度が土壌における規制値の約50%未満である)。典型的には、堆肥化は、生分解性材料が、堆肥と呼ばれる腐植質様物質に変換される管理又は制御された分解加工(二酸化炭素、水、鉱物及び安定化有機物質(堆肥又は腐植質)といった分解産物への有機物質の好気性中温性並びに好熱性分解)である。本明細書に記述される生分解性複合材の堆肥化可能性は、ASTM D6400-04試験方法によって測定され得る。
【0070】
ある特定の実施形態において、追加の生分解性樹脂が熱可塑性複合材に組み込まれて、分解を補助してもよい。添加剤樹脂の例としては、これらに限定されないが、ポリ(ブチレンサクシネート)、ポリヒドロキシアルカノエート及びポリブチレートアジペートテレフタレートがある。特定の様々な実施形態において、1種以上の添加剤生分解性樹脂は、10%以下、より典型的には5%以下の量でもよい。一部の実施形態において、添加剤生分解性樹脂は、複合材の約1~5%(w/w)、より典型的には2~4%(w/w)で存在してもよい。
【0071】
ポリブチレンサクシネート(PBS)は、生分解性であり、従来通りに石油系原料から作製されてもよく、又は生物系コハク酸から完全に作製されてもよい(バイオPBS)。
【0072】
ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)は、糖又は脂質の細菌発酵によって天然に産生される直鎖ポリエステルである。それらは細菌によって産生され、炭素及びエネルギーを貯蔵する。150種を超える異なるモノマーをこのファミリー内で組み合わせて、極めて異なる性質を持つ材料を得ることができる。これらのプラスチックは生分解性であり、バイオプラスチックの生産に使用される。
【0073】
ポリブチレートアジペートテレフタレート(PBAT)は、生分解性ランダムコポリマー、特にアジピン酸、1,4-ブタンジオール及びジメチルテレフタレートのコポリエステルである。PBATは、異なる多くの製造業者によって生産されており、商標名Ecoflex(登録商標)(BASF製)によって公知であり得る。
【0074】
これら真に生分解性のプラスチック(バイオPBS、PHA及びPBATなど)は、微生物同化(例えば、プラスチック分子に対する微生物の酵素的作用)によって二酸化炭素、メタン、水、無機化合物又はバイオマスなどの天然の元素又は化合物に分解する。
【0075】
他方、ポリスチレンは、容易に分解され得ない。しかしながら、熱可塑性非晶質デンプン(デンプン起源のため生分解の影響を非常に受けやすい)の存在下では、ポリスチレン成分は、生分解又は堆肥化可能であり得る。本明細書において議論されるように、熱可塑性非晶質デンプンは、天然デンプンと比較して大きく減少した結晶化度(実質的に非晶質)を示す。ポリスチレンも非晶質であり、ブレンド(熱及び剪断力を加えることによる)のプロセスは、均質な複合材を生産する。理論に束縛されるものではないが、使用されるデンプン系ポリマー材料のそのような非晶質微細構造により、複合材の石油化学系成分(ポリスチレン)の少なくとも一部がデンプン系成分とともに分解され得ると考えられている。言い換えれば、デンプン系ポリマーを消化する微生物は、デンプン鎖と絡み合っているポリスチレン鎖を消化することになる。
【0076】
一部の実施形態において、生分解性複合材を、バイオメタンポテンシャル試験(BMP)に供して、メタン生成に基づく嫌気性生分解の潜在性を総メタン生成潜在性に対する百分率として測定してもよい。いくつかの事例において、バイオメタンポテンシャル試験を使用してASTM 5511規格による試験試料の生分解性を予測することができ、バイオメタンポテンシャル試験は、ASTM5511規格の1つ以上の条件を使用して実施できる。例えば、バイオメタンポテンシャル試験は、約52℃の温度で行うことができる。さらに、バイオメタンポテンシャル試験は、ASTM 5511のものと異なるいくつかの条件を有することができる。例えば、バイオメタンポテンシャル試験は、約50重量%の水~約60重量%の水及び約40重量%~約50重量%の有機固体の植種源を活用することができる。特定の実例において、バイオメタンポテンシャル試験に使用される植種源は、約55重量%の水及び約45重量%の有機固体を有することができる。バイオメタンポテンシャル試験は、約35℃~約55℃、又は約40℃~約50℃など、他の温度で行うこともできる。
【0077】
押出成形シート及び機械的特性
本明細書に議論されるように、ポリスチレン及び熱可塑性非晶質デンプンを、処方した割当量(例えば、ESR及びNuPlastiQなどのデンプン15~45%に対してHIPSなどのポリスチレン55~85%)でブレンドし、加工(熱及び剪断力を加えることによる)して、複合材を形成することができる。1種以上の相溶化剤が、例えば、ブレンドの総重量の最大10%まで量で添加されてもよい。また、他の可塑剤を添加して、複合材の物理的及び機械的特性をさらに改質してもよい。
【0078】
複合材は、従来のポリスチレンが使用されるあらゆる用途又はあらゆる製造品に使用され得る。
【0079】
一実施形態において、得られた複合材は、様々な厚さ、例えば0.01~0.09インチ(0.254~2.286 mm)の範囲内のシートに押出成形できる。シートの厚さは、押出機のライン速度及びトリムによって制御できる。実施例1を参照のこと。
【0080】
0.02~0.09インチ(0.508~2.286 mm)の範囲内の厚さで、熱可塑性複合材から押出成形されるシートは、同じ厚さのブレンドされていないHIPSと同程度の曲げ強度(例えば、破壊係数又は曲げ強度)を有する。実施例3を参照のこと。
【0081】
HIPSに基づくシートのように、生分解性ポリスチレン複合材の押出成形シートは、直接印刷(例えば、インクジェット印刷)又は転写印刷(サーマル又はコールドフォイル加工)のための優れた基材である。
【0082】
一部の実施形態において、これらのシートは、可撓性の袋の首部を速やかに且つしっかりとつかみ、閉じることができるプラスチック袋留め具を作製するのに適している。従来の袋留め具は、一般に、ポリスチレン(例えば、HIPS)で作製されたプラスチックの小さく、薄く、平坦な断片である。本開示のポリスチレン複合材は、従来の袋留め具の生分解性代替物である。複合材は、ブレンドされていないHIPSと同程度の機械的特性を有していたため、袋留め具を作製するため及び袋を閉じる組立てラインのための従来の装置全てを、複合材に基づく袋留め具のために使用できる。
【0083】
図2は、プラスチック主部(110)(例えば、HIPS)、狭いアクセス隙間(130)に連結されている袋保持中心開口部(120)を含む従来の袋留め具(100)を示す。アクセス隙間(130)は、可撓性の袋の首部(図示せず)を受け、袋は、次いで、中心開口部(120)内に保持される。袋留め具は、米国特許第3,164,249号、第3,164,250号、第4,333,566号、第4,999,969号及び第4,911,293号に開示されている任意の方法により従来通りに調製されてもよい。典型的には、本開示の袋留め具は、生分解性複合樹脂を押出して、約0.02~0.09インチ(約0.508~2.286 mm)厚の平坦樹脂ウェブを形成し;平坦樹脂ウェブから1つ以上の複数留め具小片を形成し、複数留め具小片から個々の袋留め具を分離することによって作製されてもよい。
【0084】
押出成形シートの厚さは、袋留め具の具体的な型によって異なってもよい。適切な厚さとしては、0.02~0.09インチ(0.508~2.286 mm)厚、若しくは0.02~0.08インチ(0.508~2.032 mm)厚、若しくは0.02~0.06インチ(0.508~1.524 mm)厚、若しくは0.03~0.05インチ(0.762~1.270 mm)厚、又は0.02インチ(0.508 mm)厚、若しくは0.03インチ(0.762 mm)厚、若しくは0.04インチ(1.016 mm)厚、若しくは0.05インチ(1.270 mm)厚、若しくは0.06インチ(1.524 mm)厚、若しくは0.07インチ(1.778 mm)厚、若しくは0.08(2.032 mm)インチ厚若しくは0.09インチ(2.286 mm)厚が挙げられる。
【0085】
従来のポリスチレン樹脂(例えば、HIPS)を本開示による生分解性複合材で置き換えることによって、生分解性袋留め具が作製されてもよい。
図3は、生分解性複合樹脂で形成された袋留め具の一実施形態を示す。示した通り、袋留め具(200)は、袋保持中心開口部(220)及びアクセス隙間(230)を有する樹脂主部(210)を有し、ここで、アクセス隙間は、袋保持中心開口部に接続して連続的な空間を規定し、樹脂主部(210)は、ポリスチレン(例えば、HIPS)及び熱可塑性非晶質デンプン(例えば、ESR GS-270)の生分解性複合材(240)である。
【0086】
したがって、さらなる実施形態は、複数留め具小片を提供する。
図4は、複数個の袋留め具(200)(2個だけ示す)の複数留め具小片(400)を示す。袋留め具(200)は、2つの隣接する袋留め具(200)が1つ以上のタブ(240)によって連結されていること以外は
図3に示すものと同一である。これらのタブを切り離して、袋留め具(200)を互いに分離することができる。タブは、機械加工に耐え、特定の力が加えられた際に折ることができれば、任意の配置であってよい。例えば、米国特許第4,333,566号を参照のこと。
【0087】
0.03インチ(0.762 mm)未満のより薄いシートの場合、シートはよりフレキシブルであり、より厚いシートと異なる用途がある。例えば、約0.01インチ(約0.254 mm)の薄いシートは、新生児室タグ(掛ける又は押す)又はラベル、植物の杭(plant stake)、巻きつけ及び多用途タグ(木)として使用され得る。これらのタグは耐久性があるが、最終的に生分解性であり、したがって植物からそれらを除去する必要性を取り除くことができる点で、特に有利である。
【0088】
具体的な実施形態は、印刷可能な表面を有する平坦樹脂製主部を含む生分解性ラベルであって、平坦樹脂製主部が、本明細書に記述される実施形態のいずれか1種の生分解性ポリスチレン複合材を含み、平坦樹脂製主部が、0.03インチ(0.762 mm)厚以下である、生分解性ラベルを提供する。他の実施形態において、平坦樹脂製主部は、約0.01~0.028インチ(約0.254~0.7112 mm)厚である。任意選択で、生分解性ラベルは、印刷表面の反対側の表面に接着剤を含んでもよい。
【0089】
他の実施形態において、可撓性の薄いシートから作製された小片は、縛る又は巻きつけることができる袋留め具として使用されてもよく;又はひも若しくは留め具として農産物の束に直接使用されてもよい。
【0090】
より薄いシートは、生分解性複合材により多くの可塑剤を含有させてデンプンによってもたらされる脆さに対処することを必要とする場合がある。
【実施例】
【0091】
[実施例1]
20%ESR、71%PS 825E、2%バイオPBS、7%SEBS 7126の複合材(試験試料2020)を調製し、着色剤又はダウンブレンドなしで030ミル(0.03インチ)(0.762 mm)厚で押出成形した。押出の間の熱プロファイルは、以下の通りだった:
【0092】
【0093】
ライン速度及びトリムを制御して、押出の間所与の厚さを維持する。例えば、030ミル(0.762 mm)シートの場合、ライン速度は毎分46.0フィート(fpm)(毎分14.0208 m)であり得、トリムは、46.7fpm(毎分14.23416 m)である。057ミル(1.4478 mm)シートの場合、ライン速度及びトリムは、それぞれ23.7fpm(毎分7.22376 m)及び24.3fpm(毎分7.40664 m)である。072ミル(1.8288 mm)シートの場合、ライン速度及びトリムは、19.5fpm(毎分5.9436 m)及び21.1fpm(毎分6.43128 m)である。
【0094】
押出成形シートは、24~72時間エージングし又は硬化させた。
【0095】
[実施例2]
030ミル(0.762 mm)シートをASTM D-638試験に供して、流れ方向(machine direction)及び幅方向(traverse direction)で引張強度を評価した。対照として、ブレンドされていないHIPS(100%PS 825E)も調製し、試験した。表4は、流れ方向のデータを示す。表5は、幅方向のデータを示す。示されるように、生分解性複合材からの押出成形シートは対照より低い引張強度を示した。
【0096】
【0097】
【0098】
[実施例3]
030ミル(0.762 mm)シートをASTM D-790試験に供して、流れ方向及び幅方向で曲げ強度を評価した。対照として、ブレンドされていないHIPS(100%PS 825E)も調製し、試験した。表6は、流れ方向のデータを示す。表7は、幅方向のデータを示す。示されるように、生分解性複合材からの押出成形シートは対照と同程度の曲げ強度を示した。
【0099】
【0100】
【0101】
[実施例4]
好気性生分解
本開示の一実施形態によるポリスチレン及び熱可塑性非晶質デンプン複合材を、その生分解性について試験した。試験を、ASTM D5538-11にしたがってEden Research Lab(Albuquerque、NM)によって実施したが、その試験は、ガス発生を考慮した高固形分好気性消化条件下でプラスチック材料の好気性生分解を測定する標準的な試験方法である。より具体的には、試験は、試験材料に曝露されたときの好気性微生物(植種源)の微生物活性のレベルをモニターする。植種源が、試験材料を栄養供給源として認識する場合は、活性の増加がガス発生の形態で記録される。CO2及びCH4などの発生したガスを、体積(例えば、水置換によって測定される)及び組成(例えば、ガスクロマトグラフによる)についてモニターする。
【0102】
試験試料を、三つ組で準備し、3つ又は4つの三つ組対照に対して行った。この実施例において、陽性対照は、確立された生分解性プロファイル(時間の関数としての生分解パーセンテージ)を有するセルロースであった。陰性対照は、100%HIPSであった。試験試料は、71%のHIPS、20%のESR(スチレン-エチレン/ブチレン-スチレン[SEBS]相溶化剤及びBioPBSを含む)並びに1%の色素の複合材であった。試験試料及び陰性対照は両方とも、30ミル(0.03インチ)(0.762 mm)厚及び0.5インチ(12.7 mm)長の類似の大きさの小片であった。
【0103】
植種源は、試験施設によって開発された専用のブレンドであった。植種源は、埋め立て地からの土壌を含む。植種源は、バックグラウンド対照を提供する。
【0104】
試験は、177日間行った。表8は、バックグラウンド対照、陽性対照、陰性対照並びに試験試料についての累積的な分解物の体積及び組成を示す。表8に示すように、陰性対照は、(予想された通り)いかなる程度でも分解することができなかった。陽性対照は、これも予想通りに、試験期間内に完全に分解した。予想外なことに、試験試料は、HIPSの高い含有量にもかかわらず、バックグラウンド対照に合わせて調整した後、ほぼすべて分解した。
【0105】
【0106】
図5は、時間の関数としての、陽性対照、陰性対照及び試験試料のパーセンテージ生分解を示す。示した通り、陽性対照は、20日以内にほとんど分解し、試験期間の終わりまでに完全に分解した。陰性対照は、いかなる時点でもいかなる程度も分解することができなかった。他方、試験試料は連続的且つ着実に分解し、最終的に陽性対照と同じパーセンテージ分解に達した。この実施例は、本開示に記述される複合材が、好気性条件下で6ヵ月以内に完全に生分解することができることを示している。
【0107】
[実施例5]
嫌気性生分解
嫌気性条件における生分解を、ASTM D5511にしたがって実施したが、その試験は、ガス発生を考慮した高固形分嫌気性消化条件下でプラスチック材料の嫌気性生分解を測定する標準的な試験方法である。試験を、嫌気性条件下であること以外は実施例5と類似の方式で実施した。典型的には、植種源(土壌におけるような)は、好気性及び嫌気性微生物の両方を含有する。微生物活性は異なっており、酸素レベルに応じて一方が他方を支配し得る。嫌気性条件下での生分解は、好気性条件下での生分解より一般に実質的に長くかかる。したがって、ASTM D5511手順は典型的には、埋め立て地での生分解をシミュレートする。
【0108】
試験は、まず177日間行った。表9は、バックグラウンド対照、陽性対照、陰性対照並びに試験試料についての累積的な分解物の体積及び組成を示す。表9に示すように、陰性対照は、いかなる程度でも分解することができなかった。陽性対照は、試験期間内に完全に分解した。試験試料も、HIPSの高い含有量にもかかわらず、好気性条件の分解と比較すると同じ時間内でより少ない程度ではあるが、分解した(実施例4を参照のこと)。
【0109】
【0110】
図6は、時間の関数としての、陽性対照、陰性対照及び試験試料の177日間の初期期間にわたるパーセンテージ生分解を示す。示した通り、陽性対照は、20日以内にほとんど分解し、試験期間の終わりまでに完全に分解した(好気性条件下での分解と類似する)。陰性対照は、いかなる時点でもいかなる程度も分解することができなかった。試験試料は、好気性条件と比較してより少ない程度で分解したが、連続的で安定した分解曲線を示し、試験期間がより長ければさらに分解する傾向があることを示唆している。この実施例は、本開示に記述される複合材が、嫌気性条件下で安定して生分解できることを示している。好気性条件下での生分解と比較した場合、嫌気性条件下では生分解はより緩慢であるが、分解の傾向は、より長い試験期間にわたってさらなる生分解を達成できることを示している。
【0111】
表10は、追加の168日間の生分解後の試験結果を示し、これにより総試験期間は、345日間になる。示した通り、試験試料は、177日間の初期試験期間の終わりにおける25.7%と比較して、実質的にさらに分解した(調整済みで46%)。
【0112】
【0113】
図7は、時間の関数としての、陽性対照、陰性対照及び試験試料の345日間の試験期間にわたるパーセンテージ生分解を示す。示した通り、試験試料は、期間全体にわたって連続的且つ着実に分解した。分解の傾向は、
図6の分解の傾向と一致し、これは、完全な生分解を延長された期間にわたって達成できることをさらに示している。
【0114】
上述した様々な実施形態を組み合わせて、さらなる実施形態を提供することができる。本明細書で言及した並びに/又は出願データシートに挙られている米国特許、米国特許出願公開、米国特許出願、外国特許、外国特許出願及び非特許出版物の全ては、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。実施形態の態様を変更して、必要であれば様々な特許、出願及び出版物の概念を利用し、さらに他の実施形態を提供することができる。
【0115】
実施形態に対するこれらの及び他の変更は、上記の詳細な説明に照らしてなされ得る。一般に、以下の特許請求の範囲において、使用される用語は、特許請求の範囲を明細書及び特許請求の範囲に開示されている具体的な実施形態に制限すると解釈されるべきでなく、そのような特許請求の範囲が権利を有する同等物の全範囲を伴う全ての可能な実施形態を含むと解釈されるべきである。したがって、特許請求の範囲は開示によって制限されない。
【0116】
本出願は、2017年4月7日に出願された米国仮特許出願第62/483,109号に対し米国特許法第119条(e)の下で利益を主張し、その出願は、その全体が参照により組み込まれる。
本発明の態様として例えば以下を挙げることができる。
[項1]
生分解性ポリスチレン複合材の押出成形シートであって、
前記生分解性ポリスチレン複合材が:
55~85%(w/w)のポリスチレン;及び
15~45%(w/w)の熱可塑性非晶質デンプン
を含み;
前記熱可塑性非晶質デンプンが、1種以上の天然デンプンに由来し、20~25度(2θ)のX線回折ピークを示さず、
押出成形シートが、厚さ0.01~0.09インチ(0.254~2.286 mm)である、押出成形シート。
[項2]
前記熱可塑性非晶質デンプンが、前記熱可塑性非晶質デンプンの1重量%(w/w)未満の水を有する、項1に記載の押出成形シート。
[項3]
前記熱可塑性非晶質デンプンが、10%未満の結晶化度を有する、項1又は2に記載の押出成形シート。
[項4]
前記熱可塑性非晶質デンプンが、1種以上の天然デンプンに由来し、前記1種以上の天然デンプンと水素結合を形成する可塑剤をさらに含む、項1から3のいずれか一項に記載の押出成形シート。
[項5]
前記可塑剤が、グリセリン、ソルビトール、グリコール、マルトデキストリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、尿素又はそれらの組合せである、項4に記載の押出成形シート。
[項6]
前記生分解性ポリスチレン複合材が、相溶化剤をさらに含む、項1から5のいずれか一項に記載の押出成形シート。
[項7]
前記相溶化剤が、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンである、項6に記載の押出成形シート。
[項8]
前記生分解性ポリスチレン複合材が、生分解性樹脂添加剤をさらに含む、項1から7のいずれか一項に記載の押出成形シート。
[項9]
前記生分解性樹脂添加剤が、ポリブチレンサクシネート、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリブチレートアジペートテレフタレート又はそれらの混合物である、項8に記載の押出成形シート。
[項10]
前記ポリスチレンが、ポリスチレン-ポリブタジエンコポリマーである、項1から9のいずれか一項に記載の押出成形シート。
[項11]
前記熱可塑性非晶質デンプンが、2種以上の天然デンプンのブレンドに由来する、項1から10のいずれか一項に記載の押出成形シート。
[項12]
前記ポリスチレンが、70~80%の量である、項1から11のいずれか一項に記載の押出成形シート。
[項13]
約0.01~0.03インチ(約0.254~0.762 mm)の厚さを有する項1から12のいずれか一項に記載の押出成形シート。
[項14]
約0.02~0.09インチ(約0.508~2.286 mm)の厚さを有する項1から12のいずれか一項に記載の押出成形シート。
[項15]
項1から14のいずれか一項に記載の押出成形シートの、農産物若しくは可撓性の袋の留め具などの留め具、ラベル、又はタグとしての使用。
[項16]
生分解性袋留め具であって、
アクセス隙間及び袋保持中心開口部を有する平坦樹脂製主部を含み、
前記アクセス隙間が、前記袋保持中心開口部に接続して連続的な空間を規定し、
前記平坦樹脂製主部が、項1から12のいずれか一項に記載の生分解性ポリスチレン複合材を含み;
前記平坦樹脂製主部が、0.03~0.09インチ(0.762~2.286 mm)厚である、生分解性袋留め具。
[項17]
生分解性ラベルであって、
印刷可能な表面を有する平坦樹脂製主部を含み、
前記平坦樹脂製主部が、項1から12のいずれか一項に記載の生分解性ポリスチレン複合材を含み、
前記平坦樹脂製主部が、0.01~0.03インチ(0.254~0.762 mm)厚である、生分解性ラベル。
[項18]
印刷表面の反対側の表面に接着剤を含む、項17に記載の生分解性ラベル。